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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1274169
審判番号 不服2011-26447  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-06 
確定日 2013-05-16 
事件の表示 特願2006-547919「発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 1日国際公開、WO2006/057393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年(2005年)11月28日(優先権主張 平成16年11月26日)を国際出願日とする特願2006-547919号であって、平成23年6月15日付けで拒絶理由が通知され、同年8月12日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年9月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年12月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。
その後、当審において同年11月7日付けで拒絶理由を通知し、これに対して平成25年1月15日付けで意見書が提出された。

第2 本願の請求項1ないし17に係る発明
本願の請求項1ないし請求項17に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は、それぞれ、平成23年12月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
発光試料を撮像する発光試料撮像方法において、
開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である対物レンズを用いることを特徴とする発光試料撮像方法。
【請求項2】
前記発光試料は発光タンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の発光試料撮像方法。
【請求項3】
前記発光タンパク質は、導入された遺伝子から発現されたものであることを特徴とする請求項2に記載の発光試料撮像方法。
【請求項4】
前記遺伝子はルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項3に記載の発光試料撮像方法。
【請求項5】
前記発光試料は発光性の細胞または発光性の細胞の集合体であることを特徴とする請求項1に記載の発光試料撮像方法。
【請求項6】
前記発光試料は発光性の組織試料であることを特徴とする請求項1に記載の発光試料撮像方法。
【請求項7】
前記発光試料は発光性の個体であることを特徴とする請求項1に記載の発光試料撮像方法。
【請求項8】
ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、
開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である対物レンズを用いることを特徴とする発光細胞撮像方法。
【請求項9】
発光試料を撮像する発光試料撮像方法で用いる対物レンズにおいて、
開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上であることを特徴とする対物レンズ。
【請求項10】
前記発光試料は発光タンパク質であることを特徴とする請求項9に記載の対物レンズ。
【請求項11】
前記発光タンパク質は、導入された遺伝子から発現されたものであることを特徴とする請求項10に記載の対物レンズ。
【請求項12】
前記遺伝子はルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項11に記載の対物レンズ。
【請求項13】
前記発光試料は発光性の細胞または発光性の細胞の集合体であることを特徴とする請求項9に記載の対物レンズ。
【請求項14】
前記発光試料は発光性の組織試料であることを特徴とする請求項9に記載の対物レンズ。
【請求項15】
前記発光試料は発光性の個体であることを特徴とする請求項9に記載の対物レンズ。
【請求項16】
前記(NA÷β)^(2)の値が表記されたことを特徴とする請求項9に記載の対物レンズ。
【請求項17】
ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法で用いる対物レンズにおいて、
開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上であることを特徴とする対物レンズ。」

第3 特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定違反の拒絶理由(当審拒絶理由)について
1 当審での拒絶理由
当審において平成24年11月7日付けで通知した拒絶理由においては、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定違反の拒絶理由として次の事項が記載されている。

『本願の請求項1,8,9及び17に記載された「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である」における下限値の「0.01」の技術的意味について、明細書の発明の詳細な説明においては、次の記載によって説明されているのみである。

