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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A47G
管理番号 1273613
審判番号 無効2012-800132  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-08-27 
確定日 2013-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4942437号発明「高吸水高乾燥性パイルマット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成18年9月20日 本件出願
平成24年3月9日 特許権の設定登録(特許第4942437号 請求項数8)
平成24年8月27日 本件無効審判の請求(請求項1ないし8に係る発明に対して)
平成24年11月2日 答弁書の提出
平成24年11月27日 審理事項通知書
平成24年12月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成25年1月11日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成25年1月25日 第1回口頭審理
平成25年2月15日 上申書(請求人)

なお、上記平成25年1月21日付け口頭審理陳述要領書(第2回)(請求人)は、第1回口頭審理の補正許否の決定において、「審判請求書の要旨を変更するものであって、特許法第131条の2第1項ただし書き各号、及び第2項の規定のいずれにも該当しないので許可しない」とされた。

第2.本件特許発明
特許第4942437号(以下「本件特許」という)の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)

「【請求項1】
基布と多数のパイルを備えてなり、前記各パイルの基部が基布に結合された状態で、前記多数のパイルが基布上に配設されているパイルマットであって、
前記各パイルは、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、
前記パイルの略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成され、
前記パイルの先端部は、パイルを構成する放射状に配された前記フィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなし、
前記パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において内方に向かうほど前記非吸水性のフィラメントが高密度状態となり、前記先端部においても内方に向かうほど前記非吸水性のフィラメントが高密度状態となって、毛管現象により内方に向かう吸水力が作用するよう構成されていることを特徴とする高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項2】
上記パイルが、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものである請求項1記載の高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項3】
上記基布が吸水性繊維からなる請求項1又は2記載の高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項4】
上記フィラメントが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントである請求項1乃至3の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項5】
上記パイルの軸線方向長さが5乃至80mmである請求項1乃至4の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項6】
上記パイルの軸線方向長さが15乃至50mmである請求項1乃至4の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項7】
マット上で上記パイルにより吸水するためのものである請求項1乃至6の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。
【請求項8】
足拭用のものである請求項1乃至6の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。」

第3.請求人の主張
1.主張(概要)
これに対して、請求人は、審判請求書において、本件発明1?8は、甲第1号証?甲第4号証の3記載の発明により、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張した。
さらに、平成24年12月21日付け口頭審理陳述要領書において、甲第5号証、甲第6号証を提出し、平成25年1月21日口頭審理陳述要領書(第2回)において、甲第2号証の1?甲第2号証の2、甲第4号証の4?甲第4号証の9、甲第7号証の1?甲第7号証の7、甲第8号証の1?甲第8号証の3、甲第9号証の1?甲第9号証の2を提出し、平成25年2月15日付け上申書において、甲第10号証を提出して、これら甲第1号証?甲第10号証によって、本件発明1?8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから無効とすべき旨主張した。

2.証拠方法
・請求人は、証拠方法として、以下のものを提出した。
(1)甲第1号証:実願昭58-120517号(実開昭60-29179号)のマイクロフィルム
(2)甲第2号証:BELL MAISON HOME BASE、株式会社 千趣会、2006年8月18日、2006年 秋冬号、表紙、裏表紙、第73ページ,第176ページ
(3)甲第3号証の1:特公昭61-43453号公報
(4)甲第3号証の2:特開平7-3591号公報
(5)甲第4号証の1:実用新案登録第3108152号公報
(6)甲第4号証の2:特開平4-341230号公報
(7)甲第4号証の3:特開平9-173196号公報
(8)甲第5号証:テイボー「TEIBOW 毛細管現象とは?」のウエブサイト(http://www.teibow.co.jp/pen/skill/capillary.html)
(9)甲第6号証:フリー百科事典ウィキペディア「パイル織物」のウエブサイト (http://ja.wikipedia.org/wiki/パイル織物)
(10)甲第10号証:無効2012-800118号 平成25年2月6日付け口頭審理陳述要領書(1)(被請求人 山崎産業株式会社が提出)第7?8ページ

