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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1279712
審判番号 不服2012-12412  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-02 
確定日 2013-09-26 
事件の表示 特願2007-28764「薄膜半導体の結晶性測定装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年8月21日出願公開,特開2008-191123〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年2月8日を出願日とする出願であって,平成24年1月11日付けで拒絶理由が通知され,同年3月19日付けで手続補正がなされ,同年4月5日付で拒絶査定がされたのに対し,同年7月2日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに,同日付で手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされた。これに対し,平成25年4月9日付けで審尋がなされたが,請求人から回答がなかったものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
所定の基板の表面に形成された半導体からなる薄膜試料の測定部位に対して励起光及び電磁波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出し,その検出データに基いて前記薄膜試料の結晶性を測定する薄膜半導体の結晶性測定装置であって、
前記薄膜試料に対して前記電磁波が照射される側と反対側に配置された導体部材と、
前記導体部材の表面と前記薄膜試料の測定部位との間の距離が,その間の媒質における前記電磁波の波長の略四分の一の距離又はその距離に前記電磁波の波長の整数倍を加えた距離となるように前記薄膜試料を保持する試料保持手段と、
前記試料保持手段により保持された前記薄膜試料に対する前記励起光の照射によって変化する,前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出する電磁波強度検出手段と、
前記電磁波強度検出手段により検出される前記反射波の強度の変化のピーク値を検出する強度ピーク値検出手段と、を備え、
前記試料保持手段は、前記基板が配置されたときに前記電磁波の照射側から見て当該基板全体を含む大きさに形成され且つ前記基板と前記導体部材との間にこれら基板及び導体部材とそれぞれ接するように挿入される固形の誘電体であることを特徴とする薄膜半導体の結晶性測定装置。」(下線は補正箇所を示す)と補正された。

2 補正事項について
(1)補正事項1
補正前の「前記保持手段」を「前記試料保持手段」とする補正は,前記されているのは「試料保持手段」であり「保持手段」との記載はないことから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「改正前の特許法」という。)17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
(2)補正事項2
「前記基板と前記導体部材との間に挿入される固形の誘電体」を「前記基板が配置されたときに前記電磁波の照射側から見て当該基板全体を含む大きさに形成され且つ前記基板と前記導体部材との間にこれら基板及び導体部材とそれぞれ接するように挿入される固形の誘電体」とする補正は,基板と導体部材との間に挿入される固形の誘電体につていて,さらに限定を付加するものである。したがって,改正前の特許法17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)引用刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-196621号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項においては,下記の引用発明の認定で使用した箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体試料の内部欠陥を評価するために、半導体試料中に発生させたキャリアのライフタイムを測定するライフタイム測定装置およびライフタイム測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超大規模集積回路(略称LSI)に代表される半導体デバイスの微細化に伴い、半導体デバイスに使用される半導体ウエハは、より厳しい品質管理が求められる。半導体ウエハを非破壊および非接触で検査する品質管理方法の1つとして、キャリアのライフタイムを測定するマイクロ波光電導減衰法(Microwave Photo Conductive Decay法:略称μ-PCD法)がある。μ-PCD法は、半導体ウエハなどの半導体試料に励起光を照射して、励起された過剰キャリアが再結合して消滅するときのライフタイムを、検出波であるマイクロ波などの電磁波の反射強度が時間的に減衰する減衰の時定数から測定する方法である。このライフタイムが長いほど欠陥や金属汚染などの少ない良い試料と評価することができる。」

(1-イ)「【0030】
・・・・・
半導体試料の厚み寸法の違い、ならびに大きさ、反り、撓みおよびうねりなどの変形がある場合であっても、半導体試料における測定対象となる領域を、定在波の電界強度が極大、または、その付近となるように半導体試料、または、電磁波反射手段を配置することによって、S/N比を可及的に大きくすることができる。これによって半導体試料の全面にわたって同じ精度で簡便で短時間にライフタイムを測定することができる。」

