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審決分類 審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正しない A23L
審判 訂正 1項2号公然実施 訂正しない A23L
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A23L
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない A23L
管理番号 1273609
審判番号 訂正2012-390113  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2012-09-06 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 特許第3558399号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 審判請求の要旨
本件審判請求の要旨は、特許3558399号明細書(以下、「訂正前特許明細書」という。)を、平成24年11月5日付けで補正された審判請求書に添付した全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものである。

第2 事案の概要及び適用法
ここで、特許第3558399号については、平成23年10月21日に無効2011-800215号が請求され、その審決の確定前に本件訂正審判が請求された。すなわち、本件訂正審判は、平成23年改正法の施行日である平成24年4月1日以前に請求された無効審判であって、その審決が確定していないものに係る特許についての訂正審判である。したがって、本件訂正審判に適用される規定については、平成23年法律第63号附則第2条第19項により、従前の例による。そして、特許第3558399号は平成7年2月8日に出願されたものであるから、平成6年法律第116号附則第6項第1号の規定により、特許の願書に添付した明細書又は図面についての訂正については、同法による改正前の規定が適用される。

第3 訂正の内容
訂正明細書は、平成24年11月5日付けで補正された審判請求書の「3.訂正事項」において、(3-1)?(3-6)で示される訂正事項1?6からなるものである。
そして、本特許権は、無効2011-800215号における訂正請求により、請求項4を削除する訂正がなされ、平成24年5月17日付け審決で訂正を認め、平成24年5月25日に審決が送達され、送達をもって請求項4を削除する訂正は確定している。
そうすると、(3-1)で示される訂正事項1は、訂正前明細書の特許請求の範囲を訂正前の
「【請求項1】高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱飲料の甘味付与方法。
【請求項2】シュクラロースを、0.001重量%から0.5重量%で添加する請求項1記載の高温殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項3】高温加熱殺菌飲料のpHの範囲が4.6以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。」
から
「【請求項1】プレート又はチューブラー式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを0.001重量%から0.5重量%で添加して甘味を付与した後、前記高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項2】プレート又はチューブラー式殺菌により高温加熱殺菌される飲料のpHの範囲が4.6以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。」
に訂正するものである。(下線は訂正箇所を示す。)

第4 訂正拒絶の理由
平成25年2月5日付けで通知した訂正の拒絶の理由(以下、「訂正拒絶理由」という。)の概要は、上記訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものの、平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反するものであるので、上記訂正事項1を含む本件訂正は認められない、というものである。

第5 訂正事項1が特許請求の範囲の減縮に相当するか否かについて
ここで、平成24年11月5日に補正された訂正審判請求書の請求の理由の「4.訂正の原因」の(4-1-1)及び(4-1-2)の記載からも明らかなように、上記訂正事項1のうち、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1に記載する「高温加熱殺菌」を、訂正前明細書の段落【0007】の「本発明における高温加熱殺菌される飲料とは、UHT、HIST、レトルト、オートクレーブ、プレート、チューブラー式殺菌等の高温処理を伴う殺菌方法により殺菌処理される飲料を意味するものである。」という記載に基づいて「プレート又はチューブラー式殺菌による高温加熱殺菌」に限定し、さらに、飲料に対するシュクラロースの添加量を、訂正前の請求項2に記載する「0.001重量%から0.5重量%」に限定するものである。
また、訂正事項1のうち、訂正後の請求項2は訂正後の請求項1の従属項であり、訂正前の請求項3に相当するものである。
よって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、これらの訂正はいずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

そこで、訂正後の請求項1及び2に係る発明が、独立して特許を受けることができるものであるか否かを以下の「第6」及び「第7」で検討することとする。

第6 新規性について
1.本件発明
上記訂正の結果、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】プレート又はチューブラー式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを0.001重量%から0.5重量%で添加して甘味を付与した後、前記高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項2】プレート又はチューブラー式殺菌により高温加熱殺菌される飲料のpHの範囲が4.6以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。」

