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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B21D
審判 全部無効 2項進歩性  B21D
管理番号 1280908
審判番号 無効2012-800024  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-09 
確定日 2013-11-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2876402号発明「板金用引出し具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2876402号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 3年11月24日 実用新案出願日(実願平3-104265号)
平成 4年 8月27日 実用新案出願日(出願分割)
(実願平4-65357号)
平成 7年 5月 9日 特許出願日(出願変更)
(特願平7-134722号)
平成 9年 4月28日 特許出願日(出願分割)
(特願平9-124950号)
平成10年11月16日 特許査定
平成11年 1月22日 設定登録(特許第2876402号公報)
平成24年 3月 9日 無効審判請求
平成24年 4月10日 請求人・上申書
平成24年 6月 4日 答弁書
平成24年 6月22日 請求人・上申書
平成24年 7月 5日 口頭審尋
平成24年 7月 6日 通知書(審理事項通知)
平成24年 7月27日 請求人・口頭審理陳述要領書
平成24年 7月27日 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成24年 8月 9日 請求人・上申書
平成24年 8月 9日 被請求人・上申書
平成24年 8月10日 口頭審理
平成24年 8月31日 被請求人・上申書
平成24年 9月 5日 請求人・上申書

本審判は、平成23年法律第63号の施行の日前に請求されたものであるから、同法附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法が適用されるが、本審決では単に「特許法」と表記する。
また、平成6年法律第116号による改正前の特許法を「改正前特許法」と表記する。
また、本審決において、引用箇所を行数で特定する場合、空行を含まない。原文の丸囲み数字は「まる1」のように置き換えた。

第2 本件発明
特許第2876402号に係る発明1ないし3(以下「本件発明1ないし3」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、同請求項1ないし3には次のとおり記載されている。

「【請求項1】シャフトと、該シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し、
前記第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うことを特徴とする板金用引出し具。
【請求項2】前記支持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されている請求項1に記載の板金用引出し具。
【請求項3】シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段を支持する支持部と、
前記第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し、
前記第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うことを特徴とする板金用引出し具。」

第3 請求人の主張
1.要点
請求人は、本件発明1ないし3を無効とするとの審決を求めている。
その理由を整理すると、次のとおりである。

(1)本件発明1ないし3は、改正前特許法第36条第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由1」という。)(請求書7.(3)(3.1))。

(2)本件発明1ないし3は、甲第1ないし13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由2」という。)(請求書7.(3)(3.2))。

2.証拠方法
請求人は、上記主張の証拠方法として、以下の証拠を提出している。

甲第1号証の1:米国特許第4050271号明細書
甲第1号証の2:米国特許第4050271号明細書の翻訳文
甲第2号証:実願昭59-178443号(実開昭61-92573号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開昭51-145460号公報
甲第4号証:特開昭53-16349号公報
甲第5号証:特開昭53-16350号公報
甲第6号証:実願昭56-110728号(実開昭58-18614号公報)のマイクロフィルム
甲第7号証:特開昭61-132220号公報
甲第8号証:実願昭63-121245号(実開平2-42717号公報)のマイクロフィルム
甲第9号証の1:米国特許第4136547号明細書
甲第9号証の2:米国特許第4136547号明細書の一部抜粋翻訳文
甲第10号証の1:米国特許第4147047号明細書
甲第10号証の2:米国特許第4147047号明細書の一部抜粋翻訳文
甲第11号証の1:米国特許第4425782号明細書
甲第11号証の2:米国特許第4425782号明細書の一部抜粋翻訳文
甲第12号証:特開平2-53571号公報
甲第13号証:特開昭64-11706号公報

以上の証拠方法のうち、甲第1ないし13号証は請求書に添付されたものである。なお、甲第14及び15号証は口頭審尋において取り下げられた(口頭審尋調書の請求人の3)。
また、甲第1ないし13号証について、両当事者に成立の争いはない(口頭審理調書の被請求人の2)。

3.主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
なお、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものである。

[主に無効理由1について]
(1)請求書第6ページ第29行から第9ページ第3行
「(前略)…
<第8ページ第12から20行>
エ そうすると、特許請求の範囲における本件発明の記載によれば、【0007】「本発明のもう一つ他の目的は、板金面の凹部の具合に最適な引き出し加減をあらかじめセットでき、」という解決課題、及び【0032】のまる3に記載された「第2の操作手段の支持部に第1の操作手段が回動自在に支持され、第1の操作手段のハンドルを回動してビットを昇降させることにより、板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調節し得る構成となっているため、最適な引き出し加減を板金前にあらかじめセットでき、板金作業を極めて的確に行なうことができる。」という以外の「支持部」も含んでおり、それらは、前記【0007】の解決課題を反映しておらず、また【0032】のまる3に記載された効果を奏さない。
…(中略)…
<第8ページ第25行から末行>
カ また、本件発明は、上記の「シャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が刻設され、このねじ部13が後述する第2の操作手段20の支持部50に螺合し、前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段20に回動自在に支持される。」という支持態様以外にいかなる支持態様を含むのか不明確であり、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないので不明確である。殊に、本件発明3は、上記支持の方法の点に加えて、支持部が支持する対象すら特定しておらず、単に「第1の操作手段を支持する支持部」とだけ記載され、支持部が第1の操作手段のどの部分を対象として支持するのか、どのように支持するのか等、発明特定事項どうしの技術的関連の記載がなく、支持部と当該支持部によって支持されるものとの相互関係が不明確であり、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない。
…(後略)」

(2)平成24年6月22日付け上申書第1ページ第8行から第3ページ下から2行
「(前略)…
<第3ページ第4から下から4行>
ア 本件発明は、「シャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が刻設され、このねじ部13が後述する第2の操作手段20の支持部50に螺合し、前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段20に回動自在に支持される。」という支持態様以外にいかなる支持態様を含むのか不明確であることから、特許請求の範囲の外延が不明瞭であり、「発明の構成に欠くことができない事項のみを記載する」ことによって、特許権の権利範囲を明確にする規定である第5条第2項に違背するものということができます。

イ また、特許請求の範囲の外延が不明瞭であるために、発明の詳細な説明に記載された支持態様以外の支持態様をも含むことも考えられ、そうすると「発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載したもの」ということができ、審判官殿のメモでご指摘のとおり第5条第1項に関する(違背する)ものということができます。
…(後略)」

(3)平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書第2ページ第2行から第12ページ下から2行
「(前略)…
<第4ページ第3行から第5ページ第1行>
ウ 言うまでもなく、【0032】は「本発明」の効果として記載されているもので、ある特定の実施形態(例えば最良の実施形態)のみが奏することができる効果として記載されているものではありません。
「本発明」に該当するためには、効果まる1ないしまる4をすべからく奏しなければならないのであり、換言すれば、効果まる1ないしまる4のいずれか1つでも奏することができなければ、かかる発明は、「本発明」ではありません。効果まる1ないしまる4をすべからく奏するためには「支持部」は第1の操作手段と螺合する態様の支持部でなければならず、「支持部」について「第1の操作手段のシャフト(又は第1の操作手段)を支持するものであれば、どのようなものであってもよい」と理解される本件特許請求の範囲の記載には、「本発明」に該当しない発明についても記載されていることになります。
エ 特許発明の技術的範囲が特許明細書に記載された実施例の範囲にのみ限定されるものでないことや、特許明細書には例えば最良の実施形態において奏することができる、特に優良な効果が記載されていることもあることは請求人も理解し、否定するものではありませんが、本件特許明細書の記載からは、「本発明」が効果まる1ないしまる4を奏するものと記載されている以上、これを奏しない発明を「本発明」と理解することはできないのです。
…(中略)…
<第9ページ下から6行から第10ページ下から9行>
(4)本件特許明細書から導かれる「支持部」
本件特許明細書記載の課題を解決し、本件発明が奏すべきとされている【0032】に記載された効果まる1ないしまる4を奏するためには、効果まる1を奏するために第1の操作手段は第2の操作手段に回動自在に支持されている必要があり、また効果まる3を奏するためには、回動することによりビットが昇降しなければなりません。
それに加えて、シャフトを備えた第1の操作手段を引き上げることができるように支持される必要があります(請求項1ないし3の記載)。
したがって、これらの記載からは、本件発明における「支持部」とは、上述のようにまる1シャフトを備えた第1の操作手段を引き上げることができ、かつまる2第1の操作手段のシャフトを回動できるように支持でき、回動することによりビットが昇降するものでなければならないことから、第1の操作手段のシャフトにねじが刻設されていることを前提とし、これと螺合することで第1の操作手段のシャフトを支持する部材と理解せざるを得ず、これを、第1の操作手段のシャフト(又は第1の操作手段)を支持するものであれば、どのようなものであってもよいと、特許請求の範囲の記載のように拡張ないし一般化することはできません。
…(中略)…
<第11ページ第10行から第12ページ第11行>
第2 平成24年6月22日付上申書の主張の整理
1 特許法36条5項1号違反
上記第1において主張したとおり、特許請求の範囲の記載に基づき、本件発明における「支持部」を、第1の操作手段のシャフト(又は第1の操作手段)を支持するものであれば、どのようなものであってもよいと理解した場合には、例えば第1の操作手段のシャフトと固着されるような、回動できない態様で第1の操作手段を支持する態様の支持部も含まれることになり、【0032】に記載された本件発明の効果のうち、少なくとも効果まる1及びまる3を奏することができず、本件特許は特許法36条5項1号違反を免れません。
また、請求人としては、本件特許明細書の記載からは、本件発明における「支持部」とは、第1の操作手段のシャフトのねじ部と螺合する態様の支持部しか含まれ得ないと考えており、被請求人においてそれ以外の態様の支持部も含まれると主張するのであれば、やはり本件特許は特許法36条5項1号違反を免れません。

2 特許法36条5項2号違反
同様に被請求人において、第1の操作手段のシャフトのねじ部と螺合する態様以外の態様の支持部も含まれるとすれば、どのような支持部であれば本件発明の効果まる1ないしまる4を奏することができるのか、全く不明であると言わざるを得ず、具体的にどのような支持部が本件発明の技術的範囲に含まれうるのか、その外延が不明確であるため、本件特許は特許法36条5項2号違反を免れません。
…(後略)」

[主に無効理由2について]
請求人は、無効理由2について、請求書、平成24年8月9日付け上申書及び平成24年9月5日付け上申書において、本件発明1ないし3は、当業者が甲第1号証に記載された発明、甲第2ないし8号証に記載された周知の事項及び甲第9ないし13号証に記載された周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである旨を主張している。

第4 被請求人の主張
1.要点
一方、被請求人の主張を整理すると、次のとおりである。

(1)本件発明1ないし3は、改正前特許法第36条第5項第1号及び第2号に違反せず、同法第123条第1項第3号の規定により、無効とされるべき理由はない(答弁書7.<7.3>(2))。

(2)本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項に違反せず、同法第123条第1項第1号の規定により、無効とされるべき理由はない(答弁書7.<7.4>(6))。

