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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1273417
審判番号 不服2012-8534  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-10 
確定日 2013-05-02 
事件の表示 特願2010-136087「太陽電池モジュール、シリコンリボンの製造方法および球状シリコンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月 5日出願公開、特開2012- 1379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本願は、平成22年6月15日の出願であって、平成23年6月28日付けで拒絶理由が通知され、同年8月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年2月28日付けで拒絶査定され、同年5月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものであり、その後、同年7月12日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、同年9月6日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2.平成24年5月10日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年5月10日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.平成24年5月10日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1及び5は次のとおりに補正された。
「 【請求項1】
融液から直接作製されるシリコンリボンであって、窒素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)atoms/cm^(3)未満であるシリコンリボンを用いて作製された太陽電池セルが電気的に直列に接続されてなる、太陽電池モジュール。
【請求項5】
窒素含有シリコン融液を作製する工程と、
前記窒素含有シリコン融液から窒素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)atoms/cm^(3)未満であるシリコンリボンを成長させる工程と、を含み、
前記シリコンリボンを成長させる工程においては、成長用基板を前記窒素含有シリコン融液に浸漬させることによって前記シリコンリボンを前記成長用基板上に成長させ、
前記シリコンリボンの成長速度が75?140μm/秒である、シリコンリボンの製造方法。」
2.この請求項1及び5に係る補正は、窒素濃度の上限について、それぞれ、本件補正前の「5×10^(16)atoms/cm^(3)以下」から「3×10^(16)atoms/cm^(3)未満」と減縮するものであるから、特許法第17条の2の第5項第2号に該当する。
3.そこで、本件補正後の請求項1及び5に係る発明(以下、それぞれ、「補正発明1、5」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて、以下に検討する。
(1)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2008-184376号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
窒素によりドープされていることを特徴とする多結晶シリコン。
【請求項2】
赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm^(-1)および/または938±5cm^(-1)の波数位置にピークを有することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン。
・・・・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体。
【請求項5】
窒素含有シリコン融液を調製する、融液調製工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載の多結晶シリコン基体の製造方法。
【請求項6】
前記融液調製工程において、窒素含有シリコン融液は、シリコン融液を、窒素原子を含むガスにより窒化するか、またはシリコン融液に窒化シリコンを含有させることにより調製されることを特徴とする、請求項5に記載の多結晶シリコン基体の製造方法。
【請求項7】
前記窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させる、結晶成長工程をさらに含むことを特徴とする、請求項5または6に記載の多結晶シリコン基体の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子。」(特許請求の範囲の請求項1、2、4?8)
(イ)「本発明の多結晶シリコンにおいて、ドープされた窒素の濃度は、特に限定されるものではないが、後述する本発明の多結晶シリコン基体の製造方法によれば、多結晶シリコン中の窒素濃度(1cm^(3)あたりの窒素原子数)を6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲で適宜調整することが可能である。一般に、シリコン中の窒素の固溶限界は5×10^(15)cm^(-3)程度といわれているため、これ以上の窒素濃度を有する場合、一部の窒素は、粒界部分や欠陥部分に入り込んでいると考えられる。
