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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1277628
審判番号 不服2011-23478  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-01 
確定日 2013-08-08 
事件の表示 特願2009-160971「文書処理装置およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日出願公開、特開2011- 18122〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年7月7日の出願であって、平成23年4月12日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月3日付けで手続補正がなされたが、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成24年9月24日付けで前置報告書を利用した審尋がなされたのに対し、同年11月21日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成23年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年11月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
平成23年11月1日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、
「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなる、翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得し、前記原文レイアウトデータを、翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換えるとともに、当該記述部分を規定する前記構造化要素の属性としてそれぞれの前記翻訳単位を一意に識別するための識別子を付与することによって識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段と、
前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、翻訳者による前記翻訳処理において処理対象とされるデータであって前記原文印刷物の文章を前記翻訳単位ごとに記述するとともにそれぞれの前記翻訳単位に対応する前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成する翻訳用データ作成手段と、
前記翻訳用データに基づいて翻訳者により作成された、前記翻訳単位ごとの翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し、前記識別子付きレイアウトデータに記述されている原文のテキスト文字列を、前記翻訳単位ごとに、前記翻訳文データにおいて当該翻訳単位と同じ識別子が付与された翻訳文のテキスト文字列に置換することによって翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段と、
を備えることを特徴とする文書処理装置。」(平成23年6月3日付け手続補正書により補正されたもの)
から、
「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなり、少なくとも文章を含みさらに線画もしくは画像の少なくとも一方を含み得る翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得し、前記原文レイアウトデータを、前記構造化要素を用いることにより、翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換えるとともに、当該記述部分を規定する前記構造化要素の属性としてそれぞれの前記翻訳単位を一意に識別するための識別子を付与することによって、前記構造化要素を用いて記述されたレイアウトデータである識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段と、
前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、翻訳者による前記翻訳処理において処理対象とされるデータであって前記原文印刷物の文章を前記翻訳単位ごとに記述するとともにそれぞれの前記翻訳単位に対応する前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成する翻訳用データ作成手段と、
前記翻訳用データに基づいて翻訳者により作成された、前記翻訳単位ごとの翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し、前記識別子付きレイアウトデータに記述されている原文のテキスト文字列を、前記翻訳単位ごとに、前記翻訳文データにおいて当該翻訳単位と同じ識別子が付与された翻訳文のテキスト文字列に置換することによって翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段と、
を備えることを特徴とする文書処理装置。」
に補正することを含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1における「翻訳対象文書」を「少なくとも文章を含みさらに線画もしくは画像の少なくとも一方を含み得る翻訳対象文書」に限定し、「翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換える」を「前記構造化要素を用いることにより、翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換える」に限定し、「識別子付きレイアウトデータ」を「前記構造化要素を用いて記述されたレイアウトデータである識別子付きレイアウトデータ」に限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例:特開平8-83280号公報
(2-1)本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-83280号公報(以下「引用例」という。)には、図1?13とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審において付与したものである。以下、同様。)

a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、文章を形成するテキストデータと形式情報からなる非テキストデータの混在する文書の編集や翻訳などの文書データ処理を行う文書処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】最近は、DTP(Desk Top Publishing)機能を持った文書処理装置により、テキストデータ(言語データ)からなる文書データ以外に図や表を含む文書データが多く作成されるようになっている。また、TeXのように文書中に、書体やフォントのサイズ等の組版の指定情報を表すマークアップ記号が埋め込まれた文書データも増大している。そして、これらの文書データを他の言語データに翻訳するという技術に対する需要も増えてきている。
【0003】しかし、従来の機械翻訳機能を備えた文書処理装置では、入力される文書データのうちテキストデータ(言語データ)しか処理することができない。そのため、例えば、図や表を含んだDTP文書を翻訳しようとする場合、利用者が、一旦、図、表、レイアウト情報などの非テキストデータ(非言語データ)を原文書から取り除き、テキストデータのみを翻訳した後で、非テキストデータを結合するという操作が必要となる。これは利用者には大きな負担であり、また、翻訳作業も非常に効率が悪い。
【0004】そこで、原文書から言語データだけを抽出して翻訳処理を行い、原文書の言語データと翻訳処理された言語データとを置き換えることにより、非言語データが含まれた文書の文書処理を行うことができるようにした文書処理システムが提案されている(特開平4-259057号公報、参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平4-259057号公報の文書処理システムでは、処理された言語データが元の文書内のどこの箇所にあったかという情報がないために、元の文書内の言語データと処理された言語データとを置き換えるための対応箇所決定手段が必要である。また、この対応箇所決定手段の方法として、例えば、文同士が一致する文、同一のキーワードが含まれる文、パラグラフの先頭の文同士は対応する文、対応がとれた文から同一距離にある文、などは元の文と対応することからその状態を検索して対応箇所を決定しているため、文書処理システムが複雑になるという問題がある。また、対応箇所決定手段が、常に正しい対応箇所を決定するとは限らないために、非効率であるとともに信頼性に欠けるという問題点がある。
【0006】本発明は以上の事情を考慮してなされたもので、テキストデータと非テキストデータが混在する文書データで構成される文書データのレイアウトからテキストデータのみを正確に抽出して信頼性の高い翻訳処理をすることができる文書処理装置を提供するものである。」