(1-ウ)「【0055】
(発明の実施形態1)
図1から図6を参照しながら、本発明による実施形態1のライフタイム測定装置を説明する。
【0056】
図2は、ライフタイム測定装置のブロック構成図であり、図1、図5、図6は、図2のライフタイム測定装置20の一部を拡大して示す断面図である。図3は、ライフタイム測定装置20を用いてライフタイムを測定する場合のフローチャート、図4は、計測工程1に含まれる各工程のタイムチャートである。
【0057】
ライフタイム測定装置20は、電磁波発振器21、アッテネータ26、サーキュレータ27、導波管28、検出手段29、電磁波反射板24、保持台30、パルス状の電磁波発振器31、および、移動機構32を含んで構成される。ライフタイム測定装置20は、半導体試料23中に発生させた過剰キャリアのライフタイムを測定する装置である。ライフタイムは、パルス状の電磁波により半導体の価電子帯の電子を励起させることにより発生した過剰キャリアの濃度が再結合によって1/eに減衰するまでの時間である。このライフタイムは、不純物などが多いほど短く、これを測定することによって、半導体試料23中の金属不純物および結晶欠陥などを評価することができる。半導体試料23は、半導体装置などの材料として用いられる。したがって、ライフタイム測定装置20で半導体試料23のライフタイムを評価することによって、高品質の半導体試料23を選択することができる。そして高品質の半導体試料23を用いることにより、高品質の半導体装置などを製造することができる。本実施形態1では、半導体試料23として、例えば、厚さが0.7mmのガラス基板上に絶縁層を介して膜厚が100nm程度のアモルファスシリコン薄膜を形成し、エキシマレーザーアニーリングなどの手法でアモルファスから多結晶化したものを用いるが、半導体試料としてはこれに限定されるものではない。
【0058】
電磁波発振器21は、照射手段であって、半導体試料23に発生した過剰キャリアの濃度の変化によって反射率が変化する検出用電磁波22を照射する。電磁波発振器21が出射する検出用電磁波22は、たとえば、出力が200mWであり、周波数が26.5GHzの電磁波である。検出用電磁波22の周波数は、対象とする半導体試料23の材料とパルス光33の波長により決まる侵入長に基づいて、適宜選択して用いることが好ましく、たとえば、10GHz?数100GHz程度が好ましい。導波管28は、電磁波発振器21から発振され、アッテネータ26、サーキュレータ27を通った検出用電磁波22を半導体試料23に導く。
【0059】
パルス光発振器31は、励起手段であって、半導体試料23の半導体層に過剰キャリアを発生させるための励起用電磁波であるパルス光33を照射する。パルス光33は、半導体層の材料に固有のエネルギーギャップ以上のフォトンエネルギーを有し、半導体試料23の価電子帯の電子を充分な数だけ励起できるパワーを有するものであれば良い。パルス光発振器31は、たとえば、1パルス当りのエネルギー10μJ、パルス幅500psおよび繰り返し周波数800Hzのパルス光33を出射する。パルス光発振器31は、たとえば、波長355nmのYAG3倍高調波を出射するレーザ装置を用いた。
【0060】
反射板24は、電磁波反射手段であって、半導体試料23に対して検出用電磁波22の入射側とは反対側に設けられる。反射板24は、検出用電磁波の入射波と半導体試料23を透過して反射板24によって反射された反射波とにより形成された定在波25の電界強度が半導体試料23が配置される位置で極大、あるいは、その付近となるような位置に配置される。反射板24の材料は、導電率の高い金属等の導電体から成る。
・・・・・
【0063】
検出手段29は、電磁波発振器21によって照射された検出用電磁波22の半導体試料23と反射板24による反射波の強度を検出する。検出手段29は、少なくとも検波器を有し、たとえば、オシロスコープ、あるいは、デジタルマルチメーターなどの電圧計でもよい。また検出手段29は、演算手段としても働き、検出される反射波強度の時間変化に基づいて、過剰キャリアのライフタイムを求める。」

(1-エ)「【0071】
検出工程(a3-3)では、照射された検出用電磁波22の半導体試料23、及び、反射板による反射波の合成波の時間による強度変化を検出しその時の保持台、または、半導体試料の位置情報とあわせてデータとして蓄積する。
上記の計測工程1を所定時間行なった後、ステップa4に移る。
【0072】
ステップa4は、演算工程1であって、検出工程(a3-3)で蓄積された複数データから強度変化量の最大値を求め、強度変化量の最大値をとる半導体試料23、および、反射板24の位置情報を求め、保持台30を所定の位置に移動させるためステップa2に戻る。」

