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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1275736
審判番号 不服2011-5511  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-11 
確定日 2013-06-19 
事件の表示 特願2000-284990「プラスチック容器入り薬剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月 2日出願公開、特開2002- 97103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成12年9月20日の出願であって,平成22年9月17日付けで拒絶理由が通知され,同年11月24日に意見書及び手続補正書が提出され,同年12月8日付けで拒絶査定がされ,平成23年3月11日に拒絶査定に対する審判が請求され,その後,当審において,平成25年1月21日付けで拒絶理由が通知され,同年3月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載
平成22年11月24日付けの手続補正及び平成25年3月25日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲(以下,「特許請求の範囲」という。)及び発明の詳細な説明(以下,「発明の詳細な説明」という。)には,以下の事項が記載されている。

1 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された特許を受けようとする発明(以下,それぞれ,「本願発明1」?「本願発明3」といい,合わせて「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること特徴とする、プラスチック容器に充填するための、界面活性剤を含有する液状農薬製剤。
【請求項2】
JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であることを特徴とする、プラスチック容器に充填するための、界面活性剤を含有する液状農薬製剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液状農薬製剤をプラスチック容器に充填することを特徴とする薬剤入りプラスチック容器の変形防止方法。」

2 本願の発明の詳細な説明の記載
(a)「【0002】
【従来の技術】
プラスチック製容器は、その軽量性、割れにくさ、使用後の後始末の容易性等の理由からガラス瓶に代わって農薬製剤等の容器として使用されてきた。しかし、プラスチック製容器は、種々の要因で変形しやすいという欠点を有していた。こような問題に対して、例えば、特開昭61-76406号公報には、カーバメイト系農薬原体、ポリエーテル系及びスルホン酸塩から選ばれる1種以上の界面活性剤を含む乳剤を、プラスチック容器に入れ、空間部の空気を窒素ガスで置換することを特徴とするプラスチック製容器入り薬剤が記載されている。
【0003】
また、若干分野が異なるが、特開昭54-150288号公報には、食用油中に溶解している空気を30℃以上において窒素で置換し、この食用油を容器に充填するとともに容器内部空間の空気を窒素で置換することを特徴とする食用油容器の変形防止方法が記載されている。」
(b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、プラスチック容器の空間部分にのみを窒素置換しただけでは、容器の変形は完全に防止できないという問題があった。
また、特開昭54-150288号公報では、特に食用油中の溶存酸素については記載されてはいない。
本発明は、液状薬剤を充填したプラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止する方法を提供することを目的とする。」
(c)「【0005】
【課題を解決する手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プラスチック容器の変形が、液状薬剤中に含まれる溶存酸素に起因し、溶存酸素濃度を調整することで容器の変形を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(d)「【0015】
不活性ガスを吹き込む方法において、容器入りの薬剤の溶存酸素濃度を30ppm以下にする方法としては、液状薬剤をプラスチック容器に充填した後、不活性ガスを吹き込む方法等の処理を行う方法、予め、液状薬剤に不活性ガスを吹き込む方法等の処理を行い、該薬剤をプラスチック容器に、好ましくは不活性ガス雰囲気で充填する方法、いずれの方法も採用することができる。
上記方法によって得られた溶存酸素濃度を30ppm以下にした薬剤をプラスチック容器に充填することにより、プラスチック容器の変形を防止することができる。この際、容器内の空間を不活性ガスで置換した方が好ましい。」
(e)「【0019】
【実施例】
実施例1
N-(4-t-ブチルベンジル)-4-クロロ-3-エチル-1-メチルピラゾール-5-カルボキサミドを原体とし、原体10.30重量%、カワカゾール(アルキルナフタレン溶媒)20.0重量%、ソルポールCA-42(ポリオキシエチレンカスターエーテル(東邦化学工業(株)製)10.00重量%、プロナールEX-300(シリコーンエマルジョン)0.25重量%、蒸留水59.45重量%で混合したエマルジョン剤(ピラニカEW)に、ボールフィルターを通して、窒素ガスを表1に示す流量と時間で吹き込んだ。その後、溶存酸素をJIS K 102に記載された方法に基づいて溶存酸素を測定した。また、その後、500mLのナイロン内装ポリエチレン製プラスチック容器に充填し、54℃で14日間加温し、その後室温で24時間放置後、容器の変形を目視で観察した。その結果を第1表に示す。
【0020】
比較例1
実施例1と同様のエマルジョン剤に窒素吹込を行わず500mLナイロン内装ポリエチレン製プラスチック容器に充填し、同様の試験を行った。その結果を第1表に示す。
【表1】