b.「【0014】
【実施例】以下、図面に示す実施例に基づいて本発明を詳述する。なお、これによって本発明は限定されるものでない。本発明は、主として、コンピュータ、DTP(Desk Top Publishing)などに搭載された機械翻訳装置に適用されて好適であり、各構成要素は本発明の翻訳処理機能を達成する以外に、文書データの編集処理機能を有する。
【0015】図1は本発明の文書処理装置の一実施例を示すブロック図である。図1において、1は制御部であり、判別手段、データ格納手段、データ処理手段として装置全体の制御を行うCPU(Central Processing Unit)2と、このCPU2の動作時のデータを記憶するRAM(Random Access Memory)からなるメインメモリ3から構成されてる。また、メインメモリ3はテキストデータ、編集されたテキストデータ及び翻訳されたテキストデータを記憶するテキストデータ記憶部、非テキストデータ及びテキストID番号(テキストデータ識別番号)等を記憶する非テキストデータ記憶部で構成されている。
【0016】また、4は翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュールであり、5は翻訳モジュール4が入力された原文を翻訳する際に使用する翻訳用の辞書、文法規則等を格納しているROM(Read Only Memory)からなる辞書メモリでる。また、制御部1には、翻訳モジュール4、辞書メモリ5が接続されている。
【0017】6はテキストデータ抽出部であり、このテキストデータ抽出部6により、外部記憶装置10に記憶されているテキストデータと非テキストデータとが混在する原文ファイルからテキストデータを抽出してメインメモリ3のテキストデータ記憶部に記憶させると同時にテキストデータが抽出された場所にはテキストID番号を生成して非テキストデータとともにメインメモリ3の非テキストデータ記憶部に記憶させる。7は編集部であり、この編集部7により、テキストデータ抽出部6によって抽出されたテキストデータを編集する。」

c.「【0018】8はテキストデータ置換部であり、このテキストデータ置換部8により、テキストデータ抽出部6によってメインメモリ3の非テキストデータ部に記憶されたテキストIDと、同じくテキストデータ抽出部6によって抽出されたテキストデータが翻訳モジュール4による翻訳処理を行った結果得られた第2言語からなるテキストデータとを置き換える。9は入力原文の文字入力、文書編集、翻訳に対する指示等の入力のためのキーボード、OCR等で構成される入力装置である。10は入力装置9から入力された原文のファイル(原文ファイル)や翻訳文のファイルを格納するためのFD(フロピィーディスク)装置、HD(ハードディスク)装置で構成される外部記憶装置である。11はCRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal Disply)等の表示装置である。
【0019】上記翻訳モジュール4は、翻訳される原文に使用されている第1言語であるソース言語が入力されると、それを翻訳して翻訳文に使用されている第2言語であるターゲット言語を出力するものである。すなわち、CPU2の制御により、外部記憶装置10に格納された複数の原文ファイルのうち、あらかじめ指定された1つの原文ファイルが外部記憶装置10からメインメモリ3に転送され、その原文ファイルの中の1文のソース言語が翻訳モジュール4に送られる。翻訳モジュール4は、辞書メモリ5に記憶されている辞書、文法規則を用いて、入力されたソース言語をターゲット言語に翻訳する。翻訳された文は、メインメモリ3に一旦記憶されると共に、表示装置11の画面に表示されるようになっている。」

d.「【0020】図2は本発明を機械翻訳装置1に適用した機能構成を示すブロック図である。図2において、201はキーボード、OCRからなる入力手段(入力装置)であり、入力原文の文字入力、文書編集、翻訳に対する指示等の入力をする。202はテキストデータ記憶部、非テキストデータ記憶部からなる記憶手段(メインメモリ)であり、テキストデータ記憶部には、テキストデータ、編集されたテキストデータ及び翻訳されたテキストデータが記憶され、非テキストデータ部には、非テキストデータ及びテキストID番号が記憶される。
【0021】203はテキストデータ判別部、テキストデータ抽出部、テキストID生成部、データ格納部からなるテキストデータ抽出手段(テキストデータ抽出部)であり、第1言語からなるテキストデータと非テキストデータとが混在する文書からテキストデータか非テキストデータかを判別し、テキストデータを抽出する。テキストデータ抽出後の対応箇所にテキストID番号を付加し元の文書レイアウトに対応して非テキストデータを非テキストデータ記憶部に記憶させるとともに抽出したテキストデータをテキストID番号と対応させてテキストデータ記憶部に記憶させる。
【0022】204は削除処理部、連結処理部、分割処理部、挿入処理部からなる編集手段(編集部)であり、抽出されたテキストに対して前記の各処理部で削除、連結、分割、挿入等の編集処理を実行する。205は一文切り出し部、翻訳実行部からなる翻訳手段(翻訳部)であり、編集されたテキストに対して翻訳処理を実行する。206はテキストデータ判別部、テキストデータ検索部、データ格納部からなるテキストデータ置換手段(テキストデータ置換部)であり、非テキストデータ記憶部に記憶されたテキストID番号による文書レイアウトに基づいて第1言語からなるテキストデータを翻訳処理の結果得られた第2言語からなるテキストデータに置き換える。207は表示装置、あるいはプリンタからなる出力手段であり、テキストデータ、非テキストデータ等を表示出力あるいはプリント出力する。」

