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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 E02D |
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管理番号 | 1277541 |
審判番号 | 無効2012-800178 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-10-30 |
確定日 | 2013-08-05 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4431028号発明「閉塞部材アタッチメント及び閉塞部材の圧入方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
理 由 第1 手続の経緯 平成16年12月 9日:出願(特願2004-356875号) 平成21年12月25日:設定登録(特許第4431028号) 平成24年10月30日:本件審判請求 平成25年 1月11日:被請求人より答弁書提出 平成25年 4月 2日:審理事項通知 平成25年 5月 7日:請求人より口頭審理陳述要領書提出 平成25年 5月 7日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出 平成25年 5月20日:口頭審理 第2 当事者の主張 1 請求人の主張 請求人は,本件特許第4431028号の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする,審判の費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,平成25年5月7日付け口頭審理陳述要領書及び同年5月20日の口頭審理において,甲第1?第3号証を提示し,以下の無効理由を主張した。 [無効理由] (1)本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,いわゆる当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項に該当し,特許を受けることができないものであり,本件発明1及び本件発明3にかかる特許は特許法第123条第1項第2号により,いずれも無効とすべきものである。 (2)本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3は,甲1,甲2及び甲3に記載された発明に基づいて,いわゆる当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項に該当し,特許を受けることができないものであり,本件発明2にかかる特許は特許法第123条第1項第2号により,いずれも無効とすべきものである。 [具体的な理由] (審判請求書) (1)本件発明1と証拠に記載された発明との対比 (1)-1 本件発明1と甲1発明及び甲2発明との対比 イ.本件発明1と甲1発明は下記の通り,一致点と相違点を有する。 [一致点1] 昇降自在なチャック装置で,杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際に, 前記杭以外の杭を前記杭圧入機のチャック装置を用いて圧入するためのチャック装置用アタッチメントであって, 前記チャック装置で把持することが可能で,前記杭以外の杭を上下に貫通可能なホルダと, 前記ホルダを貫通する前記杭以外の杭を把持する副チャック装置を備えたチャック装置用アタッチメント。 [相違点1] 圧入する杭について, 本件発明1では圧入する杭が特定されていないのに対して,甲1発明では圧入する杭は「鋼管杭」に特定されている点。 [相違点2] チャック装置用アタッチメントを使用して圧入する部材について, 本件発明1では「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材」であるのに対して,甲1発明では「鋼管杭以外の杭」である点。 (審判請求書第11頁第24行?第12頁第7行) ロ.本件発明1と甲2発明は下記の通り,一致点と相違点を有する。 [一致点2] 杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際に,隣り合って圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を圧入すること。 [相違点3] 圧入する杭について, 本件発明1では圧入する杭が特定されていないのに対して,甲2発明では圧入する杭は「鋼管杭」に特定されている点。 [相違点4] 閉塞部材の圧入に際して, 本件発明1では「閉塞部材アタッチメント」を使用するのに対して,甲2発明では圧入手段が明示されていない点。 (同第12頁第24行?第13頁第1行) (1)-2 甲1発明及び甲2発明に基づく本件発明1の容易想到性 イ.相違点1,3について 甲1発明及び甲2発明で圧入する杭は鋼管杭であるのに対して,本件発明1では単に「杭」とされており,「杭の種類」は特定されていない。 しかしながら,本件明細書には「杭は,鋼管杭でなくても良いが,本発明は,回転圧入される鋼管杭に好適に用いることができる。」(【0009】)と記載されているとともに,実施例として回転圧入される鋼管杭が記載されている。 よって,本件発明1の杭は甲1,甲2に記載された「鋼管杭」を含むことは明らかである。 ロ.相違点2について 甲1発明は,鋼管杭を挟持可能な鋼管杭圧入引抜機のチャック装置を使用して,鋼管杭の間に鋼管杭以外の杭,具体的にはU形鋼矢板やH形鋼を圧入することを目的とし,そのための手段として副チャック装置を採用している。一方,甲2発明は,鋼管杭の間に閉塞部材としての継手部鋼管又は継手部鋼材を圧入することを目的とする。よって,甲1発明と甲2発明は圧入した杭の間に,圧入した杭とは異なる杭を圧入する点において課題及び作用・効果の共通性を有する。 そのため,甲2発明を甲1発明に適用することについての阻害事由はないことはもとより,甲2発明に接した当業者は甲1発明の対象とする鋼管杭以外の杭として,閉塞部材としての継手部鋼管又は継手部鋼材を圧入する技術的示唆を容易に得ることができるものであり,甲2/技術情報a,bを甲1発明に適用することについての動機付けを甲2発明から得ることができる。 