• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1275581
審判番号 不服2012-2377  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-07 
確定日 2013-06-10 
事件の表示 特願2007-128031「金属製機械部品の探傷方法及び探傷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日出願公開,特開2008-281516〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年5月14日の出願であって,平成23年11月10日付で拒絶査定がされ,これに対し,平成24年2月7日に拒絶査定不服審判がされるとともに,同日付で手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。さらに,平成25年1月9日付けで審尋がなされ,同年2月25日に回答書が請求人より提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能なスライド部を有するコラムと載置された機械部品をチャックする機能を有するテーブルとを有するNC機構部と、探傷プローブと前記探傷プローブを回転可能に支持し且つ回転駆動する回転ユニットと前記回転ユニットに接続される画像処理装置とを含んで構成され、前記NC機構部に組み込まれる探傷機構部とから成り、 前記探傷プローブは、前記回転ユニットの作用で回転駆動されると共に、前記回転ユニットが前記コラムのスライド部に固定されることにより、前記テーブル上の機械部品に沿ってX、Y、Z軸の各軸方向に移動可能にされることを特徴とする金属製機械部品の探傷装置。」(下線は補正箇所を示す)と補正された。
上記補正は,本件補正前の平成23年7月20日付け手続補正書の請求項2の金属製機械部品の探傷装置の発明について,「NC装置」を「NC機構部」に書き替え,金属製機械部品の探傷装置が「・・・・・NC機構部と、・・・・・NC機構部に組み込まれる探傷機構部とから成」るとした補正,及び,スライド部を「X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能」なものとすることにより,探傷プローブを「テーブル上の機械部品に沿ってX、Y、Z軸の各軸方向に移動可能」にすることにした補正であり,前者の補正は特許法17条の2第5項4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,後者の補正は同法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる特許法17条の2第6項で準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 刊行物及びその記載事項

(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平10-54826号(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において下線は当審において付与したものである。
(1-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、被検査物と該被検査物の測定面に対向する渦電流プローブとの相対移動により二次元走査をして前記被検査物の測定面における欠陥の有無を検出する渦電流式検査装置に関する。
【0002】
【従来の技術】機械部品などの製造工程には、高周波焼き入れ工程、研削工程などが含まれ、これらの工程においては加工途中にある被加工物品に割れなどの欠陥が発生することがある。この割れなどの欠陥が存在する部品をそのまま出荷すると、部品の寿命が短命化するばかりでなく、該部品の損傷に伴い重大な事故を招く恐れがあるので、部品に対する高い品質保証を得るために、高精度な検査が要望されている。」
(1-イ)「【0013】本実施の形態では、被検査物11はハブベアリングからなり、該ハブベアリングの内周面を測定面として該測定面におけるに欠陥(割れ)の有無を検査する。被検査物11はその軸線Xの周りに回転される。これに対し、渦電流プローブ17はその差動コイル(図示せず)の並び方向が被検査物11の回転方向に対しほぼ45度の角度を成すように被検査物11の測定面に対し位置決めされ、被検査物11の測定面に沿って軸線X方向に移動される。被検査物11の回転運動と渦電流プローブ17の移動とによって被検査物11の測定面に対し渦電流プローブ17による二次元走査が行われることになり、この走査における主走査方向は被検査物11の軸Xの周り沿う方向すなわち被検査物11の内周面に沿う方向(円周方向)であり、その副走査方向は渦電流プローブ17の移動方向すなわち被検査物11の軸方向である。なお、以下の説明において、主走査方向は円周方向、副走査方向は軸方向とそれぞれ称することにする。
【0014】被検査物11の回転運動と渦電流プローブ17の移動とはNC装置16によって行われる。NC装置16は、被検査物11を把持するチャック16aと渦電流プローブ17を支持するアーム16cとを有する。チャック16aは被検査物駆動モータ16bにより該モータの回転軸の周りに回転される、すなわちチャック16aは被検査物11の軸線Xを中心に回転される。被検査物11の回転は、近接スイッチ16fから出力される回転同期信号S2に基づき検出される。具体的には、近接スイッチ16fは被検査物駆動モータ16aの回転軸に設けられている突起(図示せず)を検知し、この突起の検知に合わせて回転同期信号S2を出力する。これに対し、アーム16cは、上述した渦電流プローブ17の位置決めおよびその移動を行うようにアーム駆動部16dにより駆動される。」
(1-ウ)「【0016】渦電流プローブ17の出力は検査期間中信号S1とともに渦電流検査器18に与えられ、渦電流検査器18は検査期間中信号S1によって渦電流プローブ17の出力取込みを許可される。・・・・・」
(1-エ)「【0019】画像処理回路7は、検査期間中信号S1、回転同期信号S2のそれぞれに対応するデータに基づき検出信号S3に対応するデータを二次元的に画像メモリ7a上に配置し、2次元画像パターンを生成する。検出信号S3に対応するデータを二次元的に画像メモリ7a上に配置するときには、検出信号S3に対応するデータの内の被検査物11の1回転に満たないものの削除、またデータの連続性を保持するためのデータ拡張を行う。」
(1-オ)【図2】には,被検査物11が複雑な形状を有することが示されている。

