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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16K
管理番号 1273606
審判番号 無効2012-800152  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-09-14 
確定日 2013-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4849644号発明「逆流防止装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4849644号の請求項1に係る発明についての出願は、平成20年5月12日に特許出願したものであって、平成23年10月28日に設定登録(請求項の数1)されたものである。
また、平成24年9月14日付けで請求人 タイム技研株式会社により本件無効審判が請求された。
次に、同年11月28日付けで被請求人 株式会社テージーケーにより答弁書が提出され、同年12月20日付けで審理事項通知書が通知され、平成25年1月25日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年1月28日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出された。その後、当審より、同年1月31日付け及び同年2月13日付けで質問事項が通知され、同年2月19日差出で請求人より2通の回答書が提出され、同年2月19日差出で被請求人より2通の回答書が提出された。
そして、同年2月19日に口頭審理が行われたところである。

第2 本件特許発明
本件特許第4849644号の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「 給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口を有し、
前記排出口は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備え、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えていることを特徴とする逆流防止装置。」(以下、「本件特許発明」という。)

第3 請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
(1)無効理由1
本件特許発明は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術を参酌しつつ甲第1号証に甲第5号証を適用することにより容易に想到することができる。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許発明は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術を参酌しつつ甲第1号証に甲第6号証を適用することにより容易に想到することができる。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

証拠方法
甲第1号証:特開2005-207522号公報
甲第2号証:特開2002-275967号公報
甲第3号証:特開2005-233336号公報
甲第4号証:特開2002-267076号公報
甲第5号証:特開2000-74490号公報
甲第6号証:特開昭60-226699号公報

2.被請求人の主張
(1)無効理由1
・甲第5号証には、相違点の構成が記載されていない。
・甲第1号証と甲第5号証を組み合わせる動機付けがない。
・甲第1号証と甲第5号証に基づいて容易に発明できたものではない。

(2)無効理由2
・甲第6号証には、相違点の構成が記載されていない。
・甲第1号証と甲第6号証を組み合わせる動機付けがない。
・甲第1号証と甲第6号証に基づいて容易に発明できたものではない。

第4 当審の判断
1.各甲号証の記載事項の認定
(1)甲第1号証
本件特許出願前の平成17年8月4日に頒布された刊行物である特開2005-207522号公報(甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
・「【0001】
本発明は逆流防止装置に関し、特に給湯装置からの温水を浴槽に導く配管の途中に設けられて給水圧が低下しても給湯装置よりも高い位置に設置された浴槽からの汚水が給水管の方へ逆流してしまうのを防止する逆流防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風呂給湯システムは、給水管より給水された上水を給湯器にて加熱し、加熱された湯を風呂の浴槽に注湯するように構成されている。集合住宅あるいは給水圧が低いような場合には、ポンプで上水を汲み上げて各戸に給水することが行われている。ところが、停電あるいは断水によって、給水側が負圧になることがあるが、このような場合、負圧が浴槽内の汚水を吸引して給湯器、さらには給水管まで汚水が逆流してしまうことがある。
【0003】
このような逆流を防ぐために、給湯器と浴槽との間の配管途中に逆止装置を設けて、浴槽からの汚水が給湯器の方へ逆流しないようにすることが行われている。しかも、安全のために、逆止装置は2個の逆止弁を直列に設けて逆止機能の信頼性を高めるようにしている。
【0004】
また、逆止装置が機能不全に陥ってしまった場合においても、浴槽からの給湯器への逆流を防止するために、給湯器の手前の配管に負圧破壊装置を設け、給水圧の低下を感知した場合に、給湯器の手前で負圧破壊装置が配管を大気に開放し、空気を吸入させることにより、汚水を吸引するための負圧をなくすことが行われている。
【0005】
さらに、浴槽が給湯器よりも高い階上に設置されているような場合、逆止装置は浴槽内の汚水の水頭圧により逆流方向へ常に加圧された状態になっている。そのため、給水側に負圧が発生したときに、逆止装置が機能不全に陥っているようなことがあると、逆止装置を介して給湯器の方へ汚水が逆流してしまうことがある。このような汚水の逆流を防ぐために、2個直列に設けた逆止弁の間の配管に大気開放弁を設け、給水圧の低下に応動して大気開放弁が逆止弁間の配管を大気に開放し、機能不全に陥っていた浴槽側の逆止弁を介して逆流してきた汚水を大気に排出させ、これによって逆流してきた汚水が給湯器の方へ逆流しないようにすることも行われている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0006】
この特許文献1では、給湯器から浴槽への配管を開放または遮断する電磁弁と、給水側の圧力低下に応じて配管を大気に開放するよう開閉動作する大気開放弁と、電磁弁と大気開放弁との間に配置されて大気開放弁から電磁弁の方向への流れを阻止する第1の逆止弁と、大気開放弁と浴槽との間に配置されて浴槽から大気開放弁の方向への流れを阻止する第2の逆止弁とを備えた逆流防止装置を開示している。
【0007】
このような逆流防止装置によれば、第1および第2の逆止弁がたとえば異物の噛み込みなどにより完全に閉じていないときに、停電などで給水側が負圧になると、浴槽の汚水がその水頭圧により第2の逆止弁を介して大気開放弁まで逆流してくる。しかし、その汚水は給水側の負圧を受けて開弁した大気開放弁を介して大気に放出される。このとき、異物を噛み込んだ第1の逆止弁は、流れ絞り装置として働き、給湯器側の負圧によって大気開放弁まで逆流してきた汚水に対して給湯器の方へ吸引するだけの吸引力は発生せず、実質的に、浴槽の汚水が給湯器まで逆流することはない。このように、電磁弁と大気開放弁との間に第1の逆止弁を配置するだけで、給湯管側への汚水の逆流を実質的に完全に防止することができ、この逆流防止装置を適用した給湯システムの信頼性を向上させることが可能になる。
【特許文献1】特開2003-254604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の逆流防止装置では、階上に浴槽が設置された浴槽に残り湯があり、しかも、弁体がスティックしたり異物の噛み込みなどにより逆止弁が機能しなくなっているような状況のときに、水道が断水したり停電により汲み上げポンプが停止したりして給水配管内が負圧状態になると、大気開放弁が開いて浴槽から逆流してきた汚水を大気に放出するようにしている。しかしながら、そのとき同時に、給水配管内が負圧状態になることで大気開放弁の排水口から空気を吸い込んで負圧を破壊することも行われているため、吸い込まれる空気によって捨てられるべき汚水も一緒に吸い込んでしまう可能性があるという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、さらに信頼性を向上させた逆流防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では上記問題を解決するために、給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する逆流防止装置において、前記配管をそれぞれ独立して大気に開放または閉塞させるよう前記給湯管から前記浴槽へ向かって前記配管に順次設置された空気吸入弁および逆流水排出弁と、給水圧によって前記空気吸入弁および逆流水排出弁を同時に開閉駆動する1つの受圧部とを有する大気開放部を備えていることを特徴とする逆流防止装置が提供される。
【0011】
このような逆流防止装置によれば、大気開放部は、浴槽からの逆流水が大気に排出される部分と空気を吸入する部分とが分離された構造になっているため、給水圧の低下によって大気開放部が動作したときに逆流水の排出と空気の吸入とを互いに干渉することなく独立して同時に行うことが可能なため、空気の吸入による逆流水の吸い込みを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の逆流防止装置は、大気開放部が逆流水排出弁と空気吸入弁とを備え、給水圧を受圧する1つの受圧部で逆流水排出弁および空気吸入弁を同時に開閉制御するように構成したので、負圧破壊と逆流水排出とを同時かつ独立して行うことができ、浴槽からの汚水の逆流をより確実に防止することができる。」