本件発明1と甲1発明との相違点2は,甲2発明を適用することによって,当業者が容易に想到することが可能である。 ハ.相違点4について 甲2発明は,鋼管杭の間に閉塞部材としての継手部鋼管又は継手部鋼材を圧入することを目的とする。一方,甲1発明は,鋼管杭を挟持可能な鋼管杭圧入引抜機のチャック装置を使用して,鋼管杭の間に鋼管杭以外の杭,具体的にはU形鋼矢板やH形鋼を圧入することを目的とし,そのための手段として副チャック装置を採用している。よって,甲1発明と甲2発明は,圧入した杭の間に,圧入した杭とは異なる杭を圧入する点において共通性を有する。 そのため,甲1発明を甲2発明に適用することについての阻害事由はないことはもとより,甲1発明に接した当業者は甲2発明の対象とする継手部鋼管又は継手部鋼材からなる閉塞部材の圧入手段として,甲1発明に記載された副チャック装置を採用することの技術的示唆を容易に得ることができるものであり,甲1発明の副チャック装置を甲2発明から得られる閉塞部材としての継手部鋼管又は継手部鋼材の圧入手段として適用することについての動機付けを甲1発明から得ることができる。 本件発明1と甲2発明との相違点4は,甲1発明を適用することによって,当業者が容易に想到することが可能である。 (同第13頁第2行?第14頁第34行) (2)本件発明2と証拠に記載された発明との対比 (2)-1 本件発明2と甲3発明との対比 本件発明2と甲3発明は下記の通り,一致点と相違点を有する。 [一致点3] 筒状杭を対象とし,把持部の少なくとも一部が筒状本体部の下端より下方に露出して形成され,把持部が径を拡縮自在とされ,把持部内に筒状杭を貫通させた状態で縮径することにより筒状杭を把持し,把持部の少なくとも一部を筒状杭の端部内に挿入した状態で拡径することにより筒状抗を把持すること。 [相違点5] 把持部を縮径させて把持する物について, 本件発明2では「閉塞部材」であるのに対して,甲3発明ではそうでない点。 [相違点6] 発明の対象が, 本件発明2では「閉塞部材アタッチメント」であるのに対して,甲3発明ではそうでない点。 (同第16頁第18行?第31行) (2)-2 甲1発明,甲2発明及び甲3発明に基づく本件発明2の容易想到性 本件発明2と甲3発明との相違点5,6は,いずれも甲1発明に甲2発明を適用することによって,当業者が容易に想到することが可能である。 一方,相違点5,6を除く本件発明2の構成要件は,一致点3に示すように甲3に記載されている。 甲3発明は「鋼管杭圧入引抜機のチャック装置」に関し,甲1発明と甲2発明は鋼管杭をチャック装置でチャックして圧入する点において共通性を有する。そのため,甲3発明を甲1発明及び甲2発明に適用することについての阻害事由はないことはもとより,甲3発明に接した当業者は甲2発明の対象とする閉塞部材としての継手部鋼管又は継手部鋼材をチャックするための技術的示唆を容易に得ることができるものであり,甲3発明から得られる「挟持板の下端部がチャックヘッドよりも所定の長さ突出して延設部を形成し,挟持板の進出によって鋼管杭を挟持し,挟持板の退縮によって鋼管杭を解放する」(甲3/技術情報a,b)という技術情報を甲1発明及び甲2発明に適用することについての動機付けを甲3発明から得ることができる。 甲1発明及び甲2発明に,甲3発明を適用することによって,本件発明2は当業者が容易に想到することが可能である。 本件発明2と甲3発明はともに課題を共通にしており,又甲3発明を甲1発明及び甲2発明に適用することについての適用の示唆及び動機付けを得ることができ,甲1発明及び甲2発明に甲3発明を適用することによって,本件発明2の作用・効果と同一の作用・効果を奏することができる。 そのため,本件発明2は,甲1,甲2及び甲3に記載された発明に基づいて,いわゆる当業者が容易に発明できたものである。 (同第17頁第9行?第18頁第11行) (3)甲1発明及び甲2発明,甲1発明,甲2発明及び甲3発明に基づく本件発明3の容易想到性 前記「(2)-2」に示す通り,本件発明3と甲3発明との相違点5,6は,いずれも甲1発明,甲2発明に甲3発明を適用することによって,当業者が容易に想到することが可能である。 そのため,本件発明1を引用する本件発明3については,甲1発明に甲2発明を適用することによって,又本件発明2を引用する本件発明3については,甲1発明,甲2発明に甲3発明を適用することによって,それぞれ当業者が容易に想到することが可能である。 本件発明3の作用・効果についても,前記作用・効果に示す通り,甲1発明に甲2発明を適用することによって,或いは甲1発明,甲2発明に甲3発明を適用することによって,達成することができる。 (同第19頁第3行?第14行) (口頭審理陳述要領書) (4)閉塞部材とは 「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する」目的で圧入される「杭」を,本件各発明では「閉塞部材」と称しており,「閉塞部材」という「杭」と異なる特別の部材が存在するのではない。「杭」>「閉塞部材」の関係にあり,本件各発明でいう「閉塞部材」とは,「隣り合う圧入された杭同士の聞を閉塞する」という目的・作用を有する「杭」に他ならない。 本件各発明の閉塞部材が「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する」目的は,「土留め」又は「止水」のためであり,本件各発明の「閉塞部材」は,当業界において,一般に「締め切り材」「止水材」として認識されている部材と同一である。その一例として,本件各発明の「閉塞部材」に相当する部材が「止水材」として説明されている従来技術(特開2003-20640号)を参考資料1として提出する。 参考資料1には,止水部材として,H形鋼,断面V字形をした長尺の鋼材,帯状をなす長尺の鋼板が例示されており,参考資料1における止水材は,まさに本件各発明の「閉塞部材」に相当する。 (口頭審理陳述要領書第2頁第2行?第32行) (5)甲1,2の開示事項及び組み合わせることの動機付け 甲2から得られる技術情報によって,甲2から,鋼管杭と形状を異にし,鋼管杭の間の間隙を閉塞するための部材を圧入すること,及び該部材の実体が鉛直方向に圧入される杭であるとの知見を得ることができる。 また,甲1から,鋼管杭と形状を異にする鋼管杭以外の杭を鋼管杭と組み合わせて圧入するとの知見を得ることができる。 甲2において,継手部鋼管/継手部鋼材は,一列に圧入される鋼管杭とは形状を異にし,鋼管杭の間の間隙を閉塞するために鉛直方向に圧入される部材であり,その実体は鋼管杭とは異なる形状の杭である。