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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C09K
審判 一部無効 2項進歩性  C09K
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C09K
管理番号 1277290
審判番号 無効2010-800016  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-01-27 
確定日 2013-07-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3878238号「液晶用スペーサーおよび液晶用スペーサーの製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成23年11月21日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10431号平成24年11月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3878238号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3878238号についての出願及び本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成 8年 1月24日 特許出願(特願平8-31436号 以下「本願」という。)
平成18年11月10日 設定登録
平成22年 1月27日 本件特許無効審判請求
(請求項1に係る発明についての特許を無効とする。)
平成22年 4月16日 答弁書提出
平成22年 7月12日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年 7月26日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年 7月26日 第一回口頭審理
平成22年 7月28日 上申書(請求人)
平成22年 9月 7日 審決(請求不成立 以下「一次審決」という。)
平成22年10月13日 審決取消訴訟提起
平成23年 7月 7日 判決(審決取消 以下「一次判決」という。)
平成23年 7月26日 訂正請求申立
平成23年 8月 9日 訂正請求のための期間指定通知(同年8月15日発送)
平成23年 8月24日 訂正請求書及び答弁書(2)提出
平成23年 9月29日 上申書(被請求人)
平成23年10月11日 弁駁書提出
平成23年10月12日 上申書(請求人)
平成23年11月21日 審決(請求不成立 以下「二次審決」という。)
平成23年12月22日 審決取消訴訟提起
平成24年11月14日 判決(審決取消 以下「二次判決」という。)
平成24年12月12日 訂正請求申立
平成25年 1月11日 訂正請求のための期間指定通知(同年1月16日発送)
平成25年 1月28日 訂正請求書及び答弁書(3)提出
平成25年 3月 5日 弁駁書(3)提出
当審は、被請求人に対し、相当の期間を指定して、弁駁書(3)に対する答弁書提出の機会を与えたが、答弁書は提出されなかった。

第2 訂正請求の内容
(1)訂正事項
被請求人が平成25年1月28日付けで請求する訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許明細書を平成25年1月28日に提出した訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正するものであり、次の訂正事項1ないし8をその内容とするものである。

訂正事項1:訂正前の請求項1の「液晶用スペーサー。」を、「液晶用スペーサーであって、」と訂正する。

訂正事項2:訂正事項1に続けて、訂正前の請求項1のグラフト重合体鎖を構成する「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」について、「前記グラフト共重合体鎖に含まれる前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体は一種であり、」と訂正する。

訂正事項3:訂正事項2に続けて、訂正前の請求項1のグラフト共重合体鎖を構成する「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」について、「前記グラフト共重合体鎖に含まれる前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体はステアリルメタクリレート又はラウリルメタクリレートであり、」と訂正する。

訂正事項4:訂正事項3に続けて、訂正前の請求項1の「グラフト共重合体鎖を導入」について、「前記グラフト共重合体鎖の前記導入は、表面に前記グラフト共重合体鎖が導入されていない重合体粒子に、前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体であるステアリルメタクリレートまたはラウリルメタクリレートと、前記他の重合性ビニル単量体であるメチルメタクリレートを仕込んでグラフト重合する」と訂正する。

訂正事項5:訂正事項4に続けて、末尾を「前記液晶スペーサー。」と訂正する。

訂正事項6:訂正前の段落【0004】中、「表面に長鎖アルキル基を有する…重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーを提供する」とあるのを、「表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種又は二種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなることを特徴とする液晶用スペーサーであって、前記グラフト共重合体鎖に含まれる前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体は一種であり、前記グラフト共重合体鎖に含まれる前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体はステアリルメタクリレート又はラウリルメタクリレートであり、前記グラフト共重合体鎖の前記導入は、表面に前記グラフト共重合体鎖が導入されていない重合体粒子に、前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体であるステアリルメタクリレート又はラウリルメタクリレートと、前記他の重合性ビニル単量体であるメチルメタクリレートを仕込んでグラフト重合するものである前記液晶用スペーサーを提供する」と訂正する。

訂正事項7:訂正前の段落【0026】の[実施例12]を、[実施例12(参考例)]と訂正する。

訂正事項8:訂正前の段落【0027】の「長鎖アルキル基を有する二次グラフト共重合体鎖」を、「二次グラフト共重合体鎖」と訂正する。

(2)特許請求の範囲
訂正事項1ないし5は何れも特許請求の範囲の請求項1についてする訂正事項であるところ、本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。(以下、本件訂正前の請求項1に係る発明を「本件発明」といい、その明細書を「本件明細書」という。また、本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件訂正発明」といい、その明細書を「本件訂正明細書」という。)

本件発明
「表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなることを特徴とする液晶用スペーサー。」

本件訂正発明
「表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなることを特徴とする液晶用スペーサーであって、
前記グラフト共重合体鎖に含まれる前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体は一種であり、
前記グラフト共重合体鎖に含まれる前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体はステアリルメタクリレート又はラウリルメタクリレートであり、
前記グラフト共重合体鎖の前記導入は、表面に前記グラフト共重合体鎖が導入されていない重合体粒子に、前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体であるステアリルメタクリレートまたはラウリルメタクリレートと、前記他の重合性ビニル単量体であるメチルメタクリレートを仕込んでグラフト重合するものである前記液晶用スペーサー。」

第3 訂正の適否
1 本件明細書には、おおむね次の記載がある。
ア 発明の属する技術分野
本発明は液晶用スペーサーおよび該液晶用スペーサーの製造方法に関するものである。(【0001】)

