ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1275576 |
審判番号 | 不服2010-18912 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-20 |
確定日 | 2013-06-10 |
事件の表示 | 特願2003-578528「筋細胞および心臓の修復における筋細胞の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 2日国際公開、WO03/80798、平成18年 1月19日国内公表、特表2006-502094〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2003年3月20日(パリ条約による優先権主張2002年3月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年1月27日付け手続補正書により手続補正されたが、同年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付け手続補正書により手続補正がされたものである。 第2 平成22年8月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年8月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 平成22年8月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、補正前の請求項1?87から、補正後の請求項1?84となった。このうち、請求項1については、次のとおり補正するものである。 <補正前>(平成22年1月27日付け手続補正書により手続補正された内容にあたる。) 「 【請求項1】 心機能不全に対する処置を必要とする被験体において機能不全性心臓を処置するための薬学的組成物であって、該組成物は、以下: 骨格筋芽細胞および線維芽細胞を含み、ここで、骨格筋芽細胞または該骨格筋芽細胞を生じる細胞の少なくとも一部が、送達後に該被験体の心臓において生存し、そして該心臓において骨格筋芽細胞の生存または分化に特徴的なマーカーを発現する、薬学的組成物。」 <補正後>(本件補正による。) 「 【請求項1】 心機能不全に対する処置を必要とする被験体において機能不全性心臓を処置するための薬学的組成物であって、該組成物は、以下: 骨格筋芽細胞および線維芽細胞を含み、ここで、骨格筋芽細胞または該骨格筋芽細胞を生じる細胞の少なくとも一部が、送達後に該被験体の心臓において生存し、そして該心臓において骨格筋芽細胞の生存または分化に特徴的なマーカーを発現し、該薬学的組成物が、約1%未満の筋管を含む、薬学的組成物。」 本件補正のうち請求項1の補正は、「薬学的組成物が、約1%未満の筋管を含む」ことを限定するものであって、補正の前後における請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2 引用例 本願優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第01/07568号、国際公開第02/20088号、及び、Charles E. Murry, et al., J. Clin. Invest., 1996, 98, pp.2512-2523(以下、それぞれ、「引用例1」、「引用例2」、及び「引用例3」という。)には、次の技術事項が記載されている。 なお、引用例1?3はいずれも英文であるため訳文を示し、下線は当審で付した。 (1) 引用例1 ア 「1.単離された骨格筋原細胞及び単離された線維芽細胞を含む、移植可能な組成物。 ……(略)…… 14.被験体への移植後、心臓組織に生着する、請求項1に記載の組成物。 ……(略)…… 31.心臓組織の損傷を特徴とする、被験体の一状態を処置する方法であって、前記状態が処置されるよう、請求項1に記載の組成物を被験体に投与するステップを含む、方法。 32.前記組成物が、損傷した心臓組織への直接の注射により移植される、請求項31に記載の方法。 ……(略)…… 34.心臓組織に対する前記損傷が、梗塞又は心筋症である、請求項31に記載の方法。」(特許請求の範囲) イ 「用語「骨格筋芽細胞」及び「骨格筋原細胞」はここでは互換可能に用いられており、筋管及び骨格筋線維の前駆体を言う。