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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65G |
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管理番号 | 1274490 |
審判番号 | 不服2012-11457 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-06-20 |
確定日 | 2013-05-22 |
事件の表示 | 特願2007-178652「ウェハのためのハンドリング装置およびハンドリング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日出願公開、特開2008- 13372〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成19年7月6日(パリ条約による優先権主張2006年7月7日、ドイツ国)の出願であって、平成23年4月25日付けで拒絶理由が通知され、同年8月10日付けで手続補正がなされ、平成24年2月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、これと同時に明細書、及び、特許請求の範囲を補正対象とする手続補正(以下、同手続補正を「本件補正」という。)がなされたものである。 第2.本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本件発明 本件補正により、特許請求の範囲は、 「【請求項1】 ウェハ(4)を着脱自在に固定するための粘着膜(3)と、移動可能に配置された本体(1)と、を備えたハンドリング装置において、 前記粘着膜(3)が丸形の輪郭を備えていると共に該粘着膜(3)の縁部においてのみ前記本体(1)に固定され、前記粘着膜(3)及び前記本体(1)が少なくとも一つの作動空間(8)を区切り、前記作動空間の容積は加圧媒体を供給あるいは除去することによって変化可能であると共に、前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)の大きさは前記作動空間の容積を変化させることによって調整しうることを特徴とするハンドリング装置。 【請求項2】 前記粘着膜(3)がゲルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のハンドリング装置。 【請求項3】 前記粘着膜(3)が、前記移動可能に配置された本体(1)に、加圧媒体が漏れないような状態で固定されたことを特徴とする請求項1または2に記載のハンドリング装置。 【請求項4】 前記粘着膜(3)が、前記本体(1)に接着、またはクランプ止めで固定されたことを特徴とする請求項3に記載のハンドリング装置。 【請求項5】 前記粘着膜(3)のための前記本体(1)の接合面(7)が、平坦、または波状若しくは格子状に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項6】 多孔性材料(6)が前記作動空間(8)内に配置され、前記粘着膜(3)のための接合面(7)が、前記多孔性材料(6)によって形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項7】 前記粘着膜(3)が複数の作動空間(8)を区切るよう配置され、前記作動空間(8)はお互いにシールされており、少なくとも2つの作動空間(8)に対して個別に加圧媒体が供給され得ることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項8】 請求項1から7のいずれか1項に記載のハンドリング装置のための、ウェハ(4)のハンドリング方法において、 前記ウェハ(4)を、丸形の輪郭を備えると共にその縁部においてのみ本体(1)に固定された粘着膜(3)に対して着脱自在に固定するステップと、 前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)を、前記粘着膜(3)及び前記本体(1)によって区切られた作動空間(8)の容積を増減することによって変化させるステップと、 を具備していることを特徴とする、ハンドリング方法。 【請求項9】 前記接触面(9)の接触面積を、前記ウェハ(4)を分離するために減少させるステップ、および、前記ウェハ(4)を固定するために増大させるステップのうちの少なくとも一方を具備していることを特徴とする請求項8に記載のハンドリング方法。」 と、補正された。 (2)補正事項 上記補正は、以下の事項からなる。 ア.