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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1280800
審判番号 不服2012-20005  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-11 
確定日 2013-10-21 
事件の表示 特願2009-552606「移動通信システムにおける無線プロトコル処理方法及び移動通信送信機」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月25日国際公開、WO2008/114993、平成22年 6月10日国内公表、特表2010-520698〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2008年3月18日(パリ条約による優先権主張2007年3月19日、米国、2007年3月22日、米国、2008年3月6日、韓国)を出願日とする国際出願であって、平成24年1月11日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月12日付けで手続補正書が提出され、同年6月19日付けで拒絶査定がなされ、同年10月11日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。



第2.平成24年10月11日付けの手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年10月11日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」と呼ぶ。)を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は、平成24年4月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える移動通信送信機であって、
前記第1のSN設定モジュールは、上位層からデータを受信して前記データに関する第1のSNを設定するように構成されており、
前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したデータのヘッダを圧縮するように構成されており、
前記暗号化モジュールは、前記ヘッダ圧縮されたデータを暗号化するように構成されており、
前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたデータに第2のSNを付加して、第2のSNが付加されたデータをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成されている、送信機。」(以下、「補正前の請求項1」という)を、
「【請求項1】
第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える移動通信送信機であって、
前記第1のSN設定モジュールは、上位層からPDCP SDU(Service Data Unit)を受信して前記受信したPDCP SDUに関する第1のPDCP SNを設定するように構成されており、
前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したPDCP SDUのヘッダを圧縮するように構成されており、
前記暗号化モジュールは、前記第1のPDCP SNを用いて、前記ヘッダ圧縮されたPDCP SDUを暗号化するように構成されており、
前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたPDCP SDUに第2のPDCP SNを付加して、第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成されており、
前記第2のPDCP SNは、以前に設定された前記第1のPDCP SNとして付加され、
前記RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し、
前記第2のバッファは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを受信して保存するように構成されており、
前記分割及び連結モジュールは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを分割及び/又は連結するように構成されており、
前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されており、前記第3のSNは、RLC SNであり、前記第3のSNは、前記第1のPDCP SN及び前記第2のPDCP SNから独立しており、
前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている、送信機。」(以下、「補正後の請求項1」という)
に補正することを含む補正である。


2.補正の目的
本件補正が、特許法第17条の2第5項の規定各号の目的に該当するかどうか検討する。

2-1.特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)について
審判請求人は、平成24年10月11日付け審判請求書の「請求の理由」の中で、「特許請求の範囲において、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とした補正をしました。」と主張していることから、以下で、本件補正が特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするかどうか検討する。

補正後の請求項1は、その記載からして、「前記RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し、
前記第2のバッファは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを受信して保存するように構成されてされており、
前記分割及び連結モジュールは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを分割及び/又は連結するように構成されており、
前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されており、前記第3のSNは、RLC SNであり、前記第3のSNは、前記第1のPDCP SN及び前記第2のPDCP SNから独立しており、
前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている」ことを新たに特定している。

しかしながら、この新たに特定された事項は、補正前の請求項1に係る発明の課題解決手段、すなわち、発明特定事項のいずれを概念的に下位にしたものともいえないから、発明特定事項の限定とはいえない。
また、補正前の請求項1に係る発明の課題が、「RLC PDUを送信又は再送する度に暗号化することを防止する」ことであるのに対して、補正後の請求項1に係る発明では、「RLC PDUのサイズを送信する度に無線環境に応じて柔軟に構成する」ことを実質的に追加しており、補正前後の発明の解決しようとする課題が同一であるとはいえないとともに、この補正後の課題は、補正前の課題を概念的に下位にしたものでも同種のものでなく、技術的に密接に関連しているとはいえない。

よって、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないので、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的として補正されたものとはいえない。

2-2.請求項の削除(特許法第17条の2第5項第1号)について
「2-1」で検討したごとく、本件補正は審判請求人が主張する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であるとはいえないため、次に、請求項の削除を目的とするかどうか検討する。

