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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1277210
審判番号 不服2012-4077  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-01 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 特願2007-220310「光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月 1日出願公開、特開2008-102497〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年8月27日(パリ条約による優先権主張2006年8月28日、台湾)の外国語書面出願であって、同年10月22日付けで翻訳文が提出され、平成22年12月1日付けで手続補正がなされ、平成23年10月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年3月1日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成24年6月11日付けの審尋に対する回答書を同年12月12日に提出している。

第2 平成24年3月1日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成24年3月1日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成24年3月1日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1に、
「基板と、
前記基板の一側上に配置された構造化された表面層とを備え、
前記構造化された表面層は、複数の非平行で近接する柱状構造を有する光学フィルム。」とあったものを、

「プラスチック基板と、
前記基板の一側上に配置された構造化された表面層とを備え、
前記構造化された表面層は、複数の非平行で近接する柱状構造を有する非規則的な輝度増強構造を有し、前記複数の非平行で近接する柱状構造は、二つの非平行で交差した柱状構造の組及び二つの非平行だが交差しない柱状構造の組を有する、光学フィルム。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「基板」を「プラスチック」のものであると限定し、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「複数の非平行で近接する柱状構造を有する構造化された表面層」を「非規則的な輝度増強構造」を有するものであると限定し、該「非規則的な輝度増強構造」は前記「複数の非平行で近接する柱状構造」を有するものであり、かつ、該「複数の非平行で近接する柱状構造」は「二つの非平行で交差した柱状構造の組及び二つの非平行だが交差しない柱状構造の組」を有するものであると限定するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る本件補正は、上記1(2)のとおり本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開2005/101065号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
(1)「技術分野
[0001] 本発明は、光学部材およびこれを用いたバックライトユニットに係り、特に、液晶表示装置のバックライトユニット、プロジェクタのスクリーンまたはプラズマディスプレイ等の画像表示装置に用いるのに好適な光学シートおよびこれを用いたバックライトユニットに関する。
背景技術
[0002] 従来から、光をコントロールした技術は、さまざまな分野に応用され我々の生活に役立ってきた。特に、画像表示装置では大型化と共に、高精細、高輝度および高品位な画面が創り出されている。
[0003] そして、画像表示装置である液晶表示装置のバックライトユニット、プラズマディスプレイまたはプロジェクタ用のスクリーンなどには、輝度向上、視野角拡大および画面品位の改善を目的に種々の光学部材が採用されている。
[0004] 例えば、液晶表示装置のバックライトユニットには、エッジライト式と直下式とがあるが、それぞれにおいて、光学シートが、画面品位向上の目的を達するため多用されている。
[0005] すなわち、エッジライト式のバックライトユニットにおいては、光学部材として、導光板における出射面には、輝度向上のためのプリズムシートや、視野角を広げ、欠陥を目立たなくするための拡散シートが使用されている。また、光学部材として、導光板における出射面の裏面には、反射シートが使用されている。
[0006] 直下式のバックライトユニットにおいても同様に、光学部材として、反射シートや拡散シート、また、場合によってはプリズムシートが使用されている。
[0007] このような種々の光学部材の中において、拡散シートは、輝度向上、視野角拡大および画面品位の改善に最も有効な役割を果たしている。
[0008] 従来の拡散シートは、その表面にシボ状の凹凸をつけたり、ビーズをバインダー中に練り込んでプラスチックシート上に塗布したり、光拡散性材料をシート中に埋め込んだものが使用されていた。
[0009] このような拡散シートにおいては、光線透過率と拡散性とは反比例の関係となって光の有効活用は未だに十分達成されているとはいえない。
[0010] 図6は、液晶表示装置のバックライトユニットについての一般的な拡散シートによる拡散角と輝度との関係を示したものである。
[0011] バックライトユニットの導光板の種類によっても異なるが、図6に示すように、拡散シートの拡散率(Haze)を高くすると、ピーク輝度が下がるだけで拡散角は広がっていない。
[0012] かかる現象は、従来の多くの拡散シートにみられており、このような拡散シートでは、光を等方的に拡散するため、僅かに拡散角が広がっても大きな輝度低下を招いてしまう。
[0013] 逆に、輝度を高くするには、拡散角すなわち視野角を狭くすることを余儀なくされていた。
[0014] このような状況に鑑み、特許文献1(特開2001-4813号公報)に記載の発明においては、透明な基材中に微小な球形の気泡を多数含有させ、この気泡の形状が回転楕円体である拡散シートが開示されている。
[0015] この特許文献1に記載の拡散シートは、拡散方向に異方性を生じさせることによって、必要な方向に拡散性を高めることが狙いで、輝度減少を抑えられることを目的としている。
[0016] 特許文献2(特開2003-29030号公報)に記載の発明においても、楕円形状の微細孔による異方性散乱フィルムが開示されている。
