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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C30B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C30B
管理番号 1275439
審判番号 訂正2013-390032  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-02-21 
確定日 2013-06-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3590464号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3590464号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 第1.手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第3590464号(以下、「本件特許」ということがある。)は平成7年12月8日に出願され、その請求項1ないし3に係る発明は平成16年8月27日にその特許権の設定登録がなされたものである。
本件特許に対して、平成25年2月21日に本件訂正審判の請求がなされ、その後の方式上の手続を除く手続の経緯は次のとおりである。

平成25年 4月 1日:訂正拒絶理由通知
平成25年 4月26日:意見書、手続補正書
平成25年 5月21日:上申書、手続補正書

第2.手続補正書の適否
1.平成25年4月26日付けの手続補正書について
この手続補正書による補正は、平成25年2月21日付けの審判請求書における訂正事項に、新たに「訂正事項8」を付け加えるものであって、その内容は、「特許請求の範囲の請求項2を削除し、これに整合させるため、同請求項3の引用請求番号を1のみとし、発明の詳細な説明の段落【0009】を削除する」ものである。
かかる補正事項は、特許請求の範囲の請求項2を削除という訂正事項を追加する補正と、この補正に整合させるための明細書、特許請求の範囲についての訂正事項の補正であるから、審判請求書の要旨を変更しないものである。

2.平成25年5月21日付けの手続補正書について
この手続補正書による補正は、審判請求書に添付された訂正明細書の段落【0008】に記載された「本発明の単結晶炭化珪素の製造方法は、炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ、単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において、炭素原子位置に不純物を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)導入することを特徴とするものである。」とあるのを、「本発明の単結晶炭化珪素インゴットの製造方法は、炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ、単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において、炭素原子位置に窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入することを特徴とするものである。」に補正するものである。この補正は、審判請求書において「訂正事項5」としてあげられていた訂正事項が、同請求書に添付された訂正明細書の段落【0008】において正しく記載されていなかった不備を補正するものであるから、審判請求書の要旨を変更しないものである。

3.よって、上記1及び2の手続補正書による補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合する適法なものといえるので、これら補正を認める。

第3.請求の趣旨と訂正事項
上記第2で述べたとおり、平成25年4月26日付け及び平成25年5月21日付けの手続補正書による補正は認められるので、本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3590464号の明細書、特許請求の範囲を平成25年4月26日付け及び平成25年 5月21日付けの手続補正書によって補正された審判請求書に添付され補正された全文訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」ということがある。)のとおり訂正することを求めるものであって、次の訂正事項1?8のとおりのものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「炭素原子位置に不純物を」とあるのを「炭素原子位置に窒素を」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「5×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(20)cm^(-3)以下」とあるのを「5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「4H型単結晶炭化珪素の製造方法」とあるのを「4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記不純物が窒素である」とあるのを「単結晶炭化珪素を成長させる際に、雰囲気ガスとしてArガスに窒素ガスを含んだ混合ガスを流入させる」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様である。)。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「本発明の単結晶炭化珪素の製造方法は、炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ、単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において、炭素原子位置に不純物を5×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(20)cm^(-3)以下導入することを特徴とするものである。」とあるのを、「本発明の単結晶炭化珪素インゴットの製造方法は、炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ、単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において、炭素原子位置に窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入することを特徴とするものである。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0009】に記載された「また本発明においては、前記不純物が窒素であることを特徴とする。」とあるのを、「また本発明においては、単結晶炭化珪素を成長させる際に、雰囲気ガスとしてArガスに窒素ガスを含んだ混合ガスを流入させることを特徴とする。」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「さらに、本発明においては、前記4H型単結晶炭化珪素の製造方法に用いる炭化珪素原料として、粒径が150μm以上の炭化珪素粉末を使用することを特徴とする。」とあるのを、「さらに、本発明においては、前記4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法に用いる炭化珪素原料として、粒径が150μm以上の炭化珪素粉末を使用することを特徴とする。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正をし、この訂正に整合させるために、同請求項3の「請求項1または2記載の」を「請求項1記載の」と訂正し、願書に添付した明細書の段落【0009】を削除する訂正をする。

第4.訂正拒絶理由通知の概要
当審からの平成25年4月1日付けで訂正拒絶理由通知の概要は次のとおりである。
(1)訂正事項4は、新たに、窒素の導入方法を特定するものであって、窒素の種類を限定するものでないし、誤記又は誤訳の訂正でも、明瞭でない記載の釈明でもないから、特許法第126条第1項ただし書きの何れをも目的とするものではない。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1?3」ということがある。)は、引用例1?6に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本件訂正発明1?3は、引用例5、1及び4に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1?6は、次のとおりのものである。
引用例1:John W. Palmour, et. al. "Silicon Carbide Substrates and Power Devices" Inst. Phys. Conf. Ser. No 141 :Chapter 4, Paper Presented at Inst. Symp. Compound Semicond., San Diego, 18-22 September 1994,pp377-382
引用例2:米国特許第4866005号明細書
引用例3:マグローヒル 科学技術用語大辞典 第2版 株式会社日刊工業新聞社(昭和60年3月25日)
引用例4:特開平6-340498号公報
引用例5:特開平6-316499号公報
引用例6:豊田中央研究所 R&D レビュー Vol. 30 No. 2 ( 1995. 6 ) 57-67頁

第5.判断
1.訂正の目的について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正後の請求項1?3からなる一群の請求項の発明特定事項である請求項1に記載された「炭素原子位置に不純物を」の不純物について、その種類を特定しないものから「炭素原子位置に窒素を」と種類を窒素に限定するものであって、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正後の請求項1?3からなる一群の請求項の発明特定事項である請求項1に記載された「5×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(20)cm^(-3)以下」について、その上限を「5×10^(19)cm^(-3)以下」とするものであって、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正後の請求項1?3からなる一群の請求項の発明特定事項である請求項1に記載された「4H型単結晶炭化珪素の製造方法」について、「4H型単結晶炭化珪素」の形態を「インゴット」に限定するものであって、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(4)訂正事項4、6及び8について
ア 訂正事項8によって、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正をし、この訂正に整合させるために、同請求項3の「請求項1または2記載の」を「請求項1記載の」と訂正することは、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書の段落【0009】を削除する訂正は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の齟齬を解消するものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ そして、この訂正事項8によって、訂正事項4及6は、実質的になくなったものといえ(以後、訂正事項4及6はなくなったものとして検討対象から外す。)、訂正事項4に係る訂正拒絶理由通知で指摘した不備は解消した。
(5)訂正事項5及び7について
訂正事項5及び7は、訂正事項1?3に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の齟齬を解消するものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

2.新規事項の追加の有無について
訂正事項1?3、5、7及び8が願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かについて検討すると、訂正事項1?3、5、7及び8に係る事項は、同明細書の段落【0007】、【0012】、【0013】、【0020】、【0021】に記載されているから、訂正事項1?3、5、7及び8は、いずれも同明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項1?3、5、7及び8は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

