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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 一部無効 2項進歩性  A23L
審判 一部無効 発明同一  A23L
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1278264
審判番号 無効2012-800065  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-04-27 
確定日 2013-09-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3966527号発明「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯・本件特許発明

本件特許3966527号に係る発明についての出願は、平成10年6月12日に特許出願され、平成19年6月8日にその発明について特許の設定登録がなされ(請求項の数5)、その後、平成22年1月18日に訂正審判の請求がなされ(訂正2010-390006号)、平成22年2月25日付けで当該訂正を認める審決がなされ、その後、確定したものである。

よって、訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は、

「【請求項1】
生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段、並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、
前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を、前記選別ケーシングの円周端面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。
【請求項2】
生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段、並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、
前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を、前記生海苔混合液槽の内底面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。
【請求項3】
生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段、並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、
前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。
【請求項4】
生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段、並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、
前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を選別ケーシングと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。
【請求項5】
請求項1?請求項4に記載の生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置において、
前記突起・板体の突起物を、回転板の回転方向に傾斜する構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。」

というものである。


第2 請求人の主張

請求人は、証拠方法として以下の甲第1?17の3号証を提出し、本件特許の請求項3ないし5に係る発明について、以下の理由により無効にすべきであると主張している。

1.本件特許の特許請求の範囲の記載は、請求項3、4、及び請求項5(請求項3、4引用部分)に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、当該発明が明確でもないので、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、請求項3、4、及び請求項5(請求項3、4引用部分)に係る発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
従って、これらの特許は特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきである。(以下、「無効理由1」という。)

2.本件特許の請求項3、4、及び請求項5(請求項3、4引用部分)に係る発明は、甲第4?7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
従って、これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。(以下、「無効理由2」という。)

3.本件特許の請求項3、4に係る発明は、甲第8号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、本件特許出願の時にその出願人と甲第8号証に係る特許出願の出願人とが同一の者ではなく、本件特許の発明者が甲第8号証に記載された発明の発明者と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
従って、これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。(以下、「無効理由3」という。)

甲第1号証 研究社 新英和大辞典 第5版、1980年 株式会社研究社発行、第398頁

甲第2号証 機械工学便覧、社団法人日本機械学会、1987年4月15日新版発行、A5-35?36頁

甲第3号証 新村出著「第5版 広辞苑」、1998年11月、株式会社岩波書店発行、第310頁、第2629頁

甲第4号証 実願平1-52564号のCD-ROM(実開平2-142631号)

甲第5号証 特開平8-140637号公報

甲第6号証 特開平6-121660号公報

甲第7号証 特開平2-261555号公報

甲第8号証 特願平10-91901号(特開平11-285365号公報)

甲第9号証 動画S1?S3を収録したCD-ROM

甲第10号証 請求人会社社員幸田巨樹による陳述書

甲第11号証 一般財団法人日本建築センターのホームページ トップページ>評価・評定>事業単位メニュー>建設技術審査証明(建築技術)>審査証明取得技術一覧(技術分野別)>地盤改良工法(深層混合処理工法)>BCJ-審査証明-60「深層混合処理工法 NCコラム工法」
(http://www.bcj.or.jp/c12_rating/bizunit/exam/src/bcj_060.pdf)

甲第12号証 特許庁のFI特許分類の「生産基盤グループ>3C生産機械>3C058」
(http://www.jpo.go.jp/cgi/cgi-bin/search-portal/matrix/matrix.cgi?view=20=3C058)

甲第13号証 特許権侵害差止等請求事件(平成22年(ワ)第24479号)に係る訴状

甲第14号証 特開昭51-82458号公報

甲第14の1号証 徳岡洋由著「撹拌におけるバッフル効果」神鋼パンテック技報Vol.36No.3(1992/12)第5?9頁

甲第14の2号証 特開平4-215829号公報

甲第15の1号証 特開平6-206792号公報

甲第15の2号証 永田進治ら著「タービン形および櫂形攪拌機の所要動力におよぼす羽根板枚数の影響」化学工学第18巻第5号(1954)第228?231頁

甲第16の1号証 社団法人化学工学会編 改訂五版化学工学便覧 平成6年4月5日 第4刷発行 丸善株式会社 第888?896頁

甲第16の2号証 社団法人日本機械学会著 機械工学便覧 1987年4月15日 社団法人日本機械学会発行 A5-9頁

甲第17の1号証 特開平6-90737号公報

甲第17の2号証 特開平11-18758号公報

甲第17の3号証 特開2003-306881号公報

本件特許の請求項3ないし5に係る発明を、以下、それぞれ「本件特許発明3」?「本件特許発明5」という。


第3 被請求人の主張

これに対して、被請求人は、証拠方法として以下の乙第1?15号証を提出し、本件審判請求は成り立たないと主張している。

乙第1号証 東京地方裁判所民事第40部「審尋調書(第3回)(和解)」平成23年12月8日

乙第2号証 動画1?17を記録した「DVD-ROM」

乙第3号証 特開平10-75745号公報

乙第4号証 フルタ電機株式会社従業員 鰐部幸政 撮影「写真」平成23年6月9日

乙第5号証の1 特開平10-327820号公報(特願平9-159207号)

乙第5号証の2 特願平9-159207号の「拒絶理由通知書」平成17年9月22日

乙第5号証の3 特願平9-159207号の「手続補正書」平成17年12月5日

乙第5号証の4 特願平9-159207号の「意見書」平成17年12月5日

乙第6号証 登録実用新案公報第3053035号

乙第7号証の1 特開2004-89033号公報(特願2002-252429号)

乙第7号証の2 特願2002-252429号の「拒絶理由通知書」平成19年8月28日

乙第7号証の3 特願2002-252429号の「手続補正書」平成19年11月5日

乙第7号証の4 特願2002-252429号の「意見書」平成19年11月5日

乙第8号証 被請求人代理人弁護士小南明也作成「写真」平成22年11月17日

乙第9号証 特開2010-146225号公報

乙第10号証 特開2003-93027号公報

乙第11号証 平成22年(ワ)第24479号 特許権侵害差し止め等請求事件 弁護士松本直樹(請求人代理人)による「答弁書」平成22年8月25日

乙第12号証 東京地裁平成22年(ワ)第24479号「判決書」(東京地方裁判所民事第40部)平成24年11月2日

乙第13号証 特開平5-74611号公報

乙第14号証 特開2001-29614号公報

乙第15号証 動画1?4を記録したCD-ROM


第4 本件特許の請求項3?5の「共回り」の解釈

本件特許発明3ないし5が無効理由1?3を有するか否かを判断するうえで 、本件特許の請求項3ないし5の「共回り」の解釈について、両当事者間で争いがあるので、まずその点について検討する。

