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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1274471
審判番号 不服2011-24649  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-15 
確定日 2013-05-22 
事件の表示 特願2010-506037「単一音源を用いた人体音響送信システム及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月13日国際公開、WO2008/136580、平成22年 8月 5日国内公表、特表2010-527176〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年3月25日(優先権主張外国庁受理2007年5月2日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月22日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月23日付けで手続補正がなされたが、同年7月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。


第2 平成23年11月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔結論〕
平成23年11月15日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正内容
平成23年11月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」と呼ぶ。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を、補正後の請求項1に変更する補正事項を含むものである。
そして、補正前の請求項1及び補正後の請求項1の各記載は、それぞれ、以下のとおりである。
<補正前の請求項1>
「 【請求項1】
人体を媒質として用いる人体音響送信システムにおいて、
第1の高周波信号に音響信号を乗せ、前記人体を介して送信する第1の送信手段と、
ユーザの耳領域において干渉によって前記第1の高周波信号が相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第1の高周波信号と同一の周波数を有する第2の高周波信号を、前記人体を介して送信する第2の送信手段とを備え、
前記第1の送信手段が、
前記音響信号と前記第1の高周波信号とを合成する信号結合手段と、
前記信号結合手段で合成された信号を前記人体に出力する第1の伝送手段とを備え、
前記第2の送信手段が、
前記ユーザの耳領域において前記第1の高周波信号と前記第2の高周波信号とが相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第2の高周波信号を人体に出力する第2の伝送手段とを備えることを特徴とする単一音源を用いた人体音響送信システム。」

<補正後の請求項1>
「 【請求項1】
人体を媒質として用いる人体音響送信システムにおいて、
第1の高周波信号に音響信号を乗せ、前記人体を介して送信する第1の送信手段と、
ユーザの耳領域において干渉によって前記第1の高周波信号が相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第1の高周波信号と同一の位相及び周波数を有する第2の高周波信号を、前記人体を介して送信する第2の送信手段とを備え、
前記第1の送信手段が、
前記音響信号と前記第1の高周波信号とを合成する信号結合手段と、
前記信号結合手段で合成された信号を前記人体に出力する第1の伝送手段とを備え、
前記第2の送信手段が、
前記ユーザの耳領域において前記第1の高周波信号と前記第2の高周波信号とが相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第2の高周波信号を人体に出力する第2の伝送手段とを備えることを特徴とする単一音源を用いた人体音響送信システム。」

2.本件補正に対する判断
本件補正の内の上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ユーザの耳領域において干渉によって前記第1の高周波信号が相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第1の高周波信号と同一の周波数を有する第2の高周波信号を、前記人体を介して送信する第2の送信手段」を「ユーザの耳領域において干渉によって前記第1の高周波信号が相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第1の高周波信号と同一の位相及び周波数を有する第2の高周波信号を、前記人体を介して送信する第2の送信手段」に限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」と呼ぶ。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

2-1.本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.」の<補正後の請求項1>の欄に転記したとおりのものである。

2-2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、米国特許出願公開第2006/0143004号明細書(以下、「引用例」と呼ぶ。)には、以下の記載がある。

(1)「 1 . A sound transmission system using a human body as a propagation medium, the transmission system comprising a first signal transmitter and a second signal transmitter respectively generating high frequency signals having the same frequencies at least higher than an audible frequency bandwidth and having opposite phases to each other, the first and second signal transmitters coupled to the human body, wherein the first and second signal transmitters respectively generate the same audio signals, and the respective signal transmitters combine audio signals and the high frequency signals to output combined signals to the human body.」(第4ページの「What is claimed」の欄の「1.」)
<当審による邦訳>
「1.人体を伝播媒体として用いる音伝送システム。該伝送システムは、それぞれが、少なくとも可聴周波数帯域よりも高く、相互に同じ周波数で、反対位相の高周波信号を発生する第1信号送信機と第2信号送信機であって、人体に結合された第1及び第2送信機を含む。
そこにおいて、第1及び第2送信機は、それぞれ同一の音響信号を発生し、それぞれの送信機は、合成信号を人体に出力するように、音響信号と高周波信号を合成する。」

