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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B02C
審判 全部無効 2項進歩性  B02C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B02C
管理番号 1279774
審判番号 無効2011-800242  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-21 
確定日 2013-09-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第4431169号「破砕カートリッジおよび破砕カートリッジによる岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕方法」の特許無効審判事件についてされた平成24年 7月 5日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10289号平成25年 5月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4431169号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4431169号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成19年11月12日に出願され、平成21年12月25日に特許権の設定登録がなされたものである。
その後、平成23年11月21日付けで請求人より本件特許発明1及び2について無効審判が請求され、平成24年2月13日(差出日)に被請求人より審判事件答弁書が提出され、同年5月21日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年5月28日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年5月30日付けで被請求人より上申書が提出され、同年6月11日付けで請求人より口頭審理陳述要領書(2)が提出され、同年6月13日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書(2)が提出され、同日に特許庁において口頭審理が行われ、同口頭審理において審理が終結され、同年6月21日付けで請求人より上申書が提出された。
そして、同年7月5日付けで、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決(以下、「一次審決」という。)がなされたところ、請求人は、同年8月10日付けで審決取消訴訟を提起し、知的財産高等裁判所において平成24年(行ケ)第10289号として審理された結果、平成25年5月29日付けで一次審決を取り消す旨の判決が言い渡されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許発明1及び2は、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
高電圧・高電流を発生する高電圧・高電流発生装置に2本の母線を介して接続するための、2本の脚線を有し、主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料を入れたPET容器に線径0.4mmの100mmの長さの銅-ニッケル抵抗細線で短絡した上記2本の脚線の他端を該容器に封入したことを特徴とする岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕用の破砕カートリッジ。
【請求項2】
上記請求項1に記載の破砕カートリッジを岩盤あるいはコンクリート構造物中に挿入し、該破砕カートリッジの脚線に母線を介して2400V、24000Aの高電圧・高電流を520μsec間供給し、脚線先端を短絡する銅-ニッケル抵抗細線に溶融スパークを生起せしめて、スパークから発生の高温の火花により破砕カートリッジに封入したグロー燃料を瞬時に燃焼させ、燃焼から発生する膨張圧力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破砕することを特徴とする岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕方法。」

第3 請求人の主張
1 請求人の主張の概要及び証拠
請求人は、平成23年11月21日付けで審判請求書とともに以下の甲第1ないし7号証を証拠として提出し、平成24年5月21日付けで口頭審理陳述要領書とともに以下の甲第8ないし10号証を証拠として提出した。
その後、同年6月13日に行った第1回口頭審理において甲第2号証、甲第4号証及び甲第7号証ないし甲第10号証を参考資料とする旨陳述し、同年6月21日付けで上申書とともに以下の甲第6-1号証(表紙)及び甲第6-2号証(奥付)を提出した。
そして、「特許第4431169号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との趣旨の審決を求め、以下2の無効理由(以下、「無効理由」という。)により本件特許発明についての特許は、無効とされるべきである旨を主張した。
なお、特許法第36条第6項第2号を根拠条文とする無効理由は、第1回口頭審理調書に記載したとおり、撤回された。

<証拠>
甲第1号証:特許第3328184号公報
甲第3号証:特開平10-325253号公報
甲第5号証:特開平11-257900号公報
甲第6号証:平成11年度地盤工学会北海道支部年次報告会講演集
甲第6-1号証:表紙(当審注:甲第6号証の表紙)
甲第6-2号証:奥付(当審注:甲第6号証の奥付)

<参考資料>
甲第2号証:実験報告書1及び2
甲第4号証:日立造船株式会社カタログ
甲第7号証:株式会社コスモトレードアンドサービスのRCfuelカタログと価格表、及びテクニックジャパンが取り扱うクロッツ社製品の製品注文書
甲第8号証:標準化学用語辞典(社団法人日本化学会編集)の466頁、467頁、480頁、481頁、及び表紙、奥付、岩波理化学事典(当審注:「事典」は「辞典」の誤記である。)(岩波書店発行)の958頁、959頁、976頁、977頁、及び表紙、奥付
甲第9号証:現場技術者のための発破光学(当審注:「光学」は「工学」の誤記である。)ハンドブック(社団法人火薬学会発破専門部会編)の22頁?23頁、56頁?61頁、表紙、日次、及び奥付
甲第10号証:市民公開特別シンポジウム(社団法人資源・素材学会)の211頁、212頁(放電衝撃破砕法の衝撃力メカニズムに関する検討)、及び表紙

2 無効理由
審判請求書、平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書、同年6月11日付け口頭審理陳述要領書(2)及び同年6月21日付け上申書の内容を整理すると、請求人の主張は概ね以下のようになる。

2-1 無効理由1
本件特許発明1及び2では、主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料を使用しているのに対し、甲第1号証に記載された発明では、ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質を使用しているが、甲第2号証より、市販のラジコン用グロー燃料では爆発効果が得られないことから発明の実施ができないのは勿論であるが、仮に市販のラジコン用グロー燃料を改質した燃料にしているのであれば、実質的にニトロメタンの含有量を上げているのであり、甲第1号証記載のニトロメタンなどの爆発性物質と、本件特許発明1及び2に係る爆発効果のあるグロー燃料とは本技術分野における爆発性物質として実質的に同一物と判断される。
また、本件特許の破砕は急激な圧力の発生によって行われるものであり、爆発が生じている。本件特許発明2の「瞬時の燃焼」とは、爆発のことを意味している。
したがって、本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明と同一であるか、仮に同一でないとしても、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきでものである(審判請求書第3及び4ページの理由の要点、同審判請求書第4ページ第9ないし13行並びに平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書第3ページ第12ないし14行を参照。)(以下、「無効理由1」という。)。

2-2 無効理由2
本件特許発明1及び2における発明特定事項である「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」及び「高電圧・高電流発生装置」について、下記のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである(審判請求書第4ページ第14ないし23行及び第21ページ第16行ないし第23ページ第17行を参照。)(以下、「無効理由2」という。)。

(1)発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2に使用する「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルを含有させた市販のラジコン用のグロー燃料」の入手先等、及び配合割合が記載されておらず、このグロー燃料をどのようにして採用し、又は製造するかが理解できず、本件発明である破砕カートリッジを作り、岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕方法を実施することができない(審判請求書第22ページ第24行ないし第28行を参照。)。

(2)本件特許発明1及び2の発明特定事項のうち「高電圧・高電流発生装置」について、発明の詳細な説明の第4頁第16行ないし第18行に「この高電圧・高電流発生装置6は、入力がAC200V、5A、1KVAで充電時間30?40秒であり、出力は2400V、24000A、放電時間520μsecである。」と記載されているのみで、電気回路の仕様の記載がなく、実施例によるデータもない。
24000Aを流すためには、請求人の技術常識をこえる大容量のコンデンサーを組み込んだ電源装置が必要となり、本件の破砕技術において同電流値を採用することは全く非現実的である。また、ここで記載されている520μsecの放電時間は電圧条件および電気回路で決まるものであり、一般的に放電時間を制御することはできない。従い、「24000A、520μsec」の放電実施は、電気回路の仕様の記載がないことから、当業者においても実施することができない(審判請求書第23ページ第1ないし13行を参照。)。