(1)請求人の主張

請求人は、「共回り」の解釈に関し、以下の点を主張している。

ア.本件明細書段落【0003】の記載からは、生海苔及び異物が、回転板とともに回り(回転し)、クリアランスに吸い込まれない現象」(以下「現象1」という。)、又は、「生海苔等が、クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない現象」(以下「現象2」という。)が発生し、現象1又は現象2が発生する結果として、クリアランスの目詰まりが発生するものと理解される。(審判請求書6頁10?15行。下線部は、合議体が付与した。以下も同様。)

イ.上記現象1、現象2ともに、共回りしている生海苔等は、クリアランス付近において「回転板とともに回」っていることから、生海苔等の移動速度も回転板の周速度と同じ速度Uであると考えるのが自然である。(審判請求書6頁23?26行)

ウ.現実の生海苔異物分離除去装置において、クリアランスに留まる生海苔は、回転板の周方向に移動しないか、あるいは移動するにしても極めて遅い速度で移動する場合(以下「固定側同期」と呼ぶ。)と、ほぼ回転板の周速度と一致する速度で移動する場合(以下「回転板同期」と呼ぶ。)の2種類が観察される。
請求人従業員により撮影された乙2動画6は、回転板が3?6回転もしている時間を経て、クリアランスに留まっている生海苔は回転板の角度で10°にも満たないわずかな領域を移動しているに過ぎない。これでは、「回転板とともに回る」とはとても言えない。(口頭審理陳述要領書8頁19?23行、13頁17?最終行、甲10号証等)

エ.甲11号証に示されるように、「共回り」との文言の本来の意味内容からして、クリアランスに留まる生海苔の周速度と回転板の周速度は同一であると考えられる(口頭審理陳述要領書18頁10?11行)。
乙9号証、甲14の1?16の1号証等に示されるように、撹拌の技術分野において「共回り」という技術用語は、流体の回転数(角速度)が、回転翼の回転数(角速度)と一致しているとともに、流体の流動は軸周りの回転流のみであり、上下循環が生じていないことをいうのである。被請求人が共回りを再現しているものとして示した乙2-動画14は、生海苔混合液中の海苔の回転速度が回転板の回転速度よりも遅いこと、上下方向にも運動していることから、「共回り」にはあたらない。(口頭審理陳述要領書59頁16?下から2行等)

(2)判断

本件明細書段落【0003】には、「前記生海苔の異物分離除去装置、又は回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置においては、この回転板を高速回転することから、生海苔及び異物が、回転板とともに回り(回転し)、クリアランスに吸い込まれない現象、又は生海苔等が、クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない現象であり、究極的には、クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等である。この状況を共回りとする。」と記載されており、本件特許発明における「共回り」という技術用語が定義付けられているといえる。
この記載からは、本件特許発明における「共回り」とは、生海苔及び異物(以下「生海苔等」という)が、回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない現象、又は、生海苔等が、クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない現象のことであって、究極的には、クリアランスの目詰まり(閉塞)が発生する状況をいうものと認められる。すなわち、生海苔がクリアランスに吸い込まれないという、異物分離除去の観点から望ましくない現象が生じることがあり、その状況としては、「回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない」、及び、「生海苔等が、クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない」という状況があることが理解できる。
そして、このような理解に基づけば、生海苔等が、クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない現象はもちろん、特段「クリアランスに喰込んだ状態で」という特定なく回転板とともに回転し、クリアランスに吸い込まれない現象も共回りに当たるとされているのだから、クリアランスに喰込んだ生海苔等が回転板に接触しつつ、回転板と一緒に回転して、クリアランスに吸い込まれない現象だけではなく、究極的に発生するとされるクリアランスに目詰まりが発生した状況において、生海苔異物分離除去装置の槽内の混合液中の生海苔等が、その槽内で、回転板の回転板に伴って回転しているだけで、クリアランスに吸い込まれていかない状況もまた、本件特許発明における「共回り」に含まれるものと解される。
そして、「回転板とともに回」るとは、回転板と同速度であることと同義であるとは解されるものではなく、請求人がいうところの、「固定側同期」なる現象も、その速度が小さいとはいえ、回転板の回転に伴って生海苔等が異物分離除去装置内で同方向に移動しているのであるから、これも本件特許発明における「共回り」に包含されるものである。

また、請求人が「共回り」という技術用語を解釈するために示した証拠である甲第11号証には、「地盤改良工法(深層混合処理工法)」に関する記述において、土が撹拌翼に付着して撹拌翼と同期回転することを土の共回り現象とする記載は認められるものの、生海苔の異物分離とは、技術分野も、目的もあまりにも異なるものであるから、当該証拠により、生海苔の異物分離における「共回り」を解釈することはできない。
また、請求人が「共回り」という技術用語を解釈するために示した証拠である甲14の1?16の1は、いずれも「撹拌」の技術分野に属するものであって、その装置構成として、流体の入った槽及び槽内に設けられた回転軸を有する撹拌翼を備えたものであるが、これらの証拠によれば、「共回り」とは、撹拌翼と流体が同一角速度で回転する「固体的回転部」なる部分が発生するという現象が認められ、この撹拌翼と同一角速度で回転する固体的回転部が、翼と「共回り」すると説明されるものである。
しかし、本件特許発明は、生海苔異物分離除去装置の技術分野に属するものであり、その装置構成が回転軸及び撹拌翼を備えたものではないから、そもそも、通常の状態でも流体が回転板と同速度で回転するとはいえない。よって、本件特許発明においては、請求人の主張するような、撹拌という異なる技術分野において厳密な意味で使用される技術用語の「共回り」の意味と解釈すべきではない。そして、本件明細書の記載からみて、生海苔が槽内において若干の上下運動を伴って回転するとしても、そのような回転板の回転に伴って回転する状況も「共回り」というのが相当である。


第5 本件特許発明3、5の「円周面」の解釈

さらに、本件特許発明3、5が無効理由1?3を有するか否かを判断するうえで、本件特許の発明の「円周面」の解釈についても、両当事者間で争いがあるので、この点についても検討する。

(1) 請求人の主張

請求人は、「円周面」の解釈に関し、以下の点を主張している。

ア.甲第3号証の「円」と「面」の定義より、「円周面」の定義として、「物の外郭を成し、中心から等距離であって、角だっていないひろがり部分」といった概念を形成することができる。ただし、「周」という文言からは、「円筒の側面」、「円錐の側面」は「円周面」の概念に含まれるが、「平面状の円板の一部」については「円周面」の概念に含まれないと考えるのが妥当である。(請求書8頁17行?5行、口頭審理陳述要領書19頁第2段落)

イ.審判請求書10頁図Bの面5(本件特許の【図6】の34aの「円周面」に相当)は円筒の側面でも円錐の側面でもないので、「円周面」と呼ぶのは妥当でない。(審判請求書10頁4?5行等)