「【0039】
本実施例3では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)^(2)の条件を、さらに高倍率にして検討した。
【0040】
本実施例3における撮像対象は上述した実施例1または実施例2と同じである。また、本実施例3で用いた対物レンズは、オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”である。なお、対物レンズの開口数(NA)の条件は図8に示す通りであり、各開口数(NA)は対物レンズの絞り環を変えることによって設定した。図8は、実施例3で用いる対物レンズの開口数(NA)の条件を示した図である。図8に示すように、開口数(NA)の値は0.65から1.35である。そして、対物レンズ(A?E)の投影倍率(β)の値は、集光レンズですべて8倍に設定した。よって、図8に示すように、対物レンズの(NA/β)^(2)の値は、0.007から0.028まで変動する。また、本実施例3で用いたCCDカメラはオリンパス社製の“DP30BW”で、その動作温度は5℃、画素数は1360×1024、画素サイズは6μm×6μm、チップの面積(mm^(2))は13.8×9.18である。そして、露出時間は2分間である。なお、上述した実施例1および実施例2と同様、本実施例3においても、HeLa細胞の撮像は、用いる装置全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0041】
本実施例3では、図9に示すように、NAが0.83から1.35の対物レンズで撮った画像Bから画像Eについては、容易にHeLa細胞の発光を確認することができた。つまり、図9の画像Bから画像Eまでは容易に発光が観察できた。一方、NAが0.65の対物レンズで撮った画像Aについては、定量的に発光を確認することが困難であった。なお、図9で示した各画像は、40倍の対物レンズ(オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”)の絞り位置を変えることによりそのNAを0.65から1.35まで段階的に変えて撮像したものである。これにより、露出時間が2分間である場合、(NA/β)^(2)の値が0.01以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【0042】
ここで、実施例3で用いた(図8に示す)対物レンズの(NA/β)^(2)の値と図9に示す画像(画像A、画像Bおよび画像C)の発光強度との関係(図10参照)から、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の条件を検討した。図10は、図9に示す画像(画像A、画像Bおよび画像C)の発光強度を、対物レンズの(NA/β)^(2)の値を横軸にとってプロットした図である。なお、発光強度とは、発光して明るい領域を含む規定された領域(例えば、図9の画像Aにおいて四角で示した領域)全体からの光強度(CCDカメラの出力値)から、発光して明るい領域を含まず(発光せず暗い領域を含み)且つ前記規定された領域の面積と同じ面積を持つ領域全体からの光強度(CCDカメラの出力値)を差し引いたものである。
図10に示すように、図9の画像Aの発光強度と画像Bの発光強度との間に有意差があること、および図9の画像Bの発光強度と画像Cの発光強度との間に有意差があることを、各画像の発光強度のばらつき(画像の発光強度が取り得る範囲)に基づいて定量的に検出することができた。また、図10において図9の画像Aの発光強度は負の値も含むので、図9の画像Aは発光画像観察に適さないことが図10から分かる。したがって、以上の検討から、対物レンズの(NA/β)^(2)の値が0.01以上であれば、充分且つ確実に細胞の発光画像観察を行うことができることが示された。つまり、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の値は0.01以上であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズは、例えば、ルシフェラーゼなどの発光遺伝子をレポーター遺伝子とし、遺伝子発現を制御するプロモーターやエンハンサーの解析や、転写因子などのエフェクター遺伝子や様々な薬剤の効果などを調べるレポーターアッセイにおいて、好適に用いることができる。」

上記記載から,本願における実施例3は、
a.対物レンズは、オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”を用い、
b.CCDカメラはオリンパス社製の“DP30BW”を用い、
b1.その動作温度は5℃、
b2.画素数は1360×1024、
b3.画素サイズは6μm×6μm、
c.チップの面積(mm^(2))は13.8×9.18、
d.露出時間は2分間、
という観察の条件のもとで、「対物レンズの(NA/β)^(2)の値が0.01以上であれば」、
e.定量的に発光を確認することができたとするものである。
すると、請求項1,8,9,17の「0.01」が技術的意義を有するには、上記a、b(b1,b2,b3),c及びdの観察条件、並びに、eの確認できた発光の定量(具体的数値)が、必要不可欠の事項となるところ、これらの事項と無関係の(これらの事項の特定が伴わない)上記の「0.01」は、発明の詳細な説明に記載されたものということができず、また、その技術的意義は不明である。
したがって、本願は、特許請求の範囲の請求項1?17に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものということができないので、特許法施行規則第24条の2に規定する要件を満たしておらず、経済産業省令で定めるところにより記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反している。
よって、本願は拒絶すべきものである。』

