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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1273597
審判番号 不服2011-22162  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-13 
確定日 2013-05-10 
事件の表示 特願2001-500335「気体絶縁配線構造集積回路」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 7日国際公開、WO00/74135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2000年5月26日(優先権主張1999年5月26日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成22年11月22日付けで通知された拒絶理由通知に対して、平成23年1月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月18日付けで通知された拒絶理由通知に対して、同年5月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月13日に審判請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。
そして、平成24年11月13日付けで当審より通知した拒絶理由通知に対して、平成25年1月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明に対する判断
1.本願発明
本願の請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成25年1月15日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載されるとおりであって、そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「基板上に複数のトランジスタを配置し、前記複数個のトランジスタの端子間を多層に構成された導電性材料からなる配線により接続することにより機能を発現する集積回路において、
前記基板が埋込み絶縁膜に直接もしくは低抵抗半導体層を介して隣接する金属層を含むSOI基板であり、
前記多層に構成された配線間が気体により分離され、
前記多層に構成された配線間に、前記多層に構成された配線間を接続する導電性材料からなる電気ビアと、絶縁性材料からなる熱ビアを備え、
前記熱ビアが窒化アルミニウムまたは窒化シリコンを主成分とする材料、あるいはそれらの組み合わせからなり、
前記電気ビアが、ポリシリコン、タングステン、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金を主成分とする材料、あるいはそれらの組み合わせからなり、
前記集積回路の前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造は、ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された構造であり、
前記埋込み絶縁膜に隣接して設けられた金属層の厚さが、前記多層に構成された配線を伝搬する電気信号の表皮厚さより厚くし、
ゲート遅延、配線遅延、及び基板起因の遅延を全て極小にしたことを特徴とする集積回路。」

2.当審よりの拒絶理由通知の概要
平成24年11月13日付けで当審より通知した拒絶理由通知の概要は、次のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



< 引 用 例 等 一 覧 >
1.特開平09-129725号公報
2.特開平11-103035号公報
3.特開平10-294316号公報
4.特開平08-250593号公報
5.特開平02-220464号公報

・請求項1
・引用例1?5
・備考
……(中略)……
・請求項6
・引用例1?5
・備考
……(以下、省略)」

3.各引用例の記載事項と引用発明
3-1.引用例1
3-1-1.引用例1の記載事項
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、当審の拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開平09-129725号公報(以下「引用例1」という。)には、「半導体装置」(発明の名称)に関して、図1?図17とともに、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審において付したものである。以下、他の刊行物についても同様である。)。

ア 産業上の利用分野
a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体装置に係る。より詳細には、金属等の低抵抗配線間などに配設された層間絶縁物に、スルーホール(TH)乃至ダミーホール(DH)を設けて配線温度の上昇を阻止することにより、超高密度集積回路(ULSI)に適合した半導体装置に関する。」

イ 発明の背景
b.「【0002】
【従来の技術】現在、ICやLSIなどと呼ばれる半導体装置では、その中の各種素子の集積化が進むにつれて配線の長さ及び面積が増加するため、2層以上の多層配線が行われている。最も一般的な多層配線としては、Alからなる各層の配線を、SiO_(2)膜、又は、ポリイミド膜で絶縁する構造が挙げられる。このように配線構造が複雑化した場合、多層構造をなす配線が、各種素子の上を横切るため、断面構造的には半導体装置の大部分は配線で構成されているといっても過言ではない。
【0003】以下では、上記多層配線を有する半導体装置が解決すべき問題点と、従来の解決法について説明する。
……(中略)……
【0008】また、半導体装置の配線には、例えばクロック等の高周波パルス信号(電流)が流れる。しかるに、このパルスは、各種素子のさらなる高速動作を実現するために、より一層の高周波化が望まれている。このような半導体装置の高周波パルス化にともない、低抵抗配線ではジュール発熱の変動に起因した熱サイクルが発生する。この熱サイクルは、配線の膨張及び収縮による機械的な周期的ストレス(熱ストレス)をもたらす。以上のような熱ストレスが加わったとき、配線材料原子のマイグレーションに伴う電気抵抗値増大や断線、すなわちストレス・マイグレーション、あるいは金属の加工硬化による機械的強度低下という問題が発生するようになる。このため配線が劣化し、配線の信頼性、強いてはLSI全体の信頼性を大きく損なう結果になる。したがって、配線の信頼性を向上するためには、配線から発せられる熱を効率よく取り除くことが重要になる。
【0009】(3)RC時定数
一方、上述した半導体装置の動作速度は、配線自身の抵抗値Rと配線の有する容量Cとの積、すなわちRC時定数によって大きく制限される。この理由から、半導体装置の動作速度を高くするためには、配線の抵抗値を下げるとともに、層間絶縁膜として、誘電率の小さな絶縁体を使用することが必要である。
【0010】以下では、上記の3つの問題点への現状の対策例を述べる。
【0011】(イ)層間絶縁膜として、ボロンリンドープドシリコン酸化膜(BPSG;Boron PhosphoSilicate Glass)、ノンドープドシリコン酸化膜(NSG;Non-doped Silicate Glass)等のシリコン酸化膜が用いられてきた。しかし、この材料の比誘電率は3.9、熱伝導率は0.013W/cm・Kである。これらの値は、LSIの動作速度を制限し、配線で発生した熱をすばやく伝達するには十分ではない。」

c.「【0014】
【発明が解決しようとする課題】以上の現状を鑑み、本発明は、配線で発生した熱をすばやく伝達することができ、かつ、配線の有する容量が小さな層間絶縁膜を形成することにより、高速で、かつ、信頼性の高い半導体装置を提供することを目的とする。」

ウ 課題を解決するための手段
d.「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の要旨は、導電性基体の表面及び/又は裏面上に、第1の絶縁物を介して積層された多層の金属等の低抵抗配線を有する半導体装置において、前記低抵抗配線間にある前記第1の絶縁物に貫通孔が設けられ、かつ、前記貫通孔が、少なくとも導電物で充填された孔(スルーホール:TH)と、前記第1の絶縁物よりも大きな熱伝導率を有する第2の絶縁物で充填された孔(ダミーホール:DH)とからなることを特徴とする半導体装置に存在する。」

エ 実施態様
e.「【0024】
【実施態様例】
(導電性基体)本発明の導電性基体としては、例えば、金属、半導体、絶縁体膜で被覆された後さらに半導体膜で被覆された金属、又は、半導体膜で被覆された絶縁体、が挙げられる。
【0025】導電性基体として利用するため、少なくとも導電性基体の表面及び/又は裏面を構成する材料の電気伝導度は、10^(-8)(Ω cm)^(-1)以上が望ましい。また、導電性基体の表面及び/又は裏面は、その上に各種素子などを作製することから、可能なかぎり平坦な面であることが好ましい。金属としては、Ta,Ti,W,Co,Mo,Hf,Ni,Zr,Cr,V,Pd,Au,Pt,Mn,Nb,Cu,Ag,又はAlが好ましい。半導体としては、Si,Ge,GaAs,又はC(ダイヤモンド)が好ましい。半導体膜で被覆された絶縁体としては、SiO_(2)(酸化シリコン),SiN(窒化シリコン),AlN(窒化アルミニウム),Al_(2)O_(3)(酸化アルミニウム),又はSiO_(x)N_(y)からなる混合膜が好ましい。絶縁体膜で被覆された後さらに半導体膜で被覆された金属としては、Ta,Ti,W,Co,Mo,Hf,Ni,Zr,Cr,V,Pd,Au,Pt,Mn,Nb,Cu,Ag,又はAlが好ましい。
【0026】(第1の絶縁物)本発明の第1の絶縁物としては、例えば、SiO_(2),NSG,BPSG, PSG,シリコン窒化膜,又は、高分子材料(ポリイミド系,テフロン系,パリレン系)が挙げられる。第1の絶縁物を設ける目的は、その上下に位置する低抵抗配線を電気的に分離するためである。したがって、第1の絶縁物を構成する材料の電気伝導度は、10^(-18)(Ωcm)^(-1)以下が望ましい。また、この第1の絶縁物は、一般的には薄膜形状として配設される。その膜厚は、例えば、50nm?10μmの範囲である。
【0027】第1の絶縁物の形成方法としては、例えば、エネルギーとして、熱、プラズマ、光などを用いる各種CVD(Chemical Vapor Deposition)法、又は、各種スパッタ法などが用いられる。
【0028】(第1の絶縁物を介して積層された多層の金属等の低抵抗配線)本発明の「第1の絶縁物を介して積層された多層の金属等の低抵抗配線」は、半導体装置、特にICやLSIにおいて各素子間を結び、電気信号を伝達する役割を有する。
【0029】このような低抵抗配線に使用される金属薄膜の形成には、金属膜と半導体表面との間に酸化物のような中間層をつくらないように、高真空での金属の蒸着やスパッタ、あるいは金属の塩化物などを用いた高温中でのCVD法による作製が行われる。
【0030】その金属薄膜の材料としては、例えば、次に示すものが挙げられる。Si半導体装置では、Al,Cr,W,Mo,Cu,Ag,Au,Ti WSi_(2),MoSi_(2),TiSi_(2)、又は、これらを主成分とする合金(例えば、Cu-Mg合金、Cu-Nb合金、Cu-Al合金)、若しくは、これらの材料が層状に積層された配線(例えば、Al-Ti-Al、TiN-Al合金-TiN、W-Al合金-W)などが、GaAs半導体装置では、Au,Al,Ni,Pt、又は、これらを主成分とする合金が用いられる。特に、以下の理由から、Si半導体装置では、Al,Cu,Ag,Au、又は、これらを主成分とする合金が重用されている。
(A)電極材料とオーミック接触になること
(B)絶縁膜(SiO_(2),Si_(3)N_(4),Al_(2)O_(3)など)との密着性が良いこと
(C)導電率が大きいこと
(D)加工が容易で加工精度が高いこと
(E)化学的・物理的、さらに電気的にも安定であること
【0031】また、半導体装置内では、各素子の集積化が進むにつれて多層配線が行われる。多層配線としては、例えば、Alからなる各層の配線を、SiO_(2) 膜、又は、高分子膜で絶縁する構造が挙げられる。多層配線における課題としては、以下のものが挙げられる。
(a)下層配線と上層配線との交差部での凹凸段差による上層配線の断線および上層・下層配線間の短絡を回避すること
(b)上述したエレクトロ・マイグレーションに関する対策
(c)上述したサーマル・ストレス・マイグレーションに関する対策
(d)RC時定数に関する対策
本発明では、後述する「第1の絶縁物よりも大きな熱伝導率を有する第2の絶縁物で充填された孔(ダミーホール:DH)」を設けることによって、上記課題の(b)?(d)を同時に解決することが可能となった。
【0032】(半導体装置)本発明における半導体装置とは、一般的に、電気回路や電気素子を一つの基板上に高密度に構成したもの、すなわち、トランジスタ、抵抗体、コンデンサ等を使って集積化したものを意味し、その集積度を上げたものをLSI(Large Scale Integrated Circuit)と呼ぶ。この半導体装置に用いる基体は、Siに限定されるものではなく、GaAs等でも構わない。」