(2) 判断

本件明細書段落【0025】?【0026】には、
「【0025】
異物分離機構3は、分離した生海苔・海水を吸い込む連結口31、及び逆洗用の噴射口32を有する選別ケーシング33と、この選別ケーシング33に寸法差部Aを設けるにようにして当該選別ケーシング33の噴射口32の上方に設けられた回転板34と、この回転板34の円周面34aと前記選別ケーシング33の円周面33aとで形成されるクリアランスSと、で構成されている。前記寸法差部Aは、選別ケーシング33の円周端面33bと回転板34の円周端面34bとの間で形成する。
【0026】
防止手段6は、一例として寸法差部Aに設ける。図3、図4の例では、選別ケーシング33の円周端面33bに突起・板体・ナイフ等の突起物を1ケ所又は数ヶ所設ける。また図5の例は、生海苔混合液槽2の内底面21に1ケ所又は数ヶ所設ける。さらに他の図6の例は、回転板34の円周面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a(一点鎖線で示す。)に切り溝、凹凸、ローレット等の突起物を1ケ所又は数ヶ所、或いは全周に設ける。また図7の例は、選別ケーシング33(枠板)の円周面33a(内周端面)に回転板34の円周端面34bが内嵌めされた構成のクリアランスSでは、このクリアランスSに突起・板体・ナイフ等の突起物の防止手段6を設ける。また図8の例では、回転板34の回転方向に傾斜した突起・板体・ナイフこの回転板34の円周面34aと前記選別ケーシング33の円周面33aとで形成されるクリアランスSと、で構成されている。前記寸法差部Aは、選別ケーシング33の円周端面33bと回転板34の円周端面34bとの間で形成する。」と記載されている。

そして、本件【図4】?【図7】を参照すると、【図4】、【図5】には、クリアランスを形成する2つの面に対し、記号「33a」「34a」が付与され、また【図6】においては、回転板の円周近傍の下面側に記号「34a」が、選別ケーシングのクリアランスを形成する面に記号「33a」がそれぞれ付与され、【図7】には、選別ケーシングのクリアランスを形成する面に記号「33a」が付与され、かつ、回転板のクリアランスを形成する面に記号「34b」が付与されているのがわかる。

これらの明細書及び図面の記載から、円周面とは、上方から見た時に、その形状が円状である回転板あるいは選別ケーシングにおいて、円周近傍にある面状の部位であることが要件であると理解される。
そして、本件特許発明3、5に記載の「円周面」とは、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」、すなわち、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止」という機能を備えた防止手段が設けられるのだから、生海苔の共回りの根本的な原因であるクリアランスの詰まりを防止あるいは除去できるような位置、すなわち、クリアランス内又はその近傍に当該防止手段を設ける必要があることは明らかである。
したがって、本件特許発明3、5の「円周面」とは、上方から見た時に、その形状が円状である回転板あるいは選別ケーシングにおいて、円周近傍にある面状の部位のうち、クリアランス内又はその近傍を意味すると解するのが相当である。
本件特許の図面である、【図6】において、回転板の円周近傍の、下面側の面を円周面34aとして記載していることからも、当該【図6】の円周面34aを包含し得ない、請求人が主張するような辞書的な「円」と「面」の意味から導出される「円周面」の定義は、妥当なものとは認められない。


第6 無効理由1について

1.本件特許発明3について

(1)本件特許発明3の解釈

本件特許発明3は、
「生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段、並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、
前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。」
であるが、
「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成」とは、本件特許発明が、回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置において発生する共回りという解決すべき技術的課題(段落【0003】)を解消するためになされたものであるから、突起物の機能としては、共回りを防止するという機能を備えたものであること、及び、本件明細書段落【0026】には、「図6の例は、回転板34の円周面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a」と記載されていることを考慮すれば、突起物である防止手段を設ける対象を単なる「回転板」と解釈することはできない。よって、突起物を設ける対象の選択肢として、単なる「回転板」を含むと解釈することは不自然であることから、その選択肢として、1)回転板の円周面、2)選別ケーシングの円周面、または、3)回転板の円周面及び選別ケーシングの円周面、に設けるという、3種の構成が包含されると解釈するのが相当である。

(2)請求人の主張

請求人は、上記の1)?3)の構成のうち、1)回転板の円周面に、突起物である防止手段を設ける構成を備えた発明(以下、「本件特許発明3’」という。)について、以下のア?イを主張し、本件特許発明3は、突起物を回転板の円周面に設けると規定している点において、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと主張している。

ア.「図Bの面2、面3、面4、面7に突起物を設けた例は本件明細書に記載されておらず、これらの面に突起物を設けたとして生海苔の共回りを防止できることを発明の詳細な説明から読み取ることができない。即ち、本件請求項3に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。」(審判請求書13頁最終行?14頁6行)

イ.「回転板の周速度Uと同じ周速度Uでクリアランス付近を回っている生海苔を「共回り」と呼ぶものと推認される。そうとすると、回転板のいずれの円周面に突起物を設けたとしても、突起物は回転板とともに回るのであるから、同じく回転板とともに回る生海苔の共回りを防止できるはずがない。また、本件明細書段落[0020]に「防止効果」として記載されている内容からも、「防止手段」は回転板に設置されるものではないことが明らかである。」(審判請求書13頁9?15行)

さらに、以下のウについても主張し、本件特許発明3’は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと主張している。

ウ.「請求項において、「突起を回転板の円周面に設置」「共回り防止」とのみ規定したのでは、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に発明として記載したものとが、実質的に対応しているとはいえず、第36条第6項第1号の規定に違反する。発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えることが明らかだからである。」(口頭審理陳述要領書66頁21?25行)

さらに、以下のエについても主張し、本件特許発明3’は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと主張している。

エ.「生海苔の共回りを防止する防止手段としての突起物を、回転板のいずれの円周面に設置したところで、突起物は回転板とともに回るのであるから、同じく回転板とともに回る生海苔の共回りを防止できるはずがない。従って、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記載に基づいて「生海苔の共回りを防止する防止手段」を明確に把握することができない。即ち、請求項3に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」(審判請求書14頁20?最終行)

オ.「出願時の技術常識を参酌しても、「共回り防止」と規定された事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書および図面の記載を考慮しても、請求項の記載から発明を明確に把握できないので、第36条第6項第2号の規定に違反する。
そもそも、「共回り」の意味内容が曖昧であるから、「共回り防止」の意味内容も不明確である。」(口頭審理陳述要領書66頁26行?67頁2行)

また、以下のカ、キの点で、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に違反するとも主張している。

カ.「防止手段である突起物を具体的にどの円周面に設ければ共回りを防止できるかについては、本件出願時の当業者技術常識を参酌しても自明ということはできない。」(審判請求書15頁5?7行)