そのため,甲2の継手部鋼管/継手部鋼材は,杭圧入機で圧入する鋼管杭以外の形状をした「杭」に他ならない。 一方,甲1は,鋼管杭圧入機で圧入する鋼管杭以外の「杭」を同一の鋼管杭圧入機を使用して圧入するための「鋼管杭圧入引抜機用のチャック装置用アタッチメント」に関するものである。よって,甲2,甲1は,杭圧入機で圧入する鋼管杭以外の形状をした「杭」を圧入する点において技術分野及び課題を共通にするものであって,両者の技術分野及び課題の共通性は,甲2と甲1を組み合わせる動機付けとして働き得る。 そこで,甲1に開示された鋼管杭以外の杭としてのH形鋼を圧入するための副チャック装置を使用して,甲2に開示された継手部鋼材としての山形鋼を圧入可能か否かのシミュレーションを行った。甲1に開示された副チャック装置及び甲2に開示された継手部鋼材は,ともに公知技術であり,甲1に開示された副チャック装置を使用して,甲2に開示された継手部鋼材としての山形鋼を圧入することが可能である。 (同第4頁第3行?第7頁第5行) (6)「圧入した際」か「圧入する際」か 本件発明1は「閉塞部材アタッチメント」に関する発明であり,「杭列が構築された後」か「杭列を構築するとき」であるかという,時系列における施工の順序を発明特定要件とするものではない。本件発明1は,閉塞部材を,杭との位置関係において「隣り合う杭同士の間を閉塞する閉塞部材」として特定しているに過ぎない。よって,アタッチメントを使用する時間的なタイミングの如何にかかわりなく,甲1には,鋼管杭を圧入する杭圧入機のチャック装置で挟持可能なホルダに,鋼管杭以外の杭を挟持できる副チャック装置を内設することが開示されている。 (同第11頁第12行?第18行) [証拠方法] 甲第1号証:実願昭62-100477号(実開昭64-24141号) のマイクロフィルム 甲第2号証:特開2004-278287号公報 甲第3号証:実願平3-72858号(実開平4-134544号)のマ イクロフィルム 2 被請求人の主張 被請求人は,平成25年1月11日付け答弁書,同年5月7日付け口頭審理陳述要領書,同年5月20日の口頭審理において,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,請求人の主張する無効理由に対して以下のように反論した。 [具体的な主張] (答弁書) (1)本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明とは以下の相違点を有する。(下線は,被請求人が付与。) イ.アタッチメントを使用して圧入する部材Xが,本件発明1では,「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材」であるのに対し,甲1発明では,「連続して圧入してきた鋼管杭以外の杭」である点。 ロ.アタッチメントを使用するタイミングが,本件発明1では,「複数の杭を連続的に圧入した際」,すなわち,杭列が構築された後であるのに対し,甲1発明では,複数の杭を連続的に圧入する際,すなわち杭列を構築するときである点。 (答弁書第8頁第1行?第7行) (2)甲2の記載について 甲2には,本件発明1の構成Aにおける,「複数の杭を連続的に圧入した際に,隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材」についての記載があるということができる。 (同第9頁第11行?末行) (3)甲2に記載の技術を甲1発明に適用して本件発明1を容易に想到できたかについて 本件発明1は,閉塞部材アタッチメントを使用することにより,隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を圧入することができるようにした点に特徴を有するものである。一方,甲1及び甲2にはそのような特徴的技術の開示ないし示唆はない。したがって,甲1及び甲2を組み合わせたとしても本件発明1を容易に想到し得ないというべきである。 また,上記のように,甲1発明は,杭を連続して圧入することを課題とするのであって,間隔を空けて杭を圧入することについての技術思想はない。したがって,間隔を空けて杭を圧入し,土留めや止水のために杭間に閉塞部材を圧入しようとする動機付けがないというべきである。よって,甲2に記載の技術を甲1発明に適用することについての動機付けは存在しないというべきである。 甲2には,どのような装置を用いて継手部鋼管等を圧入しているかについての具体的記載はない。すなわち,杭を圧入したのと同じ杭圧入機を用いて継手部鋼管等を圧入するといった技術情報は甲1や甲2からは得ることはできないというべきである。 (同第11頁第1行?第12頁第4行) (4)甲1に記載の技術を甲2発明に適用して本件発明1を容易に想到できたかについて 甲1には,アタッチメントを杭圧入機のチャック装置に装着して鋼管杭以外の杭を圧入する点が記載されているが,アタッチメントで閉塞部材を把持して圧入する技術については記載されていない。 甲2発明は,間隔を空けて杭を圧入し,その間隙部分に継手部鋼管等を圧入するものである。一方,甲1は,杭を連続して圧入する技術を開示するものである。したがって,甲2発明に甲1に記載の技術を適用した場合でも,せいぜい,杭圧入機を用いて形状の異なる複数の杭をアタッチメントを用いて間隔を空けて圧入するという程度の構成が想到し得るにすぎない。 したがって,甲1に記載の技術を甲2発明に適用して本件発明1を容易に想到することはできないというべきである。 (同第13頁第12行?第23行) (5)甲1及び甲2に記載の技術を甲3発明に適用して本件発明2を容易に想到できたかについて 本件発明2は,閉塞部材アタッチメントにより閉塞部材の把持と筒状杭の把持とを行わせることができるようにしたものであり,閉塞部材アタッチメントを備えることにより初めて本件発明2を想到し得るものである。これに対し,甲3発明は,チャック装置により鋼管杭の内側及び外側を選択的に把持できるようにするものであって,わざわざアタッチメントを必要とするものではない。したがって,甲3発明に甲1に記載の技術を組み合わせる動機付けは存在しないというべきである。 甲3発明は,「ヤットコ」というアタッチメントを必要としないための発明(【0004】参照)であって,その甲3発明に触れた当業者が甲1に記載されたアタッチメントを適用するという動機づけは存在しないというべきである。 (同第18頁第23行?第20頁第7行) (6)請求項3について 上述したように,甲1?甲3発明を組み合わせたとしても本件発明1及び本件発明2を容易に想到することができない。