[0017] しかしながら、回転楕円体の気泡では、その拡散性と異方性とを十分にとることができず、また気泡の分散性を制御することも難しいなどの問題がある。
[0018] また、拡散シートの他にも、光学部材をエッジライト式のバックライトユニットにおける導光板に適用したものとしては、特許文献3(特開平2-17号公報)に記載の発明が開示されている。
[0019] この特許文献3に記載の発明においては、導光板の出射面にレンズ単位を形成するとともに、プリズム列が形成されたプリズムシートを、そのプリズム列が導光板側を向くように配置している。
[0020] このような特許文献3に記載の発明によれば、導光板上に形成されたレンズ単位によって光を斜め方向に出射し、この出射した光をプリズムシートによって正面に向けることにより、高い輝度の光を得るようになっている。
[0021] しかしながら、当該特許文献3に記載の発明は、導光板上に形成されたレンズ単位が規則的な構造であるため、光が集光してしまい、この結果、視野角が狭くなるといった欠点を有している。
[0022] さらに、特許文献4(特開平4-9804号公報)に記載の発明においては、導光板上に、大方の方向が入射面と直交するような線状の凹凸を形成することが開示されている。
[0023] この特許文献4に記載の発明によれば、線状の凹凸がレンズ効果を示することによって、光入射面に平行な方向の広がりを集光して高い輝度を得ようとしている。
[0024] しかしながら、当該特許文献4に記載の発明においても、線状の凹凸が導光板中の光の進行方向に向いているため、高い出射効率は発現されず、それ程高輝度は得られない。
[0025] ところで、液晶表示装置は人が画面を注視することから、僅かな欠陥があっても目障りなものとなる。欠陥の中で特に改善が難しいとされているものの一つとして、導光板の入射端近傍の輝線及び帯状の明部と暗部の発現が挙げられる。
[0026] これを解決するため、例えば、特許文献5(特開平5-88168号公報)に記載の発明においては、導光板の入射面を粗面化処理し、入射した光を拡散させることによって輝線及び帯状の明部と暗部の発現を軽減することが開示されている。
[0027] しかし、特許文献5に記載の発明は、入射端近傍だけが異質な光で明るくなり過ぎるといった欠点がある。
特許文献1:特開2001-4813号公報
特許文献2:特開2003-29030号公報
特許文献3:特開平2-17号公報
特許文献4:特開平4-9804号公報
特許文献5:特開平5-88168号公報
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0028] 近年、画像表示装置においては、さらなる輝度向上、品位改善の要望が益々高くなっている一方で、前述のように、輝度を高くすれば視野角は狭くなり、画面の欠陥も目立つようになるとった問題が生じてしまう。
[0029] したがって、このような問題を有効に解決して、高輝度、広視野角で欠陥の目立たない高品位な画像を提供するためには、前述した特許文献1乃至5に記載の手段を超える有力な手段が求められる。
[0030] 本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、高い輝度を維持しつつ視野角を広くすることができ、更に表示の欠陥を目立ちにくくすることができる光学部材およびこれを用いたバックライトユニットを提供することを目的とするものである。
課題を解決するための手段
[0031] 前記目的を解決するため、本発明に係る光学部材の特徴は、光を入射させる入射面と、当該入射面に略平行な出射面とを有する光学部材であって、
[0032] 前記入射面に略コリメートされた光を入射させた際における前記出射面からの出射光が、前記出射面の法線に対して方位角30°に沿って出射光強度における異方性を有し、かつ、当該異方性は、方位角30°に沿った出射光強度の強度分布における最も高い強度値である最高強度値と、方位角30°に沿った出射光強度の強度分布における最も低い強度値である最低強度値との比(最高強度値/最低強度値)が1.2以上とされている点にある。
[0033] そして、このような構成によれば、目的の方向における光の拡散性を適度に大きくすることができるとともに、他の方向における拡散性を適度に抑えることができる。
[0034] また、本発明に係る光学部材の特徴は、入射面および出射面の少なくとも一方に、前記入射面または前記出射面に沿う1つの方向に対して当該入射面上または出射面上において-30°?30°の範囲の角度をなす方向に延在する複数の不規則なレンズ列が配列されている点にある。
[0035] そして、このような構成によれば、不規則なレンズ列によって、良好な異方性拡散光を得ることができる。
[0036] さらに、本発明に係る光学部材の特徴は、入射面または出射面に沿う1つの方向に対して当該入射面上または出射面上において-30°?30°の範囲の角度を有するように延在する複数の不規則なレンズ列における1つの方向が、入射面に配列されるレンズ列と出射面に配列されるレンズ列とで互いに異なる点にある。
[0037] そして、このような構成によれば、レンズ列の配列方向を入射面と出射面とで互いに異ならせることによって、さらに良好な異方性拡散光を得ることができる。
[0038] さらにまた、本発明に係る光学部材の特徴は、複数の不規則なレンズ列が、凹または凸状の断面略三角形状で、その頂角が30°?175°の範囲で異なり、そのピッチが0.1μm?100μmの範囲で異なり、その長さが1μm?1000μmの範囲で異なるランダムで不連続なプリズム列とされている点にある。
[0039] そして、このような構成によれば、レンズ列をランダムで不連続なプリズム列にすることによって、異方性拡散光をさらに確実に得ることができる。
[0040] また、本発明に係る光学部材の特徴は、プリズム列の断面略三角形状が、その頂角部に、半径0.5μm?500μmの円弧状曲面が形成されてなる点にある。
[0041] そして、このような構成によれば、光学シートを形成する場合における転写性を向上することができるとともに、アセンブリ時における傷等の欠陥を少なくすることができる。
[0042] さらに、本発明に係る光学部材の特徴は、光学部材が、バックライトユニットにおける導光板の出射面に対向して配置される光学シートである点にある。
[0043] そして、このような構成によれば、光学部材としての光学シートによって、良好な異方性拡散光を得ることができる。
[0044] さらにまた、本発明に係る光学部材の特徴は、光学部材が、バックライトユニットにおける導光板である点にある。
[0045] そして、このような構成によれば、光学部材としての導光板によって、良好な異方性拡散光を得ることができる。
[0046] また、本発明に係る光学部材の特徴は、光学シートが、拡散シートおよびプリズムシートの少なくとも一方を有する点にある。
[0047] そして、このような構成によれば、光学シートによって、さらに良好な異方性拡散光を得ることができる。」