キ.「生海苔の共回りを防止する防止手段としての突起物を、回転板のいずれの円周面に設置したところで、突起物は回転板とともに回るのであるから、同じく回転板とともに回る生海苔の共回りを防止できるはずがない。即ち、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、請求項3に係る発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない・・」(審判請求書15頁8?14行)

(3) 判断

ア.について
本件特許発明3’は、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」という発明特定事項により特定されるものであるから、防止手段は、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する」という機能を備えたものである。そして、本件特許発明3’は、そのような機能を備えた防止手段である突起物を回転板の円周面、すなわち、第5で検討した「上方から見た時に、その形状が円状である回転板あるいは選別ケーシングにおいて、円周近傍にある面状の部位のうち、クリアランス内又はその近傍」に設けることにより特定されるものであるから、請求人が示す図Bの面2、3、4、7等のクリアランスにおける詰まりの除去とは何ら関係のない位置に突起物を設けた発明は、包含されないものである。
したがって、本件特許発明3が、図Bの面2、面3、面4、面7に突起物を設けた発明を包含することを前提とした、無効理由1が存在する旨の主張は採用できない。

イ.エ.キ.について
第4において、「共回り」という技術用語について検討した通り、共回りとは、請求人の主張するような、回転板の周速度と同じ周速度でクリアランス付近を回っている生海苔を意味するものではないから、「共回り」が、回転板の周速度と同じ周速度でクリアランス付近を回っている生海苔を意味することを前提とした、回転板の円周面に設けた突起物が回転板と同速度で回っている生海苔の共回りを解消できるはずがないとの主張は採用できない。
また、本件明細書段落【0020】の記載をみても、「防止手段」は回転板に設置されるものではないことが明らかと解することはできず、例えば、請求人のいうところの「固定側同期」した生海苔の共回りは、回転板に防止手段を設けることで解消できると認められる。

ウ.について
本件特許発明は、「防止手段」が、「突起物を回転板の円周面に設ける構成とした」ものであって、かつ、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する」ことが規定されているものであるが、第4で「共回り」第5で「円周面」について検討した通りであるから、本件特許発明は、防止手段である突起物が、クリアランスの目詰まりの防止あるいは除去に奏功するような位置である円周面に設けられる発明であるものであるといえ、そうすると、本件特許発明と発明の詳細な説明に発明として記載したものとは、実質的に対応しているといえる。

オ.について
「共回り」の意味については、第4で述べたとおり解釈されるのであって、「共回り」が、本件明細書及び当業者の技術常識から不明確とまではいえない。よって「共回り防止」についても、不明確とまではいえず、技術的に十分に特定されていないとは認められない。

カ.について
防止手段である突起物は、「生海苔の共回りを防止する」ものであるから、生海苔の共回りの原因となるクリアランスの詰まりを解消すればよいことは、明細書段落【0003】?【0005】、【0020】及び図面等の記載から明らかであるから、生海苔の共回りを防止する手段である突起物を、クリアランス内、あるいは、クリアランスを形成する面の生海苔が流入する側(【図6】34a等)に設ければよいことは当業者にとって自明である。

2.本件特許発明4について

(1)請求人の主張

請求人の主張は、

本件特許発明4は、クリアランスに設ける突起物(防止手段)がどこに固定されているかが特定されていないから、突起物が回転板に固定された場合をも含んでいることとなる。そうすると上述のとおり、防止手段は回転板と共に回ってしまうので、回転板と共に回る生海苔の共回りを防止できない。
したがって、無効理由1が存在する。

というものである。

(2)判断
上記第6 1.(3)「イ.エ.キ.について」で述べたとおり、回転板と共に回る生海苔の共回りが、生海苔回転板と生海苔が同速度で回ることを意味することを前提とした請求人の主張は採用できない。

3.本件特許発明5について

(1)請求人の主張

請求人の主張は、

本件特許発明5は、本件特許発明3、4を引用しているものであるから、本件特許発明3、4と同様に、無効理由1が存在する。

というものである。

(2) 判断

上述の通り、本件特許発明3、4には、無効理由1が存在しない以上、請求人の主張は、その前提を欠くものである。

4.小括

以上の通りであるから、請求人の主張する点で、本件特許発明3ないし5が、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえず、かつ、明確であるという要件を満たしていないともいえない。
さらに、請求人の主張する点で、発明の詳細な説明の記載が、本件特許発明3ないし5を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、ともいえない。


第7 無効理由2について

1.本件特許発明3’について

請求人は、本件特許発明3のうち、「突起物を回転板の円周面に設ける構成とした」場合、すなわち、本件特許発明3’について、無効理由2がある趣旨の主張をしているので(審判請求書24?28頁「(d-ii)」参照)、以下、本件特許発明3’について検討することとする。


(1)甲第4号証の記載事項

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「ベッセル内に多量の微粒状メデイアを内蔵するとともに分散デイスク等を高速回転させ、該ベッセル内の一端からスラリーを供給して流動速度差によって生ずる剪断力によってスラリーを分散・粉砕を行った後他端から処理ずみのスラリーを排出するようになし、該排出側に円環状の固定スリット片を設けるとともに該固定スリット片内において微小間隙をもって回転する回転スリット板を設けて両者によりスラリーとメディアのセパレーション用のスリットを形成するものにおいて、該セパレーション用のスリットを単溝でなく複溝としたことを特徴とする湿式微粒分散・粉砕装置におけるメデイア分離機構。」(実用新案登録請求の範囲の請求項1)

イ.「前記回転スリット板の前記ベッセル内部分に分離羽根を同軸に突設した・・・メデイア分散装置。」(請求項3)

ウ.「スリット機構前に分離羽根を取り付けることにより、メディアの固着化を防止する。」(第5頁第6?7行)

エ.「第1図及び第2図において、1はベッセルで、その分散粉・砕室内に多量のメデイアを内蔵し、・・・、ベッセル1の左端からスラリーを供給してベッセル1内で分散・粉砕処理を行った後右端のセパレーション用のスリットを経て、液出口から排出される。メデイアは例えばジルコニア等のビーズ(直径0.5ミリ前後)が使用されており、ベッセル容量の80?90%が投入可能である。」(第5頁第12行?第6頁第2行)

オ.第1図には「液出口」が記載されている。

カ.第1図、第2図によると、回転スリット板3のベッセル内部分に分離羽根5が同軸に突設されており、第2図には、分離羽根5が回転スリット板3と同じ回転方向に回転するように設けられている。

したがって、甲第4号証には、

「固定スリット片と、固定スリット片内において微小間隙をもって回転する回転スリット板と、ベッセルと、スリット機構前に取り付けて回転スリット板と同じ回転方向に回転する分離羽根と、液出口と、を有するメディア分離機構であって、回転スリット板のベッセル内部分に分離羽根が同軸に突設されており、ベッセルにスラリーが供給され、ベッセル内にメデイアを内蔵し、固定スリット片と回転スリット板との間のセパレーション用のスリットで分離対象物たるメデイアが分離され、第1図、第2図の固定スリット片と液出口を含む領域にメデイアが分離されたスラリーが貯蔵され、スリット機構前に設けられた分離羽根によりメディアの固着化を防止することができるメデイア分離機構」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)対比