(1-オ)「【0079】
図1に示すように、半導体試料23に検出用電磁波22を照射すると、検出用電磁波22の大半は半導体試料23を透過するので、反射板24の表面24aが電磁波の固定端38となる定在波25が形成される。定在波25の電界強度が極大となる位置34は、反射板24の表面24aから検出用電磁波22の実効波長の1/4の位置と、その位置から1/2波長毎に離間する位置となる。したがって、定在波25の電界強度が極大となる位置34は、反射板24の表面24aからの距離をL、検出用電磁波の実効波長をλeffとすると次式(1)によって表すことができる。ここで、nは整数である。」

(1-カ)「【0093】
前述のように本実施形態1では、半導体試料23に対して検出用電磁波22の入射側とは反対側に設けられる反射板24を含んで構成される。反射板24は、半導体試料23を透過した検出用電磁波22を反射する。半導体試料23は、移動手段により検出用電磁波22の定在波25の電界強度の極大位置34、または、その付近に配置される。したがって検出手段29は、検出用電磁波22の反射波強度信号のS/N比を可及的に大きくすることができる。半導体試料23の厚さの違い、ならびに大きさ、反り、撓みおよびうねりなどの変形がある場合であっても、半導体試料23における測定対象となる領域内において、移動手段によりLを調節して定在波25の電界強度の極大位置34、または、その付近となるように配置することによって、測定領域内全体でS/N比を可及的に大きくすることができる。これによって精度良くライフタイムを測定することができる。」

(1-キ)「【0128】
(発明の実施形態4)
図12は、本発明の実施形態4のライフタイム測定装置70の構成を示すブロック図である。図13は、ライフタイム測定装置70を構成する保持台71を拡大して示す斜視図である。本実施形態4のライフタイム測定装置70は、実施形態1から3のライフタイム測定装置20,40,60と類似しており、本実施形態4の構成には前述のライフタイム測定装置20,40,60における対応する構成と同一の参照符号を付し、異なる構成についてだけ説明し、同様の構成については説明を省略する。本実施形態4のライフタイム測定装置70は、実施形態1から3のライフタイム測定装置とは保持台71の構成が異なる。」

(1-ク)「【0137】
(発明の実施形態6)
図15は、実施形態6の保持台84を拡大して示す平面図である。保持台83は、反射板24に対して上下方向Zに変位する支持脚73と、支持脚73の先端部に設けられ、半導体試料23を真空吸着する吸着部81とを含んで構成される。吸着部81は、長方形の額縁状であって、厚み方向一端面部に支持脚73の先端部が機械的に接続される。吸着部81の厚み方向他端面部の周縁部に、半導体試料23を真空吸着する吸着孔82が形成される。吸着部81の内部は、透過部83によって構成される。透過部83は、低誘電率および高剛性の材料から成る。
【0138】
このように保持台83が構成されるので、半導体試料23の裏面23bが、吸着部81の厚み方向他端面部が当接し、保持することができる。また吸着部81と透過部83の両方で、半導体試料23の裏面23bの全体にわたって、支持することができるので、大型の半導体試料23であっても自重などによる撓みが発生することを防ぐことができる。
【0139】
また透過部83は、低誘電率、および、高剛性の材料から成る。したがって半導体試料23における検出用電磁波22が照射される領域に臨む部分が、検出用電磁波22の透過率が高くなるように構成されている。これによって半導体試料23を透過した検出用電磁波22が、不所望に他の物質に吸収され、減衰して反射板24に入射したり、反射板24による反射波が、不所望に他の物質に吸収され、減衰して半導体試料23に入射することを防ぐことができる。したがってS/N比が小さくなることを防ぐことができる。したがって実施形態4,5で示した図13、および、図14に示す保持台83と同様の効果を達成することができる。」
なお,ここで「保持台84」と「保持台83」の記載があるが,保持台「83」は保持台「84」の誤記と認められる。

(1-ケ)「【0145】
半導体試料23は、実施形態1から8に記載した半導体試料23に限定されるものではなく、たとえばバルクの半導体ウエハ、および、ガラス基板などの絶縁性の基板上に薄膜の半導体が形成されたものであっても良い。」