なお、平成25年1月21日口頭審理陳述要領書(第2回)による主張及び証拠方法として提出された甲第2号証の1?甲第2号証の2、甲第4号証の4?甲第4号証の9、甲第7号証の1?甲第7号証の7、甲第8号証の1?甲第8号証の3、甲第9号証の1?甲第9号証の2は、第1回口頭審理における補正の許否の決定により、許可しないものとなったから採用しない。

第4.被請求人の主張(概要)
被請求人は、答弁書及び平成25年1月11日付け口頭審理陳述要領書において、本件発明1ないし8は、甲第1号証?甲第4号証の3記載の発明により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないので、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできないとした。

第5.各甲号証の記載
(1)甲第1号証
請求人の提出した甲第1号証には、以下の記載がある。
ア.「(1)強撚の紡績糸よりなる多数のループパイルを表面に有し、該パイルの両脚部が互いに撚り合わされた撚糸状構造をなしていることを特徴とする敷物。」(明細書第1ページ第5?8行)

イ.「本考案は脱毛の少ない紡績糸使いのパイル敷物に関するものである。
紡績糸使いのパイル敷物で特に高パイル長のパイル敷物では、使用時および洗濯時にうける機械的作用による脱毛が多く種々の対策手段が講じられているが、合理的な方法は確立されていない。現在講じられている代表的な方式はパイル糸を細番手糸の合撚糸使いとすることであるが、十分な効果が達成されておらず、製造コストも高くなる。そこで本考案者は合理的により脱毛の少ないパイル敷物について検討したところ強燃の紡績糸を用いループパイル地を作り、パイルの両脚部が互に撚り合わされた撚糸状構造とするとき、パイル敷物が良好な脱毛抑制効果を有することを見出し、本考案に到達したものである。」
(明細書第1ページ第19行?第2ページ第13行)

ウ.「本考案の敷物は、第1図に例示するように強撚の紡績糸1よりなる多数のループパイル2を表面に有し、該パイルの両脚部3、4が互に撚り合わされた撚糸状構造をなしたものである。図中5は基布、6は接着剤層またはパツキング層を示す。本考案におけるパイル敷物に使用されるパイル糸は、綿紡、スフ紡、梳毛紡、セミ梳毛紡等でつくられた紡績糸で、パイル形成後最終的に撚トルクによりスナールを形成する程度の強撚を施されたものである。」(明細書第2ページ第14行?第3ページ第3行)

エ.「本考案の敷物はパイル糸の強撚構造とパイル脚部の撚り構造により糸中の単繊維の抜けがなくなり、パイルの脱毛をきわめて生じにくいものとなり、パイル長が20mm以上のハイパイル製品において、その効果は顕著である。また、強撚糸をパイル糸として使用しているにもかかわらず、パイル形状に乱れはなく均整なパイル層表面構造となる。」(明細書第5ページ第9?16行)

以上のア.ないしエ.の記載及び第1図の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下「引用発明」という)。
「基布5と多数のループパイル2を備えており、各ループパイル2の基部が基布5に結合された状態で、多数のループパイル2が基布の表面に配設されており、各ループパイル2は、強撚の紡績糸1よりなる脱毛の少ないパイル敷物。」

(2)甲第2号証
請求人の提出した甲第2号証には、以下の記載がある。
オ.甲第2号証第73ページ下半分には、リビングなどに敷く敷物の写真とともに、「04.シャンパンゴールド」と記載されており、同ページ下半分左上には、「04.独特のふわふわとした質感で手触りも抜群なレーヨンシェニールの太糸を、つややかな光沢とボリューム感が活きた贅沢ラグに仕上げました。ゴージャスな雰囲気のシャンパンゴールドとホワイトの2色です。」の記載とともに、前記敷物の写真の表面拡大写真が掲載されている。さらに、同ページ下半分左下には、「4.レーヨンシャギーのラグ・・品質/レーヨン100%(裏面:不織布)」と記載されている。

カ.甲第2号証第176ページ上半分には、玄関などに敷く敷物の写真が、「01ゴージャスなボリューム感でお出迎え。」、「家族やお客様を心地良く迎えるために、目に入る彩りと足を下ろしたときの気持ちよい感触を大切にしたい。お気に入りを見つけて、個性的な玄関を演出して。」の記載とともに掲載されており、さらに、写真の下部に「01.毛足が長く、しっかりと弾力のあるシェニールシャギーのマット。高級感あふれるモダンな柄は洗練された印象に。プライスも魅力です。」と記載されている。