イ 従来の技術
液晶パネルにおいてはパネルの間隙を維持するために無機あるいは有機の液晶用スペーサーが用いられている。しかしながら該液晶パネルにおいて、液晶とスペーサーとの界面で液晶分子の配向が変則的となり(異常配向)、表示品質が著しく低下する。上記異常配向が起きるとスペーサーの周りにドメインと呼ばれる領域が発生する。このドメインは液晶パネルの動作時に光抜けを起こし液晶パネルのコントラストを低下させる。上記ドメインは液晶とスペーサーとの界面で液晶分子が垂直に配向することによって消失することは周知であった。スペーサー表面での垂直配向を促進させるため、架橋重合体微粒子の表面に長鎖アルキル基を存在させた液晶スペーサーが提供されている(特開平4-27917号)。該液晶スペーサーは架橋重合体微粒子に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体および重合開始剤を含浸させた後重合を行なうことによって製造される。しかしながら従来の方法ではスペーサー表面へのアルキル基導入が充分でないためドメインは完全には消失しなかった。(【0002】)

ウ 発明が解決しようとする課題
上記従来技術では、架橋重合体微粒子に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体および重合開始剤を含浸させるため、架橋重合体微粒子、重合性ビニル単量体、あるいは重合開始剤の種類によって含浸の度合いが異なり、また含浸温度、含浸圧力等の含浸条件によっても含浸の度合いが異なり、該架橋重合体微粒子の表面に所定濃度の長鎖アルキル基を導入することは困難であった。更に該重合性ビニル単量体や重合開始剤を架橋重合体微粒子に含浸させると、該重合性ビニル単量体や重合開始剤が該架橋重合体微粒子によって稀釈されるために重合効率が低下すると言う問題も生じる。(【0003】)

エ 課題を解決するための手段
(ア)本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーを提供するものであり、該液晶用スペーサーは表面にラジカル連鎖移動可能な官能基および/またはラジカル重合開始能を有する活性基を導入した重合体粒子表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上の混合物をグラフト共重合せしめることによって長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を導入することによって製造される。
そして該ラジカル連鎖移動可能な官能基として望ましいものは例えばメルカプト基および/または重合性ビニル基であり、該ラジカル重合開始能を有する活性基として望ましいものは例えばパーオキサイド基および/またはアゾ基である。(【0004】)

(イ)官能基を有する重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、iso-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の脂肪族または環式アクリレートおよび/またはメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、iso-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類、、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニル、弗化ビニリデン等のハロゲン含有単量体、エチレン、プロピレン、イソプレン等のオレフィン類、クロロプレン、ブタジエン等のジエン類、その他ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等の水溶性単量体等がある。上記例示は本発明を限定するものではない。上記単量体は一種または二種以上混合使用される。(【0007】)

(ウ)「〔長鎖アルキル基を有するグラフト(共)重合体鎖の形成〕
上記のようにして製造した表面にラジカル連鎖移動可能な官能基および/またはラジカル重合開始能を有する活性基を導入した重合体粒子に、長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上との混合物を重合開始剤を使用してもしくは使用せずにグラフト重合することによって、該重合体粒子表面に長鎖アルキル基を有するグラフト(共)重合体鎖を導入する。
上記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体としては、炭素数が6以上の長鎖アルキル基を有するものが好ましく、炭素数12以上の長鎖アルキル基を有するものが特に好ましい。このような長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体としては例えば、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、イソボルニルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノール10EOアクリレート、ラウリルポリオキシエチレンアクリレート、オクチルフェノールポリオキシエチレンアクリレート、ステアリルフェノールポリオキシエチレンアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、セチルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラエチレングリコールモノメタクリレート、ラウリルポリオキシエチレンメタクリレート、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテル等がある。
また上記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体としては、重合体粒子の製造に使用される重合性ビニル単量体と同様なものが使用される。(【0011】)

(エ)本発明の液晶用スペーサーは表面に長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖が導入されている。該重合体鎖の長鎖アルキル基濃度は、該グラフト共重合体鎖を導入する際に使用する長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の濃度によって直接的に容易に調節することが出来る。また重合性ビニル単量体や重合開始剤は稀釈されることなく、したがって高いグラフト重合効率が得られる。該長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖と重合体粒子とは共有結合によって結合されているので、長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を有するグラフト共重合体鎖の層と重合体粒子とは一体であり、該グラフト共重合体鎖の層が重合体粒子から剥離することはない。また長鎖アルキル基の層の厚みが0.01μm以上であれば、該グラフト共重合体鎖の溶融効果または配向基板上の官能基残基との反応により重合体粒子と配向基板との固着性も有する。
このような表面に長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子を液晶パネル用スペーサーとして用いると、該重合体粒子表面のグラフト共重合体鎖の長鎖アルキル基に対して液晶分子が垂直に規則正しく配列するため。液晶スペーサー近傍の液晶分子の配向乱れが抑制される。(【0014】)

オ 発明の実施の形態
(ア)実施例10(重合体粒子表面に長鎖アルキル基を含むグラフト共重合体鎖の導入)
実施例5、6によって製造した表面に重合性ビニル基を有する重合体粒子E、F、G、Hの夫々10gに対し、メチルエチルケトン200g、メチルメタクリレート50g、N-ラウリルメタクリレート50g、ベンゾイルパーオキサイド0.5gを一括に仕込み重合開始剤開裂温度まで昇温、窒素気流下で2時間グラフト重合反応を行い、長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を重合体粒子表面に導入したスペーサー試料E-1、F-1、G-1、H-1を得た。(【0024】)

(イ)実施例11(重合体粒子表面に長鎖アルキル基を含むグラフト共重合体鎖の導入)
実施例7、8によって製造された表面にアゾ基を有する重合体粒子I、Jの夫々10gに対し、トルエン200g、メチルメタクリレート20g、2-ヒドロキシブチルメタクリレート20g、ステアリルメタクリレート60gを一括に仕込み重合開始剤開裂温度まで昇温、窒素気流下で3時間グラフト重合反応を行い、長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を重合体粒子表面に導入したスペーサー試料I-1、J-1を得た。(【0025】)

カ 発明の効果
本発明においては、スペーサー表面に導入した長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖によって液晶分子をスペーサー表面に垂直配向させることが出来るため、液晶用スペーサーの周りの液晶の異常配向を抑制し、液晶パネル点灯時の光抜けを防止する。これによって液晶パネルのコントラストが向上し表示品質を向上させることができる。(【0032】)