(1-コ)図12には,以下の図が記載されている。


(2)引用発明
図12は(発明の実施形態4)に対応する装置の図面であるが,保持台(図12において「30」)以外は,(発明の実施形態1)についての摘記(1-ウ)?(1-カ)で説明されている装置の構成要素と共通するものである。また,摘記(1-ク)で記載されている(発明の実施形態6)は,図12の装置において,保持台である30を「保持台84」に替えたものである。
なお,摘記(1-キ)では,図12における保持台について「71」の番号が付与されているが,図12では「30」と記載されているため,図12の装置においては「保持台30」と認められる。

上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「半導体試料23に発生した過剰キャリアの濃度の変化によって反射率が変化する検出用電磁波22を照射する電磁波発振器21,
半導体試料23の半導体層に過剰キャリアを発生させるための励起用電磁波であるパルス光33を照射するパルス光発振器31,
半導体試料23に対して検出用電磁波22の入射側とは反対側に設けられ,導電率の高い金属等の導電体から成る反射板24,
半導体試料23を保持する保持台,
電磁波発振器21によって照射された検出用電磁波22の半導体試料23と反射板24による反射波の強度を検出する検出手段29,
を有する,半導体試料の内部欠陥を評価するための,半導体試料中に発生させたキャリアのライフタイムを測定するライフタイム測定装置において,
上記保持台は,反射板24に対して上下方向Zに変位する支持脚73と,支持脚73の先端部に設けられ,半導体試料23を真空吸着する吸着部81とを含んで構成され,吸着部81の内部は,低誘電率および高剛性の材料から成り検出用電磁波22の透過率が高い透過部83によって構成されることにより,吸着部81と透過部83の両方で,半導体試料23の裏面23bの全体にわたって,支持することができるようになっている保持台84であり,
上記検出手段29で検出された反射波の強度について,その時の保持台,または,半導体試料の位置情報とあわせてデータとして蓄積し,蓄積された複数データから強度変化量の最大値を求めるものであり,
上記半導体試料23は,ガラス基板などの絶縁性の基板上に薄膜の半導体が形成されたものであって,移動手段により検出用電磁波22の定在波25の電界強度の極大位置34に配置され,その位置34は,反射板24の表面24aから検出用電磁波22の実効波長の1/4の位置である,ライフタイム測定装置。」(以下,「引用発明」という。)

4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「半導体試料23は,ガラス基板などの絶縁性の基板上に薄膜の半導体が形成されたもの」は,本願補正発明の「所定の基板の表面に形成された半導体からなる薄膜試料」に相当する。

イ 引用発明の「半導体試料23に対して検出用電磁波22の入射側とは反対側に設けられ,導電率の高い金属等の導電体から成る反射板24」は,本願補正発明の「前記薄膜試料に対して前記電磁波が照射される側と反対側に配置された導体部材」に相当する。

ウ 引用発明の「半導体試料23の半導体層に過剰キャリアを発生させるための励起用電磁波であるパルス光33」及び「検出用電磁波22」は,本願補正発明の「励起光」及び「電磁波」に他ならず,それらは「測定部位に対して」照射されるものである。

エ 引用発明における「半導体試料23を保持する保持台」は,本願補正発明における「薄膜試料を保持する試料保持手段」に相当する。

オ 引用発明には,半導体試料23にパルス光33を照射することにより半導体試料23の半導体層に過剰キャリアを発生させ,その過剰キャリアの濃度の変化によって検出用電磁波22の反射率が変化することが記載されており,引用発明の「検出手段29」で検出される「反射波の強度」は,パルス光33の照射によって変化するものであるから,引用発明の「電磁波発振器21によって照射された検出用電磁波22の半導体試料23と反射板24による反射波の強度を検出する検出手段29」は,本願補正発明と同じく「前記励起光の照射により変化する前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出」するもので,本願補正発明の「前記試料保持手段により保持された前記薄膜試料に対する前記励起光の照射によって変化する,前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出する電磁波強度検出手段」に相当する。