2-3 無効理由3
下記のとおり、本件特許発明1及び2のグロー燃料のニトロメタン、メタノール、オイルの各成分がとりうる範囲全体まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張することはできず、本件特許発明1及び2は発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。そして、その理由の概要は下記のとおりである(審判請求書第23ページ第19行ないし第24ページ第15行を参照。)(以下、「無効理由3」という。)。

本件特許発明1及び2の「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」について、発明の詳細な説明に、「この場合、主成分のニトロメタンは90%以上を含有し、残りが燃料のメタノールおよびオイルからなる。」と記載されているのみで各成分の配合割合の記載がなく、実施例によるデータもない。また、グロー燃料を採用することで、ニトロメタンだけでなくメタノール及びオイルをも成分組成として採用した根拠が、それらの有用性が理解できる程度にまで記載されておらず、メタノールおよびオイルを添加することが有用であることを出願時の技術常識から推認することもできない。これらのことより、本件特許発明1及び2のグロー燃料のニトロメタン、メタノール、オイルのそれぞれの成分がとりうる範囲全体まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張することはできないということがいえる(審判請求書第23ページ第21ないし27行及び第24ページ第5ないし7行を参照。)。

第4 被請求人の主張
1 被請求人の主張の全体概要及び証拠
一方、被請求人は、平成24年2月13日(差出日)に審判事件答弁書とともに乙第1及び2号証を提出し、同年5月28日付けで口頭審理陳述要領書とともに乙第3ないし12号証を提出し、同年5月30日付けで上申書を提出し、同年6月13日付けで口頭審理陳述要領書(2)を提出した。
その後、同年6月13日に行った第1回口頭審理において、乙第1ないし12号証を参考資料とする旨陳述した。
そして、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めるとの主張をするとともに、請求人の主張する無効理由に対して以下の2のように主張した。

<参考資料>
乙第1号証:平成19年8月6日付FAX送信文「ラジコン燃料のヒミツ」(当審注:被請求人から横井特許事務所へのFAX送信のご案内)
乙第2号証:平成19年(当審注:第1回口頭審理調書のとおり被請求人は「平成19年」が「平成21年」の誤記と陳述した。)5月25日付FAX送信文「ニトロメタンの衝撃波及び爆轟波のマッハ反射」(当審注:小岩研業株式会社から横井特許事務所へのFAX送信のご案内)
乙第3号証:東京抵抗細線(株)の各種金属材料の性質及び特性表を表示した被請求人からの弊所(横井特許事務所)へのFAX送信のご案内(計3ページ)
乙第4号証:JIS K 4800 の 1、2、5、31、32、64ページ
乙第5号証:エネルギー物質ハンドブック(社団法人 火薬学会編)目次及び45ページ奥付き(当審注:「奥付き」は「奥付」の誤記である。) 共立出版株式会社 199年(当審注:「199年」は「1999年」の誤記である。)3月1日発行
乙第6号証:製品安全データシート(伸栄商事株式会社)1?5ページ
乙第7号証:http//reforma.blog135.fc2.com/blog-e;try-90.html の1ページ
乙第8号証:新プラズマ技術研究会 H15年11月6日 の 新プラズマ破岩実験の報告1?7ページ
乙第9号証:C.S.KIM カプセル岩盤破砕システム 1ページ
乙第10号証:(株)柳林素材 代表 金 昌 宣 の名詞(当審注:「名詞」は「名刺」の誤記と認める。)の表裏の写し、(株)柳林素材 技術代表 李 俊 寧 の名詞(当審注:「名詞」は「名刺」の誤記と認める。)の表の写し、および総合建設業中山興業株式会社 代表取締役 中山 陽雄 の名詞(当審注:「名詞」は「名刺」の誤記と認める。)の表の写し
乙第11号証:乙第9号証で採取した試料の分析結果報告書で第9号証の使用の実績を証明する書類1ページ
乙第12号証:株式会社コスモトレードアンドサービス(東京都品川区東品川二丁目5番地8号)ウェブサイト「ラジコン総合情報サイト csmo-rc.com」(URL http://www.csmo-rc.com/index.php/startrc/fuel/ )の「ラジコンの燃料のヒミツ」:Vol.2 ”燃料の科学的・物理的性質-1”における[表1]燃料基材の物性値のニトロメタンの水との相溶性(20℃)について記載する1?3ページ

2 被請求人の主張の概要
審判事件答弁書、平成24年5月28日付け口頭審理陳述要領書、同年5月30日付け上申書及び同年6月13日付け口頭審理陳述要領書(2)の内容を整理すると、被請求人の主張は概ね以下のようになる。

2-1 無効理由1について
(1)甲第1号証ないし甲第7号証のいずれにおいても、本件特許発明1及び2における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」、「PET容器」及び「銅-ニッケル抵抗細線」に相当する記載は見られない(審判事件答弁書第2ページ第25行ないし第3ページ第20行及び第14ページ第1ないし6行を参照。)。

(2)甲第1号証ないし甲第7号証のいずれにおいても、本件特許発明2における「2400V、24000Aの高電圧・高電流を520μsec間供給し」に相当する記載は見られない(審判事件答弁書第5ページ第7ないし15行、第14ページ第14ないし20行を参照。)。

(3)「燃焼」は、衝撃波を伴わない反応で、光と熱を生じる反応物質の酸化還元反応である。「爆発」は、光と熱を生じる反応で、衝撃波(detonating explosive)を伴って、急激なガス圧力の発生又は解放によって、爆発音を伴ってガスが膨張する現象からなる物質の酸化還元反応である。本件特許発明2における「グロー燃料を瞬時に燃焼させ」と甲第1号証に記載された「ニトロメタンなどの爆発性物質を爆発させ」とは、前者が「瞬時に燃焼させ」であるのに対し、後者が「爆発させ」であるので、相違する(審判事件答弁書第15ページ第1ないし5行、平成24年5月28日付け口頭審理陳述要領書第2ページ第34及び35行並びに同口頭審理陳述要領書第3ページ第2ないし4行を参照。)。

(4)したがって、本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明と同一でなく、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、無効理由1は理由がない。

2-2 無効理由2について
本件特許発明1及び2における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」及び「高電圧・高電流発生装置」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、無効理由2は理由がない(審判事件答弁書第15ページ第19行ないし第17ページ第7行を参照。)。

2-3 無効理由3について
本件特許発明1及び2は、本件特許明細書の発明な詳細な説明に記載されているものである。
よって、無効理由3は理由がない(審判事件答弁書第17ページ第10ないし16行を参照。)。