f.「【0034】(導電物で充填された孔(スルーホール:TH))本発明のスルーホールとは、前述した「第1の絶縁物に設けられた貫通孔」の中に、導電物が充填された孔である。スルーホールは、第1の絶縁物に電気的に分離された上下に位置する低抵抗配線間の導通をとることが役目である。一方の低抵抗配線から他方の低抵抗配線へ、電気信号とともに熱も伝達することができる。すなわち、スルーホールは、熱のみを伝達することはできず、同時に電気信号も伝達してしまう。したがって、低抵抗配線の発熱を回避する目的から、任意の場所に配設することはできない。
【0035】(第1の絶縁物よりも大きな熱伝導率を有する第2の絶縁物で充填された孔(ダミーホール:DH))本発明のダミーホールとは、前述した「第1の絶縁物に設けられた貫通孔」の中に、第1の絶縁物よりも大きな熱伝導率を有する第2の絶縁物が充填された孔である。ダミーホールは、例えば、第1の絶縁物に電気的に分離された上下に位置する低抵抗配線間において、一方の低抵抗配線から他方の低抵抗配線へ、第1の絶縁物よりも早く熱を伝達することができる。すなわち、迅速に熱を伝達することによって配線の温度上昇を抑えることができる。また、ダミーホールは絶縁物であるため、電気信号を伝達しない。したがって、低抵抗配線の発熱を回避する目的から、半導体装置において任意の場所に配設することが可能である。」

オ 実施例
g.「【0046】
【実施例】
(実施例1)本例では、ガス状化合物であるジメチルアルミニウムハイドライド(DMAH)の熱分解特性を、シリコン(Si)の表面、シリコン酸化膜(SiO_(2))の表面、銅(Cu)の表面、又は、高分子の一例としてポリイミドの表面に対して調べた。
……(中略)……
【0051】以上の結果から、ポリイミドからなる第1の絶縁物の貫通孔に、AlNからなる第2の絶縁物を充填することが可能と判断した。
【0052】ここでは、金属表面として銅の場合を説明したが、基板の表面が導電性であれば同様の結果が得られることが別途確認された。すなわち、導電性基体にAlNを成長させる場合には、導電性基体として、金属、半導体、絶縁体膜で被覆された後さらに半導体膜で被覆された金属、又は、半導体膜で被覆された絶縁体、の使用が可能であることが分かった。
【0053】また、第1の絶縁物としては、ポリイミド膜の代わりにSiO_(2)膜を用いても可能であることが分かった。
【0054】さらに、ここでは、導電性基体上における第1の絶縁物に対する貫通孔の作製について説明したが、同様に、金属配線間における第1の絶縁物や、あるいは、金属配線と放熱装置との間における第1の絶縁物に対しても適用できることが別途確認された。
【0055】(実施例2)本例では、半導体装置の各配線層の間、配線層と導電性基体との間、及び、配線層と放熱装置との間に、スルーホール(TH)のみを設けた場合について、第1の絶縁物を構成する材料を変更して検討した。第1の絶縁物を構成する材料、すなわち、層間絶縁材料としては、酸化シリコン、ポリイミド樹脂、及び、窒化アルミニウムを用いた。TH材料としては、配線材料と同じCuを用いた。」

h.「【0062】(実施例3)本例では、配線層と導電性基体との間、及び、配線層と放熱装置との間には、スルーホール(TH)のみを設け、各配線層の間には、スルーホール(TH)とダミーホール(DH)を両方設けた場合について、(TH+DH)比率を変更して検討した。但し、TH又はDHからなる孔は、配線上の配線ピッチ間隔のところに面積比率で均一に配設した。換言すれば、各配線ピッチの点に、(TH+DH)比率で、TH又はDHからなる孔を配分して設置した。配線層と導電性基体との間、及び、配線層と放熱装置との間に設けたTH比率は、15%に固定した。(TH+DH)比率としては、1%(条件c)、5%(条件d)、10%(条件e)の3種類検討した。第1の絶縁物すなわち層間絶縁材料としては、ポリイミド、又は、シリコン酸化膜を、TH材料としてはCuを、DH材料としては熱伝導率の高いAlNを用いた。」

i.「【0080】(実施例5)本例では、半導体装置の各配線層の間、配線層と導電性基体との間、及び、配線層と放熱装置との間に、スルーホール(TH)とダミーホール(DH)を両方設けた場合について、(TH+DH)比率を変更して検討した。
【0081】各配線層の間に設けた(TH+DH)比率としては、1%(条件c”)、5%(条件d”)、10%(条件e”)の3種類検討した。これに対応して、配線層と導電性基体との間に設けた(TH+DH)比率、及び、配線層と放熱装置との間に設けた(TH+DH)比率は、20%(条件c”)、25%(条件d”)、30%(条件e”)とした。
【0082】層間絶縁材料としては、ポリイミド、又は、シリコン酸化膜を、TH材料としてはCuを、DH材料としては熱伝導率の高いAlNを用いた。」

j.「【0087】以上に示した実施例1?5では、層間絶縁膜として、SiO_(2)、ポリイミド樹脂について述べたが、本技術はどんな絶縁物が使われる時にも有効であると判断した。すなわち、実質的な層間絶縁物の誘電率を小さくして高速動作を保証し、かつ、窒化アルミニウムのような熱伝導率の高い絶縁物で配線間の要所要所にDHを導入することにより、配線の温度上昇を抑えて配線の信頼性を向上させることが可能なためである。また、実施例1?5では配線材料としては、実用的な配線材料である最も抵抗率の小さいCuについて述べたが、本技術がアルミニウム合金配線やポリシリコン及びポリサイド配線に適用できることは自明である。」

カ 効果
k.「【0091】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、配線で発生した熱をすばやく伝達することができ、かつ、配線の有する容量が小さな構造を有する層間絶縁膜を作製することにより、高速で、かつ、信頼性の高い半導体装置がえられる。」

3-1-2.引用発明1
前項のa?kの記載を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「一つの基板上にトランジスタ、抵抗体、コンデンサ等の電気素子を高密度に配置して集積化し、各電気素子間を結び電気信号を伝達する役割を有する低抵抗配線を積層し、各層の前記低抵抗配線を層間絶縁物で絶縁する多層配線構造を有する半導体装置において、
その上下に位置する前記低抵抗配線を電気的に分離する前記層間絶縁物は、SiO_(2)、ポリイミド樹脂、BPSG等からなり、
前記低抵抗配線間にある前記層間絶縁物に設けられた貫通孔が、導電物で充填されたスルーホールと、前記層間絶縁物よりも大きな熱伝導率を有する第2の絶縁物で充填されたダミーホールとを備え、
前記低抵抗配線に使用される金属薄膜の材料としては、Al,Cr,W,Mo,Cu,Ag,Au,Ti,WSi_(2),MoSi_(2),TiSi_(2)、又は、これらを主成分とする合金を用い、
前記第2の絶縁物には、熱伝導率の高いAlNを用い、
前記導電物の材料には、Cuを用いる、
ことを特徴とする半導体装置。」

3-2.引用例2
3-2-1.引用例2の記載事項
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、当審の拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開平11-103035号公報(以下「引用例2」という。)には、「半導体基板及びその作製方法」(発明の名称)に関して、図1?図7とともに、以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】 基材の上に設けられた導電性材料層と、該導電性材料層の上に設けられた絶縁層と、該絶縁層上に設けられた半導体層と、を有する半導体基板において、
前記導電性材料層は、金属同士の反応層、金属と半導体の反応層、金属と金属半導体化合物との反応層、半導体と金属半導体化合物との反応層、金属半導体化合物同士の反応層から選択される少なくとも1つからなる導電性の層を有し、
前記導電性材料層と前記絶縁層との間及び/又は、前記基材と前記導電性材料層との間に、前記導電性材料とは異なる材料からなる反応抑止層を有することを特徴とする半導体基板。
……(中略)……
【請求項8】 前記絶縁膜側に形成された反応抑止層の少なくとも一部は、良好な信号伝搬に必要とされる最高周波数成分に対応する電磁波の表皮深さより厚いことを特徴とする請求項1又は3に記載の半導体基板。」

b.「【0013】本発明は、安定した電磁波遮蔽効果を維持して、デバイス特性、高速動作性の劣化を抑制する金属SOIウエハ等の半導体基板及びその作製方法を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、ギガ・スケール・インテグレーション(GSI)が可能な半導体基板を提供することを目的とする。」