さらに用語「骨格筋芽細胞」には、骨格筋中で筋線維と密に接触した状態で見られる単核細胞である、衛星細胞も含まれる。衛星細胞は骨格筋の筋線維の基底板近傍に存在し、分化して筋線維になることができる。用語「心筋細胞」には、心筋由来の筋細胞が含まれる。このような細胞は一個の核を持ち、心臓内に存在するものは、境界板構造によって連結されている。 ここで用いる「生着」という用語には、本発明の移植された筋細胞又は筋細胞組成物が心臓組織に組み込まれることが含まれ、その結果これらの細胞が、心送血量を増加させるなどにより心臓機能を高め、この場合、移植された細胞が(例えばデズモソーム又はギャップジャンクションを形成することなどにより)レシピエントの心臓の細胞に直接接着する、しないは関係ない。」(6頁1?13行) ウ 「別の実施例では、組成物は、少なくとも約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の筋芽細胞を含む。これらのパーセンテージの筋芽細胞を有する組成物は、例えば細胞の精製集団を得る標準的な細胞選別技術を用いれば、作製することができる。こうして、この細胞の精製集団を混合すれば、所望のパーセンテージの筋芽細胞を含む組成物を得ることができる。代替的には、組成物中の筋芽細胞のパーセンテージが所望の範囲になるよう、単離したばかりの骨格筋芽細胞集団をインビトロで培養して所定回数の個体数倍増を行わせることで、所望のパーセンテージの筋芽細胞を含む組成物を得ることもできる。」(10頁11?20行) エ 「VIII 処置の方法 ……(略)…… これらの投与方法を行うには、本発明の筋細胞を、被験体への心筋細胞の注射又は移植による導入が簡単に行える送達器具内に挿入してもよい。このような送達器具には、細胞及び流体をレシピエント被験体の体内に注射するカテーテルなどのチューブが含まれる。ある好適な実施例では、このチューブはさらにシリンジなどの針を有し、この針を通じて、本発明の細胞を、被験体の所望の位置へ導入することができる。本発明の筋細胞を、例えばシリンジなど、異なる形のこのような送達器具に挿入してもよい。細胞の移植に用いる針のゲージは例えば25から30であってよい。」(31頁11行?32頁9行) オ 「筋細胞は、それらが生着する被験体の所望の位置に細胞を送達できれば、いかなる適した経路によっても、被験体に投与してよい。……(略)……被験体への投与後の細胞の生存可能期間は、例えば24時間など数時間と短い時間から、数日間、数週間から数ヶ月と長くともよい。」(33頁21?28行) カ 「実施例6: 心筋梗塞後の心室リモデリング及び収縮機能に対する移植結果の比較 以下の細胞移植を、オスのルイス・ラットに行った。この実施例では、第1日に冠動脈結紮を被験体に行って心筋梗塞を実験的に誘発した(……(略)……)。動物を一週間、快復させた。この一週間の休止期間の後に移植を行った。新生児期ルイス・ラットの後脚骨格筋から単離される筋芽細胞及び線維芽細胞を単離し、20%のウシ胎児血清を補った成長培地中でラミニン上で48時間、培養させた。細胞をHBSS中に10^(7)個の細胞/mLになるように再懸濁させ、10^(6)個の細胞/心臓を以下のように注射した(6乃至10回の注射)。 (対照):梗塞のない対照 (MI):心筋梗塞+疑似注射 (MI+):心筋梗塞+細胞注射 三つの群の動物を、細胞治療後3週間目及び6週間目の時点で調べた。 トリクローム着色及び免疫細胞化学法により、骨格筋芽細胞(抗ミオゲニン染色)及び成熟筋芽細胞(抗骨格ミオシン染色)を検出して、移植体の生存を評価した。筋芽細胞を移植してから9日目に移植体の生存を確認した(図5)。,ミオゲニン陽性の染色が、移植後9日と早い時点で観察された(図5D-F)が、骨格ミオシン重鎖の発現は、移植後3週間が経つまでは観察されなかった。筋芽細胞の生存は、治療後3週間目及び6週間目の動物で、それぞれ7匹のうち6匹、9匹のうち9匹に確認された。同系細胞治療を行った動物では、体重減少、死亡率増加又は組織切片中のマクロファージ蓄積で判断する限り、細胞拒絶の証拠は何らなかった。」(47頁1?25行) キ 図5(実施例6の結果を示す図面の一つである図5は、図5A?図5Fからなり、図面の説明にあたる4頁11?16行には、以下の記載がある。「図5A乃至5Fは、移植後9日目の時点での、梗塞した心筋における筋原細胞の生存を示す。