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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A63H
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない A63H
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A63H
管理番号 1276597
審判番号 訂正2012-390124  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2012-10-01 
確定日 2013-07-08 
事件の表示 特許第4849496号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成23年 9月 5日 出願
(平成22年1月15日出願の特願2010-6628の分割)
平成23年10月28日 特許権の設定登録 (請求項1?7)
平成24年10月 1日 本件訂正審判請求
平成25年 2月 1日 訂正拒絶理由通知
平成25年 3月 6日 意見書提出

第2 請求の要旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、
特許4849496号の明細書、特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)を、審判請求書に添付の訂正明細書、特許請求の範囲(以下「訂正明細書等」という)のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1に「前記前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており、」との事項を加えるとともに、訂正前の請求項1に「前記2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシと連結されるとともに」とあるのを、「前記2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で前記上部前輪用シャーシと前記下部前輪用シャーシとから挟持されて連結されるとともに」と訂正する。
(2)訂正事項2:特許請求の範囲の請求項3及び請求項4を訂正により削除する。
(3)訂正事項3:特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1?4のいずれか一項に記載の自動車玩具」とあるのを「請求項1又は2に記載の自動車玩具」と訂正する。
特許請求の範囲の請求項6において、「請求項1?5のいずれか一項に記載の自動車玩具」とあるのを「請求項1、2、5のいずれか一項に記載の自動車玩具」と訂正する。
特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1?6のいずれか一項に記載の自動車玩具」とあるのを「請求項1、2、5、6のいずれか一項に記載の自動車玩具」と訂正する。
(4)訂正事項4:特許請求の範囲の請求項6において、「前記前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており、」とあるのを訂正により削除する。
(5)訂正事項5:願書に添付した明細書について、下記のとおり訂正する。
願書に添付した明細書の段落【0007】において、上記訂正事項1と同様に、「前記前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており、」との事項を加えるとともに、訂正前の請求項1と同様に「前記2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシと連結されるとともに」とあるのを、「前記2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で前記上部前輪用シャーシと前記下部前輪用シャーシとから挟持されて連結されるとともに」と訂正する。
願書に添付した明細書の段落【0009】【0010】において、記載内容を訂正により削除する。
特許請求の範囲の請求項5に対応する段落【0011】において、上記訂正事項3と同様に、「請求項1?4のいずれか一項に記載の自動車玩具」とあるのを「請求項1又は2に記載の自動車玩具」と訂正する。
特許請求の範囲の請求項6に対応する段落【0012】において、上記訂正事項3と同様に、「請求項1?5のいずれか一項に記載の自動車玩具」とあるのを「請求項1、2、5のいずれか一項に記載の自動車玩具」と訂正する。
特許請求の範囲の請求項7に対応する段落【0013】において、上記訂正事項3と同様に、「請求項1?6のいずれか一項に記載の自動車玩具」とあるのを「請求項1、2、5、6のいずれか一項に記載の自動車玩具」と訂正する。
願書に添付した明細書の段落【0012】において、上記訂正事項4と同様に、「前記前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており、」とあるのを訂正により削除する。
願書に添付した明細書の段落【0014】において、「サスペンションとして機能させることができる。」とあるのを、「サスペンションとして機能させることができる。
また、上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとによって2つのアーム部の各先端部が上下から挟持されているので、アーム部の先端部が前輪用シャーシから脱落することを抑制し、ロール角を拡大することができる。」と訂正する。
願書に添付した明細書の段落【0016】の記載内容を訂正により削除する。

第3 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無の判断
訂正事項1は、請求項1において、前輪用シャーシについて「前記前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており、」と、「2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシと連結される」ことについて「前記2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で前記上部前輪用シャーシと前記下部前輪用シャーシとから挟持されて連結される」と限定する訂正であるから、特許法126条第1項第1号の特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
訂正事項2?3は、訂正事項1で請求項1を訂正したことによって発生する、特許法126条第1項第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項6において、訂正事項1で請求項1を訂正したことによって発生する、特許法126条第1項第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項5は、訂正事項1?4で特許請求の範囲を訂正したことによって不明瞭となった発明の詳細な説明の記載を、特許請求の範囲の記載との整合性を得られるように訂正するものであって、特許法126条第1項第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そして、訂正事項1ないし5は、何れも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

