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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H01F
管理番号 1277747
判定請求番号 判定2013-600010  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-09-27 
種別 判定 
判定請求日 2013-04-25 
確定日 2013-08-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第4696191号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件説明書に示すマグネットは、特許第4696191号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は、「地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター発行の成績証明書(甲第2号証)において、マグネット「ナプラ提出T社」、マグネット「ナプラ提出Y社」、マグネット「ナプラ提出M社」と表示されたイ号物件は、特許第4696191号の技術的範囲に属する、との判定を求める」ものである。

これに対し、平成25年5月21日付けで被請求人に判定請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは答弁書等の提出はなかった。


2.本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その構成要件を符号を付けて分説して記載すると次のとおりである(以下、「構成要件A1」等という。)。

「A1.強磁性相の結晶粒の粒界に非磁性相が薄膜状又は粒子状で存在すると共に、
A2.強磁性相の結晶粒内に非磁性相がナノメータースケールの粒子状で存在するナノコンポジット構造を有する永久磁石であって、
B.前記強磁性相が正方晶構造を有するRFeB化合物又はRFeCoB化合物(但しRは希土類元素の一種以上)よりなる、
永久磁石。」


3.イ号物件

3-1 請求人の主張
判定請求書の「第4 イ号物件の説明」によれば、
「地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター発行の成績証明書(甲第2号証)には、イ号物件として、マグネット「ナプラ提出T社」、マグネット「ナプラ提出Y社」及びマグネット「ナプラ提出M社」が示されている(写真1)。
甲2号証の写真2?7をみると、イ号物件には、強磁性相の結晶粒(写真2、4、6の×印)の粒界に非磁性相が薄膜状で存在している。また、強磁性相の結晶粒内に非磁性相(写真3、5、7の×印)がナノメータースケールの粒子状で存在しており、ナノコンポジット構造となっている。甲2号証の写真1に示されたイ号物件は、何れも永久磁石である。
また、甲2号証の図1、3、5に示されたEDXスペクトル、更に、甲第3号証をみると、強磁性相(写真2、4、6の×印)が、NdFeB化合物よりなることが分かる。NdFeB化合物は、正方晶の結晶構造をとる(甲第4号証、5号証)。」

3-2 被請求人の主張
上記1.の手続の経緯で述べたように、被請求人からは答弁書等の提出はなかった。


3-3 当審の認定
まず、甲第2号証の成績証明書添付の写真2?7(甲第2号証9葉中4?9葉)はそれぞれ、マグネット「ナプラ提出T社」(写真2、3)、マグネット「ナプラ提出Y社」(写真4、5)及びマグネット「ナプラ提出M社」(写真6、7)を、「走査型電子顕微鏡で撮影した2次電子像写真(撮影倍率:10000倍)」であり、各写真の組は、それぞれのマグネットのほぼ同じ部分を拡大撮影したものである。

それぞれの写真には略多角形状の領域が複数見られ、各写真の左下に表示される「SE1 1μm」の表示と、その右の目盛り(スケール)の大きさ(当審注:写真上の実寸で約1cm=10000μmあり、前記「撮影倍率:10000倍」の記載と概ね符合する。)を参照すれば、各写真の中央にある略多角形状の領域を中心とした部分は、直径5?10μm程度の略多面体形状の粒子状の構造であって、マグネットを構成する磁性材料の『結晶粒』であると認められる。

また、甲第2号証の写真2?7のうち、成績証明書の成分分析結果の説明(甲第2号証9葉中2?3葉)において、特に「マグネット部の成分分析結果」として参照されている写真2、4、6に着目すると、各結晶粒の中央部から外れた『周辺部』には「┼」マーク(後述のEDX分析を行う対象箇所を示す『十字カーソル』、請求人の言う「×印」)が表示されており、
写真2、4、6に対応する図1、3、5の「エネルギー分散型エックス線分析(EDX)」(当審注:電子ビームを当てた部分から放射される元素固有の特性エックス線により当該箇所の元素成分を分析する方法)による「EDXスペクトル」の結果によれば、『周辺部』のこれらの十字カーソルで示される部分には、鉄(Fe)を筆頭に、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al,写真4,6)のほか、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)の元素成分が存在することが判る。

同様に、甲第2号証の写真のうち、成績証明書の成分分析結果の説明(甲第2号証9葉中2?3葉)において、特に「酸化エピ部の成分分析結果」として参照されている写真3、5、7に着目すると、各結晶粒の中央部には直径約1μm程度の周囲よりやや色の明るい『明斑部』があって、そこに「┼」マーク(『十字カーソル』、請求人の言う「×印」)が表示されており、
写真3、5、7に対応する図2、4、6の「エネルギー分散型エックス線分析(EDX)」による「EDXスペクトル」の結果によれば、これらの『明斑部』には、酸素(O)を筆頭に、鉄(Fe)、炭素(C)のほか、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)の元素成分が存在することが判る。