補正事項1 請求項1に記載された発明を特定する事項である「100μmより小さい厚さのウェハ(4)を、着脱自在に固定するための粘着膜(3)を備えたハンドリング装置において」について、「ウェハ(4)」に係る発明特定事項である「100μmより小さい厚さの」という事項を削除し、「移動可能に配置された本体(1)と」という事項を加入して、「ウェハ(4)を着脱自在に固定するための粘着膜(3)と、移動可能に配置された本体(1)と、を備えたハンドリング装置において」と補正する。 イ.補正事項2 請求項1に記載された発明を特定する事項である「前記粘着膜(3)が丸形の輪郭を備えていると共に」を、「前記粘着膜(3)が丸形の輪郭を備えていると共に該粘着膜(3)の縁部においてのみ前記本体(1)に固定され」と補正する。 ウ.補正事項3 請求項1に記載された「粘着膜(3)」に係る発明特定事項である「少なくとも一つの作動空間(8)を区切るよう配置され」について、「配置され」との事項を削除し、「前記粘着膜(3)及び前記本体(1)が少なくとも一つの作動空間(8)を区切り」と補正する。 エ.補正事項4 請求項3に記載された発明を特定する事項である「前記粘着膜(3)が、移動可能に配置された本体(1)に、加圧媒体に対して緊密な状態で固定されたことを特徴とする請求項1または2に記載のハンドリング装置。」を、「前記粘着膜(3)が、前記移動可能に配置された本体(1)に、加圧媒体が漏れないような状態で固定されたことを特徴とする請求項1または2に記載のハンドリング装置。」と補正する。 オ.補正事項5 請求項4に記載された発明を特定する事項である「前記粘着膜(3)が、広範囲にシールされるように、前記本体(1)に端部領域のみにおいて、接着、またはクランプ止めで固定されたことを特徴とする請求項3に記載のハンドリング装置。」を、「前記粘着膜(3)が、前記本体(1)に接着、またはクランプ止めで固定されたことを特徴とする請求項3に記載のハンドリング装置。」 カ.補正事項6 旧請求項5を削除する。 キ.補正事項7 旧請求項6に記載された発明を特定する事項である「前記粘着膜(3)のための前記本体(1)の接合面が、平坦、または波状若しくは格子状に構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のハンドリング装置。」を、新請求項5の「前記粘着膜(3)のための前記本体(1)の接合面(7)が、平坦、または波状若しくは格子状に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のハンドリング装置。」と補正する。 ク.補正事項8 旧請求項7に記載された発明を特定する事項である「多孔性材料(6)が前記作動空間(8)内に配置され、前記粘着膜(3)のための接合面(7)が、前記多孔性材料(6)によって形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のハンドリング装置。」を、新請求項6の「多孔性材料(6)が前記作動空間(8)内に配置され、前記粘着膜(3)のための接合面(7)が、前記多孔性材料(6)によって形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のハンドリング装置。」と補正する。 ケ.補正事項9 旧請求項8に記載された発明を新請求項7に補正する。 コ.補正事項10 旧請求項9を削除する。 サ.補正事項11 旧請求項10に記載された発明を特定する事項である「請求項1から9のいずれか1項に記載のハンドリング装置のための、100μmより小さい厚さのウェハ(4)のハンドリング方法において、前記ウェハ(4)を、丸形の輪郭を備える粘着膜(3)に対して着脱自在に固定するステップと、前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)を、前記粘着膜(3)によって区切られた作動空間(8)の容積を増減することによって変化させるステップと、を具備していることを特徴とする、ハンドリング方法。」を、 新請求項8の「請求項1から7のいずれか1項に記載のハンドリング装置のための、ウェハ(4)のハンドリング方法において、前記ウェハ(4)を、丸形の輪郭を備えると共にその縁部においてのみ本体(1)に固定された粘着膜(3)に対して着脱自在に固定するステップと、前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)を、前記粘着膜(3)及び前記本体(1)によって区切られた作動空間(8)の容積を増減することによって変化させるステップと、を具備していることを特徴とする、ハンドリング方法。」と補正する。 シ.補正事項12 旧請求項11に記載された発明を特定する事項である「前記接触面(9)の接触面積を、前記ウェハ(4)を分離するために減少させるステップ、および、前記ウェハ(4)を固定するために増大させるステップのうちの少なくとも一方を具備していることを特徴とする請求項10に記載のハンドリング方法。」を、新請求項9の「前記接触面(9)の接触面積を、前記ウェハ(4)を分離するために減少させるステップ、および、前記ウェハ(4)を固定するために増大させるステップのうちの少なくとも一方を具備していることを特徴とする請求項8に記載のハンドリング方法。」