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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B81B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B81B |
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管理番号 | 1274365 |
審判番号 | 不服2011-27175 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-12-16 |
確定日 | 2013-05-13 |
事件の表示 | 特願2010-519398号「マイクロメカニカル素子およびマイクロメカニカル素子の振動素子を励振するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日国際公開、WO2009/019086、平成22年11月25日国内公表、特表2010-536058号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成20年7月2日(パリ条約による優先権主張 2007年8月9日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月8日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成23年7月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年8月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年12月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 II.平成23年12月16日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年12月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「フレーム(2)を有し、該フレーム(2)は外部懸架素子(3)によって支持基板(4)と結合されているマイクロメカニカル素子であって、 前記フレーム(2)は第1の軸(10)を中心に、前記支持基板(4)の主伸長面(5)内で振動可能であり、かつ前記第1の軸(10)に対して垂直の第2の軸(11)を中心に主伸長面(5)内で振動可能であり、 前記マイクロメカニカル素子(1)は振動素子(20)を有し、 該振動素子(20)は内部懸架素子(21)によって前記フレーム(2)と結合されており、前記第2の軸(11)を中心に振動可能である形式のマイクロメカニカル素子において、 前記外部懸架素子(3)は、前記第2の軸(11)を中心にする前記フレーム(2)の第1の振動が、当該第2の軸(11)を中心にする前記振動素子(20)の第2の振動の共振曲線の半値幅の周波数範囲内で行われるように構成されており、 前記フレーム(2)が少なくとも1つの導体路(30)を有し、 第1の振動と第2の振動の励振は、前記導体路(30)における励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われ、 第1の軸(10)を中心にするフレーム(2)の第3の振動の励振が、前記導体路(30)における別の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われる、ことを特徴とするマイクロメカニカル素子。」(なお、下線は補正箇所を示すものである。) 2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「フレーム(2)」及び「振動素子(20)」について、「前記フレーム(2)が少なくとも1つの導体路(30)を有し、第1の振動と第2の振動の励振は、前記導体路(30)における励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われ、第1の軸(10)を中心にするフレーム(2)の第3の振動の励振が、前記導体路(30)における別の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われる」との限定事項を付加するとともに、明りょうでない記載の釈明を目的として「前記外部懸架素子(3)は、前記第2の軸(11)を中心にする前記フレーム(2)の第1の振動が、当該第2の軸(11)を中心にする前記振動素子(20)の第2の振動の共振曲線の半値幅内にある共振周波数で行われるように構成されている」を「前記外部懸架素子(3)は、前記第2の軸(11)を中心にする前記フレーム(2)の第1の振動が、当該第2の軸(11)を中心にする前記振動素子(20)の第2の振動の共振曲線の半値幅の周波数範囲内で行われるように構成されている」と補正するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。 3.独立特許要件 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3-1.