ここで、赤外吸収スペクトル測定における上記特徴的なピークの検出は、多結晶シリコン中の窒素濃度が比較的高い(たとえば、3×10^(16)cm^(-3)程度以上)場合には、室温の測定でも十分可能である。一方、窒素濃度が比較的低い場合には、測定の感度を上げるために、液体ヘリウム温度での測定または試料の厚さ調整等が必要となることが多い。このような高感度化により、1×10^(14)cm^(-3)程度までの低い窒素濃度においても、上記特徴的なピークの検出が可能となる。さらに窒素濃度が低い場合には、放射光等の高輝度赤外線源などを用いる必要がある。」(【0019】?【0020】)
(ウ)「<多結晶シリコン基体の製造方法>
本発明の多結晶シリコン基体の製造方法は、窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程を含むことを特徴とする。得られた窒素含有シリコン融液を用いて、多結晶シリコン基体を製造する方法としては・・・・・・(5)シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上にSiを成長させる方法・・・・・・などがある。以下では好適な一例として、上記(5)の方法に属する結晶成長方法を用いた例を示す・・・・・・。
(1)融液調製工程
本工程において、窒素含有シリコン融液を調製する。・・・・・・なお、シリコン融液は、作製する多結晶シリコンをp型またはn型とするために、それぞれB(ホウ素)、Ga(ガリウム)などのIII族元素や、P(リン)などのV族元素などを含んでいてもよい。
シリコン融液に窒素を含有させる方法は特に制限されるものではないが、好適な方法として、シリコン融液を、窒素を含むガスにより窒化する方法を挙げることができる。・・・・・・。
シリコン融液に窒素を含有させる別の好適な方法として、シリコン融液に窒化シリコンを含有させる方法を挙げることができる。・・・・・・。
・・・・・・
(2)結晶成長工程
本工程において、当該窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させ、多結晶シリコン基体を形成する。・・・・・・。以下、図2に示される装置を用いて本工程を行なう場合について説明する。
図2において、軸29は、図中の矢印で示すように、その一端に取り付けられた結晶成長用の基板22の表面が窒素含有シリコン融液24中に浸漬された後、該窒素含有シリコン融液24から引き上げられるように動作可能となっている。窒素含有シリコン融液24の液面の調整は、坩堝台26に取り付けられた坩堝昇降用台28によってなされる。坩堝台26の下面には、断熱材27で被覆されている。なお、図2に示される装置は、真空排気ができるようチャンバ内に設置されることが好ましい。また、図示されていないが、図2に示される装置には、たとえば軸29を上記のように動作させる手段、加熱用ヒータ25を制御する手段およびシリコンを追加投入する手段が付設されている。
上記図2に示される装置を用いた多結晶シリコン基体の形成方法は概略次のとおりである。まず、窒素含有シリコン融液24の温度を、たとえば1420?1440℃程度に調整する。ついで、軸29を動作させ、基板22の表面を窒素含有シリコン融液24中に浸漬させる。浸漬時間は、所望する多結晶シリコン基体21の厚みに応じて適宜の時間を採り得るが、たとえば厚み300μmの多結晶シリコン基体を得るための浸漬時間はおよそ3?4秒程度である。このような基板22の窒素含有シリコン融液24への浸漬により、基板22の表面上に多結晶シリコン基体21が形成される。
<光電変換素子>
本発明は、たとえば上述のような方法で作製した多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子を提供する。光電変換素子としては、太陽電池・・・・・・等を挙げることができる。・・・・・・。」(【0027】?【0035】)
(エ)「(多結晶シリコン基体の作製)
<実施例1>
図2に示される装置を用いて、窒素含有シリコン融液の調製および多結晶シリコン基体の形成を行なった。・・・・・・。このようにして得られた窒素含有シリコン融液に、黒鉛製の基板22の浸漬時間が5秒となる条件で、図2中左側から基板22の下面を接触させ、多結晶シリコン基体を形成した。当該多結晶シリコン基体の厚みは370μmであった。
・・・・・・
実施例1で得られた多結晶シリコン基体について、SIMS(・・・・・・)を用いて測定した窒素濃度(1cm^(3)あたりの窒素原子数)は、面内でばらつきがあるものの、3?7×10^(16)cm^(-3)程度であった。・・・・・・。」(【0038】?【0040】)
(オ)「(太陽電池の作製)
<実施例2>
以下の手順に従い、実施例1の多結晶シリコン基体を用いて光電変換素子の1種である太陽電池の作製を行なった例を示す。・・・・・・。得られた太陽電池について、AM1.5、100mW/cm^(2)の照射下にて、セル特性の評価を行なった。・・・・・・。」(【0042】)
(カ)「本発明の多結晶シリコン基体の製造方法の結晶成長工程において好適に用いられる装置の概略断面図である」と説明されている図2をみると、上記(ウ)及び(エ)の事項を窺うことができる。
(2)引用例に記載された発明
ア 引用例の(ア)の請求項1を引用する請求項2を引用する、請求項4を引用する、請求項8の記載を独立形式に書き改めると、「窒素によりドープされ、赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm^(-1)および/または938±5cm^(-1)の波数位置にピークを有する・・・・・・多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子。」である。
