• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1277536
審判番号 不服2011-15938  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-22 
確定日 2013-08-09 
事件の表示 特願2006-522803「電位開口型のナトリウムチャネルのインヒビターとして有用な組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日国際公開、WO2005/013914、平成19年 2月 1日国内公表、特表2007-501804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2004年 8月 9日(優先権主張 外国庁受理 2003年 8月 8日及び2004年 7月 1日 アメリカ合衆国(US))国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成18年 4月 6日 翻訳文提出書
平成19年 7月30日 手続補正書
平成22年 8月12日付け 拒絶理由通知書
平成22年11月24日 意見書・誤訳訂正書
平成22年11月24日付け 手続補足書(甲第1号証)
平成23年 3月17日付け 拒絶査定
平成23年 7月22日 審判請求書・手続補正書
平成24年 5月30日付け 審尋
なお、審尋について指定した期間内に請求人からは何ら回答がなかった。

第2 平成23年 7月22日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年 7月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成23年 7月22日付けの手続補正(以下「本件補正」といい、補正後の請求項を「新請求項1」などという。)によって、その補正前の請求項(以下「旧請求項」という。)1?21が削除され、新請求項1及び2は、それぞれ、旧請求項23及び22に対応すると認められるから、本件補正は、以下の補正を含むものである。
(補正1)
旧請求項22の
「請求項1に記載の化合物、および薬学的に受容可能なアジュバントもしくはキャリアを含む、薬学的組成物。」
を、新請求項2の
「請求項1に記載の化合物、および薬学的に受容可能なアジュバントもしくはキャリアを含む、薬学的組成物。」
とする補正

(補正2)本件補正前の請求項23の
「前記化合物は、(審決注 構造式の表は省略する。)・・・から選択される請求項1に記載の化合物。」
という記載を、
「以下から選択される化合物:(審決注 構造式の表は省略する。)・・・。」
とする補正

2 補正の適否
(1)補正の目的
(補正1)について、検討する。
旧請求項22と新請求項2とでは、両請求項の記載自体は一致している。しかし、旧請求項22と新請求項2は、薬学的組成物の成分について、「請求項1に記載の化合物」と、他の請求項を引用する形式で記載されているので、被引用請求項が補正されることによって、両請求項に記載された発明が実質的に補正されることになる。このため、補正の目的を検討するに当たっては、被引用請求項である旧請求項1と新請求項1に記載された事項により特定される発明の内容を含め、検討する必要がある。
旧請求項22が引用する旧請求項1には、以下のとおり記載されている。
(旧請求項1)
「以下の式I-A:
【化1】


の化合物であって、ここで
各R^(N)は、独立して、水素または2個までの置換基で必要に応じて置換されたC_(1-4)脂肪族であり、該置換基は、R^(1)、R^(4)もしくはR^(5)から選択され;
X_(1)は、O、SまたはNR^(X)であり;
pは0もしくは1であり;
R^(X)はHもしくはR^(2)であり;
X_(2)は、2個までの置換基で必要に応じて置換されたC_(1-3)脂肪族であり、該置換基は、R^(1)、R^(4)、もしくはR^(5)から独立して選択され;
Zは以下:
【化2】

