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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A23F
管理番号 1273300
審判番号 不服2011-10051  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-13 
確定日 2013-04-26 
事件の表示 特願2006- 62338「カフェオフランまたはその類縁体からなる茶含有飲食品用添加剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月20日出願公開、特開2007-236260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,平成18年3月8日の出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成22年 7月29日付け 拒絶理由通知書
平成22年10月 4日 意見書・手続補正書
平成23年 2月 4日付け 拒絶査定
平成23年 5月13日 審判請求書・手続補正書
平成23年 6月 9日付け 前置報告書
平成24年10月 9日付け 審尋
平成24年12月14日 回答書

第2 平成23年5月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年5月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正

平成23年5月13日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。なお,本件補正後の明細書を,以下「本願補正明細書」という。)は,補正前の

「【請求項1】
一般式(1)で示されるカフェオフランまたはその類縁体を,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物であって,茶飲料に当該カフェオフランまたはその類縁体が,10^(-7)ppb?5×10^(-4)ppb濃度の割合で添加して用いられることを特徴とする茶飲料用香味料組成物。
【化1】

(式中,R^(1)およびR^(2)はそれぞれ同一または異なって水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す(R^(1)およびR^(2)が同時に水素原子であるものは除く))。」を,

「【請求項1】
一般式(1)で示されるカフェオフランまたはその類縁体を,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度(但し,10^(-2)ppb?10^(6)ppb濃度を除く)添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物。
【化1】

(式中,R^(1)およびR^(2)はそれぞれ同一または異なって水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す(R^(1)およびR^(2)が同時に水素原子であるものは除く))。」 とする補正を含むものである。

2 本件補正の適否

(1)補正の目的の適否

本件補正は,請求項1に係る発明について,請求項1に記載した発明を特定するために必要と認める事項である,「カフェオフランまたはその類縁体」の「茶飲料用香味料組成物」へ添加する濃度につき,「10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度」を,以下「(2-2)ア」に示す先願の願書に最初に添付した明細書の段落【0101】に記載された「10^(-2)ppb?10^(6)ppb濃度」を含まぬようにするため「10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度(但し,10^(-2)ppb?10^(6)ppb濃度を除く)」に限定すると共に,「カフェオフランまたはその類縁体」を茶飲料に添加する際の濃度を特定した「茶飲料に当該カフェオフランまたはその類縁体が,10^(-7)ppb?5×10^(-4)ppb濃度の割合で添加して用いられることを特徴とする」につき,茶飲料に対しカフェオフランまたはその類縁体がどの程度の濃度になるように添加されて用いられるかについては,「茶飲料用香味料組成物」を特定する事項とは必ずしもならず不明りょうな記載であるから,この不明りょうな記載である「茶飲料に当該カフェオフランまたはその類縁体が,10^(-7)ppb?5×10^(-4)ppb濃度の割合で添加して用いられることを特徴とする」を削除するものである。
そして,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると共に,同法同条同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下,「本願補正発明」という。なお,本件補正後の明細書を,以下,「本願補正明細書」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて,以下検討する。

(2-1)本願補正発明

本願補正発明は,以下のとおりである。

「一般式(1)で示されるカフェオフランまたはその類縁体を,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度(但し,10^(-2)ppb?10^(6)ppb濃度を除く)添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物。
【化1】

(式中,R^(1)およびR^(2)はそれぞれ同一または異なって水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す(R^(1)およびR^(2)が同時に水素原子であるものは除く))。」

(2-2)先願明細書及びその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前の出願であって,特許法第41条第3項の規定によりその出願後に出願公開されたとみなされる特願2005-45014号(以下,「先願」という。特開2006-265234号公報参照。)の願書に最初に添付した明細書及び図面には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。以下,同様。

1a「【請求項7】 一般式(3)で示されるカフェオフラン若しくはその類縁体: 【化6】

(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基,R^(4)は炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す)。及び請求項5記載のチオフェン化合物(7)よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を,10^(-2)ppb?10^(6)ppbの割合で含むことを特徴とする香料組成物。
【請求項8】一般式(3)で示されるカフェオフラン若しくはその類縁体:
【化7】

(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基,R^(4)は炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す)。及び請求項5記載のチオフェン化合物(7)よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を,10^(-2)ppb?10^(6)ppbの割合で含むことを特徴とする飲食品。」

1b「【0001】
本発明は,新規チオフェン化合物に関する。また本発明は,当該新規チオフェン化合物を中間原料とするカフェオフランまたはその類縁体(以下,これらを「カフェオフラン類」と総称する)の製造方法に関する。」

