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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1274525
審判番号 不服2012-879  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-17 
確定日 2013-05-23 
事件の表示 特願2006- 76638「膜モジュールおよび水処理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月 4日出願公開、特開2007-252966〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年3月20日の出願であって、平成22年10月21日付けで拒絶理由が起案され(発送日 平成22年10月26日)、平成22年12月24日付けで意見書と特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年10月14日付けで拒絶査定が起案され(発送日 平成23年10月18日)、これに対し、平成24年1月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成24年5月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(以下、「前置補正書」という。)を引用した審尋が起案され(発送日 平成24年5月29日)、これに対して平成24年7月30日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成24年1月17日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年1月17日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の目的
本件補正は、平成22年12月24日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2を、以下のように、平成24年1月17日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に補正することを含むものである。
<本件補正前>
「【請求項1】
容器と、
この容器内に装填されるとともに、異方性多孔質材料で構成され、前記容器内に取り込まれた原水をろ過するろ過膜と、を備え、
前記異方性多孔質材料は、複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなし、前記原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向であることを特徴とする膜モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の膜モジュールにおいて、
前記長軸の長さaと短軸の長さbとの比であるアスペクト比a/bは10以上であることを特徴とする膜モジュール。」
<本件補正後>
「【請求項1】
容器と、
この容器内に装填されるとともに、異方性多孔質材料で構成され、前記容器内に取り込まれた原水をろ過するろ過膜と、を備え、
前記異方性多孔質材料は、複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなし、前記原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向であり、かつ、
前記長軸の長さaと短軸の長さbとの比であるアスペクト比a/bは10以上であって、前記短軸の長さbは0.001?500μmであり、さらに、
前記複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グループに分類されており、前記複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下であることを特徴とする膜モジュール。」
(下線は請求人が付与したもので補正箇所を示している。)

この補正事項は、本件補正前の請求項1を削除して請求項2を独立項となし、当該請求項2において「前記短軸の長さbは0.001?500μmであり、さらに、前記複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グループに分類されており、前記複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下である」(以下、「付加事項」という。)とさらに特定するものである。
上記付加事項は、「気孔」の「短軸」の「長さ」とその「バラツキ」及び「長軸の方向」の立体角を規定するものであり、それらの規定は、「気孔」の「短軸」と「長軸」とが本来内在する条件であることから、本補正事項は、それら条件を改めて特定したものにすぎず、特許請求の範囲を限定的に減縮することを目的としているものということができる。
そこで、補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて以下「2.」で検討する。

2.独立特許要件
2-1.補正発明について
補正後の請求項1に係る発明は、平成24年1月17日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される事項によって特定される次のとおりのものである(以下、「補正発明」という。)。
「【請求項1】
容器と、
この容器内に装填されるとともに、異方性多孔質材料で構成され、前記容器内に取り込まれた原水をろ過するろ過膜と、を備え、
前記異方性多孔質材料は、複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなし、前記原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向であり、かつ、
前記長軸の長さaと短軸の長さbとの比であるアスペクト比a/bは10以上であって、前記短軸の長さbは0.001?500μmであり、さらに、
前記複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グループに分類されており、前記複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下であることを特徴とする膜モジュール。」

2-2.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願出願日前に頒布された特表平7-501988号公報(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「1.第一主要面と第二主要面を有し、該第一面からシート中に延びる細孔のアレイを有するシートからなる微細構造膜であって;
実質的に該アレイ中の各細孔が個々に平坦なランド領域によって囲まれ、該細孔は平均固有寸法が約0.1?約5000ミクロンで、かつ細孔の大きさの分布が約10%未満であり、該細孔の縦軸線がお互いに実質的に平行であることを特徴とする微細構造膜。」(請求の範囲1)
(刊1-イ)「発明の要旨
本発明は、内部に、細孔のアレイを有する微細構造膜、その膜を組み込んだ物品およびその膜の製造方法を提供するものである。
要約すると、本発明の膜は、第一と第二の主要面を有し、その第一面からシート中に延びる細孔の少なくとも一つのアレイを有するシートで構成されている。その実施態様ではその細孔は、一部分だけがシートを完全に貫通して延びるオリフィスであり、すなわち第一と第二の主要面の両方に開口している。特定のアレイ内の各細孔の壁の長さの少なくとも50%好ましくは少なくとも75%はまっすぐである。細孔の開口間のランド部は平坦であり、すなわち隣接する細孔間のしきり部分は均一な高さであり、第一と第二の主要面間の距離は等しい。いくつかの実施態様では、特定のアレイ内の各細孔の壁の長さの主要部分すなわち、少なくとも50%および好ましくは少なくとも75%は、細孔の縦軸線に対して実質的に平行である。一般に細孔は平均固有寸法が(average characteristic dimension)約0.1?約5000ミクロンであり、特定のアレイ内の細孔は大きさが実質的に均一であり、固有寸法の分布は細孔の平均の大きさに対して約±10%以下である。また特定のアレイ内の細孔は配向が実質的に均一であり、細孔の縦軸線は実質的に平行で、すなわち偏差は互いに約5°未満である。」(3頁右上欄16行?同頁左下欄4行)
(刊1-ウ)「要約すると、本発明の新規な製造方法は、
a)細孔の望ましい表面の形状と大きさを有し、かつ細孔に望まれているパターンで配列された孔のアレイを有するマスクを準備し;
b)上記マスクを、膜が形成されるフィルムの第一面のすぐ近くに好ましくは接触させて配置し;次いで
c)マスクを通じて孔をあける指向性手段例えば融触法(ablation)またはエツチング法を用いてフィルムに同時に細孔のアレイを形成させ;
内部に、細孔のアレイを有する膜を得ることを包含する方法である。」(3頁左下欄18?25行)
(刊1-エ)「本発明の膜は、各種の目的のために使用して有利な結果を得ることができる。例えば、本発明の膜は、ろ過材、微細構造形成面を有する物品などに用いることができる。」(3頁左下欄26?28行)
(刊1-オ)「図1は本発明の膜の例示実施態様を示し、図中膜10は内部に細孔14を有するシート12で構成されている。図に示す実施態様では、細孔14がシート12の第一面16に開口し、かつシート12全体を貫通して延びて第二面18にも開口している。シート全体を貫通して延びる細孔は本願ではオリフィスと呼ぶときがある。」(3頁右下欄14?17行)
(刊1-カ)「縦軸線という用語は本願で用いる場合、膜の第一面からシート中に延びる細孔の軸線を意味する。」(3頁右下欄24?26行)
(刊1-キ)「本発明の膜には、所望の大きさの平均「固有寸法」を有する細孔が形成されている。「固有寸法」という用語は本願で用いられる場合、細孔の縦軸線に直角な面における細孔の最大断面寸法を意味する。本発明の膜の細孔の平均固有寸法は一般に約0.1?約1000ミクロンである。本発明の利点は、本発明の膜は、細孔の特定のアレイ内で、シートの第一面における細孔の大きさの分布が約10%未満で時には5%未満であるということである。「細孔の大きさの分布」という用語は本願で用いられる場合、平均固有寸法の標準偏差を意味する。類似の大きさの分布は、オリフィスのシートの第二面上の開口にも達成することができる。」(4頁左上欄20?27行)
(刊1-ク)「また本発明の膜には、非常に低いアスペクト比、例えば1:100または非常に高いアスペクト比、例えば60:1までの細孔を設けることができる。「アスペクト比」という用語は本願で用いる場合、(1)細孔の縦軸線の内部長さ、すなわち細孔をあけている間に除去されるフィルムの客積内(当審注:「容積内」の誤記と認める。以下、「容積内」と記載する。)にある縦軸線の部分の内部長さと(2)フィルム第一面における細孔の平均固有寸法との比率を意味する。
本発明の膜で得ることができる非常に均一な細孔の大きさおよび細孔の大きさの狭い分布の利点は、得られる膜が著しく均一な特性を示すことができることである。例えば、細孔がシートを完全に貫通して延びている膜の場合、その全体にわたって均一な分離特性を提供するフィルターとして使用できる。このような実施態様において、細孔がその全長にそって断面積が実質的に均一の場合、膜の両面は均一な特性を示す。例えばろ過性能と曲げ強度は膜のどちらの面からでも実質的に等しい。」(4頁左下欄13?25行)
(刊1-ケ)「いくつかの実施態様では、本発明の膜は、本願で説明するように異なる細孔の2つ以上のアレイを有し、その異なるアレイの細孔は異なる特性を有している。これらのアレイは、膜の別個の領域に配置されているか、または部分的もしくは全体的に重なっている。
本発明の膜の利点は、第一面の細孔間の部分(本願では「ランド領域」と呼ぶ)および第二面のランド部分が、細孔が膜を完全に貫通して延びる実施態様では実質的に平面か、または平坦であることである。」(4頁右下欄11?17行)
(刊1-コ)「オリフィスを有する微細構造膜の実施態様の部分断面図」(3頁右下欄3?4行)と題された図1(7頁)をみると、上記(刊1-オ)の記載事項を窺うことができ、「細孔14」は複数あり、いずれの細孔も同じ方向に向いているすなわち同一方向に配向されていることがみてとれる。

2-3.当審の判断
2-3-1.刊行物1に記載された発明の認定
<1>刊行物1の記載事項(刊1-ア)(以下、単に「(刊1-ア)」のように記載する。)をみると、刊行物1には、
「第一主要面と第二主要面を有し、該第一面からシート中に延びる細孔のアレイを有するシートからなる微細構造膜であって;
実質的に該アレイ中の各細孔が個々に平坦なランド領域によって囲まれ、該細孔は平均固有寸法が約0.1?約5000ミクロンで、かつ細孔の大きさの分布が約10%未満であり、該細孔の縦軸線がお互いに実質的に平行である・・・微細構造膜。」の発明について記載されているといえる。
<2>(刊1-ク)には、「本発明の膜には、非常に低いアスペクト比、例えば1:100または非常に高いアスペクト比、例えば60:1までの細孔を設けることができる。」と記載されていることから、上記「微細構造膜」の有する細孔はアスペクト比が60:1?1:100 であるということができる。
<3>上記「微細構造膜」の発明の「細孔は平均固有寸法が約0.1?約5000ミクロン」について、(刊1-キ)には「本発明の膜には、所望の大きさの平均「固有寸法」を有する細孔が形成されている。「固有寸法」という用語は本願で用いられる場合、細孔の縦軸線に直角な面における細孔の最大断面寸法を意味する。本発明の膜の細孔の平均固有寸法は一般に約0.1?約1000ミクロンである。」と記載されていることから、「細孔は平均固有寸法が約0.1?約5000ミクロン」は、刊行物1に記載の技術手段においてより一般的な値として「細孔は平均固有寸法が約0.1?約1000ミクロン」とすることができる。
<4>以上から、刊行物1には、
「第一主要面と第二主要面を有し、該第一面からシート中に延びる細孔のアレイを有するシートからなる微細構造膜であって;
実質的に該アレイ中の各細孔が個々に平坦なランド領域によって囲まれ、該細孔はアスペクト比が60:1?1:100 であり、平均固有寸法が約0.1?約1000ミクロンで、かつ細孔の大きさの分布が約10%未満であり、該細孔の縦軸線がお互いに実質的に平行である微細構造膜。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

2-3-2.補正発明と引用発明との対比
2-3-2-1.「微細構造膜」と「異方性多孔質材料」について
引用発明の「微細構造膜」が補正発明の「異方性多孔質材料」にあたるかについて以下で検討する。
<1>本願明細書【0019】?【0025】には、「異方性多孔質材料」といえるために満たされるべき条件が列記され、その概要は以下のようである。
(1)複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなしていること
(2)前記それぞれの気孔の長軸/短軸の長さの比が10以上であること
(3)前記複数の気孔の短軸の長さが0.001?500μmであること
(4)前記複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グループに分類されること
(5)同一の配向グループに属する前記複数の気孔の少なくとも一部が貫通気孔であること
(6)前記複数の気孔の短軸の長さのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下であること
(7)同一の配向グループの中での貫通気孔率が70%以上であること
なお、審判請求書では「3.本願発明と引用文献記載の発明との対比」の(2)で、上記条件として「構成要素1?4」をあげており、これらはそれぞれ上記(2)(3)(4)(6)にあたる。
<2>引用発明の「微細構造膜」が上記(1)?(7)の条件を満たすか否かについて以下に検討する。
(1)について
i)引用発明の「微細構造膜」は「第一主要面と第二主要面を有し、該第一面からシート中に延びる細孔のアレイを有するシートからなる」ものである。ここで、「アレイ」は「array」であって「配列」「配置」を意味し、また、(刊1-オ)の記載事項及び(刊1-コ)の視認事項から、「シート12」が複数の「第一面16に開口し、かつシート12全体を貫通して延びて第二面18にも開口してい」る「細孔14」が存在することが判ることから、「微細構造膜」が配列された複数の貫通する「細孔14」を有することは明らかである。
ii)また、(刊1-ク)には「細孔」の「アスペクト比」を「(1)細孔の縦軸線の内部長さ、すなわち細孔をあけている間に除去されるフィルムの容積内にある縦軸線の部分の内部長さと(2)フィルム第一面における細孔の平均固有寸法との比率」として規定することが記載されており、(刊1-カ)より「縦軸線」は「膜の第一面からシート中に延びる細孔の軸線」のことであり、(刊1-キ)より「固有寸法」は「細孔の縦軸線に直角な面における細孔の最大断面寸法」であり、(刊1-オ)の記載事項及び(刊1-コ)の視認事項から「細孔」は貫通孔であり、(刊1-イ)より「特定のアレイ内の各細孔の壁の長さの主要部分すなわち、少なくとも50%および好ましくは少なくとも75%は、細孔の縦軸線に対して実質的に平行」であることから、「細孔」の「固有寸法」は「縦軸線」の方向で実質的に変化せず、「微細構造膜」のアスペクト比が「固有寸法」に対する「縦軸線」の長さで規定され得るものということができ、「固有寸法」、「縦軸線」の長さは、それぞれ補正発明の「短軸の長さb」、「長軸の長さa」に相当するということができる。
iii)ここで、本願明細書【0027】には「長軸および短軸を規定することができる非等方性の形状を有する。そして、気孔51,52について、任意の基準方向と長軸のずれを傾きθで表示すると、傾きθが方向性、つまり特定範囲内に分布する傾向を有する。一方、気孔に方向性の無い材料は等方性多孔質材料である。」と記載されている。
すると、「微細構造膜」は上記のように「長軸」および「短軸」に相当する長さを規定できるものであり、さらに、(刊1-イ)には「特定のアレイ内の細孔は配向が実質的に均一であり、細孔の縦軸線は実質的に平行で、すなわち偏差は互いに約5°未満である。」と記載されることから、「微細構造膜」の配列された「細孔」は、「長軸」および「短軸」を規定でき、実質的に同一方向を向く方向性を有するから、これは補正発明の「気孔」が「非等方性」の形状を有していることにあたるといえる。
iv)以上から、引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなしている」ものということができる。
(2)について
(刊1-ク)には「本発明の膜には、非常に低いアスペクト比、例えば1:100または非常に高いアスペクト比、例えば60:1までの細孔を設けることができる。」と記載されている。
すると、これは上記(2)に示される補正発明での「異方性多孔質材料」の「気孔の長軸/短軸の長さの比が10以上である」ことと「10以上60以下」で共通するから、引用発明の「微細構造膜」は「それぞれの気孔の長軸/短軸の長さの比」が「10以上60以下」である点で「それぞれの気孔の長軸/短軸の長さの比が10以上である」ものということができる。
(3)について
(刊1-キ)には「本発明の膜の細孔の平均固有寸法は一般に約0.1?約1000ミクロンである。」と記載され、これは、上記(3)に示される補正発明での「異方性多孔質材料」の「複数の気孔の短軸の長さが0.001?500μmである」ことと「0.1?500μm」で共通するから、引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔の短軸の長さ」が「0.1?500μm」である点で「複数の気孔の短軸の長さが0.001?500μmである」ものということができる。
(4)について
(刊1-イ)には「特定のアレイ内の細孔は配向が実質的に均一であり、細孔の縦軸線は実質的に平行で、すなわち偏差は互いに約5°未満である。」と記載されている。
そして、(刊1-オ)の記載事項及び(刊1-コ)の視認事項から、「アレイ内の細孔は配向」が一方向になされていることから、これは、上記(4)に示される補正発明での「複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グループに分類される」ことと、「複数の気孔が、それらの長軸の方向が±5度の立体角範囲内に含まれる1つの配向グループに分類される」点で共通するから、引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔が、それらの長軸の方向が±5度の立体角範囲内に含まれる1つの配向グループに分類される」点で、「複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グループに分類される」ものであるということができる。
(5)(7)について
(刊1-オ)の記載事項及び(刊1-コ)の視認事項から、「シート12」には同一方向に配向されている複数の貫通する「細孔14」が形成されており、それらの全てが貫通孔であるといえる。
よって、引用発明の「微細構造膜」は、「同一の配向グループに属する前記複数の気孔の全てが貫通気孔である」点で上記(5)に示される補正発明での「同一の配向グループに属する前記複数の気孔の少なくとも一部が貫通気孔である」ものであるということができ、「同一の配向グループの中での貫通気孔率が100%である」点で、上記(7)に示される補正発明での「同一の配向グループの中での貫通気孔率が70%以上である」ものであるということができる。
(6)について
(刊1-イ)には「特定のアレイ内の細孔は大きさが実質的に均一であり、固有寸法の分布は細孔の平均の大きさに対して約±10%以下である。」と記載され、これは上記(6)に示される補正発明での「複数の気孔の短軸の長さのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下である」ことと、「複数の気孔の短軸の長さのバラツキが、同一の配向グループの中では±10%以下である」点で共通するから、引用発明の「微細構造膜」は、「複数の気孔の短軸の長さのバラツキが、同一の配向グループの中では±10%以下である」点で、「複数の気孔の短軸の長さのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下である」ものであるということができる。
<3>そして、本願明細書の【0055】には「本発明の異方性多孔質材料の製造方法は、気孔あるいは貫通気孔を形成するためのテンプレートを用いる方法・・・をとることが可能である。」と記載され、(刊1-ウ)には「細孔に望まれているパターンで配列された孔のアレイを有するマスク」を用いる方法が記載されており、「マスク」は「テンプレート」と同義であるから、引用発明の「微細構造膜」は補正発明の「異方性多孔質材料」と同様の製造方法によって製造されているとみることができる。
<4>以上から、引用発明の「微細構造膜」は、上記(1)?(7)の条件を満たし、製造方法も共通することから、補正発明の「異方性多孔質材料」に相当するということができる。

2-3-2-2.補正発明と引用発明との比較検討
<1>本願明細書【0039】には、「図33は本発明の第3例の異方性多孔質材料の構造を示す概略図である。図33に示すように、第3例の異方性多孔質材料56は、貫通気孔57を複数有する。貫通気孔は両端が材料の表面に開いている気孔である。第3例の異方性多孔質材料56は、図30に示す第1例の異方性多孔質材料を、気孔の長軸方向に垂直で互いに平行な2つの面で切り出した形態をしている。」と記載されており、【図33】をみると、補正発明では、「異方性多孔質材料56」は配列した複数の「貫通気孔57」の「長軸方向に垂直で互いに平行な2つの面」を有し得ることがみてとれることから、補正発明の「異方性多孔質材料56」は、二つの平行な面を有し、その両面に貫通する配列した複数の「貫通気孔57」を有するものであるということができる。
他方で、(刊1-オ)の記載事項及び(刊1-コ)の視認事項から、「図1は本発明の膜の例示実施態様を示し、図中膜10は内部に細孔14を有するシート12で構成」され、同一方向に配向した複数の「細孔14がシート12の第一面16に開口し、かつシート12全体を貫通して延びて第二面18にも開口している」ことがわかる。
そして、(刊1-ケ)には「第一面の細孔間の部分(本願では「ランド領域」と呼ぶ)および第二面のランド部分が、細孔が膜を完全に貫通して延びる実施態様では実質的に平面か、または平坦である」と記載され、(刊1-イ)には「細孔の開口間のランド部は平坦であり、すなわち隣接する細孔間のしきり部分は均一な高さであり、第一と第二の主要面間の距離は等しい。」と記載されていることから、「第一面」と「第二面」は平行であるということができる。
すなわち、引用発明の「第一主要面と第二主要面を有し、該第一面からシート中に延びる細孔のアレイを有するシートからなる微細構造膜であって;
実質的に該アレイ中の各細孔が個々に平坦なランド領域によって囲まれ」る「微細構造膜」は、平行な「第一面」「第二面」を有し、その両面に貫通する同一方向に配向した複数の「細孔14」を有するものであるといえる。
すると、補正発明の「異方性多孔質材料56」は、二つの平行な面を有し、その両面に貫通する配列した複数の「貫通気孔57」を有するものであることから、補正発明の「異方性多孔質材料」も「第一主要面と第二主要面を有し、該第一面からシート中に延びる細孔のアレイを有するシートからなり」「実質的に該アレイ中の各細孔が個々に平坦なランド領域によって囲まれ」ることを含むものであるということができる。
<2>上記「2-3-2-1.<2>(1)について」で記したように、引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなしている」ものということができる。
<3>上記「2-3-2-1.<2>(2)について」で記したように、引用発明の「微細構造膜」は「それぞれの気孔の長軸/短軸の長さの比」が「10以上60以下」である点で補正発明と共通するものであるから、引用発明の「細孔はアスペクト比が60:1?1:100」であることは、補正発明の「長軸の長さaと短軸の長さbとの比であるアスペクト比a/bは10以上」であることと「アスペクト比a/b」が「10以上60以下」である点で共通する。
<4>上記「2-3-2-1.<2>(3)について」で記したように、
引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔の短軸の長さ」が「0.1?500μm」である点で補正発明と共通するものであるから、引用発明の「平均固有寸法が約0.1?約1000ミクロン」であることは、補正発明の「短軸の長さbは0.001?500μm」であることと「短軸の長さb」が「0.1?500μm」である点で共通する。
<5>上記「2-3-2-1.<2>(6)について」で記したように、引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔の短軸の長さのバラツキが、同一の配向グループの中では±10%以下である」点で補正発明と共通するものであるから、引用発明の「細孔の大きさの分布が約10%未満」であることは、補正発明の「複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下である」ことと「複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±10%以下である」である点で共通する。
<6>上記「2-3-2-1.<2>(4)について」で記したように、引用発明の「微細構造膜」は「複数の気孔が、それらの長軸の方向が±5度の立体角範囲内に含まれる1つの配向グループに分類される」点で補正発明と共通するものであるから、引用発明の「細孔の縦軸線がお互いに実質的に平行である」であることは、補正発明の「長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グレープに分類され」ることと「複数の気孔が、それらの長軸の方向が±5度の立体角範囲内に含まれる1つの配向グループに分類される」点で共通する。
<7>以上のことから、補正発明と引用発明とは、
「複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなし、かつ、
前記長軸の長さaと短軸の長さbとの比であるアスペクト比a/bは10以上60以下であって、前記短軸の長さbは0.1?500μmであり、さらに、
前記複数の気孔が、それらの長軸の方向が±5度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グレープに分類されており、前記複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±10%以下である異方性多孔質材料」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>補正発明が「容器と、この容器内に装填されるとともに、異方性多孔質材料で構成され、前記容器内に取り込まれた原水をろ過するろ過膜と、を備え、」る「膜モジュール」であるのに対し、引用発明は「微細構造膜」である点
<相違点2>補正発明が「前記原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向であ」るのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点

