• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1281219
審判番号 不服2012-1256  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-23 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2005- 59247「データリンクを用いた滅菌器カセット・ハンドリング・システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-296632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年3月3日(優先権主張 2004年3月4日 米国)の出願であって、平成17年5月2日付けで翻訳文提出書が提出され、平成23年1月12日付けで拒絶理由が起案され(発送日 平成23年1月18日)、平成23年4月18日付けで意見書並びに特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年10月4日付けで拒絶査定が起案され(発送日 平成23年10月11日)、これに対し、平成24年1月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、平成24年5月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(以下、「前置報告書」という。)を引用した審尋が起案され(発送日 平成24年5月29日)、これに対して平成24年9月20日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年1月23日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年1月23日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の目的
本件補正は、平成23年4月18日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4、請求項14?27を、平成24年1月23日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3、請求項13?25にそれぞれ補正することを含むものであり、具体的には以下のようである。
<本件補正前>
「【請求項1】
滅菌器内の滅菌剤カセットをトラッキングする方法であって、
RFIDタグを含むカセットと前記滅菌器の受信機との間にRF信号を送信して、前記滅菌器のカセット処理領域内における前記カセットの存在を読み取るステップと、
前記RF信号によって、前記カセットと前記受信機との間に識別情報を送信するステップと、
前記識別情報に基づいて前記滅菌器に適切なカセットが装着されているかを確認するステップと、
前記RFIDタグにストアされたデータの一部を変更するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記受信機が1または複数のアンテナを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記受信機が、前記カセットの位置を特定するために前記アンテナを所定の順序で使用することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記カセットの前記RFIDタグにストアされた前記データが、前記カセットの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
内部に液体滅菌剤を有する1または複数のセルを含むカセットであって、
電磁的に読み取り可能なRFIDタグを含み、
前記RFIDタグが、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含み、前記RFIDタグが更新可能なメモリを含むことを特徴とするカセット。
【請求項15】
前記データが前記1または複数のセルの充填状態を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項16】
前記データが前記液体滅菌剤の有効期限を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項17】
前記データが前記カセットの製造日を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項18】
前記データが前記カセットの製造番号を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項19】
前記データが前記カセットのロット番号を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項20】
前記カセットが複数のセルを含み、前記データが前記各セルの充填状態を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項21】
前記更新可能なメモリが、前記カセット内の前記1または複数のセルの充填状態を示すデータを含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項22】
前記充填状態が、一部しか充填されていない前記セルについてのデータを含むことができることを特徴とする請求項21に記載のカセット。
【請求項23】
前記RFIDタグが温度検出装置を含み、前記データが、前記カセットの出荷に関する温度情報及びその保管温度情報を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項24】
前記更新可能なデータが、1または複数のサイクルパラメータを含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項25】
前記更新可能なデータが、サイクル中に到達する滅菌剤の濃度を含むことを特徴とする請求項24に記載のカセット。
【請求項26】
前記更新可能なデータが滅菌器内での前記カセットの滞留時間を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項27】
前記データが、前記カセットが滅菌器内に滞留できる最大時間を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。」

<本件補正後>
「【請求項1】
滅菌器内の滅菌剤カセットをトラッキングする方法であって、
RFIDタグを含むカセットと前記滅菌器の受信機との間にRF信号を送信して、前記滅菌器のカセット処理領域内における前記カセットの存在を読み取るステップと、
前記RF信号によって、前記カセットと前記受信機との間に識別情報を送信するステップと、
前記識別情報に基づいて前記滅菌器に適切なカセットが装着されているかを確認するステップと、
前記RFIDタグにストアされたデータの一部を変更するステップと、を含み、 前記カセットの前記RFIDタグにストアされた前記データが、前記カセットの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記受信機が1または複数のアンテナを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記受信機が、前記カセットの位置を特定するために前記アンテナを所定の順序で使用することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項13】
内部に液体滅菌剤を有する1または複数のセルを含むカセットであって、
電磁的に読み取り可能なRFIDタグを含み、
前記RFIDタグが、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含み、前記RFIDタグが更新可能なメモリを含み、 前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定されることを特徴とするカセット。
【請求項14】
前記データが前記液体滅菌剤の有効期限を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項15】
前記データが前記カセットの製造日を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項16】
前記データが前記カセットの製造番号を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項17】
前記データが前記カセットのロット番号を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項18】
前記カセットが複数のセルを含み、前記データが前記各セルの充填状態を含むことを特徴とする請求項14に記載のカセット。
【請求項19】
前記更新可能なメモリが、前記カセット内の前記1または複数のセルの充填状態を示すデータを含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項20】
前記充填状態が、一部しか充填されていない前記セルについてのデータを含むことができることを特徴とする請求項19に記載のカセット。
【請求項21】
前記RFIDタグが温度検出装置を含み、前記データが、前記カセットの出荷に関する温度情報及びその保管温度情報を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項22】
前記更新可能なデータが、1または複数のサイクルパラメータを含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項23】
前記更新可能なデータが、サイクル中に到達する滅菌剤の濃度を含むことを特徴とする請求項22に記載のカセット。
【請求項24】
前記更新可能なデータが滅菌器内での前記カセットの滞留時間を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。
【請求項25】
前記データが、前記カセットが滅菌器内に滞留できる最大時間を含むことを特徴とする請求項13に記載のカセット。」
(下線は請求人が付与したもので補正箇所を示している。)