2 訂正事項1?5について
本件訂正事項1?5について、二次判決(平成23年(行ケ)10431号判決(平成24年11月14日判決言渡し))に判示された事項を参考にして、以下に検討する。
ア 平成23年6月8日法律第63号による改正前の特許法(以下「特許法」という。)134条の2第1項ただし書は、特許無効審判の被請求人による訂正請求は、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限ると規定している。
また、同法134条の2第5項が準用する同法126条3項は、「第1項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定しているところ、ここでいう「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、訂正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

イ 本件明細書の前記1エ(イ)及び(ウ)の記載によれば、本件発明の「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」の具体例として、ラウリルメタクリレート及びステアリルメタクリレートが、「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」の具体例として、メチルメタクリレートが、多種類の化合物とともに羅列して列挙されていたということができる。
また、本件明細書には、実施例1ないし13並びに比較例1及び2が記載されているところ、前記1オ(ア)の記載によれば、実施例10として、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」であるラウリルメタクリレートと、「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」であるメチルメタクリレートとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが、前記1オ(イ)の記載によれば、実施例11として、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」であるステアリルメタクリレートと、「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」であるメチルメタクリレート及び2-ヒドロキシブチルメタクリレートとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが、それぞれ開示されていたものということができる。
しかしながら、本件明細書には、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレートが特に好ましいものとして選択されること及び「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」がメチルメタクリレートを必須成分として含むことについては、何ら記載も示唆もされていない。これらの物質は、多種類の化合物とともに任意に選択可能な単量体として羅列して列挙されていたものにすぎず、他の単量体とは異なる性質を有する単量体として、優先的に用いられるべき物質であるかのような記載や示唆も存在しない。
すなわち、本件発明の具体的態様である実施例1ないし13のうち、実施例10及び11やその他の記載によると、「前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレートを任意に選択することが可能であること及び「前記他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてメチルメタクリレートを任意に選択することが可能であることが開示されているものということはできるが、本件明細書において、ラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート、及びメチルメタクリレートは、多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないものであるから、本件明細書の記載をもってしても、上記各構成が必須であることに関する技術的事項が明らかにされているものということはできない。
また、実施例10及び11によると、特定割合のラウリルメタクリレートと特定割合のメチルメタクリレートとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子、並びに特定割合のステアリルメタクリレートと特定割合のメチルメタクリレート及び特定割合の2-ヒドロキシブチルメタクリレートとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが、それぞれ本件発明の効果を奏することが開示されていたものということができるものの、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」として「ステアリルメタクリレート又はラウリルメタクリレート」を任意の割合で用い、「他の重合性ビニル単量体」として「メチルメタクリレート」を任意の割合で用いたグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが、機能上等価であることや、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」が「ステアリルメタクリレート」であり、「他の重合性ビニル単量体」が「メチルメタクリレート」であるが、2-ヒドロキシブチルメタクリレートが用いられない場合にも、機能上等価であることを裏付ける技術的事項は本件明細書には開示されているものではない。

ウ 以上のとおり、本件明細書の全ての記載を総合しても、「前記長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレートが必須であること及び「前記他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上」としてメチルメタクリレートが必須であること、並びに、特定割合モノマーを用いた実施例10及び11と、これらとは異なる割合でモノマーを用いた場合や、共重合するモノマーとしてこれらの実施例と異なるものを用いた場合においても、機能上等価であることに関する技術的事項が導き出せない以上、訂正事項1?5により、多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないラウリルメタクリレート又はステアリルメタクリレート、及びメチルメタクリレートを必須のものとして含むように本件発明を訂正することは、本件明細書の実施例10及び11を上位概念化した新規な技術的事項を導入するものというべきであり、許されるものではない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しないから、本件訂正請求による訂正は、認めない。

第4 請求人の主張(無効理由)
請求人は、「特許第3878238号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、無効理由1ないし3により、本件発明に係る特許は無効にすべきものであると主張する。(無効理由4は、平成22年7月28日付け上申書により、撤回された。
また、請求人は、弁駁書(2)において、新たな無効理由について、特許法第131条の2第2項第1号に該当するとして、請求の理由を補正することの許可を求めたが、これについては、許可しない旨の補正許否の決定がなされている。
また、請求人は、平成25年3月5日付け弁駁書(3)において、本件訂正請求には、訂正要件違反があり、訂正請求は認めれないから、本件請求項1に係る発明は、一次判決の拘束力に基づき無効とされるべきであるとの主張をし、仮に訂正請求が認められたとしても、無効理由を有する旨の主張をしている。

1 無効理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

2 無効理由2(甲第1号証を基礎とする進歩性欠如)
本件特許発明は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

3 無効理由3(甲第2号証を基礎とする進歩性欠如)
本件特許発明は、甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

4 証拠方法
請求人が提出した甲号証及び参考資料は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平5-232480号公報
甲第2号証:特開平7-333621号公報
甲第3号証:特開平7-270805号公報
甲第4号証:特開平7-300587号公報
参考資料1:不服2005-21666審判請求理由補充書
参考資料2:特開平4-27917号公報
参考資料3:特開平4-177324号公報
参考資料4:特開平5-232478号公報
参考資料5:技術説明書
(以上、審判請求書に添付して提出。)
参考資料6:化学便覧基礎編I-93?I-94頁 2004年2月20日 丸善株式会社
参考資料7:Polymer Handbook 頁なし及びII-195、1966年INTERSCIENCEPUBLICATION (和訳添付)
参考資料8:POLYMER HANDBOOK SECOND EDITION II-105、II-240 1975年 A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION(和訳添付)
参考資料9:POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION II/153、II/159、II/164、II/194頁 1989年 A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION(和訳添付)
参考資料10:HAND BOOK OF ADHESIVES 437?450頁 1990年 VAN NOSTRAND REINHOLD(和訳添付)
参考資料11:図解 プラスチック成形加工用語辞典 72?73頁 1990年1月10日 株式会社 工業調査会
参考資料12:化学大辞典 860頁 2003年10月1日 共立出版株式会社
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第5号証:第5版「実験化学講座26-高分子化学-」149-150頁、169頁 H17年3月25日 丸善株式会社発行
甲第6号証:GRAFT COPOLYMERS 10-18頁1967年 INTERSCIENCE PUBLISHERS
甲第7号証:第4版「実験化学講座28-高分子合成-」390頁、417-424頁1992年5月6日 丸善株式会社発行
甲第8号証:理化学辞典 第3版 357頁「グラフト重合」、1971年5月20日 株式会社岩波書店発行
(以上、弁駁書(2)に添付して提出)
甲第9号証:電気通信学会論文誌Vol.J67・C No.5 482-487頁
参考資料13:平成22年(行ケ)第10324号判決
参考資料14:平成23年(行ケ)第10431号判決
(以上、弁駁書(3)に添付して提出)