3.特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項1?3、5、7及び8は、上記2.で述べたように特許請求の範囲の減縮または該減縮に伴う明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、これら訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでもないことは明らかである。
したがって、訂正事項1?3、5、7及び8は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

4.訂正の対象の一群の請求項について
(1)本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3についてみてみると、訂正事項1?3を含む請求項1を請求項3が引用しているから、訂正事項1?3に係る訂正後の請求項1、3は一群の請求項を構成している。
よって、本件請求は特許法第126条第3項に適合するものである。

5.本件訂正発明1?3(本件訂正発明2は削除された。)に係る発明の独立特許要件について
(1) 訂正事項1?3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正発明1?3が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて検討する。
(2) 本件訂正発明1?3は、次のとおりである。
「【請求項1】 種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に、炭素原子位置に窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入することを特徴とする4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 前記4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法に用いる炭化珪素原料として、粒径が150μm以上の炭化珪素粉末を使用することを特徴とする請求項1または2記載の4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法。」
(3)引用例の記載事項
(3-1)本願出願前に頒布された刊行物である「John W. Palmour, et. al. "Silicon Carbide Substrates and Power Devices" Inst. Phys. Conf. Ser. No 141 :Chapter 4, Paper Presented at Inst. Symp. Compound Semicond., San Diego, 18-22 September 1994,pp377-382」(以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「1. Introduction
・・・・・・4H-SiC shows the best potential for high power operation because the electron mobility in 4H-SiC is almost double that of 6H-SiC.・・・・・・This paper presents results on several topics concerning growth of SiC bulk crystals. The development of heavily nitrogen doped 4H crystals up to 10^(20) cm^(-3) for use as low resistivity substrates, the production of 2 inch diameter 6H-SiC wafers and prospects for growing 4H and 6H crystals with diameters > 2 inch will also be discussed.」(377頁本文1?16行)
(当審訳:1.序
・・・・・・4H-SiCの電子移動度は6H-SiCのそれのおおよそ倍あるから、4H-SiCは、高出力動作に対して最高の可能性を示している。・・・・・・本論文は、SiCバルク結晶の成長に関する幾つかの話題から得られた結果について記す。低抵抗基板として使用するための10^(20)/cm^(3)に至るまでの窒素をヘビードープした4H結晶の発展について、直径2インチの6H-SiCのウェハ生産について、及び2インチを超える直径の4Hと6H結晶の成長についての可能性について議論する。)
(イ)「2. SiC Substrates
The availability of relatively large, high quality wafers of silicon carbide (SiC) for device development has been a major factor in the recent increased interest in this material for electronic and optoelectronic applications. The method used by Cree Research to produce single crystal SiC boules, a modified seeded sublimation process, is described in detail elsewhere [6].・・・・・・We have recently produced heavily nitrogen doped 4H-SiC wafers as high as N_(d) = l×10^(20) cm^(-3) with resistivities as low as 0.0028Ω-cm.Advances in the production of this poiytype are of particular interest for power devices ・・・・・・.」(378頁1?21行)
(当審訳:2.SiC基板
比較的大きく、デバイス開発用の高品質の炭化珪素(SiC)ウェハの有用性は、この材料を電子的及び光電子的に応用する上で、最近の関心の高まりにおける主要な要因であった。単結晶SiCブール(boule)を製造するためにクリー研究所が用いた方法、すなわち改良された種付き昇華法は、他のところで詳細に述べられている[6]。・・・・・・われわれは最近、窒素をヘビードープした4H-SiCウェハであって、Nd=1×10^(20)cm^(-3)の高さであり、抵抗率が0.0028Ω-cmの低さであるものを製造した。このポリタイプの生産の進歩は、パワーディバイスにとって特に興味深い・・・・・・。)
(ウ)「[6] U.S. Patent No. 4,866,005 (September 12,1989) R.F. Davis, C.H. Carter, Jr. and C.E. Hunter (to North Carolina State University)」(382頁下から11?10行)
(当審訳:米国特許第4866005号明細書(1989年9月12日) R.F. Davis, C.H. Carter, Jr. and C.E. Hunter (ノースカロライナ州立大学))
(3-2)本願出願前に頒布された刊行物である米国特許第4866005号明細書(以下、「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。
(カ)「1. A method of reproducibly controlling the growth of large single crystals of a single polytype of silicon carbide independent of the use of impurities as a primary mechanism for controlling polytype growth, and which crystals are suitable for use in producing electrical devices, the method comprising:
introducing a monocrystalline seed crystal of silicon carbide of desired polytype and a silicon carbide source powder into a sublimation system;
raising the temperature of the silicon carbide source powder to a temperature sufficient for the source powder to sublime; while
elevating the temperature of the growth surface of the seed crystal to a temperature approaching the temperature of the source powder, but lower than the temperature of the source powder and lower than that at which silicon carbide will sublime under the gas pressure conditions of the sublimation system; and
generating and maintaining a substantially constant flow of vaporized Si, Si_(2)C, and SiC_(2) per unit area per unit time from the source powder to the growth surface of the seed crystal for a time sufficient to produce a desired amount of macroscopic growth of monocrystalline silicon carbide of desired polytype upon the seed crystal.」(請求項1)
(当審訳:ポリタイプの成長を制御する第1のメカニズムである不純物の使用に依存せず、そして、電気的デバイスの製造に好適に使用でき、炭化珪素の単一ポリタイプの大型単結晶の成長を再現よく制御する方法であって;
所望ポリタイプの炭化珪素の種単結晶と、炭化珪素粉末源とを昇華系内へと導入すること;
この炭化珪素粉末源の温度を炭化珪素が粉末源から昇華するのに充分な温度まで上昇させること;
一方種晶の成長面の温度を、粉末源の温度に近く、しかしこの粉末源の温度よりは低くかつこの昇華系の気圧条件下で炭化珪素が昇華する温度よりも低い温度へと上昇させること;
及び
種晶の上に所望ポリタイプの単結晶炭化珪素の巨視的成長を所望量製造するのに充分な時間の間、炭化珪素粉末源から炭化珪素種晶へのSi、Si_(2)CとSiC_(2)蒸気フローを生成し維持すること
を有する方法。)
(キ)「As used herein, the term "constant polytype composition" refers to a source powder or powders which are made up of a constant proportion of certain polytypes, including single polytypes. For example, a source powder which was formed substantially entirely of 6H alpha silicon carbide would exhibit a constant polytype composition, as would source powder that was 50 percent alpha polytype and 50 percent beta polytype. In other words, the composition--whether homogeneous or heterogeneous with respect to polytypes--must be controlled so as to remain the same throughout the sublimation process.