ここで、本件補正前の請求項1?4を本件補正後の請求項1?3とする補正事項を「補正事項A」、本件補正前の請求項14?27を本件補正後の請求項13?25とする補正事項を「補正事項B」とする。

<1>補正事項Aについて
補正事項Aは、本件補正前の請求項4の特定事項にさらに「滅菌剤の残量が特定される」ことを付加したものを本件補正後の請求項1に繰り上げ、本件補正前の請求項1を削除するものと解することができ、その限りにおいて請求項の削除ないし限定的減縮を目的とするものとみることができる。
しかしながら、本件補正後の請求項2,3は本件補正後の請求項1を最終的に引用しており、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項4の特定事項を含むものであるのに対して、本件補正前の請求項2,3は本件補正前の請求項1を引用しており、本件補正前の請求項1は本件補正前の請求項4の特定事項を含まないことから、本件補正後の請求項2,3に係る発明は本件補正前の請求項2,3に係る発明から実質的に変更されているということができ、これは、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれともいえず、いわゆる目的外補正といえるから、当該補正は認められない。
<2>補正事項Bについて
補正事項Bは、「カセット」という「物」の発明に関する本件補正前の請求項14の特定事項にさらに「前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定される」(以下、「特定事項ア」という。)ことを付加して本件補正後の請求項13とするものである。
しかし、「カセット」という「物」の発明に関して、補正前の請求項14を引用する補正前の請求項15?27には、上記特定事項アを特定事項とする発明が無いことから、補正事項Bは、補正前の請求項14に係る発明を、補正前の請求項15?27のいずれかに記載の発明にまで減縮することを目的とするものと解することはできない。
また、本件補正後の請求項13に記載される発明は、上記特定事項アにより、本件補正前の請求項14に記載される発明に加えて、「識別データ」として「滅菌剤の充填状態」のデータを含むようにし、当該データの更新の時期を「カセットから滅菌剤が取り出される」ときとするもので、本件補正前の請求項14に記載される発明の「識別データ」に「滅菌剤の充填状態」のデータを含ませることは、既に特定されていた事項を、当該事項の内容の範囲で更に詳細に特定するものであるが、「識別データ」の更新の時期については本件補正前の請求項14に記載される発明には特定されておらず、これは既に特定されていた事項を、当該事項の内容の範囲で更に詳細に特定するものではなく、新しい事項を付加するものであるから、この点からも補正事項Bは請求項の記載を限定的に減縮することを目的とするものには当たらない。
そのため、補正事項Bは特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれともいえず、いわゆる目的外補正といえるから、当該補正は認められず、却下すべきものである。
また、予備的に、本件補正がいわゆる特許請求の範囲の限定的減縮にあたる場合に、以下に記す補正発明が独立して特許を受けることができるかについて、次の「2.」で検討する。

2.独立特許要件
2-1.補正発明について
補正後の請求項13に係る発明は、平成24年1月23日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項13に記載される事項によって特定される次のとおりのものである(以下、「補正発明」という。)。

「【請求項13】
内部に液体滅菌剤を有する1または複数のセルを含むカセットであって、
電磁的に読み取り可能なRFIDタグを含み、
前記RFIDタグが、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含み、前記RFIDタグが更新可能なメモリを含み、
前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定されることを特徴とするカセット。」