第5 当審の判断
1 甲各号証に記載された事項及び発明
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気エネルギーを溶融気化物質(例えば金属細線)に短時間で供給することによりこれを溶融気化させ、その溶融気化に伴う過程の現象(例えば衝撃力)を用いてコンクリート構造物や岩石などの被破壊物を破壊するようにした破壊方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、コンクリート構造物や岩盤などの被破壊物を破壊するための破壊装置には、ダイナマイトを用いる方法がある。」(段落【0001】及び【0002】)

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、雷管には、比較的容易に爆発する火薬が装填されているので、周辺機器の漏洩電流やサージ、雷などが発生すると、雷管にこれらの電流が供給されて爆発してしまう危険があった。
【0005】そこで本発明は、上記課題を解決し得る破壊方法の提供を目的とする。」(段落【0004】及び【0005】)

ウ 「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態に係る被破壊物の破壊方法を説明する。まず、本発明の実施の形態に係る破壊方法を実施するための破壊装置を、図1の全体構成図に基づいて説明する。
【0011】この破壊装置1は、破壊プローブAと、エネルギー供給回路Bとから構成され、破壊プローブAは、被破壊物4に形成した装着孔5に装着する破壊容器6と、この破壊容器6の縮径した開放部に螺合する蓋部材7に対で挿通した電極8と、破壊容器6内で電極8の先端部同士を接続する金属細線(溶融気化物質の一例で、例えば銅:Cuからなる)2と、破壊容器6内に充填された圧力伝達用の破壊用物質(水などの安定性物質や、ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質が用いられる)3とから構成されている。
【0012】前記エネルギー供給回路Bは、各電極8の端子8aに接続された電源装置11と、この電源装置11と一方の端子8aとの間に直列接続されて、電源装置11と両端子8aとの間に並列接続されたコンデンサー14に対し所定量の電気エネルギーを蓄積するよう制御するための充電制御回路12と、この充電制御回路12と一方の端子8aとの間に接続された放電スイッチ13とから構成されている。」(段落【0010】ないし【0012】)

エ 「【0013】次に、上記構成の破壊装置1を用いて被破壊物4を破壊する方法を説明する。例えば、破壊用物質3として水などの安定性物質を用いて破壊プローブAを製作し、これを被破壊物4に形成した装着孔5に装着する。そして、各電極8に導線10を介してエネルギー供給回路Bを接続する。また、一方で充電制御回路12によってコンデンサー14に対し金属細線2が溶融気化するのに必要な所定量の電気エネルギーを蓄積する。
【0014】その後、放電スイッチ13をオンすると、電極8を介してコンデンサー14から金属細線2に電気エネルギーが供給されてこれが溶融気化して急激に体積膨張し、この体積膨張に伴う衝撃力によって、破壊容器6が破壊されるとともに被破壊物4が部分的に破壊したりあるいは亀裂が発生し、一方で、金属細線2が溶融気化するのに伴う現象、すなわち、放電、火花、発熱、体積膨張に伴う衝撃力などで、破壊用物質3も急激に体積膨張(蒸発)するとともにこの破壊用物質3に金属細線2が溶融気化する際の膨張力が伝達され、破壊用物質3が被破壊物4に発生している亀裂に入り込んでこれを押し拡げる。このように、金属細線2および破壊用物質3の膨張に伴う衝撃力でもって被破壊物4が破壊容器6とともに破壊され、あるいは被破壊物4が脆弱化する。
【0015】また、破壊用物質3としてニトロメタンなどの爆発性物質を用いる場合、コンデンサー14に電気エネルギーを蓄積して放電スイッチ13をオンすると、電極8を介してコンデンサー14から金属細線2に電気エネルギーが供給されてこれが溶融気化して急激に体積膨張し、この体積膨張に伴う衝撃力で破壊容器6が破壊されるとともに被破壊物4が部分的に破壊したりあるいは亀裂が発生し、一方で、金属細線2が溶融気化するのに伴う現象、すなわち、放電、火花、発熱、体積膨張に伴う衝撃力などで破壊用物質3が爆発して亀裂を押し拡げる。このように、金属細線2が溶融気化して急激に体積膨張した際の衝撃力および破壊用物質3の爆発力でもって被破壊物4が破壊され、あるいは脆弱化する。」(段落【0013】ないし【0015】)

オ 「【0023】以下に別の実験例を示す。これは、肉圧を1mm、半径(平均半径)20mmに形成した塩化ビニル製の破壊容器6を用い、溶融気化物質を銅製の金属細線2とし、Vc=3000V、C=500μFに設定し、破壊用物質3として100gのニトロメタンを用いて、一軸圧縮強度1000kgf/cm^(2)以上を有した0.5m^(3)の岩石(被破壊物4)を破壊する実験を行ったものである。
【0024】この実験において、金属細線2が溶融気化する際の衝撃力のみで破壊容器6が破壊し、100gのダイナマイトを使用した場合とほぼ同程度の破壊性能でもって岩石を破壊することができた。」(段落【0023】及び【0024】)

カ 「【0032】さらに、上記実施の形態では、破壊用物質3として水などの安定性物質や、ニトロメタンなどの爆発性物質を用いたが、これに限定されるものではなく、「日本産業火薬類会」発行の“新版:産業火薬類”に記載されている火薬類、すなわち、火薬、爆薬および火工品を用いてもよいし、「日本化学会」編“化学便覧”に記載の、火薬類以外の爆発性化合物、硝酸メチル、ニトロ化合物、さらにはガソリン等の燃料を用いてもよく、この場合も上記実施の形態と同様の作用効果を奏し得る。
【0033】上記実施の形態では、破壊容器6はセラミックあるいは塩化ビニル製の例を示したがこれに限定されるものではなく、例えば、木材、紙、他の合成樹脂などの非金属製のもの、あるいは薄厚のアルミニウム、鉄などの金属製のものを用いてもよく、何れの場合も引張強度は分かっているので、その引張強度に応じた衝撃力を得るようコンデンサー14の充電エネルギーWcを設定することにより、破壊容器6をまず破壊し、溶融気化物質が溶融気化するのに伴う現象で、破壊用物質3も急激に体積膨張するとともに被破壊物4に発生している亀裂に入り込んでこれを押し拡げ、被破壊物4を確実に破壊、あるいは脆弱化させることができる。
【0034】
【発明の効果】以上の説明から明らかな通り、本発明は、被破壊物に装着する破壊容器内に挿入した溶融気化物質に対して、コンデンサーから所定量の電気エネルギーを供給することにより溶融気化物質を急激に溶融気化させ、溶融気化物質が溶融気化するのに伴う現象を用いて溶融気化物質の周囲に設けた膨張力伝達用の破壊用物質を体積膨張させて被破壊物を破壊するようにし、溶融気化物質が溶融気化する際に発生する衝撃力F、破壊容器の平均半径r、破壊容器の肉圧t、破壊容器の引張強度σの関係をF・r/t≧σに設定し、また、膨張力伝達用の破壊用物質を体積膨張させて被破壊物を破壊する代わりに、爆発性の破壊用物質を用い、この爆発性の破壊用物質の爆発力を用いて被破壊物を破壊するようにしたので、溶融気化物質の膨張に伴う衝撃力のみで破壊容器が破壊され、溶融気化物質が溶融気化するのに伴う現象で、破壊用物質も急激に体積膨張あるいは爆発するとともにこの破壊用物質が被破壊物に発生している亀裂に入り込んでこれを押し拡げ、溶融気化物質の膨張力および破壊用物質の膨張力あるいは爆発力でもって被破壊物を確実に破壊、あるいは脆弱化させることができ、周辺機器の漏洩電流などが発生したとしても、溶融気化物質が溶融気化するだけの電気エネルギーが供給されない限り破壊用物質が体積膨張あるいは爆発しないので、装置の取り扱いに際しての安全性が著しく向上する。」(段落【0032】ないし【0034】)

