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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1273703
審判番号 不服2010-19457  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-27 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 特願2004-559574「抗HIV感染及びエイズ予防・治療における一組のヌクレオチド配列及びその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 1日国際公開、WO2004/055035、平成18年 6月22日国内公表、特表2006-516122〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は,2003(平成15)年12月16日(パリ条約による優先権主張2002年12月18日 中国)を国際出願日とするものであって,平成21年7月15日付で特許請求の範囲の請求項1,7及び8について手続補正がなされたが,平成22年4月21日付で拒絶査定がなされた。これに対し,同年8月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされ,同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2.平成22年8月27日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成22年8月27日付の手続補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明

上記補正により,請求項1について,補正前の
「【請求項1】
抗HIV感染及びエイズ予防・治療するRNAであって,前記RNAは,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列を有する一本鎖RNAと,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列の断片を有する一本鎖RNAと,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列とその相補的な配列とをハイプリッドして形成した二本鎖RNAと,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列の断片とその相補的配列とをハイプリッドして形成した二本鎖RNAとよりなる群から選ばれ,
(1)aucaaugaggaagcugcagaaugg;
(2)gggaagugacauagcaggaacuacuag;
(3)uaaauaaaauaguaagaauguauagcccu;
前記(1),(2)又は(3)に示す配列の断片は,(1),(2)又は(3)に示す配列の19ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の20ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の21ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の22ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の23ヌクレオチド長さの断片,(2)又は(3)に示す配列の24ヌクレオチド長さの断片,(2)又は(3)に示す配列の25ヌクレオチド長さの断片,(2)又は(3)に示す配列の26ヌクレオチド長さの断片,(3)に示す配列の27ヌクレオチド長さの断片,及び(3)に示す配列の28ヌクレオチド長さの断片よりなる群から選ばれ,
(1)に示す配列の19ヌクレオチド長さの断片は,ucaaugaggaagcugcaga,caaugaggaagcugcagaa,aaugaggaagcugcagaau,augaggaagcugcagaaug及びugaggaagcugcagaauggよりなる群から選ばれることを特徴とする抗HIV感染及びエイズ予防・治療するRAN。」から,

「【請求項1】
抗HIV感染及びエイズ予防・治療に用いられるRNAであって,前記RNAは,以下の(3)に示す配列を有する一本鎖RNAと,以下の(3)に示す配列の断片を有する一本鎖RNAと,以下の(3)に示す配列とその相補的な配列とをハイプリッドして形成した二本鎖RNAと,以下の(3)に示す配列の断片とその相補的配列とをハイプリッドして形成した二本鎖RNAとよりなる群から選ばれ,
(3)uaaauaaaauaguaagaauguauagcccu;
前記(3)に示す配列の断片は,(3)に示す配列の19ヌクレオチド,20ヌクレオチド,21ヌクレオチド,22ヌクレオチド,23ヌクレオチド,24ヌクレオチド,25ヌクレオチド,26ヌクレオチド,27ヌクレオチド,及び28ヌクレオチドの長さの断片よりなる群から選ばれることを特徴とする抗HIV感染及びエイズ予防・治療に用いられるRNA。」へと補正された。

また,請求項2について,補正前の
「【請求項2】
前記RNA配列及びその断片が5’末端又は3’末端にヌクレオチドを修飾された請求項1に記載の抗HIVウイルス感染及びエイズ予防・治療における一組のRNA配列及びその断片。」から,

「【請求項2】
請求項1に記載の抗HIV感染及びエイズ予防・治療に用いられるRNAであって,前記(3)に示す配列及び前記19ヌクレオチド?28ヌクレオチドの長さの断片よりなる群から選ばれるその断片が5’末端又は3’末端にヌクレオチドを修飾された配列を有することを特徴とする抗HIVウイルス感染及びエイズ予防・治療に用いられるRNA。」へと補正された。

