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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1279798
審判番号 不服2012-16243  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-22 
確定日 2013-10-03 
事件の表示 特願2007-258528「光生体測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月23日出願公開,特開2009-82595〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年10月2日を出願日とする出願であって,平成23年10月20日付けで拒絶理由通知書が通知され,同年12月22日付けで手続補正がなされたが,平成24年5月8日付で拒絶査定がされた。これに対し,同年8月22日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに,同日付で手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされ,平成25年4月17日付けで審尋がなされ,同年6月24日に回答書が請求人より提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
被検体の頭部皮膚表面上に配置される複数個の送光プローブと、当該頭部皮膚表面上に配置される複数個の受光プローブとを有する送受光部と、
前記送光プローブが頭部皮膚表面に光を照射するとともに、前記受光プローブが頭部皮膚表面から放出される光を検出するように制御することで、複数個の受光量情報を得る送受光部制御部と、
前記複数個の受光量情報に基づいて、ヘモグロビン濃度の経時変化を示す複数個の測定データを得る演算部と、
前記複数個の測定データのうちから少なくとも1個の測定データを表示する測定データ表示制御部とを備える光生体測定装置であって、
前記被検体にタスクが与えられたときのヘモグロビン濃度の経時変化であるか否かを評価するために、前記測定データを統計解析して統計結果を算出する算出部と、
前記統計結果と表示方法とを対応付けた対応表を記憶する対応表記憶部と、
前記被検体にタスクが与えられたときの理想とするヘモグロビン濃度の経時変化を示す基準データを記憶する基準データ記憶部とを備え、
前記測定データは、縦軸は濃度を示し、横軸は時間を示すグラフであり、
前記算出部は、前記基準データと比較することにより、基準データと測定データとの類似性を統計結果として算出し、
前記測定データ表示制御部は、前記算出部で算出された各測定データの統計結果を対応表に当てはめることにより各測定データの表示方法をそれぞれ決定し、それぞれ決定した表示方法を用いて各測定データを表示することを特徴とする光生体測定装置。」(下線は補正箇所を示す)と補正された。

2 補正事項について
補正前の請求項1に「前記測定データは、縦軸は濃度を示し、横軸は時間を示すグラフであり」との発明特定事項を追加する補正をしたことは,「測定データ」が「縦軸は濃度を示し、横軸は時間を示すグラフ」であることに限定したものであるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-229322号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は,引用発明の認定に使用した箇所として当審において付与したものである。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体頭部に光を照射する複数の光照射手段と、
前記光照射手段から照射され前記被検体頭部を伝播した通過光を検出する複数の受光手段と、
前記受光手段により検出された信号に基づき、前記光照射手段と前記受光手段の対により計測される計測点における、前記被検体頭部内の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を演算する演算部と、
前記演算部による演算結果を表示する表示部とを有し、
前記演算部は前記計測点における、前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを前記計測点毎に判定し、
前記表示部は前記判定結果を複数の前記計測点毎に表示することを特徴とする脳機能計測のための生体光計測装置。
【請求項2】
前記表示部は前記判定結果に基づき、色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示することを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
・・・・・
【請求項4】
前記演算部は統計解析により、前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを判定することを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
・・・・・
【請求項7】
前記演算部は、前記計測点における脳活動波形の、所定のテンプレート波形との類似性に基づき、前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを判定することを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
【請求項8】
前記テンプレート波形は、全計測点における平均波形、最も強く活動した計測点の脳活動波形、または標準的な脳活動波形のいずれか一であることを特徴とする請求項7記載の生体光計測装置。
・・・・・」

(1-イ)「【0002】
生体に対する透過性が高い,可視から近赤外領域に光強度ピーク波長を持つ光を用いることにより,生体内部の情報を無侵襲に計測することが可能である。これは,計測される光信号の対数値が光路長と濃度の積に比例することを示したLambert-Beer則に基づく。この法則を発展させ,生体中のヘモグロビン(Hb)の相対的濃度変化を表す信号(以下Hb信号と呼ぶ)を計測する技術が開発されてきた。本技術で計測できるHb信号には,基本的に「酸素化Hb(oxy-Hb)」,「脱酸素化Hb(deoxy-Hb)」,および「総Hb(oxy-Hbとdeoxy-Hbの総和: total-Hb)」の3種類があり,それぞれ「oxy-Hb信号」,「deoxy-Hb信号」,「total-Hb信号」と呼ぶ。」