イ この「光電変換素子」における「多結晶シリコン」は、「窒素によりドープされ」たものであるが、そのドープされた窒素の濃度は、同(イ)によれば、「特に限定されるものではな」く、「6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲で適宜調整することが可能である」とされている。
ウ また、上記「多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体」の製造方法について、同(ア)の請求項7及び同(ウ)に、「窒素含有シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に多結晶シリコンを成長させる方法」が記載されているから、上記アの「多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体」は「窒素含有シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に多結晶シリコンを成長させる」ものであるといえる。
エ さらに、同(ウ)の「光電変換素子としては、太陽電池・・・・・・等を挙げることができる。」との記載をみると、上記アの「光電変換素子」は「太陽電池」ということができ、さらに、同(オ)の記載をみると、この「太陽電池」は「太陽電池セル」とみることができる。
オ そうすると、引用例には、
「窒素含有シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に多結晶シリコンを成長させた、6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲の窒素によりドープされ、赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm^(-1)および/または938±5cm^(-1)の波数位置にピークを有する多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体を用いた太陽電池セル。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
カ また、引用例の(ア)の請求項1を引用する請求項2を引用する、請求項4を引用する請求項5を引用する、請求項6を引用する請求項7の記載を独立形式に書き改めると、「シリコン融液を、窒素原子を含むガスにより窒化するか、またはシリコン融液に窒化シリコンを含有させることにより調製される窒素含有シリコン融液調製工程と、前記窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させる、結晶成長工程をさらに含む、窒素によりドープされ、赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm^(-1)および/または938±5cm^(-1)の波数位置にピークを有する・・・・・・多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体の製造方法。」である。
キ この「多結晶シリコン基体の製造方法」により製造される「多結晶シリコン」は、「窒素によりドープされ」たものであるが、そのドープされた窒素の濃度は、同(イ)によれば、「特に限定されるものではな」く、「6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲で適宜調整することが可能である」とされている。
ク そうすると、引用例には、
「シリコン融液を、窒素原子を含むガスにより窒化するか、またはシリコン融液に窒化シリコンを含有させることにより調製される窒素含有シリコン融液調製工程と、前記窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させる、結晶成長工程をさらに含む、6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲の窒素によりドープされ、赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm^(-1)および/または938±5cm^(-1)の波数位置にピークを有する多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体の製造方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
(3)対比・判断
(3-1)補正発明1について
ア 補正発明1と引用発明1とを対比する。
イ まず、補正発明1の「融液から直接作製されるシリコンリボン」についてみてみる。
イ-1 本願明細書の【0015】によれば、「融液から直接作製されるシリコンリボン」とは、「融液からインゴットなどの他の形状を経ることなく作製されたシリコンリボン」である。
イ-2 補正発明1の「シリコンリボン」に製造法について、本願明細書の【0034】?【0042】に次のように記載されている。
「 <シリコンリボンの製造方法>
本発明のシリコンリボンは、融液から直接作製されることを特徴としている。・・・・・・。
本発明のシリコンリボンの製造方法は、(i)窒素含有シリコン融液を作製する工程と、(ii)シリコンリボンを成長させる工程と、を含んでいる。
(i)窒素含有シリコン融液を作製する工程
・・・・・・シリコン融液に窒素を含有させる方法としては、たとえば、シリコン融液が収容されたチャンバに窒素を含むガスを導入する方法、またはシリコン融液に窒化シリコンを投入する方法などを用いることができる。・・・・・・。なお、窒素含有シリコン融液は、シリコンリボンをp型またはn型とするために、たとえば、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)などのIII族元素や、P(リン)、As(ヒ素)、Sb(アンチモン)などのV族元素などを含んでいてもよい。