本件補正が請求項の削除を目的とするためには、その前提として、本件補正後の請求項と同一の請求項が、本件補正前にもなければならない。

本件補正後の請求項1は、
「前記RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し、
前記第2のバッファは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを受信して保存するように構成されてされており、
前記分割及び連結モジュールは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを分割及び/又は連結するように構成されており、
前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されており、前記第3のSNは、RLC SNであり、前記第3のSNは、前記第1のPDCP SN及び前記第2のPDCP SNから独立しており、
前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている」
という発明特定事項を含むものであるのに対して、
該請求項に対応する本件補正前の請求項11は、請求項1に従属する請求項10を引用し、
「前記PDCPエンティティは、前記上位層から受信したデータを保存するように構成された第1のバッファをさらに有する」
とともに、
「前記RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し、
前記第2のバッファは、前記第2のSNが付加されたデータを受信して保存するように構成されており、
前記分割及び連結モジュールは、前記第2のSNが付加されたデータを分割及び/又は連結するように構成されており、
前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されており、
前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている」
という発明特定事項を含むものである。

本件補正後の請求項1の発明特定事項と本件補正前の請求項11の発明特定事項とを対比すると、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項11の発明特定事項のうちの、「前記PDCPエンティティは、前記上位層から受信したデータを保存するように構成された第1のバッファをさらに有する」という事項を含んでいない一方で、本件補正前の請求項11が発明特定事項として含んでいない「前記第3のSNは、RLC SNであり、前記第3のSNは、前記第1のPDCP SN及び前記第2のPDCP SNから独立して」いるという事項を含んでいる。

してみると、本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項11に係る発明とは同一の発明とはいえないから、本件補正は、請求項1?10を削除し、本件補正前の請求項11を本件補正後の請求項1とすることを目的として補正されたものとはいえない。
そして、該請求項以外に本件補正後の請求項1に対応する可能性のある請求項は本件補正前の請求項にはあるとはいえない。

よって、本件補正は、請求項の削除(特許法第17条の2第5項第1号)を目的として補正されたものとはいえない。

2-3.その他の目的(特許法第17条の2第5項第3号、第4号)について
「2-1」、「2-2」で検討したごとく、本件補正は、「特許請求の範囲の減縮」、「請求項の削除」の何れの目的とする補正であるとはいえないため、これ以外の目的に該当するかどうか検討する。
しかしながら、本件補正は、明りょうでない記載の釈明(特許法第17条の2第5項第4号)、または誤記の訂正(特許法第17条の2第5項第3号)を目的として補正されたものでないことは明らかである。

2-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号の規定の何れを目的とする補正であるとはいえない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反する。


3.独立特許要件に関する予備的検討
本件補正は、上記「2.補正の目的」で検討したように、特許法第17条の2第5項の規定を満たしていないものの、審判請求人が「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であると主張しているため、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について、以下で予備的に検討する。

3-1.本件補正発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成24年10月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える移動通信送信機であって、
前記第1のSN設定モジュールは、上位層からPDCP SDU(Service Data Unit)を受信して前記受信したPDCP SDUに関する第1のPDCP SNを設定するように構成されており、
前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したPDCP SDUのヘッダを圧縮するように構成されており、
前記暗号化モジュールは、前記第1のPDCP SNを用いて、前記ヘッダ圧縮されたPDCP SDUを暗号化するように構成されており、
前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたPDCP SDUに第2のPDCP SNを付加して、第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成されており、
前記第2のPDCP SNは、以前に設定された前記第1のPDCP SNとして付加され、
前記RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し、
前記第2のバッファは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを受信して保存するように構成されており、
前記分割及び連結モジュールは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを分割及び/又は連結するように構成されており、
前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されており、前記第3のSNは、RLC SNであり、前記第3のSNは、前記第1のPDCP SN及び前記第2のPDCP SNから独立しており、
前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている、送信機。」

3-2.本件補正発明の優先基準日
本願は、2008年3月18日(パリ条約による優先権主張2007年3月19日、米国、2007年3月22日、米国、2008年3月6日、韓国)を出願日とする国際出願であるが、本件補正発明の発明特定事項の内、
(1)「第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える」ものが「移動通信送信機」であること。
(2)「前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたPDCP SDUに第2のPDCP SNを付加」すること。
(3)「前記第2のPDCP SNは、以前に設定された前記第1のPDCP SNとして付加され」ること。
(4)「前記RLC層は」、「第3のバッファとを有し」、「前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている」こと。
が、パリ条約による優先権主張の基となる米国特許出願60/895720号(2007年3月19日、米国)、及び、同米国特許出願60/896474号(2007年3月22日、米国)には開示されていないことから、これらの出願に基づく優先権主張は認められない。
このため、本件補正発明の優先基準日は、パリ条約による優先権主張の基となる韓国特許出願10-2008-0021112号の出願日の2008年3月6日である。