c.「【0021】
【発明の実施の形態】図1は本発明の半導体基板及びその作製方法を示す図である。まず、本発明の半導体基板S9について述べる。第1の部材5からなる基材上には導電性材料層8と絶縁層2と半導体層10が設けられている。
【0022】この導電性材料層8と絶縁層2の間及び/又は導電性材料8と基材5との間には導電性材料層8とは異なる導電性又は半導体性の材料から実質的になる反応抑止層(反応停止層又は反応性の低い層ともいえる)6が介在している。
【0023】このような構成により、この半導体層10を加工して半導体デバイスを作り込んでも反応層8の上及び/又は下の界面は所望のプロファイルを維持し、界面の変化、ストレスの蓄積、該デバイスの劣化を抑止することができる。
【0024】次に本発明による半導体基板の作製方法について説明する。図1のS1に示すように、まず少なくとも一表面が単結晶半導体からなる第1の部材を用意する。S2に示すように、第1の部材の単結晶半導体からなる表面上に絶縁層2形成する。S3に示すように、絶縁層2の表面上に、第1の反応抑止層(反応停止層)3とを形成する。S4に示すように、第1の反応抑止層3の表面上に第1の反応前駆層4を形成する。一方、S5に示すように、第2の部材5の表面上に第2の反応抑止層6を形成する。第1及び第2の反応抑止層3、6のうち一方は省くこともできる。S7に示すように、第2の反応抑止層6の表面上に第2の反応前駆層7を形成する。そして、S8に示すように、第1及び第2の反応前駆層4、7同士を適当な温度条件下で接触させると両者は合金化反応或いはシリサイド化反応等を起こし、反応層8となり、第1の部材1と第2の部材5とが貼り合わされる。
【0025】この時、第1又は第2の反応抑止層としては、貼り合わせ時の合金化或いはシリサイド化反応において、反応前駆層4、7や反応層8のいずれとも反応を実質的に生じないような材料が選択される。例えば、融点が600℃以上の高融点金属や高融点金属化合物は好適な材料の1つである。
【0026】更に、研磨、研削、エッチング、分割、剥離する方法により、第1の部材1のうち必要な層10を残して、不要な部分を第2の部材5の上から除去する。」

d.「【0048】次に、本発明のより好ましい実施形態について説明する。従来の単純なSOI基板を用いた時には実現し得ない、動作周波数10GHzの超高速・超高密度GSI(ギガ・スケール・インテグレーション)が可能となる。従来の単純なSOI基板をスターティング・マテリアルにして、集積回路を作製しても動作周波数が10GHzクラスの超高速・超高密度GSIを実現することは極めて難しい。動作周波数10GHzの超高速・超高密度GSI実現のためには、高品質なSOI層の形成に加えて、これまで問題にはならなかった配線を伝搬する信号の表皮効果、クロストークおよび動作中に発生する熱の問題を解決しなければならないからである。
【0049】まず、配線を伝搬する信号の表皮効果については、1GHz以上の超高速動作LSIを可能にする場合、信号が伝達する配線は、これまでのシリコン基板上に設けることに代えて、低抵抗金属上に絶縁膜を介して設けなければならない。なぜなら、従来通りの半導体基板上に絶縁膜を介して金属配線を形成する構造では、原理的に高速の信号波形の減衰が避けられず、基板がシリコンであると、著しい波形の崩れが生じるからである。
【0050】この問題を解決するには、基板の抵抗率を100Ω・cm以上の高抵抗にして基板中を電流が流れるのを防止するか、あるいは基板を低抵抗金属にして基板内に電流が流れてもエネルギ損失が無いようにするしかない。しかし、シリコン基板の抵抗率を極度に高くする方法では、隣接配線への結合容量が大きくなって隣接配線間の信号電圧リークが大きくなり、クロストークによる誤動作が極度に大きくなってしまう。したがって、この困難を克服する手段は、電気的な関係における配線とグラウンドの間からシリコン基板を排除した金属基板構造にすることである。基板裏面の金属がむき出しになる上記の基板構造を避けるには、基板裏面は従来通りシリコンにして、絶縁層に直接接触する部分を信号伝播に伴い発生する電磁波のスキンデプス(表皮深さ)δよりも厚い、導電率の大きい金属もしくはシリサイドのような金属化合物にする。具体的には、特定のデバイスに対し、良好な信号伝搬に必要とされる最高周波数成分に対応する電磁波のスキンデプスを最小膜厚として設定する。また、絶縁層に直接接触する部分に金属を用いずにシリコン層を用いる場合、このシリコン層の厚さは配線を伝搬するパルス電圧信号の第十次高調波のスキンデプスδより十分薄くし、かつそのシリコン層直下の金属またはシリサイドなどの導電性材料の厚さを基本波の表皮深さδより十分厚くしなければならない。できるだけ、導電性材料の絶縁膜と接触する最表面層において電磁波を遮蔽することが望ましいが、前述のようにその構造に留意することで、自由度の高い設計が可能となる。いずれにしても、配線を伝搬する信号の表皮効果を考慮してSOI基板をデザインすることによって、従来技術では克服できなかった配線伝搬信号の減衰の問題が解決される。」

e.「【0070】
【実施例】
(実施例1)図2を用いて本発明の実施例の詳細を説明する。まず、200μmの厚みを持ち、1×10^(18)cm^(-3)ボロンが添加された面方位(100)のP型単結晶シリコン基板100を用意し(a)、この表面をHF/H_(2)O/IPA(20?30wt%HF,10?30wt%IPA)溶液中で対向電極にp+型Si層を用いて陽極化成することにより、孔径数nm?10nm程度、孔のピッチ10nm?数十nmの多孔質シリコン層101を10?20μmの深さ形成する(b)。IPAを添加することにより、溶液の表面張力は低下し、濡れ性が向上するため数nm?10nm程度の孔が10?20nm程度の深さ形成ができる。
……(中略)……
【0073】ローディング後、水素雰囲気下で1000?1100℃の熱処理をすると、内部に多孔質シリコン層を残して表面だけ平坦な非多孔質の単結晶シリコン層が得られる(d)。H_(2)中に、SiH_(2)Cl_(2)やSiHCl_(3)を1?100ppm程度含めると、表面の非多孔質の単結晶シリコン層の平坦度は一層向上する。
【0074】次に、最表面が非多孔質した多孔質シリコン層101上にSiH_(2)Cl_(2)を用いて1000?1100℃、あるいはSiH_(4)を原料ガスにして900?1000℃で単結晶シリコン層102を0.5?2μm程度成長する(e)。数10Torr程度の減圧状態で成長すれば、成長温度は800?850℃まで低温化できる。
【0075】次に、スチーム酸化によりエピ成長シリコン表面を5nm?1μm程度酸化し、酸化膜103を生成する(f)。これは、2H_(2)+(1/2)O_(2)ガスを内面をPt/TiNコートしたリアクタ内に導入し、酸素を完全に反応させ生成したH_(2)+H_(2)O雰囲気において、300?400℃で行う。
【0076】この上に、プラズマCVDにより窒化シリコン絶縁膜104を0.02?1.5μm程度形成し(g)、連続してRu薄膜105を2周波励起プラズマプロセス装置で0.1?2μm程度スパッタリングにより成膜(h)、さらに抵抗率が例えば0.01?10kΩ・cm程度の不純物を極めて低濃度(1×10^(12)?1×10^(15)cm^(-3))に含むアモルファスシリコン層106を厚さ約2?200nm程度二周波励起プラズマプロセス装置を用いて堆積し(i)、この基板をデバイスウエハ107とした。
……(中略)……
【0080】次に、p+型単結晶シリコン基体100とは異なる別のSi基板108を用意し(j)、この上にRu薄膜109を0.01?1μm程度成膜し(k)、連続してNi薄膜110を1.5?150nm程度形成し(l)、この基板をハンドルウエハ111とした。
【0081】デバイスウエハ107のアモルファスシリコン層106とハンドルウエハ111のNi層110とが貼り合わせ界面になるように、両者を接触させて貼り合わせ、熱処理を行った。
……(中略)……
【0084】上記熱処理は、Ar雰囲気中、処理温度500℃に設定し、実処理ガスによる熱処理時間は1時間である。本熱処理によるシリサイド反応によりアモルファスシリコン106はすべてシリサイド層112になり両ウエハが接着し、貼り合わせウエハ113が出来上がる(m)。
【0085】次に、デバイスウエハ側p+基板100を多孔質層101近傍まで、グラインダー等で研削し(n)、最後に上記貼り合わせ基体113を選択エッチング溶液中に浸し、多孔質部分(多孔質シリコン基体)101のみをHF/HNO_(3)/CH_(3)COOH/H_(2)O溶液等で選択的エッチングし、さらにPACE(Plasma Assisted Chemical Ethiching)等による表面平坦化を行いSOI基板114が完成する(o)。」

f.「【0087】次に、図6に示すように、この金属基板SOIウエハ上に、MOSトランジスタを試作した。まず、SiO_(2)の絶縁膜を形成し、続いてTaを0.5μm形成した後、ゲート電極のパターニング、ソース・ドレインのパターニングを行い、イオン注入によりソース・ドレイン層を形成した。なお、本実施例では、イオン注入によるソース・ドレイン領域の形成に際しTaゲートをマスクとし、自己整合的に行った。イオン注入層のアニールは、450℃の低温で行った。また、イオン注入装置は、到達真空度10^(-10)Torrであり、イオンビームによるチャンバ金属のスパッタリングによる汚染が十分低くなるように設計されたウルトラクリーン化イオン注入装置を用いた。n型MOSトランジスタのソース503が直下の反応抑止層(Ru層)501と接続され、またp型MOSトランジスタのソース502が直上のメタル(Cu)配線504と接続された、CMOS構成のインバータ回路を試作した。Ruの反応抑止層付き基板は接地されており、また、Cu配線504は、電源電圧と接続されている。今回、このCu配線504の面積は、チップ面積の2/3とした。
【0088】図7は常温での金属基板上に絶縁膜を介して設けられた配線上を伝搬するパルス波形の劣化を示す。シリコン基板で発生する信号波形の減衰は、金属基板を用いるとほとんど起こらない。つまり、金属配線を絶縁膜を介して金属基板に設けることにより、信号の伝搬方向に向いた電界成分が無くなり、伝搬方向に垂直な成分のみとなり波形の減衰が回避される。……(以下、省略)」

g.図6には、Si基板500の上に、反応抑止層、反応層、反応抑止層、Si_(3)N_(4)層及びSiO_(2)層からなる絶縁層がこの順番で形成され、前記絶縁層上にnMOS及びpMOSが設けられるとともに、前記絶縁層の上方に3層のメタル配線が設けられることが、図示されている。そして、同図には、前記nMOSのソース503が最下層のメタル配線V_(SS)により上層の反応抑止層に接続され、前記nMOS及びpMOSのドレインが中間層のメタル配線V_(OUT)に接続され、前記pMOSのソース502が最上層のメタル配線V_(DD)に接続されていること、前記最下層のメタル配線V_(SS)と同じ高さにメタル配線が半導体層上に設けられていることも図示されている。