(1-ウ)「【発明の効果】
【0012】
本発明の脳活動解析方法および表示方法を用いた生体光計測装置により,従来法より脳活動が生じた部位を精度よく検出することが可能となる。また,図2のようにoxy-Hb信号の活動とdeoxy-Hb信号の活動の,時間的相違および空間的広がりの相違を可視化することにより,脳活動に伴う血行動態をより詳細に評価することが可能となる。」

(1-エ)「【0014】
解析装置102では,計測された各Hb信号を統計解析し,有意な活動の有無を評価する。ここでの統計解析法は,例えば,t検定や分散分析などの手法に代表される。一般に脳活動計測は,特定の刺激や課題を被験者に与えたときの反応を,ある安静期間における状態と比べて脳活動として捉えるため,安静期間における信号と,刺激や課題による反応が生じていると考えられる期間(活動期間)における信号を比較することが統計解析の基本となる。この比較を行う代表的な統計手法には,t検定やF検定,あるいは分散分析や多重比較がある。また,パラメトリック検定だけでなく,ノンパラメトリック検定も使用可能である。他にも,複数の異なる刺激や課題を被験者に与えた場合,それぞれの活動期間における信号同士を直接比較する方法や,ある刺激や課題に対する活動を示す信号波形を仮定し,その信号波形との類似性を相関係数などで評価する方法も可能である。」

(1-オ)「【0021】
図4?6では,全計測点における各Hb信号の平均波形を例として示したが,活動期間の時間窓を設定するために用いるHb信号の波形は,特に全計測点の平均値とは限らない。例えば,最も強く活動した計測位置のHb信号波形や,理論的に求められた標準的な脳活動波形(テンプレート波形)を用いることも可能である。あるいは,注目している部位の平均波形や,各被験者の過去の脳活動信号から作成した標準的な活動波形を用いることも可能である。被験者毎にHb信号波形を求めて解析に使用することは,Hb信号波形の個人差を吸収し,より精度よく脳活動を検出することに役立つ。」

(1-カ)「【0022】
・・・・・また,図8では,全計測点の平均波形や,最も強く活動した計測位置の活動波形,あるいは理論的に求められた標準的な脳活動波形をテンプレート波形とした時の,相関係数を表示した例を示した。ここでは,図7と同様にある閾値で各Hb信号における活動の有無を検定した後,その相関係数を異なる色の濃淡で表示した。oxy-Hb信号とdeoxy-Hb信号など複数のHb信号両方で有意な活動が見られた場合は,その平均相関係数などを表示する。このように,複数のHb信号を組み合わせた活動の有無の分類に加えて,それぞれの活動強度を段階的に表示することによって,より限局した活動部位を検出することが容易になる。
【0023】
上記いずれかの方法で脳活動部位を検出した後,その活動位置における活動の詳細を表示することは,脳活動を詳細に検討する際に有効である。図9には,oxy-Hb信号とdeoxy-Hb信号の両方において活動が示され,更にその中で最も活動が強かった計測点を選択し,その計測点におけるHb信号の時間波形を表示した例である。このように実際のHb信号の時間変化を示すことは,脳活動が何らかのアーチファクトではないことを確認したり,その活動パターンを評価したりする上で,有用である。・・・・・図9,10では,全体から一つの計測点だけを選択し表示した例を示したが,複数の計測点を表示することも可能である。例えば,前頭部,側頭部,といった領域を複数設定し,それぞれの領域において活動強度の最も強い計測位置を選択する方法も有効である。」

(1-キ)図8には,以下のとおり,相関係数の度合いに応じて背景を何色とするのかを決めたものが記載されている。
【図8】


(1-ク)図9には,以下のとおり,Hb信号の時間波形を示したグラフが記載されている。
【図9】


これらの記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「被検体頭部に光を照射する複数の光照射手段と,前記光照射手段から照射され前記被検体頭部を伝播した通過光を検出する複数の受光手段と,前記受光手段により検出された信号に基づき,前記光照射手段と前記受光手段の対により計測される計測点における,前記被検体頭部内の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を演算する演算部と,前記演算部による演算結果を表示する表示部とを有し,
前記演算部は,前記計測点における脳活動波形の標準的な脳活動波形との類似性に基づき,前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを前記計測点毎に,統計解析により判定し,
前記表示部は前記判定結果を複数の前記計測点毎に,前記判定結果に基づき,色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示するとともに,複数の計測点においてHb信号の時間波形を表示する,
脳機能計測のための生体光計測装置。」(以下,「引用発明」という。)