第3 当審における拒絶の理由の概要
平成25年1月21日付けで通知された拒絶の理由の概要は,以下の理由を含むものである。
[理由1]本願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
そして,その不備である点とは,「容器の変形は,空間部の減圧によって生じるから,本願発明1?3で,単に溶存酸素の濃度を,30ppm以下に特定することによって「界面活性剤を含有する液状農薬製剤」を封入する容器の変形が生じないという有利な効果(技術的意義)が,なぜ達成できるのか不明である。よって,この出願の発明の詳細な説明は,本願発明1?3について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。」というものである。

[理由2]本願の特許請求の範囲の記載は,以下の点で不備であるから,特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく,本願は,同条同項に規定する要件を満たしていない。
そして,その不備である点とは,「本願発明1に特定される,「溶存酸素濃度が、30ppm以下」という,溶存酸素の濃度を特定範囲とするだけで,他の条件によらず,本願発明1の課題を解決するものとして,一般化・拡張することができるとは認められず,また,当業者が出願時の技術常識に照らしても同様である。したがって,本願発明1は,本願の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。本願発明1を引用する本願発明3も同様である。」というものである。

第4 当審の判断
1 特許法第36条第4項(理由1)について
(1)委任省令要件について
特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。」と規定し,特許法施行規則第24条の2は,「特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定している。
そうすると,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題及びその解決手段が発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されていることを要するものと解される。

(2)検討
ア 発明の詳細な説明に記載される技術上の意義について
本願発明1は,「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること特徴とする、プラスチック容器に充填するための、界面活性剤を含有する液状農薬製剤。」を発明特定事項のすべてとするものであり,
本願発明2は,「JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であることを特徴とする、プラスチック容器に充填するための、界面活性剤を含有する液状農薬製剤。」を発明特定事項のすべてとするものであり,
本願発明3は,「請求項1又は2に記載の液状農薬製剤」,すなわち「本願発明1又は2」「をプラスチック容器に充填することを特徴とする薬剤入りプラスチック容器の変形防止方法。」を発明特定事項のすべてとするものである。
そして,発明の詳細な説明には,「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プラスチック容器の変形が、液状薬剤中に含まれる溶存酸素に起因し、溶存酸素濃度を調整することで容器の変形を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(摘記c参照),「溶存酸素濃度を30ppm以下にした薬剤をプラスチック容器に充填することにより、プラスチック容器の変形を防止することができる。この際、容器内の空間を不活性ガスで置換した方が好ましい。」(摘記d参照)と記載されているから,プラスチック容器に本願発明1の液状農薬製剤を充填させる際に,容器内の空間を不活性ガスで置換させることは必須の要件ではなく,「液状薬剤中の溶存酸素濃度が,12ppm以下であること」又は「JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であること」のみによって,プラスチック容器の変形を防止できるものとして記載されたものといえる。
また,発明の詳細な説明には,実施例において,「窒素ガスを表1に示す流量と時間で吹き込んだ。・・・溶存酸素を測定した。また、その後、500mLのナイロン内装ポリエチレン製プラスチック容器に充填し、54℃で14日間加温し、その後室温で24時間放置後、容器の変形を目視で観察した。」(摘記e参照)との記載されているのみであって,液状農薬製剤をプラスチック容器に充填される際の条件(特に,容器内の空間の不活性ガスによる置換の有無)については何も特定されていない。
してみると,発明の詳細な説明には,本願発明1?3の発明特定事項である「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」又は「JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であること」によって,その他の条件を特定しなくても,プラスチック容器の変形を防止できるという技術上の意義があるものとして記載されているといえる。

