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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1279100 |
審判番号 | 不服2011-22470 |
総通号数 | 167 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-10-18 |
確定日 | 2013-09-12 |
事件の表示 | 特願2004-306984「接触気相酸化反応を利用した製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月17日出願公開、特開2005-320315〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成16年10月21日 出願(国内優先権主張 優先基礎出願受理日 平成15年10月22日及び平成16年4月9日) 平成22年4月21日 拒絶理由通知 同年6月18日 意見書・手続補正書 平成23年2月8日 拒絶理由通知 同年3月30日 意見書 同年23年7月14日 拒絶査定 同年10月18日 審判請求書 平成25年2月12日 審尋 同年4月22日 回答書 第2 本件発明 本件発明は、平成22年6月18日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載されたとおりと認められ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。 「触媒を充填した固定床多管式反応器を用いた、分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化反応において、 前記反応器における各反応管のガス出口におけるガス圧が絶対圧で0.15MPa以上 であり、 前記反応器における各反応管の触媒充填層が管軸方向に複数の反応帯に分けられていて、 前記触媒の充填は、前記複数の反応帯の少なくとも2つにおいて触媒粒子1個あたりの占有容積が異なる充填であり、かつ、前記複数の反応帯の最もガス入口側の反応帯において不活性物質成形体がその混合率が80容量%以下で混合されている充填である、 ことを特徴とし、 プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコールおよびメチル-t-ブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を原料として用い、前記原料に対応する不飽和アルデヒドを製造する、 接触気相酸化反応を利用した製造方法。」(以下「本件発明1」という。) 第3 原査定の理由 原査定の理由は、本件発明は、本件優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2002-306953号公報(以下「刊行物1」)、特開平4-217932号公報(以下「刊行物2」)、及び特開2003-252820号公報(以下「刊行物3」)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第4 引用刊行物の記載事項 1.刊行物1の記載事項 (1a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、固体粒状物を充填した固定床多管式反応器およびその使用方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、触媒等の固体粒状物を固定床多管式反応器に充填する方法に関する出願は多く、たとえば、特開昭52-3579号公報には、多管式反応器に触媒を充填する際に各反応管の上端開口部から線状鋼を挿入する方法が、また、特開昭62-30545号公報には、多管式反応器にペレット状の触媒を充填する際に空気を反応管下部より流通させる方法が、それぞれ開示されている。さらに、特開昭55-67325号公報および同57-21928号公報には、多管式反応器に触媒を充填する際に用いられる充填装置に関する方法が開示されている。」 (1b)「【0007】 (2)モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含み、プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールおよび/またはメチルターシャリーブチルエーテルを気相で酸化して(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造するための触媒(特開昭50-13308号公報、特開昭64-56634号公報、特公昭56-52013号公報、特公昭56-23969号公報、特開昭59-76541号公報等)。・・・」 (1c)「【0020】 各反応管における固体粒状物の充填による圧力損失は、特に限定されるわけではないが、その平均値(平均圧力損失)に対して、好ましくは85?115%(平均値の±15%以内)、より好ましくは92?108%(平均値の±8%以内)である。この範囲内に設定することにより、長期間に渡り安定して目的生成物の高い収率を維持することができる。