したがって,本件発明1を引用する本件発明3及び本件発明2を引用する本件発明3は何れも甲1?甲3発明に基づいて容易に発明できるものではない。 (同第20頁第21行?第25行) (口頭審理陳述要領書) (7)アタッチメントを使用するタイミング 本件発明は,「複数の杭を連続的に圧入した際」,換言すれば,「複数の杭によって杭列を構築した後」にアタッチメントを使用して閉塞部材を杭間に圧入していることは明らかである。杭列が形成されていなければ,閉塞部材を圧入すべき杭間が存在しないのである。 一方,甲1記載の技術は,鋼管杭圧入引抜機を用いて鋼管杭(鋼管矢板)と異なった形状の杭(U形鋼矢板やH形鋼)を圧入する際に用いるアタッチメントに関する。すなわち,鋼管杭圧入引抜機をU形鋼矢板圧入引抜機やH形鋼圧入引抜機に変換するためのアタッチメントであり,本件発明とはアタッチメントを使用するタイミングが異なっていることは明らかである。 (口頭審理陳述要領書第3頁第17行?第4頁第22行) (8)杭を圧入したのと同じ杭圧入機を用いて継手部鋼管等を圧入する点についての説明 本件発明は,閉塞部材アタッチメントをチャック装置に装着できるようにしたことにより,杭を圧入したのと同じ杭圧入機を用いて閉塞部材(継手部鋼管等)を圧入することを可能にするものである。 一方,甲1や甲2には,杭を圧入したのと同じ杭圧入機を用いて閉塞部材(継手部鋼管等)を圧入する技術についての記載はなく,このような技術情報が甲1や甲2から得ることはできない。 (同第4頁第23行?第5頁第22行) 第3 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 「【請求項1】 昇降自在なチャック装置で,杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際に,隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を前記杭圧入機のチャック装置を用いて圧入するための閉塞部材アタッチメントであって, 前記チャック装置で把持することが可能で,前記閉塞部材を上下に貫通可能な筒状本体部と, 前記筒状本体部内を貫通する閉塞部材を把持する把持部と, を備えたことを特徴とする閉塞部材アタッチメント。 【請求項2】 前記杭が筒状杭とされ, 前記把持部の少なくとも一部が前記筒状本体部の下端より下方に露出して形成され, 前記把持部が径を拡縮自在とされ, 前記把持部内に閉塞部材を貫通させた状態で縮径することにより閉塞部材を把持し, 把持部の少なくとも一部を筒状杭端部内に挿入した状態で拡径することにより筒状杭を把持することを特徴とする請求項1に記載の閉塞部材アタッチメント。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の閉塞部材アタッチメントを用いて閉塞部材を圧入する閉塞部材の圧入方法であって, 前記杭圧入機の前記チャック装置に前記閉塞部材アタッチメントを把持させるとともに,該閉塞部材アタッチメントに閉塞部材を把持させて,前記チャック装置により,隣り合う杭同士の間に前記閉塞部材を圧入することを特徴とする閉塞部材の圧入方法。」 (以下,請求項1ないし3に係る発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。) 第4 無効理由についての判断 1 証拠方法の記載内容 本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第3号証には,次の事項が記載されている。(下線は,当審にて付与。) (1)甲第1号証:実願昭62-100477号(実開昭64-24141 号)のマイクロフィルム (1a)「2.実用新案登録請求の範囲 鋼管杭を挟持可能なチャック装置を具備した鋼管杭圧入引抜機において, 上記チャック装置で挟持可能なホルダに,鋼管杭以外の杭を挟持できる副チャック装置を内設したことを特徴とする鋼管杭圧入引抜機のチャック装置用アタッチメント。」 (1b)「(作用) 上記アタッチメントのホルダを取外した状態で,チャック装置によって鋼管杭を挟持してこれを打ち込む。また,上記アタッチメントに例えばU形鋼矢板を挟持するための副チャック装置を具備したホルダを保持させれば,該U形鋼矢板を打ち込むことができる。同様に,H形鋼を挟持できる副チャック装置を具備したホルダを保持させれば,該H形鋼を打ち込むことができる。」(第4頁第11行?第19行) (1c) 「鋼管杭圧入引抜機1の概略を説明する。基台2の上面に,この基台2に対して水平方向(第2図左右方向)に摺動自在なスライドベース3を設けてあり,このスライドベース3上にはマスト4を立設すると共に,このマスト4の前面にマスト4に対して垂直方向に摺動自在なチャック装置5が取付けてある。また,上記基台2の下面には,適宜数のクランプ6を設けてあり,このクランプ6で既設杭Pを挟持して鋼管杭圧入引抜機1を杭P上に設置する。 上記チャック装置5はほぼ円筒形をした鋼管杭P1用のもので,鋼管杭P1を挿入できる筒部5aの内周面にピストン5cによって半径方向に進退可能なチャック5bを適宜数設けてあり,この筒部5aに挿通させた鋼管杭P1を,油圧などの流体圧シリンダにより上記ピストン5cを作動させ,チャック5bを突出させて鋼管杭P1を4方向から挟持する。」(第5頁第4行?第6頁第2行) (1d) 「U形鋼矢板用アタッチメント10は,鋼管杭P1とほぼ等しい径のホルダ11にU形鋼矢板P1を挿通できるように,U形鋼矢板P1の断面形状とほぼ相似形に挿通孔12を形成してある。ホルダ11の内部には副チャック装置としてシリンダ13が形成してあり,このシリンダ13内をピストン14が摺動する。このピストン14の先端部が挿通孔12内に突出して,挿通孔12内に存するU形鋼矢板P2はピストン14の先端面と挿通孔12の壁面とで挟持されることになる。 第2実施例は第1図(b)および第4図に示すもので,H形鋼P3用のアタッチメント20である。本実施例では,ホルダ21内にH形鋼P3の断面形状とほぼ相似形の挿通孔22を形成してある。また,ホルダ21には副チャック装置としてのシリンダ23が形成してあり,このシリング23内をピストン24が摺動する。このピストン24の先端部が挿通孔22内に突出して,その先端でH形鋼P3を挟持するのである。」(第6頁第8行?第7頁第6行) (1e) 「このように,鋼管杭P1とU形鋼矢板P2およびH形鋼P3を混合して連続して圧入していくときは,必要に応じチャック装置5にアタッチメント10,20を取付けると共に,クランプ6にも補助クランプ7を取付けまたは取外しながら圧入前進していく。