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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200922494 審決 特許
平成24行ケ10237審決取消請求事件 判例 特許
平成24行ケ10299審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10172審決取消請求事件 判例 特許
平成23行ケ10254審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部無効 2項進歩性  C12G
審判 全部無効 1項1号公知  C12G
審判 全部無効 1項2号公然実施  C12G
管理番号 1277464
審判番号 無効2010-800042  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-11 
確定日 2013-08-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4367790号「麦芽発酵飲料」の特許無効審判事件についてされた平成22年10月 6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10350号平成23年10月 4日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
請求人は,平成22年3月11日,被請求人が特許権者であり,発明の名称を「麦芽発酵飲料」とする本件特許第4367790号(平成20年6月11日出願,平成16年12月10日(優先権主張 平成15年12月11日,平成16年10月27日,日本国)を国際出願日とする特願2005-516184号の分割出願,平成21年9月4日設定登録)の請求項1?9について、無効審判の請求をし(無効2010-800042号)、これに対して、特許庁は,平成22年10月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
これに対して,請求人は,審決取消訴訟を提起し(平成22年(行ケ)第10350号),裁判所は,平成23年10月4日,「審決を取り消す。」との判決(以下,「本件判決」という。)をした。
その後,被請求人は,平成23年12月14日付で上申書を提出し,一方,請求人も,平成24年1月24日付で上申書を提出した。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は,以下のとおりである。(以下,各発明を「本件特許発明1」,「本件特許発明2」等といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)
【請求項1】
「A成分として,麦を原料の一部に使用して発酵させて得た麦芽比率が20%以上でありアルコール分が0.5?7%であるアルコール含有物;および,
B成分として,少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール分が10?90%であるアルコール含有の蒸留液;
からなり,A成分とB成分とを混合してなるアルコール分が3?8%である麦芽発酵飲料であって,A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率が,97.5:2.5?90:10であることを特徴とする麦芽発酵飲料。」
【請求項2】
「A成分のアルコール含有物の原料として,少なくとも,麦芽,ホップ,水を含むことを特徴とする請求項1に記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項3】
「A成分のアルコール含有物の原料として,更に米,トウモロコシ,コウリャン,バレイショ,デンプン,糖類,麦芽以外の麦,苦味料,または着色料からなるものを用いることを特徴とする請求項2に記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項4】
「A成分のアルコール含有物が,ビールまたは発泡酒であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項5】
「B成分のアルコール含有の蒸留液が,焼酎,ウイスキー,ウオッカ,スピリッツまたは原料用アルコールであることを特徴とする請求項1に記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項6】
「B成分のアルコール含有の蒸留液における原料としての麦が,大麦または小麦である請求項1に記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項7】
「B成分のアルコール含有の蒸留液が,麦焼酎であることを特徴とする請求項1に記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項8】
「B成分のアルコール含有の蒸留液におけるアルコール分が,麦スピリッツであることを特徴とする請求項1に記載の麦芽発酵飲料。」
【請求項9】
「B成分のアルコール含有の蒸留液におけるアルコール分が,25?45%であることを特徴とする請求項1に記載の麦芽発酵飲料。」

第3 請求人の主張(概要)
これに対して,請求人は,証拠方法として以下の甲第1号証?甲第10号証を提出し,本件特許発明1?9については,以下の理由により無効にすべきであると主張している。
1 本件特許発明1は明確でなく,請求項1を引用する本件特許発明2?9も明確でないから,本件特許発明1?9についての特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。(以下,「無効理由1」という。)
2 本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいては,本件特許発明1?9の効果を確認することができず,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1?9について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。(以下,「無効理由2」という。)
3 本件特許発明1?9は,本件特許の出願前,日本国内又は外国において公然知られた発明であるか,公然実施をされた発明であるから,本件特許発明1?9は,特許法第29条第1項第1号又は第2号の発明に対してされたものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきものである。(以下,「無効理由3」という。)
4 本件特許発明1?9は,本件特許の出願前,日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明,あるいは日本国内又は外国において公然知られた発明,公然実施をされた発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明1?9についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきものである。(以下,「無効理由4」という。)

甲第1号証:赤土亮二著,「飲食店の業種別カクテル・メニュー」,
1990年10月10日発行,株式会社旭屋出版,164頁
甲第2号証:「カクテル大辞典800」,成美堂出版,
2003年10月1日発行,280?283頁
甲第3号証:英国特許出願公告明細書第1506220号
(公告日:1978年4月5日)
甲第4号証:西独国特許発明明細書第19617904号
(発行日:1997年5月28日)
甲第5号証:ホッピーでハッピー党編,「ホッピーでハッピー読本」,
2000年8月22日発行,株式会社アスペクト,
30?32,34?35頁
甲第6号証:「酒税法の改正等のあらまし」,平成15年4月,税務署,
1?4頁
甲第7号証:「酒類食品統計月報」,第43巻,第5号,
株式会社日刊経済通信社,平成13年7月20日発行,
10?13頁
甲第8号証:「酒類食品統計月報」,第44巻,第10号,
株式会社日刊経済通信社,平成14年11月20日発行,
8?9頁
甲第9号証:「酒類食品統計月報」,第45巻,第10号,
株式会社日刊経済通信社,平成15年11月20日発行,
6?7頁
甲第10号証:「酒の事典」,株式会社東京堂出版,
昭和61年12月15日発行,192?193頁

なお,甲第3号証及び甲第4号証の表示については,審判請求書の記載に誤記があったため,口頭審理において訂正された(第1回口頭審理調書)。

第4 被請求人の主張(概要)
一方,被請求人は,請求人の主張はいずれも理由がないものであり,本件審判の請求は成り立たないと主張している。

第5 無効理由1(特許法第36条第6項第2号違反)について
1 請求人の主張
(1) 本件特許発明1について
本件特許発明1を分説すると,次のとおりとなる。
「(a) A成分として,麦を原料の一部に使用して発酵させて得た麦芽比率が20%以上でありアルコール分が0.5?7%であるアルコール含有物;および,
(b) B成分として,少なくとも麦を原料の一部としたアルコール分を蒸留して得たアルコール分が10?90%であるアルコール含有の蒸留液;からなり,
(c) A成分とB成分とを混合してなるアルコール分が3?8%である麦芽発酵飲料であって,
(d) A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率が,97.5:2.5?90:10であることを特徴とする
(e) 麦芽発酵飲料。」