(2)「The phase shifter 150 shifts an output phase of the combined signal of the high frequency signal and the audio signal, the combined signal having been transmitted from the signal combiner 140, according to the control signal of the controller 110. Accordingly, since phases of the signals output from the two signal transmitters 100a and 100b in the sound transmission system according to the exemplary embodiment of the present invention are controlled, the ultrasonic components may be eliminated when the two signals are overlapped around the ears. In addition, when there is a big difference between a distance from a left ear to the signal transmitter 100a attached on a left side of the human body 200 and a distance from a right ear to the signal transmitter 100b attached on a right side of the human body 200, a time delay of one of the signals is set so that the destructive interference of ultrasonic component is still maintained around the ears, and therefore, the phase of the signal to be transmitted may be adjusted. In addition, an interference generation area in the human body 200 may be adjusted since the phases of the signals transmitted from the two signal transmitters 100a and 100b are shifted by adjusting the time delay in the phase shifter 150. 」(段落[0028])
<当審による邦訳>
「移相器150は、コントローラ110からの制御信号にしたがって、信号結合器140から伝送された高周波信号と音響信号の合成信号の出力位相をシフトする。それによって、この発明の典型的構成に従う音伝送システムにおいて、2つの信号送信機100aと100bから出力される信号の位相は制御されるので、2つの信号が耳の周辺で重なった時、超音波成分は除去されるだろう。さらに、左耳から人体200の左側に装着された信号送信器100aまでの距離と右耳から人体200の右側に装着された信号送信器100bまでの距離との間に大きな違いがあるとき、一方の信号の時間遅延は、超音波成分の相殺的干渉が耳の周辺で維持されるように設定され、その結果、伝送される信号の位相は調整されるだろう。加えて、移相器150の中で時間遅延を調整することによって2つの信号送信器100aと100bから送信される信号の位相がシフトされるので、人体200中の干渉発生エリアは調整されるだろう。」

(3)「FIG.3E shows a diagram representing a waveform 307 generated by destructive interference of ultrasonic components caused by overlapping of the two signals 303 and 306 respectively having different phases from each other, the two signals 303 and 306 generated by the two signal transmitters 100a and 100b. FIG.3F shows a diagram representing a waveform 308 generated by the constructive interference of ultrasonic components caused by the overlapping of the two signals 303 and 306. When the destructive interference is generated as shown in FIG.3E, the high frequency signal is eliminated, and so only the audio signal is delivered to the ears. In addition, when the constructive interference is generated as shown in FIG.3F, the resultant signal still having a frequency component higher than the audible frequency bandwidth, but a user cannot sense this signal. Therefore, the signal generated by the destructive interference as shown in FIG.3E may be sensed.」(段落[0036])
<当審による邦訳>
「FIG.3Eは、相互に異なる位相を有する2つの信号303と306の重なりにより生じる超音波要素の相殺的干渉により発生される波形307を表す図である。その2つの信号303と306は、2つの信号送信機100aと100bによって発生される。FIG.3Fは、2つの信号303と306の重なりにより生じる超音波要素の建設的干渉により発生される波形308を表す図である。FIG.3Eに示されるように相殺的干渉が生じるとき、高周波信号は除去され、音響信号のみが耳に届けられる。また、FIG.3Fに示されるように建設的干渉が生じるとき、結果として生じる信号はまだ可聴周波数帯域よりも高い周波数成分を有しているが、ユーザは、この信号を感知することができない。それゆえ、FIG.3Eに示されるような相殺的干渉によって発生される信号が感知されるだろう。」

(4)「While it has been described that the signal transmitter generates the audio signal and the high frequency signal and combines the audio and high frequency signals to output the combined signal according to the exemplary embodiment of the present invention, any configuration may be available when the high frequency signals output by the two signal transmitters are offset. For example, the first signal transmitter may include the audio signal generator, the high frequency signal generator, and the signal combiner, and may combine the audio signal and the high frequency signal to output the combined signal, and the second signal transmitter may include the high frequency signal generator without including the audio signal generator and the signal combiner so as to output the high frequency signal. In the above exemplified configuration, a user may hear the sound since the high frequency signal is eliminated by the interference occurred around the auditory organ. 」(段落[0039])
<当審による邦訳>
「この発明の典型例に従って、送信機は、音響信号と高周波信号を発生し、合成信号を出力するために音響信号と高周波信号を合成すると述べられてきたが、2つの送信機による高周波信号出力が相殺されるとき、どのような構成も採用可能である。例えば、第1の送信機は、音響信号発生器と高周波信号発生器と信号合成器を含み、合成信号を出力するように音響信号と高周波信号を合成してもよい。そして、第2の送信機は、高周波信号を出力するように、音響信号発生器と信号合成器を含むことなく、高周波信号発生器を含んでいてもよい。上に例示された構成においては、ユーザは、聴覚器官の周辺で生じる干渉によって高周波信号が除去されるので、音を聞くことができるだろう。」

そして、上記記載事項を、引用例の関連図面と技術常識に照らせば、引用例には以下の発明(以下、「引用例記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。
「人体を媒質として用いる人体音響送信システムにおいて、
第1の高周波信号に音響信号を乗せ、前記人体を介して送信する第1の送信手段と、
ユーザの耳領域において干渉によって前記第1の高周波信号が相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第1の高周波信号と同一の周波数を有する第2の高周波信号を、前記人体を介して送信する第2の送信手段とを備え、
前記第1の送信手段が、
前記音響信号と前記第1の高周波信号とを合成する信号結合手段と、
前記信号結合手段で合成された信号を前記人体に出力する第1の伝送手段とを備え、
前記第2の送信手段が、
前記ユーザの耳領域において前記第1の高周波信号と前記第2の高周波信号とが相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第2の高周波信号を人体に出力する第2の伝送手段とを備えることを特徴とする人体音響送信システム。」