これらの記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「渦電流プローブ17を支持するアーム16c並びに該渦電流プローブ17の位置決め及び移動を行うように前記アーム16cを駆動するアーム駆動部16dと被検査物を把持するチャック16aとを有するNC装置16と,前記渦電流プローブ17と画像処理回路7とを含んで構成されるものとから成り,前記渦電流プローブ17は,前記チャック16a上の被検査物に沿ってX軸方向に移動可能であると同時に,前記チャック16aが回転することより被検査物をX軸の周りに回転させる,被検査物の測定面における欠陥の有無を検出する渦電流式検査装置。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-288719号(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2-ア)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の渦流探傷装置では、探傷作動を全般にわたって自動で行うようにはなっておらず探傷作動の一部を作業員が行う必要があるため、作業効率が良くないという問題があった。
【0004】したがって、本発明の目的は、探傷作動およびその合否判定を自動で行うことができ、作業効率が高い渦流探傷装置を提供することである。」
(2-イ)「【0017】また、センサ部12の前側の先端部には、前方に延在して、タッチセンサ10および図示せぬセンサ回転用モータに駆動され回転する渦流探傷センサ11が取り付けられている。」
(2-ウ)「【0019】NC制御部55は、上記した図示せぬX軸駆動用モータ、Y軸駆動用モータ28、Z軸駆動用モータ39、W軸駆動用モータ53、B軸駆動用モータ45、図示せぬC軸駆動用モータおよび図示せぬセンサ回転用モータにそれぞれ接続し、これらの作動を制御するものである。」
(2-エ)「【0024】NC制御部55では、転送された情報にしたがって、X軸駆動用モータ、Y軸駆動用モータ28、Z軸駆動用モータ39、W軸駆動用モータ53、B軸駆動用モータ45を適宜駆動させて、渦流探傷センサ11(図8参照)の先端の検出部11aを被探傷物4の上面部4a上に位置させ、そして、被探傷物4の外径側から内径側に所定の速度で渦流探傷センサ11を移動させるとともに回転テーブル5を所定の速度で回転させ、渦流探傷センサ11を被探傷物4に対して渦巻き状に送って探傷作動を行うことになる。」
(2-オ)「【0026】ここで、この渦流探傷装置1はX軸,Y軸,Z軸,W軸,B軸およびC軸等の制御を適宜組み合わせることにより、被探傷物4の形状等が多岐にわたっても各被探傷物4に良好に対応することができる。」
(2-カ)「【0028】また、図10に示すように被探傷物4の穴部4cを探傷する場合には、渦流探傷センサ11を図11に示す検出部11aを外周面に有するものと交換し、上記と同様に、NC制御部55が、X軸駆動用モータ、Y軸駆動用モータ28、Z軸駆動用モータ39、W軸駆動用モータ53、B軸駆動用モータ45、図示せぬC軸駆動用モータを適宜駆動させて、渦流探傷センサ11を穴部4cに挿入し、該渦流探傷センサ11を図示せぬセンサ回転用モータで回転させて穴部4cの探傷を行う。そして、穴部4cが所定のピッチで複数設けられている場合には、回転テーブル5をこのピッチに応じて回転させて各穴部4cの探傷を順次行うことになる。」
(2-キ)「【0033】
【発明の効果】・・・・・したがって、探傷作動を全般にわたって自動で行うことができるため、作業効率が大幅に向上することになる。」
(2-ク)【図1】には,渦流探傷センサ11が,Y軸,Z軸,W軸の各軸方向に移動することが記載されている。