図5は、ラットの梗塞した左心室自由壁面を次第に倍率を高くして示し、トリクローム染色(A、B、及びC)と、骨格筋原細胞に固有な核内転写因子であるミオゲニンに対する免疫組織化学的染色(D、E、及びF)とを施してある。丸で囲んだ区域は細胞移植した領域である。矢印は、梗塞領域内の二つの移植体を指す。」) (2) 引用例2 ア 「実施例2 イヌにおける収縮性細胞の注入及び電子刺激 骨格筋芽細胞に関する成長及び継代情報 1.成長培地処方物 ……(略)…… 2.細胞継代情報 A.1×10^(4)細胞/cm^(2)の接種密度は、約96時間で80%集密的細胞単層を生じる。 B.1:4?1:6のスプリット比は、96時間以内に集密的細胞単層を生じる。 C.細胞をコンフルエントになるようにさせない。細胞-細胞接触は、細胞を筋管に分化させる。」(33頁8?25行) イ 「酵素的筋芽細胞単離 骨格筋は、心筋とは違って、損傷または疾患を蒙った場合に、それ自体を修復する能力を保有する。この理由は、成熟筋肉中に存在する未分化筋芽細胞(衛星細胞とも呼ばれる)が存在するためである。 成熟筋肉筋管は、筋芽細胞から筋管への分化の工程で、細胞が増殖する能力を失うために、培養中で成長され得ない。骨格筋筋管に関するインビトロ研究を行うためには、先ず筋芽細胞を単離することが最初に必要である。以下の手法は、骨格筋生検から一次筋芽細胞を単離し、その結果生じた細胞を継代培養するためである。 1.材料 ……(略)…… 2.方法 ……(略)…… TT.細胞を集密度60%?80%に培養する。細胞がコンフルエントにされる場合、それらは最終的に筋管に分化する。」(35頁11行?39頁18行) (3) 引用例3 ア 「骨格筋芽細胞の単離及び培養 ……(略)……高密度とすることによる筋肉分化発生を最小限にするため、2?3日ごとに、サブコンフルエント培養で継代された(1:5のスプリット)。」(2512頁右欄) 3 引用発明の認定、対比 上記2(1)の摘示事項アには、「単離された骨格筋原細胞及び単離された線維芽細胞を含む、移植可能な組成物。」が記載されている。 また、上記2(1)の摘示事項アには、この組成物は被験体における心臓組織の損傷を処置するために用いられることも記載されている。 さらに、上記2(1)の摘示事項ア及びオ?キには、この組成物の細胞は被験体への移植後に生存し、心臓組織に生着することが記載されるとともに、実際に骨格筋から単離された筋芽細胞及び線維芽細胞を移植した被験体の心臓において、骨格筋原細胞に固有な核内転写因子であるミオゲニンに対する免疫組織化学的染色によって、移植後9日目に骨格筋芽細胞の生存を確認したことが記載されている。そうすると、引用発明である組成物に含まれる骨格筋芽細胞の少なくとも一部は、被験体への送達後に該被験体の心臓において生存し、該心臓において骨格筋芽細胞の生存に特徴的なマーカーを発現したものといえる。 したがって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「被験体における心臓組織の損傷を処置するための組成物であって、単離された骨格筋原細胞及び単離された線維芽細胞を含み、ここで、骨格筋芽細胞の少なくとも一部が、送達後に該被験体の心臓において生存し、そして該心臓において骨格筋芽細胞の生存に特徴的なマーカーを発現する、移植可能な組成物。」 本願補正発明と引用発明とを対比する。 上記2(1)の摘示事項イには、「骨格筋芽細胞」と「骨格筋原細胞」とは互換可能に用いられる用語であると定義されている。 また、上記2(1)の摘示事項アには、引用発明における「心臓組織の損傷」には梗塞や心筋症が含まれるから、引用発明において処置の対象となる被験体の状態及び心臓は、それぞれ、本願補正発明における被験体の「心機能不全」及び「機能不全性心臓」にあたる。 そして、引用発明における「移植可能な組成物」が「薬学的組成物」であることは明らかである。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、 「心機能不全に対する処置を必要とする被験体において機能不全性心臓を処置するための薬学的組成物であって、該組成物は、以下: 骨格筋芽細胞および線維芽細胞を含み、ここで、骨格筋芽細胞の少なくとも一部が、送達後に該被験体の心臓において生存し、そして該心臓において骨格筋芽細胞の生存に特徴的なマーカーを発現する、薬学的組成物。