以上のオ.カ.の記載によると、甲第2号証には、「レーヨンシェニールの太糸をパイル糸として用いたリビングなどに敷く敷物」あるいは、「玄関等に敷くシェニールシャギーのマット」が写真とともに記載されている。

(3)甲第3号証の1
請求人の提出した甲第3号証の1には、以下の記載がある。
キ.「本発明はシエニール織編物を構成するシエニール糸の芯糸、又は芯糸および花糸が主として単糸繊度0.9デニール以下の極細繊維から構成されていることが必要である。」(公報第2欄第9?12行)

ク.「また本発明のシエニール糸を構成する芯糸、又は芯糸および花糸が紡績糸であることが必要である。紡績糸を用いることにより、シエニール糸を作る工程で花糸を特殊なナイフでカツトするが、繊維長が短かく、繊維がランダムに構成されていることからカツト性が良好となるのである。またカツトした面の繊維がふぞろいとなるため表面光沢がマイルドとなり、やわらかいおちついた独特な光沢となる。また紡績糸であるためにふくらみ感のある柔かい構造となり本発明の目的である高級シエニール織編物が得られるのである。紡績糸は単糸使いでもよいが、双糸または三子または3本以上のヨリ糸を用いてもよく特に限定されず目的に応じて任意に選択できる。」(公報第2欄第20行?第3欄5行)

ケ.「花糸に用いる紡績糸の番手としては、綿番120?10番、メートル番203?17番の範囲が良く特に好ましくは綿番60?25番、メートル番101?42番が良い。綿番120番、メートル番203番以下では紡績加工が困難となり収率が悪くなる点、紡績糸の強力が低いため加工性が劣る点などから使用できない。また綿番10番、メートル番17番以上では花糸密度が粗くなり、均一性の劣るシエニール糸しか得られない。上述したごとく花糸には紡績糸の単糸が好ましく用いられる。」(公報第4欄第21?30行)

コ.「繊維を形成する素材としては、極細繊維となりうる人造繊維であれば何でもよく、例えばポリエチレンテレフタレート、あるいはその共重合体(例えば、5-ソデイウム-スルホイソフタレートのごとき共重合成分など)、ポリブチレンテレフタレート、あるいはその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリアクリロニトリル系ポリマ、再生セルロースなどいずれもが目的に応じ適宜好ましく用いられる。」(公報第4欄第39行?第5欄第3行)

サ.「本発明で得られた新規なシエニール糸は、織編成しシエニール織編物として用いられるが、その織編組織については特に限定はなく自由に選択できる。例えば織物の場合シエニール糸が極細繊維主体で構成されているため織物のハリ腰、風合の点からヨコ2重組織または裏うち組織のものが好ましい。すなわち極細繊維で構成されているシエニール糸を織編物の表面に多く出す組織がシエニール織編物の風合、表面タツチ、光沢などの本発明の目的、効果を発揮し高級シエニール織編物となしえるのである。」(公報第5欄第12?22行)

シ.「かかる新規なシエニール糸を用いたシエニール織編物はブレザー、コート、ワンピース、スカート、ズボンなど婦人、紳士、子供用のあらゆる衣料用途に好ましく用いられる。その他家具、建装、壁装、シート、袋物などあらゆる産業資材用途にも好ましく用いられる。」(公報第5欄第40行?第6欄第1行)

ス.「この紡績糸を双糸加工し、30S/2とし芯糸に用い、花糸としてはポリエチレンテレフタレートの2d×51mmのステープルからなる30Sの紡績糸を用いた。」(公報第6欄第16?19行)

セ.「かくして得られたシエニール織物は表面タツチで極めてスムースで柔軟であり、反撥性がありしかもドレープ性に優れた、絹様の審美的な極細特有の表面光沢、しかも花糸の抜けにくい耐久性に優れた高級シエニール織物であつた。」(公報第8欄第19?23行)