反応管間の圧力損失のバラツキが大きいと各反応管に導入される反応ガスの量が不均一となり、特に、長期間の反応の間に固体粒状物の粉化、崩壊あるいは固体粒状物の構成成分の飛散、昇華等が発生する場合、反応管間での圧力損失の変化が異なるため、結果として、目的生成物の収量が低下したり、安定した運転が困難となったりするので、好ましくない。 【0021】 固体粒状物の平均充填層長および平均圧力損失は、固定床多管式反応器の全ての反応管について固体粒状物の充填層長および圧力損失を測定することによって求めることができるが、固定床多管式反応器の全反応管数の5%に相当する数の反応管における充填層長および圧力損失を測定し、得られた平均値を代表値として使用することができる。 本発明において、固体粒状物の充填後の圧力損失は、反応管下部を開放した状態で空気、窒素等のガスを一定流量で反応管上部から導入したときの反応管上部における圧力の値である。その測定条件としては、特に限定はされないが、実際に反応に供されたときの反応管1本当たりの流量を考慮して適宜決定することができる。たとえば、プロピレンを酸化してアクリル酸を製造するための固体粒状物の充填では、圧力損失の測定に際しては、10?100リッター/分(標準状態)の範囲から上記ガスの流量を適宜選ぶことができる。」 (1d)「【0022】 本発明の固定床多管式反応器においては、固体粒状物の充填層での異常発熱(ホットスポット)の抑制あるいは防止のために、活性の異なる複数種の固体粒状物が活性の異なる順で充填されていることが好適である。このような充填を行うための方法としては、特に限定はされないが、たとえば、プロピレン等を酸化する場合に用いられる活性の異なる複数種の触媒を調製する方法を例に挙げると、アルカリ金属等の量および/または種類を変える方法(特公昭63-38331号公報)、反応に不活性な物質で希釈する方法(特公昭53-30688号公報)、触媒の占有容積を変える方法(特開平4-217932号公報、同9-241209号公報)、触媒活性物質の担持率を変える方法(特開平7-10802号公報)等を挙げることができる。これらの方法は1つのみ用いてもよいし、2つ以上の方法を適宜組み合わせて用いることもできる。」 (1e)「【0025】 【実施例】 以下、本発明の実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、転化率および収率は、次のように定義される。 転化率(モル%)=反応した原料のモル数/供給した原料のモル数×100 収率(モル%)=生成した目的生成物のモル数/供給した原料のモル数×100 <参考例1> (触媒の調製) イオン交換水500Lに、硝酸コバルト378kg、硝酸ニッケル172kgおよび硝酸第二鉄95kgを溶解した。別に、硝酸ビスマス138kgを、濃硝酸25Lとイオン交換水100Lからなる硝酸水溶液に溶解した。さらに別に、加熱したイオン交換水1,500Lに、パラモリブデン酸アンモニウム500kgを添加し、攪拌しながら溶解した。得られた水溶液に、上記で別途調製した2つの水溶液を滴下混合し、次いで、硝酸カリウム2.4kgをイオン交換水50Lに溶解した水溶液を添加した。 【0026】 このようにして得られたスラリーを加熱攪拌し、蒸発乾固して乾燥させた。次いで、得られた固形物を粉砕し、得られた粉体に適量の硝酸アンモニウムと水を加え、混練りした後、外径6mm、内径2mm、長さが外径の1.1倍のリング状に成型し、空気流通下、480℃で8時間焼成して、触媒(1)600kgを得た。 この触媒(1)の金属元素組成(酸素は除く。以下同じ。)は次の通りであった。 触媒(1) Mo_(12)Bi_(1.2)Fe_(1)Co_(5.5)Ni_(2.5)K_(0.1 ) また、触媒(1)の嵩密度は0.94g/cm^(3)であった。 【0027】 <参考例2> 参考例1において、硝酸カリウム2.4kgに代え、硝酸セシウム3.2kgとし、リング状成型物の外径を8mmに変更したこと以外は参考例1と同様にし て、触媒(2)を得た。 この触媒(2)の金属元素組成は次の通りであった。 触媒(2) Mo_(12)Bi_(1.2)Fe_(1) Co_(5.5)Ni_(2.5 )Cs_(0.07) また、触媒(2)の嵩密度は0.92g/cm^(3 )であった。」 ・・・ <実施例1> 反応管内径25mm、長さ3000mmの反応管に触媒(1)1Lを充填時間60秒で充填した後、触媒充填層長および圧力損失を測定した。結果を表1に示した。なお、圧力損失の測定に際しては、30L/分(標準状態)の流量の空気を用いた。 【0028】 <実施例2?5および比較例1> 実施例1において触媒(1)1Lの充填時間を各々15、30、45、90、120秒とした以外は実施例1と同様に触媒(1)を充填し、触媒充填層長および圧力損失を測定した。結果を表1に示した。 【0029】 【表1】 」 (1f)「【0030】・・・ <実施例6> 反応管数15,000本(反応管径25mmφ、反応管長3,500mm)からなる固定床多管式反応器に固体粒状物を充填するに際し、反応管下部より、平均粒径8mmφセラミックボール、触媒(2)、触媒(1)の順に、これら各固体粒状物の計画充填層長をそれぞれ200mm、800mm、2200mmとした。