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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない。 H05K |
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管理番号 | 1278369 |
審判番号 | 不服2012-19921 |
総通号数 | 166 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-10-10 |
確定日 | 2013-08-22 |
事件の表示 | 特願2009-500206「フレキシブル多層配線板」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月28日国際公開、WO2008/102795〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、2008年2月20日(優先権主張2007年2月20日、2007年9月26日、日本国)を国際出願日とする出願であって、 平成24年7月2日付け(発送日:平成24年7月10日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年10月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年7月25日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 絶縁層の両面に、銅箔から構成される内層配線が形成された可とう性を有する内層基板と、 前記内層基板の少なくとも片側に配置された、銅箔から構成される外層配線と、 前記内層基板と前記外層配線との間に介在する絶縁接着シートと、を備え、 前記内層基板を有し前記外層配線を有していないフレキシブル部分と、前記内層基板及び前記外層配線を有するリジッド部分と、を有しており、 前記絶縁接着シートは、前記内層基板の、少なくとも前記外層配線が形成されている側の前記フレキシブル部分及び前記リジッド部分の両方を覆うように形成されており、 前記フレキシブル部分においては、前記内層基板が前記絶縁接着シートのみに覆われており、且つ、 前記絶縁接着シートのうちの少なくとも一つは、下記一般式(1a)で表されるジイミドジカルボン酸、下記一般式(1b)で表されるジイミドジカルボン酸、及び、下記一般式(1c)で表されるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物と、下記化学式(2a)、(2b)、(2c)、(2d)又は(2e)で表される芳香族ジイソシアネートとを反応させて得られるポリアミドイミドからなる、 ことを特徴とするフレキシブル多層配線板。 【化1】 [式(1a)中、Z^(1)は下記一般式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)又は(18)で表される2価の有機基を示し、式(1b)中、Z^(2)は下記一般式(21)、(22)、(23)、(24)、(25)又は(26)で表される2価の有機基を示し、式(1c)中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に2価の有機基を示し、R^(3)、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立に炭素数1?20のアルキル基又は炭素数6?18のアリール基を示し、n_(1)は1?50の整数を示す。 【化2】 式(23)中、X^(1)は炭素数1?3の脂肪族炭化水素基、炭素数1?3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示し、R^(7)、R^(8)及びR^(9)は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基を示し、式(24)中、X^(2)は炭素数1?3の脂肪族炭化水素基、炭素数1?3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基又はカルボニル基を示し、式(25)中、X^(3)は炭素数1?3の脂肪族炭化水素基、炭素数1?3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示し、式(27)中、R^(10)はアルキレン基を示し、n_(2)は1?70の整数を示す。]」 なお、上記の「下記一般式(1a)で表される・・・とを反応させて得られる」との記載、【化1】、「式(1a)中、Z1は・・・、n_(1)は1?50の整数を示す」との記載、【化2】、「式(23)中、・・・n_(2)は1?70の整数を示す」との記載で特定される反応のことを、以下、単に「特定の反応」という。 