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-30089号(以下,「周知例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(3-ア)「【0021】
図1は、本発明を適用した工作機械の制御システムを表すブロック図である。図1において、100はNC(Numerical Control)制御ブロックを示しており、以下の構成を備えている。・・・・・」
(3-イ)「【0026】
・・・・・コラム21には、XYZスライドユニット80が設けられている。このユニット80は、Y方向に移動自在なY方向スライド81と、X方向に移動自在なX方向スライド82と、Z方向に移動自在なZ方向スライド83とからなる。・・・・・」

3 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明においては,アーム16cをX軸方向に昇降させるのであり,一方,本願明細書【0015】に「探傷プローブ2としては、・・・・・、これをX、Y軸方向に移動させ、また、Z軸方向に所定ピッチごとに昇降させ・・・・・」と記載されていることから,引用発明における「X軸」は,本願補正発明における「Z軸」に対応している。
イ 引用発明における「被検査物」は,摘記事項(1-ア)に「機械部品」であり「高周波焼き入れ」が施されることが記載されており,高周波焼き入れが施される材料は一般に金属であることから,本願補正発明における「金属製機械部品」に他ならない。
ウ 引用発明における「被検査物を把持するチャック」は,本願補正発明における「載置された機械部品をチャックする機能を有するテーブル」に相当している。
エ 本件補正で「NC装置」との用語を出願当初の特許請求の範囲,明細書及び図面には記載されていない「NC機構部」に書き替えてきたことを鑑みるに,「NC装置」と「NC機構部」は技術的に同等なものと判断されることから,引用発明における「NC装置」は,本願補正発明における「NC機構部」に相当するものである。
オ 引用発明における「渦電流プローブ」は,被検査物の測定面における欠陥の有無を検出するものであるから,本願補正発明における「探傷プローブ」に相当し,引用発明における「渦電流式検査装置」は,本願補正発明における「探傷装置」に相当することになる。
カ 引用発明における「画像処理回路」は,摘記事項(1-エ)から「2次元画像パターンを生成する」画像処理を行っている回路であることから,本願補正発明における「画像処理装置」に相当するといえる。
キ 摘記事項(1-ウ)及び(1-エ)によると,渦電流プローブからの信号により画像処理を行っていることから,引用発明における「渦電流プローブと画像処理回路とを含んで構成されるもの」は,本願補正発明における「探傷機構部」に対応するものである。
ク 引用発明における「渦電流プローブ17を支持するアーム16c」は「アーム駆動部16d」によってX軸方向に移動されることから,「アーム16c」はX軸方向にスライド可能であるといえる。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「Z軸の方向に移動可能なスライド部と載置された機械部品をチャックする機能を有するテーブルとを有するNC機構部と,探傷プローブと画像処理装置とを含んで構成される探傷機構部とから成り,
前記探傷プローブは,Z軸の方向に移動可能なスライド部に固定されることにより,前記テーブル上の機械部品に沿ってZ軸方向に移動可能にされる金属製機械部品の探傷装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明では,探傷プローブを「回転可能に支持し且つ回転駆動する回転ユニット」があり,それに伴い,探傷プローブが「前記回転ユニットの作用で回転駆動される」こと,「前記回転ユニットが・・・・スライド部に固定される」こと,及び画像処理装置が「前記回転ユニットに接続される」ことになるのに対し,引用発明では「チャックが回転することより被検査物をX軸の周りに回転」させているために,そのような構成ではない点。
(相違点2)
本願補正発明では,NC機構部において,探傷プローブを移動させるスライド部が,「X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能なスライド部」であり,それを「コラム」が有しているのに対し,引用発明では,X軸方向すなわちZ軸方向にスライド可能な「アーム16c」であり、それが「アーム駆動部16d」によって移動されている点。
(相違点3)
本願補正発明では,「NC機構部に組み込まれる探傷機構部」と記載されているのに対し,引用発明ではそのようには具体的に特定されていない点。