(2)「発明の効果
[0066] 本発明に係る光学シートによれば、目的の方向における光の拡散性を適度に大きくすることができるとともに、他の方向における拡散性を適度に抑えることができる結果、高輝度でしかも視野角が広く、更に欠陥も目立ちにくい高品位な画像を得ることができる。
[0067] また、本発明に係る光学シートによれば、不規則なレンズ列によって、良好な異方性拡散光を得ることができる結果、さらに高品位な画像を得ることができる。
[0068] さらに、本発明に係る光学シートによれば、レンズ列の配列方向を入射面と出射面とで互いに異ならせることによって、さらに良好な異方性拡散光を得ることができる結果、より高品位な画像を得ることができる。
[0069] さらにまた、本発明に係る光学シートによれば、レンズ列をランダムで不連続なプリズム列にすることによって、異方性拡散光をさらに確実に得ることができる結果、さらに高品位な画像を得ることができる。
[0070] また、本発明に係る光学シートによれば、光学シートを形成する場合における転写性を向上することができるとともに、アセンブリ時における傷等の欠陥を少なくすることができる結果、より高品位な画像を得ることができる。
[0071] さらに、本発明に係る光学部材によれば、光学部材としての光学シートによって、良好な異方性拡散光を得ることができる結果、さらに高品位な画像を得ることができる。
[0072] さらにまた、本発明に係る光学部材によれば、光学部材としての導光板によって、良好な異方性拡散光を得ることができる結果、より高品位な画像を得ることができる。
[0073] また、本発明に係る光学部材によれば、光学シートによって、さらに良好な異方性拡散光を得ることができる結果、さらに優れた品位の画像を得ることができる。」