キ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示す破壊装置の一部破断全体構成図である。
【図2】同じく衝撃力が放電点を中心として球状に伝播する状態を示した縦断面図である。
【図3】同じく衝撃力が放電点を中心として球状に伝播する状態を示した横断面図である。
【図4】同じく横軸をコンデンサーの充電エネルギーとし縦軸を放電点から平均半径だけ離れた位置での衝撃力としたグラフ図である。」(【図面の簡単な説明】)

ク 上記オ及び図1の記載によれば、エネルギー供給回路は高電圧・高電流を発生するものであることが分かる。

ケ 上記ウ及び図1の記載によれば、金属細線2で接続した対の電極8の他端を破壊容器6に封入していることが分かる。

(2)甲第3、5及び6号証に記載された事項
(2a)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気エネルギーを短時間で供給することにより溶融気化物質(例えば金属細線)を溶融気化させ、その溶融気化に伴う過程の現象を用いて爆発性の破壊用物質を爆発させ、コンクリート構造物や岩石などの被破壊物を破壊するようにした破壊装置に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る破壊装置1は、溶融気化物質の一例として、例えば直径0.3mm に形成したCuからなる金属細線2を急激に溶融気化させて、その溶融気化の過程に伴う現象、すなわち、放電、火花、発熱、気化膨張に伴う衝撃力などで、火薬類(爆発性化合物の範疇に含まれもので、爆発性の破壊用物質の一例)3を爆発させ、被破壊物4を破壊するものである。」(段落【0008】)

(2b)甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気エネルギーを短時間で供給することにより溶融気化物質(例えば金属細線)を溶融気化させ、その溶融気化に伴う過程の現象を用いて爆発性(あるいは可燃性)の破壊用物質を爆発させ、コンクリート構造物や岩石などの被破壊物を破壊するようにした破壊方法に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0012】そして、電気エネルギー供給回路10のコンデンサー14に充電した充電エネルギーを金属細線2に対して短時間(μSオーダー)で供給することにより、金属細線2を急激に溶融気化させ、この金属細線2が溶融気化する際の放電エネルギーおよび体積膨張エネルギーによる衝撃力(金属細線2が溶融気化する過程に伴う一現象で、この現象には他に放電、火花、発熱がある)で、金属細線2の周囲に設けた破壊用物質7の一部を起爆(一次的に爆発)させ、その際の爆発力によって残りの破壊用物質7を連鎖的(二次的)に爆発させ、金属細線2が溶融気化する際の膨張力、および破壊用物質7の起爆力、連鎖的な爆発力によって被破壊物4を破壊する。」(段落【0012】)

ウ 「【0025】図10は、破壊用物質7としてニトロメタンを用い、充電エネルギーW_(c)(コンデンサー充電電圧V_(c))を変化させた際の衝撃力F、すなわち起爆条件Pbのみにより一次的に爆発するニトロメタンの起爆半径L_(b)と、ニトロメタンの起爆力による周囲のニトロメタンの起爆半径L_(b)を示したものである。
【0026】次に、図1および図10に基づいて具体例を示す。金属細線2を破壊容器6の中央に配置してLs1、Ls2ともに2cm、コンデンサー容量500μFとしてコンデンサー充電電圧Vcを変化させた。
【0027】この場合、図に示すように、金属細線2が溶融気化する際の衝撃力Fのみで全てのニトロメタンを爆発させるには約9000Vのコンデンサー充電電圧V_(c)が必要であった。しかし、約6500Vのコンデンサー充電電圧V_(c)で起爆させることにより、残りのニトロメタンが連鎖的(二次的)に爆発し、ニトロメタンが完全に爆発した。なお、6500Vのコンデンサー充電電圧V_(c)で起爆するニトロメタンの範囲は、図10の仮想線で示す部分である。
【0028】そして、6500V以下のコンデンサー充電電圧V_(c)においては、部分的に起爆しないニトロメタンが存在していることになるが、破壊作業の際に所定の爆発力が得られればニトロメタンが残っても問題ない。従って図11に示すように、ニトロメタンの量が一定の場合、上記条件では、コンデンサー充電電圧V_(c)が6500V以下の範囲で制御することにより、ニトロメタン全体の爆発力の調節ができ、現場の状況に対応できる。」(段落【0025】ないし【0028】)

エ 「【0031】図12は、金属細線2に放電される電流Idと発生する衝撃力F、および時間tの関係を示したグラフ図であるが、金属細線2が電極9間を接続している間は短絡状態となっており、図12の二点鎖線で示す回路インピーダンスによって決定される過渡電流を生じる。しかしながら、金属細線2が溶融気化する電気エネルギーが供給されたとき金属細線2が断となり、回路も断となるために、電流Idは実線で示すようになる。また、図13から、金属細線2が断となるときに衝撃力Fが発生することが分かる。」(段落【0031】)

(2c)甲第6号証に記載された事項
甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 第1ページにおける表-1において、「充電電圧」は「9,000Vまで連続可変」と記載されている。

イ 第2ページ第4ないし9行には、「カートリッジは大きく分けて2種類あり、・・・中略・・・パワーアップ用の石油類を充填剤として用いているタイプをパワー型放電カートリッジと呼んでいる。・・・中略・・・さらに金属細線の太さにより3000V?9000Vのものがある。現地実験には、・・・中略・・・3000Vパワー型放電カートリッジ(以下、3000Vパワー)を用いた。」と記載されている。

(3)甲第2、4、7及び8ないし10号証に記載された事項
(3a)甲第2号証に記載された事項
実験報告書1及び2で、グロー燃料およびニトロメタン量を変化させた調整グロー燃料での破砕実験及びニトロメタンおよびメタノールの混合液を使用した破砕実験の結果が記載されている。

(3b)甲第4号証に記載された事項
日立造船株式会社カタログで、放電カートリッジをトンネル(コンクリート構造物)や岩盤に装填することが記載されている。

(3c)甲第7号証に記載された事項
株式会社コスモトレードアンドサービスのRCfuelカタログと価格表、及びテクニックジャパンが取り扱うクロッツ社製品の製品注文書で、ラジコン用グロー燃料のニトロメタンの配合割合が記載されている。