2-2.刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され本願優先権主張日前に頒布された特開昭64-76859号公報(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「【発明の詳細な説明】本発明は制御された量の液体を注入または分配するためのシステムに関するもので、このシステムは非常に少量の流体を、医療用器具のような物品に関する滅菌チャンバ内に自動的に注入するのに特に有用である。」(2頁右上欄16?20行)
(刊1-イ)「ここに記載されている流体注入システムのためのポンピング装置は、既知の量の流体を収容しているパッケージングされた閉じたセルの形態の流体供給手段を提供する。」(3頁左上欄7?10行)
(刊1-ウ)「好ましくは、セルは、硬いカセットの対をなす部分間で結合されているフレキシブルシートに形成された一連のセルの一つである。」(3頁左上欄18?20行)
(刊1-エ)「好ましくは、セル開封手段は、カセットの穴を通ってセルに進入して出口を形成する筒針を含む。セルの外に流体を押出すのに有利な手段として、カセットの孔を通して空気圧が供給され、これによってセルに隣接する区画内に形成された圧力がセルの外に流体を押出す。」(3頁右上欄3行?8行)
(刊1-オ)「第1図を参照すると、一端にドア12を備える円筒形チャンバ10が概略的に示されている。チャンバは導管14によって適当な真空源に接続されている。このチャンバは、上に参照した特許中で概略を述べた方法に従って、滅菌すべき物品、たとえば外科手術用器具を収容するようになっており、ここに液体、たとえば過酸化水素をチャンバ内に導入する。本発明にしたがえば、この種の液体を送り出すために、チャンバ10に隣接して配置された液体注入システム16が設けられている。このシステムは、注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18、カセット収容、位置決めおよびクランプ機構20、ならびにチャンバ上に装架され、相互連結された液体注入バルブアセンブリー22を含んでいる。液体インジェクターシステム16はポンプと考えることもでき、ここにおいてカセット18はカセット収容機構20内に挿入され、そしてカセット内に収容された投与量のメディアが、自動化された滅菌サイクル中にチャンバ内に自動的に注入される。」(3頁右下欄7行?4頁左上欄6行)
(刊1-カ)「カセット
カセット18は平らな長方形の硬質構造体の形状を有しており、好ましくはプラスチックまたはその他の適切な材料から作られる。例示されたカセットの形状は上部ハウジング部分またはセクション24を含み、これは下部セクション26と対をなし、セルストリップアセンブリー28またはセルバックを保持もしくは収容する。これらのセクションはファスナーまたは他の適切な手段により互いに保持される。パックアセンブリーは長方形であり、第7図から理解されるように、パックが外部セクションの境界内に適合するように、セクション24および26の寸法よりも僅かに小さい寸法を有している。
セルバックは、2列の離間したセルの形態で整列された複数個の液体セル30を包含しており、1列は縦方向において隣接列のセルからオフセットしており、かつ隣接列のセル間に部分的に配置されている。この種のアレンジメントはコンパクトなスペースにおいて示されたこの例において10個のセルを提供する。アセンブリーの長手方向におけるセルの連続性を考慮すれば、これが第一セルを一列に、そして第二セルを他の列に配置する。」(4頁左上欄7行?右上欄10行)
(刊1-キ)「これらのセルは精確に知られた容量の液体31をもって充填される。」(4頁左下欄6?7行)
(刊1-ク)「セル内にシールされた液体は過酸化水素である」(4頁左下欄13?14行)
(刊1-ケ)「更に、セルストリップ部56の表面上に配置されているのは、カセットの入口端部に配置されたバーコード66である。セルバックを同定し、かつ日付を確認するこのバーコードはスロット54と整列されているので、バーコードをスロットを介して読み取ることができる。好ましいのは、この日付が液体をセルに充填した日あるいは液体の安全使用期間満了日であることである。」(6頁左上欄1-8行)
(刊1-コ)「カセット18は、分配すべき液体の測定された量を提供するための便利なパッケージを提供する。」(6頁右上欄2-3行)
(刊1-サ)「バーコードはカセット内の液体の性状を示すが、これは必要なことである。それは、異なった容量の異なった滅菌剤を収容するカセットを本発明の装置と共に使用する可能性があるからである。更に、バーコードは滅菌剤パック28が充填された日付を示す。もし悪い物質が使用されるか、日付がその物質に関する受容可能な保存期限を超えていれば、分配機構は上述のようにカセットをエジェクトし、そしてコントロール21は適切な警告を提供して、オペレータに対して新しいカセットを使用すべきことを指示することになる。」(9頁右上欄20行?左下10行欄)
(刊1-シ)「検知器98は、使用すべき第一のセルに関連する開口部52内のフォイル62が依然として損なわれていないが否かを検知する。もしフォイルが破損していれば、カセットは次のセルに進むことになる。フォイルは再び検査され、そしてこのプロセスは必要に応じ、無傷のセルが配置されるが、カセット全体が退けられるまで反復される。」(9頁右下欄3?10行)
(刊1-ス)「カセットおよび液体分配機構は適所にあって、カムを移動させるアクチュエータに加えられる適当な信号を受信することによりサイクルを反復する。カセット内の全てのセルはこの方法により順次使用することができる。セルが使用される際、作動を制御するマイクロプロセッサ-21はセルの数をカウントし、そして全てが使用されたとき、費消されたカセットは自動的にエジェクトされる。」(11頁右上欄16行?左下欄4行)
(刊1-セ)「本発明のシステムを例示する滅菌装置を概略的に示す斜視図」(13頁右下欄「4.図面の簡単な説明」)と題された第1図(14頁)は、以下のようであり、同図から、(刊1-オ)の記載事項を窺うことができる。

(刊1-ソ)「分配すべき液体を含有する第1図のカセットまたはカートリッジを示す頂部斜視図」、「第2図のカセットを示す底部斜視図」、「第2図および第3図のカセット内に収容される流体セルのパックを示す頂部斜視図」(13頁右下欄「4.図面の簡単な説明」)と題されたそれぞれ第2,3,4図(14頁)は、以下のようであり、同図から、(刊1-カ)(刊1-ケ)の記載事項を窺うことができ、第4図から「セルストリップ部56」は「セルストリップアセンブリー28」の一部であることがみてとれる。


