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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C07F
管理番号 1276739
審判番号 無効2008-800062  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-04-08 
確定日 2013-07-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第1931325号「4?アミノ?1?ヒドロキシブチリデン?1,1-ビスホスホン酸又はその塩の製造方法及び前記酸の特定の塩」(なお、登録原簿には、「・・-1,I-ビスホスホン酸・・」となっているが、「・・-1,1-ビスホスホン酸・・」であることは明らかでる。)の特許無効審判事件についてされた平成21年2月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10180号 平成22年8月19日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1931325号の請求項6、7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1) 本件特許第1931325号に係る出願(特願平2-152494号)は、平成2年6月11日(パリ条約に基づく優先権主張、1989年6月9日,米国)を出願日とする出願であって、出願公告(特公平6-62651号公報)の後、平成7年5月12日に特許権の設定登録がされたものである。
(2) 請求人・日本薬品工業株式会社により平成20年4月8日付けで本件の特許発明に対して無効の審判が請求され、それに対し、被請求人・メルク・エンド・カンパニー・インクズ・エム・エス・ディー・オーバーシーズ・マニユフアクチユアリング・カンパニー(アイルランド)より平成20年8月6日に答弁書が、同年9月11日に上申書が提出された。
(3) 請求人より平成20年11月17日付けで口頭審理陳述要領書及び上申書が提出され、同日に口頭審理が行われた。
(4) 請求人より平成20年12月2日付けで上申書(2)が提出され、これに対して被請求人より平成21年1月5日付けで上申書(2)が提出された。
(5) 平成21年2月25日付けで特許第1931325号の請求項6,7に係る発明についての特許を無効とするとの審決がされたが、平成22年8月19日に審決を取消すとの判決があり、平成23年1月14日に確定した。

2.本件特許発明
本件特許第1931325号の請求項6、7に係る発明は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項6、7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項6】 4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸モノナトリウム塩トリハイドレートを有効成分として含む、骨吸収を伴う疾病の治療及び予防のための固体状医薬組成物。
【請求項7】 錠剤である請求項6記載の固体状医薬組成物。」

3.請求人の主張
これに対して請求人は、「特許第1931325号の特許請求の範囲の請求項6及び請求項7に記載の発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めて審判を請求し、次の無効理由を主張している。
1)本件の請求項6と請求項7に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(無効理由1)
2)本件特許の出願明細書の発明の詳細な説明には、請求項6と7に係る各発明について、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成が記載されていないから、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(無効理由2)
3)本件の請求項6と請求項7に係る各特許発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(無効理由3)
4)本件の請求項6と請求項7に係る各特許発明は、甲第7号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(無効理由4)

(なお、審判請求書には、前記1),3),4)について「123条第1項第1号に該当し」と、2)について「123条第1項第3号に該当し」と記載しているが、それぞれ、123条第1項第2号123条第1項第4号の誤記であることは明らかである。)
そして、証拠方法として、下記の甲第1号証?甲第15号証を提出している。



甲第1号証:特開平3-101684号公報
甲第2号証:平成6年3月4日に提出の手続補正書
甲第3号証:平成6年3月4日に提出の意見書
甲第4号証:特表平8-506092号公報
甲第5号証:特開昭58-189193号公報
甲第6号証:実験証明書
甲第7号証:ベルギーのアントワープの第3回医薬品分析の国際シンポジ
ウムにおいて頒布された要旨集の106頁(表紙と訳文添付)
甲第8号証:甲第7号証の要旨集の頒布を証明する署名入り証明書
(訳文添付)
<以上、審判請求書に添付>
甲第9号証:「日本化学会編 実験化学講座 基礎技術II」
(昭和39年9月10日発行)の23?30頁
甲第10号証:追加実験証明書
甲第11号証:示唆熱分析チャート
<以上、平成20年11月17日付け口頭審理陳述要領書に添付>
甲第12号証:「岩波 理化学辞典 第4版」
の386頁と1368頁および奥付
甲第13号証:特開昭62-228091号公報
甲第14号証:特公昭60-4188号公報
甲第15号証:特表昭61-503034号公報
<以上、平成20年12月2日付け上申書に添付>

