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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1276904
審判番号 不服2010-24990  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-05 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 特願2004-550521「片頭痛を処置するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月21日国際公開、WO2004/041214、平成18年 3月16日国内公表、特表2006-508951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2002年11月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年10月27日に手続補正がなされ、その後拒絶理由通知に応答して、平成22年5月17日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、同年7月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成22年5月17日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項によって特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
片頭痛を処置する必要のある被験体における片頭痛を処置するための組成物であって、該組成物は、該被験体における投与に適切であり、該組成物は、片頭痛を処置するために効果的な量の非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを含み、
(i)ただし、該被験体は、糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストでの処置を他の点では必要としておらず、そして
(ii)ただし、該被験体はまた、トリプタン、または任意の他の処方された医薬品であって、シトクロムP450-3A4アイソザイムによって優先的に代謝される医薬品のいずれによっても処置されていない
組成物。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(理由A)、及び、本願は、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(理由B)という理由を含み、その内容として以下の点が指摘されている。
「本願明細書には、「糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト」のうち、ミフェプリストンを用いる予防的な片頭痛の治療プロトコールについては記載されているが、実際に当該化合物または他の「糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト」で片頭痛を治療し得たことを裏付ける薬理試験データは何ら開示されていない。
そして、本願出願時の技術常識を考慮しても、ミフェプリストンやその他の「糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト」に包含される化合物が、当然に片頭痛の治療をなしえることが当業者に広く知られていたとは認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願請求項1-21に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載がなされていない。
同様の理由により、本願請求項1-21に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとはいえない。」

4.当審の判断
4-1.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)本願発明は、「片頭痛を処置する必要のある被験体における片頭痛を処置するための組成物」の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう「物の発明」である。そして、「物の発明」における「実施」には「その物の使用をする行為」が含まれ、本願発明において「その物の使用をする行為」とは、「片頭痛を処置するために効果的な量の非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを含む組成物」を「片頭痛を処置する必要のある被験体」に投与し、「片頭痛を処置する」ことである。ここで、「片頭痛を処置する」点に関して、本願明細書の【0025】に、「処置とは、片頭痛の予防、低減、排除、または回復における成功の任意の印をいい」とされているから、結局、本願発明において、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる実施可能要件)とは、発明の詳細な説明が、「非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト含有組成物を上記所定の片頭痛を処置する必要のある被験体に投与し、片頭痛の予防、低減、排除、または回復という薬理作用がもたらされることを、当業者が理解できるように記載されていること」であると認められる。
そうすると、本願が実施可能要件を満たすといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、上記所定の被験体についての情報や、上記組成物の有効成分である非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストの入手、該アンタゴニストを有効成分とする組成物の調製・製剤化方法や投与方法といった情報が記載されているのみならず、上記組成物が上記薬理作用をもたらすことを当業者が理解できるように、記載されている必要がある。

(2)そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを有効成分とする組成物を上記所定の被験体に投与した場合に、片頭痛の予防、低減、排除、または回復という薬理作用をもたらすことに関し、以下の記載がある。

(ア)「処置」について
「【0025】
用語「処置すること(treating)」、「処置」、「処置すること(to treat)」とは、被験体における片頭痛および/または付随する症状を予防するためか、低減するためか、または排除するための手段をいう。処置とは、片頭痛の予防、低減、排除、または回復における成功の任意の印をいい、この印としては、任意の客観的パラメーターまたは主観的パラメーター(例えば、軽減;寛解;症状の減少(diminishing)、予防、または片頭痛症状の減少(lessening)、または被験体にとって状態をより耐性にすること;片頭痛をより弱めること;または患者の身体的幸福もしくは精神的幸福を向上させること)が挙げられる。例えば、本発明の方法による処置の成功は、本発明の抗糖質コルチコイドで処置が開始される前の年と、処置の開始の後の年とにおいて、片頭痛発作の頻度および重篤度を比較することで測定され得る。症状の予防、処置または回復は、客観的パラメーターまたは主観的パラメーターに基づき得;そのパラメーターとしては、身体検査の結果、または症状の重篤度および生活の質に関しての個人面接の結果、または当該分野で公知の任意の他の適切な手段の結果が挙げられる。」