第5 被請求人の主張
1 被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人が主張する無効理由1ないし3は理由がない旨主張し、また、答弁書(3)において、訂正後の請求項1に係る発明は無効とされるべきではない旨主張している。

2 証拠方法
乙第1号証:平成14年12月27日付け刊行物等提出書
乙第2号証:平成15年2月13日付け通知書
乙第3号証:平成17年5月27日付け拒絶理由通知
乙第4号証:平成17年9月30日付け拒絶査定
乙第5号証の1:平成17年11月10日付け審判請求書、(平成17年12月12日付け手続補正書で補正。)
乙第5号証の2:同審判請求書に添付された試験報告書
乙第6号証:平成18年3月13日付け刊行物等提出書
乙第7号証:平成18年4月17日付け通知書
乙第8号証:平成18年9月26日付け審決
乙第9号証:特許庁「特許・実用新案審査ハンドブック」11.01情報提供
(以上、平成22年4月16日提出の答弁書に添付して提出。)
乙第10号証:「実験成績証明書」(2011年8月19日付け)
乙第11号証:特開平10-68954号公報
乙第12号証:鑑定書(平成22年6月10日付け)
(以上、平成23年8月24日提出の答弁書(2)に添付して提出。)
乙第13号証:「電子材料」 1995年7月号別冊 59-63頁
乙第14号証:特許第3848487号公報
(以上、平成25年1月28日提出の答弁書(3)に添付して提出。)

第6 本件発明
上記第3のとおり、本件訂正請求は認められないから、本件特許第3878238号の請求項1に係る本件発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

「表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなることを特徴とする液晶用スペーサー。」

第7 当審の判断
1-1 一次判決の判断
一次審決が認定した、本件発明と甲第1号証に記載された引用発明1との相違点(「グラフト共重合体鎖が、本件発明では、『長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上とからなる』のに対して、引用発明1では、二種以上からなる重合性ビニル単量体の組合わせを特定しないものである点」 以下「相違点1」という。)、本件発明と甲第2号証に記載された引用発明2Bとの相違点(「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種とからなる共重合体が、本件発明では、『グラフト共重合体鎖』として導入された形態で重合体粒子の表面に存在するものであるのに対して、引用発明2Bでは、そのようなものではなく、『疎水性単量体(1) 及び親水性単量体(2) 以外のラジカル重合可能な重合性単量体を懸濁重合する際に、分散安定剤として、疎水性単量体(1) 及び親水性単量体(2) の両方を構成成分とする共重合体を用いて重合を行い粒子表面に該分散安定剤をグラフトさせることによって得られ』た形態で、表面に存在するものである点」 以下「相違点2」という。)に関し、一次判決(平成22年(行ケ)10324号判決(平成23年7月7日判決言渡し))では、以下のとおりの判断が示された。(なお、以下の判決の抜粋中、「被告」とは、本審決にいう「被請求人」のことである。)

「第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について
(1)本件発明について
ア 本件明細書(甲27)の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりであるところ、本件明細書(甲27)の記載を要約すると、以下のとおりとなる。

(ア) 本件発明は、液晶パネルにおけるパネルの間隙を維持するために用いられる液晶用スペーサーに関する発明である。
従来、液晶とスペーサーとの界面で液晶分子の配向異常が生じると、スペーサー周りにドメインと呼ばれる領域が発生し、液晶パネルの動作時に光抜けを生じさせ、それによりパネルのコントラストを低下させるなど、表示品質が著しく低下した。
ドメインは、液晶とスペーサーとの界面で液晶分子が垂直に配向することによって消失することは周知であり、スペーサー表面での垂直配向を促進させるため、架橋重合体微粒子の表面に長鎖アルキル基を存在させた液晶スペーサーが存在するが、従来の方法ではスペーサー表面へのアルキル基導入が不十分で、ドメインは完全に消失しなかった。
従来技術では、架橋重合体微粒子に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体及び重合開始剤を含浸させるため、これらの種類や含浸条件により含浸の度合いが異なり、架橋重合体微粒子の表面に所定濃度の長鎖アルキル基を導入することは困難であった。さらに、重合性ビニル単量体や重合開始剤を架橋重合体微粒子に含浸させると、重合性ビニル単量体や重合開始剤が架橋重合体微粒子によって稀釈されるため、重合効率が低下するという問題も生じる(【0001】?【0003】)。

(イ)本件発明は、従来の課題を解決するための手段として、表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種または2種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーを提供するものであり、当該液晶用スペーサーは表面にラジカル連鎖移動可能な官能基及び、又はラジカル重合開始能を有する活性基を導入した重合体粒子表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上の混合物をグラフト共重合せしめることにより、長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を導入することによって製造される。そして、当該ラジカル連鎖移動可能な官能基として望ましいものは、例えばメルカプト基及び、又は重合性ビニル基であり、当該ラジカル重合開始能を有する活性基として望ましいものは、例えばパーオキサイド基及び、又はアゾ基である(【0004】)。