と補正する。 (3)補正の目的違反 本件補正は、上記補正事項1、3により、発明特定事項の一部を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項各号のいずれの目的にも該当しない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3.本件発明について (1)本件発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本件の請求項1ないし11に係る発明は、平成23年8月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明ないし請求項11に係る発明は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 100μmより小さい厚さのウェハ(4)を、着脱自在に固定するための粘着膜(3)を備えたハンドリング装置において、 前記粘着膜(3)が丸形の輪郭を備えていると共に少なくとも一つの作動空間(8)を区切るよう配置され、前記作動空間の容積は加圧媒体を供給あるいは除去することによって変化可能であると共に、前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)の大きさは前記作動空間の容積を変化させることによって調整しうることを特徴とするハンドリング装置。 【請求項2】 前記粘着膜(3)がゲルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のハンドリング装置。 【請求項3】 前記粘着膜(3)が、移動可能に配置された本体(1)に、加圧媒体に対して緊密な状態で固定されたことを特徴とする請求項1または2に記載のハンドリング装置。 【請求項4】 前記粘着膜(3)が、広範囲にシールされるように、前記本体(1)に端部領域のみにおいて、接着、またはクランプ止めで固定されたことを特徴とする請求項3に記載のハンドリング装置。 【請求項5】 前記粘着膜(3)が、円形状の輪郭を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項6】 前記粘着膜(3)のための前記本体(1)の接合面が、平坦、または波状若しくは格子状に構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項7】 多孔性材料(6)が前記作動空間(8)内に配置され、前記粘着膜(3)のための接合面(7)が、前記多孔性材料(6)によって形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項8】 前記粘着膜(3)が複数の作動空間(8)を区切るよう配置され、前記作動空間(8)はお互いにシールされており、少なくとも2つの作動空間(8)に対して個別に加圧媒体が供給され得ることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のハンドリング装置。 【請求項9】 前記多孔性材料(6)が、少なくとも2つの前記作動空間(8)内に別に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のハンドリング装置。 【請求項10】 請求項1から9のいずれか1項に記載のハンドリング装置のための、100μmより小さい厚さのウェハ(4)のハンドリング方法において、 前記ウェハ(4)を、丸形の輪郭を備える粘着膜(3)に対して着脱自在に固定するステップと、 前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)を、前記粘着膜(3)によって区切られた作動空間(8)の容積を増減することによって変化させるステップと、 を具備していることを特徴とする、ハンドリング方法。 【請求項11】 前記接触面(9)の接触面積を、前記ウェハ(4)を分離するために減少させるステップ、および、前記ウェハ(4)を固定するために増大させるステップのうちの少なくとも一方を具備していることを特徴とする請求項10に記載のハンドリング方法。」 (2)引用刊行物 ○引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-930号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「部品保持具」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。 ア.【特許請求の範囲】の【請求項1】 「ベース部材と、該ベース部の上面に少なくとも周縁部で接着固定され、かつ上面に粘着部が形成された粘着弾性シート部材とを有し、前記粘着部に部品を密着保持するようにした部品保持具であって、 前記ベース部材又は前記粘着弾性シート部材には圧縮気体を注入・排出する通気孔が設けられ、該通気孔から圧縮気体を注入することにより前記粘着弾性シート部材が膨張して上方に隆起することで、前記粘着弾性シート部材に取り付けられた部品と前記粘着弾性シート部材との密着部の一部が剥がされるようにしたことを特徴とする部品保持具。」 