2 請求人の応答
上記の拒絶理由に応答して、請求人は、平成25年1月15日付けで提出された意見書において次のように主張している。

『本願の明細書の実施例3は、細胞を顕微鏡で観察する際に使用されている対物レンズの中から、40倍の対物レンズを選択し、絞り位置を変えるような調整を行うことでNAを変化させながら撮像を行った一例を示すものです。このようにNAを変化させる調整を行えば、他の倍率の対物レンズであっても同様の検討が可能であるということは、当業者であれば容易に想到できます。
また、拒絶理由通知書に記載の観察の条件b?dについて、本実施例3では、一般に高感度とされる冷却型のCCDカメラとは異なる0℃以上の動作温度(実施例3では5℃)のCCDカメラであっても、2分という短い露出時間で発光試料を撮像できるという、リアルタイムな観察における効果を強調するための実験結果となります。この実験結果から、一般に使用されるどの撮像用カメラであっても同等以上の効果を発揮するということは、当業者であれば容易に想到できます。事実、本願発明を採用している製品はすでに発売されており、種々の対物レンズまたは撮像用カメラに交換等して使用可能です(例えば、オリンパス株式会社製LV2000)。
上述したように、下限値の「0.01」の技術的意味は明確であるものと思料いたします。これにより、本願発明は、理由(1)、(2)でご指摘される特許法第36条第6項第1号および特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものと思料いたします。』

3 当審の判断
(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の【0041】における「露出時間が2分間である場合、(NA/β)^(2)の値が0.01以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。」及び【0042】における「対物レンズの(NA/β)^(2)の値が0.01以上であれば、充分且つ確実に細胞の発光画像観察を行うことができることが示された。つまり、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の値は0.01以上であることが示された。」の記載から、本願発明1,8,9及び17の「(NA/β)^(2)の値が0.01以上」の「0.01」は、細胞の発光画像観察が可能となることを示す数値とされていることは明らかである。
しかしながら、上記【0040】の記載から、細胞の発光画像観察が可能であることが確認されたのは、当審での拒絶理由において示したように、
「a.対物レンズは、オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”を用い、
b.CCDカメラはオリンパス社製の“DP30BW”を用い、
b1.その動作温度は5℃、
b2.画素数は1360×1024、
b3.画素サイズは6μm×6μm、
c.チップの面積(mm^(2))は13.8×9.18、
d.露出時間は2分間、
という観察の条件のもと」
においてのみであり、細胞の発光画像観察が可能なのは、上記条件のもとで「(NA/β)^(2)の値が0.01以上」である場合に限られ、条件に無関係に(どんな条件においても)「(NA/β)^(2)の値が0.01以上」であれば細胞の発光画像観察が可能であるということもできないのであるから、「(NA/β)^(2)の値が0.01以上」の「0.01」が技術的意義を有するためには、上記条件が備わることが必須であるといえる。言い換えれば、上記条件が備わっていない(明記されていない)本願発明1,8,9及び17においては、「(NA/β)^(2)の値が0.01以上」の「0.01」という数値には技術的意義は認められない。

(2)この点、請求人は上記意見書において「0℃以上の動作温度(実施例3では5℃)のCCDカメラであっても、2分という短い露出時間で発光試料を撮像できるという、リアルタイムな観察における効果を強調するための実験結果となります。」と主張しており、上記主張部分から、少なくとも(「(NA/β)^(2)の値が0.01以上」の「0.01」が技術的意義を有するためには)「2分という短い露出時間」が条件とされていることを、請求人は認めているといえる。
よって、上記意見書における請求人の主張を勘案しても、本願が特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に違反しているとする拒絶理由は解消されない。

(3)以上のとおりであるから、当審での拒絶理由に示したとおり、本願発明1,8,9,17が、発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものということができないので、特許法施行規則第24条の2に規定する要件を満たしておらず、経済産業省令で定めるところにより記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反している。
よって、本願は拒絶すべきものである。

第4 特許法第29条第2項の規定違反の拒絶理由(当審の拒絶理由)について
1 本願発明8
本願発明8は、平成23年12月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項8に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 本願の請求項1ないし17に係る発明」参照)