・「【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は給湯システムに適用した逆流防止装置の第1の模式図である。
本発明による逆流防止装置を適用した給湯システムにおいて、上水道の給水管1は、流量センサ2を介して熱交換器3および水バイパス弁4の上流側に接続されており、熱交換器3および水バイパス弁4の下流側は合流した後、水比例弁5に接続されている。これら熱交換器3、水バイパス弁4および水比例弁5は給湯器を構成し、その出口である水比例弁5の下流側は、たとえば台所の蛇口などへ出湯する給湯管6に接続されている。
【0015】
また、給湯器の出口である給湯管6は、逆流防止装置を介して風呂の浴槽7にも接続されている。この逆流防止装置は、給湯管6と風呂の浴槽7との間の配管に配置された流量センサ8、電磁弁9および2つの逆止弁10、11と、大気開放部12とを備えている。大気開放部12は、検圧管13を介して給水管の給水圧P1を受圧する受圧部12aと、一方が逆止弁10の上流側に接続され他方が大気に開放されていて受圧部12aにより開閉制御される空気吸入弁12bと、一方が逆止弁10の下流側に接続され他方が大気に開放されていて受圧部12aにより開閉制御される逆流水排出弁12cとを有し、これら空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cの大気側には、空気吸入弁12bによって吸入される空気と逆流水排出弁12cによって排出される逆流水との干渉を防止する壁12dが設けられている。この大気開放部12において、給水圧P1を受ける受圧部12aの受圧面積は、配管内の通水圧P2を受ける空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cの合計した受圧面積と略同一にして、給水圧P1が通水圧P2よりも低下したときに空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cが開くようにしている。
【0016】
以上の構成の給湯システムにおいて、給水管1から給水された上水は、流量センサ2を通り、一部が熱交換器3にて加熱されて湯になり、一部は水バイパス弁4を通って熱交換器3から出てきた湯と混合される。このとき、水バイパス弁4により熱交換器3をバイパスする流量を制御することにより、湯水の混合比が変えられて出湯温度が制御される。所望の温度に制御された湯は、さらに、水比例弁5により出湯流量が制御されて給湯管6より給湯される。
【0017】
また、浴槽7に湯張りを行う時には、電磁弁9を開けることにより、水比例弁5を出た湯が流量センサ8、電磁弁9、逆止弁10、11を介して風呂の浴槽7へ供給される。このとき、大気開放部12は、検圧管13を介して上水道の給水圧P1が導入されているため、その給水圧P1を受けている受圧部12aが空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cを閉弁方向に付勢している。一方、給湯器を通り、さらに逆流防止装置の電磁弁9を通過してきた水の通水圧P2は給水圧P1よりも低いので、それらの差圧によって、空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cは閉じられている。
【0018】
ここで、断水などが発生して給水管1内に負圧が発生したときには、大気開放部12の受圧部12aが給水圧P1の低下に応動して空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cを開弁方向に付勢し、空気吸入弁12bおよび逆流水排出弁12cを開弁する。これにより、空気吸入弁12bが開弁することにより、空気を吸入して逆止弁10よりも上流側に発生した負圧を破壊する。これと同時に、逆流水排出弁12cが開弁することにより、逆止弁10と逆止弁11との間の配管内の水を大気に排出する。
【0019】
もし、浴槽7が給湯器よりも高い位置にあり、給水圧P1が負圧になったときに、通常は通水圧によって開いている逆止弁11が浴槽7からの逆流水によって閉じようとしても異物の噛み込みなどにより閉じなくなっていた場合には、浴槽7内の汚水がその水頭圧により逆止弁11を介して逆止弁10まで逆流してくることになる。しかし、その汚水は大気開放部12の逆流水排出弁12cにより大気に排出されるため、浴槽7内の汚水が給湯管6の方まで逆流することはない。また、逆流水排出弁12cを介して大量の逆流水が流れ出ていると同時に、空気吸入弁12bを介して空気が吸入されるが、壁12dの存在によって吸入空気が逆流水を巻き込んで吸い込み、給湯管6の方まで逆流してしまうこともない。
【0020】
図2は第1の実施の形態に係る逆流防止装置の構成を示す断面図、図3は空気吸入弁と逆流水排出弁との間の壁の第1の形状を例示した断面図、図4は空気吸入弁と逆流水排出弁との間の壁の第2の形状を例示した断面図である。
【0021】
この第1の実施の形態に係る逆流防止装置20は、給湯管6に接続される接続部21と、浴槽7への配管が接続される接続部22とを有し、それらの間の通水路内に、水の流れ方向に沿って流量センサ23、電磁弁24、第1の逆止弁25および第2の逆止弁26が順次配置されている。逆流防止装置20は、また、第1の逆止弁25と並列に配置された大気開放部27を備えている。
【0022】
流量センサ23は、通過する水に旋回流を与える整流器28と、着磁された複数枚の羽根を有する羽根車29と、この羽根車29に近接してボディ内に埋設された図示しない感磁センサとからなり、浴槽7に注湯される湯量を計測する。
【0023】
電磁弁24は、ボディと一体に形成された筒状の弁座30とダイヤフラム31によって支持された弁体32とを含む主弁と、主弁の弁体32の中央に形成された弁座33とソレノイドのプランジャ34に保持された弁体35とを含むパイロット弁とからなっている。第1の逆止弁25は、ボディと一体に形成された弁座36と、この弁座36に下流側から対向して水の流れ方向に進退自在に配置された弁体37と、この弁体37を弁座36に対して着座する方向に付勢するスプリング38とを有している。第2の逆止弁26は、第1の逆止弁25の弁体37を芯決めするとともに水の流れ方向に進退自在に保持するホルダ39と一体に形成された弁座40と、この弁座40に下流側から対向して水の流れ方向に進退自在に配置された弁体41と、この弁体41を弁座40に対して着座する方向に付勢するスプリング42と、弁体41を芯決めするとともに水の流れ方向に進退自在に保持するホルダ43とを有している。
【0024】
大気開放部27は、第1の逆止弁25の前後に連通する通路44、45と、空気吸入口46および逆流水排出口47とを有している。通路44と空気吸入口46との間には、空気吸入弁48が配置され、通路45と逆流水排出口47との間には、逆流水排出弁49が配置されている。空気吸入弁48および逆流水排出弁49は、通路44、45を開閉する弁体50、51を有している。弁体50、51は、保持部52によって保持され、この保持部52は、リテーナ53およびねじ54によってダイヤフラム55に固定されている。ダイヤフラム55の外周部は、ボディに固定されたリング状のプレート56とケース57とによって挟持されている。ケース57は、ダイヤフラム55とともに検圧室を構成し、検圧管13が接続される接続部58が一体に形成されている。接続部58と検圧室とは、小さな連通孔によって連通されている。そして、弁体50、51の間には、ボディに立設された壁59が配置されていて、この逆流防止装置20が図示の姿勢で取り付けられた場合に、通路45から逆流水排出弁49を介して下向きに設けられた逆流水排出口47へ流れていく逆流水が空気吸入口46から空気吸入弁48を介して通路44へ流れる空気によって引き込まれにくいようにしている。この壁59は、図3に示したように、弁体50、51が位置している空間を単に仕切るように弁座面を構成する通路44、45の開口端面に突設してボディと一体に形成されている。あるいは、図4に示したように、弁体50、51を取り囲むように通路44、45の開口端面に突設して壁59をボディと一体に形成してもよい。
【0025】
以上の構成において、電磁弁24が通電されていない時には、図示のように、プランジャ34がスプリングの付勢力によって弁体35を弁座33に着座させることでパイロット弁を閉じている。これにより、主弁の弁体32の上面側の部屋には、その弁体32に穿設されたオリフィスを介して上流側の圧力が導入され、ダイヤフラム31の両側の部屋に圧力差がなくなることで、主弁はその上流側の圧力で閉じられ、浴槽7への配管が閉塞される。
【0026】
電磁弁24が通電されると、プランジャ34が吸引されて図の上方へ移動することで、パイロット弁が開き、これにより主弁の弁体32の上面側の部屋にある水が弁座33の弁孔を介して下流側に流れることでダイヤフラム31の両側の部屋に圧力差が発生し、その圧力差で弁体32がその弁座30からリフトされて、主弁は全開状態になる。このとき、大気開放部27の検圧室には、接続部58を介して給水圧P1がかかっているため、空気吸入弁48および逆流水排出弁49の弁体50、51が着座して通路44、45は閉塞されている。したがって、電磁弁24を通過した水は、第1および第2の逆止弁25、26を通り、浴槽7へと流れることになる。
【0027】
断水などにより、給水圧P1が低下した場合は、第1および第2の逆止弁25、26が閉じ、大気開放部27の検圧室内の圧力が低下することによって、弁体50、51がリフトされる。これにより、空気吸入口46から空気吸入弁48を介して空気が吸入され、第1の逆止弁25より給湯器側の負圧を破壊する。これと同時に、第1および第2の逆止弁25、26の間の配管内に溜まっていた水が逆流水排出弁49を介して逆流水排出口47から排出される。
【0028】
このとき、第2の逆止弁26が完全に閉まらないという事故が起きた場合には、浴槽7から残り湯の汚水が第2の逆止弁26を介して逆流してくるが、その汚水は、逆流水排出弁49によって大気に排出されるため、給湯管6の方まで逆流していくことはない。また、第1の逆止弁25についても、たとえ完全に閉まらない事故が起きたとしても、その第1の逆止弁25は開口面積の小さなオリフィスとして機能するため、逆流水は開口面積の大きな逆流水排出弁49を介して大気に排出されることになり、浴槽7内の汚水が給湯管6まで逆流してしまうことはない。」