(2)当審の判断
(相違点1)について
周知例1の摘記事項(2-イ)及び(2-カ)には,渦電流探傷装置において,被探傷物の穴部を探傷するために,センサ回転用モータに渦流探傷センサを取り付けることが記載されている。この「センサ回転用モータ」は,渦流探傷センサを「回転可能に支持し且つ回転駆動する」ものであることから,本願補正発明の「回転ユニット」に相当するものであり,これにより渦流探傷センサが本願補正発明のように「前記回転ユニットの作用で回転駆動される」ことになる。
摘記事項(1-イ)には被検査物としてハブベアリングが記載されており,引用発明においても穴部に相当する内周面を有するものを被検査物としている。そして,引用発明においては,穴部の内周面を検査するために,「チャックが回転することより被検査物をX軸の周りに回転させる」ことを行っている。
そもそも,引用発明においては,摘記事項(1-ア)に記載されているように「被検査物と該被検査物の測定面に対向する渦電流プローブとの相対移動により二次元走査をして前記被検査物の測定面における欠陥の有無を検出する」ものである。してみれば,被検査物の測定面と渦電流プローブとが相対移動すればよいのであるから,それを被検査物を移動させることにより行おうと,渦電流プローブを移動させることにより行おうと,被検査物の測定面と渦電流プローブとは相対移動することになる。
したがって,引用発明においては,「チャックが回転することより被検査物をX軸の周りに回転させる」ことで被検査物の測定面と渦電流プローブとを相対移動させているが,これに替えて,渦電流プローブを回転させることにより被検査物の測定面と渦電流プローブとを相対移動させること,すなわち,周知例1のように,渦電流プローブを「回転可能に支持し且つ回転駆動する回転ユニット」に取り付け,渦電流プローブが「前記回転ユニットの作用で回転駆動される」ようにすることは当業者が容易になし得ることである。
そして,渦電流プローブを該「回転ユニット」に取り付けるということは,渦電流プローブは該「回転ユニット」を介してスライド部に固定されることになるから,「前記回転ユニットが・・・・スライド部に固定される」という構造になることは自明のことである。
また,摘記事項(1-ウ)には「渦電流プローブ17の出力は検査期間中信号S1とともに渦電流検査器18に与えられ、渦電流検査器18は検査期間中信号S1によって渦電流プローブ17の出力取込みを許可される。」,摘記事項(1-エ)には「画像処理回路7は、検査期間中信号S1、回転同期信号S2のそれぞれに対応するデータに基づき検出信号S3に対応するデータを二次元的に画像メモリ7a上に配置し、2次元画像パターンを生成する。」と記載されており,引用発明において,渦電流プローブ等からの信号に基づいて画像処理している。したがって,渦電流プローブを該「回転ユニット」に取り付けるということになれば,渦電流プローブからの信号は「回転ユニット」を介して「画像処理装置」に伝わることになるから,「回転ユニットに接続される画像処理装置」は自明の設計事項といえる。

(相違点2)について
周知例1の摘記事項(2-ウ),(2-エ)及び(2-ク)には,渦流探傷センサがY軸,Z軸,W軸の方向に移動するものであり,それらの移動がNC制御部によって制御されることが記載されいている。そして,摘記事項(2-オ)には,それにより被探傷物の形状等が多岐にわたっても各被探傷物を良好に対応することができることが記載されている。ここで,NC制御部は,本願補正発明における「NC機構部」に相当するものであり,周知例1の【図1】を参照するに,W軸,Y軸,Z軸は,それぞれ,本願補正発明のX軸,Y軸,Z軸に相当している。
また,周知例2には「X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能なスライド部を有するコラム」が記載されており,それらの移動をNC制御することも記載されている。すなわち,NC機構部において,X,Y,Z軸の各軸方向の移動をNC制御するために,「X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能なスライド部を有するコラム」の態様とすることは本出願前周知の手段といえる。
引用発明において,摘記事項(1-オ)によると,被検査物は複雑な形状を有するものであるから,渦電流プローブをX軸の方向すなわち本願補正発明の「Z軸の方向」に移動させるだけでなく,本願補正発明の「X軸」及び「Y軸」の方向にも移動可能なようにすれば,より形状に沿って渦電流プローブを移動できるようになることは当業者が容易に想到することである。すなわち,引用発明では,アーム駆動部16dによってアーム16cに支持される渦電流プローブ17をZ軸の方向に移動させているが,それをX軸及びY軸の方向にも移動可能なようにするために,これら「アーム駆動部16d」及び「アーム16c」に替えて上記周知の手段である「X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能なスライド部を有するコラム」を採用することは当業者が容易になし得ることである。

