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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1276915
審判番号 不服2011-17479  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-11 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 特願2007-544574「空間温度分布の制御方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月29日国際公開、WO2006/068805、平成20年 6月26日国内公表、特表2008-522446〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年12月1日を国際出願日とする出願であって(パリ条約による優先権主張 2004年12月2日、米国)、平成19年8月1日付けで手続補正書が提出され、平成22年7月27日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成23年1月28日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正書が提出されたが、同年4月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月11日に拒絶査定不服審判が請求されると共に同日付けで手続補正書が提出され、同年9月28日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出されたものである。
そして、前置審査において、平成23年12月12日付けで最後の拒絶の理由を通知したところ、平成24年6月19日付けで意見書が提出されると共に同日付けで誤訳訂正書が提出され、その後当審において、同年8月2日付けで審尋が通知され、それに応答して同年11月6日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年6月19日付けの誤訳訂正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年6月19日付けの誤訳訂正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成23年8月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載における請求項1?21は、以下のとおりである。
「【請求項1】
プラズマ処理装置用のチャックであって、
加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み、上記加工物は、プラズマ加工を受け、上記プラズマ加工が上記加工物に温度の非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、
上記平坦支持体に結合され、上記平坦支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と、を含み、
上記加熱素子は、上記プラズマ加工中、上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成するように独立に加熱され、上記平坦支持体の厚み、上記加熱器の電力密度、及び上記断熱材料の層の熱抵抗は、上記平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にし、
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを更に含み、各センサは、上記領域の温度を測定し且つ対応する加熱領域の温度を表す信号を送信し、
上記信号を上記センサから受信するように構成されたコントローラを更に含み、該コントローラは、径方向温度勾配を誘発して局部リアクタント濃度の変化を補償するように、マルチステップエッチング中、加熱領域毎にセットポイントに基づいて各平面加熱素子の電力を調整するように構成される、上記チャック。
【請求項2】
各加熱素子に供給される電力は、互いに独立に制御される、請求項1に記載のチャック。
【請求項3】
上記平坦支持体と上記加工物との間に配置された熱導体を更に含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項4】
上記温度制御式ベースは、20℃以下の一定温度に維持される、請求項1に記載のチャック。
【請求項5】
上記加熱器は、複数の電気的抵抗加熱器を含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項6】
上記加熱器は、複数の誘導加熱器を含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項7】
上記加熱器は、複数の加熱ランプを含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項8】
上記加熱器は、複数の熱電気モジュールを含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項9】
上記平坦支持体は、セラミック静電気チャックを含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項10】
プラズマ処理装置用のチャックであって、
プラズマ加工からエッチングを受ける加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み、上記プラズマ加工が上記加工物に温度非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、
上記平坦支持体に結合され、上記平坦支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と、を含み、上記加熱領域が上記加工物にわたって所望の温度プロフィールを達成するように上記加熱素子を介して独立に加熱され、
第1の加熱領域がプラズマ加工中上記加工物の別の加熱領域よりも高い温度に加熱され、上記平坦支持体の厚み、上記加熱器の電力密度、及び上記断熱材料の層の熱抵抗は、上記平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にし、
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを更に含み、各センサは、対応する加熱領域の温度を測定し、該温度を表す信号を送信し、
上記センサから上記信号を受信するため、且つ、径方向温度勾配を誘発して局部リアクタント濃度の変化を補償するように、マルチステップエッチング中、加熱領域毎にセットポイントに基づいて各平面加熱素子の電力を調整するためのコントローラを更に含む、上記チャック。
【請求項11】
各平面加熱素子の電力は、独立に制御される、請求項10に記載のチャック。
【請求項12】
上記平坦支持体と上記加工物との間に配置された熱導体を更に含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項13】
上記温度制御式ベースは、20℃以下の一定温度に維持される、請求項10に記載のチャック。
【請求項14】
上記加熱器は、複数の電気的抵抗加熱器を含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項15】
上記加熱器は、複数の誘導加熱器を含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項16】
上記加熱器は、複数の加熱ランプを含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項17】
上記加熱器は、複数の熱電気モジュールを含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項18】
上記平坦支持体は、静電気チャックを含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項19】
上記ベースの上記温度は、上記加工物の上記所望温度より50℃以上低い、請求項1に記載のチャック。
【請求項20】
上記ベースの上記温度は、上記加工物の上記所望温度より50℃以上低い、請求項10に記載のチャック。
【請求項21】
プラズマ加工装置用のチャックであって、
プラズマ加工中エッチングを受ける加工物の温度以下の温度を有するように構成されたベースを含み、上記プラズマ加工が上記加工物に温度非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断絶材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、を含み、上記プラズマ加工から生じた熱が上記平坦支持体及び上記断熱材を経て上記ベースに移動し、
上記平坦支持体に結合され、上記加工物の対応する加熱領域を加熱するように構成された複数の加熱素子を含み、
上記加熱素子の少なくとも一つには、上記加工物にわたって所望の横方向加工プロフィールを達成するために別の加熱領域の別の加熱素子よりも高い温度をその対応する加熱領域に生じさせるように電力が供給され、上記平坦支持体の厚み、上記加熱器の電力密度、及び上記断熱材料の層の熱抵抗は、上記平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にする、上記チャック。」