本件特許発明1において,発明特定事項(a)(b)を充足させつつ,発明特定事項(c)と(d)とを同時に充足させることはできない(例えば,A成分としてアルコール分「0.5%」のものを使用する場合,B成分としてアルコール分が最も高い「90%」のものを使用しても,発明特定事項(c) を充足させると,発明特定事項(d) を充足させることができない。)から,発明特定事項(a)?(d)の内容には技術的な矛盾がある。このような本件特許発明1は,「特許・実用新案審査基準 第1部 第1章 2.2.2.1 第36条第6項第2号違反の類型」中の「(2) 発明を特定するための事項の内容に技術的な矛盾や欠陥がある・・・結果,発明が不明確となる場合。」に相当する。よって,本件特許発明1は明確でなく,本件特許発明1についての特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2) 本件特許発明2?9について
請求項2?9は請求項1を引用しているので,本件特許発明2?9は,本件特許発明1におけるのと同様の理由により明確でなく,本件特許発明2?9についての特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当審の判断
(1) 本件特許発明1について
本件特許発明1は,上記「1 (1)」で請求人が主張するように,次のように分説される。 「(a) A成分として,麦を原料の一部に使用して発酵させて得た麦芽比率が20%以上でありアルコール分が0.5?7%であるアルコール含有物;および,
(b) B成分として,少なくとも麦を原料の一部としたアルコール分を蒸留して得たアルコール分が10?90%であるアルコール含有の蒸留液;からなり,
(c) A成分とB成分とを混合してなるアルコール分が3?8%である麦芽発酵飲料であって,
(d) A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率が,97.5:2.5?90:10であることを特徴とする
(e) 麦芽発酵飲料。」

ここで,本件特許発明1(発明特定事項(a)(b)を充足させつつ,発明特定事項(c)と(d)とを同時に充足させることができない。)が相当する類型であると請求人が主張している「特許・実用新案審査基準 第1部 第1章 2.2.2.1 第36条第6項第2号違反の類型」(参考資料6)とは,次のとおりのものである。
「(2) 発明を特定するための事項の内容に技術的な矛盾や欠陥があるか,又は,技術的意味・技術的関連が理解できない結果,発明が不明確となる場合。
(i) 発明を特定するための事項の内容に技術的な欠陥がある場合。
例1:「40?60質量%のA成分と,30?50質量%のB成分と,20?30質量%のC成分からなる合金」
(三成分のうち一のもの(A)の最大成分量と残りの二成分(B,C)の最小成分量の和が100%を超えており,技術的に正しくない記載を含んでいる。)」

この例1についてみると,その発明特定事項中の数値範囲は,すべて「合金を構成する成分の量」(質量%)に関するものであり,同じ観点のものであって,それのみで組成物を特定しようとするものである。この場合には,各成分の合計が100質量%を超えないことが当然に求められるというべきである。そして,このような請求項の記載では,A成分の最大成分量が誤っているのか,B成分又はC成分の最小成分量が誤っているのかが,明確でないことになる。
これに対し,本件特許発明1の発明特定事項(c) 中の数値範囲である「麦芽発酵飲料のアルコール分」と,発明特定事項(d) 中の数値範囲である「A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率」とは,異なる観点のものであって,それらを組み合わせることにより本件特許発明1の飲料を特定しようとするものである。そうすると,各発明特定事項において,数値で特定されたすべての範囲にわたり,本件特許発明1の飲料が存在する必要はないものといえ,そもそも本件特許発明1と例1とを同列に議論することはできない。よって,請求人の上記主張は当を得たものとはいえない。

したがって,特許請求の範囲の請求項1の記載に請求人主張の不備は認められず,本件特許明細書の記載が特許法第36条第6項第2号違反であるとする請求人の主張は,採用できない。

なお、この点について,本件判決においては,「本件発明の特許請求の範囲の記載において,A成分及びB成分のいずれにおいても,「麦芽比率%」,「アルコール分%」及び「由来のアルコール分の率」の数値範囲は限定されており,その原料成分も具体的に記載されているから,特許を受けようとする発明は,「物の構成」として明確に特定されているものと認められる。
原告が,本件発明が特許法36条6項2号に違反するとして主張するところは,上記認定に照らして,採用することができない。」(25頁9?14行)と判示された。

(2) 本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9は,本件特許発明1の発明特定事項をより下位の概念のものとするか,同発明特定事項の数値範囲を限定するものであるから,特許請求の範囲の請求項2?9の記載に請求人主張の不備は認められない。よって,本件特許明細書の記載が特許法第36条第6項第2号違反であるとする請求人の主張は,採用できない。

第6 無効理由2(特許法第36条第4項第1号違反)について
1 請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,
ア 発明の効果の有無を判断する基準が不明である。
イ 味覚官能試験における評点の再現性がない。
ウ 発明特定事項(d) を定める基となった実施例1の実験条件が適切でない。
エ 発明の効果を裏付ける実験データがない。
という不備があり,本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて,本件特許発明1?9の効果を確認することができない。
したがって,当業者は,本件特許発明の課題とその解決手段である請求項1?9に記載された発明特定事項との関係を理解できず,本件特許発明1?9の技術上の意義が不明である。よって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は委任省令要件に違反しており,本件特許発明1?9についての特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当審の判断
請求人の主張は,「本件特許明細書の発明の詳細な説明にはア?エの不備があり,本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて,請求項1?9に係る発明の効果を確認することができない。よって,当業者は,本件発明の課題とその解決手段である請求項1?9に記載された発明特定事項との関係を理解できず,請求項1?9に係る発明の技術上の意義が不明であり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は委任省令要件に違反している。」というものである。