(イ)
「【0032】
(I.導入)
本発明は、糖質コルチコイド誘発性の生物学的応答を阻害し得る薬剤が、片頭痛を処置することについて効果的であるという驚くべき知見に関する。片頭痛を処置することにおいて、本発明の方法は、片頭痛の症状を回復し得るか、排除し得るか、低減し得るか、または予防し得る。1つの実施形態において、本発明の方法は、コルチソルとGRとの相互作用をブロックする、GRアンタゴニストとして作用する薬剤を使用し、片頭痛を処置する。本発明の方法は、罹患した患者における片頭痛を処置することに効果的である。」

(ウ)
「【0067】
(V 糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを用いる被験体における片頭痛の処置)
ミフェプリストンのような抗糖質コルチコイドは、医薬品として処方され、本発明の方法で使用されて、被験体における片頭痛を処置する。・・・
【0068】
(A.薬学的組成物としての糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明の方法で使用されるGRアンタゴニストは、当該分野で公知の任意の手段(例えば、非経口的、局所的、経口的)により、または、局在的投与(例えば、エアロゾルによるか、もしくは経皮的)により、投与され得る。本発明の方法は、予防的なおよび/または治療的な処置を提供する。・・・本発明の方法の実施に適切な糖質コルチコイドブロッカーの治療的に効果的な量は、代表的には、1キログラム当たり約0.5ミリグラム?約35ミリグラム(mg/kg)の範囲にある。当業者は、過度の実験をせずに、この技術およびこの開示を考慮して、本発明の実施に対する特定の糖質コルチコイドブロッカー化合物の治療的に効果的な量を決定し得る。例えば、特定の糖質コルチコイドブロッカーは、より高い用量またはより低い用量でより効果的であり得る。本明細書中で記載される方法を用いて患者を評価することによって、当業者は、患者が処置に反応しているかどうか判断し得、そしてそれに応じて、投与量のレベルを調節する方法がわかる。」

(エ)
「【0082】
(B.糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストについての投与レジメンの決定)
本発明の方法は、被験体における片頭痛を処置する。この方法を達成することに適切なGRアンタゴニストの量は、「治療的に効果的な用量」と定義される。この使用について効果的な投与スケジュールおよび投与量(すなわち、「投与レジメン」)は、種々の因子に依存し、この因子としては、片頭痛の重篤度、処置が片頭痛の発作過程の間に施されるかまたは予防的に施されるか、患者の身体状態、年齢、片頭痛歴などが挙げられる。患者について投与レジメンを計算することにおいて、投与様式もまた、考慮に入れられる。」