(3d)甲第8号証に記載された事項
「燃焼」及び「爆発」について、次のとおり記載されている。

「燃焼 [combustion] 一般に,熱と光を伴う酸化反応のこと。・・・(略)・・・制御が悪いと火災,爆発のような災害を引き起こす。・・・(略)・・・」(標準化学用語辞典第466ページ)

「爆発 [explosion] きわめて短時間に,圧力の発生または解放によって爆発音を残して容器が破裂したり,気体が膨張して物体の破壊が生じる現象。・・・(略)・・・」(標準化学用語辞典第481ページ)

「燃焼 ・・・(略)・・・光と熱の発生を伴う化学反応で,定圧またはそれに近い条件でおこるものをいい,爆発と区別する。・・・(略)・・・」(岩波理化学辞典第958ページ)

「爆発 ・・・(略)・・・圧力の急激な発生または解放の結果,容器が破裂したり,または気体が急激に膨張して爆発音や破壊作用をともなう現象。・・・(略)・・・化学的爆発をその燃焼速度により爆ごうと爆燃(または燃焼)とに分けることがあり,・・・(略)・・・」(岩波理化学辞典第977ページ)

(3e)甲第9号証に記載された事項
「爆発」、「爆轟」及び「爆燃」について、次のとおり記載されている。

「爆発(explosion):急激な圧力の発生または解放によって,爆発音を伴ってガスが膨張する現象。物理的爆発と化学的爆発があるが,化学的爆発のうち,爆発性物質中で超音速で反応が伝わる現象を爆轟(detonation)といい,その先端には衝撃波が形成される。また,亜音速で反応が伝わる爆発的燃焼を爆燃(deflagration)といい,この場合は衝撃波は伴わない。」(第22ページ第10ないし14行)

(3f)甲第10号証に記載された事項
第211ページ右欄第27行目に「放電衝撃破砕と爆薬は明らかに異なる波形であり,放電衝撃破砕は爆轟のような衝撃圧を発生していないことが確認された。」と記載されている。

2 無効理由1ないし3について
2-1 無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の上記1(1)のアないしケの記載事項及び図面を整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「高電圧・高電流を発生するエネルギー供給回路Bに2本の導線10を介して接続するための、対の電極8を有し、
ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質を充填した
破壊容器6に
銅からなる金属細線で接続した上記対の電極8の他端を該容器に封入した岩盤あるいはコンクリート構造物の破壊用の破壊プローブ。」(以下、「甲1発明1」という。)

「甲1発明1の破壊プローブを岩盤あるいはコンクリート構造物に形成した装着孔に装着し、
破壊プローブの電極8に導線10を介して電気エネルギーを短時間で供給し、
電極8の先端部同士を接続する銅からなる金属細線を溶融気化して放電を生じさせ、
銅からなる金属細線が溶融気化するのに伴う現象、すなわち、放電、火花、発熱、体積膨張に伴う衝撃力などで破壊プローブに充填されたニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質を爆発させ、銅からなる金属細線が溶融気化して急激に体積膨張した際の衝撃力およびニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質の爆発力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破壊する岩盤あるいはコンクリート構造物の破壊方法。」(以下、「甲1発明2」という。)

(2)本件特許発明1について
(2a)対比
本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「エネルギー供給回路B」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「高電圧・高電流発生装置」に相当し、以下、同様に、「導線10」は「母線」に、「対の電極8」は「2本の脚線」に、「充填した」は「入れた」に、「接続」は「短絡」に、「破壊用の破壊ブローブ」は「破砕用の破砕カートリッジ」に、それぞれ、相当する。
また、甲1発明1における「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」は、「破砕用物質」という限りにおいて、本件特許発明1における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」に相当する。
さらに、甲1発明1における「破壊容器6」は、「容器」という限りにおいて、本件特許発明1における「PET容器」に相当し、甲1発明1における「銅からなる金属細線」は、「金属細線」という限りにおいて、本件特許発明1における「銅-ニッケル抵抗細線」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明1とは、
「高電圧・高電流を発生する高電圧・高電流発生装置に2本の母線を介して接続するための、2本の脚線を有し、
破砕用物質を入れた
容器に
金属細線で短絡した上記2本の脚線の他端を該容器に封入した岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕用の破砕カートリッジ。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1a>
「破砕用物質」に関し、本件特許発明1においては、「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」であるのに対して、甲1発明1においては、「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」である点(以下、「相違点1a」という)。

<相違点1b>
「容器」に関し、本件特許発明1においては、「PET容器」であるのに対して、甲1発明1においては、「破壊容器6」である点(以下、「相違点1b」という)。

<相違点1c>
「金属細線」に関し、本件特許発明1においては、「銅-ニッケル抵抗細線」であり、線径が0.4mm、長さが100mmであるのに対して、甲1発明1においては、「銅からなる金属細線」であり、線径及び長さも不明である点(以下、「相違点1c」という)。

(2b)相違点1aないし1cについての容易想到性の有無の判断
(2b1)相違点1aに係る容易想到性の有無の判断について
ア 本件特許発明1における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」の技術的意義
本件特許発明1は,ダイナマイトのような許可を要する火薬類の代替として、非火薬の「グロー燃料」の燃焼による膨張圧を破壊力として使用して、岩盤やコンクリート構造物を破砕することを目的とする発明である(本件特許明細書の段落【0006】等を参照。)。
「グロー燃料」の破壊力は、「主成分」とされるニトロメタンの燃焼による膨張圧により生じると解するのが自然である。
他方、本件特許明細書には、その他の成分である「メタノールおよびオイル」の作用については、何らの記載がない。
ところで、破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けることは、解体現場において一般的に行われている。他方、請求項1記載の「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」は、ニトロメタンの含有率が高い市販の「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」に限定されるものではなく、ニトロメタンの含有率の低い市販の「ニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」にニトロメタンを添加することによって得られる「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」を含むものと解するのが相当である。そして、上記のとおり、破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けることが、解体現場において一般的に行われていることに照らすならば、ニトロメタンの含有率の低い市販の「ニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」にニトロメタンを添加することによって調整された「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」も、解体現場において用いられていることが合理的に認められる。

イ 甲1発明1におけるニトロメタンの技術的意義
甲第1号証には、破壊容器に充填される爆発性物質あるいは可燃性物質として、ニトロメタンが例示されているが(段落【0011】、【0015】及び【0032】等を参照。)、ニトロメタンの純度については何ら記載されていない。しかし、上記のとおり、一般に、破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けることは、解体現場において一般的に行われていることからすれば、成分調整されていない純度100%のニトロメタンのみが記載の対象とされていると解すべきでなく、成分調整されたニトロメタンについても記載の対象とされていると解するのが自然である。
また、甲1発明1の「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」に代えて、本件特許発明1の「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」を用いることで、破壊用薬剤としての作用効果に差異は認められず、そのような破壊用薬剤を生成するための材料として「ラジコン用のグロー燃料」を用いることも、単に、市販されている既存品の一つを選択したにすぎないというべきである。

