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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1274193 |
審判番号 | 不服2012-10894 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-06-12 |
確定日 | 2013-05-16 |
事件の表示 | 特願2007- 59647「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-273975〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成19年3月9日(国内優先権主張 平成18年3月10日)を出願日とする出願であって、平成23年10月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日付けで手続補正がなされたが、平成24年3月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月12日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成24年6月12日付け手続補正による補正後の明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。 「発光層を含む半導体層と、 前記半導体層の光が取り出される側の面の全域あるいは一部に、前記発光層から放出された光の半導体層中での波長よりも大きなピッチで形成された凹凸からなる凹凸部と、 前記光が取り出される側の面とは反対側の前記半導体層の面に形成され、前記凹凸部と相乗して、当該凹凸部との間における多重反射により光取り出し効率を向上させる反射率が90%以上である反射層とを備えること を特徴とする発光素子。」(以下「本願発明」という。) 3 刊行物の記載 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開2006-49855号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 基板上に形成された後、前記基板から剥離された多層半導体層を備えた半導体発光素子であって、前記多層半導体層の面のうち前記基板と接していた第1主面に2次元周期構造が形成されていることを特徴とする半導体発光素子。・・・ 【請求項3】 前記多層半導体層の第2主面上に設けられ、前記活性層で生じた光のピーク波長に対する反射率が80%以上である第1の電極と、 前記多層半導体層の第1主面のうち、前記2次元周期構造が形成されない領域上に設けられた第2の電極とをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。」(特許請求の範囲) イ 「【0013】 本発明の目的は、従来よりも光取り出し効率の向上した半導体発光素子を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0014】 本発明の第1の半導体発光素子は、基板上に形成された後、前記基板から剥離された多層半導体層を備えた半導体発光素子であって、前記多層半導体層の面のうち前記基板と接していた第1主面に2次元周期構造が形成されている。」 ウ 「【0056】 また、図12(b)に示す電流-光出力特性から、20mA以下の電流領域において本実施形態の半導体発光素子は、従来例と比べて同一電流における光出力がほぼ5倍に増加していることが分かる。これは、図2に示す理論計算値のほぼ2倍の値である。これは、LED表面の2次元周期構造により表面からの光取り出し効率が従来の平坦なLED表面と比べて約2.5倍に増加し、さらに、LED下面側(p型GaN層13の裏面上)に形成された高反射p電極14により、ノンドープInGaN活性層12から高反射p電極14側に放射される光を2次元周期構造6側に効率的に反射させることができるためである。」 エ 「【0077】 (第2の実施形態) 図19(a)は、本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子を示す斜視図であり、(b)は、第2の実施形態の半導体発光素子を上から見た平面図である。本実施形態の半導体発光素子は、n型GaN層5の上面(裏面)に形成された凸状の2次元周期構造18が多角錐形状である点が第1の実施形態の半導体発光素子と異なっている。 【0078】 図19(a)、(b)に示すように、本実施形態の半導体発光素子は、エピタキシャル成長により形成された厚さ200nmのp型GaN層3と、p型GaN層3の結晶成長面(主面)上に形成され、白金(Pt)と金(Au)が積層されてなる厚さ1μmの高反射p電極2と、高反射p電極2の下面上に形成された厚さ10μmのAuメッキ層1と、p型GaN層3の裏面上に形成された厚さ3nmのノンドープInGaN活性層4と、ノンドープInGaN活性層4の裏面上に形成され、裏面に六角錐の突起で構成された2次元周期構造18が形成された厚さ4μmのn型GaN層5と、n型GaN層5の裏面上に形成され、チタン(Ti)とAuとが積層されてなる厚さ1μmのn電極7とを備えている。また、第1の実施形態と同様に、ノンドープInGaN活性層4のPLピーク波長は405nmである。n型GaN層5裏面の突起構造の側面はGaNの{10-1-1}面からなっている。また、2次元周期構造18の周期、すなわち2次元の面内で隣り合う突起部の中心間隔は1.0μm、突起の高さは950nmである。 