ここで,特許法第36条第4項第1号の規定により,省令委任している特許法施行規則第24条の2の規定は次のとおりである。
「(発明の詳細な説明の記載)
第二十4条の2 特許法第三十6条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」
すなわち,委任省令では,「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきものとし,記載事項の例として「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」を掲げている。
このような状況において請求人は,上記のように,本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて,本件特許発明の効果を確認することができないことを根拠として,委任省令要件違反を主張しているのである。

そこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち,実施例の記載を見ることとする。実施例1によれば,A成分由来のアルコール分とB成分由来のアルコール分との率が本件特許発明の範囲のものは,それ以外のものと比較して,飲み応えとキレ味の総合的評価が高い。また,実施例2及び実施例4によれば,B成分として麦を原料の一部としたものは,それ以外のものと比較して,飲み応えが損なわれず,キレ味の評価が高い。さらに,実施例3によれば,A成分の麦芽比率が本件特許発明の範囲のものは,それ以外のものと比較して,飲み応えとキレ味の総合的評価が高い。これら実施例の記載を総合すれば,A成分の麦芽比率,及び,A成分由来のアルコール分とB成分由来のアルコール分との率を本件特許発明の範囲のものとすること,並びに,B成分として麦を原料の一部として使用することにより,飲み応えとキレ味とを合わせ持つという本件特許発明の効果がある程度は理解できる。
ところで,知財高裁平成20年(行ケ)第10237号判決(平成21年7月29日判決言渡)は,「特許法施行規則24条の2の規定した『技術上の意義を理解するために必要な事項』は,実施可能要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって,実施可能要件と別個の独立した要件として,形式的に解釈適用されるべきではない。」と判示しているところ,上記のように,実施例の記載だけからでも本件特許発明がある程度の効果を奏することが理解でき,仮に発明の詳細な説明の記載の一部に不備があったとしても,それを形式的にとらえるのではなく,発明の詳細な説明の記載全体を見ることによって,本件特許発明の奏する効果は理解でき,本件特許発明について「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」を理解することができるのは明らかである。
そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」が記載されているといえ,発明の詳細な説明の記載は委任省令要件を充足しているものと認められる。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

なお,この点について,本件判決においては,「本件明細書の発明の詳細な説明には,【発明が解決しようとする課題】が当業者に理解できるように記載されており,実施例1?4において,本件発明の実施品を製造した上で官能試験に供してその効果についての評価実験を行っており,実施例5及び実施例6において,本件発明品の製造方法が開示されているから,本件発明1の「課題を解決しようとする手段」が当業者が理解できるように記載されている。したがって,本件明細書の記載は,委任省令要件(特許法施行規則第24条の2)を充足する。
原告が,本件発明が特許法36条4項1号に違反するとして主張するところは,上記認定に照らして,採用することができない。」(25頁15?23行)と判示された。

第7 無効理由3(特許法第29条第1項第1号又は第2号該当性)について
1 証拠の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証?甲第10号証には,それぞれ次の事項が記載されている。

(1) 甲第1号証
(1-1) 「ビールだってそのまま飲むばかりが能じゃない。たまには,ビールのミクシング・ドリンクスを飲んでみよう。これでビールのよさが再確認できる。」(第164頁右欄第7行?第10行)
(1-2) 「ドックス・ノーズ
Dog's Nose
材料 オールド ニュー 処方
ドライ・ジン 45ml 30ml 冷やしたグラスに,ジンを
黒ビール 300ml 300ml 入れ,冷やした黒ビールで
満たす」(第164頁下段)
(1-3) 「ビールでもの足りないむきには,ちょっとクセのある黒ビールにジンを入れたこれがおすすめ。以外(注:「意外」の誤記と認められる。)に強く,男性向き。」(第164頁中欄下から第6行?下から3行)
(1-4)「▼変化
(i) 黒ビールをスタウトに代える。
(ii)黒ビールを普通のビールとかロック・ビールに代える。」(第164頁右欄下から第4?下から第1行。ただし,この(i) 及び(ii)は,原文は丸付き数字。)

(2) 甲第2号証
(2-1) 「ボイラーメーカー
BOILERMAKER
グラスを沈めてウイスキーとビールの両方を楽しむ
(ベース)ビール (技法)ビルド
(テイスト)辛口 (度数)35度
(TPO)オール (季節)オール
ニューヨーク・バーテンダーズ・ガイドのレシピ。サブマリノと同じく,ビールの中にウイスキーのグラスを沈める。これも演出のひとつとして,ドリンカーを楽しませるのがいかにもアメリカ的だ。
(レシピ)ビール・・・・・・・・・・・適量
ウイスキー・・・・・・・30ml
(作り方)ウイスキーをショット・グラスに入れ,ビア・マグに沈める。ビールで満たす。」(第281頁下欄第1行?第17行)
(2-2) 「ヨーシュ
・・・
スピリッツをビールで割るという飲み方は沢山ある。たとえばテキーラ,ジン,ウイスキーなど。それぞれアルコール度数を低くし,飲みやすくしている。」(第283頁上欄第1行?第11行)

(3) 甲第3号証
(3-1) 「ビールを他のアルコール飲料と混合すること,すなわち,ウイスキーを含有していることが名前から示唆される『whisky mac』としばしば称される飲料が知られている。現在かなり広く入手可能であり,『Clandew』(商標)の名称で販売されているもう一つの飲料も,またウイスキーとビールの混合物である。」(第1頁左欄第16行?第22行)