ウ 小括
以上によれば、相違点1aに係る本件特許発明1の発明特定事項は,当業者が容易に想到し得たものである。

(2b2)相違点1bに係る容易想到性の有無の判断について
甲1発明1の「破壊容器」として合成樹脂のものが例示されている以上(甲第1号証の段落【0033】を参照。)、甲1発明1の「破壊容器」と合成樹脂の一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた本件特許発明1の「PET容器」との間に実質的な差異はない。
以上によれば、相違点1bに係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものである。

(2b3)相違点1cに係る容易想到性の有無の判断について
発熱のための金属細線として、銅製の細線を用いることも銅?ニッケル製の細線を用いることもいずれも周知である。
そして、放電破砕においても、金属細線は発熱を前提としたものであるから、周知技術としての銅?ニッケル製の細線を採用することに格別の困難性は認められない。
また、本件特許明細書においても、「銅?ニッケル抵抗細線3が溶融スパークし、高温で大衝撃力の火花が発生し」(段落【0017】を参照。)と記載されているにとどまり、銅-ニッケル製を用いることによる格別の作用効果については何ら記載されていない。
以上によれば、相違点1cに係る本件特許発明1の発明特定事項は、単なる設計的事項であり、当業者が容易に想到し得たものである。

(2b4)効果について
そして、本件特許発明1により、甲1発明1からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

(2c)まとめ
以上によれば、本件特許発明1と甲1発明1との相違点1aないし相違点1cに係る本件特許発明1の発明特定事項は、いずれも当業者が容易に想到し得たものであり、本件特許発明1は甲1発明1から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明2について
(3a)対比
ア 本件特許発明2と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「甲1発明1の破壊プローブ」は、「破砕カートリッジ」という限りにおいて、本件特許発明2における「上記請求項1に記載の破砕カートリッジ」に相当する。

イ 甲1発明2における「に形成した装着孔に装着し」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、「中に挿入し」に相当し、以下、同様に、「破壊プローブの電極8」は「破砕カートリッジの脚線」に、「導線10」は「母線」に、それぞれ相当する。

ウ 本件特許発明2における「2400V、24000Aの高電圧・高電流を520μsec間供給し」における「2400V、24000Aの高電圧・高電流」は電気エネルギーであり、「520μsec間」は短時間であるから、甲1発明2における「電気エネルギーを短時間で供給し」は、「電気エネルギーを短時間で供給し」という限りにおいて、本件特許発明2における「2400V、24000Aの高電圧・高電流を520μsec間供給し」に相当する。

エ 甲1発明2における「電極8の先端部同士を接続する」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「脚線先端を短絡する」に相当する。

オ 甲1発明2における「銅からなる金属細線」は、「金属細線」という限りにおいて、本件特許発明2における「銅-ニッケル抵抗細線」に相当する。

カ 甲1発明2における「溶融気化して放電を生じさせ」は、その機能又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「溶融スパークを生起せしめて」に相当する。

キ 甲1発明2における「充填された」は、その機能又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「封入した」に相当する。
また、甲1発明2における「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」は、「破砕用物質」という限りにおいて、本件特許発明2における「グロー燃料」に相当する。
さらに、甲1発明2における「銅からなる金属細線が溶融気化して急激に体積膨張した際の衝撃力およびニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質の爆発力」は、その機能又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「燃焼から発生する膨張圧力」に相当する。
さらにまた、火花が放電、即ちスパークから発生する高温のものであることは明らかである。
さらにまた、被請求人の、「燃焼」は、衝撃波を伴わない反応で、光と熱を生じる反応物質の酸化還元反応である及び「爆発」は、光と熱を生じる反応で、衝撃波を伴って、急激なガス圧力の発生又は解放によって、爆発音を伴ってガスが膨張する現象からなる物質の酸化還元反応である旨の主張(平成24年5月28日付け口頭審理陳述要領書5.陳述の要領(1)参照。)並びに甲第8及び9号証に記載された事項によると、爆発は、きわめて短時間の急激な燃焼、即ち瞬時の燃焼の結果起こるものといえる。
したがって、甲1発明2における「銅からなる金属細線が溶融気化するのに伴う現象、すなわち、放電、火花、発熱、体積膨張に伴う衝撃力などで破壊プローブに充填されたニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質を爆発させ、銅からなる金属細線が溶融気化して急激に体積膨張した際の衝撃力およびニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質の爆発力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破壊する」は、「スパークから発生の高温の火花により破砕カートリッジに封入した破砕用物質を瞬時に燃焼させ、燃焼から発生する膨張圧力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破壊する」という限りにおいて、本件特許発明2の「スパークから発生の高温の火花により破砕カートリッジに封入したグロー燃料を瞬時に燃焼させ、燃焼から発生する膨張圧力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破砕する」に相当する。

ク したがって、本件特許発明2と甲1発明2とは、
「破砕カートリッジを岩盤あるいはコンクリート構造物中に挿入し、該破砕カートリッジの脚線に母線を介して電気エネルギーを短時間で供給し、脚線先端を短絡する金属細線に溶融スパークを生起せしめて、スパークから発生の高温の火花により破砕カートリッジに封入した破砕用物質を瞬時に燃焼させ、燃焼から発生する膨張圧力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破砕する岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点2a>
「破砕カートリッジ」に関し、本件特許発明2においては、「上記請求項1に記載の破砕カートリッジ」であるのに対し、甲1発明2においては、「甲1発明1の破壊プローブ」である点。

<相違点2b>
「電気エネルギーを短時間で供給し」に関し、本件特許発明2においては、「2400V、24000Aの高電圧・高電流を520μsec間供給し」であるのに対し、甲1発明2においては、「電気エネルギーを短時間で供給し」である点。

<相違点2c>
「金属細線」に関し、本件特許発明2においては、「銅-ニッケル抵抗細線」であるのに対し、甲1発明2においては、「銅からなる金属細線」である点。

<相違点2d>
「スパークから発生の高温の火花により破砕カートリッジに封入した破砕用物質を瞬時に燃焼させ、燃焼から発生する膨張圧力で岩盤あるいはコンクリート構造物を破壊する」に関し、本件特許発明2においては、「破砕用物質」が「グロー燃料」であるのに対し、甲1発明2においては、「破砕用物質」が「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」である点。

(3b)相違点2aないし2dについての容易想到性の有無の判断
(3b1)相違点2aに係る容易想到性の有無の判断について
上記(2)のとおり、本件特許発明1、即ち請求項1に記載の破砕カートリッジは、甲1発明1から容易に発明をすることができたものであるから、相違点2aに係る本件特許発明2の発明特定事項も、当業者が容易に想到し得えたものである。