4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「被検体頭部に光を照射する複数の光照射手段」及び「前記光照射手段から照射され前記被検体頭部を伝播した通過光を検出する複数の受光手段」は,本願補正発明の「被検体の頭部皮膚表面上に配置される複数個の送光プローブ」及び「当該頭部皮膚表面上に配置される複数個の受光プローブ」に相当し,前者は「前記送光プローブが頭部皮膚表面に光を照射する」,後者は「記受光プローブが頭部皮膚表面から放出される光を検出する」ように制御されているものであるから,引用発明は,本願補正発明の「送受光部」及び「複数個の受光量情報を得る送受光部制御部」を備えているといえる。

イ 摘記(1-イ)の「生体中のヘモグロビン(Hb)の相対的濃度変化を表す信号(以下Hb信号と呼ぶ)」から,引用発明において「複数の計測点においてHb信号の時間波形を表示する」ことは,本願補正発明の「ヘモグロビン濃度の経時変化を示す」ことに他ならない。また,引用発明の「受光手段により検出された信号」及び「酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度」は,本願補正発明の「受光量情報」及び「ヘモグロビン濃度」のことであり,引用発明において「複数の光照射手段」及び「複数の受光手段」があるから,「複数個の受光量情報」に基づいて「複数個の測定データ」が得られていることは明らかである。したがって,引用発明の「前記受光手段により検出された信号に基づき、前記光照射手段と前記受光手段の対により計測される計測点における、前記被検体頭部内の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を演算する演算部」は,本願補正発明の「前記複数個の受光量情報に基づいて、ヘモグロビン濃度の経時変化を示す複数個の測定データを得る演算部」に相当している。

ウ 引用発明の「Hb信号の時間波形」は,図9から,本願補正発明の「縦軸は濃度を示し、横軸は時間を示すグラフ」に相当するものであり,これは本願補正発明の「測定データ」のことである。また,「複数」は「少なくとも1個」の範囲に入ることから,引用発明の「複数の計測点においてHb信号の時間波形を表示する」ことは,本願補正発明の「前記複数個の測定データのうちから少なくとも1個の測定データを表示する測定データ表示制御部」を備えているといえる。

エ 引用発明の「標準的な脳活動波形」について,「脳活動波形」はHb信号の経時変化を示すものであるから,「ヘモグロビン濃度の経時変化を示す基準データ」に相当するものである。さらに,本願補正発明における「前記被検体にタスクが与えられたときの理想とする」について本願明細書に具体的な説明はないものの,摘記(1-オ)には「理論的に求められた標準的な脳活動波形(テンプレート波形)」,「各被験者の過去の脳活動信号から作成した標準的な活動波形」と記載されていることから,引用発明の「標準的な脳活動波形」は,本願補正発明の「前記被検体にタスクが与えられたときの理想とするヘモグロビン濃度の経時変化を示す基準データ」に相当しているといえる。そして,「標準的な脳活動波形」が「理論的に求められた」ものであるにしろ,「各被験者の過去の脳活動信号から作成した」ものであるにしろ,測定データと比較する際には事前に標準データとして記憶されていなければならないものであるから,引用発明は,本願補正発明の「前記被検体にタスクが与えられたときの理想とするヘモグロビン濃度の経時変化を示す基準データを記憶する基準データ記憶部」を備えているといえる。

オ 引用発明の「前記演算部は,前記計測点における脳活動波形の標準的な脳活動波形との類似性に基づき、前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを前記計測点毎に,統計解析により判定し」について,「前記計測点における脳活動波形の標準的な脳活動波形との類似性に基づき」は,本願補正発明の「前記基準データと比較することにより、基準データと測定データとの類似性を統計結果として算出し」に相当し,「前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを前記計測点毎に,統計解析により判定し」について,摘記(1-エ)によれば,「ある刺激や課題に対する活動を示す信号波形を仮定し,その信号波形との類似性を相関係数などで評価する」ことで「計測された各Hb信号を統計解析し,有意な活動の有無を評価する」ことでもあるから,本願補正発明の「前記被検体にタスクが与えられたときのヘモグロビン濃度の経時変化であるか否かを評価するために、前記測定データを統計解析して統計結果を算出する」ことに相当している。
してみれば,引用発明の「演算部」は本願補正発明の「前記被検体にタスクが与えられたときのヘモグロビン濃度の経時変化であるか否かを評価するために、前記測定データを統計解析して統計結果を算出する算出部」にも相当するものでもあり,それは本願補正発明と同じく「前記基準データと比較することにより、基準データと測定データとの類似性を統計結果として算出し」ているといえる。