2 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のように補正された。
「【請求項1】
プラズマ処理装置用のチャックであって、
加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み、上記加工物は、プラズマ加工を受け、上記プラズマ加工が上記加工物に温度の非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、
上記平坦支持体に結合され、上記平坦支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と、を含み、
上記加熱素子は、上記プラズマ加工中、上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成するように独立に加熱され、上記平坦支持体の厚み、上記加熱器の電力密度、及び上記断熱材料の層の熱抵抗は、上記平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にし、
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを更に含み、各センサは、上記領域の温度を測定し且つ対応する加熱領域の温度を表す信号を送信し、
上記信号を上記センサから受信するように構成されたコントローラを更に含み、該コントローラは、径方向温度勾配を誘発して局所的な反応物濃度の変化を補償するように、マルチステップエッチング中、加熱領域毎にセットポイントに基づいて各平面加熱素子の電力を調整するように構成され、
上記温度制御式ベースは、20℃以下の一定温度に維持される、上記チャック。
【請求項2】
各加熱素子に供給される電力は、互いに独立に制御される、請求項1に記載のチャック。
【請求項3】
上記平坦支持体と上記加工物との間に配置された熱導体を更に含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項4】
上記加熱器は、複数の電気的抵抗加熱器を含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項5】
上記加熱器は、複数の誘導加熱器を含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項6】
上記加熱器は、複数の加熱ランプを含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項7】
上記加熱器は、複数の熱電気モジュールを含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項8】
上記平坦支持体は、セラミック静電気チャックを含む、請求項1に記載のチャック。
【請求項9】
プラズマ処理装置用のチャックであって、
プラズマ加工からエッチングを受ける加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み、上記プラズマ加工が上記加工物に温度非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、
上記平坦支持体に結合され、上記平坦支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と、を含み、上記加熱領域が上記加工物にわたって所望の温度プロフィールを達成するように上記加熱素子を介して独立に加熱され、
第1の加熱領域がプラズマ加工中上記加工物の別の加熱領域よりも高い温度に加熱され、上記平坦支持体の厚み、上記加熱器の電力密度、及び上記断熱材料の層の熱抵抗は、上記平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にし、
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを更に含み、各センサは、対応する加熱領域の温度を測定し、該温度を表す信号を送信し、
上記センサから上記信号を受信するため、且つ、径方向温度勾配を誘発して局所的な反応物濃度の変化を補償するように、マルチステップエッチング中、加熱領域毎にセットポイントに基づいて各平面加熱素子の電力を調整するためのコントローラを更に含み、
上記温度制御式ベースは、20℃以下の一定温度に維持される、上記チャック。
【請求項10】
各平面加熱素子の電力は、独立に制御される、請求項9に記載のチャック。
【請求項11】
上記平坦支持体と上記加工物との間に配置された熱導体を更に含む、請求項10に記載のチャック。
【請求項12】
上記加熱器は、複数の電気的抵抗加熱器を含む、請求項9に記載のチャック。
【請求項13】
上記加熱器は、複数の誘導加熱器を含む、請求項9に記載のチャック。
【請求項14】
上記加熱器は、複数の加熱ランプを含む、請求項9に記載のチャック。
【請求項15】
上記加熱器は、複数の熱電気モジュールを含む、請求項9に記載のチャック。
【請求項16】
上記平坦支持体は、静電気チャックを含む、請求項9に記載のチャック。
【請求項17】
上記ベースの上記温度は、上記加工物の上記所望温度より50℃以上低い、請求項1に記載のチャック。
【請求項18】
上記ベースの上記温度は、上記加工物の上記所望温度より50℃以上低い、請求項9に記載のチャック。
【請求項19】
プラズマ加工装置用のチャックであって、
プラズマ加工中エッチングを受ける加工物の温度以下の温度を有するように構成されたベースを含み、上記プラズマ加工が上記加工物に温度非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断絶材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、を含み、上記プラズマ加工から生じた熱が上記平坦支持体及び上記断熱材を経て上記ベースに移動し、
上記平坦支持体に結合され、上記加工物の対応する加熱領域を加熱するように構成された複数の加熱素子を含み、
上記加熱素子の少なくとも一つには、上記加工物にわたって所望の横方向加工プロフィールを達成するために別の加熱領域の別の加熱素子よりも高い温度をその対応する加熱領域に生じさせるように電力が供給され、上記平坦支持体の厚み、上記加熱器の電力密度、及び上記断熱材料の層の熱抵抗は、上記平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にする、上記チャック。」

3 補正の内容及び補正の目的に係る要件
本件補正は、本件補正前の請求項1及び10について、それぞれ、「加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベース」が、「20度以下の一定温度に維持される」ものであるとし、「局部リアクタント濃度」を「局所的な反応物濃度」としたものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第1項第3号の「拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。」になされたものであるところ、同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

4 本件補正発明の独立特許要件
(1)刊行物
ア.刊行物1
本願優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、特表2004-533718号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項(以下、「記載事項」という。)が記載されている。