2.証拠方法
被請求人は、上記主張の証拠方法として、以下の証拠を提出している。

乙第1号証:実公昭62-27290号公報
乙第2号証:甲第1号証の1に記載された発明の構成の要部を示す参考図
乙第3号証:本件発明と甲1発明、甲2発明との「引出し作業後の板金面の断面形状」を比較するとともに、「引出し面の形状の特徴」を比較する図面
乙第4号証:「特許技術用語集」、第2版、日刊工業新聞社、2000年、p.68、158の写し
乙第5号証:「リーダーズ英和辞典」、初版、株式会社研究社、1984年、p.839の写し
乙第6号証:「機械用語辞典」、11版、株式会社コロナ社、1986年、p.153、620、771、772の写し
乙第7号証:「JIS工業用語大辞典」、第3版、(財)日本規格協会、1991年、p.1299の写し
乙第8号証:甲第1号証の1に記載された金属外板用くぼみ矯正装置の使用図-1
乙第9号証:甲第1号証の1に記載された金属外板用くぼみ矯正装置の使用図-2
乙第10号証:甲第1号証の1に記載された金属外板用くぼみ矯正装置の使用図-3
乙第11号証:「しくみ図解シリーズ 金属加工が一番わかる」、初版、株式会社技術評論社、2011年、p.24、25の写し
乙第12号証:「THE板金」、第6版、株式会社リペアテック、2011年、p.50、51、95の写し
乙第13号証:「特許技術用語集」、第2版、日刊工業新聞社、2000年、p.161の写し
乙第14号証:「広辞苑」、第5版、株式会社岩波書店、p.1064、2394、2646の写し
乙第15号証:本件発明におけるビット15と板金面との係合状態と甲1発明における係合部材100と外板130との係合状態を斜視拡大略図にて対比して示す図面
乙第16号証:本件発明におけるビット15と板金面との係合状態と甲1発明における係合部材100と外板130との係合状態を正面拡大略図にて対比して示す図面

以上の証拠方法のうち、乙第1ないし3号証は答弁書に添付され、乙第4ないし10号証は平成24年7月27日に提出された口頭審理陳述要領書に添付され、乙第11ないし16号証は同年8月31日に提出された上申書に添付されたものである。
また、乙第1ないし10号証について、両当事者に成立の争いはない(口頭審理調書の請求人の2)。

3.主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

[主に無効理由1について]
(1)答弁書第10ページ第17行から第13ページ第3行
「(前略)…
<第12ページ下から5行から下から2行>
(2)前記<7.2>の記載によれば、本件発明1ないし3に記載された事項と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されており、また、本件発明1ないし3に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明は明確に把握できるものである。
…(後略)」

(2)平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書第2ページ第5行から第13ページ第10行
「(前略)…
<第10ページ下から2行から第11ページ第5行>
オ したがって、本件発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載は、改正前の法36条5項1号に規定する要件を満たすものである。
請求人の主張は、従来技術の課題を解決するための複数の目的の1つ(本件特許明細書段落【0007】)のみを取り上げて、発明の詳細な説明に記載された特定の具体例(段落【0032】の中のまる3)のみから、必要以上に特許請求の範囲の減縮を主張するものであって明らかに失当である。
…(中略)…
<第12ページ第11行から第13ページ第8行>
ウ 仮に、請求項の「支持部」の記載を問題視する請求人の主張が、改正前の法36条5項2号の問題であるとしても、本件発明に同号違反は認められない。
すなわち、請求項1には、「該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」と記載され、また請求項2には、「前記支持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されている」と記載されており、本件発明1及び2の「支持部」が「第1の操作手段のシャフト」を支持するものであり、かつ、「第2の操作手段」が備えるものであること、及び本件発明2における「支持部」は、それに加えて、「シャフトを保持する貫通部」が形成されていることが明確に把握できるものである。
各請求項において、第1の操作手段、シャフト、支持部、第2の操作手段それぞれの構造的関係は明確に規定されており、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すれば、「支持部」の技術的意味(請求項に係る発明において果たす働きや役割)を十分理解することができる。
本件発明1及び2が発明の詳細な説明に記載された支持態様以外のものを含むものであるとしても、それをもって不明確であるとはいえない。
また、請求項3は、「該第1の操作手段を支持する支持部と」記載されており、本件発明3における、「支持部」は「第1の操作手段」を支持する」ものである。
「支持部」が第1の操作手段を支持しているかどうか、両者の構造的関係は、明確に把握できるため、支持部と当該支持部によって支持されるものとの相互関係が不明確であるとは言えない。
…(後略)」

[主に無効理由2について]
(3)答弁書第13ページ第4行から第31ページ下から8行
「(前略)…
<第25ページ下から6行から第30ページ下から8行>
エ してみると、甲1の1発明は、本件発明1ないし3との関連において、次のとおりと認定できる。
(ア)甲1の1に記載のスライドロッド74(本件発明1ないし3のシャフト12に相当)はフレーム部材12(本件発明1ないし3の支持部50に対応)に支持されているところ、甲1の1の発明は、手動操作によってスライドロッド74を引き上げることはできても、フレーム部材12は引き上げられない。
一方、本件発明1、2では「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」を具備し、また、本件発明3では「第1の操作手段を支持する支持部と、第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段」を具備し、本件発明1ないし3では、第2の操作手段の引き上げ操作により、シャフトのみならず支持部(甲1の1発明のフレーム部材が対応)も引き上げられる。
したがって、甲1の1発明は、本件発明1、2にいう「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」、また、本件発明3にいう「第1の操作手段を支持する支持部と、第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段」を具備するものではない。
(イ)甲1の1に記載の引き込み部分の係合部材100は、チャックアセンブリ70を構成するチャック72に取り付けられたボルトにより構成されている。溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行うための、シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットではない。
(ウ)また、甲1の1に記載の引き込み操作部分のバネ80は、チャンバ60内に設けられ、チャック部材76の上端78と肩部64との間に介在させたものであって、静止ハンドル16と可動ハンドル20との間に介在させたものではない。
バネ80は、静止ハンドル16と可動ハンドル20に一切接触していない。
(エ)さらに、甲1の1に記載の引き込み操作部分のバネ80は、チャックアセンブリ70を付勢するものであって、可動ハンドル20自体を付勢するものではない。
すなわち、上記のとおり、チャックアセンブリ70は、チャック72とスライドロッド74からなり、このチャック72がくぼみ係合用アセンブリ100を支持し、バネ80がチャックアセンブリ70に対し力を伝達して、チャックアセンブリ70をバイアスさせて延長方向とも呼ばれる第2の方向83に移動させている。可動ハンドル20がオペレータの手によって引き込み位置に移動し、その後開放されるとすると、バネ80は可動ハンドル20の移動によって引っ込み位置まで圧縮して、その後チャックアセンブリ70を延長方向に移動させる力を印加し、バネ80の力によって第1と第2の揚力面124、126を介して可動ハンドル20の第1と第2の歯部26,28に耐えるようにさせて、ハンドル20は図1の実線で示されるような延長位置に戻るものである。
(オ)そもそも、甲1の1の発明は、自動車のボディのくぼみを矯正するように実施する場合、小さな始動穴を中心近くでくぼみ132を貫通するように設けてねじ部104がそこを貫通し始めるのを助けるようにする必要がある。さらに、甲1の2の発明にあっては、自動車のボディのくぼみを取り除くためのくぼみ矯正装置10を実際に応用する場合、通常応力線150が略10セント硬化の大きさまで縮小した時点で、くぼみ矯正装置10の操作を停止させるものであるところ、くぼみの略中心がまだわずかにくぼんだままの時点でくぼみ矯正装置10によるくぼみの位置の持ち上げを止めておく必要がある。オペレータがくぼみ矯正装置10の操作をいつ停止させるかの判断の助けとして、図4Aと4Bに、ベースプレート54への固定マーキングとしてのゲージ線152が示され、応力線150がゲージ線152の下に現われるように縮小すると、オペレータはくぼみが適切に持ち上げられたことが分かるため、くぼみ矯正装置10をこれ以上操作するのを止め、ノブ112をくぼみに係合するように回転させた方向と反対の方向に回転させることでくぼみ係合部材100がくぼみ132から取り外すものである。
甲1の2の発明は、本件発明のように、ビットの溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行ない、板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行なうようにし、しかも板金面の平滑化を図れるようにした発明ではない。

オ これに対し、本件発明1,2は、「シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段」と「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」と「第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねによりセカンドレバーを付勢させ」という構成要件を少なくとも具備するものである。
また、本件発明3は、「シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段」と「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部」と「第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段」と「第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねによりセカンドレバーを付勢させ」という構成要件を少なくとも具備するものである。
この本件発明1ないし3によれば、板金用引出し具を自動溶接機能付スタッド溶接機と組み合わせることで、ビットの溶着、引き出しを連続して行うことができる。
すなわち、本件発明1ないし3によれば、まる1 ビットの溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行なえるため、板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行なうことができ、しかも板金面の平滑化を容易に達成できる。まる2 シャフト先端部に設けたビットの先端を板金面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより、引き出し箇所(例えば、細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能である。まる3 第2の操作手段の支持部に第1の操作手段が回動自在に支持され、第1の操作手段のハンドルを回動してビットを昇降させることにより、板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調節し得る構成となっているため、最適な引き出し加減を板金前にあらかじめセットでき、板金作業を極めて的確に行うことができる。しかして、作業者が第2の操作手段を手動操作するとき、目視にて確認しながら板金作業を行うことが可能であり操作も容易である。まる4 ビットを板金面へ溶着する際に弱い溶着でよく、ビット溶着時に板金面裏面へのこげつきがほとんど生じないとともに板金を行う凹部をゆっくり引き出すことが可能なため板金箇所の金属疲労が少ない、という、甲1の1とは質的に全く異なる作用効果を達成できる。

カ 小括
以上のように、甲1の1発明は、板金用引出し具を自動溶接機能付スタッド溶接機と組み合わせることでビットの溶着、引き出しを連続して行うことができるようにした発明ではない。
したがって、請求人は、本件発明1ないし3と、甲1の1の発明との共通点の認定および相違点の認定を誤るものである。

〔甲2ないし甲8刊行物〕
ア 先端に溶着可能な電極を備えた引出具の記載はあるが、板金用引出し具を自動溶接機能付スタッド溶接機と組み合わせることでビットの溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行ない、板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行なうことができ、しかも板金面の平滑化を容易に達成できるようにした発明ではない。

イ そもそも、甲2?甲8の発明にあっては、乙3号証に示すように、板金面全体にわたる平滑化を行なうことはできず、引き出し後に出っ張りHが残る(乙1の第12図参照)。

ウ 甲2ないし甲8刊行物に記載の発明にあっては、本件明細書の段落番号【0002】【0003】【0004】に記載のとおりの問題点があることは論を俟たない。

〔甲9ないし甲13刊行物〕
ア 板金用引出し具を自動溶接機能付スタッド溶接機と組み合わせることでビットの溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行ない、板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行なうことができ、しかも板金面の平滑化を容易に達成できるようにした発明ではない。
…(後略)」

(4)平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書第13ページ第11行から第24ページ第11行
「(前略)…
<第14ページ下から5行から第15ページ第6行>
支持部が「シャフトの先端に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段のシャフトを支持」あるいは「シャフトの先端に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段を支持」する本件発明の構成、および、「第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し,このばねによりセカンドレバーを付勢させ,メインレバーとセカンドレバー間をばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う」本件発明の構成は、甲1ないし甲13に記載も示唆もされていない[ばねを「何処に」「どのような状態で」配設し、しかも「どのように作用させるか」は作用効果との関係で考慮すべきことと思料する]。
…(中略)…
<第22ページ第9から16行>
(4)通知書における相違点の認定についての被請求人の意見
通知書に記載された相違点2の理解は誤っており、以下のように解するべきである。
(相違点2)
本件発明1では、ばねを、メインレバーとセカンドレバーとの間に介在させ、常時セカンドレバーを付勢させているのに対し、甲1発明では、バネ80を、フレーム部材12とチャックアセンブリ70との間に介在させており、セカンドレバーを付勢させていない点
…(中略)…
<第23ページ第14行から下から2行>
ウ 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明によれば、自動溶接機能付スタッド溶接機と組み合わせることでビットの溶着、引き出しを連続して行い(段落【0030】)、「まる1ビットの溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行なえるため、板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行なうことができ、しかも板金面の平滑化を容易に達成できる。まる2シャフト先端部に設けたビットの先端を板金面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより、引き出し箇所(例えば、細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能である。」という効果がもたらされる(段落【0032】)。
…(後略)」