2-3.対比
本願補正発明と引用例記載発明を対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「人体を媒質として用いる人体音響送信システムにおいて、
第1の高周波信号に音響信号を乗せ、前記人体を介して送信する第1の送信手段と、
ユーザの耳領域において干渉によって前記第1の高周波信号が相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第1の高周波信号と同一の周波数を有する第2の高周波信号を、前記人体を介して送信する第2の送信手段とを備え、
前記第1の送信手段が、
前記音響信号と前記第1の高周波信号とを合成する信号結合手段と、
前記信号結合手段で合成された信号を前記人体に出力する第1の伝送手段とを備え、
前記第2の送信手段が、
前記ユーザの耳領域において前記第1の高周波信号と前記第2の高周波信号とが相殺され前記音響信号が復元されるように、前記第2の高周波信号を人体に出力する第2の伝送手段とを備えることを特徴とする人体音響送信システム。」
である点。

(相違点1)
本願補正発明の「第2の送信手段」は、「第1の高周波信号と同一の位相及び周波数を有する第2の高周波信号」を送信する機能を有するものであるのに対し、引用例記載発明の「第2の送信手段」は、「第1の高周波信号と同一の周波数を有する第2の高周波信号」を送信する機能を有するものではあるものの、「第1の高周波信号と同一の位相を有する第2の高周波信号」を送信する機能を有するものであるとは限らない点。

(相違点2)
本願補正発明は、「単一音源」を用いたものであるのに対し、引用例記載発明は、「単一音源」を用いたものには限定されていない点。

2-4.判断
(1)(相違点1)について
以下の事情を勘案すると、引用例記載発明の「第2の送信手段」を「第1の高周波信号と同一の位相及び周波数を有する第2の高周波信号」を送信する機能を有するものとすることは、当業者が容易になし得たことというべきである。
ア.引用例の段落[0028]の記載事項を技術常識に照らせば、引用例記載発明の「第1の高周波信号」と「第2の高周波信号」の間の位相差(以下、「位相差A」と呼ぶ。)が、「第1の伝送手段からユーザの耳領域までの距離」と「第2の伝送手段からユーザの耳領域までの距離」の差(以下、「距離差A」と呼ぶ。)に応じて適宜調整されるべきものであることは明らかである。
また、引用例の同所においては、「左耳から人体200の左側に装着された信号送信器100aまでの距離と右耳から人体200の右側に装着された信号送信器100bまでの距離との間に大きな違いがあるとき」が想定されているところ、その距離の違いの大きさにより、位相差Aをゼロとすべき場合が当然にあり得ることも明らかである。
イ.引用例には、「phase shifter 150」による位相のシフト量に制限を設けるべき旨の記載はなく、上記ア.の事情に照らすと、該「phase shifter 150」を位相差Aがゼロとなる場合を含む範囲で位相をシフトできるように構成することは、当業者が当然に考慮したことというべきである。
ウ.以上のことは、引用例記載発明の「第2の送信手段」を「第1の高周波信号と同一の位相及び周波数を有する第2の高周波信号」を送信する機能を有するものとすることが当業者にとって容易であったことを意味している。

(2)(相違点2)について
上記2-2.の(4)に摘記した引用例の記載事項の内の「the second signal transmitter may include the high frequency signal generator without including the audio signal generator and the signal combiner so as to output the high frequency signal.」(邦訳:「第2の送信機は、高周波信号を出力するように、音響信号発生器と信号合成器を含むことなく、高周波信号発生器を含んでいてもよい。」)という記載は、引用例記載発明が「単一音源」のシステムとしても構成され得ることを示すものである。そして、このことは、引用例が引用例記載発明を「単一音源」を用いたものとすることを示唆していることを意味し、そうすることが当業者にとって容易であったことを意味している。

(3)本願補正発明の効果について
本願補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用例に記載された事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(4)まとめ
以上によれば、本願補正発明は、引用例記載発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成23年6月23日付けの手続補正書の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の「1.」の<補正前の請求項1>の欄に転記したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、上記「第2」の「2.」の「2-2.」の欄に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、限定事項の一部を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに特定の限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「2.」の欄に記載したとおり、引用例記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-13 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2013-01-08 
出願番号 特願2010-506037(P2010-506037)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相澤 祐介甲斐 哲雄  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 吉村 博之
飯田 清司
発明の名称 単一音源を用いた人体音響送信システム及びその方法  
復代理人 中西 英一  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 濱中 淳宏  

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