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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1278836
審判番号 不服2012-9117  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-17 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2007-555661「内燃機関の燃料噴射制御方法およびこの方法を使用する内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開、WO2006/087451、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-530444〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年2月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年2月16日、フランス共和国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月16日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成19年10月10日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出された後、平成23年2月21日付けで拒絶理由が通知され、平成23年8月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成23年8月18日付けで上申書及び手続補正書が提出されたが、平成24年1月10日付けで拒絶査定がなされ、平成24年5月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項5に係る発明は、上記平成23年8月18日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成23年8月17日付けの手続補正書によって補正された明細書並びに平成19年10月10日付けで提出された図面の翻訳文及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項5に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「 【請求項5】
少なくとも気筒(10)と、この気筒内を滑るピストン(30)と、一方の側が前記ピストンの上面に囲まれ、凹状のボウル(32)の中心に配置されたティート(34)および燃料噴射ノズル(22)を有する燃焼室(26)とを有する、直接噴射型の内燃機関において、
前記内燃機関は、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナップ角度(a_(1))を有する噴射ノズル(22)を有し、上式で、CDは気筒(10)の直径であり、Fは、前記噴射ノズルからの燃料ジェットの発射点と上死点(TDC)に対して50度のクランク角度に対応するピストン(30)の位置との間の距離であり、
前記内燃機関は、ピストン(30)がその上死点手前の35度?70度の位置にある場合に第1の燃料量を噴射し、その後少なくとも第2の燃料量を噴射し、前記第1の燃料量が前記第2の燃料量より少ない制御・計算手段(36)をさらに有する、
ことを特徴とする内燃機関。」

3.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-297682号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、燃焼における1サイクルで2回の燃料噴射を行うようにした筒内噴射式内燃機関に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
‥‥(中略)‥‥
【0012】本実施形態の筒内噴射式内燃機関において、図1に示すように、11は燃料タンクであって、燃料フィルタ12及び低圧燃料ポンプ13を有している。
‥‥(中略)‥‥
【0015】ところで、本実施形態において、このECU21は、エンジン回転数Neが所定回転数以上で、負荷Peが中負荷以上の所定運転領域にあるときには、クランクシャフト回転角が圧縮上死点前100°?40°と圧縮上死点近傍にて、インジェクタ18から予備噴射と主噴射を行う2段噴射を実行するようになっている。即ち、ECU21はクランクシャフト回転角が圧縮上死点前100°?40°で予備噴射を行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射を行う。なお、圧縮上死点前に実行される予備噴射による噴射量は、エンジン回転数Neと目標負荷Peに基づき、図示しない予備噴射量マップによって決定されるものであるが、予備噴射時の燃料噴射量は、主噴射時の燃料噴射量よりも少量としている。
【0016】エンジン17の筒内(燃焼室)温度は吸気行程から圧縮行程にかけて上昇し、圧縮上死点で最高温度となり、筒内での自己着火温度は、圧縮行程で筒内圧が高くなるためにこの圧縮行程にかけて下降する。そのため、筒内温度がある程度高くて燃料が気化しやすい一方で、自己着火温度よりも低くて自己着火しにくい時期に予備噴射を行うことで、噴射燃料が直ぐに気化して筒内壁への付着を抑制することができると同時に、飛しょう燃料であるので空気との混合が促進され、一早く希薄な混合気を形成でき、過早着火を免れることができる。特に、中負荷以上の運転領域では、ピストン速度が高速となり、スキッシュ流が増大するため、予備噴射の燃料噴霧が筒内壁へ付着させないような流れを生成し、且つ、この燃料噴霧の流れが対向しているために攪拌が促進されることとなり、これを活用して素早くリーンな混合気を生成して過早着火を抑制できる。
【0017】また、その後、筒内温度が高くて燃料が気化しやすいと共に、自己着火しやすい時期に主噴射を行うことで主噴射燃料が直ぐに気化し、気化した主噴射時の気化燃料が発火することで予備噴射燃料を燃焼させ、燃焼の安定化が図れる。特に、中負荷以上の運転領域では、主噴射による燃料量が多く、拡散燃焼時間が不足して黒煙などがの発生しやすいが、予備噴射により主噴射の燃料量が減少するため、黒煙の発生や窒素酸化物の生成を抑制できる。従って、予備噴射燃料の過早着火を防止できると共に、噴射燃料の筒内壁への付着を抑制し、且つ、黒煙の発生や窒素酸化物の生成を抑制できる。一方で、燃焼圧を減少することで、エンジン17の耐圧限界により制限されていた噴射量を増加させることができ、出力アップが図れる。
【0018】ここで、上述した本実施形態の筒内噴射式内燃機関による予備噴射と主噴射の具体的な噴射時期パターンについて説明する。
【0019】図2に示すように、ECU21はエンジン回転数Neと目標負荷Peとに基づいて現在エンジン17の運転状態がどの運転領域、つまり、低回転低負荷であるパイロット噴射領域A、中回転中負荷以下である主噴射領域B、中回転中負荷以上である予備噴射領域C,Dのいずれにあるかどうかを判定する。そして、運転領域Aでは、エンジン17の圧縮行程の後期にてパイロット噴射Pを行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射Mを行う。従って、主噴射M時の急激な燃焼が抑えられ、振動や騒音を低減できると共に、NOxやHCなどの有害物質の生成を抑制できる。
【0020】一方、運転領域Bでは、エンジン17の圧縮上死点近傍にて主噴射Mのみを行う。また、運転領域C及び運転領域Dでは、エンジン17の圧縮行程の中期にて予備噴射Sを行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射Mを行う。従って、運転領域Cでは、予備噴射Sにより主噴射Mの燃料噴射量が減少するため、黒煙の発生を抑制でき、運転領域Dでは、燃焼圧を減少することでエンジン17の出力アップが図れる。」(段落【0010】ないし【0020】)