(2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願優先権主張日前に頒布された特開2002-272822号公報(以下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。
(刊2-ア)「【発明の属する技術分野】本発明は消耗品の管理システム及び洗滌装置に関するものである。」(【0001】)
(刊2-イ)「内視鏡洗滌消毒装置で使用される消耗品としては、供給される水の中から雑菌を含む不純物をろ過する為の水フィルター、内視鏡管路内の残水を除去する為の空気から、雑菌を含む不純物をろ過する為のエアフィルター、消毒液のにおいを除去するガスフィルター、洗滌消毒工程に使用する洗剤、消毒液、アルコール等がある。」(【0003】)
(刊2-ウ)「図3(A)、(B)、(C)は、上記した水フィルター6部分の拡大図である。水フィルター6はフィルター本体6-2とそれを収納するためのフィルターケース6-1とからなる。フィルター本体6-2には防水機能・耐薬機能を持った識別手段としてトランスポンダ12(高周波自動認識システムRFID RadioFrequency Identification)が取付けられており、その内部にはシリアルナンバーと開封後の使用限度日数データが記録されている。トランスポンダ12は硬質ガラス器12-2からなり、アンテナ12-1やICパッケージ12-3が設けられている。
また、水フィルター6近傍にはトランスポンダ12内のデータを読み出すためのアンテナ13が設置され、送受信回路14を介して後述する制御部に接続されている。
エアーフィルター7、ガスフィルター8、消毒液収納部10についても同様の構成である。」(【0018】【0019】【0020】)
(刊2-エ)「制御部22は、トランスポンダ12から情報を読み取る読み取り手段と、読み取り結果に応じて消耗品の使用限界を判断する判断手段と、判断結果により洗滌消毒装置を制御する制御手段としての機能を備えている。」(【0024】)
(刊2-オ)「制御部22は一定周期ごとに水フィルター6、エアーフィルター7、ガスフィルター8、消毒液収納部10、洗剤収納部9、アルコール収納部11に設けられたトランスポンダ12からシリアルナンバーを読み出し、内部回路のメモリ部23に記録された消耗品シリアルナンバーと比較を行う。このときの比較結果が異なる場合には消耗品が交換されたと認識し、メモリ部23内の記録内容を更新する。また、両者が同じ場合には消耗品は継続して使用されていると認識し、以下の手順で寿命計算を行う。
図6は寿命計算の手順を説明するためのフローチャートである。まず、制御部22はRTC27より現在の年月日を取得する(ステップS1)。次にメモリ部23より消耗品の交換年月日を読み出し(ステップS2)、両者を比較して消耗品の使用日数を計算する(ステップS3)。次にメモリ部23より消耗品の使用限度日数を読み出し(ステップS4)、先に計算した使用日数と比較し、使用限度内か否かを判断する(ステップS5)。使用限度を超えていた場合、コントロールパネル4への警告表示、ブザー等によりユーザーへ警告を行い、交換を促す(ステップS6)。」(【0026】、【0027】)