・「【0040】
図10は第5の実施の形態に係る逆流防止装置の構成を示す断面図である。この図10において、図2および図5に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0041】
この第5の実施の形態に係る逆流防止装置90は、第1ないし第4の実施の形態に係る逆流防止装置20、60、70、80の大気開放部27が給水圧P1を感知する受圧部と空気吸入弁48および逆流水排出弁49とを並列に駆動できるように配置しているのに対し、受圧部と空気吸入弁48と逆流水排出弁49とを同軸上に配置して直列に駆動する構成を有している点で異なる。
【0042】
この大気開放部27は、一端がねじ54によって受圧部のダイヤフラム55の中心に固定されたシャフト91を有している。そのシャフト91は、その他端に空気吸入弁48の弁体50が設けられ、かつ、ホルダ92によってダイヤフラム55の変位方向に進退自在に支持されている。ホルダ92のシャフト91が貫通している部分には、軸シール部が設けられて、空気吸入弁48および逆流水排出弁49が閉じられているときに、通水圧P2の水が大気に漏れないようにしている。
【0043】
ホルダ92は、コップ形状を有し、その側面には、通路45と連通するよう穴が開けられている。また、ホルダ92の受圧部側の端面は、逆流水排出弁49の弁座面を構成している。その弁座面に対向して逆流水排出弁49の弁体51がシャフト91に取り付けられている。この弁体51は、ダイヤフラム55との間にばね受けを介して配置されたスプリング93によってシャフト91に形成された段差部に押圧されている。大気開放部27が受けている給水圧P1により、受圧部がシャフト91を介して空気吸入弁48および逆流水排出弁49を閉弁方向に駆動しているとき、空気吸入弁48については給水圧P1により閉弁状態が維持され、逆流水排出弁49については、スプリング93によって閉弁状態が維持されることになる。なお、ボディには、その製造上の理由で開口部が形成されているが、そのような開口部は、プラグ94、95によって閉止されている。
【0044】
その他の流量センサ23、電磁弁24、第1の逆止弁25および第2の逆止弁26については、第4の実施の形態に係る逆流防止装置80のものと同じ構成であるので、それらの説明は省略する。」