2 引用例
(1)当審の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-310894号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発光観測装置、発光体選別装置、及び発光体の選別方法に関する。特に、発光量が比較的微小な発光体を対象とした、連続的かつ高精度な観測が可能な発光観測装置や、発光体の連続的な選別が可能な発光体選別装置、並びに発光体の選別方法に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、生物工学の分野では、レポータ遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を採用し、標的遺伝子の発現をモニタリングする手法がしばしば用いられる。この手法では、ルシフェラーゼ遺伝子と標的遺伝子とを一システムで発現させて、標的遺伝子の発現をルシフェラーゼ遺伝子の発現量に応じた発光量としてモニタリングする。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さく、外部からの光の漏れ込みが観測精度に与える影響を無視できない。特に、複数の遮光性セル内に配された観測対象(ルシフェラーゼ遺伝子発現体;発光体)についてルシフェラーゼ遺伝子の発現を連続的に観察するためには、上記複数の遮光性セルを順次、CCDカメラなどの光検出部の下にスライドさせる必要があり、遮光性セルとCCDカメラとの間に必然的に隙間が生じる。そして、この隙間から外部の光が遮光性セル内に漏れ込み、ノイズとなって観測精度を低下させることになる。
【0004】また、そもそも、生物体または細胞のゲノムにルシフェラーゼ遺伝子を発現可能に組み込んだ際、その組み込みに成功した発光体を連続式で選別する発光体選別装置についても、大量スクリーニングに特に好適なものはこれまで提供されていない。
【0005】本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的の一つは、遮光性セル内に配された発光体を、従来装置と比較してより良好な観測精度で観測可能な発光観測装置を提供することにある。本発明の他の目的は、さらに、大量のサンプルから発光体を連続式で選別可能な発光体選別装置、及びその方法を提供することにある。」

「【0023】
【発明の実施の形態】〔実施の形態1〕本発明の実施の一形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、言うまでもないが、本発明は、特に本実施の形態の記載内容のみに限定されるものではない。
【0024】本実施の形態にかかる発光観測装置は、図1(a)?(c)に示すように、スピンドルモータ(相対移動機構;スライド機構)44、スピンドルモータ44により一方向(図中矢印で示す)に回転される円盤体11、およびCCD(Charge Coupled Device) カメラ31を備えてなる。
【0025】円盤体11は所定の厚みを有する部材であり、その一方側の表面(円盤面)には、円筒状の凹部12が12個設けられている。また、円盤体11には、その円盤面の中心を貫くように軸受け孔が設けられており、該軸受け孔にはスピンドルモータ44の回転軸45が挿入されて、円盤体11は水平に支持される。
【0026】上記の凹部12はいずれも、円盤面の軸受け孔から当距離(つまり、回転軸45から当距離)に設けられている。よって、スピンドルモータ44から円盤体11に回転駆動力が伝達された場合、全ての凹部12は同一の回転半径をもって回転する。なお、図1では、スピンドルモータ44用の電源や、CCDカメラ(撮像手段)31用の電源などの図示を省略している。
【0027】図1(c)に示すように、凹部12の壁面には遮光性の部材(例えば、黒色の遮光性プラスチックなど)が配されており、該壁面を介しては内部に光が入射されないようになっている。その一方で、凹部12は上方に開口(光透過窓)12aを有し、凹部12の内外へ開口12aを介した光の伝播が可能に構成されている。なお、本実施の形態では、円盤体11自体が遮光性の部材(例えば、非透光性の金属材料)で構成されているので、凹部12内に黒色の遮光性プラスチックを配する必要は必ずしもない。しかし、遮光効率のより一層の向上と、発光体73が発光した際のコントラスト性の向上との観点から黒色の遮光性プラスチックを配することがより好ましい。
【0028】本実施の形態において、「遮光性セル」とは、各凹部12を取り囲む円盤体11の領域とこの凹部12とからなる構成単位を指し、「遮光性セルの内部」とは、凹部12内を指す。したがって、円盤体11において、凹部12が形成される円盤面は、遮光性セルの上面に相当する。
【0029】凹部12内には、観測対象である発光体73が配される。発光体73は、凹部12内に直接配されてもよく、場合によっては凹部12内に入れ込み可能な容器61内に配されてもよい。発光体73の詳細については後述するが、該発光体73が遺伝子組み替えにより発光可能となった生物体または細胞である場合、容器61として例えば蓋付のシャーレを使用する。
【0030】光検出部として機能するCCDカメラ31は、支持手段(図示せず)により、円盤体11の上方にレンズを下向きにして支持・固定されている。また、CCDカメラ31のレンズ側の一端は、中空の遮光性部材(光伝播経路)21の光出射端(一端)21b内に挿入・固定されている。遮光性部材21は中空円筒形状であり、その中空部が光伝播部として機能する。また、該中空部を取り囲む壁体は遮光性材料から構成されて、壁体を介した中空部への光の入射を防止する。よって、CCDカメラ31には、遮光性部材21の光入射端(他端)21aを介して該遮光性部材21内に入射された光のみが伝播されるようになっている。なお、熱ノイズが低減されて観測精度がより良好となる理由から、CCDカメラ31は冷却CCDカメラであることが特に好ましく、より具体的には冷却手段により約-50℃程度にまで冷却されていることが好ましい。」

