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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1273737
審判番号 不服2012-3729  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-27 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 特願2009- 76798「有機発光ディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日出願公開、特開2009-289740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年(2009年)3月26日(パリ条約による優先権主張 平成20年5月28日 大韓民国)を出願日とする特願2009-76798号であって、平成23年4月11日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年10月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年2月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成24年7月25日付けで前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなし、同年10月29日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年2月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年2月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年8月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「基板上に形成された第1電極層、前記第1電極層上に形成された第2電極層、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成される有機層を持つ有機発光部を備える有機発光ディスプレイ装置において、
前記有機層と前記第1電極層との間に形成される第1補助電極層を備え、
前記有機発光部は第1画素部、第2画素部、及び第3画素部を持ち、
前記画素部のうち、少なくとも一つの画素部は、前記有機層と前記第1補助電極層との間に形成された第2補助電極層を持ち、
前記画素部それぞれで発生する光が共振効果を奏するように、前記画素部に形成され 前記第2補助電極層の厚さは互いに異なって形成され、
前記第1補助電極層は、透明電極中に形成される有機発光ディスプレイ装置。」が

「基板上に形成された第1電極層、前記第1電極層上に形成された第2電極層、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成される有機層を持つ有機発光部を備える有機発光ディスプレイ装置において、
前記有機層と前記第1電極層との間に形成される第1補助電極層を備え、
前記有機発光部は第1画素部、第2画素部、及び第3画素部を持ち、
前記画素部のうち、少なくとも一つの画素部は、前記有機層と前記第1補助電極層との間に形成された第2補助電極層を持ち、
前記画素部それぞれで発生する光が共振効果を奏するように、前記画素部に形成された前記第2補助電極層は、各電極層毎に厚さが互いに異なって形成されるとともに、前記第3画素部となる青色画素について選択的に設けられ、
前記第1補助電極層は、透明電極により形成される、有機発光ディスプレイ装置。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、「第2補助電極層」について「各電極層毎に厚さが互いに異なって形成されるとともに、前記第3画素部となる青色画素について選択的に設けられ」ることを限定する補正事項、及び、「第1補助電極層」について、補正前は「透明電極中に形成される」とあったのを「透明電極により形成される」として意味を明瞭にする補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正を含むものであるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とする補正事項を含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成24年2月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-26852号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

「【請求項1】
基板上に、第1電極及び第2電極に挟持された発光機能層を有する画素と、複数の前記画素からなる単位画素群を備える有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記単位画素群における複数の前記第1電極の各々は、
エッチング選択性が異なる複数の導電膜のうち、単独又はその組み合わせによって形成されていること、
を特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記導電膜は、透明性導電膜であること、
を特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記複数の前記第1電極は、膜厚が異なること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記複数の第1電極のうち、
前記エッチング選択性が異なる複数の導電膜の組み合わせからなる第1電極は、
前記基板側に形成された第1導電膜と、
当該第1導電膜に積層され、かつ、当該第1導電膜よりもエッチング選択性が高い第2導電膜と、
によって形成されていること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記基板と前記第1電極との間には、反射膜が形成されていること、
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記複数の画素の各々は、異なる色を出射すること、
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記複数の画素の各々において、
前記発光機能層は異なる色波長の発光光を出射すること、
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
前記複数の画素の各々において、
前記発光機能層に対向配置された複数色の着色層を備えること、
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項9】
基板上に、第1電極及び第2電極に挟持された発光機能層を有する画素と、複数の前記画素からなる単位画素群を備える有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記単位画素群における複数の前記第1電極の各々を形成する第1電極形成工程は、
エッチング選択性が異なる複数の導電膜のうち、単独又はその組み合わせによって前記複数の第1電極を形成すること、
を特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1電極形成工程は、
前記基板上に第1導電膜を成膜してパターニングする第1工程と、
当該第1工程によってパターニングされた第1導電膜上及び前記基板上に、前記第1導電膜よりもエッチング選択性が高い第2導電膜を成膜して、当該第2導電膜をパターニングする第2工程と、
を含むこと、
を特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたこと、
を特徴とする電子機器。」