1c「【0098】
斯くして得られるカフェオフラン類(2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン化合物)は,化合物の種類に応じて固有の香気を有しており,香気成分物質として有用である。例えば,カフェオフランは,0.000005重量%の希釈水溶液とした場合,焙煎したナッツ様香気,または野菜様のグリーン香,またはカラメル様の甘い香りを奏する。
【0099】
またエチルカフェオフランは,0.000005重量%の希釈水溶液とした場合,甘味のあるロースト感のある香りを奏し,またジメチルカフェオフランは,0.000005重量%の希釈水溶液とした場合,青みのある生豆様の香り,または野菜のグリーン香,またはみずみずしさのある香りを奏する。
【0100】
このようにカフェオフラン類(3)は香料の成分として有用であるため,本発明はかかるカフェオフラン類(3)を香料の主成分として含む香料組成物を提供するものである。
【0101】
当該香料組成物に配合されるカフェオフラン類(3)の割合は,使用するカフェオフラン類(3)の種類や目的によって異なるが,例えば,香料組成物100重量%中に10^(-9)?10^(-1)重量%(10^(-2)?10^(6)ppb),好ましくは10^(-5)?10^(-2)重量%(10^(2)?10^(5)ppb)の割合を例示することができる。
【0102】
具体的には,カフェオフラン及びエチルカフェオフランはともにロースト感の香気を有することから,これらを含む香料組成物は,ゴマ,コーヒー,ココア,チョコレート,メープル,キャラメル,茶,ナッツ類,バニラ,ビーフなどミート系,バターミルク,クリーム,チーズ,グレープ・ラズベリー・ブラックカーラント等のフルーツ香料として有用である。さらに,ジメチルカフェオフランは青臭さや野菜のグリーンな香りを有するため,ジメチルカフェオフランを含む香料組成物は,青豆,キーウィ,メロン,スイカ,アップル,バナナなどのグリーン系の果物;トマト,キャベツ,キュウリなどの野菜類;または茶の香料として有用である。
【0103】
さらに本発明は,かかる香料組成物を含む飲食品に関する。かかる飲食品に配合するカフェオフラン類(3)の割合は,使用するカフェオフラン類(3)の種類や飲食品の種類によって異なるが,飲食品組成物100重量%中に,10^(-12)?10^(-4)重量%(10^(-3)?10^(9)ppb),好ましくは10^(-6)?10^(-1)重量%(1?10^(5)ppb)の割合を例示することができる。
【0104】
カフェオフラン類(3)を香料成分として含むことのできる飲食品としては,制限はされないが,例えばアイスクリーム,アイスミルク,ラクトアイス,シャーベット,氷菓等の冷菓類;乳飲料,乳酸菌飲料,清涼飲料(果汁入りを含む),炭酸飲料,果汁飲料,野菜飲料,野菜・果実飲料,スポーツ飲料,粉末飲料等の飲料類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料,紅茶飲料等の茶飲料類;コンソメスープ,ポタージュスープ等のスープ類;カスタードプリン,ミルクプリン,果汁入りプリン等のプリン類,ゼリー,ババロア及びヨーグルト等のデザート類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム,糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他,イチゴチョコレート,ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン,バターボール,マーブル等を含む),ソフトキャンディー(キャラメル,ヌガー,グミキャンディー,マシュマロ等を含む),ドロップ,タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット,クッキー,おかき,煎餅等の焼き菓子類;セパレートドレッシング,ノンオイルドレッシング,ケチャップ,たれ,ソースなどのソース類;ストロベリージャム,ブルーベリージャム,リンゴジャム,プレザーブ等のジャム類;ハム,ソーセージ,焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム,魚肉ソーセージ,魚肉すり身,蒲鉾等の水産練り製品;チーズ等の酪農製品類を挙げることができる。」

先願明細書の上記記載事項1aないし1cは,特願2006-45391号(特開2006-265234号)の特許請求の範囲及び明細書の対応する以下の箇所に,全て記載されている。
記載事項1a:請求の範囲 請求項8,9
記載事項1b:明細書の段落【0001】
記載事項1c:明細書の段落【0099】【0127】ないし【0131】