本件特許発明3’と甲4発明とを比較すると、甲4発明の、第1図、第2図の固定スリット片と液出口を含む領域が、本件特許発明3’の「排出口を有する選別ケーシング」に相当し、甲4発明の回転スリット板が本件特許発明3’の「回転板」に相当する。また、甲4発明のベッセルは、本件特許発明3’の「液槽」に相当する。
また、甲4発明の分離羽根は、第2図によると突起・板体の突起物といえるものである。

したがって、両者は、「排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、望ましくない状態の防止手段、をそれぞれ設けた混合液が供給される液槽を有する分離装置において、前記防止手段を、突起・板体の突起物とした分離装置における防止装置」という点で一致する。

一方、本件特許発明3’が生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置を対象とするのに対して甲4発明はメディア分離機構におけるメデイアの固着化を防止する防止手段を対象としており、よって、本件特許発明3’においては、排出口が「生海苔排出口」であるのに対し、甲4発明はスラリー排出口であり、液槽に供給される混合液が本件特許発明3’は生海苔・海水混合液であるのに対して、甲4発明はスラリーであり、液槽が、本件特許発明3’では「生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽」であるのに対し甲4発明はスラリーが供給されメディアを内蔵するベッセルであり、分離除去対象物が本件特許発明3’は異物であるのに対して甲4発明はメデイアである点で相違する(相違点1)。

本件特許発明3’の「防止手段」が回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止するのに対し、甲4発明の分離羽根はメデイアの固着化を防止する点で相違する(相違点2)。

本件特許発明3’では「突起物」を「回転板の円周面」に設けるのに対して、甲4発明では回転板と同軸に設けたものである点で相違する(相違点3)。

また、本件特許発明3’は「異物排出口」を有するのに対し、甲4発明はそのような構成を備えていない点で相違する(相違点4)。

(3)判断

ア.相違点1、2、4について

甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

「筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し、この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置」(請求項1)(以下、「甲5発明」という。)。

甲5発明は本件特許発明と同じ生海苔の異物分離除去装置を対象とするものである。甲5発明の筒状混合液タンクは本件特許発明3’の「生海苔混合液槽」に相当し、甲5発明の環状枠板部は本件特許発明3’の「選別ケーシング」を構成するものであり、甲5発明の第一回転板が本件特許発明3’の「回転板」に相当し、甲5発明の底隅部に設けた異物排出口が本件特許発明3’の「異物排出口」に相当する。
従って、甲5発明は、分離対象が本件特許発明と同じく生海苔からの異物であり、液が本件特許発明と同じ生海苔混合液であり、本件特許発明3’の「生海苔混合液槽」を具備している。

また、甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

「海苔抄き作業の前工程において海苔混合液(海苔原藻を切断した生海苔を水に混入したもの)から小エビや小貝等の異物を分離除去する海苔異物分離除去装置に関する。」(段落【0001】)。
「この実施例では、分離ドラム15eの外側の分離室に海苔混合液が供給され、この海苔混合液の生海苔と水が分離孔21eから分離ドラム15e内に流れ、この分離ドラム15e内に流入した異物分離除去後の海苔混合液が排出口3eから排出される。清掃ブラシ44は分離ドラム15eの回転によりブラシ部材47が周壁17eを摺接し、異物や生海苔による各分離孔21eの詰まりを清掃する。」(段落【0013】)

甲第6号証の記載から、生海苔の異物分離除去装置において、生海苔混合液が通過するスリットが異物や生海苔で詰まりやすいことは当業者に知られた事実であり、その詰まりを除去するためにスリットに接するように清掃装置を設置することも実施されていたことといえる。

甲第7号証は湿式微粒分散装置等におけるメディア分離装置に関するものであり(発明の名称)、前記甲4発明と同一の技術分野に属するものである。
そして、第1図(B)には、固定スリット片3と回転スリット板4で構成するスリットの付近に、分散メディア5が堆積している状況が図示されている。
これにより、甲第4号証に記載されるスリット機構におけるメディアの固着化の状況がわかる。

ところで、甲4発明と甲5発明とは、回転板とその周囲に設けた固定部材(甲4発明の固定スリット片、甲5発明の環状枠板部)との間に間隙を設け、この間隙によって分離対象物を分離する点において、両者は共通している。

しかし、甲4発明と、甲5発明とは、それぞれ、微粒状メデイアからのスラリーの分離、及び、異物と生海苔との分離、と技術分野が異なるものである。具体的には、甲4発明における微粒状メデイアは、上記記載事項(1)エにもあるように、ベッセル容量の80?90%もの割合で投入されるジルコニア等の直径0.5ミリ前後のビーズが想定されているのであって、高速回転の分散粉砕ディスクにより当該ビーズを流動させることで、供給した処理対象であるスラリーをせん断力により分散・粉砕処理を施すものである。すなわち、メデイアは、スラリーの分散・粉砕に用いる一定形状・大きさを有するジルコニア等のビーズであるのに対し、甲5発明における異物は、生海苔の異物分離においては、除去されるべき物であって、これを利用して何らかの処理を行うわけではなく、かつ、その形状・大きさも不定形であり、その材質も均質ではないから両者は顕著に異なるものである。
さらに、甲4発明は、メディアによって詰まりを生じているのだから、クリアランスを通過すべきものによって詰まりを生じているわけではなく、クリアランスを通過すべき海苔が詰まりの一因である甲5発明とは、この点でも異なるものである。
そうすると、甲第6号証に記載の、生海苔異物分離除去装置における生海苔の詰まり除去という課題が周知の課題であったとしても、甲4発明のメディア分離機構を、これとは技術分野の異なる生海苔の異物分離であり、装置における分離対象物(メデイアあるいは異物)の機能、及び、形状・大きさ・材質が一定か否かで異なるものであり、さらには、クリアランスの詰まりの原因も、槽内に留まるものであるべきか否かの点で甲4発明とは異なる、甲5発明の生海苔異物分離除去装置に適用するようなことは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
したがって、甲4発明の分離羽根を生海苔の共回りの防止に用いることも当業者が容易に想到するものではなく、異物排出口を備える構成も当業者が容易になし得たものではない。

イ.相違点3について

上記のとおり、甲4発明に対し、甲5発明を組み合わせることは当業者が容易になし得たものではないが、念のため、仮にこれらを組み合わせることを当業者が容易になし得たものであったとして、相違点3について検討することとする。