(ii)シリコンリボンを成長させる工程
上記の(i)の工程で作製された窒素含有シリコン融液からシリコンリボンを成長させて、本発明のシリコンリボンを窒素含有シリコン融液から直接作製する。・・・・・・。
・・・・・・
図1に示すシリコンリボンの成長装置を用いてシリコンリボンを成長させる工程は、たとえば以下のようにして行なわれる。まず、・・・・・・窒素含有シリコン融液12の温度をたとえば1420℃?1440℃程度に保持する。
次に、・・・・・・坩堝22の内部の窒素含有シリコン融液12にシリコンリボン成長用基板14の表面を浸漬させて、窒素含有シリコン融液12にシリコンリボン成長用基板14を接触させる。なお、シリコンリボン成長用基板14は・・・・・・たとえば黒鉛・・・・・・が挙げられる。
窒素含有シリコン融液12へのシリコンリボン成長用基板14の表面の浸漬時間は、所望とするシリコンリボン11の厚みに応じて適宜の時間を採り得るが、たとえば厚み300μmのシリコンリボン11を得るための浸漬時間はおおよそ3?4秒程度である。
以上により、シリコンリボン成長用基板14の表面上に窒素濃度が5×10^(15)atoms/cm^(3)以上5×10^(17)atoms/cm^(3)以下、好ましくは1×10^(16)atoms/cm^(3)以上5×10^(16)atoms/cm^(3)以下となるシリコンリボン11を成長させる。」
イ-3 次に、引用発明1の「窒素含有シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に多結晶シリコンを成長させた、・・・・・・多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体」の製造方法に関し、引用例の(ウ)の記載をみてみると、次の(a)?(c)に記載された工程を含んでいるといえる。すなわち、
(a)「窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程」と「結晶成長工程」とを含み(「<多結晶シリコン基体の製造方法>」の項参照。)、
(b)「窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程」は、シリコン融液を、窒素を含むガスにより窒化するかシリコン融液に窒化シリコンを含有させるものであり、シリコン融液は、作製する多結晶シリコンをp型またはn型とするために、それぞれB(ホウ素)、Ga(ガリウム)などのIII族元素や、P(リン)などのV族元素などを含んでいてもよく(「融液調製工程」の項参照。)、
(c)「結晶成長工程」は、窒素含有シリコン融液24の温度を、たとえば1420?1440℃程度に調整し、基板22の表面を窒素含有シリコン融液24中に浸漬させる。浸漬時間は、所望する多結晶シリコン基体21の厚みに応じて適宜の時間を採り得るが、たとえば厚み300μmの多結晶シリコン基体を得るための浸漬時間はおよそ3?4秒程度である。このような基板22の窒素含有シリコン融液24への浸漬により、基板22の表面上に多結晶シリコン基体21が形成される(「結晶成長工程」の項参照。)ものである。
さらに、基板22は黒鉛製であることが同(エ)に開示されている。
イ-4 ここで、この引用例の(ウ)及び(エ)の記載と本願明細書の記載を対比すると、引用例に記載の上記「窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程」には、本願明細書に記載の「窒素含有シリコン融液を作製する工程」と実質的に同じ事項が記載され、また、引用例に記載の上記「結晶成長工程」には、本願明細書に記載の「シリコンリボンを成長させる工程」と実質的に同じ事項が記載されているから、引用例に記載の「窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程」、「結晶成長工程」は、それぞれ、本願明細書に記載の「窒素含有シリコン融液を作製する工程」、「シリコンリボンを成長させる工程」に相当する。そして、引用発明の「多結晶シリコン基体」は、上記イ-3(a)に記載したように、「窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程」と「結晶成長工程」とを含む工程により製造され、一方、補正発明1の「シリコンリボン」は上記イ-2でみたように、「窒素含有シリコン融液を作製する工程」と「シリコンリボンを成長させる工程」を含む工程により製造されるから、引用発明1の「窒素含有シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に多結晶シリコンを成長させた、・・・・・・多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体」は、補正発明1の「融液から直接作製されるシリコンリボン」に相当するといえる。
ウ そして、上記イ-1?イ-4の検討結果を踏まえると、引用発明の「多結晶シリコン基体」と補正発明の「シリコンリボン」は、共に窒素を含有している点で共通している。
エ また、「太陽電池モジュール」とは複数の「太陽電池セル」を直列及び/または並列に接続したものであることは明らかである。
オ 以上の検討を踏まえると、両者は、
「融液から直接作製されるシリコンリボンであって、窒素を含むシリコンリボンを用いて作製された太陽電池セル」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:窒素濃度について、補正発明1は、1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)atoms/cm^(3)未満であるのに対し、引用発明1は、6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲である点