・記載事項ア1 「【請求項1】
ワークの所望温度以下の温度を有する温度制御型ベースと、
該ベース上に配置される断熱材と、
ワークを保持する平支持体とを有し、該平支持体は断熱材の上に配置され、
平支持体内に埋設されたヒータを更に有することを特徴とするプラズマ加工機のチャック。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
前記ヒータは複数の平加熱要素を更に有することを特徴とする請求項1記載のチャック。
【請求項6】
前記複数の平加熱要素は、対応する複数の加熱ゾーンをワーク上に形成することを特徴とする請求項5記載のチャック。
【請求項7】
前記平加熱要素の各々の出力は独立的に制御されることを特徴とする請求項6記載のチャック。
【請求項8】
前記複数の加熱ゾーンに対応する複数のセンサを更に有し、各センサは、各加熱ゾーンの温度を表す信号を測定しかつ出力することを特徴とする請求項7記載のチャック。
【請求項9】
前記センサから前記信号を受け、各加熱ゾーンについての設定位置に基いて各平加熱要素の出力を調節するコントローラを更に有することを特徴とする請求項8記載のチャック。
【請求項10】
ワークの所望温度以下の温度を有する温度制御型ベースと、
該ベース上に配置される断熱材と、
ワークを保持する平支持体とを有し、該平支持体は断熱材の上に配置され、
平支持体の下面上に配置されたヒータを更に有することを特徴とするプラズマ加工機のチャック。
・・・」(【特許請求の範囲】)
・記載事項ア2 「【技術分野】
【0001】
本発明は基板支持体に関し、より詳しくは、プラズマ加工中に基板内に均一温度分布を達成する方法および装置に関する。」(段落【0001】)
・記載事項ア3 「【0003】
一般的なプラズマエッチング作業では、プラズマガスの反応性イオンが、半導体ウェーハの面上の材料の部分と化学的に反応する。ウェーハの或る程度の加熱は幾つかの方法によって行なわれるが、殆どの加熱はプラズマにより行われる。一方、ガス(イオンおよびラジカル)とウェーハ材料との化学反応は、ウェーハの温度上昇により或る程度まで加速される。局部的ウェーハ温度およびウェーハ上の各顕微鏡的箇所での化学反応は、ウェーハ表面を横切る温度が大きく変化する場合に、ウェーハ表面上の材料のエッチングの有害な不均一性が容易に生じる度合いに関係している。殆どの場合、エッチングはほぼ完全な度合いまで均一であることが望まれている。・・・(中略)・・・
【0004】
リアクティブ・イオンエッチング(reactive ion etching:RIE)中のウェーハの温度上昇の問題は良く知られており、これまで、エッチング中のウェーハの温度を制御する種々の試みがなされている。
・・・(中略)・・・
【0005】
・・・(中略)・・・図2には、ウェーハ104上の典型的な温度分布が示されている。ウェーハ104の周辺部での圧力損失により、ウェーハ104は、周辺部が非常に熱くなる。
【0006】
・・・(中略)・・・
例えば、約1W/cm^(2)の均一熱流束および約3mmのシーリングランドで、中央部に、ウェーハ周辺部近くで10?30℃の温度上昇をもたらす縁部熱勾配を与えることができる。この大きさの熱勾配は、プロセス制御パラメータとして非常に有効である。しかしながら、他の加工例えば低出力でのポリゲート加工法は、僅かに0.2W/cm^(2)の熱流束を有する。平均伝導が極めて小さくされない限り(これは、制御が極めて困難でかつ全体的冷却が不充分なものとなる)、一般に5℃以下の非常に小さい温度差になってしまうであろう。」(段落【0003】-【0006】)
・記載事項ア4 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、大きいプラズマ熱流束を要せずして、リアクティブ・イオンエッチングおよび同様な加工法の間に半導体ウェーハの温度を制御する方法および装置が要望されている。本発明の第一目的は、これらの要望を解決しかつ他の関連長所を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるプラズマ加工機のチャックは、温度制御型ベースと、断熱材と、平支持体と、ヒータとを有している。温度制御型ベースは、ワークの所望温度以下の温度を有する。温度制御型ベース上には断熱材が配置される。断熱材上には平支持体が配置され、該平支持体はワークを保持する。ヒータは、平支持体内に埋設されおよび/または平支持体の下面上に配置される。ヒータは、複数の対応加熱ゾーンを加熱する複数の加熱要素を有している。各加熱要素に供給される電力および/または各加熱要素の温度は独立的に制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本願明細書に組込まれかつこの一部を形成する添付図面は、本発明の1以上の実施形態を示しかつ詳細な説明と相俟って本発明の原理および実施を説明する機能を有している。
本発明の実施形態は、ワーク支持体の表面を横切る空間温度分布を制御する方法および装置に関連して説明する。・・・」(段落【0007】-【0009】)
・記載事項ア5 「【0011】
本発明の装置は、例えば5℃を超える正確な大きい温度差を達成することを探求するものであるが、例えば2W/cm^(2)以下のように、大きいプラズマ熱流束を必要としないものである。図3Aは、本発明の一実施形態によるワーク温度制御装置を示す概略側面図である。ベース302すなわち熱交換器が断熱材304を支持している。該断熱材304上には、好ましくは平支持体306が取付けられている。支持体306内には、ヒータ308が埋設されている。支持体306上には、ウェーハのようなワーク310が配置されている。・・・(中略)・・・
【0012】
一実施形態によれば、ベース302は、冷却/加熱流体ループのような慣用の熱交換システムを通して比較的一定温度に維持される金属材料(好ましくはアルミニウムベースの冷却板)で構成される。他の実施形態によれば、ベース302は、窒化アルミニウムのような非金属材料で構成することもできる。しかしながら、ベース302は、ヒータ308を用いない標準的作動時におけるよりも大きく冷却されなければならない。例えば、ベース302の温度は、ワーク310の所望温度よりも10?50℃低くすることができる。ベース302はまた、プラズマ加熱の場合の熱シンクを形成する。ベースプレート302の温度を維持するため、外部クーラント冷却器(図示せず)を使用することもできる。外部クーラント冷却器により除去される熱量およびクーラントの温度は、それぞれ、2000Wおよび-20℃以下に制限できる。・・・(中略)・・・
【0013】
一実施形態によれば、断熱材304は、支持体306とベース302との間の大きい熱インピーダンス断熱層(thermal impedance break)として機能する。断熱材304は、ポリマー、プラスチックまたはセラミックで作られた厚いRTV接着層で構成できる。しかしながら、断熱材304の熱インピーダンス断熱層は、ウェーハ310の冷却が不充分になるほど過度のものであってはならない。例えば、断熱材は、約0.05?0.20W/mKの範囲の熱伝導率を有するのが好ましい。この場合、断熱材304は、耐熱要素として、および支持体306とベース302との接合材としての両機能を有する。また、断熱材304は、プラズマとベース304との間に充分なRFカップリングが維持されるものでなくてはならない。また、断熱材304は、層の上下に存在する異なる材料および温度による大きい熱-機械的剪断を許容できなくてはならない。一実施形態によれば、断熱材304の厚さは2mm以下にすべきである。断熱材304には、ヒータ用給電線312および他のサービスラインを収容するための、ベース304のキャビティに隣接する幾つかのキャビティまたはバイア(vias)(図示せず)を設けることができる。