(相違点3について)
本願補正発明の「NC機構部に組み込まれる探傷機構部」について,本願明細書では,以下のように記載されている。
「【0006】
そこで本発明はそのような問題のない、即ち、探傷機構を既存のNC装置に組み込むことによって、機械部品に対する探傷プローブの走査を自動化することにより、・・・・・」
「【0009】
本発明は上記のとおりであって、探傷機構を既存のNC装置に組み込むことにより、機械部品に対する探傷プローブの走査を自動化したので、・・・・・」
これらを参照するに,「NC機構部に組み込まれる探傷機構部」とは,探傷プローブの走査を自動化するために,既存のNC装置に探傷機構を設けたという技術的事項である。
摘記事項(1-イ)には「被検査物11の回転運動と渦電流プローブ17の移動とはNC装置16によって行われる。」と記載されており,ここにおける「NC装置」が既存しない特別新規なのものとはいえず,また,渦電流プローブの移動がNC装置によって行われることから,渦電流プローブの走査が自動化されているものである。してみれば,引用発明において,探傷プローブの走査を自動化するために,既存のNC装置に探傷機構を設けたという技術的事項は満たし得るものであるから,相違点3は実質的な相違点とはいえない。

本願明細書では,本願補正発明の効果として,
「【発明の効果】
【0009】
本発明は上記のとおりであって、探傷機構を既存のNC装置に組み込むことにより、機械部品に対する探傷プローブの走査を自動化したので、機械部品の探傷操作を自動化、且つ、無人化することが可能となり、以て機械部品の探傷検査の高効率化、均質化並びに低コスト化を可能にし、且つ、検査の信頼性を高め得る効果がある。」と記載されている。これは,周知例1の(2-ア)及び(2-キ)に記載されているように,渦流探傷センサの移動をNC制御によって行うことの自明の効果に過ぎない。

したがって,本願補正発明は,引用発明,並びに周知例1及び周知例2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおり,本件補正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる特許法17条の2第6項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項に係る発明は,平成23年7月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「探傷プローブと、前記探傷プローブを回転可能に支持し且つ回転駆動する回転ユニットと、前記回転ユニットに接続される画像処理装置とをNC装置に一体に組み込んで成る機械部品の探傷装置であって、探傷検査に際して前記探傷プローブが、前記回転ユニットが前記NC装置のコラムのスライド部に設置されて前記コラムのスライド部と共に移動することにより、及び/又は、前記機械部品がそれをチャックする前記NC装置のテーブルと共に移動することにより、前記機械部品に沿って移動可能であることを特徴とする金属製機械部品の探傷装置。」

2 刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例1,並びに周知例1及び2の記載事項は,上記「第2 2(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明との対比を,上記「第2 3対比・判断 (1)対比」を参照して行うに,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「探傷プローブと,画像処理装置とをNC装置に備えた機械部品の探傷装置であって,探傷検査に際して前記探傷プローブが,移動可能なスライド部に固定されることにより前記機械部品に沿って移動可能である金属製機械部品の探傷装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では,探傷プローブを「回転可能に支持し且つ回転駆動する回転ユニット」があり,それに伴い,「前記回転ユニットが・・・・スライド部に設置されて」いること,及び画像処理装置が「前記回転ユニットに接続される」ことになるのに対し,引用発明では「チャックが回転することより被検査物をX軸の周りに回転」させているために、そのような構成ではない点。
(相違点2)
本願発明では,探傷プローブを移動させるスライド部が「NC装置のコラムのスライド部」であり,「前記コラムのスライド部と共に移動することにより」機械部品に沿って移動可能であるのに対し,引用発明では,探傷プローブを移動させるスライド部が「アーム16c」であり,それが「アーム駆動部16d」によって移動されることにより機械部品に沿って移動可能としている点。
(相違点3)
本願発明では,探傷プローブと画像処理装置とを「NC装置に一体に組み込んで成る」ものであるのに対し,引用発明では,それらがNC装置に「一体に組み込んで成る」と具体的には特定されていない。