・図10より、逆流水排出口47は、中心軸が水平方向になるように形成されていることが分かる。

・逆流防止装置において、逆流水排出口の先端にホースを接続して逆流水を機器外の適切な場所にまで誘導し、しかる後に排水を行うようにすることが通常であるので、このようなホースの接続が予定されている管部はホースの断面形状に合わせて円管状に形成されていることは明らかである。

以上より、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「 給湯管6から浴槽7への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより浴槽7から給水管1への汚水の逆流を防止する大気開放部27を備えた逆流防止装置90において、
大気開放部27は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の逆流水排出口47を有している逆流防止装置90。」

(2)甲第2号証ないし甲第4号証
本件特許出願前の平成14年9月25日に頒布された刊行物である特開2002-275967号公報(甲第2号証)、平成17年9月2日に頒布された刊行物である特開2005-233336号公報(甲第3号証)及び平成14年9月18日に頒布された刊行物である特開2002-267076号公報(甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。

配管を有する部材において、他の配管との接続がなされる管部の排出口の先端外周部に、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を形成する構成。

(3)甲第5号証
本件特許出願前の平成12年3月14日に頒布された刊行物である特開2000-74490号公報(甲第5号証)には、以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は湯沸器に組み込まれる通水制御ユニットに関し、詳しくは樹脂材料で形成された通水制御ユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】冬期、寒冷地などでは、凍結による湯沸器の破損を防止するために、就寝前などに水抜き栓を開いて器体内の水を抜く水抜き操作が行なわれ、スムーズに水が抜けて残水量の少ない水抜き性能の良い湯沸器が望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、湯沸器を軽量化したり湯沸器を安価に製作するため、湯沸器の通水制御ユニット、つまり、水栓、ダイアフラム等を一体的に組み合わせたユニットのハウジング材料に、真鍮や青銅の金属材料に代えて樹脂材料を用いると、水抜き性能が低下する問題があった。殊に、樹脂材料で製作された通水路が、垂直に形成されたり、傾斜がある場合には、水抜き操作後に水滴が弾かれるようにして重力で流れるものの、水平方向の流路、段差のある流路、細い流路の場合には、水が止まって流路を狭めたり閉じてしまう場合があった。これは、樹脂材料が水にぬれにくいため、水と樹脂表面との接触角が大きくなり、水滴が丸く高さの高い水滴となって流路の開口面積を狭めてしまい、水滴が止まると流路を閉塞する水膜ができ易くなるためである。このため、せっかく凍結防止のための水抜きをしても、器体内に残った水が凍って湯沸器の再使用時に水が出なかったり、水量が少なくなって正常に着火できない場合があった。そこで、本発明の湯沸器は上記課題を解決し、樹脂材料で製作された通水制御ユニットであっても水抜き性能を良好にし、水抜きしてから凍結雰囲気に放置した後に問題なく湯沸器の再使用ができるようにすることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明の請求項1記載の湯沸器は、通水路の一部を樹脂材料で形成した湯沸器において、上記樹脂材料で形成された通水路のうち、水抜き後に、水膜または水滴の形成をされ易い部位に、その形成を妨げる切欠を設けたことを要旨とする。
【0005】また、上記課題を解決する本発明の請求項2記載の湯沸器は、請求項1記載の湯沸器において、上記切欠は、上記通水路の内壁の一部を左右非対称に切り欠いたものであることを要旨とする。
【0006】上記構成を有する本発明の請求項1記載の湯沸器は、通水路の一部を樹脂材料で形成された通水路のうち、水抜き後に、水膜または水滴の形成をされ易い部位に設けた切欠が、その形成を妨げる。従って、通水部が樹脂材料で形成されても、水抜き後に、水膜または水滴が形成されないので、水抜きしてから凍結雰囲気に放置した後に問題なく湯沸器の再使用ができる。
【0007】また、上記構成を有する本発明の請求項1記載の湯沸器は、請求項1記載の湯沸器において、通水路の内壁の一部を左右非対称に切り欠いた切欠が、水膜または水滴の左右のバランスを崩すと共に、通水路内下方に誘導する。従って、請求項1による効果を高めることができる。」

・「【0008】
【発明の実施形態】以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の湯沸器の好適な実施例を説明する。図9は、ガス湯沸器の概略図であり、水入口に通水制御ユニットが設けられる。この通水制御ユニットには、上流より、水入口からの給水経路3を開閉する水栓24と、通水と連動してガス流路を開閉する水圧応動装置10と、水量を変えることにより湯温を調節する湯温調節部11と、後述するベンチュリー2とが樹脂製のハウジング内に組み込まれる。