イ.段落【0001】 「この発明は、シリコンウエハ、フレキシブルプリント基板、セラミックコンデンサー、コイルフィルター等の電子部品等を加工する際の保持又は加工後に搬送する際に用いる部品保持具に関する。」 ウ.段落【0002】 「従来から、シリコンウエハ、フレキシブルプリント基板、セラミックコンデンサー、コイルフィルター等の電子部品のうち、薄板状のものは破損し易かったり、3次元形状のものは転倒し易いため、その加工中においては保持具に固定して、研磨、パターニング、ダイシング等の加工を行っている。そして、複数の加工が別の場所で行われる小型の電子部品にあっては、その工程間の電子部品の搬送に際しても保持具に固定した状態で移動される。つまり、このような部品保持具にあっては、加工中及び搬送中において電子部品が勝手に移動して重なり合ったり、転倒しないように固定され、電子機器本体に組み込むための組立作業時には容易に取り外し可能であることが要求される。」 エ.段落【0005】 「【発明が解決しようとする課題】 そこで、この発明は、加工中又は搬送中には十分な保持力で部品を保持固定でき、完成後には部品を容易に取り外すことのできて、部品を破損させることのない、部品の加工及び搬送に使用する耐久性に優れた部品保持具を提供することを課題としている。」 オ.段落【0011】 「この発明は以上のような構成を有するため、請求項1に記載の発明によれば、部品の加工時或いは搬送時には粘着シート部材の上面の粘着部でしっかりと保持されるので、部品が移動して部品同士が重なり合ったり、転倒するようなことがない。また、組立等の際の部品を保持具から取り外すときには、ベース部材又は粘着弾性シート部材に設けられた通気孔を介して気体を注入することで、粘着弾性シート部材が膨張して上方に隆起するから、粘着弾性シート部材に取り付けられた部品と粘着弾性シート部材との密着部の一部が剥がされ、その剥がされた部分に相当する粘着力が減少することになり、小さな力で部品を取り外すことができるので、誤って部品を保持具に衝突させて破損させるようなことがない。」 カ.段落【0018】?【0022】 「図1は、この発明の実施の形態に係る部品保持具の平面図である。図2は、圧縮気体を注入した状態の図1のA-A断面図である。 この発明の実施の形態1に係る部品保持具1は、図1及び図2に示したように、上面が平坦に形成された矩形状のベース部材2の上面に、上面に粘着部3が形成されたベース部材2とほぼ同じ大きさをした粘着弾性シート部材4が配設され、この粘着弾性シート部材4の下面の周縁部5がベース部材2の上に接着強固定されている。ベース部材2の中央部には圧縮気体の供給源(図示せず)に接続される圧縮気体を注入・排出することのできる通気孔6を設けている。 ベース部材2は、剛性を有するステンレススチール、アルミニウム、エポキシ樹脂、ポリブチレンテレフタレート等の材質の板材の中から選択した材料により矩形状に形成され、上面は平坦で平滑な面に加工される。このベース部材2に設けた通気孔6のベース部材2の一側面の開口部には、必要に応じて圧縮気体の注入・排出量を調整でき、かつ隆起部内の圧縮気体が排出しないようにする安全弁(図示せず)が設けられる。安全弁を使用することで各種部品に応じた最適な圧縮気体量を設定することが可能となる他、粘着弾性シート部材4が膨張し過ぎることを防止できるから、常に安定した膨張収縮を実現することが可能となる。 通気孔6の取付場所は、ベース部材2が厚板の場合にはベース部材の一側面とすればよく、ベース部材2が薄板の場合には粘着弾性シート部材4の一部(作業に支障がない箇所)に取り付ければよい。 粘着弾性シート部材4は、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ウレタン等のシート材の上面に常温で粘着性を有する液状エラストマーをコーテングし、これを乾燥固化して上面に粘着部3を形成することができる。粘着部3の形成は上記の方法に限定されるものではなく、別体で製作した粘着部3が形成されたフイルム状のシート材をベースとなる弾性シート部材上面に接着する等の方法により作成してもよい。」 キ.段落【0023】?【0025】 「次に、以上のような構成を有する実施の形態1に係る部品保持具1の作用について説明する。 実施の形態1に係る部品保持具1の粘着弾性シート部材4の上面の粘着部3上に部品Pを載置すると粘着部3の粘着力によりその上面に部品Pが密着保持される。この状態では、部品Pは粘着弾性シート部材4の上面の定位置で移動不能となっているから、そのままの状態で部品Pを加工することができる。つまり、部品保持具1は部品Pの加工治具として使用され、加工が終了したら次工程への搬送装置として使用することができる。 