そのため,迅速,容易に各種の鋼杭を連続圧入できるのである。」(第11頁第17行?第12頁第3行) (1f)「(考案の効果) 以上説明したように,本考案によれば,アタッチメントを交換するだけで,鋼管杭圧入引抜機によってU形鋼矢板やH形鋼など鋼管杭以外の杭を地中圧入することができる。」(第12頁第9行?第13行) したがって,記載事項(1a)?(1f)からみて,甲第1号証には以下の発明が記載されている。 「鋼管杭を挟持可能なチャック装置を具備した鋼管杭圧入引抜機において,上記チャック装置で挟持可能なホルダに,鋼管杭以外の杭を挟持できる副チャック装置を内設した鋼管杭圧入引抜機のチャック装置用アタッチメントであって, 上記鋼管杭圧入引抜機の基台の上面に,この基台に対して水平方向に摺動自在なスライドベースを設けてあり,このスライドベース上にはマストを立設すると共に,このマストの前面にマストに対して垂直方向に摺動自在なチャック装置が取付けてあり, 上記アタッチメントを交換するだけで,鋼管杭圧入引抜機によってU形鋼矢板やH形鋼など鋼管杭以外の杭を地中圧入することができ, 上記アタッチメントにU形鋼矢板を挟持するための副チャック装置を具備したホルダを保持させ,該U形鋼矢板を打ち込み, 上記アタッチメントは,鋼管杭とほぼ等しい径のホルダにU形鋼矢板を挿通できるように,U形鋼矢板の断面形状とほぼ相似形に挿通孔を形成し,ホルダの内部には副チャック装置としてシリンダが形成してあり,このシリンダ内をピストンが摺動する鋼管杭圧入引抜機のチャック装置用アタッチメント。」(以下,「甲1発明」という。) (2)甲第2号証:特開2004-278287号公報 (2a)「【特許請求の範囲1】 【請求項1】 回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法によって,所定間隔をおいて一列に鋼管杭を埋設して築造される鋼管山留め式擁壁構造であって,前記擁壁構造の背面側における鋼管杭相互の各間隙部分に,鋼管杭よりも小径で,かつ前記間隙部分よりも大径に設定された継手部鋼管を,鋼管杭相互の間隙を塞ぐ状態でそれぞれ埋設配置したことを特徴とする透水性鋼管山留め式擁壁構造。 【請求項2】?【請求項4】(省略) 【請求項5】 継手部鋼管に換えて,継手部鋼材を用いることを特徴とする請求項1または3記載の透水性鋼管山留め式擁壁構造。 【請求項6】 継手部鋼材は,等辺山形鋼,不等辺山形鋼,I形鋼またばCT形鋼であり,圧入施工によって埋設配置したことを特徴とする請求項5に記載の透水性鋼管山留め式擁壁構造。」 (2b)「【0016】 第1実施形態の鋼管山留め式擁壁構造1の構築では,まず回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法によって,所定間隔をおいて鋼管杭2を一列に埋設配置する。次に,擁壁構造の背面側において,継手部鋼管3をそれぞれ埋設配置して,擁壁の構築が完了する。この継手部鋼管3の外径は,鋼管杭2よりも小径で,かつ前記間隙部分よりも大径となるように設定されている。第1実施形態では,2つの鋼管杭2,2と継手部鋼管3とがほぼ接触するように近接し,かつ鋼管杭2,2相互の各間隙部分を塞ぐような状態で継手部鋼管3が埋設配置される。 【0017】 また継手部鋼管3の施工は,圧入工法,回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法のいずれの工法によってもよい。このとき,継手部鋼管3の先端に掘削刃4を固着して,この継手部鋼管3を回転圧入工法または中掘り併用回転圧入工法によって埋設する場合には施工性が向上し,継手部鋼管3の埋設時における鉛直精度の確保が容易になる。 【0018】 以上のように構成された第1実施形態の擁壁構造1では,擁壁背面地盤の含水量が増大した場合,鋼管杭2と継手部鋼管3とのわずかな隙間を通って,水は擁壁前面側に流出する。その一方で,土砂は鋼管杭2と継手部鋼管3との隙間で目詰まりするため,擁壁背面側からの土砂の流出は抑制される。すなわち本発明では,土留壁としての機能を保持しつつ,透水を許容する構造とすることで,土留壁本体と同様の施工手順で透水部材も設置できる。そのため,鋼管杭を用いた従来の擁壁構造に必要とされる透水層等の排水工の設置を省略でき,施工面・コスト面で有利である。」 したがって,記載事項(2a),(2b)からみて,甲第2号証には以下の発明が記載されている。 「山留め式擁壁構造の構築は,回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法によって,所定間隔をおいて一列に鋼管杭を埋設し,次に,前記擁壁構造の背面側における鋼管杭相互の各間隙部分に,鋼管杭よりも小径で,かつ前記間隙部分よりも大径に設定された継手部鋼管を,圧入工法,回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法のいずれの工法で鋼管杭相互の間隙を塞ぐ状態でそれぞれ埋設配置した透水性鋼管山留め式擁壁構造。」(以下,「甲2発明」という。) (3)甲第3号証:実願平3-72858号(実開平4-134544号) のマイクロフィルム (3a)「【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 鋼管杭圧入引抜機の前方に昇降自在に取り付けられたチャックヘッドと,このチャックヘッド内に配置され鋼管杭外周を押圧挟持する挟持板と,この挟持板を鋼管杭方向に進退移動させるシリンダとを備えたチャック装置において,前記挟持板の下端部を延設すると共に,この延設部が鋼管杭の上端部に内接または外接可能となっていることを特徴とする鋼管杭圧入引抜機のチャック装置。」 (3b)「【0003】 ・・・図9に示すようにチャック装置10内にヤットコYを挿入し,このヤットコYを挟持板13で挟持して再度圧入を行い杭列の高さを整えるようにしている。」 (3c)「【0004】 【考案が解決しようとする課題】 従来装置では,ヤットコを使用するため作業が煩雑となっていた。また,ヤットコは重量が大きく,その装着および撤去のいずれにおいても,クレーン等で吊り下げおよび吊り上げる必要があるため,ヤットコの装着,撤去に多大の労力と時間を費やしていた。本考案は上記事情を考慮してなされたものであり,面倒な作業の原因となるヤットコの使用を不要として作業の能率向上を図ることが可能な鋼管杭圧入引抜機のチャック装置を提供することを目的とする。」 (3d)「【0007】 【実施例】 図1ないし図3は本考案の第1実施例を示し,従来技術と同一の要素は同一の符号を付してある。本実施例のチャック装置20は,昇降機構5に固定され筒状に成形されたチャックヘッド21と,このチャックヘッド21の下部内側に設けた流体圧シリンダ22と,この流体圧シリンダ22の先端部に取り付けた挟持板23からなる。流体圧シリンダ22と挟持板23はチャックヘッド21の円周方向に対し等間隔で8基設けられており,流体圧シリンダ22が作動して挟持板23が進出して鋼管杭を周囲から押圧し鋼管杭の挟持を行う。一方,挟持板23が退縮すると鋼管杭は挟持から解放される。この場合,挟持される鋼管杭の外形に合わせて,各挟持板23は円弧状に湾曲した形状となっている。この挟持板23の下端部は,チャックヘッド21よりも所定の長さ突出して延設部24を形成している。こ延設部24の長さは新たな鋼管杭Pnの圧入時にチャックヘッド21が鋼管杭P3と干渉せず,しかも新たな鋼管杭Pnが既設の鋼管杭P1,P2,P3と同一高さとなるまで圧入できる範囲となるように設定される。また,この延設部24の上部の外周面には段部25が形成されている。この段部25は後述するように,新たな鋼管杭Pnの圧入時に鋼管杭Pnの上端面が当接し,挟持板23の滑りを防止する。」 (3e)「【0008】 ・・・その後,挟持板23の延設部24が鋼管杭Pnの内方に位置するように流体圧シリンダ22を作動し,さらに昇降機構5を作動させチャックヘッド20を下降させる。これにより挟持板23の延設部24が鋼管杭Pn内に挿入される。この後,流体圧シリンダ22を退縮させ挟持板23を外方向に移動させ延設部24で鋼管杭Pnを内側から押圧挟持する。・・・」 したがって,記載事項(3a)?(3e)からみて,甲第3号証には以下の発明が記載されている。 「挟持板の下端部を延設すると共に,延設部の長さは新たな鋼管杭の圧入時にチャックヘッドが鋼管杭と干渉せず,しかも新たな鋼管杭が既設の鋼管杭と同一高さとなるまで圧入できる範囲となるように設定され,この延設部が鋼管杭の上端部に内接または外接可能となっており,流体圧シリンダを退縮させ挟持板を外方向に移動させ延設部で鋼管杭を内側から押圧挟持する鋼管杭圧入引抜機のチャック装置。」(以下,「甲3発明」という。) 2 無効理由(1)についての判断 2-1 本件発明1と甲1発明との対比・判断 本件発明1と甲1発明を比較すると, 甲1発明の「マストに対して垂直方向に摺動自在」は,本件発明1の「昇降自在」に相当し, 以下同様に, 「鋼管杭圧入引抜機」は,「杭圧入機」に, 「鋼管杭とほぼ等しい径のホルダ」は,「筒状本体部」に, 「挿通できる」は,「貫通可能」に, 「副チャック装置」は鋼管杭以外の杭を挟持できるので,「把持部」に, それぞれ相当する。 次に,「チャック装置用アタッチメント」と「閉塞部材アタッチメント」は「アタッチメント」である点で,それぞれ共通する。 また,甲1発明の「鋼管杭以外の杭」と,本件発明1の「閉塞部材」とは,両者共に杭圧入機で圧入される部材であるので,「被圧入部材」である点で共通する。 したがって,本件発明1と甲1発明は, [一致点1] 「昇降自在なチャック装置で,杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて圧入するための被圧入部材アタッチメントであって, 前記チャック装置で把持することが可能で,前記被圧入部材を上下に貫通可能な筒状本体部と, 前記筒状本体部内を貫通する被圧入部材を把持する把持部と, を備えた被圧入部材アタッチメント。」で一致し,以下の点で相違している。 [相違点1] 「被圧入部材」が,本件発明1では「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する」「閉塞部材」であるのに対して,甲1発明は「鋼管杭以外の杭」である点。 [相違点2] アタッチメントを使用するのは,本件発明1では「杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際」であるのに対して,甲1発明では「U形鋼矢板やH形鋼など鋼管杭以外の杭を地中圧入する」時である点。 上記,相違点1及び2について検討する。 [相違点1について] 「第2 当事者の主張 2 被請求人の主張 (2)」において,被請求人も認めるように,甲2には,本件発明1の[相違点1]における,「複数の杭を連続的に圧入した際に,隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材」の技術事項の記載があるということができる。 しかしながら,本件発明1は,閉塞部材アタッチメントを使用することにより,隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を圧入することができるようにした点に技術的特徴を有するものであり,甲1発明及び甲2発明にはそのような特徴的な技術の開示ないし示唆はない。したがって,甲1発明に甲2記載を組み合わせたとしても本件発明1を容易に想到し得たということができない。 また,甲1発明は,記載事項(1e)にあるように各種の鋼杭を連続して圧入するものであって,隣り合う杭の間隔を空けて杭を圧入することについての技術思想はない。ここで,請求人は「甲2,甲1は,杭圧入機で圧入する鋼管杭以外の形状をした『杭』を圧入する点において技術分野及び課題を共通にするものであって,両者の技術分野及び課題の共通性は,甲2と甲1を組み合わせる動機付けとして働き得る。」と主張する(第2 当事者の主張 1 請求人の主張 (5)参照)。しかしながら,甲2及び甲1に,技術分野及び課題の共通性があったとしても,甲1発明には,隣り合う杭の間隔を空けて杭を圧入することについての技術思想がない以上,間隔を空けて杭を圧入し,土留めや止水のために杭間に閉塞部材を圧入しようとする積極的な動機付けがないというべきである。よって,甲2発明を甲1発明に適用することについての動機付けは存在しないというべきである。 なお,請求人は「第2 当事者の主張 1 請求人の主張 (4)」で,「閉塞部材とは,『隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する』目的で圧入される『杭』を,本件各発明では『閉塞部材」と称しており,『閉塞部材」という『杭』と異なる特別の部材が存在するのではない。『杭』>『閉塞部材』の関係にあり,本件各発明でいう『閉塞部材」とは,『隣り合う圧入された杭同士の聞を閉塞する』という目的・作用を有する『杭』に他ならない。」