引用刊行物の記載事項 (刊行物1) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2003-207737号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】反射面を備えたミラー部と、ミラー部を囲むとともに、第1の両持ち梁を介してミラー部を支持する内部フレームと、内部フレームを囲むとともに、前記第1の両持ち梁と交叉する方向に延びる第2の両持ち梁を介して内部フレームを支持する外側フレームと、前記第2の両持ち梁に応力を発生させるアクチュエータとを有して、該アクチュエータの駆動で前記第2の両持ち梁を捩れおよび曲げ振動させることにより、前記第1の両持ち梁および第2の両持ち梁を2軸として前記ミラー部を回動させて、ミラー部の反射面に入射する光を2次元に走査反射することを特徴とする2次元光スキャナ。 【請求項2】前記第1の両持ち梁の捩れ振動と第2の両持ち梁の曲げ振動の共振周波数を略同じに設定してあることを特徴とする請求項1記載の2次元光スキャナ。 【請求項3】前記第2の両持ち梁は、前記第1の両持ち梁の方向に対して直交していることを特徴とする請求項1または2記載の2次元光スキャナ。 【請求項4】前記ミラー部が方形で、前記内部フレームおよび外側フレームがそれぞれ4角枠形状であり、前記第1の両持ち梁は前記ミラー部の対向する2辺の中央を通る線上に延び、前記第2の両持ち梁は前記内部フレームの対向する2辺の中央を通る線上に延びていることを特徴とする請求項3記載の2次元光スキャナ。 【請求項5】前記ミラー部、内部フレーム、外側フレーム、第1の両持ち梁および第2の両持ち梁は、半導体基板をエッチングして形成され、前記ミラー部上に金属反射膜を形成して前記反射面としてあることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の2次元光スキャナ。・・・」(【特許請求の範囲】) (イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、光センサやレーザ応用機器など走査に用いられる2次元光スキャナに関する。」(段落【0001】) (ウ)「したがって本発明は、上記の問題点に鑑み、2重フレーム構成を採用して共振周波数の設計自由度を高く確保し、しかも大きな変位角度を可能としながら、構造が簡単でコンパクトに、かつ安価に実現可能な2次元光スキャナを提供することを目的とする。」(段落【0013】) (エ)「【発明の効果】請求項1の発明では、ミラー部と外側フレームの間に内部フレームを配し、これらの間を方向が交叉する第1の両持ち梁と第2の両持ち梁で順次に接続し、アクチュエータで第2の両持ち梁を捩れおよび曲げ振動させるものとしたので、ミラー部が捩れ振動で第2の両持ち梁まわりに回動するとともに第2の両持ち梁の曲げ振動で第1の両持ち梁まわりに回動して、第2の両持ち梁に対応させたアクチュエータだけで2次元に光を走査でき、装置が小型化され、コストも低減する。また、ミラー部の回動軸として第1の両持ち梁と第2の両持ち梁を備えるので、それぞれ独立した共振周波数の設定ができ、反りや破損の間題も低減することができる。 請求項2の発明は、第1の両持ち梁の捩れ振動と第2の両持ち梁の曲げ振動の共振周波数を略同じに設定したので、アクチュエータで第2の両持ち梁を曲げ振動させたとき、ミラー部はとくに効率よく第1の両持ち梁まわりに回動する。 請求項3の発明は、第2の両持ち梁が第1の両持ち梁の方向に対して直交しているので、各梁まわりの回動量が他方の梁へ影響を与える成分を含まないので、2次元走査の、演算・制御が簡単となる。 請求項4の発明では、外側フレームに対する可動部としてのミラー部および内部フレームはそれぞれの辺の中央を通る線上の第1の両持ち梁および第2の両持ち梁で支持されるので、片振れなしに滑らかに回動する。 請求項5の発明は、ミラー部、内部フレーム、外側フレーム、第1の両持ち梁および第2の両持ち梁が半導体基板をエッチングして形成され、ミラー部の反射面も金属反射膜の形成によるので、2次元光スキャナがとくに小型・コンパクトに実現される。この際、半導体のバッチプロセスが利用できるので、大量生産により低価格化が可能となる。」(段落【0020】?【0024】) (オ)「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を実施例により説明する。図1は実施例を示す平面図、図2は図1におけるA-A部断面図である。本実施例は、シリコンまたはガラスからなる台座基板38上にシリコン基板から形成したスキャナ基板30を載置して接合固定されている。スキャナ基板30には、固定側としての外側フレーム31の内側に、可動部分として枠状に形成された内部フレーム32と、さらに内部フレーム32の内側に形成された方形状のミラー部33が形成されている。 ミラー部33は、対向する辺から外方へ延びる第1の弾性ビーム34(34a、34b)により、両側から内部フレーム32に弾性的に支持されている。また、内部フレーム32は弾性ビーム34と直交方向に、両側から第2の弾性ビーム35(35a、35b)により外側フレーム31に弾性的に支持されている。これらの内部フレーム32、ミラー部33、および弾性ビーム34、35は、シリコン基板の異方性エッチングにより一体的に形成されている。ミラー部33の上には、金やAl(アルミニウム)等の金属薄膜による反射膜36が形成されており、入射光ビームの反射率を上げるようになっている。」(段落【0028】?【0029】) (カ)「弾性ビーム34および35は、外側フレーム31の厚さに比べて薄くなっており、曲げ変形ならびに捩れ変形が容易にできるようになっている。