「【0035】発光体73の発光状態を観測する際には、コンピュータ42は、例えば、凹部12のいずれかが遮光性部材21の光入射端21a と当接状態で連結される位置(すなわち、光入射端21a の真下)に送りこまれるように円盤体11を回転させ、この状態で、円盤体11の回転を一時停止するようにスピンドルモータ44の回転を制御する(図1(a )参照)。この状態では、凹部12の内部とCCDカメラ31のレンズとが対向し、発光体73の発光に由来する光が開口12aを介して上記レンズに伝播される。そこで、コンピュータ42は、カメラコントローラ41を介してCCDカメラ31に撮像開始の指令を与えて、該CCDカメラ31に発光体73の分布および発光の強度を示す画像データを撮像させる。」

「【図1】



(2)上記引用例1の記載から、引用例1には、
「細胞のゲノムにルシフェラーゼ遺伝子を発現可能に組み込んだ発光体73の発光状態を観測する方法において、
凹部12内に、観測対象である発光体73が配され、
凹部12の内部とCCDカメラ31のレンズとが対向し、発光体73の発光に由来する光が開口12aを介して上記レンズに伝播され、該CCDカメラ31に発光体73の分布および発光の強度を示す画像データを撮像させる観測方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)当審の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-21812号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、顕微鏡対物レンズで、特に同軸落射蛍光観察用の極低倍率顕微鏡対物レンズに関するものである。」

「【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、特に蛍光観察のように暗い像を観察する観察法において、低倍率での広い視野を十分な明るさで観察可能であり、かつ標本の操作を容易に行ない得る顕微鏡対物レンズを提供するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明の顕微鏡対物レンズは、前記課題を解決するためのもので、下記条件を満足することを特徴とする。
(1) NA/β≧0.055
(2) WD/FL≧0.18
(3) 1.6≧FL/L≧1.2
FL≧80 、90>L≧50
ただし、NAは対物レンズの開口数、βは対物レンズの倍率、WDは対物レンズの作動距離、FLは対物レンズの焦点距離、Lは顕微鏡取り付け面から観察面までの距離である。
【0017】本発明の顕微鏡対物レンズは、例えば図8に示すような構成で、この図に示す焦点距離FL、作動距離WD、顕微鏡取り付け面から観察面(標本)までの距離L等が前記条件を満足するものである。つまり本発明の顕微鏡対物レンズは、上記条件を満足することにより、極低倍率の同軸落射蛍光観察であって、従来の顕微鏡にては得られない明るさを得ると共にシャーレー等の深さを有する容器中の標本の操作が可能な作動距離と作業空間を確保することが可能である。
【0018】上記条件(1)は、本発明の対物レンズが、従来の顕微鏡対物レンズよりも明るいことを示している。蛍光像のように暗い像を低倍率でより良好に、観察しやすくするための条件である。
【0019】NA/βが大きい程明るい像での観察が可能になるが、NA/βが大になると対物レンズより射出する光束が太くなり顕微鏡本体の光路径により最大の値が制限される。そのため、対物レンズのNAは、顕微鏡本体により制限され、条件(1)に示すような、上記の本体により制限される値に極力近い値にすることが望ましい。」