Stated more directly, if the source powder is selected and controlled so that substantially it has a constant polytype composition, the relative amounts or ratios of Si, Si_(2)C, and SiC_(2) which are generated will remain constant and the other parameters of the process can be appropriately controlled to result in the desired single crystal growth upon the seed crystal.」(7欄3?21行)
(当審訳:ここで使用したように、「一定のポリタイプ組成」という語は、一定比率の特定のポリタイプからなる粉末源に関するものであり、単一のポリタイプからなるものを含む。例えば、50%がアルファポリタイプ、50%がベータポリタイプである粉末源が一定のポリタイプ組成を示すように、実質的に完全に6Hアルフア炭素珪素からなる粉末源も一定のポリタイプ組成を示す。言い換えると、この組成は、ポリタイプに関して同質であろうと異種成分からなっていようと、昇華プロセスを通じて同じ組成を保つように制御しなければならない。
更に直接的に述べるならば粉末源が一定のポリタイプ組成を実質的に有するように選択し、制御すると、発生するSi、Si_(2)C及びSiC_(2)の相対量又は比率が一定に保たれ、このプロセスの他のパラメータを適切に制御でき、種晶上に所望の単結晶成長を生じさせる。)
(ク)「This technique is particularly important when a silicon carbide crystal is being doped with an impurity during sublimation growth.」(10欄17?19行)
(当審訳:昇華成長の間に炭化珪素結晶に不純物をドープする場合には、この技術が特に重要である。)
(ケ)「For example, doping with aluminum is known to favor growth of 4H silicon carbide, but 6H crystals of silicon carbide can be grown with aluminum doping according to the present invention if an off-axis seed is used.」(10欄22?26行)
(当審訳:例えば、アルミニウムをドーピングすると4H炭化珪素の成長に有利であることが知られているが、軸の外れた種を使用すると、本発明に従ってアルミニウムをドーピングすることで炭化珪素の6H結晶を成長させることができる。)
(コ)「EXAMPLE 1
A seed was prepared from a 6H alpha polytype silicon carbide.・・・・・・The source powder consisted of 6H silicon carbide grains having the following size distribution:
・・・・・・
EXAMPLE 2
A 6H Alpha-SiC seed was prepared by cutting the (0001) plane 3°towards the [1120] direction.・・・・・・The seed and source powder were loaded into the crucible, with the source powder having the same powder size distribution as set forth in Example 1.」(12欄30行?13欄27行)
(当審訳:実施例1
6Hアルフアポリタイプ炭化珪素から種を準備した。・・・・・・この粉末源は、次の粒径分布を有する6H炭化珪素粒子からなる。
・・・・・・
実施例2
6Hアルフア-SiC種を、この(0001)平面を3°[1120]方向へと向かってカットすることによって準備した。・・・・・・。種と粉末源とをるつぼ内へと装備し、この粉末源は実施例1で記載したものと同じ粒径分布を有する。)
(3-3)本願出願前に頒布された刊行物である「マグローヒル 科学技術用語大辞典 第2版 株式会社日刊工業新聞社(昭和60年3月25日)」(以下、「引用例3」という。)には次の事項が記載されている。
(サ)「ボウル boule 《結晶》 特別に設計された炉の中で、小さな種結晶を回転しながら、溶融物質からゆっくり引き上げて得られる、単結晶性の原子的構造をもつ、たとえばシリコンのような、純粋の結晶。」(1553頁の「ボウル」の項)
(3-4)本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-340498号公報(以下、「引用例4」という。)には次の事項が記載されている。
(タ)「【請求項1】 粉末状SiC原料を加熱昇華させて原料温度より低い温度に保ったSiC単結晶よりなる種結晶上にSiC単結晶を成長させる昇華再結晶法において、該粉末状SiC原料の温度を成長時間の経過とともに徐々に下げることにより成長を行うことを特徴とするSiC単結晶の成長方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(チ)「実施例1
種結晶として6H形の{00001}面ウェハの(000-1)C面(当審注:「-1」は1の直上にマイナスが付いたもの。以下同様である。)を使用し、成長スタート時の原料温度を2380℃、種結晶温度を2320℃、雰囲気圧力を20Torrとしてアンドープで成長を行った。成長中の原料温度のプロファイルを図3に示す。この図で示したように原料温度は成長開始2時間後から1時間に約10℃の割合で降下させ、約8時間の成長を行った。一方、種結晶温度は成長開始2時間後から1時間に約6℃の割合で降下させた。
得られた結晶は上部に大きな(000-1)ファセットを有し透明度がよかった。
このインゴットから{0001}ウェハを切り出したところ、特に種結晶に近い部分のウェハは黒い結晶欠陥が多数見られた。しかし、インゴットの中央部と先端部から切り出したウェハにはこのような黒色の欠陥は見られなかった。また、種結晶に近い部分より取り出したウェハはアンドープにかかわらずやや緑がかっていた。またそのウェハの一部は多少黄色がかっていた。これは、系内に残っていた残留窒素がドープされたものと思われる。色の違いは多形の種類によるものと思われる。実際にラマン散乱でこの部分を調べると緑の部分は6H形、黄色の部分は4H形であった。一方、中央部・先端部より取り出したウェハは非常に透明でウェハ全体が6H形であることが確認された。」(段落【0018】?【0022】)
(ツ)「実施例2
実施例1と同じ成長条件で成長を行った。ただし成長速度を調べるため、約1時間毎に窒素ガスを流しマーキングを行った。成長した結晶をc軸を含む面で縦切りにしウェハを取り出した。窒素がドープされた部分は緑となるためこれより成長速度を見積った。成長開始直後の1時間でc軸方向に約1.6mm成長していた。これに対し成長終了前の1時間には約0.5mmしか成長しておらず、成長速度は徐々に小さくなっていることが確認された。」(段落【0023】)
(3-5)本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-316499号公報(以下、「引用例5」という。)には次の事項が記載されている。
(ナ)「【産業上の利用分野】本発明は昇華再結晶法を用いた六方晶の炭化珪素単結晶を成長させる方法に関する。」(段落【0001】)
(ニ)「図1(a)及び図1(b)に基づき第1の実施例について説明する。
まず、種結晶として、成長面方位が(0001)方向である六方晶型の炭化珪素単結晶からなる基板1を用意した。そして、この基板1を黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けた。また、黒鉛製坩堝3の内部には、原料として高純度の珪素2a及び炭素粉末2bを充填した。珪素2aとしては、粒状で2?5mm破砕状で純度が5Nもの、炭素粉末2bとしては粒度が10μmで純度が4Nのものを用いた。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛の支持棒6により二重石英管5の内部に設置した。黒鉛製坩堝3の周囲には黒鉛製フェールト7で被覆した。そして、雰囲気ガスとしてアルゴンガス(Ar)を、ステンレス製チャンバー10の枝管9から二重石英管5の内部に流した。Arガスの流量は1l/分に設定した。次に、ワークコイル8に高周波電流を流し、高周波電流を調節することで珪素2aと炭素粉末2bの温度が1700℃、ワークコイルとして坩堝の位置を調節することで珪素2aと炭素粉末2bの原料と種結晶1との温度差が無くなるようにした。この状態で2時間保持することで珪素と炭素が反応して炭化珪素2が形成される。続いて、高周波電流を調節して種結晶の温度を2150℃、ワークコイルと坩堝の位置を調節し炭化珪素2の温度を2200℃に設定する。次に、真空ポンプ13を用いて二重石英管5の内部を減圧した。この減圧は大気圧から?30Torrまで20分間かけて徐々に行い、30Torrの真空度で保持した。この状態で5時間保持することにより、約5mmの厚さの炭化珪素単結晶が成長した。