から選択され、
Tは、0-5個のヘテロ原子を有する、8-14員の芳香族もしくは非芳香族の二環式環もしくは三環式環であり、該ヘテロ原子は、O、S、N、NH、S(O)またはSO_(2)から選択され;
ここでZおよびTの各々は、必要に応じて、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、もしくはR^(5)から独立して選択される4個までの置換基を含み;
ここで該スルホニルに結合したフェニル環は、必要に応じて、R^(1)およびR^(2)から選択される3個までの置換基で置換されており;
R^(1)は、オキソ、=NN(R^(6))_(2)、=NN(R^(7))_(2)、=NN(R^(6)R^(7))、R^(6)もしくは(CH_(2))_(n)-Yであり;
;
nは0、1もしくは2であり;
Yは、ハロ、CN、もしくはCF_(3)、OH、SR^(6)、S(O)R^(6)、SO_(2)R^(6)、NH_(2)、NHR^(6)、N(R^(6))_(2)、NR^(6)R^(8)、COOH、COOR^(6)もしくはOR^(6)であるか;または
隣接する環原子上の2つのR^(1)が一緒になって、1,2-ジフルオロメチレンジオキシ、1,2-ジメチルメチレンジオキシ、1,2-メチレンジオキシもしくは1,2-エチレンジオキシを形成し;
R^(2)は、脂肪族であって、ここで各R^(2)は、R^(1)、R^(4)、もしくはR^(5)から独立して選択される、2個までの置換基で必要に応じて置換され;
R^(3)は、3個までの置換基で必要に応じて置換された、脂環式環、アリール環、複素環式環、もしくはヘテロアリール環であり、該置換基は、R^(1)、R^(2)、R^(4)もしくはR^(5)から独立して選択され;
R^(4)は、OR^(5)、OR^(6)、OC(O)R^(6)、OC(O)R^(5)、OC(O)OR^(6)、OC(O)OR^(5)、OC(O)N(R^(6))_(2)、OC(O)N(R^(5))_(2)、OC(O)N(R^(6)R^(5))、OP(O)(OR^(6))_(2)、OP(O)(OR^(5))_(2)、OP(O)(OR^(6))(OR^(5))、SR^(6)、SR^(5)、S(O)R^(6)、S(O)R^(5)、SO_(2)R^(6)、SO_(2)R^(5)、SO_(2)N(R^(6))_(2)、SO_(2)N(R^(5))_(2)、SO_(2)NR^(5)R^(6)、SO_(3)R^(6)、SO_(3)R^(5)、C(O)R^(5)、C(O)OR^(5)、C(O)R^(6)、C(O)OR^(6)、C(O)N(R^(6))_(2)、C(O)N(R^(5))_(2)、C(O)N(R^(5)R^(6))、C(O)N(OR^(6))R^(6)、C(O)N(OR^(5))R^(6)、C(O)N(OR^(6))R^(5)、C(O)N(OR^(5))R^(5)、C(NOR^(6))R^(6)、C(NOR^(6))R^(5)、C(NOR^(5))R^(6)、C(NOR^(5))R^(5)、N(R^(6))_(2)、N(R^(5))_(2)、N(R^(5)R^(6))、NR^(5)C(O)R^(5)、NR^(6)C(O)R^(6