(3)「発明を実施するための最良の形態
[0084] 次に、本発明に係る光学部材の実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
[0085] 図1に示すように、本実施形態における光学部材1は、光を入射させる入射面2と、当該入射面2に略平行な出射面3とを有しており、この光学部材1は、入射面2に入射された略コリメートされた光Lを、出射面3から拡散させて出射させるようになっている。
[0086] ここで、略コリメートされた光とは、光源から50cm離れたところで光源の大きさ(光源が円形であれば直径に相当)より10%以上広がらない光線とする。このコリメートされた光を得るためには、点発光源を用いてレンズを組み合わせてもよいし、また、レーザー光線等を用いてもよい。
[0087] また、本実施形態における光学部材1は、入射面2に略コリメートされた光を入射させた際における出射面3からの出射光が、図1に示す出射面3の法線nに対して方位角θ=30°に沿って出射光強度における異方性を有している。
[0088] さらに、当該異方性は、方位角30°に沿った出射光強度の強度分布における最も高い強度値である最高強度値と、方位角30°に沿った出射光強度の強度分布における最も低い強度値である最低強度値との比(最高強度値/最低強度値)が1.2以上(好ましくは1.5以上(より好ましくは2.0以上))とされている。
[0089] なお、最高強度値と最低強度値との比(最高強度値/最低強度値)は、図1に示すように、方位角方向に延びる線分O-A(長軸)、線分O-C(短軸)をその方向における出射光の強度と仮定した場合に、線分O-Aと線分O-Cとの比(長軸/短軸)と同義になる。
[0090] ここで、強度分布の最高強度値と最低強度値との比が1.2以上であれば、目的の方向には光の拡散性が大きくなり、他の方向には拡散性が抑えられた光学部材1が得られる。これによって、画像表示装置において輝度低下が小さく、視野角の広い画面を得ることができる。
[0091] なお、前述のように方位角を30°としたのは、本実施形態の光学部材1における異方性拡散を定量的に特定するために、液晶ディスプレイを斜め方向から観察する代表角として設定したに過ぎない。
[0092] したがって、30°と異なる方位角においては、光学部材1の最高強度値と最低強度値との比についての好ましい値が、前述した値(1.2以上)と異り得ることは言うまでもない。
[0093] また、一般に、光の強度分布は、光度によって測定することになるが、前述のように同一方位角の場合には、輝度の測定によって比較することができる。
[0094] さらに、本実施形態における光学部材1は、図1および図2に示すように、入射面2および出射面3の少なくとも一方(図1において入射面2および出射面3の双方)に、複数の不規則なレンズ列4,5を有している。
[0095] レンズ列4,5は、入射面2または出射面3に沿う1つの方向に対して当該入射面2上または出射面3上において-30°?30°(好ましくは-20°?20°)の範囲の角度をなす方向に延在している。
[0096] なお、図1においては、入射面2に形成された複数の不規則なレンズ列4は、それぞれが、入射面2の長手方向(X軸方向)に対して-30°?30°(好ましくは-20°?20°)の範囲内における不規則な角度をなしている。
[0097] また、出射面3に形成された複数の不規則なレンズ列5は、それぞれが、出射面3の長手方向に直交する方向(Y軸方向)に対して-30°?30°(好ましくは-20°?20°)の範囲内における不規則な角度をなしている。
[0098] さらに、本実施形態において、複数の不規則なレンズ列4,5は、凹または凸状の断面略三角形状で、その頂角が30°?175°の範囲で異なり、そのピッチが0.1μm?100μmの範囲で異なり、その長さが1μm?1000μmの範囲で異なるランダムで不連続なプリズム列とされている。
[0099] ここで、図3は、振幅物体が1個の場合における回折光の広がり6と周期的に無数ある場合における回折光の広がり7とを示している。
[0100] 回折理論によると、振幅物体に対してその断面方向に光は回折され、その回折角θmは、sinθm=m・λ/p で表される。ただし、pは振幅物体のピッチ、λは波長、mは0、±1、±2、・・・の整数で回折の次数を表す。
[0101] そして、振幅物体が少なく、規則性がなくなると、回折光は、その振幅物体の断面方向に広がり、回折強度は小さくなる傾向にある。一方、振幅物体が多数でランダムであれば、回折光は、その振幅物体の断面方向に大きく広がる傾向にある。
[0102] そこで、本実施形態においては、前述したように、振幅物体であるレンズ列4,5が、入射または出射面2,3に沿う1つの方向に対して-30°?30°の範囲の角度をなす方向に延びる断面略三角形状のランダムで不連続なプリズム列からなるため、光学部材1に入射した光は、前記1つの方向に直交する方向に対して-30°?30°の角度をなす方向に回折されることになる。
[0103] また、前述したように、前記プリズム列は、その頂角が30°?175°の範囲で不規則に異なり、かつ、ピッチも0.1μm?100μmの範囲で不規則に異なり、さらに、そのプリズム稜線の長さも1μm?1000μmの範囲で異なりランダムで不連続になっていることから、さらに大きな広がりをもった回折光を得ることができる。
[0104] したがって、本実施形態のプリズム列によれば、もはや出射光の回折次数などは識別することができず、この結果、出射光として良好な異方性拡散光を得ることができるようになっている。
[0105] また、前述のように、双方のレンズ列4,5の延在方向が互いに異なることによって、さらに良好な異方性拡散光を得ることができるようになっている。
[0106] なお、プリズム列のピッチは、数十μm程度であってもよい。この場合には、幾何光学的な振る舞いをするが、同様な方向に光が広がることは、光線追跡によって容易に知ることができる。
[0107] また、前述したように、本実施形態においてプリズム列のピッチを0.1μm?100μmの範囲で不規則に形成する理由としては、大きな広がりをもった回折光を得ること以外にも次の理由がある。
[0108] すなわち、プリズム列のピッチが0.1μm以下であると、加工が困難なため、高価となり、また、加工の再現性が不良となるからである。一方、プリズム列のピッチが100μm以上となると、拡散性が不十分で、目視でそのピッチが視認されることがあるからである。
[0109] なお、プリズム列のピッチは、より好ましくは0.5μm?20μmの範囲とされている。
[0110] さらに、前述したように、プリズム列のプリズム頂角を30°?175°の範囲で不規則に選択する理由としては、大きな広がりをもった回折光を得ること以外にも次の理由がある。
[0111] すなわち、回折理論では、ピッチと高さとの比が大きいほど回折効率は高くなるが、本実施形態の光学部材1においては、プリズム頂角が30°未満であると、光学部材1を例えば光学シート等の他の部材と組み合わせて使用する場合に、当該他の部材に傷をつけやすくなるからである。一方、プリズム頂角が175°以上であると、回折効率が低下するからである。
[0112] なお、プリズム列のプリズム頂角は、より好ましくは80°?120°の範囲とされている。
[0113] さらに、プリズム列の頂部は、底部に対して前記頂角に相当する角度が確保できればよく、例えば曲面であってもよい。曲面でも十分に異方性拡散機能を得ることができるからである。
[0114] その場合には、曲面は、半径0.5μm?500μmの円弧状曲面とすることが好ましい。この程度であれば、光学部材1を成形する場合における転写性を容易にすることができ、かつ、アセンブル時における傷などの欠陥を少なくすることができるからである。
[0115] 上記の構成に加えて、さらに、光学部材1のプリズム列の密度を、出射面の場所によって変化させるようにしてもよい。
[0116] プリズム列の密度を高くするには、前記プリズム列のピッチを0.1μm?100μmの範囲で細かい割合を多くし、かつ、プリズム頂角を30°?175°の範囲で鋭角の割合を多くし、さらに、プリズム列の長さを1μm?1000μmの範囲で短い割合を多くすることによって行うことができる。
[0117] これによって、光学部材1の面内で異方性拡散効率を変化させることができ、所望の異方性拡散光を得ることができる。
[0118] また、一般に、画像表示装置の画面縁は、輝度が低くなる傾向があるため、これを改善して高品位な画像表示装置を得るには、前記プリズム列の密度を変化させることが有効である。
[0119] この場合には、プリズム列の密度変化を出射面の中央から入射面長手方向に沿って逐次増加させることがより好ましい。
[0120] さらに、本実施形態において、光学部材1の基材は、光透過率の高い合成樹脂から構成することができる。この場合、基材の厚みは、0.01mm?10mmとすることが好ましい。0.01mmより薄いと成形が難しく、取り扱いが悪いからである。一方、10mmより厚いと、画像表示装置の厚みが厚くなり、重くなるからである。
[0121] また、光学部材1の厚みは、光学部材1を、液晶表示装置のエッジライト式のバックライトユニットに搭載する光学シートとして用い場合には、0.08mm?0.3mmとすることがより好ましい。一方、光学部材1を、拡散シートとして直下式の液晶表示装置に用いる場合には、光学部材1の厚みは0.5mm?3mmとすることがより好ましい。
[0122] さらに光学部材1の基材として用いる合成樹脂としては、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂および塩化ビニル系樹脂等を例示することができる。
[0123] 特に、メタクリル樹脂は、光透過率の高さや成形加工性に優れており、光学シートの基材に用いる合成樹脂としてより適している。
[0124] このようなメタクリル樹脂としては、メタクリル酸メチルを主成分とする樹脂であり、かつ、メタクリル酸メチルが80重量%以上であるものが好ましい。
[0125] なお、上記の構成に限らず、例えば、一方の平面が出射面とされた光透過性のシートにおける内部及び出射面表層に拡散剤を含有させてなる基材に、前記出射面に沿って前述のレンズ列を配列させることによって光学部材を形成するようにしてもよい。」