カ 引用発明の「半導体試料23は、移動手段により検出用電磁波22の定在波25の電界強度の極大位置34に配置され,その位置34は、反射板24の表面24aから検出用電磁波22の実効波長の1/4の位置である」について,「移動手段」とは引用発明において「反射板24に対して上下方向Zに変位する支持脚73」のことで,これは「半導体試料23を保持する保持台」の一部を構成している。
また,「反射板24の表面24a」と「半導体試料23」の「位置」との距離は,本願補正発明における「前記導体部材の表面と前記薄膜試料の測定部位との間の距離」に相当しており,反射板24の表面24aと半導体試料23の位置との間には,「透過部83」であれ,空間としての空気であれ,「媒質」が存在するものである。
そして,引用発明の「検出用電磁波22の実効波長の1/4」は,本願補正発明の「前記電磁波の波長の略四分の一」のことである。
してみれば,引用発明の「半導体試料23は、移動手段により検出用電磁波22の定在波25の電界強度の極大位置34に配置され,その位置34は、反射板24の表面24aから検出用電磁波22の実効波長の1/4の位置である」ことは,本願補正発明の「前記導体部材の表面と前記薄膜試料の測定部位との間の距離が,その間の媒質における前記電磁波の波長の略四分の一の距離又はその距離に前記電磁波の波長の整数倍を加えた距離となるように前記薄膜試料を保持する」ことに相当する。

キ 引用発明の「強度変化量の最大値」は,本願補正発明の「強度の変化のピーク値」のことであるから,引用発明の「上記検出手段29で検出された反射波の強度について,その時の保持台、または、半導体試料の位置情報とあわせてデータとして蓄積し,蓄積された複数データから強度変化量の最大値を求める」ことは,本願補正発明の「記電磁波強度検出手段により検出される前記反射波の強度の変化のピーク値を検出する強度ピーク値検出手段」が備えられていることに相当する。

ク 引用発明において,「保持台」を構成する「低誘電率および高剛性の材料から成り検出用電磁波22の透過率が高い透過部83」は,「低誘電率」と記載されているものの,それは「誘電体」の範疇に入るものであり,「高剛性の材料から成り検出用電磁波22の透過率が高い」ことから,「固形の誘電体」に相当するものである。そして,それは半導体材料23と反射板24との間に半導体材料23と接するように挿入されているといえるから,引用発明の「反射板24に対して上下方向Zに変位する支持脚73と,支持脚73の先端部に設けられ,半導体試料23を真空吸着する吸着部81とを含んで構成され,吸着部81の内部は,低誘電率および高剛性の材料から成り検出用電磁波22の透過率が高い透過部83によって構成されることにより,吸着部81と透過部83の両方で,半導体試料23の裏面23bの全体にわたって,支持することができるようになっている保持台84」と本願補正発明の「試料保持手段は、前記基板が配置されたときに前記電磁波の照射側から見て当該基板全体を含む大きさに形成され且つ前記基板と前記導体部材との間にこれら基板及び導体部材とそれぞれ接するように挿入される固形の誘電体である」とは,「試料保持手段」として「前記基板と前記導体部材との間に基板と接するように挿入される固形の誘電体」の点で共通するものである。

ケ 本願補正発明における「結晶性」とは,本願明細書の【0002】には「ここでいう結晶性とは,ダングリングボンドに起因する試料中の欠陥の量(欠陥の存在度合い)や結晶粒径のことである。」と記載されており,一方,摘記(1-ウ)には「このライフタイムは、不純物などが多いほど短く、これを測定することによって、半導体試料23中の金属不純物および結晶欠陥などを評価することができる。」と記載されているから,引用発明の「半導体試料の内部欠陥を評価するための、半導体試料中に発生させたキャリアのライフタイムを測定するライフタイム測定装置」は,本願補正発明の「検出データに基いて前記薄膜試料の結晶性を測定する薄膜半導体の結晶性測定装置」に相当する。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「所定の基板の表面に形成された半導体からなる薄膜試料の測定部位に対して励起光及び電磁波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出し,その検出データに基いて前記薄膜試料の結晶性を測定する薄膜半導体の結晶性測定装置であって、
前記薄膜試料に対して前記電磁波が照射される側と反対側に配置された導体部材と、
前記導体部材の表面と前記薄膜試料の測定部位との間の距離が,その間の媒質における前記電磁波の波長の略四分の一の距離又はその距離に前記電磁波の波長の整数倍を加えた距離となるように前記薄膜試料を保持する試料保持手段と、
前記試料保持手段により保持された前記薄膜試料に対する前記励起光の照射によって変化する,前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出する電磁波強度検出手段と、
前記電磁波強度検出手段により検出される前記反射波の強度の変化のピーク値を検出する強度ピーク値検出手段と、
前記試料保持手段として,前記基板と前記導体部材との間に基板と接するように挿入される固形の誘電体と,
を備えた薄膜半導体の結晶性測定装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明の試料保持手段は,「前記基板が配置されたときに前記電磁波の照射側から見て当該基板全体を含む大きさに形成され」,かつ,「基板」及び「導体部材」とそれぞれ接するように挿入されるのに対し,引用発明の保持台は,「前記基板が配置されたときに前記電磁波の照射側から見て当該基板全体を含む大きさに形成され」たもの,「導体部材と接する」とは特定されていない点で相違する。