次に、加工が終了した部品Pを電子機器等に組み込む場合には、通気孔6から圧縮気体を注入することで、ベース部材2に接着された粘着弾性シート部材4の周縁部5以外のベース部材2の表面と粘着弾性シート部材4との僅かな隙間に圧縮気体が流入して、粘着弾性シート部材4の中央部が上方へ膨張して一つの隆起部7が形成される。これにより、粘着弾性シート部材4上面の粘着部3と部品Pの下面の密着している接触面積が減少するので、これに応じた分だけ粘着部3と部品Pとの粘着力が減少し、部品Pの取り外しが容易になる。」 ク.段落【0042】?【0044】 「図7は、この発明の実施の形態2に係る部品保持具1の要部断面図である。 実施の形態2に係る部品保持具1では、上記実施の形態1の構成と異なり、粘着弾性シート部材4の膜厚が厚肉部11と薄肉部12とで構成されている。厚肉部11と薄肉部12とは平面から見て左右上下に互い違いに配置されており、各薄肉部12の空間部はすべて連通している。粘着弾性シート部材4の厚肉部11と薄肉部12とは一体形成によって作られたものでもよいし、或いは、所定形状に型抜きされた複数の切り欠き部を有する型抜きシート部材に切り欠きのない薄肉シート部材とを接着積層して製作したものでもよい。ここで、粘着弾性シート部材4の周縁部5には厚肉部11を配置し、周縁部5の厚肉部11を含めすべての厚肉部11とベース部材2の上面とを接着固定されている。また、薄肉部12の直下のベース部材2には圧縮気体の供給源(図示しない)と接続される通気孔6が穿設されている。 このように構成されている実施の形態2に係る部品保持具1は、部品保持具1上に部品Pを密着保持して、通気孔6から圧縮気体を注入すると、粘着弾性シート部材4の薄肉部12が膨張して平面から見て上下左右にとびとびに位置する複数の隆起部7が形成される。これにより、粘着弾性シート部材4の上面の粘着部3と部品Pの下面との接触面積は大幅に減少し、これに応じて粘着部3と部品Pとの粘着力は大幅に減少するので、部品Pの取り外しが容易になる。そして、この実施の形態2においては、薄肉部12の形状と配置を任意に設定できるから、形状、大きさ及び数が異なる各種部品Pに応じた部品保持具1を簡単に製作することができる。」 以上によれば、引用刊行物には、 「上面が平坦に形成された矩形状のベース部材と、該ベース部材の上面に少なくとも周縁部で接着固定され、かつ上面に粘着部が形成され、ベース部材とほぼ同じ大きさをした粘着弾性シート部材とを有し、前記粘着部にシリコンウエハ等の電子部品のうち、薄板状の部品を密着保持するようにした、部品の加工及び搬送に使用する部品保持具であって、 前記ベース部材又は前記粘着弾性シート部材には圧縮気体を注入・排出する通気孔が設けられ、該通気孔から圧縮気体を注入することにより前記粘着弾性シート部材が膨張して上方に隆起することで、隆起部が形成され、これにより、粘着弾性シート部材の上面の粘着部と部品の下面の密着している密着部の一部が剥がされる接触面積が減少するので、これに応じた分だけ粘着部と部品との粘着力が減少し、部品の取り外しが容易になる部品保持具。」 との発明(以下、「引用刊行物発明」という。)が開示されていると認められる。 (3)一致点・相違点の認定 そこで、本件発明1と引用刊行物発明とを比較すると、引用刊行物発明が対象とする「シリコンウエハ等の電子部品のうち、薄板状の部品」は、「ウエハ」である限りにおいて、本件補正発明1のハンドリング装置が対象とする「ウェハ」と一致している。 また、引用刊行物発明の粘着弾性シート部材についてみると、これは、「上面に粘着部が形成され、前記粘着部にシリコンウエハ等の電子部品のうち、薄板状の部品を密着保持する」ものであるから、本件発明1の「粘着膜(3)」が、「ウェハ(4)を着脱自在に固定するため」のものである点に相当している。 さらに、引用刊行物発明の「前記ベース部材又は前記粘着弾性シート部材には圧縮気体を注入・排出する通気孔が設けられ、該通気孔から圧縮気体を注入することにより前記粘着弾性シート部材が膨張して上方に隆起することで、隆起部が形成され、これにより、粘着弾性シート部材の上面の粘着部と部品の下面の密着している密着部の一部が剥がされる接触面積が減少するので、これに応じた分だけ粘着部と部品との粘着力が減少し、部品の取り外しが容易になる」点は、「ベース部材」と「粘着弾性シート部材」の「隆起部」との間の空間に「圧縮気体を注入する」することは明らかであるから、本件発明1の「粘着膜(3)」が、「少なくとも一つの作動空間(8)を区切るように配置され、前記作動空間の容積は加圧媒体を供給あるいは除去することによって変化可能であると共に、前記粘着膜(3)と前記ウェハ(4)との間の接触面(9)の大きさは前記作動空間の容積を変化させることによって調整しうる」点と、同様の構成・動作であるということができる。 