(4)図2の記載から、レンズ列が交差する箇所が見て取れる。

(5)上記(1)ないし(4)から、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「さらなる輝度向上、品位改善の要望が益々高くなっている液晶表示装置のバックライトユニットに用いるのに好適な光学部材である光学シートにおいて、
輝度を高くすれば視野角は狭くなり、導光板の入射端近傍の輝線及び帯状の明部と暗部の発現等の画面の欠陥も目立つようになるといった問題が生じてしまうので、
光を入射させる入射面と、当該入射面に略平行な出射面とを有し、出射面に、前記出射面に沿う1つの方向に対して当該出射面上において-30°?30°の範囲の角度をなす方向に延在する複数の不規則なレンズ列を配列して、高輝度でしかも視野角が広く、更に欠陥も目立ちにくい高品位な画像を得ることができるようにした光学シートであって、
レンズ列の前記配列を、レンズ列が交差する箇所が生じるようにし、
複数の不規則な前記レンズ列を、凹または凸状の断面略三角形状で、その頂角が30°?175°の範囲で異なり、そのピッチが0.1μm?100μmの範囲で異なり、その長さが1μm?1000μmの範囲で異なるランダムで不連続なプリズム列とし、
基材として合成樹脂を用い、その厚みを0.08mm?0.3mmとし、その一方の平面を出射面とし、該出射面に沿って前述のレンズ列、すなわちプリズム列を配列して形成した光学部材である光学シート。」(以下「引用発明1」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「合成樹脂を用い、その厚みを0.08mm?0.3mmとした基材」、「基材の出射面に沿って」、「『プリズム列』とした『レンズ列』」、「光学部材である光学シート」及び「交差」は、それぞれ本願補正発明の「プラスチック基板」、「基板の一側上に」、「柱状構造」、「光学フィルム」及び「交差」に相当する。

(2)引用発明1の「光学フィルム(光学シート)」は、光を入射させる入射面と、当該入射面に略平行な出射面とを有し、出射面に、前記出射面に沿う1つの方向に対して当該出射面上において-30°?30°の範囲の角度をなす方向に延在する複数の不規則なレンズ列を配列して、高輝度でしかも視野角が広く、更に欠陥も目立ちにくい高品位な画像を得ることができるようにしたものであり、レンズ列の前記配列を、レンズ列が交差する箇所が生じるようにし、複数の不規則な前記レンズ列を、凹または凸状の断面略三角形状で、その頂角が30°?175°の範囲で異なり、そのピッチが0.1μm?100μmの範囲で異なり、その長さが1μm?1000μmの範囲で異なるランダムで不連続なプリズム列とし、「プラスチック基板(合成樹脂を用い、その厚みを0.08mm?0.3mmとしした基材)」の一方の平面を出射面とし、「基板の一側上に(該出射面に沿って)」前述のレンズ列、すなわち「柱状構造(プリズム列)」を配列して形成した光学部材であるから、本願補正発明の「光学フィルム」と、「プラスチック基板と、前記基板の一側上に配置された構造化された表面層とを備え」る点で一致する。ここで、引用発明1の「柱状構造(プリズム列)の配列」が本願補正発明の「構造化された表面層」に相当する。また、引用発明1の「出射面に、前記出射面に沿う1つの方向に対して当該出射面上において-30°?30°の範囲の角度をなす方向に延在する複数の不規則なレンズ(プリズム)列を配列して、高輝度でしかも視野角が広く、更に欠陥も目立ちにくい高品位な画像を得ることができるようにし、かつ、レンズ列の前記配列を、レンズ列が交差する箇所が生じるようにした」点は本願補正発明の「前記構造化された表面層は、複数の非平行で近接する柱状構造を有する非規則的な輝度増強構造を有し、前記複数の非平行で近接する柱状構造は、二つの非平行で交差した柱状構造の組を有する」点に相当するといえる。

(3)上記(1)及び(2)から、本願補正発明と引用発明1とは、
「プラスチック基板と、
前記基板の一側上に配置された構造化された表面層とを備え、
前記構造化された表面層は、複数の非平行で近接する柱状構造を有する非規則的な輝度増強構造を有し、前記複数の非平行で近接する柱状構造は、二つの非平行で交差した柱状構造の組を有する、光学フィルム。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記複数の非平行で近接する柱状構造が、本願補正発明では、二つの「非平行だが交差しない柱状構造」の組を有するのに対して、引用発明1では、二つの「非平行だが交差しない柱状構造(プリズム列としたレンズ列)」の組を有するかどうか明確でない点。