と主張している。しかしながら,用いられる部材の使用場所,目的,作用及び機能等によって,同一の部材であっても「杭」と称されることもあれば「閉塞部材」と称されることもあり,必ずしも「杭」>「閉塞部材」の関係にあるとはいえず,また,「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する」という発明特定事項を考慮しない請求人のこの主張は認められない。 さらに,「第2 当事者の主張 1 請求人の主張 (5)」で,「甲1に開示された鋼管杭以外の杭としてのH形鋼を圧入するための副チャック装置を使用して,甲2に開示された継手部鋼材としての山形鋼を圧入可能か否かのシミュレーションを行った。甲1に開示された副チャック装置及び甲2に開示された継手部鋼材は,ともに公知技術であり,前記したように甲1に開示された副チャック装置を使用して,甲2に開示された継手部鋼材としての山形鋼を圧入することが可能である。」と主張しているが,甲1の副チャック装置の具体的な構造がわからず,例えば,継手部鋼材を圧入するためには副チャック装置は基台に対して左右に移動可能であることが必要であるが,そのような構成は甲1には記載されていない。よって,甲1の副チャック装置及び甲2の継手部鋼材が,ともに公知技術であったとしても,甲1に開示された副チャック装置を使用して,甲2に開示された継手部鋼材としての山形鋼を圧入することが可能であるとまではいえないので,請求人のこの主張は認められない。 以上のとおりであるから,甲1発明に甲2発明を組み合わせて,本件発明1の相違点1に係る構成とすることが,当業者が容易になし得たということはできない。 [相違点2について] 請求人は上記「第2当事者の主張 1 請求人の主張 (1)(1)-1」で,「[一致点1] 昇降自在なチャック装置で,杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際に,」と認定するとともに,「第2当事者の主張 1 請求人の主張 (6)」では,「本件発明1は『閉塞部材アタッチメント』に関する発明であり,『杭列が構築された後』か『杭列を構築するとき』であるかという,時系列における施工の順序を発明特定要件とするものではない。本件発明1は,閉塞部材を,杭との位置関係において『隣り合う杭同士の間を閉塞する閉塞部材』として特定しているに過ぎない。」と主張し,相違点2を相違点として認めていない。 しかしながら,本件発明1の発明特定事項として「杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際」という事項がある以上,甲1発明との相違点として認定し,容易想到性について検討・判断すべきものである。 そして,相違点2については,甲2発明にも記載されていないし示唆もないから,本件発明1の相違点2に係る構成とすることが,当業者が容易になし得たということはできない。 したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 そして,本件発明1は,杭を圧入した圧入機に閉塞部材アタッチメントを取り付けることで,杭圧入機の杭を圧入するための機構を使って閉塞部材を圧入可能となり,これにより,一台の杭圧入機で杭の圧入と閉塞部材圧入が可能となり,コストの低減を図ることができるという甲1発明及び甲2発明にはない本件発明特有の効果を奏するものである。 また,本件発明1を引用する本件発明3は,同様の理由で,甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たということができない。 2-2 本件発明1と甲2発明との対比・判断 次に,本件発明1と甲2発明を比較すると, 甲2発明は圧入工法で杭を圧入しているから,明示されていないものの,技術常識として,本件発明1と同様に「杭圧入機を用いて」杭を圧入しているものと認められる。 そして,甲2発明の「所定間隔をおいて一列に鋼管杭を埋設し」は,本件発明1の「複数の杭を連続的に圧入した際」に相当する。 また,甲2発明の「擁壁構造の背面側における鋼管杭相互の各間隙部分に,鋼管杭よりも小径で,かつ前記間隙部分よりも大径に設定された継手部鋼管を,圧入工法で鋼管杭相互の間隙を塞ぐ状態でそれぞれ埋設配置した」と本件発明1の「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を前記杭圧入機のチャック装置を用いて圧入する」とは,「隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を杭圧入機を用いて圧入する」点で共通する。 したがって,本件発明1と甲2発明は, [一致点2] 「杭を把持して下降させることにより杭を圧入する杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際に,隣り合う圧入された杭同士の間を閉塞する閉塞部材を杭圧入機を用いて圧入する」点で一致し,以下の点で相違している。 [相違点3] 杭圧入機を用いて複数の杭を連続的に圧入した際に, 本件発明1では閉塞部材を「前記杭圧入機」を用いて圧入する,即ち,杭を圧入した杭圧入機を用いて閉塞部材を圧入するのに対し,甲2発明では閉塞部材を同じ杭圧入機を用いて圧入するのか不明である点。 [相違点4] 閉塞部材の圧入に際して, 本件発明1では「チャック装置で把持することが可能で,閉塞部材を上下に貫通可能な筒状本体部と,筒状本体部内を貫通する閉塞部材を把持する把持部とを備えた」「閉塞部材アタッチメント」を使用するのに対して,甲2発明では圧入手段が明示されていない点。 上記,相違点3及び4について検討する。 [相違点3について] 甲2には、記載事項(2b)に「鋼管山留め式擁壁構造1の構築では,まず回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法によって,所定間隔をおいて鋼管杭2を一列に埋設配置する。」及び「また継手部鋼管3の施工は,圧入工法,回転圧入工法,中掘り圧入工法または中掘り併用回転圧入工法のいずれの工法によってもよい。」と記載されているように、回転圧入工法によって鋼管杭や継手部鋼管や継手部鋼材を圧入する技術については開示されているが、どのような装置を用いて鋼管杭や継手部鋼管等を圧入しているのかについての具体的記載はない。さらに、杭を圧入したのと同じ杭圧入機を用いて継手部鋼管等を圧入するといった技術事項が甲2に記載されているとはいえず,また,当業者が容易に想到し得るともいえない。 