また、甲第3号証の株式会社中国環境分析センター作成の分析・試験結果報告書によれば、これら3種のマグネットはいずれも前記「エネルギー分散型エックス線分析(EDX)」では検出範囲外である「ホウ素(B)」を1%弱含むことが判るが、ホウ素の結晶構造における分布までは明らかではない。

小括すると、甲第2号証および甲第3号証記載の「マグネット」は、「結晶粒の周辺部に鉄(Fe)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在すると共に、結晶粒の中央部には直径約1μm程度の明斑部があって、酸素(O)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在する構造を有するマグネットであって、ホウ素(B)を1%弱含む」マグネットである。

また、いずれも作成者は不明であるが、甲第4号証は「超高圧走査透過電子顕微鏡(H-1250ST)による結晶構造写真」、甲第5号証は「超高圧走査透過電子顕微鏡(H-1250ST)による結晶構造写真(拡大)」とあり、
甲第4号証の「超高圧走査透過電子顕微鏡(H-1250ST)による結晶構造写真」からは、3種ある何れのマグネットかは不明であるが、右側の「Metallic grain aspect」(金属粒子面)と左側の「Oxidation grain aspect」(酸化物粒子面)において、結晶構造の格子間隔が異なることが判り、
甲第5号証の「超高圧走査透過電子顕微鏡(H-1250ST)による結晶構造写真(拡大)」は、「Diffraction Pattern H-1250ST 1000kV」(回折パターン H-1250ST 1000kV)とあるから、甲第4号証のような単なる結晶構造の写真ではなく、電子顕微鏡の電子ビームを結晶に照射したときに、波動としての電子線が結晶格子により回折・干渉して生ずる「回折パターン」であり、甲第4号証にある2種類(金属粒子面/酸化物粒子面)の結晶構造の格子間隔に応じた回折パターンが混在して生じていることが判る。
小括すると、甲第4号証、5号証からは、マグネットは「金属粒子面と酸化物粒子面において、格子間隔が異なる結晶構造よりなるマグネット」であることが判る。

したがって、各甲号証からは以下のイ号物件を認めることが出来る。

(イ号物件)
「a1.結晶粒の周辺部に鉄(Fe)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在すると共に、
a2.結晶粒の中央部には直径約1μm程度の明斑部があって、酸素(O)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在する構造を有するマグネットであって、
a3.ホウ素(B)を1%弱含み、
b.金属粒子面と酸化物粒子面において、格子間隔が異なる結晶構造よりなるマグネット。」


4.対比、判断
イ号物件の各構成要件が本件特許発明の各構成要件を充足するか否か、について以下に検討する。

4-1 構成要件A1.「強磁性相の結晶粒の粒界に非磁性相が薄膜状又は粒子状で存在する」点について

イ号物件は「a1.結晶粒の周辺部に鉄(Fe)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在する」ものであるが、 イ号物件の「結晶粒」はイ号物件「マグネット」(磁石)の主要微細構造要素であって、強磁性を示す金属である「鉄(Fe)」を元素成分の筆頭に含み、「希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)」のほか、「a3.ホウ素(B)を1%弱含」むから、「希土類元素」を「R」と表記すれば「RFeB化合物」よりなる強磁性体と推定でき、本件特許発明の「強磁性相の結晶粒」にあたる。

しかしながら、イ号物件の元素組成は甲第2号証の写真2?7の十字カーソル部分でしか明らかでなく、後述の本願特許発明の構成要件A2に係るイ号物件の構成要件a2にある「明斑部」以外には、イ号物件には「非磁性相」に相当する領域は見あたらない。
また、甲第2号証の写真2?7により目視可能な形状・構造について検討しても、イ号物件の「結晶粒」の周囲には「薄膜状又は粒子状」の構造物は見あたらない。
(当審注:写真2?7において、結晶粒の周囲を囲む明るい領域は、略多面体形状の結晶粒の側面であって、該側面が走査型電子顕微鏡の電子ビームとなす角によって相対的に高い二次電子放出率(反射率)を有することによるものと認められる。すなわち、電子ビームが垂直に入射する正面の領域では、斜めに入射する側面に比べて電子ビームがより深く侵入するため、二次電子の放出率はむしろ低下し、やや暗い像となるものである。
これに対し、下記4-2で後述の「明斑部」が周囲よりやや明るいのは、EDX分析の結果からも明らかなように、元素成分の違いによるものと認められる。)