(オ)実施例
「【0086】
本明細書中で記載される実施例および実施形態は、例示的な目的のためにすぎず、これらの実施例および実施形態に照らして、種々の修飾または変更が当業者に対して示唆され、そして、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲のうちに含まれることが理解される。
【0087】
本明細書中に列挙される全ての刊行物および特許出願は、あたかもそれぞれ個々の刊行物または特許出願が具体的かつ独立して、参考として援用されると示されたかのように、本明細書中で参考として援用される。
【実施例】
【0088】
以下の実施例は、本願発明を例示するために提示されるが、本願発明を限定するために提示されるわけではない。
【0089】
(実施例1:ミフェプリストンを用いる予防的な片頭痛の処置)
ある人が、以下を含む片頭痛の症状を示す:4時間?72時間持続し、未だにうまく処置されていない、10回の片頭痛による頭痛発作であって、この頭痛は、拍動性の特性を有し、そして、階段を歩くことによって悪化される。頭痛の間、この被験体は、吐き気および嘔吐を経験し、完全には耐えることができず、対処し得ない。この片頭痛は、代表的には、1月あたり2回以上起こるが、関連する器質性疾患の証拠はない。
【0090】
この被験体は、前兆を伴わない片頭痛の診断を受ける。この診断を、以下に示される診断基準に従って行う:The International Classification of Headache Disorders,第2版,Headache Classification Committee of the International Headache Society,前出。
【0091】
糖質コルチコイドレセプター(GR)アンタゴニストであるミフェプリストン(・・・)を用いた処置を、開始する。片頭痛は、頻繁に起こり、48時間より長く持続し、そして被験体が、発作を耐え難いものだと感じるので、予防的な処置を開始する。
【0092】
被験体に、ミフェプリストンを毎日、一日当たり600mgの投与量を摂取し、この毎日の投与を6ヶ月間続けることを指示する。投与量を、必要な場合には調節し、さらなる評価を、処置の間中、定期的に行う。
【0093】
(疼痛の低減の評価)
被験体の片頭痛を処置することにおいて、ミフェプリストンの有効性を描写し、評価するために、片頭痛発作の頻度、片頭痛の重篤度および片頭痛の付随する症状を、ベースラインにおいて、3ヶ月目に、そして6ヶ月目に、記録および測定する。
【0094】
(実施例2:コルチソルレベルの測定)
実施例1の被験体におけるコルチソルレベルを測定するために、午後のコルチソルテスト測定値を得て、ベースラインのコルチソルの尺度として使用する。コルチソルレベルは、0日目、薬物療法を受けた2週間後(14日目)に測定され、そして、各患者は、6ヶ月間まで通院し、その後も定期的に通院する。
【0095】
「Double Antibody Cortisol Kit」(Diagnostic Products Corporation,Los Angeles、CA)を使用し、血液コルチソルレベルを測定する。・・・
【0096】
(実施例3:ミフェプリストンを用いる片頭痛の急性的な処置)
ある人は、以下を含む片頭痛の症状を示す:4時間?72時間持続するが、未だにうまく処置されていない、10回の片頭痛による疼痛発作であって、この頭痛は、拍動性の特性を有し、そして、階段を歩くことによって悪化される。頭痛の間、この被験体は、吐き気および嘔吐を経験するが、どうにかして対処する。この片頭痛は、代表的には、1年あたり2回または3回起こり、関連する器質性疾患の証拠はない。
【0097】
この被験体は、前兆を伴わない片頭痛の診断を受ける。この診断は、以下に示される診断基準に従って行われる: ・・・
【0098】
糖質コルチコイドレセプター(GR)アンタゴニストであるミフェプリストンでの処置を、開始する。片頭痛がまれに起こり、この被験体は発作に対処し得るので、急性の処置を開始する。
【0099】
被験体に、片頭痛の最初の兆候または症状において600mgの投与量を摂取することを指示する。この被験体に、任意の片頭痛の発作の性質および重篤度に対して注意を払うことをさらに指示する。この被験体は、2年間の期間中に6ヶ月の間隔でミフェプリストンの処置の評価について報告する。投与量は、必要な場合、処置の全期間にわたって調節される。
【0100】
本明細書中で記載される実施例および実施形態は、例示的な目的のためにすぎなく、これらの実施例および実施形態に照らして、種々の修飾または変更が当業者に対して示唆され、そして、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲のうちに含まれることが理解される。」

(3)上記本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、(ア)には、本願発明における「処置」の定義が記載されるのみであり、また、(イ)には、本願発明により、「片頭痛の症状を回復し得るか、排除し得るか、低減し得るか、または予防し得る」ことが、(ウ)及び(エ)には、本願発明の組成物が片頭痛の処置に効果的であり、該効果を奏する程度の用量で投与されることが、それぞれ一般的に記載されるのみである。
さらに、(オ)として、実施例が記載されているが、ここで示されているのは、本願発明の「非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト」とは異なる化合物である、ミフェプリストンを使用して偏頭痛の予防或いは治療を行う場合の、被験体の症状の特徴や投与量、疼痛の低減効果の評価手法についてのみであり、実施例とされているミフェプリストンについてすら、片頭痛の予防、低減、排除、または回復という薬理作用を有することを示す具体的な薬理試験結果は何ら記載されていない。
したがって、本願発明の「非ステロイド性糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト含有組成物」を被験体に投与した場合に、「片頭痛の予防、低減、排除、または回復という薬理作用がもたらされること」は、上記(ア)?(オ)の記載からは当業者には到底認識できない。また、上記組成物が上記薬理作用をもたらすことが、本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、薬理試験結果の記載がなされていなくても上記組成物が上記薬理作用をもたらすことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見出せない。
すなわち、本願出願時の技術常識を参酌しても本願明細書の発明の詳細な説明には、上記組成物が上記薬理作用をもたらすことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
この点について、請求人は、平成22年5月17日付け意見書及び同年11月5日付けの審判請求書において、下記(a)の点をあげ、「特許・実用新案 審査基準」及び過去の判例で採用されていると請求人が主張するところの「薬理データを必須とする推定」がTRIPS協定に反することを主張する(主張1)とともに、下記の(b)、(c)の点をあげて、本件では、本願明細書の発明の詳細な説明に薬理試験結果が記載されていないことを指摘するのみで、本願発明の個別の事情を何ら検討していないことや、平成21年(行ケ)第10033号判決では、実験結果の記載がない場合であっても「一切の事情を総合考慮」して判断すべきとされていることを主張し(主張2)、本願には特許法第36条第4項第1項違反の不備はないと主張する。