(4) 甲第4号証
(4-1) 「本発明は冒頭に述べた方法により調製されたアルコール含量が高められたビール含有飲料であり,清涼感があり,ゼクト様の性格を示すという課題に基づく。」(第1欄第10行?第14行)
(4-2) 「1.次のとおりの容量%で示される次の組成を持つビールベースのアルコール含有飲料:
60?94% ビール
6?40% ビール蒸留物
8?12g/l 炭酸,
ここで,ビール蒸留物のアルコール含量は,飲料のアルコール含量が8.5?15容量%となるように選択する。
2.請求項1による飲料で,ビール蒸留物のアルコール含量が10?70%に調整されたことを特徴とする飲料。」(請求項1,2)
(4-3) 「5.請求項1から4による飲料に60%までのノンアルコールの清涼飲料および/または香料および/またはリキュールを添加したことを特徴とするミックス飲料。」(請求項5)
(4-4) 「アルコール含量が約10%のとき有利である。ビール蒸留物を使用することによって通常のビールよりもアルコールを感じるばかりか,ビール蒸留物に含まれるアロマ物質により発明に値する飲料の香味性格を決定する。さらに8?12g/l,有利なのは10g/l,という比較的高い炭酸ガス含量により繊細な味覚の芳香と共にゼクト様の飲料をもたらす。
飲料の香味のさらなる改良のために,もっぱら発酵による炭酸ガスが添加される。
大変清涼感のある発明にかなった飲料は,容量%で66%ビール,34%ビール蒸留物でアルコール含量が20%で発酵炭酸ガス10g/lのときである。」(第1欄第27行?第45行)

(5) 甲第5号証
(5-1) 「ジョッキに焼酎を入れます。ジョッキの星でアルコール度を調整しましょう。下の星まで25度の焼酎を入れるとアルコール度は約3%に,上の星まで入れると約8%になります。お好みの度数で楽しんで下さい。
次はホッピーのつぎ方にまいります。焼酎とホッピーがよく混ざるように勢いよく注ぎましょう。」(第31頁第6行?第17行)
(5-2) 「さて,ホッピーって名前は聞いたことがあってもまだ飲んだことがない人のために自己紹介しときますネ。
アルコール分はわずか0.8%なんです」(第32頁上欄第17行?第22行)
(5-3) 「基本的にはビールと同じ造られ方をしているんですが,原料は厳選された2条大麦ゴールデンメロン種,ドイツ・ハラタウ産アロマホップ,ドイツ・ワイヘンシュファン酵母銀行の酵母を贅沢に使い,さらに,天然水仕込みで作られた……まあ簡単にいうと最良の原料を使った『麦芽発酵飲料』なんです。」(第32頁上欄第26行?下欄6第行)

(6) 甲第6号証
(6-1) 「《ビールと発泡酒の定義の改正》」の図中に,「ビール(麦芽,ホップ,水,米等を原料に使用したもので米等の重量が麦芽の重量の10分の5を超えないもの)」及び「(i) 発泡酒→ビール(麦芽,ホップ,水,麦,米等を原料に使用したもので麦,米等の重量が麦芽の重量の10分の5を超えないもの)」とあり,これらは,[麦芽比率]67%と100%との間に記載されている。(第2頁図。ただし,この(i) は,原文は丸付き数字。)
(6-2) 「《ビールと発泡酒の定義の改正》」の図中に「発泡酒(麦芽又は麦を原料の一部とした発泡性のある酒類(例)麦芽,ホップ,麦,米,果汁,ハーブ等を原料に使用した発泡性のある酒類)」と記載されている。(第2頁図)
(6-3) 「酒類の種類又は品目が変更となる酒類」の表中に,新酒税法で,発泡酒からスピリッツ類に分類が変更される酒類の(例)として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類(エキス分2度未満)」と,同じくリキュール類に分類が変更される酒類の(例)として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類(エキス分2度以上)」と記載されている。(第3頁表)。

(7) 甲第7号証
(7-1) 「世界の主要国共通にアルコール飲料は低アル化している」(第13頁左欄下から第13行?下から第10行)

(8) 甲第8号証
(8-1) 「健康・低アルコール志向は,今後ますます高まることが確実だ。」(第8頁右欄表の下第8行?第9行)

(9) 甲第9号証
(9-1) 「主に若年層を中心にした甘味のチューハイあるいは低アルコール・カクテル人気は,ある意味で味覚面における消費流出とも捉えられる。」(第7頁右欄下から第9行?下から第7行)

(10)甲第10号証
(10-1)「【定義】我が国の酒税法では,ビールを定義して,(1) 麦芽,ホップおよび水を原料として発酵させたもの,・・・,(2) 麦芽,ホップおよび水および米その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの,・・・。ここで認められている他の原料とは,米のほかとうもろこし,高梁,馬鈴薯,澱粉,糖類,または別に定める苦味料,着色料である。」(第192頁上欄第1行?第8行)

2 本件特許発明1について
ア 請求人の主張
(甲第1号証から甲第6号証に基づく周知の麦芽発酵飲料を前提とした,甲第1号証又は甲第2号証に基づく公知・公用の主張 )

甲第1号証?甲第6号証の記載に基づけば,本件特許発明1でいうA成分(「麦を原料の一部に使用して発酵させて得たアルコール含有物」)とB成分(「少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液」)とからなり,A成分とB成分とを混合してなる麦芽発酵飲料は,本件特許出願前広く一般に知られた周知の麦芽発酵飲料である。
そして、本件特許発明1と甲第1号証?甲第6号証に記載された周知発明とを対比すると,両者は、A成分とB成分を混合してなる麦芽発酵飲料である点で共通するが、甲第1号証?甲第6号証には,発明特定事項(c)及び(d)が明記されていない点で,一応,両者は相違する。
しかし,例えば甲第1号証又は甲第2号証に記載されたような,ビールとジン又はビールとウイスキーを混合してなる周知の麦芽発酵飲料においては,ビールとジン又はウイスキーとの混合割合には当然に種々のバリエーションが想定され,アルコール度数(アルコール分)に対する人の好みは千差万別であること(甲第5号証における「お好みの度数で楽しんで下さい」との記載),消費者における低アルコール志向(甲第7号証?甲第9号証)を考慮に入れると,そのアルコール度数が混合前のビールに比べてそれほど高くならないような割合で,ビールとジンとが混合されたことが,本件特許出願前,当然に有り得たはずであると合理的に推認することができる。そして,そのアルコール度数が混合前のビールに比べてそれほど高くならないような割合でビールとジン又はウイスキーとを混合した場合には,混合して得られる麦芽発酵飲料のアルコール分は発明特定事項(c) が規定する「3?8%」の範囲内となり,かつ,ビール(A成分)由来のアルコール分とジン又はウイスキー(B成分)由来のアルコール分との比率は,発明特定事項(d) が規定する「97.5:2.5?90:10」の範囲内となる。
公然知られた発明」についていえば,公然知られ得る状態にあれば公知は推定され,反証がない限り,公然知られていると解すべきであるというのが通説である。請求人が甲第1号証に基づいて主張する,ビールとジン又はウイスキーとの混合割合のバリエーションは,消費者の好みに応じて,バーの従業員若しくは消費者自身の手によって行われる行為であり,その際,周囲の客や同席する知人等に守秘義務が課せられていたとは到底考えられないから,そこで生産された麦芽発酵飲料は,少なくとも公然と知られ得る状態にあったことは明白である。
したがって,本件特許発明1は,甲第1号証?甲第6号証に記載された周知の麦芽発酵飲料における,ビールとジン又はウイスキーとの混合割合の当然に行われたバリエーションのうちの一つにすぎず,本件特許出願前に,公然知られていたか,公然実施をされていた発明であり,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当する。