2.独立特許要件について

上記請求項1に係る補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である(1)乃至(3)に示す配列を有するRNAのうち,(1)及び(2)に示す配列を有するRNAに関する部分を削除する補正であるから,択一的記載の要素の削除に該当し,その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,請求項1についての上記補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)特許法第29条第2項
(1-1)引用例

原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前の2002年11月に頒布された刊行物であるJ.Immunol.,2002.11.01,Vol.169,No.9,p.5196-5201(以下,「引用例2」という。)は,「低分子干渉RNAが媒介するRNA干渉によるHIV-1感染の阻害」と題する論文であり,以下の事項が記載されている。

ア.「この研究において,我々は,永久細胞系及び初期活性化CD4^(+)T細胞における,HIV-1の異なる領域に特異的なsiRNAによるHIV-1の感染及び複製の阻害を示す。」(第5196頁左欄第21?24行)

イ.「siRNAは二つの手法で構築された。第一の方法はssRNA(略)の化学合成を用いた。RNA配列はHIV-1のコアタンパク質Gagの保存された領域及びホタルルシフェラーゼのコード領域に相当した。配列は,luc1が・・・でありgag1が 5'-GAGAACCAAGGGGAAGUGACAdTdT-3' (HXB2 position 1475)であった。」(第5196頁右欄第32?37行)

ウ.「一つはHIV-1コアタンパク質GagをコードするmRNAで,二つ目はホタルルシフェラーゼをコードするmRNAである二つのmRNAが,ルシフェラーゼ-あるいはgag-特異的siRNAと共に293T細胞に導入された。Gagの発現はgagに相同なsiRNAにより減少したがルシフェラーゼの発現には影響しなかった。一方,ルシフェラーゼに相同なsiRNAはGagタンパク質の発現に影響しなかったがルシフェラーゼの活性を阻害した(図1A)。」(第5197頁右欄第10?16行)

エ.「siRNAはルシフェラーゼあるいはHIV-1gagをコードするmRNAからのタンパク質産生を特異的に抑制する。A,293T細胞はgagをコードするmRNA,ルシフェラーゼをコードするmRNA,gag-あるいはルシフェラーゼ-特異的化学合成siRNAが一緒に導入された。24時間後,上清のp24Gagタンパク質の含量がELISAにより分析され,細胞可溶化液はルシフェラーゼ活性が分析された。」(第5197頁 図1 説明文 第1?6行)

オ.「dsRNAがHIV-1複製の抑制に関与していたことを示すために,HIV-1 Ba-Lに感染したU87-CCR5^(+)-CD4^(+)細胞がsiRNAを作成するために使用される化学合成の一本鎖センスあるいはアンチセンスRNAで処理された。HIV-1複製の抑制は細胞がgag特異的dsRNAで処理された場合のみ観察された(図3)。」(第5198頁左欄第45?50行)

カ.「HIV-1複製の抑制はgagに相同なdsRNAを用いた時にのみ観察された。U87-CD4^(+)-CCR5^(+)細胞はHIV-1 Ba-Lに100μl中10ng,456iuで感染された。3日後,細胞は記載された化学合成siRNAで感染され,2日後に上清のp24Gagタンパク質含量が測定された。」(第5199頁 図3 説明文 第1?5行)

キ.「HIV-1特異的なsiRNAはPHA活性化初期CD4^(+)T細胞におけるHIV-1複製を阻害する。A,HIV-1感染していない対象物からのPBMCはPHAで3日間刺激され,洗浄され,IL-2中で培養され,HIV-1-Ba-L(略)で2時間感染された。3日後,細胞はT7RNAポリメラーゼ-転写されたルシフェラーゼあるいはHIV-1特異的siRNAがリポフェクチンとの複合体で導入された(矢印)。B,Aにおいてなされたのと同様にして感染されたT細胞芽球はフルオリン誘導化されたT7RNAポリメラーゼ-転写gag-特異的ssRNAあるいはsiRNAあるいは他のsiRNAで血清存在下リポフェクチン複合体なしで処理された。上清は,示された時点(A)あるいはsiRNA処理後3日(B)で回収され,p24Gagタンパク質含量が測定された。」(第5199頁 図4 説明文 第1?11行)