(ウ)「【0026】
【発明の効果】以上、実施形態において詳細に説明したように本発明の筒内噴射式内燃機関によれば、内燃機関の中負荷以上の所定運転領域では、主噴射前の圧縮行程中期に少量の燃料を予備噴射し、次いで圧縮上死点近傍にて主噴射を行うこととなり、シリンダライナなどへの噴射燃料の付着を抑制しながらも、燃焼の安定化を図って有害物質の発生を抑制できる。」(段落【0026】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図1及び図2から、以下の事項が分かる。

(エ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1及び図2から、引用文献1には、筒内噴射式内燃機関が記載されていることが分かり、さらに、該筒内噴射式内燃機関は、エンジン回転数Neが所定回転数以上で、負荷Peが中負荷以上の所定運転領域にあるときに、クランクシャフト回転角が圧縮上死点前100°?40°で予備噴射を行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射を行うように制御するECU21を有するものであることが分かる。

(オ)上記(1)(イ)並びに図1及び図2から、引用文献1に記載された筒内噴射式内燃機関において、ECU21は、予備噴射時の燃料噴射量を主噴射の燃料噴射量よりも少量とするものであることが分かる。

(3)引用発明1
上記(1)及び(2)並びに図1及び図2を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「 筒内噴射式内燃機関において、
クランクシャフト回転角が圧縮上死点前100°?40°で予備噴射を行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射を行い、予備噴射の燃料噴射量を主噴射への燃料噴射量よりも少量とするように制御するECU21を有する筒内噴射式内燃機関。」

4.引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-227650号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【請求項1】 シリンダヘッド(2)を備えた少なくとも1つのシリンダ(1)と、このシリンダ内で滑動するピストン(5)と、ガス吸気手段および排気手段(3,4)と、シリンダヘッド(2)に向いているとともに凹形の窪み(8)の中心に配置された突起(7)を有しているピストン(5)の上面(SP)によって一方の側の境界が定められた燃焼室とを有する直噴内燃エンジンにおいて、
シリンダ(1)の直径をCDとし、噴射ノズル(6)からの燃料ジェットの起点と、上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストンの位置との間の距離をFとしたとき、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角(a_(1))で燃料を噴射する少なくとも1つの噴射ノズル(6)を有していることを特徴とする直噴内燃エンジン。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明による直噴内燃エンジンは、シリンダヘッドを備えた少なくとも1つのシリンダと、このシリンダ内で滑動するピストンと、ガス吸気手段および排気手段と、シリンダヘッドに向いているとともに凹形の窪みの中心に配置された突起を有しているピストンの上面によって一方の側の境界が定められた燃焼室とを有する直噴内燃エンジンにおいて、シリンダの直径をCDとし、噴射ノズルからの燃料ジェットの起点と、上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストンの位置との間の距離をFとしたとき、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角で燃料を噴射する少なくとも1つの噴射ノズルを有していることを特徴とする。
【0016】比較的狭いナッペ角を備えた噴射ノズルを用いることは、シリンダ壁の濡れ具合に著しく関係する、噴射された燃料が広範囲にわたって分散することに関連する欠点を防ぐ一方で、燃料噴射回数の選択のための範囲を広くする。このタイプの噴射ノズルは、均質燃焼と呼ばれる燃焼モードに良く適している。」(段落【0015】及び【0016】)