イ プラスチック容器の変形の理由について
発明の詳細な説明には,「特開昭61-76406号公報には、カーバメイト系農薬原体、ポリエーテル系及びスルホン酸塩から選ばれる1種以上の界面活性剤を含む乳剤を、プラスチック容器に入れ、空間部の空気を窒素ガスで置換することを特徴とするプラスチック製容器入り薬剤が記載されている。」(摘記a参照)と,本願発明に対する先行技術が記載されており,上記特開昭61-76406号公報(平成22年9月17日付けの拒絶理由通知書において,引用された引用例2である。)には,以下の記載がある。
「本発明の窒素ガス充てんによるプラスチック製容器の変形防止のメカニズムについての解明は十分ではないが、次の如く推定される。
(1)薬剤に対する空気と窒素の反応性の違い。
薬剤の有効成分、界面活性剤、溶剤、その他の成分等の中には、僅かずつ酸化分解するものがある。空気中の酸素が分解反応に消化されるため、容器内の減圧がすすみ、容器の「へこみ」をもたらすが窒素で置換することにより酸化分解-減圧を防止することができ、容器の変形を防止できる。」(第3頁左上欄第15行?右上欄第5行)
そして,平衡にある液体と気体との中の気体の濃度比は一定であるとの分配の法則及び化学平衡にある系の状態を決定する変数のどれか一つに変化を与えると,平衡の位置はその変化を減らす方向に移動するというルシャトリエの原理を踏まえて,上記のプラスチック容器の変形の理由を解釈すれば,液状農薬製剤中の界面活性剤が溶存酸素と反応して酸化分解を起こし,それによって溶存酸素濃度が低下すると,液体と気体との中の酸素の濃度比を一定とする方向,すなわち,容器内の空間部(気体)に存在する酸素が液状農薬製剤(液体)中に溶解(変化を減らす溶存酸素濃度を高める方向に移動)し,それによって,容器の空間部が減圧して容器の変形を起こすものと理解できる。そして,上記先行技術は,容器空間内を窒素で置換することによって,溶存酸素が界面活性剤と反応して溶存酸素濃度が低下しても,容器空間部からの酸素の溶解を防ぎ,容器空間部の減圧とそれに伴う容器の変形を防止していると当業者であれば理解できる。
一方,容器内の空間部が窒素で置換されていなければ,液状農薬製剤中の溶存酸素濃度を12ppm以下又はJIS K 0102に規定される方法に従って測定して検出限界以下としても,それは,界面活性剤が溶存酸素により酸化され,溶存酸素濃度が低下した状態と同じであるから,本願発明1又は2の液状農薬製剤が容器内に充填されると,容器内の空間に存在する酸素が液状農薬製剤中に溶解して,液状農薬製剤中の界面活性剤が溶存酸素と反応して酸化分解を起こし,それがまた溶存酸素の濃度の低下,空間部の酸素の溶解を引き起こし,最終的に容器の空間の減圧に伴う容器の変形が生じることとなる。
そうすると,本願発明1?3の発明特定事項である「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」又は「JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であること」のみによって,「界面活性剤を含有する液状農薬製剤」を充填する容器の変形を防止するという技術上の意義が達成されるとは,当業者は理解できない。

ウ 実施例の記載について
発明の詳細な説明の実施例1-1,1-2では,液状薬剤中の溶存酸素濃度が12ppm以下とした液体農薬製剤,JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度を検出限界以下とした液体農薬製剤をプラスチック容器に充填した場合に容器変形がなかったこと,一方,比較例1では,液状薬剤中の溶存酸素濃度が63ppmとした液体農薬製剤をプラスチック容器に充填した場合には容器変形があったことが記載されている(摘記e参照)。
しかしながら,上記アでも述べたように,この実施例1-1,1-2,比較例1においては,プラスチック容器に充填する際の条件について何ら特定されておらず,上記イで述べたように,充填する際の条件(特に容器の空間の不活性ガスによる置換の有無)によっては,容器の変形が防止されないこともあり得るのであるから,実施例の記載を検討しても,本願発明1?3の発明特定事項である「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」又は「JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であること」のみによって,「界面活性剤を含有する液状農薬製剤」を充填する容器の変形を防止するという技術上の意義が達成されるとは,当業者は理解できない。

エ まとめ
以上のとおり,発明の詳細な説明の記載を検討しても,本願発明1?3の発明特定事項である「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」又は「JIS K 0102に規定される方法に従って測定した液状薬剤の溶存酸素濃度が検出限界以下であること」という解決手段によって,「界面活性剤を含有する液状農薬製剤」を充填する容器の変形を防止するという課題を解決できるのかが当業者に理解できるとは認められないから,発明の詳細な説明には,本願発明の課題の解決に寄与するとは理解できない解決手段のみを発明特定事項とする本願発明1?3を,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(3)小括
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明の記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえず,経済産業省令で定めるところにより,当業者が本願発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認めることができない。

2 特許法第36条第6項第1号(理由1)について
(1)明細書のサポート要件について
特許法第36条第6項は,「・・・特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,「特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり」(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号判決参照)と判示されている。
そこで,この観点に立って,本願の特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)本願発明の課題について
本願発明の課題は,発明の詳細な説明に,「本発明は、液状薬剤を充填したプラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止する方法を提供することを目的とする。」と記載されている(摘記b参照)ことからして,本願発明の課題は,「液状薬剤を充填したプラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止する方法を提供すること」にあるものと認める。