イ 甲第1号証から甲第6号証の記載
甲第1号証に記載された飲料は,「ドックス・ノーズ」という名称のカクテルで,ドライ・ジンとビールを特定の割合で混合した飲料であって,混合処方にはオールドとニューがあり,黒ビール300mlに対してドライ・ジンを,オールドでは45ml,ニューでは30mlをそれぞれ混合することが開示されている(記載事項 (1-2))。
甲第2号証に記載された飲料は,「ボイラーメーカー」という名称のカクテルであり,ウイスキーをショット・グラスに入れ,ビア・マグに沈めるもので,混合処方には,ビール適量に対してウイスキー30mlを混合することが開示されている(記載事項 (2-1))。
甲第3号証に記載された飲料は,「whisky mac」と称されるものであり,ウイスキーとビールの混合飲料である(記載事項 (3-1))。
甲第4号証に記載された飲料は,ビールベースのアルコール含有飲料であり,60?94%のビールと,6?40%のビール蒸留物と,8?12g/lの炭酸ガスの組成を有し,飲料のアルコール含量が8.5?15容量%であることが開示されている(記載事項 (4-2))。
甲第5号証に記載された飲料は,アルコール分が0.8%の麦芽発酵飲料であるホッピーと焼酎の混合飲料であり,アルコール度が約3%から約8%となる旨が開示され,「お好みの度数で楽しんで下さい。」と記載されている(記載事項 (5-1))。
甲第6号証には,平成15年4月から施行される改正される酒税法の解説において,スピリッツ類に分類される酒類の実例として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類(エキス分2度未満)」と,リキュール類に分類される酒類の実例として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類(エキス分2度以上)」と記載されている(記載事項 (6-3))。ここにいう「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させた」発泡性のあるものとは,通常,ビールあるいは発泡酒であるから,甲第6号証には,ビールや発泡酒に麦焼酎を加えた飲料が開示されている。

ウ 対比
ここで、上記「第5 1 (1)本件特許発明1について」の項で分説した本件特許発明1の発明特定事項(a)?(e)における発明特定事項(a)「A成分として,麦を原料の一部に使用して発酵させて得た麦芽比率が20%以上でありアルコール分が0.5?7%であるアルコール含有物」を以下「A成分」と,発明特定事項(b)「B成分として,少なくとも麦を原料の一部としたアルコール分を蒸留して得たアルコール分が10?90%であるアルコール含有の蒸留液」を,以下「B成分」という。
すると,本件特許発明1は,「A成分及びB成分からなる(e) 麦芽発酵飲料であって,(c) A成分とB成分とを混合してなるアルコール分が3?8%である麦芽発酵飲料であって,(d) A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率が,97.5:2.5?90:10である」ことを特徴とするものである。
一方,上記甲第1?6号証の記載によれば,A成分とB成分を混合してなる麦芽発酵飲料は,本件出願前,周知のアルコール飲料であることは明らかである。
そこで,本件特許発明1と,甲第1号証?甲第6号証に基づき周知と認められる麦芽発酵飲料,あるいは,例えば,請求人が特にその主張の根拠として取り上げて詳細に検討している甲第1号証又は甲第2号証にその混合処方が記載されたカクテル(混合飲料)とを比較すると,両者は,A成分及びB成分からなる麦芽発酵飲料である点で一致するが,その混合処方の割合からみて,後者では,前者の発明特定事項(c)及び(d)の条件を満たしているとはいえない点で相違する。