3-2-2.引用発明2
前項のa?gの記載を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「シリコン基板の上に、ルテニウムからなる第2の反応抑止層、シリサイドからなる反応層、ルテニウムからなる第1の反応抑止層、窒化シリコン絶縁膜及びシリコン酸化膜からなる絶縁層、単結晶シリコン層が、この順番で積層された金属基板SOIウェハであって、
前記絶縁層に直接接触する前記第1の反応抑止層の厚さを、信号伝播に伴い発生する電磁波のスキンデプス(表皮深さ)よりも厚くしたことにより、
前記単結晶シリコン層を用いて形成されたトランジスタのソース及びドレインに接続される多層のメタル配線上を伝搬するパルス波形が劣化せず、シリコン基板で発生する信号波形の減衰はほとんど起こらないことを特徴とする金属基板SOIウェハ。」

3-3.引用例3?5
3-3-1.引用例3の記載事項
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、当審の拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開平10-294316号公報(以下「引用例3」という。)には、「半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図1?図2とともに、以下の事項が記載されている。

a.「【0012】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本発明の第1の実施形態を図1および図2の製造工程断面図を参照して説明する。先ず、図1(A)のように、半導体基板1上に第一層間絶縁膜11をCVD法などにより堆積し、この第一層間絶縁膜11を化学的機械的研磨(CMP)法により平坦化を行った後、半導体基板1上の半導体素子に接続するコンタクト12と第一層配線13を形成する。ここで、例えば、第一層間絶縁膜11としてシリコン酸化膜を用い、また、コンタクト12の埋め込み金属はCVDにより成長したタングステンを用いる。なお、このとき、ウェハ最外周部では、第一層配線13が残存されるように構成する。これは、次工程において説明するように、第一層配線13間を第一層炭素膜14で埋めるが、このときウェハ最外周部に第一層炭素膜14が露出されると、フォトレジスト剥離時に最外周部の第一層炭素膜14がエッチングされ、フォトレジスト剥離工程以後の装置のクランプ等により、上層の膜が剥がれる可能性があるからである。
……(中略)……
【0016】しかる後、図1(F)のように、第二層配線23を形成する。この第二層配線23の形成後、第一層配線13の形成後と同様に、炭素膜の成膜工程と、炭素膜のCMP工程と、層間絶縁膜の成膜工程と、スルーホール形成工程と、配線の形成工程とを複数回繰り返すことにより、上層の配線を形成する。図2(A)は、例えば第三層炭素膜34まで形成し、第四層間絶縁膜41を成膜した後、プラズマSiN膜42を成膜した断面構造である。なお、同図において、31は第三層間絶縁膜、32は第二スルーホール、33は第三層配線である。そして、その上で図2(B)に示すように、フォトリソグラフイ技術を利用して、各層の配線13,23,33に重ならない位置に、炭素膜除去用ホール43を開口する。…(中略)…層間絶縁膜エッチングと炭素膜エッチングとを繰り返し行うことにより、第一層炭素膜14まで達する炭素膜除去用ホール43を形成する。
……(中略)……
【0020】以上のように、炭素膜除去用ホール43を開口した後、炭素膜が等方性エッチングとなるよう、基板バイアスを印加しない状態で酸素プラズマまたは水素プラズマに曝すことにより、図2(C)のように、酸素ラジカルあるいは水素ラジカルによって各層の炭素膜14,24,34がアツシング除去され、配線間の炭素膜は取り除かれ、配線間が空隙19により絶縁された配線構造が得られる。したがって、配線間容量が低減された多層配線構造の製造が実現される。また、この多層配線構造では、各層の配線13,23,33に接してそれぞれ層間絶縁膜11,21,31,41が存在しており、各層の配線はこれらの層間絶縁膜によって積層状態に保持されているため、配線が撓む等の形状変化が生じることはなく、特に下層あるいは上層の配線と接触することがなく、信頼性の高い配線構造が得られる。」

b.「【0033】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、同層の配線間は誘電率の小さい空気で絶縁されるので半導体装置の動作速度が向上できる一方で、各配線は層間絶縁膜によって上下を挟まれているため、配線の形状変化が防止されて配線の撓みによる配線間容量の変動や配線相互間の短絡の発生が防止でき、しかも回路動作による配線の発熱を層間絶縁膜から放熱して配線の温度上昇を抑え、配線温度の上昇による配線の断線を抑えることができるので、半導体装置の信頼性を高めることができる。また、本発明の製造方法では、層間絶縁膜、配線と共に炭素系膜を積層形成し、その後に炭素系膜をエッチング除去して多層配線構造を形成するので、同層の配線が空気層により絶縁された構成を容易に製造することができ、動作速度が早く、信頼性の高い半導体装置の製造が可能となる。」

3-3-2.引用例4の記載事項
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、当審の拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開平08-250593号公報(以下「引用例4」という。)には、「半導体デバイスの製造方法」(発明の名称)に関して、図1?図2とともに、以下の事項が記載されている。

a.「【0007】
【実施例】本発明を実施例及び図面に基づき以下に詳述する。
【0008】図1には誘電体により互いに絶縁されている多数の接触部、金属化部及び導体路2がデバイスの表面上にある領域1内にハッチングで示されている。この図示されている実施例では2個のバイポーラトランジスタが基板の表面上にあり、それらは互いにかつ他のデバイスと組み合わされている。従ってここに記載する実施例では半導体物質の異なる領域上に種々の接触部が設けられている。それらの接触部上にパターン化されている第1の金属化面3が施されている。その上にそれぞれ金属から成る垂直な接続部を有する別の金属化面4、5が設けられている。金属から成るこのパターン内の導体路及び導電接続部は金属化部が埋め込まれている誘電体により互いに電気的に絶縁されている。誘電体で平坦化されている領域1の表面上に例えばシリコン上のデバイスの場合好適には窒化ケイ素により形成されているパッシベーション層6が施されている。更に導体路の静電容量を低減させるために領域1内の誘電体は空間的に制限して等方性にエッチングすることにより部分的に除去され、この導体路間の間隙は空気又は浸漬ガスで満たされる。このためでパッシベーション層6内に開口7がエッチングされるが、その際これらの開口は、エッチングにより形成された空洞を再び満すことなくその下にある誘電体のエッチングを引続き実施し、開口を引続きもう1つのパッシベーション層で閉鎖することのできるような数及び大きさに形成される。開口7は金属化部の領域内に配置されていると有利である。図1の中央の開口のようにそこにデバイスが集積されていない場合にも導体路間の静電容量を低下させるために特に重要な領域の上方に開口が配置されると有利である。開口7の下にある空洞のエッチングは等方性に導体路及びパッシベーション層6に対して選択的に行われる。このパッシベーション層6の材料は、誘電体のエッチングの際にパッシベーション層の材料をできるだけ腐食されないものが選択される。エッチングは、例えば領域1にSiO_(2)をまたパッシベーション層6に窒化物を使用する場合、例えばHFガスにより又はHNO_(3)の添加により行われる。導体路に対する誘電体の選択的エッチングの可能性を改善するために、導体路はタングステンから成ると有利である。
【0009】導体路及び接触部間にはこのようにして図1に破線により囲まれている領域内に空洞が形成される。エッチング作用を時間的に制限することによりこれらの空洞の寸法は大きくなり過ぎることのないように保証され、その結果空洞間には導体路を機械的に安定化するための誘電体を残すのに十分に大きな領域が残る。空洞をこのようにエッチングした後図2に示されているようにデバイスをもう1つのパッシベーション層8で覆い、それにより第1のパッシベーション層6内の開口7は空洞の内部にそれほど析出を生じることなく閉鎖される。この析出は拡散を制御しながらまた後の浸漬ガスとして閉鎖された空洞を満たす担体ガス中で行われると有利である。更に集積回路の製造プロセスは外部の電気端子(ボンド線)用の接続面の開口により続けることができる。」

b.「【0011】本発明によるデバイスの形態は実現化される能動的構成要素の種類及び接触部及び導体路のパターンに依存するものではないので、導体路間の静電容量を低減するための上記の措置は半導体デバイスにおいて広範囲に使用することができる。このことからデバイスの機能の重要な改良が極めて僅かな付加的製造コストで達成される。更に本発明は、金属製導体路及び接触部に限定されるものではなく、本発明による静電容量の低減は導電性にドープされた半導体材料、例えばポリシリコンから成る導体路にも適用可能である。本発明によるデバイスでは導体路は唯一つの金属化面内にも或は種々の金属化面にも設けることができる。1つの空洞内には異なる金属化面に属する導体路が設けられてもよい。或は1つの空洞内に同じ金属化面の導体路の一部のみを設けることも可能である。」