【0014】
一実施形態によれば、支持体306はセラミック材料で構成される。・・・(中略)・・・ワーク306は慣用の静電チャックで構成するか、ウェーハ310を保持する機械的クランプを備えたセラミックで構成できる。・・・(中略)・・・
【0015】
ヒータ308は、少なくとも1つの抵抗要素を有している。一実施形態によれば、ヒータ308は、クランプ電極平面の下で支持体306内に埋設でき、かつ例えば対称的または任意の所望パターンの形状にすることができる。ヒータ308は、1以上の平加熱要素で構成することもできる。各加熱要素は、独立的に制御される加熱ゾーンまたは領域を形成する。多ゾーンパターンは、支持体306への伝導冷却(conduction cooling)とは逆に作用する1以上の平加熱要素を有している。各加熱ゾーンに関連するセンサ309は、各加熱ゾーンの温度を測定しかつ信号をコントローラまたはコンピュータ(図7参照)に送って、個々の平加熱要素をモニタしかつ制御する。・・・(中略)・・・
【0016】
一実施形態によれば、ヒータ308は誘導ヒータで構成される。他の実施形態によれば、ヒータ308は、クリプトンランプまたは石英ランプ等の加熱ランプで構成される。更に別の実施形態によれば、ヒータ308は、冷却または加熱が可能な熱電モジュールで構成できる。・・・」(段落【0011】-【0016】)
・記載事項ア6 「【0017】
図3Bには、本発明の他の実施形態が示されている。図3Bの実施形態では、ヒータ308は、薄膜ヒータのような蝕刻箔技術で形成される。ヒータ308はワーク支持体306内に埋設するか、ワーク支持体306の背面上に取付けることができる(図示せず)。・・・」(段落【0017】)
・記載事項ア7 「【0018】
図3Cは、図3Aの装置における熱流量力学を示す簡単化された概略図である。進入するプラズマ熱流束Q1は、ウェーハ310の表面上の温度T1に寄与する。ヒータ308は、ウェーハ310に熱Q3を供給する。ワーク支持体306を通り冷却されたベース302に入る、システムからの外出熱流束Q2は、進入熱流束Q1およびQ3の合計にほぼ等しく、従って次式のように表される。
Q1+Q3=Q2
定義により、ウェーハ310の温度T1と、断熱材304を通る温度ΔTとの合計は、冷却されたベース302の温度T1に等しい。
T1=T2+ΔT
ΔTは、断熱材304の熱伝導率により定められることに留意されたい。かくして、ヒータ308により発生される進入熱流束Q3はΔTを制御する。従って、ヒータ308の出力は、Q1の範囲でウェーハの表面上に所望温度T1が得られるように調節される。
【0019】
好ましくは、ベース302の温度は、進入熱流束Q1が存在せず、かつ最大熱流束Q3が最大熱流束Q1にほぼ等しいとき、最大進入熱流束Q3の約1/2の外出熱流束Q2を発生するように設定される。すなわち、
Q1=0でありかつQ3_(max)≒Q1_(max)であるとき、
Q2≒1/2・Q3_(max)
【0020】
この好ましいスキームでは、T1が変化できる範囲は最大化される。すなわち、ウェーハの局部的温度は、ヒータ308のゾーンの加熱出力を制御することにより調節できる。一実施形態によれば、ベース302の温度すなわちクーラント温度は、最大値Q1と最大値Q3との合計が最大値Q2に等しくなる慣用装置よりも約20℃低く設定される。
ここで図4Aの概略側面図を参照すると、ここには、本発明の他の実施形態に従ってワークの温度を制御する一体型単一平層電極/ヒータを備えた装置が示されている。ベース402は断熱材404を支持している。断熱材404上には平支持体406が取付けられている。一実施形態によれば、平支持体406は内側スパイラル408および外側スパイラル410を有し、これらの両スパイラル408、410は、ワークおよびワークをクランプする電極を加熱するヒータとして使用される。両ヒータおよび電極は、平支持体406により表される単一平層構造を形成するように一体化されている。図4Bは平支持体406の平面図である。内側スパイラル408と外側スパイラル410との間には差動高電圧HV412が印加され、平支持体406の静電クランプ機能を発生させる。差動高電圧HV412がアース(接地)に対して内側スパイラル408および外側スパイラル410の両者に印加される場合には、平支持体406は単極静電チャックとして機能する。差動高電圧HVが内側スパイラル408と外側スパイラル410との間に印加される場合には、平支持体406は双極チャックとして機能する。内側コイル408には第一制御電源414が接続され、第一加熱ゾーンを発生させる。外側コイル410には第二制御電源414が接続され、第二加熱ゾーンを発生させる。」(段落【0018】-【0020】)
・記載事項ア8 「【0022】
図6は、本発明の一実施形態によるチャックの温度を制御する方法を示すフローチャートである。より詳しくは、図6は、2つの別個のサーマルゾーンを備えたチャックの温度制御方法を示すものである。当業者ならば、本発明の方法が1以上のサーマルゾーンを有するチャックに適用できることが理解されよう。第一ブロック602では、第一組のセンサを用いて第一ゾーンの温度が測定される。これらの測定値に基いて、ブロック604では、第一ゾーンの温度に影響を与える加熱要素の出力を制御して、第一ゾーンの温度を、ユーザおよび/またはコンピュータにより設定された温度に調節する。第二ブロック606では、第二組のセンサを用いて第二ゾーンの温度が測定される。これらの測定値に基いて、ブロック608では、第二ゾーンの温度に影響を与える加熱要素の出力を制御して、第二ゾーンの温度を、ユーザおよび/またはコンピュータにより設定された温度に調節する。
【0023】
図7は、本発明の一実施形態によるチャックの温度制御システムを示す概略図である。ユーザ702はコンピュータ704に1組のパラメータを入力する。このようなパラメータの組として、例えば、チャックの第一ゾーンの所望温度およびチャックの第二ゾーンの所望温度がある。当業者ならば、チャックに1以上のゾーンを設けることができることは理解されよう。コンピュータ704は、図6のアルゴリズム、コンピュータ704の入力および出力を記憶している記憶要素706と通信する。第一組のセンサ708がチャックの第一ゾーンを測定し、第2組のセンサ710がチャックの第二ゾーンを測定する。第一組のセンサ708の温度測定値に基いて、コンピュータ704は、第一組の加熱要素712を制御してチャックの第一ゾーンの温度を調節する。第二組のセンサ710の温度測定値に基いて、コンピュータ704は、第二組の加熱要素714を制御してチャックの第二ゾーンの温度を調節する。」(段落【0022】-【0023】)