(5)平成24年8月31日付け上申書第5ページ第16行から第17ページ第7行
「(前略)…
<第8ページ第20行から第9ページ第3行>
(カ)板金用引出し具により板金面を引き出し、凹部が発生する前の原状に修復するにあたっては、板金面の戻りを考慮し、凹部が発生する前の元の位置より少し余分に引き上げなければ、凹部を原状に修復し板金面を平滑化することはできない(前記(2)エで述べたように、金属(鋼板)に力を加えて変形させた後、その力を抜くと変形させる前に戻る性質(弾性)があることは、金属加工および板金加工における技術常識と思料する。)
今、甲1発明のくぼみ係合部材を溶着ビットに変えた金属外板用くぼみ矯正装置を想定した場合、この装置では、板金面の上記戻りを考慮したビットによる凹部の引き出しは透明なベースプレートにより制約されて引き出し加減の調整ができないという欠点が少なくとも内在する。…(中略)…
<第9ページ第22行から第10ページ第4行>
(ク)甲1発明におけるバネ80は、チャックアセンブリ70(チャックアセンブリ70はチャック72とスライドロッド74からなる)をバイアス(付勢)させて引き込み方向と逆の延長方向に可動させるための手段であって(甲1の2の12頁20?21行)、可動ハンドル20バイアスをさせるための手段ではない。甲1の2の記載をみる限り、被請求人の理解では、バネ80が可動ハンドル20を付勢させるとの記述は発見できない。
甲1発明は、オペレータが静止ハンドル14と可動ハンドル20の把持部16および22を合わせ強く把持することによりへこみ132をゲージ線152まで一気に引き上げ矯正する発明である(甲1の2の9頁2?11行、甲1の2の10頁3?21行)。
…(中略)…
<第12ページ下から3行から第13ページ第11行>
エ 甲1発明にあっては、可動ハンドル20は、静止ハンドル14との間をバネ80に抗しながらつぼめて金属外板130の引き出しを行うことがあっても、可動ハンドル20はバネ80により付勢されてはいない。甲1発明にあっては、たとえば、係合部材100を外板に係合させた状態において可動ハンドル20が引き込み方向側に移行している場合に、可動ハンドルから手を離すと、バネ80は圧縮されたままの状態で、可動ハンドル20は延長方向に自然落下する。したがって、係合部材100を外板に係合させた状態において可動ハンドル20が引き込み方向側に移行している場合に可動ハンドルから手を離すと、本件発明1,3のように、「ばねの付勢力によりセカンドレバーは元に戻り、シャフト先端部に設けたビットの先端を板金面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより、引き出し箇所(例えば、細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな(微妙な)力を加えながら再度引き出すことが可能となる」ことはない。
…(中略)…
<第14ページ第9行から第16ページ第7行>
ウ 「止めナット114」及び「従動部材116」の機能
(ア)止めナット114は、ねじ付き開口が貫通し、ノブ112とフレーム部材12との間のスライドロッド74の端部110でねじ係合し、止めナット114はノブ112に対して締め付けてこれらの部材を確実に固定するようにする(甲1の2の6頁18行?21行)。
止めナット114の「止めナット」は「locking nut」(甲1の1の明細書4欄63行)(甲1の1の明細書4欄58行)の英訳上の言葉であり、止めナットの機能は「ねじのゆるみ止め」にあることは明らかである。
…(中略)…
上記のとおり、そもそも、従動部材116の第1の揚力面124と可動ハンドル20の第1の歯部26、従動部材116の第2の揚力面126と可動ハンドル20の第2の歯部28は常時当接係合した状態にはない(甲1の2の6頁21行?7頁5行、乙2の参考図2、乙8のA-1、B-1、乙10の図E、図F参照)。
(ウ)上記(5)で述べたように、可動ハンドル20は付勢されておらず、このことを併せて考えるならば、従動部材116の作用ないし機能は、可動ハンドル20から受ける力をスライドイロッド74に伝えることにあると考えるべきであると思料する。
(エ)したがって、甲1発明の「止めナット114」及び「従動部材116」が、本件発明の「支持部」に相当すると解することもできない。
…(中略)…
<第16ページ第8行から第17ページ第7行>
(7)被請求人提出の平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書第22頁18行から21行記載の相違点3について
…(中略)…
イ 通知書においては、第2の操作手段として、「該第1の操作手段のチャックアセンブリ70をスライド可能に支持するフレーム部材12を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」であると認定しているが(通知書の4頁26?28行)、本件発明1における第2の操作手段は、シャフトの引き上げに寄与する手段であるところ、甲1のフレーム部材12は、シャフト(スライドロッド74)の引き上げに寄与する部材ではなく、内部にスライドロッドを収容するためのものである。甲1発明におけるフレーム部材12は、第1の操作手段のチャックアセンブリ70をフレーム部材12内においてスライド可能に保持するものである。
ウ これに対し、本件発明1における支持部は、第2の操作手段に設けられていることは明らかであって、このことによって、細やかな(微妙な)力を直接第1の操作手段に伝えることができ、「シャフトの先端に設けたビットの先端を板金面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより、引き出し箇所(例えば、細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能」(明細書段落【0032】まる2)であるとする作用効果に寄与するところ、甲1発明のフレーム部材は可動することがなく、本件発明1のこのような作用効果を奏しない。
エ 第1の操作手段を支持する支持部を、第2の操作手段に備えさせるという構成は、甲1発明から当業者が容易に想到できるものとはいえない。」

第5 無効理由1の検討
1.改正前特許法第36条第5項第1号について
(1)改正前特許法第36条第5項第1号は、特許請求の範囲の記載に関して、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定する。
この規定は、公開していない発明について権利を請求することにならないよう、発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することを防止するために、請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならないとしたものである。
特許請求の範囲の記載が本号に適合するか否かは、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に発明として記載したものとを対比・検討することにより判断されるものであり、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとの表現上の整合性にとらわれることなく、実質的な対応関係について対比・検討をすべきである。

(2)請求人は、特許明細書に「本発明」の効果として記載されている全ての効果を奏しない発明は「本発明」と理解できないところ、本件発明1ないし3は、特許明細書の段落0032に記載された効果まる1ないしまる4のうち、少なくとも効果まる1「ビットの溶着、引き上げ、取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行なえるため、板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行なうことができ、しかも板金面の平滑化を容易に達成できる。」及び効果まる3「第2の操作手段の支持部に第1の操作手段が回動自在に支持され、第1の操作手段のハンドルを回動してビットを昇降させることにより、板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調節し得る構成となっているため、最適な引き出し加減を板金前にあらかじめセットでき、板金作業を極めて的確に行なうことができる。しかも、作業者が第2の操作手段を手動操作するとき、目視にて確認しながら板金作業を行うことが可能であり操作も容易である。」を奏さないため、特許請求の範囲と発明の詳細な説明が対応せず、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許請求の範囲が記載されていることになる旨主張している。

(3)請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていない場合には、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなるが、発明の詳細な説明の記載から複数の課題が把握できる場合は、そのうちのいずれかの課題を解決するための手段が請求項に反映されているのであれば、当該記載された課題に着目する限り、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲内のものであることは当然である。
本件特許明細書の記載によれば、従来の板金用引出し具では、「操作用アームを閉成する力に抗するように作用するばねが配設されていないため、細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことには必ずしも適していなかった」(段落0004)という問題点を解決するため、「板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実に行うことができ、しかも板金面の平滑化を容易に達成できる板金用引出し具を提供すること」(段落0005)を目的とし、本件発明1ないし3においては、「第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、このメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し、このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う」ことによって、当該目的を達成し、「引き出し箇所(例えば、細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能である」(段落0032)という効果を奏している。

(4)小括
したがって、本件発明1ないし3は発明の詳細な説明に記載したものである。

2.改正前特許法第36条第5項第2号について
(1)改正前特許法第36条第5項第2号は、特許請求の範囲の記載に関して、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」することを規定する。
ここで、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているとは、一の請求項に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明が明確に把握できることを意味する。

(2)請求人は、本件発明1ないし3が発明の詳細な説明に記載された支持態様以外にどのような支持態様を含むのかが不明確であり、また、本件発明3において、支持部と当該支持部によって支持されるものとの相互関係が不明確であるため、特許を受けようとする発明に欠くことができない事項が記載されおらず、特許請求の範囲の記載が本号に適合しない旨主張する。

(3)本件発明1及び2における「支持部」は、「第1の操作手段のシャフトを支持する」ものであり、かつ、「第2の操作手段」が備えるものであり、本件発明2における「支持部」は、これらに加えて、「シャフトを保持する貫通部」が形成されているものである。
「支持部」が、第1の操作手段のシャフトを支持しているかどうか、第2の操作手段が備えるものであるかどうか、また、シャフトを保持する貫通部が形成されているかどうかについては、明確に把握できることに加え、当該「支持部」が他の構成要素との関係で不整合があるものでもないので、本件発明1及び2が発明の詳細な説明に記載された支持態様以外のものを含むものであったとしても、それをもって不明確であるとはいえない。

(4)また、本件発明3における「支持部」は「第1の操作手段を支持する」ものである。
「支持部」が、第1の操作手段を支持しているかどうかについては、明確に把握できるため、支持部と当該支持部によって支持されるものとの相互関係が不明確であるとはいえず、また、当該「支持部」が他の構成要素との関係で不整合があるものでもない。

(5)小括
したがって、本件発明1ないし3の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものである。

3.まとめ
よって、本件発明1ないし3の記載は改正前特許法第36条第5項第1号及び第2号に適合しており、特許明細書の特許請求の範囲の記載は同法第36条第5項に規定する要件を満たす。

第6 無効理由2の検討
1.甲第1号証の1に記載された発明、甲第2ないし8号証に記載された周知の事項及び甲第9ないし13号証に記載された周知の事項
括弧内の訳文は請求人が提出した甲号証による。

1.1 甲第1号証の1に記載された発明
a.明細書第1欄第10ないし15行
「1. Field of the Invention
The present invention relates to improved apparatus for repairing indentions in a rigid skin, and more particularly, but not by way of limitation, to an improved apparatus for repairing dents in the metal skin of the body of an automobile.」
(1.発明の分野
本発明は硬質外板のくぼみを矯正するための改良された装置に関し、特に、ただしこれに限定されるものではないが、自動車の車体の金属外板にできたくぼみを修理するための改良された装置に関するものである。)

b.第2欄第23ないし51行
「SUMMARY OF THE INVENTION
The present invention provides an improved apparatus for straightening an indentation in a metal skin or the like wherein a dent-engaging member is placed in contact engagement with the dent, and a frame, a transparent base plate, a chuck assembly and a rectracting assembly cooperatively pull the dent-engaging member so as to force the indented portion of the body skin back to its original shape while the plastic deformation of the dented metal is observed and monitored.
Accordingly, an object of the present invention is to provide an improved dent-straightening apparatus that easily and quickly attaches to and removes the dent.
Another object of the present invention is to provide an improved dent-straightening apparatus that easily and quickly reforms the dented portion while being continuously observable and monitored.
Another object of the present invention is to provide an improved dent-straightening apparatus that prevents overpull of the dented area.
Another object of the present invention is to provide an improved dent-straightening apparatus that minimizes the marring of the dented area while straightening.
Other objects and advantages of the invention will be evident from the following detailed description when read in conjunction with the accompanying drawings which illustrate a preferred embodiment of the invention.」
(発明の要約
本発明は金属面などのくぼみを取るための装置を改善したものであり、くぼんだ金属の塑性変形を観察および監視しながら、ボディの表面のくぼみ部分を元の形状に復帰させるように、くぼみ係合部材がくぼみと接触係合して配置され、フレーム、透明なベースプレート、チャックアセンブリおよび引込みアセンブリが共働してくぼみ係合部材を引っ張る。
したがって、本発明の課題は、簡単且つ迅速にくぼみに固定してくぼみを取り除くことのできる、改善されたくぼみ矯正装置を提供することである。
本発明の別の課題は、連続的に観察および監視しながら、くぼみ部分を簡単且つ迅速に矯正できる、改善されたくぼみ矯正装置を提供することである。
本発明の別の課題は、くぼみ領域の過度の引張り出しを防止する、改善されたくぼみ矯正装置を提供することである。
本発明の別の課題は、矯正しながら、くぼみ領域の損傷を最小限にする、改善されたくぼみ矯正装置を提供することである。)