以上の通りであるから、両者は、 <一致点> 「ウェハを、着脱自在に固定するための粘着膜を備えたハンドリング装置において、 前記粘着膜が少なくとも一つの作動空間を区切るよう配置され、前記作動空間の容積は加圧媒体を供給あるいは除去することによって変化可能であると共に、前記粘着膜と前記ウェハとの間の接触面の大きさは前記作動空間の容積を変化させることによって調整しうることを特徴とするハンドリング装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1では、ウェハ(4)が「100μmより小さい厚さ」であるのに対し、引用刊行物発明の「部品」は、ウエハではあるが、そのような厚さのものであるかは明らかでない点。 <相違点2> 本件発明1では、粘着膜が「丸形の輪郭を備えている」ものであるのに対し、引用刊行物発明の粘着弾性シート部材は、矩形状のベース部材とほぼ同じ大きさをしているからその輪郭は矩形状であって、丸形ではない点。 (4)判断 各相違点について検討する。 <相違点1>について 相違点1について検討すると、刊行物発明においては、扱う「部品」は、「シリコンウエハ等の電子部品のうち、薄板状の部品」であり、薄板状のシリンコンウエハとして「100μmより小さい厚さ」のウェハは周知のものにすぎない。 してみれば、相違点1は、発明の対象物を周知なものに限定したにすぎないものであり、これによって格別な作用が生じるものとも認められないので、この点は当業者が容易に想到し得たものである。 <相違点2>について 半導体製造の技術分野ではウェハが丸形をしているのは常識であり、半導体処理装置においても丸形のウェハを載置するウェハテーブルが丸形であることは、例を示すまでもない技術常識である。 そして、同様に、ウェハハンドリング装置においてもウェハ固定面をウェハの形状に合わせて丸形とすることは、ウェハテーブルの形状と同じく、当業者にとって適宜採用できた周知事項にすぎないものである。これは、例えば、特開昭63-267178号公報のパッド39(第4図)、特開平2-125872号公報のアーム272(第9図)、特開平2-156651号公報の基材1(第2図)、特開2003-51466号公報のコレット14a(図2)などにみられる。 してみれば、相違点2に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明に周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。 以上のとおりであるから、本件発明1は、引用刊行物発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、本件補正によって補正された発明(以下、「本件補正発明1」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである(特許法第17条の2第6項の規定で準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)についても検討してみると、以下のとおりである。 本件補正によって、請求項1には、1.「移動可能に配置された本体(1)」との事項、 2.粘着膜(3)が「縁部においてのみ前記本体(1)に固定され」との事項、及び、3.少なくとも一つの作動空間(8)を区切るのが「粘着膜(3)及び本体(1)」であるとの事項が加入される。 しかしながら、1.引用刊行物発明の「ベース部材」は、本件補正発明1の「本体(1)」と同様の部材であり、2.引用刊行物発明の「粘着弾性シート部材」は、本件補正発明1の「粘着膜(3)」と同様にベース部材の上面に少なくとも周縁部で接着固定されており、3.引用刊行物発明の「ベース部材」と「粘着弾性シート部材」は、本件補正発明1の「粘着膜(3)及び本体(1)」と同様に「圧縮気体を注入する」空間を区切っているものである。 してみれば、本件補正によって加入される事項は、すべて引用刊行物に記載されたものということができ、本件補正を採用したとしても、本件補正発明1は特許を受けることができないものである。 第4.むすび 以上のとおり、本件発明1は、引用刊行物発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項2-11についてみるまでもなく、本件は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-17 |
結審通知日 | 2012-12-18 |
審決日 | 2013-01-07 |
出願番号 | 特願2007-178652(P2007-178652) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B65G)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 落合 弘之、植村 森平 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
菅澤 洋二 長屋 陽二郎 |
発明の名称 | ウェハのためのハンドリング装置およびハンドリング方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |