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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1275073
審判番号 不服2011-9653  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-09 
確定日 2013-06-05 
事件の表示 特願2001-579146「言語モデルの共用」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月 1日国際公開、WO01/82127、平成15年10月28日国内公表、特表2003-532196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2001年2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年4月25日 米国)を国際出願日とする出願であって,
平成14年10月24日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書,図面(図面中の説明に限る),要約書の日本語による翻訳文が提出され,平成20年2月25日付けで審査請求がなされ,平成22年9月6日付けで審査官により拒絶理由が通知(同年9月10日発送)され,これに対して同年12月10日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成23年1月5日付けで拒絶査定(同年1月7日謄本送達)がなされ,これに対して同年5月9日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年6月9日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,平成24年4月24日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年5月2日発送)がなされ,同年8月2日付けで回答書の提出があったものである。

第2 平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年5月9日付けの手続補正を却下する。


[理由]

1.本件補正

平成23年5月9日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,本件補正前に,

「【請求項1】 言語モデル・サービスを提供するプログラムであって,
入力装置のプロセッサからドキュメント内のある範囲を受け取るステップと,
前記ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイスを生成するステップと,
前記アドバイスを前記プロセッサに提供するステップとを備え,
前記プロセッサは,第1の言語モデルを使用し,前記言語モデル・サービスは,前記第1の言語モデルとは異なる第2の言語モデルを使用して前記アドバイスを生成する,方法をプロセッシング・ユニットに実行させるプログラムを記録した,コンピュータで読み取り可能な記憶媒体。
【請求項2】 前記プロセッサは,前記第1の言語モデルからの情報と,前記アドバイスとを用いて,前記ドキュメントの前記範囲に挿入すべき,前記テキストを決定し,
前記ドキュメントの前記範囲に,前記テキストを挿入することを特徴とする請求項1に記載のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)
とあったものを,

「【請求項1】 プロセッシング・ユニットにより実行される言語モデル・サービスを提供するためのプログラムであって,
入力装置のプロセッサからドキュメント内のある範囲を受け取るステップと,
前記ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイスを生成するステップと,
前記アドバイスを前記プロセッサに提供するステップとを備え,
前記プロセッサは,第1の言語モデルを有し,前記言語モデル・サービスは,前記第1の言語モデルとは異なる第2の言語モデルを使用して前記アドバイスを生成し,
前記第1の言語モデルは,文字ベースの言語モデルであり,
前記第2の言語モデルは,単語ベースの言語モデルである,方法をプロセッシング・ユニットに実行させるプログラムを記録した,コンピュータで読み取り可能な記憶媒体。
【請求項2】 前記プロセッサは,前記第1の言語モデルを使用して得られる情報と,前記アドバイスとを用いて,前記ドキュメントの前記範囲に挿入すべき,前記テキストを決定し,
前記ドキュメントの前記範囲に,前記テキストを挿入することを特徴とする請求項1に記載のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)
と補正しようとするものである。

以下に,本件補正における特許請求の範囲についてする補正の目的について検討する。

(1)補正後の請求項1の補正に係る,補正前の請求項1の「言語モデル・サービスを提供するプログラム」を,「プロセッシング・ユニットにより実行される言語モデル・サービスを提供するためのプログラム」とする補正は,本件補正前の請求項に係る発明を特定するための事項(以下「発明特定事項」と記す。)であるところの「プログラム」を限定するもので,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものあるとともに,平成23年1月5日付けの拒絶査定での指摘を受けて,補正前の言語モデル・サービスを「提供する」を,言語モデル・サービスを「提供するための」とするもので,特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)補正後の請求項1の補正に係る,補正前の請求項1の「前記プロセッサは,第1の言語モデルを使用し」を,「前記プロセッサは,第1の言語モデルを有し」とする補正は,平成23年1月5日付けの拒絶査定での指摘を受けてするもので,特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)補正後の請求項1の補正に係る,「し,前記第1の言語モデルは,文字ベースの言語モデルであり,前記第2の言語モデルは,単語ベースの言語モデルであ」を追加する補正は,実質的に,補正前の請求項1の「第1の言語モデル」,「第2の言語モデル」を,それぞれ「第1の言語モデルは,文字ベースの言語モデルであり」,「第2の言語モデルは,単語ベースの言語モデルである」とするものであり,本件補正前の請求項に記載した発明特定事項であるところの「第1の言語モデル」,「第2の言語モデル」を限定するもので,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものある。

(4)補正後の請求項2の補正は,平成23年1月5日付けの拒絶査定での指摘を受けて,補正前の第1の言語モデル「からの」情報を,第1の言語モデル「を使用して得られる」情報とするもので,特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

よって,本件補正は,特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを,請求項1に記載された発明について以下に検討する。


2.独立特許要件についての検討

2-1.請求項の記載についての検討

(1)請求項1における「ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイスを生成する」中の「アドバイス」とは,「プロセッシング・ユニットにより実行される言語モデル・サービスを提供するためのプログラム」により「生成」され,「入力装置」の「プロセッサ」に対し提供されるものと記載されているが,これらの記載のみでは上記「アドバイス」がどのようなものを意味しているのか明確でない。
上記「アドバイス」という記載に関連する,発明の詳細な説明における記載として,

a「【0020】
前処理モード(Pre-Processing Mode)
詳細な説明のこのセクションでは,本発明の一実施形態に従って,言語モデル・サービスの前処理モードについて説明する。前処理モードは,入力装置用のハンドラからドキュメントのある範囲のテキストを受け取り,それに応答して,ドキュメントのその範囲に挿入すべき,ハンドラによる考慮事項下の,テキストに関するアドバイスをハンドラに提供するように設計される。このアドバイスは,その範囲のドキュメントのコンテクスト(context)に基づいている。」

b「【0023】
言語モデル・サービス202は,ハンドラ204からドキュメント206の指定された範囲のテキストを受け取り,それに応答して,ドキュメント206のその範囲に入力すべく,考慮事項下の提案されたテキストに関するアドバイスをハンドラ204に提供する。一実施形態の言語モデル・サービス202は,たとえば当技術分野で既知の言語モデルを含む。たとえば言語モデルを,格子ベースとすることができる。この場合,格子(lattice)は,言語モデル内で使用される一種のデータ構造である。こうした実施形態では,言語モデル・サービス202は,格子を通ってハンドラ204に戻る最適のパスとして当技術分野で知られているものをハンドラ204に提供して,ハンドラがドキュメント206に挿入するテキストを決定する際に,ハンドラ自体の言語モデルに対して考慮に入れさせる。」

c「【0027】
他方において,本発明の実施形態によれば,ハンドラ204はまた,言語モデル・サービス202に,その範囲を検討し,指定された範囲に基づいて次に挿入する最適な文字を提示することを要求する。サービス202は,「th」が存在するドキュメントのその範囲のテキストを検査し,これに基づいて,85%の確率で最適マッチ「e」,および75%の確率で2番目に適するマッチ「r」を有する。サービス202は,この情報をハンドラ204に戻す。次いでハンドラ204は,それ自体の言語モデルが20%と15%のかなり低い確率で最適マッチを提示したので,サービス202によって判断されたマッチに従うと決定することができる。しかし,次いでハンドラ204は,サービス202の85%の確率の最適マッチ「e」はハンドラ自体の言語モデルによって提供された最適マッチ内には存在せず,サービス202の75%の確率の2番目に適するマッチ「r」はハンドラ自体の言語モデルによって提供された最適マッチ内に存在するため,ドキュメント206に挿入する最適な文字は「r」であると決定することもできる。」,

d「【0031】
図3において点線302で区切られているように,方法300の一部分304,306,および308は言語モデル・サービスによって実行されるが,方法300の一部分310および312は,入力装置ハンドラによって実行される。304で,言語モデル・サービスは,前処理操作モードでハンドラからドキュメントのある範囲を受け取る。306で,言語モデル・サービスは,ドキュメントのその範囲に挿入すべき,ハンドラが考慮事項下の,テキストに関するアドバイスを生成する。一実施形態では,これは,上記に説明したようにして達成される。つまり,たとえばサービスがドキュメント206内のその範囲を参照し,指定された範囲の格子を通る最適パスを生成する。308で,言語モデル・サービスは,ハンドラに最適パスを戻すなどの,アドバイスをハンドラに提供する。
【0032】
310で,次いでハンドラは,言語モデル・サービスによって提供されたアドバイス,および入力装置から受け取った生データに基づいて,ドキュメントのその範囲に挿入すべきテキストを決定する。これまで説明してきたように,たとえば,ハンドラは,言語サービスから受け取った最適パスの確率と,それ自体の言語モデルの格子についてそれ自体が決定した最適パスとを比較する。312で,ハンドラは次いで,310で決定したテキストをドキュメントの指定された範囲に挿入する。」(当審注:下線は便宜上当審にて付与したもの。)

があり,このうち上記bの記載における「格子を通ってハンドラ204に戻る最適のパスとして当技術分野で知られているもの」とは,「ハンドラ」が「ドキュメント」に「挿入するテキスト」を決定する際に考慮に入れさせるために,「言語モデル・サービス」より「ハンドラ」に提供されるものであることから,「アドバイス」に関連する記載であると認められる。
しかしながら,これらの記載を参照しても,「ハンドラ」すなわち「プロセッサ」に対し提供される「アドバイス」が具体的にどのようなものを指すのか(最も確率の高い「最適マッチ」または「最適パス」のみを含むことを意味しているのか,あるいは「最適マッチ」を含む複数の高確率の「マッチ」の組を含むことを意味しているのか)不明確であり,それにより全体として,言語モデル・サービスを提供するためのプログラムがどのようなものであるかも明確でないというべきであるから,結局,本件補正における請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとすることはできず,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしているとすることができない。

また,請求項1における同「ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイスを生成する」との記載に関し,「アドバイス」がどのようなものであり,当該「アドバイス」の「生成」をどのように実現しているかについて,上記a?dの記載を参照しても不明であり,したがって,発明の詳細な説明は,当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,特許法36条4項に規定する要件を満たしているとすることができない。

(2)請求項1における「ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する」中の「範囲に挿入すべき」は,「ドキュメント内」の「範囲」における単語と単語の間に挿入することと,「ドキュメント内」の「範囲」における所定の単語に置き換えてテキストを挿入することの,2通りに解釈することができるが,発明の詳細な記載を参酌しても,具体的にどちらの操作を意味しているのか明確でなく,それにより全体として,言語モデル・サービスを提供するためのプログラムがどのようなものであるかも明確でないというべきであるから,本件補正における請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとすることはできず,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしているとすることができない。

また,請求項1における同「ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する」との記載に関し,「範囲に挿入すべき」がどのような操作であり,またそれをどのように実現しているかについて,発明の詳細な説明の記載を参照しても不明であり,したがって,発明の詳細な説明は,当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,特許法36条4項に規定する要件を満たしているとすることができない。

以上のとおりであるから,本件補正により請求項1に記載された発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとすることができない。

2-2.特許法29条2項についての検討

(1)引用文献等

1)引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

本願の第1国出願前に頒布された,特開2000-10970号公報(平成12年1月14日出願公開,以下,「引用文献」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A「【請求項6】入力装置,制御装置,出力装置および記憶装置を備えたコンピュータを,表記文字列変換装置として機能させるプログラムを記憶した記憶媒体において,前記プログラムは,前記コンピュータを,以下の手段を備えた装置として機能させること,言語規則を記憶する言語規則記憶手段,操作者が入力した音声データを対応する表記文字列および読み文字列に変換して出力する音声データ変換手段から与えられた表記文字列を,未確定状態で記憶する未確定文字列記憶手段,前記未確定文字列記憶手段に記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係を前記言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更する自動変換手段,を特徴とするプログラムを記憶した記憶媒体。」

B「0007】
【課題を解決するための手段および発明の効果】本発明にかかる表記文字列変換装置または表記文字列変換方法においては,音声データを音声変換規則に基づいて変換した表記文字列を未確定状態で記憶しておき,記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係をあらかじめ記憶した言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更する。したがって,多くの表記文字列についての音声変換規則がなくとも,前記言語規則に合致した表記文字列を得ることができる。また,未確定状態で記憶しているので,その修正が容易である。」

C「【0013】
【発明の実施の形態】1.機能ブロック図の説明
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に,表記文字列変換装置10の機能ブロック図を示す。表記文字列変換装置10は,操作者が入力した音声データを対応する表記文字列および読み文字列に変換して出力する音声データ変換手段5から与えられた表記文字列を言語規則に合致するように変換する装置であって,言語規則記憶手段17,未確定文字列記憶手段12,自動変換手段15,読み文字列記憶手段11,手動変更手段13,および出力手段14を備えている。
【0014】まず,表記文字列変換装置10に表記文字列を与える音声データ変換手段5について説明する。音声入力手段3に操作者が音声を入力すると,音声変換手段6は入力された音声データから所定の特徴量を抽出する。音声変換辞書7にはあらかじめ複数の変換候補が記憶されている。各変換候補は,特徴量,その表記文字列およびその読み文字列で構成されている。音声変換手段6は,抽出した特徴量と,前記各変換候補との特徴量との一致度を判断し,もっとも一致した候補の表記文字列および読み文字列を出力する。
【0015】音声データ変換手段5から出力された表記文字列は,未確定文字列記憶手段12に未確定状態で記憶され,読み文字列は読み文字列記憶手段11に記憶される。
言語規則記憶手段17は,言語規則を記憶する。本実施形態においては,言語規則として,かな漢字変換の変換辞書を採用した。より具体的にいうと,共起関係にある表記文字列およびその読み文字列から構成された共起情報を採用した。
【0016】自動変換手段15は,未確定文字列記憶手段12に記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係を,言語規則記憶手段17の言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更する。」

D「【0026】図3に示すCPU23は,ハードディスク26に記憶された前記2つのプログラムにしたがいバスライン29を介して,各部を制御する。これらプログラムは,FDD25を介して,プログラムが記憶されたフレキシブルディスク25aから読み出されてハードディスク26にインストールされたものである。なお,フレキシブルディスク以外に,CD-ROM,ICカード等のプログラムを実体的に一体化したコンピュータ可読の記憶媒体から,ハードディスクにインストールさせるようにしてもよい。さらに,通信回線を用いてダウンロードするようにしてもよい。」

E「【0039】つぎに,CPU23は,半確定バッファ27cに記憶された表記文字列「賛成とアルカリ性の水溶液」を,アプリケーションプログラム26pに半確定状態であるとの条件をつけて渡す(図7ステップST7)。アプリケーションプログラム26pが実行されると,例えば,CRT30に半確定状態で表示される。
【0040】つぎに,CPU23は,半確定バッファ27cに記憶された文字列が,かな漢字変換規則に合致しているか否かを判断する(図7ステップST9)。この例では,図5に示す共起辞書に基づいて,前記判断が行われる。この場合,表記文字列「アルカリ性」と共起関係にあるのは表記文字列「賛成」ではなく表記文字列「酸性」であることがわかる。
【0041】したがって,CPU23は,半確定バッファ27cに記憶された文字列がかな漢字変換規則に合致していないと判断し,半確定バッファ27cに記憶された表記文字列をかな漢字変換規則に基づき,変換する(図7ステップST11)。具体的には,「賛成」が「酸性」に置換され,半確定バッファ27cに「賛成とアルカリ性の水溶液」と記憶される。
【0042】つぎに,CPU23は,半確定バッファ27cに記憶された表記文字列「酸性とアルカリ性の水溶液」を,アプリケーションプログラム26pに半確定状態で渡す(図7ステップST13)。これにより,CRT30に半確定状態で表示される。」

ア.引用文献に記載の発明は,上記Aに記載の請求項6に記載されているごとく「プログラムを記憶した記憶媒体」であるところ,上記Bの記載には,該「プログラム」により実行される方法に係る発明として「音声データを音声変換規則に基づいて変換した表記文字列を未確定状態で記憶しておき,記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係をあらかじめ記憶した言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更する」ものである「表記文字列変換方法」が記載されている。
また,上記Dの「これらプログラムは,・・・CD-ROM,ICカード等のプログラムを実体的に一体化したコンピュータ可読の記憶媒体から,ハードディスクにインストールさせるようにしてもよい。」の記載から,「プログラムを記憶した記憶媒体」が「コンピュータ可読の記憶媒体」であることが記載されていると言える。
したがって,引用文献には「表記文字列変換方法を実行するプログラムを記憶したコンピュータ可読の記憶媒体であり,
前記表記文字列変換方法は,音声データを音声変換規則に基づいて変換した表記文字列を未確定状態で記憶しておき,記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係をあらかじめ記憶した言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更するものであり」が記載されていると言える。

イ.上記Dに「図3に示すCPU23は,ハードディスク26に記憶された前記2つのプログラムにしたがいバスライン29を介して,各部を制御する。」との記載があることから,引用文献には,「プログラムはCPUにより実行されるものであり」が記載されていると言える。

ウ.上記Cの「表記文字列変換装置10に表記文字列を与える音声データ変換手段5について説明する。音声入力手段3に操作者が音声を入力すると,音声変換手段6は入力された音声データから所定の特徴量を抽出する。音声変換辞書7にはあらかじめ複数の変換候補が記憶されている。各変換候補は,特徴量,その表記文字列およびその読み文字列で構成されている。音声変換手段6は,抽出した特徴量と,前記各変換候補との特徴量との一致度を判断し,もっとも一致した候補の表記文字列および読み文字列を出力する。」との記載,及び図面第1図から,引用文献には,「音声データ変換手段は,音声変換辞書を有する」が記載されていると言える。

以上,ア?ウで指摘した事項から,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

入力装置,制御装置,出力装置および記憶装置を備えたコンピュータを,表記文字列変換装置として機能させる,表記文字列変換方法を実行するプログラムを記憶したコンピュータ可読の記憶媒体において,
前記表記文字列変換方法は,音声データを音声変換規則に基づいて変換した表記文字列を未確定状態で記憶しておき,記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係をあらかじめ記憶した言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更するものであり,
前記プログラムはCPUにより実行されるものであり,
前記プログラムは,前記コンピュータを,以下の手段を備えた装置として機能させること,
言語規則を記憶する言語規則記憶手段,
操作者が入力した音声データを対応する表記文字列および読み文字列に変換して出力する音声データ変換手段から与えられた表記文字列を,未確定状態で記憶する未確定文字列記憶手段,
前記未確定文字列記憶手段に記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係を前記言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更する自動変換手段,
であり,
前記音声データ変換手段は,音声変換辞書を有することを特徴とするプログラムを記憶したコンピュータ可読の記憶媒体。

2)周知文献1

本願の第1国出願前に頒布された,特開平8-235169号公報(平成8年9月13日出願公開,以下,「周知文献1」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F「【0019】図2において,かな漢字変換制御部111は,まず,入力位置より後の入力確定済み文字列を文章データ記憶部106から受け取る(ステップS201)。次に,入力モードを判定し(ステップS202),入力モードが上書きの場合は,入力かな文字列がかな漢字変換され上書きされる文字数を推測し,入力確定済み文字列からその部分を削除する(ステップS203)。入力モードが挿入の場合は,入力確定済み文字列から1文字も削除しない。
【0020】次に,処理を行なった入力確定済み文字列の入力位置に,入力かな文字列を接続する(ステップS204)。この接続した文字列を元に単語変換や意味の接続関係等を調べかな漢字変換を行い(ステップS205),入力確定済み文字列部分の一致を調べる(ステップS206)。一致しない場合は次の変換候補を求め,一致するまでこの変換操作を繰り返す。一致した後,先に接続した入力確定済み文字列部分を削除し(ステップS207),使用者の入力したかな文字列に相当するかな漢字混じり文字列の変換結果を得る。」

3)周知文献2

本願の第1国出願前に頒布された,特開平9-120400号公報(平成9年5月6日出願公開,以下,「周知文献2」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

G「【請求項1】 変換対象となる挿入語の読み情報を入力する入力手段と,
この入力手段によって入力された挿入語の読み情報をかな漢字変換する変換手段と,
この変換手段によって得られた複数の変換候補を格納する候補記憶手段と,
所定の検索範囲を対象として当該挿入語の前後に位置する単語を検索し,少なくとも一方の単語と関連する共起情報を取得する共起取得手段と,
この共起取得手段によって得られた共起情報に基づいて,当該挿入語の前あるいは後の単語に共起する変換候補を優先するように,上記候補記憶手段に格納された各変換候補の出力順位を決定する出力順位決定手段と,
この出力順位決定手段によって決定された出力順位に従って当該挿入語の変換結果を出力する出力制御手段とを具備したことを特徴とする文書作成装置。」

4)周知文献3

本願の第1国出願前に頒布された,特開平11-328317号公報(平成11年11月30日出願公開,以下,「周知文献3」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H「【0014】以下,上記本発明の目的を達成する本発明の日本語文字認識方法及び日本語文字認識装置の種々の構成を説明する。図3は本発明の日本語文字認識誤り訂正方法の説明図である。同図に示す如く,本発明の日本語文字認識誤り訂正方法は,文字認識誤りを含む日本語文を入力し(ステップ91),文を構成する単語列の同時確率を与える単語分割モデル91と,任意の二つの文字の間の文字混同確率を与える文字認識装置モデル92とに基づいて,上記訂正対象となる単語の文字列と類似照合する辞書93中の単語を検索し(ステップ92),訂正対象となる単語の長短,並びに,訂正対象となる単語の前後の文脈情報の利用の可否には係わらず,上記訂正対象となる単語の訂正単語候補として任意の個数の単語を確率の高い順番に提示する(ステップ93)。」

5)周知文献4

本願の第1国出願前に頒布された,特開平7-271921号公報(平成7年10月20日出願公開,以下,「周知文献4」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

J「【0025】文字認識ステップ(202)では,文字認識手段103を用いて,文字特徴抽出ステップ(201)に抽出された特徴パターンと,文字認識辞書102に格納されている全ての識別パターンとの相違を多次元ベクトル化してその距離を計算するなどして,複数の認識候補文字を得る。ここに,認識候補文字データは,文字コードと,その確からしさを示す例えば距離値などの認識評価値とからなる。なお,この場合,出力する認識候補文字数はシステム全体の処理速度の面から3としかつ評価値の低いものは足切りを行うものとしている。またこのため,最大3となる。例えば,図3(a)に単語「松居」が記載された画像データに対する文字認識手段103の出力例を示す。最初の文字「松」に対しては「松」,「林」,「拡」の認識候補文字が得られ,その確からしさを示す認識評価値がそれぞれ,62,70,72であったとする。二番目の文字「居」に対しては認識候補文字「居」,「届」,「尾」が得られ,認識評価値はそれぞれ58,64,73であったとする。
【0026】候補選択ステップ(203)では,文字認識ステップ202で得られた認識候補文字の文字列中の配置を変更しない組合せ(実際には,単語とは限らないが,本明細書では「単語」という。)のうち,まだ単語探索ステップ204によって探索されていない単語を一つ選択する。例えば,図3(b)に示す9つの単語「松居」,「松届」などの中から一つを選択する。」

6)周知文献5

本願の第1国出願前に頒布された,特開2000-56795号公報(平成12年2月25日出願公開,以下,「周知文献5」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

K「【0008】本発明は,こうした課題に対してなされたもので,誤り訂正も含めた音声によるテキスト入力効率に優れた音声認識装置を提供するものである。
・・・(略)・・・
【0011】さらに,訂正のための再認識の際には,通常用いる認識用辞書と言語モデルよりも大規模な認識用辞書と言語モデルを用いて認識処理を行う。つまり,通常の認識時には,出現頻度の高い比較的少数の語彙項目を含む認識用辞書と言語モデルで高速に認識処理を実行し,訂正の際には,出現頻度の低い語彙項目も含む大規模辞書と言語モデルを用いて,指定された区間の音韻列候補に対して探索を行う。これにより,通常の認識処理を高速にするとともに,訂正の際に未知語に起因した訂正不能を少なくすることができる。」

(2)本願補正発明と引用発明との対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(2-1)引用発明の「CPU」,「記憶した」,「コンピュータ可読の」は,本願補正発明の「プロセッシング・ユニット」,「記録した」,「コンピュータで読み取り可能な」にそれぞれ相当する。

(2-2)引用発明の「プログラムはCPUにより実行されるものであり」は,本願補正発明の「プロセッシング・ユニットにより実行される」「プログラム」に相当する。
また,引用発明の「自動変換手段」により行われる「未確定文字列記憶手段に記憶された複数の表記文字列のうち特定の表記文字列の関係を前記言語規則に基づき判断して,表記文字列間の関係が前記言語規則に合致していないと判断した場合には,前記未確定状態の表記文字列が前記言語規則に合致するように変更する」機能は,「言語規則」を用いた「変更」結果を提供する「サービス」であると言え,したがって「プログラム」により実行される機能である「自動変換手段」は「言語規則」を用いた「サービス」を提供するためのものであると言うことができる。一方,本願補正発明の「言語モデル・サービス」における「言語モデル」も上位概念では「言語規則」であるから,「言語モデル・サービス」は「言語規則」を用いた「サービス」であると言うことができ,これより,引用発明の「言語規則」を用いた「サービス」を提供するための「プログラム」と,本願補正発明の「言語モデル・サービスを提供するためのプログラム」とは,“言語規則を用いたサービスを提供するためのプログラム”である点で共通する。
これらを合わせると,引用発明と本願補正発明とは”プロセッシング・ユニットにより実行される言語規則を用いたサービスを提供するためのプログラム”である点で共通すると言える。

(2-3)引用発明の「音声データ変換手段」は,「入力装置」から音声データを入力し変換して出力するための,「プログラム」により実現される機能であり,一方,本願補正発明の「プロセッサ」も,「入力装置208から生データを受け取り,それに基づいてテキストをドキュメント206に投入」する「コンピュータ・プログラム」であることから,引用発明の「入力装置」のための「音声データ変換手段」は,本願補正発明の「入力装置のプロセッサ」に相当する。
また,引用発明の「未確定文字列記憶手段」は上記「音声データ変換手段」から「表記文字列」を受け取り記憶しており,また該「音声データ変換手段」から受け取る「表記文字列」は文書の一部となりうるものであって,文書に係る情報であると言え,一方,本願補正発明における「ドキュメント内のある範囲」も上位概念では文書に係る情報であると言えることから,引用発明の「音声データ変換手段」から「表記文字列」を受け取ることと,本願補正発明の「プロセッサからドキュメント内のある範囲を受け取るステップ」とは,“プロセッサから文書に係る情報を受け取るステップ”である点で共通すると言える。
これらを合わせると,引用発明と本願補正発明とは”入力装置のプロセッサから文書に係る情報を受け取るステップ”を有する点で共通すると言える。

(2-4)引用発明の「自動変換手段」により「変更」された結果である「表記文字列」とは,例えば「賛成」に対して置換する「酸性」という文字データであり,これは「テキスト」データであって,テキストに係る情報であると言え,一方,本願補正発明における「テキストに関する」「アドバイス」も上位概念ではテキストに係る情報であると言えることから,引用発明の「自動変換手段」によって「変更」結果として「表記文字列」を生成することと,本願補正発明の「ドキュメント内の前記範囲に挿入すべき,テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイスを生成するステップ」とは,“テキストに係る情報を生成するステップ”である点で共通すると言える。

