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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部無効 産業上利用性  G01N
審判 全部無効 2項進歩性  G01N
管理番号 1280914
審判番号 無効2013-800036  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-06 
確定日 2013-10-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第4646009号発明「ぬれ性の評価装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4646009号(以下,「本件特許」という。)は,平成21年9月17日に特許出願され,平成22年12月17日にその請求項1?5に係る発明(以下,請求項の番号に対応して「本件発明1」?「本件発明5」という。)につき特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して,請求人より平成25年3月6日に本件特許の無効審判の請求がなされたものであり,本件無効審判における手続の経緯は,以下のとおりである。

平成25年 3月 6日 無効審判請求(甲第1?16号証)
5月23日 答弁書
6月21日 審理事項通知書
8月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
8月 9日 口頭審理陳述要領書(請求人)
8月20日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
8月23日 第1回口頭審理
8月27日 審理終結通知
第2 当事者の主張

1 請求人の主張
請求人は,審判請求書及び口頭審理陳述要領書によれば,以下の無効の理由により,本件発明1?5は無効とすべきものであると主張し,証拠として甲第1?16号証を提出している。
ア 本件発明1?5は,甲第1号証?甲第16号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条第2項の規定によって特許を受けることができないものであり,本件発明1?5に付与された各特許は,同法123条第1項第2号の規定により,無効とすべきものである。

イ 本件発明1?5は,産業上利用できる発明に該当せず,特許法29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができないものであり,本件発明1?5に付与された各特許は,同法123条第1項第2号の規定により,無効とすべきものである。

ウ 本件の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1?5を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,本件発明1?5に付与された各特許は,同法123条第1項第4号の規定により,無効とすべきものである。

エ 本件発明1?5は明確ではないから,特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,本件発明1?5に付与された各特許は,同法123条第1項第4号の規定により,無効とすべきものである。

甲第1号証:自動接触角計「CA-VP型」の取扱説明書
甲第2号証:自動極小接触角計「MCA-3型」の取扱説明書
甲第3号証:特開2004-309263号公報
甲第4号証:フラットパネル接触角計「FFD-MH20」
のパンフレット
甲第5号証:全自動フラットパネル洗浄評価装置「FFD-MH20」
の取扱説明書
甲第6号証:特開2005-265785号公報
甲第7号証:米国FTA社(First Ten Angstroms, Inc.)
が自身のウェブサイトで公開している技術情報
(タイトル:Top View Contact Angle Analysis)
甲第8号証:2009年アメリカ農業生物工学会(ASABE)
年次国際大会の予稿集Paper Number:096671)
甲第9号証:2009年アメリカ農業生物工学会(ASABE)
年次国際大会の予稿集Paper Number:096675)
甲第10号証:特開平8-247918号公報
甲第11号証:国際公開2008/153684号公報
甲第12号証:特開2002-107282号公報
甲第13号証:特開2001-327905号公報
甲第14号証:特開2003-232712号公報
甲第15号証:特開2002-99902号公報
甲第16号証:特開2008-170303号公報
以下,甲第1?16号証をそれぞれ「甲1」?「甲16」という。

2 被請求人の主張
これに対して,被請求人は,答弁書及び口頭審理陳述要領において,上記無効理由ア?エはいずれも理由がないと主張している。


第3 無効理由について

1 本件発明
本件発明1?本件発明5は,本件特許明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
液体試料と固体試料のぬれ性について評価をするぬれ性評価装置であって、
前記液体試料が充填され、当該液体試料を吐出用曲げ針によって吐出する機能を有した吐出ユニットと、
前記液体試料の前記固体試料への着滴位置を調整する機能を有する試料台と、
前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を上面から照らす上面測定用光源と、
前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を上面から撮影した上方映像データをパソコン本体に送る上面測定用カメラと、
前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を側面から照らす側面測定用光源と、
前記側面測定用光源の対面に、前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を側面から撮影したデータを前記パソコン本体に送る側面測定用カメラと、
前記液体試料が前記固体試料に着液する直前における前記吐出用曲げ針の先端に作成された当該液体試料を前記側面測定用カメラによって撮影した前記側方映像データによって液量を演算する機能と、を有する前記パソコン本体と、
前記液体試料が前記固体試料に着液した後に、前記上面測定用カメラと前記側面測定用カメラにより同時に撮影して得られた前記上方映像データと前記側方映像データから、当該液体試料と当該固体試料との接触角とぬれ面積と真円度を演算する演算手段と、を有する前記パソコン本体と、
前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能を有するパソコン本体と、
からなるぬれ性の評価装置。
【請求項2】
前記吐出ユニットは、前記吐出用曲げ針をスライドさせるスライド機構又は前記吐出用曲げ針を回転させる回転機構を備えることで、上面測定用カメラが撮影する画面外に当該吐出用曲げ針を移動する機能を有する請求項1記載のぬれ性評価装置。
【請求項3】
前記液体試料が前記固体試料に着液した後に前記吐出用曲げ針の先端に残った液量を測定し前記液量から引くことによって着液量を補正して演算する機能を有する前記パソコン本体と、からなる請求項1記載のぬれ性評価装置。
【請求項4】
前記接触角の演算に際し、前記上方映像データから前記液体試料の真円度を求め、真円度が低い場合には接触角を正しく表していない旨表示し、繰り返し測定をした場合の接触角平均から除外する処理手段を有する前記パソコン本体と、からなる請求項1記載のぬれ性評価装置。
【請求項5】
前記固体試料に対する前記液体試料のぬれ現象を同時に撮影した前記上方映像データと前記側方映像データを同時に表示および記録する機能を有する前記パソコン本体と、からなる請求項1記載のぬれ性評価装置。」


2 各証拠及びその内容

(1)甲1について
甲1に照らし,本件特許の出願日前に請求人によって公然と販売されていたとされる自動接触角計「CA-VP型」に関し,その取扱説明書である甲1(表紙右下部に「Aug.2000」と記載され,本件特許の出願日前に発行されたものであると認められる。)には,次の事項が記載されている。

(甲1-ア)6頁には,標準構成品としてCA-VP本体,パソコン一式が記載されている。

(甲1-イ)8頁には,全体図として,液晶モニタがあり,ベース基板の上にステージ支柱があり,そのステージ支柱の上に測定部があり,その測定部の上方にディスペンサホルダがあることが,そして,測定部の側方に光源部があり,その光源部の反対側の測定部の側方にカメラ部があることが記載されている。

(甲1-ウ)9頁には,測定部周辺,試料台及び試料台カバーの図面として,測定部に試料台及び試料台カバーが,そして試料台を動かす左右移動ツマミ,上下移動ハンドルが記載されている。

(甲1-エ)14頁には,固体の上に半円状の液体が乗っている図面とともに,
「固体表面に液体が触れると、下の図のように丸い液滴が出来ます。この現象は、日常生活でもよく見受けられる光景ですが、この時液面と固体表面とがなす角度θを接触角(Contact Angle)と呼びます。
接触角は、下の図のように力学的な平衡状態にあって、固体と液体のぬれ性をあらわす大変重要な物性で、ぬれ現象の尺度とされています。自然界も含めてぬれは多くの界面現象に影響を与えており、ぬれが界面現象を決定しているといってもいいでしょう。
上図から、ぬれは固体と液体の相互作用であり、接触角θは固体の表面張力(表面自由エネルギー)γ_(S)と液体の表面張力(表面自由エネルギー)γ_(L)に依存する現象値であることがおわかりいただけたことと思います。」と記載されている。

(甲1-オ)18頁には,接続について,アンプを通じて,カメラ部及び液晶モニタとパソコンとが接続されていることが記載されている。

(甲1-カ)25?27頁には,ディスペンサとして,先端に針が付いており,シリンダに充填してある液体試料をピストンで押す注射筒が記載されている。

(甲1-キ)33頁には,「ディスペンサのマイクロメータヘッドを時計方向に回すと、液体試料が押し出され液滴を作成することができます。」,「液滴の大きさは、モニタ画面に表示されている目盛を目安にコントロールして下さい。」と記載され,モニタ画面として着液する前の液滴が記載されている。