【0009】水圧応動装置10には、前後に移動自在なダイアフラム12が設けられ、このダイアフラム12で仕切って一次室16と二次室21とが形成される。また、ダイアフラム12を押えるケーシング蓋6が水側ケーシング8に図示しないビスにより固定される。水側ケーシング8の一次室16への流路には、ダイアフラム12と同軸上に給水圧の変動が生じても流量を一定に保つ水ガバナ14が設けられ、一次室16下流には、湯温調節部11が設けられる。湯温調節部11で流路は、ベンチュリー2を経由し熱交換器1へ通じた後ミキシング部6に至る加熱経路7aと、ミキシング部6へ直接に通じるバイパス路7bとに分岐される。そして、分岐された流路は、ミキシング部6で合流し湯出口に至る。また、加熱経路7aに設けられるベンチュリー2は、流路を絞ると共に、流路と直角方向に横孔2aが設けられる。そして、この横孔2aから水圧応動装置10の二次室21に通じる導通路2bが設けられる。また、ダイアフラム12には、変位を伝える押軸22およびスピンドル37が同一軸線上に当接して設けられ、このスピンドル37の他端に給水自動ガス弁23が設けられる。
【0010】給水自動ガス弁23より上流のバーナ27へのガス供給経路4には、ガス通路を開閉する器具栓26およびメイン弁25が設けられる。また、給水自動ガス弁23の下流に、燃料ガスを燃焼するバーナ27が設けられ、バーナ27に放電することにより燃料ガスへ着火する電極(図略)が設けられる。
【0011】また、ダイアフラム12の一次室16と二次室21の下部には、凍結防止のために手動で湯沸器内の水抜きができる排水栓19が設けられ、排水栓19から器体外へ排水を導く排水路18に通じている。
【0012】水栓24は、図1に示すように、小さな手動操作力によって動作するパイロットバルブ式の水栓である。パイロットバルブ式の水栓24には、前後に移動自在な水栓ダイアフラム41が設けられ、この水栓ダイアフラム41で仕切って一次室42と二次室43とが形成される。この一次室42の中央には下流に通じる通水出口44が開口し、通水出口44の口元に水栓ダイアフラム41が接離して通水路を開閉する水室弁座45が設けられる。また、一次室42の水室弁座45下方には、上流に通じる通水入口51が水平方向に開口される。
【0013】水栓ダイアフラム41には、中心位置に水室弁座45下流と二次室43とを連通するパイロット孔46と、中心から下方にずれた位置に一次室42と二次室43とを連通する小孔47とが開口する。また、水栓ダイアフラム41は、ステンレス材で製作される補強用の円環状座金48を挟んで、NBR、EPT等の弾性体によりこの円環状座金48を包み込んでモールド成形される。そして、この円環状座金48の中心孔と同心となって、二次室43側の面に後述するパイロット弁40と接離するシート部aが断面円錐状に形成され、一次室42側の面に円錐台部49が形成され、円錐台部49の外側に水室弁座45に接離するシート面bが一体形成される。尚、円錐台部49は、水室弁座45がシート面bに当接するときに水室弁座45の中心孔内に入り込んで流路を絞ることにより開閉時の水撃音発生を防止する。
【0014】小孔47が開口する水栓ダイアフラム41の一次室42側の面には、小孔47を中心孔として一次室42側に延びる円筒状のガイド部50が設けられる。このガイド部50は、組み付けの際に、通水入口51内に入り込み水栓ダイアフラム41を位置決めする。また、水栓ダイアフラム41の二次室43側には、パイロット孔46を開閉するパイロット弁40と、パイロット弁40を閉弁方向に付勢するばね40aとが設けられる。パイロット弁40は、スピンドル38を介して水栓24の外部から開閉操作が行われるように、手動操作と連動するレバー39により開閉される。また、通水入口51上流の水入口には、水フィルタ52aを備えた水入口接手52が設けられ、水入口接手52に給水配管33が接続される。この給水配管33途中には、湯沸器への流路を開閉する給水元栓31と、給水元栓31下流の水を抜く水抜栓32が設けられる。
【0015】水圧応動装置10と水栓24とは、樹脂材料で一体的に成型された水側ケーシング8(図6?図8)に組み込まれ、水側ケーシング8にビス止めされるケーシング蓋6も樹脂材料で成型される。樹脂材料は、水にぬれにくいため、水と樹脂表面との接触角が大きくなり、丸く高さの高い水滴になり、この水滴が通水路の開口面積を狭めることになる。特に、水側ケーシング8で水の抜け難い箇所は、水平方向の流路となる通水入口51と、ベンチュリー2端部近傍の段差と、小さい隙間のある水栓42の一次室42とである。即ち、図2に示すように、ベンチュリー2は斜めに設けられているものの、スロート径が小さいため水が流れ難くなり、ベンチュリー2端部と給水管2dとの接続段差に水膜ができ易い。また、水栓24の一次室42へ連通する通水入口51は、水平方向の流路となるため、下方から開口する孔3aとの境に水膜ができ易く、水栓ダイアフラム41の一次室42に開口する通水入口51の口元に、水膜ができ易い。
【0016】そこで、ベンチュリー2端部の右半分を切り欠き、図3および図8に示すように、右半分の端部を左半分より3mmほど低くなるように切り欠く(切欠2c)。また、水平方向の通水入口51に下方から開口する孔3aを円形の孔ではなく、図7に斜線で示すように、孔3aの1/4分割分だけ径を拡大するように切り欠く(切欠3a)。更に、図6に斜線で示すように、水栓ダイアフラム41の一次室42に開口する水平方向の通水入口51の口元を左片側に切り欠いて拡げる(切欠3b)。」