2-3.刊行物1に記載された発明の認定
(1)刊行物1の記載事項(刊1-ア)(以下、単に「(刊1-ア)」のように記載する。)に記載されるように、刊行物1には、「医療用器具のような物品に関する滅菌チャンバ内」に「制御された量の液体を注入または分配するためのシステム」についての発明が記載されているといえる。
(2)より詳細には、(刊1-セ)の視認事項と(刊1-オ)の記載事項から、刊行物1には、「円筒形チャンバ10が・・・滅菌すべき物品、たとえば外科手術用器具を収容するようになっており、ここに液体、たとえば過酸化水素をチャンバ内に導入する。・・・チャンバ10に隣接して配置された液体注入システム16が設けられている。このシステムは、注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18、カセット収容、位置決めおよびクランプ機構20、ならびにチャンバ上に装架され、相互連結された液体注入バルブアセンブリー22を含んでいる。・・・カセット18はカセット収容機構20内に挿入され、そしてカセット内に収容された投与量のメディアが、自動化された滅菌サイクル中にチャンバ内に自動的に注入される。」ことが示されているものと理解できる。
ここで、上記「カセット内に収容された投与量のメディア」について、「メディア」の技術的意義が明らかでないところ、刊行物1の優先権主張の基礎出願(Appl.No.52620)である米国特許第4913196号明細書の上記「カセット内に収容された投与量のメディア」に該当する「doses of the media contained in the cassette」(3欄47行)との記載を参酌すれば、「media」は「medium」の複数形で「媒体」「媒質」等を意味することから、上記(刊1-オ)の記載の文脈も考慮すれば、上記「メディア」は「たとえば過酸化水素」を意味するものといえる。
すると、上記記載から刊行物1には、「滅菌すべき物品、たとえば外科手術用器具を収容」する「円筒形チャンバ10」に「たとえば過酸化水素」を注入する「液体注入システム16」であって、「液体注入システム16」は、「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」、「カセット収容、位置決めおよびクランプ機構20」及び「液体注入バルブアセンブリー22」を含み、「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」内に収容された「投与量」の「たとえば過酸化水素」が「円筒形チャンバ10」内に「自動的に注入」されることが示されているということができる。
(3)ここで「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」は、上記(2)でみたように「円筒形チャンバ10」内に「投与量」の「たとえば過酸化水素」を注入するために「たとえば過酸化水素」を収容しておくものであるところ、その構造に着目し、(刊1-ソ)の視認事項を併せて(刊1-カ)の記載をみると、(刊1-カ)には「カセット」について、「カセット18は平らな長方形の硬質構造体の形状を有しており、好ましくはプラスチックまたはその他の適切な材料から作られる。例示されたカセットの形状は上部ハウジング部分またはセクション24を含み、これは下部セクション26と対をなし、セルストリップアセンブリー28またはセルバックを保持もしくは収容する。これらのセクションはファスナーまたは他の適切な手段により互いに保持される。パックアセンブリーは長方形であり・・・セルバックは・・・複数個の液体セル30を包含しており・・・この例において10個のセルを提供する。」ことが示されているものと理解できる。
すると、「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」は、「複数個の液体セル30を包含」する「セルストリップアセンブリー28またはセルバック」を、「上部ハウジング部分またはセクション24」と「下部セクション26」とで「保持もしくは収容」する「平らな長方形の硬質構造体の形状を有」するものであるということができる。
(4)また、「液体セル30」の容量についてみれば、(刊1-イ)には「既知の量の流体を収容しているパッケージングされた閉じたセルの形態の流体供給手段」、(刊1-キ)には「これらのセルは精確に知られた容量の液体31をもって充填される」と記載されており、(刊1-ク)には「セル内にシールされた液体は過酸化水素である」と記載されていることから、「液体セル30」には「既知」の「精確に知られた容量」の「液体」の「過酸化水素」が「収容」されているということができる。
(5)そして、上記(2)でみたように、「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」内に収容された「投与量」の「たとえば過酸化水素」が「円筒形チャンバ10」内に「自動的に注入」されるためには「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」に関する情報が、「液体注入システム16」に伝えられることを要するところ、(刊1-ケ)には「セルストリップ部56の表面上に配置されているのは、カセットの入口端部に配置されたバーコード66である。セルバックを同定し、かつ日付を確認するこのバーコードはスロット54と整列されているので、バーコードをスロットを介して読み取ることができる。好ましいのは、この日付が液体をセルに充填した日あるいは液体の安全使用期間満了日であることである。」と記載されている。
すると、(刊1-ソ)の視認事項から「セルストリップ部56」は「セルストリップアセンブリー28」の一部であるから、「セルストリップアセンブリー28またはセルバック」を「保持もしくは収容」する「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」は「バーコード」を有し、「バーコード」には「液体をセルに充填した日あるいは液体の安全使用期間満了日」が情報として含まれているということができる。
(6)さらに、「バーコード」の含む情報について、(刊1-サ)には「バーコードはカセット内の液体の性状を示すが、これは必要なことである。それは、異なった容量の異なった滅菌剤を収容するカセットを本発明の装置と共に使用する可能性があるからである。更に、バーコードは滅菌剤パック28が充填された日付を示す。もし悪い物質が使用されるか、日付がその物質に関する受容可能な保存期限を超えていれば、分配機構は上述のようにカセットをエジェクトし、そしてコントロール21は適切な警告を提供して、オペレータに対して新しいカセットを使用すべきことを指示することになる。」と記載されており、「異なった容量の異なった滅菌剤を収容するカセットを本発明の装置と共に使用する可能性がある」ことから「バーコードはカセット内の液体の性状を示す」ものであるといえるから、「バーコード」は「液体の性状」として「カセット」の「滅菌剤」の「容量」と収容される「滅菌剤」の「種類」も情報として含むということができる。
(7)以上から、「医療用器具のような物品に関する滅菌チャンバ内」に「制御された量の液体を注入または分配するためのシステム」(上記(1)を参照)を構成する要素ではあるが、他の要素から独立した一つの部品としての「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」に着目すれば、
上記(3)から、「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」は、「複数個の液体セル30を包含」する「セルストリップアセンブリー28またはセルバック」を、「上部ハウジング部分またはセクション24」と「下部セクション26」とで「保持もしくは収容」する「平らな長方形の硬質構造体の形状を有」するものであり、
上記(4)から、「液体セル30」には「既知」の「精確に知られた容量」の「液体」の「過酸化水素」が「収容」されているものであり、
上記(5)から、「注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18」は「バーコード」を有し、「バーコード」には「液体をセルに充填した日あるいは液体の安全使用期間満了日」が情報として含まれているものであり、
上記(6)から、「バーコード」は「液体の性状」として「カセット」の「滅菌剤」の「容量」と収容される「滅菌剤」の「種類」も情報として含まれているものであることから、
刊行物1には、
「既知の精確に知られた容量の液体の過酸化水素が収容されている複数個の液体セル30を包含するセルストリップアセンブリー28またはセルバックを、上部ハウジング部分またはセクション24と下部セクション26とで保持もしくは収容する平らな長方形の硬質構造体の形状を有し、液体をセルに充填した日あるいは液体の安全使用期間満了日とカセットの滅菌剤の容量と収容される滅菌剤の種類を情報として含むバーコードを有する注入すべき液体を含有するカセットまたはカートリッジ18。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2-4.補正発明と引用発明との対比
(1)平成17年5月2日付け翻訳文提出書(以下、「本願明細書」という。)の【0035】に「ここで図9及び図10を参照されたい。・・・カセットは様々な構造を有することができる。図示されているカセット34は、高衝撃ポリスチレン、高密度ポリエチレン、または高密度ポリプロピレンなどの射出成形ポリマーから形成されるのが好ましい硬質の外側シェル122を含む。このシェル122は、低密度ポリエチレンなどの吹き込み成形ポリマーから形成されたセル118を含む。」と記載されること、及び図9、図10の開示から、補正発明の「カセット」(「カセット34」)は、複数個の「低密度ポリエチレンなどの吹き込み成形ポリマーから形成されたセル118」が「硬質の外側シェル122」に囲まれた長い直方体形状を有するものということができ、これは、引用発明の「カセットまたはカートリッジ18」が「複数個の液体セル30を包含するセルストリップアセンブリー28またはセルバックを、上部ハウジング部分またはセクション24と下部セクション26とで保持もしくは収容する平らな長方形の硬質構造体の形状を有」することに相当するということができる。
(2)本願明細書【0049】には「滅菌サイクルで、滅菌器がセル118の内容物の一部のみを必要とする場合がある。例えば、特定のサイクルで、1つと半分のセルの内容物が必要な場合があるであろう。このような場合は、内容物が半分のセル118を保管して、次のサイクルでこのセル118を用いることができる。」と記載されており、これは補正発明の「セル」の容量が正確に知られていることを要することを意味するといえるものであり、また、同【0022】には「過酸化水素水などの滅菌剤を気化器18で気化させて真空室14に導入する。」と記載されており、これは補正発明の「液体滅菌剤」が「過酸化水素」であることを意味し、さらに同【0002】には「滅菌工程では1または複数のセルの滅菌剤が用いられるため、一般に、このようなカセットは等量の液体滅菌剤を含む複数のセルを含む。」と記載されることから、それぞれの「セル」には「等量の液体滅菌剤」が含まれているといえる。
よって、引用発明の「既知の精確に知られた容量の液体の過酸化水素が収容されている複数個の液体セル30」は補正発明の「内部に液体滅菌剤を有する複数のセル」に相当するということができる。
(3)情報の読み取りに、引用発明は「バーコード」を用い、補正発明は「RFIDタグ」を用いているから、補正発明と引用発明とは「読み取り可能な指標」を有する点で一致し、「読み取り可能な指標」について、補正発明では「RFIDタグ」を用いるのに対し、引用発明では「バーコード」を用いる点で、両者は相違する。
(4)本願明細書【0046】には「RFIDタグ140及び142のメモリのメモリマップが示され・・・これらには、製造データ、有効期限、製造ID、製造番号、ロット番号、製造場所、セルの充填状態、滅菌剤の濃度及び種類、及び滅菌器10内での滞留時間などの情報を含めることができる。」と記載されており、補正発明の「前記RFIDタグが、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含み」の具体的なデータとして「カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータ」、「製造データ」、「有効期限」、「滅菌剤の種類」が記載されており、これらは、それぞれ引用発明の「カセットの滅菌剤の容量」、「液体をセルに充填した日」、「液体の安全使用期間満了日」、「滅菌剤の種類」にあたるものといえるから、引用発明の「バーコード」が含む情報である「液体をセルに充填した日あるいは液体の安全使用期間満了日とカセットの滅菌剤の容量と収容される滅菌剤の種類」は、補正発明の「RFIDタグ」が含む情報である「前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データ」に相当するということができる。
(5)以上のことから、補正発明と引用発明とは、
「内部に液体滅菌剤を有する複数のセルを含むカセットであって、
読み取り可能な指標を含み、
前記指標が、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含むカセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「読み取り可能な指標」について、補正発明では「RFIDタグ」を用いるのに対し、引用発明では「バーコード」を用いる点
<相違点2>
補正発明では、「前記RFIDタグが更新可能なメモリを含み、前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定される」ものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