c.第2欄第52ないし59行
「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
FIG. 1 is a side elevational view of the improved dent-straightening apparatus of the present invention.
FIG. 2 is a front elevational view of the dent-straightening apparatus shown in FIG. 1.
FIG. 3 is a front elevational view, shown in partial cutaway depiction, of the dent-straightening apparatus of FIG. 1.」
(図面の簡単な説明
図1は、本発明の改良されたくぼみ矯正装置の側面図である。
図2は、図1に示されるくぼみ矯正装置の正面図である。
図3は、図1のくぼみ矯正装置の一部切断正面図である。)

d.第3欄第6ないし19行
「The apparatus 10 basically comprises a frame member 12 that has a stationary handle member 14 extending therefrom. As appearing in FIG. 1, the handle 14 has a sleeve 16 that is made of a polymeric material.
Also extending from the frame member 12 is a pivot support member 18. A movable handle 20 is designed to be pivotally supported by the pivot support member 18 in a manner that the movable handle 20 can assume an extend position as shown in FIG. 1 by the solid line depiction of the movable handle 20, and the movable handle 20 can be pivoted toward the stationary handle 14 to assume a retract position as shown in FIG. 1 by the broken line depiction of the movable handle 20.」
(装置10は、基本的には部材12から延出する静止ハンドル部材14を有するフレーム部材12を備えている。図1に示されるように、ハンドル14はポリマー材料からなるスリーブ16を有する。
フレーム部材12からは、枢支部材18も延出している。可動ハンドル20は、可動部材20が実線で示されるような図1に示す延長位置に来るように枢支部材18に枢支されて、可動ハンドル20が静止ハンドルに向かって旋回して可動ハンドル20の破線で示されるような図1の引き込み位置にくるように設計されている。)

e.第3欄第20ないし38行
「The movable handle 20 has a gripping portion 22 and a tines portion 24, the latter comprising a first tine portion 26 and a second tine portion 28. The frame member 12 is a generally tubular shaped member having a first flatted surface 30 on one side of the frame 12 and a second flatted surface 32 on the opposing side of the frame 12 as may be viewed in FIG. 2. The tines portion 24 is disposed so that the first tine portion 26 is adjacent to the first flatted surface 30, and the second tine portion 28 is adjacent to the second flatted surface 32. A pivot pin 33 is disposed in an appropriately placed aperture in the pivot support member 18 and passes through a pair of aligned apertures located in the edge portions 34 of the first and second tine portions 26, 28. The pivot pin 33 serves as an arbor for rotation of the movable handle 20 relative to the frame 12. The top surfaces 36 and 37 respectively of the first and second tines portion 26 and 28 are curved into a cam shape for a reason that will be discussed below.」
(可動ハンドル20は把持部22と歯部24を有し、歯部24は第1の歯部26と第2の歯部28からなる。フレーム部材12は一般に略管状で、図2に示されるように、フレーム12の一方の側面に第1の平坦面30とフレーム12と反対の側面に第2の平坦面32を有する。歯部24は、第1の歯部26が第1の平坦面30に隣接し、第2の歯部28が第2の平坦面32に隣接するように配置される。枢支ピン33は、枢支部材18の適切に配置された開口部に設けられ、第1と第2の歯部26、28の縁部34に位置する一対の心あわせした開口を通過する。枢支ピン33は可動ハンドル20がフレーム12に対して回転する際の軸の役割を果たす。第1と第2の歯部26と28のそれぞれの上面36と37は、以下で述べる理由によりカム形に湾曲している。)

f.第3欄第39ないし49行
「A base plate assembly 40 is supported at a lower threaded end 42 of the frame member 12. The base plate assembly 40 has a frame member 44 that is formed into a generally C-shaped configuration having outwardly flaring ears 46 and 48. Attached to the frame member 44 is an internally threaded collar connector 50 that is threadily engagable with the lower end 42 of the frame member 12. An internally threaded back-up collar 52 is disposed over the lower end 42 and serves to tighten against the collar connector 50 to lock the base plate assembly 40 on to the frame member 12.」
(ベースプレート40は、フレーム部材12の下方ねじ付き端42で支持される。ベースプレートアセンブリ40は、外側に開いた耳46と48を有した、約C形に形成されている。フレーム部材44に取り付けられているのは、フレーム部材12の下端42とねじ係合する内側ねじ付きカラーコネクタ50である。内側ねじ付き補助カラー52は下端42を覆って設けられ、ベースプレートアセンブリ40をフレーム部材12にロックするようにカラーコネクタ50に対して固定する役割を果たす。)

g.第4欄第3ないし9行
「As best viewed in FIG. 3, which is a cutaway of the dent-straightening apparatus 10, the frame member 12 is a generally tubular shaped member having a chamber 60 extending from the tip portion 62 of the lower end 42 to an abutting shoulder portion 64. A smaller bore 66, co-axial with the chamber 60, extends through the remaining portion of the frame member 12.」
(くぼみ矯正装置10の切断図である図3で最もよく示されるように、フレーム部材12は、下端42の先端部62から当接肩部64に延出するチャンバ60を有した約管状の部材である。チャンバ60と同軸の小孔66がフレーム部材12の残りの部分を通って延出する。)

h.第4欄第10ないし25行
「A chuck assembly 70 is slidingly supported in the chamber 60 and the bore 66 that passes through the frame member 12. The chuck assembly 70 comprises a chuck 72 and a slide rod 74. The chuck 72 comprises a cylindrically shaped chuck member 76 that has an external diameter sized to be receivable in the chamber 60. This slide rod 74 is attached to the upper end 78 of the chuck member 76, and the slide rod 74 is sized to clearingly extend through the smaller bore 66. A coil spring 80 is disposed in the chamber 60 about the slide rod 74 and extends between the upper end 78 of the chuck member 76 and the shoulder portion 64. As the chuck assembly 70 is moved in a first direction 82, also called the retracting direction, the spring 80 will be compressed between the shoulder portion 64 and the chuck member 76.」
(チャックアセンブリ70は、チャンバ60とフレーム部材12を通過する孔66内でスライド可能に支持される。チャックアセンブリ70は、チャック72とスライドロッド74からなる。チャック72は、外径がチャンバ60内に受け入れ可能な大きさの円筒形チャック部材76を備える。スライドロッド74はチャック部材76の上端78に取り付けられ、スライドロッド74は小孔66を通ってはっきりと延出するような大きさになっている。コイルバネ80がスライドロッド74を中心にしてチャンバ60内に設けられ、チャック部材76の上端78と肩部64との間に延びている。チャックアセンブリ70が引き込み方向と呼ばれる方向の第1の方向82に移動すると、バネ80が肩部64とチャックアセンブリ76との間で圧縮される。)

i.第4欄第36ないし47行
「A dent-engaging member 100 is supportable by the chuck assembly 70 in the following manner. The engaging member 100 is a bolt having a slotted head 102 and a tapered, threaded end 104. The threaded end 104 is selectively sized to be clearingly passed through the aperture 96 in the outer chuck sleeve 92, and the slotted head 102 is selectively sized to at be at least partially receivable in the bore 84 of the chuck member 76 so that the tab 88 is engaged with the slot of the slotted head 102. With the bolt so located, the outer chuck sleeve 92 may tightened onto the chuck member 76 so as to securely fasten the engaging member 100 thereto.」
(くぼみ係合部材100は、次のようにしてチャックアセンブリ70に支持される。係合部材100は、すり割り付き102と、テーパ-状ねじ付き端104とを有するボルトである。ねじ付き端104は、外側チャックスリーブ92内で開口96を明らかに通過できるような選択的な大きさをとり、すり割り付き102は、タブ88がすり割り付き102のスロットと係合するようにチャック部材76の孔84内に少なくとも一部受けられるような選択的な大きさをとっている。ボルトをこのように配置することによって、外側チャックスリーブ92は、係合部材100をしっかりとスリーブ92に固定するように、チャック部材76上に締め付けられる。)

j.第4欄第53行ないし第5欄第33行
「The slide rod 74 has a threaded end 110, and a knob 112 is provided that has a threaded bore for screwing connection to the slide rod 74. The knob 112 is sized and shaped to generally fit the hand of an operator for manual rotation of the slide rod 74 relative to the frame member 12. A locking nut 114 having a threaded aperture therethrough is threadingly engaged on the end 110 of the slide rod 74 between the knob 112 and the frame member 12, and the locking nut 114 is tightened against the knob 112 to securely fasten these members to the slide rod 74. A follower member 116 having an aperture therethrough is clearingly disposed over the slide rod 74, the follower member 116 being located between the locking nut 114 and the frame member 12. The follower member 116 has a first flatted surface 118 and a second flatted surface 120 located on opposing sides thereof so that the lower end 112 of the follower member 116 is disposed between the first tine portion 26 and the second tine portion 28 of the movable handle 20, the follower member 116 being in this manner restrained from rotation about the slide rod 74. Further, the follower member 116 has a first lifting surface 124 near the first flatted surface 118 and a second lifting surface 126 near the second flatted surface 120. The first lifting surface 124 is disposed to be in abutting engagement with the top surface 36 of the first tine portion 26, and the second lifting surface 126 is disposed to be in abutting engagement with the top surface 36 of the second tine portion 28. The first and second lifting surfaces 124 and 126 are curved, cam surfaces designed to be retained in abutting engagement with the curved top surfaces 36 and 37 of the movable handle 20 as the handle 20 is pivoted by the operators hand to the retract position (depicted by the broken lines in FIG. 1), and as the handle 20 is pivoted to the extend position by the action of the spring 80. In regard to the spring 80, force is transmitted by the spring 80 against the chuck assembly 70 to bias the chuck assembly 70 to move in a second direction 83, also called the extending direction. Assuming that the movable handle 20 has been moved by an operator's hand to the retracted position and then released, the spring 80, having been compressed by the movement of the movable handle 20 to the retract position, then exerts force to move the chuck assembly 70 in the extending direction 83, and the force of the spring 80 is brought to bear against the first and second tine portions 26, 28 of the handle 20 via the first and second lifting surfaces 124, 126 to force the handle 20 to assume the extend position as shown in the solid lines of FIG. 1.」
(スライドロッド74はねじ付き端110を有し、スライドロッド74とねじ接続するためのねじ付き孔を有したノブ112が設けられる。ノブ112は、フレーム部材12に対してスライドロッド74を手動で回転させるオペレータの手にほぼ一致するような大きさと形状になっている。ねじ付き開口が貫通する止めナット114が、ノブ112とフレーム部材12との間のスライドロッド74の端部110でねじ係合し、止めナット114はノブ112に対して締められてこれらの部材を確実に固定するようにする。貫通する開口を持つ従動部材116がスライドロッド74上に設けられ、止めナット114とフレーム部材12との間に配置される。従動部材116は、従動部材116の下端112が可動ハンドル20の第1の歯部26と第2の歯部28との間にくるように互いに反対側に第1の平坦面118と第2の平坦面120を有しており、このようにして従動部材116はスライドロッド74の回転からは干渉されないようになっている。さらに、従動部材116は、第1の平坦面118の近くに第1の揚力面124と、第2の平坦面120の近くに第2の揚力面126とを有している。第1の揚力面124は、第1の歯部26の上面と当接係合するように配置され、第2の揚力面126は第2の歯部28の上面と当接係合するように配置される。第1と第2の揚力面124と126は、湾曲したカム面で、ハンドル20がオペレータの手によって(図1に破線で示される)引き込み位置まで旋回し、ハンドル20がバネ80の作用によって延長位置まで旋回すると、可動ハンドル20の湾曲した上面36と37と当接係合して保持されるようになっている。バネ80に関して、バネ80がチャックアセンブリ70に対して力を伝達して、チャックアセンブリ70をバイアスさせて延長方向とも呼ばれる第2の方向83に移動させる。可動ハンドル20がオペレータの手によって引き込み位置に移動し、その後開放されるとすると、バネ80は可動ハンドル20の移動によって引っ込み位置まで圧縮して、その後チャックアセンブリ70を延長方向に移動させる力を印加し、バネ80の力によって第1と第2の揚力面124、126を介してハンドル20の第1と第2の歯部26、28に耐えるようにさせて、ハンドル20が図1の実線で示されるような延長位置をとるようにする。)