ここで、上記記載事項ア3より、リアクティブ・イオンエッチング等のプラズマエッチング作業を行う際には、温度制御を行わなければ、ワークの周縁部が非常に熱くなる等の温度分布が生じることが記載されている。また、上記記載事項ア5より、支持体の形状は、慣用ディスクにするのが好ましく、また、支持体の構造は、ベースに接合された薄いディスクであるから、支持体は、ディスクの形状を備えることが記載されている。なお、上記記載事項ア4?7より、「平支持体」と「支持体」と「ワーク支持体」は、同一の部材を示すことが理解される。
よって、これら記載事項ア1ないしア8によれば、本件補正発明の表現に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「プラズマ加工機のチャックであって、
ワークの所望温度以下の温度を有する温度制御型ベースを含み、上記ワークは、プラズマエッチング作業を受け、上記プラズマエッチング作業が上記ワークに、ワークの周縁部が非常に熱くなる等、温度分布を生じさせ、
上記ベースの上に配置された熱インピーダンス断熱層として機能する断熱材と、
上記断熱材の上に配置され、上記ワークを保持するための、静電チャックのクランプ電極を有する、ディスクの形状をした支持体と、
上記平支持体内に埋設するか、または、上記支持体の下面上に取り付けられ、誘導ヒータ、加熱ランプ、熱電モジュール等から構成され、上記支持体の複数の加熱ゾーンに対応する複数の加熱要素を含むヒーターと、を含み、
上記加熱要素は、上記プラズマエッチング作業中、独立に加熱され、上記支持体を通り冷却されたベースに入る熱流速Q2、ヒータにより供給される熱流速Q3、断熱材の熱伝導率により定められる、断熱材を通る温度ΔTを考慮し、ウェーハの所望の温度T1が得られるようにし、
上記複数の加熱ゾーンに対応する複数のセンサを更に含み、各センサは、上記加熱ゾーンの温度を測定し且つ対応する加熱ゾーンの温度を表す信号を出力し、
上記信号を上記センサから受けるように構成されたコントローラを更に含み、該コントローラは、上記支持体の表面を横切る空間温度分布を制御して、プラズマエッチング作業中、加熱ゾーン毎に設定された温度に基づいて各加熱要素の出力を制御するように構成され、
上記温度制御型ベースは、温度を維持するために、外部クーラント冷却器を使用してクーラントの温度を-20℃以下に制限したり、慣用装置よりも約20℃低く設定したりすることができる、上記チャック。」

