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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G04G
管理番号 1277094
審判番号 不服2012-4596  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-09 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2008-286515「無線機能付き腕時計」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月 5日出願公開、特開2009- 25320〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・原査定の拒絶の理由
特許出願: 平成20年11月7日
(特願2002-156175号(出願日:平成14年5月29日, 以下「原出願」という)からの分割出願,国内優先日:平成13年9月14日)
拒絶理由通知:平成23年8月26日(発送日:同年8月30日)
手続補正: 平成23年10月26日
拒絶査定: 平成23年12月6日(送達日:同年12月13日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成24年3月9日
手続補正: 平成24年3月9日(以下「本件補正」という。)
前置報告: 平成24年6月12日
審尋: 平成24年9月11日(発送日:同年9月18日)
回答書: 平成24年11月19日

そして、原査定の拒絶の理由は、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、原出願の優先日前に国内又は外国において頒布された刊行物である特開平11-064544号公報(発明の名称:アンテナ付き電子機器、出願人:カシオ計算機株式会社、公開日:平成11年3月5日、以下「引用例1」という。)及び実願昭52-173242号(実開昭54-098260号)のマイクロフィルム(考案の名称:携帯時計ケース、出願人:株式会社第二精工舎、公開日:昭和54年7月11日、以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、というものである。


第2 本願発明
本件補正により特許請求の範囲についての補正がなされたが、表現が変わったに過ぎず、発明の内容に実質的な変更はないから、本件補正を受け入れて、以下、審理する。
本願の請求項1ないし8に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「電波を受信し、当該受信した電波に含まれる情報に基づいて制御を行う無線機能付き腕時計であって、
前記電波を受信する、磁性体からなるコアと前記コアに回巻されたループアンテナからなるアンテナと、
非導電体材からなり、時刻表示をするための時計モジュールおよび前記アンテナを収納し、かつ時計バンドが装着されるバンド装着部を有する第1の時計ケースと、
金属材からなり、前記第1の時計ケースの外側を覆うように装着されかつ前記アンテナの前記コアの端面である第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位を覆わない第2の時計ケースと、
前記第1の時計ケースに配置され、前記時計モジュールを操作する操作子と、を有する
ことを特徴とする無線機能付き腕時計。」(以下「本願発明」という。)


第3 引用例記載の事項・引用発明
これに対して、引用例1には、アンテナ付き電子機器(発明の名称)に関し、次の事項(a)?(b)が図面とともに記載されている。

(a)
「【0002】
【従来の技術】例えば、電子時計である電子腕時計においては、時刻修正用の電波を受信して自動的に時刻を修正したり、あるいは携帯電話などの通信用の電波を受信して振動や音などで報知したり、またはID番号などの識別番号データを緊急通報用の電波として送信したりするために、アンテナを内蔵することが要望されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の電子腕時計では、商品価値を高めるために、時計ケースが金属製であったり、また時計ケースを合成樹脂で形成し、この時計ケースの外面を金属で覆ったりした構造になっており、このため時計ケース内にアンテナを設けると、電波を受信または送信しずらくなるという問題があった。
【0004】この発明の課題は、少なくともケースの一部の外面が金属などの導電部材で覆われていても、確実かつ良好に電波を受信または送信できるようにすることである。」
(b)
「【0021】[第3実施形態]次に、図6?図8を参照して、この発明を電子腕時計に適用した第3実施形態について説明する。ここでも、チップ形状のアンテナとして、誘電体を用いたチップアンテナを使用している。この電子腕時計では、合成樹脂製の時計ケース40を備えている。この時計ケース40の外面には、図6に斜線で示すように、金属などの導電部材41が設けられている。また、時計ケース40の上面には、時計ガラス42が装着されているとともに、送信用の上面スイッチ43が設けられており、時計ケース40の内部には、時計モジュール44が収納されている。さらに、時計ケース40の下面には、裏蓋45が防水リング46を介して取り付けられている。
【0022】この場合、導電部材41は、時計ケース40の上面における時計ガラス2の周縁部と上面スイッチ43とに対応する個所、および時計ケース40の側面における「3時」側と「9時」側とに対応する個所を除く、時計ケース40の上面および側面に設けられている。そして、時計ケース40の「3時」側の側面は、導電部材41よりも外側に突出して形成されており、この突出した部分にはモード切換用やアラーム時刻設定用などの押釦スイッチ47、48が設けられている。また、時計ケース40の「9時」側の側面には、導電部材41よりも外側に突出する突出部49が形成されており、この突出部49の内部にはアンテナ収納部50が設けられている。
【0023】時計モジュール44は、デジタル機能を有するものであり、表示部51および回路基板52を備えている。表示部51は、時刻などの情報を表示するものであり、液晶表示パネルなどからなっている。回路基板52は、時計機能および送受信機能に必要な電子部品が搭載されるものであり、図7に示すように、左側の端部がアンテナ収納部50に向けて突出し、この突出した先端部にチップアンテナ53が半田54によって取り付けられた構成になっている。このチップアンテナ53は、第1実施形態と同様、チップ状の誘電体ブロックの表面に銀などの金属電極を形成したものであり、その金属電極の給電点が回路基板52と電気的に接続され、時計ケース40のアンテナ収納部50内に導電部材41よりも外部に位置した状態で収納されている。
【0024】このような電子腕時計では、モード切換用の押釦スイッチ47を操作して時計モードに設定すると、表示部51に時刻などの情報が表示されるとともに、チップアンテナ53による電波の送受信が可能な状態となる。このため、例えばチップアンテナ53が時刻修正用の電波を受信した場合には、第1実施形態と同様、受信した時刻修正用の電波に基づいて表示部51に表示される時刻を所定時間ごとに自動的に修正することができる。また、チップアンテナ53で緊急通報をする場合には、送信用の上面スイッチ43をオンすることにより、第2実施形態と同様、ID番号などの識別番号データをチップアンテナ53から電波として送信することができる。なお、モード切換用の押釦スイッチ47を操作してアラーム時刻設定モードに切り換え、この状態でアラーム時刻設定用の押釦スイッチ48を操作すれば、アラーム時刻を設定することができる。
【0025】このように、この電子腕時計では、時計ケース40の側面に導電部材41よりも外側に突出する突出部49を形成し、この突出部49の内部にアンテナ収納部50を設け、このアンテナ収納部50内にチップアンテナ53を導電部材41よりも外部に位置させた状態で収納したから、時計ケース40を合成樹脂で形成し、その外面を金属などの導電部材41で覆っても、チップアンテナ53を導電部材41から外部に位置させることができ、このため確実かつ良好に電波を受信または送信することができる。」