このようにして得られた炭化珪素単結晶をX線回折法、ラマン分光法により分析したところ、六方晶の炭化珪素単結晶が成長していることがわかった。成長した結晶は種結晶上より成長最表面まで均一で欠陥も少なく(10^(2)cm^(-2) 以下)、高品質の6H形炭化珪素単結晶である。」(段落【0018】?【0020】)
(ヌ)「次に、図1(a)及び図1(c)に基づき、第2の実施例について説明する。まず、原料となる高純度の珪素2aと黒鉛ブロック2cを充填した。珪素2aとしては、JIS粒度が#300、黒鉛ブロック2cとしてはかさ密度が0.5の多孔質黒鉛を用いた。これらの原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けていない黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛製の支持棒6により二重石英管5の内部に設置した。黒鉛製坩堝3の周囲には黒鉛製フェールト7で被覆した。そして、雰囲気ガスとしてArガスを、ステンレス製チャンバー10の枝管9から二重石英管5の内部に流した。Arガスの流量は1l/分に設定した。また、ワークコイル8に高周波電流を流し炭化珪素粉末の温度が1800℃になるように調節し、360分保持した。この処理により珪素と多孔質黒鉛が反応して炭化珪素2が形成される。その後、種結晶として、成長面方位が(0001)方向である六方晶型の4H型炭化珪素単結晶からなる基板1を用意した。そして、この基板1を黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けた。
次に、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛製の支持棒6により二重石英管5の内部に設置した。黒鉛製坩堝3の周囲には黒鉛製フェールト7で被覆した。そして、雰囲気ガスとしてアルゴンガス(Ar)、n型不純物添加用の窒素ガス(M_(2))(当審注:「N_(2)」の誤記と認める。)を、ステンレス製チャンバー10の枝管9から二重石英管5の内部に流した。Arガス、N^(2)(当審注:「N_(2)」の誤記と認める。)ガスの流量はそれぞれ1l/分、0.8cc/分に設定した。また、ワークコイル8に高周波電流を流し基板1の温度が2200℃、炭化珪素2(b)の温度が2300℃になるように調節した。続いて、Arガスの流量を調節すると共に、真空ポンプ13を用いて二重石英管5の内部を減圧した。この減圧は大気圧から10Torrまで60分間かけて徐々に行い、10Torrの真空度で6時間保持した。この状態で8時間保持することにより、約8mmの厚さの炭化珪素単結晶が成長した。
このようにして得られた炭化珪素単結晶をX線回折法、。(当審注:「。」は不要と認める。)ラマン分光法により分析したところ、成長面方位が(0001)方向である六方晶型の4H型炭化珪素単結晶が成長していることがわかった。成長速度は1.0mm/時であり、抵抗率が0.1Ωcmであるn型炭化珪素単結晶である。透過特性も良好、均質で欠陥も少なく(10^(2)cm^(-2)以下)、高品質のn型4H形炭化珪素単結晶である。」(段落【0024】?【0026】)
(3-6)本願出願前に頒布された刊行物である「夫馬弘雄他、”SiC半導体”、豊田中央研究所 R&Dレビュー Vol.30 No.2 (1995.6) 57?67頁」(以下、「引用例6」という。)には次の事項が記載されている。
(ハ)「さらにここで特記しておくことは,得られる成長結晶の多形の変化である。SiCにはSi-C二重原子層の<0001>軸に沿った積み重なり方が異なる多形 ( 3C, 4H,6H等 )が存在する。アチソン結晶として得られる結晶は,通常6Hである。昇華法による成長結晶の多形制御については,面極性によって4H,6Hの制御が可能であるという報告^(7))があるが,成長条件による多形の制御は現在のところ十分に確立されていない^(8))。我々は,C面を用いた実験で4H結晶が成長し,原料温度が高い条件で4H結晶が再現性良く得られる事を見いだした。」(59頁右欄1?11行)
(4)引用例1に記載された発明
ア 引用例1の(イ)には、「窒素をヘビードープした4H-SiCウェハであって、Nd=1×10^(20)cm^(-3)」のものが記載されている。
イ このウェハは、同(イ)の記載からみて、「改良された種付き昇華法」によって製造されたとみることが自然である。
ウ そうすると、引用例1には、
「Nd=1×10^(20)cm^(-3)である窒素をヘビードープした4H-SiCウェハを改良された種付き昇華法によって製造する方法」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(5)引用例5に記載された発明
ア 引用例5の(ヌ)には、「炭化珪素2が形成される。その後、種結晶として、成長面方位が(0001)方向である六方晶型の4H型炭化珪素単結晶からなる基板1を用意した。そして、この基板1を黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けた。
次に、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛製の支持棒6により二重石英管5の内部に設置した。・・・・・・。そして、雰囲気ガスとしてアルゴンガス(Ar)、n型不純物添加用の窒素ガス・・・・・・を・・・・・・流した。・・・・・・基板1の温度が2200℃、炭化珪素2(b)の温度が2300℃になるように調節した。続いて、Arガスの流量を調節すると共に、真空ポンプ13を用いて二重石英管5の内部を減圧した。この減圧は大気圧から10Torrまで60分間かけて徐々に行い、10Torrの真空度で6時間保持した。この状態で8時間保持することにより、約8mmの厚さの炭化珪素単結晶が成長した。
このようにして得られた炭化珪素単結晶を・・・・・・4H型炭化珪素単結晶が成長していることがわかった。」と記載されており、「4H型炭化珪素単結晶が成長」するために、「種結晶を用いた昇華再結晶法」を用いていることは明らかであり、このことは同(ナ)の記載とも整合する。
イ 上記アでみた記載の「約8mmの厚さの炭化珪素単結晶」は、インゴットとみることが自然であるから、引用例5では「4H型炭化珪素単結晶インゴット」を製造しているとみることができる。
ウ また、上記アでみた記載によれば、窒素を炭化珪素単結晶中に導入していることは明らかであり、その抵抗率は同(ヌ)の記載から「0.1Ωcm」である。
エ そうすると、引用例5には、
「種結晶を用いた昇華再結晶法を用いた、窒素が導入された抵抗率が0.1Ωcmの4H型炭化珪素単結晶インゴット製造方法」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
(6)引用発明1との対比・判断
(6-1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。
イ 引用発明1の「改良された種付き昇華法」について
イ-1 引用例1の(イ)に「改良された種付き昇華法は、他のところで詳細に述べられている[6]。」と記載され、この「[6]」で表される文献は、同(ウ)の記載によれば、「米国特許第4866005号明細書」、すなわち、引用例2である。
イ-2 そこで、引用例2の記載をみると、その(カ)の記載によれば、「改良された種付き昇華法」とは、「種晶の上に所望ポリタイプの単結晶炭化珪素の巨視的成長を所望量製造するのに充分な時間の間、炭化珪素粉末源から炭化珪素種晶へのSi、Si_(2)CとSiC_(2)蒸気フローを生成し維持する」方法といえ、この方法は、本件特許明細書の実施例に係る記載である段落【0017】の「種結晶として用いた単結晶炭化珪素基板1の上に、原料である炭化珪素粉末2を昇華再結晶させることにより行われる」との記載をみると、本件訂正発明1の「種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる」方法に相当する。