3-3-3.引用例5の記載事項
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、当審の拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開平02-220464号公報(以下「引用例5」という。)には、「半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、第1図?第4図とともに、以下の事項が記載されている。

a.「(作 用)
本発明によれば、配線支持用柱に熱伝導性及び放熱作用の高い金属を主とする材料を用い、しかもその径を一部大きくして表面積を広く稼いでいるため、中空配線に発生した通電時の熱を効果的に逃がすことができる。
さらに、種々の異なる高さの配線支持用柱を、夫々の配線形成工程にて分割して形成するために、この柱の高さに拘わることなく整った形状の柱を得ることができる。」(第2頁下右欄第17行?第3頁上左欄第6行)

b.「(実施例)
本発明の詳細を実施例によって説明する。
第1図は本発明の第1の実施例に係るGaAsICを製造工程順に示した断面図である。
先ず、半絶縁性GaAs基板(1)表面に拡散層(図示せず)を設け、この上に電極(2)を形成する事によって、素子例えばショットキーゲート型電界効果トランジスタを完成させる。その後全面に例えばSiO_(2)膜を堆積し、所望の箇所に開孔設けて第1層間絶縁膜(5)を形成する。」(第3頁上左欄第7?16行)

c.「次に本発明の第2の実施例を第2図に沿って説明する。尚、先の実施例と同一部分の説明は以後省略した。
先ず、先の実施例と同様の工程を経て、第1層間絶縁膜(5)を設けた後、所望箇所を開孔し、選択CVD法によって、この開孔にタングステンの支持用柱(4_(1))を形成する。この際絶縁膜(5)の高さより多少高めにタングステンを成長させる事によって、支持用柱(4_(1))は、頭部に笠ができる(第2図(a))。
次いで、電極(2)上の第1層間絶縁膜(5)に開孔を形成した後Alを全面に被着し、これを所望の配線形状にエツチングで加工して第1層配線(3)を形成する。この後全面にSiO_(2)膜(6_(1))を堆積し、この上にフォトレジスト(6_(2))を塗布するこれにより表面の段差はほぼなくなる(第2図(b))。
さらに、エッチバック法によりこのレジスト(6_(2))をエツチングしてゆき、SiO_(2)膜(6_(1))を削りこれを平坦化した所で止め、第2層間絶縁膜(6_(3))を形成する。この後第2図(a)の工程と同様にして支持用柱(8_(1))を形成する(第2図(C))。
しかる後、第1層配線(3)上の第2層間絶縁膜(6_(3))に開孔を形成し、第2図(b)の工程と同様にして第2層配線(7)を形成する(第2図(d))。
その後、第2図(b)及び第2図(c)と同様の工程を経て、平坦化した第3層間絶縁膜(9)を形成する。
次いでこの支持用柱(8_(1))上の第3層間絶縁膜(9)に開孔を形成して、この開孔にタングステンの支持用柱(11_(1))を選択CVD法で形成する。この後、再び第2層配線(7)上の所定の第3層間絶縁膜(9)に開孔を設け、さらに、全面にAlを被着してこれを配線形状にエツチングで加工することにより第3層配線(l0)と、これが延在して第2層配線(7)に接触するコンタクト部(11_(2))を夫々形成する(第2図(e))。
最後にウェットエツチングによって第1、第2図及び第3層間絶縁膜(5)、(6_(3))、(9)を除去し、3層構造の中空配線が完成する(第2図(f))。
……(中略)……
これは先に説明した第2の実施例中でのコンタクト部図(4_(2))、(8_(2))、(11_(2))に相当する部分を支持用柱と同じ工程でしかも同じ選択CVD法で形成するものである。」(第3頁下左欄第18行?第4頁上右欄第13行)

d.「(発明の効果)
上記構成によれば、高い信頼性によって配線を支持できしかも放熱性に適した配線支持用柱を備えた半導体装置を容易に形成できる。」(第4頁下右欄第6?9行)

3-3-4.引用例3?5に記載された技術
ア 前記「3-3-1.引用例3の記載事項」のa及びb、前記「3-3-2.引用例4の記載事項」のa及びb、前記「3-3-3.引用例5の記載事項」のa?dの記載を総合すると、引用例3?5には、次の技術事項が記載されている。

「半導体基板上に、層間材料層と、該層間材料層中にあって上下の配線層を接続する導電材料からなるコンタクト部材と、導電材料からなる前記配線層を、それぞれ、複数積層し、
その後、アッシング、ドライエッチングないしウェットエッチング等の処理を施すことにより前記層間材料層を除去して、
前記配線層間が空洞により絶縁された多層構造の中空配線を得る、
積層配線の製造方法。」

イ 上記「製造方法」は、半導体装置の製造技術において周知技術であったと認められる。

ウ 前記「3-3-1.引用例3の記載事項」のbには「同層の配線間は誘電率の小さい空気で絶縁されるので半導体装置の動作速度が向上できる一方で、各配線は層間絶縁膜によって上下を挟まれているため、配線の形状変化が防止されて配線の撓みによる配線間容量の変動や配線相互間の短絡の発生が防止でき、しかも回路動作による配線の発熱を層間絶縁膜から放熱して配線の温度上昇を抑え、配線温度の上昇による配線の断線を抑えることができるので、半導体装置の信頼性を高めることができる。」と、前記「3-3-2.引用例4の記載事項」のbには「本発明によるデバイスの形態は実現化される能動的構成要素の種類及び接触部及び導体路のパターンに依存するものではないので、導体路間の静電容量を低減するための上記の措置は半導体デバイスにおいて広範囲に使用することができる。」と、前記「3-3-3.引用例5の記載事項」のdには「上記構成によれば、高い信頼性によって配線を支持できしかも放熱性に適した配線支持用柱を備えた半導体装置を容易に形成できる。」と、記載されている。

エ したがって、上記アの「各配線層間が空洞により絶縁された多層構造の中空配線」からなる「積層配線」構造を採用することにより、前記「空洞」を満たす空気等の気体は前記「層間材料」より誘電率が小さいから配線間の静電容量が減少し、半導体装置の動作速度が向上すること、及び、配線層からの放熱性が向上すること、という効果を奏するものである。
これらのことは、半導体装置の製造技術において周知の事項であったと認められる。

4.対比
4-1.本願発明と引用発明1との対比
本願発明と、引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「トランジスタ、抵抗体、コンデンサ等」の「各電気素子間を結び電気信号を伝達する役割を有する低抵抗配線」は、本願発明の「複数のトランジスタの端子間を多層に構成された導電性材料からなる配線」に相当する。
したがって、引用発明1の「一つの基板上にトランジスタ、抵抗体、コンデンサ等の電気素子を高密度に配置して集積化し、各電気素子間を結び電気信号を伝達する役割を有する低抵抗配線を積層し」た「多層配線構造を有する半導体装置」は、本願発明の「基板上に複数のトランジスタを配置し、前記複数個のトランジスタの端子間を多層に構成された導電性材料からなる配線により接続することにより機能を発現する集積回路」に相当する。

イ 引用発明1の「一つの基板」と、本願発明の「埋込み絶縁膜に直接もしくは低抵抗半導体層を介して隣接する金属層を含むSOI基板」とは、基板である点で共通する。

ウ 引用発明1において、「各層の前記低抵抗配線」が「SiO_(2)、ポリイミド樹脂、BPSG等からな」る「層間絶縁物」で「絶縁」されて「電気的に分離」ていることと、本願発明において、「前記多層に構成された配線間が気体により分離され」ていることとは、多層に構成された配線間が分離されている点で共通する。

エ 引用発明1の、「前記低抵抗配線間」に「設けられた貫通孔」が「Cu」という「導電物」で「充填されたスルーホール」、及び、「前記低抵抗配線間」に「設けられた貫通孔」が「熱伝導率の高いAlNを用い」た「第2の絶縁物で充填されたダミーホール」は、それぞれ、本願発明の、「前記多層に構成された配線間」に備えた「前記多層に構成された配線間を接続」する「ポリシリコン、タングステン、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金を主成分とする材料、あるいはそれらの組み合わせからな」る「導電性材料からなる電気ビア」、及び、「前記多層に構成された配線間」に備えた「窒化アルミニウムまたは窒化シリコンを主成分とする材料、あるいはそれらの組み合わせからな」る「絶縁性材料からなる熱ビア」に相当する。

オ 引用発明1の「各層の前記低抵抗配線を層間絶縁物で絶縁する多層配線構造」における「層間絶縁物」は、「その上下に位置する前記低抵抗配線を電気的に分離」している。したがって、引用発明1は、「各層の前記低抵抗配線を層間絶縁物で絶縁」して「電気的に分離」している「多層配線構造」を有している。
引用発明1の、この「各層の前記低抵抗配線を層間絶縁物で絶縁」して「電気的に分離」している「多層配線構造」と、本願発明の「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された構造」である「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」とは、多層に構成された配線間が分離される構造である点で共通する。

4-2.一致点及び相違点
前項のア?エから、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致するとともに、以下の各点で相違する。
(一致点)
「基板上に複数のトランジスタを配置し、前記複数個のトランジスタの端子間を多層に構成された導電性材料からなる配線により接続することにより機能を発現する集積回路において、
前記多層に構成された配線間が分離され、
前記多層に構成された配線間に、前記多層に構成された配線間を接続する導電性材料からなる電気ビアと、絶縁性材料からなる熱ビアを備え、
前記熱ビアが窒化アルミニウムまたは窒化シリコンを主成分とする材料、あるいはそれらの組み合わせからなり、
前記電気ビアが、ポリシリコン、タングステン、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金を主成分とする材料、あるいはそれらの組み合わせからなり、
前記集積回路の前記多層に構成された配線間が分離される構造を有する、
ことを特徴とする集積回路。」

(相違点1)
本願発明の「前記基板」は「埋込み絶縁膜に直接もしくは低抵抗半導体層を介して隣接する金属層を含むSOI基板」であり、「前記埋込み絶縁膜に隣接して設けられた金属層の厚さが、前記多層に構成された配線を伝搬する電気信号の表皮厚さより厚い」のに対して、引用発明1は、基板を有するものの、どのような基板であるか不明である点。

(相違点2)
本願発明は、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された構造」である「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」を有するのに対して、引用発明1は、「各層の前記低抵抗配線を層間絶縁物で絶縁」して「電気的に分離」している「多層配線構造」を有する点。

(相違点3)
本願発明は「ゲート遅延、配線遅延、及び基板起因の遅延を全て極小にした」のに対して、引用発明1においては、そのような作用効果を有するか不明である点。

5.当審の判断
5-1.相違点1について
ア 引用例1には、前記「3-1-1.引用例1の記載事項」の「イ 発明の背景」のbで摘記したように「半導体装置の配線には、例えばクロック等の高周波パルス信号(電流)が流れる。しかるに、このパルスは、各種素子のさらなる高速動作を実現するために、より一層の高周波化が望まれている。」と記載されている。
すなわち、「各種素子のさらなる高速動作を実現する」ために、「クロック等の高周波パルス信号(電流)」が「半導体装置の配線」により少ない減衰量で「流れ」ることで、「より一層の高周波化」を図ることは、半導体装置に共通する技術課題であり、したがって、引用発明1の「半導体装置」においても、当然に求められる技術課題である。