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件の審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めて、その理由として、審判請求人の無効理由1?4は、理由がなく失当である旨を主張している。
そして、証拠方法として、下記の乙第1号証?乙第18号証を提出している。



乙第1号証:「新・薬剤学総論」
(1984年11月5日発行、南江堂)の抜粋
乙第2号証:実験報告書
<以上、答弁書に添付>
乙第3号証:「見解書」(2008年9月2日付け,平沢泉教授)
<以上、平成20年9月11日付け上申書に添付>
乙第4号証:米国特許第4,407,761号明細書
乙第5号証:「実験化学講座」512頁?514頁及び奥付
乙第6号証:「見解書」(2008年12月25日付け,平沢泉教授)
乙第7号証:「フィーザー有機化学実験」の目次、33頁?44頁、
索引及び奥付
乙第8号証:「新版 基礎有機化学実験 その操作と心得」の目次、
115頁?134頁、索引及び奥付
乙第9号証:「実験化学ガイドブック」の目次、117頁?133頁、
186頁?190頁、索引及び奥付
乙第10号証:「化学実験法」の目次、1頁?11頁、79頁?90頁、
102頁?106頁、索引及び奥付
乙第11号証:「化学実験操作書」の目次、44頁?63頁、
115頁?123頁、索引及び奥付
乙第12号証:米国特許第4,639,338号明細書
乙第13号証:特開昭63-23889号公報
乙第14号証:特開昭64-34993号公報
乙第15号証:カナダ国特許第1100874号明細書
乙第16号証の1:欧州特許出願公開第0200980号明細書(A1)
乙第16号証の2:欧州特許第0200980号明細書(B1)
乙第17号証:4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホ
スホン酸に構造的に類似するビスホスホン酸ナトリウム塩
水和物についての調査報告書
乙第18号証:1989年6月9日以前に公開されたビスホスホン酸ナト
リウム塩水和物の製造に関する特許文献の抜粋
<以上、平成21年1月5日付け上申書に添付>

5.当審の判断
無効理由4について、本件請求項6、7に係る発明を無効とした平成21年2月25日付け審決は、知的財産高等裁判所において審決取消の判決があり確定した。
そこで、無効理由3について検討する。

(1) 請求人が主張する無効理由3の概要は次のとおりである。
請求項6と7の医薬組成物の有効成分のフリー体に相当する4‐アミノ‐1‐ヒドロキシブチリデン‐1,1‐ビスホスホン酸は、骨の吸収阻害作用を有する医薬成分として本件特許の出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開昭58‐189193号公報(公開日:昭和58年(1983年)11月4日))に記載されている。
フリー体をモノナトリウム塩とすることは、甲第5号証から容易であり、そのモノナトリウム塩を製造すると、特に意図することなくても、自然にモノナトリウム塩トリハイドレートが得られることは、甲第6号証(実験証明書)に示されるとおりである。
したがって、請求項6と7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2) 甲第5号証の記載事項
本件優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭58-189193号公報には、次の事項が記載されている。(以下、下線は、当審で付加したものである。)
(ア)「8 一般式(I):