3-3.引用文献
本件補正発明の優先基準日前に頒布された刊行物である「LG Electronics Inc., ”L2 architecture for LTE”, 3GPP TSG-RAN WG2 meeting #567bis, 3GPP, 2007年3月26日, R2-071491, p.1-4」(以下、「引用文献1」という)の図3から、次の(ア)の事項が読みとれる(下線は、当審が付与した。)。

(ア)図3には、PDCP SDU SNを用いて暗号化するLTE L2 アーキテクチャが提案されており、該アーキテクチャは、
a.上位層から受信したPDCP SDUに仮想SNを設定するモジュール、
b.仮想SNが設定されたPDCP SDUをバッファするPDCP SDU バッファ、
c.PDCP SDU バッファにバッファされたPDCP SDUのヘッダを圧縮するモジュール、
d.ヘッダが圧縮されたPDCP SDUにPDCP SDU SNを設定するモジュール、
e.PDCP SDU SNは設定されたPDCP SDUをPDCP SDU SNを用いて暗号化するモジュール、
f.PDCP層から暗号化されたPDCP SDUを受信してPLC SDUとしてバッファするRLC SDU バッファ、
g.RLC SDU バッファでバッファされたRLC SDUを分割/連結するモジュール、
h.分割/連結されたRLC SDUにRLC PDU SNを設定するモジュール、
i.RLC PDU SNが設定されたRLC SDUをRLC PDUとしてバッファするRLC PDU バッファ
とからなるエンティティで実現されることが開示されている。

以上の(ア)の記載事項を技術常識に照らし合わせれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「a.上位層から受信したPDCP SDUに仮想SNを設定するモジュール、
c.PDCP SDU バッファにバッファされた仮想SNが設定されたPDCP SDUのヘッダを圧縮するモジュール、
d.ヘッダが圧縮されたPDCP SDUにPDCP SDU SNを設定するモジュール、
e.PDCP SDU SNは設定されたPDCP SDUをPDCP SDU SNを用いて暗号化するモジュール、
f.PDCP層から暗号化されたPDCP SDUを受信してPLC SDUとしてバッファするRLC SDU バッファ、
g.RLC SDU バッファでバッファされたRLC SDUを分割/連結するモジュール、
h.分割/連結されたRLC SDUにRLC PDU SNを設定するモジュール、
i.RLC PDU SNが設定されたRLC SDUをRLC PDUとしてバッファするRLC PDU バッファ
とからなるエンティティ。」

本件補正発明の優先基準日前に頒布された刊行物である「LG Electronics Inc., ”PDCP spec skeleton”, 3GPP TSG-RAN WG2 meeting #58bis, 3GPP, 2007年5月7日, R2-071679, p.1-13」(以下、「引用文献2」という)には、次の(イ)、(ウ)の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。)。

(イ)「4.2 PDCP architecture
Figure 1 represents one possible structure for the PDCP sublayer; it should not restrict implementation. The figure is based on the radio interface protocol architecture defined in [2].
Every SAE bearer is associated with one RB, which in turn is associated with one PDCP entity.
The PDCP sublayer is configured by upper layer [3].
4.2.1 PDCP Entities
The PDCP entities are located in the PDCP sublayer. Several PDCP entities may be defined for a UE, whereas each may use header compression.
Figure 2 represents the functional view of the PDCP entity for the PDCP sublayer; it should not restrict implementation. The figure is based on the radio interface protocol architecture defined in [2].」
(当審訳:4.2 PDCPアーキテクチャ
図1は、PDCPサブレイヤのための1つの可能な構造を表し、それは実装を制限するべきではない。図は、[2]で定義された無線インタフェース・プロトコル・アーキテクチャに基づいている。
すべてのSAEベアラは、1つRBに関連づけられ、その1つのRBは1つのPDCPエンティティに順番に関連付けられる。
PDCPサブレイヤは、上位レイヤ[3]によって構成される。
4.2.1 PDCPエンティティ
PDCPエンティティはPDCPサブレイヤに配置される。各々がヘッダ圧縮を使用するかもしれないが、いくつかのPDCPエンティティは、UEのために定義することができる。
図2は、PDEPサブレイヤのためのPDCPエンティティの機能的な見解を反映した、それは実装を制限するべきではない。図は、[2]で定義された無線インタフェース・プロトコル・アーキテクチャに基づいている。)