(2)引用文献2記載の事項
上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1及び図2から、以下の事項が分かる。

(ウ)(1)(ア)及び図1から、引用文献2には、シリンダ1と、このシリンダ1内を滑動するピストン5と、一方の側が前記ピストン5の上面に囲まれ、凹形の窪み8の中心に配置された突起7および噴射ノズル6を有する燃焼室とを有する直噴内燃エンジンが記載されていることが分かる。

(エ)(1)(ア)及び(イ)並びに図1から、引用文献2に記載された直噴内燃エンジンは、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角a_(1)を有する噴射ノズル6を有し、上式でCDはシリンダ1の直径であり、Fは、前記噴射ノズル6からの燃料ジェットの起点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストン5の位置との間の距離であることが分かる。

(3)引用発明2
上記(1)及び(2)並びに図1及び図2を参酌すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「シリンダ1と、このシリンダ1内で滑動するピストン5と、一方の側が前記ピストン5の上面に囲まれ、凹形の窪み8の中心に配置された突起7および噴射ノズル6を有する燃焼室とを有する直噴内燃エンジンにおいて、
前記直噴内燃エンジンは、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナッペ角a_(1)を有する噴射ノズル6を有し、上式でCDはシリンダ1の直径であり、Fは、前記噴射ノズル6からの燃料ジェットの起点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に相当するピストン5の位置との間の距離である直噴内燃エンジン。」

5.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「筒内噴射式内燃機関」は、その技術的意義からみて、本願発明における「直接噴射型の内燃機関」及び「内燃機関」に相当する。
また、引用発明1における「圧縮上死点」は、その技術的意義からみて、本願発明における「上死点」に相当するほか、引用発明1における「ECU21」は、その機能及び構成からみて、本願発明における「制御・計算手段」に相当する。
そして、「内燃機関は、ピストンがその上死点手前の所定角度範囲の位置にある場合に第1の燃料量を噴射し、その後少なくとも第2の燃料量を噴射し、前記第1の燃料量が前記第2の燃料量より少ない制御・計算手段を有する」という限りにおいて、引用発明1において筒内噴射式内燃機関は「クランクシャフト回転角が圧縮上死点前100°?40°で予備噴射を行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射を行い、予備噴射の燃料噴射量を主噴射への燃料噴射量よりも少量とするように制御するECU21を有する」ことは、本願発明において「内燃機関は、ピストンがその上死点手前の35度?70度の位置にある場合に第1の燃料量を噴射し、その後少なくとも第2の燃料量を噴射し、前記第1の燃料量が前記第2の燃料量より少ない制御・計算手段を有する」ことに相当する。

したがって両者は、
「 直接噴射型の内燃機関において、
前記内燃機関は、ピストンがその上死点手前の所定角度範囲の位置にある場合に第1の燃料量を噴射し、その後少なくとも第2の燃料量を噴射し、前記第1の燃料量が前記第2の燃料量より少ない制御・計算手段を有する内燃機関。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