(甲1-ク)49頁には,「モニタ画面を見ながら、ディスペンサを操作し、液滴作成後OKボタンを押すと画像を取込み、自動で液滴の体積を測定し、Liquid vol欄に表示します。」,「液滴作成後(液滴体積の測定後)、本体の上下移動ハンドルを回して試料台を上昇させ、着液させてから、Measureボタンを押します。自動で接触角を測定し、Contact angle欄に表示します。また、画像表示欄には、測定した画像と測定点を表示します。」


(2)甲2について
甲2に照らし,本件特許の出願日前に請求人によって公然と販売されていたとされる自動極小接触角計「MCA-3」に関し,その取扱説明書である甲2(表紙右下部に「2007/9」と記載され,本件特許の出願日前に発行されたものであると認められる。)には,次の事項が記載されている。

(甲2-ア)7頁には,「MCA-3は本体とコントローララック、上面観測用液晶モニタで構成されています。」と記載され,7?9頁には,本体の構成部材としてディスペンサ,ステージ,ステージ位置調整部,上面観測用カメラ部,測手用光源及び測手用カメラが記載されている。そして,図面には,測手用光源と測定用カメラとは,ステージの側方にステージを挟んで対置されているように記載されている。

(甲2-イ)8頁には,「上面観測用カメラ部」の説明として,「固体試料表面とキャピラリ先端を上部から観察します。着液ポイントの確認に用います。同軸落射照明を採用しています。」と記載されている。

(甲2-ウ)9頁には,「ステージ位置調整部」の説明として,「上面観測用液晶モニタを見ながら、着液ポイント(キャピラリ先端)に固体試料の位置を合わせることができます。」と記載されている。

(甲2-エ)18頁には,「ケースからの取り出し」の説明として,「キャピラリを慎重にケースから取り出します。キャピラリ先端は非常に細く、さらに先端を斜めに曲げる特殊加工を施してありますので,折損しないように充分に注意して下さい。」と記載され,キャピラリ先端が斜めに曲がっている図面が記載されている。


(3)甲3について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲3には,「液体の動的濡れ性の評価方法およびその装置」に関して,次の事項が記載されている。

(甲3-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体の動的濡れ性の評価方法およびその装置に関するものである。」

(甲3-イ)
「【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の液体の動的濡れ性の評価方法は、平坦な表面が略水平な姿勢で配置された受液部材上に所定量の液体を滞留させ、滞留状態にある上記液体の上方部分を上方へ引き上げることによって上記液体と上記受液部材との接触状態を変化させ、その後、上記変化の状態を評価する液体の動的濡れ性の評価方法であって、上記滞留状態にある液体が上記受液部材に接触している初期接触面積と、上記滞留状態にある液体の上方部分を上方へ引き上げることによって上記初期接触面積を減少させた評価対象接触面積とを比較して液体の動的濡れ性を評価することを要旨とする。」

(甲3-ウ)
「【0033】
図1は、本発明の装置の一実施の形態を示す。この装置は、静止状態におかれた試料台20の上に受液部材21が載置してあり、その表面22は平坦で略水平な状態とされている。きわめて微量な液体を精密に計量して供給する装置であるシリンジ23が受液部材21の横側上方に配置され、その液体供給管24から受液部材21上に液体を供給するようになっている。符号25は、受液部材21上に供給された液体であり、その表面張力により膨隆した外形を呈している。ここでは気温25度の環境下で10μリットルの液量を滴下したもので、液体供給管24の先端部と表面22との間隔は1mmである。この膨隆した液体25の上方部分に液体供給管24の先端部が接触している。
【0034】
画像撮影手段であるCCDカメラ26は液体25の略真上に配置され、図2に示したモニター画面27のように液体25の面積を平面図的に撮影できるようになっている。このために、液体供給管24は途中で屈曲させてあり、上記シリンジ23は受液部材21の横側の上方に配置されている。したがって、CCDカメラ26の撮影光軸28は略真下を向いていて、シリンジ23がCCDカメラ26の撮影画像内に入らないようになっている。なお、CCDカメラ26を液体25の斜め上方に配置して、斜め方向からの液体面積映像として撮影してもよい。
【0035】
上記CCDカメラ26は、面積判定手段29に含まれている。そして、上記面積判定手段29に含まれている液滴制御部30は、シリンジ23と面積算出部31に対して供給液体の量を示す信号を送信し、これによりシリンジ23からは所定の量(10μリットル)の液体25が受液部材21上に供給される。CCDカメラ26からの画像データは上記面積算出部31に送られる。面積算出部31に送られる画像データは、液体25が吸引される前の液体形状と、吸引された後の液体形状を示すものであり、上記両液体形状を示す画像データが判定部32に送信され、この判定部32において両液体形状を比較した合成画像が生成される。上記合成画像データが出力部33からモニター画面27に送信される。液体供給管24は、上記のように液体を吸引する機能をも果たしているので、必要に応じて『吸引管24』と記載している。
【0036】
上記面積算出部31には、画像処理手段が内蔵されている。面積算出部31に送信されてきた液体25の画像データを、上記画像処理手段において処理することにより、初期接触面積S1や評価対象接触面積S2の面積値が算出されるようになっている。」


(4)甲4及び甲5について
全自動フラットパネル洗浄評価装置「FFD-MH20」の取扱説明書である甲5の表紙右下部に「2006/12」と記載されており,甲5は本件特許の出願日前の2006年12月に発行されたものであるから,全自動フラットパネル洗浄評価装置「FFD-MH20」は本件特許の出願日前に請求人によって公然と販売されていた認められる。また,フラットパネル接触角計「FFD-MH20」について記載されている甲4のパンフレットには,発行時期について記載されていないものの,甲4の「FFD-MH20」は甲5の「FFD-MH20」と同じ製品であることから,甲4記載のフラットパネル接触角計「FFD-MH20」についても本件特許の出願日前に請求人によって公然と販売されていた認められる。甲4及び甲5には,「FFD-MH20」に関し,図面及び写真とともに,次の事項が記載されている。

(甲4-1)2頁目の中段付近には,「測定原理」の説明として「CCDカメラは着液ポイントの真上に垂直に取り付けられ、液滴の直径を見下ろします。」,「カメラ部:ディスペンサの先端に作成された液量及び着液後の液滴径をモニタします。」と記載されており,ディスペンサの先端に屈曲した針が設けられている図が記載されている。

(甲4-2)2頁目の下段付近には,[解析]ソフトウェア」の説明として,「イメージモニタウィンドウ 液滴の作成から、試料への着液までをリアルタイムで表示します。」及び「測定シートウィンドウ 着液した液滴の画像を取り込み、測定値を表示します。」と記載されいている。

(甲5-1)23頁の下段付近には,「パラメータウィンドウの[液量測定]ボタンを[ON]にして液量を測定します。」と記載され,その下には,ノズルの先端に形成された液滴を上方から撮影した画像が表示され,「液体測定ボタン」を有するパラメータウィンドウの画像が記載されている。


(5)甲6について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲6には,「撥液性評価装置及び撥液性評価方法」に関して,次の事項が記載されている。
(甲6-1)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面の撥液性やその撥液性の当該表面における均一性(面内分布)を評価する撥液性評価装置及び撥液性評価方法に関する。」

(甲6-2)
「【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1である撥液性評価装置の構成を示すブロック図である。 この例の撥液性評価装置は、ダイコータ1と、カメラ2と、制御部3と、メモリ4と、モニタ5とから概略構成されている。ダイコータ1は、制御部3から供給される制御信号に基づいて、机上に固定された試料11上にその表面の撥液性を評価するための液剤12を均一に所定速度で塗布する。・・・・・」

(甲6-3)
「【0019】
カメラ2は、CCD(Charge Coupled Device)センサ又はCMOS(Complimentary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の撮像素子やレンズ等を有し、制御部3から供給される制御信号に基づいて、試料11の直上に配置され、試料11の表面全体を撮影して1画素あたり複数ビット(例えば、12ビット)のデジタルの画像データ(撮影画像)を出力する。カメラ2は、モノクロ用でもカラー用でもいずれでも良い。」