e.「【0023】図3は本発明の機械翻訳装置1におけるデータ処理の概略を示すフローチャートである。次に、図3を参照して、テキストデータと非テキストデータとが混在する文書を翻訳するための処理手順を説明する。
ステップ301:まず、翻訳対象となる、テキストデータと非テキストデータとが混在している原文書を読み込み、メインメモリ3に格納する。
ステップ302:入力された原文書からテキストデータを抽出する処理が行われる。この結果、翻訳処理の対象となるテキストデータ308と非テキストデータ307が得られる。
【0024】このとき、テキストデータ抽出後の対応箇所にテキストID番号を付加し元の文書レイアウトに対応して非テキストデータを非テキストデータ記憶部に記憶させるとともに抽出したテキストデータをテキストID番号と対応させてテキストデータ記憶部に記憶させる。
ステップ303:必要に応じて、ステップ302で抽出されたテキストデータに対して編集部7により編集処理が行われる。
ステップ304:編集が行われたテキストデータ309を受け取り、翻訳モジュール4(図1、参照)によって翻訳処理が行われる。翻訳処理の結果、翻訳文すなわち第2言語のテキストデータ310が得られる。
【0025】ステップ305:ステップ302で得られた非テキストデータ307とともにテキストID番号を記憶していた箇所に、ステップ304で得られた第2言語のテキストデータ310を置換する処理が行われる。
ステップ306:以上のようにして得られた、原文書の第1言語からなるテキストデータを第2言語からなるテキストデータに置き換えた結果文書を出力する処理が行われる。
【0026】図4は図3のステップ302に対応するテキストデータ抽出処理の詳細を示すフローチャートである。また、図5は本発明の機械翻訳装置1で翻訳される入力文書の1ページのレイアウトを示す説明図である。図5に示すように、この文書のレイアウトでは、例えば、ブロック1?2とブロック4?5にはテキストデータである文書データから構成され、ブロック3には非テキストデータである図形データが存在している。また、図6は図5の入力文書を文書データとして記憶する場合の記憶例を示す説明図である。表示装置11には図5に示すような文書が表示されるが、メインメモリ3には図6に示すような形式のデータとして記憶される。また、図7は図6の文書データに対してテキストデータ抽出処理を行った後の非テキストデータを示す説明図である。また、図8は図6の文書データに対してテキストデータ抽出処理を行った後のテキストデータを示す説明図である。」

f.「【0028】ステップ404:CPU2において、データポインタが指しているデータがテキストデータであるか非テキストデータあるかを判別する。図6に示す例では、テキスト/非テキストを示すフラグによりテキストデータか非テキストデータかを判別することができる。ここで、テキストデータか非テキストデータかの判別は原文書の形式によって異なる。例えば、TeX文書では、「/」で始まるものは非テキストデータであり、RTF(Rich Text Format:文書データ交換のためのフォーマット)形式の文書も同様である。また、frame-makerで作成された文書では「<string」で始まるものがテキストデータである。」

g.「【0033】図9は図8のテキストデータに対して編集処理を行った後のテキストデータを示す説明図である。すなわち、ステップ302で抽出されたテキストデータをステップ303の編集処理で削除、連結、分割等の編集作業が行われた後のテキストデータを示している。図10は図9のテキストデータに対して翻訳処理の中の一文切り出し処理を行った後のテキストデータを示す説明図である。すなわち、ステップ304の翻訳処理の中の一文切り出し処理が終了した時点でのテキストデータを示している。図11は図10のテキストデータに対して翻訳処理を行った結果得られた第2言語のテキストデータを示す説明図である。すなわち、ステップ304の翻訳処理によって得られた第2言語のテキストデータを示している。」

h.「【0038】図13は本発明の機械翻訳装置1により得られた出力文書を示す説明図である。
ステップ1208:次に、非テキストデータポインタを+1する。
ステップ1209:非テキストデータポインタが指す場所にデータがあるかどうか判断する。データがある場合は、ステップ1204に戻る。このようにして、非テキストデータファイルのブロック2、ブロック3、…と上記の処理を繰り返し、データが無くなれば処理を終了する。
【0039】これにより、記憶しておいた非テキストデータファイル307のテキストID番号が翻訳処理ステップ304の結果出力された第2言語からなるテキストデータ310と置き換えられる。このようにして、図7の非テキストデータと図11のテキストデータから、図6に示す文書データの「内容」が第2言語のテキストデータに変換されたものが得られる(図13参照)。
【0040】従って、本発明によれば、原文書データのテキストデータと翻訳処理されたテキストデータとの置き換えを、テキストID番号を非テキストデータファイルに記憶しておき、後でテキストID番号を第2言語のテキストデータに置き換えるという方法で実現する。また、翻訳されたテキストデータが原文書データ内のどこにあったかという対応を求めるための特別な手段を用意する必要がないので、単純な構成で実現できる。また、対応を求める処理を行う必要がないので翻訳処理時間も短くなる。さらに、テキストデータとテキストID番号が1対1に対応しているので対応を間違うことがなく、原文書データのテキストデータを翻訳処理されたテキストデータに正確に置き換えることができる。従って、翻訳処理における作業の効率を図ることができる。」