イ.刊行物2
本願優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である、特開平10-144655号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項(以下、「記載事項」という。)が記載されている。

・記載事項イ1 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主に半導体装置の製造に適用されるドライエッチング処理方法と、この方法を実施するのに好適なドライエッチング装置に関する。」(段落【0001】)
・記載事項イ2 「【0010】このような不都合を解消するためには、例えば反応生成物の蒸気圧の異なる材料をそれぞれエッチングする間や、ジャストエッチングとオーバーエッチングとの間等でウエハ等からなる試料の設定温度を変えることが考えられる。しかし、このような設定温度の変更をエッチング処理の最中に行うのでは、当然スループットが小さくなってしまい、コスト的に不利を招いてしまう。
・・・(中略)・・・
【0012】本発明は前記事情に鑑みてなされもので、その目的とするところは、高選択比と高精度微細加工とを両立させることができ、かつスループットに悪影響を及ぼすことがなく、しかもエッチングの進行の不均一性にも影響を受けないドライエッチング処理方法と、この方法の実施に好適なドライエッチング装置を提供することにある。」(段落【0010】-【0012】)
・記載事項イ3 「【0013】
【課題を解決するための手段】本発明における請求項1記載のドライエッチング処理方法では、試料に対して複数のステップからなるエッチング処理を同一の処理装置内で行うに際し、前記ステップのうち一のステップのエッチング処理とこれに続くステップのエッチング処理とを異なる温度で行うとともに、これらステップ間において、前記一のステップでの温度からこれに続くステップでの温度に漸次温度を変化させつつ、エッチング処理を行うことを前記課題の解決手段とした。
【0014】このドライエッチング処理方法によれば、一のステップのエッチング処理とこれに続くステップのエッチング処理とを異なる温度で行う・・・(中略)・・・
【0015】また、これら一のステップとこれに続くステップとの間において、該一のステップでの温度からこれに続くステップでの温度に漸次温度を変化させつつ、エッチング処理を行う・・・(中略)・・・さらに、各エッチング処理を同一の処理装置内で行い、かつ、ステップ間においてもエッチング温度を変更させつつエッチング処理し、さらに引き続いて続くステップのエッチング処理を行うので、エッチング温度を変更するだけに費やすような時間のロスをなくすことが可能になる。」(段落【0013】-【0015】)
・記載事項イ4 「【0019】
【発明の実施の形態】本発明のドライエッチング装置について説明する。図1は、本発明のドライエッチング装置の一実施形態例を示す図であり、図1中符号1はウエハステージ、10はドライエッチング装置である。・・・(中略)・・・
【0020】このウエハステージ1は、図2に示すように金属製ジャケット2上に、静電チャック3が載置固定されて構成されたものである。金属製ジャケット2は、真空精密鋳造法によって形成されたアルミニウム製のもので、その内部にヒータ4と冷媒配管5とを埋め込んだものである。ヒータ4は、金属製ジャケット2の面積(底面積)に応じた大型で大容量のシーズヒータからなるもので、図示しない配線を介して電源に接続されたものである。冷媒配管5は、後述する冷却手段に接続されたAlやCuなどの熱伝導率が高い金属からなるもので、冷却手段から供給されたガス冷媒を金属製ジャケット2内に流し、金属製ジャケット2との間で熱交換を行わせるためのものである。」(段落【0019】-【0020】)
・記載事項イ5 「【0032】また、制御装置29は、冷却手段による冷却の度合いやヒータ4による加熱の度合いだけでなく、ウエハWを温度変化させる際の温度変化速度(温度勾配)、具体的には降温速度や昇温速度をも調整するものとなっている。すなわち、この制御装置29は、単に設定温度(所望温度)だけでなく温度変化速度(温度勾配)、具体的には1秒あたりに何℃降温させる、あるいは昇温させる、といったように設定されると、予め設定されたウエハWの温度(所望温度)との差、およびウエハステージ1全体の熱容量やウエハWの熱容量、さらに拡散チャンバー11の熱容量等から、前記冷却手段およびヒータ4の両方あるいは一方のみを予め実験や計算によって決定された度合いで機能させ、初期温度から別に設定された所望温度までの間、設定された温度変化速度でウエハWを降温しあるいは昇温させるのである。・・・(中略)・・・
【0033】・・・(中略)・・・また、制御装置29によって冷却手段による冷却の度合いとヒータ4による加熱の度合いとを調整するすることにより、ウエハWの温度を所定の温度勾配で変化させ得るようにしたので、この制御装置29を動作させることにより、例えばステップ毎の処理を異なる温度で行う場合に、ステップ間の温度変更を行う際、その温度勾配、すなわち昇温速度あるいは降温速度を所望する速度にすることができる。」(段落【0032】-【0033】)
・記載事項イ6 「【0040】・・・(中略)・・・第1に、第1ステップでのウエハ温度である50℃から出発し、25秒間で-20℃に至るように、すなわち約-70/25〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温しつつ、エッチング処理を行う。・・・(中略)・・・ここで、ウエハ温度調整については、前記第1ステップの場合と同様にヒータ4による加熱と冷却手段による冷却とを併用するとともに、予め設定した降温速度(温度勾配)となるように制御装置29で加熱および冷却の度合いを調整し、ウエハ温度を調整した。・・・」(段落【0040】)
・記載事項イ7 「【0047】・・・(中略)・・・第1に、第1ステップでのウエハ温度である100℃から出発し、40秒間で0℃に至るように、すなわち約-100/40〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温しつつ、エッチング処理を行う。・・・(中略)・・・ここで、ウエハ温度調整についても、先の第1の具体例の場合と同様に、ヒータ4による加熱と冷却手段による冷却とを併用するとともに、予め設定した降温速度(温度勾配)となるように制御装置29で加熱および冷却の度合いを調整し、ウエハ温度を調整した。・・・」(段落【0047】)
・記載事項イ8 「【0053】本発明のドライエッチング装置は、金属製ジャケットから誘電体への熱伝導を速やかにしたことにより、ウエハステージ上に保持される試料の温度を速やかに変化させ得るようにしたものであるから、例えばエッチング処理を複数のステップに分け、これらステップ毎の処理を異なる温度で行う場合に、ステップ間での温度変更を短時間で行うことができ、これにより、スループットを大きく低下させることなく、これらのエッチング処理を行うことができる。
【0054】また、試料の温度を所定の温度勾配で変化させるよう冷却手段による冷却の度合いとヒータによる加熱の度合いとを調整する制御手段が設けられているので、この制御手段を動作させることにより、例えば前述したようにステップ毎の処理を異なる温度で行う場合に、ステップ間の温度変更を行う際、その温度勾配、すなわち昇温速度あるいは降温速度を所望する速度にすることができ、したがって、前記のドライエッチング処理方法を容易かつ確実に実施することができる。・・・」(段落【0053】-【0054】)