(ウ)図2には、PDCPレイヤの機能として、送信側のUE/UTRANのPDCPエンティティでは、上位層から受信したデータを、シーケンスナンバーの番号化、ヘッダ圧縮、暗号化、及び、PDCPヘッダの追加を行って、下位層に送信することが開示されている。

また、本件補正発明の優先基準日前に頒布された刊行物である「LG Electronics Inc., ”PDCP Sequence Number and ROHCv2”, 3GPP TSG-RAN WG2 meeting #58, 3GPP, 2007年5月7日, R2-071849, p.1-2」(以下、「引用文献3」という)には、次の(エ)の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。)。

(エ)「1. Background
At the last meeting in Malta, it was agreed that PDCP uses explicit Sequence Number in order to perform ciphering and efficient data handling at handover. At the transmitter side, PDCP generates a SN for each PDCP SDU received from the upper layer, and, after header compression, performs ciphering for the PDCP SDU with its PDCP SN. Then, PDCP attaches the SN to the PDCP SDU to construct a PDCP PDU for transmission. The length of the PDCP SN is not decided yet, but it is generally assumed to be 8 or 16 bits. 」
(当審訳:1.背景
マルタでの前回の会議では、ハンドオーバ時の効果的なデータの取り扱いと暗号化を実行するために、PDCPは明示的なシーケンス番号を使用することで合意した。送信機側では、上位層から受信した各PDCP SDUのためにPDCPがSNを生成し、ヘッダ圧縮した後、そのPDPDCP SNを有するPDCP SDUに対して暗号化を行う。その後、送信のためにPDCP PDUを構築するために、PDCPはPDCPSDUにSNを添付する。 PDCP SNの長さは、まだ決まっていないが、それは一般的に8ビットまたは16ビットであると仮定される。)

3-4.対比
引用発明1は、
「a.上位層から受信したPDCP SDUに仮想SNを設定するモジュール、
c.PDCP SDU バッファにバッファされた仮想SNが設定されたPDCP SDUのヘッダを圧縮するモジュール、
d.ヘッダが圧縮されたPDCP SDUにPDCP SDU SNを設定するモジュール、
e.PDCP SDU SNは設定されたPDCP SDUをPDCP SDU SNを用いて暗号化するモジュール」
を有している。
そして、「仮想SN」は、PDCP層で設定されるSNであるから、「第1のPDCP SN」であるといえ、「PDCP SDU SN」は「第2のPDCP SN」といえ、「仮想SNを設定するモジュール」は「第1のSN(Sequence Number)設定モジュール」といえるとともに、「ヘッダを圧縮するモジュール」は「ヘッダ圧縮モジュール」といえ、「暗号化してRLC層に送信するモジュール」は「暗号化モジュール」といえ、「PDCP SDU SNを設定するモジュール」は「第2のSN(Sequence Number)設定モジュール」ということができる。さらに、これらのモジュールやバッファはPDCP層に位置するものであるといえる。
このため、引用発明1は、「第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティ」であるといえる。

引用発明1の「第1のSN(Sequence Number)設定モジュール」は、「a.上位層から受信したPDCP SDUに仮想SNを設定するモジュール」であって、「PDCP SDU」を上位層から受信し、設定する「仮想SN」は「PDCP SDU」にシーケンスに設定されるナンバ、すなわち、「PDCP SDU」に関連するシーケンスナンバであるから、「前記第1のSN設定モジュールは、上位層からPDCP SDU(Service Data Unit)を受信して前記受信したPDCP SDUに関する第1のPDCP SNを設定するように構成されて」いるといえる。