次に,甲1発明には「アタッチメントを交換するだけで,鋼管杭圧入引抜機によってU形鋼矢板やH形鋼など鋼管杭以外の杭を地中圧入することができ」る点が記載されているが,アタッチメントで閉塞部材を把持して圧入する技術事項については記載されていない。よって,杭を圧入したのと同じ杭圧入機を用いて甲2発明の継手部鋼管を圧入するといった技術事項が甲1に記載されているとはいえず,また,当業者が容易に想到し得るともいえない。 [相違点4について] 甲2には、上記[相違点3について]に記載したように,どのような装置を用いて鋼管杭や継手部鋼管等を圧入しているのかについての具体的記載はなく,さらに「閉塞部材アタッチメント」を使用する記載もない。 次に,甲1発明には「アタッチメントを交換するだけで,鋼管杭圧入引抜機によってU形鋼矢板やH形鋼など鋼管杭以外の杭を地中圧入することができ」る点が記載されているが,このアタッチメントは鋼管杭以外の形状の異なる杭を圧入するために用いるものであって,閉塞部材を把持して圧入するためのアタッチメントとはいえないものである。よって,「閉塞部材アタッチメント」を用いて甲2発明の継手部鋼管を圧入するといった技術事項が甲1に記載されているとはいえず,また,当業者が容易に想到し得るともいえない。 したがって,本件発明1は,甲2発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 そして,本件発明1は,杭を圧入した圧入機に閉塞部材アタッチメントを取り付けることで,杭圧入機の杭を圧入するための機構を使って閉塞部材を圧入可能となり,これにより,一台の杭圧入機で杭の圧入と閉塞部材圧入が可能となり,コストの低減を図ることができるという甲2発明及び甲1発明にはない本件発明特有の効果を奏するものである。 また,本件発明1を引用する本件発明3は,同様の理由で,甲2発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 3 無効理由(2)についての判断 上記「第4 2 無効理由(1)についての判断」で検討したとおり,本件発明1が甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから,本件発明1を引用する本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3も,同じ理由により,甲1発明及び甲2発明から当業者が容易に発明することができたものではない。 また,本件発明1が甲2発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもないから,本件発明1を引用する本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3も,同じ理由により,甲2発明及び甲1発明から当業者が容易に容易に想到し得たということができない。 一方,請求人は,無効理由(2)では「本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3は,甲1,甲2及び甲3に記載された発明に基づいて,いわゆる当業者が容易に発明できたものである。」と主張しているので,この主張についても検討する。 本件発明2と甲1発明を対比すると,「2 無効理由(1)についての判断 2-1」における一致点相違点の他に,以下の相違点が認められる。 [相違点5] 把持部の構成が,本件発明2では「把持部の少なくとも一部が前記筒状本体部の下端より下方に露出して形成され,前記把持部が径を拡縮自在とされ,前記把持部内に閉塞部材を貫通させた状態で縮径することにより閉塞部材を把持し,把持部の少なくとも一部を筒状杭端部内に挿入した状態で拡径することにより筒状杭を把持する」のに対し,甲1発明にはそのような構成は認められない点。 また,本件発明2と甲2発明を対比しても,「2 無効理由(1)についての判断 2-2」における一致点相違点の他に,上記相違点5と同じ相違点が認められる。 上記相違点5について検討すると,甲3発明には閉塞部材を把持するという技術思想はなく,むしろ【0003】の記載によれば,鋼管杭の継手同士を互いに嵌合させながら杭列を形成するのであるから,閉塞部材を不要とするものである。よって,閉塞部材を把持することを含む相違点5の構成とすることは,甲1発明,甲2発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 したがって,本件発明2は,甲1?3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 そして,本件発明2も,杭を圧入した圧入機に閉塞部材アタッチメントを取り付けることで,杭圧入機の杭を圧入するための機構を使って閉塞部材を圧入可能となり,これにより,一台の杭圧入機で杭の圧入と閉塞部材圧入が可能となり,コストの低減を図ることができるという甲1?3発明にはない本件発明特有の効果を奏するものである。 また,本件発明2を引用する本件発明3は,同様の理由で,甲1?3発明に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に容易に想到し得たということができない。 第6 むすび 以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明1ないし3に係る特許を,無効とすることはできない。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-06-11 |
結審通知日 | 2013-06-13 |
審決日 | 2013-06-25 |
出願番号 | 特願2004-356875(P2004-356875) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(E02D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 砂川 充 |
特許庁審判長 |
高橋 三成 |
特許庁審判官 |
中川 真一 筑波 茂樹 |
登録日 | 2009-12-25 |
登録番号 | 特許第4431028号(P4431028) |
発明の名称 | 閉塞部材アタッチメント及び閉塞部材の圧入方法 |
復代理人 | 中 大介 |
代理人 | 荒船 博司 |
復代理人 | 赤澤 高 |
代理人 | 田中 幹人 |
代理人 | 荒船 良男 |