2-5.相違点の検討
2-5-1.相違点1について
(1)例えば、「バーコードは大量の情報を記録させたり、情報の更新が不可能であり、また、偽造が容易であるという問題がある。そのため、近年、RFID(Radio Frequency Identification:無線周波数認識)と称されるシステムが注目されている」(特開2003-67713号公報【0002】、以下、「周知例1」という。)と記載され、また、「RFID(トランスポンダ)の特徴は、バーコードと異なり、非接触でデータの読み書きが出来る点と、読み込む時の機器同士(RFID送受信回路とデータ記憶媒体)の設置条件に制約が少ない点である。これに対してバーコードの場合は、リーダーとバーコードラベルとの距離や角度の制約がかなり厳しく、読み取り精度が低い」(例えば再公表公報の国際公開2002/032468号(JP WO2002/032468 A1)の4頁22?25行、以下、「周知例2」という。)と記載されるように、一般的に、「バーコード」のより望ましい代替物として電磁的に読み取り可能な「RFID」を使用することは周知技術といえる。
(2)そして、刊行物2の記載をみると、「消耗品の管理システム」において、「内視鏡洗滌消毒装置で使用される消耗品」である例えば「消毒液」((刊2-ア)(刊2-イ)を参照)について、「消毒液収納部10」の構成は「水フィルター6」と同様で((刊2-ウ)を参照)、「消毒液収納部10」は「防水機能・耐薬機能を持った識別手段としてトランスポンダ12(高周波自動認識システムRFID RadioFrequency Identification)が取付けられて」おり、「その内部にはシリアルナンバーと開封後の使用限度日数データが記録されて」いて、「トランスポンダ12は硬質ガラス器12-2からなり、アンテナ12-1やICパッケージ12-3が設けられて」おり、「トランスポンダ12内のデータを読み出すためのアンテナ13が設置され、送受信回路14」を介して「制御部22」に接続されており((刊2-ウ)を参照)、「制御部22」((刊2-エ))は、「トランスポンダ12からシリアルナンバーを読み出し、内部回路のメモリ部23に記録された消耗品シリアルナンバーと比較を行う。このときの比較結果が異なる場合には消耗品が交換されたと認識し、メモリ部23内の記録内容を更新する。また、両者が同じ場合には消耗品は継続して使用されていると認識」し、「消耗品の使用日数を計算」し「消耗品の使用限度日数」と比較して「使用限度を超えていた場合」は、「ユーザーへ警告を行い、交換を促す」((刊2-オ)を参照)ことが記載されている。
ここで、「硬質ガラス器12-2からなり、アンテナ12-1やICパッケージ12-3が設けられ」た「トランスポンダ12」は「RFIDタグ」と言い得ることは明らかだから、刊行物2には、消耗品の管理システムにおいて、消耗品(消毒液)の情報を「RFIDタグ」と「制御部22」との間で送受信するものが示されているということができる。
(3)そうすると、上記周知技術1,2に示されるように、引用発明であっても「バーコード」を用いるものである以上は、「大量の情報を記録させたり、情報の更新が不可能であり、また、偽造が容易であ」り、「リーダーとバーコードラベルとの距離や角度の制約がかなり厳しく、読み取り精度が低い」といった課題を内在するものといえるし、刊行物2に示されるように、消耗品の管理システムにおいて、消耗品(消毒液)の情報を「RFIDタグ」と「制御部22」との間で送受信することは知られているから、消耗品といえる過酸化水素(滅菌剤)の当初の容量と種類を「バーコード」に記憶して「コントロール21」に伝達する引用発明において、「バーコード」に代えて「RFIDタグ」を採用することに格別の困難性は見いだせない。
(4)以上から、引用発明、刊行物2に記載の技術手段及び周知例1?2に代表される周知技術に基づいて、相違点1に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。