(2-2)ここにおいて、0015段落の「図1は本発明の文書処理装置の一実施例を示すブロック図である。図1において、1は制御部であり、判別手段、データ格納手段、データ処理手段として装置全体の制御を行うCPU(Central Processing Unit)2と、このCPU2の動作時のデータを記憶するRAM(Random Access Memory)からなるメインメモリ3から構成されてる。また、メインメモリ3はテキストデータ、編集されたテキストデータ及び翻訳されたテキストデータを記憶するテキストデータ記憶部、非テキストデータ及びテキストID番号(テキストデータ識別番号)等を記憶する非テキストデータ記憶部で構成されている。」という記載、0016段落の「また、4は翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュールであり、5は翻訳モジュール4が入力された原文を翻訳する際に使用する翻訳用の辞書、文法規則等を格納しているROM(Read Only Memory)からなる辞書メモリでる。」という記載、0017段落の「6はテキストデータ抽出部であり、このテキストデータ抽出部6により、外部記憶装置10に記憶されているテキストデータと非テキストデータとが混在する原文ファイルからテキストデータを抽出してメインメモリ3のテキストデータ記憶部に記憶させると同時にテキストデータが抽出された場所にはテキストID番号を生成して非テキストデータとともにメインメモリ3の非テキストデータ記憶部に記憶させる。7は編集部であり、この編集部7により、テキストデータ抽出部6によって抽出されたテキストデータを編集する。」という記載、及び0018段落の「8はテキストデータ置換部であり、このテキストデータ置換部8により、テキストデータ抽出部6によってメインメモリ3の非テキストデータ部に記憶されたテキストIDと、同じくテキストデータ抽出部6によって抽出されたテキストデータが翻訳モジュール4による翻訳処理を行った結果得られた第2言語からなるテキストデータとを置き換える。」という記載から、図1には、「CPU2」及び「メインメモリ3」からなる「制御部1」と、「翻訳手段として機能するCPU」と、「翻訳プログラムを格納したROM」、「翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4」、及び「辞書メモリ5」からなる翻訳部と、「テキストデータ抽出部6」と、「編集部7」と、「テキストデータ置換部8」と、「外部記憶装置10」とを含む「文書処理装置」が記載されているものと認める。

(2-3)また、0017段落の「6はテキストデータ抽出部であり、このテキストデータ抽出部6により、外部記憶装置10に記憶されているテキストデータと非テキストデータとが混在する原文ファイルからテキストデータを抽出してメインメモリ3のテキストデータ記憶部に記憶させると同時にテキストデータが抽出された場所にはテキストID番号を生成して非テキストデータとともにメインメモリ3の非テキストデータ記憶部に記憶させる。」という記載、0021段落の「テキストデータ抽出後の対応箇所にテキストID番号を付加し元の文書レイアウトに対応して非テキストデータを非テキストデータ記憶部に記憶させるとともに抽出したテキストデータをテキストID番号と対応させてテキストデータ記憶部に記憶させる。」という記載、及び0026段落の「図5に示すように、この文書のレイアウトでは、例えば、ブロック1?2とブロック4?5にはテキストデータである文書データから構成され、ブロック3には非テキストデータである図形データが存在している。」という記載から、前記「テキストデータ抽出部6」は、「外部記憶装置10に記憶されているテキストデータと非テキストデータとが混在する原文ファイルからテキストデータを抽出し」、この「抽出」した「テキストデータ」を所定の「ブロック」に分割し、この分割した「ブロック」毎に「テキストID番号」を付して「メインメモリ3」の「テキストデータ記憶部」に「テキストID番号」付き「テキストデータ」として記憶させると同時に「テキストデータ」が抽出された「ブロック」には前記「テキストID番号」と同じ番号の「テキストID番号」を付して「非テキストデータとともにメインメモリ3の非テキストデータ記憶部に記憶させ」ていることは明らかである。
また、0028段落の「図6に示す例では、テキスト/非テキストを示すフラグによりテキストデータか非テキストデータかを判別することができる。ここで、テキストデータか非テキストデータかの判別は原文書の形式によって異なる。例えば、TeX文書では、「/」で始まるものは非テキストデータであり、RTF(Rich Text Format:文書データ交換のためのフォーマット)形式の文書も同様である。また、frame-makerで作成された文書では「<string」で始まるものがテキストデータである。」という記載から、「原文ファイル」における「テキストデータ」は、「TeX文書」で記述されていることは明らかであり、この「TeX」言語が、構造化データであることは、例えば、特開平9-311775号公報の0061段落の「音声合成部40のテキスト解析部42において、HTMLやSGML、TeXのような構造化タグの埋められた文書の構造解析を行なうことにより、文書中のテキストの構造が得ることができる。これは構造化のためのタグを検索することにより容易に構造が得られる。」という記載、及び特開平10-171808号公報の0046段落の「なお、上記した実施例では、文献としてTeX言語による構造化データを用いていたが、他の言語の構造化データでもよく、また、構造化データに限ったものではなく、例えば、通常のテキストデータ等といったものでもよい。」という記載からも明らかである。
また、0026段落の「図5は本発明の機械翻訳装置1で翻訳される入力文書の1ページのレイアウトを示す説明図である。図5に示すように、この文書のレイアウトでは、例えば、ブロック1?2とブロック4?5にはテキストデータである文書データから構成され、ブロック3には非テキストデータである図形データが存在している。」という記載から、「原文ファイル」における「非テキストデータ」が「図形データ」を指すことは明らかである。