ここで、弾性ビーム34の捩れ振動の共振周波数f1tは、弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bに近く、2つの共振モードがカップリングするよう弾性ビーム34と35、内部フレーム32、およびミラー部33の厚さなど各寸法が設定されている。 弾性ビーム35(35a、35b)の各裏面にはそれぞれ磁歪膜37が形成され、弾性ビーム35の長さ方向の磁界印加に対して曲げと捩れの応力を発生するような方向に磁化されている。そして、弾性ビーム35a、35bのそれぞれに対応させて、外部コイル39が設けられて、磁歪膜37と外部コイル39とでアクチュエータが構成されている。 外部コイル39に弾性ビーム35の捩れ振動の共振周波数f2tの駆動電流を流すと、内部フレーム32は弾性ビーム35の軸回りに捩れ共振し、これにより同時に、ミラー部33も弾性ビーム35を軸として回動する。一方、外部コイル39、39に弾性ビーム35a、35bを逆相とする曲げ共振モードの共振周波数f2bの駆動電流を流すと、図1におけるC-C部断面図である図3に示すように、左側の弾性ビーム35aの表面が伸び、右側の弾性ビーム35bの表面が縮んで、内部フレーム32がシーソーのように振動する。この結果、弾性ビーム34の軸回りに捩れ共振モードが励振されて、ミラー部33は弾性ビーム34を軸として回動することとなる。 したがって、共振周波数f2tの成分と共振周波数f2bの成分を重畳した駆動電流を外部コイル39、39に流すことにより、弾性ビーム35の軸回りと弾性ビーム34の軸回りの捩れ振動が任意の割合で励起できる。これにより、ミラー部33に照射された光ビームを2次元的にスキャンすることが可能となる。」(段落【0030】?【0033】) (キ)上記記載事項(オ)及び(カ)に関連して、スキャナ基板30及びその製造プロセスの断面図である図2、図3及び図5には、「スキャナ基板30に形成された外側フレーム31、内部フレーム32、ミラー部33、第1の弾性ビーム34及び第2の弾性ビーム35が略同一平面上にある」様態が示されている。 以上の記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「内部フレーム32を有し、該内部フレーム32は第2の弾性ビーム35によってスキャナ基板30に形成された固定側としての外側フレーム31に支持されている2次元光スキャナであって、 内部フレーム32は第2の弾性ビーム35の軸回りに捩れ共振し、かつ左側の弾性ビーム35aの表面が伸び、右側の弾性ビーム35bの表面が縮んで、内部フレーム32がシーソーのように振動し、 2次元光スキャナはミラー部33を有し、 該ミラー部33は、第2の弾性ビーム35の方向に対して直交している第1の弾性ビーム34によって内部フレーム32に支持されており、内部フレーム32がシーソーのように振動する結果、第1の弾性ビーム34の軸回りに捩れ共振し、 ミラー部33が方形で、内部フレーム32および外側フレーム31がそれぞれ4角枠形状であり、第1の弾性ビーム34はミラー部33の対向する2辺の中央を通る線上に延び、第2の弾性ビーム35は内部フレーム32の対向する2辺の中央を通る線上に延びるように形成され、 スキャナ基板30に形成された外側フレーム31、内部フレーム32、ミラー部33、第1の弾性ビーム34及び第2の弾性ビーム35が略同一平面上にある2次元光スキャナにおいて、 第2の弾性ビーム35は、第1の弾性ビーム34の捩れ振動の共振周波数f1tと、第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bが略同じとなるように厚さなど各寸法が設定されており、 第2の弾性ビーム35の各裏面にはそれぞれ磁歪膜37が形成され、第2の弾性ビーム35の長さ方向の磁界印加に対して曲げと捩れの応力を発生するような方向に磁化されており、 第2の弾性ビーム35の捩れ振動の共振周波数f2tの成分と第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bの成分を重畳した駆動電流を外部コイル39に流すことにより、第2の弾性ビーム35の軸回りと第1の弾性ビーム34の軸回りの捩れ振動が任意の割合で励起できる、2次元光スキャナ。」 3-2.対比 (1)本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、構造又は機能からみて、引用発明の「2次元光スキャナ」は、本願補正発明の「マイクロメカニカル素子」に相当し、以下同様に、「内部フレーム32」は「フレーム(2)」に、「第2の弾性ビーム35」は「外部懸架素子(3)」に、「スキャナ基板30に形成された固定側としての外側フレーム31」は「支持基板(4)」に、「に支持されている」は「と結合されている」に、「第2の弾性ビーム35の軸」は「第1の軸(10)」に、「軸回りに捩れ共振し」は「軸を中心に振動可能であり」に、「ミラー部33」は「振動素子(20)」に、「第1の弾性ビーム34」は「内部懸架素子(21)」に、「第1の弾性ビーム34の軸」は「第2の軸(11)」に、「ように形成された」は「形式の」に、それぞれ相当する。 (2)本願補正発明における「フレーム(2)は第1の軸(10)を中心に、支持基板(4)の主伸長面(5)内で振動可能であり」との発明特定事項の技術的意義を確認するために本願明細書及び図面の記載を参酌すると、段落【0017】の「図1では、第1の実施形態による本発明のマイクロメカニカル素子1が斜視図に示されている。」の記載、段落【0018】の「ここでマイクロメカニカル素子1はフレーム2を有し、フレーム2は外部懸架素子3によって支持基板4と結合されている。