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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1276830
審判番号 不服2012-17846  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-12 
確定日 2013-07-18 
事件の表示 特願2006-514749「半導体発光装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月29日国際公開、WO2005/124952〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年6月15日(優先権主張2004年6月18日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成23年9月6日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月10日に手続補正がなされたが、平成24年6月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成24年9月12日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年9月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項1については、
本件補正前(平成23年11月10日付け手続補正後のもの)に、
「基板と、
前記基板に形成された第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、一部が電流狭窄構造としてリッジ形状となっている第2導電型の第2クラッド層と
を有し、
前記リッジ形状の部分の前記第2クラッド層が、前記活性層に近い側である第1リッジ形状層と、活性層から遠い側である第2リッジ形状層を含み、
前記第1クラッド層のバンドギャップと前記第2リッジ形状層のバンドギャップが、前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分のバンドギャップおよび前記第1リッジ形状層のバンドギャップより低いプロファイルである
半導体発光装置。」とあったものを、

「基板と、
前記基板に形成された第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、一部が電流狭窄構造としてリッジ形状となっている第2導電型の第2クラッド層と
を有し、
前記リッジ形状の部分の前記第2クラッド層が、前記活性層に近い側である第1リッジ形状層と、活性層から遠い側である第2リッジ形状層を含み、
前記第1クラッド層のバンドギャップと前記第2リッジ形状層のバンドギャップが、前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分のバンドギャップおよび前記第1リッジ形状層のバンドギャップより低いプロファイルであり、
前記第1リッジ形状層のアルミニウムの組成比X1が0.60≦X1≦0.70であり、
前記第1リッジ形状層の膜厚が50?400nmであり、
前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分の膜厚が50?350nmである
半導体発光装置。」と補正する内容を含むものである(なお、下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

2 補正目的
(1)本件補正後の請求項1についての上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「第1リッジ形状層」の組成及び膜厚並びに「第2クラッド層」の膜厚を特定するものであるから「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

(2)よって、本件補正後の請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認め得るから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明を再掲すると、以下のとおりのものである。
「基板と、
前記基板に形成された第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、一部が電流狭窄構造としてリッジ形状となっている第2導電型の第2クラッド層と
を有し、
前記リッジ形状の部分の前記第2クラッド層が、前記活性層に近い側である第1リッジ形状層と、活性層から遠い側である第2リッジ形状層を含み、
前記第1クラッド層のバンドギャップと前記第2リッジ形状層のバンドギャップが、前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分のバンドギャップおよび前記第1リッジ形状層のバンドギャップより低いプロファイルであり、
前記第1リッジ形状層のアルミニウムの組成比X1が0.60≦X1≦0.70であり、
前記第1リッジ形状層の膜厚が50?400nmであり、
前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分の膜厚が50?350nmである
半導体発光装置。」

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-251678号公報(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある。

ア 「【請求項2】 活性層の上方に、リッジ部を有するAlGaInPからなるクラッド層を備えた半導体レーザにおいて、前記リッジ部の主要部を第1の層と、その上に位置する第2の層によって構成し、前記第1の層をAl組成比率が前記第2の層よりも大きい層によって構成したことを特徴とする半導体レーザ。」

イ 「【0002】
【従来の技術】従来、ストライプ状のリッジ部を備えるこの種の半導体レーザは、例えば特開平6-260716号公報等に示されるように、活性層の上に配置するクラッド層を順メサストライプ形状にエッチングすることによって、電流通路(光導波路)を構成するストライプ状のリッジ部を形成しているとともに、このリッジ部の両側面を埋めるように電流ブロック層を形成している。
【0003】ところで、半導体レーザを光ディスク等の光源に用いる場合は、アスペクト比の小さいものが望まれている。アスペクト比を小さくするための一つの手法として、前記リッジ部の幅を狭くすることが知られているが、リッジ部の幅を狭くしようとすると、リッジ部の上部の幅も狭くなる。リッジ部は、電流通路として機能するので、リッジ部の幅が狭くなると、活性層へ流れる電流が少なくなり、動作電圧が高なるという問題が生じる。」

ウ 「【0009】図1は、赤色半導体レーザ1の断面図を示している。この図において、2はn型GaAsからなる半導体基板であり、この基板2の上にGaInPからなるバッファ層3、n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなるn型クラッド層4、井戸層としてGaInPを備えるAlGaInP系の多重量子井戸型活性層5が順次形成されている。活性層5の上には、p型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第1のp型クラッド層6、必要に応じてp型GaInPからなるストップ層7が形成されており、この上の中央部には、リッジ部の第1層を構成するp型Al_(0.5)In_(0.5)Pからなる第2のp型クラッド層8、リッジ部の第2層を構成するp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第3のp型クラッド層9が形成されてストライプ状のリッジ部10が形成されている。第2のp型クラッド層8によって構成するリッジ部10の第1層の傾斜角度aは、第3のp型クラッド層9によって構成するリッジ部10の第2層の傾斜角度bより大きくなるように設定している。リッジ部10の上には、p型GaAs(あるいはp型GaInPを介在したp型GaAs)からなるキャップ層11が形成されている。
【0010】これらリッジ部10並びにキャップ層11の両側面は、n型GaAsからなるブロック層12で埋め込まれている。さらに、キャップ層11及びブロック層12の上には、p型GaAsからなるコンタクト層13が形成されており、コンタクト層13の上面にはp型電極14が、基板2の下面にはn型電極15が各々オーミック接触して形成されている。
【0011】次に、上記半導体レーザ1の製造方法を図2?3を参照して説明する。まず、基板2上に、例えばMOCVD法(有機金属気相成長法)により、バッファ層3(膜厚0.3μm)、n型クラッド層4(膜厚0.8μm)、活性層5(合計膜厚0.03?0.1μm)、第1のp型クラッド層6(膜厚0.3μm)、ストップ層7(膜厚0.02μm)、第2のp型クラッド層8(膜厚0.3μm)、第3のp型クラッド層9(膜厚0.5μm)、キャップ層11(膜厚0.3μm)を順次積層して形成する(図2(a)参照)。
【0012】次に、キャップ層11上に電子ビーム蒸着法やCVD法によりSiO_(2)膜を形成し、それをパタ-ニングしてストライプ状のマスク16を形成する(図2(b)参照)。
【0013】次に、キャップ層11をエッチングするためのエッチング液、例えば燐酸/過酸化水素系のエッチング液を用いてマスク16にて覆われていない部分のキャップ層11を除去した後、Al組成の高い程エッチングレートが高いエッチング液、例えば塩酸(HCL)を用いてマスク16にて覆われていない部分の第3のp型クラッド層9、第2のp型クラッド層8を除去してストライプ状のリッジ部10を形成する(図2(c)参照)。ここで、リッジ部10の第1層を構成する第2のp型クラッド層8は、リッジ部10の第2層を構成する第3のp型クラッド層9よりもAl組成が高いので、図1に示すように、第2のp型クラッド層8の傾斜角度aが第3のp型クラッド層9の傾斜角度bよりも大きくなる。したがって、リッジ部10を第3のp型クラッド層9と同じ組成の層のみで構成していた従来構造に比べて、リッジ部10の上部の幅を同じに保ったままリッジ部10の下部の幅を狭く設定することができる。
【0014】次に、MOCVD法によりn型GaAsを成長させてブロック層12(膜厚1μm)を形成する(図3(a)参照)。そして、マスク16を除去した後、MOCVD法によりp型GaAsを成長させてコンタクト層13を形成する(図3(b)参照)。次に、コンタクト層13の上面にp型電極14を、基板2の下面にn型電極15を蒸着法などによって各々形成するとともに、オーミック接触させる(図3(c)参照)。
【0015】このようにして半導体レーザ1が製造されるが、リッジ部10の上部の幅を従来と同じに保つので動作電圧の上昇を招くことがなく、また、リッジ部10の下部の幅を従来に比べて狭くすることができ、レーザ出射光の水平広がりを大きくした、すなわち、アスペクト比の小さな半導体レーザを提供することができる。」

エ 「【0016】尚、上記実施例は、リッジ部10の第1層をp型Al_(0.5)In_(0.5)Pによって構成した場合を示したが、この層はリッジ部10の第2層をエッチングする薬品に対してリッジ部10の第2層よりもエッチングレートが高いもので構成すればよく、例えば、第3のp型クラッド層9よりもAl組成比率が高いp型(Al_(0.8)Ga_(0.2))_(0.5)In_(0.5)Pやp型(Al_(0.9)Ga_(0.1))_(0.5)In_(0.5)P等によって構成してもよい。」

オ 「【0017】また、上記実施例では、第1のp型クラッド層6の上にストップ層7を設けた場合を示しているが、第1のp型クラッド層6と第2のp型クラッド層8はAl組成比率が相違し、第1のp型クラッド層6のエッチングレートが第2のp型クラッド層8よりも低いので、この第1のp型クラッド層6をエッチングストップ層として機能させることにより、光吸収性のp型GaInPからなるストップ層7を不必要にすることができる。このように、第1のp型クラッド層6の上に直接第2のp型クラッド層8を形成すれば、光取出効率を高めることができる。」

カ 図1は、以下のものである。


(3)引用文献に記載された発明
ア 上記(2)アの記載によれば、
引用文献には、
「活性層の上方に、リッジ部を有するAlGaInPからなるクラッド層を備えた半導体レーザにおいて、
リッジ部の主要部を第1の層と、その上に位置する第2の層によって構成し、第1の層をAl組成比率が第2の層よりも大きい層によって構成した半導体レーザ。」が記載されているものと認められる。

イ 上記(2)ウの記載を踏まえて、図1を見ると、
上記アの「半導体レーザ」は、具体的には、
n型GaAsからなる半導体基板2の上に、
GaInPからなるバッファ層3(膜厚0.3μm)、
n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなるn型クラッド層4(膜厚0.8μm)、
井戸層としてGaInPを備えるAlGaInP系の多重量子井戸型活性層5(合計膜厚0.03?0.1μm)が順次形成され、
活性層5の上には、
p型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第1のp型クラッド層6(膜厚0.3μm)、必要に応じてp型GaInPからなるストップ層7(膜厚0.02μm)が形成されており、
この上の中央部には、
リッジ部の第1層を構成するp型Al_(0.5)In_(0.5)Pからなる第2のp型クラッド層8(膜厚0.3μm)、
リッジ部の第2層を構成するp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第3のp型クラッド層9(膜厚0.5μm)が形成されてストライプ状のリッジ部10が形成されているものであってもよいものと認められる。

ウ 上記ア及びイから、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「活性層の上方に、リッジ部を有するAlGaInPからなるクラッド層を備えた半導体レーザにおいて、
リッジ部の主要部を第1層と、その上に位置する第2層によって構成し、第1層をAl組成比率が第2層よりも大きい層によって構成した半導体レーザであって、
具体的には、
n型GaAsからなる半導体基板2の上に、
GaInPからなるバッファ層3(膜厚0.3μm)、
n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなるn型クラッド層4(膜厚0.8μm)、
井戸層としてGaInPを備えるAlGaInP系の多重量子井戸型活性層5(合計膜厚0.03?0.1μm)が順次形成され、
活性層5の上には、
p型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第1のp型クラッド層6(膜厚0.3μm)、必要に応じてp型GaInPからなるストップ層7(膜厚0.02μm)が形成されており、
この上の中央部には、
リッジ部の第1層を構成するp型Al_(0.5)In_(0.5)Pからなる第2のp型クラッド層8(膜厚0.3μm)、
リッジ部の第2層を構成するp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第3のp型クラッド層9(膜厚0.5μm)が形成されてストライプ状のリッジ部10が形成された、半導体レーザ。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「半導体基板2」は本願補正発明の「基板」に相当し、同様に、
「リッジ部」は「リッジ」に、
「活性層」及び「多重量子井戸型活性層5」は「活性層」に、
「n型クラッド層4」は「第1導電型の第1クラッド層」に、
「第1層」及び「第2のp型クラッド層8」は「第1リッジ形状層」に、
「第2層」及び「第3のp型クラッド層9」は「第2リッジ形状層」に、
「半導体レーザ」は「半導体発光装置」に、それぞれ、相当する。

イ 引用発明の「中央部」には、第2のp型クラッド層8と第3のp型クラッド層9が形成されてストライプ状のリッジ部10が形成されていることに照らせば、
引用発明は「活性層上に形成され、一部が電流狭窄構造としてリッジ形状となっている第2導電型の第2クラッド層」を備えているといえる。

ウ 上記ア及びイより、
引用発明と本願補正発明とは「基板と、
前記基板に形成された第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、一部が電流狭窄構造としてリッジ形状となっている第2導電型の第2クラッド層と
を有し、
前記リッジ形状の部分の前記第2クラッド層が、前記活性層に近い側である第1リッジ形状層と、活性層から遠い側である第2リッジ形状層を含」む点で一致する。

エ 本願補正発明の「前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分」には、本願明細書の「p型クラッド層(第2クラッド層)17のリッジ形状の部分を除く部分であるd2層13と屈折率が等しい層からなる構成である。」(【0022】を参照。)との記載によれば、エッチングストップ層14は含まれないものと解される。
してみると、引用発明の「第1のp型クラッド層6」が本願補正発明の「第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分」に相当する。

オ また、引用発明の「n型クラッド層4」及び「リッジ部の第2層を構成する第3のp型クラッド層9」のアルミニウム組成比が「0.35」であるのに対して、引用発明の「リッジ部の第1層を構成する第2のp型クラッド層8」のアルミニウム組成比が「0.5」であることに照らせば、
引用発明と本願補正発明とは「前記第1クラッド層のバンドギャップと前記第2リッジ形状層のバンドギャップが、前記第1リッジ形状層のバンドギャップより低いプロファイルであり、
前記第1リッジ形状層のアルミニウムの組成比X1が所定値であ」る点で共通する。

カ さらに、引用発明の「リッジ部の第1層を構成する第2のp型クラッド層8」の膜厚が0.3μmであり、引用発明の「第1のp型クラッド層6」の膜厚が0.3μmであることに照らせば、
引用発明と本願補正発明とは「前記第1リッジ形状層の膜厚が50?400nmであり、
前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分の膜厚が50?350nmである」点で一致する。

キ してみると、本願補正発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「基板と、
前記基板に形成された第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、一部が電流狭窄構造としてリッジ形状となっている第2導電型の第2クラッド層と
を有し、
前記リッジ形状の部分の前記第2クラッド層が、前記活性層に近い側である第1リッジ形状層と、活性層から遠い側である第2リッジ形状層を含み、
前記第1クラッド層のバンドギャップと前記第2リッジ形状層のバンドギャップが、前記第1リッジ形状層のバンドギャップより低いプロファイルであり、
前記第1リッジ形状層のアルミニウムの組成比X1が所定値であり、
前記第1リッジ形状層の膜厚が50?400nmであり、
前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分の膜厚が50?350nmである、
半導体発光装置。」

ク 一方で、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
第1クラッド層及び第2リッジ形状層のバンドギャップのプロファイルに関し、
本願補正発明は、さらに「前記第2クラッド層の前記リッジ形状の部分を除く部分のバンドギャップより低い」のに対して、
引用発明は、そのようなプロファイルではない点。

<相違点2>
アルミニウムの組成比X1に関し、
本願補正発明は、「0.60≦X1≦0.70」であるのに対して、
引用発明は、「0.5」である点。

(5)判断
ア まず、上記<相違点2>について検討する。
(ア)引用文献の記載に照らせば(摘記(ウ)及び(エ)を参照。)、
引用発明の「リッジ部」は、Al組成の高い程エッチングレートが高いエッチング液、例えば塩酸を用いて形成されるところ、
リッジ部の第1層を構成する第2のp型クラッド層8のエッチングレートをどの程度に設定するかは、当業者が引用発明を実施する際に、その上に位置する第2層を構成する第3のp型クラッド層9のアルミニウム組成比や要求されるリッジ部の幅等を勘案して適宜定めるべき事項であって、第1層のアルミニウム組成比を0.5から「0.6ないし0.7程度」に変更することに格別困難性は認められない。

(イ)本願明細書には、アルミニウムの組成比X1に関連して、以下の記載がある。

a 「【0039】
上記の実施形態については、AlGaInP系の半導体発光装置に対して説明しているが、これに限らず、AlGaN系の半導体発光装置にも本実施形態は適用できる。
層構成や構造はAlGaInP系の図2Aと同様とすることができ、この場合、d2’層(第1リッジ形状層)のアルミニウムの組成比X1を0.05≦X1≦0.20とし、第2リッジ形状層などのd2’層(第1リッジ形状層)以外の層のアルミニウムの組成比X2をX2≦X1とすることが好ましい。これにより、AlGaInP系の半導体発光装置の場合と同様の効果を得ることができる。」

b 上記aの記載によれば、
アルミニウムの組成比X1は、半導体の種類に応じて適宜変更されるべきものであることが理解される。

c 一方、本願補正発明は、半導体の種類が特定されるものではないので、本願補正発明の「0.60≦X1≦0.70」との数値自体に格別の技術的意義は認められない。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点2>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が引用文献に記載の事項に基づいて容易になし得たことである。

イ 次に、上記<相違点1>について検討する。
(ア)引用発明の「p型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第1のp型クラッド層6」は、活性層5に隣接するp型層であるところ、
活性層に隣接するp型層のバンドギャップを大きくすることで、電子のオーバーフローを抑制した半導体レーザが、本願の優先日時点で周知である(例えば、
a 特開2000-349397号公報の【0011】を参照。
b 特開平11-26864号公報の【0006】ないし【0008】を参照。
c 特開平10-79554号公報の【要約】を参照。
d 特開平4-359486号公報の【0015】を参照。
以下「周知技術」という。)こと、及び引用文献に、Al組成比率が高いp型クラッド層として、(Al_(0.8)Ga_(0.2))_(0.5)In_(0.5)Pや(Al_(0.9)Ga_(0.1))_(0.5)In_(0.5)P等が記載されていることに照らせば(摘記エを参照。)、
引用発明の「第1のp型クラッド層6」を、例えば「p型(Al_(0.8)Ga_(0.2))_(0.5)In_(0.5)P」とすることで、電子のオーバーフローを抑制することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)上記(ア)のように、引用発明の「第1のp型クラッド層6」を「p型(Al_(0.8)Ga_(0.2))_(0.5)In_(0.5)P」とすると、引用発明の「n型クラッド層4」及び「第3のp型クラッド層9」と比較してアルミニウム組成比が大きくなり、引用発明の「n型クラッド層4」及び「第3のp型クラッド層9」のバンドギャップは、引用発明の「第1のp型クラッド層6」のバンドギャップよりも低くなる。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が引用文献に記載の事項及び上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。

ウ また、本願補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項及び周知技術から予測し得る範囲内のものである。

(6)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明は、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができな
いものである。

4 補正却下の決定のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用文献
当審拒絶理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、前記「第2 2(1)及び(2)」に記載したとおり、本願発明を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3(5)」で検討したとおり、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2006-514749(P2006-514749)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
P 1 8・ 575- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 吉美  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 星野 浩一
畑井 順一
発明の名称 半導体発光装置およびその製造方法  
代理人 佐藤 隆久  

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