以上、キ.ないしセ.の記載、第1、2図の記載を総合すると、甲第3号証の1には、次の発明(以下「甲第3号証の1記載の発明」という)が記載されている。
「シエニール織編物を構成するシエニール糸の芯糸、又は芯糸および花糸が単糸繊度0.9デニール以下の極細繊維からなる紡績糸であって、紡績糸がポリエチレンテレフタレートからなること。」

(4)甲第3号証の2
請求人の提出した甲第3号証の2には、以下の記載がある。
ソ.「【請求項1】 グラウンド糸(32、67、69、A,B)とシェニール糸(37、65、Ch)とを含み、シェニール糸が完全ループステッチとして布帛に編み込まれることを特徴とする横編み室内装飾用布帛。」

タ.「【請求項11】 ポリエステルパイル(3)が1?4デニール/フィラメントの範囲内の繊維カウントと、1.4?1.75mmの範囲内の長さとを有することを特徴とする請求項9記載のニット布帛。」

チ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は室内装飾用布帛と室内装飾用布帛の製造方法とに関し、特にソフトタッチ又はベロア状感触を有する布帛に関する。」

ツ.「【0020】・・シェニール糸のパイル成分は1デニール/フィラメント?4デニール/フィラメントの範囲内のデシテックスを有し、1.25mm?2.5mm、好ましくは1.4?1.75mmの範囲内の長さを有する。」

テ.「【0034】この布帛はここで述べるように少なくとも1種のシェニール糸によって製造される。シェニール糸の細長いコアを例えばポリエステル又はナイロンのような、適当なポリマー材料から形成することができ、このコアにパイル繊維を付着させる。このパイル繊維も例えばポリエステル又はナイロンのような、適当なポリマー材料から形成することができる。
【0035】・・例えば糸1,2を同時に撚り合わせ、それらの間にパイル繊維3を閉じ込めて糸アセンブリを形成する。・・」

ト.「【0076】使用シェニール糸は好ましくはパイル成分として1?4デニール/フィラメントの範囲内のデニール/フィラメントを有する。・・・」

ナ.「【0079】
【発明の効果】本発明の布帛はソフトタッチの美的表面を有する。」

以上、ソ.ないしナ.の記載、図1、2の記載を総合すると、甲第3号証の2には、次の発明(以下「甲第3号証の2記載の発明」という)が記載されている。
「グラウンド糸とシェニール糸とを含み、シェニール糸が完全ループステッチとして布帛に編み込まれるものであって、シェニール糸のパイル成分は1?4デニール/フィラメントの範囲内のものである横編み室内装飾用布帛。」

(5)甲第4号証の1
請求人の提出した甲第4号証の1には、以下の記載がある。
ニ.「【請求項1】
基布にパイル糸を植糸した室内マットであって、該パイル糸の素材の繊維としてポリエステル及びナイロンで構成される極細繊維を使用した極細繊維マット。」

ヌ.「【0009】
本考案によれば、パイル糸の素材の繊維に極細繊維を含んでおり、毛細管現象により速やかにパイル糸表面の水分がパイル糸側面及び底面に向けて吸水されるため、もともと吸水性に乏しい合成繊維を使用しながら、従来の合成繊維マットに比較して非常に高い吸水性を発揮するマットを提供することが可能となる。従って、キッチンマットやバスマットなど、特に水廻りにおいて使用され吸水機能が要求されるマットにおいて有効に活用できる。・・ 」

ネ.「【0010】
本考案においては、ポリエステル及びナイロンの合成繊維で構成される極細繊維をパイル糸の素材として使用する。構成比率は、ポリエステルが70?80%、ナイロンが20?30%であることが好ましい。この極細繊維1本あたりの太さは1デニール未満であり、一般的にはマイクロファイバーと称される繊維である。」

ノ.「【0017】
本実施例のトイレマットの製造にあたっては、ポリエステル(約75%)及びナイロン(約25%)で構成される極細繊維をパイル糸の素材として使用する。極細繊維は1本当たりの太さが1デニール未満のものであるが、当初1本あたり3デニールの太さの繊維を、染色加工時の特殊処理により、1デニール未満に割繊されたものである。なお、パイル糸(1)を構成する繊維はすべて極細繊維である。
図1に示すように、この極細繊維(2)が撚糸加工されて繊維の束(3)とされ、さらに2本の繊維の束(3)が撚糸加工されてパイル糸(1)が構成される。構成されたパイル糸(1)は、3000デニールの太さを有している。」