イ 引用発明2の「金属基板SOIウェハ」は「単結晶シリコン層を用いて形成されたトランジスタのソース及びドレインに接続される多層のメタル配線上を伝搬するパルス波形が劣化せず、シリコン基板で発生する信号波形の減衰はほとんど起こらない」という機能を有している。
ところで、引用発明2の「金属基板SOIウェハ」において、「窒化シリコン絶縁膜及びシリコン酸化膜からなる絶縁層」は、前記「金属基板SOIウェハ」の表層の「単結晶シリコン層」の下に位置するから、埋め込み「絶縁層」と言い得る層である。

ウ してみれば、「一つの基板上にトランジスタ、抵抗体、コンデンサ等の電気素子を高密度に配置して集積化し、各電気素子間を結び電気信号を伝達する役割を有する低抵抗配線を積層」した「多層配線構造」を有する引用発明1の「半導体装置」においても、クロック等の高周波パルス信号がより少ない減衰量で「半導体装置」の「低抵抗配線」に流れるように、引用発明1の「基板」として、引用発明2の「シリコン基板の上に、ルテニウムからなる第2の反応抑止層、シリサイドからなる反応層、ルテニウムからなる第1の反応抑止層、窒化シリコン絶縁膜及びシリコン酸化膜からなる絶縁層、単結晶シリコン層が、この順番で積層され」て、「窒化シリコン絶縁膜及びシリコン酸化膜からなる」前記埋め込み「絶縁層」に「ルテニウム」という金属からなる「第1の反応抑止層」が直接接触する構造を有し、前記埋め込み「絶縁層」に直接接触する前記「第1の反応抑止層の厚さ」を「信号伝播に伴い発生する電磁波のスキンデプス(表皮深さ)よりも厚くし」た「金属基板SOIウェハ」を用いることは、当業者であれば、容易に想到し得たものと認められる。

5-2.相違点2について
5-2-1.本願発明の技術的範囲
ア 本願発明の「前記集積回路の前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造は、ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された構造であり」という発明特定事項は、物の発明である本願発明の「集積回路」における「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」という物の特徴を、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法で特定しようとするものである。
すなわち、本願発明は、いわゆる、プロダクト・バイ・プロセス・クレームで発明の技術的特徴を特定した発明である。

イ ところで、平成11年(行ケ)第437号の判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて次のように判示している。

・「本件発明が,製造方法の発明ではなく,物の発明であることは,上記特許請求の範囲の記載から明らかであるから,本件発明の上記特許請求の範囲は,物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含するという意味で,広い意味でのいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するものである。そして,本件発明が物の発明である以上,本件製法要件は,物の製造方法の特許発明の要件として規定されたものではなく,光ディスク用ポリカーボネート成形材料という物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有し得ない。そうである以上,本件発明の特許要件を考えるに当たっては,本件製法要件についても,果たしてそれが本件発明の対象である物の構成を特定した要件としてどのような意味を有するかを検討する必要はあるものの,物の製造方法自体としてその特許性を検討する必要はない。発明の対象を物を製造する方法としないで物自体として特許を得ようとする者は,本来なら,発明の対象となる物の構成を直接的に特定するべきなのであり,それにもかかわらず,プロダクト・バイ・プロセス・クレームという形による特定が認められるのは,発明の対象となる物の構成を,製造方法と無関係に,直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切(例えば,不可能でも困難でもないものの,理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるときは,その物の製造方法によって物自体を特定することに,例外として合理性が認められるがゆえである,というべきであるから,このような発明についてその特許要件となる新規性あるいは進歩性を判断する場合においては,当該製法要件については,発明の対象となる物の構成を特定するための要件として,どのような意味を有するかという観点から検討して,これを判断する必要はあるものの,それ以上に,その製造方法自体としての新規性あるいは進歩性等を検討する必要はないのである。
本件発明は,光ディスク用ポリカーボネート成形材料において,含有される重合溶媒であるハロゲン化炭化水素が記録膜を腐食させる原因となっていることを見いだし,同成形材料中に含有される重合溶媒であるハロゲン化炭化水素を1ppm以下とするとの構成により,記録膜の腐食による劣化,破壊が生じにくいように改善したものであって,本件製法要件は,含有されるハロゲン化炭化水素が1ppm以下であるとのポリカーボネート成形材料を製造するための製造方法であるものの,このこと以外に,本件発明の対象であるポリカーボネート成形材料の構造ないし性質,性状その他の構成自体を特定するための要件としての特段の意味を有するものであると解することはできない。」

ウ そこで、平成11年(行ケ)第437号の判決に照らして、まず、本願の特許請求の範囲の請求項1において、「発明の対象となる物の構成を,製造方法と無関係に,直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切」であるとの特段の事情が存在したか否かを検討する。

エ 前記アの製造方法につき、本願明細書には、
・「上記の工程により金属配線間にBPSGが存在する通常の多層配線が形成される。この後、少なくとも水分量を1ppm以下に低減したN_(2)やArなどのガス中に無水のHFガスを1?7%添加したガスにより、配線間のBPSGのみを選択的に取り除く。発明者等は、SiO_(2)のエッチングは中性のHFではエッチングされず、HF_(2)^(-)イオンが存在して初めてエッチングされることをつきとめた。すなわち、
SiO_(2)+3HF_(2)^(-)+H^(+)=SiF_(6)^(--)+2H_(2)O (4)
である。
HF_(2)^(-)イオンは、HF分子を超純水中に溶解するとHF分子が一部H^(-)とF^(-)に解離し、F^(-)イオンは大量に存在するHF分子と水素結合により結合することにより発生する。したがって、フッ酸水溶液はSiO_(2)をエッチングするのである。しかし、水の存在しない100%のHF溶液(-83℃から+19.5℃まで液体で存在)中ではSiO_(2)はエッチングされない。」、
・「B_(2)O_(3)+8HF =2BF_(4)^(-)+3H_(2)O+2H^(+) (5)
上記の式から明らかなように、BPSG、BSGがHFと反応すると水分(H_(2)O)が発生する。ウェーハの温度が低いと、発生した水分はウェーハ表面に付着し、凝縮して水滴を作る。結果として、HFが水滴中に溶解してフッ酸溶液になり、SiO_(2)をエッチングする。反応により発生した水分をウェーハ表面に吸着させない処理が重要である。N_(2)やAr中に5%程度のHFガスを混合したガス雰囲気で、120?140℃の温度で処理すると、発生した水分は表面に吸着せず除去されて、SiO_(2)は全くエッチングされず層間絶縁膜のBPSG膜だけが選択的にエッチングされる。」、
と記載されている。
したがって、本願明細書には、「SiO_(2)のエッチングは中性のHFではエッチングされず、HF_(2)^(-)イオンが存在して初めてエッチングされる」という事実を「発明者等」が「つきとめ」、この事実に基づいて、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜」すなわち、BSGまたはBPSGをエッチングするためのエッチングガスから水を排除するとともに、エッチング工程中に生じる水を除去すれば、前記「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜」を「SiO_(2)」に対して完全に選択的にエッチングできることを発明した、ことが記載されている。

オ これに対して、本願発明は、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件」では「選択的に除去され」ない材料を特定していない。
したがって、本願発明の「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法は、単に「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」を得るための製造方法を記載したものという以外には、特段の意味を有するものとは解することができない。
そして、本願発明の「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」という物の構造に関する記載によって、当該「構造」の技術的特徴は十分に特定されていると認められる。
よって、前記「選択的に除去され」ない材料の特定がない本願発明の「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」を、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法によって特定する外ない、との特段の事情が存在するとは認められない。

カ そうすると、本願発明の「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造は、ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された構造」であるという発明特定事項の技術的範囲は、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法で最終的に製造される、「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」自体を意味している解釈すべきである。

5-2-2.相違点2についての検討
ア 引用例1には、前記「3-1-1.引用例1の記載事項」の「イ 発明の背景」において、cで摘記したように、「発明が解決しようとする課題」として「本発明は、配線で発生した熱をすばやく伝達することができ、かつ、配線の有する容量が小さな層間絶縁膜を形成することにより、高速で、かつ、信頼性の高い半導体装置を提供することを目的とする。」と記載されている。

イ 前記「3-3-4.引用例3?5に記載された技術」の項で指摘したように、
「半導体基板上に、層間材料層と、該層間材料層中にあって上下の配線層を接続する導電材料からなるコンタクト部材と、導電材料からなる前記配線層を、それぞれ、複数積層し、
その後、アッシング、ドライエッチングないしウェットエッチング等の処理を施すことにより前記層間材料層を除去して、
前記配線層間が空洞により絶縁された多層構造の中空配線を得る、
積層配線の製造方法。」
は、半導体装置の製造技術において周知技術であり、そして、この「製造方法」で製造された「各配線層間が空洞により絶縁された多層構造の中空配線」は、前記「空洞」を満たす空気等の気体は前記「層間材料」より誘電率が小さいから配線間の静電容量が減少し、そのため半導体装置の動作速度が向上し、かつ、配線層からの放熱性が向上する、という効果を奏することは周知の事項であった。

ウ 一方、引用例1には、前記「3-1-1.引用例1の記載事項」の「オ 実施例」において、jで摘記したように、「実施例1?5では、層間絶縁膜として、SiO_(2)、ポリイミド樹脂について述べたが、本技術はどんな絶縁物が使われる時にも有効であると判断した。すなわち、実質的な層間絶縁物の誘電率を小さくして高速動作を保証し、かつ、窒化アルミニウムのような熱伝導率の高い絶縁物で配線間の要所要所にDHを導入することにより、配線の温度上昇を抑えて配線の信頼性を向上させることが可能なためである。」と記載されている。すなわち、「誘電率を小さくして高速動作を保証」でき、「配線間の要所要所にDHを導入する」ことができる「層間絶縁物」であれば、「どんな絶縁物」でも使うことができることが、引用例1には記載ないし示唆されている。
そして、積層配線の層間絶縁物として空気等の気体を用いることは、上記のとおり、周知技術であり、さらに、前記空気等の気体の誘電率が、SiO_(2)やポリイミド樹脂やBPSGのそれより小さいことは、技術常識である。