エ 当審の判断
(ア) 本件特許発明1は,本件明細書の段落【0030】に記載され,表1【0033】によって示される,「本発明が提供する麦芽発酵飲料にあっては,ビールテイスト飲料としての香味を求める場合には,麦芽由来の飲み応えと爽快感,さらには飲用後の「キレ」を併せ持つのが良く,そのためには,B成分由来の香味を強くし過ぎることがないようにし,かつ,飲用後「キレ」を感じる量とする必要がある。そのためには,A成分由来のアルコール分:B成分由来のアルコール分の比率が,99.5:0.5?80:20の範囲にあるのが好ましく,特に,97.5:2.5?90:10の範囲であるのが好ましい。」を特徴とするものであり,そのことにより,「麦芽由来の飲みごたえに加え、爽快な喉越し感とすっきりとした後味、すなわち「キレ」を増強させた麦芽発酵飲料」(段落【0001】)を提供するという効果を奏するものである。
そして,本件特許発明1におけるB成分の量が,通常のカクテルやそれに類するアルコール飲料(以下、「カクテル等」という。)と比較してわずかな量であることは,例えば以下(イ)に示すとおりであり,本件特許発明1は,A成分であるビールや発泡酒の香味について,それ自体の飲み応えを失わせることがなく,かつ,キリッとした味わいがあるビールテイストの麦芽発酵飲料とすることを目的とするものである。本件特許発明1は,そのために,B成分自体の有する風味を消失する,通常のカクテル等ではあり得ない程,少量のB成分をA成分に含有させることにより、これを達成するものである。
したがって,混合するB成分の量自体が,通常のカクテル等と比較して異質というべきものであり,このような数値で特定された範囲において,顕著な効果を奏する,数値限定の発明に相当するということもできる。
(イ) そこでまず,甲第1又は2号証の混合処方による混合飲料の,アルコール分(発明特定事項(c))及びA:Bのアルコール分の率(発明特定事項(d))はどの程度のものかという点について検討すると,例えば,平成22年3月11日付審判請求書の第31頁?第32頁での請求人の計算では,甲第1号証のドックス・ノーズで,ビール300mlにドライ・ジンを30ml混合した場合,アルコール分が約8.2%で,アルコール分の率A:Bが90:72である。また,甲第2号証のボイラーメーカーでは,ウイスキー30mlに対してビールは適量としか記載されていないものの,ビールのグラスの中にウイスキーのグラスを入れるカクテルであり,カクテル自体の度数が35度なのであるから,そもそも飲料のアルコール度数自体が本件特許発明1の飲料とは大きく異なるものであって,ビールは300mlより少ないと推定できるから,そのアルコール分はドックス・ノーズより高く,アルコール分の率も90:72よりB成分の率は高くなると推定できる。
このように,アルコール度数において,本件特許発明1の飲料のアルコール度数の3?8%とそれ程相違しない甲第1号証のカクテルについてみても,アルコール分の率A:Bが本件特許発明1の97.5?90:2.5?10と比べてB成分由来のアルコール分が少なくとも72程度と,2.5?10の7倍以上高いものである。このことは,A:Bの混合割合が10:1程度である甲第1号証のカクテルに比べ,同様にビールとジンを用いた場合には,本件特許発明1におけるB成分の混合量が,かなり少ないことを意味する。この点,請求人の計算例(審判請求書第33頁第14行?第34頁第2行)によれば,B成分の混合量はA成分に対して1%強にすぎず,一桁程度少ないことを意味するものであり,このような100:1程度の混合割合では,混合飲料とはいっても,B成分が,カクテル全体の風味に大きく寄与し,それ自体の風味をも楽しむための酒の一種として混合されているのではなく,飲料用添加剤として混合される程度のわずかな量であるといえる。
そうすると,請求人の上記主張にあるように、アルコール度数(アルコール分)に対する人の好みは千差万別であり、消費者における低アルコール志向を考慮に入れても,甲第1又は2号証に記載されたカクテルは,ジン又はウイスキー自体の風味も味わうものであり,そのようなカクテル自体の特徴を捨ててまで,お酒を飲むために行くバー,飲食店において,そのような添加剤程度の少ない割合でB成分が混合されたことが,本件特許出願前,当然に有り得たはずであると推認することはできない。
即ち,甲第1又は2号証は,何れもカクテルに関するものであるが、カクテルは混合した成分の調和によりもたらされる風味を楽しむものである。これに対し,本件特許発明1は,前述の如く,カクテルという概念を超えた発明であるから,甲第1又は2号証と同一であるということはできない。
(ウ) さらに,アルコール分の率A:BのBが,本件特許発明1のように低比率のBである麦芽発酵飲料は,甲第3?第6号証の記載をみても開示されていないし,そのバリエーションとして提供されたことがあった筈とはいえないのは、以下のとおりである。
甲第3号証に記載の飲料は,その組成は明らかではないが,第1頁左欄第23行?第24行に「これらの飲料はあまりポピュラーではない。それは,得られた混合物が明らかに,知られたビール及びスピリットのフレーバーを合わせたものでしかなく,このフレーバーの組合せはどちらかといえば特殊な味であり,広く受け入れられるものではないためである。」との記載から,ビールとスピリットの双方の風味を有するものであり,スピリットを相当量含んでいるものと認められる。そして,本件特許発明1は,上記したように,A成分とB成分の双方の調和した風味を楽しむという一般のカクテル等の概念を超えるものであって,甲第3号証記載の飲料のバリエーションということはできない。
甲第4号証に記載の飲料は,ビールにビール蒸留物及び炭酸を添加した飲料であり,「ビール蒸留物を使用することによって通常のビールよりもアルコールを感じるばかりか,ビール蒸留物に含まれるアロマ物質により発明に値する香味性格を決定する。」と記載されているから,ビール蒸留物は,本来ビール自体が有するはずのアロマ物質を,さらに香味が強められる程度の量添加する必要があり,その目的は,ビールのアルコール含量を高めることで,そのためには相当程度のビール蒸留物を添加する必要があるものと認められる。即ち,本件特許発明1は,甲第4号証とB成分の量において大きく異なるものであり,各成分の調和した風味を楽しむというものではない。さらに,甲第4号証に記載された目的を達成するためには,炭酸ガス濃度を8-12g/lという高濃度のものとすることが不可欠である。本件特許発明1の飲料はA成分とB成分からなるものであり,そのような高濃度の炭酸ガス濃度とすることは,本件特許明細書には記載されておらず,本件特許発明1にはそのような飲料は含まれないと認められるところ,甲第4号証記載の飲料の炭酸ガス濃度を,例えば通常のビール等と同程度のものとすることは甲第4号証記載の飲料の本来の目的に反することでもある。したがって,本件特許発明1は,甲第4号証記載の飲料のバリエーションということはできない。
甲第5号証に記載の飲料は,焼酎で割ったホッピーであり,記載された最も低い焼酎の配合量,すなわちアルコール分0.8%のホッピーに25度の焼酎を入れ,アルコール度が3%となった場合の焼酎の配合量は10%であり,混合飲料の風味に大きな影響を与える量である。すなわち,記載された飲料において焼酎は相当量含まれていると認められる。したがって,本件特許発明1は,甲第5号証記載の飲料とB成分の量において大きく異なるものであり,A成分,B成分の調和によりもたらされる風味を楽しむものではないから,甲第5号証記載の飲料のバリエーションということはできない。
甲第6号証は,甲第5号証記載の焼酎がB成分に相当することの根拠として請求人が提出したものであるが,念のため検討すると,それに記載された「スピリッツ類」,「リキュール類」は従来発泡酒として区分されていたものであり,アルコール度数はビールと同様のものであると推測される。また,その範囲として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類」が記載されているが,通常の麦しょうちゅうのアルコール分は本件発明の10から90%に含まれるものと認められる。しかし,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたもの」のアルコール分が何%であるのか,それと麦しょうちゅうをどのくらいの量で混合するのかについては,不明である。また,そもそも何のために麦しょうちゅうを加えるのかも不明である。したがって,本件特許発明1は,甲第6号証記載の飲料のバリエーションということはできない。
このような甲第1?6号証の記載からてみて,A成分とB成分の風味を同時に味わえる混合飲料は周知であり,各混合飲料の特徴を失わない範囲での各成分の比率の変更は,そのバリエーションであって,公然知られていたか,公然実施されていたということはできるかもしれない。しかしながら,本件特許発明1の飲料におけるB成分の混合量は,前述のとおり,周知の麦芽発酵飲料の特徴を失わせる程度に少量のものである。
(エ) したがって,本件特許発明1は,甲第1号証?甲第6号証の周知の麦芽発酵飲料の種々のバリエーション、例えば,甲第1号証又は甲第2号証に記載された麦芽発酵飲料における,ビールとジン又はウイスキーとの混合割合の当然に行われたバリエーションのうちの一つにすぎず,本件特許出願前に,公然知られていたか,公然実施をされていた発明であったという請求人の上記主張は採用できず,本件特許発明1が,本件特許出願前に,公然知られていたか又は公然実施をされていた発明であったとは認められない。