(1-2)対比・判断

本件補正発明は,その選択肢として,RNAが,(3)に示す配列とその相補的な配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAである場合を包含するものであり,以下,この選択肢の態様(以下,「本件補正発明’」という。)と引用例2に記載された事項を比較する。

引用例2には,HIV-1の感染及び複製をsiRNAにより阻害する方法が記載され(記載事項ア),HIV-1の複製をgagの保存領域に特異的な配列であるgag1(記載事項イ)とその相補鎖からなるsiRNAにより阻害することが記載されており(記載事項ウ乃至カ),本件補正発明’の(3)の配列も同じくHIV-1のgag由来の配列であるから,引用例2に記載のsiRNAは本件補正発明’のHIV-1のgag由来の配列を有するRNAとその相補的な配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAに相当する。
そこで,本件補正発明’と引用例2に記載された事項を比較すると,両者は,抗HIV感染及びエイズ予防・治療に用いられるRNAであって,HIV-1のgag由来の配列とその相補的な配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAである点で共通し,両者は,HIV-1のgag由来の配列が,本件補正発明’は,(3)uaaauaaaauaguaagaauguauagcccuであるのに対し,引用例2には,上記(3)の配列は記載されていない点で相違する。

上記相違点について検討する。

引用例2において,HIV-1の感染及び複製を阻害する目的でHIV-1の遺伝子の種々の領域に相同なsiRNAを調製するにあたり,記載事項イにもあるように,保存領域の配列を選択することは本願優先日前既に周知の手法であったことをふまえると,HIV-1コアタンパク質Gag由来の配列として,gag1の配列以外にも保存領域を決定し,siRNAを調製することは当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件補正発明’の効果について,本願明細書の段落【0025】の表3の番号2には(3)に示す配列の19ヌクレオチドの断片とその相補的配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAであってそれぞれの3’末端にUUの2塩基突出を有する21ヌクレオチドの二本鎖RNA(以下,「配列(3)の3’突出二本鎖RNA」ということもある。)がHIV蛋白の生産量を60-80%の抑制率で抑制したことが示されている。
ここで,二本鎖RNAのRNA干渉作用については,平成24年2月27日付手続補足書の参考資料1(Nature,July 2002,Vol.418,p.244)にも記載されているように,二本鎖RNAとして22ヌクレオチド程度のものが機能することが本願優先日当時の技術常識であったから,本件補正発明’の(3)に示す29ヌクレオチドとその相補的配列との二本鎖RNAが本願明細書の表3に示された配列(3)の3’突出二本鎖RNAと同様の効果を奏するかは不明であり,本件補正発明’が顕著な効果を奏するか不明である。
仮に,本件補正発明’の二本鎖RNAが本願明細書の表3に示された配列(3)の3’突出二本鎖RNAと同様の効果を奏するとしても,該抑制率については,引用例2の図1Aや図3において示されたgag1のsiRNAが奏するp24gagタンパク質の抑制率と比較して格別のものでもないので,本件補正発明’の効果が格別顕著であるとはいえない。
さらに,本件補正発明は,(3)に示す配列の断片とその相補的配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAであって,断片の長さが24ヌクレオチド,25ヌクレオチド,26ヌクレオチド,27ヌクレオチド,及び28ヌクレオチドの長さであるもの,平滑末端であるか突出部分があるか不明なもの,突出部分の長さが特定されていないもの,さらには,(3)に示す配列を有する一本鎖RNA,及び,(3)に示す配列の断片を有する一本鎖RNAのような,明細書において抑制する効果が示された上記配列(3)の3’突出二本鎖RNA以外の様々な構造のRNAを包含している。
一方,本願優先日当時,上記のように,二本鎖RNAについて22ヌクレオチド程度のものがRNA干渉作用を有すること,及び,平滑末端を有する二本鎖RNAと比較して,それぞれの3’末端に2塩基突出を有する二本鎖RNAの方が強い作用を有することが技術常識であったこと(必要ならばGenes & Development,2001,Vol.15,No.2,p.188-200,参考資料1)を考慮すると,24から28ヌクレオチドの配列がハイブリッドを形成した二本鎖RNAや3’突出の無い二本鎖RNA,突出部の長さが不明な二本鎖RNA,あるいは,一本鎖RNAが,実際に効果が示された配列(3)の3’突出二本鎖RNAと同様の効果を奏するか不明である。
よって,本件補正発明の構成全体にわたって当業者が予想できない顕著な効果が奏せられているとはいえない。

したがって,本件補正発明’を選択肢として包含する本件補正発明は,当業者が引用例2に記載された発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

(1-3)審判請求人の主張

審判請求人は,平成22年9月15日付の審判請求書の手続補正書において,配列(3)に由来する二本鎖RNAがHIV蛋白産生に対してきわめて高い抑制率を奏することは,本願明細書の実施例5(表3)に記載の番号2の結果に明示されているから,引用文献1?3に基づく原査定の拒絶理由は全て解消したと主張している(以下,「主張a」という)。

また,平成24年2月24日付回答書において,以下b乃至dの主張をしている。

b.D2(引用例2に相当)が開示した配列と本発明の配列(3)とに同一の断片はない。

c.前置報告書において引用されたD4(国際公開第2000/75370号)は,HIVゲノムに対する特異的なリボザイムの設計に関するものであって,D2の発明とD4の発明とは,根本的に作用のメカニズムの異なる技術に基くものであり,RNA干渉の技術とリボザイムの技術の作用のメカニズムから見れば,両者を互いに組み合せる示唆はない。

d.本発明の配列(3)の効果のデータを評価し,本発明がD2,およびD4に比して顕著な効果を有さないと認定されたが,それらの文献のデータと本発明のデータとは,同じ実験条件で得られたものではなく,それらの間には比較可能性がない。そこで,請求人は,D2中のgag1配列(5'-GAGAACCAAGGGGAAGUGACAdTdT-3'),D4中のGAG1配列(5'UAGUAAGAAUGUAUAGCCCUAC),本発明の配列(3)(uaaauaaaauaguaagaauguauagcccu),およびその断片の,同等条件下における平行的な実験データを提供し,引用文献に記載のオリゴヌクレオチドと比べて,配列(3)およびその断片が,Gagタンパク質の抑制において,顕著で予期できない技術的効果を有することを説明する。【表1】の結果から,本発明の配列(3)を用いれば,Gagタンパク質の抑制において,D2およびD4に示す配列を用いる場合よりも優れた効果を有していることが理解され,特に,本発明はD4に記載の配列を用いる場合に比べて,著しく高い抑制効果を奏している。

上記主張について検討する。

主張a及びbについて,引用例2には,本願配列(3)と同じくHIV-1のgagにおいて保存された配列に由来する二本鎖RNAがHIV蛋白産生を抑制することが示されており,本願優先日前に種々の株のgag配列が周知であったから,公知のgag配列を比較することで他の保存領域を検索して決定することは当業者が周知技術を適用して適宜行う範囲のことである。
そして,その効果について,主張dにあるように,回答書には,(3)の配列及びその断片,引用例2に記載の配列,引用例4に記載の配列を用いて同じ条件で実験を行った場合のタンパク質の抑制率が記載されている。回答書の【表1】によれば,引用例2に記載されたgag1を用いた場合の抑制率は68.5%であるのに対し,配列(3)及びその断片を用いた場合の抑制率は69.9?76.1%であり,69.9%の抑制率などは引用例2と比較して予想できない顕著な効果ともいえない。

主張c及びdのD4に関する主張について,D4の記載を待たずとも,上記(1-2)において述べたように,引用例2の記載及び周知技術から本願配列(3)を選択することは当業者が容易になし得たことである。

よって,上記主張aからdはいずれも採用できない。

(1-4) 小括

したがって,本件補正発明は,当業者が引用例2に記載された発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号

本願明細書の実施例において,配列(3)の3’突出二本鎖RNAがHIV蛋白の生産量を60-80%の抑制率で抑制したことが示されている。
ここで,本件補正発明は,上記配列(3)の3’突出二本鎖RNA以外にも,(3)に示す配列の断片とその相補的配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAであって,断片の長さが24ヌクレオチド,25ヌクレオチド,26ヌクレオチド,27ヌクレオチド,及び28ヌクレオチドの長さであるもの,平滑末端であるか突出部分があるか不明なもの,突出部分の長さが特定されていないもの,さらには,(3)に示す配列を有する一本鎖RNA,及び,(3)に示す配列の断片を有する一本鎖RNAのような,様々な構造のRNAを包含している。
これらについては,上記(1)(1-2)の欄で述べたように,HIVタンパク質の発現を阻害するかどうかも不明である。
仮に,HIVタンパク質の発現を阻害できるとしても,引用例2において,図1や図3において阻害効果が見られたgag1が図4Bにおいて顕著な阻害効果が見られないことからも明らかなように(記載事項キ参照),同じ配列由来の二本鎖RNAであっても用いる細胞や導入する方法により,その阻害効果が異なることが伺えるから,本願明細書の実施例でヒト胎児腎細胞系であるHEK293細胞を用いた融合タンパク質の発現を阻害する系において抑制効果が見られたとしても,実際にT細胞においてHIV-1タンパク質の発現を阻害するかどうか,さらにはHIV-1感染やエイズ予防,治療に用いることができるかどうかは不明であり,それを裏付ける薬理試験の結果などは示されていない。
よって,本件補正発明のRNAを抗HIV感染及びエイズ予防・治療に用いることができるか不明であるから,本願の発明の詳細な説明は,本件補正発明について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,本願は,特許法第36条第4項第1項の要件をみたさない。
また,本件補正発明は本願明細書の記載に裏付けられておらず,その課題を解決できることを当業者が理解できるよう記載されているとはいえないから,本件補正発明は本願の発明の詳細な説明に記載されているものであるとはいえないので,本願は特許法第36条第6項第1号の要件をみたさない。

(3)小括

本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができず,また,本件補正発明について,本願は,特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件をみたさないので,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

3.目的要件について

本件補正により,補正前の請求項2に記載の「一組の」との記載が補正後の請求項2において削除されているが,該補正は請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものでなく,この補正により,請求項2に係る発明は,複数組のRNAを包含し得るものとなり,この補正は,実質上,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである。また,上記補正は特許法第17条の2第4項各号に掲げられた請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。
したがって,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

4.むすび

以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反し,また,同法第17条の2第4項で規定される目的外の補正でもあるので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成22年8月27日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願発明は,平成21年7月15日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その請求項1乃至8に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである(以下,「本願発明」という。)。

「【請求項1】
抗HIV感染及びエイズ予防・治療するRNAであって,前記RNAは,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列を有する一本鎖RNAと,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列の断片を有する一本鎖RNAと,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列とその相補的な配列とをハイプリッドして形成した二本鎖RNAと,以下の(1),(2)又は(3)に示す配列の断片とその相補的配列とをハイプリッドして形成した二本鎖RNAとよりなる群から選ばれ,
(1)aucaaugaggaagcugcagaaugg;
(2)gggaagugacauagcaggaacuacuag;
(3)uaaauaaaauaguaagaauguauagcccu;
前記(1),(2)又は(3)に示す配列の断片は,(1),(2)又は(3)に示す配列の19ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の20ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の21ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の22ヌクレオチド長さの断片,(1),(2)又は(3)に示す配列の23ヌクレオチド長さの断片,(2)又は(3)に示す配列の24ヌクレオチド長さの断片,(2)又は(3)に示す配列の25ヌクレオチド長さの断片,(2)又は(3)に示す配列の26ヌクレオチド長さの断片,(3)に示す配列の27ヌクレオチド長さの断片,及び(3)に示す配列の28ヌクレオチド長さの断片よりなる群から選ばれ,
(1)に示す配列の19ヌクレオチド長さの断片は,ucaaugaggaagcugcaga,caaugaggaagcugcagaa,aaugaggaagcugcagaau,augaggaagcugcagaaug及びugaggaagcugcagaauggよりなる群から選ばれることを特徴とする抗HIV感染及びエイズ予防・治療するRAN。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由2は,本願は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり,理由3は,本願は,その出願の日前の外国語書面出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の外国語書面出願の外国語書面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の外国語書面出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記外国語書面出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないというものである。

(1)特許法第29条第2項について

(1-1)引用例

引用例2の記載は,上記第2の2(1)(1-1)の欄に記載したとおりである。

(1-2)対比・判断

本願発明は,その選択肢として,RNAが(3)に示す配列とその相補的な配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAである場合を包含するものであり,この選択肢と引用例2に記載された事項を比較すると,第2の2(1)(1-2)において述べたのと同様の理由により,引用例2の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)特許法第29条の2について

(2-1)先願

原査定の拒絶の理由で出願3として引用された特願2003-569153号(国際公開第2003/70193号)の出願(以下,「先願」という。)は,平成15年2月20日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年2月20日,3月11日,4月23日,5月29日,6月6日,7月23日,8月21日,8月29日,9月5日,9月9日,2003年1月15日,米国)とする国際出願であって,本願の優先日後の2003年8月28日に国際公開されたものであり,その国際出願日における国際出願の請求の範囲,明細書又は図面(以下,「先願明細書」という。)には,以下の事項が記載されている。

(a)「一つの実施形態では,本発明のsiNA分子は,配列番号1から1604までのいずれかを含む。配列番号1から1604に示される配列は限定ではない。本発明のsiNA分子は連続したHIV配列を含むことができる(例えば,約19-25程度,または約19,20,21,22,23,24または25の連続したHIVヌクレオチド。)。」(第16頁下から2行?第17頁第2行)

(b)「表II:HIV siRNAおよび標的配列
標的配列 配列番号 上側配列 配列番号 下側配列 配列番号
・・・
AUCAAUGAGGAAGCUGCAG 43 AUCAAUGAGGAAGCUGCAG 43」
(第128?129頁 標的配列及び上側配列 配列番号43)

(2-2)先願の優先権主張

先願は,2002年2月20日付米国出願60/358,580号,2002年3月11日付米国出願60/363,124号,2002年4月23日付米国出願60/374,722号,2002年5月29日付米国出願10/157,580号,2002年6月6日付米国出願60/386,782号,2002年7月23日付米国出願60/398,036号,2002年8月21日付米国出願10/225,023号,2002年8月29日付米国出願60/406,784号,2002年9月5日付米国出願60/408,378号,2002年9月9日付米国出願60/409,293号,及び2003年1月15日付米国出願60/440,129号を基礎としたパリ条約による優先権主張を伴うものであるが,これらのうち2002年7月23日付米国出願60/398,036号(以下,「先願優先権基礎出願」という。)の明細書及び図面(以下,「先願優先権基礎出願明細書)という。)において,上記記載事項(b)の配列番号43は先願優先権基礎出願明細書の第80頁に配列番号43として記載されている。また,先願優先権基礎出願明細書第9頁第7?8行には,「他の態様では,本発明は配列番号1-1476を含む群から選択された配列からなるsiRNA分子である」と記載され,同頁第15?18行に「他の態様では,本発明のsiRNA分子は約19から25ヌクレオチド,例えば約19,20,21,22,23,24または25ヌクレオチド,からなるオリゴヌクレオチド間の約19塩基対を含む二本鎖からなる。」ことが記載されているので,先願優先権基礎出願明細書には配列番号43の配列を含むsiRNAであって約19から25塩基を含む二本鎖RNA,すなわち記載事項(a)についても記載されていると認められる。

してみると,先願優先権基礎出願明細書にも,先願明細書の上記記載事項(a)及び(b)が記載されているから,先願明細書の上記記載事項については,先願優先権基礎出願に基づく優先権の利益を享受することができるものである。
したがって,先願は,特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の「当該特許出願の日前の他の特許出願」であって,本願出願後に1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約第21条に規定する国際公開がされた第184条の4第1項の国際出願日における国際出願に相当するものである。

(2-3)本願発明と先願発明との対比・判断

記載事項(a)及び(b)から,先願明細書には,配列番号43を含む20,21,22または23ヌクレオチドのRNAを含む二本鎖RNAが記載されており(以下,「先願発明」とする。),該RNAにおいて配列番号43で特定された19ヌクレオチド以外の部分は,HIV-1由来の周辺配列であるのは自明であるから,先願発明は,(1)aucaaugaggaagcugcagaauggに示す配列の断片を有する一本鎖RNAと,(1)に示す配列の断片とその相補的配列とをハイブリッドして形成した二本鎖RNAであり,前記(1)に示す配列の断片は,(1)に示す配列の20,21,22,23ヌクレオチド長さの断片よりなる群から選ばれることを特徴とする抗HIV感染及びエイズ予防・治療するRNAの発明である本願発明と実質的に区別できない。

(2-4)出願人・発明者について

本願出願時の先願の出願人は,「サーナ・セラピューティクス・インコーポレイテッド」,そして,先願の発明者は,「マクスウィゲン,ジェームズ」,「ベージェルマン,レオニド」及び「メースジャク,デニス」である。一方,本願の出願時の出願人は,「北京昭衍新薬研究中心」,そして,本願の発明者は,「周志文」,「馮宇霞」,「左▲从▼林」及び「李月娟」であり,本願出願時において,本願と先願は出願人及び発明者のいずれも相違している。

(2-5)請求人の主張に対する反論

請求人は,平成21年7月15日付意見書において,請求項1においては,同日付の手続補正により配列(1)(SEQ ID NO:1)が出願3(「先願」に相当)に記載の配列番号43とは別異のものであることを明確にしたこと,「分子生物学分野では,ヌクレオチド配列の同一か否かを量る基準は,主に,被比較のヌクレオチド配列の長さ及び/又はヌクレオチド排列順番が同一になるか否かによります。長さに1の塩基の差異或いはヌクレオチド排列順番に1の塩基の差異によって,極大な差異を招きます(例えば,フレームシフト変異,点変異など)。」と主張している。

上記主張について検討すると,上記補正により配列(1)に示す配列の断片のうち,19ヌクレオチドの断片については先願発明の配列番号:43と異なるものに限定されたが,上記(2-3)の欄に記載したように,先願発明の20から23ヌクレオチドの断片については依然として本願発明と区別できない。そして,物質として同一であれば当然その機能も同一であるから,本願発明と先願発明との同一性の判断において,その機能については検討するまでもない。
したがって,審判請求人の上記主張は採用できない。

(2-6)小括

以上のとおりであるから,本願発明は,先願の特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって,しかも,本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時に,その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので,本願発明は,特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,また,特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-27 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2004-559574(P2004-559574)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 16- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮岡 真衣上條 肇森井 隆信  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 六笠 紀子
鵜飼 健
発明の名称 抗HIV感染及びエイズ予防・治療における一組のヌクレオチド配列及びその応用  
代理人 筒井 知  
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