(2-4)また、0024段落の「必要に応じて、ステップ302で抽出されたテキストデータに対して編集部7により編集処理が行われる。」という記載から、「編集部7」は、「テキストID番号」付き「テキストデータ」を「編集」して、「編集」した「テキストID番号」付き「テキストデータ」を生成していることは明らかである。

(2-5)また、0019段落の「上記翻訳モジュール4は、翻訳される原文に使用されている第1言語であるソース言語が入力されると、それを翻訳して翻訳文に使用されている第2言語であるターゲット言語を出力するものである。すなわち、CPU2の制御により、外部記憶装置10に格納された複数の原文ファイルのうち、あらかじめ指定された1つの原文ファイルが外部記憶装置10からメインメモリ3に転送され、その原文ファイルの中の1文のソース言語が翻訳モジュール4に送られる。翻訳モジュール4は、辞書メモリ5に記憶されている辞書、文法規則を用いて、入力されたソース言語をターゲット言語に翻訳する。翻訳された文は、メインメモリ3に一旦記憶されると共に、表示装置11の画面に表示されるようになっている。」という記載、及び0022段落の「205は一文切り出し部、翻訳実行部からなる翻訳手段(翻訳部)であり、編集されたテキストに対して翻訳処理を実行する。」という記載から、前記「翻訳モジュール4及び辞書メモリ5」からなる「翻訳部」は「第1言語」の「編集」した「テキストID番号」付き「テキストデータ」に対して「第2言語」への翻訳処理を実行して、「第2言語」の「テキストデータ」に翻訳していることは明らかである。
また、引用例の図11の記載から、この「第2言語」の「テキストデータ」には、「第1言語」の「編集」した「テキストID番号」付き「テキストデータ」に付されていたものと同じ「テキストID番号」が付されていることは明らかである。

(2-6)また、0018段落の「8はテキストデータ置換部であり、このテキストデータ置換部8により、テキストデータ抽出部6によってメインメモリ3の非テキストデータ部に記憶されたテキストIDと、同じくテキストデータ抽出部6によって抽出されたテキストデータが翻訳モジュール4による翻訳処理を行った結果得られた第2言語からなるテキストデータとを置き換える。」という記載、及び0022段落の「206はテキストデータ判別部、テキストデータ検索部、データ格納部からなるテキストデータ置換手段(テキストデータ置換部)であり、非テキストデータ記憶部に記憶されたテキストID番号による文書レイアウトに基づいて第1言語からなるテキストデータを翻訳処理の結果得られた第2言語からなるテキストデータに置き換える。」という記載から、前記「テキストデータ置換部8」は、「非テキストデータ記憶部に記憶されたテキストID番号による文書レイアウトに基づいて」「第1言語」の「テキストデータ」を「第2言語」の「テキストデータ」に置き換えていることは明らかである。

(2-7)以上を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「CPU2及びメインメモリ3からなる制御部1と、翻訳手段として機能するCPUと、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部と、テキストデータ抽出部6と、編集部7と、テキストデータ置換部8と、外部記憶装置10とを含む文書処理装置において、
前記外部記憶装置10に記憶されているTeX文書形式の構造化要素を用いて構造化されたテキストデータと図形データからなる非テキストデータとが混在する原文ファイルからテキストデータを抽出し、この抽出したテキストデータを所定のブロックに分割し、この分割したブロック毎にテキストID番号を付してメインメモリ3のテキストデータ記憶部にテキストID番号付きテキストデータとして記憶させると同時に前記テキストID番号付きテキストデータが抽出されたブロックには前記テキストID番号と同じ番号のテキストID番号を付して図形データからなる非テキストデータとともにメインメモリ3の非テキストデータ記憶部に記憶させる前記テキストデータ抽出部6と、
前記テキストID番号付きテキストデータを編集して、編集したテキストID番号付きテキストデータを生成する前記編集部7と、
第1言語の前記編集したテキストID番号付きテキストデータに対して第2言語への翻訳処理を実行して、同じテキストID番号を付して第2言語のテキストデータに翻訳する前記翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部と、
前記非テキストデータ記憶部に記憶されたテキストID番号による文書レイアウトに基づいて前記第1言語のテキストID番号付きテキストデータを前記第2言語のテキストID番号付きテキストデータに置き換えるテキストデータ置換部8と、を備える文書処理装置。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.引用例の0018段落の「OCR等で構成される入力装置」との記載から、引用発明における「原文ファイル」の元となる「原文」は「印刷物」であることを含むものと解され、また、引用発明においては、「テキストデータ」を翻訳対象としていると解されるから、引用発明の「前記外部記憶装置10に記憶されているTeX文書形式の構造化要素を用いて構造化されたテキストデータと図形データからなる非テキストデータとが混在する原文ファイルからテキストデータを抽出」することと、本願補正発明の「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなり、少なくとも文章を含みさらに線画もしくは画像の少なくとも一方を含み得る翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得」することとは、「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなり、少なくとも文章を含み得る翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得」することである点で共通している。
また、引用発明の「テキストID番号」及び「テキストID番号付きテキストデータ」は、本願補正発明の「識別子」及び「識別子付きレイアウトデータ」にそれぞれ相当しているものと認めるから、引用発明の「前記外部記憶装置10に記憶されているTeX文書形式の構造化要素を用いて構造化されたテキストデータと図形データからなる非テキストデータとが混在する原文ファイルからTeX文書形式の構造化要素を用いて構造化されたテキストデータを抽出し、この抽出したTeX文書形式の構造化要素を用いて構造化されたテキストデータを所定のブロックに分割し、この分割したブロック毎にテキストID番号を付してメインメモリ3のテキストデータ記憶部にテキストID番号付き翻訳前データとして記憶させると同時に前記TeX文書形式の構造化要素を用いて構造化されたテキストデータが抽出されたブロックには前記テキストID番号を付して図形データからなる非テキストデータとともにメインメモリ3の非テキストデータ記憶部に記憶させる前記テキストデータ抽出部6」と、本願補正発明の「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなり、少なくとも文章を含みさらに線画もしくは画像の少なくとも一方を含み得る翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得し、前記原文レイアウトデータを、前記構造化要素を用いることにより、翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換えるとともに、当該記述部分を規定する前記構造化要素の属性としてそれぞれの前記翻訳単位を一意に識別するための識別子を付与することによって、前記構造化要素を用いて記述されたレイアウトデータである識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段」とは、「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなり、少なくとも文章を含み得る翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得し、前記原文レイアウトデータの所定のブロック毎に識別子を付与して、識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段」である点で共通している。