k.第5欄第48ないし64行
「OPERATION OF THE PREFERRED EMBODIMENT
The operation of the dent-straightening apparatus 10 as illustrated and described in FIGS. 1 through 3 will now be discussed. Briefly, the dent-straightening apparatus 10 comprises the frame member 12, the base plate assembly 40 and the chuck assembly 70, which supports a dent-engaging member 100. A movable handle 20 engages the cammed follower member 116, and the movement of the handle 20 from the extend position to the retract position effects movement of the chuck assembly 70 in the retracting direction 82. The spring 80 is compressed by the movement of the chuck assembly 70 in the retracting direction 82, and upon release of the handle 20, the spring 80 will effect the movement of the chuck assmebly 70 in the extending direction 83 and the return of the handle 20 to the extend position.」
(好ましい実施形態の動作
次に、図1から3に示されて説明されているくぼみ矯正装置10の動作を説明する。簡単に言えば、くぼみ矯正装置10は、フレーム部材12と、ベースプレートアセンブリ40と、チャックアセンブリ70とを備え、チャックアセンブリ70はくぼみ係合アセンブリ100を支持する。可動ハンドル20は、カム従動子部材116と係合し、ハンドル20が延長位置から引き込み位置まで移動することで、チャックアセンブリ70を引き込み方向82へ移動させる。バネ80はチャックアセンブリ70が引き込み方向82へ移動することで圧縮され、ハンドル20を開放すると、バネ80によってチャックアセンブリ70が延長方向83に移動して、ハンドル20を延長位置に戻す。)

l.第6欄第18ないし59行
「The above step has placed the dent-straightening apparatus 10 so that the chuck assembly 70 is above the dent 132, thereby placing the dent-engaging member 100 in contact with the dent 132. The threaded portion 104 of the dent-engaging member 100 has a self-tapping thread for threaded engagement with the dent 132. In some applications, such as when working to straighten dents in automobile bodies, it has been found desirable to drill a small starting hole through the dent 132 near its center to assist in starting the threaded portion 104 therethrough. Once the threaded portion 104 is placed in contact with the center of the dent 132, the knob 112 is manually turned while applying a downward force on the knob 112. This entails the holding of the dent-straightening apparatus 10 in proper position via one hand of the operator holding the stationary handle 14, and the simultaneous pressing and turning of the knob 112 with the palm of the operators other hand. This results in the engagement of the threaded portion 104 with the approximate center of the dent 132. This downward turning force is continued until the dent engaging member 100 is insecure engagement with the dented portion 132 of the skin 130, the object here being to have the dent-engaging member 100 capable of pulling firmly on the dent 132.
To straighten the dent 132, the operator now merely squeezes the gripping portions 16 and 22 of the stationary handle 14 and the movable handle 20 together, causing the upward movement of the handle 20 to the retract position. This in turn causes the movement of the follower 116 (and consequently the chuck assembly 70) in the retracting direction 82 for the reasons discussed above in the description of the construction of the dent-straightening apparatus 10. The movement of the chuck assembly 70 in the retracting direction 82 pulls the dent-engaging member 100 toward the base plate 54. The threaded engagement of the dent-engaging member 100 with the dent 132 causes the upward movement of the chuck assembly 70 to apply a force to the dent 132 in a direction generally opposite to the direction in which it was formed, raising the dented portion toward the base plate 54.」
(上記の工程によって、くぼみ矯正装置10は、チャックアセンブリ70がくぼみ132の上方にあるように配置され、これによってくぼみ係合部材100をくぼみ132と接触させる。くぼみ係合部材100のねじ部104は、くぼみ132とねじ係合するようにセルフタッピングねじを有する。いくつかの応用例、たとえば自動車のボディのくぼみを矯正するように実施する場合、小さな始動穴を中心近くでくぼみ132を貫通するように設けてねじ部104がそこを貫通し始めるのを助けるようにすることが望ましいということがわかった。ねじ部104が一旦くぼみ132の中心と接するように配置されると、ノブ112は下方向の力を印加されながら手動で回転する。これにより、静止ハンドル14を把持するオペレータが片手でくぼみ矯正装置10を適切な位置に保持し、同時にオペレータのもう一方の手のひらでノブ112を押圧して回転させることが必要となる。この結果、ねじ部104がくぼみ132のほぼ中央で係合する。この下方回転力は、くぼみ係合部材100が外板130のくぼみ部132と不安定ながらも係合するまで継続する。ここでの目的はくぼみ係合部材100がくぼみ132上をしっかりと持ち上げることができるようにすることである。
ここでくぼみ132を矯正するために、オペレータは静止ハンドル14と可動ハンドル20の把持部16および22を合わせて強く把持するだけでよく、これによりハンドル20が引き込み位置まで上方移動する。またこれにより、従動子116(したがってチャックアセンブリ70)が、くぼみ矯正装置10の構造の説明において述べた理由で、引き込み方向82に移動する。チャックアセンブリ70の引き込み方向82への移動によって、くぼみ係合部材100はベースプレート54方向に引っ張られる。くぼみ係合部材100がくぼみ132とねじ係合すると、チャックアセンブリ70の上方移動により、くぼみ132が形成された方向と略反対の方向の力をくぼみ132に印加し、くぼみ部をベースプレート54に向かって持ち上げる。)

m.第8欄第16行ないし第10欄第7行
「What is claimed is:
1. An apparatus for repairing a dented portion of a metal skin, comprising:
a frame;
a transparent base plate supported by the frame, the base plate having a clearance aperture extending through the medial portion thereof;
a chuck assembly slidingly supported on the frame on one side of the base plate for movement in a retracting direction away from the base plate;
a dent-engaging member supported by the chuck assembly, the dent-engaging member having a portion extending through the clearance aperture into engagement with the dented portion; and
means supported by the frame for moving the chuck assembly and the dent-engaging member in the retracting direction whereby the dented portion is drawn toward the base plate to a predetermined position as observed via the transparent base plate.
2. The apparatus of claim 1 wherein the chuck assembly is characterized as comprising:
a slide rod slidably supported by the frame;
a chuck attached to one end of the slide rod and characterized as comprising:
a chuck member attached to the slide rod and having a treaded end with a bore therein;
a bolt engaging tab supported by the chuck member in the bore; and
an outer chuck sleeve threadingly engagable with the threaded end of the chuck member, the chuck sleeve cooperating with the chuck member to support the dent-engaging member.
3. The apparatus of claim 2 wherein the dent-engaging member is characterized as comprising:
a bolt supported by the chuck, the bolt comprising a threaded end portion sized to extend through the clearance aperture into engagement with the dent portion of the metal skin without contacting the base plate, and a head having a slot engagable with the bolt engaging tab.
4. The apparatus of claim 2 wherein the means for moving the chuck assembly is characterized as comprising:
a stationary handle supported by the frame;
a movable handle pivotally supported by the frame; and
means for moving the slide rod in the retracting direction when the movable handle is pivoted towards the stationary handle.
5. The apparatus of claim 4 further characterized as comprising:
a knob attached to the end of the slide rod opposite the chuck member;
wherein the movable handle has a tines portion; and wherein the means for moving the slide rod in the retracting direction comprises:
a follower member slidingly supported on the slide rod between the knob and the frame, the follower member engaging the tines portion of the movable handle and transmitting force applied to the follower member via the movable handle to the knob when the movable handle is pivoted towards the stationary handle, whereby the chuck assembly is moved in the retracting direction.
6. The apparatus of claim 4 further characterized as comprising:
means for biasing the chuck assembly for movement in an extending direction opposite to the retracting direction.」
(特許請求の範囲
1.金属外板のへこみ部分を修理するための装置であって、
フレームと;
フレームに支持され、中間部を通って延出する隙間開口を有する透明ベースプレートと;
ベースプレートの一方の側面でフレーム上にスライド可能に支持され、ベースプレートから離れる引き込み方向に移動するためのチャックアセンブリと;
チャックアセンブリに支持され、隙間開口を通って延出してへこみ部分と係合する部分を有するへこみ係合部材と;
チャックアセンブリとくぼみ係合部材を引き込み方向に移動させることにより、へこみ部分がベースプレートに向かって引っ張られて透明なベースプレートを介して観察されるような所定位置までくるようにするための、フレームに支持される手段とを備える装置。
2.チャックアセンブリは:
フレームにスライド可能に支持されるスライドロッドと;
スライドロッドの一端に取り付けられるチャックとを備え、
チャックは:
スライドロッドに取り付けられ、孔を有したねじ付き端を有するチャック部材と;
該孔においてチャック部材に支持されるボルト係合タブと;
チャック部材のねじ付き端とねじ係合し、チャック部材と協動してへこみ係合部材を支持する外側チャックスリーブとを備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
3.くぼみ係合部材は:
チャックに支持されるボルトであって、開口を通って延出し、ベースプレートに接触することなく金属外板のへこみ部分と係合するような大きさのねじ付き端部と、ボルト係合タブに係合するスロットを有したヘッドとを備えるボルトを備えることを特徴とする請求項2に記載の装置。
4.チャックアセンブリを移動させる手段は:
フレームに支持される静止ハンドルと;
フレームに旋回可能に支持される可動ハンドルと;
可動ハンドルが静止ハンドルに向かって旋回すると、スライドロッドを引き込み方向に移動させる手段とを備えることを特徴とする請求項2に記載の装置。
5.チャック部材に対向したスライドロッドの端部に取り付けられるノブをさらに備え;
可動ハンドルが歯部を有し;
スライドロッドを引き込み方向に移動させる手段は、ノブとフレームの間でスライドロッド上にスライド可能に支持され、可動ハンドルの歯部と係合し、可動ハンドルが静止ハンドルに向かって旋回すると可動ハンドルを介して従動部材に印加される力をノブに伝達し、これによってチャックアセンブリを引き込み方向に移動させるようにする従動部材を備えることを特徴とする請求項4に記載の装置。
6.チャックアセンブリをバイアスさせて引き込み方向と逆の延長方向に移動させるための手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の装置。)

甲第1号証の1において、チャックアセンブリ70及びくぼみ係合部材100は機能的に一つの手段として把握できることから、これらをまとめて第1の操作手段と呼び、ハンドル14を有するフレーム部材12、可動ハンドル20及び従動部材116等は機能的に一つの手段として把握できることから、これらをまとめて第2の操作手段と呼ぶことができる。
また、摘記事項dにおける「静止ハンドル部材14を有するフレーム部材12」の記載から、第2の操作手段を構成するハンドル部材14はフレーム部材12を備えるものと認められる。

以上を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1及び2の記載に沿って整理すると、甲第1号証の1には次の発明が記載されていると認められる。

「チャックアセンブリ70と、該チャックアセンブリ70の先端部に配設し金属外板130に係合可能なくぼみ係合部材100を備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段のチャックアセンブリ70をスライド可能に支持するフレーム部材12を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支持するベースプレート40とを具備し、
前記第2の操作手段を、ハンドル14と、可動ハンドル20と、フレーム部材12とチャックアセンブリ70との間に介在させたバネ80を含んで構成し、このバネ80によりチャックアセンブリ70を付勢させ、前記ハンドル14と可動ハンドル20間を前記バネ80に抗しながらつぼめて金属外板130の引き出しを行い、
前記フレーム部材12に前記チャックアセンブリ70をスライド可能に支持する孔66が形成されている金属外板用くぼみ矯正装置10。」(以下「甲1発明」という。)