(甲6-4)
「【0029】
ステップSP6では、制御部3は、メモリ4の画像記憶領域から複数の撮影画像を読み出し、読み出した複数の撮影画像について撥液性の評価を行い、その評価結果をメモリ4の所定の記憶領域に記憶するとともに、モニタ5に表示させた後、ステップSP7へ進む。ここで、撮影画像に関する撥液性評価としては、例えば、以下に示すものがある。まず、各撮影画像の輝度値を所定のしきい値で2値化して2値化画像とすることにより、例えば、液剤12又は液玉13を黒色で表示し、液剤12又は液玉13が存在しない試料11の表面を白色で表示する。
【0030】
次に、上記各2値化画像について、一般的な画像解析プログラムを用いて、各液玉13によって形成されている模様及び各液玉13の挙動等を画像解析する。この画像解析の項目としては、(1)液剤12の塗布直後から液玉13が形成されるまでの時間はどれだけか、(2)各液玉13の真円度が高いか否か、(3)各液玉13の面積を合計した面積が試料11全体で占める割合はどの程度か、(4)各液玉13の形状や大きさが試料11全体で均一であるかばらついているか、(5)各液玉13の間隔(密度)が試料11全体で均一であるかばらついているかなどがある。(4)及び(5)は、上記した面内分布に関するものである。
【0031】
ステップSP7では、制御部3は、メモリ4の所定の記憶領域に記憶されている撥液性の評価結果を読み出し、その評価結果に基づいて当該試料11の良否判定を行い、その結果をモニタ5に表示させた後、ステップSP7へ進む。ここで、良否判定の指標としては、例えば、試料11に数μmの膜厚で塗布した場合、(a)液玉13の直径が2mm以下であること、(b)各液玉13の真円度として液玉13の長軸と短軸との20%以内であることなどを挙げることができ、これらの指標が満たされれば、当該試料11は良品と判定される。・・・・・」


(6)甲7について
甲7は,米国FTA社(First Ten Angstroms, Inc.)が自身のウェブサイト(URL:http://www.firsttenangstroms. com/pdfdocs/TopViewContactAngleAnalysis.pdf)で公開している技術情報の文献である。その1頁の上方に「April 4, 2004」と記載されていることから,本件特許の出願日前に電気通信回線を通じし利用可能となったと認められる。

(甲7-1)1頁の上方にタイトルとして「Top View Contact Angle Analysis」(仮訳:上面視での接触角解析)と記載されている。

(甲7-2)
「The Top View Asymmetry reported in the Results window is twice the standard deviation of the found points against the regression circle, divided by the regression radius. In general, an Asymmetry less than 1% is very good and over 10% should be considered carefully as the drop is then very irregular.」(1頁24?27行)
(仮訳:リザルトウィンドウで報告される上面視非対称は、発見された点の回帰円に対する標準偏差(回帰半径で除する)の2倍である。一般に、非対称性は1%未満であることが非常に好ましく、10%以上の場合は液滴が異常であることを慎重に考慮すべきである。)

(甲7-3)6頁及び7頁には,液滴を上方から撮影した画像及び「Top View Asymmetry」(仮訳:上面視非対称)の画像が記載されている。


(7)甲8について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲8には,「Surfactant droplet evaporation and deposition pattern on waxy leaf surface」(仮訳:蝋質の葉の表面上の界面活性剤の液滴の蒸発及び堆積パターン)に関して,次の事項が記載されている。

(甲8-ア)
「The objective of this research was to determine the evaporation time, droplet spreading process and contact area of droplets with and without the nonionic surfactant at three different positions(intervenial area, secondary vein, and midrib) on adaxial and abaxial suefaces of waxy leaves, in an effort to provide quantitative information for end users of pesticides to increase application efficiency for controlling particular insects or diseases.」(3頁3?7行)
(仮訳:この研究の目的は,特に害虫又は疫病を制御するために効率的に殺虫剤を用いる使用者に多くの情報を与えるために,蝋質の葉の向軸側の面と背軸側の面における異なる3箇所(葉脈間,側脈,中央脈)での非イオン性の界面活性剤がある場合とない場合の蒸発時間、液滴の拡散過程及び液滴の接触範囲を決定することであった。)

(甲8-イ)
「Wetted area per volume of a dropletγ_(A) or the ratio of the wetted area of a its volume was used to evaluate the spreading ability of the droplet. For the same position on leaf aurfaces and the same solution, the 300μm droplets had greater γ_(A) values than the 600μm droplets(table4).」(7頁23?26行)
(仮訳:液滴の体積に対するぬれ面積γ_(A),又は液滴の体積に対するそのぬれ面積の比は,液滴の拡散力を評価するために用いられた。葉の表面の同じ位置かつ同じ溶液の場合,300μmの液滴は,600μmの液滴より大きいγ_(A)値を有していた(表4)。)

(甲8-ウ)
「This clearly indicates that smaller droplets, spreading relatively wider on the leaves and staying relatively longer than larger droplets, would provide better efficiency for active ingredients to penetrate into leaf tissues.」(8頁13?15行)
(仮訳:このことより,葉において小さいな液滴が大きな液滴より比較的広く拡散し長く留まっているとうことは,葉の細胞に活性成分をより効率的にしみ込ませることになることを明らかに示している。)


(8)甲9について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲9には,「Adjuvant effects on evaporation time and wetted area of droplets」(仮訳:液滴の蒸発時間とぬれ面積に対する補助剤の効果)に関して,次の事項が記載されている。

(甲9-ア)
「The objective of this research was to determine effectiveness of five representative types of adjuvants in contact angle , wetted area, evaporation time and residual patterns of droplets after they rearch surfaces of waxy plants.」(3頁24?27行)
(仮訳:この研究の目的は,液滴が蝋質の葉の表面に到達した後,液滴の接触角,ぬれ面積,蒸発時間及び残液のパターンにおける5つの代表的な補助剤の効果を決定することであった。)

(甲9-イ)
「For this study, it was assumed that the shape deformation of droplets on the leaf surfaces by gravity could be ignored. The shape of the droplet on the leaf surface was considered as the segment of a sphere(Figs.2a and 2b).」(4頁37?39行)
(仮訳:この研究においては,葉の表面における液滴の重力による変形は無視されることを仮定とした。葉の表面における液滴の形は,球の部分と見なした(図2aと2b)。)

(甲9-ウ)
「Sessile droplets of 500μm were selected for the test. With this size, the droplet generator was able to produce constant-size droplets while the size was small enough to avoid the shape deformation for the constant angle mesurement.」(5頁18?20行)
(仮訳:500μmの固着性の液滴が実験に用いられた。この大きさにおいては,液滴発生器は一定の大きさの液滴を作ることができ,接触角の測定に対して変形を無視できるほど小さなものであった。)

(甲9-エ)
「Figure 4 shows the wetted area per droplet volume of the 500μm droplets with and without for adjuvants on the five different plant leaves. The wetted area per droplet volume on the five plant leaves ranged from 7.2 to 9.0 mm^(2)/mm^(3) with COC, from 7.5 to 13.5 mm^(2)/mm^(3) with MSO, from 8.0 to 12.9 mm^(2)/mm^(3) with NIS, from 4.8 to 8.2 mm^(2)/mm^(3) with OSB, from 1.7 to 4.2 mm^(2)/mm^(3) with water-only, respectively.」(6頁37?41行)
(仮訳:図4は,5つの異なる植物の葉の上で,4種類の補助剤を含む含まない500μmの液滴に対するぬれ面積を示す。5つの異なる植物の葉の上での液滴の体積に対するぬれ面積は,それぞれ,COCを含む場合7.2?9.0mm^(2)/mm^(3),MSOを含む場合7.5?13.5mm^(2)/mm^(3),NISを含む場合8.0?12.9mm^(2)/mm^(3),OSBを含む場合4.8?8.2mm^(2)/mm^(3),水のみの場合1.7?4.2mm^(2)/mm^(3)の範囲であった。)


(9)甲10について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲9には,「界面張力評価装置及びそれを備えた電子部品実装装置」に関して,次の事項が記載されている。

(甲10-ア)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、溶融金属の界面張力評価装置とその評価結果を利用する電子部品の実装装置に関する。」

(甲10-イ)
「【0016】次に、この界面張力評価装置を用いて、界面張力又は表面張力と濡れ張力の比の評価を手順に従い説明する。
【0017】液体即ち溶融金属の表面張力及び体積が既知の場合の濡れ張力の評価。まず、入力装置により液体の表面張力及び体積を入力する。測定したい固体に付着した液滴を測定装置にセットすると、画面に図2のa又はbのような形状が表示される。」