イ.引用発明の「編集したテキストID番号付きテキストデータ」は、翻訳対象の「テキストデータ」であるので、本願補正発明の「前記識別子を付与してなる翻訳用データ」に相当しているから、引用発明の「前記テキストID番号付きテキストデータを編集して編集したテキストID番号付きテキストデータを生成する前記編集部7」と、本願補正発明の「前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、翻訳者による前記翻訳処理において処理対象とされるデータであって前記原文印刷物の文章を前記翻訳単位ごとに記述するとともにそれぞれの前記翻訳単位に対応する前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成する翻訳用データ作成手段」とは、「前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成する翻訳用データ作成手段」である点で共通している。

ウ.引用発明の「第1言語の前記編集したテキストID番号付きテキストデータに対して第2言語への翻訳処理を実行して、同じテキストID番号を付して第2言語のテキストデータに翻訳する」ことと、本願補正発明の「前記翻訳用データに基づいて翻訳者により作成された、前記翻訳単位ごとの翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得」することは、「前記翻訳用データに基づいて作成された、翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し」ている点で共通しているから、引用発明の「第1言語の前記編集したテキストID番号付きテキストデータに対して第2言語への翻訳処理を実行して、同じテキストID番号を付して第2言語のテキストデータに翻訳する前記翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部と、前記非テキストデータ記憶部に記憶されたテキストID番号による文書レイアウトに基づいて前記第1言語のテキストID番号付きテキストデータを前記第2言語のテキストID番号付きテキストデータに置き換えるテキストデータ置換部8」と、本願補正発明の「前記翻訳用データに基づいて翻訳者により作成された、前記翻訳単位ごとの翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し、前記識別子付きレイアウトデータに記述されている原文のテキスト文字列を、前記翻訳単位ごとに、前記翻訳文データにおいて当該翻訳単位と同じ識別子が付与された翻訳文のテキスト文字列に置換することによって翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段」とは、「前記翻訳用データに基づいて作成された、翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し、前記識別子付きレイアウトデータに記述されている原文のテキスト文字列を、前記所定のブロックごとに、前記翻訳文データにおいて当該所定のブロックと同じ識別子が付与された翻訳文のテキスト文字列に置換することによって翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段」である点で共通している。

上記ア.?ウ.の事項を踏まえると、本願補正発明と引用発明とは、
「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなり、少なくとも文章を含み得る翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得し、前記原文レイアウトデータの所定のブロック毎に識別子を付与して、識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段と、
前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成する翻訳用データ作成手段と、
前記翻訳用データに基づいて作成された、翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し、前記識別子付きレイアウトデータに記述されている原文のテキスト文字列を、前記所定のブロックごとに、前記翻訳文データにおいて当該所定のブロックと同じ識別子が付与された翻訳文のテキスト文字列に置換することによって翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段と、
を備える文書処理装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明は、「翻訳者による翻訳処理」を行っているのに対して、引用発明は、「翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部」による所謂機械翻訳を行っている点。

(相違点2)
「識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段」で取り扱う「所定のブロック」が、本願補正発明は、「翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位」を指しているのに対して、引用発明においては、このように構成されていない点。

(相違点3)
「識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段」で作成した「識別子付きレイアウトデータ」が、本願補正発明は、「前記構造化要素を用いて記述され」ているのに対して、引用発明は、「テキストデータ」である点。