フレーム2は第1の軸10を中心に、支持基板4の主伸長面5内で揺動可能であり」の記載、及び図1の記載からして、本願補正発明における当該発明特定事項は、「フレーム(2)は、支持基板(4)の主伸長面(5)内にある第1の軸(10)を中心に振動可能であり」との様態を意味するものと解される。 一方、引用発明では、「スキャナ基板30に形成された外側フレーム31、内部フレーム32、ミラー部33、第1の弾性ビーム34及び第2の弾性ビーム35が略同一平面上にある」ところ、第2の弾性ビーム35の軸は外側フレーム31の主伸長面内にあるといえるから、引用発明の「内部フレーム32は第2の弾性ビーム35の軸回りに捩れ共振し」は、本願補正発明の「フレーム(2)は、支持基板(4)の主伸長面(5)内にある第1の軸(10)を中心に振動可能であり」、すなわち「フレーム(2)は第1の軸(10)を中心に、支持基板(4)の主伸長面(5)内で振動可能であり」に相当する。 (3)本願補正発明における「フレーム(2)は・・・第1の軸(10)に対して垂直の第2の軸(11)を中心に主伸長面(5)内で振動可能であり」との発明特定事項の技術的意義を確認するために本願明細書及び図面の記載を参酌すると、上記(2)において参照した本願明細書の記載に加えて、段落【0019】の「図2では、第1の実施形態による本発明のマイクロメカニカル素子1が斜視図に示されている。」の記載、段落【0020】の「ここでは図1とは異なり、90°だけ主伸長面5の面垂線を中心にして回転されており、・・・ここでフレーム2は第2の軸11を中心に振動する。」の記載、及び図2の記載からして、本願補正発明における当該発明特定事項は、「フレーム(2)は、第1の軸(10)に対して垂直であり主伸長面(5)内にある第2の軸(11)を中心に振動可能であり」との様態を意味するものと解される。 一方、引用発明は、「左側の弾性ビーム35aの表面が伸び、右側の弾性ビーム35bの表面が縮んで、内部フレーム32がシーソーのように振動する」ものであって、「第1の弾性ビーム34及び第2の弾性ビーム35が直交しており」、「ミラー部33が方形で、内部フレーム32および外側フレーム31がそれぞれ4角枠形状であり、第1の弾性ビーム34はミラー部33の対向する2辺の中央を通る線上に延び、第2の弾性ビーム35は内部フレーム32の対向する2辺の中央を通る線上に延びるように形成され」、「スキャナ基板30に形成された外側フレーム31、内部フレーム32、ミラー部33、第1の弾性ビーム34及び第2の弾性ビーム35が略同一平面上にある」ものであるところ、内部フレーム32は、第1の弾性ビーム34の軸を中心に振動可能であるとともに、第1の弾性ビーム34の軸は第2の弾性ビーム35に対して垂直でありかつ外側フレーム31の主伸長面内にあるといえるから、引用発明は、本願補正発明の「フレーム(2)は、第1の軸(10)に対して垂直であり主伸長面(5)内にある第2の軸(11)を中心に振動可能であり」、すなわち「フレーム(2)は・・・第1の軸(10)に対して垂直の第2の軸(11)を中心に主伸長面(5)内で振動可能であり」との発明特定事項を有するといえる。 (4)引用発明の「ミラー部33」は、「内部フレーム32がシーソーのように振動する結果、第1の弾性ビーム34の軸回りに捩れ共振」するものであるから、引用発明は、本願補正発明の「振動素子(20)は・・・第2の軸(11)を中心に振動可能である」との発明特定事項を有するといえる。 (5)上記(2)ないし(4)より、引用発明の「左側の弾性ビーム35aの表面が伸び、右側の弾性ビーム35bの表面が縮んで、内部フレーム32がシーソーのように振動する」「第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振」は、本願補正発明の「第2の軸(11)を中心にするフレーム(2)の第1の振動」に相当し、以下同様に、「ミラー部33」の「第1の弾性ビーム34の軸回り」の「捩れ共振」は「第2の軸(11)を中心にする振動素子(20)の第2の振動」に、「内部フレーム32」の「第2の弾性ビーム35の軸回り」の「捩れ共振」は「第1の軸(10)を中心にするフレーム(2)の第3の振動」に、それぞれ相当するといえる。 そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。 (一致点) 「フレーム(2)を有し、該フレーム(2)は外部懸架素子(3)によって支持基板(4)と結合されているマイクロメカニカル素子であって、 前記フレーム(2)は第1の軸(10)を中心に、前記支持基板(4)の主伸長面(5)内で振動可能であり、かつ前記第1の軸(10)に対して垂直の第2の軸(11)を中心に主伸長面(5)内で振動可能であり、 前記マイクロメカニカル素子(1)は振動素子(20)を有し、 該振動素子(20)は内部懸架素子(21)によって前記フレーム(2)と結合されており、前記第2の軸(11)を中心に振動可能である形式のマイクロメカニカル素子。」 そして、両者は次の点で相違する。 (相違点1) 外部懸架素子(3)に関して、本願補正発明では、「前記第2の軸(11)を中心にする前記フレーム(2)の第1の振動が、当該第2の軸(11)を中心にする前記振動素子(20)の第2の振動の共振曲線の半値幅の周波数範囲内で行われるように構成されて」いるのに対し、引用発明では、「第1の弾性ビーム34の捩れ振動の共振周波数f1tと、第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bが略同じとなるように厚さなど各寸法が設定されて」いる点。 (相違点2) 本願補正発明では、「前記フレーム(2)が少なくとも1つの導体路(30)を有し、第1の振動と第2の振動の励振は、前記導体路(30)における励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われ、第1の軸(10)を中心にするフレーム(2)の第3の振動の励振が、前記導体路(30)における別の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われる」ものであるのに対し、引用発明では、「第2の弾性ビーム35の各裏面にはそれぞれ磁歪膜37が形成され、第2の弾性ビーム35の長さ方向の磁界印加に対して曲げと捩れの応力を発生するような方向に磁化されており、第2の弾性ビーム35の捩れ振動の共振周波数f2tの成分と第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bの成分を重畳した駆動電流を外部コイル39に流すことにより、第2の弾性ビーム35の軸回りと第1の弾性ビーム34の軸回りの捩れ振動が任意の割合で励起できる」ものである点。 3-3.相違点の判断 上記相違点について検討する。 (相違点1について) 引用発明は、第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2b(すなわち、第2の軸を中心にするフレームの第1の振動の共振周波数)と、第1の弾性ビーム34の捩れ振動の共振周波数f1t(すなわち第2の軸を中心にする振動素子の第2の振動の共振周波数)が略同じとなるよう、第2の弾性ビーム35(すなわち外部懸架素子)の厚さなど各寸法が設定されているものであって、「第2の弾性ビーム35の捩れ振動の共振周波数f2tの成分と第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bの成分を重畳した駆動電流を外部コイル39に流すことにより」、当該第1の振動及び第2の振動が励起されるものである(下線は強調のために付加。以下同様。)。 ここで、引用発明において、第1の振動の共振周波数f2bと第2の振動の共振周波数f1tとを略同じに設定しているのは、第1の振動を「共振周波数f2b」で励起する結果として、第2の振動をその共振周波数で効率よく励起することを可能とするためである(上記記載事項(エ)及び(カ)を参照)。してみると、第1の振動の共振周波数f2bと第2の振動の共振周波数f1tとが同じになるよう、外部懸架素子の厚さなど各寸法を設定することは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえ、そのように同じに設定すれば、第1の振動の共振周波数が、第2の振動について横軸を周波数、縦軸を振幅として表した共振曲線における第2の振動の共振周波数を含む所定の周波数範囲である半値幅の周波数範囲内に存在するのは、当業者にとって明らかである。 したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点2について) 引用発明は、「第2の弾性ビーム35の各裏面にはそれぞれ磁歪膜37が形成され、第2の弾性ビーム35の長さ方向の磁界印加に対して曲げと捩れの応力を発生するような方向に磁化されており、第2の弾性ビーム35の捩れ振動の共振周波数f2tの成分と第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bの成分を重畳した駆動電流を外部コイル39に流すことにより、第2の弾性ビーム35の軸回りと第1の弾性ビーム34の軸回りの捩れ振動が任意の割合で励起できる」ものであって、二つの共振周波数の成分を重畳した一の電流により、二つの軸周りの振動を励起するものである。 フレームが外部懸架素子によって支持基板と結合され、振動素子が内部懸架素子によって当該フレームと結合されたマイクロメカニカル素子の技術分野において、フレームに導体路を設け、導体路に複数の励振周波数が重畳した電流を流し、内部懸架素子の軸を中心にするフレーム及び振動素子の振動の励振を、導体路を流れる電流における一の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行うとともに、外部懸架素子の軸を中心にするフレームの振動の励振を、導体路を流れる電流における別の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行うことは、周知の技術事項である(特開2002-148536号公報の【0020】?【0022】、図1、米国特許出願公開第2005/0253055号明細書の請求項1?6、47?58、[0086]、図1、4A等参照)。 してみると、引用発明において、共通の技術分野に属するとともに二つの共振周波数の成分を重畳した一の電流により、二つの軸周りの振動を励起するものである上記周知の技術事項に基づいて、フレームに導体路を設け、第1の振動と第2の振動の励振を、導体路における励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行い、第1の軸を中心にするフレームの第3の振動の励振を、導体路における別の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行うように構成し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び上記周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-4.