(式中、Rはフッ素原子または1?5個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖状の置換または未置換アルキル基であり、置換されているばあいは少なくとも1個のフッ素原子および(または)アミノ基で置換されており、R^(1)はヒドロキシル基またはフッ素原子である)で示されるバイホスホネートを有効成分とする尿石症治療作用および骨の再吸収阻害作用を有する医薬。
9 経口投与に適した形に製剤されてなる特許請求の範囲第8項記載の医薬。」(特許請求の範囲)
(イ)「さらに、縮合ホスフエートはリン酸カルシウムが非結晶系から結晶系へ形態変化(transformation)する際に、非結晶系の形成に影響を及ぼさずに該形態変化を阻止する。in vitroにおいてパイロホスフエート(以下、PPという)が生体濃度にほぼ匹敵する濃度のリン酸カルシウムに対して及ぼす顕著な効果から、PPは軟組織(soft tissue)の鉱質化(mineralization)を防ぐものと考えられる。骨においても、PPはカルシウム沈着の進行を調整し、それによってカルシウムやホスフエートの形態変化に影響している。<中略>
PPに関連する興味ある性質に鑑みて、PPと類似の活性を有し、しかも加水分解に耐性のある物質を製造する目的で検討がなされてきた。叙上の目的は、PPのP-O-P結合の代わりにP-C-P結合を有するバイホスホネートを製造することで一部達成された。バイホスホネートのカルシウム塩に対する作用はPPのそれと類似したものであり、低濃度でも以下に示す反応を阻害する。すなわち、リン酸カルシウム溶液中からリン酸カルシウムが沈殿するのを阻害し、非結晶形のリン酸カルシウムの生成を阻害することなくリン酸カルシウムの非結晶形から結晶形への形態変化を阻害し、ヒドロキシアパタイトの結晶の凝集を阻害し、ヒドロキシアパタイトが溶液中からバイホスホネートを吸収した後で該ヒドロキシアパタイトの結晶の分解を阻止する。
しかしながら、種々の薬理試験および臨床試験の結果から、今日までに骨障害(osteopathia)に使用されてきたバイホスホネートはPPと類似の作用を有しているが、そのうちいくつかは動物に投与したばあいの毒性、ヒトに投与したばあいの耐性もしくは副作用に関して重篤な障害を示した。
本発明者らは、さらに種々検討を重ねた結果、一般式(I):


(式中、RおよびR^(1)は前記と同じ)で示されるバイホスホネートまたはそのアルカリ金属、有機塩基または塩基性アミノ酸との塩が尿石症の治療作用および骨の再吸収を阻害する作用を有しており、しかも前記のPPに関して述べた副作用がないため非常に好ましいものであることを見出した。」(2ページ頁左下欄13行?3ページ右上欄5行)
(ウ)「実施例3
(4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-バイホスホン酸の製造)
4-アミノ酪酸1モル、亜リン酸1.5モルおよび無水クロロベンゼン500ccを混合し、100℃まで加熱したのち、100℃に温度を保って撹拌下に三塩化リン1.5モルを加えた。えられた反応混合物を、濃密な相が完全に形成されるまでさらに100℃で約3時間半撹拌した。冷却後、えられた固体状物質を"ろ"過(審決注:"ろ"は"さんずいに戸"。以下「ろ過」と表記する。)し、少量のクロロベンゼンで洗浄したのち、水に溶解させた。えられた水溶液を沸点で1時間加熱し、ついで冷却したのち、活性炭で脱色し、ろ過した。えられたろ液に過剰の温メタノールを加えて析出する粗成物を20%塩酸中で8時間加熱還流し、塩酸を留去したのち残渣を水から再結晶して白色結晶状粉末の目的の化合物をえた。
つぎにえられた目的化合物の構造式および特性値を示す。
構造式:



元素分析値:C_(4)H_(13)NO_(7)P_(2)
実測値(%):C17.88 H5.62 N4.93 P23.94
理論値(無水物として) (%):C19.28 H5.26 N5.64 P24.86
理論値(一水和物として)(%):C17.98 H5.66 N5.24 P23.19
含水量の定量
カール-フイツシヤー(Karl-Fischer)法にしたがつて含水量を調べた結果、3.9重量%であつた。
電位差滴定
えられた目的化合物203mgを水75ccに溶解した溶液に0.1NNaOH水溶液を加えて電位差滴定曲線を作成した。該滴定曲線は、0.1NNaOHをそれぞれ7.5ccおよび15.2cc加えたpH4.4およびpH9の2点にみられる明白な滴定の終点(end point)によって特徴づけられるものであつた。これらの値から計算すると、最初の中和点からは270当量、第2の中和点からは264当量が導かれ、平均すると267当量となった。なお目的化合物(以下、ABDPという)の一水和物であるABDP・H_(2)Oの分子量は267.114である。
コンプレクソ滴定
目的化合物41.47mgと硝酸トリウムを用いてコンプレクソ滴定を行なつた。試薬5.4ccを加えると色の変化が生じることから供試化合物が134当量であることがわかり、この値は目的化合物の一水和物の分子中にホスホン基が2つ存在することと合致した。」(4ページ右下欄1行?5ページ右上欄13行)
(エ)「実施例5
(5-アミノ-1-ヒドロキシ-ペンタン-1,1-バイホスホン酸の一ナトリウム塩の製造)
5-アミノ-1-ヒドロキシペンタン-1,1-バイホスホン酸263gを水1lに懸濁させた懸濁液に水酸化ナトリウム40gを含有する水溶液500ccを冷却下に加えた。活性炭で脱色したのちろ過し、えられた透明な溶液を穏かに撹拌しながら3日間低温下に保った。えられた結晶状の固体をろ過し、少量の冷水ついでメタノールで洗浄し、110℃で乾燥して目的の一ナトリウム塩199gをえた。」(6頁左上欄5?16行)
(オ)「〔毒性試験〕
本発明の化合物のうち4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-バイホスホン酸(以下、AHBuBPという)、5-アミノ-1-ヒドロキシペンタン-1,1-バイホスホン酸(以下、AHPeBP)およびジフルオロメタンバイホスホン酸(以下、F2MBPという)のナトリウム塩を用いて毒性試験を行なつた。」(6ページ左下欄13?末行)
(カ)「叙上の結果から明らかなように、バイホスホネートのアミノ誘導体において、奇数個の炭素原子を有するものはいくらか毒性はあるが骨の再吸収阻害作用が比較例に比してきわめて強く、また偶数個の炭素原子を有するものの骨の再吸収阻害作用はCl_(2)MBPに比してわずかに強かつた。また骨の鉱質化に関しては、AHExBPが顕著な阻害作用を示したのに対し、AHBuBPは高投与量でもほとんどあるいはほんのわずかしか阻害作用を示さなかった。以上のことから、AHBuBPはヒトの骨の再吸収が増加する疾患により好適に利用することができた。一方、F_(2)MBPは骨再吸収にも骨鉱質化にも何ら影響を与えないが、in vitroにおけるアパタイト結晶の成長を阻害することから、尿石症の治療に好適に用いることができた。事実、長年にわたって骨に悪影響を与えずに結晶の成長を阻害することができるバイホスホネートが研究の主題となっていたが、F_(2)MBPを尿石症治療薬として用いることによって叙上の問題は解決された。(10頁左下欄10?右下欄9行)
(キ)「本発明のバイホスホネートを有効成分とする医薬はカプセル剤、錠剤、経口投与用または全身投与用液剤の形で用いられる。また本発明の医薬は不活性担体、たとえば糖(サツカロース、グルコース、ラクトース)、スターチ、セルロース、ゴム、脂肪酸およびその塩、ポリアルコール、タルク、芳香族エステルなどと組合せて好適に製剤される。本発明の医薬の投与量は、経口投与のばあい25?3200mg/日、非経口投与のばあい15?300mg/日である。投与期間は7日?3カ月で、必要に応じてくり返し投与される。」(10頁右下欄10?末行)

上記(ア)、(オ)?(キ)によれば、甲第5号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-バイホスホン酸を有効成分として含む尿石症治療作用および骨の再吸収阻害作用を有する医薬製剤。」

(3) 対比
そこで、本件の請求項6及び7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明6」,「本件発明7」といい、両者を区別しないで「本件発明」ということがある。)と引用発明を対比する。

甲第5号証には、AHBuBP(4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-バイホスホン酸)はヒトの骨の再吸収が増加する疾患により好適に利用することができた(上記カ)のであるから、「骨吸収を伴う疾病の治療及び予防に用いられることは明らかであって、4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-バイホスホン酸は4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸と同一化合物であることは明らかである。
また、甲第5号証には、製剤の例として「錠剤」が記載されており(上記キ)錠剤は固体製剤であることは明らかである。

本件発明6は、「4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸を有効成分として含む、骨吸収を伴う疾病の治療及び予防のための固体状医薬組成物。」である点で、引用発明と一致する。
また、本件発明7は、上記固体状医薬組成物が錠剤である点で、引用発明と一致する。

一方、有効成分が、本件発明6及び7では、「4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸モノナトリウム塩トリハイドレート」であるのに対し、引用発明では「4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸」であって、モノナトリウム塩トリハイドレートである点について特定されていない点で相違する。

(4) 相違点についての判断
以下、上記相違点について検討する。

(4.1) 最初に、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸(以下、「フリー体」という。)をモノナトリウム塩とする点について検討する。
フリー体は、2個のホスホン酸基を有する化合物であるから、1価のアルカリ金属との塩にはモノ塩?テトラ塩が存在しうることは明らかであり、また、このような酸性基を有する酸性の化合物を医薬として用いる際に、適当な塩基によって中和して塩とすることは慣用手段である。

甲第5号証には、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸203mgを水75ccに溶解した溶液に0.1NNaOH水溶液を加えて電位差滴定した結果、7.5cc及び15.2cc加えたpH4.4と9に明白な滴定の終点があることが記載されている。(上記ウ)
フリー体のモノ水和物の分子量は267.114であるから、203mgは約0.76mmolに相当し、0.1NNaOH 7.5cc、15.2ccにはそれぞれ、0.75mmol、1.52mmolのNaOHが含まれ、0.75÷0.76≒1、1.52÷0.76=2であるから、pH4.4の終点がモノナトリウム塩、pH9の終点がジナトリウム塩に相当することは明らかである。
そうすると、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸の水溶液のpHは、モノナトリウム塩で約4.4、ジナトリウム塩で約9となることを当業者が予測しうるから、甲第5号証における「フリー体」をモノナトリウム塩とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

被請求人は、平成21年1月5日付け上申書(2)において、「そもそも、本件優先日当時、当業者が、本件フリー体から、わざわざそのモノナトリウム塩を製造しようとする動機がないことに留意すべきである。請求人は、本件フリー体のジナトリウム塩ではなく、モノナトリウム塩を製造する必然性について、何ら証拠を示していない。」と主張する(9ページ19?22行)。
しかし、上記のとおりモノナトリウム塩とすることは甲第5号証の記載事項から当業者が適宜なし得る事項であって、その水溶液のpHが中庸な値となることは甲第5号証から予測しうる事項であるから、上記被請求人の主張を採用することはできない。

(4.2)次に、トリハイドレートとする点について検討する。
甲第5号証には、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸のモノナトリウム塩にトリハイドレートが存在することを示唆するような記載事項はない。
この点について、本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である乙第12号証?乙第16号証の1、及び、甲第15号証の記載事項について検討する。

乙第12号証?乙第16号証の1、及び、甲第15号証には、次の事項が記載されている。

[乙第12号証](米国特許4,639,338号明細書:1987年6月27日)
(英文であるため訳文で示す)
(い)「中和を例えば米国特許第4.304,734号明細書に記載されている同族体6-アミノ-1-ヒドロキシ-ヘキサン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムの製造方法に従って実施する(比較例1)場合、無定形生成物が得られ、これは減圧下に約60℃で恒量になるまで乾燥した後にもなお吸湿性を有する、即ち、環境湿度に依存して変化する水分量を吸収する。これにより、腸管内、例えば経口投与に適当な医薬製剤に加工することは極めて困難になり、このような製剤の貯蔵安定性は著しく損なわれる。」
(1欄49?62行)
(ろ)「例えば、3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムの水溶液を約75℃で著しく濃縮し、生成物を徐々に冷却することによって約45℃?約0℃の温度範囲で晶出させ、吸引ろ過し、減圧下に室温で恒量になるまで乾燥すると(比較例2)、そのX線粉末回折図の特性により“形態B”として示される結晶形の3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムが得られる。同様に操作するが、乾燥を約120℃で行うと(比較例3)、ほとんど無水の、“形態A”として示される別の結晶形態が得られる。
再び同様に操作するが、約70?80℃で濃縮した後、エタノールを添加し、冷却しながら結晶させ、減圧下に約120℃で恒量になるまで乾燥すると(実施例5、出発原料)、僅かに結晶性の”形態C”が得られる。これらの形態はいずれも、腸管内、例えば経口投与する医薬有効成分に必要な貯蔵安定性を有しない。更に、前記の方法はいずれも、少なくとも半工業的規模での再現は不可能である。
まず、結晶形成を最低50℃で起こし、乾燥を常温又は温度を僅かに高めて行うか、又は水分の少ない固体形態の3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムを水で処理すると、貯蔵安定性で、結晶水を含む結晶形態(以下に、“形態E”と示す)で3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムが得られるという意外な確認が必要であった。」(2欄4?41行)
(は)「3-アミノ-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホネートジナトリウムの形態Eは、約24.1から約24.5重量%、すなわち、分子1モル当たり約5モルの水を含む。したがって、結晶化学によれば5水和物であることが推測される。」(2欄51?56行)
(に)「比較的少ない水を含む3-アミノ-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホネートジナトリウムの固体形態としては、例えば、約24重量%未満の結晶水を含有する結晶性固体形態があり、特に、実質的に無水である3-アミノ-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホネートジナトリウム(形態A)及び、結晶水を含む形態Cがある。」(3欄34?41行)
(ほ)「実施例1
実質的に無水の3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウム74.2gを75℃に加熱した水浴中で攪拌しながら脱イオン水500m1中に溶かす。減圧下に、結晶化が開始するまで(約375m1の水が溜出した後に行われた)、徐々に濃縮し、攪拌しながら徐々に室温まで冷却する。一夜放置した後、水浴中で1時間攪拌し、吸引ろ過し、少量の氷冷水で洗浄し、室温で約20mbarで恒量になるまで乾燥する。こうして3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムを結晶水を含む新規結晶形態(形態E)の形で得る。」(10欄31?48行)

[乙第13号証](特開昭63-23889号公報)
(へ)「例7
例1より製造されたジホスホン酸500mgを水5m1に懸濁し、1Nカ性ソーダ溶液2.68m1で溶解し、わずかに濃縮し、アセトン中へ注ぐことにより結晶させる。このようにして二ナトリウム塩の78%=440mgが1-ヒドロキシ-3-(N,N-ジフェニル-アミノ)プロパン-1,1-ジホスホン酸の一水和物の形で得られる。融点は300℃より上である。」(11ページ右下欄13行?12ページ左上欄1行)

[乙第14号証](特開昭64-34993号公報公報:公開日は平成元年2月6日。)
(と)「実施例1
4-エチル-4-メチル-3-オキソ-1-アミノヘキサン-1,1-二ホスホン酸(II)〔R^(2)=R^(3)=CH_(2)CH_(3)、R^(4)=CH_(3)〕0.20モル(63.4g)を2N塩酸600ml中に懸濁させ、得られた懸濁液に、亜硝酸ナトリウム0.8モル(55.2g)の水1104ml中溶液を50℃で撹拌しながら7時間かけて滴加した。2-エチル-2-メチル酪酸が有機相として形成され、それをエーテル抽出した。さらに処理する前に、未使用亜硝酸をヒドラジンを用いて除去した。回転式蒸発器内で水相を約300mlに濃縮し、水酸化ナトリウムでpH9のアルカリ性にした。ヒドロキシアセトニトリル二ホスホン酸(I:M=Na)の四ナトリウム塩を、冷溶液から、八水和物として晶出した。収率は65%(収量58.4g)であった。」(6ページ左下欄7行?右下欄2行)

[乙第15号証](カナダ国特許第1100874号明細書:1981年5月12日発行)
(英文であるため訳文を示す)
(ち)「特に好ましいジェミナルジホスホネートであるエタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸は、分子式CH_(3)C(OH)(PO_(3)H_(2))_(2)(基による命名法によれば、この酸は1-ヒドロキシエチリデンジホスホン酸と称することも出来る。
この酸の最も容易に結晶化できる塩は、酸の水素の2個または3個をナトリウムで置換した場合に得られる。本発明の目的にとって好ましい塩は、下記の構造式を有する三ナトリウム水素塩及び二ナトリウム水素塩である。
<式省略>
該三ナトリウム水素塩は通常六水和塩として晶出し、このものは空気乾燥中に、いくらかの水を失って平均3?4分子の水和水を有するヘキサおよびモノハイドレートの混合物を生じる。」(12ページ13行?13ページ5行)

[乙第16号証の1](欧州特許出願公開200980号明細書:1986年11月12日発行)
(英文であるため訳文を示す)
(り)「反応混合物を冷却し、活性炭で処理し、ろ過して、濁るまで暖めて濃縮させた。次いで、結晶化し、最初のものと合わせた生成物を回収した。乾燥させた後、化学式が、Cl_(2)C(PO_(3)HNa)_(2)・4H_(2)Oである、ジクロロメチレンジホスホン酸2ナトリウム4水和物塩41.5gを得た。」(3ページ28行?4ページ4行)

[甲第15号証](特表昭61-503034号公報)
(ぬ)「実施例19
二ナトリウム(フェノキシメチレン)-ビスホスホネート (フェノキシメチレン)-ビスホスホン酸(53g)の水(300ml)溶液を2N水酸化ナトリウムで滴定し、pH5.5とした。アセトン(150ml)を加えて標題化合物を沈澱させた。結晶塩を濾過し、アセトンで洗った。室温で、水酸化カリウムを用いて減圧乾燥し、四水和物の形で標題化合物を得た。
微量分析: <中略>
60℃で減圧乾燥すると、一水和物が得られた。
微量分析: <略>」(9ページ右上欄13行?左下欄7行)

上記各刊行物に記載された化合物は、いずれも、P-C-P結合を有するバイホスホネートである点で引用発明のバイホスホネートと共通する構造を有するものであって(上記(イ)参照)、これらのバイホスホネート(ジホスホネート、二ホスホネート、ビスホスホネートと同義である。)化合物には、無水物(乙第12号証における形態A)から6水和物(乙第15号証のヘキサハイドレート)まで、さまざまな水和物が存在し、また、安定性についても安定なもの(乙第12号証の形態E)から、空気乾燥中に一部の結晶水を失って混合物となるもの(乙第15号証参照)、吸湿性の無定形生成物しか生成しないもの(乙第12号証 (い)参照)があることが知られている。
引用発明のバイホスホネートと類似するバイホスホネートにおいて様々な水和物が存在することから、引用発明のバイホスホネートのモノナトリウム塩に三水和物(トリハイドレート)が存在することは予測できないとしても、何らかの水和物の形態が存在し得ることは当業者が容易に推考できるといえる。
そして、引用発明のバイホスホネートを錠剤等の固形製剤に用いるには、該化合物が安定な形態であることが要求されることは明らかであるから、当業者であれば、該化合物について、どのような水和物が存在するのか、また、その水和物が安定であるのか調査しようとすることは当然である。
また、乙第12号証における形態Eの生成条件からみて、本件実施例1における水和物の生成条件が特殊なものであるということはできない。
そうすると、本件発明のトリハイドレートは、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸のモノナトリウム塩を製造する際に、普通に採用される条件で生成した結晶がトリハイドレートであることを確認したものということができる。
一方、本件特許明細書には、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸のモノナトリウム塩トリハイドレートを有効成分として用いることによる具体的な効果については何ら記載されておらず、4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸のモノナトリウム塩トリハイドレートが無水物や他の水和物と比べて顕著な効果を奏するものということもできない。
してみれば、本件発明は、その優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ところで、被請求人は、甲第6号証の実験における乾燥条件(40℃8時間)は、本件発明を知っての上での意図的に選ばれた条件であって、本件優先日当時の乾燥条件は、本件発明の化合物と類似する5-アミノ-1-ヒドロキシ-ペンタン-1,1-バイホスホン酸の一ナトリウム塩の製造における110℃(上記(エ)参照)が普通である旨主張している。(答弁書13ページ4行?25行、上申書2ページ、上申書(2)の10ページ)
しかしながら、乙第12号証には、3-アミノ-1-ヒドロキシ-プロパン-1,1-ジホスホン酸ジナトリウムの場合、120℃で乾燥した場合には無水物が得られ、室温で乾燥した場合には5水和物が得られたことが(上記(ろ)、(ほ)参照)、甲第15号証には、二ナトリウム(フェノキシメチレン)-ビスホスホネートの場合、60℃では一水和物が、室温では四水和物が得られたことが記載されている。(上記(ぬ)参照)
してみれば、バイホスホン酸塩の場合、100℃以上の高温で乾燥すれば、仮に水和物が生成していたとしても乾燥中に結晶水が失われることは明らかである。
そうすると、本件実施例1や甲第6号証の実験における40℃という乾燥温度は、当業者が特に意図することなく普通に採用する温度であるということができるから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

また、被請求人は、「本件特許明細書には、ビスホスホン酸については、色、形態、外観が、澄んだ、結晶の白粉(実施例4)であるのに対し、モノナトリウム塩トリハイドレートの色、形態、外観は、細かく白い、自由に流れる結晶粉」(実施例2)と記載されていることから、モノナトリウム塩トリハイドレートの結晶粉が、ビスホスホン酸の結晶粉に比べて非吸湿性が高く、錠剤等の製剤調製において取扱いが容易であるという有利な効果を持つ」旨主張している。(答弁書11ページ下2行?12ページ8行)
しかしながら、上記表記の使い分けから、モノナトリウム塩トリハイドレートの非吸湿性が高いという効果を読み取ることはできず、本件特許明細書にモノナトリウム塩トリハイドレートの有利な効果について記載されているとすることはできないから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(5) まとめ
上記のとおり、本件の請求項6及び7に係る特許発明は、いずれも、その優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきものである。

なお、請求人から平成23年4月28日付けで上申書が提出されているが、その内容について検討しても、上記結論を左右するものではない。
また、上記のとおり理由1及び2について検討するまでもなく、本件特許は理由3によって無効とされるべきものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項6及び7に係る特許発明は、いずれも、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-30 
結審通知日 2011-06-02 
審決日 2011-06-17 
出願番号 特願平2-152494
審決分類 P 1 123・ 121- Z (C07F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 荒木 英則
内田 淳子
登録日 1995-05-12 
登録番号 特許第1931325号(P1931325)
発明の名称 4?アミノ?1?ヒドロキシブチリデン?1,1-ビスホスホン酸又はその塩の製造方法及び前記酸の特定の塩  
代理人 黒田 薫  
代理人 小林 純子  
代理人 北原 潤一  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 柳川 泰男  
代理人 片山 英二  
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