(甲10-ウ)
「【0020】溶融金属の表面張力及びその体積が未知の場合の表面張力及び濡れ張力の評価。固体に付着した液体を測定装置にセットし、密度をデータとして入力し画面上での操作により演算部に指示すると、測定部は必要な情報を測定し当該測定データを演算部に渡すと、演算部はプログラムに従い計算を実行し、計算結果は出力手段により出力される。例えば、基板の上に五つの同一液体の液滴を作り測定装置にセットした場合を説明する。入力装置から縦軸に濡れ拡がり、横軸に液体の体積を選び入力する。測定装置により液滴の形状から濡れ拡がりと体積が測定され、演算部を通して図8-aが表示される。演算部は、各液滴の体積と濡れ拡がりまたは液滴径の形状からプログラムに従い平均値の表面張力と濡れ張力を計算し出力する。一方、演算部は評価した界面張力を基に、図8-bの実線が示すように、体積に対する濡れ拡がりを計算しその結果を画面上に示し、また液滴の実験データを含む点線で界面張力の有効誤差を出力手段により出力する。」

(甲10-エ)図2には,固体に付着した液滴の形状として,正面からみて円形のものであり,全体としてほぼ球形のものが記載されている。

(甲10-エ)図8には,縦軸を「濡れ拡がり」,横軸を「体積」としたグラフが記載されている。


(10)甲11について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲11には,「ARTICLES COMPRISING WETTABLE STRUCTURED SURFACES」(仮訳:濡れ性構造化表面を含む物品)に関して,次の事項が記載されている。なお,甲11の仮訳については,特表2010-531720号公報を参照した。

(甲11-ア)
「Embodiments of the invention include or comprise a substrate having one or more treated surfaces with asperities, said asperities form intersecting capillary channels between the asperities, such that the treated surface with asperities can have an advancing contact angle as measured by a sessile drop of water that is at least 30 degrees, in some embodiments an advancing contact angle of at least 40 degrees less than an untreated surface of the substrate without asperities. Treated surfaces with larger advancing contact angles are more wettable. The treated surface with asperities can be characterized in that an area wet by a liquid spreading on the treated surface with asperities is proportional to the volume of a drop of the liquid disposed on the treated surface with asperities and where the strength of interaction of the liquid at the contact line with the treated surface with asperities is greater than the restoring forces associated with the air-liquid interfacial tension. A liquid on the treated surface with asperities is completely drawn into the intersecting capillary channels and the liquid establishes an advancing contact angle on the side of the asperities and forms menisci between said asperities.」(2頁4?16行)
(仮訳:本発明の実施形態は,1つまたは複数の,アスペリティを有する処理表面を有する基板を含むか,または備え,アスペリティを有する処理表面が,少なくとも30度である、付着水滴で測定される前進接触角,いくつかの実施形態においては,アスペリティのない基板の非処理表面より少なくとも40度小さい前進接触角、を有することができるように,前記アスペリティは,アスペリティ間に交差する毛細管チャネルを形成する。より大きな前進接触角を有する処理表面は,より濡れやすい。アスペリティを有する処理表面は,アスペリティを有する処理表面上に広がる液体により濡れた面積が,アスペリティを有する処理表面上に置かれた液滴の体積に比例し,アスペリティを有する処理表面との接触線における液体の相互作用の強さが,空気-液体界面張力に関連する復元力より大きいことを,特徴とすることができる。アスペリティを有する処理表面上の液体は,交差する毛細管チャネルの中に完全に引き込まれ,液体は,アスペリティ面上に前進接触角を確定し,前記アスペリティ間にメニスカスを形成する。)

(甲11-イ)
「Figure 5 shows plots of the number of wetted cells, n, and the wetted area, A, versus volume for water on structured hemi-wicking surfaces, treated graphite with pillar asperities, where the geometry was constant and lyophilicity was varied. The lyophilicity was varied by changing the duration of the oxidation surface treatment. The surface, similar to that for Table 1, was covered with square pillars (ω = 90°) where x ≪ 380 μm, y ≪ 780 μm and z ≪ 420 μm. Points are experimental data (see Table 2, samples 1-3); solid lines are model calculations based on eqs(20) and (21). Both n and A are observed to increase linearly with V. The wetting was fully compliant and thus the proposed model fit the experimental data well. Even though the hydrophilicity of the surfaces varied; these structured surfaces were all fully compliant hemi-wicking.
It was observed that beyond the distinctive shape of the wetting patterns, the structured surfaces differed dramatically from the smooth surfaces in several other regards. For a surface having a given advancing contact angle, the area wetted by a liquid spreading on a smooth surface scales as V^(2/3). Unexpectedly it was observed that the area (A) wetted by a liquid spreading on a structured hemi-wicking surface in embodiments of the invention for a given advancing contact angle (determined by treatment or coating) was approximately proportional to V.」(26頁21行?27頁11行)
(仮訳:図5は,柱状アスペリティを有する処理されたグラファイトの,構造化されたヘミウィッキング表面上の水の体積に対する、濡れたセル数nおよび濡れ面積Aのプロットを示しており,ここでは形状を一定とし,親液性を変化させた。親液性は,酸化表面処理の継続時間を変えて変化させた。表1の表面に類似の表面は,四角柱(ω=90°)で覆われ,x≒380μm,y≒780μm,およびz≒420μmであった。点は実験データ(表2,サンプル1-3参照)であり,実線は,方程式(20)および(21)をベースにしたモデル計算である。nおよびAは共に,Vに対して直線的に増加することが認められる。濡れは完全にコンプライアントであり,それ故提案されたモデルは,実験データとよく合った。たとえ表面の親水性が変化しても,これらの構造化表面は,すべて完全にコンプライアントなヘミウィッキングであった。
濡れパターンの特有の形状以上に,いくつかの他の項目において,構造化表面は,滑らかな表面とは劇的に違うことが認められた。所与の前進接触角を有する表面に対して,滑らかな表面上に広がる液体により濡れる面積は,V^(2/3)で増減する。予期に反して,本発明の実施形態における構造化されたヘミウィッキング表面上に広がる液体により濡れる面積(A)は,所与の前進接触角(処理またはコーティングにより決定された)に対して、ほぼVに比例することが認められた。)

(甲11-ウ)図5には,縦軸を「A(濡れ面積)」,横軸を「V(体積)」としたグラフが記載されている。


(11)甲12について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲12には,「接触角の測定装置」に関して,次の事項が記載されている。

(甲12-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体と液体との相互作用を表す特性値である接触角の測定装置に関するものである。」

(甲12-イ)
「【0023】滴下部2は、基板100の表面101に液滴110を落とすためのものであり、XYZθステージ2Aとディスペンサー2Bとを備えている。ディスペンサー2Bは、基板100の表面101に向けて液滴110を滴下する。ディスペンサー2Bは、XYZθステージ2Aに固定されている。XYZθステージ2Aは、ディスペンサー2Bを移動させる。」

(甲12-ウ)図1及び図2には,CCDカメラ3Cが撮影する画面外にディスペンサー2Bを退避させた状態の装置が記載されている。


(12)甲13について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲13には,「液体材料吐出装置、液体材料の吐出体積の制御方法、および当該方法を用いた電子部品製造方法」に関して,次の事項が記載されている。

(甲13-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ペースト状の材料、接着剤等の粘性流体を含む液体材料を、対象物に対して吐出し、塗布、注入、充填、あるいは点滴を行う方法および装置に関する。」

(甲13-イ)
「【0018】本発明は、上記問題に鑑み、0.01mg以上の精度に応じた実吐出体積の制御を可能とするためになされたものであり、対象物に対して、一定の微少体積の液体材料を安定して吐出し、塗布あるいは注入することを可能とする液体材料吐出方法あるいは装置を提供することを目的としている。」

(甲13-ウ)
「【0041】CCD22によりシリンジ4の先端部および液滴10aを撮像し、画像処理部21によりその画像から液滴10aの体積VTlを算出する。」

(甲13-エ)
「【0050】(第二の実施例)上述の第一の実施例においては、対象物30において生じる毛管現象により、吐出口4aに保持される液滴10aは全て対象部に注入されることと仮定している。しかしながら、用いる液体材料に働く表面張力が大きい場合には、液滴10aの全てが注入されず、その一部分が吐出口4aにおいて液滴10a’として残留する場合がある。この場合、注入工程後の液滴10a’の体積VTl’を上述の画像処理により算出し、注入工程前に算出されている液滴10aの体積VTlから、残留液滴10a’の体積VTl’を減ずることにより、実際に対象物に対して注入された液体材料の体積を知ることができる。」