相違点2:補正発明1は、電池セルが電気的に直列に接続されてなる太陽電池モジュールであるのに対し、引用発明1は、太陽電池セルを直列に接続して太陽電池モジュールとすることについて特定がない点
カ これら相違点について検討する。
キ 相違点1について
キ-1 引用例の(イ)には、「ドープされた窒素の濃度は、特に限定されるものではない」こと、「窒素濃度を6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲で適宜調整することが可能である」こと、及び「赤外吸収スペクトル測定の感度を上げれば、1×10^(14)cm^(-3)程度までの低い窒素濃度においても、上記特徴的なピークの検出が可能となる」ことが開示されているとみることができ、少なくとも、窒素濃度が「1×10^(14)cm^(-3)程度以上、6×10^(18)cm^(-3)程度以下」の範囲であることが記載されているといえ、引用発明の窒素濃度の下限は、最高で1×10^(14)cm^(-3)程度ということができる。
キ-2 一方、引用例の(エ)に記載された「実施例1」では、「窒素濃度(1cm^(3)あたりの窒素原子数)は、面内でばらつきがあるものの、3?7×10^(16)cm^(-3)程度であった」との記載がなされている。ここで、「程度」とは、「上に基準などを示す語を伴って、物事の段階がほぼそのあたりであることを表す」(「大辞林 第3版」 2006年10月27日発行 三省堂 1713頁 「程度」の項)文言であるから、この「3?7×10^(16)cm^(-3)程度」とは、「3?7×10^(16)cm^(-3)あたり」ということであり、3×10^(16)cm^(-3)よりも若干小さな値、すなわち、「1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)cm^(-3)未満」の値を含んでいると解され、引用例には、窒素濃度が「1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)cm^(-3)未満」であるものが実際に記載されているといえる。
そして、この解釈の前提となる「程度」とは、「ほぼそのあたり」という意味で引用例において使用されていることは、引用例の(ウ)に「厚み300μmの多結晶シリコン基体を得るための浸漬時間はおよそ3?4秒程度である。」と記載され、この記載から、「シリコン基体の成長速度は75?100μm/秒(=300/4?3)程度」と言い換えることができるが、同(エ)では、「基板22の浸漬時間が5秒となる条件で、図2中左側から基板22の下面を接触させ、多結晶シリコン基体を形成した。当該多結晶シリコン基体の厚みは370μmであった。」と記載され、このときの「シリコン基体の成長速度は74μm/秒(=370/5)」となっており、「75?100μm/秒程度」とは、「74μm/秒」を含んだ記載といえることから裏付けられる。
キ-3 そうすると、引用発明は窒素濃度が、3×10^(16)cm^(-3)程度のもの、すなわち、「1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)cm^(-3)未満」のものを含むといえるから、上記相違点1は実質的なものではない。
ク 相違点2について
太陽電池用セルを使用するに当たって、所望の電圧を得るために太陽電池セルを直列に接続し太陽電池モジュールとすることは周知技術であるから(要すれば、特開平11-298022号公報、特開2001-168369号公報、特開2010-124007号公報等参照。)、引用発明の太陽電池セルを直列に接続されてなる太陽電池モジュールとすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
ケ よって、補正発明1は引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3-2)補正発明5について
ア 補正発明5と引用発明2とを対比する。
イ 引用発明2の「シリコン融液を、窒素原子を含むガスにより窒化するか、またはシリコン融液に窒化シリコンを含有させることにより調製される窒素含有シリコン融液調製工程」は、補正発明5の「窒素含有シリコン融液を作製する工程」に相当する。
ウ 上記(3-1)のイ-1?イ-4の検討結果を踏まえると、引用発明2の「前記窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させる、結晶成長工程」は、補正発明5の「成長用基板を前記窒素含有シリコン融液に浸漬させることによって前記シリコンリボンを前記成長用基板上に成長させ」る「シリコンリボンを成長させる工程」に相当するから、引用発明2の「多結晶シリコン基体」と補正発明5の「シリコンリボン」は、共に、窒素を含有している点で共通している。
エ 引用発明2の多結晶シリコンを成長させる速度、すなわち、多結晶シリコン基体の成長速度は、引用例の(ウ)の「たとえば厚み300μmの多結晶シリコン基体を得るための浸漬時間はおよそ3?4秒程度である。」との記載から、「75?100μm/秒(=300/4?3)程度」といえ、補正発明5のシリコンリボンの成長速度である「75?140μm/秒」と少なくとも「75?100μm/秒」の範囲で一致している。
オ そうすると、両者は、
「窒素含有シリコン融液を作製する工程と、
前記窒素含有シリコン融液から窒素を含むシリコンリボンを成長させる工程と、を含み、