第2 刊行物の記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由で引用した、特開2007-13113号公報(以下、「刊行物1」という。)、「高耐熱接着絶縁材料」、「日立化成テクニカルレポート」、日立化成株式会社、2007年7月、第49号、第11?16頁(以下、「 刊行物2」という。)には、次の事項が図面等とともに記載されている。 (1)刊行物1 (a)「【0001】 本発明は、多層配線板に関する。」 (b)「【0024】 まず、本発明の多層配線板を得るための好適な製造方法について説明する。以下の説明においては、印刷配線板として回路を含むポリイミド基材やエポキシ基材を用い、カバーレイの原料としてBステージの樹脂フィルムを用いた多層配線板の製造方法について、図1を参照して説明する。図1は、多層配線板の製造工程を模式的に示す工程断面図である。 【0025】 すなわち、まず、図1(a)に示すような、任意に折り曲げることが可能な(フレキシブル性の)基材3と、この基材3の両面に設けられた導体回路2(第1の導体回路)とを有する印刷配線板1(第1の印刷配線板)を準備する。 【0026】 次に、図1(b)に示すように、印刷配線板1の両側にBステージの樹脂フィルム4を配置した後、この樹脂フィルム4を導体回路2が覆われるように基材3の表面上に積層する。この際、積層は、樹脂フィルム4が完全に硬化しないように行う。 【0027】 また、上記とは別に、屈曲性を有しない(リジッド性の)基材7の両面に、導体回路5(第2の導体回路)を形成した印刷配線板6(第2の印刷配線板)を準備する。この印刷配線板6は、印刷配線板1の中央部分に対応する領域が不連続となっている。換言すれば、一つの印刷配線板6は、一対の印刷配線板が間隔を空けて並列に配置されてなるものである。 【0028】 次いで、図1(c)に示すように、樹脂フィルム4を積層した印刷配線板1の両側に、印刷配線板6をそれぞれ配置する。2つの印刷配線板6は、それぞれ異なる回路パターンを有しているが、この2つの印刷配線板6は、上記不連続な領域が互いに重なるように配置する。この際、2つの印刷配線板6の上記不連続な領域は、樹脂フィルム4を積層した印刷配線板1における折曲げを必要とする領域と重なるように配置する。これにより、印刷配線板1には、その両面に印刷配線板6が積層されていない領域が形成されることとなる。なお、同図に示すように、印刷配線板6における上記不連続な領域8には、離型性を有する基材9を配置してもよい。 【0029】 それから、上述のように配置した構成を、これらの積層方向に加熱・加圧する。かかる加熱・加圧は、例えば、熱プレスにより行うことができる。これにより、Bステージ状態であった樹脂フィルム4が硬化してCステージとなり、その結果カバーレイ10が形成される。この加熱・加圧後には、離型性を有する基材9は剥離する。なお、例えば、樹脂フィルム4の所定の位置に貫通孔を設けておき、これに導電体を充填する等して、導体回路2及び5間の層間接続を図ってもよい。 【0030】 こうして、図1(d)に示すような、印刷配線板1の両面に、カバーレイ10を介して印刷配線板6が積層された構造を有する多層配線板12が得られる。この多層配線板12において、カバーレイ10は、印刷配線板1と印刷配線板6とを接着する接着剤層11としても機能するものとなる。 【0031】 次に、好適な実施形態に係る多層配線板の構成について、上述した好適な製造方法により得られた図1(d)に示す多層配線板12を例に挙げて説明する。 【0032】 図示されるように、多層配線板12は、印刷配線板1のみから構成される単層の領域と、印刷配線板1と印刷配線板6とが積層された多層の領域とを有する。かかる多層配線板12において、印刷配線板1は、上述の如く任意に折り曲げ可能な基材3を有することから良好な屈曲性(フレキシブル性)を有している。一方、印刷配線板6は、屈曲性を有しない基材7を有することから、屈曲性を有しない(リジッド性の)ものである。したがって、多層配線板12においては、上記単層の領域が屈曲性を有する屈曲領域26となり、上記多層の領域が屈曲性を有しない非屈曲領域36となる。 【0033】 すなわち、多層配線板12は、換言すれば、屈曲性を有する屈曲領域26及び屈曲性を有しない非屈曲領域36を有しており、屈曲性を有する印刷配線板1と、非屈曲領域36において印刷配線板1上に積層された印刷配線板6とを備えた構成を有する。 【0034】 ここで、「屈曲性を有する」とは、少なくとも180°程度の折り曲げが可能であり、折り曲げ後にも顕著な破壊が生じないような特性をいう。一方、「屈曲性を有しない」とは、多層配線板の用途において通常想定される範囲で屈曲しない程度の剛性を有することを意味し、想定外の応力が加わった場合に屈曲してしまうものであっても「屈曲性を有しない」ものに含める。 【0035】 上述した構成を有する多層配線板12において、基材3は、屈曲性を有し、且つ、導体の積層が可能なものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、ポリイミドフィルムやアラミドフィルム等を適用することができる。