(a)「日本国特許法は、現在、「薬理データを必須とする推定」というあたかも規則のような働きをする基準によって、発明を技術分野によって差別化しています。そのような取り扱いは、TRIPS協定第27条第1項に反するものであり、TRIPS協定下の日本国の義務にも反します。
特許法第26条の効果は単純です:日本が締結した協定に含まれる全ての特許関連条項は、日本国特許法において矛盾する条項がある場合、その矛盾する日本国特許法の条項に優先します。従いまして、特許法第26条の正当な解釈によれば、「薬理データを必須とする推定」は否定されるのです。
本願は、単に「薬理データを必須とする推定」を満たさないという理由で拒絶されており、よって、本願の拒絶査定は、法的根拠がないと確信いたします。」(意見書の12頁下から12?3行)

(b)「審査官殿は、ただ単に、発明の詳細な説明に実験データが記載されていないことを指摘するだけで、本願発明の個別の事情を何ら検討していません。そのようなご判断は、「薬理データを必須とする推定」によってなされる違法な判断であると思料いたします。」(意見書の7頁下から9?6行)

(c)「上記裁判例では、特許法第36条第4項が争点でなかったにも拘らず、あえて、なお書きとして、
「なお,発明の詳細な説明に記載された技術的事項が確かであるか否か等に関する具体的な論証過程が開示されていない場合において,法36条4項1号所定の要件を充足しているか否かの判断をするに際しても,たとえ具体的な記載がなくとも,出願時において,当業者が,発明の解決課題,解決手段等技術的意義を理解し,発明を実施できるか否かにつき,一切の事情を総合考慮して,結論を導くべき筋合いである。」
として、実施可能要件の充足性の判断は、実験結果などの「具体的な論証過程が開示されていない場合において」は、「当業者が,発明の解決課題,解決手段等技術的意義を理解し,発明を実施できるか否かにつき,一切の事情を総合考慮して,結論を導くべき筋合いである」としています。
すなわち、上記判決では、明細書に実験結果を記載することが実施可能要件の充足に必須ではなく、「一切の事情を総合考慮」すべきであるとしています。
以上の次第で、拒絶査定におけるご指摘は完全に誤りであることが明らかです。
本願発明について一切の事情を総合考慮しますと、本願発明には、ご指摘の不備がないことが明らかです。」(審判請求書の6頁下から6行?7頁12行参照)

しかしながら、まず、主張1は、審判請求人独自の見解に基づくものであり、採用することができない。
また、主張2については、(b)及び(c)の主張は、単に、「本願発明の個別の事情」が何ら検討されていないから違法であるとか、「一切の事情を総合考慮」すれば、本願発明には不備がないと述べるのみであって、請求人は、本願発明において考慮すべき「個別の事情」、あるいは、本願発明について総合考慮すべき「一切の事情」がどのようなものであるのかについての具体的な主張は何らしていない。そして、本願明細書の全体の記載及び技術常識を参酌しても、本願発明について考慮すべき「個別の事情」は見出せないし、本願発明について不備がないと判断すべき事情も見当たらない。
したがって、主張2も採用できない。

4-2.特許法第36条第6項第1号について
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について
特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定されており、当該規定を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人即ち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。

(2)検討
本願発明は、上記2.で示したとおりのものであるから、効果的な片頭痛の処置のための組成物を提供するという課題を有するものと認められる。
しかしながら、上記4-1の(3)で述べたように、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の組成物によって、「片頭痛を処置する」ことができることを当業者が認識できる程度の記載がされているものとは認められないし、かつ、本願出願時の技術常識からも、本願発明の組成物によって、「片頭痛を処置する」ことができることを当業者が認識することもできない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし、本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲は見い出せない。
よって、本願発明が、そのような範囲のものであるとも認められない。

したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、本願は、第36条第4項第1号及び第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-18 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-05 
出願番号 特願2004-550521(P2004-550521)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 渕野 留香
岩下 直人
発明の名称 片頭痛を処置するための方法  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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