(2-3)先願明細書に記載された発明

先願明細書の特許請求の範囲の請求項7(摘示1a)において,「化合物」として,カフェオフラン若しくはその類縁体を選択すると,先願明細書には「一般式(3)で示されるカフェオフラン若しくはその類縁体:【化6】(省略)(式中,R1は水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基,R4は炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す)を,10^(ー2)?10^(6)ppbの割合で含むことを特徴とする香料組成物。」が記載されているといえる。
ここで,「香料組成物」を適用する飲食品として,先願明細書には「【0102】具体的には,カフェオフラン及びエチルカフェオフラン・・これらを含む香料組成物は・・茶・・等のフルーツ香料として有用である。さらに・・ジメチルカフェオフランを含む香料組成物は・・または茶の香料として有用である。」(摘示1c)と記載され,カフェオフラン若しくはその類縁体であるカフェオフラン,エチルカフェオフラン及びジメチルカフェオフランを香料組成物として適用する飲食品として,唯一,茶が共通して挙げられている。そうすると,カフェオフラン,エチルカフェオフラン及びジメチルカフェオフランを含むカフェオフラン若しくはその類縁体を香料組成物として適用する飲食品として,特に飲料である茶が着目されているといえるから,上記請求項1に記載の「香料組成物」として茶飲料用のものが記載されているといえる。
そうすると,先願明細書には,

「一般式(3)で示されるカフェオフラン若しくはその類縁体:
【化6】


(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基,R^(4)は炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す)を,10^(ー2)?10^(6)ppbの割合で含むことを特徴とする茶飲料用香料組成物。」

の発明(以下,「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

(2-4)先願は,特許法第41条第3項の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の「当該特許出願の日前の他の特許出願」であって,本件出願後に出願公開がされたものに該当することについて

先願は,特願2005-45014号(出願日:平成17年2月22日)であり,先願を優先権基礎出願とし,先願に基づく国内優先権主張を伴う特願2006-45391号(特開2006-265234号,公開日:本件出願後である平成18年10月5日)がなされたものである。
先願発明に関する上記摘示1aないし1cの記載事項は,先願明細書のみならず特願2006-45391号(特開2006-265234号)にも全て記載されていることから,特許法第41条第3項の規定により,先願発明は,特願2006-45391号についての出願公開がされた時に当該特願2005-45014号についての出願公開がなされたものとみなして,特許法第29条の2本文の規定が適用される。

したがって,先願は,特許法第41条第3項の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の「当該特許出願の日前の他の特許出願」であって,本件出願後に出願公開がされたものに該当する。

(2-5)本願補正発明と先願発明との対比

ア 先願発明の「一般式(3)で示されるカフェオフラン若しくはその類縁体:【化6】(省略)(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基,R^(4)は炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す)」は,本願補正発明の「一般式(1)で示されるカフェオフランまたはその類縁体」「【化1】(省略)(式中,R^(1)およびR^(2)はそれぞれ同一または異なって水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す(R^(1)およびR^(2)が同時に水素原子であるものは除く))」に相当する。

イ 先願発明の「カフェオフラン若しくはその類縁体」「を,10^(ー2)?10^(6)ppbの割合で含むことを特徴とする茶飲料用香料組成物」と,本願補正発明の「カフェオフランまたはその類縁体を,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度(但し,10^(ー2)?10^(6)ppb濃度を除く)添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物」とは,カフェオフランまたはその類縁体を,所定濃度添加した茶飲料用香味料組成物である点で共通する。

したがって,両者は,

「一般式(1)で示されるカフェオフランまたはその類縁体を,所定濃度添加した茶飲料用香味料組成物。
【化1】


(式中,R^(1)およびR^(2)はそれぞれ同一または異なって水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す(R^(1)およびR^(2)が同時に水素原子であるものは除く))。」

である点で一致し,以下の点でのみ一応相違する。

茶飲料用香味料組成物へのカフェオフラン又はその類縁体の添加濃度が,本願補正発明では,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度(但し,10^(ー2)ppb?10^(6)ppb濃度を除く)ものであるのに対し,先願発明では,10^(ー2)ppb?10^(6)0ppb濃度である点。(以下,「相違点」という。)

(2-6)相違点についての判断

先願発明の茶飲料用香味料組成物は「このようにカフェオフラン類(3)は香料の成分として有用であるため,本発明はかかるカフェオフラン類(3)を香料の主成分として含む香料組成物を提供するものである。・・(略)・・さらに本発明は,かかる香料組成物を含む飲食品に関する。」(摘示1c)との記載事項からみて,茶飲料用香料組成物は,食品,すなわち,茶に添加されて使用されるものである。つまり,茶に添加するためカフェオフラン類の濃度が濃い茶飲料用組成物,すなわち,香料原液を作っておき,茶飲料に適したカフェオフラン類の割合となるべく,その香料原液を茶飲料添加するものである。
茶飲料へ所定の濃度カフェオフラン類を添加しようとした場合,香料原液である茶飲料用香料組成物中のカフェオフラン類の濃度が濃ければ,茶飲料への添加量は少なくても済むし,香料原液である茶飲料用香料組成物中の濃度が薄ければ,茶飲料へより多く添加する必要がある。
そして,一般に,香料原液は,食品等へ少量添加されるのが通例であり,目的に応じてその香料組成物の濃度は異なりるものであり,適宜決められるものであることは,技術常識である。例えば,工業的規模の大容量のタンク中の飲料に添加するのであれば,非常に高濃度の香料原液とした上で少量添加することもあるであろう。また,食品へ添加される香料の最終濃度によっても,取り扱いやすいものとするため,香料原液に含まれる香料の濃度は異なるであろう。このように,目的に応じてその香料組成物の濃度は適宜決められるものである。