2-5-2.相違点2について
(1)まず、引用発明の「カセットまたはカートリッジ18」(以下、「カセット」という。)の使用方法について検討する。
刊行物1には「カセット」の使用方法について明示を見いだせないが、(刊1-シ)の記載をみると「検知器98は、使用すべき第一のセルに関連する開口部52内のフォイル62が依然として損なわれていないが否かを検知する。もしフォイルが破損していれば、カセットは次のセルに進むことになる。フォイルは再び検査され、そしてこのプロセスは必要に応じ、無傷のセルが配置されるが、カセット全体が退けられるまで反復される。」とあり、これは、使用できない「セル」が存在した場合には、その分だけ滅菌に要する滅菌剤の量が不足するから、当該不足量を満たすために次の「カセット」を「液体注入システム16」に設置することになるが、当該次の「カセット」は当該不足量に相当する数の「セル」から滅菌剤を抽出供給した後で、未使用の残部「セル」を残すことになることを意味するといえる。
そして、いったん設置された「カセット」は必ず滅菌剤を使い切るまで設置されたままであるとすれば、カセットは使用途中で「液体注入システム16」から取り外せず、その場合には例えば滅菌剤の種類を変える場合に当該「カセット」の滅菌剤を使い切るまでは滅菌できないことになり、それは不都合である。
そうすると、引用発明では、いったん「液体注入システム16」に設置された「カセット」は全ての「セル」の滅菌剤が使い終わらなくても、「液体注入システム16」から取り外すことがあるものと考えることができる。
すると、設置された「カセット」の複数のどの「セル」まで滅菌剤を抽出したかは(刊1-シ)(刊1-ス)に記載されるように常に「マイクロプロセッサー21」(例えば(刊1-サ)にみられるように、刊行物1では「コントロール21」と表記される方が多いので、以下、「コントロール21」と記載する。)が把握し、たとえば、「カセット(A)」のどの「セル」まで滅菌剤を抽出したかを「コントロール21」が記憶し、「カセット(A)」を他の「カセット」に変えてから再び「カセット(A)」を設置した場合に、それが「カセット(A)」であることを「バーコード」から把握すれば、どの「セル」から滅菌剤の抽出をはじめればよいかは「コントロール21」で操作できるといえる。
(3)その場合、「コントロール21」は全ての「カセット」について滅菌剤の抽出状況を把握しておく必要があり、さらに、「コントロール21」が把握してない追加の新たな「カセット(X)」が設置された場合には、「カセット(X)」のための滅菌剤の抽出状況を記憶する領域を新たに追加していかなければならない。
これに対して、「カセット」側に、複数のどの「セル」まで滅菌剤を抽出したかの情報を記憶しておけば、どの「カセット」を「液体注入システム16」に設置しても、「コントロール21」が、当該「カセット」を認識し記憶された情報を読み取るだけで、当該「カセット」においてどのセルから滅菌剤の抽出をはじめればよいかの操作が可能となり、「コントロール21」の機能を簡略化できるといえる。
(4)すなわち、引用発明では、滅菌剤の充填状態について「カセット」側でなく「コントロール21」の側で把握しているが、「カセット」側で把握することも考慮し得るものということができる。
ここで、「カセット」側で把握するということは、滅菌剤の抽出状況を「カセット」側の情報を更新していくことで行うことを要するものであるが、引用発明は「バーコード」を使用しており、上記周知例1に見られるように、「バーコード」は情報を更新できないからその代替物が必要といえる。
(5)ここで「RFIDタグ」であれば情報を更新できることは、上記周知例1や、例えば特開2002-325826号公報の【0021】(以下、「周知例3」という。)に「・・・内視鏡1とビデオプロセッサ32との間ではRFIDシステムにより通信が行われる。すなわちRFIDタグ11とRFIDユニット34との間で無線通信が行われ、内視鏡検査前に洗滌情報や滅菌情報、内視鏡1の型番等の固有情報がRFIDタグ11から読み込まれ、検査終了後は内視鏡検査内容等がRFIDタグ11に書き込まれる。」と記載されるように、「RFIDタグ」の属性ともいうことができる。
(6)そうであれば、上記「2-5-1.」で検討したように「バーコード」に代えて「RFIDタグ」を採用することに格別の困難性はなく、「RFIDタグ」は情報を更新できるのだから、引用発明においては滅菌剤の充填状態について「カセット」側でなく「コントロール21」の側で把握しているが、「カセット」側で把握することも考慮し得るものであり、「コントロール21」の側か「カセット」側かのどちらかで把握すればよい以上、「RFIDタグ」により「カセット」側で把握することを選択することは単なる設計変更にすぎない。
(7)以上から、引用発明、刊行物2に記載の技術手段及び周知例1?3に代表される周知技術に基づいて、相違点2に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。