1.2 甲第2ないし8号証に記載された周知の事項
1.2.1 各証拠
ア 甲第2号証
a.明細書第1ページ第12行ないし第2ページ第4行
「〔産業上の利用分野〕
本考案は自動車ボディ等の板材に生じた凹部を引出して修整するためのボディプーラに関する。
〔従来の技術〕
自動車ボディに生じた凹部を修整するプーラとしては、導体からなる棒状本体の先端頭部に電極を取付け、本体他端の基部には導線ケーブル端子を嵌める端子と本体に遊嵌する衝撃体の受部を一体に成形し、端子を締付けた後、先端電極を凹部にスポット溶接した後、衝撃体で受部を打撃して溶接した板材の凹部を引出すようにしたものが存在する。」

b.明細書第3ページ第4ないし7行
「本体1の頭部3の電極4を板材の凹部に当てた後導線14側に設けたスイッチ17を投入して電流を流し、板材に電極でスポット溶着させ、」

c.明細書第3ページ第19行ないし第4ページ第2行
「1は導線からなる棒状本体で、この本体は一端の基部は大径とした打撃の受部2と、先端の頭部3には先端に電極4をボルト等の固定具5により取付て一体的に形成してある。」

イ 甲第3号証
a.第1ページ左下欄第12行ないし右下欄第2行
「本発明は、自動車のボデイ(1)の凹没部(2)にピン、スタツドなどの引き出し用把持体(3)を溶着し、引き出し用把持体(3)を把持して凹没部(2)を引き出して平坦乃至突出状態とし、その後引き出し用把持体(3)をボデイ(1)より除却することを特徴とする自動車のボデイの凹没部引き出し方法に係るものであつて、その目的とするところは故障や事故等によつて生じたボデイの凹没部分の修理が簡単におこなえる自動車のボデイの凹没部引き出し方法を提供するにある。」

b.第2ページ右上欄第6ないし14行
「なお本発明にあつては凹没部(2)にピン、スタツドなどの引き出し用把持体(3)を溶着し、引き出し用把持体(3)を引き出すことにより凹没部(2)を引き出すに当つて、溶接の方法や引き出し用把持体(3)の形状を限定するものではない。例えば溶接方法としてはプロゼクシヨンなどの抵抗溶接、アークスタツド溶接(パーカツシヨンスタツド溶接を含む)などいずれの方法を使用することができる。」

ウ 甲第4号証
a.第1ページ左下欄第10ないし末行
「本発明は、金属板(1)の凹面歪部Aの適所に釘状体(2)を溶接により立設し、引張具(3)にて上記凹面歪部Aの一部乃至全部を凸歪部Bとし、凸歪部Bを加熱すると共に打撃することを特徴とする金属板の凹面取り方法に係るものであつて、その目的とするところは裏面から歪取り作業を行うことが困難な自動車車体のような金属板において、該金属板を傷つけることなく簡易かつ確実に凹面歪を補修することができる金属板の凹面歪取り方法を提供するにある。」

b.第2ページ右上欄第1ないし3行
「まず第1図(イ)のように金属板(1)に凹面歪部Aのほぼ中心にピン、スタツドなどの釘状体(2)を溶接にて固着立設する。」

c.第3ページ右上欄第18行ないし左下欄第1行
「また釘状体(2)の溶接方法としてはプロゼクシヨンなどの抵抗溶接、アークスタツド溶接(パーカツシヨンスタツド溶接を含む)などいずれの方法を使用することもできる。」

エ 甲第5号証
a.第1ページ左下欄第10ないし末行
「本発明は、金属板(1)の凹面歪部Aの適所に釘状体(2)を溶接により立設し、引張具(3)にて上記凹面歪部Aの一部乃至全部を凸歪部Bとし、凸歪部Bを加熱することを特徴とする金属板の凹面歪取り方法に係るものであつて、その目的とするところは裏面から歪取り作業を行うことが困難な自動車車体のような金属板において、該金属板を傷つけることなく簡易かつ確実に凹面歪を補修することができる金属板の凹面歪取り方法を提供するにある。」

b.第2ページ右上欄第1ないし3行
「まず第1図(イ)のように金属板(1)に凹面歪部Aのほぼ中心にピン、スタツドなどの釘状体(2)を溶接にて固着立設する。」

c.第3ページ右上欄第18行ないし左下欄第1行
「また釘状体(2)の溶接方法としてはプロゼクシヨンなどの抵抗溶接、アークスタツド溶接(パーカツシヨンスタツド溶接を含む)などいずれの方法を使用することもできる。」

オ 甲第6号証
a.明細書第1ページ第5ないし12行
「板金の凹みを矯正するための矯正具において、その前部側には前記凹み部分に溶接により仮付けされる電極部を備え、後部側には前記電極部に対しスライド軸を連設するとともに同スライド軸には、前記スライド軸後端に設けられた握り部に当接されることにより前記電極部に対し引張方向の衝撃力を付与するハンマー体を摺動可能に嵌着したことを特徴とする板金矯正具。」

b.明細書第3ページ第4ないし7行
「図において、1は矯正具全体であり、大略として前述したスライドハンマーSHを主体として構成され、その前部側には電極部Dが一体状に取付けられて構成されている。」

c.明細書第3ページ第15行ないし第4ページ第8行
「次に、電極部Dについて説明すると、5はスライド軸3前端に螺着された絶縁体であり、電極6はこの絶縁体5を介して螺着されている。電極6は円胴状に形成されて、その外側周面においてトランス8側へ接続するための接続端子7が螺着されている。但し、この接続端子7に接続されるトランス8側の端子には使用の便宜上、握りアーム9が取付けられている。また、電極6の前端面には引き出しリング10(本例では、引き出しリングとしてはワッシャーが用いられており、以下において引き出しリングをワッシャと呼ぶ。)を取付けるための割溝11が凹設されており、該割溝11にてワッシャー10がボルト12等を介して着脱可能に縦向きに挟着される。」

d.明細書第4ページ第11行ないし第5ページ第10行
「例えば、自動車のボディーの凹みHを矯正する場合において、まず、トランス8の一方の電極をボディー側へ接続し、他方の電極を矯正具1の接続端子7に接続する。この後、トランス8をオンし、ワッシャー10をボディーの凹み部分における所定の位置に当接させると、トランス8に予め設定された時間(本例では0.1sec?0.2sec)、電流が流れてワッシャー10が溶接される。このことによって、ワッシャー10がボディーBに対して仮付けされる。この状態において、ハンマー体4を手前側へ強く引き寄せ、当接面2Aへ衝突させると、ワッシャー10に対して凹みHの引き出し力が付与されるため、ボディーBの凹みHが原状態に矯正される。この工程が完了した後、握りアーム9を回動させて、矯正具1全体にひねりを加えてやると、ワッシャー10はボディーBから容易に解離される。このようにして、上記工程を凹みHの程度に応じて場所変えしながら繰り返すことによって、ボディーBの凹みHはほぼ完全に矯正される。」

e.明細書第5ページ第11行ないし第6ページ第3行
「したがって、本例によれば従来と異なり、矯正作業において、ワッシャー10の仮付けのための器具、そして凹みHの引き出しのための器具といったように各工程の専用具をその都度持ち換えることなく、単一の器具による一連の作業として行うことができるため、繰り返し作業を要する矯正作業にあって、作業時間の短縮を図る上で極めて有効である。また、仮付けされたワッシャー10の取り外しの際には、握りアーム9によるひねりにより、ボディーBから容易に解離させることができ、従来と異なり、直接手で触れる必要がないため、作業者は火傷等から保護されるといった効果もある。」

f.明細書第6ページ第4ないし11行
「以上詳述したように、本考案は、板金の凹み部分に対して溶接により仮付けされる電極部と、該凹み部分を引き出すためのスライドハンマーとを一体化して構成したことにより、仮付け工程、引き出し工程および仮付けの解離を一連の作業として行うことができるため、矯正作業の短縮化を合理的に解決することができる等、実用上優れた考案である。」

カ 甲第7号証
a.第1ページ左下欄第12及び13行
「本発明は、自動車の鉄板など金属性薄板の凹みを平滑に戻すために用いられる工具に関する。」

b.第2ページ左上欄第19行ないし右上欄第3行
「かかる目的を達するために、スタツドを係合・離脱自在とした第一・二ホルダーを一端部に有し、他端部をスポツト溶接機のプラス側に接続可能とした芯棒と、該芯棒に一体的に取付けた取手とより構成したことを特徴とする工具とした。」

c.第3ページ左上欄第19行ないし右上欄第17行
「スタツド8は、第一・二ホルダー5、9に固持される。次に、車体28たとえばサイドシルアウタパネルの凹み30に、スタツド8の先端部8cを当接し、スポツト溶接機24のスイツチ31をONすることにより、凹み30に先端部8cが溶植する。次に、取手13の握持部材l8、18を持つてゆつくりと取手13側に引つ張るか、又は、ウエイト12を、取手13側に衝接することによつて、車体28自体の柔軟性により、二点鎖線に示す位置即ち、当初予定した形状の面にまで面が移動することができる。
次に、握持部材18を持つて、ゆつくりと、略45°位回転することによつて溶植されたスタツド8の先端部8cが車体28より捩じきられることになる。
即ち、スタツド8の溶植作業も、車体28の凹み30を平面状にする作業も、スタツド8を車体28より外す作業も全て一つの工具1で作業できることになる。」

キ 甲第8号証
a.明細書第3ページ第15ないし17行
「本考案は車輌の修理、殊に凹んだ車輌ボディ鋼板の鈑金引出しに用いる車輌用鈑金引出工具に関する。」

b.明細書第4ページ第1ないし10行
「[従来の技術]
既知のように、鈑金引出作業又は鈑金叩出作業は、第12図に示すところの、車輌ボディ鋼板の形状に見合う従来の当金19を、ハンマー13で、車輌ボディ鋼板内側から直接叩出す方法がある。
又第13図に示す方法もある。
(実公昭61-45929号公報参照)
又スライドハンマーの先端を溶接する方法もある。」

1.2.2 甲第2ないし8号証に記載された周知の事項
1.2.1で示した各証拠によれば、「板金用引出し具において、シャフトと板金面とを係合させるために、シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えること」(以下「周知の事項1」という。)が、本件出願前に周知であったことが理解できる。
なお、周知の事項1が、本件出願前に周知であったことは、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の当事者双方の1)。

1.3 甲第9ないし13号証に記載された周知の事項
1.3.1 各証拠
ア 甲第9号証の1
a.第1欄第3ないし5行
「The present invention is directed to an improved riveting tool adapted for use in setting blind or hollow rivets.」
(本発明は、ブラインド(盲)または中空リベットをセットする際に使用される改良リベット工具に向けられている。)

b.第1欄第10ないし13行
「The invention is particularly directed to the type of riveting tool that is purely mechanical in nature and which includes one or more handles providing sufficient mechanical advantage to the operator by hand.」
(本発明はとりわけ、本質的に純粋に機械的であって、十分な機械的な優位性をオペレータに手で提供する1個あるいは複数のハンドルからなるタイプのリベット工具に向けられている)

c.第3欄第42ないし49行
「The actuating mechanism for the mandrel pulling device includes first and second levers or handles 36 and 28, respectively, pivotally mounted on the main body 12 by means of a pivot pin 39 which extends through the V-shaped enclosure 17. Each of the levers 36 and 38 are U-shaped in cross-section, the adjacent legs of which are enlarged at their forward ends so that they overlap as shown in FIG. 2.」
(マンドレル引き抜き装置の作動機構は、第1、第2レバー又はハンドル36、38からなり、それぞれがV状囲み17を貫通する枢動ピン39により本体12に枢動可能に載置されている。当該レバー36、38の断面はそれぞれU字状になっており、その隣接脚部が前方部で拡大して図2に示すようにオーバーラップしている。)

d.第3欄末行ないし第4欄第3行
「A spring 56 is mounted on pin 39 and includes elongated pins 57 and 58 which extend into the U-shaped form of handles 36 and 38 to bias the handles in the separated position shown in FIG. 2.」
(ばね56はピン39に載置されるとともに、U字状のハンドル36、38に延長して当該ハンドルを図2の離開位置に付勢する(bias)細長ピン57、58を含む。)

e.第6欄第29ないし36行
「7. A riveting tool as recited in claim 5, wherein said biasing means comprises a compression spring which engages the base portions of said U-shaped levers.
8. A riveting tool as recited in claim 7 comprising a pivot pin at said fourth pivot point, wherein said spring includes a central portion encircling said pivot pin, and end portions which extend into the U-shaped configuration of the first and second levers.」
(7.前記付勢(バイアス)手段がU字状レバーの基部に係合する圧縮ばねからなることを特徴とする請求項5記載のリベット工具。
8.前記第4枢着部(pivot point)で枢動ピンを含む請求項7記載のリベット工具であって、前記ばねは前記枢動ピンを囲む中央部を含み、その端部が第1、第2レバーのU字状部に延長していることを特徴とする。)