ところで,先願明細書には「【0101】当該香料組成物に配合されるカフェオフラン類(3)の割合は,使用するカフェオフラン類(3)の種類や目的によって異なるが,例えば,香料組成物100重量%中に10^(-9)?10^(-1)重量%(10^(-2)?10^(6)ppb),好ましくは10^(-5)?10^(-2)重量%(10^(2)?10^(5)ppb)の割合を例示することができる。」(摘示1c)と記載されているように,香料組成物中のカフェオフラン類の割合は,目的に応じて異なると記載されており,上記技術常識を加味して濃度を決めても何等不自然な点はない。そして,「例えば・・(略)・・10^(-2)?10^(6)ppb」と記載されているように,10^(-2)?10^(6)ppbという濃度は単なる例示であって,この範囲外の濃度とすることを妨げるものではないし,しかも,茶飲料に特化した濃度として記載されているものでもない。加えて,本願補正発明の上記技術的特徴における上限値及び下限値に格別の臨界的意義も見い出せない。
そうすると,先願発明の「茶飲料用香料組成物」の濃度を本願補正発明のごとく「10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度(但し,10^(ー2)ppb?10^(6)ppb濃度を除く)」ものとする程度のことは,刊行物1摘示1cに記載の「目的」,例えば,「茶飲料用香料組成物」を添加しようとする茶飲料の容積等に応じた取り扱いやすさ考慮して,当業者が適宜決め得る単なる設計的事項である。
そうすると,相違点記載の本願補正発明の特定事項は,茶飲料用香味料組成物を得るとの課題解決のための具体化手段における微差にすぎず,実質的な相違点とはいえない。

したがって,本願補正発明は,先願発明と同一のものである。

(2-7)出願人・発明者について

本願の特許出願時における出願人は,「三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
」であり,先願の出願人は,「学校法人関西学院」及び「三栄源エフ・エフ・アイ株式会社」である。
また,本願の発明者は,「澤野 友信」,「中村 考志」及び「福本 隆行」であるが,先願の発明者は,「勝村 成雄」及び「李 雁武」である。

したがって,本願補正発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時に,その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない。

(2-8)独立特許要件のまとめ

したがって,本願補正発明は,先願明細書に記載された発明と同一であって,しかも,本願補正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時にその出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので,本願補正発明は,特許法第41条第3項の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

よって,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に適合しないから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成23年5月13日付けの手続補正は,上記のとおり却下されることとなったので,この出願の請求項1ないし4に係る発明は,平成22年10月4日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「一般式(1)で示されるカフェオフランまたはその類縁体を,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物であって,茶飲料に当該カフェオフランまたはその類縁体が,10^(-7)ppb?5×10^(-4)ppb濃度の割合で添加して用いられることを特徴とする茶飲料用香味料組成物。
【化1】


(式中,R^(1)およびR^(2)はそれぞれ同一または異なって水素原子または炭素数1乃至4の低級アルキル基を示す(R^(1)およびR^(2)が同時に水素原子であるものは除く))。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,この出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない,というものである。

特願2005-45014号(特許法第41条第3項の規定により,特開2006-265234号公報により出願公開がされたものとみなす。「第2 2(2)(2-2)ア」に示した先願と同じ。)

3 先願明細書に記載された事項

前記「第2 2(2)(2-2)イ」に記載したとおりである。

4 先願明細書に記載された発明

前記「第2 2(2)(2-3)」に記載したとおりである。

5 対比

本願発明は,上記「第2 2(2)(2-5)」で検討した本願補正発明における,カフェオフランまたはその類縁体の茶飲料用香味料組成物へ添加する濃度につき,「(但し,10^(-2)ppb?10^(6)ppb濃度を除く)」を削除した「10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度」であると共に,茶飲料用香味料組成物を茶飲料に使用する際の濃度を特定した「茶飲料に当該カフェオフランまたはその類縁体が,10^(-7)ppb?5×10^(-4)ppb濃度の割合で添加して用いられることを特徴とする」ことが付加された発明である。