・「【0020】次に、凍結による破損を防止するための水抜きについて説明する。排水栓19を開栓すると、加熱経路7aと導通路2bの水がダイアフラム12の一次室16と二次室21を経て器体外へ排水される。また、上流の給水元栓31を閉じて水抜栓32を開け、水栓ダイアフラム41のパイロット弁40を開けると、給水元栓31下流から水圧応動装置10までの水が水室弁座45を経て水抜栓32から外部に排水される。この時、水栓ダイアフラム41の二次室43側の水は、排水によって引っ張られるバキューム力により、パイロット孔46から空気を流入しながら、下方の小孔47からガイド部50を経て水抜きされる。
【0021】この水抜きの場合に、従来では図5に示すように、通水入口51に下方から開口する孔3cが円形であるため、内面形状に沿って放射状に表面張力が働き、水自身の重力や、バキューム力があっても均一に応力が分散されるため、表面張力により水膜ができていた。これに対して本実施例では、水平方向の通水入口51に1/4分割分だけ孔3aを切り欠き(切欠3a)、左右非対称に開口しているため、排水される水のバキューム力や水の重力が、切欠3aの角に集中することになり(図4)、水膜は角から崩れて通水路内下方に誘導されて流される。
【0022】更に、水平方向の通水入口51では、水栓ダイアフラム41の一次室42に開口する通水入口51の口元を片側に拡げているため(切欠3b)、排水される水のバキューム力や水の重力が、水膜の左右にアンバランスに働くことになり、水膜は崩れて通水入口51内に誘導される。
【0023】また、ベンチュリー2端部では、右半分が切り欠かれ(切欠2c)、開口周長さが大きくなり、排水される水のバキューム力や水の重力が、水膜の左右にアンバランスに働くことになり、水膜は崩れてベンチュリー2内に誘導される。
【0024】以上のように、水の残り易い流路部分に左右非対称に切欠が形成されるため、水に働く水自身の重力や下方からのバキューム力により生じた応力および表面張力がアンバランスに働いて水が流れ易くなる。その結果、流路に樹脂材料を用いても、器体内に残った水が凍って流路を塞ぐことが無くなり、水抜きしてから凍結雰囲気に放置した後に問題なく湯沸器の再使用ができる。
【0025】以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、切欠は、左右非対称形状であれば、どのような形状であっても良い。」

(4)甲第6号証
本件特許出願前の昭和60年11月11日に頒布された刊行物である特開昭60-226699号公報(甲第6号証)には、以下の事項が記載されている。
・「産業上の利用分野
本発明は、水または水蒸気を熱媒とし、複数の伝熱管とそれらを接合するヘッダーによって構成される熱交換器に関するものである。
従来例の構成とその問題点
従来の水または水蒸気を熱媒とし、伝熱管の両端にヘッダーを接合する構成とした熱交換器において、この種の伝熱管とヘッダーの接合部は第1図及び第2図に示す如く、上・下ヘッダー1a、1bに先端を垂直に切断した伝熱管2を挿入して接合する構造が用いられており、伝熱管2内の熱媒または水蒸気ドレン水3を滞留することなく排出させるために、多少の勾配を持たせて設置されるが、充分な勾配が取れない場合に、伝熱管2と下ヘッダー1bの接合部Aに形成される熱媒または水蒸気ドレン水3の表面張力のために伝熱管2の内部に滞留することがあり、気温が下がりその雰囲気の温度が氷点以下になった時に、滞留した熱媒または水蒸気ドレン水3が凍結して伝熱管2や下ヘッダー1bとの接合部Aなどを変形または破損に至らしめることがある。
発明の目的
本発明は上記従来の欠点を解消するもので、熱交換器の外観形状及び熱交換性能を変えることなく、伝熱管とヘッダーの接合部に作られる熱媒またはドレン水の表面張力を弱めて、伝熱管内部に熱媒またはドレン水を滞留させることなくヘッダーに流出させることを目的とする。
発明の構成
上記目的を達するため、本発明の熱交換器は、複数の伝熱管とそれらを接合するヘッダーを備え、前記伝熱管内部の水または水蒸気などの熱媒及びドレン水を自然落下で排出する側の接合部において、先端に切欠きを設けた伝熱管をヘッダー内部に突出するように挿入して接合する構成であり、接合部の熱媒及びドレン水の表面張力を弱めて、伝熱管内部に滞留させることなく、下流側のヘッダーに流出させる効果を有するものである。
実施例の説明
以下本発明の一実施例を第3図により説明すると、この図は前記従来例第1図と外観を同じくする空気-水または空気-水蒸気の熱交換器のA部詳細断面図であり、先端を鋭角に複数個切断した切欠き部4を設けた伝熱管2を下ヘッダー1b内部に突出するように挿入し、5に示す位置で溶接して接合する熱交換器である。
かかる構成にすれば、自然落下により水または水蒸気ドレン水3を排出する際に、その接合部の伝熱管先端に作られる水の表面張力が弱まり円滑に下ヘッダー1b内に水または水蒸気ドレン水3が流出されることになる。」(第1ページ左下欄第12行ないし第2ページ右上欄第2行)

2.無効理由1について
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載された発明における「大気開放部27」、「逆流水排出口47」はそれぞれ、本件特許発明における「大気開放弁」、「排出口」に相当するものであるから、両者は、「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて給水圧の低下に応動することにより開弁して前記配管を大気に開放することにより前記浴槽から給水管への汚水の逆流を防止する大気開放弁を備えた逆流防止装置において、前記大気開放弁は、中心軸が水平方向になるように形成されて大気へ通じる円管状の排出口を有している逆流防止装置。」で一致しており、以下の各点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明は「排出口は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を外周部に備え」た構成であるのに対して、甲第1号証に記載された発明ではそのような特定がなされていない点。

(相違点2)
本件特許発明は「排出口は、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備え」た構成であるのに対して、甲第1号証に記載された発明ではそのような特定がなされていない点。

上記相違点について検討する。
<相違点1について>
配管を有する部材において、他の配管との接続がなされる管部の排出口の先端外周部に、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面を形成することは、周知の技術(例えば、甲第2号証ないし第4号証を参照のこと。以下、「周知技術」という。)である。
そして、配管を有する部材において、他の配管との接続を容易にするという課題は一般的な課題であり、甲第1号証に記載された発明においても当然考慮されうる課題であるから、当該課題の下で、甲第1号証に記載された発明に、上記周知技術を適用して、相違点1に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

<相違点2について>
甲第5号証には、「水平方向に延びる通水入口51に対し下方から開口する孔3cにおいて、該孔3cの一部を切り欠いた切欠3aを備えている」構成が記載されている。
本件特許発明においては、排出口は中心軸が水平方向になるように形成されており、該排出口の先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を設ける構成であるのに対し、甲第5号証に記載の通水入口51の水排出のための開口部(孔3c)は垂直方向に形成されており、中心軸が水平方向になるように形成された排出口の構成とは異なる。また、該垂直方向を向いた開口部のどの位置に切り欠き部を設けようとも、「重力方向下方」とはいえない。
したがって、甲第5号証は、本件特許発明の「排出口は、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えている」構成を開示するものではない。
なお、請求人は、甲第5号証について、「口頭審理陳述要領書第6ページの図面(II)のとおり、通水入口51は水平方向を向いており、孔3cとの境界線から先は底面がないので、図示の位置が排出口の先端である。」旨主張しているが、通水入口51の通路中の一断面をもって「排出口の先端」に相当するとすることは技術常識からみて不自然であり、本件特許発明における排出口に相当するものは、垂直方向に形成された孔3cであると認められるので、当該請求人の主張は採用できない。
よって、甲第1号証に記載された発明に、甲第5号証に記載された事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明の構成にはならない。

また、甲第1号証に記載された逆流防止装置は、空気吸入口46と逆流水排出口47とを別個とすることで、逆流水排出口側の水が給水側に逆流しないようにした構成であると認められる。(甲第1号証の段落【0011】等を特に参照のこと。)してみると、甲第1号証の逆流防止装置においては、空気の吸い込みに伴う逆流水排出口の残留水の逆流ということを考慮する必要がなく、逆流水排出口に滞留した水を排出するという課題自体がない。したがって、仮に甲第5号証に相違点2に係る本件特許発明の構成が記載されていたとしても、甲第1号証に記載された発明に甲第5号証に記載された事項を組み合わせる動機付けが存在しない。
なお、請求人は、甲第1号証について、「長時間負圧が続く場合、常に負圧があるので、逆流水排出口からも空気は流入する。」旨主張しているが、甲第1号証に記載された逆流防止装置においては、空気吸入口46が別途設けられているので、上流側の負圧が維持されていたとしても、断面積の大きい空気吸入口46から空気が継続して入ることとなり、逆止弁25の噛み込み等により生じた狭い流路を通じて逆流水排出口47から空気が流入することはほとんどないことから、汚染水が流入することもほとんどないと認められる。さらに、請求人は、口頭審理の場において、逆流水排出口から空気が流入することもあり得るとしか主張しておらず、実際にどのような条件で長時間負圧が続き、さらに、逆流水排出口からの空気の流入に伴い汚染水が流入する事態が発生するのかが具体的に説明されていないことから、上記請求人の主張は採用できない。

したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載の発明と上記周知技術と甲第5号証に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.無効理由2について
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との一致点及び相違点に関しては、(2)無効理由1と同様である。
そして、相違点1の検討は、上記(2)無効理由1の相違点1の検討と同様であるので、相違点2について検討する。

<相違点2について>
甲第6号証には、伝熱管2の先端を鋭角に複数個切断した切欠き部4を設けた構成が記載されており、これは、本件特許発明の構成要件のうち、「排出口は、先端に切り欠き部を備えた」構成に相当する。
しかし、甲第6号証の第2頁左上欄第8ないし9行に「下流側のヘッダーに流出させる」との記載があり、下ヘッダー1bは「下流側のヘッダー」を意味していると解される点や、甲第6号証の第2図の熱媒または水蒸気ドレン水3の態様等を参酌すると、甲第6号証の第3図は平断面図(上からみた断面図)ではなく、側断面図(横からみた断面図)と解釈するのが自然である。してみると、甲第6号証には、伝熱管5の先端の切欠き部が重力方向下方の位置に設けられている構成が記載されているとは認められない。
上記のとおり、甲第6号証は、本件特許発明の「排出口は、先端の重力方向下方の位置に切り欠き部を備えている」構成を開示するものではない。
なお、請求人は、「第3図において、各伝熱管2のうち下ヘッダー1b中に突っ込まれている部分の管壁にはハッチングが付されていないので、切欠4は重力方向下方においても設けられていることは明らかである」旨、主張しているが、図面の記載からは不明瞭であり、切欠き部が重力方向下方に設けられていると判断することはできない。さらに、請求人は、「仮に隣り合う切欠きを切り出した後の肉が重力方向下方に位置していたとしても、この肉の両側に位置する切欠きは実質的に重力方向下方に位置するものであ」る旨、主張しているが、甲第6号証には、切欠き部が具体的にどのような形状であるか示されておらず、図面からも明らかではないので、切欠き部が重力方向下方に位置するものであると認定することはできない。したがって、上記請求人の主張は採用できない。
よって、甲第1号証に記載された発明に、甲第6号証に記載された事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明の構成にはならない。

また、甲第1号証に記載された逆流防止装置は、空気吸入口46と逆流水排出口47とを別個とすることで、逆流水排出口側の水が給水側に逆流しないようにした構成であると認められる。(甲第1号証の段落【0011】等を特に参照のこと。)してみると、甲第1号証の逆流防止装置においては、空気の吸い込みに伴う逆流水排出口の残留水の逆流ということを考慮する必要がなく、逆流水排出口に滞留した水を排出するという課題自体がない。したがって、仮に甲第6号証に相違点2に係る本件特許発明の構成が記載されていたとしても、甲第1号証に記載された発明に甲第6号証に記載された事項を組み合わせる動機付けが存在しない。
なお、請求人は、甲第1号証について、「長時間負圧が続く場合、常に負圧があるので、逆流水排出口からも空気は流入する。」旨主張しているが、甲第1号証に記載された逆流防止装置においては、空気吸入口46が別途設けられているので、上流側の負圧が維持されていたとしても、断面積の大きい空気吸入口46から空気が継続して入ることとなり、逆止弁25の噛み込み等により生じた狭い流路を通じて逆流水排出口47から空気が流入することはほとんどないことから、汚染水が流入することもほとんどないと認められる。さらに、請求人は、口頭審理の場において、逆流水排出口から空気が流入することもあり得るとしか主張しておらず、実際にどのような条件で長時間負圧が続き、さらに、逆流水排出口からの空気の流入に伴い汚染水が流入する事態が発生するのかが具体的に説明されていないことから、上記請求人の主張は採用できない。
さらに、請求人は、甲第6号証の第1実施例(図1ないし図3の実施例)は給湯装置に関する技術分野に属しているので、給湯装置に関する技術分野に属している甲第1号証に記載された発明に適用することができる旨主張しているが、甲第6号証の第1実施例は給湯装置の技術分野のものであるとは認められないので、甲第1号証に記載された発明と甲第6号証の第1実施例が給湯装置という同一の技術分野に属しているとは認められない。なお、請求人は、甲第6号証の第1実施例の「熱交換器」との記載から給湯装置であることが示唆されている旨主張しているが、熱交換器との記載から給湯装置に関する技術分野であるとは認められないから、上記請求人の主張は採用できない。

したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載の発明と上記周知技術と甲第6号証に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.まとめ
以上のとおり、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであるとする請求人の主張は採用することができない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-26 
結審通知日 2013-02-28 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2008-124336(P2008-124336)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 藤井 昇
川口 真一
登録日 2011-10-28 
登録番号 特許第4849644号(P4849644)
発明の名称 逆流防止装置  
代理人 三木 友由  
復代理人 横井 康真  
代理人 松尾 卓哉  
代理人 森下 賢樹  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  
代理人 植村 元雄  

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