イ 甲第10号証の1
a.第1欄第3及び4行
「This invention relates to a tool for setting threaded bushes and to a method of setting threaded bushes.」
(本発明は、ねじ切りブッシュをセットする工具並びに同ブッシュをセットする方法に関する。)

b.第1欄第14ないし16行
「The first type of threaded bush is intended for use with thin sheets of material such as metallic plates.」
(ねじきりブッシュの最初のタイプは、金属板などの薄板材(thin sheets of material)と併用するようになっている。)

c.第2欄第33ないし43行
「DESCRIPTION OF PREFERRED EMBODIMENT
Referring to the drawings, the tool has a body unit 1 and a lever unit 2, both of which are made of sheet metal folded to form channel-like portions. The lower portion of the two units 1 and 2 define handles 1a and 2a and the upper portions define pairs of parallel flanges 1b and 2b. The two units 1 and 2 are pivoted together by means of a pivot pin 3 which passes through holes 1c and 2c respectively in their flanges 1b and 2b. A circlip 4 is provided to prevent the pivot pin slipping out of position.」
(好適な実施例の説明
図面に関連して説明すると、工具はいずれも板金(sheet metal)で出来た本体ユニット1とレバー・ユニット2とを備え、チャンネル(channel)状部を形成するように折り曲げられている。当該2個のユニット1、2の下方部がハンドル1a、2aを画定し、上方部が対の平行フランジ1b、2bを画定する。2個のユニット1、2は当該フランジ1b、2bの穴1c、2cを貫通するピボット・ピン3で共に回転するようになっている。当該ピボット・ピン3の抜け落ち防止用に半円形のワッシャー4が備えられている。)

d.第3欄第3ないし6行
「A spring 10 mounted on a tension pin 11 fixed in holes 2e in the flanges 2b of the lever unit 2, acts to bias the two handles 1a and 2a apart. When not in use a clamp 12 holds the handles 1a and 2a together.」
(レバー・ユニット2のフランジ2bにある穴2eに固定されるテンション(tension)ピン11に載置されるばね10は当該2個のハンドル1a、2a間を離開させるように働く(bias the two handles 1a and 2a apart)。使用していない時には、クランプ12がハンドル1a、2aを共に保持する。)

e.第4欄第20ないし24行
「9. A tool according to claim 7, wherein both the body portion and the lever portion are provided with handles.
10. A tool according to claim 9, wherein the two handles are spring biassed apart.」
(9.請求項7に記載の工具であって、本体部とレバー部双方にハンドルが備えられている。
10.請求項9に記載の工具であって、2個のハンドル間がばね付勢(バイアス)されて離開している(spring biased apart)。)

ウ 甲第11号証の1
a.第1欄第4ないし9行
「1. Technical Field
This invention relates to hand-held tools adaptable for setting a plurality of types of fasteners that have deformable heads through ready substitution of pulling units and associated mandrels and use of adjustment means for adjusting the stroke of the tool.」
(1. 技術分野
本発明は、引き抜き部と関連マンドレルとを簡単に交換することにより、変形可能なヘッドを備えた複数タイプのファスナーをセットするのに適応した携帯型工具並びに当該工具のストロークを調整する調整手段の使用に関する。)

b.第2欄第23ないし27行
「DETAILED DESCRIPTION OF A PREFERRED EMBODIMENT
Referring to FIGS. 1 and 2, tool 10 includes upper handle 11, lower handle 12, handle pivot bolt 13, and handle spring 14 which biases handles 11 and 12 apart.」
(好適な実施例の詳細な説明
図の1と2に関連して説明すると、工具10は、上部ハンドル11、下部ハンドル12、ハンドル枢動ボルト13及び当該ハンドル11、12を離開させる(bias handles 11 and 12 apart)ハンドルばね14とから構成される。)

エ 甲第12号証
a.第2ページ右下欄第16ないし末行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、例えば接着あるいは溶接するために加工物を保持する場合、2つの加工物を当接させて一時的に締付ける目的で使用される締付け装置に関する。」

b.第4ページ左上欄第8行ないし右上欄第7行
「第4図に最も良く示されているように、握り(20)の一部には凹所(28)が形成され、その中に引き金(24)が嵌入しうるようになっている。本体(19)には、スロット(16)の後方に連なるもう一つの凹所(30)が設けられている。
作動レバー(32)の孔(34)がすべり棒(14)に嵌合することにより、作動レバー(32)はすべり捧(14)に吊下がっている。
ばね(36)が、作動レバー(32)と、凹所(30)の後面(38)の間に圧縮して設けられ、作動レバー(32)を引き金(24)の上端部(40)に圧接している。引き金(24)の上端部(40)は、二又に分岐しており、すべり捧(14)に下方からまたがっている。
ばね(36)の力により、引き金(24)は本体(19)における凹所(30)の前面(42)を圧接して、待機状態となっている。この待機状態においては、作動レバー(32)は、矢印(44)で示すすべり棒(14)の動きの方向に対して、垂直となっている。
握り(24)の軸ピン(26)まわりの矢印(44)方向への運動は、ばね(36)の力に抗して行われる。」

オ 甲第13号証
a.第1ページ左下欄第5ないし14行
「上部が相互に連結され且つばね作用により拡開方向に付勢された一対のハンドルを備え、該両ハンドルの一方を固定ハンドルと、他方を揺動ハンドルとなし、固定ハンドルの上部に、固定切断刃の基部を固定すると共に、該固定切断刃の先端部に、自身の円弧状外側面に歯部を連続形成した旋回切断刃の基端部を旋回可能に軸着して、ケーブルを該旋回切断刃と固定切断刃とで完全に包囲した状態で切断する手動式ケーブルカッターにおいて、」

b.第4ページ左上欄第4ないし8行
「第一実施例に係る手動式ケーブルカッターは、第1図乃至第5図に示す如く、ばね作用により拡開方向に付勢される一対のハンドル1・2を備え、該両ハンドルの一方を固定ハンドル1と、他方を揺動ハンドル2となし、」

c.第5ページ右上欄第8及び9行
「図中26は一対のハンドル1・2を拡開方向に付勢する太鼓状を呈するコイルばね、」

1.3.2 甲第9ないし13号証に記載された周知の事項
1.3.1で示した各証拠によれば、「手動工具において、二つのレバーの間にばねを介在させること」(以下「周知の事項2」という。)が、本件出願前に周知であったことが理解できる。
なお、周知の事項2が、本件出願前に周知であったことは、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の当事者双方の2)。

2.対比・判断
(1)本件発明1
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「チャックアセンブリ70」は本件発明1の「シャフト」に相当し、以下同様に、「金属外板130」は「板金面」に、「スライド可能に支持する」は「支持する」に、「フレーム部材12」は「支持部」に、「支持するベースプレート40」は「支承する脚体」に、「ハンドル14」は「メインレバー」に、「可動ハンドル20」は「セカンドレバー」に、「金属外板用くぼみ矯正装置10」は「板金用引出し具」に相当する。
また、甲1発明の「係合可能なくぼみ係合部材100」と本件発明1の「溶着可能なビット」とは「係合可能な係合部材」である限りにおいて共通し、同様に、「フレーム部材12とチャックアセンブリ70との間に介在させたバネ80」と「メインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばね」とは「ばね」である限りにおいて共通する。
以上から、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]シャフトと、該シャフトの先端部に配設し板金面に係合可能な係合部材を備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し、
前記第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、ばねを含んで構成し、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う板金用引出し具。

[相違点1]係合可能な係合手段について、本件発明1では溶着可能なビットであるのに対し、甲1発明では係合可能なくぼみ係合部材100である点。

[相違点2]本件発明1では、ばねを、メインレバーとセカンドレバーとの間に介在させ、このばねにより前記セカンドレバーを付勢させているのに対し、甲1発明では、バネ80を、フレーム部材12とチャックアセンブリ70との間に介在させ、このバネ80により前記チャックアセンブリ70を付勢させている点。

なお、被請求人は、本件発明1における第2の操作手段はシャフトの引き上げに寄与する手段であるところ、甲1発明におけるフレーム部材12はスライドロッド74の引き上げに寄与する部材ではないから、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2に加えて、本件発明1は、第2の操作手段が支持部を備えるのに対し、甲1発明は、第2の操作手段がフレーム部材12を備えない点においても相違する旨主張している。
しかしながら、請求項1には、支持部に関して、「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え」と記載されているのみであり、当該支持部がシャフトの引き上げに寄与することについては特定されていない。また、甲1発明において、第2の操作手段が第1の操作手段を引き上げる際に、フレーム部材12が、第1の操作手段のチャックアセンブリ70をスライド可能に支持しており、フレーム部材12が第2の操作手段と一体的に機能しているだけでなく、甲1号証の1には、1.1の摘記事項dのとおり「静止ハンドル部材14を有するフレーム部材12」と記載されていることから、甲1発明において、第2の操作手段を構成するハンドル部材14がフレーム部材12を備えるものであることは明らかである。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
1.2.2で示したとおり、板金用引出し具において、シャフトと板金面とを係合させるために、シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えることは、例えば、甲第2ないし8号証に記載されているように周知の事項である。
甲1発明において係合手段として何を用いるかは、当業者が適宜決め得ることにすぎず、甲1発明の係合手段として、甲1発明で用いられている係合可能なくぼみ係合部材100に替えて、周知の上記「板金面に溶着可能なビット」を採用することに格別の困難性はない。

被請求人は、平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書及び同年8月31日付け上申書において、甲1発明のくぼみ係合部材を溶着ビットに変えた金属外板用くぼみ矯正装置を想定した場合、この装置では、板金面の戻りを考慮したビットによる凹部の引き出しは透明なベースプレートにより制約されて引き出し加減の調整ができないという欠点が少なくとも内在する旨主張している。
しかしながら、甲1発明は、ベースプレートを構成要件として認定したものでない。また、金属に力を加えて変形させた後、その力を抜くと変形させる前に戻る性質があることは、金属加工及び板金加工における技術常識であるから、甲1発明を用いる際に、板金面の戻りのためくぼみを取り除くことができない場合に、戻りを考慮して引き込み量を大きくして、くぼみを取り除くようにすることは、作業者が技術常識を踏まえて行うことであって、甲1発明の作用・効果とは無関係である。

(イ)相違点2について
1.3.2で示したとおり、手動工具において、二つのレバーの間にばねを介在させることは、例えば、甲第9ないし13号証に記載されているように周知の事項である。
甲1発明において、ハンドル14と可動ハンドル20間をバネ80に抗しながらつぼめて金属外板130の引き出しを行わせるために、可動ハンドル20を付勢させるバネ80をどこに設けるかは、当業者が適宜設計し得ることであり、甲1発明において、上記周知の事項を適用して、バネ80を、ハンドル14と可動ハンドル20との間に介在させ、このバネ80により可動ハンドル20を付勢させるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