(ア)請求人は、審判請求書26頁5?9行において、当業者であれば、甲4発明に記載された「メディアの固着化を防止する手段」を、甲5に記載された生海苔の異物分離除去装置に適用することに何らの困難点も存在しないと主張しているので、甲4発明のメディアの固着化を防止する手段、すなわち、甲4発明の「分離羽根」を甲5発明の生海苔の異物分離除去装置に適用する点で容易か否かについて検討する。

甲5発明の生海苔の異物分離除去装置は、図1等からみて、回転板がクリアランスに向かって若干傾斜している構成をなしていることが伺える。
しかしながら、甲4発明の分離羽根を甲5発明におけるクリアランスの詰まりの除去に用いる場合に、当業者がそのような回転板の傾斜に気付いたとしても、甲4発明において、回転板と同軸に設けられ回転板と同方向で回転することで奏功していた分離羽根を、回転板の円周面に設置位置を変更することを動機付けることはできず、この点は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(イ)次に、請求人は、口頭審理陳述要領書26頁22?26行において、当業者であれば、甲4発明の「メディア分離機構」を生海苔異物分離除去装置に適用することは容易である旨の主張をしているので、この観点で相違点3が容易になし得たものであるか否かについても検討する。
検討するに、甲4発明の「メディア分離機構」全体の構成を、甲5発明の生海苔異物分離除去装置に適用する場合に、甲4発明において、メデイアの固着化を防止するために回転板と同軸に設けられていた分離羽根を、回転板と同軸に設置する構成から生海苔の共回りを除去しうるような回転板の円周面に設置位置を変更することの動機付けがあるとは認められない。

したがって、相違点3は、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

(4)小括
したがって、本件特許発明3’は、甲第4?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本件特許発明4について

(1)対比

本件特許発明4と、甲4発明とを比較すると、
両者は、「排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、望ましくない状態の防止手段、をそれぞれ設けた混合液が供給される液槽を有する分離装置において、前記防止手段を、突起・板体の突起物とした、分離装置における防止装置」という点で一致する。

一方、本件特許発明4が生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置を対象とするのに対して甲4発明はメディア分離機構におけるメデイアの固着化を防止する防止手段を対象としており、よって、本件特許発明4においては、排出口が「生海苔排出口」であるのに対し、甲4発明はスラリー排出口であり、液槽に供給される混合液が本件特許発明4は生海苔・海水混合液であるのに対して、甲4発明はスラリーであり、液槽が、本件特許発明4では「生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽」であるのに対し甲4発明はスラリーが供給されメディアを内蔵するベッセルであり、分離除去対象物が本件特許発明4は異物であるのに対して甲4発明はメデイアである点で相違する(相違点1)。

本件特許発明4の「防止手段」が回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止するのに対し、甲4発明の分離羽根はメデイアの固着化を防止する点で相違する(相違点2)。

本件特許発明4では「突起物」を「選別ケーシングと回転板で形成されるクリアランス」に設けるのに対して、甲4発明では回転板と同軸に設けたものである点で相違する(相違点3)。

また、本件特許発明4は「異物排出口」を有するのに対し、甲4発明はそのような構成を備えていない点で相違する(相違点4)。

(2)判断

ア.相違点1、2及び4について

本件特許発明3’において既に述べたように、相違点1、2及び4については、甲4?7より、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ.相違点3について

甲4発明に対し、甲5発明を組み合わせることは、当業者が容易になし得たものではないが、例え、これらを組み合わせることが容易になし得たものであったとしても、上記第7 1.(3)イで述べたのと同様に、回転板と同軸に設けられていたメデイアの固着化を防止するための分離羽根を、回転板と同軸に設置する構成から、「クリアランスの内部」という顕著に異なる位置に設置する構成に変更することの動機付けは見出せないから、ますますもって、相違点3は、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

(3)小括
したがって、本件特許発明4が、甲第4?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本件特許発明5について

1.2.で述べた通り、本件特許発明3、4は、いずれも甲第4?7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3、4を引用する本件特許発明5についても、同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.小括

したがって、本件特許発明3、4、及び本件特許発明5(本件特許発明3、4引用部分)に係る発明は、甲第4?7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とはいえない。


なお、被請求人は、平成24年12月7日付け上申書5頁?11頁(4-1)において、請求人が口頭審理陳述要領書23頁24行?27頁6行に記載した無効理由2に関する記載、すなわち、甲第4号証から引用発明を抽出し、これを主引用発明とするとともに、本件特許発明との対比を行い、その相違点の容易想到性を明確にすべくなされた記載は、請求の理由の要旨変更にあたるから、当該補正は認められない旨の主張をしているが、当該記載事項は、新たな条文上の無効理由が主張されておらず、かつ、拒絶理由を構成する主たる証拠が差し替えられているわけでもないから、被請求人の主張するような請求の理由の要旨変更にはあたるものではない。


第8 無効理由3について

1.本件特許発明3’について

請求人は、本件特許発明3のうち、「突起物を回転板の円周面に設ける構成とした」場合、すなわち、本件特許発明3’について、無効理由3がある趣旨の主張をしているので(審判請求書35頁9?19行等参照)、以下、本件特許発明3’について検討することとする。

(1) 甲第8号証の記載事項

本件特許出願の日前である平成10年4月3日に出願され、本件特許出願後である平成11年10月19日に出願公開公報が発行された特願平10-091901号の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第8号証)には、以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項1】 海苔の原草に含まれる異物を除去して後工程に送るための異物除去装置であって、前記原草を海水または塩水または水等の液との混合液として貯留する原草タンクと、前記混合液の中に一部を浸漬させて前記原草タンク内の原草を異物と分離して吸引する容器と、前記容器が前記混合液の水位よりも上に移動したとき前記原草の吸引方向と逆向きに逆洗する逆洗手段を備えてなる海苔原草の異物除去装置。
【請求項2】 前記容器は、少なくとも側面の一部を開放部とした中空のスクリーンライナと、このスクリーンライナの上端部に回転中心を持ち且つ前記側面に対して前記開放部を含んで水密状に重合配置したフィルタプレートとを備え、このフィルタプレートは、異物の通過を阻止する第1の開度及びこれよりも大きい第2の開度に設定可能であって且つ前記第2の開度から第1の開度に自動復帰可能な可変流路構造を持ち、前記逆洗手段は、前記フィルタプレートが前記混合液の水位から上に抜け出る部分に対峙して配置され海水または塩水または水等の液を前記フィルタプレートの面に向けて噴出するノズルを備え、このノズルの近傍に前記可変流路構造を駆動して第1の開度から第2の開度に設定する駆動機構を備えてなる請求項1記載の海苔原草の異物除去装置。」(特許請求の範囲)

イ.「図において、異物除去装置の本体1の内部は、生海苔の原草を海水または淡水とともに定量供給してその水位をほぼ一定に保つようにした原草タンク1aと、異物を除去した後の原草が送り込まれる回収タンク1bとに区画されている。」(段落【0013】)