「【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法、及び電子機器に関するものである。」

「【0010】
また、複数の第1電極は、複数の導電膜のうち、単独又はその組み合わせによって形成されているので、導電膜の単層構造や、複数の導電膜の積層構造によって構成されたものである。また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記導電膜は、透明性導電膜であることを特徴としており、前記複数の前記第1電極は、膜厚が異なること、を特徴としている。
従って、複数の第1電極は、膜厚が異なると共に、透明性を有するものとなり、光共振器として機能させることができ、光共振器の光学長を画素毎に異ならせる(調整する)ことができる。例えば、長波長(例えば赤色光)の発光を行う画素の第1電極の膜厚を長くして、その光学長を合わせることができ、短波長(例えば青色光)の発光を行う画素の第1電極の膜厚を短くして、その光学長を合わせることができる。
また、光学長を長くするには、複数の導電膜を積層して形成し、一方、光学長を短くするには、複数の導電膜のうち導電膜を単層で形成することで光学長を調整できる。また、導電膜を単層で形成する場合の中でも、要求される光学長を考慮して、厚膜又は薄膜の単層膜を選択することで、光学長を調整できる。また、要求される光学長を考慮して、複数の導電膜の各膜厚を成膜の際に、厚膜化或いは薄膜化することで、光学長を調整できる。
このように、複数の画素における第1電極の光学長が調整されることで、表示性能が高い有機EL装置を実現できる。具体的には、NTSC比の向上、白色バランスの最適化、白色表示の無彩色化を実現でき、色設計の自由度を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記複数の第1電極のうち、前記エッチング選択性が異なる複数の導電膜の組み合わせからなる第1電極は、前記基板側に形成された第1導電膜と、当該第1導電膜に積層され、かつ、当該第1導電膜よりもエッチング選択性が高い第2導電膜と、によって形成されていること、を特徴としている。このようにすれば、上記の有機EL装置と同様の効果が得られる。
【0012】
なお、「複数の第1電極の膜厚が異なる」とは、複数の第1電極の膜厚が各々異なる場合を限定するものではなく、複数の第1電極のうち少なくとも2つの第1電極の膜厚が同じ場合を含むことを意味する。例えば、複数の第1電極が4つ或いは3つによって構成され、そのうち2つの電極の膜厚が同じであってもよい。
【0013】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記基板と前記第1電極との間には、反射膜が形成されていること、を特徴としている。
このようにすれば、反射膜によって発光機能層の発光光を反射させることができ、第2電極の側に発光光を出射させることができる。また、本発明においては、発光機能層の発光光は、反射することなく第2電極の側から出射する光(非反射光)と、反射膜によって反射した後に第2電極の側から出射する光を含んでいる。反射膜によって反射される場合、非反射光と比較して、第1電極の導電膜を通過する分だけ光学長が長くなり、非反射光とのバランスによって、光学長を調整する必要がある。上記のように本発明は、複数の導電膜の単層構造又は積層構造によって光学長を調整するので、反射光と非反射光が混在している場合でも容易にそれを調整することができる。
【0014】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記複数の画素の各々は、異なる色を出射すること、を特徴としている。
ここで、複数の画素の各々は、R(赤),G(緑),B(青)を原色とすることが好ましい。なお、これに限定することなく、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)といった補色の少なくともいずれかを含んでもよい。
このようにすれば、単位画素群毎にフルカラー表示を行うことができ、単位画素群を複数備えた(例えば、マトリクス状に複数備えた)場合には、フルカラー画像を表示することができる。」