また、図8の記載から、時計ケース40には時計バンドが装着されるバンド装着部が設けられていることが読み取れる。

以上の点を踏まえ、上記記載(a)ないし(b)、及び図6ないし図8の記載から、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「時刻修正用の電波を受信して自動的に時刻を修正する、アンテナ付きの電子腕時計であって、
前記電波を受信する、チップアンテナ53と、
合成樹脂からなり、時刻などの情報を表示する時計モジュール44および前記チップアンテナ53を収納し、かつ時計バンドが装着されるバンド装着部を有する時計ケース40と、
金属からなり、前記時計ケース40の外面に設けられた導電部材41と、
前記時計ケース40の側面突出部分に設けられた押釦スイッチ47,48とを有するアンテナ付きの電子腕時計。」(以下「引用発明1」という。)


第4 対比
本願発明と引用発明1とを、構成要件毎に順次対比する。

まず、引用発明1における「時刻修正用の電波を受信して自動的に時刻を修正する、アンテナ付きの電子腕時計」が、本願発明における「電波を受信し、当該受信した電波に含まれる情報に基づいて制御を行う無線機能付き腕時計」に相当することは明らかである。
また、引用発明1の、「チップアンテナ53」も、本願発明における「磁性体からなるコアと前記コアに回巻されたループアンテナからなるアンテナ」も、共に、制御用の電波を受信するアンテナである点で共通する。
また、引用発明1における「時刻などの情報を表示する時計モジュール44」が、本願発明における「時刻表示をするための時計モジュール」に相当するから、引用発明1における「合成樹脂からなり、時刻などの情報を表示する時計モジュール44および前記チップアンテナ53を収納し、かつ時計バンドが装着されるバンド装着部を有する時計ケース40」も、本願発明における「非導電体材からなり、時刻表示をするための時計モジュールおよび前記アンテナを収納し、かつ時計バンドが装着されるバンド装着部を有する第1の時計ケース」も、共に、「非導電体材からなり、時刻表示をするための時計モジュールおよび前記アンテナを収納し、かつ時計バンドが装着されるバンド装着部を有する第1の時計ケース」である点で共通する。
さらに、引用発明1における「金属からなり、前記時計ケース40の外面に設けられた導電部材41」は、本願発明における「金属材からなり、前記第1の時計ケースの外側を覆うように装着され」た「第2の時計ケース」に相当するから、引用発明1における「金属からなり、前記時計ケース40の外面に設けられた導電部材41」も、本願発明における「金属材からなり、前記第1の時計ケースの外側を覆うように装着されかつ前記アンテナの前記コアの端面である第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位を覆わない第2の時計ケース」も、共に「金属材からなり、前記第1の時計ケースの外側を覆うように装着された第2の時計ケース」である点で共通する。
また、引用発明1における「前記時計ケース40の側面突出部分に設けられた押釦スイッチ47,48」は、本願発明における「前記第1の時計ケースに配置され、前記時計モジュールを操作する操作子」に相当する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「電波を受信し、当該受信した電波に含まれる情報に基づいて制御を行う無線機能付き腕時計であって、
前記電波を受信する、アンテナと、
非導電体材からなり、時刻表示をするための時計モジュールおよび前記アンテナを収納し、かつ時計バンドが装着されるバンド装着部を有する第1の時計ケースと、
金属材からなり、前記第1の時計ケースの外側を覆うように装着された第2の時計ケースと、
前記第1の時計ケースに配置され、前記時計モジュールを操作する操作子と、を有する
ことを特徴とする無線機能付き腕時計。」