引用発明1の「ヘッダ圧縮モジュール」は、「c.PDCP SDU バッファにバッファされた仮想SNが設定されたPDCP SDUのヘッダを圧縮するモジュール」であるから、「前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したPDCP SDUのヘッダを圧縮するように構成されて」いるといえる。

引用発明1は、
「f.PDCP層から暗号化されたPDCP SDUを受信してPLC SDUとしてバッファするRLC SDU バッファ、
g.RLC SDU バッファでバッファされたRLC SDUを分割/連結するモジュール、
h.分割/連結されたRLC SDUにRLC PDU SNを設定するモジュール、
i.RLC PDU SNが設定されたRLC SDUをRLC PDUとしてバッファするRLC PDU バッファ」
を有している。
そして、引用発明1の「RLC PDU SN」は「第3のSN」といえるとともに、「RLC SDU バッファ」は「第2のバッファ」といえ、「分割/連結するモジュール」は「分割及び連結モジュール」といえ、「RLC PDU SNを設定するモジュール」は「第3のSN設定モジュール」といえ、「RLC PDU バッファ」は「第3のバッファ」ということができる。さらに、これらのバッファ及びモジュールはRLC層に位置するものであるといえる。
このため、引用文発明1の「RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し」ているといえる。

引用発明1の「第2のバッファ」は「f.PDCP層から暗号化されたPDCP SDUを受信してPLC SDUとしてバッファするRLC SDU バッファ」であるから、「前記第2のバッファは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを受信して保存するように構成されて」いるといえる。

引用発明1の「分割及び連結モジュール」は「g.RLC SDU バッファでバッファされたRLC SDUを分割/連結するモジュール」であるから、「前記分割及び連結モジュールは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを分割及び/又は連結するように構成されて」いるといえる。

引用発明1の「第3のSN設定モジュール」は「分割/連結されたRLC SDUにRLC PDU SNを設定するモジュール」であり、「前記第3のSN」は、「RLC SNであ」るといえるから、「前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されて」ているといえる。

引用発明1の「第3のバッファ」は「i.RLC PDU SNが設定されたRLC SDUをRLC PDUとしてバッファするRLC PDU バッファ」であるから、「前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されている」といえる。

したがって、本件補正発明と引用発明1を対比すると、次の点で一致する。

「第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティであって、
前記第1のSN設定モジュールは、上位層からPDCP SDU(Service Data Unit)を受信して前記受信したPDCP SDUに関する第1のPDCP SNを設定するように構成されており、
前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したPDCP SDUのヘッダを圧縮するように構成されており、
前記RLC層は、第2のバッファと、分割及び連結モジュールと、第3のSN設定モジュールと、第3のバッファとを有し、
前記第2のバッファは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを受信して保存するように構成されており、
前記分割及び連結モジュールは、前記第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUを分割及び/又は連結するように構成されており、
前記第3のSN設定モジュールは、前記分割及び/又は連結されたデータに第3のSNを付加するように構成されてており、前記第3のSNは、RLC SNであり、
前記第3のバッファは、前記第3のSNが付加されたデータを保存するように構成されているもの。」

また、次の点で相違する。

相違点1
本件補正発明は、「PDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える移動通信送信機」であるのに対して、引用発明1は「PDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティ」である点。

相違点2
本件補正発明では、「前記暗号化モジュールは、前記第1のPDCP SNを用いて、前記ヘッダ圧縮されたPDCP SDUを暗号化するように構成されており」、「前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたPDCP SDUに第2のPDCP SNを付加して、第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成されて」いるのに対して、引用発明1では、「第2のSN設定モジュール」が「d.ヘッダが圧縮されたPDCP SDUにPDCP SDU SNを設定するモジュール」であり、「暗号化モジュール」が「e.PDCP SDU SNは設定されたPDCP SDUをPDCP SDU SNを用いて暗号化するモジュール」である点、すなわち、本件補正発明は、暗号化モジュールで暗号化をした後に、第2のSN設定モジュールで第2のPDCP SNを付加して、RLC(Radio Link Control)層に送信する構成であるのに対して、引用発明1は、第2のSN設定モジュールで第2のPDCP SNを付加した後に、暗号化モジュールで暗号化して、RLC(Radio Link Control)層に送信する構成である点。