「【0051】
(有機EL装置の第3実施形態)
次に、本発明の有機EL装置の第3実施形態を説明する。
本実施形態では、先の実施形態と同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
図6は、本実施形態の有機EL装置1Aの単位画素群を模式的に示す断面図である。
本実施形態の有機EL装置1Aは、対向基板30の側から発光光を取り出すトップエミッション構造である点が、先の実施形態と相違している。
【0052】
このような有機EL装置1Aは、トップエミッション構造を実現するために、画素電極23と基板20との間に形成された反射膜24と、透明性を有する陰極50と、透明性基板からなる対向基板30とを備えている。
反射膜24は、基板20上において、各色画素XR,XG,XBの各々に設けられている。その材料としては、Al等の光反射性かつ導電性の金属が採用され、各画素電極23R,23G,23Bの各々に導通している。また、反射膜24は、先述の駆動用TFT123のドレイン電極を接続されている。
【0053】
また、反射膜24は、先の図5(b)よりも前の工程によって、パターニング形成される。そして、パターニングされた反射膜24と、基板20の全面を被覆するように、結晶ITO膜11Aが形成される。
【0054】
陰極50は、上記と同様に第1陰極及び第2陰極とによって構成されるが、透明性を実現するために、第2陰極の形成材料を先述とは異ならせている。当該第2陰極としては、導電性が高く、化学的に安定でしかも透明で、製膜温度が比較的低いものに限定される。例えば、ITOやIZOを採用することが可能である。他にタングステンインジウム酸化物や、インジウムガリウム酸化物でもよい。
【0055】
対向基板30は、光透過性と電気絶縁性とを備える基板である。例えば、ガラス基板や透明性の樹脂基板からなる。また、対向基板30は、先述の発光機能層110や基板20及び対向基板30の間の封止領域を保護するための保護基板として機能する。なお、基板20の材料としては、非透明基板が採用される。
また、基板20及び対向基板30の間には、封止領域40が形成されている。トップエミッション構造では、当該封止領域40にアクリルやエポキシ樹脂等からなる封止樹脂が充填されている。また、封止樹脂と陰極50との間には、ガスバリア性を向上させるためのガスバリア層を設けてもよい。或いは,当該ガスバリア層や陰極50へのクラックを抑制する緩衝層が設けられていてもよい。
【0056】
また、本実施形態においては、画素電極23G,24R(当審注;「23R」の誤記)を結晶ITO11及び非晶質ITO12の積層構造とし、画素電極23Bを結晶ITO11からなる単層構造としている。従って、本実施形態では、画素電極23R,23Gを同じ膜厚とし、画素電極23Bの膜厚をそれよりも薄くしている。このような画素電極23R,23G,23Bを形成するには、5(c)において、レジストマスクを異ならせるだけよい。第1レジストマスクM1は、後に画素電極23Gとなる結晶ITO膜11Aを被覆しているが、当該箇所を露出状態にするだけで、画素電極23R,23Gを同じ膜厚で形成することが可能となる。これにより、画素XR,XG,XBにおける光学長を調整している。
【0057】
上述したように、本実施形態の有機EL装置1Aにおいては、反射膜24によって発光機能層110の発光光を反射させることができ、陰極50の側に発光光を出射させることができる。また、発光機能層110の発光光は、反射膜24に反射することなく陰極50の側から出射する光(非反射光)と、反射膜24によって反射した後に陰極50の側から出射する光を含んでいる。反射膜24によって反射される場合、非反射光と比較して、画素電極23R,23G,23Bの導電膜を通過する分だけ光学長が長くなり、非反射光とのバランスによって、光学長を調整する必要がある。先の実施形態において説明したように、結晶ITO11及び非晶質ITO12による単層構造又は積層構造によって光学長LR,LG,LBを調整するので、反射光と非反射光が混在している場合でも容易にそれを調整することができる。」