(2)当審の判断
ア 相違点について
引用発明においては,反射板24の表面24aと半導体試料23の位置との距離が,検出用電磁波22の実効波長の1/4となるように,「上下方向Zに変位する支持脚73」で調整しているのに対し,本願補正発明では,本願明細書【0016】に「前記基板保持部12は,前記試料台10に対してその上側に固定された固形の誘電体であり,前記試料台10(導体部材)の上面と前記薄膜試料20aの測定部位(前記薄膜試料20aの表面)との間の距離が,その間の媒質における前記第1マイクロ波Op1の波長λmの四分の一の距離又はその距離に波長の整数倍を加えた距離(λm/4+n・λm:nは0以上の整数)となるように,前記薄膜試料20aを含む前記試料基板20を保持するものである(前記試料保持手段の一例)。」,本願明細書【0017】に「前記基板保持部12の厚みは,前記試料基板20の既知の厚みに応じて決定される。また,厚みが異なる複数種類の前記試料基板20が測定対象となる場合は,厚みが異なる複数種類の前記基板保持部12を用意して,それを前記試料台10に対して着脱自在(交換可能)に構成し,前記試料基板20の厚みに応じた前記基板保持部12を前記試料台10に対して装着すればよい。」と記載されているように,導体部材の表面と薄膜試料の測定部位との間の距離が,その間の媒質における電磁波の波長の略四分の一になるように,基板と導体部材との間に挿入する「固形の誘電体」の厚さによって調整している。

一方,引用発明のライフタイム測定装置は,一般に,摘記(1-ア)に記載されているように「μ-PCD法」といわれる技術であり,当該技術において,反射マイクロ波の反射強度を最大にするために,半導体材料とマイクロ波を反射する金属面との距離を両者に挟装する石英ガラス板の厚さによって調整することは本出願前周知のことである(特開平2-248061号公報の2頁右下欄12行?3頁左下欄6行,第1図参照)。ここで,石英ガラスは「固形の誘電体」に他ならず,その第1図には,石英ガラス板が,マイクロ波の照射側から見て半導体材料全体を含む大きさに形成されていることが記載されており,さらに,「挟装」との記載及び第1図より,石英ガラスは半導体材料及び金属面とそれぞれ接するように配置されている。

引用発明においては,「上下方向Zに変位する支持脚73」で反射板24の表面24aと半導体試料23の位置との距離を調整するのであるが,試料保持手段として「前記基板と前記導体部材との間に基板と接するように挿入される固形の誘電体」を含むものであるから,上記周知技術を鑑みれば,基板のみならず「導体部材」とも接するように「固形の誘電体」を基板と導体部材との間に挿入し,この「固形の誘電体」の厚さによって反射板24の表面24aと半導体試料23の位置との距離を調整してみようとすることは当業者ならば容易に想到することであり,また,装置の発明においてその構成部品を少なくし簡略化することは当業者ならば常に考慮する一般的な技術課題であるから,「上下方向Zに変位する支持脚73」に替えて「固形の誘電体の厚さ」によって上記距離の調整を行うことは十分に動機付けがあり,当業者が容易になし得ることである。その際,「固形の誘電体」を「前記基板が配置されたときに前記電磁波の照射側から見て当該基板全体を含む大きさに形成」することは,例えば,上記周知技術が記載されいてる特開平2-248061号公報を参酌しても,当業者において格別の創意工夫を必要とすることではない。

