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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1278168
審判番号 不服2012-20989  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-24 
確定日 2013-08-15 
事件の表示 特願2008- 71742「衝撃吸収部材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日出願公開、特開2008-261493〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成20年3月19日(優先日:平成19年3月19日、出願番号:特願2007-70970号)の出願であって、平成24年7月10日付け(平成24年7月24日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年10月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成24年2月2日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
軸方向の一方の端面から軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重により座屈することにより衝突エネルギーを吸収するための、金属板の成形体である筒体を備える衝撃吸収部材であって、前記筒体の軸方向の少なくとも一方の端面を含む端部における周方向の少なくとも一部に、前記金属板が折り重ねられた形状に形成される折り重ね部を有すること、及び、前記衝撃吸収部材が自動車車体に用いられるクラッシュボックスであることを特徴とする衝撃吸収部材。」

3.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/029362号(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「筒形状を成しているとともに車両のサイドメンバーとバンパービームとの間に配設され、圧縮荷重を受けることにより軸方向に蛇腹状に圧壊させられて衝撃エネルギーを吸収する車両用衝撃吸収部材であって、
筒形状の本体部と、該本体部の軸方向の両端部にそれぞれ溶接固定される一対の取付プレートとを備えているとともに、
前記本体部は、板厚が1.4mmよりも薄くて前記軸方向の中間部分を構成している薄板部と、板厚が1.4mm以上で、前記軸方向において前記薄板部の両側に一体的に設けられ、それぞれ前記取付プレートに突き当てられた状態でアーク溶接により該取付プレートに一体的に溶接固定される一対の厚板部とを有することを特徴とする車両用衝撃吸収部材。」(請求の範囲[1])
イ.「前記本体部は、筒状のパイプ部材と該パイプ部材の両端部にそれぞれ嵌合された所定長さのリング部材とから構成されており、
前記パイプ部材に前記リング部材が嵌合された両端部の2重構造の部分が前記厚板部で、軸方向において該厚板部の内側に位置して前記パイプ部材のみから成る部分が薄板部である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃吸収部材。」(請求の範囲[4])
ウ.「[0001] 本発明は車両用衝撃吸収部材に係り、特に、板厚が薄い車両用衝撃吸収部材の改良に関するものである。」
エ.「[0006] 一方、本体部20の端部を取付プレート22に突き当てた状態でアーク溶接する図12の(b) の場合は、安定した衝撃エネルギー吸収性能が得られるが、板厚が薄くなると溶接時に溶けて穴が空いたり板厚が薄くなって強度が低下したりする不具合が生じ易くなるため、例えば1.4mm程度以上の板厚が要求される。これに対し、本体部20の形状を工夫するなどして所定の衝撃エネルギー吸収性能を維持しつつ板厚を薄くしたり、10km/h程度以下の低速衝突時における車両損傷の低減など低荷重での衝撃エネルギー吸収を目的として本体部20の板厚を薄くしたりすることが考えられているが、上記のように本体部20を取付プレート22に突き当てた状態でアーク溶接で固定する場合には、板厚を1.4mmより薄くすることが難しいという問題があった。
[0007] 本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、本体部の板厚が1.4mmより薄い場合でも取付プレートに突き当てた状態で良好にアーク溶接で固定できるようにして、所定の衝撃エネルギー吸収性能が得られる軽量で且つ安価な衝撃吸収部材を提供することにある。」
オ.「[0032] 本体部を構成する薄板部や厚板部は、例えば圧延鋼板や炭素鋼管などが好適に用いられるが、蛇腹状に圧壊させられることにより所望の衝撃エネルギー吸収作用が得られる他の種々の金属板材やパイプ材を採用することができる。(略) 」
カ.「[0059] 図8の(a) は本体部152の斜視図で、(b) は前記図2に相当する図で片側の側壁部分の縦断面図、(c) は本体部152の軸心に対して直角な断面形状を示す図であり、この本体部152は、軸方向の中間部を構成しているとともに板厚が1.4mmよりも薄くて本実施例では約1.2mmの薄板部160と、軸方向において薄板部160の両側に一体的に設けられるとともに板厚が1.4mm以上で本実施例では約1.6mmの一対の厚板部162、164とを備えている。図8の(b) から明らかなように、上記薄板部160は筒状の単一のパイプ部材170にて構成されている一方、厚板部162、164は、そのパイプ部材170の両端部の外周側に一体的に嵌合された筒状のリング部材172、174を含んで構成されている。一対の厚板部162、164のうちバンパービーム10側に位置するバンパー側厚板部164の長さ寸法、すなわちリング部材174の長さ寸法L1は、10mm<L1<40mmの範囲内で、サイドメンバー12R側に位置する車体側厚板部162の長さ寸法、すなわちリング部材172の長さ寸法L2は、本体部152の全長をLとした時、5mm≦L2<0.15×Lの範囲内とされている。」
キ.「[0063] そして、このような本体部152、190は、厚板部162、164の開口端縁がそれぞれ全周に亘って前記取付プレート154、156に突き当てられた状態で、その周方向にアーク溶接が施されることにより、取付プレート154、156に対して一体的に溶接固定されている。アーク溶接は、外周側に位置する前記リング部材172、174に対して施され、それ等のリング部材172、174を介してパイプ部材170が取付プレート154、156に対して所定の取付強度で固定されることになる。アーク溶接によりパイプ部材170とリング部材172、174とが溶接固定されるようになっていても良いが、前記液圧成形による塑性変形でパイプ部材170(パイプ素材180)がリング部材172、174(パイプ素材182、184)に固定されているだけでも良い。
[0064] このようなクラッシュボックス150においては、本体部152、190が、筒状のパイプ部材170のみで構成されている薄板部160と、そのパイプ部材170の両端部に所定長さの筒状のリング部材172、174がそれぞれ一体的に嵌合されて2重構造とされた一対の厚板部162、164とから成り、その厚板部162、164の開口端縁が、それぞれ取付プレート154、156に突き当てられた状態で周方向にアーク溶接が施されることにより一体的にその取付プレート154、156に溶接固定されているため、軸心まわりの強度が略均一で安定した衝撃エネルギー吸収性能が得られる。」
ク.「[0072] 以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。」