(2)当審の判断
(相違点1)について
相違点1は,「第2 3対比・判断 (1)対比」における相違点1と実質的に同じであるため,これに対する判断は「第2 3対比・判断 (2)判断」において検討した結果と同じである。
(相違点2)について
相違点2は,「第2 3対比・判断 (1)対比」における相違点2に対応するものであり,スライド部について「X、Y、Z軸の各軸方向に移動可能な」との事項が省かれたものである。してみれば,「第2 3対比・判断 (2)判断 (相違点2)について」において検討した「X、Y、Z軸の各軸方向の移動」を考慮することなく,探傷プローブを移動させるスライド部品として,アーム駆動部16dによって移動される「アーム16c」に替えて「NC装置のコラムのスライド部」とし,探傷プローブを「前記コラムのスライド部と共に移動することにより」機械部品に沿って移動可能とすることは当業者が容易になし得ることである。
(相違点3)について
相違点3は,「第2 3対比・判断 (1)対比」における相違点3に対応するものであり,後者では「NC機構部に組み込まれる探傷機構部」と記載されているのに対し,前者では「NC装置に一体に組み込んで成る」と記載されている。しかしながら,「NC装置に一体に組み込んで成る」についても,本願明細書での対応する記載は,以下のように同じである。
「【0006】
そこで本発明はそのような問題のない、即ち、探傷機構を既存のNC装置に組み込むことによって、機械部品に対する探傷プローブの走査を自動化することにより、・・・・・」
「【0009】
本発明は上記のとおりであって、探傷機構を既存のNC装置に組み込むことにより、機械部品に対する探傷プローブの走査を自動化したので、・・・・・」
してみれば,相違点3についての判断は「第2 3対比・判断 (2)判断 (相違点3)について」と同じで,引用発明においても満たし得る技術的事項であるから,相違点3は実質的な相違点とはいえない。

また,本願明細書での本願発明の効果は,上記本願補正発明の効果と同じであるから,これに対する判断は「第2 3対比・判断 (2)判断」において記載したとおりである。

したがって,本願発明は,引用発明,並びに周知例1及び周知例2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について
請求人は,審判請求の理由で「引用文献1は、・・・・・、そのNC装置は独立して他の用途に用い得るものであり、本願発明におけるように探傷機構部と不可分一体となる訳ではありません。」,審尋に対する回答で「引用文献1は、・・・・・、そのNC装置は独立して他の用途に用い得るものであり、本願発明におけるように探傷機構部が、他の用途に用いられることのないNC機構部と不可分一体となっている訳ではありません。」等と主張しているが,引用文献1(引用例1)は渦電流式検査装置についての発明が記載されており,その渦電流式検査装置を構成するNC装置が「独立して他の用途に用い得るもの」であることは引用例1のどこにも記載されておらず,むしろ,渦電流式検査装置についての発明のみが開示されているのであるから,引用例1におけるNC装置は,独立して他の用途に用い得ることを想定していない渦電流式検査装置としてのNC装置であると解されるものである。請求人の主張している,NC装置が独立して他の用途に用いられることがないことが本願発明におけるような「不可分一体」という意味であるなら,引用例1においても「不可分一体」との状態を満たすことになる。
よって,請求人の主張は採用できない。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2013-04-08 
結審通知日 2013-04-09 
審決日 2013-04-25 
出願番号 特願2007-128031(P2007-128031)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 金属製機械部品の探傷方法及び探傷装置  
代理人 齋藤 晴男  
代理人 齋藤 晴男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