(甲13-オ)
「【0052】本実施例においては、各工程毎に残留液滴10a’の体積が異なることを想定して、残留液滴10a’の体積を注入工程前の液滴の体積10aから減ずることによって実際の液体材料の注入体積を求めることとしている。」


(13)甲14について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲14には,「接触角・表面形状複合測定装置及び測定方法」に関して,次の事項が記載されている。

(甲14-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体と液体との相互作用を表す特性値である接触角と表面三次元形状の接触角・表面形状複合測定装置及び測定方法に関するものである。」

(甲14-イ)
「【0008】即ち、接触角は固体試料表面の化学組成のみにより決定されるものではなく、微細な表面三次元形状(表面粗さ)によっても変化することが知られている。試料表面に液滴よりも小さい数百ミクロン以下の凹凸がある場合、試料が平滑な場合に比べて固液界面の面積が大きくなることに起因して接触角の値に変化が生じ、接触角θ=90°を境にして撥水性の表面はより撥水的になり、親水性の表面はより親水性になる。又、表面に傷等がある箇所では、正常箇所に比べて液滴形状がいびつであったり、接触角が異常な値を示すことも容易に起こり得ることである。」

(甲14-ウ)
「【0034】・・・・・。又、この場合、複数箇所の表面形状計測を行った時点で、得られた表面粗さが予め規定した範囲を外れている箇所においては、その箇所での接触角測定を行わないよう設定することができる。これにより、例えば異物や傷等のある異常個所における接触角データは除かれることになり、測定の効率化、データの信頼性向上の効果が期待できる。」

(甲14-エ)
「【0047】一方、残りの2箇所については表面粗さがRMS(Root Mean Square)で1.0μm以上あり、試料表面に異物や傷があることが分かった。同箇所では液滴形状も楕円状に歪んでおり、正確な接触角の測定は困難であった。」


(14)甲15について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲15には,「両眼立体視によって物体の3次元情報を計測する画像処理装置およびその方法又は計測のプログラムを記録した記録媒体」に関して,次の事項が記載されている。

(甲15-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、計測対象の物体を異なる2方向から撮影し、この2方向からの一対の画像に基づいてその物体の三次元情報を求める3次元情報計測処理システムおよびその方法に関する。」

(甲15-イ)
「【0025】オペレータがキーボード32を操作することにより、第1および第2撮影地点PA、PBに応じた一対の物体Sの画像がモニタ30に表示される。」(甲15-ウ)図1には,第1及び第2撮影地点PA,PBにカメラが設置され,モニタ30に一対の画像が同時に表示された状態が記載されている。


(15)甲16について
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲16には,「X線CT装置」に関して,次の事項が記載されている。

(甲16-ア)
「【0001】
本発明は、物品の一部分の拡大断層画像を撮影する産業用X線CT装置に関する。」

(甲16-イ)
「【0035】
試し撮り表示部37は、モニタ画面23aに被写体の第一断層画像24a、第二断層画像24b及び第三断層画像24cの画像表示を行う制御を行うものである。例えば、図4及び図5に示すように、xy平面に平行である被写体の第一断層画像24a(水平断層画像)と、xy平面に垂直である被写体の第二断層画像24b(縦断層画像)と、xy平面及び第二断層像24bに垂直である被写体の第三断層画像24c(第二縦断層画像)との画像表示を行う。このように3つの互いに直交する断層画像どうしを表示するのが好ましいが、直交関係にない3つの断層画像でもよい。また、3つの断層画像ではなく、2つの断層画像、あるいは4つ以上の断層画像の画像表示を表示してもよい。」

(甲16-ウ)図4及び図5には,第一断層画像24aと第二断層画像24bと第三断層画像24cが同時に表示された状態が記載されている。


3 当審の判断

(1)無効理由アについて

(ア-1)甲1記載の発明について
甲1の摘記事項(甲1-ア)?(甲1-ク)の記載を総合すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「固体と液体のぬれ性をあらわす接触角を測定する自動接触角計であって,
本体,パソコン一式を標準構成品として含み,
上記本体は,液晶モニタがあり,ベース基板の上にステージ支柱があり,そのステージ支柱の上に測定部があり,その測定部の上方にディスペンサホルダがあり,そして,測定部の側方に光源部があり,その光源部の反対側の測定部の側方にカメラ部があるように構成され,
上記測定部は,試料台及び試料台カバーがあり,そして,試料台を動かす左右移動ツマミ,上下移動ハンドルがあるように構成され,
上記ディスペンサホルダに固定されるディスペンサは,先端に針が付いており,シリンダに充填してある液体試料をピストンで押す注射筒で構成され,
上記カメラ部及び液晶モニタは,アンプを通してパソコンと接続されており,
ディスペンサから押し出された着液前の液滴は液晶モニタ画面に表示されるとともに,その着液前の液滴の体積が測定され,その後,上下移動ハンドルを回して試料台を上昇させ,液滴を着液させて,自動で接触角を測定し,Contact angle欄にその接触角を表示するとともに,画像表示欄に測定した画像と測定点を表示する自動接触角計。」(以下,「甲1発明」という。)

(ア-2)本件発明1について
a 対比

(a-1)甲1発明において,接触角は固体と液体のぬれ性を評価しているといえることから,「固体と液体のぬれ性をあらわす接触角を測定する自動接触角計」は,本件発明1の「液体試料と固体試料のぬれ性について評価をするぬれ性評価装置」に相当する。

(a-2)甲1発明における「パソコン」は,アンプを通じてカメラ部及び液晶モニタと接続されており,本件発明1の「パソコン本体」に相当する。

(a-3)甲1発明において,「ディスペンサ」は,先端に針が付いており,シリンダに充填してある液体試料をピストンで押す注射筒で構成されているから,本件発明1の「前記液体試料が充填され,当該液体試料を吐出用針によって吐出する機能を有した吐出ユニット」に相当している。

(a-4)甲1発明において,試料台を動かす左右移動ツマミ,上下移動ハンドルがあり,着液の際に上下移動ハンドルを回して試料台を上昇させることから,甲1発明の「試料台」は本件発明1の「前記液体試料の前記固体試料への着滴位置を調整する機能を有する試料台」に相当する。

(a-5)甲1発明において,測定部の側方に光源部があり,その光源部の反対側の測定部の側方にカメラ部があり,ディスペンサから押し出された着液前の液滴は液晶モニタ画面に表示されるている。また,それらの光源及びカメラ部によって得られた画像をもとに接触角を測定するものであるから,その光源は着液後の液体試料と固体試料を側面から照らすもので,そのカメラ部は着液後の液体試料と固体試料を側面から撮影するものである。そして,カメラ部はアンプを通してパソコンと接続されているから,撮影したデータをパソコンに送っていることになる。
してみれば,甲1発明における「測定部の側方に光源部」及び「測定部の側方にカメラ部」は,本件発明1の「前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を側面から照らす側面測定用光源」及び「前記側面測定用光源の対面に、前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を側面から撮影したデータを前記パソコン本体に送る側面測定用カメラ」に相当している。

(a-6)甲1発明の「ディスペンサから押し出された着液前の液滴は液晶モニタ画面に表示されるとともに,その着液前の液滴の体積が測定され」は,本件発明1の「前記液体試料が前記固体試料に着液する直前における前記吐出用針の先端に作成された当該液体試料を前記側面測定用カメラによって撮影した前記側方映像データによって液量を演算する機能」に相当している。

(a-7)甲1発明の「液滴を着液させて、自動で接触角を測定し,Contact angle欄にその接触角を表示するとともに,画像表示欄に測定した画像と測定点を表示する」において,接触角を表示する際に某かの演算をしているといえるから,本件発明1の「前記液体試料が前記固体試料に着液した後に、前記側面測定用カメラにより撮影して得られた前記側方映像データから、当該液体試料と当該固体試料との接触角を演算する演算手段」に相当する。