〈相違点〉
(a)本願発明において、直接噴射型の内燃機関は、「少なくとも気筒と、この気筒内を滑るピストンと、一方の側が前記ピストンの上面に囲まれ、凹状のボウルの中心に配置されたティートおよび燃料噴射ノズルを有する燃焼室とを有する」ものであって、「2tan^(-1)(CD/2F)以下のナップ角度(a_(1))を有する噴射ノズル(22)を有し、上式で、CDは気筒(10)の直径であり、Fは、前記噴射ノズルからの燃料ジェットの発射点と上死点(TDC)に対して50度のクランク角度に対応するピストン(30)の位置との間の距離であ」るのに対し、引用発明1の筒内噴射式内燃機関は、このような構成を有するものであるか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(b)「内燃機関は、ピストンがその上死点手前の所定角度範囲の位置にある場合に第1の燃料量を噴射し、その後少なくとも第2の燃料量を噴射し、前記第1の燃料量が前記第2の燃料量より少ない制御・計算手段を有する」ことに関し、本願発明においては「内燃機関は、ピストンがその上死点手前の35度?70度の位置にある場合に第1の燃料量を噴射し、その後少なくとも第2の燃料量を噴射し、前記第1の燃料量が前記第2の燃料量より少ない制御・計算手段を有する」のに対し、引用発明1においては筒内噴射式内燃機関は「クランクシャフト回転角が圧縮上死点前100°?40°で予備噴射を行い、その後、圧縮上死点近傍にて主噴射を行い、予備噴射の燃料噴射量を主噴射への燃料噴射量よりも少量とするように制御するECU21を有する」ものである点(以下、「相違点2」という。)。

6.判断
まず、上記相違点1について検討する。
本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「シリンダ1」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「気筒」に相当し、以下同様に、「滑動する」は「滑る」に、「ピストン5」は「ピストン」に、「凹形の窪み8」は「凹状のボウル」に、「突起7」は「ティート」に、「噴射ノズル6」は「燃料噴射ノズル」に、「直噴内燃エンジン」は「直接噴射型の内燃機関」に、「ナッペ角a_(1)」は「ナップ角度」に、「燃料ジェットの起点」は「燃料ジェットの発射点」に、「上死点(TDC)」は「上死点(TDC)」に、「クランクシャフト角」は「クランク角」に、「相当する」は「対応する」にそれぞれ相当する。
したがって、引用発明2を本願発明の用語を用いて表現すると、
「気筒と、この気筒内を滑るピストンと、一方の側が前記ピストンの上面に囲まれ、凹状のボウルの中心に配置されたティートおよび燃料噴射ノズルを有する燃焼室とを有する、直接噴射型の内燃機関において、
前記内燃機関は、2tan^(-1)(CD/2F)以下のナップ角度を有する噴射ノズルを有し、上式で、CDは気筒の直径であり、Fは、前記噴射ノズルからの燃料ジェットの発射点と上死点(TDC)に対して50度のクランク角度に対応するピストンの位置との間の距離である内燃機関。」
であるといえる。
そして、「シリンダライナなどへの噴射燃料の付着を抑制しながらも、燃焼の安定化を図って有害物質の発生を抑制」(上記3.(1)(ウ)参照)する引用発明1において、比較的狭いナッペ角を備えた噴射ノズルを用いることで、「シリンダ壁の濡れ具合に著しく関係する、噴射された燃料が広範囲にわたって分散することに関連する欠点を防ぐ一方で、燃料噴射回数の選択のための範囲を広くする」(上記4.(1)(イ)参照)引用発明2を適用することによって、上記相違点1に係る本願発明の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に相違点2について検討する。
本願発明において、第1の燃料量を噴射する「上死点手前の35度?70度」の範囲は、引用発明1において、予備噴射を行う「圧縮上死点前100°?40°」の範囲にほぼ包含される。そして、本願発明において上記範囲に限定することによって、引用発明1が奏する作用効果に比して顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明における上記数値限定は、当業者の通常の創作能力の範囲内の事項であり、引用発明1において、上記相違点2に係る本願の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、本願発明において、一次燃料噴射は、燃焼騒音を約2dB低減させ、エンジン出力を約4%増大させる顕著な効果があるのに対し、旨を主張している。
しかし、直接噴射型の内燃機関において、主噴射前に予備噴射を行うことによって、燃焼騒音を低減させ、エンジン出力を増大させることは、引用文献1にも記載された事項(上記3.(1)(イ)参照)であるほか、本願発明の奏する効果が格別なものであるとは認められないから、審判請求人の上記主張は失当である。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2007-555661(P2007-555661)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 久島 弘太郎
藤原 直欣
発明の名称 内燃機関の燃料噴射制御方法およびこの方法を使用する内燃機関  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  

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