ウ.「原草タンク1aには、図1に示すように本体1を貫通する水平軸線の回転支軸3を設ける。・・・。そして、回転支軸3は原草タンク1a内において図示の姿勢に固定されたスクリーンライナ4を貫通して配置され、一体に回転する2枚の円板状のフィルタプレート5,6をそれぞれ連接したものである。」(段落【0015】)

エ.「図4はスクリーンライナ4とフィルタプレート5,6を分解して示す概略斜視図である。」(段落【0016】)

オ.「スクリーンライナ4は、フィルタプレート5,6の外径と同じ内周を持つ劣弧の周壁4aと、この周壁4aの上端どうしを連結する面板4bを形成し、この面板4bの幅を周壁4aよりも短くして段差を持たせたものである。そして、面板4bの幅方向の両面に連ねて周壁4aの内周面の全長に受けリブ4d,4eを形成するとともに、この受けリブ4d,4eの外側をフィルタプレート5,6の外周面を受けるガイドリブ4f,4gとし、周壁4aの下端には移送ポンプ2に流路を接続するためのポート4hを突き出している。なお、スクリーンライナ4は、回転支軸3の回転とは無縁であって図2に示すようにポート4hが常に真下を向く姿勢に保持されるように本体1内に組み込まれる。」(段落【0017】)

カ.「すなわち、図5の(a)に示すように、・・・、フィルタプレート6の周面とガイドリブ4gとの間にクリアランス42を設ける。・・・。また、クリアランス42は原草と海水の混合物の通過は許すが嵩の大きな異物は侵入できないようにしたもので、0.05?0.15mm程度の間隔としたものである。」(段落【0019】)

キ.「また、クリアランス42はきわめて小さいので原草が詰まりやすくなることが予測される。これに対して、フィルタプレート6の外周面にワイパ6eをスポット的に設けることによって、フィルタプレート6が回転するときにこのワイパ6eが原草をかすり取ってその詰まりを排除することができる。
図6は原草の詰まり除去のための別の構成例であって、これはフィルタプレート6の外周面にゴム片等を利用したブラシ6fを設けたものである。このブラシ6fはその一端面をクリアランス42に対応させて配置され、フィルタプレート6が回転していくときにクリアランス42の表面部を慴動する。これにより、ブラシ6fがクリアランス42の中に詰まっている原草に接触してこれを表面側からかすり取っていき、クリアランス42の詰まりを防止する。」(段落【0020】?【0021】)

ク.「このように、フィルタプレート5,6はクリアランス42を介してスクリーンライナ4に取り付けられているので、フィルタプレート5,6はガイドリブ4f,4gからの摺動抵抗を受けることなく回転する。また、クリアランス42による隙間があっても、その大きさを適切にすることで異物がスクリーンライナ4の中に侵入することも防止される。
更に、フィルタプレート5,6には、原草タンク1aから原草をスクリーンライナ4内に導入するための複数のスリット5b,6bを中心から半径方向に向けて放射状に設ける。」(段落【0023】?【0024】)

ケ.「ここで、異物の詰まりを除去する期間を除いては、図9の状態に維持されるように回転子7の角度を規制する。すなわち、同図の(b)に示すように、回転子7はその逃げ面7a-1が一方のテーパ面5cとほぼ連なり、他方のテーパ面5d側のスリット5bの内周面には弁体7aの周面が着座している。そして、図中の拡大図に示すように、逃げ面7a-1と弁体7aの円周面の境界部分と、テーパ面5cとスリット5bとの境界部分との間に、0.2?0.5mm程度の大きさの隙間Gができるようにする。この隙間Gの大きさは、原草タンク1aから原草が海水や淡水とともに流れ抜けていく一方で、藁やその他の異物の通り抜けを阻止するのに好適な値に設定することが好ましい。」(段落【0029】)

コ.「移送ポンプ2を駆動すると、容器Vに対して吸引力を作用させるので、その内部の原草を含む海水が吸引されて回収タンク1bへ圧送する。このとき、容器V内の原草を含む海水は下側へ引かれるように流動するので、外部の原草を含む海水は隙間Gから吸い込まれるように容器Vの中に流れ込む。
隙間Gは先に説明したように0.5mm程度の開口幅としているので、流動性のある原草と海水は通すが、藁やその他の嵩の大きな異物は通り抜けることはできず、これらの異物は隙間G部分に詰まって捕集される。」(段落【0041】?【0042】)

サ.図1には、海苔の異物除去装置の内部構造を示す概略正面図が示され、図2には、概略平面図が示されている。

したがって、甲第8号証には、
「周壁の下端にポート4hが設けられたスクリーンライナ4、クリアランス42を介してスクリーンライナ4に取り付けられているフィルタプレート5、6、生海苔の原草を海水とともに定量供給される原草タンク1a、を有する海苔原草の異物除去装置であって、クリアランスに詰まる原草を排除するためにフィルタプレート6の外周面に設けられたワイパ6eまたはブラシ6fを備えてなる海苔原草の異物除去装置」(以下、「甲8発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2) 対比

本件特許発明3’と、甲8発明とを比較すると、甲8発明の、異物が除去された海苔の原草が通過するスクリーンライナ4は、本件特許発明3’の選別ケーシングに相当し、スクリーンライナの下端に接続されたポート4hは、異物が除去された海苔がスクリーンライナより排出されていく口部といえるから、本件特許発明3’の生海苔排出口に相当する。また、甲8発明のフィルタープレート5,6は、一体に回転するものであるから、本件特許発明3’の回転板に相当し、甲8発明における処理対象の生海苔の原草と海水の混合液を貯留する原草タンク1aは、本件特許発明3’の生海苔混合液槽に相当する。甲8発明のワイパ6e及びブラシ6fは、突起・板体の突起物である防止手段に相当し、当該突起物は、フィルタープレート5,6の外周面に設けられているから、本件特許発明3’の「回転板の円周面」に設ける構成を備えているものである。

したがって、両者は、

「生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、望ましくない状態の防止手段、をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を回転板の円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置」という点で一致する。

一方、本件特許発明3’は、「異物排出口」を有するのに対し、甲8発明は、「異物排出口」を有さない点で両者は相違する(相違点5)。

また、防止手段により防止される望ましくない状態が、本件特許発明3’は、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回り」であるのに対し、甲8発明では、クリアランスへの原草の詰まりである点でも両者は相違する(相違点6)。