(ウ)本件発明の液晶用スペーサーは、表面に長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖が導入されている。当該重合体鎖の長鎖アルキル基濃度は、グラフト共重合体鎖を導入する際に使用する長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の濃度によって直接的に容易に調節可能である。また、重合性ビニル単量体や重合開始剤は稀釈されることなく、高いグラフト重合効率が得られる。当該長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖と重合体粒子とは共有結合によって結合されているので、長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を有するグラフト共重合体鎖の層と重合体粒子とは一体であり、グラフト共重合体鎖の層が重合体粒子から剥離することはない。また、長鎖アルキル基の層の厚みが0.01μm以上であれば、グラフト共重合体鎖の溶融効果又は配向基板上の官能基残基との反応により重合体粒子と配向基板との固着性も有する。
このような表面に長鎖アルキル基を有するグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子を液晶パネル用スペーサーとして用いると、重合体粒子表面のグラフト共重合体鎖の長鎖アルキル基に対して液晶分子が垂直に規則正しく配列するため、液晶スペーサー近傍の液晶分子の配向乱れが抑制され、液晶パネル点灯時の光抜けが防止され、コントラストが向上し、表示品質を向上させることができる(【0014】【0032】)。

(エ)なお、本件発明の実施例として、実施例1ないし13が挙げられている
(【0015】?【0027】)ところ、本件発明の「特定の共重合体鎖」に該当する具体例として、実施例10ないし12において、メチルメタクリレートとn-ラウリルメタクリレートとの共重合体鎖(実施例10)、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、ステアリルメタクリレートとの共重合体鎖(実施例11)、メチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルポリオキシエチレンメタクリレートとの共重合体鎖(実施例12)を有する液晶用スペーサーが開示されている。
そして、これら実施例10ないし12のスペーサーと、比較例(オクタデシルトリメトキシシランで表面処理(カップリング剤処理)されたスペーサー【0028】【0029】)とについて実施された光抜け状態評価の結果によると、実施例10ないし12の方が、比較例よりも直流電圧(DC)印加後における液晶スペーサー周りの配向異常(光抜け状態)の発生が少ないことが示されている(【0030】【0031】)。

イ 本件発明の技術内容
以上の本件明細書の記載によると、本件発明は、液晶用スペーサーにおいて、表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子を用いることにより、重合体粒子表面のグラフト共重合体鎖の長鎖アルキル基に対して液晶分子が垂直に規則正しく配列し、液晶スペーサー周りの配向異常を防止することをその技術内容とするものである。
もっとも、本件明細書【0014】に記載される作用効果は、単独重合、共重合によらず、長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の重合体鎖を重合体粒子表面にグラフトしたことに基づくものであって、このような「特定の共重合体鎖」に限定したことに基づく作用効果についての記載はない。
また、本件明細書【0015】ないし【0027】の実施例の記載から、単量体を共重合した3種の共重合体鎖をグラフト重合体鎖として有するスペーサー(実施例10?12)が、オクタデシルメトキシシランで処理されたスペーサー(比較例1・2)よりも優れていることは理解できるものの、当該比較例は、カップリング剤によって処理されたものであって、単独重合体鎖や他の共重合体鎖を導入したものではないから、液晶スペーサーのグラフト重合体鎖として「特定の共重合体鎖」を限定した作用効果、すなわち、「特定の共重合体鎖」が単独重合体鎖や他の共重合体鎖である場合よりも優れていることは、何ら記載されているものではない。
この点について、被告は、拒絶査定不服審判において、手続補正書(甲5)に、グラフト鎖が単独重合体鎖の場合と共重合体鎖の場合とを比較した試験報告書を添付し、グラフト共重合体鎖にメチルメタクリエート(MMA)を共重合することによって、単独グラフト共重合体鎖よりも光抜け改善効果が安定すると指摘しているが、このような効果は、本件明細書には全く記載されていないから、本件発明の作用効果に関して当該試験報告書を参酌することはできない。
しかも、本件発明は、「グラフト共重合体鎖が、長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上とからなる」という広範な共重合体鎖であるのに対して、当該報告書は、特定4種の共重合体鎖に関するものであり、「共重合可能な他の重合性ビニル単量体」としてMMAのみを取り上げているにすぎないものであるから、本件発明に特定される広範な「特定の共重合体鎖」全体について、単独重合体鎖よりも優れている根拠とすることはできない。

(2) 引用発明1について
ア 引用例1の記載
引用例1(甲1)の記載を要約すると、以下のとおりとなる。

(ア) 引用発明1の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
粒子表面を配向基板に対して付着性を有する付着層によって被覆した構成であって、該粒子表面と付着層とは共有結合によって結合されていることを特徴とする液晶スペーサー

(イ) 引用発明1は、液晶用スペーサーに関する発明である。従来の液晶用スペーサーは、配向基板に付着性を有する低融点の合成樹脂やワックス等の付着層を被覆したものが用いられており、配向基板表面に付着層を介して固定されていた。
しかしながら、従来の液晶スペーサーは、粒子表面から付着層が剥離し易く、剥離した付着層が液晶側に混入して液晶の性能を妨害するという問題点があった(【0001】?【0003】)。

(ウ) 引用発明1は、粒子と付着層とを共有結合によって結合することにより、従来技術の課題を解決するものである(【0004】)。

(エ) 引用発明1に用いられる粒子は、析出重合法又はシード重合法によって得られる粒子であって、単量体の一部としてジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、テトラアリロキシエタン等の多価ビニル化合物を用いた架橋重合体粒子が望ましい(【0006】【0007】)。

(オ) 引用発明1において付着層として用いられる材料としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、iso-ブチルビニルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニル、弗化ビニリデン、エチレン、プロピレン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン等の重合可能な単量体の単独重合体又は上記単量体の2種以上の共重合体であって熱可塑性を有するものである(【0010】)。