また、優れた柔軟性及び強度を得る観点からは、基材3としては、繊維基材を含むものが好ましい。 【0036】 繊維基材としては、金属箔張積層板や多層印刷配線板を製造する際に用いられるものであれば、特に制限なく適用でき、例えば、織布や不織布等の繊維基材が好ましい。この繊維基材の材質としては、ガラス、アルミナ、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維や、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維等、或いは、これらの混抄系が挙げられる。なかでも、ガラス繊維の織布が好ましい。 【0037】 特に、基材3を形成するための材料としてプリプレグを用いる場合、このプリプレグに使用される基材としては、50μm以下の厚みを有するガラスクロスが特に好適である。このような厚みが50μm以下のガラスクロスを用いることで、屈曲性を有し、任意に折り曲げ可能な印刷配線板を得ることが容易となる。また、製造プロセスでの温度変化や吸 湿等に伴う寸法変化を小さくすることも可能となる。 【0038】 基材3としては、繊維基材、及び、優れた可とう性を有する絶縁性樹脂を含むものが好ましく、具体的には、絶縁性樹脂中に繊維基材が配された構成を有するものであると好適である。このような基材3は、例えば、繊維基材に硬化前の絶縁性樹脂を含浸させた後、絶縁性樹脂を硬化させることによって得ることができる。基材3の出発材料として、繊維基材に含浸させた絶縁性樹脂が半硬化状態であるプリプレグを用いてもよい。 【0039】 絶縁性樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物を含むことが好ましく、具体的には、硬化状態の熱硬化性樹脂組成物を含むことがより好ましい。この熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン-ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。 【0040】 また、カバーレイ10は、上述の如く、Bステージの樹脂フィルム4を硬化して形成されるものである。このような樹脂フィルム4としては、硬化後に十分な可とう性を有する熱硬化性樹脂組成物を含むものが好ましい。かかる熱硬化性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン-ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等を含むものが好ましい。 【0041】 特に、基材3が、上述したように繊維基材に可とう性に優れる絶縁性樹脂を含むものである場合、かかる絶縁性樹脂に含まれる熱硬化性樹脂組成物と、カバーレイ10を形成するための樹脂フィルム4を構成する熱硬化性樹脂組成物とが同じ樹脂であるとより好ましい。以下、基材3及び樹脂フィルム4に含まれる好適な熱硬化性樹脂組成物について説明する。 【0042】 まず、熱硬化性樹脂組成物としては、・・・(略)・・・。 【0043】 ・・・(略)・・・。 【0044】 ・・・(略)・・・。 【0045】 ・・・(略)・・・。 【0046】 ・・・(略)・・・。 【0047】 ・・・(略)・・・。 【0048】 また、基材3や樹脂フィルム4における熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂としては、可とう性や耐熱性の向上を目的として、高分子量の樹脂成分が含まれていてもよい。このような熱硬化性樹脂としては、アミド基を有する樹脂やアクリル樹脂等が挙げられる。 【0049】 まず、アミド基を有する樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂が好ましく、シロキサン構造を含む構造を有するシロキサン変性ポリアミドイミドが特に好適である。このシロキサン変性ポリアミドイミドは、芳香族環を2個以上有するジアミン(以下、「芳香族ジアミン」という)及びシロキサンジアミンの混合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸を含む混合物と、芳香族ジイソシアネートとを反応させて得られたものであると特に好ましい。」 (c)「【0071】 多層配線板12において、導体回路2及び5は、例えば、金属箔等を公知のフォトリソ法等により所定のパターンに加工することによって形成されたものである。導体回路2,5を形成するための金属箔としては、通常金属張積層板等に用いられる厚み5?200μm程度の金属箔であれば特に制限されない。例えば、銅箔やアルミニウム箔が一般的である。