3 本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9は,本件特許発明1の発明特定事項をより下位の概念のものとするか,同発明特定事項の数値範囲を限定するものであるから,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許出願前に,公然知られていたか又は公然実施をされていた発明であったとは認められない。

第8 無効理由4(特許法第29条第2項違反)について
1 本件特許発明1について
ア 請求人の主張
(甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明,又は甲第1号証から甲第6号証に基づく周知の麦芽発酵飲料に基づく進歩性の欠如の主張)
本件特許発明1と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明,又は甲第1号証から甲第6号証に基づく周知の麦芽発酵飲料とを対比すると,両者は,A成分とB成分を混合してなる麦芽発酵飲料である点で一致するが、甲第1号証から甲第6号証には,発明特定事項(c)及び(d)が明記されていない点で,一応両者は相違する。
しかし,甲第1号証又は甲第2号証に記載されたようなビールとジン又はビールとウイスキーを混合してなる飲料や,甲第1号証から甲第6号証に基づく周知の麦芽発酵飲料において,そのアルコール度数(アルコール分)をどの程度にするかは,飲用者の好みに応じて,当業者が適宜決定すればよいことであり,混合前のビールに比べてそれほど高くならない程度にアルコール度数(アルコール分)を抑制して,飲みやすくすることも,当業者の自由な選択に委ねられた選択肢の一つであることは明らかである。
ましてや,甲第7号証?甲第9号証に示されるとおり,消費者の低アルコール志向は本件特許出願前,既に始まっていたのであるから,このような消費者の志向に合わせて,周知の麦芽発酵飲料,例えば甲第1号証又は甲第2号証に記載された麦芽発酵飲料におけるそのアルコール度数(アルコール分)を低く抑制することは,当業者であれば,当然に試みたであろうバリエーションの一つであり,何ら格別の困難性を要する事項ではない。
このように,例えば甲第1号証又は甲第2号証に記載された本件特許出願前周知の麦芽発酵飲料において,そのアルコール度数(アルコール分)を消費者の低アルコール志向に合わせて,A成分であるビールと同程度にとどめる場合には,必然的に請求項1に係る麦芽発酵飲料が得られるものであって,そこには何らの技術的困難性もなければ,独創性も存在しない。
したがって,本件特許発明1は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明又は甲第1号証から甲第6号証に基づく周知の麦芽発酵飲料に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
(本件特許出願前,公然知られたか若しくは公然実施された発明に基づく進歩性の欠如の主張)
消費者の好みの多様化や,本件特許出願前に既に始まっていた消費者の低アルコール志向を考慮に入れると,甲第1号証や甲第2号証に記載されたようなビールとジン又はビールとウイスキーを混合してなる周知の麦芽発酵飲料において,そのアルコール度数が混合前のビールに比べてそれほど高くならないような割合で,ビールとジン又はビールとウイスキーとが混合されたことも,本件特許出願前,当然に有り得た筈であり,このように消費者の好みに応じて,ビールとジン又はビールとウイスキーを混合して生産された麦芽発酵飲料は,公然知られたか若しくは公然実施された発明に該当する。
そして,これら本件特許出願前に公然知られた又は公然実施された麦芽発酵飲料と、本件特許発明1の麦芽発酵飲料とが,仮に,発明特定事項(c)や(d)において相違していたとしても,本件特許発明1は、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
イ 対比
甲第1号証から甲第6号証の記載は,上記「第7 2 イ」に同じであり,本件特許発明1は,上記「第7 2 ウ」に記載したように,「A成分及びB成分からなる(e) 麦芽発酵飲料であって,(c) A成分とB成分とを混合してなるアルコール分が3?8%である麦芽発酵飲料であって,(d) A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率が,97.5:2.5?90:10である」ことを特徴とするものである。
一方,上記甲第1?6号証の記載によれば,A成分とB成分を混合してなる麦芽発酵飲料は,本件出願前周知のアルコール飲料であることは明らかであるので,以下,甲第3?6号証の周知の麦芽発酵飲料のアルコール分,アルコール分の比率A:B等について,本件特許発明1のものと対比してみる。(甲第1,2号証の飲料についてのアルコール分等は,「第7 2 エ(イ)」に記載したとおりである。)
甲第3号証に記載された飲料は,ウイスキーとビールの混合飲料であるが,「whisky mac」という名称が記載されているだけで,アルコール分等については記載されていない。
甲第4号証に記載された飲料は,ビールベースのアルコール含有飲料であり,60?94%のビールと,6?40%のビール蒸留物と,8?12g/lの炭酸ガスの組成を有する,飲料のアルコール分が8.5?15容量%のものであるが,A成分とB成分の他にさらに炭酸ガスを混合するものであり,A成分とB成分からなるものではない。また,例示された請求項3の飲料のアルコール分は,計算すると約10%,アルコール分の比率A:Bは33:67である。
甲第5号証に記載された飲料は,アルコール分が0.8%の麦芽発酵飲料であるホッピーと焼酎の混合飲料であり,アルコール分が約3%から約8%のお好みの度数で楽しんで下さいと記載されている。しかしながら,A成分のホッピーのアルコール分が0.8%と低いので,B成分の焼酎のアルコール分を25%とすると,このA成分とB成分の混合によりアルコール分の比率A:Bが97.5:2.5?90:10とはなり得ない。例えば,3%のアルコール分とする場合,ホッピーと焼酎のアルコール分の比率A:Bは24.2:75.8である。
甲第6号証には,スピリッツ類の実例として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類(エキス分2度未満)」と,リキュール類の実例として,「麦芽,ホップ,水を原料として発酵させたものに麦しょうちゅうを加えた発泡性のある酒類(エキス分2度以上)」と記載されているだけで,それらのアルコール分等については記載されていない。
このように,甲第1?6号証に記載の周知の麦芽発酵飲料は,発明特定事項(c)及び(d)の両方を備えていない点,特に発明特定事項(d)のアルコール分の比率A:Bが本件特許発明1の97.5:2.5?90:10と比べて,B成分の比率が約7倍以上高い点において,本件特許発明1と相違する。