イ-3 そうすると、引用発明1の「4H-SiCウェハ」は、「4H型単結晶炭化珪素」であるといえる。
なお、引用発明1の「4H-SiCウェハ」が「単結晶」であることは、引用例1の(イ)に、「単結晶SiCブール(boule)を製造するために・・・改良された種付き昇華法」と記載され、引用例3の(サ)に、ボウル(boule)とは、「単結晶性の原子的構造をもつ結晶」であること説明されていることからもいえることである。
ウ 炭化珪素(SiC)に窒素をドープすれば、その窒素は炭素原子位置に導入されることは明らかであるし、引用例2の(ク)の記載をみると、昇華成長の間に炭化珪素結晶に不純物である窒素ををドープしているとみることができる。
エ 引用発明1のNdについて、引用例1には言及がされていないが、ドーパント濃度を示すものと認められ、「ヘビードープ」は「ドープ」(導入)と同義とみることが自然である。
オ そうすると、両者は、
「種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に、炭素原子位置に窒素を導入する4H型単結晶炭化珪素の製造方法」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:窒素の導入量に関し、本件訂正発明1では、5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下であるのに対し、引用発明1では、1×10^(20)cm^(-3)である点
相違点2:本件訂正発明1が「4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法」であるのに対し、引用発明1は「SiCウェハを・・・・・・製造する方法」である点
カ 次に、まず、相違点1について検討する。なお、以下の検討では、「ドープ」と「導入」、「ポリタイプ」と「結晶型」は、それぞれ、同義として扱い区別して使用していない。
キ-1 引用例1の(ア)には、「heavily nitrogen doped 4H crystals up to 10^(20) cm^(-3)」という記載があり、この記載の「up to」を「至るまで」(請求人が平成25年4月26日付けの意見書に添付した参考文献4である「研究社 新英和大辞典 第5版」 1998年 株式会社研究社 2325頁に記載された訳語)と訳せば、「10^(20)/cm^(3)に至るまでの窒素をヘビードープした4H結晶」となり、4H型単結晶炭化珪素の窒素ドープ量として10^(20)/cm^(3)未満のものも存在しているととれるような記載がなされているが、窒素をドープした4H結晶に関し、引用例1には、(イ)に記載されたNd=1×10^(20)cm^(-3)のもの以外の具体的な窒素ドープ量が記載されていないから、この(ア)の記載をもって、4H型単結晶炭化珪素の窒素ドープ量として10^(20)/cm^(3)未満のものが引用例1に記載されていると直ちに断言できない。
キ-2 そこで、引用発明1において、窒素導入量を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下として、本件訂正発明1を導出することが当業者であれば容易になし得るかについて検討する。
キ-3 引用発明1の「改良された種付き昇華法」は、上記イ-1で検討したように、引用例2に記載されたものであるから、引用例2の記載をみてみることにする。
引用例2の(カ)に記載の方法は、「炭化珪素の単一ポリタイプの大型単結晶の成長を再現よく制御する方法」である。ここで、同(カ)に記載の方法を詳しくみてみると、「炭化珪素粉末源」に関し、同(キ)には、一定のポリタイプ組成を実質的に有するもの、すなわち、一定比率の特定のポリタイプからなるものとされているから、同(カ)に記載の方法は、炭化珪素の単一ポリタイプの大型単結晶の成長を再現よく制御するためには、所望のポリタイプの炭化珪素の種単結晶と、一定比率の特定のポリタイプからなる炭化珪素粉末源を昇華系内へと導入することが、少なくとも必要であると記載されているといえる。そして、引用例2の実施例1及び2には、種単結晶が6Hアルフアポリタイプで、炭化珪素粉末源は6Hのものが用いられている。
しかし、引用例2には、実際に4H型の炭化珪素単結晶が得られたことは記載されていおらず、4H型の炭化珪素単結晶を得るに当たり、どのような、一定比率の特定のポリタイプからなる炭化珪素粉末源を用いればよいのかを教示する記載はなく、引用例2の記載のみから、直ちに、4H型の炭化珪素単結晶を得ることは困難である。
そして、引用例2には、アルミニウムをドープした際の結晶型については、同(ケ)に記載がなされているが、窒素をドープした際にどのような結晶型になるかについての記載は見当たらない。
そうすると、引用例2には、そもそも、4H型の炭化珪素単結晶をどのようにしたら得ることができるのかの教示がないし、仮に、4H型の炭化珪素単結晶を得たとしても、窒素の導入量を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下としたときに、炭化珪素単結晶の結晶型がどのようになるのか、引用例2の記載からは予想することすらできない。
キ-4 しかし、引用例1の記載によれば、引用発明1は引用例2に記載された方法によって得ているのであるから、1×10^(20)cm^(-3)である窒素を導入した4H型の炭化珪素単結晶は引用例2の記載に基づいて製造できるものとして、引用例4及び5の記載を検討する。
キ-5 まず、引用例4には、その(タ)に「粉末状SiC原料を加熱昇華させて原料温度より低い温度に保ったSiC単結晶よりなる種結晶上にSiC単結晶を成長させる昇華再結晶法において、該粉末状SiC原料の温度を成長時間の経過とともに徐々に下げることにより成長を行う・・・・・・SiC単結晶の成長方法」が記載され、その具体例が記載されている同(チ)には、「種結晶として6H形・・・・・・を使用し」たとき、「種結晶に近い部分より取り出したウェハはアンドープにかかわらずやや緑がかっていた。またそのウェハの一部は多少黄色がかっていた。これは、系内に残っていた残留窒素がドープされたものと思われる。色の違いは多形の種類によるものと思われる。・・・・・・緑の部分は6H形、黄色の部分は4H形であった。一方、中央部・先端部より取り出したウェハは非常に透明でウェハ全体が6H形であることが確認された。」と記載され、SiC単結晶の中央部・先端部の残留窒素がなくなったと推定される部分は6H形結晶のものができ、残留窒素がドープされたと思われる種結晶に近い部分では4H形結晶のものが部分的にできているといえるから、窒素がドープされると4H形結晶のものができる可能性があり、引用発明1の4H型炭化珪素単結晶の単結晶さえ得られれば、窒素の導入量を調整して、本件訂正発明1の発明上記特定事項が導出できることを示唆しているとみることができなくもない。
しかし、同(ツ)には、「約1時間毎に窒素ガスを流しマーキングを行った。成長した結晶をc軸を含む面で縦切りにしウェハを取り出した。窒素がドープされた部分は緑となるためこれより成長速度を見積った。」と記載され、窒素がドープされて緑色の部分ができることが示されており、この緑色部分は同(タ)の記載によれば、6H形単結晶であるといえる。
そうすると、引用例4は、窒素ドープを行うことによって、6H形炭化珪素単結晶の他に4H形炭化珪素単結晶が部分的に生じる可能性を示すにとどまっており、窒素の導入と炭化珪素単結晶の結晶型との関係について導出できる事項はなく、引用発明1において、5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下の窒素の導入量となるようにドープ量を調整した際に、どのような結晶型の炭化珪素単結晶ができるかについての教示はない。すなわち、引用発明1の1×10^(20)cm^(-3)である窒素をドープした4H型炭化珪素単結晶の単結晶を得ることができたとしても、この単結晶において窒素の導入量を調整させると、どのような結晶型の炭化珪素単結晶を得るかの予想がつかないことを示している。
キ-6 次に、引用例5の記載をみてみる。引用例5の(ニ)には、「第1の実施例について説明する。・・・・・・炭化珪素2が形成される。・・・・・・種結晶の温度を2150℃、・・・・・・炭化珪素2の温度を2200℃に設定する。次に・・・・・・30Torrの真空度で保持した。この状態で5時間保持することにより、約5mmの厚さの炭化珪素単結晶が成長した。・・・・・・成長した結晶は種結晶上より成長最表面まで均一で欠陥も少なく(10^(2)cm^(-2) 以下)、高品質の6H形炭化珪素単結晶である。」と記載され、同(ヌ)には、「第2の実施例について説明する。・・・・・・雰囲気ガスとしてアルゴンガス(Ar)、n型不純物添加用の窒素ガス・・・・・・を、・・・・・・二重石英管5の内部に流した。・・・・・・基板1の温度が2200℃、炭化珪素2(b)の温度が2300℃になるように調節した。・・・・・・10Torrの真空度で6時間保持した。この状態で8時間保持することにより、約8mmの厚さの炭化珪素単結晶が成長した。・・・・・・4H型炭化珪素単結晶が成長していることがわかった。」と記載されており、雰囲気ガスに窒素を添加していない第1の実施例では6H型炭化珪素単結晶が、窒素を添加した第2の実施例では4H型炭化珪素単結晶ができていることが示されており、雰囲気ガスへの窒素の添加により4H型炭化珪素単結晶が得られるから、引用発明1において窒素の導入量を調整しても4H型炭化珪素単結晶のままで、上記本件訂正発明1の発明特定事項が導出できることを教示しているとみることができなくもない。