また、このような単独の金属箔のほか、ニッケル、ニッケル-リン、ニッケル-スズ合金、ニッケル-鉄合金、鉛、鉛-スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5?15μmの銅層及び10?300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔や、アルミニウムと銅箔を複合した2層構造の複合箔も適用できる。」 (d)基材3は、段落【0035】?【0038】に挙げられた材料、さらには、基材3の両面の導体回路2を互いに絶縁する必要があるという技術常識に鑑みて、“絶縁性を有する”ものと認められる。 (e)「印刷配線板1のみから構成される単層の領域」(段落【0038】)との記載及び図1(d)の図示内容からみて、屈曲性を有する屈曲領域26は“印刷配線板1を有し導体回路5を有していない”と認められ、さらに、この屈曲性を有する屈曲領域26においては、“印刷配線板1は樹脂シート4のみによって覆われ”ていると認められる。また、「印刷配線板1と印刷配線板6とが積層された多層の領域」(段落【0038】)との記載及び図1(d)の図示内容からみて、屈曲性を有しない非屈曲領域36は、“印刷配線板1及び導体回路5を有する”ものと認められる。 上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると本願すると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 (引用発明) 「絶縁性を有する基材3の両面に、銅箔からなる導体回路2が形成されたフレキシブル性を有する印刷配線板1と、 前記印刷配線板1の両側に配置された、リジッド性の基材7に形成された銅箔からなる導体回路5と、 前記印刷配線板1と前記導体回路5との間に介在する接着剤層11として機能するカバーレイ10を形成する樹脂フィルム4と、を備え 前記印刷配線板1を有し前記導体回路5を有していない屈曲性を有する屈曲領域26と、前記印刷配線板1及び前記導体回路5を有する屈曲性を有しない非屈曲領域36と、を有しており、 前記樹脂シート4は、前記印刷配線板1の両側の全面を覆うように形成されており、 前記屈曲性を有する屈曲領域26においては、前記印刷配線板1が前記樹脂シート4のみによって覆われており、且つ、 前記樹脂シート4は、シロキサン変性ポリアミドイミドからなる、 屈曲性を有する屈曲領域26を備えた多層配線板12。」 (2)刊行物2 (a)第11頁冒頭第1?14行(行数には、表、並びにその表題及び説明を含めていない。以下、同様。) 「電子部品における小型化・軽量化・高密度化の動きに伴い、搭載されるプリント配線板(例えば、多層リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、セラミックパッケージ用配線板)では、基材の薄膜化、配線の高精細化が急速に進んでいる。こうした電子部品の高性能化を実現するために、プリント配線板の接着材料として主に各種エポキシ樹脂系の材料が使用されてきた。しかし、エポキシ樹脂系接着材料を使用したプリント配線板では、接着性、鉛フリーに伴う高温はんだ耐熱性、高精細化のためのレーザー孔開け加工性、耐屈曲性等が問題となってきている。 そこで、これらエポキシ樹脂系接着材料の技術課題を解決するため、新たにポリアミドイミド樹脂系接着材料を開発した。 本報ではベース樹脂の検討経過と開発品KS7003の特性について報告する。KS7003は、密着性、流動性、レーザー加工性、絶縁信頼性および耐リフロー性に優れた熱硬化型の接着材料であり、電子部品の軽薄短小化に対応したプリント配線板用、ハイブリッド配線板用、積層誘電体用および高周波対応部品用の用途に展開できるものと期待している。」 (b)第11頁左下欄第1行?第12頁左上欄5行 「〔1〕緒言 携帯電話やデジタルカメラに代表されるモバイル電子機器の小型化・薄型化・軽量化の動きに伴い、それらに搭載されるプリント配線板(例えば多層プリント配線板、多層フレキシブルプリント配線板、セラミックパッケージ用配線板)や電子部品には、配線の高精細化と信号の高速化に対応した高機能性が要求されている。^(1)?5)) 上記のプリント配線板や電子部品には各種の接着絶縁材料が用いられているが、従来材(エポキシ樹脂系)では、セラミックや液晶ポリマー等への密着性、鉛フリー化に伴う高温はんだ耐熱性、高精細化に対応したレーザー加工性あるいは耐屈曲性等が不足している。 さらに、最近では放熱金属板を有する折り曲げ実装可能なリジッドフレキシブル配線板などのように、製造工程(貼り合せ、レーザー孔開け、メッキ等)が複雑化しているため、工程の簡略化及び異種材との密着を可能とする高機能な接着絶縁材料が求められている。^(6)) そこで、当社では従来から進めているシロキサンセグメントを導入したミクロ相分離構造を有する変性ポリアミドイミド樹脂の研究^(7))の知見を基に密着性、レーザー加工性、流動性、耐リフロー性に優れた特性を有する接着絶縁材料KSシリーズを開発した。^(8)) 本報では、KSシリーズで課題であった反り低減、密着性のさらなる向上を図ったKS7003の開発検討経過とレーザー加工性、流動性、絶縁信頼性、耐リフロー性について評価した結果を報告する。」 (c)第13頁左欄第1行?同頁右欄第8行 「2.2 密着性の向上 次に密着性について検討した結果を示す。・・・(略)・・・。 ・・・(略)・・・ 次にこの樹脂を使ったボンディングシート(以下、KS7003とする)を用いて素材の異なる各種基材への密着性を測定した。KS7003と従来のエポキシ樹脂系接着材(以下、従来品と略す)の密着性の結果を表1に示す。 その結果、KS7003は、有機材料、無機材料、金属に対して良好な密着性を示すことがわかった。」 (d)第15頁左欄第7?13行 「2.6 耐リフロー性 KS7003の耐リフロー性を評価した。試験用基板は、ポリイミドフィルム/KS7003/ポリイミドフィルムの構成で作製した。鉛フリーを想定した最大温度260℃のリフロープロファイルにおける試験後の外観を観察した。耐リフロー性試験結果を表2に示す。 その結果、外観に異常がなく良好な結果が得られた。」 (e)第15頁右欄第6?17行 「2.7 一般特性 KS7003の特長および特性例を表3に示す。 (1)セラミックス、液晶ポリマー、銅箔(光沢面)に高い密着性を示す。 (2)レーザー回路加工性に優れている(製造工程の簡略化可能)。 (3)流動性が低い(ノンフロータイプ)。 (4)絶縁信頼性、耐リフロー性に優れている。 KS7003は、上記特長の他に熱分解温度や絶縁破壊抵抗が高く、比誘電率が低いことが特長である。これらは今後の配線板の薄膜化、ファインピッチ化、信号の高速化などの多様化するニーズに対応することが可能である。」 以上から、遅くとも、刊行物2が発行された2007年7月時点で、密着性、耐熱性や耐屈曲性の不足という課題を解決し、多層フレキシブルプリント配線板に用いることができる「KS7003」と称するポリアミドイミド樹脂系接着材料が公然実施されていたということができる。 第3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「絶縁性を有する基材3」は前者の「絶縁層」に相当し、以下同様に、 「銅箔からなる」「導体回路2」は「銅箔から構成される」「内層配線」に、 「フレキシブル性を有する」「印刷配線板1」は「可とう性を有する」「内層基板」に、 「銅箔からなる」「導体回路5」は「銅箔から構成される」「外層配線」に、 「接着剤層11として機能するカバーレイ10を形成する樹脂フィルム4」及び「樹脂フィルム4」は「絶縁接着シート」に、 「前記印刷配線板1を有し前記導体回路5を有していない」「屈曲性を有する屈曲領域26」は「前記内層基板を有し前記外層配線を有していない」「フレキシブル部分」に、 「屈曲性を有する屈曲領域26を備えた多層配線板12」は「フレキシブル多層配線板」に、それぞれ相当する。 そして、後者の「導体回路2」と前者の「内層配線」が設けられる場所に関して、後者の導体回路2を「前記印刷配線板1の両側に配置」するという構成は、前者の内層配線を「前記内層基板の少なくとも片側に配置」するという構成を充足する。 また、後者の「前記印刷配線板1及び前記導体回路5を有する屈曲性を有しない非屈曲領域36」と前者の「前記内層基板及び前記外層配線を有するリジッド部分」に関し、後者の「前記印刷配線板1及び前記導体回路5を有する」という構成と前者の「前記内層基板及び前記外層配線を有する」という構成は共通しており、また、本願明細書の段落【0021】及び【0022】によれば、前者の「リジッド部分」をどのように解釈するべきかという問題は残るが、後者の「屈曲性を有しない非屈曲領域36」と前者の「リジッド部分」とは、フレキシブル部分以外の部分である点で共通する。 さらに、後者の「樹脂フィルム4」と前者の「絶縁接着シート」が形成される場所・態様に関して、後者の「前記印刷配線板1の両側」という構成は、前者の「内層基板の、少なくとも前記外層配線が形成されている側」という構成を充足する。 後者の「樹脂フィルム4」と前者の「絶縁接着シート」は、「ポリアミドイミド」からなるという点で共通し、また、後者は、前者の絶縁接着シートのうちの「少なくとも一つ」がポリアミドイミドからなるという構成を充足する。 したがって、両者は、本願発明の用語に倣って表現すると、 「絶縁層の両面に、銅箔から構成される内層配線が形成された可とう性を有する内層基板と、 前記内層基板の少なくとも片側に配置された、銅箔から構成される外層配線と、 前記内層基板と前記外層配線との間に介在する絶縁接着シートと、を備え、 前記内層基板を有し前記外層配線を有していないフレキシブル部分と、前記内層基板及び前記外層配線を有する前記フレキシブル部分以外の部分と、を有しており、 前記絶縁接着シートは、前記内層基板の、少なくとも前記外層配線が形成されている側に形成されており、 前記フレキシブル部分においては、前記内層基板が前記絶縁接着シートのみに覆われており、且つ、 前記絶縁接着シートのうちの少なくとも一つは、ポリアミドイミドからなる、 フレキシブル多層配線板。