相違点3
本件補正発明では、「前記第3のSNは、前記第1のPDCP SN及び前記第2のPDCP SNから独立して」いるのに対して、引用発明1では、「第3のSN」が「第1のPDCP SN」及び「第2のPDCP SN」から独立しているか否か特定されていない点。


3-5.判断
上記相違点1について検討すると、上記(イ)、(ウ)で摘示したように、送信側のUEのPDCPエンティティとして、上位層から受信したデータをシーケンスナンバーの番号化、ヘッダ圧縮、暗号化、及び、PDCPヘッダの追加を行って、下位層に送信することが、引用文献2に開示されている。
そして、引用発明1の「第1のSN設定モジュール」の作用は引用文献2の「上位層から受信したデータをシーケンスナンバーの番号化」を行うことであり、引用発明1の「暗号化モジュール」の作用は引用文献2の「ヘッダ圧縮」を行うことであるといえる。
さらに、引用文献2の「PDCPヘッダの追加を行って、下位層に送信する」ことについても、引用発明1でもSDUがPDCP層からRLC層に送信されているとともに、技術常識に鑑みると、PDCP層からRLC層へSDUを送信する際にPDCPヘッダを付加することは自明であるから、引用発明1においても、「PDCPヘッダの追加を行って、下位層に送信」されているといえる。
してみると、引用発明1のPDCPエンティティは引用文献2に記載された送信側のUE(移動通信送信機)が備えるPDCPエンティティに他ならず、引用発明1のPDCPエンティティを移動通信送信機が備えるPDCPエンティティとすることは、当業者であれば容易に推考し得る事項であるといえる。

上記相違点2について検討すると、上記(エ)で摘示したように、送信機側で、上位層から受信した各PDCP SDUのためにPDCPがSNを生成し、ヘッダ圧縮した後、そのPDCP SNを有するPDCP SDUに対して暗号化を行い、その後、送信のためにPDCP PDUを構築するために、PDCPはPDCP SDUにSNを添付することが、マルタでの会議で合意されたことが引用文献3に記載されている。
そして、引用発明1はマルタでの会議で議論の対象として提案されたものに他ならない。
してみると、引用発明1における「第2のSN設定モジュール」及び「暗号化モジュール」を、ヘッダ圧縮した後にそのPDCP SNを有するPDCP SDUに対して暗号化を行うとともに、その後、送信のためにPDCP PDUを構築するために、PDCPはPDCP SDUにSNを添付するように構成すること、すなわち、「前記暗号化モジュールは、前記第1のPDCP SNを用いて、前記ヘッダ圧縮されたPDCP SDUを暗号化するように構成」し、「前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたPDCP SDUに第2のPDCP SNを付加して、第2のPDCP SNが付加されたPDCP SDUをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成」することは、当業者であれば容易になし得る事項であるといえる。

上記相違点3について検討すると、引用発明1における「第1のPDCP SN」及び「第2のPDCP SN」は、PDCP SDUに設定されたシーケンスナンバであるのに対して、「第3のSN」はRLC PDU SN、すなわち、RLC PDUに付加されたシーケンスナンバであって、RLC PDUは、そのデータ長がRLC PDUのデータ長となるようにPDCP SDUを分割/結合して生成されたものであり、そのシーケンスナンバは、分割/結合の前に付加されたシーケンスナンバと独立したものとなることは明らかである。
してみると、引用文献1記載の「第3のSN」は「第1のPDCP SN」及び「第2のPDCP SN」から独立しているといえ、該相違点3では実質的には相違していない。
また、仮に実質的な相違があったとしても、PDCP層で設定されるシーケンスナンバとRLC層で設定するシーケンスナンバに関係性を持たせる必然性はないことから、「第3のSN」は「第1のPDCP SN」及び「第2のPDCP SN」から独立させることは、当業者が容易になし得る事項である。

また、本件補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明1及び引用文献2、3の記載事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

3-6.むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。


4.まとめ
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項の規定に違反しないものであったとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3.本願発明について
1.本願発明
平成24年10月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明は、平成24年4月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える移動通信送信機であって、
前記第1のSN設定モジュールは、上位層からデータを受信して前記データに関する第1のSNを設定するように構成されており、
前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したデータのヘッダを圧縮するように構成されており、
前記暗号化モジュールは、前記ヘッダ圧縮されたデータを暗号化するように構成されており、
前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたデータに第2のSNを付加して、第2のSNが付加されたデータをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成されている、送信機。」