ハ.「【0020】
本実施例においては、マットのパイル糸(1)は、素材の繊維として1本あたりの太さが1デニール未満の極細繊維(2)を使用し、2本の繊維の束(3)が撚り合わさって構成されている。・・・・
【0021】
また、1本あたりの太さが1デニール未満という極細繊維(2)を使用しているために、高い吸水機能を発揮することが可能となる。特に、パイル糸の頂部がカットされているカットパイル(4)や外周カットパイル(6)の部分は、吸水性が高い。
表1に吸水速度A法(JIS-L-1907)による吸水性の試験結果を示す。この表から明らかなように、従来のアクリルマットに比べて、本実施例に係るマットは非常に高い吸水性を有している。」

以上の二.ないしハ.の記載及び図1ないし5の記載を総合すると、甲4号証の1には、次の事項が記載されている。
「基布にパイル糸を植糸した室内マットであって、該パイル糸の素材の繊維としてポリエステル及びナイロンで構成される極細繊維を使用することによって非常に高い吸水性を有する極細繊維マット。」

(6)甲第4号証の2
請求人の提出した甲第4号証の2には、以下の記載がある。
ヒ.「【請求項1】立毛繊維と基布を有する立毛布からなり、該立毛繊維および該基布を構成する繊維の両者とも主として1d以下の極細繊維からなり、かつ目付けが150g/m^(2) 以上であることを特徴とする立毛ワイピングクロス。」

フ.「【0014】本発明における毛細管現象とは、固体表面の濡れと、液体の表面張力と、固体の微細間隙とに基づき液体が移動する現象であり、一般に広く理解されている毛細管現象のことである。本発明においては、固体がワイピングクロスを構成している繊維であり、固体の微細間隙とは単繊維間の空隙となる。
【0015】該毛細管現象を生ぜしめるためには、繊維間隙は狭いほど一般に効果は高く、そのためには繊維自身が細いほど好ましくなる。特に水分を移動させる点からは移動させたい場所の空隙体積が小さいほど好ましく、立毛繊維の繊度が小さいほど、また立毛密度が高いほどその効果が高い。・・」

ヘ.「【0020】さらに、本発明におけるワイピングクロスにおいては、被拭き取り物に接触する繊維近くに存在する水分は、速やかに毛細管現象により被拭き取り物から遠ざかることが好ましい。この点からは、被拭き取り物に接触する繊維は非吸湿性繊維であることが好ましい。・・・」

以上のヒ.ないしヘ.の記載を総合すると、甲第4号証の3には、次の事項が記載されている。
「立毛繊維と基布を有する立毛布からなり、該立毛繊維および該基布を構成する繊維の両者とも主として1d以下の極細繊維からなり、かつ目付けが150g/m^(2)以上であって、被拭き取り物に接触する繊維近くに存在する水分を、速やかに毛細管現象により被拭き取り物から遠ざけることを特徴とする立毛ワイピングクロス。」

(7)甲第4号証の3
請求人の提出した甲第4号証の3には、以下の記載がある。
ホ.「【請求項1】基布上に多数のパイルが立設されてなるタフトマットであって、前記基布は、その少なくとも上側部が高吸水性であり、前記パイルは、実質的に吸水性を有しないか又は吸水性が低い繊維からなり、毛細管現象によりパイルを介して水分を基布に吸収することを特徴とするタフトマット。」

マ.「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明のタフトマットは、基布上に多数のパイルが立設されてなるタフトマットであって、前記基布は、その少なくとも上側部が高吸水性であり、前記パイルは、実質的に吸水性を有しないか又は吸水性が低い繊維からなるものであり、毛細管現象によりパイルを介して水分を基布に吸収するものである。」