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明は、フレキシブル部分以外の部分が「リジッド部分」であり、絶縁接着シートが内層基板の「前記フレキシブル部分及び前記リジッド部分の両方を覆う」ように形成されているのに対して、引用発明は、フレキシブル部分以外の部分が「屈曲性を有しない非屈曲領域」であり、樹脂フィルムが印刷配線板1の「全面を覆う」ように形成されている点。 [相違点2] 絶縁接着シートの材料であるポリアミドイミドに関し、本願発明は、特定の反応で得られるポリアミドイミドであるのに対して、引用発明では、かかる特定の反応で得られるポリアミドイミドではない点。 第4 判断 (1)相違点1について 本願発明の「リジッド部分」について、「リジッド」とは一般に「堅い」、「剛体の」という意味であり、通常は屈曲しないものをいう。ただ、本願明細書の段落【0021】には、「フレキシブル多層配線板100は、フレキシブル部分Fにおいて主に屈曲するが、リジッド部分Rにおいて屈曲してもよい」と記載されてはいるが、リジッド部分が「屈曲してもよい」とするに過ぎず、リジッド部分として、上記のように通常解せるような屈曲しないものを排除していない。 一方、引用発明の「屈曲性を有しない非屈曲領域」について、刊行物1の段落【0034】には「『屈曲性を有しない』とは、多層配線板の用途において通常想定される範囲で屈曲しない程度の剛性を有することを意味し、想定外の応力が加わった場合に屈曲してしまうものであっても『屈曲性を有しない』ものに含める」と記載されている。 したがって、本願発明の「リジッド部分」も引用発明の「屈曲性を有しない非屈曲領域」も、通常ないし本来は屈曲しないが想定外の応力が加わった場合等において屈曲するものであってもよいという点で格別異なるものではない。 さらにいえば、本願の請求項1には、「前記内層基板及び前記外層配線を有するリジッド部分」と記載されているだけであり、リジッド部分が屈曲するものであることを限定する記載はない。かかる請求項1の記載からすれば、本願発明のリジッド部分が内層基板と外側配線以外の要素をも有することは排除されておらず、現に本願明細書に記載された実施例は、リジッド部分が表面レジスト層40を有している。そして、リジッド部分が有する内層基板と外側配線以外の要素の材料等を限定する記載は請求項1にないところ、内層基板と外側配線以外の要素の材料等によっては、本願発明のリジッド部分は屈曲しにくいもの、すなわち、引用発明の屈曲性を有しない非屈曲領域と同様の、通常ないし本来は屈曲しないが想定外の応力が加わった場合等において屈曲するものとなり得る。 以上のとおり、本願の請求項1の記載及び明細書の記載に基づくと、本願発明の「リジッド部分」と引用発明の「屈曲性を有しない非屈曲領域」とは格別異なるものではない。また、そうすると、本願発明において、内層基板の「前記フレキシブル部分及び前記リジッド部分の両方を覆う」ように絶縁接着シートを形成することと、引用発明において、屈曲性を有する屈曲領域と屈曲性を有しない非屈曲領域とを含めた印刷配線板1の「全面を覆う」ように樹脂フィルム4を形成することとも、格別異なるものではない。したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 仮に、本願発明の「リジッド部分」が屈曲するものに限定されるとしても、以下のとおり、引用発明において、「屈曲性を有しない非屈曲領域」を屈曲するものへと変更することは、当業者が格別の困難性なくなし得た事項に過ぎない。 すなわち、引用発明は、導体回路5がリジッド性の基材7に設けられたものであり、非屈曲領域が印刷配線板1及び導体回路5以外にリジッド性の基材7を有することとなるために、屈曲しにくいものとなっているが、多層配線板を構成するにあたり、屈曲性を有する基板の上に屈曲性を有する基板を設けることは周知技術(例えば、特開2006-93647号公報の段落【0093】、「第2のフレキシブル基板27」、特開平8-236937号公報の図1等の「第2片面フレキシブルプリント配線板22」を参照。)である。そして、配線基板の剛性あるいは屈曲性をどの程度確保するかは、配線基板の使用部位、使用環境等に応じて当業者が適宜決定すればよい事項に過ぎない。よって、引用発明において、多層配線板全体の屈曲性を高めようとし、上記周知技術を適用して、「屈曲性を有しない非屈曲領域36」を屈曲するものへと変更することは、当業者が格別の困難性なくなし得た事項である。 (2)相違点2について 上記「第2」「(2)」のとおり、密着性、耐熱性、耐屈曲性という課題を解決し、多層フレキシブルプリント配線板に用いることができる「KS7003」と称するポリアミドイミド樹脂系接着材料が遅くとも2007年7月時点で公然実施されていた。 そして、本願発明は、絶縁接着シートの材料であるポリアミドイミドが、特定の反応で得られるものであるが、本願明細書に記載された本願発明の実施例においては、そのような特定の反応で得られるポリアミドイミドとして「KS7003」が示されている。 