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 本願補正発明では、薬学的組成物が「約1%未満の筋管を含む」とされるのに対し、引用発明では、組成物中の筋管の割合が特定されていない点。 4 相違点についての判断 (1) 上記2(1)の摘示事項ウ及びカには、引用発明である組成物に含まれる骨格筋芽細胞及び線維芽細胞を得る方法として、単離した骨格筋芽細胞や線維芽細胞を培養することが記載されている。 ここで、培養は多くの骨格筋芽細胞や線維芽細胞を得ることを目的として行われることは明らかであるが、骨格筋芽細胞の培養において、コンフルエントな状態になると、骨格筋芽細胞が筋管へと分化して細胞が増殖する能力を失うこと、高密度で培養すると筋芽細胞が筋肉へ分化すること、及び、このような分化を抑えるため、コンフルエントにならない状態(サブコンフルエント)で培養することは、上記2(2)の摘示事項ア及びイ、並びに2(3)の摘示事項アに記載されているように、本願優先日前に知られていた。 そうすると、骨格筋芽細胞を培養する際、コンフルエントな状態となることを避け、骨格筋芽細胞が筋管へと分化することがないようにコンフルエントとなる前の適当な状態で継代することにより、「約1%未満の筋管を含む」ものとすることは、当業者が容易になし得ることである。 (2) 請求人は、平成22年8月20日付け審判請求書において、「肉眼およびサイトメトリーで観察した場合、筋芽細胞培養が75%コンフルエントに維持されると、1%未満の筋管を含むものが得られるのです。この低いコンフルエント培養からの細胞を採集し、凍結保存し、そして適切に移植して心筋梗塞または左心室機能の悪化のヒト患者の心臓治療を行う目的で細胞は、シリンジ注射により患者の心臓の標的領域に導入されることができます。」(9頁12?16行)と主張している。 しかし、引用例1をみると、細胞の移植に用いる針のゲージは25から30が代表例として挙げられる(上記2(1)の摘示事項エ)一方、本願明細書には、細胞移植に使用される針のゲージとして25?30が例示される(段落【0094】)。そうすると、引用発明においても、本願明細書に記載されたのと同程度のゲージの針を用いて、シリンジ注射により細胞が心臓の標的領域に導入されるものと認められる。 5 むすび 以上のとおり、本願補正発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 平成22年8月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1で「<補正前>」として示した、平成22年1月27日付け手続補正書の特許請求の範囲のうち、請求項1に記載された事項により特定されるものである。 1 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、及びその記載事項は、前記第2の2(1)に記載したとおりであり、引用例1には、第2の3で認定したとおりの発明(引用発明)が記載されている。 2 対比、判断 本願発明は、上記第2で検討した、本願補正発明から薬学的組成物を限定する「薬学的組成物が、約1%未満の筋管を含む」との事項、すなわち、上記第2の3で挙げた<相違点>に係る事項のみを省いたものにあたる。 そうすると、本願発明と引用発明との間に相違点は存在しないことになるから、本願発明は、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明であるといえる。 3 むすび したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-15 |
結審通知日 | 2013-01-16 |
審決日 | 2013-01-29 |
出願番号 | 特願2003-578528(P2003-578528) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K) P 1 8・ 113- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川口 裕美子 |
特許庁審判長 |
今村 玲英子 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 荒木 英則 |
発明の名称 | 筋細胞および心臓の修復における筋細胞の使用 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 安村 高明 |