第4 独立特許要件の判断
以上のとおり、訂正事項1ないし5は、特許請求の範囲(請求項1)の減縮を目的とするものであるであるから、訂正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

1.訂正後の請求項1に係る発明
訂正明細書等の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
前輪車軸を支持する前輪用シャーシと、後輪車軸を支持する後輪用シャーシとを備える自動車玩具において、
前記後輪用シャーシは、両側部から前方へ延出する2つのアーム部を有し、
前記前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており、
前記2つのアーム部は、
車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で前記上部前輪用シャーシと前記下部前輪用シャーシとから挟持されて連結されるとともに、
それぞれ弾性部材で形成され、サスペンションとして機能することを特徴とする自動車玩具。」(以下、「訂正発明」という。)

2.訂正拒絶理由の概要
平成25年2月1日付けで通知した訂正拒絶理由の理由1[独立特許要件について]の概要は、訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるというものであり、その理由は、概略次のようなものである。
理由1:訂正発明は、特許法第29条第2項の規定に違反する。

3.引用刊行物とその記載事項
ア.本願遡及日前に頒布された刊行物である米国特許第5338247号明細書(以後、「刊行物1」という。)には、バッテリ駆動モデルカーに関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
なお、文末の( )は、請求人が甲第1号証(刊行物1)の日本語による翻訳文として提出したものの対応箇所である。