ここで、引用発明は、「屈曲性を有する屈曲領域」を備えているところ、そこに接着剤層として用いられる樹脂シートとしては、「十分な可とう性」(段落【0040】)が求められること、また、配線板に用いる樹脂材料にははんだ付けなどを考慮して耐熱性が求められることが技術常識であることに鑑みれば、引用発明の接着剤層として用いられる樹脂シートの材料として、「KS7003」と称するポリアミドイミド樹脂系接着材料を用いることにより、相違点2に係る本願発明の構成に想到することは、当業者が容易になし得た事項である。 なお、本願は、2007年2月20日付けで出願された特願2007-39300号、及び2007年9月26日付けで出願された特願2007-250028号の明細書等に記載された発明に基づく優先権の主張を伴って出願されたものであるが、特願2007-39300号には、絶縁接着シートを特定の反応で得られるポリアミドイミドで形成する点は記載されていない。よって、絶縁接着シートを特定の反応で得られるポリアミドイミドで形成するという事項は、特願2007-39300号の明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えた部分であり、その超えた部分について特願2007-39300号に基づく優先権主張の効果が認められない。 また、請求人は、審判請求書において、「本願発明1のフレキシブル多層配線板は、繊維基材を含む基材が一切用いられないものであるのに対して、引用文献1に記載された多層配線板は、その構造中にガラスクロス等の『繊維基材』を含む基材が用いられることを前提としたものなのであり、この点で両者は互いに大きく異なっているのです。」(審判請求書第3頁第35?39行)、「本願発明1のような繊維基材を含む基材を用いないフレキシブル多層配線板を得ようとした場合に、そもそも、繊維基材を含む基材を用いることが前提であると考えられる引用文献1に記載の多層配線板を参照すること自体が通常では考え難いことです。ましてや、本願発明1のフレキシブル多層配線板と、引用文献1の多層配線板とでは、上記のような相違があることから、それらに用いられる材料、特に、層間の接続を行うための『絶縁接着シート』や『接着剤層』等が、互いに全く異なるものとなります。」(同第4頁第1?7行)と主張する。 しかしながら、引用発明は「リジッド性の基材7」を有しているが、引用発明において「印刷配線板1」、「接着剤層として機能する樹脂樹脂フィルム4」、「導体回路5」という順番で並ぶ点と、本願発明において「内層基板」、「絶縁接着シート」、「外層配線」という順番で並ぶ点は、互いに共通する構成であり、本願の請求項1の記載に従えば、かかる順番に関して引用発明と本願発明との間に相違するところはなく、また、上記「(1)相違点1について」で言及したとおり、本願の請求項1の記載及び明細書の記載からみれば、本願発明のリジッド部分として、通常解せるような屈曲しないものを排除していないし、リジッド部分が内層基板と外側配線以外の要素をも有することも排除されていないことに鑑みれば、上記主張は、本願の請求項1の記載及び明細書に基づくものではない。 仮に、そうでないとしても、引用発明において、樹脂シートには十分な可とう性が求められるのであるから、「KS7003」と称するポリアミドイミド樹脂系接着材料を用いる動機付けはある。また、屈曲性を有する基板の上に屈曲性を有する基板を設けることも上述のとおり周知技術に過ぎないが、引用発明において、周知技術を適用して印刷配線板1の上にさらに屈曲性を有する基板を設けたとしても、樹脂シートには可とう性が求められるのであるから、「KS7003」を適用する動機付けはある。 (3)本願発明の効果 本願発明が奏する効果は、引用発明、及び公然実施された発明から予測し得る程度のものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び公然実施された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶するべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-06-21 |
結審通知日 | 2013-06-25 |
審決日 | 2013-07-10 |
出願番号 | 特願2009-500206(P2009-500206) |
審決分類 |
P
1
8・
03-
Z
(H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内田 博之 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
中屋 裕一郎 山岸 利治 |
発明の名称 | フレキシブル多層配線板 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 酒巻 順一郎 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 城戸 博兒 |