そうすると,本件発明1と甲1発明とは,
(一致点)
「液体試料と固体試料のぬれ性について評価をするぬれ性評価装置であって,
前記液体試料が充填され,当該液体試料を吐出用針によって吐出する機能を有した吐出ユニットと,
前記液体試料の前記固体試料への着滴位置を調整する機能を有する試料台と,
前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を側面から照らす側面測定用光源と,
前記側面測定用光源の対面に,前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を側面から撮影したデータを前記パソコン本体に送る側面測定用カメラと,
前記液体試料が前記固体試料に着液する直前における前記吐出用針の先端に作成された当該液体試料を前記側面測定用カメラによって撮影した前記側方映像データによって液量を演算する機能と,を有する前記パソコン本体と,
前記液体試料が前記固体試料に着液した後に,前記側面測定用カメラにより撮影して得られた前記側方映像データから,当該液体試料と当該固体試料との接触角を演算する演算手段と,を有する前記パソコン本体と,
からなるぬれ性の評価装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
液体試料を吐出する吐出用針が,本件発明1では「曲げ」針であるが,甲1発明においては「曲げ」状態になっていない点。

(相違点2)
本件発明1の「前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を上面から照らす上面測定用光源」及び「前記固体試料に着液する前後の前記液体試料と当該固体試料を上面から撮影した上方映像データをパソコン本体に送る上面測定用カメラ」が,甲1発明には備えられていない点。

(相違点3)
本件発明1では,液体試料が固体試料に着液した後に「前記上面測定用カメラと前記側面測定用カメラにより同時に撮影して得られた前記上方映像データと前記側方映像データから、当該液体試料と当該固体試料との接触角とぬれ面積と真円度を演算する演算手段」を有しているが,甲1発明においては,「前記側面測定用カメラにより撮影して得られた前記側方映像データから,当該液体試料と当該固体試料との接触角を演算する」のみで,側面測定用カメラと同時に撮影する「上面測定用カメラ」がなく,それにより撮影して得られた「前記上方映像データ」もなく,さらに「ぬれ面積と真円度を演算する演算手段」もない点。

(相違点4)
本件発明1の「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能」が,甲1発明には備えられていない点。

b 判断

(b-1)相違点4についての検討

(甲8について)
甲8は,摘記事項(甲8-ア)?(甲8-ウ)に記載されているように,蝋質の葉の向軸側の面と背軸側の面における異なる3箇所(葉脈間,側脈,中央脈)での非イオン性の界面活性剤がある場合とない場合の蒸発時間,液滴の拡散過程及び液滴の接触範囲について実験したもので,葉における液滴の拡散過程を調べる際に,液滴の体積に対するそのぬれ面積の比を用いてその拡散力を評価しており,結論として,葉において小さいな液滴が大きな液滴より比較的広く拡散し長く留まっているから,葉の細胞に活性成分をより効率的にしみ込ませることになるという結論が示されているといえる。
一方,本件特許明細書には,発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段として,
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の横方向からの接触角測定では同一固体試料における同一液体試料を何回も繰り返して測定した際に接触角の値がばらつくために繰り返し精度が悪い場合があった。ばらつきの原因はぬれ方つまりぬれた形状にあるが、横からの画像だけではぬれ方つまりぬれた形状は不明であるため、角度のばらつき原因を判断できず、接触角測定の限界となっていた。
【0006】
また、横から見た液滴のシルエットで正常に接触角を測定できていた場合には、上からの液滴観察をしていないために、固体試料に対して均一、つまりほぼ同心円状にぬれ広がっていると見なすか、目視で確認するしかなかった。
【0007】
上からのぬれを目視で観察しても、それを数値化する手段がなかった。
【0008】
固体試料に座ぐりのような凹面がある場合や大型試料を測定する場合に、従来の接触角測定では、横からの映像がとれないため測定できないか、上からの映像を元にした接触角の計算では別途定量吐出が可能な吐出装置が必要であった。
【0009】
また上方向からの接触角測定では、計測した直径が球の一部をなしているという前提条件の元に成り立っているために、いびつなぬれに対しては対応できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような従来の問題を解決しようとするもので、横に加えて上から同時に観察し解析することで二面的に試料のぬれ現象を把握し、さらに接触角の妥当性を真円度を元に判定し異常値を除外することで繰り返し精度を上げ、また着液量とぬれ面積の相関性を元に横からの観察が不可能な試料及び、ぬれ形状がいびつな試料での評価も可能とすることを目的とするものである。」(下線は当審において付与した)と記載されている。
そして,上記本件特許明細書の記載を参照するに,同一固体試料における同一液体試料において,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料については,接触角を測定する手段では精度が悪いということから,本件発明1では上記相違点4である「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能を有する」ことを発明特定事項としている。
請求人は,第1回口頭審理において,甲1の第33頁左上の画面表示例には,複数の接触角を測定し,その平均を計算することが記載されており,本件発明の「発明が解決しようとする課題」が示されていることを主張する(第1回口頭審理調書の請求人欄2参照)。確かに,甲1の第33頁左上の画面表示例に,複数の接触角を測定し,その平均を計算するようなことは記載されていることから,接触角の測定にはある程度のばらつきがあるという技術課題は一応示されているといえる。しかし,本件発明の「発明が解決しようとする課題」は,上記本件特許明細書に記載されているとおり「横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料」に対するもので,そもそも接触角の測定では対応できない場合をその解決しようとする課題としていることから,甲1の第33頁左上の画面表示例に,本件発明の「発明が解決しようとする課題」が示されているとはいえない。

これに対し,甲8では,葉の異なる箇所における液滴の粒径の違いによって,蒸発時間,液滴の拡散過程及び液滴の接触範囲はどのように変化するのかを研究したものであり,葉における液滴の拡散力の評価として「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」を用いているものの,それは「液滴の蒸発時間」及び「液滴の接触範囲」の関連で用いており,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料について,高い精度でぬれ状態を把握するために「ぬれの状態の指標」として用いられたものではない。したがって,甲8に記載の技術的事項を参酌しても,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料の場合には,接触角ではなく「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」でもってぬれ性を評価すればよいということにはならない。
一方,甲1発明は,摘記事項(甲1-エ)に「接触角は、下の図のように力学的な平衡状態にあって、固体と液体のぬれ性をあらわす大変重要な物性で、ぬれ現象の尺度とされています。」と記載されているように,固体と液体の接触角を専ら測定する装置である。「接触角の測定」の精度を向上させようとすることはあろうが,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料については「接触角」ではなく「液量とぬれ面積との比率」を導入しようとすることはなく,甲8には「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」について記載されているものの,それは,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料の場合に,接触角ではなく「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」でもってぬれ性を評価することを示したものではないことから,両者は技術的意義が異なり,これを参酌しても,甲1発明に「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能」を付加する動機付けはない。
なお,甲8を参照するに,同一固体試料,同一液体試料によっても「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」の値は液滴の粒径によって異なってくることが示されているから,同一固体試料,同一液体試料おいて,あえて異なる値を示す指標を導入することは,甲1発明の目的を考慮すれば,阻害要因にもなり得ることである。

(甲9について)
甲9は,摘記事項(甲9-ア)?(甲9-エ)に記載されているように,液滴が蝋質の葉の表面に到達した後,液滴の接触角,ぬれ面積,蒸発時間及び残液のパターンにおける5つの代表的な補助剤の効果について実験したものであり,5つの異なる植物の葉の上で4種類の補助剤を含む含まない500μmの液滴に対するぬれ面積を,液滴の体積に対するぬれ面積の比を用いて評価することが示されており,この500μmという液滴の大きさは接触角の測定においてその変形を無視できるもので,球形として扱えることが記載されている。すなわち,変形を無視でき球形として扱える液滴のものとで「液滴の体積に対するぬれ面積の比」で評価することを示していることに留まる。
一方,甲1発明は,上記のとおり固体と液体の接触角を専ら測定する装置であり,「接触角の測定」の精度を向上させようとすることはあろうが,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料については「接触角」ではなく「液量とぬれ面積との比率」を導入しようとすることはない。甲9には「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」について記載されているものの,それは液滴の形が球形であることを前提としたものであり,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料の場合に,接触角ではなく「液滴の体積に対するそのぬれ面積の比」でもってぬれ性を評価することを示したものではないことから,両者は技術的意義が異なり,これを参酌しても,甲1発明に「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能」を付加する動機付けはない。