(相違点4)
「翻訳対象文書」が、本願補正発明は、「少なくとも文章を含みさらに線画もしくは画像の少なくとも一方を含み得る」ものであるのに対して、引用発明は、「テキストデータ」である点。

(相違点5)
「翻訳用データ作成手段」によって、本願補正発明は、「前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、翻訳者による前記翻訳処理において処理対象とされるデータであって前記原文印刷物の文章を前記翻訳単位ごとに記述するとともにそれぞれの前記翻訳単位に対応する前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成」しているのに対して、引用発明においては、このように構成されていない点。

(相違点6)
「翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段」が、本願補正発明は、「前記翻訳用データに基づいて翻訳者により作成された、前記翻訳単位ごとの翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し」ているのに対して、引用発明は、このように構成されていない点。

(4)判断
そこで、上記相違点1?6について検討する。

(相違点1及び2について)
相違点1及び2について纏めて検討すると、一般に、翻訳の手段として、「翻訳者」による翻訳を行うことは、引用発明のような機械翻訳と同様に、例えば下記の周知例1及び2に記載されているように従来周知の技術事項であり、また、「翻訳者」による翻訳を行う際に、翻訳元文書を所定の翻訳単位に分割することも、同下記の周知例1及び2に記載されているように従来周知の技術事項である。

a.周知例1:特開平4-506718号公報
「ビー・ハリスが記載した行間翻訳BITEXTの概念は原テキストを“翻訳単位”、すなわち一般的に翻訳者が常に相手言語へ同様に翻訳する独自語句へ分割することを伴う。これらの語句は個別単語の使用を説明するのに充分な文脈で個別の単語を含んでいる。相手テキストも同様に“翻訳単位”へ分割され、原言語の各翻訳単位に対して相手言語にも一つの翻訳単位があるようにされる。行間翻訳BITEXTのこの概念を使用して、翻訳者は従来のように自分自身の前の翻訳にざっと目を通すことができ、コンピュータ画面は相手言語の対応する翻訳単位と共に一時に一つ以上の原言語翻訳単位をディスプレイすることかできる。実際上、翻訳者はこのファシリティを使用して画面上に表示されたモデル例に従って、翻訳すべきテキストに現れる全体語句を直接相手言語へ変換することができる。」(3ページ左下欄3行?同18行)

b.周知例2:特開2003-150593号公報
「(57)【要約】
【課題】 翻訳元文書を翻訳単位情報に分割し、翻訳単位情報ごとの翻訳進捗状況を管理することで翻訳作業支援が可能な翻訳支援システムを提供すること。」
「【0034】次に、図6(b)を参照して翻訳単位情報について説明する。本実施の形態では、翻訳者13による翻訳作業は、元文書全体をまとめて翻訳するわけではなく、元文書の一部分を翻訳するという作業を繰り返し行うことで翻訳が進められるようになっている。さらに、ある1つの元文書に対して複数の翻訳者13が翻訳を行っている場合、元文書を複数の部分に分割することにより、並列に翻訳することができる。そこで、本実施の形態のデータベース部1200の翻訳単位情報204とは、、並列翻訳を可能としたり、効率良い分作業化を実現するために、翻訳元文書を複数の領域に分割することにより得られる各分割単位ごとの文書情報をいうものとする。」

上記a.,b.の記載から、周知例1,2には、
翻訳者による翻訳を行う際に、翻訳元文書を所定の翻訳単位に分割すること、が記載されている。

したがって、引用発明の「翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部」を翻訳者による翻訳に代えることは当業者が適宜なし得る程度のものであり、また、その際に、引用発明の「所定のブロック」の大きさを「構造化要素」を用いることにより、「翻訳者」による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位の大きさとして、本願補正発明のようにように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点1及び2は格別なものではない。

(相違点3について)
相違点3について検討すると、本願補正発明のように「識別子付きレイアウトデータ」を「構造化要素を用いて記述」することに格別の作用効果あるとは認められず、この点は、引用発明の「翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部」を「翻訳者」による翻訳処理に代える際に、当業者がその必要に応じて適宜なし得る程度のものと認める。
よって、相違点3は格別なものではない。

(相違点4について)
相違点4について検討すると、一般に、文章と図形情報や画像情報の混在したものを翻訳対象文書とすることは、例えば、下記の周知例3及び4に記載されているように従来周知の技術事項である。

c.周知例3:特開平6-162081号公報
「【0027】このように本第2実施例の機械翻訳装置においては、文字列と図形とが混在するデータの中から文字列データを抽出して翻訳し、この翻訳した文字列データと元の図形とを結合した際に、図形からの文字列データの溢れがあるか否かを判定し、文字列データの溢れがある場合はこれに対応する箇所にて図形領域の拡張を行うようにしたので、翻訳処理によって文字列データ量が多くなった場合でも従来装置のように図形から文字列データが溢れてしまうようなことはない。」