(ア)「ABSTRACT
A rear suspension for battery powered on-road scale model car of the type having a straight rear axle and a nonindependent rear suspension is disclosed. The model car includes a chassis having a central longitudinal axis with a centrally located battery pack. A pair of remotely steerable wheels are pivotably affixed to the chassis front end. A motor pod pivotably supports a pair of rear wheels interconnected by a straight rear axle and includes a mechanism for attaching an electric drive motor. The rear suspension elastically attaches the motor pod to the chassis for limited vertical bounce movement and limited torsional roll movement of the motor pod relative to the chassis. The rear suspension components are spaced sufficiently from the battery pack to provide clearance for a row of batteries oriented centrally along the chassis. The central battery design minimizes mass moment of inertia of the model car measured about the longitudinal axis resulting in improved maneuverability.」
(「要約:
まっすぐな後車軸及び非独立性のリアサスペンションを有するタイプのバッテリ駆動オンロードスケールモデルカーのリアサスペンションが公表された。そのモデルカーは、中央に配向されたバッテリパックと共に中央縦軸を有している。一対のリモート操舵可能な車輪がシャーシの前端にピボット作用可能に添付されている。モータポッドはまっすぐな後車軸によって相互に接続された一対の後輪をピボット作用可能に支持する。そして、モータポッドは電動モータを取り付けるための機構を含んでいる。リアサスペンションは、限られた垂直バウンド及びシャーシに対するモータポッドの限られたねじれ回転運動のために弾性的にモータポッドをシャーシに取り付けている。リアサスペンションの要素は、バッテリパックから十分に離され、シャーシに沿って中央に配向されたバッテリ列のためにクリアランスを与えている。中央のバッテリデザインは、縦軸に対して測定されるモデルカーの質量慣性モーメントを最小化し、結果として、改良された操縦性が得られる。」)
(イ)「A second embodiment of the model car of the present invention is shown in FIGS. 5-7. Second model car embodiment 80 includes a chassis 82 of generally similar construction to chassis 12 described with reference to the first model car embodiment 10. Chassis front end 84, a rear end 86 are on opposite ends of central longitudinal axis 88. A battery pack which is made up of a series of cylindrical battery cells are oriented in transverse alignment with the longitudinal axis 88. The batteries are centrally oriented on the chassis immediately forward of the chassis rear end 86.
The primary difference between model car 80 and model car 10 is a design of the rear suspension. Car 80 is provided with a rear suspension 90 which includes a generally U-shaped spring 92. U-shaped spring 92 is formed of a generally planar sheet of fiberglass or the like. The central portion of the U-shaped spring 94 is securely affixed to motor pod 96 while the U-shaped spring forward ends 98 and 98' are pivotably affixed to chassis 82 by a pair of swivel joints 100 and 100'. These swivel joints are located along a transverse axis TA which extends generally perpendicular to longitudinal axis 88. Due to the planar configuration of the U-shaped spring, the spring is very stiff when loaded transversely, yet is flexible when a motor pod is rotated in torsion about longitudinal axis 88.
Pivots 100, which may comprise assemblies as shown in FIGS. 5 and 7, enable the U-shaped spring attached to the motor pod to rotate about the transverse axis enabling the motor pod to move vertically relative to the chassis in bounce. The U-shaped spring 92 acts as a control arm. The torsional spring rate of the motor pod relative to the chassis is controlled by U-shaped spring 92. U-shaped spring 92 and pivots 100 are equivalent to T-bar 50 in the first embodiment in that they provide pivot means for connecting the motor pod to the chassis enabling limited free relative movement therebetween about the transverse pivot axis TA. Of course, other joints such as a central pivot socket with alignment pins or control arms to maintain axle alignment, could also be used.