上記記載事項及び図示内容から、以下の事項が認められる。
ケ.記載事項カ及び[図8](b)を参酌すると、薄板部160の軸方向の“端面を含む”両端部における外周側に、金属板材からなるリング部材172、174が一体的に嵌合されている。

よって、以上の記載事項、認定事項及び図面からみて、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「圧縮荷重を受けることにより軸方向に蛇腹状に圧壊させられて衝撃エネルギーを吸収するための、金属板材からなる筒状の薄板部160を備える車両用衝撃吸収部材であって、前記薄板部160の軸方向の端面を含む両端部における外周側に、金属板材からなるリング部材172、174が前記薄板部160と一体的に嵌合されて2重構造とされる厚板部162、164を有すること、及び、前記車両用衝撃吸収部材が車両のサイドメンバーとバンパービームとの間に配設されるクラッシュボックス150である車両用衝撃吸収部材。」

4.対比
本願発明と引用発明を対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「圧縮荷重を受けることにより軸方向に蛇腹状に圧壊させられて衝撃エネルギーを吸収する」は前者の「軸方向の一方の端面から軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重により座屈することにより衝突エネルギーを吸収する」に相当し、以下同様に、
「金属板材からなる」「筒状の薄板部160」は「金属板の成形体である」「筒体」に、
「車両用衝撃吸収部材」は「衝撃吸収部材」に、
「クラッシュボックス150」は「クラッシュボックス」に、
「軸方向の端面を含む両端部における外周側に」は「軸方向の少なくとも一方の端面を含む端部における周方向の少なくとも一部に」に、
「車両のサイドメンバーとバンパービームとの間に配設される」は「自動車車体に用いられる」に、それぞれ相当する。
また、後者の「金属板材からなるリング部材172、174が前記薄板部160と一体的に嵌合されて2重構造とされる厚板部162、164」と前者の「金属板が折り重ねられた形状に形成される折り重ね部」とは、「金属板が重ねられた重ね部」の点で共通する。

そうすると、両者は本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「軸方向の一方の端面から軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重により座屈することにより衝突エネルギーを吸収するための、金属板の成形体である筒体を備える衝撃吸収部材であって、前記筒体の軸方向の少なくとも一方の端面を含む端部における周方向の少なくとも一部に、金属板が重ねられた重ね部を有すること、及び、前記衝撃吸収部材が自動車車体に用いられるクラッシュボックスである衝撃吸収部材。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点]
「金属板が重ねられた重ね部」が、
本願発明は「金属板が折り重ねられた形状に形成される折り重ね部」であるのに対し、
引用発明は「金属板材からなるリング部材172、174が薄板部160と一体的に嵌合されて2重構造とされる厚板部162、164」である点。

5.判断
(1)上記相違点の検討
引用発明は、上記記載事項エ(段落[0006])の「板厚が薄くなると溶接時に溶けて穴が空いたり板厚が薄くなって強度が低下したりする不具合が生じ易くなる」ことに着目し、上記記載事項エ(段落[0007])に記載されている「本体部の板厚が1.4mmより薄い場合でも取付プレートに突き当てた状態で良好にアーク溶接で固定できるようにして、所定の衝撃エネルギー吸収性能が得られる軽量で且つ安価な衝撃吸収部材を提供する」ことを課題とするものであり、その解決する手段として、溶接される部位である「薄板部160の軸方向の端面を含む両端部における外周側」に、「金属板材からなるリング部材172、174が薄板部160と一体的に嵌合されて2重構造とされる厚板部162、164」を設けることで、溶接部位を厚肉構造とし、強度を上げることで解決するものである。
また、引用文献には、溶接部位を厚肉構造とする他の手段として、溶接部位を単一の厚板部とする実施例も記載されている。(上記記載事項ア及び[図2]を参照。)
そして、引用発明に接した当業者であれば、溶接される部位である「薄板部160の軸方向の端面を含む両端部」を厚肉構造にすれば、溶接による不具合が解決できることが理解できる。
ところで、金属板金加工において、部分的に厚肉構造にする手段として、金属板を折り重ねること、すなわちヘム加工することは慣用技術であるところ、溶接部位の強度を向上させるためにヘム加工することも従来周知の技術である。(特開平3-52767号公報の第1図、特開平10-128572号公報の【図1】、及び実願平4-34883号(実開平7-1392号)のCD-ROMの【図1】を参照。)
また、引用発明の、薄板部160の軸方向の端面を含む両端部を折り重ねることで厚肉構造を得ることに格別な困難性はない。してみると、引用発明において溶接部位の強度を向上させる上で、「薄板部160の軸方向の端面を含む両端部における外周側に、金属板材からなるリング部材172、174が前記薄板部160と一体的に嵌合されて2重構造とされる厚板部162、164」とする厚肉構造に代えて、従来周知の技術を適用し、薄板部160の軸方向の端面を含む両端部を折り重ねて厚肉構造に変更することは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明、及び慣用技術又は周知の技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別ではない。

6.むすび
以上総合すると、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、及び慣用技術又は周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-14 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-01 
出願番号 特願2008-71742(P2008-71742)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 覚  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 森川 元嗣
中屋 裕一郎
発明の名称 衝撃吸収部材及びその製造方法  
代理人 広瀬 章一  

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