【0079】 図20(a)は、n型GaN層の表面(裏面)に六角錐状の突起を形成した場合の、活性層から放射されn型GaN層の表面に入射する光の透過率Tの理論計算結果を示す図であり、(b)は、2次元周期構造の周期と光取り出し効率との関係を示す図である。図20(b)ではn型GaN層の表面が平坦な場合を1とし、比較のために2次元周期構造が突起状の場合と凹凸状(第1の実施形態と同じ形状)の場合とを示している。 【0080】 図20(a)に示す結果から、2次元周期構造の周期が1.0μmと周期が長い場合でも、突起構造においては入射角が45度付近において高い透過率を示すことが分かる。このように、2次元周期構造の断面形状が三角波形状である本実施形態の半導体発光素子の場合には、活性層から半導体発光素子表面の2次元周期構造に入射する角度が大きい場合に2次元周期構造の斜面と入射光の角度が垂直に近づくため、回折効率が大きくなる。入射角度が大きい光は活性層から放射される光に占める割合が大きいため、高い光取り出し効率が実現する。 【0081】 また、図20(b)に示す結果から、突起構造では凹凸構造と同様の高い発光効率を示し、特に、周期が長くなっても光取り出し効率の増大の効果を維持していることが分かる。なお、1.0μmの周期においては、2次元周期構造を形成した面からの光取り出し効率が2.7倍に増強する。 【0082】 次に、本実施形態の半導体発光素子の製造方法を以下に説明する。・・・ 【0086】 本実施形態の半導体発光素子においては、光取り出し効率がn型GaN層の表面が平坦な場合に比べて高反射p電極2からの反射も利用できるため、図20(b)に示す理論計算結果の約2倍(従来例の約5.3倍)に向上する。また、サブμmと薄いp型GaN層13および熱伝導性の高いAuメッキ層15を介して活性層で生じた熱を放熱することができる。そのため、本実施形態の半導体発光素子では、100mAの大電流が流れる際にも2次元周期構造による光取り出し効率の向上効果が維持されている。なお、高反射p電極2は、Pt膜とAu膜との積層膜以外の材料からなっていてもよいが、活性層で生じる光のピーク波長に対して80%以上の反射率を有していることが実用上好ましい。具体的には、高反射p電極2はAu膜、Pt膜、Cu膜、Ag膜およびRh膜のうちの少なくとも1つを含む金属膜であれば好ましい。」 (2)引用発明 上記(1)ア?エによれば、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「基板上に形成された後、前記基板から剥離された多層半導体層を備えた半導体発光素子であって、前記多層半導体層の面のうち前記基板と接していた第1主面に2次元周期構造が形成され、 前記多層半導体層の第2主面上に設けられ、前記多層半導体層の活性層で生じた光のピーク波長に対する反射率が80%以上である第1の電極と、 前記多層半導体層の第1主面のうち、前記2次元周期構造が形成されない領域上に設けられた第2の電極とをさらに備えている半導体発光素子であって、 前記多層半導体層のn型GaN層の上面(裏面)に多角錐形状である凸状の2次元周期構造が形成され、 前記多層半導体層のノンドープInGaN活性層のPLピーク波長は405nmであり、 前記2次元周期構造の周期、すなわち2次元の面内で隣り合う突起部の中心間隔は1.0μm、突起の高さは950nmである半導体発光素子。」 なお、上記(1)アの「前記活性層」の前に「活性層」との記載はないが、上記(1)イ?エの記載に照らして、「多層半導体層を備えた半導体発光素子」の「多層半導体層」が「活性層」を有することは明らかであるから、上記(1)アの「前記活性層」を「前記多層半導体層の活性層」と解した。 4 対比・判断 (1)本願発明と引用発明とを対比する。 ア 上記3(1)ウの記載によれば、「LED表面の2次元周期構造により表面からの光取り出し効率が従来の平坦なLED表面と比べて約2.5倍に増加し」、かつ、引用発明の「第2主面」(裏面)上には「多層半導体層の活性層で生じた光のピーク波長に対する反射率が80%以上である第1の電極」が設けられていることに照らして、第1主面(表面)が光取り出し面であると認められる。 また、上記3(1)アないしエの記載によれば、「2次元周期構造が形成され」る面が「第1主面」及び「表面」であり、「反射率が80%以上である第1の電極」を備えている面が「第2主面」及び「裏面」であると認められる。 イ そうすると、引用発明の「(ノンドープInGaN活性層を含む)多層半導体層」、「『第1主面』及び『表面』」、「(多角錐形状である凸状の)2次元周期構造」、「『第2主面』及び『裏面』」、「活性層」、「(反射率が80%以上である)第1の電極」及び「半導体発光素子」は、本願発明の「(発光層を含む)半導体層」、「光が取り出される側の面」、「(凹凸からなる)凹凸部」、「光が取り出される側の面とは反対側の前記半導体層の面」、「発光層」、「反射層」及び「発光素子」にそれぞれ相当する。 ウ 引用発明の「ノンドープInGaN活性層のPLピーク波長」は「405nm」であり、「2次元周期構造」の「周期、すなわち2次元の面内で隣り合う突起部の中心間隔は1.0μm」であるから、「ノンドープInGaN活性層のPLピーク波長」よりも大きなピッチで、「2次元周期構造」の「周期、すなわち2次元の面内で隣り合う突起部の中心間隔」が形成されているといえる。 また、引用発明の「2次元周期構造」は「多層半導体層の面のうち前記基板と接していた第1主面に2次元周期構造が形成され」、「前記多層半導体層の第1主面のうち、前記2次元周期構造が形成されない領域上に設けられた第2の電極とをさらに備えている」から、「2次元周期構造」は、「第1主面」の一部に形成されているといえる。 