A spring rate of bounce is controlled by telescopic strut 102. Telescopic strut 102 is affixed at one end to the motor pod 96 and affixed at its other end to post 104. Post 104 extends vertically from deck 106 which is spaced above and generally parallel to chassis 82 to provide clearance for batteries 108 therebetween. The deck 106 is affixed to the chassis by a series of spacers 110, 112 and 114. As the motor pod moves vertically in bounce, the telescopic strut is compressed. Telescopic strut 102 is preferably of a conventional design which includes a compressible coil spring and an internal damper. The static height of the rear suspension can be adjusted by moving a collar 116 axially along the strut to vary its initial length when the vehicle is at rest. As in the first embodiment, strut 104 is preferably forwardly upwardly inclined relative to the vehicle's longitudinal axis.
By utilizing the deck 106, post 104 can be moved forward relative to post 70 and model car 10 enabling the battery pack to be positioned in a more rearward location. The location of transverse axis TA is likewise significantly forward of the transverse axis in the first embodiment which enables the pivot point of the telescopic strut motor pod attachment to be located very close to the longitudinal axis. This design minimizes the interrelationship between the telescopic strut spring rate and the torsional roll couple which is generated by the generally U-shaped leaf spring 92.
The generally U-shaped spring is illustrated in greater detail in FIG. 6. The orientation of the leaf spring relative to longitudinal axis 88 and transfer axis TA are best illustrated with reference to this figure as well as FIG. 7. When the motor pod and the rear wheels were vertically moved relative to the chassis in bounce, a motor pod moves along an arcuate path rotating about axis TA.」(第4欄第45行?第5欄第53行)
(「本発明のモデルカーの第2の実施形態は図5から7に示されている。第2のモデルカーの実施形態80は、第1のモデルカーの実施形態10に関連して述べたシャーシ12に略似通った構成のシャーシ82を含んでいる。シャーシの前端84、後端86は、中央の縦軸88の反対側の端にある。一連の円柱状のバッテリセルで形成されたバッテリパックは、縦軸88に対して横配列で配向されている。バッテリは、シャーシの後端86の直ぐ前のシャーシ上の中央に配向されている。
モデルカー80とモデルカー10との最初の相違点は、リアサスペンションのデザインである。自動車80は、略U-形のスプリング92を含むリアサスペンション90を備えている。U-形のスプリング92は、ガラス繊維等の略平坦なシートで形成されている。U-形のスプリング94の中央部分は、U-形のスプリングの前端98及び98’がスイベルジョイント100及び100’.のペアによってシャーシ82にピボット作用可能に添付されている一方で、しっかりとモータポッド96に添付されている。これらのスイベルジョイントは、縦軸88に略直立して延びる横軸TAに沿って配向されている。U-形のスプリングの平面的構成の結果、スプリングは横方向に負荷が掛かったときに大変硬く、モータポッドが縦軸88に対するねじれで回転した時には柔軟である。
ピボット100は、図5及び7に示すようにアッセンブリから成り、モータポッドに連結されているU-形のスプリングが、バウンド時にモータポッドをシャーシに対して垂直に運動することを可能にしている横軸に対して回転することを可能にさせている。U-形のスプリング92は、制御アームとして動作する。シャーシに対してのモータポッドのねじれスプリングレートは、U-形のスプリング92によって制御される。U-形のスプリング92及びピボット100は、横ピボット軸TAに対する限られた自由相対運動を可能にさせるシャーシにモータポッドを連結させるためにピボット手段を備えるという点で、第1の実施形態の中のT-バー50に相当する。勿論、軸調整を維持するため調整ピン又は制御アームを持つ中央ピボットソケットのような他のジョイントを用いることもできる。
バウンドのスプリングレートは、伸縮自在な支柱102によって制御されている。伸縮自在な支柱102は、一端がモータポッド96に添付され、他端が支柱104に添付されている。支柱104は、バッテリ108のためのクリアランスを提供するためにシャーシ82の上に且つ略平行に配置されたデッキ106に直立して延びている。デッキ106は一連のスベーサ110、112及び114によってシャーシに添付されている。バウンド時にモータポッドが垂直に動いた時、伸縮自在な支柱は圧縮される。伸縮自在な支柱102は、好ましくは、圧縮可能なコイルスプリング及び内部ダンパを含む従来型のデザインである。リアサスペンションの静的な高さは、ビークルが休止している時にその最初の長さを変えるために支柱に沿って軸方向にカラー116を動かすことによって調整することができる。第1の実施形態のように、支柱104は、好ましくは、ビークルの縦軸に対して相対的に前方上方に傾いている。
デッキ106を利用することによって、支柱104は、バッテリパックをもっと後方に位置させることができるように、支柱70及びモデルカー10に対して前方に動くことができる。横軸TAの配向は、第1の実施形態の横軸の前方でかなり似通っていて、伸縮自在な支柱モータポッドアタッチメントのピボット点が縦軸に非常に近く配置されることを可能にしている。このデザインは、伸縮自在な支柱スプリングレートと、U-形のリーフスプリング92によって形成されたねじれ回転対の相互関係を最小限に抑えることができる。
略U-形のスプリングは図6において詳細に示されている。縦軸88及び横軸TAに対するリーフスプリングの配向は、図7のようにこの図面で最適に図示されている。モータポッド及び後輪がバウンド時にシャーシに対して垂直に動かされた時、モータポッドは、軸TAの回りに正確な軌跡で回転する。」)
(ウ)FIG5?7には、記載事項(ア)の「シャーシ」が、前輪の車軸を支持するシャーシ82として図示されている。
また、記載事項(イ)のリアサスペンション90の「U-形のスプリング92の中央部分」が、「モータポッド96に添付され」、「U-形のスプリング92」は、中央部分の両側部に前方へ延出する2つの部分を有した構造で図示されている。