)、NR^(6)C(O)R^(5)、NR^(6)C(O)OR^(6)、NR^(5)C(O)OR^(6)、NR^(6)C(O)OR^(5)、NR^(5)C(O)OR^(5)、NR^(6)C(O)N(R^(6))_(2)、NR^(6)C(O)NR^(5)R^(6)、NR^(6)C(O)N(R^(5))_(2)、NR^(5)C(O)N(R^(6))_(2)、NR^(5)C(O)NR^(5)R^(6)、NR^(5)C(O)N(R^(5))_(2)、NR^(6)SO_(2)R^(6)、NR^(6)SO_(2)R^(5)、NR^(5)SO_(2)R^(5)、NR^(6)SO_(2)N(R^(6))_(2)、NR^(6)SO_(2)NR^(5)R^(6)、NR^(6)SO_(2)N(R^(5))_(2)、NR^(5)SO_(2)NR^(5)R^(6)、NR^(5)SO_(2)N(R^(5))_(2)、N(OR^(6))R^(6)、N(OR^(6))R^(5)、N(OR^(5))R^(5)、N(OR^(5))R^(6)、P(O)(OR^(6))N(R^(6))_(2)、P(O)(OR^(6))N(R^(5)R^(6))、P(O)(OR^(6))N(R^(5))_(2)、P(O)(OR^(5))N(R^(5)R^(6))、P(O)(OR^(5))N(R^(6))_(2)、P(O)(OR^(5))N(R^(5))_(2)、P(O)(OR^(6))_(2)、P(O)(OR^(5))_(2)、もしくはP(O)(OR^(6))(OR^(5))であり;
R^(5)は、3個までのR1置換基で必要に応じて置換された、脂環式環、アリール環、複素環式環、もしくはヘテロアリール環であり;
R^(6)は、Hもしくは脂肪族であり、ここでR^(6)は、R^(7)置換基で必要に応じて置換されており;
R^(7)は、脂環式環、アリール環、複素環式環、もしくはヘテロアリール環であり、各R^(7)は、H、脂肪族、または(CH_(2))_(n)-Z’から独立して選択される2個までの置換基で必要に応じて置換されており;
Z’は、ハロ、CN、NO_(2)、C(ハロ)_(3)、CH(ハロ)_(2)、CH_(2)(ハロ)、-OC(ハロ)_(3)、-OCH(ハロ)_(2)、-OCH_(2)(ハロ)、OH、S-脂肪族、S(O)-脂肪族、SO_(2)-脂肪族、NH_(2)、NH-脂肪族、N(脂肪族)_(2)、N(脂肪族)R^(8)、COOH、C(O)O(-脂肪族)、もしくはO-脂肪族から選択され;そして
R^(8)は、アミノ保護基であり;
ただし:
・・・
化合物。」(審決注 除外される化合物についての記載を・・・により省略して記載した。)
旧請求項1に、「Tは、0-5個のヘテロ原子を有する、8-14員の芳香族もしくは非芳香族の二環式環もしくは三環式環であり、該ヘテロ原子は、O、S、N、NH、S(O)またはSO_(2)から選択され;」と記載されるとおり、旧請求項1に記載された化合物は、Tとして、二環式環又は三環式環のいずれかを必ず有するものである。これに対し、新請求項2が引用する新請求項1に記載された化合物は、以下の化合物3,4,9,10を含むものである。
(新請求項1に記載された化合物3,4,9,10)