5 判断
上記相違点1について検討する。
(1)本願明細書には、本願補正発明に関して次の記載がある。
ア 「集光フィルム(当該分野においては輝度増強フィルムまたはプリズムフィルムとも称される)は、厚さ僅か50?200μmのポリエステルの光学フィルム上に活性なUV光を用いて特別なアクリル樹脂を硬化させることによって形成されたマイクロストリップ形状のプリズム構造を有する。ここで、マイクロストリップ形状のプリズム構造は互いに平行である。輝度増強フィルムの主要な機能には、屈折及び内部全反射という手段によって全方向において導光板からやって来る散乱光線を集めることと、略±35度の軸上方向に光線を集束させてLCDの輝度を増強することとが含まれる。図1は従来の輝度増強フィルムの概略図である。図1に示されるように、複数のマイクロストリップ形状のプリズム構造(2)が基板(1)上に配置される。このマイクロストリップ形状のプリズム構造は互いに平行である。プリズム構造のそれぞれは、二つの傾斜した表面から成る。ここで、この二つの傾斜した表面はプリズムの頂点で合わさってピット(3)を形成し、二つのプリズム同士が合わさって、溝(4)を形成する。従来技術の輝度増強フィルムは固定された幅を有する規則的なストリップ形状の構造を備えるので、ディスプレイの他のフィルムにより屈折または反射された光線によって、または、輝度増強フィルムにより屈折または反射された他の光線によって引き起こされる光学干渉が生じ、モアレまたはニュートン環が現れる。」(【0003】)
イ 「特許文献1には、ピット距離(つまり近接するピット間の距離)が異なる二組のプリズム構造を用いて、輝度増強フィルムを作成することが開示されている。特許文献2には、ピット高さが異なる二組のプリズム構造を用いて、輝度増強フィルムを作成する方法が開示されている。ここで、ピット高さとは、ピットから基準面(例えば、基板の上面)までの距離のことを称する。特許文献1及び特許文献2で用いられるプリズム構造においては、単一のプリズム構造は単一のピット高さを有する。特許文献3には、異なるピット高さを有する単一のプリズム構造(つまり、プリズムのピットラインが直線ではない)を用いて、輝度増強フィルムを作成する方法が開示されている。図2は特許文献3の輝度増強フィルムの概略図であり、複数のマイクロプリズム構造(6)が基板(5)上に配置されている。このプリズム構造は互いに平行であり、単一のプリズム構造は、その長さ方向毎に、ピットの高さが異なる。しかしながら、従来の輝度増強フィルムにおいては、ピット距離またはピット高さが変更されるといっても、輝度増強構造は規則的なままである。即ち、プリズムは互いに平行である(つまり、平行なピットまたは平行な溝を有する)。従って、光学干渉を効果的に軽減することは出来ない。当該業界において提案されている解決策は、輝度増強フィルムの上方に拡散フィルムを配置することである。しかしながら、これには、コストの増加とバックライトモジュールが複雑になるという不利な点がある。さらには、従来の輝度増強フィルムは規則的な輝度増強構造を有しているので、輝度増強構造が損傷を受けると、例えば、プリズム構造の頂角がへこみ、集光効果が不利に影響を受けるか、パネル上にダークスポットが生じる。従って、輝度増強フィルムは、硬度が高くて損傷を受けない輝度増強構造を有する必要があるが、これによって製造コストが上昇することになる。」(【0004】)
ウ 「【課題を解決するための手段】
本願発明の光学フィルムは、非平行で近接する柱状構造を有し、集光が可能であり、光学干渉を減少させることが可能である。これに加えて、従来技術と比較して、本願発明の光学フィルムは、非規則的な輝度増強構造及び工程の要求が厳しくないことにより、低コストで製造可能である。
本願発明は、平面ディスプレイの輝度を増強し、また、光学干渉を減少させるための光学フィルムを主に対象とする。本願発明は、透明基板及び構造化された表面層を含む光学フィルムを提供する。この構造化された表面層は、透明基板の上面上に配置され、複数の非平行で近接した柱状構造を有する。」(【0007】、【0008】)
エ 「従来の輝度増強フィルムの構造は極度に規則的であり、フィルムが他の構成要素と共に使用される際に、直接屈折及び複屈折光による干渉のせいで、所謂“反射モアレ”が引き起こされる。本願発明の光学フィルムは構造化された表面層を有し、また、構造化された表面層が非平行な近接する柱状構造を有するので、本願発明の光学フィルムは、従来の輝度増強フィルム及び拡散フィルムの性質を併せ持ち、輝度増強効果を保持したままで、規則的な輝度増強構造によって引き起こされていた光学干渉を減少させることができる。従来の輝度増強フィルムと比較すると、本願発明の光学フィルムは、干渉を減少させる効果を達成しながらも、従来の輝度増強フィルムの輝度値の少なくとも90%以上を維持可能である。」(【0021】)
オ 「本願発明の光学フィルムの構造化された表面層は、基板の上面上に配置され、非平行で近接する柱状構造を複数有する。柱状構造の形状は特に限定されないが、例えば、線形、ジグザグ型、曲がりくねった形状が挙げられる。本願発明によると、構造化された表面層は、二つの非平行で交差した柱状構造の組、及び/又は、二つの非平行だが交差しない柱状構造の組を含んでもよい。構造化された表面層は、平行な柱状構造をある程度有することが可能である。図3a及び3bは、本願発明の光学フィルムの概略図であり、光学フィルムの構造化された表面層は、非平行で線形な柱状構造から成る。図3aは光学フィルムの上面図であり、図3bは、図3aの選択された領域の側面図である。図3a及び3bに示されるように、光学フィルムの構造化された表面層は、二つの非平行で交差した柱状構造(7)と二つの非平行だが交差しない柱状構造(8)とを含む。図4は、本願発明の他の光学フィルムの概略図であり、光学フィルムの構造化された表面層は、主に非平行で線形な柱状構造から成り、追加的に平行で線形な柱状構造を有する。図4に示されるように、光学フィルムの構造化された表面層は、二つの非平行で交差した柱状構造(9)と、二つの非平行だが交差しない柱状構造(10)と、二つの平行な柱状構造(11)とを含む。」(【0014】)