(3b2)相違点2bに係る容易想到性の有無の判断について
破砕カートリッジに供給する電気エネルギーの大きさや供給時間は、使用する破砕物質の成分や量、破砕の対象等に応じて、当業者が適宜決めるべきものである。
また、本件特許発明2において破砕カートリッジに供給する高電圧・高電流の値としての「2400V、24000A」及び供給時間としての「520μsec」に格別臨界的意義があるともいえない。
さらに、被請求人の「乙第8号証に示すように、乙第9号証のC.S.KIM カプセル岩盤端システム を用いて、平成15年11月6日に、被請求人である本件特許の発明者が設立した、新プラズマ破岩実験を平成15年10月28日(火)、29日(水)に実施した。・・(略)・・・乙第9号証に示すプラズマ破砕機(RS-0305S)すなわち本件特許発明において使用の高電圧・高電流発生装置6について、その特定について・・・出力電圧が2400Vであるが、出力電流はいくらであるか、また、放電時間いくらであるか質問した。その時、李 俊 寧氏は24000Aで、52μs(平成24年5月30日付け上申書及び第1回口頭審理において、「52μ」は「520μs」と訂正された。)であると回答されたものである。」(平成24年5月28日付け口頭審理陳述要領書第5ページ第5ないし16行)及び「乙第8号証は、本件特許の実施に高電圧・高電流発生装置6がRSS-0305Sであることを示したものであり」(平成24年6月13日付け口頭審理陳述要領書(2)第4ページ第8及び9行)という主張にみられるように、高電圧・高電流の値としての「2400V、24000A」及び供給時間としての「520μsec」は、本件出願の出願前に市販されたプラズマ破砕機(RSS-0305S)で実施できる程度の値である。
したがって、相違点2bに係る本件特許発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものである。

(3b3)相違点2cに係る容易想到性の有無の判断について
相違点2cは、相違点1cに対応するものであるが、上記(2)(2b)(2b3)のとおり、相違点1cに係る発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものであるから、相違点2cに係る発明特定事項も、当業者が容易に想到し得たものである。

(3b4)相違点2dに係る容易想到性の有無の判断について
相違点2dは、相違点1aに対応するものであるが、上記(2)(2b)(2b1)のとおり、相違点1aに係る発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものであるから、相違点2dに係る発明特定事項も、当業者が容易に想到し得たものである。

(3b5)効果について
そして、本件特許発明2により、甲1発明2からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

(3c)まとめ
以上によれば、本件特許発明2と甲1発明2との相違点2aないし相違点2dに係る発明特定事項は、いずれも当業者が容易に想到し得たものであり、本件特許発明2は甲1発明2から容易に発明をすることができたものである。

(4)無効理由1のむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に該当し、同項違反を理由とする無効理由(特許法第123条第1項第2号)は理由がある。

2-2 無効理由2について
(1)本件特許発明1及び2における発明特定事項「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」について
請求人は、審判請求書において、「つまり、発明の詳細な説明には、本件発明に使用する「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルを含有させた市販のラジコン用のグロー燃料」の入手先等、及び配合割合が記載されておらず、このグロー燃料をどのようにして採用し、又は製造するかが理解できず、本件発明である破砕カートリッジを作り、岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕方法を実施することができない。」(審判請求書第22ページ第24行ないし第28行)と主張するとともに、平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書において、「発明の詳細な説明には、本件発明に使用する「主成分のニトロメタンと、・・中略・・グロー燃料」の入手先等及び配合割合が記載されておらず」という主張は、「特許・実用新案審査基準」第1部第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載用件」3.2.1(2) 2 (原文では丸付き2)「作ることができること」における「物の発明については、・・・中略・・・また、当業者が発明の物を製造するために必要であるときは、物の発明を特定するための事項の各々がどのような働き(役割)をするか(すなわち、その作用)をともに記載する必要がある。他方、実施例として示された構造などについての記載や出願時の技術常識から当業者がその物を製造できる場合には、製造方法の記載がなくても本号違反とはしない。」を根拠とするものである。すなわち、審判請求書(4).2○1(当審注:原文は「1」を丸で囲む。以下、同様。)(i)は特許法第36条第4項第1号に違反していることを主張するものである。」(平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書書第5ページ第17行ないし第27行)と主張している。

そこで、請求人の上記主張について検討する。
まず、「特許・実用新案審査基準」の第1部第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載用件」3.2.1(2)○2には、「物の発明については、当業者がその物を製造することができるように記載しなければならない。このためには、どのように作るかについての具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き、製造方法を具体的に記載しなければならない。」と記載されているように、技術常識に基づいて当業者がその物を製造できる場合は、具体的な製造方法を発明の詳細な説明に記載する必要はない。
そこで、本件特許発明1における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」が技術常識に基づいて当業者が製造できるか否かについて以下に検討する。
a)本件特許明細書の発明の詳細な説明における、段落【0014】には「主成分のニトロメタンは90%以上を含有し、残りが燃料のメタノールおよびオイルからなる。」が記載されている。
b)本件特許発明1及び2における「ラジコン用のグロー燃料」は、「市販」のものとは特定されていない。
c)ラジコン用のグロー燃料は、当業者であれば過度の負担なくごく普通に入手できる。
d)請求人、被請求人が提出した証拠または参考資料の全てを参酌しても、ニトロメタンが90%以上含有されたラジコン用のグロー燃料自体は「市販」されていない。
これらa)ないしd)に加え、当業者の技術常識を総合すれば、本件特許発明1及び2における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」は、当業者であれば、「ニトロメタン」と市販されている「ラジコン用のグロー燃料」とを混合して製造することができるものであり、また、本件特許明細書の発明な詳細な説明に、本件特許発明1における「主成分のニトロメタンと、・・中略・・グロー燃料」の入手先等及び配合割合が記載されていないから、製造することができないとまではいえないし、請求人自身も参考資料として提出した甲第2号証においてニトロメタン90%含有の調整グロー燃料を製造して実験を実施している。
したがって、本件特許発明1及び2における発明特定事項である「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、請求人の上記主張は採用できない。

(2)本件特許発明1及び2における発明特定事項「高電圧・高電流発生装置」について
請求人は、審判請求書において、「本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の発明特定事項のうち「高電圧・高電流発生装置」について、発明の詳細な説明の第4頁第16行ないし第18行に「この高電圧・高電流発生装置6は、入力がAC200V、5A、1KVAで充電時間30?40秒であり、出力は2400V、24000A、放電時間520μsecである。」と記載されているのみで、電気回路の仕様の記載がなく、実施例によるデータもない。
24000Aを流すためには、請求人の技術常識をこえる大容量のコンデンサーを組み込んだ電源装置が必要となり、本件の破砕技術において同電流値を採用することは全く非現実的である。また、ここで記載されている520μsecの放電時間は電圧条件および電気回路で決まるものであり、一般的に放電時間を制御することはできない。従い、「24000A、520μsec」の放電実施は、電気回路の仕様の記載がないことから、当業者においても実施することができない。」(審判請求書第23ページ第1ないし13行)と主張している。