上記記載事項イ6には、ウエハ温度が、約-70/25〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温すること、すなわち、毎秒約2.8℃の温度変化を可能とすることが、上記記載事項イ7には、ウエハ温度が、約-100/40〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温すること、すなわち、毎秒約2.5℃の温度変化を可能とすることが記載されている。ウエハ温度を上述のように変化させるためには、ウエハを支持する静電チャックの温度が、毎秒少なくとも1℃の温度変化が可能となるよう構成されていることは明らかである。
よって、これら記載事項イ1ないしイ8によれば、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2事項」という。)が記載されている。
「スループットの向上やエッチングの進行の不均一性に影響を及ぼさないようにするために、一のステップのエッチング処理とこれに続くステップのエッチング処理とを異なる温度で行うものにおいて、ステップ間の温度変更を、静電チャックが毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にするように構成されているウエハステージ。」

(2)対比
ア.本件補正発明と刊行物発明とを対比すると、その構成又は機能等からみて、刊行物発明における「プラズマ加工機のチャック」、「ワーク」、「温度制御型ベース」、「プラズマエッチング作業」、「熱インピーダンス断熱層として機能する断熱材」、「静電チャックのクランプ電極」、「加熱ゾーン」、「加熱要素」、「ヒーター」、「信号を出力」、「センサから受ける」、「設定された温度」は、それぞれ、本件補正発明における「プラズマ処理装置用のチャック」、「加工物」、「温度制御式ベース」、「プラズマ加工」、「断熱材料の層」、「静電気チャック電極(ESC)」、「加熱領域」、「「加熱素子」及び「平面加熱素子」」、「加熱器」、「信号を送信」、「センサから受信」、「セットポイント」に相当する。
刊行物発明における「支持体」は、上記記載事項ア5より、慣用ディスク、あるいは、ベースに接合された薄いディスクなのであるから、その形状が平坦なものであることは明らかである。
また、刊行物発明における「プラズマエッチング作業を受け、上記プラズマエッチング作業が上記ワークに、ワークの周縁部が非常に熱くなる等、温度分布を生じ」ることは、本件補正発明における「プラズマ加工を受け、上記プラズマ加工が上記加工物に温度の非均一性を引き起」こすことに相当することは明らかであり、同様に、刊行物発明において、ヒーターが、「上記平支持体内に埋設するか、または、上記平支持体の下面上に取り付けられ」ることが、本件補正発明において、加熱器が、「上記平坦支持体に結合され」る形態に相当することは明らかである。
さらに、刊行物発明において、「コントローラは、ワーク支持体の表面を横切る空間温度分布を制御」すること、「誘導ヒータ、加熱ランプ、熱電モジュール等」からなる「各加熱要素の出力を制御する」こと、及び、「温度制御型ベース」が「温度を維持する」ことは、それぞれ、本件補正発明における「コントローラは、径方向温度勾配を誘発」すること、「各平面加熱素子の電力を調整する」こと、及び、「温度制御式ベース」を「一定温度に維持」することに相当することも、明らかである。
ここで、上記記載事項ア3には、ガスとウェーハ材料との化学反応がウェーハの温度に関係し、一般的なプラズマエッチング作業において、ウェーハ表面を横切る温度が大きく変化する場合、ウェーハ表面の材料のエッチングの有害な不均一性が容易に生じること、製造される集積回路デバイスが、望まれる規格から外れないようにするために、エッチングは、ほぼ完全な度合いまで均一であることが望まれていること、従来、エッチング中のウェーハの温度を制御する種々の試みがなされていること、が記載されており、刊行物発明は、それらを踏まえた上で、ワーク支持体の表面を横切る空間温度分布を制御する(上記記載事項ア4参照。)のであるから、刊行物発明におけるチャックの温度制御は、ワーク全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成するようになされるものであると認められる。
そして、上記記載事項ア5には、ベースプレートの温度を維持するため、外部クーラント冷却器のクーラントの温度が-20℃であることが記載され、また、上記記載事項ア7には、ベースの温度がすなわちクーラント温度であり、当該温度が、慣用装置よりも約20℃低く設定されていることが記載されていることから、刊行物発明においては、ベース温度を-20℃程度の温度にするものと理解され、このことは、本件補正発明において温度制御型ベースを「20℃以下の」一定温度に維持することに相当する。

イ.一致点
以上を踏まえ、両者の一致点を本件補正発明の用語を用いて記載すると、次のとおりである。
「プラズマ処理装置用のチャックであって、
加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み、上記加工物は、プラズマ加工を受け、上記プラズマ加工が上記加工物に温度の非均一性を引き起し、
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と、
上記断熱材料の層の上に配置され、上記加工物を保持するための、静電気チャック電極(ESC)を有する平坦支持体と、
上記平坦支持体に結合され、上記平坦支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と、を含み、
上記加熱素子は、上記プラズマ加工中、上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成するように独立に加熱され、
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを更に含み、各センサは、上記領域の温度を測定し且つ対応する加熱領域の温度を表す信号を送信し、
上記信号を上記センサから受信するように構成されたコントローラを更に含み、該コントローラは、径方向温度勾配を誘発して、加熱領域毎にセットポイントに基づいて各平面加熱素子の電力を調整するように構成され、
上記温度制御式ベースは、20℃以下の一定温度に維持される、上記チャック。」