(甲10について)
甲10の図2の正面からみた液滴の形とは,固体に拡がった液滴の形を上方から見た形に相当するものであり,それが円形であることが示されている。図8で縦軸を「濡れ拡がり」,横軸を「体積」としたグラフが記載されているものの,それは摘記事項(甲10-ウ)から「測定装置により液滴の形状から濡れ拡がりと体積が測定」したものであり,液滴の形状は摘記事項(甲10-イ)及び図2から,正面からみて円形のもので全体としてほぼの球形のものであるから,いびつな形状のものではない。してみれば,摘記事項(甲10-ウ)には,溶融金属の液滴の「濡れ拡がり」と「体積」から,溶融金属の表面張力と濡れ張力を計算することが記載されているものの,それは液滴が正面からみて円形のもので全体としてほぼの球形のものであると想定され,いびつな形状の液滴について「濡れ拡がり」と「体積」から表面張力と濡れ張力を計算することが有効であることは示されていない。
したがって,固体と液体の接触角を専ら測定する装置である甲1発明において,ぬれ形状がいびつで固体試料と液体試料の接触角を精度よく測定できない場合に,甲10記載の技術的事項を参酌しても,「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能」を付加することにはならない。

(甲11について)
甲11の図5には,縦軸を「A(濡れ面積)」、横軸を「V(体積)」としたグラフが記載されているものの,それは摘記事項(甲11-ア)に記載されているように,「1つまたは複数の、アスペリティを有する処理表面を有する基板」についてのもので「アスペリティを有する処理表面上の液体は、交差する毛細管チャネルの中に完全に引き込まれ、液体は、アスペリティ面上に前進接触角を確定し、前記アスペリティ間にメニスカスを形成する」という状況においてのものである。このような特殊な状況における,縦軸を「A(濡れ面積)」,横軸を「V(体積)」としたグラフが記載されているからといって,これから一般的に,固体試料と液体試料のぬれ性を「液量とぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標」とすればよいことは導出されるものではなく,固体と液体の接触角を専ら測定する装置である甲1発明に「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能」を付加することにはならない。

したがって,甲8?11記載の技術的事項を参照しても,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料について高い精度でぬれ状態を把握するために「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能」を甲1発明に付加する動機付けはなく,また,固体と液体の接触角を専ら測定する装置である甲1発明にそのような機能を持たせる必然性もない。
その他の甲2?7及び12?16には「液量とぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標」に関連する記載はないことから,これらを参照しても「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する」が導出されないことは明らかである。

よって,相違点4は当業者が容易になし得たこととはいえない。

(b-2)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1は,その余の相違点を検討するまでもなく,上記相違点4において,甲1発明及び甲2?16記載の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(ア-3)本件発明2?5について
本件発明2?5はいずれも本件発明1に従属する発明であるから,本件発明1が上記のとおり当業者が容易に発明することができたものではない以上,本件発明2?5についても甲1発明及び甲2?16記載の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(ア-4)請求人の無効理由アについての主張
請求人は,無効理由アについて,平成25年8月9日付けの口頭審理陳述要領書において,動機付けに関する意見として,次の2点を主張をしている。
「一つの装置において複数の項目を評価可能な構成とすることは一般に広く行われていることを考慮すれば、甲1発明の接触角を測定する装置においては、さらに『接触角とともに評価することが想定される項目』を評価する機能を付加しようとすることは当業者が通常行う創作活動の範囲に過ぎず、・・・・・甲8及び甲9には、『接触角』とともに『液滴に対するそのぬれ面積の比』を評価することが記載されていることから、甲1発明に『前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する機能』を付加する動機づけとなる。」
「仮に,無効理由ウの審理において、『前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する』という点が本件出願時に技術常識であるという結論に至った場合には、そのことが、甲1発明に『前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する』を付加する動機付けとなる。」
前者については,上記「(ア-2)本件発明1について」「b 判断 (b-1)相違点4についての検討」の(甲8について)及び(甲9について)で記載したように,甲8は,葉の異なる箇所における液滴の粒径の違いによって,蒸発時間,液滴の拡散過程及び液滴の接触範囲はどのような変化するのかを示したもので,甲9は,液滴が蝋質の葉の表面に到達した後,液滴の接触角,ぬれ面積,蒸発時間及び残液のパターンにおける5つの代表的な補助剤の効果について示したものであり,これらに「液滴に対するそのぬれ面積の比」をとることが記載されているからといって,とりわけ葉における液滴に対するものを前提としたものではない,一般的な接触角を測定するものである甲1発明の接触角を測定する装置に,「液滴に対するそのぬれ面積の比」の機能を付加する動機付けにはならない。また,専ら接触角を測定する甲1発明の装置においては,その接触角の精度を上げようとすることはあろうが,接触角でない項目を評価する装置にあえて設計変更する動機付けもない。
後者については,無効理由ウでは「前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する」ことが,特許法36条4項第1号に規定する要件を満たしているかどうかを判断するものであり,当該技術的事項が技術常識であるかどうかを判断するものではない。なお,仮に,当該技術的事項が本件出願時に技術常識であったとしても,技術常識であることが,即座にその技術的事項を付加する動機付けにはならず,その付加する技術的事項が技術常識であることと,付加する動機付けとは別の議論である。
したがって,上記請求人の主張は受けいれられない。

また,請求人は,無効理由アについて,同口頭審理陳述要領書において,阻害要因に関する意見として,「『前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する』という点が本件出願時に技術常識であるという結論に至った場合には、甲8に『液滴の体積に対するそのぬれ面積の比』の値が液滴の粒径によって異なってくる結果が示されているとしても、・・・・・甲8に示されている結果は阻害要因にはならない。」と主張しているが,上記のとおり,無効理由ウでは当該技術的事項が技術常識であるかどうかを判断するものではなく,さらに,技術常識であれば,その技術常識である技術的事項を付加することは常に阻害要因とはならないといえるものではない。したがって,この請求人の主張も受けいれられない。


(2)無効理由イについて

請求人は,「すなわち、本件特許発明において、『液量とぬれ面積との比率』は、同じぬれ状態であっても異なった値を示して『ぬれ状態の指標』とはならない場合があり、そもそも、『液量とぬれ面積との比率』が『ぬれ状態の指標』となり得るのか否かでさえ不明であるから、本件特許発明は、請求項に記載されている手段のみをもってしては目的を達することができない未完成発明に該当する。
したがって、本件特許発明は、産業上利用することができる発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。」と主張している。
ところで,平成3年(行ケ)第310号判決では,次のように判示している。
「しかし、発明は、その技術内容が当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的、客観的なものとして構成されていなければならず、技術内容がその程度にまで構成されていないものは発明として未完成というべきである(最高裁第一小法廷昭和52年10月13日判決・民集31巻6号805頁参照)が、逆に発明が、その程度にまで構成されていれば、明細書の記載が不備であるかどうかにかかわらず、未完成ということはできない。したがって、作用を正確に記述できていない場合においても、そのことだけを理由として産業上利用できる発明であることを否定して未完成発明であるとすることは、不当であるといわなければならない。」(下線は当審にて付与した。)

そこで検討するに,本件発明1の「前記液量と前記ぬれ面積との比率」における「前記液量」と「前記ぬれ面積」について,本件特許明細書では,
「【0049】
図7に示す針先の液滴58のように、ぬれ性を評価したい液体試料を任意の量、吐出用曲げ針26の先端に作成する。このとき、針先の液滴58の輪郭座標を元に、ここでの演算において、前記画素の校正値を用いて画素を換算し、体積を演算する。前記体積を、吐出量と称する。前記吐出量の演算は、縦方向1画素とし、幅を輪郭座標から求めた円柱体積の積算で求める方法や、輪郭座標を元に求めた近似曲線の積分から求める方法がある。これを固体試料24に着液させ、接触角を測定することになるが、その際に、図5の残液59のように、吐出用曲げ針26の先端に、着液せずに残る液量がある。前記体積の演算と同様に残液59の体積を求め、前記液量から残液59の体積を引き算することで、着液量を求める。前記着液量が、図4および図5における液体試料25の体積である。」
「【0054】
図10に示すように、実際のぬれ現象においては、同心円状にぬれないこともあるため、前記のように一連の測定手順の中で着液量を求め、また、図10のように上から見たぬれ現象から、輪郭座標を抽出して面積を算出し、着液量と前記ぬれ面積の相関関係から、ぬれの状態の指標とする。」(下線は当審にて付与した。)
と記載されていることから,「液量」と「ぬれ面積」については求められ,これらの「比率」をとった値が,上記甲8?11の記載からも,ぬれ性とは無関係とはいえないことから,請求人の「『液量とぬれ面積との比率』は、同じぬれ状態であっても異なった値を示して『ぬれ状態の指標』とはならない場合があり」との主張をもってして,この値を「ぬれの状態の指標」とすることが,「(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的、客観的なものとして構成されていない」とまではいえない。
なお,参考までに,現行の日本特許庁の「特許・実用新案 審査基準」においては,「未完成発明」との記載はなく,特許法第29条第1項柱書における「発明」に該当しないものの類型として,「発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの。」を1つの類型として記載しており(2005年4月改訂),本件発明1の「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する」ことが「課題を解決することが明らかに不可能」ともいえない。
よって,本件発明1?5が未完成発明に該当することはなく,産業上利用することができる発明といえるから,本件発明1?5が特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないとはいえない。