被請求人は、答弁書、平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書及び同年8月31日付け上申書において、(a)甲1発明において、バネ80は、静止ハンドル14と可動ハンドル20に一切接触しておらず、(b)ばねを「何処に」「どのような状態で」配設し、しかも「どのように作用させるか」は作用効果との関係で考慮すべきことであり、(c)甲1発明におけるバネ80は、チャックアセンブリ70をバイアスさせて引き込み方向と逆の延長方向に可動させるための手段であって、可動ハンドル20のバイアスをさせるための手段ではない旨主張している。
主張(a)について、本件発明1も、ばねがメインレバーとセカンドレバーに接触することについては限定はなく、また、本件明細書の実施例に記載されたものも、ばねはセカンドレバーではなく支持部に接触しておいることから、甲1発明において、バネ80が、静止ハンドル14と可動ハンドル20に接触しているかどうかは、相違点とは無関係である。
主張(b)及び(c)について、1.1の摘記事項hに示したとおり、甲1号証の1には、「チャックアセンブリ70が引き込み方向と呼ばれる方向の第1の方向82に移動すると、バネ80が肩部64とチャックアセンブリ76との間で圧縮される。」ことが記載されており、甲1発明においても、メインレバーとセカンドレバー間をつぼめる際には、バネ80の圧縮により生じるバネ80の付勢力に抗しながら行われるように作用することは、技術常識から明らかである。
しがたって、ばねを「何処に」「どのような状態で」配設し、「どのように作用させるか」は作用効果との関係で考慮すべきであっても、本件発明1のばねと甲1発明におけるバネ80とは、メインレバーとセカンドレバー間をつぼめる際に奏するという作用において異なるものではない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)本件発明1の作用ないし効果について
本件発明1によってもたらされる作用ないし効果は、甲1発明及び周知の事項から予測できる作用ないし効果以上の顕著なものではない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は当業者が甲1発明及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の板金用引出し具において、「前記支持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されている」という限定を付すものである。
そこで、本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記(1)アの対応関係に加え、甲1発明の「スライド可能に支持する孔66」は甲1発明の「保持する貫通部」に相当するから、本件発明2と甲1発明とは、上記(1)アで示した一致点に加えて、支持部にシャフトを保持する貫通部が形成されている点でも一致し、同(1)アで示した相違点1及び2において相違する。
相違点1及び2については、上記(1)イにおける検討と同様であり、甲1発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
そして、本件発明2によってもたらされる作用ないし効果は、甲1発明及び周知の事項から予測できる作用ないし効果以上の顕著なものではない。
したがって、本件発明2は当業者が甲1発明及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
本件発明3は、実質的に、本件発明1から、第1の操作手段がシャフトを備えるとした事項、支持部が第1の操作手段を支持する部位をシャフトとした事項、及び第1の操作手段の引き上げを手動操作とした事項を削除したものである。
そうすると、本件発明1を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する本件発明1が(1)で示したとおり甲1発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3も同様の理由により甲1発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.まとめ
よって、本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.予備的検討
(1)上記1、2においては、両当事者の主張を踏まえて、甲1発明における「フレーム部材12」が本件発明1ないし3の「支持部」に相当するとして、両発明の対比・判断を行った。
しかしながら、本件特許明細書における「又このシャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が刻設され、このねじ部13が後述する第2の操作手段20の支持部50に螺合し、前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段20に回動自在に支持される。」(段落0015)、「前記支持部50は、中央貫通孔(貫通部)52にめねじ部を形成した支持部材51を前記くり抜き部42内に収容しねじ48,49により前記セカンドレバー40に固定して構成される。かくして、前記支持部材51の貫通孔(貫通部)52と前記シャフト12のねじ部13が螺合し、前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段に20に回動自在に支持される。」(段落0018)、「また前記ばね14が、前記メインレバー30と前記支持部50の頂面間に前記シャフト12を巻装した状態で介在しているため、前記セカンドレバー40は図1乃至図3の下方向に常時付勢している。」(段落0020)及び「次に、第2の操作手段20を手に把持し、メインレバー30とセカンドレバー40間をばね14に抗しながらつぼめて(セカンドレバー40をばね14に抗しながら引き上げ可動させて)凹部をゆっくりと引き上げる。」(段落0029)との記載を踏まえると、本件特許の実施例に記載された板金用引出し具は、セカンドレバー(40)を引き上げることによって、「支持部(50)」を介してシャフト(12)あるいは第1の操作手段(10)を引き上げるものである。
他方で、甲第1号証の1において、摘記事項j及びlの記載並びに図1ないし3の記載を参照すると、甲第1号証の1に記載された発明における金属外板用くぼみ矯正装置10は、可動ハンドル20が引き込み位置まで移動することにより、従動部材116が引き込み方向82に移動し、チャックアセンブリ70とくぼみ係合部材100とが移動するものであること、すなわち、従動部材116は、可動ハンドル20の引き込み時において、可動ハンドル20の移動をチャックアセンブリ70及びくぼみ係合部材100に伝達する部材として機能しているものであることは明らかである。
このように、甲第1号証の1において、本件発明1ないし3の「支持部」に対応するものは、「フレーム部材12」ではなく、「従動部材116」であると解することもできる。
そこで、以下仮に、本件発明1ないし3の「支持部」と対比すべきものを、「従動部材116」とした場合について検討する。

(2)甲第1号証の1に記載された発明
上述のとおり、従動部材116は、可動ハンドル20の引き込み時において、スライドロッド74に移動を伝達することが理解できるから、上記1.1に摘記した事項を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1及び2の記載に沿って整理すると、甲第1号証の1には次の発明が記載されていると認められる。

「チャックアセンブリ70と、該チャックアセンブリ70の先端部に配設し金属外板130に係合可能なくぼみ係合部材100を備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段のスライドロッド74に移動を伝達する従動部材116を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支持するベースプレート40とを具備し、
前記第2の操作手段を、ハンドル14と、可動ハンドル20と、フレーム部材12とチャックアセンブリ70との間に介在させたバネ80を含んで構成し、このバネ80によりチャックアセンブリ70を付勢させ、前記ハンドル14と可動ハンドル20間を前記バネ80に抗しながらつぼめて金属外板130の引き出しを行い、
従動部材116にスライドロッド74を設ける開口を持つ金属外板用くぼみ矯正装置10。」(以下「甲1発明の2」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1
(ア)本件発明1と甲1発明の2との対比
本件発明1と甲1発明の2とを対比すると、甲1発明の2の「チャックアセンブリ70」は本件発明1の「シャフト」に相当し、以下同様に、「金属外板130」は「板金面」に、「支持するベースプレート40」は「支承する脚体」に、「ハンドル14」は「メインレバー」に、「可動ハンドル20」は「セカンドレバー」に、「金属外板用くぼみ矯正装置10」は「板金用引出し具」に相当する。
また、甲1発明の2の「金属外板130に係合可能なくぼみ係合部材100」と本件発明1の「板金面に溶着可能なビット」とは「板金面に係合可能な係合部材」である限りにおいて共通し、同様に、「スライドロッド74に移動を伝達する従動部材116」と「シャフトを支持する支持部」とは「シャフトに移動を伝達する伝達部」である限りにおいて、「フレーム部材12とチャックアセンブリ70との間に介在させたバネ80」と「メインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばね」とは「ばね」である限りにおいて共通する。
以上から、本件発明1と甲1発明の2との一致点は次のとおりである。

[一致点]シャフトと、該シャフトの先端部に配設し板金面に係合可能な係合部材を備えた第1の操作手段と、
該第1の操作手段のシャフトに移動を伝達する伝達部を備え、手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と、
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し、
前記第2の操作手段を、メインレバーと、セカンドレバーと、ばねを含んで構成し、前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う板金用引出し具。

そして、本件発明1と甲1発明の2との相違点は、上記2.(1)アの相違点1及び2に加えて、次の点で相違する。

[相違点3]シャフトに移動を伝達する伝達部が、本件発明1では、シャフトを支持する支持部であるのに対し、甲1発明の2では、スライドロッド74に移動を伝達する従動部材116である点。

(イ)相違点についての判断
相違点1及び2については、2.(1)イで示した理由と同様に、甲1発明の2及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

相違点3について、「支持」とは支え持つことを意味するところ(乙第4号証を参照。)、甲1発明の2において、ハンドル14と可動ハンドル20間をつぼめることで、従動部材116を介してスライドロッド74に移動が伝達される。その際、スライドロッド74を従動部材116において支え持つことで、力が伝えられて、移動が伝達されることから、甲1発明の2においても、従動部材116はスライドロッド74を支持する支持部であるといえる。
したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。

被請求人は、平成24年7月27日付け口頭審理陳述要領書及び同年8月31日付け上申書において、従動部材116の作用ないし機能は、可動ハンドル20から受ける力をスライドロッド74に伝えることにある旨主張している。
しかしながら、可動ハンドル20から受ける力をスライドロッド74に伝えることができるのは、スライドロッド74を従動部材116において支え持つことによるものであるから、従動部材116の作用ないし機能が可動ハンドル20から受ける力をスライドロッド74に伝えることにあることが、従動部材116がスライドロッド74を支持する支持部ではないことを意味することにはならない。

そして、本件発明1によってもたらされる作用ないし効果は、甲1発明の2及び周知の事項から予測できる作用ないし効果以上の顕著なものではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は当業者が甲1発明の2及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2
(ア)本件発明2と甲1発明の2との対比
本件発明2は、本件発明1の板金用引出し具において、「支持部にシャフトを保持する貫通部が形成されている」という限定を付すものである。

本件発明2と甲1発明の2とを対比すると、上記ア(ア)で示した相当関係のほか、甲1発明の2の「従動部材116にスライドロッド74を設ける開口を持つ」と本件発明2の「支持部にシャフトを保持する貫通部が形成されている」とは「支持部に貫通部が形成されている」限りにおいて共通するから、本件発明2と甲1発明の2とは、上記ア(ア)で示した一致点に加えて、支持部に貫通部が形成されている点でも一致し、同ア(ア)で示した相違点1ないし3に加えて、次の点で相違する。

[相違点4]本件発明1では、貫通部がシャフトを保持するのに対し、甲1発明の2では、開口がスライドロッド74を設ける点。

(イ)相違点についての判断、
相違点1ないし3については、上記ア(イ)における検討と同様であり、甲1発明の2及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

相違点4について、甲1発明の2における開口は、スライドロッド74を設けるものであり、シャフトを貫通させるものである点で、本件発明2における貫通部と共通している。
本件発明2において、貫通部がシャフトを保持することによる作用は、本件発明1において、支持部がシャフトを支持することによる作用と異なることはなく、また、支持部がシャフトを支持する形態をどのように構成するかは、技術の具体的適用に伴う設計変更であり、甲1発明の2において、開口がスライドロッド74を設ける形態として、開口がスライドロッドを保持するようにすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

そして、本件発明2によってもたらされる作用ないし効果は、甲1発明の2及び周知の事項から予測できる作用ないし効果以上の顕著なものではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明2は当業者が甲1発明の2及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3
本件発明3は、実質的に、本件発明1から、第1の操作手段がシャフトを備えるとした事項、支持部が第1の操作手段を支持する部位をシャフトとした事項、及び第1の操作手段の引き上げを手動操作とした事項を削除したものである。
そうすると、本件発明1を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する本件発明1がアで示したとおり甲1発明の2及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3も同様の理由により甲1発明の2及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)まとめ
よって、仮に、本件発明1ないし3の「支持部」と対比すべきものを、「従動部材116」としたとしても、本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
第6のとおり、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-10 
結審通知日 2012-09-13 
審決日 2012-09-25 
出願番号 特願平9-124950
審決分類 P 1 113・ 534- Z (B21D)
P 1 113・ 121- Z (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川端 修日比野 隆治  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 藤井 眞吾
菅澤 洋二
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2876402号(P2876402)
発明の名称 板金用引出し具  
代理人 伊藤 真  
代理人 平井 佑希  
代理人 橋爪 健  
代理人 近藤 豊  
代理人 梶原 克彦  
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