しかし、第1の実施例と第2の実施例との製造条件の違いについて更にみてみると、雰囲気ガスへの窒素ガスの添加の有無という違いの他に、炭化珪素、すなわち炭化珪素原料の温度に関し、第1の実施例では2200℃であり、第2の実施例では2300℃であるという違いがある。
ここで、引用例6の(ハ)の「原料温度が高い条件で4H結晶が再現性良く得られる事を見いだした」との記載をみると、炭化珪素原料の温度が高くなると4H型炭化珪素単結晶が再現良くできることが示されており、これを引用例5の上記実施例に当てはめてみてみると、第2の実施例では、炭化珪素原料の温度は2300℃であって、第1の実施例の2200℃よりも高いから、炭化珪素原料の温度が高いことにより4H型炭化珪素単結晶を得ているとみることもでき、この第2の実施例において、4H型炭化珪素単結晶が得られている理由は、炭化珪素原料の温度が原因とみることもできる。
すなわち、引用例5は、窒素ドープによって、4H形単結晶が生じると断じるような事項の開示はなく、引用発明1において本件訂正発明1の窒素導入量が5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下となるように窒素の導入量を調整したときにどのような結晶型になるかについて教示する記載は見当たらない。そうすると、引用発明1において窒素の導入量を調整させると、炭化珪素単結晶はどのような結晶型となるかの予想ができない。
ク さらに、引用例6の記載をみてみると、(ハ)には、「成長条件による多形の制御は現在のところ十分に確立されていない」、すなわち「成長条件による6Hと4Hの制御は十分に確立されていない」とも記載されており、窒素の導入量の調整の他に炭化珪素単結晶を得るための成長条件を操作しても、4H型炭化珪素単結晶を得ることは一般的に困難である旨の記載がなされているから、引用発明1において、窒素の導入量の調整に加えて、他の炭化珪素単結晶の成長条件を操作しても、4H型炭化珪素単結晶を得ることは困難といえる。
ケ そうすると、引用例1に「1×10^(20)cm^(-3)未満の窒素をドープした」4H型単結晶炭化珪素が記載されていたとして引用例4及び5の記載を参照しても、窒素をドープした4H型単結晶炭化珪素を製造するためにどのような手段をとってよいのか、当業者であってもその指針となる事項すら得ることができないから、相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項をなすことはできない。
なお、後述する「相違点3」検討のところで述べるように、引用例5の(ヌ)の「第2の実施例」に記載されている、抵抗率が0.1Ωcmとなる4H型炭化珪素単結晶の窒素含有量は、本件訂正発明の窒素含有量に比べて著しく低いものであって、引用発明1と同実施例の製造方法を組み合わせても、相違点1に係る本件訂正発明1を導出することはできない。
コ そうすると、相違点2についての検討をするまでもなく、本件訂正発明1は引用例1?6の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
ケ 本件訂正発明1と引用発明2とを対比する。
サ 引用例5の(ニ)には「雰囲気ガスとしてアルゴンガス(Ar)、n型不純物添加用の窒素ガス・・・・・・を・・・・・・流した。」と記載されているから、「種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に、窒素を導入」しているといえる。
シ また、炭化珪素(SiC)に窒素をドープすれば、その窒素は炭素原子位置に導入されることは明らかであり、また、窒素ドープ量により抵抗率が決まることは技術常識である。
ス そうすると、両者は、
「種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に、炭素原子位置に窒素を導入する4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点3:窒素ドープ量に関し、本件訂正発明1では、「5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下」であるのに対し、引用発明2では、抵抗率が0.1Ωcmとなるドープ量である点
セ 次に、この相違点3について検討する。
セ-1 まず、本件訂正発明1?3は、本件訂正明細書の段落【0023】によれば、「高耐圧・耐環境電子デバイスを製作」するためのものであり、「高耐圧・耐環境電子デバイス」とは、「高耐圧パワーディバイス」のことであることは技術常識である。
セ-2 本件訂正明細書には、本件訂正発明1?3に係る「窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入した4H型単結晶炭化珪素」の電気抵抗率についての記載はなされていない。
セ-3 ここで、引用例1の記載をみると、その(イ)には、「Nd=1×10^(20)cm^(-3)の高さであり、抵抗率が0.0028Ω-cmの低さであるものを製造した。このポリタイプの生産の進歩は、パワーディバイスにとって特に興味深い」とあり、窒素を1×10^(20)cm^(-3)ドープすると、抵抗率が0.0028Ω-cmとなりパワーディバイスとして用いられる旨が記載されている。
また、請求人が参考文献3として提出した本願出願後に公開された「岡本篤人他、”昇華法によって育成した窒素含有6H-SiC単結晶の評価”、豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.33 No.2 (1998.6) 55?61頁」には、その56頁右欄22?30行には、高耐圧パワーディバイス基板にSiC単結晶を用いる場合、抵抗率が0.0016Ωcmという低い値のものが求められていること、同59頁左欄14?16行には「パワーディバイス用SiC基板の電気抵抗率の目標としては、パワーディバイス用Si基板並の電気抵抗率(0.01Ωcm以下)が望まれている」との記載がなされている。
セ-4 そうすると、「高耐圧パワーディバイス」を製作するための本件訂正発明1?3に係る「窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入した4H型単結晶炭化珪素」の電気抵抗率は、引用例1の上記(イ)に記載された窒素ドープ量が1×10^(20)cm^(-3)のとき0.0028Ωcmであることを考慮すれば、1/100?1/1000Ωcmの範囲にあると推認され、このことは、上記請求人が提出した参考文献3の記載とも整合する。
セ-5 一方、ドーパントである窒素のドープ量と炭化珪素単結晶の電気抵抗率は相関関係があって、電気抵抗率が低いことは窒素のドープ量が多いことを意味することは技術常識である。ここで、引用発明2の電気抵抗率は0.1Ωcmであって、本件訂正発明1?3の電気抵抗率の推定値1/100?1/1000Ωcmの範囲より高いから、その窒素ドープ量は、本件訂正発明1?3の窒素ドープ量よりも少ないということができる。
セ-6 よって、上記相違点3は、窒素ドープ量に関し、本件訂正発明1では、「5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下」であるのに対し、引用発明2では、それよりも少ないドープ量である、と言い換えることができる。
セ-7 次に、この言い換えた相違点3について検討すると、上記相違点1の検討のところで述べたことと同じ理由により、引用発明2において窒素の導入量の調整に加えて、他の炭化珪素単結晶の成長条件を操作しても、5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下の窒素導入量の4H型炭化珪素単結晶を得ることは困難である。
よって、当業者であっても相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項をなすことはできない。
ソ また、他に本件訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