2.本願発明の優先基準日
本願は、2008年3月18日(パリ条約による優先権主張2007年3月19日、米国、2007年3月22日、米国、2008年3月6日、韓国)を出願日とする国際出願であるが、本願発明の発明特定事項の内、
(1)「第1のSN(Sequence Number)設定モジュールと、ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールと、第2のSN(Sequence Number)設定モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える」ものが「移動通信送信機」であること。
(2)「前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたデータに第2のSNを付加」すること。
が、パリ条約による優先権主張の基となる米国特許出願60/895720号(2007年3月19日、米国)、及び、同米国特許出願60/896474号(2007年3月22日、米国)には開示されていないことから、これらの出願に基づく優先権主張は認められない。
このため、本願発明の優先基準日は、パリ条約による優先権主張の基となる韓国特許出願10-2008-0021112号の出願日の2008年3月6日である。


3.引用文献
原査定において引用されたものである本願発明の優先基準日前に国際公開された国際公開第2006/116620号(以下、「引用文献4」という)には、次の(オ)?(キ)の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。)。

(オ)「[0036] PDCP may provide the following functions:
・Header compression and decompression of IP data streams (e.g., for TCP/IP or RTP/UDP/IP headers) at a transmitter and a receiver, respectively; and
・Ciphering and deciphering of data at the transmitter and receiver, respectively, to prevent unauthorized acquisition of data.
Ciphering is synonymous with encryption, and deciphering is synonymous with decryption. 」
(当審訳:[0036]PDCPは、以下の機能を提供し得る。
・送信機及び受信機のそれぞれにおけるIPデータストリーム(例えば、TCP/IPヘッダ、又は、RTP/UDP/IPヘッダのための)のヘッダ圧縮及び解凍。
・無許可のデータ取得を防ぐための、送信機及び受信機それぞれにおけるデータの暗号化及び解読。
cipheringはencryptionと同意語であり、decipheringはdecryptionと同意語である。)

(カ)「[0061] FIG. 6 shows an embodiment of a process 600 for uplink transmission using a full sequence number for ciphering and RLC. In the example shown in FIG. 6, UE 110 initially communicates with eNode B 120a, sends packets A and B on the uplink to eNode B 120a, is handed over from eNode B 120a to eNode B 120b, and sends additional packets C and D to eNode B 120b.
[0062] UE 110 performs header compression on each packet and ciphers each header compressed packet to generate a ciphered packet. Each ciphered packet may include, e.g., a ciphered compressed header and a ciphered payload. UE 110 attaches an RLC sequence number to each ciphered packet, which may be a predetermined number of LSBs of the full sequence number. 」
(当審訳:[0061]図6は、暗号化及びRLCのためにフルシーケンス番号を用いるアップリンク送信のための処理600の実施形態を示す。図6に示す例では、UE110は先ずeNodeB120aと通信し、パケットA,BをアップリンクでeNodeB120aに送り、eNodeB120aからeNodeB120bへハンドオーバされ、追加パケットC,DをeNodeB120bに送る。
[0062]UE110は、各パケットについてヘッダ圧縮を行ない、ヘッダ圧縮された各パケットを暗号化して、暗号化パケットを生成する。暗号化パケットはそれぞれ、例えば、暗号化された圧縮ヘッダ及び暗号化されたペイロードを含む。UE110は、暗号化パケットそれぞれに、RLCシーケンス番号を付与する。これは、フルシーケンス番号の予め定めた数のLSBでありうる。)

(キ)図3A及び図6には、暗号化に関して、シーケンスナンバ(SN)を用いてパケットを暗号化すること、暗号化したパケットをPLC層に送信することが記載されているとともに、図3Bには、シーケンスナンバを用いて解読することが記載されている。また、図6には、ヘッダ圧縮と暗号化の処理の横にSNが付加されたPkt Dと、RLCの処理の横にSNが付加されたPkt Dが記載さている。

技術常識を参酌すれば、上記(オ)?(キ)の摘示事項からみて、引用文献4には、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。