「【図6】



イ 引用例1に記載された発明の認定
【0052】の「反射膜24は、基板20上において、各色画素XR,XG,XBの各々に設けられている。その材料としては、Al等の光反射性かつ導電性の金属が採用され、各画素電極23R,23G,23Bの各々に導通している。また、反射膜24は、先述の駆動用TFT123のドレイン電極を接続されている。」の記載及び【図6】の記載から、各画素の下側の電極(第1電極)は、各画素における反射膜24と、その上に積層された画素電極23R,23G,23Bから形成されているものといえる。
上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「基板上に、第1電極及び第2電極に挟持された発光機能層を有する画素と、複数の前記画素からなる単位画素群を備える有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
複数の画素の各々は、R(赤),G(緑),B(青)の画素からなり、
各画素の第1電極は、各画素における反射膜24と、その上に積層された画素電極23R,23G,23Bから形成され、
画素電極23G,23Rを結晶ITO11及び非晶質ITO12の積層構造とし、画素電極23Bを結晶ITO11からなる単層構造とし、画素電極23R,23Gを同じ膜厚とし、
これにより、画素XR,XG,XBにおける光学長を調整している有機エレクトロルミネッセンス装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「第1電極」における「反射膜24」が、本願補正発明の「第1電極層」に相当し、また、引用発明の「基板」、「第2電極」、「発光機能層」及び「有機エレクトロルミネッセンス装置」が、それぞれ、本願補正発明の「基板」、「第2電極層」、「有機発光部」及び「有機発光ディスプレイ装置」に相当するから、引用発明の「基板上に、第1電極及び第2電極に挟持された発光機能層を有する画素と、複数の前記画素からなる単位画素群を備える有機エレクトロルミネッセンス装置」(ここで、「各画素の第1電極は、各画素における反射膜24と、その上に積層された画素電極23R,23G,23Bから形成され」ている)が、本願補正発明の「基板上に形成された第1電極層、前記第1電極層上に形成された第2電極層、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成される有機層を持つ有機発光部を備える有機発光ディスプレイ装置」に相当する。

(イ)上記(ア)で述べたように引用発明の「第1電極」における「反射膜24」が、本願補正発明の「第1電極層」に相当し、また、引用発明の「画素電極23G,23R,23B」における「結晶ITO11」が、本願補正発明の「第1補助電極層」に相当するから、引用発明の「第1電極及び第2電極に挟持された発光機能層を有する」こと、「各画素の第1電極は、各画素における反射膜24と、その上に積層された画素電極23R,23G,23Bから形成され」ること、及び「画素電極23G,23Rを結晶ITO11及び非晶質ITO12の積層構造とし、画素電極23Bを結晶ITO11からなる単層構造と」することが、本願補正発明の「前記有機層と前記第1電極層との間に形成される第1補助電極層を備え」ることに相当する。

(ウ)引用発明の「複数の画素の各々は、R(赤),G(緑),B(青)の画素から」なることが、本願補正発明の「前記有機発光部は第1画素部、第2画素部、及び第3画素部を持」つことに相当する。

(エ)引用発明の「結晶ITO11」及び「非晶質ITO12」が、本願補正発明の「第1補助電極層」及び「第2補助電極層」に相当するから、引用発明の「画素電極23G,23Rを結晶ITO11及び非晶質ITO12の積層構造と」することが、本願補正発明の「前記画素部のうち、少なくとも一つの画素部は、前記有機層と前記第1補助電極層との間に形成された第2補助電極層を持」つことに相当する。

(オ)引用発明の「画素電極23G,23Rを結晶ITO11及び非晶質ITO12の積層構造とし、画素電極23Bを結晶ITO11からなる単層構造とし、画素電極23R,23Gを同じ膜厚とし、これにより、画素XR,XG,XBにおける光学長を調整している」ことと、本願補正発明の「前記画素部それぞれで発生する光が共振効果を奏するように、前記画素部に形成された前記第2補助電極層は、各電極層毎に厚さが互いに異なって形成される」とは、「前記画素部それぞれで発生する光が共振効果を奏するように、前記画素部に前記第2補助電極層が形成される」点で一致する。