そこで、請求人の上記主張について検討する。
本件特許明細書の段落【0016】には「この高電圧・高電流発生装置6は、入力がAC200V、5A、1KVAで充電時間30?40秒であり、出力は2400V、24000A、放電時間520μsecである。」と記載され、同じく段落【0017】には「上記の図2に示すように、本手段の破砕カートリッジ1を仕掛け、岩盤R1を破砕しようとするとき、高電圧・高電流発生装置6より2400V、24000A、520μsecで高電圧・高電流を母線8、脚線2を介して破砕カートリッジ1の銅-ニッケル抵抗細線3に供給した。」と記載されている。
ここで、請求人が提出した証拠及び参考資料並びに当業者の技術常識を考慮しても、24000Aを流すこと、放電時間を520μsecにすることが確実に実施することができないという格別の事情も認められない。
なお、請求人自身も、平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書における、本件特許発明2における構成Fと、甲第1号証における構成fは実質的に同じである旨主張している箇所において、「すなわち、この回路では24000Aであったにすぎない。」(同書第4ページ第18行)と記載しており、この記載によれば、請求人は、24000Aを流すことができるとの前提で説明しているものとみることもできる。
また、請求人の「24000Aを流すためには、請求人の技術常識をこえる大容量のコンデンサーを組み込んだ電源装置が必要となり、本件の破砕技術において同電流値を採用することは全く非現実的である。」(審判請求書書第23ページ第7ないし9行)という主張は、大容量のコンデンサーを組み込んだ電源装置を使用すれば、24000Aを流すことが可能であることを示すものでもある。
したがって、本件特許発明1及び2における発明特定事項である「高電圧・高電流発生装置」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえず、請求人の上記主張は採用できない。

(3)無効理由2のむすび
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえないので、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、同項違反を理由とする無効理由(特許法第123条第1項第4号)は理由がない。

2-3 無効理由3について
(1)本件特許発明1及び2における発明特定事項「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」について
請求人は、審判請求書において、「本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の発明特定事項のうち「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」について、発明の詳細な説明に、前記の「この場合、主成分のニトロメタンは90%以上を含有し、残りが燃料のメタノールおよびオイルからなる。」と記載されているのみで各成分の配合割合の記載がなく、実施例によるデータもない。また、グロー燃料を採用することで、ニトロメタンだけでなくメタノール及びオイルをも成分組成として採用した根拠が、それらの有用性が理解できる程度にまで記載されておらず、メタノールおよびオイルを添加することが有用であることを出願時の技術常識から推認することもできない。
・・・中略・・・
これらのことより、請求項1及び2に記載された発明のグロー燃料のニトロメタン、メタノール、オイルのそれぞれの成分がとりうる範囲全体まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張することはできないということがいえる。
つまり、各請求項に記載された発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるものであり、当該各請求項に記載された発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しているとはいえず、また、発明の詳細な説明にグロー燃料の定義が記載されているとはいえない。従って、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないし、・・・中略・・・から、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第1号、・・・中略・・・に規定する要件を満たしていない。」(審判請求書第23ページ第21行ないし第24ページ第15行)と主張するとともに、平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書において、「「発明の詳細な説明に、各成分の配合割合や各成分の有用性が記載されていない」は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということの根拠である。
請求項1及び2の「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」は多様な配合を含む包括的な記載であり、破砕が発現しない配合割合が含まれるのに対し、発明の詳細な説明には具体例として1つの配合割合が記載されているのみである。つまり、請求項1及び2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張することはできず、特許を受けようとする発明が詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。すなわち、審判請求書(4).2○2には第36条6項1号に違反していることを主張するものである。」(平成24年5月21日付け口頭審理陳述要領書第5ページ第36行ないし第6ページ第11行)と主張している。

そこで、請求人の上記主張について検討する。
本件特許発明1及び2の課題は、本件特許明細書の記載(例えば、段落【0006】及び【0012】等を参照。)から、ダイナマイトなどの危険な火薬類ではなく、非火薬で取扱いが容易である主成分のニトロメタンとメタノールおよびオイルを含有させたラジコン用のグロー燃料を使用して岩盤あるいはコンクリート構造物を破砕することであると把握できる。
また、本件特許明細書の段落【0014】には、「本発明の実施の形態では、図1に示すように、破砕カートリッジ1は、PET容器5に主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料4が充填される。この破砕カートリッジ1の天板1aより挿入された脚線2の一方の先端を銅-ニッケル抵抗細線3で短絡した部分を、グロー燃料4とともにPET容器5に封入されている。この場合、主成分のニトロメタンは90%以上を含有し、残りが燃料のメタノールおよびオイルからなる。」と記載されており、上記の「この場合、主成分のニトロメタンは90%以上を含有し、残りが燃料のメタノールおよびオイルからなる」は、あくまで、本件特許発明1及び2の実施形態の一例にすぎず、この実施形態から、「ニトロメタン」が「ラジコン用のグロー燃料」の「主成分」であって、残りが「メタノールおよびオイル」であることが把握できる。
そこで、本件特許発明1及び2について検討すると、本件特許発明1及び2においては、ダイナマイトなどの危険な火薬類ではなく、非火薬である「ラジコン用のグロー燃料」が用いられていること及びその「主成分」が「ニトロメタン」で、残りが「メタノールおよびオイル」ことも特定されていることから、本件特許発明1及び2が、本件特許明細書の発明の詳細な説明において本件特許発明1及び2の上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとまではいえず、さらに、岩盤あるいはコンクリート構造物を破砕するとの目的を達成し、当該破砕という現象を発現する限りにおいて、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を本件特許発明1及び2程度まで拡張することができると解するのがごく自然であるから、本件特許発明1及び2における「主成分のニトロメタンと、メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」が、破砕を発現しない配合割合を含むとまではいえない。
したがって、本件特許発明1及び2のグロー燃料のニトロメタン、メタノール、オイルのそれぞれの成分がとりうる範囲全体まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張することができないとはいえず、請求人の上記主張は採用できない。

なお、「ニトロメタン」を90%以上含有し、残りが「メタノールおよびオイル」からなるものが、「ラジコン用のグロー燃料」といえるか否かについて、以下に検討する。

被請求人が参考資料として提出した乙第7号証には、レーシングカーに「ニトロメタン」90%含有の燃料を使用する旨が記載されており、当業者の技術常識を考慮すると、このような燃料をラジコン用の燃料として使用できないという格別の事情は認められない。したがって、「ニトロメタン」を90%以上含有し、残りが「メタノールおよびオイル」からなるものが、「ラジコン用のグロー燃料」ではないとまではいうことができない。

(2)無効理由3のむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、本件特許明細書の発明な詳細な説明に記載したものであるので、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、同項違反を理由とする無効理由(特許法第123条第1項第4号)は理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、無効理由2及び3は理由がないが、無効理由1は理由がある。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-30 
結審通知日 2013-08-01 
審決日 2013-08-19 
出願番号 特願2007-293747(P2007-293747)
審決分類 P 1 113・ 537- Z (B02C)
P 1 113・ 121- Z (B02C)
P 1 113・ 536- Z (B02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 中川 隆司
加藤 友也
登録日 2009-12-25 
登録番号 特許第4431169号(P4431169)
発明の名称 破砕カートリッジおよび破砕カートリッジによる岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕方法  
代理人 田中 功雄  
代理人 横井 健至  

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