(3)対比・判断
本願発明1,3は,上記1(2)アで述べたように,「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」を発明特定事項とはしているものの,それ以外の条件,例えば,プラスチック容器に充填する際の条件(液体農薬製剤をプラスチック容器に充填する際に,プラスチック容器の空間部分を不活性ガスで置換すること)については,何ら発明特定事項とはされていないし,発明の詳細な説明の記載からみても,本願発明1,3は「液体農薬製剤をプラスチック容器に充填する際に,プラスチック容器の空間部分を不活性ガスで置換する」場合に限定されるものでもない。
一方,発明の詳細な説明の記載には,「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下である」との発明特定事項を採用することによって,プラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止するとの課題が解決できることの理論的な説明は一切記載されていないし,上記1(2)イ,ウで検討したように,実施例を含む発明の詳細な説明の記載を検討しても,本願発明1,3の発明特定事項である「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」という解決手段によって,その他の条件によらずに,「液状薬剤を充填したプラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止する方法を提供する」との上記課題が解決できると当業者が理解できるとは認められない。
そうすると,本願発明1,3は,「液体農薬製剤をプラスチック容器に充填する際に,プラスチック容器の空間部分を不活性ガスで置換する」場合以外も含まれるところ,そのような場合についてまで,「液状薬剤を充填したプラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止する方法を提供する」との課題を解決できると,当業者が発明の詳細な説明から認識することができたとは認められない。

(4)小括
以上検討したように,本願発明1,3が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとも認められない。

第5 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
請求人は,平成25年3月25日付けの意見書において,以下のような主張をしている。

(1)特許法第36条第4項(理由1)について
「溶存酸素濃度を減らすことによって「界面活性剤を含有する液状農薬製剤」を封入する容器の変形が生じない理由を、以下に説明いたします。
界面活性剤を含有する液状農薬製剤では、現実には、たとえ、容器空間中の酸素を減らして、室温?比較的低温で保存していても、容器が変形します。
その理由として、液状薬剤中の溶存酸素が多いと、界面活性剤が溶存酸素により酸化され、溶存酸素濃度が低下しますから、それを補うように容器空間中の酸素が液状薬剤中に溶け込んで空間中の酸素が減少し、その結果、容器の変形をもたらすものと考えられます。
その場合、「農薬は通常、室温?比較的低温で保存されていますから、薬剤と空気中との間の気体の出入りは激しく行われるものではありません」と平成23年4月21日付けの手続補正書において述べましたが、現実には、激しくはないものの薬剤と空気中との間の気体の出入りはあるため、徐々に容器空間中の酸素が液体中に溶け込んで、容器の空間中の酸素が減少するものと考えられます。
そこで、液状薬剤中の溶存酸素濃度を減少することにより、容器の変形が起こらないことを見出したのです。」

(2)特許法第36条第6項第1号(理由2)について
「本件発明は、本意見書と同日付けの手続補正書により、請求項1において、溶存酸素濃度を12ppm以下と減縮しましたので、当該拒絶理由は解消されたものと思料します。」

2 検討
請求人の主張について検討する。

(1)特許法第36条第4項について
請求人は,界面活性剤を含有する液状農薬製剤が変形する理由として,「液状薬剤中の溶存酸素が多いと、界面活性剤が溶存酸素により酸化され、溶存酸素濃度が低下しますから、それを補うように容器空間中の酸素が液状薬剤中に溶け込んで空間中の酸素が減少し、その結果、容器の変形をもたらす」と説明している。
この説明内容は,上記「第4 1(2)イ」で述べた,プラスチック容器の変形の理由と同じものであるが,「液状薬剤中の溶存酸素濃度を減少することにより、容器の変形が起こらない」ことの説明にはなっていない。
すなわち,上記「第4 1(2)イ」で述べたように,液状薬剤中の溶存酸素濃度を減少した状態とは,界面活性剤が溶存酸素により酸化されて溶存酸素濃度が低下した状態と同じであるから,この状態においても,溶存酸素濃度の低下を補うように容器空間中の酸素が液状薬剤中に溶け込んで空間中の酸素が減少し,その結果,容器の変形をもたらすことになる。
したがって,請求人の主張によって,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題及びその解決手段が発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されているということはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
上記「第2 2(2)」で述べたように,本願発明1,3において,「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」に限定したとしても,「液状薬剤中の溶存酸素濃度が、12ppm以下であること」という解決手段によって,その他の条件によらずに,「液状薬剤を充填したプラスチック容器が経時的に変形するのを確実に防止する方法を提供する」との上記課題が解決できると当業者が理解できるとは認められない。
したがって,請求人の主張によって,本願の特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するということはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところにより,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないし,また,本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号に適合せず,本願は,特許法第36条第6項の規定を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-23 
結審通知日 2013-04-25 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2000-284990(P2000-284990)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A01N)
P 1 8・ 537- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田名部 拓也  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 村守 宏文
齋藤 恵
発明の名称 プラスチック容器入り薬剤  
代理人 廣田 雅紀  
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