これら化合物は、二環式環及び三環式環のいずれも含まない化合物であるから、旧請求項1の範囲外の化合物である。そうすると、新請求項2の医薬組成物は、旧請求項22の医薬組成物の成分には含まれなかった化合物である化合物3,4,9,10を含む場合を包含するものである。
そうすると、上記(補正1)は、特許請求の範囲の減縮には当たらず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものには該当しない。また、上記(補正1)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1、3号又は4号に掲げる事項を目的とするものであるともいえない。

3 むすび
以上のとおり、(補正1)を含むものである23年 7月22日付けの手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明
平成23年 7月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたから、本件出願において特許を受けようとする発明は、平成22年11月24日付けの誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載されたとおりの事項により特定されたものであると認められる。その請求項22には、以下のとおり記載されている(以下、その発明を「本願発明」という。)。
「請求項1に記載の化合物、および薬学的に受容可能なアジュバントもしくはキャリアを含む、薬学的組成物。」
なお、上記における「請求項1」とは、上記第2の2(1)の(旧請求項1)である。
また、本願の発明の詳細な説明は、平成22年11月24日付けの誤訳訂正書により補正されたものであるので、以下、これを「本願明細書」という。

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成22年 8月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
原査定における平成22年 8月12日付け拒絶理由通知書の「理由」の欄には「5)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と記載され、この理由について、「記」に以下の記載がある。
「理由5,6について ・請求項 76 請求項76に係る発明は、式I-Aの化合物を含む薬学的組成物である。 一般に化学物質を用いた治療に関する技術分野は、治療に用いる化学物質の構造から効果の予測が極めて困難な技術分野に該当するから、当業者が容易にその実施をすることができるためには、該化学物質を目的の医薬用途に用い得ることが具体的な薬理データまたはそれと同視すべき程度の記載により裏付けられていなければならない。また、その裏返しとして、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えるものである場合には、その特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 これを本件について検討すると、本願の段落【0397】?【0439】には、本願化合物の薬理作用を確認する試験について記載されているが、当該薬理試験結果等としては、段落【0420】に「本明細書に一般に記載され、表2に示される本発明の化合物は、電位開口型のナトリウムチャネルを25.0μM以下で阻害することが分かった」、段落【0439】に「本発明の代表的な化合物が、望ましいN型カルシウムチャネル調節活性および選択性を有することが分かった」と漠然と記載されているだけで、具体的にどの化合物が如何なる値を示したのかについては記載されておらず、このような試験結果の記載では、本願化合物が目的の薬理作用を有することを当業者が的確に認識できるものとは認められない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項76に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、請求項76に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものともいえない。」
ここで、上記拒絶理由通知がされた際の請求項76は、平成22年11月24日付けの誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項22に対応するものである。
以上のことから、原査定における「平成22年 8月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由」とは、「本願明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むと認められる。

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 特許法第36条第4項第1号の規定について
特許法第36条第4項第1号は、「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定する。この規定を受けて、特許法施行規則第24条の2は、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定する。
つまり、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するといえるためには、特許を受けようとする発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものでなければならず、その記載内容としては、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野の分野における通常の知識を有する者、すなわち当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することが求められているといえる。

2 特許法第36条第4項第1号への適合性の検討
(1)平成22年11月24日付けの誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項22の記載からみて、本願発明は、「薬学的組成物」の発明であり、また、当該請求項における「請求項1に記載の化合物、および薬学的に受容可能なアジュバントもしくはキャリアを含む」と記載されていることから、請求項1に記載の化合物を有効成分として含み、当該化合物の薬理作用を利用して、医薬としての治療効果を発揮させるための組成物とする点に技術的特徴を有する用途発明であると認められる。
このような用途発明である本願発明について、その技術上の意義を理解するためには、当然、本願発明の組成物が医薬としてどのような治療効果を示すものであるか理解できることが必要である。また、医薬としての用途発明である本願発明を実施することができるためには、本願発明の組成物が医薬として使用できるものでなければならない。このことは、いい替えれば、医薬組成物の発明については、その組成物が医薬としてどのような治療効果を示すものであるか理解することができるとともに、その組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮できるものでなければ、その発明を使用することができるとはいえない、ということになる。
したがって、医薬の用途発明である医薬組成物の発明について、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に記載されているというためには、その組成物が医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされている必要があるといえる。

(2)上記の点を踏まえ、本願明細書の発明の詳細な説明に、医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされているといえるかを検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明に「本発明は、電位開口型のナトリウムチャネルおよびカルシウムチャネルのインヒビターとして有用な化合物に関する。本発明はまた、本発明の化合物を含む薬学的に受容可能な組成物、および種々の障害の処置においてこの組成物を使用する方法を提供する。」(【0001】)と記載されていることから、本願明細書の発明の詳細な説明において、本願発明は、その有効成分が電位開口型のナトリウムチャネルおよびカルシウムチャネルのインヒビターとしての作用に基づく医薬として記載されていると認められる。
そこで、本願発明における有効成分が有する電位開口型のナトリウムチャネルおよびカルシウムチャネルのインヒビターとしての作用についての観点から、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。