(3)無効理由ウについて

請求人は,「本件特許発明でいう『液量とぬれ面積との比率』を『ぬれ状態の指標』とする測定条件や計算手法について何ら記載されておらず、本件の特許出願時において、この分野における当業者の技術常識から明らかであるともいえない。
したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と主張している。
特許法36条第4項第1号に規定する要件,すなわち,いわゆる「実施可能要件」については,平成17年(行ケ)第10579号判決では,次のように判示している。
「この規定は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づき,請求項に係る発明を容易に実施することができる程度に,発明の詳細な説明を記載しなければならない旨の規定であって,明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できないとき(例えば,どのように実施するかを発見するために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤等を行う必要があるとき)には,この規定の要件が満たされていないことになる。」(下線は当審にて付与した。)
そこで,検討するに,「(b-1)相違点4についての検討」において摘記した本件特許明細書の【0005】?【0010】の記載から,本件発明1では,横からの観察が不可能な試料及びぬれ形状がいびつな試料で同一固体試料における同一液体試料のぬれ性が接触角では精度よく評価できない場合に,「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する」ということになる。ここで,「前記液量と前記ぬれ面積」については,上記「(2)無効理由イについて」において指摘したように,本件特許明細書の【0049】及び【0054】の記載から求められるものである。そして,「前記液量と前記ぬれ面積との比率」であるから,「前記ぬれ面積」/「前記液量」のように「比率」を求めるものであり,その値を求めるに当たって,当業者が技術常識からは期待し得ないような特殊な計算を行うことなく,その求めた「比率」の数値自体を「ぬれの状態の指標」として表示することであるから,これが「どのように実施するかを発見するために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤等を行う必要がある」ことに該当せず,「どのように実施するかが理解できない」こととはいえない。
この点,被請求人が,平成25年8月8日付けの口頭審理陳述要領書にて,「前記液量と前記ぬれ面積との比率」について,「前記ぬれ面積」/「前記液量」の値を求めており,その数値自体を「ぬれの状態の指標」とするデータを提示していることからも,「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する」については,「前記ぬれ面積」/「前記液量」の値を得て,その値について特殊な計算を行うことなく,その数値自体を「ぬれの状態の指標」として表示することは明らかである。
してみれば,本件特許明細書に,「前記液量と前記ぬれ面積との比率」の値を計算し,それを「ぬれの状態の指標」として表示した例が記載されていないからといって,それを当業者が実施できないとはいえない。

また,本件特許明細書には試験結果のデータが記載されておらず,上記口頭審理陳述要領書においてそのデータが提示されてきたが,このような場合については,平成14年(行ケ)第180号判決において,次のように判示している。
「一般的には,発明の効果の存在を確証するに足る試験データが記載されていなければ当業者にとって当該発明の実施が困難である場合を別にして,発明の効果の存在を確証するに足る試験データが記載されていないからといって直ちに特許法36条3項に規定する要件を欠くということはできないと解すべきである。」
「加えて,前示のとおり,具体的データがなくとも,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条3項に規定する要件を満たすものと認められるものであり,それは甲7記載の試験結果を根拠とするものではない。甲7記載の試験結果は,本件訂正明細書の記載により予測される結果を確認するための資料として提出されたものであって,その試験結果が本件特許の出願後のものであることは問題にならない・・・・・。」(下線は当審にて付与した。)ここで,「特許法36条3項」は旧特許法で,現行の特許法36条第4項第1号で規定する要件に該当するものである。

上記のとおり,「前記ぬれ面積」/「前記液量」の値を得て,その値について特殊な計算を行うことなく,その数値自体を「ぬれの状態の指標」として表示することが,「発明の効果の存在を確証するに足る試験データが記載されていなければ当業者にとって当該発明の実施が困難である場合」に該当するとはいえず,上記口頭審理陳述要領書の試験結果によって本件特許明細書の記載により予測される結果を確認できるものであるから,本件特許明細書に「前記液量と前記ぬれ面積との比率」の値を計算し,それを「ぬれの状態の指標」として表示した例,具体的なデータが記載されていないことをもってして,特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

よって,本件特許明細書が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないとはいえず,特許法36条4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

請求人は,無効理由ウについて,平成25年8月9日付けの口頭審理陳述要領書において,「本件の発明の詳細な説明には、液体試料を定量吐出することなく『液量とぬれ面積との比率』を『ぬれ拡がりを規格化できる指標』とするための計算方法及び実際の計算例は全く記載されていない。」,「仮に、そのような実験条件や実験データが示され,それが正しいものであるとしても、それが本件の出願時において技術常識でない限り,当業者は本件発明1?5を実施することができないことに変わりはない。」と主張しているが,前者ついては,「前記液量と前記ぬれ面積との比率を求め、ぬれの状態の指標として表示する」ということは,「前記ぬれ面積」/「前記液量」の値を得て,その数値自体を「ぬれの状態の指標」として表示するものであり,当業者が技術常識からは期待し得ないような特殊な計算を行うものではないことから,計算方法及び実際の計算例が本件特許明細書に記載されていないからといって,特許法36条4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
後者については,特許法36条4項第1号に規定する要件は,出願当時の技術常識に基づいて実施できるかどうかが判断されるものであり,実験して得られるデータ自体が技術常識であることをもとめているものではない。したがって,後者の主張をもってして,特許法36条4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。


(4)無効理由エについて

請求人は,「本件の特許請求の範囲には、『液量とぬれ面積との比率』を『ぬれ状態の指標』とする測定条件や計算手法について何ら記載されていないことから、『液量とぬれ面積との比率』を求めて『ぬれ状態の指標』として表示する技術的意味を理解することができず、発明を特定するための事項が不足していることが明らかである。
したがって、本件特許発明は明確であるとはいえず、本件の特許請求の範囲の請求項の記載は、特許法36条6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と主張している。 しかし,「液量」,「ぬれ面積」は,「(2)無効理由イについて」において摘記した本件特許明細書の【0049】及び【0054】の記載から求められ,それらの「比率」が明確な数値として計算され,その数値を「ぬれ状態の指標」として用いるという意味であり,技術的意味を理解することができないほど不明確であるとはいえない。また,実際の測定条件や計算手法を請求項の発明特定事項として記載しなければならないものではなく,それらが請求項に記載されていないからといって発明を特定するための事項が不足しているともいえない。
よって,本件発明1?5が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。


4 まとめ
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠によっては,本件発明1?5に係る特許は,無効とすることができない。また,本件発明1?5に係る特許を無効とすべき他の理由を発見しない。


第4 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由及び証拠によっては,本件発明1?5に付与された本件各特許を無効とすべきものであるとすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-27 
結審通知日 2013-08-29 
審決日 2013-09-17 
出願番号 特願2009-215855(P2009-215855)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G01N)
P 1 113・ 14- Y (G01N)
P 1 113・ 536- Y (G01N)
P 1 113・ 537- Y (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼見 重雄  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 藤田 年彦
三崎 仁
登録日 2010-12-17 
登録番号 特許第4646009号(P4646009)
発明の名称 ぬれ性の評価装置  
代理人 赤塚 正樹  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  
代理人 小橋 立昌  

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