(カ) 引用発明1においては、粒子表面に付着層を構成する重合体を共有結合によって結合させるものであるが、その方法としてはグラフト重合法がある。同法においては、粒子表面に重合可能なビニル基を導入し、当該ビニル基を出発点として単量体を重合する方法、粒子表面に重合開始剤を導入し、当該開始剤により単量体を重合する方法の2つが考えられる(【0013】)。

(キ) 引用発明1の液晶用スペーサーは、配向基板に付着性が良好でかつ付着層が剥離しないという効果が得られるものである(【0054】)。

イ 引用発明1の技術内容
以上の引用例1の記載によると、引用発明1は、粒子と付着層とをグラフト重合法等などによって共有結合させることにより、 配向基板に付着性が良好でかつ付着層が剥離しない液晶用スペーサーを提供することをその技術内容とするものである。

(3)相違点1について
ア 前記(1)及び(2)の本件発明1及び引用発明1の技術内容からすると、引用例1の【0010】に列挙された「メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、iso-ブチルビニルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニル、弗化ビニリデン、エチレン、プロピレン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン等の重合可能な単量体の単独重合体又は上記単量体の2種以上の共重合体であって熱可塑性を有するもの」であれば、いずれもその分子構造が直鎖状であって、通常は熱可塑性を有する重合体であるといえるから、上記列挙に係る各単量体を重合して得られる重合体のほとんど全てが付着層として使用できるものということができる。
そして、上記単量体のうち、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレートは、本件発明の「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」に該当するものであるから、引用例1の【0010】には、文言上、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」を共重合材料に含む共重合体を付着層とすることが記載されているということができる。

イ 本件明細書が開示する、重合体粒子表面のグラフト共重合体鎖の長鎖アルキル基に対して液晶分子が垂直に規則正しく配列することにより、液晶スペーサー周りの配向異常を防止するという本件発明の作用効果は、単独重合、共重合によらず、長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の重合体鎖を重合体粒子表面にグラフトしたことに基づくものであって、本件明細書において、本件発明が、引用発明1に開示されている構成のうちから、「特定の共重合体鎖」に限定しているとしても、それに基づいて生じる格別の作用効果に係る記載はないから、本件発明の「特定の共重合体鎖」が単独重合体鎖や他の共重合体鎖と比較して格別の作用効果を奏するものということはできない。しかも、本件明細書【0014】には、「長鎖アルキル基の層の厚みが0.01μm以上であれば、グラフト共重合体鎖の溶融効果又は配向基板上の官能基残基との反応により重合体粒子と配向基板との固着性も有する。」として、長鎖アルキル基の層が一定の厚みを有すると付着性が向上する旨を明らかにしているものである。
そうすると、本件発明は、引用発明1における付着層を構成する重合体鎖について、その一部に相当する「特定の共重合体鎖」を単に限定しているにすぎず、このような限定によって、引用発明1とは異なる作用効果あるいは格別に優れた作用効果を示すものと認めることもできないから、引用発明1の解決課題である付着性や技術常識の観点から、相違点1が実質的な相違点ということはできない。

ウ 以上のとおり、本件発明は、引用発明1において例示的に列挙された「重合可能な単量体の単独重合体又は上記単量体の2種以上の共重合体であって熱可塑性を有するもの」の中から、「表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子」について一部限定したものというほかない。
また、本件発明は、引用発明1から本件発明が限定した部分について、引用発明1の他の部分とその作用効果において差異があるということはできないから、引用発明1と異なる発明として区別できるものでもない。
したがって、本件発明と引用発明1との間には、相違点は存しないといわざるを得ない。

エ この点について、被告は、引用例1には、本件発明における「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上」と、「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上」との特定の単量体を組み合わせたグラフト共重合体鎖に関する技術思想が開示されていない、引用発明1の付着層においては、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」に該当する単量体と「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体」に該当する単量体とを、わざわざ組み合わせてグラフト共重合体鎖とする必然性はなく、これらを組み合わせてグラフト共重合体鎖とすることにより、配向異常や光抜け等が発生するという従来技術の課題を解決するという本件発明の課題やその解決手段も開示されていない等と主張する。
しかしながら、引用例1には、【0010】に列挙された単量体の重合体鎖であれば、単独重合体鎖、共重合体鎖のいずれにおいても付着層として使用できることが開示されているのみならず、この重合体鎖には本件発明の「特定の共重合体鎖」も包含されるのであるから、引用例1には、付着層を構成する重合体鎖として、本件発明の「特定の共重合体鎖」に係る技術思想が開示されているものということができる。被告の主張は採用できない。

(4)小括
以上からすると、本件発明は、引用発明1と同一の発明であって、新規性を有しないものというべきであるから、原告主張の取消事由1は理由がある。

2 取消事由3(引用発明2に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について
前記1のとおり、原告主張の取消事由1は理由があり、本件審決は取消しを免れないが、事案に鑑み、取消事由3についても検討することとする。
(1)引用発明2について
ア 引用例2の記載
引用例2(甲2)の記載を要約すると、以下のとおりとなる。

(ア) 引用発明2の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
【請求項1】少なくとも表面に下記一般式(1)
RO-(1)
(式中、R は炭素数1ないし18の直鎖又は分岐のアルキル基又はアシル基を示す。)で表される疎水性基と、下記一般式(2)
【化1】

(式中、R1は炭素数2ないし4の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、ヒドロキシ基が置換していてもよい。mは1以上30以下の整数を示し、m個のR1は同一でも異なっていてもよい。)で表される親水性基を有する微粒子からなることを特徴とする液晶表示用スペーサー