上記c.の記載から、周知例3には、
文章と図形情報や画像情報の混在したものを翻訳対象文書とすること、が記載されている。

d.周知例4:特開2006-252048号公報
「【0012】
翻訳処理103では、以上のようにして生成した文字領域内文字データに対して翻訳処理を行って文字領域内翻訳文データを生成するとともに、図表領域内文字データに対しても翻訳処理を行って図表領域内翻訳文データを生成し、揮発性メモリ6に格納する。ここで、文字領域内翻訳文データは、翻訳文を構成する個々の文字の種別を示す情報と、元の文字領域内文字データから引き継いだ書式情報を含んでいる。また、図表領域内翻訳文データは、翻訳文を構成する個々の文字の種別を示す情報と、元の図表領域内文字データから引き継いだ文字の位置およびサイズを示す情報を含んでいる。なお、入力画像中の文字列の言語および翻訳文の言語は、操作部5または通信インタフェース3を介して与えられるコマンドにより指定され、翻訳処理103ではこの指定に従って翻訳を行う。」

上記d.の記載から、周知例4には、
文章と図形情報や画像情報の混在した図表領域内文字データを翻訳対象文書とすること、が記載されている。

したがって、引用発明の「テキストデータと図形データからなる非テキストデータとが混在する原文ファイル」を翻訳対象文書として、本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点4は格別なものではない。

(相違点5について)
相違点5について検討すると、本願補正発明において「前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、翻訳者による前記翻訳処理において処理対象とされるデータであって前記原文印刷物の文章を前記翻訳単位ごとに記述するとともにそれぞれの前記翻訳単位に対応する前記識別子を付与してなる翻訳用データ」を作成する目的は、「前記構造化要素を用いて記述されたレイアウトデータである識別子付きレイアウトデータ」(本願の図6参照)から、本願の図7に記載されているようにテキスト文字だけを抜き出して「翻訳者」に提供することにより「翻訳者」によるレイアウトの破壊を防ぐためであることは本願明細書の記載から明らかであるが、「翻訳者」に翻訳に必要なデータだけを渡すことは、当業者が当然考慮すべき事項であると認めるから、引用発明の「翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部」を「翻訳者」による翻訳処理に代える際に、引用発明の「編集したテキストID番号付きテキストデータ」をそのまま「翻訳者」に渡すようにして本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点5は格別なものではない。

(相違点6について)
相違点6について検討すると、相違点1及び2で検討したように、引用発明の「翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部」を翻訳者による翻訳に代えることは当業者が適宜なし得る技術事項であるから、引用発明の「翻訳手段として機能するCPU、翻訳プログラムを格納したROM、翻訳バッファ(RAM)等からなる翻訳モジュール4及び辞書メモリ5からなる翻訳部」を「翻訳者」による翻訳処理に代えた際に、引用発明の「テキストデータ置換部8」によって、「第1言語からなるテキストデータ」に基づいて「翻訳者」により作成された、翻訳単位ごとの翻訳文に置き換えるようにして、本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点6は格別なものではない。

(本願補正発明の作用効果について)
そして、本願補正発明の構成によってもたらされる効果も、引用発明及び上記周知例の記載事項から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知例の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
よって、本件手続補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.補正却下の決定を踏まえた検討
(1)本願発明
平成23年11月1日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に記載された発明は、平成23年6月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「文書構造を定義する所定の構造化要素を用いて構造化されてなる、翻訳対象文書である原文印刷物のレイアウトを表現する原文レイアウトデータを取得し、前記原文レイアウトデータを、翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換えるとともに、当該記述部分を規定する前記構造化要素の属性としてそれぞれの前記翻訳単位を一意に識別するための識別子を付与することによって識別子付きレイアウトデータを作成する識別処理手段と、
前記識別子付きレイアウトデータに基づいて、翻訳者による前記翻訳処理において処理対象とされるデータであって前記原文印刷物の文章を前記翻訳単位ごとに記述するとともにそれぞれの前記翻訳単位に対応する前記識別子を付与してなる翻訳用データを作成する翻訳用データ作成手段と、
前記翻訳用データに基づいて翻訳者により作成された、前記翻訳単位ごとの翻訳文に前記識別子を付与してなる翻訳文データを取得し、前記識別子付きレイアウトデータに記述されている原文のテキスト文字列を、前記翻訳単位ごとに、前記翻訳文データにおいて当該翻訳単位と同じ識別子が付与された翻訳文のテキスト文字列に置換することによって翻訳印刷物のレイアウトデータを作成する置換手段と、を備えることを特徴とする文書処理装置。」

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、上記2.(2)(2-1)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記2.で検討した本願補正発明における「少なくとも文章を含みさらに線画もしくは画像の少なくとも一方を含み得る翻訳対象文書」、「前記構造化要素を用いることにより、翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換える」、及び「前記構造化要素を用いて記述されたレイアウトデータである識別子付きレイアウトデータ」の下線部に係る特定の限定を省き、それぞれ、「翻訳対象文書」、「翻訳者による翻訳処理に際しひとまとまりの翻訳対象として取り扱うべき文章の範囲もしくは線画もしくは画像である翻訳単位ごとの記述に書き換える」、及び「識別子付きレイアウトデータ」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに特定の限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記2.(4)に記載したとおり、引用発明及び上記周知例の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記特定の限定を省いた本願発明は、同様に、引用発明及び上記周知例の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知例の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-05 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-24 
出願番号 特願2009-160971(P2009-160971)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 成瀬 博之  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
金子 幸一
発明の名称 文書処理装置およびプログラム  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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