むすび したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成23年7月7日付けの手続補正書により補正された、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「フレーム(2)を有し、該フレーム(2)は外部懸架素子(3)によって支持基板(4)と結合されているマイクロメカニカル素子であって、 前記フレーム(2)は第1の軸(10)を中心に、前記支持基板(4)の主伸長面(5)内で振動可能であり、かつ前記第1の軸(10)に対して垂直の第2の軸(11)を中心に主伸長面(5)内で振動可能であり、 前記マイクロメカニカル素子(1)は振動素子(20)を有し、 該振動素子(20)は内部懸架素子(21)によって前記フレーム(2)と結合されており、前記第2の軸(11)を中心に振動可能である形式のマイクロメカニカル素子において、 前記外部懸架素子(3)は、前記第2の軸(11)を中心にする前記フレーム(2)の第1の振動が、当該第2の軸(11)を中心にする前記振動素子(20)の第2の振動の共振曲線の半値幅内にある共振周波数で行われるように構成されている、ことを特徴とするマイクロメカニカル素子。」 IV.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。 V.対比 本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、「フレーム(2)」及び「振動素子(20)」の限定事項である「前記フレーム(2)が少なくとも1つの導体路(30)を有し、第1の振動と第2の振動の励振は、前記導体路(30)における励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われ、第1の軸(10)を中心にするフレーム(2)の第3の振動の励振が、前記導体路(30)における別の励振周波数での周期的な電流強度変化と磁界の印加により行われる」との構成を省いたものである。 してみると、前記II.3-2での検討結果を参酌して、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は次の点で一致する。 (一致点) 「フレーム(2)を有し、該フレーム(2)は外部懸架素子(3)によって支持基板(4)と結合されているマイクロメカニカル素子であって、 前記フレーム(2)は第1の軸(10)を中心に、前記支持基板(4)の主伸長面(5)内で振動可能であり、かつ前記第1の軸(10)に対して垂直の第2の軸(11)を中心に主伸長面(5)内で振動可能であり、 前記マイクロメカニカル素子(1)は振動素子(20)を有し、 該振動素子(20)は内部懸架素子(21)によって前記フレーム(2)と結合されており、前記第2の軸(11)を中心に振動可能である形式のマイクロメカニカル素子。」 そして、両者は、次の点で相違する。 (相違点3) 外部懸架素子(3)に関して、本願発明では、「前記第2の軸(11)を中心にする前記フレーム(2)の第1の振動が、当該第2の軸(11)を中心にする前記振動素子(20)の第2の振動の共振曲線の半値幅内にある共振周波数で行われるように構成されて」いるのに対し、引用発明では、「第1の弾性ビーム34の捩れ振動の共振周波数f1tと、第2の弾性ビーム35の逆相の曲げ共振モードの共振周波数f2bが略同じとなるように厚さなど各寸法が設定されて」いる点。 VI.判断 前記II.2に記載したとおり、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、明りょうでない記載の釈明を目的として、相違点3に係る本願発明の発明特定事項を補正したものであって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項と相違点3に係る本願発明の発明特定事項との間に実質的な差異はないから、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、前記II.3-3において相違点1について検討したのと同様の理由で、引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たことであり、本願発明による効果も、引用発明から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 VII.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-10 |
結審通知日 | 2012-12-14 |
審決日 | 2012-12-26 |
出願番号 | 特願2010-519398(P2010-519398) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B81B)
P 1 8・ 575- Z (B81B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 太田 良隆 |
特許庁審判長 |
横林 秀治郎 |
特許庁審判官 |
蓮井 雅之 高田 元樹 |
発明の名称 | マイクロメカニカル素子およびマイクロメカニカル素子の振動素子を励振するための方法 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 高橋 佳大 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 篠 良一 |