2.引用例
本件特許の出願前に頒布された刊行物であるCAN.J.PHYSIOL.PHARMACOL,72,p.435-439,"The development and applications of sucralose, a new high-intensity sweetener"(1994年)(本件特許に対する無効審判2011-800215号審決(以下、「先の審決」という。)における甲第1号証に相当)(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(i)「甘味料の開発において、一群のなかで最も有望なものは、4,1’,6’-トリクロロ誘導体である。これは、一般にシュクラロースの名称で知られている。それは、高温・低pHのいずれにおいても抜きんでた安定性と、砂糖に近い甘味特性を有している。
シュクラロースは、その後広く利用されるようになり、カナダでは、SPLENDの商標で一般的に利用されている。」(第436頁左欄第1行?第8行)
(ii)「特定の製品群に添加したときのシュクラロースの分解性を評価するために、通常の製造並びに加工段階での安定性研究が行われた(Qualan & Jenner 1990)。高温、酸性域両方の条件下の水系において、シュクラロースは抜群の安定性を有することが確認された。モデル研究は最初にこの安定性の定量化が行われ(Qualan & Jenner 1989)、次の特定検討は、焼成、低温殺菌、高温殺菌、超高温加工、射出のような加工段階の安定性定量化が行われた。・・・例えば、ケーキ、ビスケット及びグラハムクラッカーの3つのミックスに、^(14)Cを用いて調製した(Barndt and Jackson 1990)、砂糖と等しい甘味のシュクラロースを混ぜ込んだ。ベーキングプロセス後に回収された全ての放射性標識物質は、未変化のシュクラロースであったことから、シュクラロースは、ベーキングプロセスに難なく耐えることができることが実証された(表3)」(第438頁左欄第17行?右欄第21行)
(iii)「保存のために高温処理に頼る食品・飲料における安定性調査の目的で、実際の食品処方を用いて多くの研究が実施された(表4)。製品としては、過酷なpH範囲と温度条件の代表的なものが選ばれた。加工処理は、本来の目的に忠実であるために実際の工業的(生産)設備で行われた。加工処理は、シュクラロースの添加よる影響が殆どなかった(図5)。これらすべてのデーターはこの製品の評価の助力となるようカナダ健康福祉庁に提出された。」(第438頁右欄第22行?第439頁左欄第3行)
(iv)「1991年9月5日に、カナダ総督は13の食品及び飲料のカテゴリーにおけるシュクラロースの使用を認める規則に署名した(表5)。」(第439頁左欄「Approval」項の第1行?第3行)
(v)表4には「バニラミルク」の超高温加熱殺菌(Ultrahigh temperature)(141℃、3.5秒)、「トロピカル飲料」の低温加熱殺菌(Pasteurization)(93℃、24秒)を含む具体的な飲食品における加熱殺菌条件が記載されており、図5では当該条件での加熱前後でシュクラロースの含有量がほぼ変わらないことが示されている。
(vi)表5にはシュクラロースを使用できることが認可された分野として「飲料」との項目があり、最大添加量が0.025%とされている。

上記記載事項(v)及び(vi)により、表4には「バニラミルク」の他「トロピカル飲料」との項目が記載されており、表5に「飲料」との項目が記載されていることから、記載事項(i)?(vi)により、引用例1には「バニラミルク」に限定されず飲料全体を対象として、シュクラロースを添加して高温殺菌すること、添加されたシュクラロースは高温加熱処理に対して安定であることが記載されているものと認められる。
さらに、シュクラロースの最大添加量が0.025%(表5)であることが記載されている。
以上により、引用例1には、「高温加熱殺菌される飲料に、予め最大で0.025重量%のシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌することを特徴とする、高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」が記載されている。

3.対比
本件発明1と引用例1に記載された方法とを対比する。
引用例1におけるシュクラロースの添加量の最大値である「0.025重量%」は、本件発明1の「0.001重量%から0.5重量%」の範囲に含まれるものである。
そうすると、両者は、「高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを0.001重量%から0.5重量%で添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌することを特徴とする、高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」である点で一致し、その一方、前者では高温加熱殺菌の手法が「プレート又はチューブラー式殺菌」と限定されているのに対し、後者ではそのような手法が明記されていない点で一応相違する。