カ 引用発明の「前記表示部は前記判定結果を複数の前記計測点毎に,前記判定結果に基づき、色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示する」について,「前記判定結果」及び「色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示する」は,本願補正発明の「前記算出部で算出された各測定データの統計結果」及び「各測定データの表示方法」に相当し,「前記判定結果に基づき、色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示する」とは,「前記判定結果」と「色もしくは模様もしくは色の濃淡」とを対応付けることであり,さらに,「前記判定結果」により,色もしくは模様もしくは色の濃淡を決定し,その決定した色もしくは模様もしくは色の濃淡で各測定データを表示することである。
してみれば,引用発明の「前記表示部は前記判定結果を複数の前記計測点毎に,前記判定結果に基づき、色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示する」ことは,本願補正発明の「前記統計結果と表示方法とを対応付け」すること及び「前記算出部で算出された各測定データの統計結果により各測定データの表示方法をそれぞれ決定し、それぞれ決定した表示方法を用いて各測定データを表示する」ことに相当している。

キ 引用発明の「脳機能計測のための生体光計測装置」は,本願補正発明の「光生体測定装置」のことである。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「被検体の頭部皮膚表面上に配置される複数個の送光プローブと,当該頭部皮膚表面上に配置される複数個の受光プローブとを有する送受光部と,
前記送光プローブが頭部皮膚表面に光を照射するとともに,前記受光プローブが頭部皮膚表面から放出される光を検出するように制御することで,複数個の受光量情報を得る送受光部制御部と,
前記複数個の受光量情報に基づいて,ヘモグロビン濃度の経時変化を示す複数個の測定データを得る演算部と,
前記複数個の測定データのうちから少なくとも1個の測定データを表示する測定データ表示制御部とを備える光生体測定装置であって,
前記被検体にタスクが与えられたときのヘモグロビン濃度の経時変化であるか否かを評価するために,前記測定データを統計解析して統計結果を算出する算出部と,
前記統計結果と表示方法とを対応付けるものと,
前記被検体にタスクが与えられたときの理想とするヘモグロビン濃度の経時変化を示す基準データを記憶する基準データ記憶部とを備え,
前記測定データは,縦軸は濃度を示し,横軸は時間を示すグラフであり,
前記算出部は,前記基準データと比較することにより,基準データと測定データとの類似性を統計結果として算出し,
前記測定データ表示制御部は,前記算出部で算出された各測定データの統計結果により各測定データの表示方法をそれぞれ決定し,それぞれ決定した表示方法を用いて各測定データを表示することを特徴とする光生体測定装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明では,統計結果と表示方法とを対応付けるものが「対応表」であり,統計結果により各測定データの表示方法をそれぞれ決定する際に「統計結果を対応表に当てはめる」ことで決定しており,そして「対応表を記憶する対応表記憶部」が備えられているのに対し,引用発明には「対応表」に相当するものがないことから,「統計結果を対応表に当てはめる」こと及び「対応表を記憶する対応表記憶部」を備えることが特定されていない点。

(2)当審の判断
(相違点)について
本願補正発明における「対応表」とは,本願明細書の【0018】に,
「対応表記憶部53は、いずれの設定範囲に類似性が入るかによって測定データ#1?#25中の背景の色を変化させる背景色テーブル(対応表)と、統計的有意性の評価量(P値)が閾値(例えば、0.05)以内であるか否かによってチャンネル番号の色を変化させるチャンネル番号テーブル(対応表)とを記憶する。
具体的には、背景色テーブルにおいて、類似性がA以上であるときには、表示データ#1?#25中の背景の色を濃い灰色とし、類似性がB以上A未満であるときには、表示データ#1?#25中の背景の色を薄い灰色とし、類似性がB未満であるときには、表示データ#1?#25中の背景の色を白色とするように対応付けられている。つまり、表示データ#1?#25中の背景の色を観察するだけで、類似性を把握することができるようになっている。」と記載されており,類似性の入る範囲に応じて背景の色を決めたテーブルのことを指している。
一方,引用文献1の図8には,相関係数の度合いに応じて背景を何色とするのかを決めたものが記載されており,また,摘記(1-エ)に「ある刺激や課題に対する活動を示す信号波形を仮定し,その信号波形との類似性を相関係数などで評価する」と記載されているように,類似性は相関係数で評価するものであるから,引用例1には,類似性の度合いに応じて背景を何色とするのかを決めたものが記載されているといえる。
度合いに応じて表示色を変える際に,その度合いの範囲と表示色の対応を決めたテーブル,すなわち「対応表」を予め用意しておくことは技術分野を問わず当業者において慣用手段といえることから,引用発明の「前記計測点における脳活動波形の標準的な脳活動波形との類似性に基づき、前記酸素化ヘモグロビンおよび前記脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化が有意なものであるかを前記計測点毎に,統計解析により判定し、前記表示部は前記判定結果を複数の前記計測点毎に,前記判定結果に基づき、色もしくは模様もしくは色の濃淡を変えて表示する」際に,「判定結果」と「色もしくは模様もしくは色の濃淡」との「対応表」を用意することは当業者が容易になし得ることである。そして,「対応表」を用意すると,判定結果は「対応表に当てはめる」ことになり,その「対応表」を記憶する「対応表記憶部」が必要となることは当業者において自明のことである。

(本願補正発明の効果について)
本願明細書で本願補正発明の効果を以下のように記載している。
「【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明の光生体測定装置によれば、統計結果によって測定データの表示方法が変化するので、測定データを観察しながら、被検体にタスクが与えられたときのヘモグロビン濃度の経時変化であるか否かも容易に把握することができる。」
一方,摘記(1-ウ)には,「本発明の脳活動解析方法および表示方法を用いた生体光計測装置により,従来法より脳活動が生じた部位を精度よく検出することが可能となる。また,図2のようにoxy-Hb信号の活動とdeoxy-Hb信号の活動の,時間的相違および空間的広がりの相違を可視化することにより,脳活動に伴う血行動態をより詳細に評価することが可能となる」,摘記(1-カ)には「脳活動が何らかのアーチファクトではないことを確認したり,その活動パターンを評価したりする上で,有用である。」と記載されており,本願補正発明の上記効果は,格別顕著なことではない。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び慣用手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお,請求人は,審尋に対する回答書で,本願補正発明における「前記複数個の測定データのうちから少なくとも1個の測定データを表示する測定データ表示制御部」を「前記複数個の測定データから部分的に抜き出した複数の測定データを測定の位置関係を保って表示する測定データ表示制御部」とする補正案を提示しているが,「複数個の測定データから部分的に抜き出した複数の測定データを測定の位置関係を保って表示する」との記載自体は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面にはないものである。
本願明細書及び図面には,7個の測定データ#14,#16,#17,#19,#21,#22,#24について,図3のように表示することが記載されており,これら#14,#16,#17,#19,#21,#22,#24は図2によると,測定平面図において限定された一つの範囲を構成するものである。これを参照するに,測定平面図においてある一つの限定された範囲の測定データ(♯)については,その限定された一つの範囲の位置関係において図3のように表示されるといえるが,ある一つの限定された範囲にあるとは限らない「複数個の測定データから部分的に抜き出した複数の測定データ」について,どのように測定の位置関係を保って表示されるのか本願明細書及び図面を参照しても不明である。
してみれば,回答書で提示している補正案は,本願明細書の記載に基づくものとはいえないことから,受け入れられない。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項に係る発明は,平成23年12月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
被検体の頭部皮膚表面上に配置される複数個の送光プローブと、当該頭部皮膚表面上に配置される複数個の受光プローブとを有する送受光部と、
前記送光プローブが頭部皮膚表面に光を照射するとともに、前記受光プローブが頭部皮膚表面から放出される光を検出するように制御することで、複数個の受光量情報を得る送受光部制御部と、
前記複数個の受光量情報に基づいて、ヘモグロビン濃度の経時変化を示す複数個の測定データを得る演算部と、
前記複数個の測定データのうちから少なくとも1個の測定データを表示する測定データ表示制御部とを備える光生体測定装置であって、
前記被検体にタスクが与えられたときのヘモグロビン濃度の経時変化であるか否かを評価するために、前記測定データを統計解析して統計結果を算出する算出部と、
前記統計結果と表示方法とを対応付けた対応表を記憶する対応表記憶部と、
前記被検体にタスクが与えられたときの理想とするヘモグロビン濃度の経時変化を示す基準データを記憶する基準データ記憶部とを備え、
前記算出部は、前記基準データと比較することにより、基準データと測定データとの類似性を統計結果として算出し、
前記測定データ表示制御部は、前記算出部で算出された各測定データの統計結果を対応表に当てはめることにより各測定データの表示方法をそれぞれ決定し、それぞれ決定した表示方法を用いて各測定データを表示することを特徴とする光生体測定装置。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1の記載事項は,上記「第2」「3 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2」「2 補正事項について」に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,本願補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本願補正発明が,前記「第2」「4 対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び慣用手段に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2013-07-31 
結審通知日 2013-08-06 
審決日 2013-08-22 
出願番号 特願2007-258528(P2007-258528)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 孝徳  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 光生体測定装置  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  

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