ミ.「【0014】この例においては、吸水性ポリエステル繊維不織布製の基布10に対し、実質的に吸水性を有しないか又は吸水性が低い繊維からなる多数のナイロン糸製のパイル12が植設されている。これらのパイル12はループパイルであるが、カットパイルを採用することもできる。」

以上のホ.ないしミ.の記載及び図1の記載を総合すると、甲第4号証の3には、次の事項が記載されている。
「基布上に多数のパイルが立設されてなるタフトマットであって、前記基布は、その少なくとも上側部が高吸水性であり、前記パイルは、ナイロン糸製であって実質的に吸水性を有しないか又は吸水性が低い繊維からなり、毛細管現象によりパイルを介して水分を基布に吸収することを特徴とするタフトマット。」

(8)甲第5号証
請求人の提出した甲第5号証には、毛細管現象につき、「毛細管現象とは繊維と繊維の「すきま」のような細い空間を、重力や上下左右に関係なく液体が浸透していく現象」であることの説明が記載されている。

(9)甲第6号証
請求人の提出した甲第6号証には、パイル織物のパイルにつき、「パイルとは下地から出ている繊維のことで、織った後の処理により2種類に分類される。パイルをループのままにしたものをループパイル(輪奈)またはアンカットパイルといい、ループをカットしたものをカットパイル(切毛)という。」との説明が記載されている。

(10)甲第10号証
請求人の提出した甲第10号証は、被請求人が別事件(無効2012-800118号)において提出した口頭審理陳述要領書であって、「吸水性が全くない合成繊維は存在しないことは当業者の技術常識の範囲内です。」とした上で、「乙8号証(特開2011-207134号公報)における発明の詳細な説明の段落には、吸水率が10重量%未満の樹脂について「非吸水性樹脂」と述べられています。」とし、「以上の点からすれば、請求項8に記載されているフィラメントは、一般の天然繊維やレーヨン等に比し低い、ある程度の吸水性を有するものですが、これを「非吸水性のフィラメント」とすることに差し支えがあるとは認められません。」と記載されている。

第6.当審の判断
1.本件発明1について
(1)請求人の主張する本件発明1を無効とする理由
請求人の主張する本件発明1を無効とする理由は、甲第1号証記載の発明(引用発明)と、甲第3号証の1記載の発明とを組み合わせることにより当業者が容易になし得たものであるというものである。

(2)対比・判断
本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「基布5」は、本件発明1の「基布」に相当し、引用発明の「パイル敷物」は、本件発明の「パイルマット」に相当する。そして、引用発明の「ループパイル2」と本件発明1の「パイル」は、ともに基布の表面に設けられたものであるから「パイル」である点において共通する。

そうすると、両者は、次の点で一致する。
[一致点]
「基布と多数のパイルを備えており、前記各パイルの基部が基布上に配設されているパイルマット」

そして、両者は、次の点で相違する。
[相違点]
本件発明1においては、各パイルが、「略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、
前記パイルの略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成され、
前記パイルの先端部は、パイルを構成する放射状に配された前記フィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなし、
前記パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において内方に向かうほど前記非吸水性のフィラメントが高密度状態となり、前記先端部においても内方に向かうほど前記非吸水性のフィラメントが高密度状態となって、毛管現象により内方に向かう吸水力が作用する高吸水高乾燥性パイルマット」であるのに対して、引用発明においては、パイルが「強撚の紡績糸1よりなる脱毛の少ないパイル敷物」である点。

以下、相違点について検討する。

a)請求人は、審判請求書(第8ページ第11?13行ほか)において、本件発明1は、甲第1号証記載の発明(引用発明)と、甲第3号証の1記載の発明とを組み合わせることにより、当業者が容易になし得たものであると主張しているので、まず、引用発明のループパイル2に代えて甲第3号証の1記載の発明におけるシエニール糸を採用することが当業者にとって容易になし得たものか判断する。
引用発明は、強撚の紡績糸1よりなる脱毛の少ないパイル敷物に関するものであって、上記「第5.(1)、ウ.、エ.」の記載からみて、ループパイル2のパイル糸として、綿紡、スフ紡、梳毛紡、セミ梳毛紡等でつくられた紡績糸に強撚を施したものを採用して、脱毛をきわめて生じ難くするものである。
一方、甲第3号証の1記載の発明は、シエニール織編物を構成するシエニール糸に関するものであって、上記「第5.(3)セ.」の記載からみて、表面タツチで極めてスムースで柔軟であり、反撥性がありしかもドレープ性に優れた、絹様の審美的な極細特有の表面光沢、しかも花糸の抜けにくい耐久性に優れた高級シエニール織物が得られるというものである。
そして、引用発明におけるループパイル2のパイル糸は、靴等で踏まれながら使用されることが予想されるパイル敷物に用いられるものであって、高度の耐久性が求められる状況の下で使用されるものである。一方、甲第3号証の1に記載された発明におけるシエニール糸は、風合いや表面光沢などの審美性を求めた織編物のための糸として用いたものであるから、両者は、適用する技術分野において異なるものである。
さらに、甲第3号証の1記載の発明におけるシエニール糸は花糸を抜けにくくしたものであるが(上記「第5.(3)、セ.」参照)、靴等で踏まれながら使用されることが予想されるパイル敷物と審美性を求めた織編物では求められる耐久性の程度も大きく異なるものと認められる。
また、甲第4号証の1?甲第4号証の3には、パイル糸等において非吸水性の繊維による毛細管現象により吸水することが記載されている。しかしながら、引用発明における敷物のループパイルのパイル糸、甲第3号証の1記載の発明における織編物のシエニール糸は、吸水性が必ずしも要求されるものとは限らないから、甲第4号証の1?甲第4号証の3に記載された事項が、引用発明に甲第3号証の1記載の発明を組み合わせる動機付けになるとはいえない。
甲第2号証の記載を検討しても、甲第2号証には、レーヨンシェニールの太糸をパイル糸として用いた敷物が記載されているのみであって、引用発明における敷物のループパイルのパイル糸を甲第3号証の1記載の発明における織編物のシエニール糸に置き換えるための動機付けとなる事項については記載されていない。
他に、引用発明における敷物のループパイル2のパイル糸を、甲第3号証の1記載の発明における織編物のシエニール糸に置き換えるための動機付けもない。

よって、引用発明における敷物のループパイル2のパイル糸を、甲第3号証の1記載の発明における織編物のシエニール糸に置き換えることが甲第4号証の1?甲第4号証の3及び甲第2号証の記載内容を考慮したとしても当業者にとって容易であるとはいえない。

b)以上のとおりであるが、仮に、引用発明におけるループパイル2のパイル糸を、甲第3号証の1に記載された発明におけるシエニール糸に置き換えることが動機付けられるとして、以下検討する。
甲第3号証の1記載の発明におけるシエニール糸は、芯糸と、単糸繊度0.9デニール以下のポリエチレンテレフタレートの極細繊維を紡績した花糸で構成され、紡績した花糸は短繊維を撚り合わせたものであって、短繊維同士の隙間に吸水されることにより、花糸自体が吸水性を有するものとなると認められる。さらに、花糸に用いる紡績糸の番手は、「第5.(3)ケ.」に記載されているように、綿番120?10番、メートル番203?17番(約44?531デニール)と、本件発明1のフィラメントが0.05乃至0.8デニールであることに比べると、異なる数値範囲となっている。
そして、本件発明1は、「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密接され且つ軸線方向に密接されてな(る)」という構成により、「比較的多量の水を各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸水し得る」かつ、「水分を吸収した状態のパイルの先端部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい」という格別の作用効果を奏するものである。
ここで、請求人は、甲第3号証の1の記載における花糸と花糸との間の間隙に毛管現象が生じること、隙間が糸の外方から内方に向かって小さくなることをもって、本件発明1と同様の高吸水高乾燥性の作用が生じる旨の主張をしている(平成24年12月21日付け口頭審理陳述要領書第6ページ第3?18行、平成25年2月15日付け上申書参照)。しかしながら、甲第3号証の1記載の発明における花糸1自体が吸水するのに加えて、さらに花糸1と花糸1との間の間隙にも毛管現象が生じて吸水作用が生じるということが全ての証拠を参酌しても十分立証されているとはいえないから、請求人の上記の主張は採用できない。
よって、甲第3号証の1記載の発明におけるシエニール糸における花糸は、本件発明1のフィラメントと比べてデニール数の数値範囲が異なり、さらに非吸水性であるともいえないから、本件発明1のフィラメントと同じものに相当するとはいうことができないので、引用発明におけるループパイル2のパイル糸を、甲第3号証の1に記載された発明におけるシエニール糸に置き換えたとしても、本件発明1に到達することができたともいえない。

c)小括
以上のとおり、本件発明1は、引用発明、甲第3号証の2記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたということはできないので、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3)他の証拠について
本件発明1に係る請求人の主張については上記のとおりであるが、念のため他の証拠についても検討する。
a)甲第2号証
甲第2号証には、「レーヨンシェニールの太糸をパイル糸として用いたリビングなどに敷く敷物」あるいは、「玄関等に敷くシェニールシャギーのマット」がそれらの写真とともに記載(「第5.(2)」参照)されており、レーヨンからなるシェニール糸(モール糸)をマットのパイル糸として用いることについて記載されているが、シェニール糸のパイルの先端部や横断面などのフィラメントにより形成される形状につき不明であって、本件発明1の「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメント」については記載がない。

b)甲第3号証の2
甲第3号証の2には、シェニール糸が布帛に編み込まれた横編み室内装飾用布帛であって、ポリエステルまたはナイロンからなるシェニール糸のパイル成分は1?4デニール/フィラメントの範囲内であることについて記載されているが、本件発明1の「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されている高吸水高乾燥性のパイルマット」については記載がない。

c)甲第4号証の1?甲第4号証の3
甲第4号証の1、甲第4号証の3には、毛管現象による吸水性を利用したパイルを備えたマット、甲第4号証の2には、毛管現象により吸水する立毛ワイピングクロスが記載されているが、いずれにも、本件発明1のパイルマットにおける「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設」することにより高吸水高乾燥性を得ることの記載がない。

d)甲第10号証
甲第10号証は、フィラメントに用いられる合成繊維の吸水性に関するものであるが、被請求人が別事件において主張したものであり、本件発明1におけるフィラメントを「非吸水性」のものとして認定できることに変わりはない。

e)平成25年2月15日付け上申書(請求人)に記載の周知文献
平成25年2月15日付け上申書(請求人)において、シェニール糸(モール糸)に毛管現象が生じることが本件特許出願前に周知の事項であることを主張するために、特開2002-105884号公報、特開平11-50385号公報、特開2000-226787号公報、特開2000-61694号公報、特開平11-300113号公報、特開平11-300114号公報、実公平8-6819号公報、特開2002-371451号公報を周知文献として挙げている。しかしながら、これら周知文献のいずれにも、本件発明1のパイルマットにおける「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設」することにより高吸水高乾燥性を得ることについての記載はない。

以上のとおりであるから、請求人の提出した上記他の証拠を参酌しても本件特許1の「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密接され且つ軸線方向に密接されてな(る)」という構成を採用すること、及びその構成により「比較的多量の水を各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸水し得る」かつ、「水分を吸収した状態のパイルの先端部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい」という格別の作用効果を奏することについて記載ないし示唆を見い出すことはできない。

2.本件発明2?8について
(1)請求人の主張する本件発明2?8を無効とする理由
請求人の主張する本件発明2?8を無効とする理由は、引用発明、甲第3号証の1記載の発明と、甲第4号証の3記載の発明とを組み合わせることにより、当業者が容易になし得たというものである。

(2)小括
本件発明2?8は、いずれも本件発明1あるいは、本件発明1を引用する本件発明2?6を引用するところ、本件発明1は、上記のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、本件発明2?8は、引用発明、甲第3号証の1記載の発明と、甲第4号証の3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法においては、本件発明1?8の特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-05 
結審通知日 2013-03-14 
審決日 2013-03-26 
出願番号 特願2006-254890(P2006-254890)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大瀬 円  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 横林 秀治郎
松下 聡
登録日 2012-03-09 
登録番号 特許第4942437号(P4942437)
発明の名称 高吸水高乾燥性パイルマット  
代理人 入江 一郎  
代理人 高良 尚志  
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