(イ) 引用発明2は、特に通電時におけるスペーサー周り又はスペーサー間での液晶の配向異常を防止し、均質な表示を可能とする液晶用スペーサーに関する発明である。
TN又はSTN液晶パネルでは、通電中にスペーサー周り又はスペーサー間での液晶の配向異常が生じ、その領域が通電時間とともに拡大するという問題があるのみならず、保護フィルムを除去する際に静電気が発生し易いため、スペーサー周囲で液晶分子の異常配向がしばしば発生するという問題がある。
これらを防止するために、いわゆるエージング操作(アニール工程)が行われているが、それにより生産効率が低下するなどの問題があった。さらに、スペーサー表面を長鎖アルキルシラン等で処理する方法等によって、スペーサー表面に配向強制力を持たせて液晶分子をスペーサー表面に垂直配向させる試みも行われているが、配向強制力が強すぎるために光透過時にも液晶分子の配向がスペーサー表面に対して垂直のままとなり易いため、光透過度低下によるスペーサー周囲のコントラストの低下をしばしば誘発した。また、これらの方法は、静電気からのスペーサーの帯電による周囲の液晶分子の配向異常に対しては効果を有するものではなかった(【0001】【0003】【0004】)。

(ウ) 引用発明2は、従来技術の欠点を解決し、スペーサー周囲及びスペーサー間で液晶の配向異常が生じないようにするために、前記(ア)の一般式(1)及び(2)で表される疎水性基及び親水性基を有する微粒子からなることを特徴とするものである(【0005】?【0007】)。

(エ) 引用発明2に係る疎水性基及び親水性基を有する微粒子は、4種類の方法により製造することができる(【0008】)。
そのうち、製造方法4は、より確実かつ簡便に、前記(ア)の表面に引用発明2に係る疎水性基及び親水性基を有する重合体微粒子を得る方法であり、疎水性単量体及び親水性単量体以外のラジカル重合可能な重合性単量体を懸濁重合する際、分散安定剤として、疎水性単量体及び親水性単量体の両方を構成成分とする共重合体を用いるか、あるいは疎水性単量体又は親水性単量体のどちらか一方と、疎水性単量体及び親水性単量体以外のラジカル重合可能な重合性単量体とを懸濁重合する際、分散安定剤として、疎水性単量体又は親水性単量体の他方を構成成分とする共重合体を用いて重合を行い、粒子表面に分散安定剤をグラフトさせる方法である。
この方法で用いられる分散安定剤としては、例えば疎水性単量体及び、又は親水性単量体と、水溶性高分子を構成する単量体、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の親水性単量体;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリルアミドあるいはこれらのメチロール化合物;ビニルピロリドン、エチレンイミン等の窒素原子又はその複素環を有するもの等の共重合体が挙げられる。これらの共重合体は公知の方法により合成することができる(【0029】)。

イ 引用発明2の技術内容
以上の引用例2の記載によると、引用発明2は、液晶用スペーサー周囲及びスペーサー間で液晶の配向異常が生じないようにするために、特定の構造の疎水性基及び親水性基を有する微粒子からなる液晶用スペーサーを提供することをその技術内容とするものである。
また、引用例2の製造方法4において使用される分散安定剤の共重合体は、疎水性単量体(1)」と「親水性単量体(2)」との共重合体であるところ、これらはそれぞれ本件発明における「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」「該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体」に相当することについては当事者間に争いはないから、同様に、製造方法4において重合体粒子表面にグラフトされるのが、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」と「他の重合性ビニル単量体」との共重合体鎖であることも、当事者間に争いはない。

(2) 相違点2について
ア 本件発明におけるグラフト共重合体鎖の導入方法について

(ア)本件発明は、物の発明であって、その特許請求の範囲においてグラフト共重合体鎖を導入する方法について特定の方法が前提とされているものではない。

(イ) 本件明細書【0004】には、グラフト共重合体鎖の製造方法が記載されているが、当該方法に限定する旨の規定はなく、本件発明のようなグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子自体は、他の周知の方法によっても製造可能である。

(ウ) 本件明細書【0005】ないし【0010】には、ラジカル連鎖移動可能な官能基及び、又はラジカル重合開始能を有する活性基を導入する具体的手段について記載されているが、当該方法は「望ましいもの」とされているものであり、本件発明において、当該具体的方法を用いることに限定されているものではない。

(エ) 本件明細書において、「導入する」という用語について、技術的意義を具体的に明らかにする記載はない。

(オ) したがって、本件発明は、表面にグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーにおいて、グラフト共重合体鎖が、長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上とからなる「特定の共重合体鎖」であることを特徴とするものであり、グラフト共重合体鎖を導入する方法は特定されていないものということができる。

イ 引用発明2における分散安定剤をグラフトさせる方法について
(ア) 引用発明2の製造方法4は、分散安定剤である特定の共重合体鎖が懸濁重合する際、重合体粒子表面に「導入」されてグラフトされた形態となるものということができる。
そして、本件発明は、重合体粒子の製造方法や導入の具体的な形態を何ら特定しておらず、本件明細書においても、本件発明のグラフト共重合体鎖の「導入」について、具体的に定義付け、あるいは特定の方法に限定するものでもないから、本件発明におけるグラフト共重合体鎖が導入された形態と、引用発明2における特定の共重合鎖が重合体粒子表面に導入され、グラフトされた形態となることは同様の事象を意味するものということができる。

(イ) 引用例2は、4種類の液晶用スペーサーの製造方法を開示しているところ、そのうち、製造方法4は、より確実、簡便に重合体微粒子を得る方法であるとされているから、当業者は、製造方法4を容易に選択し得るものである。

(ウ) そうすると、引用発明2の製造方法4により得られた重合体微粒子からなる液晶用スペーサーは、本件発明における「重合体粒子」の「表面にグラフト共重合体鎖を導入した」ものということができる。
したがって、相違点2の構成は、当業者が引用発明2において同発明中の製造方法4を選択することにより、容易に想到し得るものということができるのであって、本件発明は当業者が引用発明2それ自体から容易に想到し得るものであったという原告の主張はこれを首肯することができる。