すると、刊行物1には、図5?7記載の第2の実施形態のモデルカーに着目して、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものということができる。
「前輪の車軸を支持するシャーシ82と、
まっすぐな後車軸によって相互に接続された一対の後輪をピボット作用可能に支持するモータポッド96と、
略U-形のスプリング92を含むリアサスペンション90と、
を備えるモデルカーにおいて、
リアサスペンション90のU-形のスプリング92は、
ガラス繊維等の略平坦なシートで形成され、
中央部分がしっかりとモータポッド96に添付され、
中央部分の両側部から前方へ延出する2つの部分を有し、
中央部分の両側部から前方へ延出する2つの部分は、
前端98及び98’がスイベルジョイント100及び100’.のペアによってシャーシ82にピボット作用可能に添付される、
モデルカー。」

イ.本願遡及日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/056437号(以後、「刊行物2」という。)には、走行玩具並びに走行玩具のサスペンション装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。

(ア)「1. 操舵用の複数の前輪と駆動装置と接続される複数の後輪を備える走行玩具において、その一端で走行装置の車体に立設された支持壁上部に回動可能に軸支される第1端部と、前記車体上に支持壁から所定の間隔を設けて突設される中空円筒部を貫通させるその中央部に設けた第1穴部と、その中空円筒部頂上に設けたねじ部と第1穴部端部との間に付勢させて介装されるばね部と、他端部に水平方向に開口する第2穴部とを有するトレーリングアームであって、前記トレーリングアームがこの第2穴部に後輪の車軸を貫通させて車軸から伝達されるショックを前記ばねに吸収させる走行玩具。」(請求の範囲)
(イ)「本発明に係る走行玩具用サスペンション装置1を搭載する走行玩具3は、図5に示すように、車体4に前輪タイヤ5と後輪タイヤ7と駆動装置9を備える。走行玩具用サスペンション装置1は、後輪タイヤ7が車体と接合するために使用される装置である。
図1は本発明の装置を明らかにするために後輪タイヤ7を除いた走行玩具用サスペンション装置1の側面図を示す。後輪タイヤ7を装着した状態は図2に示す。また、説明のために片方の後輪タイヤ7を除いた平面図を図3に示す。図1に示すように本発明に係る走行玩具用サスペンション装置1において、トレーリングアーム2は、一端が車体4と回動自在に挟持され、もう一端が車軸6と連結し、中央で、圧縮ばね8を介して車体4と上下動可能に配置される。
トレーリングアーム2の一端10は、円筒状に加工されて、さらにこの円筒より小さい半径のブッシュ12が水平方向両側でかつ、進行方向に垂直に突出する(図4)。一方、車体4から立設する2枚の支持壁14の上部にU字型形状に切欠した軸受16が設けられ、この軸受16にブッシュ12が回動自在に軸支される。この軸受16がトレーリングアーム2の作動点となる。ここで、図1では、説明のため車体用カバー18が記載されていないので、図面上は軸受16の上方が開放されているが、実際に本発明に係る走行玩具用サスペンションを搭載した走行玩具が走行するために、車体4上には車体用カバー18が被せられる(図5参照)。このため軸受16上部が閉鎖されてブッシュ12の上部への移動が制限され、軸受16内部の回転のみが可能となる。」(第5頁第7行?第6頁第1行)

4.訂正発明と引用発明との対比
ア.両発明の対応関係
(a)引用発明の「前輪の車軸を支持するシャーシ82」は、訂正発明の「前輪車軸を支持する前輪用シャーシ」に相当し、同様に
「まっすぐな後車軸によって相互に接続された一対の後輪をピボット作用可能に支持するモータポッド96」及び、「モータポッド96に添付され」たリアサスペンション90の「U-形のスプリング92」は、両方で、「後輪車軸を支持する後輪用シャーシ」に、
「モデルカー」は、「自動車玩具」に、
「U-形のスプリング92」の「中央部分の両側部から前方へ延出する2つの部分」は、「後輪用シャーシ」の「両側部から前方へ延出する2つのアーム部」に相当する。
(b)引用発明の「前輪の車軸を支持するシャーシ82」に関し、「リアサスペンション90のU-形のスプリング92」の「中央部分の両側部から前方へ延出する2つの部分」の「前端98及び98’」が「スイベルジョイント100及び100’.のペアによって」、該「シャーシ82」に「ピボット作用可能に添付される」ものであるので、引用発明の「前輪の車軸を支持するシャーシ82」の構成と、訂正発明の「前輪用シャーシは、前記2つのアーム部の各先端部を上下から挟持する上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されている」こととは、「前輪用シャーシは、2つのアーム部の各先端部を固定するように構成され」る点で共通する。
(c)引用発明の「中央部分の両側部から前方へ延出する2つの部分は、前端98及び98’がスイベルジョイント100及び100’.のペアによってシャーシ82にピボット作用可能に添付され」ることと、訂正発明の「2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で前記上部前輪用シャーシと前記下部前輪用シャーシとから挟持されて連結される」こととは、前者が、「リアサスペンション90」の「ガラス繊維等の略平坦なシートで形成され」た「U-形のスプリング92」の部分であるので、両者は、「2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で連結されるとともに、それぞれ弾性部材で形成されサスペンションとして機能する」点で共通する。

イ.両発明の一致点
「前輪車軸を支持する前輪用シャーシと、後輪車軸を支持する後輪用シャーシとを備える自動車玩具において、
前記後輪用シャーシは、両側部から前方へ延出する2つのアーム部を有し、
前輪用シャーシは、2つのアーム部の各先端部を固定するように構成されており、
前記2つのアーム部は、車幅方向に離間した状態で、各先端部が前記前輪用シャーシの両側部で連結されるとともに、
それぞれ弾性部材で形成されサスペンションとして機能する自動車玩具。」

ウ.両発明の相違点
相違点:前輪用シャーシが、訂正発明は「上部前輪用シャーシと下部前輪用シャーシとから構成されており」、2つのアーム部の各先端部を「上下から挟持する」ものであり、2つのアーム部は、「前記上部前輪用シャーシと前記下部前輪用シャーシとから挟持されて」前輪用シャーシの両側部で連結されるものであるのに対して、引用発明はそうでない点。