(3)判断

ア.相違点5について

生海苔は食品の技術分野に属するものであり、衛生管理の観点から、ある程度の期間使用した後、装置全体を清掃するために、原草タンクから内容物を除去できるような構成を有することが望ましいことは、当業者にとって自明の事項である。
ここで、甲8発明は、生海苔原草と異物の分離に利用する隙間Gに詰まった異物を、逆洗手段により取り除くという構成を備えた発明であって、この点で特徴的な構成である(記載事項ア参照)。
そして、甲第5号証には、タンクの底隅部に異物排出口を設けた生海苔の異物分離除去装置が記載され(特許請求の範囲)、また、甲第6号証は、海苔異物分離除去装置に関するものであって「分離ドラム15ないに溜った異物は側壁16に設けた図示しない取出口の蓋を開放して行う。」(段落【0011】)と記載されていること等から、海苔の異物分離除去装置において異物の排出口を設けることは、当業者の周知技術であったといえる。

しかしながら、本件特許明細書段落【0002】?【0003】には、
「【従来の技術】
この異物分離機構を備えた生海苔異物分離除去装置としては、特開平8-140637号の生海苔の異物分離除去装置がある。その構成は、筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、この回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに、前記筒状混合液タンクに異物排出口を設けたことにある。この発明は、比重差と遠心力を利用して効率よく異物を分離除去できること、回転板が常時回転するので目詰まりが少ないこと、又は仮りに目詰まりしても、当該目詰まりの解消を簡易に行えること、等の特徴があると開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記生海苔の異物分離除去装置、又は回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置においては、・・・・」
と記載されており、本件特許発明3’の従来技術として記載されている発明は、比重差と遠心力を利用して異物を分離除去するものであるが、当該発明を異物排出とは別の点で改良した発明である本件特許発明3’を構成する「異物排出口」は、やはり、遠心力により筒状混合液タンクの周端部近傍に移動した比重の高い異物を除去するために設けられたものであるといえる。
一方、甲8発明は、その概略図である図1、2からも明らかなように、比重差と遠心力を利用して異物を分離除去する構成ではない。
そうすると、例え生海苔という食品を取り扱う装置の清浄化という技術的課題が自明であり、それを解決するための異物排出口が周知技術であったとしても、甲8発明は、比重差と遠心力を利用して異物を分離除去するものではなく、本件特許発明3’とは、その技術思想及び解決しようとする課題が異なるものであるから、異物排出口を設けることが、発明の課題解決のための具体化手段における微差であって、新たな効果を奏するものではない、と認めることはできない。

イ.相違点6について

本件明細書段落【0002】?【0003】に記載されるように、本件特許発明は、特開平8-140637号公報(甲第5号証)の生海苔の異物分離除去装置、又は、回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置といった回転板を高速回転する生海苔異物分離除去装置においてみられる、「共回り」という技術的課題を解決するためになされたものであるから、本件特許発明3’における「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」とは、高速回転をする回転板により発生する技術的課題を解決するものである。

一方、甲第8号証に記載のワイパやブラシは、クリアランスにおける原草の詰まりを排除・防止するものではあるものの、甲第8号証に記載される海苔原草の異物除去装置は、その一部が水中に存在し、残部が空中に出ているという構成(特に【図2】参照)からみて、そもそも回転板を高速回転するものとは考えられないから、本件特許発明における「共回り」を技術的課題として有するものではない。
したがって、甲8発明は、そもそも、回転板の回転とともに回る生海苔の共回りが発生しうる装置構成ではない。

さらに、甲8発明のクリアランス42は、原草と海水の混合物の通過は許すが嵩の大きな異物は侵入できないようにしたものではあるものの(記載事項カ.参照)、フィルタープレート5,6の摺動抵抗を受けることなく回転させるために設けられたものであり(記載事項ク.参照)、甲8発明における海苔の異物除去装置においては、異物と海苔とを分離するために用いる構成は、スリット5b、6bと、回転子7とで構成される隙間Gによるものである(記載事項ケ.コ.参照)。
そうすると、甲8発明のクリアランス42における生海苔の詰まりを、ワイパやブラシが防止あるいは除去するとしても、これらは、異物を分離することを目的とする間隙における詰まりを除去するものではなく、本件特許発明3’の解決するべき課題である「生海苔の共回り」を有するための、選別ケーシング及び回転板で構成される異物分離のためのクリアランスという構成を、甲8発明は有していない。

さらにいえば、ワイパやブラシを設けない場合において、フィルタープレート5,6の回転に伴ってクリアランスに詰まった海苔が移動するという現象が観察されるとしても、スクリーンライナの形状が半円状であることから(特に【図4】参照)、フィルタープレート5,6の回転に伴って移動した海苔は、スクリーングライナが存在しない上方部分に来た段階で、開放されていくものであるから、本件特許発明3’が課題とする「共回り」が装置の構成上、観察されるとは認められない。

したがって、甲8発明のワイパやブラシにより防止される「クリアランスへの原草の詰まり」と、本件特許発明3’の防止手段により防止される「回転板の回転とともに回る生海苔の共回り」とに係る相違点6が、本件特許発明3’と、甲8発明とにおける課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。


(3) 小括
したがって、本件特許発明3’は、甲8発明と同一とはいえない。

2.本件特許発明4について

(1) 対比

本件特許発明4と、甲8発明とを比較すると、甲8発明のワイパ6eは、突起・板体の突起物である防止手段に相当し、かつ、選別ケーシングと回転板で形成されるクリアランスに設けられていると認められる。

したがって、両者は、

「生海苔排出口を有する選別ケーシング、及び回転板、望ましくない状態の防止手段、をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において、前記防止手段を、突起・板体の突起物とし、この突起物を選別ケーシングと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした生海苔異物分離除去装置」という点で一致する。

一方、本件特許発明4は、「異物排出口」を有するのに対し、甲8発明は、「異物排出口」を有さない点で両者は相違する(相違点5)。

また、防止手段により防止される望ましくない状態が、本件特許発明4は、「回転板の回転とともに回る生海苔の共回り」であるのに対し、甲8発明では、クリアランスへの原草の詰まりである点でも両者は相違する(相違点6)。

(2)判断

ア.相違点5について

上記第8 1.(3)アで判断したとおりであるから、本件特許発明4と甲8発明とは、実質的に同一とはいえない。

イ.相違点6について

上記第8 1.(3)イで判断したとおりであるから、本件特許発明4と甲8発明とは、この点でも実質的に同一とはいえない。

3.小括
したがって、本件特許発明3、4に係る発明は、甲第8号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、とはいえない。


第9 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項3ないし5に係る発明の特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2013-02-26 
結審通知日 2013-03-04 
審決日 2013-03-25 
出願番号 特願平10-165696
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A23L)
P 1 123・ 537- Y (A23L)
P 1 123・ 536- Y (A23L)
P 1 123・ 161- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山中 隆幸千葉 直紀  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
登録日 2007-06-08 
登録番号 特許第3966527号(P3966527)
発明の名称 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置  
代理人 松本 直樹  
代理人 田中 久喬  
代理人 内藤 俊太  
代理人 小南 明也  
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