そうすると、引用発明は、本願発明の「半導体層の光が取り出される側の面の一部に、前記発光層から放出された光の半導体層中での波長よりも大きなピッチで形成された凹凸からなる凹凸部」との構成を備えるといえる。 エ 引用発明の「2次元周期構造」は、上記3(1)エによれば、「凹凸構造と同様の高い発光効率を示し、特に、周期が長くなっても光取り出し効率の増大の効果を維持していることが分かる。なお、1.0μmの周期においては、2次元周期構造を形成した面からの光取り出し効率が2.7倍に増強する。」ものであるから、光取り出し効率を向上させるものであるといえる。 また、引用発明の「第1の電極」は、上記3(1)エによれば、「光取り出し効率がn型GaN層の表面が平坦な場合に比べて高反射p電極2からの反射も利用できるため、図20(b)に示す理論計算結果の約2倍(従来例の約5.3倍)に向上する。」ものであるから、第1の電極(高反射p電極2)からの反射も利用して光取り出し効率を向上させるものであるといえる。 そうすると、引用発明の「第1の電極」は、「2次元周期構造」も利用して光取り出し効率を向上させるものである認められるから、引用発明の「第1の電極」と本願発明の「反射層」は、「凹凸部と相乗して、反射により光取り出し効率を向上させる」反射層である点で一致する。 したがって、両者は、 「発光層を含む半導体層と、 前記半導体層の光が取り出される側の面の全域あるいは一部に、前記発光層から放出された光の半導体層中での波長よりも大きなピッチで形成された凹凸からなる凹凸部と、 前記光が取り出される側の面とは反対側の前記半導体層の面に形成され、前記凹凸部と相乗して、当該凹凸部との間における多重反射により光取り出し効率を向上させる反射率が90%以上である反射層とを備える発光素子。」 である点で一致し、 本願発明は「反射層」が、「凹凸部と相乗して、当該凹凸部との間における多重反射により光取り出し効率を向上させる反射率が90%以上である反射層」であるのに対して、引用発明の「第1の電極」は、「凹凸部との間における多重反射」により光取り出し効率を向上させるものであるか明らかではなく、また、「多層半導体層の活性層で生じた光のピーク波長に対する反射率が80%以上である」点(以下「相違点」という)、 で相違する。 (2)上記相違点について検討する。 ア 上記3(1)ウの「光取り出し効率がn型GaN層の表面が平坦な場合に比べて高反射p電極2からの反射も利用できるため、図20(b)に示す理論計算結果の約2倍(従来例の約5.3倍)に向上する。」との記載によれば、引用発明は、第1の電極からの反射も利用して光取り出し効率を向上させるものといえ、光取り出し効率を向上させるために、反射率を80%以上の範囲で適宜のものとすることは当業者が設計上考慮すべきことである。そして、その際に反射率を90%以上とすることに格別の困難があるものとは認められないから、引用発明において「多層半導体層の活性層で生じた光のピーク波長に対する反射率」を90%以上とすることは、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的な事項である。 イ また、本願発明における「凹凸部と相乗して、当該凹凸部との間における多重反射により光取り出し効率を向上させる」との特定事項に関して、本願明細書には、下記の記載がある。 「【0042】 一方、図3(b)に示すように、上面S1の表面に、発光層12から放出される光の波長よりも大きな間隔Aを有する凹凸部14を形成すると、凹凸部14から取り出されずに反射された光L1は、凹凸部14によって、回折、散乱の影響を受け、上面S1に対して正反射以外の方向に反射されることになる(角度変換作用)。これにより、発光当初、脱出円錐外の方向に放出された光も、多重反射を繰り返すことにより、やがて脱出し、凹凸部14から取り出される。」 上記の記載によれば、本願発明における上記特定事項は、凹凸部で反射された光が凹凸部によって回折、散乱の影響を受けて正反射以外の方向に反射され(角度変換作用)、やがて脱出することをいうものと解される。 しかるところ、上記4(1)ウのとおり、引用発明も、本願発明の「半導体層の光が取り出される側の面の一部に、前記発光層から放出された光の半導体層中での波長よりも大きなピッチで形成された凹凸からなる凹凸部」との構成を備えるから、上記特定事項と同様の作用を生じるものと認められる。 そうすると、本願発明と引用発明は、「凹凸部と相乗して、当該凹凸部との間における多重反射により光取り出し効率を向上させる」ものである点で実質的な相違はない。 ウ 上記ア及びイでの検討によれば、引用発明において「多層半導体層の活性層で生じた光のピーク波長に対する反射率」を90%以上となし、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になしうる程度のことと認められる。 5 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-14 |
結審通知日 | 2013-03-19 |
審決日 | 2013-04-01 |
出願番号 | 特願2007-59647(P2007-59647) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀樹、土屋 知久 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 松川 直樹 |
発明の名称 | 発光素子 |
代理人 | 櫻井 智 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 小谷 悦司 |