(2-5)引用発明の「音声変換辞書」,「言語規則」は,本願補正発明の「第1の言語モデル」,「第2の言語モデル」にそれぞれ対応するものである。
そのうち,引用発明の「音声変換辞書」は,上記Cに「音声入力手段3に操作者が音声を入力すると,音声変換手段6は入力された音声データから所定の特徴量を抽出する。音声変換辞書7にはあらかじめ複数の変換候補が記憶されている。各変換候補は,特徴量,その表記文字列およびその読み文字列で構成されている。音声変換手段6は,抽出した特徴量と,前記各変換候補との特徴量との一致度を判断し,もっとも一致した候補の表記文字列および読み文字列を出力する。」との記載があるとおり,文字列単位での変換処理に用いられていることから,引用発明の「音声変換辞書」と,本願補正発明の「第1言語モデル」とは,“文字ベース”の“第1の言語規則”である点で共通すると言える。
次に,引用発明の「自動変換手段」により用いられる「言語規則」は,「特定の表記文字列の関係をあらかじめ記憶」し「自動変換手段」による「表記文字列」の「変更」という「言語規則を用いたサービス」に用いられるものであり,また該「表記文字列」とは,上記Eの「CPU23は,半確定バッファ27cに記憶された文字列がかな漢字変換規則に合致していないと判断し,半確定バッファ27cに記憶された表記文字列をかな漢字変換規則に基づき,変換する・・・。具体的には,「賛成」が「酸性」に置換され,半確定バッファ27cに「賛成とアルカリ性の水溶液」と記憶される。」に記載があるように,単語単位で処理されるものであることから,引用発明の「自動変換手段」により用いられる「言語規則」と,本願補正発明の「第2言語モデル」とは,“単語ベース”の“第2の言語規則”である点で共通すると言える。
また,引用発明の「音声変換辞書」と,「自動変換手段」により用いられる「言語規則」とが異なるものであることは明かである。
これらを合わせると,引用発明の「音声データ変換手段」は文字列単位での変換処理に用いられる「音声変換辞書」を有し,「自動変換手段」は前記「音声変換辞書」とは異なり単語単位での処理を行う「言語規則」を用いて「表記文字列」を生成することと,本願補正発明の「プロセッサは,第1の言語モデルを有し,前記言語モデル・サービスは,前記第1の言語モデルとは異なる第2の言語モデルを使用して前記アドバイスを生成し,前記第1の言語モデルは,文字ベースの言語モデルであり,前記第2の言語モデルは,単語ベースの言語モデルである」とは,“プロセッサは,第1の言語規則を有し,言語規則を用いたサービスは,前記第1の言語規則とは異なる第2の言語規則を使用してテキストに係る情報を生成し,前記第1の言語規則は,文字ベースの言語規則であり,前記第2の言語規則は,単語ベースの言語規則である”である点で共通すると言える。

(2-6)引用発明と本願補正発明とは「方法をプロセッシング・ユニットに実行させるプログラムを記録した,コンピュータで読み取り可能な記憶媒体」である点で共通すると言える。

以上から,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

プロセッシング・ユニットにより実行される言語規則を用いたサービスを提供するためのプログラムであって,
入力装置のプロセッサから文書に係る情報を受け取るステップと,
テキストに係る情報を生成するステップとを備え,
前記プロセッサは,第1の言語規則を有し,前記言語規則を用いたサービスは,前記第1の言語規則とは異なる第2の言語規則を使用してテキストに係る情報を生成し,前記第1の言語規則は,文字ベースの言語規則であり,前記第2の言語規則は,単語ベースの言語規則である,方法をプロセッシング・ユニットに実行させるプログラムを記録した,コンピュータで読み取り可能な記憶媒体。

(相違点1)
プロセッサからの文書に係る情報について,本願補正発明が「ドキュメント内のある範囲」を受け取り側に出力し,当該「ドキュメント内のある範囲」に「挿入すべき」アドバイスを生成しているのに対し,引用発明は,そのような構成になっているとは言えない点。

(相違点2)
文書に係る情報の受け取り後に生成するテキストに係る情報について,本願補正発明が「テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイス」を生成し,該「テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイス」を入力装置のプロセッサに提供しているのに対し,引用発明は,そのような構成になっているとは言えない点。

(相違点3)
プロセッサが有する文字ベースの言語規則,及びテキストに係る情報の出力のために用いられる単語ベースの言語規則について,本願補正発明が,「言語モデル」を用いるとし,それによりプロセッサは文字ベースの第1の「言語モデル」を有し,言語モデル・サービスは単語ベースの第2の「言語モデル」を使用してアドバイスを生成することとしているのに対し,引用発明は,「言語規則」を用いることとはしているものの,それが「言語モデル」に当たるとまではなっていない点。