(2)上記(1)の記載からみて、本願補正発明に関して次のことが把握できる。
従来の輝度増強フィルムのプリズム構造は、互いに平行であり、固定された幅を有する規則的なストリップ形状の構造を備えるので、光学干渉が生じ、モアレまたはニュートン環が現れた。
また、ピット距離またはピット高さを変更した従来の輝度増強フィルムにおいても、輝度増強構造は規則的なまま、即ち、プリズムは互いに平行(つまり、平行なピットまたは平行な溝を有する)であったので、光学干渉を効果的に軽減することは出来ず、規則的な輝度増強構造を有しているので、硬度が高くて損傷を受けない輝度増強構造を有する必要があり、製造コストが上昇した。
本願補正発明は、構造化された表面層を含む光学フィルムであり、この構造化された表面層は、複数の非平行で近接した柱状構造を有する非規則的な輝度増強構造であるので、輝度増強効果を保持したままで、規則的な輝度増強構造によって引き起こされていた光学干渉を減少させることができ、要求が厳しくなく低コストで製造可能である。
また、構造化された表面層は、二つの非平行で交差した柱状構造の組、及び/又は、二つの非平行だが交差しない柱状構造の組を含んでもよいものであるので、本願補正発明では、複数の非平行で近接した柱状構造が、「二つの非平行で交差した柱状構造の組」及び「二つの非平行だが交差しない柱状構造の組」を有するものとした。

(3)本願補正発明は構造化された表面層を含む光学フィルムであるところ、上記(2)からみて、本願補正発明において、課題を解決するための構成は、構造化された表面層が、複数の非平行で近接した柱状構造を有する非規則的な輝度増強構造である点であり、この「複数の非平行で近接する柱状構造」が、「二つの非平行で交差した柱状構造の組」及び「二つの非平行だが交差しない柱状構造の組」を有する点に、設計上の事項を超える技術上の意義はみだせないから、この点は、当業者が適宜決定することができた程度の設計上の事項にすぎない。

(4)また、引用発明1は、輝度を高くすれば視野角は狭くなり、導光板の入射端近傍の輝線及び帯状の明部と暗部の発現等の画面の欠陥も目立つようになるといった問題が生じてしまうので、光を入射させる入射面と、当該入射面に略平行な出射面とを有し、出射面に、前記出射面に沿う1つの方向に対して当該出射面上において-30°?30°の範囲の角度をなす方向に延在する複数の不規則なレンズ列を配列して、高輝度でしかも視野角が広く、更に欠陥も目立ちにくい高品位な画像を得ることができるようにした光学シートであるから、前記「複数の非平行で近接する柱状構造(プリズム列としたレンズ列)」が二つの非平行だが交差しない「柱状構造(プリズム列としたレンズ列)」の組を有することに対して阻害要因を有しているともいえない。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、引用発明1において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

(6)本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(7)まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし19に係る発明は、平成22年12月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年12月1日に補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開2006/073616号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。なお、日本語訳には特表2008-527408号公報を用いた。
(1)「Figs. 3 A and 3B show an exemplary embodiment of an optical film 6c according to the present disclosure. A structured surface 10c and a substrate portion 12c may be a single film as shown in Figs. 3A and 3B. In the exemplary embodiment shown, the structured surface 10c includes a plurality of rectangular-based prismatic structures 8c, each having two pairs of substantially parallel sides disposed opposite one another along the first and second general directions respectively. The exemplary prismatic structures 8c are arranged such that the sides of at least two neighboring structures are non-parallel to each other and also may be arranged such that sides of at least one of the prismatic structures are non-parallel to either the X direction or the Y direction. Instead, at least one of the pairs of sides of at least one of the prismatic structures is disposed at an angle with respect to at least one pair of sides of at least one other prismatic structure, as illustrated in Fig. 3A by the angle #, which angle may vary from structure to structure across the structured surface 10c. In some exemplary embodiments, the angle # varies randomly across the surface 10c.
Such exemplary embodiments are referred to as having prismatic structures with sides that are angularly offset with respect to each other. An exemplary arrangement of the prismatic structures 8c that are angularly offset with respect to each other may aid in widening a viewing angle along a particular direction or directions or in reducing or eliminating Moire patterns. Those of ordinary skill in the art will readily appreciate that prismatic structures of other configurations may be used in this exemplary embodiment, for example, square-based prismatic structures. In some exemplary embodiments, prismatic structures of varying sizes and/or configurations may be used.
As one of ordinary skill in the art would understand, the structured surface 10c and the substrate portion 12c may be formed as a single part to produce the optical film 6c, or they may be formed separately and then joined together to produce a single part. The optical film 6c may be manufactured by any method known to those of ordinary skill in the art including, but not limited to, embossing, casting, compression molding, and batch processes.」(10頁8行?11頁11行)
(日本語訳)
「図3Aおよび図3Bは、本開示による光学フィルム6cの例示的な実施形態を示す。構造化表面10cおよび基板部分12cは、図3Aおよび図3Bに示すような単一フィルムであってよい。図示の例示的な実施形態においては、構造化表面10cは、複数の矩形ベースのプリズム状構造体8cを含み、それぞれ、第1および第2の一般的な方向に沿って互いに対向してそれぞれ配置された、2対の、実質的に平行な辺を有する。例示的なプリズム状構造体8cは、少なくとも2つの隣接する構造体の辺が互いに平行にならないように配置され、かつまた、プリズム状構造体の少なくとも1つの辺がX方向またはY方向のどちらかと平行にならないように配置されてもよい。代わりに、少なくともの1つのプリズム状構造体の少なくとも1つの対の辺を、少なくとも1つの他のプリズム状構造体の少なくとも1つの対の辺に対して、図3Aに示すように角度Ωだけ角度をつけて配置する。その角度は、構造化表面10cにわたって構造体ごとに変化してもよい。いくつかの例示的な実施形態においては、角度Ωは、表面10cにわたって不規則に変わる。
このような例示的な実施形態は、互いに対して角度的にずれた辺を有するプリズム状構造体を有するものとして参照される。互いに対して角度的にずれている、プリズム状構造体8cの例示的な配置は、特定の1つまたは複数の方向に沿って観察角を広くする、またはモアレパターンを減少もしくは消去するのに役立つ。当業者は、この例示的な実施形態に、他の外形のプリズム状構造体、例えば正方形ベースのプリズム状構造体を使用してもよいことを容易に理解するであろう。いくつかの例示的な実施形態においては、様々な大きさおよび/または外形のプリズム状構造体を使用してもよい。
当業者が理解するように、構造化表面10cおよび基板部分12cを単一部品として形成して光学フィルム6cを提供してもよいし、またはそれらを別個に形成してから結合させて、単一部品を提供してもよい。光学フィルム6cは、これに限定されないが、エンボス加工法、鋳造法、圧縮成形法、およびバッチ処理法を含めて、当業者に公知のいかなる方法で製造されてもよい。」(公表公報の【0018】?【0020】参照。)