ウ.相違点
そして両者は次の点で相違する。
[相違点]
本件補正発明においては、平坦支持体の厚み、加熱器の電力密度、及び断熱材料の層の熱抵抗は、平坦支持体に毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にし、局所的な反応物濃度の変化を補償するように、マルチステップエッチング中、各平面加熱素子の電力を調整すると特定されているのに対し、刊行物発明においては、そのような特定がない点。

(3)相違点についての判断
上記記載事項ア3及びア4には、ガスとウェーハ材料との化学反応がウェーハの温度に関係し、一般的なプラズマエッチング作業において、ウェーハ表面を横切る温度が大きく変化する場合、ウェーハ表面の材料のエッチングの有害な不均一性が容易に生じること、製造される集積回路デバイスが、望まれる規格から外れないようにするために、エッチングは、ほぼ完全な度合いまで均一であることが望まれていること、均一性を確保するために、エッチング中のウェーハの温度を制御するよう試みることが記載されている。
そもそも、一般に、処理ガスをウェーハ中央上部から導入する、周知のプラズマエッチング装置においては、エッチングの不均一が、ガスの濃度分布やウェーハの温度分布等により生じること、ウェーハ中央部とウェーハ周縁部とでは、反応ガスの濃度が異なること等は、プラズマエッチングを行う技術分野において周知の技術的事項である(必要であれば、特開平4-360526号公報(段落【0008】、【0012】参照。)、登録実用新案第3010443号公報(段落【0006】、【0022】参照。)、特開平9-36052号公報(段落【0013】参照。)、特開平7-307334号公報(段落【0027】、【0031】参照。)等参照。)。
当該周知の技術的事項を踏まえ、刊行物発明において、エッチングの均一性を確保する制御手段である、ウェーハの温度を制御する際に、エッチングの不均一を引き起こすガスの濃度分布も考慮して制御することは、当業者が通常の創作能力をもって採用することにすぎない。

ここで、エッチングステップ間で温度変更を行うもの、すなわち、マルチステップエッチングを行うものはよく知られており、そのようなマルチステップエッチングを行うものにおいて、ウエハを支持する部材が、毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にするように構成されているものは、上記刊行物2事項にあるように、既に公知である。
(なお、エッチングステップ間で温度変更を行うものにおいて、毎秒少なくとも1℃の温度変化を可能にするように構成されているものは、周知の技術的事項であるとさえいえる(必要であれば、米国特許第6705394号明細書(第1欄第17-25行、第5欄第37-55行等参照。)、特開平10-256359号公報(段落【0002】、【0032】-【0034】等参照。)、特表2003-526921号公報(段落【0002】、【0005】、【0014】-【0017】等参照。)、特開平9-260474号公報(段落【0009】、【0030】-【0038】等参照。)等参照。)。)

なお、上記記載事項ア7に記載されるように、刊行物発明は、支持体を通りベースに入る熱流速Q2、ヒータにより供給される熱流速Q3、断熱材を通る温度ΔTを考慮して、ウェーハの温度T1が所望の温度となるように制御するのであり、支持体の厚みや支持体の素材等が熱流速Q2に関係するパラメータであること、ヒーターへ供給する電力やヒータの電気抵抗値等、すなわち、ヒータにおける電力密度やヒータの素材等が熱流速Q3に関係するパラメータであること、熱インピーダンス断熱層として機能する断熱材の熱伝導率等、すなわち、断熱層の熱抵抗等が温度ΔTに関係するパラメータであることは、いずれも、当業者が当然考慮すべきことであるから、刊行物発明において、ウェーハの温度を所望の温度とする制御が可能とするような、支持体の厚み、ヒータの電力密度、断熱層の熱抵抗を選択することは、当業者が当然に採用する構成であるといえる。

以上より、刊行物2事項及び周知の技術的事項を踏まえれば、刊行物発明において上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が格別の創作能力を要さずになし得たことである。

そして、本件補正発明により、刊行物発明、刊行物2事項及び周知の技術的事項からみて格別顕著な効果が奏されるものでもない。

したがって、本件補正発明は、刊行物発明、刊行物2事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)小括
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項より特定される、「第2 1」の請求項1のとおりのものである。

2 刊行物の記載事項及び刊行物発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項並びに刊行物発明は、前記「第2 4(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比すると、その構成又は機能等からみて、前記「第2 4(3)」に記載したと同様の相当関係がある。
また、本願発明は、前記「第2 2」に本件補正後の発明として記載した発明、すなわち本件補正発明から、「、上記温度制御式ベースは、20℃以下の一定温度に維持され」との限定事項を省き、本件補正発明における「局所的な反応物濃度」を「局部リアクタント濃度」としたものである。
ここで、本願発明における「局部リアクタント濃度」を本件補正発明における「局所的な反応物濃度」とした補正は、上記「第2 3」において述べたとおり、明りようでない記載の釈明を目的とするものであったから、本件補正発明における「局所的な反応物濃度」は本願発明における「局部リアクタント濃度」に相当するものであることは明らかである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 4(3)」に記載したとおり、刊行物発明、刊行物2事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、刊行物発明、刊行物2事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物発明、刊行物2事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-12 
結審通知日 2013-02-18 
審決日 2013-03-01 
出願番号 特願2007-544574(P2007-544574)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松岡 美和
井上 茂夫
発明の名称 空間温度分布の制御方法及び装置  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  
代理人 岡本 和道  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  

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