ウ 当審の判断
本件特許発明1と,甲第1号証又は甲第2号証に記載された飲料又は甲第1?6号証に記載の周知の麦芽発酵飲料とは,上記イに記載したように,後者において,特にアルコール分の比率A:BのB成分がかなり(請求人の計算例では,甲第1号証記載のドックス・ノーズとの比較では約7倍以上)高い点で相違し,さらに,甲第1?6号証には,麦芽発酵飲料にキレを付与する点については,記載されていない。(なお,甲第4号証においては,記載事項(4-1)(4-4)に清涼感について記載されているものの,混合する炭酸ガスによる効果によるものと推定される。)
そうすると,請求人の上記主張にあるように、アルコール度数(アルコール分)に対する人の好みは千差万別であり,甲第7号証から甲第9号証に示されるような消費者における低アルコール志向を考慮に入れても,混合飲料というより飲料添加剤ほどの量しかB成分を混合しない,すなわち周知の麦芽発酵飲料の特徴を失っている本件特許発明1を,甲第1?6号証に記載の周知の麦芽発酵飲料から当業者であれば容易に想到できるとはいえない。
即ち,甲第1?6号証は,何れもカクテル等に関するものであるが、カクテルは混合した成分の調和によりもたらされる風味を楽しむものである。これに対し,本件特許発明1は,前述の如く,カクテルという概念を超えた発明であるから,甲第1?6号証から容易であるということはできない。
そして,本件特許発明1において奏される効果についても,甲第1号証又は甲第2号証に記載された飲料又は甲第1?6号証に記載の周知の麦芽発酵飲料から予測できない格別なものである。
さらに,本件特許発明1は,アルコール分及びアルコール分の比率A:Bという発明を特定するための事項を、数値範囲により数量的に表現した,いわゆる数値限定の発明として捉えて進歩性を有するというべきである。そして,本件特許発明1における有利な効果が,その数値範囲内のすべての部分で満たされることも明細書に記載された評価実験により認めることができる。
したがって,本件特許発明1が,甲第1号証又は甲第2号証に記載された飲料又は甲第1?6号証に記載された周知の麦芽発酵飲料に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また,同様の理由により,本件特許発明1が,本件特許出願前に,公然知られていたか,公然実施をされていた発明と発明特定事項(c)や(d)において相違するとした場合も,本件特許発明1は,公知・公用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2 本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9は,本件特許発明1の発明特定事項をより下位の概念のものとするか,同発明特定事項の数値範囲を限定するものであるから,本件特許発明1と同様な理由により,甲第1号証又は甲第2号証に記載された飲料,又は甲第1?6号証に記載された周知の麦芽発酵飲料に基づいて,あるいは,本件特許出願前に,公然知られていたか,公然実施をされていた発明に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第9 請求人の上申書における主張(確定判決の拘束力)について
請求人は,平成24年1月24日付上申書において,被請求人の主張が,取消判決が行った認定,判断の有する意味及び拘束力を理解しない失当なものであると主張するので,その点について判断する。
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法第181条第2項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法第33条第1項の規定により,右取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(平成4年4月28日,最高裁第三小法廷判決,昭和63年(行ツ)第10号を参照)。
請求人主張のとおり,取消判決において,「審決における上記の判断の遺脱はその結論に影響を及ぼすべきもの」であると判断していることは認められる。しかし,判決を精査しても,審決を取り消すとした主文を導くために必要な事実認定及び法律判断として,本件特許が特許法第29条の規定に違反してされたことを明確に認定している記載はない。
すなわち,取消判決の「判断の遺脱はその結論に影響を及ぼすべきもの」とは,審決において判断されていない点について判断がなされれば,審決の結論に影響があり得るという当然のことを意味しているに過ぎず,請求人が主張するような「本件特許は無効であるとの結論になるはずである,との認定判断をしている」というものとは認められない。

第10 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件特許の請求項1?9に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-25 
結審通知日 2012-05-10 
審決日 2012-05-24 
出願番号 特願2008-152582(P2008-152582)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (C12G)
P 1 113・ 111- Y (C12G)
P 1 113・ 536- Y (C12G)
P 1 113・ 121- Y (C12G)
P 1 113・ 112- Y (C12G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 六笠 紀子
冨永 みどり
登録日 2009-09-04 
登録番号 特許第4367790号(P4367790)
発明の名称 麦芽発酵飲料  
代理人 青柳 ▲れい▼子  
代理人 安江 裕太  
代理人 須磨 光夫  
代理人 安江 邦治  
代理人 草間 攻  
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