タ よって、本件訂正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(6-2)本件訂正発明3について
ア 本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項を含むものであるから、本件訂正発明1についての検討のところで述べたものと同じ理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものではない。
イ また、他に本件訂正発明3が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
ウ よって、本件訂正発明3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(7) よって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項、第3項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
4H型単結晶炭化珪素の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に、炭素原子位置に窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入することを特徴とする4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】前記4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法に用いる炭化珪素原料として、粒径が150μm以上の炭化珪素粉末を使用することを特徴とする請求項1記載の4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶炭化珪素の製造方法に係わり、特に、青色発光ダイオードや電子デバイスなどの基板ウェハとなる良質で大型の単結晶インゴットの成長方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素(SiC)は耐熱性及び機械的強度も優れ、放射線に強いなどの物理的、化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されている。6H型の炭化珪素結晶は室温で約3eVの禁制帯幅を持ち、青色発光ダイオード材料として用いられている。また、4H型の単結晶炭化珪素は、高い電子移動度を有し、高周波高耐圧電子デバイスへの適用が期待されている。しかしながら、大面積を有する高品質の単結晶炭化珪素を、工業的規模で安定に供給し得る結晶成長技術は、いまだ確立されていない。それゆえ、炭化珪素は、上述のような多くの利点及び可能性を有する半導体材料にもかかわらず、その実用化が阻まれていた。
【0003】
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)で単結晶炭化珪素を成長させ、半導体素子の作製が可能なサイズの単結晶炭化珪素を得ていた。しかしながら、この方法では、得られた単結晶の面積が小さく、その寸法及び形状を高精度に制御することは困難である。また、炭化珪素が有する結晶多形及び不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。また、化学気相成長法(CVD法)を用いて珪素(Si)等などの異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより立方晶の単結晶炭化珪素を成長させることも行われている。この方法では、大面積の単結晶は得られるが、基板との格子不整合が約20%もあること等により多くの欠陥を含む(?10^(7)cm^(-2))単結晶炭化珪素しか成長させることができず、高品質の単結晶炭化珪素を得ることは容易でない。
【0004】
これらの問題点を解決するために、種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(Yu.M.Tairov and V.F.Tsvetkov,Journal of Crystal Growth vol.52(1981)pp.146-150)。この方法では、種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき、また不活性ガスにより雰囲気圧力を数Torrから100Torr程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良くコントロールできる。さらに、結晶の抵抗率は、不活性ガスからなる雰囲気中に不純物ガスを添加する、あるいは炭化珪素原料粉末中に不純物元素あるいはその化合物を混合することにより、制御可能である。単結晶炭化珪素中の置換型不純物として代表的なものに、窒素(N型)、ホウ素、アルミニウム(P型)がある。この内、窒素は単結晶炭化珪素中で炭素原子位置を、ホウ素、アルミニウムは珪素原子位置を置換する。
【0005】
このように種結晶を用いた昇華再結晶法を用いれば、結晶多形(ポリタイプ)、形状、及び抵抗率を制御しながら、大型の単結晶炭化珪素を再現性良く成長させることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来方法で単結晶炭化珪素を成長した場合、通常の温度条件(摂氏2200度から2400度)では、W.F.Nippenberg,Philips Research Reports vol.18(1963)pp.161-274に記載されているように、6H型の単結晶炭化珪素が高い確率で形成されてしまい、高周波高耐圧電子デバイスに適した4H型の単結晶炭化珪素を得るのは困難である。また、M.Kanaya et al.,Applied Physics Letters vol.58(1988)pp.56-58に、種結晶の温度を低下させ、さらに雰囲気圧力を低下させることにより結晶成長の過飽和度を上昇させ、4H型単結晶炭化珪素の形成確率を高める方法が記載されているが、一般に過飽和度を高めると欠陥発生の確率も上昇してしまい、やはり好ましくない。また、Yu.M.Tairov et al.,Physica Status Solidi vol.25(1974)p.349、A.Ito et al.,Applied Physics Letters vol.65(1994)pp.1400-1402に、Sc、Ceといった希土類金属を炭化珪素成長表面に供給し、表面エネルギーを変化させ4H型結晶の核発生を促進する方法が記載されているが、半導体デバイスへの応用を考えた場合には、これらの重金属の使用は好ましくない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大型のウェハを切り出せる、欠陥が少なく良質の4H型単結晶インゴットを再現性良く製造し得る単結晶炭化珪素の製造方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の単結晶炭化珪素インゴットの製造方法は、炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ、単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において、炭素原子位置に窒素を5×10^(18)cm^(-3)以上5×10^(19)cm^(-3)以下導入することを特徴とするものである。
【0009】(削除)
【0010】
さらに、本発明においては、前記4H型単結晶炭化珪素インゴットの製造方法に用いる炭化珪素原料として、粒径が150μm以上の炭化珪素粉末を使用することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法では、炭素原子位置に不純物を導入することにより、結晶多形を4H型に制御しようとするものである。炭化珪素の結晶多形と結晶中の炭素/珪素元素比の関係はTairovらによって調べられている(Yu.M.Tairov and V.F.Tsvetkov,Progress of Crystal Growth and Characterization vol.4(1982)p.111)。一般に、単結晶炭化珪素中の炭素元素と珪素元素の含有比率は理想的な化学量論比(炭素と珪素の元素の比が1対1)からずれている。また、この結晶中の炭素/珪素元素比を増すと、結晶は4H多形をとることが知られている。したがって、4H型単結晶炭化珪素を得るには、この結晶中炭素/珪素元素比を増加させればよいことになるが、昇華再結晶法で良質な結晶が成長する温度領域(摂氏2200?2400度)において、この比を再現性良く制御することは極めて困難である。これは、上記W.F.Nippenbergの論文において、同じ成長条件下でも僅かな成長条件のゆらぎによって、6H型と4H型の両方が発生してしまっていることからも理解される。