「アップリンク送信において、PDCP層で、各パケットについてヘッダ圧縮を行ない、ヘッダ圧縮された各パケットをシーケンスナンバ(SN)を用いて暗号化して、暗号化パケットを生成し、RLC層に送信するUE」


4.対比
引用発明4は、「アップリンク送信において、PDCP層で、各パケットについてヘッダ圧縮を行ない、ヘッダ圧縮された各パケットをシーケンスナンバ(SN)を用いて暗号化して、暗号化パケットを生成し、RLC層に送信するUE」であるから、ヘッダ圧縮モジュール、暗号化モジュールとを有するPDCPエンティティを備えた移動通信送信機であるといえる。

引用発明4では、「各パケットについてヘッダ圧縮を行な」っているから、引用発明4が有するヘッダ圧縮モジュールは、「前記受信したデータのヘッダを圧縮するように構成されて」いるといえる。

引用発明4では、「ヘッダ圧縮された各パケットをシーケンスナンバ(SN)を用いて暗号化して」いるから、引用発明4が有する暗号化モジュールは、「前記ヘッダ圧縮されたデータを暗号化するように構成されて」いるといえる。

したがって、本願発明と引用発明4を対比すると、次の点で一致する。

「ヘッダ圧縮モジュールと、暗号化モジュールとを有するPDCP(Packet Data Convergence Protocol)エンティティを備える移動通信送信機であって、
前記ヘッダ圧縮モジュールは、前記受信したデータのヘッダを圧縮するように構成されており、
前記暗号化モジュールは、前記ヘッダ圧縮されたデータを暗号化するように構成されている、送信機。」

また、次の点で相違する。

相違点1
本願発明は、「第1のSN(Sequence Number)設定モジュール」を有しており、「前記第1のSN設定モジュールは、上位層からデータを受信して前記データに関する第1のSNを設定するように構成されて」いるのに対して、引用発明4は、「第1のSN(Sequence Number)設定モジュール」が特定されていない点。

相違点2
本願発明は、「第2のSN(Sequence Number)設定モジュール」を有しており、「前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたデータに第2のSNを付加して、第2のSNが付加されたデータをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成されている」のに対して、引用発明4は、「第2のSN(Sequence Number)設定モジュール」が特定されていない点。


5.判断
上記相違点1について検討すると、引用発明4では、「ヘッダ圧縮された各パケットをシーケンスナンバ(SN)を用いて暗号化して」おり、ヘッダ圧縮される各パケットは上位層から受信したパケットであることは明らかであるとともに、暗号化に用いるシーケンスナンバ(SN)を暗号化の前に各パケットに対して設定する必要があることは明らかであって、暗号化に用いるシーケンスナンバ(SN)を「第1のSN(Sequence Number)」ということができる。
してみると、引用発明4において、「第1のSN(Sequence Number)設定モジュール」を有するようにして、「前記第1のSN設定モジュールは、上位層からデータを受信して前記データに関する第1のSNを設定するように構成」することは、当業者であれば容易になし得る事項である。

上記相違点2について検討すると、引用発明4は、暗号化の際に用いたシーケンスナンバを用いて解読を行っているから、解読を行う受信側が暗号化の際に用いたシーケンスナンバが知り得るようにする必要があることは明らかであるとともに、引用文献4の図6のヘッダ圧縮と暗号化の処理の横にSNが付加されたPkt Dが記載され、RLCの処理の横にSNが付加されたPkt Dが記載されていることに鑑みると、ヘッダ圧縮及び暗号化のPDCP層の処理の段階で、Pkt DにSNを付加することの示唆がなされているといえる。
してみると、引用発明4において、「第2のSN(Sequence Number)設定モジュール」を有するようにして、「前記第2のSN設定モジュールは、前記暗号化されたデータに第2のSNを付加して、第2のSNが付加されたデータをRLC(Radio Link Control)層に送信するように構成」することは、当業者であれば容易になし得る事項である。

また、本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。


6.むすび
よって、本願発明は、引用発明4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



第4.まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2013-05-28 
結審通知日 2013-05-29 
審決日 2013-06-11 
出願番号 特願2009-552606(P2009-552606)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 572- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北川 純次伊東 和重  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 佐藤 聡史
江口 能弘
発明の名称 移動通信システムにおける無線プロトコル処理方法及び移動通信送信機  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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