ここで、上記セラミックボールとしては市販されているものを使用したが、その嵩密度は1.4g/cm^(3)であった。また、触媒(1)および触媒(2)は、上記参考例1および2の手順に従って、上記固定床多管式反応器に充填するための必要量を数十回に渡って製造したが、その時に得られた触媒(1)および触媒(2)の嵩密度はそれぞれ0.94±0.05g/cm^(3)、0.92±0.06g/cm^(3)の範囲であった。 ・・・ 【0032】 セラミックボール、触媒 (2)、触媒 (1)の順にそれぞれ1L当り45±5秒、75±5秒、60±5秒の充填時間で充填した後、充填層長および圧力損失を測定した結果、充填層長の分布は、平均充填層長に対して±3%、圧力損失分布は、平均圧力損失に対して±7%の範囲であった。 このようにして固体粒状物を充填した反応器に、プロピレン8容量%、酸素15容量%、水蒸気10容量%および窒素等の不活性ガス67容量%からなる混合ガスを反応温度310℃、接触時間2.4秒、反応器入口圧0.2MPa(絶対圧)で導入して、プロピレンの酸化反応を行った。反応初期および8,000時間経過したときの結果を表2に示した。 ・・・ 【表2】 」 2.刊行物2の記載事項 (2a)「【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、不飽和アルデヒドおよび不飽和酸の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、プロピレン、またはイソブチレン、t-ブタノール(ターシヤリーブタノール)およびメチル-t-ブチルエーテル(メチルターシヤリーブチルエーテル)から選ばれる少なくとも1種の化合物を、固定床多管型反応器を用いて、分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和酸、具体的には、アクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法に関する。」 (2b)「【0003】 しかしながら、これら触媒を用いて不飽和アルデヒド、あるいは不飽和アルデヒドと不飽和酸とを工業的に製造するには種々の問題が生じる。 【0004】 これら問題の一つは、触媒層における局部的な異常高温部(ホツトスポツト)の発生である。例えば、工業的には目的生成物の生産性を上げることが要求され、この要求をみたすために、一般的には原料オレフインの濃度を高めたり、あるいは空間速度を高める方法がとられているが、このような高負荷反応条件下では、当該気相接触反応が発熱反応であるため、触媒層にてホツトスポツトが発生して過度の酸化反応が生じる。また、この場合、ホツトスポツト部においては過度の発熱によつて触媒の劣化が生じ、最悪の場合には暴走反応を引き起こすこともある。」 (2c)「【0013】 【課題を解決するための手段】 本発明の気相接触酸化のような発熱反応においては、従来、使用触媒の寸法を大きくすると触媒間の熱伝導が妨げられ、かえつてホツトスポツト部の温度が高くなると考えられていた。しかし、本発明者らの研究にれば、触媒寸法を大きくするとむしろホツトスポツト部の温度が低下すること、また、複数種の寸法の異なる(i.e.占有容積が異なる)触媒を反応管の軸方向に複数個に分割された反応帯に原料ガス入口側より出口側に向かつてより寸法が小さくなるように配置すると上記目的が達成できること、が判明した。」 3.刊行物3の記載事項 (3a)「【0007】 【発明の実施の形態】 以下、本発明を詳細に説明する。固定床多管型反応器を使用する気相接触酸化反応は、Mo-Bi系複合酸化物触媒の存在下で(メタ)アクロレイン又は(メタ)アクリル酸の原料を酸化して主に(メタ)アクロレイン生成する前段反応おとび前段反応で生成した(メタ)アクロレインをMo-V系複合酸化物触媒の存在下で酸化して(メタ)アクリル酸を生成する後段反応とから成る。 【0008】 本発明においては原料としては次の化合物が使用される。すなわち、アクロレインの場合はプロピレン、メタクロレインの場合はイソブチレンが使用される。なお、(メタ)アクロレインは、(メタ)アクリル酸の製造における中間体でもあり、アクリル酸はプロピレンを原料としアクロレインを経由して、メタクリル酸はイソブチレンを原料としメタクロレインを経由して製造することが出来る。更に、アクリル酸の原料としてはプロパンを使用することも出来る。また、分子状酸素含有ガスとしては、通常、空気を使用する。」 (3b)「【0013】 上記気相接触酸化反応に於て、主にアクロレインを製造する前段反応(オレフィンから不飽和アルデヒド又は不飽和酸への反応)で使用されるMo-Bi系複合酸化物触媒は、下記の一般式で表される化合物である。 【0014】 【化1】 Mo_(a)W_(b)Bi_(c)Fe_(d)A_(e)B_(f)C_(g)D_(h)E_(i)O_(x) 【0015】 式中、Moはモリブデン、Wはタングステン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一種の元素、Bはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Cはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも一種の元素、Dは、リン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、ヒ素、ホウ素および亜鉛から選ばれる少なくとも一種の元素、Eは、シリコン、アルミニウム、チタニウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Oは酸素を表す。a、b、c、d、e、f、g、h、i及びxは、それぞれ、Mo、W、Bi、Fe、A、B、C、D、E及びOの原子比を表し、a=12の場合、0≦b≦10、0<c≦10(好ましくは0.1≦c≦10)、0<d≦10(好ましくは0.1≦d≦10)、2≦e≦15、0<f≦10(好ましくは0.001≦f≦10)、0≦g≦10、0≦h≦4、0≦i≦30、xは各元素の酸化状態によって決まる値である。」 (3c)「【0019】 本発明で使用する触媒は、押出し成型法または打錠成型法で成型された成型触媒でもよく、また、炭化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の不活性な担体に触媒成分より成る複合酸化物を担持させてもよい。また、触媒の形状には特に制限はなく、球状、円柱状、リング状、不定形などの何れであってもよい。特にリング状触媒を使用した場合は、ホットスポット部における蓄熱の防止に効果がある。反応管入口に充填される触媒は、下部に充填される触媒と組成および形状が同じであっても異なっていてもよい。 【0020】 上記の触媒は、通常、希釈剤としての不活性物質を混合して使用する。不活性物質は、上記反応条件下で安定であり、原料物質および生成物と反応性が無い物質であれば特に制限されず、具体的には、アルミナ、シリコンカーバイド、シリカ、酸化ジルコニア、酸化チタン等、触媒の担体に使用される物質が好ましい。また、その形状は触媒と同様に制限は無く、球状、円柱状、リング状、不定形などの如何なる形状であってもよい。大きさは、反応管径および圧力損失を考慮して決定する。上記の希釈により、触媒活性を調節でき、異った触媒活性の触媒層を形成することが出来る。」 (3d)「【0026】 実施例1(アクロレインの製造) 反応器として、内径が27mm、長さ5mのステンレススチール製の二重管構造の反応器を使用した。反応触媒として、常法により調製したMo-Bi-Fe系複合酸化物触媒を使用し、触媒に混合する希釈材としてアルミナボ-ルを使用した。触媒とアルミナボ-ルとの混合比率(体積%)を変更し、反応器内に3層から成る触媒層を形成した。すなわち、第1層(原料の入口側)は、層高1m、触媒29%/アルミナボ-ル71%、第2層は、層高1m、触媒44%/アルミナボ-ル56%、第3層(原料の出口側)は、層高2m、触媒87%/アルミナボ-ル13%とした。 【0027】 熱媒体として溶融アルカリ金属硝酸塩(ナイター)を供給して反応器の温度を均一に制御した。そして、プロピレン7mol%、空気70mol%、水蒸気23mol%から成る原料ガスを接触時間3.5秒の条件で反応器に供給し、アクロレインを得た。この際、アクロレインの転化率が98%になる様に熱媒体の温度を調節した。表1に反応条件と共に各触媒層の反応ピーク温度およびアクロレイン及びアクリル酸の収率を示す。 【0028】 実施例2及び比較例1?2(アクロレインの製造) 実施例1において、反応触媒層の形成の際、各層における触媒の割合を表1に示す様に変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。結果を表1に示す。なお、各層の層高は実施例1と同じである。 【0029】 【表1】 」 第5 当審の判断 1.刊行物1記載の発明 刊行物1の摘記(1f)の記載から実施例6には、反応管長3500mmの固定床多管式反応器において、市販の8mmφセラミックボール、触媒(2)、触媒(1)を順に計画充填層長として200mm、800mm、2200mmに充填された前記反応器を用いて、反応器入口圧0.2MPa(絶対圧)でプロピレン、酸素を含む混合ガスを導入して反応させ、表2で示されるようにアクロレインを製造する方法が記載されていると認められる。そして、摘記(1e)における触媒(1),(2)の特定を考慮すると、刊行物1には「反応管長3500mmの固定床多管式反応器において、市販の8mmφセラミックボール、Mo,Bi,Fe,Co,Ni,Csを成分とする外径8mm、内径2mmのリング状に成形したものを焼成した触媒(2)、Mo,Bi,Fe,Co,Ni,Kを成分とする外径6mm、内径2mmのリング状に成形したものを焼成した触媒(1)を順に計画充填層長として200mm、800mm、2200mmに充填された前記反応器を用いて、反応器入口圧0.2MPa(絶対圧)でプロピレン、酸素を含む混合ガスを導入して反応させアクロレインを製造する方法」(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 2.対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 (ア)圧力について 引用発明での反応器入口圧0.2MPaから圧力損失を除くことで、反応器出口圧が算出できることになる。