5.訂正発明の容易推考性の検討
ア.相違点について
(a)刊行物2の記載事項(イ)の「走行玩具」は、訂正発明の「自動車玩具」に相当し、以下同様に
「車体4」は「下部前輪用シャーシ」に、
「車体用カバー18」は「上部前輪用シャーシ」に、
「走行玩具用サスペンション装置」は「サスペンション」に相当する。
(b)そして、刊行物2の記載事項(イ)の「トレーリングアーム2は、一端が車体4と回動自在に挟持され」ることは、「図1では、説明のため車体用カバー18が記載されていないので、図面上は軸受16の上方が開放されているが、実際に本発明に係る走行玩具用サスペンションを搭載した走行玩具が走行するために、車体4上には車体用カバー18が被せられる(図5参照)。このため軸受16上部が閉鎖されてブッシュ12の上部への移動が制限され、軸受16内部の回転のみが可能となる」ものであるので、訂正発明の「上部前輪用シャーシ」と「下部前輪用シャーシ」で、2つのアーム部の各先端部を「上下から挟持する」ことに相当する。
(c)上記刊行物2の記載事項(イ)の各構成は、サスペンション装置の部品の前端を車体4に回動自在に固定する点で、引用発明の「スイベルジョイント100及び100’.のペア」によって「前端98及び98’が・・・シャーシ82にピボット作用可能に添付」した構成と機能が共通するものであり、引用発明の前輪の車軸を支持するシャーシ82(訂正発明の「前輪用シャーシ」に相当するもの)を、刊行物2の記載事項(イ)の「車体4」(訂正発明の「下部前輪用シャーシ」に相当するもの)及び「車体用カバー18」(訂正発明の「上部前輪用シャーシ」に相当するもの)として構成すると共に、引用発明の中央部分から前方へ延出する2つの部分を「シャーシ82にピボット作用可能に添付され」る構成を、刊行物2の記載事項(イ)の「車体4上には車体用カバー18が被せられる(図5参照)。このため軸受16上部が閉鎖されてブッシュ12の上部への移動が制限され、軸受16内部の回転のみが可能となる」様にした「車体4と回動自在に挟持され」る構成として相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ.請求人の主張
(ア)請求人は、平成25年3月6日付け意見書において、上記ア.(b)に関して、
「(3.1)・・・刊行物2の発明では、明細書第8頁第11行目?第12行目に「左右のトレーリングアーム2の挙動の独立性が高まり、例えば、片側車輪にのみ発生する振動をより吸収しやすくなった。」と記載されているように、左右のトレーリングアーム2は挙動の独立性を有しています。また、刊行物2の図3に示すように、各トレーリングアーム2の先端10のブッシュ12は当該先端10の両側で軸受16によって支持されています。そして、各トレーリングアーム2及びブシュ12は剛性の高いものと思料されます。このため、左右のトレーリングアーム2が独立に挙動して、例えば、左右のトレーリングアーム2の一方だけが上動したとき、後輪タイヤ7は車体4の縦軸(前後方向の軸)を中心にローリングを行うこととなります。もし、ローリングを行わないとすれば、左右のトレーリングアーム2の挙動の独立性は確保されません。そして、このローリングを可能とするためには、軸受16の凹部に置かれた剛性を有するブッシュ12が傾動することが不可欠であり、ブッシュ12と軸受16上部を閉鎖する車体用カバー18との間に所定の隙間が存在する必要があります。もし、ブッシュ12と車体用カバー18との間に所定の隙間が存在しないとすれば、ブッシュ12は傾動できず、後輪タイヤ7が車体4の縦軸を中心にローリングを行うことができず、左右のトレーリングアーム2の挙動の独立性は確保されないからです。
このように、刊行物2のトレーリングアーム2においては、そもそも、ブッシュ12に車体4と車体用カバー18とが上下から当接するものとはなっていません。したがって、刊行物2のトレーリングアーム2は上下から挟持されるものではなく、『刊行物2の記載事項(イ)の「トレーリングアーム2は、一端が車体4と回動自在に挟持され」ることは、・・訂正発明1の「上部前輪用シャーシ」と「下部前輪用シャーシ」で、2つのアーム部の各先端部を「上下から挟持する」ことに相当する。』との認定は誤りであると思料します。
(3.2)・・・刊行物2の発明は、後輪タイヤ7のローリングを妨げない程度の隙間を隔てて軸受16上部を車体用カバー18で閉鎖しているに過ぎないものです。この点については、刊行物2の第3頁第2行?3行目に「U字型溝部にブシュを挿嵌させるが、予め車体に立設する支持壁等にO型穴部を設けても同様のことができる。」と記載されているように、ブシュに嵌合して上下動を許さない円形穴部とせず、ブシュのある程度の上下動を許容するO型穴部での代用の可能性を示唆していることからも明らかです。
(3.3)・・・このように軸受16の上部を覆う車体用カバー18が無くても、トレーリングアーム2及び圧縮ばね8はサスペンションとして機能します。・・・
このように考えれば、刊行物2の第5頁第24行目?第6頁第1行目の「このため軸受16上部が閉鎖されてブッシュ12の上部への移動が制限され、軸受16内部の回転のみが可能となる」の表現は、「ブッシュ12が大きく傾動するか浮き上がったとしても、車体用カバー18で上部への移動が制限される結果、ブッシュ12は軸受16内に留まり、軸受16内部でのみ回転する。」の意味に解釈されます。」旨主張しているので、そのことについて検討する。