エ したがって、引用発明1において、「低抵抗配線」で発生した熱を、よりすばやく伝達することができ、かつ、前記「低抵抗配線」の有する容量より小さくして、より高速で、かつ、信頼性がより高い「半導体装置」が得られるように、「上下に位置する前記低抵抗配線」を、「SiO_(2)、ポリイミド樹脂、BPSG等からな」る「層間絶縁物」で「電気的に分離」することに代えて、周知技術の「製造方法」で製造された「各配線層間が空洞により絶縁された多層構造の中空配線」ように、前記「空洞」を満たす空気等の気体で「電気的に分離」することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
よって、相違点2は、周知技術を参酌すれば、引用発明1から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれるものである。

5-2-3.特段の事情が存在するとしたときの検討
ア 以上で検討したように、本願発明の「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」は、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法によって特定する外ないとの特段の事情が存在しないものであり、そうすると、相違点2は、周知技術を参酌すれば、引用発明1から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれるものである。

しかしながら、仮に、前記の特段の事情が存在するとして、相違点2について検討する。
この場合、本願発明の「前記集積回路」の「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」との発明特定事項の技術的範囲は、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法によって製造された「構造」に限定されると解するべきである。

イ ところで、本願発明において、上記製造方法により「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」を形成したのは、前記「5-2-1.本願発明の技術的範囲」のウで指摘したとおり、「金属配線間にBPSGが存在する通常の多層配線」から、「少なくとも水分量を1ppm以下に低減したN_(2)やArなどのガス中に無水のHFガスを1?7%添加したガスにより、配線間のBPSGのみを選択的に取り除く」に際して、「SiO_(2)のエッチング」が行われないためであることが本願明細書に記載されている。
しかしながら、本願発明の上記製造方法について、本願明細書には、前記前記「5-2-1.本願発明の技術的範囲」のウで指摘した一つの実施例が記載されているだけであって、この実施例の効果を定量的に裏付ける実験結果は記載されていない。
さらに、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「選択的に除去」しない材料である「SiO_(2)」、すなわち、不純物が添加されていないシリコン酸化膜については、何ら記載されていない。
以上から、「前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去」するための、フッ化水素を体積で「1?7%」含み、ガス中の水分濃度が「1ppm以下」であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が「120℃?140℃の範囲」という本願発明の「条件」における各数値範囲に、臨界的な意義があるとは認められないばかりでなく、不純物が添加されていないシリコン酸化膜のエッチングが行われずに「前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去」するという点で技術的な意義があるとは認められない。

ウ さて、半導体装置の技術分野において、金属材料からなる配線層が多層に積層された配線構造を半導体装置内に形成するに際して、前記金属材料からなる配線とシリコン酸化膜とで囲まれた領域を空洞にするため、前記領域に存在したBPSG層(すなわち、ホウ素と燐を含むシリコン酸化層)をふっ酸(HF)を含むガスに晒すことにより、前記BPSG層のみを、前記金属材料からなる配線層及び前記シリコン酸化膜に対して選択的に除去することは、以下に示す周知例1?2に記載され、周知技術にすぎない。
また、BPSG層をふっ酸(HF)を含むガスに晒すことにより、前記BPSG層のみを、当該BPSG層の周囲に位置する金属材料からなる配線層及び前記シリコン酸化膜に対して選択的に除去する技術において、前記BPSG層であるBPSG膜28を、40℃?100℃の範囲で加熱しながらふっ酸(HF)蒸気に晒して前記BPSG膜28をエッチングして除去すると、前記シリコン酸化膜である第2のSiO_(2) 膜27や、前記金属材料からなる配線層の一部となるTi膜30、TiN膜31、W膜32は、前記ふっ酸蒸気ではほとんどエッチングされないので、前記BPSG膜28のみが選択的に除去されることは、以下に示す周知例3に記載され、周知の事項である。
そして、前記BPSG層をふっ酸(HF)を含むガスに晒すことにより、前記BPSG層のみを、当該BPSG層の周囲に位置する他の膜に対して選択的に除去する際、前記ふっ酸(HF)を含むガス中の水分量を削減することは、以下に示す周知例4?6に記載され、周知技術にすぎない。

エ してみれば、前記「5-2-2.相違点2についての検討」のエで述べたように、引用発明1の「上下に位置する前記低抵抗配線」を、「SiO_(2)、ポリイミド樹脂、BPSG等からな」る「層間絶縁物」で「電気的に分離」することに代えて、前記「層間絶縁物」を除去した後の空洞における空気等の気体で「電気的に分離」するに際して、前記除去する「層間絶縁物」として、ふっ酸(HF)を含むガスに晒すことにより「Al、Cr、W、Mo、Cu」等の金属材料からなる「低抵抗配線」に対して選択的に除去することが可能な「BPSG」を採用し、この、ふっ酸(HF)を含むガスに晒すことにより「BPSG」層を選択的に除去する処理を、前記「BPSG」層を加熱しながら行うことは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
このとき、前記ふっ酸(HF)を含むガス中に含まれる、ふっ酸(HF)の量を「1?7%」にすること、水分濃度を「1ppm以下」にすることは、前記ふっ酸(HF)を含むガスが必要とする「BPSG」層の選択的除去性能に応じて、当業者が適宜に設定し得たものと認められる。
また、「BPSG」層を加熱しながら前記「BPSG」層の除去を行うために、前記「BPSG」層が設けられた「基板」を「120℃?140℃」に加熱することは、前記「基板」に加えた熱の前記「BPSG」層への伝わりやすさや加熱時間、前記除去工程中における水分量の削減等を考慮して、当業者が適宜に設定し得たものと認められる。

オ したがって、本願発明の「前記多層に構成された配線間が気体により分離される構造」は、「ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜で形成した後、フッ化水素を体積で1?7%含み、ガス中の水分濃度が1ppm以下であるフッ化水素を含むガスにより、ウェーハ温度が120℃?140℃の範囲の条件にて、前記ホウ素、またはホウ素と燐を含むシリコン酸化膜を選択的に除去された」という製造方法によって特定する外ないとの特段の事情が存在したとしても、相違点2は、周知技術を参酌すれば、引用発明1から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれるものである。

カ 周知例1
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平08-306784号公報(「周知例1」という。)には、「半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図2(a)?(g)、図4(a)?(g)とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【0012】シリコン酸化膜の比誘電率は約3.6であり空気層の比誘電率は1.0であるので、例えばシリコン酸化膜5および7の膜厚を100nm、空気層の厚さを300nmとすると、本構造での層間絶縁膜のεは実効的に約1.4となり、シリコン酸化膜単層の層間絶縁膜を用いた場合に比べ2.6分の1に低減できる。」

b.「【0013】次に、図2を参照して図1に示す半導体装置の製造方法について説明する。図2(a)?(g)は、第1の実施例の半導体装置の製造方法を説明するための工程順断面図である。まず、従来より知られている一般的な工程によりシリコン基板1上に素子分離酸化膜2およびMOS型FET3を形成する〔図2(a)〕。次に、CVD法を用いて全面にシリコン酸化膜5を形成する〔図2(b)〕。さらに、前記シリコン酸化膜上にCVD法を用いてBPSG膜10およびシリコン酸化膜7を順次堆積する〔図2(c)〕。
【0014】その後、フォトリソグラフィ技術を用いてコンタクトホール形成領域上に開口を有するフォトレジスト膜11形成する〔図2(d)〕。次に、ドライエッチング技術を用いて、基板表面の被コンタクト領域に達するコンタクトホール4をシリコン酸化膜7、BPSG膜10およびシリコン酸化膜5を貫通して開孔する〔図2(e)〕。さらに、アルミニウム合金の被着とそのパターンニングにより、コンタクトホール4を介して被コンタクト領域と接触する配線層8を形成する〔図2(f)〕。次いで、フォトリソグラフィ法およびドライエッチング法を適用してシリコン酸化膜7の適宜個所に開口(図示なし)を開設する。最後に、気相HF処理を行うことによりBPSG膜10のみを前記開口を通して選択的に除去して空気層6を形成することにより、本実施例の半導体装置の製作を完了する〔図2(g)〕。」

c.「【0017】次に、図4を参照して図3に示す第2の実施例の半導体装置の製造方法について説明する。図4(a)?(g)は、この第2の実施例の半導体装置の製造方法を説明するための工程順断面図である。図2に示した製造工程を経ることにより図4(a)に示す半導体装置を得る。次に、CVD法を用いて全面にシリコン酸化膜14を形成する〔図4(b)〕。なお、BPSG膜をエッチングするためにシリコン酸化膜7に形成された開口の径は十分小さく、シリコン酸化膜14の堆積時にこの開口は塞がれる。続いて、シリコン酸化膜14上にCVD法を用いてBPSG膜17およびシリコン酸化膜16を順次堆積する〔図4(c)〕。
【0018】その後、フォトリソグラフィ技術を用いてビアホール形成領域上に開口を有するフォトレジスト膜18形成する〔図4(d)〕。次に、ドライエッチング技術を用いて、下層の配線層に達するビアホール13をシリコン酸化膜14、BPSG膜17、およびシリコン酸化膜16を貫通して開孔する〔図4(e)〕。さらに配線層12を形成する〔図4(f)〕。しかる後、フォトリソグラフィ法およびドライエッチング法を適用してシリコン酸化膜16に開口(図示なし)を形成する。最後に、気相HF処理を行い、上記開口を通してBPSG膜17のみを選択的に除去して空気層15を形成することにより本実施例の半導体装置を得ることができる〔図4(g)〕。」