前記シリコンリボンを成長させる工程においては、成長用基板を前記窒素含有シリコン融液に浸漬させることによって前記シリコンリボンを前記成長用基板上に成長させ、
前記シリコンリボンの成長速度が75?100μm/秒である、シリコンリボンの製造方法」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点3:窒素濃度について、補正発明1は、1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)atoms/cm^(3)未満であるのに対し、引用発明1は、6×10^(18)cm^(-3)程度以下の範囲である点
カ この相違点3について検討すると、この相違点3は相違点1と同じであるから、上記相違点1の検討のところで述べたものと同じ理由により、相違点3も実質的なものではない。
キ よって、補正発明5は、引用例に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4.請求人は、回答書において「引用文献1には、窒素濃度を1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)atoms/cm^(3)未満とすることによって、太陽電池セルの逆方向漏れ電流を低減することができ、太陽電池セルおよび太陽電池モジュールの歩留まりを向上して、製造コストを低減することができるという、特有の効果については記載も示唆もされていません」((2)(iii)の項)と主張しているので検討すると、上述のとおり引用発明1、2は、共に、窒素濃度が「1×10^(16)atoms/cm^(3)以上3×10^(16)cm^(-3)未満」の範囲にあるから、請求人が主張する特有の効果を当然に奏しているとみることが自然であり、この主張は採用できない。
5.補正却下のむすび
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成24年5月10日付けの手続補正は上記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項1、5に係る発明(以下、「本願発明1、5」という。)は、平成23年8月26日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
融液から直接作製されるシリコンリボンであって、窒素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)以上5×10^(16)atoms/cm^(3)以下であるシリコンリボンを用いて作製された太陽電池セルが電気的に直列に接続されてなる、太陽電池モジュール。
【請求項5】
窒素含有シリコン融液を作製する工程と、
前記窒素含有シリコン融液から窒素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)以上5×10^(16)atoms/cm^(3)以下であるシリコンリボンを成長させる工程と、を含み、
前記シリコンリボンを成長させる工程においては、成長用基板を前記窒素含有シリコン融液に浸漬させることによって前記シリコンリボンを前記成長用基板上に成長させ、
前記シリコンリボンの成長速度が75?140μm/秒である、シリコンリボンの製造方法。」
2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例びその記載事項は、上記第2.3(1)に記載したとおりである。
3.対比・判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1は、上記第2.で検討した補正発明1において、窒素濃度の上限について、「3×10^(16)atoms/cm^(3)未満」を「5×10^(16)atoms/cm^(3)以下」に拡張したものである。
イ 本願発明1と引用発明1とを対比すると、本願発明1では、上記アで述べたように窒素濃度の上限が拡張されたから、両者は、上記第2.(3)(3-1)で述べた相違点2のみで相違し、その余の点で一致している。
ウ そうすると、本願発明1は、補正発明1のところで述べたものと同じ理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)本願発明5について
ア 本願発明5は、上記第2.で検討した補正発明5において、窒素濃度の上限について、「3×10^(16)atoms/cm^(3)未満」を「5×10^(16)atoms/cm^(3)以下」に拡張したものである。
イ 本願発明5と引用発明2とを対比すると、上記アで述べたように窒素濃度の上限が拡張されたから、両者は相違するところがない。
ウ そうすると、本願発明5は、補正発明5のところで述べたものと同じ理由により、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないし、本願発明5は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-26 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-19 
出願番号 特願2010-136087(P2010-136087)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 直裕  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 木村 孔一
中澤 登
発明の名称 太陽電池モジュール、シリコンリボンの製造方法および球状シリコンの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
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