(相違点)
1.電波を受信するアンテナが、本願発明では「磁性体からなるコアと前記コアに回巻されたループアンテナからなるアンテナ」であるのに対し、引用発明1では「チップアンテナ」である点。

2.本願発明においては、第2の時計ケースが「前記アンテナの前記コアの端面である第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位を覆わない」としているのに対し、引用発明1においては、そのことが明らかでない点。


第5 判断
上記相違点1,2について、併せて検討する。

(1)引用例2
引用例2には、携帯時計ケース(考案の名称)に関し、次の事項(a)?(b)が図面とともに記載されている。

(a)「本考案は、受信用アンテナを有する携帯時計のケース構造に関する。」(第1頁第10行?第11行)

(b)「第1図は、・・・本考案による一実施例で、1・・・ケース、2・・・アンテナ・コア、3・・・ケース穴、4・・・コイル を示し、ケース1は金属材料で作られており、コイル4を巻かれたアンテナ・コア2は前記ケース1内に配置され、該アンテナ・コアの両端部位に位置するケース部には、ケース穴3が設けられ・・・穴3を設けることにより、金属ケースであっても、内部に設置したアンテナ・コア2に容易に信号を送り得る・・・という優れた特徴がある。」(第2頁第11行?第3頁第16行)

上記(a)(b)の記載内容から、引用例2には、「携帯時計に用いる受信用アンテナとして、アンテナ・コアとこれに巻かれたコイルからなるもの(本願発明の「磁性体からなるコアと前記コアに回巻されたループアンテナからなるアンテナ」に相当。)を用いること、及び、金属材料のケースを用いる場合に、該アンテナ・コアの両端部位(本願発明の「コアの端面である第一のループ開口面および第二のループ開口面」に相当。)に位置するケース部にケース穴を設けて信号を送り得る構成とすること。」(以下「引用発明2」という。)が開示されている。

(2)検討
引用発明1は、携帯時計である「アンテナ付きの電子腕時計」に関するものであるから、そのチップアンテナを、同一の技術分野に属する引用発明2の受信用アンテナに置き換えることは、当業者が容易になし得たものである。その際に、アンテナが時刻信号等を確実に補足し、受信する必要があることは、いわゆる電波時計における当然の要請であるから、引用発明1において、引用発明2に係るケース部の構成を採用し、少なくともアンテナ・コアの両端部位は金属材料(導電部材)によって覆われないようにすることも、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。


第6 請求人の主張について
請求人は平成24年11月19日付けの回答書において、以下のような主張を行っている。

「要するに、引用発明1においてチップアンテナ53をループアンテナに置き換えた構成においては、第一のループ開口面と第二のループ開口面の両方に電波が到達しないという問題が生じないのであるから、当該構成を、第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位以外のすべてが第2の時計ケースで覆われた構成に改変する必要がない。よって、本願発明1は、引用発明1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」(回答書「3.1 電波の受信の観点」)

しかしながら、本願発明は、「第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位を覆わない第2の時計ケース」を備えてはいるものの、上記の主張のような、「第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位以外」の「すべて」が「第2の時計ケースで覆われた構成」を備えるものではない。
したがって、請求人の上記主張は本願請求項の記載に基づかないものであって、これを採用する余地はない。
なお、本願の明細書及び図面に記載されたいずれの実施例を見ても、第2の時計ケースは、上記ループ開口面に向かい合う部位以外にも、操作子やネジの貫通部、バンド装着部や裏面などに開口部を有しており、上記第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位以外のすべてが第2の時計ケースで覆われた構成については、本願の明細書及び図面にも記載されていないといえる。

仮に、本願発明が請求人主張のとおりに、「第一のループ開口面および第二のループ開口面に各々向かい合った部位以外のすべてが第2の時計ケースで覆われた構成」を意味するとした場合について、念のため、以下に検討する。
引用例2(特に図1を参照。)の記載から、アンテナ・コアの両端部位に位置するケース部のみにケース穴を設ければ信号を送り得ることが明らかである。そして、引用発明1において金属材からなる第2の時計ケースを設ける目的は、上記「第3 引用例記載の事項・引用発明」の(a)に摘記した記載から明らかなように、商品価値を高めるためであり、これは当該分野における技術常識から見て、時計外観の審美性や耐久性などを指すものといえる。
そうすると、引用発明1のチップアンテナに替えて、引用発明2のアンテナ・コアとこれに巻かれたコイルからなるものを採用する際に、アンテナ・コアの両端部位以外に位置するケース部に、金属からなる導電部材を設けるか否かは、電波の受信だけではなく、時計の商品価値の向上という観点も含めて当業者が適宜検討し選択すべき設計事項にすぎない。
電波の到達状態のみに依拠して、本願発明を当業者が容易に発明をすることができたものではないとする請求人の上記主張は、やはり採用できない。


第7 むすび
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-22 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-13 
出願番号 特願2008-286515(P2008-286515)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 憲二  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 中塚 直樹
関根 洋之
発明の名称 無線機能付き腕時計  
代理人 川▲崎▼ 研二  

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