そうすると,上記「第2 2(2)(2-5)」に記載したことのうち,「ア」で述べたことは変わらず,「イ」で述べたことにつき,
イ’ 先願発明の「カフェオフラン若しくはその類縁体」「を,10^(-2)?10^(6)ppbの割合で含むことを特徴とする茶飲料用香料組成物」と,本願発明の「カフェオフランまたはその類縁体を,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物」とは,カフェオフランまたはその類縁体を,所定濃度添加した茶飲料用香味料組成物である点で共通する。

したがって,両者の一致点は,「第2 2(2)(2-5)」で述べた一致点と変わらず,以下の点で一応相違する。

(ア)茶飲料用香味料組成物へのカフェオフラン又はその類縁体の添加濃度が,本願発明では,10^(-5)ppb?10^(2)ppb濃度であるのに対し,先願発明では,10^(-2)ppb?10^(6)ppb濃度である点。(以下,「相違点’」という。)

(イ)茶飲料用香味料組成物の茶飲料への添加について,本願発明では「茶飲料に当該カフェオフランまたはその類縁体が,10^(-7)ppb?5×10^(-4)ppb濃度の割合で添加して用いられることを特徴とする」ものであるのに対し,先願発明では,茶飲料にカフェオフランまたはその類縁体が添加される際の濃度は明らかでない点。(以下,「相違点(イ)」という。)

6 判断

(1)相違点’について
茶飲料用香味料組成物へのカフェオフラン又はその類縁体の添加濃度につき,本願発明と先願発明とでは,10^(-2)ppb?10^(2)ppbの濃度範囲では一致しており,先願発明において,この濃度範囲が選択された場合は,相違点とはいえない。
また,本願発明に含まれる10^(-5)ppb?10^(-2)ppbについても,上記「第2 2(2)(2-6)」で述べたとおり,単なる設計的事項であって,課題解決のための具体化手段における微差にすぎず,実質的な相違点とはいえない。

(2)相違点(イ)について
先願明細書の摘示1cには「【0103】さらに本発明は,かかる香料組成物を含む飲食品に関する。かかる飲食品に配合するカフェオフラン類(3)の割合は,使用するカフェオフラン類(3)の種類や飲食品の種類によって異なるが,飲食品組成物100重量%中に,10^(-12)?10^(-4)重量%(10^(-3)?10^(9)ppb),好ましくは10^(-6)?10^(-1)重量%(1?10^(5)ppb)の割合を例示することができる。」と記載されており,例示として,食品組成物中に,10^(-3)?10^(9)ppbとなるようカフェオフラン類を添加することが記載されている。この濃度は例示であって,かかる濃度範囲外とすることを妨げるものではないし,飲食品の種類や好みに応じて適宜増減できることは言うまでもないことである。
そして,茶飲料に適した香気・香味を付与できる濃度範囲を決めることは,先願発明の実施に際して当業者が必ず行うことであり,好みに応じて適宜決め得ることである。カフェオフラン類は,「青みのある生豆様の香り,または野菜のグリーン香,またはみずみずしさのある香りを奏する」(摘示1c)ような,先願明細書から茶の有する香りと若干異なる香りとして認識される可能性があるものであり,その上限を選ぶに際し,茶が本来有する香気を損なわないこと等の事情を配慮すれば,他の香気を妨げるような高い濃度のカフェオフラン類が添加されることはないであろうから,上記好ましいとされる範囲より低い濃度範囲を選ぶことは不自然なことではない。
そして,実際添加することにより茶の香りの変化を当業者が感じ適切な濃度を選ぶことは当然のことであるから,実際に試すことで好みに応じ上限として5×10^(-4)ppbを選ぶことは,当業者が適宜なし得る単なる設計事項といえる。
また,その下限として,10^(-7)ppbを選ぶことは,添加濃度が低すぎれば,目的とする茶飲料に適した香気・香味を付与することができないことは自明な事項であって,当業者が適宜選び得る単なる設計事項といえる。
したがって,上記相違点(イ)の本願発明の特定事項は,茶飲料に適した香気・香味を付与するとの課題解決のための具体化手段における微差にすぎず,実質的な相違点とはいえない。

以上より,本願発明は,先願発明と同一のものである。

第4 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,先願の明細書,請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって,しかも,本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時に,その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので,本願発明は,特許法第41条第3項の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-05 
出願番号 特願2006-62338(P2006-62338)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (A23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 滝口 尚良  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 菅野 智子
齊藤 真由美
発明の名称 カフェオフランまたはその類縁体からなる茶含有飲食品用添加剤  

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