イ 本願補正発明の効果について
本願明細書で本願補正発明の効果を,
「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,数nm?数十nm程度の厚みのポリシリコンからなる半導体薄膜や,数μm以下の厚みの単結晶シリコンからなる半導体薄膜(薄膜試料)について,結晶性評価の指標となる測定値(反射電磁波の強度)を,高い空間分解能で(ごく微小な領域を),非破壊及び非接触で,かつ短時間及び高精度で測定できる。」と記載している。
しかしながら,引用例1の摘記(1-ウ)には,測定対象の半導体薄膜として「半導体試料23として、例えば、厚さが0.7mmのガラス基板上に絶縁層を介して膜厚が100nm程度のアモルファスシリコン薄膜を形成し、エキシマレーザーアニーリングなどの手法でアモルファスから多結晶化したもの」が記載されており,さらに,摘記(1-イ)には「半導体試料の厚み寸法の違い、ならびに大きさ、反り、撓みおよびうねりなどの変形がある場合であっても、半導体試料における測定対象となる領域を、定在波の電界強度が極大、または、その付近となるように半導体試料、または、電磁波反射手段を配置することによって、S/N比を可及的に大きくすることができる。これによって半導体試料の全面にわたって同じ精度で簡便で短時間にライフタイムを測定することができる。」と記載されていることから,上記本願補正発明の効果は,引用発明の効果と比較して格別顕著なものとはいえない。
さらに,上記相違点に基づく効果として,本願明細書【0004】に「前記試料保持手段が,例えば前記基材と前記導体部材との間に挿入される固形の誘電体(固体)であることが考えられる。これにより,前記基材を前記導体部材との間に空間を設けて支持する場合に比べ,前記基材に重力による歪が生じにくい。特に,前記基材が大きい(面積が広い)場合,重力による歪が生じやすくなるが,前記試料保持手段によってその歪の発生を防止できる。」,本願明細書【0016】に「図1に示すように,前記基板保持部12は,前記基板20b(基材)と前記試料台10(導体部材)との間に挿入される固形の誘電体であり,その材質は,例えば,ガラスやセラミック等の比較的屈折率の大きな誘電体である。これにより,前記基板保持部12を媒質とするマイクロ波の波長が短くなり,前記基板保持部12としてより厚みの薄い軽量なものを採用できる。」との記載もあるが,前者については摘記(1-ク)に「半導体試料23の裏面23bの全体にわたって、支持することができるので、大型の半導体試料23であっても自重などによる撓みが発生することを防ぐことができる。」と記載されており,後者については,上記周知技術で石英ガラスを採用しており,材質としても何ら格別のものではない。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項に係る発明は,平成24年3月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
所定の基板の表面に形成された半導体からなる薄膜試料の測定部位に対して励起光及び電磁波を照射し,前記励起光の照射により変化する前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出し,その検出データに基いて前記薄膜試料の結晶性を測定する薄膜半導体の結晶性測定装置であって,
前記薄膜試料に対して前記電磁波が照射される側と反対側に配置された導体部材と,
前記導体部材の表面と前記薄膜試料の測定部位との間の距離が,その間の媒質における前記電磁波の波長の略四分の一の距離又はその距離に前記電磁波の波長の整数倍を加えた距離となるように前記薄膜試料を保持する試料保持手段と,
前記試料保持手段により保持された前記薄膜試料に対する前記励起光の照射によって変化する,前記電磁波の前記薄膜試料からの反射波の強度を検出する電磁波強度検出手段と,
前記電磁波強度検出手段により検出される前記反射波の強度の変化のピーク値を検出する強度ピーク値検出手段と、を備え、
前記保持手段は、前記基板と前記導体部材との間に挿入される固形の誘電体であることを特徴とする薄膜半導体の結晶性測定装置。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1の記載事項は,上記「第2」「3 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2」「2 補正事項について」に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明の誤記を訂正し,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,本願補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本願補正発明が,前記「第2」「4 対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2013-07-18 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-12 
出願番号 特願2007-28764(P2007-28764)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 森林 克郎
三崎 仁
発明の名称 薄膜半導体の結晶性測定装置及びその方法  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 櫻井 智  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 悦司  
代理人 櫻井 智  

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