• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1276865
審判番号 不服2011-27701  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-22 
確定日 2013-07-17 
事件の表示 特願2008- 24981「太陽電池及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月29日出願公開、特開2009- 21541〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年2月5日(パリ条約による優先権主張2007年7月13日、韓国)の出願であって、平成22年10月13日付けで拒絶の理由が通知され、平成23年1月19日に手続補正がなされたが、同年8月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年12月22日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月22日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項1については、
本件補正前(平成23年1月19日付け手続補正後のもの)に、
「半導体基板と、
前記半導体基板の一面に形成されたエミッタ層と、
前記エミッタ層上に形成された導電性透明電極層と、
前記導電性透明電極層上に形成され、前記導電性透明電極層と電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の後面に形成され、前記半導体基板と電気的に接続された第2電極と、を含み、
前記導電性透明電極層は、500μΩ・cm以下で、かつ前記エミッタ層より低い比抵抗を有し、350?800nm波長範囲で90%以上の透過率を有することを特徴とする
、請求項1に記載の太陽電池。」とあったものを、

「半導体基板と、
前記半導体基板の一面に形成されたエミッタ層と、
前記エミッタ層上に形成された導電性透明電極層と、
前記導電性透明電極層上に形成され、前記導電性透明電極層と電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の後面に形成され、前記半導体基板と電気的に接続された第2電極と、を含み、
前記導電性透明電極層は、
インジウムスズ酸化物、スズ系酸化物、AgO、ZnO-Ga_(2)O_(3)、ZnO-Al_(2)O_(3)、フッ素ドープ酸化スズ及びこれらの混合物からなる群より選択される物質を含み、
1.7?2.5の屈折率を有し、
60?100nmの厚さを有し、
500μΩ・cm以下で、かつ前記エミッタ層より低い比抵抗を有し、350?800nm波長範囲で90%以上の透過率を有することを特徴とする、太陽電池。」と補正する内容を含むものである(なお、下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

2 補正目的
(1)本件補正後の請求項1についての上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「導電性透明電極層」の材料及び特性を特定するものであるから「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

(2)よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認め得るから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明を再掲すると、以下のとおりのものである。
「半導体基板と、
前記半導体基板の一面に形成されたエミッタ層と、
前記エミッタ層上に形成された導電性透明電極層と、
前記導電性透明電極層上に形成され、前記導電性透明電極層と電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の後面に形成され、前記半導体基板と電気的に接続された第2電極と、を含み、
前記導電性透明電極層は、
インジウムスズ酸化物、スズ系酸化物、AgO、ZnO-Ga_(2)O_(3)、ZnO-Al_(2)O_(3)、フッ素ドープ酸化スズ及びこれらの混合物からなる群より選択される物質を含み、
1.7?2.5の屈折率を有し、
60?100nmの厚さを有し、
500μΩ・cm以下で、かつ前記エミッタ層より低い比抵抗を有し、350?800nm波長範囲で90%以上の透過率を有することを特徴とする、太陽電池。」

(2)刊行物に記載された事項
ア 原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第02/31892号 (以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある。

(ア)「5.半導体基板の主表面が絶縁膜で被覆されている太陽電池において、前記絶縁膜にて被覆されていない半導体層露出領域が前記主表面に形成されてなり、前記半導体層露出領域と前記絶縁膜とを一括して覆う透明導電層が形成され、該透明導電層上に出力取出用電極が形成されていることを特徴とする太陽電池。」(第27頁の特許請求の範囲)

(イ)「ところで、ファイヤースルー方式による太陽電池作製方法では、表面n型層であるエミッタ層のドーパント濃度を高く設定する必要がある。これは、エミッタ層のドーパント濃度が低い場合、ファイヤースルーにより形成される金属とシリコンとの直接接触部のコンタクト抵抗が十分に下がらず、コンタクト抵抗ロスが大きくなって取り出せる電力が小さくなることにつながるからである。しかしながら、拡散によってエミッタ層のドーパント濃度を高くすると、半導体シリコンとドーパントとの化合物が析出し、表面に多くの欠陥準位が形成されて、表面再結合速度が大きくなる。このような状態になると、太陽電池の短波長感度が低くなり、取り出せる電流が小さくなる不具合を生ずる。
一方、太陽電池の変換効率ηを高めるためには、出力取出用金属電極の形成幅をなるべく小さくし、シャドーイングロスの低減を図ることも重要である。しかしながら、ファイヤースルー方式では電極をスクリーン印刷により形成することから、電極幅を極端に小さくすることは原理的に困難であり、結果としてシャドーイングロス低減のために、複数本形成する電極の配列間隔を広くせざるをえなくなる。・・・(略)・・・変換効率ηの良好な太陽電池、例えばηが20%を超える太陽電池を作製することは困難であるとみなされている。
本発明の課題は、変換効率が高くしかも低コストにて製造可能な太陽電池と、その製造方法とを提供することにある。」(第3頁第10行ないし第4頁第5行)

(ウ)「次に、本発明に係る太陽電池の第三の構成は、半導体基板の主表面が絶縁膜で被覆されている太陽電池において、絶縁膜にて被覆されていない半導体層露出領域が主表面に形成されてなり、半導体層露出領域と絶縁膜とを一括して覆う透明導電層が形成され、該透明導電層上に出力取出用電極が形成されていることを特徴とする。
この構成では、コンタクトホールとして機能する半導体層露出領域を絶縁膜に形成し、それら半導体層露出領域と絶縁膜とを一括して覆う透明導電層を形成する。そして、出力取出用電極をこの透明導電層上に形成する。このような透明導電層を設けない場合、図13Aに例示するように、半導体基板1側で発生した電流は、抵抗率の比較的高い基板表層部(例えばエミッタ層)2を横方向に流れた後、出力取出用電極か7から取り出される形となるので直列抵抗が大きくなり、損失が生じやすくなる。しかし、本発明の第三の構成に係る太陽電池によれば、図13Bに例示するように、半導体層露出領域5からの電流は、導電率の比較的高い(つまり抵抗率の比較的低い)透明導電層6を横方向に流れた後、出力取出用電極7から取り出すことができる。従って、横方向に電流が流れる際の抵抗損失を大幅に軽減することができる。例えば、図13Aにおいては、出力取出用電極7までの距離LP1が全て、基板表層部2内の横方向導通路とならざるを得ないが、図13Bにおいては、出力取出用電極7の存在の有無にかかわらず、最寄の半導体層露出領域5から透明導電層6へ電流が流れ込めばよいので、その横方向導通長さLP2は、図13Aの横方向導通長さLP1よりも大幅に短くなることが明らかである。また、別の効果として、形成されているのが透明導電層であるから、透明導電層自身によるシャドーイングロスはほとんど発生しない。こうして、太陽電池の短絡電流及び変換効率の向上を図ることができる。
・・・(略)・・・
また、本発明では基板表層部(例えばエミッタ層)にて横方向に電流を流す必要がないため、そのシート抵抗を高くしても、例えばn型エミッタ層を形成する場合は、シート抵抗を100Ω/□からはるかに高くしても問題はない。つまり、基板表層部のドーパント濃度をさらに下げることが可能である。これにより、表面再結合速度をさらに下げることが可能となり、変換効率を上昇させることができる。」(第7頁第2行ないし第8頁第12行)

(エ)「図1Aは、本発明の太陽電池の一実施形態を模式的に示す断面図である。該太陽電池100は、シリコン単結晶基板1(以下、単に基板1と記載する:本実施形態ではp型とする)の第一主表面側に不純物の拡散層2(本実施形態ではn型とする)が形成され、p-n接合部をなしている。この拡散層2のように半導体基板の表面近傍に新たに形成された層を本発明においては半導体層2と総称する。半導体層2の表面には、絶縁膜(パッシベーション膜)3、透明導電層6及び出力取出用電極7がこの順序にて形成されている。
ここで、基板1の第一主表面には凹凸部が形成され、絶縁膜3はその凹凸部を覆う形で形成されている。そして、凹凸部を形成する多数の凸部15の一部のものの頂上部25を包含する形にて、絶縁膜3にて被覆されていない半導体層露出領域5が形成されている。図19Aに拡大して示すように、該半導体層露出領域5内において凸部15の頂上部25の先端高さ位置は、該半導体層露出領域5の外周縁における絶縁膜3の最大高さ位置(すなわち絶縁膜3の内周縁11の最大高さ位置)よりも高くなっている。そして、透明導電層6は、半導体層露出領域5内の凸部15の頂上部25において、半導体層2に直接接触しており、その上に形成された出力取出用電極7は、透明導電層6を介して半導体層2にいわば間接的に接触する形となっている。」(第12頁第1ないし16行)

(オ)「次に、透明導電層6は、例えば、酸化スズ(SnO_(2))あるいは酸化インジウム(In_(2)O_(3))などの導電性酸化物被膜として構成することができる。具体的には、アンチモン(Sb)をドープした酸化スズ膜(いわゆるネサ膜)あるいはスズ(Sn)をドープした酸化インジウム膜(いわゆるITO膜)が高導電率であり、本発明に好適に使用できる。このうちネサ膜は導電率が高く、太陽電池の直列抵抗の減少に特に貢献する。他方、ITO膜はネサ膜・・・(略)・・・透明導電層6の材質として使用することができる。」(第16頁第8ないし16行)

(カ)「太陽電池100の直列抵抗を減少させる観点において、透明導電層6は、電気比抵抗を5×10^(-5)?3×10^(-4)Ω・cm程度に調整しておくことが望ましい。例えば、スパッタリングにより作製したITO膜は電気比抵抗の値を、例えば1×10^(-4)?2.8×10^(-4)Ω・cmとすることができる。他方、ネサ膜はCVD法により、例えば1×10^(-4)Ω・cm以下の低抵抗率の膜を得ることができる。
なお、上記の透明導電層6は、基板1を構成するシリコン単結晶と屈折率の異なるものを採用することで、反射防止膜として機能させることもできる。反射防止膜として機能させる場合、透明導電層6の構成材料の屈折率は1.5?2.5であるのがよい。例えば、ネサ膜の場合、屈折率は2.0程度であり、その厚みを40?70nm程度とする場合に、顕著な反射防止効果を得ることができる。なお、透明導電層6とともに、あるいは透明導電層6に代えて、反射防止膜を別途形成するようにしてもよい。例えば透明導電層6上にMgF_(2)膜など屈折率が透明電極層6より低い膜を形成すれば、反射率がさらに低減し、生成電流密度をさらに高くすることができる。」(第17頁第1ないし13行)

(キ)「図1Aに戻り、基板1の第二主表面には、裏面反射防止のための凹凸部が形成され、絶縁膜3がそれら凹凸部を覆う形で形成されている。また、凸部15の山頂部に半導体層露出部5が形成されている。ただし、該第二主表面側は受光面とはならないため、その全面が出力取出用電極8により覆われている。なお、太陽電池セルの軽量化のため基板1の厚さを薄くする場合は、第二主表面側の電極8での少数キャリアの再結合・消滅を防止するために、図1Bに示すように、該第二主表面側に基板1と同一導電型であってより高濃度の高濃度拡散層9を形成することができる(いわゆるBSF(back surface field)層)。」(第18頁第7ないし14行)

(ク)「(実験例1)
図1Aに示す太陽電池を、図3のフローチャートを示す工程にて作製した。まず、シリコン単結晶インゴットから切り出されたアズスライス状態のp型結晶シリコン基板1(抵抗率2Ω・cm(ドーパント濃度7.2×10^(15)cm^(-3))のボロンドープ品)を用意した。なお、基板1の厚さは300μmである。該基板1は、水酸化ナトリウム水溶液(濃度:40質量%)により化学エッチングして、スライスによるダメージ層を取り除いた後、イソプロピルアルコールを加えた水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3質量%)に浸し、ウェットエッチングすることにより、図2Aに示すランダムテクスチャ形態の凹凸部を基板1の両主表面に形成した。
凹凸形成の終了した基板1を洗浄後、リンを熱拡散することによりシート抵抗200Ω/□のn型拡散層2(リン拡散層)を、第一主表面に形成した。次いで、基板表面に生じたリンガラスをエッチングして除去した後、酸化を行い、厚さ約5nmの二酸化珪素膜を絶縁膜3として両主表面に形成した。そして、塗布液をスピンオン法で順次乾かしながら両面に塗布することにより、図4に示すように凸部15の頂上部25のいくつかが飛び出すように、ノボラック樹脂を主体とするエッチング保護膜4を形成した。引き続き濃度10質量%の弗酸水溶液中に浸漬して、その頂上部25の絶縁膜3のみをエッチングし、半導体層露出部5を形成した。次いで、基板をアセトンに浸漬してエッチング保護膜4を溶解・除去した。
次に、基板1の第一主表面に、透明導電層6としてアンチモンをドープした二酸化スズ膜を常圧CVDにより堆積した。この透明導電層6の膜厚は、反射防止膜も兼ねるため60nmとした。次に、基板1の第一主表面に、銀ペーストを用いたスクリーン印刷法により表面に、図17に示す形態の出力取出用電極7のパターンを、また第二主表面の全面にアルミニウムペーストを用いて出力取出用電極8のパターンをそれぞれ形成した。その後、温度400℃で水素アニールを行い、太陽電池100を完成させた(実施例品1)。
・・・(略)・・・
実施例品1及び実施例品2では、半導体表層部2であるエミッタ層のシート抵抗を200Ω/□に設定できた。他方、ファイヤースルー方式を用いた比較例品では、該シート抵抗は40?50Ω/□であった。そして、表1に示すように、比較例品に比べて実施例品1及び実施例品2では、フィルファクタが減少していないことがわかる。これは、実施例品1及び実施例品2において透明導電層のシート抵抗が低く、コンタクト抵抗の増加が抑制されたためであると考えられる。
・・・(略)・・・
比較例品と比べた場合、実施例品1及び実施例品2では短絡電流も増加している。これは、シャドーイングロスの低減と短波長感度の増加によるものと考えられる。比較例品では電流はエミッタ層内を横方向に流れるが、本実施例では代わりに透明導電層6内を流れる。透明導電層6のシート抵抗は約10Ω/□であり、比較例品と比べて、電極ピッチを例えば2倍にしても同程度の抵抗ロスで済む。よって、シャドーイングロスを半分にでき、これが短絡電流の増加に大きく寄与したものと考えられる。また、図15に示すように、実施例品1及び実施例品2は短波長感度も増大していることがわかる。これは上記説明したように、エミッタ層のドーパント濃度が低くなり、表面再結合速度が低減されたことによる。
・・・(略)・・・
なお、本実施例における太陽電池では、裏面全面に電極を形成しているが、裏面側にも表面同様、透明導電膜と櫛形電極を形成し、裏面側からも光が入射する構造にしても構わない。また、200Ω/□のn型拡散層を形成したが、100Ω/□より高い値にできれば、短波長感度が増大し、太陽電池特性が向上する。さらに、作製プロセスにおいて、本実施例では絶縁膜として酸化膜(二酸化珪素膜)を利用したが、窒化珪素膜でも構わない。また、拡散層の形成には熱拡散法を用いたが、イオン打ち込み法やスピンオン法など、本発明の構造が形成可能であれば、いかなる手段を用いることも可能である。」(第20頁第12行ないし第23頁第18行)

(ケ)図1Aは、以下のものである。


(3)引用文献に記載された発明
ア 上記(2)(ア)の記載によれば、
引用文献には、
「半導体基板の主表面が絶縁膜で被覆されている太陽電池において、前記絶縁膜にて被覆されていない半導体層露出領域が前記主表面に形成されてなり、前記半導体層露出領域と前記絶縁膜とを一括して覆う透明導電層が形成され、該透明導電層上に出力取出用電極が形成されている、太陽電池。」
が記載されているものと認められる。

イ 上記(2)(ク)の記載に照らせば、
上記アの「半導体基板の主表面」には、
シート抵抗200Ω/□のn型拡散層2(リン拡散層)が形成されたものであってもよいものと認められる。

ウ 上記(2)(ク)の記載に照らせば、
上記アの「透明導電層」は、
膜厚60nm、シート抵抗約10Ω/□のアンチモンをドープした二酸化スズ膜であってもよいものと認められる。

エ 上記(2)(キ)及び(ク)の記載に照らせば、
受光面とならない裏面全面に出力取出用電極8が形成されたものであってもよいものと認められる。

オ 上記アないしエの記載から、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体基板の主表面が絶縁膜で被覆されている太陽電池において、
絶縁膜にて被覆されていない半導体層露出領域が主表面に形成されてなり、半導体層露出領域と絶縁膜とを一括して覆う透明導電層が形成され、透明導電層上に出力取出用電極7が形成され、受光面とならない裏面全面に出力取出用電極8が形成された、太陽電池であって、
半導体基板の主表面には、シート抵抗200Ω/□のn型拡散層(リン拡散層)が形成され、
透明導電層は、膜厚60nm、シート抵抗約10Ω/□のアンチモンをドープした二酸化スズ膜である、太陽電池。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「半導体基板」は本願補正発明の「半導体基板」に相当し、同様に、
「主表面」は「一面」に、
「受光面とならない裏面」は「後面」に、
「n型拡散層(リン拡散層)」は「エミッタ層」に、
「透明導電層」は「導電性透明電極層」に、
「アンチモンをドープした二酸化スズ膜」は「スズ系酸化物」に、
「出力取出用電極7」は「第1電極」に、
「出力取出用電極8」は「第2電極」に、それぞれ、相当する。

(2)上記(1)に照らせば、
引用発明と本願補正発明とは「半導体基板と、
前記半導体基板の一面に形成されたエミッタ層と、
前記エミッタ層上に形成された導電性透明電極層と、
前記導電性透明電極層上に形成され、前記導電性透明電極層と電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の後面に形成され、前記半導体基板と電気的に接続された第2電極と、を含み」で一致する。

(3)引用発明の「透明導電層」は「膜厚60nm、シート抵抗約10Ω/□」であって、比抵抗は「シート抵抗と膜厚の積」で算出されることに照らせば、
引用発明の「透明導電層」の比抵抗は、(10Ω/□)×(6×10^(-6)cm)から、約60×10^(-6)Ω・cm(60μΩ・cm)となり、これは引用文献の「太陽電池100の直列抵抗を減少させる観点において、透明導電層6は、電気比抵抗を5×10^(-5)?3×10^(-4)Ω・cm程度に調整しておくことが望ましい。」(摘記(カ)を参照。)と整合する。
してみると、引用発明と本願補正発明とは「前記導電性透明電極層は、
インジウムスズ酸化物、スズ系酸化物、AgO、ZnO-Ga_(2)O_(3)、ZnO-Al_(2)O_(3)、フッ素ドープ酸化スズ及びこれらの混合物からなる群より選択される物質を含み、
60?100nmの厚さを有し、
500μΩ・cm以下で、所定の波長範囲で所定の透過率を有する」点で共通する。

(4)してみると、本願補正発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「半導体基板と、
前記半導体基板の一面に形成されたエミッタ層と、
前記エミッタ層上に形成された導電性透明電極層と、
前記導電性透明電極層上に形成され、前記導電性透明電極層と電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の後面に形成され、前記半導体基板と電気的に接続された第2電極と、を含み、
前記導電性透明電極層は、
インジウムスズ酸化物、スズ系酸化物、AgO、ZnO-Ga_(2)O_(3)、ZnO-Al_(2)O_(3)、フッ素ドープ酸化スズ及びこれらの混合物からなる群より選択される物質を含み、
60?100nmの厚さを有し、
500μΩ・cm以下で、所定の波長範囲で所定の透過率を有する、
太陽電池。」

(5)一方で、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
導電性透明電極層に関し、
本願補正発明は、「1.7?2.5の屈折率を有し」(以下「相違点1」という。)、「かつ前記エミッタ層より低い比抵抗を有し」(以下「相違点2」という。)、「350?800nm波長範囲で90%以上の透過率を有する」(以下「相違点3」という。)のに対して、
引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。

4 判断
(1)まず、上記<相違点2>について検討する。
ア 引用発明の「n型拡散層(リン拡散層)」は、リンを拡散することにより形成したものであって、このようなn型拡散層は、通常「0.1ないし0.5μm程度」の厚さで形成されることが本願の優先日時点で周知(例えば、
(ア)特開2006-332264号公報の【0032】を参照。
【0032】には、リン原子を拡散させて、シート抵抗値が30Ω/□?300Ω/□程度、厚みが0.2μm?0.5μm程度のn型の導電型を呈する拡散層を形成することが記載されている。

(イ)特開2005-353851号公報の【0006】及び【0034】を参照。
【0006】には、リン原子を拡散させて、厚み0.2?0.5μm程度のn型拡散層を形成することが、【0034】には、シート抵抗が60?300Ω程度のn型拡散層を形成することが記載されている。

(ウ)特開2005-347339号公報の【0028】を参照。
【0028】には、p型の単結晶シリコン基板をオキシ塩化リン雰囲気中で熱処理することで、厚さ0.1?0.5μm、シート抵抗40?150Ω/□のn型拡散層を形成することが記載されている。

(エ)特開2004-349379号公報の【0004】を参照。
【0004】には、受光面側に約0.5μmの深さにまでリンを拡散させてn型領域を形成することが記載されている。

(オ)特開2004-95674号公報の【0032】を参照。
【0032】には、リン拡散を行うことで、接合深さ約0.3μm、シート抵抗120Ω/□のn+拡散層を形成したことが記載されている。

(カ)特開2003-152200号公報の【0013】ないし【0015】及び【0027】を参照。
【0013】には、拡散層を0.3?0.5μm程度の深さに形成することが、【0014】には、シート抵抗を60?300Ω/□とすることが記載されている。
以下「周知技術1」という。)であることに照らせば、
引用発明の「n型拡散層(リン拡散層)」も「0.1ないし0.5μm程度」の厚さで形成されているものと認められるところ、
引用発明の「n型拡散層(リン拡散層)」のシート抵抗が200Ω/□であることから、
その比抵抗は(200Ω/□)×(1×10^(-5)cm)ないし(200Ω/□)×(5×10^(-5)cm)程度、つまり、
2000×10^(-6)ないし10000×10^(-6)Ω・cm程度のものと解される。

ウ これに対して、引用発明の「透明導電層」は、上記3(3)のとおり、比抵抗は約60×10^(-6)Ω・cmであって、「n型拡散層(リン拡散層)」の比抵抗より低いことは明らかであるから、<相違点2>は実質的な相違ではない。

(2)上記<相違点1>について検討する。
引用発明の「透明導電層」は、アンチモンをドープした二酸化スズ膜、いわゆるネサ膜と呼ばれるものであって、引用文献の記載(摘記(カ)を参照。)に照らせば、ネサ膜の屈折率は「2.0程度」であるから、<相違点1>は実質的な相違ではない。

(3)上記<相違点3>について検討する。
ア 太陽電池における透明導電層の透過率を100%に近づけるほど、太陽光を有効に利用できることは当業者にとって明らかであり、透過率を85%以上とした透明導電層も本願の優先日時点で周知(例えば、
(ア)国際公開第02/052654号の第3頁第15ないし19行を参照。
透明導電膜の全線透過率を90%以上とすることが記載されている。

(イ)特開平11-219734号公報の【0023】及び【0024】を参照。
透明導電層の全線透過率を85%以上とすることが記載されている。

(ウ)特開平4-28113号公報の第1頁右欄ないし第2頁右上欄を参照。
アンチモンが含まれる酸化スズ系膜の可視光透過率を70ないし95%にすることのできることが記載されている。

(エ)特開平2-167821号公報の第3頁左下欄ないし同頁右下欄を参照。
実施例1で得られた透明導電膜は、400?800nmの波長光に対して90%以上の透過率を示したことが記載されている。

(オ)特開昭58-42280号公報の第2頁左上欄を参照。
透明導電膜の透過率としては85%以上であることが望ましいことが記載されている。

(カ)特開昭57-157578号公報の第2頁左上欄ないし同頁右上欄を参照。
第1表には、酸化錫系透明導電膜の透過率が85%であることが示されている。
以下「周知技術2」という。)であることに照らせば、
引用発明の「透明導電層」の透過率を「90%以上」とする点に何ら困難性は認められない。

イ また、波長域についても、当業者が引用発明を実施する際に、半導体の種類等を勘案して適宜定めるべき事項であり、短波長側を「350nm」とするとともに、長波長側を「800nm」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点3>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術2に基づいて容易になし得たことである。

(4)また、本願補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項、周知技術1及び2から予測し得る範囲内のものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明は、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項、周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができな
いものである。

4 補正却下の決定のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1(1)」にて本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用文献
当審拒絶理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、前記「第2 2(1)及び(2)」に記載したとおり、本願発明を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3」で検討したとおり、当業者が引用発明、引用文献に記載の事項、周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明、周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-18 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-04 
出願番号 特願2008-24981(P2008-24981)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 星野 浩一
小松 徹三
発明の名称 太陽電池及びその製造方法  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