ア まず、本願発明における有効成分の電位開口型のナトリウムチャネルとしての作用に基づく治療効果について検討する。
ナトリウムチャネルについて、本願明細書の発明の詳細な説明に「【0002】 (発明の背景) Naチャネルは、ニューロンおよび筋細胞のような全ての興奮性細胞において活動電位を生成する中心である。ナトリウムチャネルは、興奮性組織(脳、胃腸管の平滑筋、骨格筋、末梢神経系、脊髄および気道が挙げられる)において重要な役割を果たす。よって、ナトリウムチャネルは、以下の種々の疾患状態において重要な役割を果たす:例えば、癲癇・・・疼痛・・・筋緊張症・・・運動失調・・・多発性硬化症・・・過敏性の腸・・・尿失禁および内臓疼痛・・・一連の精神機能障害(例えば、不安および鬱病)」と記載されていることから、ナトリウムチャネルに対する阻害作用を有する化合物が治療効果を発揮する可能性のある疾患として、癲癇、疼痛、筋緊張症、運動失調、多発性硬化症、過敏性の腸、尿失禁および内臓疼痛、一連の精神機能障害が含まれると一応は認められる。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明における本願発明における有効成分についての電位開口型のナトリウムチャネルのインヒビターとしての作用に関する記載をみると、「A)化合物のNaV阻害特性を検出および測定するためのアッセイ」(【0397】)、「B)化学刺激によるVIPR(登録商標)光学的膜電位アッセイ法」(【0398】?【0403】、「C)電気刺激でのVIPR(登録商標)光学的膜電位アッセイ法」(【0404】?【0414】)、「試験化合物のNaV活性及び阻害についての電気生理学アッセイ」(【0415】?【0419】)について、化合物のナトリウムチャネルに対する作用を確認するための方法を説明する記載があると認められる。また、「本明細書に一般に記載され、表2に示される本発明の化合物は、電位開口型のナトリウムチャネルを25.0μM以下で阻害することが分かった。」(【0420】)との記載があるから、本願明細書の発明の詳細な説明には、いずれかの電位開口型のナトリウムチャネルに対する阻害作用を示す化合物があったことが記載されていると認められる。
電位開口型のナトリウムチャネルについて、本願明細書の発明の詳細な説明には、多くの文献を提示して「【0003】電位開口型のNaチャネルは、9つの異なるサブタイプ(NaV1.1-NaV1.9)からなる遺伝子ファミリーを構成する。表1に示されるように、これらのサブタイプは、組織特異的局在および機能的差異を示す(Goldin,A.L.(2001)「Resurgence of sodium channel research」Annu Rev Physiol 63:871-94を参照のこと)。」と記載され、NaV1.1ないしNaV1.9についての多くの公知文献が提示されている。本願明細書の発明の詳細な説明には、ナトリウムチャネルの9つの異なるサブタイプについてまとめた以下の表が示されている。



このように、電位開口型のナトリウムチャネルは、9つの異なるサブタイプがあり、表1によれば、NaV1.1はCNS、PNS、ニューロンの細胞体に存在し、疼痛、癲癇、神経変性に対する作用の指標となるものであり、また、NaV1.2はCNS、ニューロンの細胞体に存在し、神経変性、癲癇に対する作用の指標となるものであり、さらに、NaV1.5は心臓に存在し、不整脈、長いQTに対する作用の指標となるものであるというように、サブタイプの種類によって、その存在する組織及び指標となる作用が異なるというのが、本願出願時の技術常識であると認められる。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明における上記の「本明細書に一般に記載され、表2に示される本発明の化合物は、電位開口型のナトリウムチャネルを25.0μM以下で阻害することが分かった。」(【0420】)との記載から、いずれかの電位開口型のナトリウムチャネルに対する阻害作用を示す化合物があったことが記載されているとしても、ナトリウムチャネルのサブタイプによっては、対象となる組織も、その作用も異なるのであるから、本願発明における有効成分が阻害作用を示したナトリウムチャネルのサブタイプが特定されていない【0420】の記載からは、本願発明が医薬としてどのような治療効果を発揮するものであるのかを認識することができるとはいえない。また、改めて活性試験を行わなくても、本願発明における有効成分が、どのナトリウムチャネルに対する作用を示すものであるのかを知ることができるといえるような技術常識の存在も認められない。
したがって、本願出願時の技術常識を考慮して本願明細書の発明の詳細な説明における有効成分のナトリウムチャネルインヒビターとしての作用に基づく記載を検討しても、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が、医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされているとはいえない。