2-3-3.相違点の検討
上記した一致点と相違点の認定については、回答書の「2.回答(4)」に「しかしながら、審査官提示の引用文献1(特表平07-501988号公報)(当審注:刊行物1である)には、微細構造膜およびその製造方法については記載されているものの、本願発明のように、上述した構成要素1?4の機能を備える異方性多孔質材料によって構成される膜モジュールやこの膜モジュールを使用した水処理システムについては、一切開示されておりません。」と記載されていることに沿うものである。
そこで上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
(刊1-イ)には「本発明は、内部に、細孔のアレイを有する微細構造膜、その膜を組み込んだ物品およびその膜の製造方法を提供するものである。」と記載され、(刊1-エ)には「本発明の膜は、各種の目的のために使用して有利な結果を得ることができる。例えば、本発明の膜は、ろ過材、微細構造形成面を有する物品などに用いることができる。」と記載されている。
すなわち引用発明の「微細構造膜」は「ろ過材」あるいは「その膜を組み込んだ物品」としての使用が予定されているものということができる。
そして、「膜」単独では「ろ過材」として使用することはできないから、「膜」を「ろ過材」として使用する場合には何らかの容器に装填して使用することは、例えば原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用され本願出願日前に頒布された特開平6-296837号公報の特に【図1】【図2】等に示されるように通常のことであり、そのようにして得られたものを「膜モジュール」と呼称することも普通のことであり、膜による水の濾過も一般的なことにすぎない。
したがって、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、引用発明の「微細構造膜」を「ろ過膜」とし、「容器と、この容器内に装填」し「容器内に取り込まれた原水をろ過」する「膜モジュール」をなすことに格別の困難性は見いだせない。
よって、引用発明おいて相違点1に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。
(2)相違点2について
一般に、ろ過膜の設置形式は、原水の流れ方向に対してろ過膜を平行に置く(いわゆるクロスフロー方式又は接線方向ろ過方式で、原水の透過方向と、気孔の方向とが直交する)か、原水の流れ方向に対してろ過膜を直角に置く(いわゆるデッドエンドフロー方式又は全量ろ過方式で、原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向になる)の二種類であって、原水の汚濁の状況や、原水の流量等種々の条件に応じて使い分けるのが通常であり、引用発明においてもどちらを選択するかは条件に応じて適宜選択できるものである。
したがって、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、引用発明の「微細構造膜」を「前記原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向であ」るように設置してろ過を行うことに格別の困難性は見いだせない。
よって、引用発明おいて相違点2に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。
また、上記各相違点に基づく補正発明の奏する作用効果も、刊行物1の記載事項、周知技術及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない。

2-3-4.独立特許要件の結言
以上から、補正発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成24年1月17日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正は前記「第2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1?21に係る発明は、平成22年12月24日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載される事項によって特定されるとおりのものであるところ、その内の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
容器と、
この容器内に装填されるとともに、異方性多孔質材料で構成され、前記容器内に取り込まれた原水をろ過するろ過膜と、を備え、
前記異方性多孔質材料は、複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなし、前記原水の透過方向と、気孔の方向とが同一方向であることを特徴とする膜モジュール。」

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由には「この出願については、平成22年10月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由3,4によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、原査定の備考欄には、「請求項1,2,3,5,9,10」についてとして「引用文献1-4,7,8には、『前記異方性多孔質材料は、複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなしている』ことについて明記されていないが、本願明細書の【0039】、【0040】の記載や図33,34からすれば、引用文献1-4,7,8に記載された膜材料も『複数の気孔を含有し、それぞれの気孔は長軸および短軸を規定できる非等方性の形状を有し、前記複数の気孔が方向性を有する配列をなしている』と認められる」と記載されており、引用文献2にも上記『』内の事項が示されていることを審査官は明示している。
そして、上記平成22年10月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由3,4は、それぞれ、特許法第29条第1項第3号(新規性)、特許法第29条第2項(進歩性)に係るものであり、同拒絶理由通知書の備考の「(3)理由3及び4について」には「請求項1,2,4,7-10に係る発明は、引用文献1-8に記載された発明であるか、引用文献1-8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。」と記載されており、これは、「請求項1,2,4,7-10に係る発明」が、引用文献2に記載された発明と同一発明である若しくは引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであることを示すものといえる。
さらに、審判請求書の「3.本願発明と引用文献記載の発明との対比 」には、「本願の発明特定事項・・・については、引用文献1?8の何処にも記載されていません。また、これら引用文献1?8に記載の発明をどのように組み合わせたとしても本願発明を構成することは不可能であります。」と記載されていることから、請求人は引用文献2についても十分に検討しており、また当該検討に基づく前置補正書の提出の機会も与えられていたことから、引用文献2に記載された発明に基づく本願発明の想到容易性に係る判断が請求人に対して不意打ちの判断になるということもできない。
すると、原査定の拒絶理由は、本願発明が引用文献2に記載された発明と同一発明である若しくは引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るということのできるものであり、その当否について以下で判断する。
なお、上記引用文献2は、上記「2-2.」の刊行物1である。

3.刊行物の記載
刊行物1の記載は上記「2-2.刊行物の記載」に記載のとおりである。

4.引用発明
引用発明は「2-3-1.刊行物1に記載された発明の認定」に記載のとおりである。

5.本願発明と引用発明との対比
上記「第2.1.」で記載したように、本願発明は、補正発明の「り、かつ、前記長軸の長さaと短軸の長さbとの比であるアスペクト比a/bは10以上であって、前記短軸の長さbは0.001?500μmであり、さらに、前記複数の気孔が、それらの長軸の方向が±10度の立体角範囲内に含まれる1つ以上の配向グレープに分類されており、前記複数の気孔の短軸の長さbのバラツキが、同一の配向グループの中では±15%以下であ」という特定事項を削除した(内在させる)ものであり、本願発明は補正発明を拡張した発明といえる。
すると、本願発明の特定事項を全て含み、上記の特定事項によりさらに限定的に特定された補正発明が上記「第2.」に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-08 
出願番号 特願2006-76638(P2006-76638)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 膜モジュールおよび水処理システム  
代理人 三好 秀和  

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