4.判断
本件発明1と引用例1に記載された発明は、高温加熱殺菌の手法の明記の有無で一応相違する。しかし、当業者であれば、ある概念に接した際にその概念を具現する具体的な常套手段まで含めて記載されているに等しい事項として認識できるものであり、「プレート又はチューブラー式殺菌」は、高温加熱殺菌の手法としては常套手段であるから(例えば、「改訂新版 ソフト・ドリンクス」、社団法人全国清涼飲料工業会・財団法人日本炭酸飲料検査協会監修、改訂新版・ソフトドリンクス編集委員会編纂、((株)光琳)、平成元年12月25日発行、546-558頁(先の審決の乙第4号証に相当)及び特開平7-8167号公報(先の審決の甲第4号証に相当)参照)、引用例1における「高温加熱殺菌」との概念に接した当業者は高温加熱殺菌の常套手段である「プレート又はチューブラー式殺菌」も含めて認識できるものといえる。また、このように当業者がきわめて容易に例示し得る各種高温加熱殺菌法については、実質的には選択肢として記載されているに等しいということもできる。
したがって、本件発明1と引用例1に記載された発明の一応の相違点は実質的な相違点とはいえない。
よって、本件発明1は、引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。

5.小括
以上のとおり、本件訂正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記訂正事項1は、平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反するものであるので、上記訂正事項1を含む本件訂正は認められない。

第7 進歩性について
1.本件発明1
上記「第6 3.」における一応の相違点が仮に実質的な相違点であったとした場合に本件発明1が進歩性を有するかどうかについて検討する。
上記「第6 4.」で述べたように、プレート式やチューブラー式殺菌は飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として本願出願日前における周知技術の1つであるから、引用例1に記載された方法における高温加熱殺菌方法としてプレート式やチューブラー式殺菌を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、シュクラロースが高温においてぬきんでた安定性を有することが引用例1に記載されているから、本件発明1が引用例1から予測される以上の顕著な効果を奏するものともいえない。
したがって、本件発明1は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.本件発明2
(1)引用例
本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用例1には、上記「第6 2.」にて摘記した事項に加えて、以下の事項が記載されている。
(vii)「図4はモデル研究を示していて、そこには30℃及び様々なpHにおけるシュクラロースの分解が決定されグラフで表されている(Jenner 1989)。これは、大部分の従来の食品におけるpH域である4.0-7.5及び炭酸飲料やジュース飲料のpHである3.0の2つの広いpH水準をカバーしている。」(第438頁右欄第3行?第8行)

(2)対比・判断
本件発明2と引用例1に記載された方法とを対比すると、両者は、上記「第6 3.」で述べた点に加え、前者ではpHの範囲が4.6以上と特定されているのに対し、後者では特定されていない点で相違する。

上記のpHに関する相違点について検討する。
引用例1には、上記記載事項(vii)に示されるように、大部分の従来の食品におけるpH域である4.0-7.5という広範囲のpH域においてシュクラロースを用いることが示唆されているから、pH4.6以上というそもそも従来の食品のpH域に含まれる範囲においてシュクラロースを添加した高温加熱殺菌法を適用することは当業者が容易になし得ることである。そして、4.6以上のpH域において格別顕著な効果が奏されるものともいえないから、pH4.6以上との特定は技術的な臨界的意義を有さない。
したがって、本件発明2は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.請求人の主張
(1)請求人の主張
請求人は、本件補正の、引用例1に基づく特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に係る独立特許要件について、以下のように主張している。

ア.引用例1に記載された発明で採用される141℃・3.5秒間の加熱殺菌は、いわゆるUHT殺菌と言われる殺菌方法である。UHT殺菌方法には、間接加熱方式であるプレート式、チューブラー式、及び表面かき取り式、並びに直接加熱方式であるインジェクション法及びインフュージョン法の少なくとも5通りの殺菌方法があるところ、本件発明1及び2で採用する「プレートまたはチューブラー式殺菌」はこれらUHT滅菌方法の一部にすぎない。しかも、引用例1には、「トロピカル飲料」を93℃で24秒間、「バニラミルク」を141℃で3.5秒間加熱殺菌することが記載されているのみで、上記のいずれの方法で加熱殺菌するかについては記載も示唆もされていない。(平成24年11月5日付けで補正された訂正審判請求書の第13頁?14頁(2-a))

イ.特開平7-8167号公報(以下、「引用例4」という。)には、UHT殺菌としてプレート状、コイル式チューブ状の表面熱交換器を用いることが記載されているが、引用例4は、UHT殺菌後に甘味料を添加することを記載内容とするものであるから、甘味料を含有する飲料を高温加熱殺菌することを開示する引用例1に、引用例4を組み合わせることは不適当である。(同第14頁(2-b))

ウ.引用例1に記載された発明における「バニラミルク」は、乳タンパク質を含む飲料であるから、プレートの間隙やチューブ内に直接通液して加熱殺菌する「プレート又はチューブラー式殺菌」では、焦げ付きが生じやすいと考えられる。
かかる問題に鑑みれば、引用例1に記載された発明において、「バニラミルク」に対する加熱殺菌方法として、「プレート又はチューブラー式殺菌」という特定の高温加熱殺菌方法を採用しようとする動機付けはない。(同第14頁?第15頁(2-c))

エ.
(1)高温加熱殺菌方法の中でも、プレート式及びチューブラー式殺菌は、焦げ付きやすいとされている高温加熱殺菌方法であり、このことは参考資料6(実験報告書1)(先の審決の乙第7号証に相当)の結果からも明白であるから、本件発明の「高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供する」という目的を達成するうえでは、不適当な高温加熱殺菌方法であると認識される。つまり、プレート式及びチューブラー式殺菌方法が広く知られた高温加熱殺菌方法の一種であったとしても、当業界の技術常識によれば、これを引用例1に記載された発明における高温加熱殺菌方法として採用すると、本件発明の目的に反すると認識される以上、敢えて不適当と認識される高温加熱殺菌方法を採用することはない。
(2)また、引用例4の記載から、甘味料(ショ糖、果糖、ブドウ糖)を添加した乳飲料をUHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられる可能性が窺われるところ、事実、参考資料2(実験報告書2)(先の審決における乙第8号証に相当)に示すように、ショ糖(砂糖)を添加した乳飲料をプレート式UHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられること、つまり、本発明の目的に反することが想定されるから、通常、当業者であれば、当該不適当と認識されるプレート式のUHT殺菌処理を選択することはないと考えられる。
すなわち、本件発明の目的に鑑みれば、引用例1に記載された高温加熱殺菌方法に、引用例4に記載されているプレート式、並びにこれと同じ原理であるチューブラー式殺菌方法を適用するには阻害要因があると認められる。(同第16頁?第19頁(2-d))

オ.本件発明の目的は、従来甘味料として使用されていたショ糖の問題点を解消し、ショ糖と同質の甘味質を与え、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供することである。
そして、甘味料としてシュクラロースを用い、高温加熱殺菌方法としてプレートまたはチューブラー式殺菌を採用することによって、当該目的が達成でき、所望の効果が得られることは、上記「実験報告書1」(先の審決における乙第7号証に相当)及び「実験報告書2」(先の審決における乙第8号証に相当)からも明らかである。つまり、甘味料として砂糖を配合した飲料は、プレート式殺菌により焦げ付きを生じたり、また凝集や沈殿を生じて、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができないのに対して、甘味料としてシュクラロースを配合した飲料は、そういった問題を回避することができる。しかもプレート式殺菌によっても、飲料にショ糖と同質の甘味質を与えることができる。また、かかる効果は、プレート式殺菌と同原理による殺菌方法であるチューブラー式殺菌についても同様に得られるものと認められる。
こうしたシュクラロースを用いた本件発明の効果は、引用例1の記載から当業者が容易に予測することができないものであるし、また、前述するように甘味料を添加する前にUHT殺菌処理することを開示するに過ぎない引用例4を組み合わせても、当業者が容易に予測することができないものである。(同第19頁?第20頁(2-e))

カ.引用例1は、プレート又はチューブラー式殺菌による高温加熱殺菌を開示するものではなく、また、引用例1には、シュクラロースを添加した飲料そのものが高温加熱殺菌処理に対して安定であることについては記載も示唆もされていない。また、甘味料としてシュクラロースを添加した飲料が、プレート又はチューブラー式殺菌をはじめとする高温加熱殺菌処理に対して安定であるという技術常識も本件発明の出願当時存在しなかった。してみれば、引用例1における「高温加熱殺菌」との概念に接した当業者であっても、飲料の安定性を確保しながら甘味を付与するという本件発明の課題を達成する目的で、シュクラロースを添加した飲料の高温加熱殺菌処理として「プレート又はチューブラー式殺菌」を直ちに認識することはできないものである。(平成25年3月11日付け意見書5.(2)本件発明の新規性について)

キ.実験報告書1及び実験報告書2に示すように、甘味料として砂糖を配合した乳飲料及び果汁飲料は、それをプレート式殺菌すると焦げ付きを生じ、また乳飲料は飲料成分が凝集するという問題が発生するのに対して、甘味料としてシュクラロースを配合した飲料は、そういった問題が生じない。シュクラロースを用いることによる本件発明の効果は、単にシュクラロースの高温安定性を開示するにすぎない引用例1の記載から、当業者が容易に予測できないものである。特に、引用例4には、乳蛋白質を含む飲料の問題点として、UHT殺菌することで乳蛋白質が熱変性して沈殿が生じやすくなり、保存安定性が低下することが指摘されているのであるから、甘味料としてシュクラロースを用いることでかかる問題が回避できるという本件発明の効果は、引用例1にさらに本件出願当時の技術常識を考慮しても予想外の効果といえる。(同5.(3)本件発明の進歩性について)

(2)請求人の主張に対する判断
上記請求人の主張について検討する。
ア.上記アの主張について、引用例1にプレートやチューブラー式殺菌について明示的な記載がないとしても、一般的な高温加熱殺菌方法であることから、上記「1.」で述べたとおり、引用例1に接した当業者にはそれを採用する動機付けがある。

イ.上記イの主張において、引用例4における甘味料の添加とUHT殺菌の順序について主張しているが、プレート式やチューブラー式殺菌は飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として本願出願日前における周知技術の1つであり、引用例4は高温加熱殺菌の方法としてプレート式やチューブラー式殺菌が周知技術であることについての一例でしかないから、引用例4における甘味料の添加とUHT殺菌の順序が上述した引用例1と周知技術に基づく本件発明の進歩性に関する判断に影響するものではない。

ウ.高温加熱殺菌としてプレート又はチューブラー式殺菌を採用する動機付けはないとする上記ウの主張において、「引用例1に記載された発明における『バニラミルク』は、乳タンパク質を含む飲料であるから、プレートの間隙やチューブ内に直接通液して加熱殺菌する『プレート又はチューブラー式殺菌』では、焦げ付きが生じやすいと考えられる。」と主張しているが、上記「第6 2.」で述べたように、引用例1にはバニラミルクに限らず飲料一般を対象とした発明が記載されていることから、乳タンパク質を含まない他の飲料については、そもそも引用例1に記載された発明における高温加熱殺菌方法として、一般的に知られている高温加熱殺菌方法であるプレートまたはチューブラー式殺菌を採用することは容易といわざるを得ない。

エ.引用例1に記載された発明における高温加熱殺菌方法として、プレート又はチューブラー式殺菌を採用することはないとする上記エ及びカの主張において、請求人は「複数ある高温加熱殺菌方法のなかでも、プレート式及びチューブラー式は、焦げ付きを生じやすい高温加熱殺菌方法である。してみれば、当該高温加熱殺菌方法は、本件発明の『高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供する』という目的を達成するうえでは、不適当な高温加熱殺菌方法であると認識される。」と述べ、また、「引用例1には、プレート又はチューブラー式殺菌による高温加熱殺菌を開示するものではなく、また、シュクラロースを添加した飲料そのものが高温加熱殺菌処理に対して安定であることについては記載されていないから、引用例1における『高温加熱殺菌』との概念に接した当業者であっても、飲料の安定性を確保しながら甘味を付与するという本件発明の課題を達成する目的で、シュクラロースを添加した飲料の高温加熱殺菌処理として『プレート又はシューブラー式殺菌』を直ちに認識することはできない」と述べている。しかし、これはあくまでも請求人が言及している「実験報告書1」のように砂糖等のシュクラロース以外の甘味料を用いた場合のことであり、全く異なる甘味料であるシュクラロースについては引用例1により高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから、プレート式及びチューブラー式が砂糖等の他の甘味料を用いた場合に焦げ付きやすい加熱殺菌方法であるとの事実が、高温で安定であることが知られているスクラロースを添加した飲料についてプレート式及びチューブラー式の加熱殺菌方法を適用することを妨げることになるとはいえない。
また、「引用例4の記載から、甘味料(ショ糖、果糖、ブドウ糖)を添加した乳飲料をUHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられる可能性が窺われるところ、事実、参考資料2(実験報告書2)に示すように、ショ糖(砂糖)を添加した乳飲料をプレート式のUHT殺菌処理をすると、凝集が生じて沈殿やざらつきが生じる。つまり、甘味料を添加した乳飲料をプレート式UHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられること、つまり、本発明の目的に反することが想定される」と主張しているが、この点についても同様に、シュクラロースについては引用例1により高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから、砂糖等の他の甘味料についての事実をもって、当業者にとってシュクラロースを添加した飲料についてプレート式及びチューブラー式の加熱殺菌方法を適用すると本発明の目的に反することが予想されるとはいえず、シュクラロースを添加した飲料についてプレート式及びチューブラー式の加熱殺菌方法を適用することを妨げることになるとはいえない。

オ.本件発明の効果は引用例から当業者が予期できないものであるとする上記オ及びキの主張において、請求人は「甘味料として砂糖を配合した飲料は、プレート式殺菌により焦げ付きを生じたり、また凝集や沈殿を生じて、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができないのに対して、甘味料としてシュクラロースを配合した飲料は、そういった問題を回避することができる。しかもプレート式殺菌によっても、飲料にショ糖と同質の甘味質を与えることができる。」と述べている。
しかしながら、引用例1の上記記載事項(ii)には、シュクラロースは、高温条件下の水系で抜群の安定性を有し、ケーキ等に添加しても焼成の前後で変化しないというベーキングプロセスでの安定性を有する旨の記載もあるところ、この記載はシュクラロースを含む食品を高温に加熱した場合であってもシュクラロースが変化しないことを意味するものと解される。したがって、引用例1に接した当業者は、シュクラロースを添加した飲料を高温加熱殺菌した場合にも甘味度の低下がないこと及び外観に影響を与えないという効果を予測することが可能であると認められる。

また、請求人は、特に、引用例4には、乳蛋白質を含む飲料はUHT殺菌することで乳蛋白質が熱変性して沈殿が生じ、保存安定性が低下することが指摘されているところ、甘味料としてシュクラロースを添加することでかかる問題が回避できるという本件発明の効果は、予想外の効果であることを主張する。
しかしながら、本件特許明細書には、甘味料としてシュクラロースを用いることにより、乳蛋白質を含む飲料において、高温加熱殺菌した場合における乳蛋白質の熱変性による沈殿という問題を回避できることについては記載がなされていないから、このことを本件発明の効果として考慮することはできない。

よって、請求人の主張は採用できない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 むすび
以上のとおり、本件訂正後の請求項1及び2に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記訂正事項1は、平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反するものであり、上記訂正事項1を含む本件訂正は認められない。

なお、他の訂正事項2?6は、訂正明細書の記載を訂正事項1に整合させることを目的とするものであるところ、訂正事項1について訂正が認められない以上、訂正事項2?6についても「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとはいえず、訂正が認められないことは自明である。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-15 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-03-27 
出願番号 特願平7-20368
審決分類 P 1 41・ 856- Z (A23L)
P 1 41・ 112- Z (A23L)
P 1 41・ 113- Z (A23L)
P 1 41・ 851- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
六笠 紀子
冨永 みどり
秋月 美紀子
登録日 2004-05-28 
登録番号 特許第3558399号(P3558399)
発明の名称 高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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