そして、イ号物件の「周辺部」は、略多面体形状の結晶粒の正面をなす略多角形の面の周辺部に過ぎず、「粒界」であるということも出来ない。

したがって、イ号物件は「粒界に非磁性相が薄膜状又は粒子状で存在する」と言うことはできず、イ号物件は構成要件A1を充足しない。


4-2 構成要件A2.「強磁性相の結晶粒内に非磁性相がナノメータースケールの粒子状で存在するナノコンポジット構造を有する永久磁石」の点について

イ号物件は「a2.結晶粒の中央部には直径約1μm程度の明斑部があって、酸素(O)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在する構造を有するマグネット」である。
イ号物件の「マグネット」は、特に電気で駆動するいわゆる電磁石の類ではないから、磁性体材料に磁力を付与して恒久的な磁界を発生させる、本件特許発明の「永久磁石」であると認められる。
また、イ号物件の「結晶粒」は前述のように「強磁性相の結晶粒」と推認できるものであって、その「明斑部」が存在する「結晶粒の中央部」は「結晶粒内」である。
また、イ号物件の「明斑部」は、「酸素(O)を筆頭に、希土類元素であるプラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)が存在する」から、ネオジムの酸化物(NdOx)を含むものと考えられ、本件特許明細書【0012】、【0019】、【図4】も参照すれば、本件特許発明の「粒子状」の「非磁性相」に相当する。

しかしながら、イ号物件の「明斑部」の大きさは「直径約1μm程度」のものであって、「1μm=1000nm」であるから「nm」(ナノメーター)として測るには大きすぎるサイズ(スケール)であり、
特に本件特許発明が、単に「ナノスケール」などと言うのではなく、「ナノメータースケール」というのであるから、国際単位系における10億分の1の意味での接頭辞「ナノ(nano, 記号: n)」を冠した長さの単位「m:メートル」であって、同様な国際単位系の接頭辞「マイクロ」(μ:100万分の1)、「ミリ」(m:1000分の1)などと区別される、「nm」(ナノメートル)で測る大きさ(スケール)の意味であり、少なくとも1μmよりも充分に小さな大きさ(スケール)として解釈されるべきものであること、
本件特許明細書記載の実施例によれば、NdOxから成る非磁性相の粒子のサイズが「直径約10nmから100nm」の程度(本件特許明細書【0012】、【図4】参照)であるから、本件特許発明の「ナノメータースケール」も、この程度で解釈されるべきこと、及び、
本件特許明細書記載の先行技術文献(特公平7-78269号、特開平11-307327号)には、少なくとも「強磁性相と非磁性相がマイクロメートルスケールで混在したRFeB化合物よりなる永久磁石」が開示されており、本件特許発明は「ナノメータースケール」の複合構造(コンポジット構造)としたことが主要な特徴点の1つであることも考え合わせると、イ号物件は「非磁性相がナノメータースケールの粒子状で存在するナノコンポジット構造」を有するということは出来ない。

したがって、イ号物件は構成要件A2を充足しない。


4-3 構成要件B.「前記強磁性相が正方晶構造を有するRFeB化合物又はRFeCoB化合物(但しRは希土類元素の一種以上)よりなる、永久磁石」について

前記「4-1 構成要件A1.」の判断を踏まえると「強磁性相」は「RFeB化合物」であるから、本構成要件Bに係る論点は、イ号物件が「正方晶構造」を有するRFeB化合物であるか否か、というものである。
しかしながら、イ号物件はこの点に関し、単に「b.金属粒子面と酸化物粒子面において、格子間隔が異なる結晶構造よりなるマグネット」であるのみであるから、構成要件Bも充足しない。

なお、本件特許明細書記載の先行技術文献(特公平7-78269号公報6頁左欄の表1)を参照すると、本件特許明細書に例示のあるNd_(2)Fe_(14)Bの記載は無いが「RFeB化合物」にも種々の合金組成のものが存在することが判り、その結晶構造も「体心立方晶」や「菱面体晶」のものも存在するものの「正方晶」が大半であって、その「格子定数」(格子間隔)も甲第5号証の「Metallic grain 1.2nm」、「Metallic grain 0.88nm」と整合するものである。
したがって、前記先行技術文献も参酌すれば、イ号物件の「強磁性相」の「RFeB化合物」は「正方晶構造」を有する、と推定することもでき、この場合、イ号物件は構成要件Bを充足するものであるが、前述のようにイ号物件は構成要件A1,A2を充足しないものであるから、結論に影響を及ぼすものではない。


5.むすび
以上のとおり、イ号物件の各構成は、いずれも本件特許発明の構成要件を充足しないか、または、少なくとも構成要件A1,A2を充足しないので、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2013-08-06 
出願番号 特願2000-133201(P2000-133201)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩▲崎▼ 義晃  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 石丸 昌平
酒井 伸芳
登録日 2011-03-11 
登録番号 特許第4696191号(P4696191)
発明の名称 ナノコンポジット構造を有する永久磁石  
代理人 阿部 美次郎  

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