(2)「Figs. 8 A - 8C illustrate further exemplary embodiments of one of the prismatic structures 8 according to the present disclosure. Fig. 8A shows a prismatic structure 8h having two opposing first sides A _(3) and two opposing second sides B _(3) ; the length of A _(3) is less than the length of B _(3) . The prismatic structure 8h also includes two surfaces 14c and two surfaces 16c. In this exemplary embodiment, the prismatic structure 8h further includes a substantially flat surface 26b which occupies a sufficiently small area to maintain an optical gain of at least about 1.1. The flat surface 26b may be useful, for example, when bonding an additional optical film or substrate on top of the prismatic structures 8h of the structured surface 10 (e.g., structured surface 10a - 1Oe). Furthermore, the flat surface may aid in transmitting more light in the direction perpendicular to the display (i.e., the direction along which the viewer is most likely to view the screen). The surface 26b may be raised or it may be depressed. In some exemplary embodiments, the surface 26b may be rounded. 」(20頁5?17行)
(日本語訳)
「図8A?図8Cは、本開示によるプリズム状構造体8の1つのさらなる例示的な実施形態を示す。図8Aは、2つの対向する第1の辺A_(3)および2つの対向する第2の辺B_(3)を有するプリズム状構造体8hを示す。A_(3)の長さはB_(3)の長さ未満である。プリズム状構造体8hは、2つの表面14cおよび2つの表面16cも含む。この例示的な実施形態においては、プリズム状構造体8hは、少なくとも約1.1の光学利得を維持するのに十分な小さい面積を占める、実質的に平らな面26bをさらに含む。平面26bは、例えば、構造化表面10(例えば、構造化表面10a?10e)のプリズム状構造体8hの頂部に追加的な光学フィルムまたは基板を接合する場合に有用であろう。さらに、平面は、ディスプレイに垂直な方向(すなわち、視聴者がスクリーンを見る可能性が最も高い方向)に、より多くの光を透過させるのに役立つかもしれない。表面26bは隆起させても、または窪ませてもよい。いくつかの例示的な実施形態においては、表面26bに丸みをつけてもよい。」(公表公報の【0040】参照。)

(3)Fig.8Aから、B_(3)の長さはA_(3)の長さの2倍又はそれ以上であり、プリズム状構造体8hは、柱状であることが見て取れる。

(4)上記(1)ないし(3)から、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。
「構造化表面10c及び基板部分12cを別個に形成してから結合させて単一部品としたもので、構造化表面10cは、複数の矩形ベースのプリズム状構造体8cを含み、複数のプリズム状構造体8cは、それぞれ、第1および第2の一般的な方向に沿って互いに対向してそれぞれ配置された、2対の、実質的に平行な辺を有し、少なくとも2つの隣接するプリズム状構造体8cの辺が互いに平行にならないように配置され、互いに対して角度的にずれており、プリズム状構造体8cのこのような配置は、特定の1つまたは複数の方向に沿って観察角を広くするとともに、モアレパターンを減少もしくは消去するのに役立ち、また、他の外形のプリズム状構造体を使用してもよい、光学フィルム6cにおいて、
他の外形のプリズム状構造体として、2つの対向する第1の辺A_(3)及び2つの対向する第2の辺B_(3)を有し、2つの表面14cおよび2つの表面16cも含み、実質的に平らな面26bをさらに含み、B_(3)の長さはA_(3)の長さの2倍又はそれ以上である柱状のプリズム状構造体8hを用いた、光学フィルム6c。」(以下「引用発明2」という。)

3 対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比する。
(1)引用発明2の「基板部分12c」、「『基板部分12c』の『構造化表面10c』と『結合させ』た一側」、「構造化表面10c」、「辺が互いに平行にならないように配置され」、「隣接する」、「柱状のプリズム状構造体8h」及び「他の外形のプリズム状構造体として、柱状のプリズム状構造体8hを用いた、光学フィルム6c」は、それぞれ、本願発明の「基板」、「基板の一側」、「構造化された表面層」、「非平行」、「近接する」、「柱状構造」及び「光学フィルム」に相当する。

(2)上記(1)に照らせば、本願発明と引用発明2とは、
「基板と、
前記基板の一側上に配置された構造化された表面層とを備え、
前記構造化された表面層は、複数の非平行で近接する柱状構造を有する光学フィルム。」である点で一致し、相違するところはない。
したがって、本願発明は引用発明2と同一の発明である

(3)本願発明は、引用発明2と同一の発明であるから、引用例2に記載された発明である。

4 むすび
本願発明は、引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-20 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2007-220310(P2007-220310)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 住田 秀弘
西村 仁志
発明の名称 光学フィルム  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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