ただし、上記実施例6においては、圧力損失の偏差は示されているが、絶対値としての圧力損失は不明である。したがって、刊行物1の摘記(1e)を参照して、もっとも圧力損失の大きい実施例5の圧力損失の値を用いて低めに見積もることにする。ここで、入口圧から圧力損失を引いた値は、200000Pa-6830Pa=193170Paである。引用発明における容器出口圧は、低く見積もっても0.193MPaと認められる。よって、本件発明1における「各反応器における各反応管のガス出口におけるガス圧が絶対圧で0.15MPa以上」という規定は満たしていると推認できる。 (イ)反応気体の通過方向について 引用発明における触媒(1)、触媒(2)はそれぞれ800mm、2200mmの層をなしており、これらは管軸方向に分けられた複数の反応帯に相当する。 ところで、引用発明においては、3種類の充填物(セラミックボール、触媒(1)、触媒(2))の充填の順序は規定されているものの、触媒(1)層または触媒(2)層のどちらが混合ガスの入口側になるかが特定できない。(刊行物1を精査しても明らかでない。) 刊行物2は、刊行物1の摘記(1d)の中であげられている文献の1つであり、ホットスポットの発生を防ぐために触媒の占有容積を変える方法として例示されている。そこで、刊行物2の摘記(2c)からみて、ホットスポットの発生を防ぐために触媒の占有容積を変える方法は、複数種の占有容積が異なる触媒を反応管の軸方向に複数に分割された反応帯に原料ガス入口側より出口側に向かってより寸法の小さくなるよう配置することと認められるから、引用発明でのガスの入口側は占有容積のより大きい触媒層(2)側であると解される。 (ウ)対比 また、アクロレイン(CH_(2)=CH-CHO)が、原料としてのプロピレン(CH_(2)=CH-CH_(3))に対応する不飽和アルデヒドであることは明らかであるから、本件発明1と引用発明とは、次の点で一致する。 「触媒を充填した固定床多管式反応器を用いた、分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化反応において、 前記反応器における各反応管のガス出口におけるガス圧が絶対圧で0.15MPa以上であり、 前記反応器における各反応管の触媒充填層が管軸方向に複数の反応帯に分けられていて、 前記触媒の充填は、前記複数の反応帯の少なくとも2つにおいて触媒粒子1個あたりの占有容積が異なる充填である、 ことを特徴とし、 プロピレンを原料として用い、前記原料に対応する不飽和アルデヒドを製造する、 接触気相酸化反応を利用した製造方法。」 そして、本件発明1と引用発明とは次の点で相違する。 複数の反応帯のうち最もガス入口側の反応帯において、本件発明1では、「不活性物質成形体がその混合率が80容量%以下で混合されている充填である」のに対して、引用発明では触媒(2)のみの層である点。(以下「相違点」という) 3.相違点についての判断 刊行物3についての摘記から理解できるように、刊行物3に記載の技術もプロピレンからアクロレインを接触気相酸化により製造するものであって(摘記(3a)(3b))、触媒活性を調節するために、反応器のガス入口側の触媒層に希釈物としてアルミナボールを混合率71%で混合する点が具体的に記載されている(摘記(3c)(3d))。 そして、刊行物1の摘記(1d)の内、ホットスポットの抑制のために活性の異なる順で充填させる際の、触媒活性の調節方法として、「反応に不活性な物質で希釈する方法」とあげられており、引用発明において、さらにホットスポットの発生を抑制するために、刊行物3に記載の触媒活性の調節方法を採用し、引用発明の触媒(2)にアルミナボールを混合率71%で混合することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。 さらに、刊行物3の摘記(3c)には、「上記の触媒は、通常、希釈剤としての不活性物質を混合して使用する。」と記載されており、この触媒は引用発明の触媒(2)と同じ機能を有するものであるから、ホットスポットの発生を防ぐ目的で触媒活性を調節するために、引用発明における触媒(2)[及び触媒(1)]の層においても不活性物質を混合して使用することの動機付けがあると認められる。 また、上記相違点により奏される効果に関して、請求人からの回答書を検討しても相乗的な効果を奏する格別のメカニズムがあるとも認められない。引用発明に対して、ホットスポットを抑制する対策を重ねることにより、予測可能な程度の効果を奏するものと認められる。 第6 まとめ したがって、本件発明1は、刊行物1及び刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-07-09 |
結審通知日 | 2013-07-16 |
審決日 | 2013-07-29 |
出願番号 | 特願2004-306984(P2004-306984) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 江間 正起 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 村守 宏文 |
発明の名称 | 接触気相酸化反応を利用した製造方法 |
代理人 | 八田国際特許業務法人 |