(イ)まず、請求人は、「(3.1)」で「各トレーリングアーム2及びブシュ12は剛性の高いものと思料されます。」を前提として、「ローリングを可能とするためには、軸受16の凹部に置かれた剛性を有するブッシュ12が傾動することが不可欠であり、ブッシュ12と軸受16上部を閉鎖する車体用カバー18との間に所定の隙間が存在する必要があります。」と主張しているが、通常、玩具の分野において、製品を構成する各部において、しなりや捩れ等が発生することは通常である一方、刊行物2において、「ブッシュ12と軸受16上部を閉鎖する車体用カバー18との間に所定の隙間」が存在することが明記されておらず、さらに、上記前提の「各トレーリングアーム2及びブシュ12」が、ブッシュ12が傾動しなければローリングが不可能となるほどの剛体であるといえる様な記載も発見されない。
そうすると、刊行物2の記載事項(イ)で「ブッシュ12の上部への移動が制限され、軸受16内部の回転のみが可能となる」とされている「挟持」を、「所定の隙間が存在する」ものであるということは適当でない。
(ウ)また、請求人は、「(3.2)」で「ブシュに嵌合して上下動を許さない円形穴部とせず、ブシュのある程度の上下動を許容するO型穴部での代用の可能性を示唆している」とした主張を行っているが、刊行物2において、「円形穴部」なる表現は存在せず、さらに「O型穴部」が「上下動を許容する」ものであることも記載されておらず、むしろ上下に長い開口部を指して「長円形の開口部50」と表現している箇所(第1頁第16?17行)もあることから、請求人の主張を前提として、刊行物2の「挟持」を、「所定の隙間が存在する」ものであるということも適当でない。
(エ)また、請求人は、「(3.3)」で「軸受16の上部を覆う車体用カバー18が無くても、トレーリングアーム2及び圧縮ばね8はサスペンションとして機能」することを前提とした主張を行っているが、仮に、刊行物2の軸受が、ブッシュ12が大きく傾動するか浮き上がっても機能するものであるとしても、そのことをもって、刊行物2の「挟持」を、「所定の隙間が存在する」ものであるということにはならない。
(オ)そうすると、請求人の主張を検討しても、上記ア.(b)の認定を変更する必要は認められない。

ウ.訂正発明の作用効果は、引用発明、及び刊行物2記載の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。

したがって、訂正発明は、引用発明、及び刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

第5 むすび
したがって、本件審判の請求の訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合しないものであるので、訂正事項1を含む本件訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-08 
結審通知日 2013-05-14 
審決日 2013-05-28 
出願番号 特願2011-192342(P2011-192342)
審決分類 P 1 41・ 121- Z (A63H)
P 1 41・ 856- Z (A63H)
P 1 41・ 851- Z (A63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植田 泰輝  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 筑波 茂樹
住田 秀弘
登録日 2011-10-28 
登録番号 特許第4849496号(P4849496)
発明の名称 自動車玩具  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 博司  

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