ウ 被告の主張について
(ア) 被告は、引用発明2は、微粒子の表面に存する疎水性単量体(1)及び親水性単量体(2)の基により、保護フィルムを除去する際に静電気が発生して液晶用スペーサーが帯電することを防止する発明であって、液晶用スペーサー周りの液晶の異常配向を抑制し、光抜けを防止するという本件発明の技術思想とは相当異なるものであるなどと主張する。
しかしながら、引用例2は、従来技術の課題について、通電中に、液晶用スペーサー周り又はスペーサー間での液晶の配向異常が起こり、その領域が通電時間とともに拡大するという問題及び保護フィルムを除去する際に静電気が発生し易く、液晶用スペーサー周囲の部分で液晶分子の異常配向が発生するという問題があることを記載しているが、引用発明2の課題について、保護フィルムを除去する際の配向異常に限定する旨の記載はない。引用例2の【0037】には、実施例2について走査電圧を印加してその表示特性を観察したところ、全面に亘って表示むらのない高品質の表示が得られており、また、液晶用スペーサー周り又はスペーサー間での液晶の配向異常は認められなかった旨が指摘されており、このような指摘は、通電中における液晶用スペーサー周り又はスペーサー間での液晶の配向異常についても引用発明2の課題とされていることを裏付けるものである。
したがって、本件発明と引用発明2とは、技術思想が異なるものではない。

(イ) 被告は、本件発明と引用発明2との相違点は表現上の違いが存するにすぎないものであって、実質的に同一であるとして、本件発明の新規性を争うかのような原告の主張は、引用発明2に引用発明1を組み合わせることにより、進歩性を有しないとした無効審判における無効理由に基づかない新たな主張というべきであって、審決取消訴訟において、このような主張を追加することは許されないとも主張する。
しかしながら、無効審判における審理の際、原告は、平成22年7月12日付け口頭審理陳述要領書(甲31)において、本件発明がグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子であることを構成要件として規定しているのに対し、引用発明2の製造方法4に係る発明においては、グラフト共重合体鎖を導入という表現がされていないだけであって、実質的な差異がない旨主張しているものである。
また、本件審決も、原告が、本件発明と実質的な差異がない引用発明2の製造方法4に係る発明に基づいて、本件発明は当業者が容易に想到し得るものであるとも主張しているとした上で、本件発明と引用発明2とにおいて、実質的な差異がないということはできないと判断しているものである。
そうすると、無効審判段階において、当該主張がされていなかったという被告主張は、その前提自体が誤りである。

(ウ) したがって、被告の主張は採用できない。

(3) 小括
以上からすると、本件発明は、引用発明2それ自体から容易に想到し得るものであって、かつ、引用発明2に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤りをいう原告の主張には、引用発明2に基づく本件発明の新規性を審判段階から問題にしていて、その新規性を認めた本件審決の判断を争う趣旨を含むと解されるから、原告主張の取消事由3は、この点において、理由があるといわなければならない。」

1-2 判断
1-1に示すとおり、上記判決には、本件発明の新規性進歩性を認めた先の審決の判断は誤りである旨の判断が示されている。
そして、この判断は、上記判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を構成するものであると解されるから、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。そうすると、本件発明は、本件出願の出願前に頒布された刊行物である、上記判決にいう引用例1(甲第1号証)に記載された発明であり、また、本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用例2(甲第2号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は無効理由1および3により無効とすべきものである、とするほかはない。

3 無効理由2について
上記のとおりであるが、念のため、無効理由2についても補足的に判断する。
ア 本件一次審決および上記判決において、本件発明と引用発明1との相違点とされたのは以下のとおりである。
「グラフト共重合体鎖が、本件発明では、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上とからなる」のに対して、引用発明1では、2種以上からなる重合性ビニル単量体の組合せを特定しないものである点」(以下「相違点1」という。)

イ この相違点1に関して、上記判決では、以下の点が述べられている。
まず、引用例1の記載に関しては、「引用例1の【0010】には、文言上、「長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体」を共重合材料に含む共重合体を付着層とすることが記載されているということができる。」としている。
また、本件発明と引用発明1の関係については、「引用発明1において例示的に列挙された「重合可能な単量体の単独重合体又は上記単量体の2種以上の共重合体であって熱可塑性を有するもの」の中から、「表面に長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の1種又は2種以上と重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の1種又は2種以上とからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子」について一部限定したものというほかない。」としている。
そして、引用発明1において、引用例1に列挙された単量体から一部の単量体を単に限定することは、当業者が容易になし得ると考えられるから、そのような単量体の限定によって、格別の効果がある場合等でなければ、発明の進歩性が否定されるところ、本件発明の効果について、上記判決は、「本件発明は、引用発明1における付着層を構成する重合体鎖について、その一部に相当する「特定の共重合体鎖」を単に限定しているにすぎず、このような限定によって、引用発明1とは異なる作用効果あるいは格別に優れた作用効果を示すものと認めることもできない」、「本件発明は、引用発明1から本件発明が限定した部分について、引用発明1の他の部分とその作用効果において差異があるということはできない」としている。

ウ そうすると、上記相違点1については、当業者が容易になし得ることであって、本件発明は、上記相違点1によって格別の作用効果を奏し得たものといえない、と判断することができる。
したがって、本件発明は、引用発明1から容易に想到し得るものである。

第8 むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第29条第1項第3号および同条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-05 
結審通知日 2013-06-07 
審決日 2013-06-18 
出願番号 特願平8-31436
審決分類 P 1 123・ 121- ZB (C09K)
P 1 123・ 113- ZB (C09K)
P 1 123・ 841- ZB (C09K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 星野 浩一
菅野 芳男
登録日 2006-11-10 
登録番号 特許第3878238号(P3878238)
発明の名称 液晶用スペーサーおよび液晶用スペーサーの製造方法  
代理人 城所 宏  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 後藤 さなえ  
代理人 鰺坂 和浩  
代理人 黒川 朋也  
代理人 尾関 孝彰  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 林 由希子  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 城戸 博兒  
代理人 石井 良夫  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 大友 良浩  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 阿部 寛  
代理人 辻本 恵太  
代理人 隈部 泰正  
代理人 森山 航洋  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉見 京子  
代理人 和氣 満美子  
代理人 池田 正人  
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