イ 次に、本願発明における化合物の電位開口型のカルシウムチャネルとしての作用に基づく用途についての本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
カルシウムチャネルについては、「【0015】 電位開口型のカルシウムチャネルは、膜の脱分極に応答して開き、細胞外環境からのCa進入を可能にする、膜貫通型の(membrane-spanning)複数サブユニットタンパク質である。」「【0017】 Ca_(v)2.1およびCa_(v)2.2は、それぞれ、ペプチド毒素ω-コノトキシン-MVIICおよびω-コノトキシン-GVIAに対する高親和性結合部位を含み、これらのペプチドは、各チャネルタイプの分布および機能を決定するために使用されている。Ca_(v)2.2は、脊髄神経節に由来するニューロンのシナプス前部神経終末、ならびに後角(dorsal horn)の膠様質IおよびIIのニューロンにおいて高度に発現される・・・。Ca_(v)2.2チャネルは、脊髄における二次介在ニューロンと三次介在ニューロンとの間のシナプス前部終末においても見出される。神経伝達の両方の部位が、脳に疼痛情報を伝えるにあたって、非常に重要である。」との記載があるから、カルシウムチャネルのうち、Ca_(v)2.2チャネルは、疼痛情報を伝えるにあたって、非常に重要な役割を果たすものであることが理解できる。
本願明細書の発明の詳細な説明には、さらに、「A)化合物のCa_(v)阻害特性をアッセイするための光化学的方法」(【0421】?【0435】)、「CaV活性および試験化合物の阻害についての電気生理学的アッセイ」(【0436】?【0439】)にカルシウムチャネルに対する化合物の作用を確認するための試験を説明する記載があると認められる。また、「本発明の代表的な化合物が、望ましいN型カルシウムチャネル調節活性および選択性を有することが分かった。」(【0439】)との記載があるから、本願発明の化合物の中には、N型カルシウムチャネル調節活性を示す化合物があったことが確認されたということはできる。
しかし、N型カルシウムチャネル調節活性を示す化合物について、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の代表的な化合物」と記載されるに留まり、どのような観点から代表的である化合物についての記載であるのかは明らかにされていない。また、「望ましいN型カルシウムチャネル調節活性および選択性」についても、本願明細書の発明の詳細な説明には、その内容を説明する記載はない。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された上記の事項から、どの化合物が具体的にどのような作用をどの程度示すのかを理解することができるとはいえない。また、改めて活性試験を行わなくても、本願発明における有効成分が、N型カルシウムチャネルに対して、医薬としての治療効果を発揮できる程度の阻害作用を示すものであるのかを知ることができるといえるような技術常識の存在も認められない。
したがって、本願出願時の技術常識を考慮して本願明細書の発明の詳細な説明における有効成分のカルシウムチャネルインヒビターとしての作用に基づく記載を検討しても、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が、医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされているとはいえない。

ウ 本願明細書の発明の詳細な説明の、上記ア及びイで検討した記載の他の記載を検討しても、本願発明が医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされているとはいえない。
平成22年11月24日付けの手続補足により出願人から甲第1号証として実験成績証明書が提出されている。そして、その表中の冒頭行に「IC50 Bins+++<=2.0<++<=5.0<+」と記載され、タイトル行に「Binned IC50」と記載されている。この試験がどのようにして行われたのかについては何ら説明がないため、このIC_(50)が何についてのIC50であるのかを理解することはできず、また、IC_(50)の単位も記載されていないため、その記載内容を理解することができない。さらに、この記載と本願明細書の発明の詳細な説明に記載された試験結果との対応関係も不明である。
したがって、甲第1号証の記載を検討しても、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が、医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされているということはできない。

(3)まとめ
以上のことから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が、医薬としてどのような治療効果を示すものであるかを当業者が理解できる程度の記載及びその組成物が実際に医薬としての治療効果を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされているとはいえないから、その記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえない。

3 小括
本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、特許法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-18 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 特願2006-522803(P2006-522803)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 57- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 素子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 大畑 通隆
齋藤 恵
発明の名称 電位開口型のナトリウムチャネルのインヒビターとして有用な組成物  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