(3)判断

上記相違点1?3について検討する。

(3-1)相違点1について
文書作成における文字変換処理において,入力済みの文字列を受け取り,該文字列に挿入するためのテキストデータを生成することは,本出願前周知(必要であれば,周知文献1の上記Fの記載,周知文献2の上記Gの記載を参照。)であり,また一般に文字列が,ドキュメントすなわち文書内の所定の範囲に当たるものとなりうることは,技術常識である。
してみると,引用発明において,当該周知技術を採用し,ドキュメント内のある範囲を受け取り側に出力し,ドキュメント内のある範囲に挿入すべきテキストに係る情報を生成するようにすること,すなわち,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

よって,相違点1は格別なものではない。

(3-2)相違点2について

文字変換処理の分野において,テキスト訂正に用いる複数のテキストの候補とその確率情報を生成し,それをテキスト訂正の助けとなるよう提示することは,本出願前周知(必要であれば,周知文献3の上記Hの記載,周知文献4の上記Jの記載を参照。)である。ここで,「アドバイス」を文言通りに解釈すると,「助言となる情報」であると認められるところ,一般に,助けとなる情報は「助言となる情報」に相当するとすることができるから,引用発明において,当該周知技術を採用すること,すなわち,テキストに関する助言となる情報をテキスト訂正のために生成することは,当業者が容易に想到し得たことであり,その際,当該助言となる情報を訂正手段に送るよう構成することに,格別困難性は認められない。

よって,相違点2は格別なものではない。

(3-3)相違点3について

本願補正発明における「言語モデル」について詳細な説明を参酌すると,「ユーザ入力を調べ,それをテキスト文字に変換する」または「ユーザ入力を調べ,それをテキストの単語に変換する」ものと記載されているところ,一般に文字変換処理の際に,ユーザ入力を調べ単語への変換を行う「言語モデル」を用いることは,本出願前周知(必要であれば,周知文献3の上記Hの記載,周知文献5の上記Kの記載を参照。)であり,引用発明において,当該周知技術を採用し,「音声データ変換手段」及び「自動変換手段」で用いられる言語規則として「言語モデル」を用いること,すなわち,相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
なお,当該「言語モデル」に関し,請求人が上記平成24年8月2日付けの回答書において「言語モデルとは,統計学的な観点から数式などを用いて確率的に定められる,自然言語処理などにおいて,文の品詞や統語構造,単語と単語,文書と文書などの関係性について定式化したものことであり(IT用語辞典等に記載があります),単語を並べただけのものである「辞書」とは異なります。」と述べているが,単語と単語などの関係性を有する言語モデルは周知の構成(引用文献の上記Cに「言語規則として,・・・共起関係にある表記文字列・・・から構成された共起情報を採用した。」との記載があるように,引用文献に記載の発明で用いられる言語規則も,単語と単語の関係性を有するものである。)であり,したがってこの点でも,「言語モデル」を用いることに格別な困難性は認められないと言える。

よって,相違点3は格別なものではない。

(3-3)小括

上記で検討したごとく,相違点1?相違点3は格別のものではなく,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

したがって,本願補正発明は,上記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.本件補正についての結び

上記2.で検討した通り,本願補正発明は,特許法第36条4項,同6項2号,及び第29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成23年5月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願に係る発明は,平成22年12月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記「第2 平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1.本件補正」の本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用文献等

原査定の拒絶の理由に引用された,引用文献およびその記載事項は,前記「第2 平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-2.特許法29条2項についての検討」の「(1)引用文献等」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は,前記「第2 平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1.本件補正」の「本願補正発明」から,実質的に,「プロセッシング・ユニットにより実行される」,「第1の言語モデルは,文字ベースの言語モデルであり」,「第2の言語モデルは,単語ベースの言語モデルである」を削除したものである。

そうすると,本願発明の構成要件を,実質的に全て含み,さらに特定の構成要件に限定要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-2.特許法29条2項についての検討」の「(3)判断 」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当該引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

また,請求項1の記載に依然として「テキストに関する,前記プロセッサのためのアドバイス」の記載が含まれることから,当該記載を含む本願補正発明が,前記「第2 平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-1.請求項の記載についての検討」の「(1)」に記載したとおり,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしているとすることができないものであるから,本願発明も,同様の理由により,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしているとすることができないものである。

4.むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項,及び第36条6項2号の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について言及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-26 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-21 
出願番号 特願2001-579146(P2001-579146)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 537- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩島 豪辻本 泰隆  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 石井 茂和
酒井 伸芳
発明の名称 言語モデルの共用  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 濱中 淳宏  
復代理人 久下 範子  

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