(カ)引用発明の「結晶ITO11からなる単層構造と」することは、「非晶質ITO12」(本願補正発明における「第2補助電極層」に相当)を設けないこと意味し、また、本願補正発明の「選択的に設け」は、「設ける」又は「設けない」かのいずれかであることを意味しているから、引用発明の「画素電極23Bを結晶ITO11からなる単層構造と」することが、本願補正発明の「前記第3画素部となる青色画素について選択的に設けられ」ることに相当する。

(キ)引用発明の「画素電極23G,23R」又は「画素電極23B」における「結晶ITO11」(本願補正発明における「第1補助電極層」に相当)は、透明材料のITOによって構成されるので透明電極であるといえるから、引用発明の「画素電極23G,23Rを結晶ITO11及び非晶質ITO12の積層構造とし、画素電極23Bを結晶ITO11からなる単層構造と」することが、本願補正発明の「前記第1補助電極層は、透明電極により形成される」ことに相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「基板上に形成された第1電極層、前記第1電極層上に形成された第2電極層、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成される有機層を持つ有機発光部を備える有機発光ディスプレイ装置において、
前記有機層と前記第1電極層との間に形成される第1補助電極層を備え、
前記有機発光部は第1画素部、第2画素部、及び第3画素部を持ち、
前記画素部のうち、少なくとも一つの画素部は、前記有機層と前記第1補助電極層との間に形成された第2補助電極層を持ち、
前記画素部それぞれで発生する光が共振効果を奏するように、前記画素部に前記第2補助電極層が形成されるとともに、前記第3画素部となる青色画素について選択的に設けられ、
前記第1補助電極層は、透明電極により形成される、有機発光ディスプレイ装置。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
第2補助電極層について、本願補正発明においては、「電極層毎に厚さが互いに異なって形成される」のに対し、引用発明においては、(「画素電極23R,23Gを同じ膜厚と」することからして)第2補助電極層に相当する「非晶質ITO12」の膜厚をRの画素とGの画素において同じとする点。


(4)当審の判断
ア 上記相違点について検討する。
引用例1には、「前記複数の前記第1電極は、膜厚が異なる」(【請求項3】)、「なお、「複数の第1電極の膜厚が異なる」とは、複数の第1電極の膜厚が各々異なる場合を限定するものではなく、複数の第1電極のうち少なくとも2つの第1電極の膜厚が同じ場合を含むことを意味する。例えば、複数の第1電極が4つ或いは3つによって構成され、そのうち2つの電極の膜厚が同じであってもよい。」(【0012】)と記載されており、第1電極の膜厚が全て異なる(その場合は、結晶ITO11及び/又は非晶質ITO12の膜厚を各画素で異ならせることになる。)場合も想定されていることは明らかであり、上記【0051】?【0057】に記載されている「画素電極23R,23Gを同じ膜厚」とする場合は、単に、引用例1における請求項1に係る発明の一つの実施例として記載されたものにすぎないといえる。
すなわち、引用例1における請求項1に係る発明は、その実施例である引用発明以外の例である、上記の結晶ITO11及び/又は非晶質ITO12の膜厚が異なるような例も含み得ることから、引用発明のような「画素電極23R,23Gを同じ膜厚」とするものに換えて、(各画素における光学長の調整を、よりきめ細かく行うために)「画素電極23R,23G」の膜厚が異なるもの、特に、非晶質ITO12の膜厚をRの画素とGの画素において異ならせることによって「画素電極23R,23G」の膜厚を異ならせる構成としたものを採用して、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成23年改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年2月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年8月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成24年2月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成24年2月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成24年2月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、「第2補助電極層」について「各電極層毎に厚さが互いに異なって形成されるとともに、前記第3画素部となる青色画素について選択的に設けられ」ると限定して減縮し、また、「第1補助電極層」について不明りょうであった記載を釈明したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに減縮したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成24年2月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-29 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2009-76798(P2009-76798)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 洋平  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 川俣 洋史
伊藤 昌哉
発明の名称 有機発光ディスプレイ装置  
代理人 渡邊 隆  
代理人 佐伯 義文  

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