キ 周知例2
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平09-027546号公報(「周知例2」という。)には、「半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して、図1?16とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【0029】次に、第2の実施の形態を説明する。図1までは、第1の実施の形態と同じである。次に、図9に示すように、シリコン酸化膜110および第1の金属配線111上に常圧式化学気相成長法またはプラズマ式化学気相成長法によってTEOS(Tetra-Ethyl-Ortho-Silicateglass )系シリコン酸化膜113を形成する。このTEOS系シリコン酸化膜113は不純物として、ボロンとリンを含んだTEOS系BPSG膜でもよい。
【0030】その後、図10に示すように、TEOS系シリコン酸化膜113をエッチバックすることによって、第1の金属配線111の上面を露出し、第1の金属配線間にのみTEOS系シリコン酸化膜113を残す。
【0031】次に、図11に示すように、第1の金属配線111の上面およびTEOS系シリコン酸化膜113の上に、プラズマ式化学気相成長法によってシリコン酸化膜114を形成する。このシリコン酸化膜114の膜厚は、第1の実施の形態と同じ理由により5000Å以下であることが好ましい。
【0032】そして、図12に示すように、TEOS系シリコン酸化膜の表面の一部と配線の表面の一部を境界部120を介して連続して露出するように、シリコン酸化膜114に開孔部115を形成する。開孔部115の形状、幅は第1の実施の形態と同じである。
【0033】次に図6に示すように、エッチャントとしてフッ酸の蒸気を開孔部115から導入することによって、TEOS系シリコン酸化膜113の表面の一部121がエッチングされ、TEOS系シリコン酸化膜113が除去される。
【0034】これは、フッ酸の蒸気に対するTEOS系シリコン酸化膜113のエッチング速度が、シリコン酸化膜114、110のエッチング速度よりも速いことと第1の金属配線111はフッ酸の蒸気によってエッチングされないことにより、シリコン酸化膜114、110および第1の金属配線111を残して、TEOS系シリコン酸化膜112をエッチングすることができるからである。
【0035】このようにして、第1の金属配線111とシリコン酸化膜114、110とによって囲まれた領域に空洞117を形成することができる。
【0036】この後の工程は、第1の実施の形態で説明したように、図7に示すように、シリコン酸化膜119を堆積して開孔部115を塞ぎ、図8に示すように、シリコン酸化膜119の上に第2の金属配線118を形成する。」

ク 周知例3
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-050831号公報(「周知例3」という。)には、「半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して、図1?6とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【0019】次に、図5に示す第5の工程において、前工程でTi膜30、TiN膜31、W膜32が除去されBPSG膜28の上面が露出したものを、40℃?100℃の範囲で、例えば60℃に加熱しながらふっ酸(HF)蒸気に晒し、BPSG膜28をエッチングして除去し、第2のSiO_(2) 膜27の表面を露出させる。この時、第2のSiO_(2) 膜27やTi膜30、TiN膜31、W膜32はふっ酸蒸気ではほとんどエッチングされないので、BPSG膜28のみが選択的に除去される。
【0020】その後、図6に示す第6の工程において、第2のSiO_(2) 膜27の上面及びTi膜30、TiN膜31、W膜32が埋め込まれているコンタクトホール29上にメタルスパッタ法により再びチタン、チタン窒化物を連続堆積させ、さらにアルミニウム(Al)を堆積させて膜厚が10nmのTi膜33、膜厚が40nmのTiN膜34、膜厚が600nmのAl膜35を形成する。そして、フォトリソグラフィ技術を用いてAl膜35上面に成膜したフォトレジスト膜のパターニングを行い、所定の配線パターンのフォトマスクを形成する。このフォトマスクを用いてTi膜33、TiN膜34、Al膜35をRIE法によりエッチングし、所定配線パターンを有する上層配線である第2の配線36a,36b,36cを形成する。こうして下層配線の第1の配線26と上層配線の第2の配線36bが、コンタクトホール29を埋め込んだTi膜30、TiN膜31、W膜32でなる導電膜を介して電気的に接続される。その後にフォトレジストを酸素ガスプラズマに晒して灰化し、洗浄し除去する。」

ケ 周知例4
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平06-181188号公報(「周知例4」という。)には、「エッチング方法および装置」(発明の名称)に関して、図1?10とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【0003】一方、気相HF処理を用いることにより、酸化膜質によりエッチングレートが大きく変化するという新しい現象も見出されている。Transactionon Electron Device,Vol.37,No.1(1990)において“Gas-Phase Selective Etching ofNative Oxide”と題して発表された論文において、気相HFガス中の水分濃度を制御することで酸化膜質の違いによりエッチングレートが大きく変化するということが報告された。この論文では、HFガス中の水分濃度を0.1ppm以下といった領域で制御することで、熱酸化膜上のPSG(リンガラス)を選択除去できることが報告されている。この方法は、低ダメージで特定の膜質の酸化膜の選択エッチングを行えるという非常に優れた特徴を有する。」

b.「【0037】実施例2
HF/H_(2) Oガスによるエッチングにおいて、H_(2) O:300Paおよび600Paの分圧下で、HFガス分圧を変化させた場合の、BPSGと熱酸化膜のエッチングレートの比を図7に示す。これより、HFガス分圧を高くすることで、BPSGと熱酸化膜のエッチング選択性が崩れやすいことがわかる。これより、HFあるいはHF/H_(2) Oガスエッチングを減圧下で行うことで、HF分圧を容易に低減できるため、広いプロセス範囲で選択エッチングが実現できることがわかる。
【0038】実施例3
水分濃度の影響を調べるために、到達真空度0.1Paの反応室内に0?2000PaのH_(2) Oガスを導入し、引続きHFガスを600Pa導入し、酸化膜エッチングを10℃で行った。
……(中略)……
「【0040】図9にHF/H_(2) O=600/300Paで30秒間気相エッチング処理を行った後の、断面SEM写真を示す。PSGおよびBPSG膜が他の膜に比較し大きくエッチングされていることがわかる。」

c.図7には、H_(2)O分圧が高いと、より低いHF分圧でBPSG/SiO_(2)エッチングレートの急激な低下が始まることが示されている。

コ 周知例5
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平08-064673号公報(「周知例5」という。)には、「半導体集積回路装置およびその製造方法」(発明の名称)に関して、図2とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【0017】次に、残りのBPSG膜14をCVD酸化膜17に対して選択的に除去してポリシリコン膜13の表面を露出させる。これには水蒸気分圧100Pa以下の真空チャンバ内にHFを導入する方法を用いる。キャップBPSG膜14とCVD酸化膜17のエッチングレート比は約1000が得られるのでキャップBPSG膜14の残り50nmをエッチングしてもCVD酸化膜17はほとんどエッチングされない。」

サ 周知例6
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-026721号公報(「周知例6」という。)には、「半導体集積回路装置およびその製造方法」(発明の名称)に関して、図20?21とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【0066】このように形成した半導体装置のストレージノード12はストレージノードコンタクト11を埋め込むコンタクトホール18の形成のためのレジストパターン(図示せず)と、ストレージノード部18aを形成するためのレジストパターン17aをそれぞれ形成しなくてはならない。しかし、ストレージノード部18a内に導電物質を埋設することでストレージノード12を形成し、ストレージノード12の形成に用いるBPSG膜16は無水気相HF処理によって除去するため、その下層のノンドープのシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜10とは十分な選択比を確保できている。従ってビット線9上の層間絶縁膜10に対してはオーバーエッチングがなされずセルプレート14とビット線9とを確実に絶縁する程度の層間絶縁膜10の膜厚を確保することができる。」

5-3.相違点3について
ア 本願明細書には、「ゲート遅延」を小さくすることに関しては、「こうした超高速動作の要求に対し、トランジスタから構成される論理ゲート自身のゲート遅延は、図2、201に示すようにトランジスタの微細化により十分達成される。」と記載されているだけである。
したがって、本願発明は、「複数のトランジスタを……集積」することで、「トランジスタ」を微細化して、「ゲート遅延」を「極小」にしたと解される。
そして、本願発明において、「配線遅延、及び基板起因の遅延」は、「多層に構成された配線間が気体により分離される構造」を採用するとともに、「前記基板が埋込み絶縁膜に直接もしくは低抵抗半導体層を介して隣接する金属層を含」み「前記埋込み絶縁膜に隣接して設けられた金属層の厚さが、前記多層に構成された配線を伝搬する電気信号の表皮厚さより厚くし」た「SOI基板」を採用することで、それぞれ「極小」にしていることは明らかである。

イ これに対して、引用発明1は「一つの基板上にトランジスタ、抵抗体、コンデンサ等の電気素子を高密度に配置して集積化し」たものである。
してみれば、前記「5-1.相違点1について」で述べたように、引用発明1の「基板」として、引用発明2の「シリコン基板の上に、ルテニウムからなる第2の反応抑止層、シリサイドからなる反応層、ルテニウムからなる第1の反応抑止層、窒化シリコン絶縁膜及びシリコン酸化膜からなる絶縁層、単結晶シリコン層が、この順番で積層され」て、「窒化シリコン絶縁膜及びシリコン酸化膜からなる」前記埋め込み「絶縁層」に「ルテニウム」という金属からなる「第1の反応抑止層」が直接接触する構造を有し、前記埋め込み「絶縁層」に直接接触する前記「第1の反応抑止層の厚さ」を「信号伝播に伴い発生する電磁波のスキンデプス(表皮深さ)よりも厚くし」た「金属基板SOIウェハ」を用い、前記「5-2-2.相違点2についての検討」ないし前記「5-2-3.「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であるとしたときの検討」で述べたように、引用発明の「上下に位置する前記低抵抗配線」を、「SiO_(2)、ポリイミド樹脂、BPSG等からな」る「層間絶縁物」で「電気的に分離」することに代えて、空気等の気体で「電気的に分離」すれば、当然に、「ゲート遅延、配線遅延、及び基板起因の遅延を全て極小に」していると認められる。

5-4.小括
以上のとおりであるから、相違点1?3は、引用発明2及び周知技術を参酌すれば、引用発明1から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
そして、本願発明の効果も、引用発明1、引用発明2及び周知技術から、当業者が予期し得たものである。
したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。


第3.結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-06 
結審通知日 2013-03-13 
審決日 2013-03-27 
出願番号 特願2001-500335(P2001-500335)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 近藤 幸浩
恩田 春香
発明の名称 気体絶縁配線構造集積回路  
代理人 福森 久夫  

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