3 当審の判断
(1)本願発明8と引用発明の対比
ア 本願発明8と引用発明を対比する。
引用発明の「細胞のゲノムにルシフェラーゼ遺伝子を発現可能に組み込んだ発光体73の発光状態を観測する方法」であって「CCDカメラ31に発光体73の分布および発光の強度を示す画像データを撮像させる観測方法」が、本願発明8の「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法」に相当する。

引用発明の「凹部12内に、観測対象である発光体73が配され、凹部12の内部とCCDカメラ31のレンズとが対向し、発光体73の発光に由来する光が開口12aを介して上記レンズに伝播され、該CCDカメラ31に発光体73の分布および発光の強度を示す画像データを撮像させる」ことと、本願発明8の「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である対物レンズを用いる」こととは、「対物レンズを用いる」点で一致する。

イ 一致点
よって、本願発明8と引用発明は、
「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、対物レンズを用いる発光細胞撮像方法。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
対物レンズが、本願発明8においては、「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である」であるのに対して、引用発明においてはその点の特定がない点。

(2)相違点についての見解
ア 上記相違点について検討する
引用例1の【0003】にも記載されているように「ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さく」、それによって観測精度を低下させているのであるから、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像方法に係る発明である引用発明においては、より明るい像の観察が可能な対物レンズを用いるようにすることは自明の技術課題である。
引用例2には、対物レンズに関して、【0019】において「NA/βが大きい程明るい像での観察が可能になる」ことが記載されている。
してみると、引用発明においても、明るい像での観察を可能とさせるために、上記の引用例2に記載された技術的事項を採用し、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値ができるだけ大きな値の対物レンズを用いるとすることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記「第2 理由(1)及び(2)について」において述べたように、上記(NA÷β)^(2)の値の下限値の「0.01」の値は技術的意義を有さないものであることに鑑みれば、本願発明8における上記(NA÷β)^(2)の値の下限値を、具体的に「0.01」としたことについては、単なる設計的事項にすぎない。

イ そして、本願発明8によってもたらされる効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項から当業者が予測し得る程度のものである。

本願発明の作用効果について、請求人は、上記意見書において、
「本願は、実施例で示す画像(図7、図9)のように、細胞1個ごとに発せられる極めて微弱でかつサイズの小さい(ルシフェラーゼによる)発光を撮像できるような顕微鏡レベルの拡大観察を初めて可能にした光学条件となります。
上記のような、撮像処理において短い露出時間で鮮明な画像を撮像できるという顕著な効果を奏する本願の請求項1に係る発明を、構成が異なる上記引用例1,2に基いて想到することは、たとえ当業者といえども困難を極めるものです。」
と主張する。
しかしながら、上記「第3 特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定違反の拒絶理由(当審拒絶理由)について」の「3 当審の判断」の「(1)」において述べたように、上記の「細胞1個ごとに発せられる極めて微弱でかつサイズの小さい(ルシフェラーゼによる)発光を撮像できる」という作用効果は、
「a.対物レンズは、オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”を用い、
b.CCDカメラはオリンパス社製の“DP30BW”を用い、
b1.その動作温度は5℃、
b2.画素数は1360×1024、
b3.画素サイズは6μm×6μm、
c.チップの面積(mm^(2))は13.8×9.18、
d.露出時間は2分間、
という観察の条件」
が備わって初めて主張できる作用効果であり、上記条件の特定のない本願発明8が奏する作用効果であるということはできないから、請求人の上記主張は採用することができない。

ウ まとめ
したがって、本願発明8は、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(3)以上のとおり、本願発明8は、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1,8,9,17が、発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものということができないので、特許法施行規則第24条の2に規定する要件を満たしておらず、経済産業省令で定めるところにより記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反している。
また、本願発明8は、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-18 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 特願2006-547919(P2006-547919)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
伊藤 昌哉
発明の名称 発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズ  
代理人 酒井 宏明  
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