【0012】
本発明では、炭素原子位置に不純物を導入することにより、この炭素/珪素元素比を実効的に変化させようというものである。炭素原子位置に導入された不純物は、結晶中の炭素/珪素元素比を実効的に増加させ、成長温度等の成長条件を大きく変化させることなく、良質の4H型単結晶炭化珪素の成長を可能とする。この際、炭素原子位置に不純物を5×10^(18)cm^(-3)以上、より好ましくは5×10^(19)cm^(-3)以上導入する必要がある。また、導入する不純物の濃度の上限は6×10^(20)cm^(-3)である。これは、不純物濃度が6×10^(20)cm^(-3)を越えると、結晶性が劣化するためである。
【0013】
炭素原子位置に導入された5×10^(18)cm^(-3)以上の不純物は、結晶中の炭素/珪素元素比を実効的に約0.01%増加させ、4H型の結晶核発生を促進する。また、炭素原子位置に入る不純物としては、窒素が最も望ましい。これは、窒素が元素周期律表上で炭素の隣に位置し、炭素原子位置に導入された際に、炭素原子と最も類似した化学的特性を示すためである。
【0014】
粒径の大きい(150μm以上)炭化珪素粉末を原料として使用することは、上記炭素原子位置への不純物導入をより効果的なものにする。これは、粒径の大きな炭化珪素粉末を使用すると、原料昇華蒸気中の炭素/珪素元素比が増大するためである。炭化珪素原料粉末の粒径としては、従来0.010?3mm程度のものが用いられており、粒径が大きくなるに従って、原料昇華蒸気中の炭素/珪素元素比が0.2から2と一桁程度増加することが知られている。ただし、この原料昇華蒸気中の炭素/珪素元素比増大だけでは、4H型炭化珪素を得ることはできない。なお、使用する炭化珪素粉末原料の粒径の上限は3mm程度であり、これ以上粒径を大きくすると充分な昇華蒸気が得られないため好ましくない。
【0015】
また従来、単結晶炭化珪素への不純物の導入は結晶の電気的特性(伝導型、抵抗率)を変化させる目的では行われていたが、本発明のように結晶多形(ポリタイプ)の制御を目的として用いられたことはない。
【0016】
【実施例】
以下に、本発明の詳細を実施例に基づき述べる。
【0017】
図1は、本発明の実施に用いられる製造装置であり、種結晶を用いた改良型レーリー法によって単結晶炭化珪素を成長させる装置の一例である。まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、種結晶として用いた単結晶炭化珪素基板1の上に、原料である炭化珪素粉末2を昇華再結晶させることにより行われる。種結晶の炭化珪素結晶基板1は、黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けられる。原料の炭化珪素粉末2は、黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような黒鉛製坩堝3は、二重石英管5の内部に、黒鉛の支持棒6により設置される。黒鉛製坩堝3の周囲には、熱シールドのための黒鉛製フェルト7が設置されている。二重石英管5は、真空排気装置13により高真空排気(10^(-5)Torr以下)でき、かつ内部雰囲気をArガス供給源(不図示)に接続されている配管9を通じてArガス用マスフローコントローラ10を介して供給されるArガスによって圧力制御することができる。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝3を加熱し、原料及び種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝上部及び下部を覆うフェルトの中央部に直径2?4mmの光路を設け坩堝上部及び下部からの光を取りだし、二色温度計を用いて行う。坩堝下部の温度を原料温度、坩堝上部の温度を種温度とする。さらに、二重石英管5には、不純物(本実施例では窒素)を供給するために、不純物供給源(不図示)に接続された配管11と供給する不純物の量を制御するための不純物用マスフローコントローラ12が接続されている。
【0018】
次に、この結晶成長装置を用いた単結晶炭化珪素の製造について実施例を説明する。
【0019】
まず、種結晶として、成長面方位が<0001>方向である六方晶系の炭化珪素からなる基板1を用意した。そして、この基板1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。また、黒鉛製坩堝3の内部には、原料2を充填した。原料の炭化珪素粉末の粒径は200μmのものを用いた。炭素原子位置への不純物導入の効果をより顕著なものにするには、原料の粒径は150μm以上が望ましい。これは、粒径150μm以下では、原料昇華蒸気中の炭素/珪素元素比が小さくなってしまうためである。
【0020】
次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流し原料温度を摂氏2000度まで上げた。その後、雰囲気ガスとしてArガスに窒素ガスを7%含んだ混合ガスを流入させ、石英管内圧力を約600Torrに保ちながら、原料温度を目標温度である摂氏2400度まで上昇させた。
【0021】
本実施例では、窒素を、炭素原子位置に導入される不純物として用いた。なお、本発明を適用した改良レーリー法における不純物の導入方法としては、(1)不純物あるいは不純物元素を含有する化合物をガスとして導入する方法(本実施例に相当)、(2)不純物粉末を炭化珪素粉末と混合したものを原料として用いる方法、(3)事前に炭化珪素粉末と不純物の混合物を高温で熱処理したものを原料として用いる方法、あるいは(4)不純物をドープした炭化珪素粉末を原料とする方法が考えられる。成長圧力である20Torrには約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の成長速度は約1mm毎時であった。
【0022】
こうして得られた単結晶炭化珪素を二次イオン質量分析法により調べたところ、結晶中に窒素が8×10^(18)cm^(-3)含有されていることが分かった。また、ホール測定、容量-電圧特性等の電気測定より窒素原子はすべて炭素原子位置に導入されていることを確認した。得られた結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、4H型の単結晶炭化珪素が成長していることを確認できた。成長した結晶は種結晶上より成長最表面まで均一で、高品質の4H型単結晶炭化珪素であった。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、種結晶を用いた昇華再結晶法による単結晶炭化珪素の製造方法において、炭素原子位置を置換する不純物を導入することによって良質の4H型単結晶炭化珪素を再現性良く成長させることができる。このような4H型単結晶炭化珪素を成長用基板として用い、気相エピタキシャル成長法により、この基板上に単結晶炭化珪素薄膜を成長させれば、電気的特性の優れた高耐圧・耐環境性電子デバイスを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法に用いられる単結晶成長装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 単結晶炭化珪素基板(種結晶)
2 炭化珪素粉末原料
3 黒鉛製坩堝
4 黒鉛製坩堝蓋
5 二重石英管
6 支持棒
7 黒鉛製フェルト
8 ワークコイル
9 Arガス配管
10 Arガス用マスフローコントローラ
11 不純物ガス配管
12 不純物ガス用マスフローコントローラ
13 真空排気装置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願平7-319959
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C30B)
P 1 41・ 856- Y (C30B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮澤 尚之  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 真々田 忠博
松本 貢
登録日 2004-08-27 
登録番号 特許第3590464号(P3590464)
発明の名称 4H型単結晶炭化珪素の製造方法  
代理人 香取 英夫  
代理人 田中 久喬  
代理人 内藤 俊太  
代理人 田中 久喬  
代理人 香取 英夫  
代理人 内藤 俊太  
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