そして上記各相違点に基づく補正発明の奏する作用効果も、刊行物1、2の記載事項、周知例1?3に代表される周知技術から予測できる範囲のものであり格別なものではない。

2-6.独立特許要件のまとめ
上記の検討から、補正発明は、引用発明、刊行物2に記載の技術手段,周知例1?3に代表される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり独立特許要件を満足しないため、本件補正は却下すべきものである。

3.本件補正についてのまとめ
上記「1.」の検討から、本件補正は、目的外補正であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、予備的に、上記「2.」の検討から、本件補正が特許請求の範囲の限定的減縮であったとしても独立特許要件を満足しないことから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年1月23日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正は前記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1-29に係る発明は、平成23年4月18日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-29に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項14に記載された事項によって特定される発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項14】
内部に液体滅菌剤を有する1または複数のセルを含むカセットであって、
電磁的に読み取り可能なRFIDタグを含み、
前記RFIDタグが、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含み、前記RFIDタグが更新可能なメモリを含むことを特徴とするカセット。」

2.原査定の理由について
原査定には「この出願については、平成23年 1月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」と記載され、上記「理由1」は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであって、原査定の「備考」(11?13頁)には、
「・請求項14?27に係る発明について
・・・上記刊行物1?2に記載された発明、及び本願出願前周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」と記載されていることから、原査定の理由は、刊行物1(本審決の刊行物1)、刊行物2(本審決の刊行物2)を引用例とする特許法第29条第2項進歩性欠如に関する拒絶理由によるものということができる。
そこで、上記拒絶理由について原査定の判断の妥当性を以下で検討する。

3.刊行物の記載と引用発明の認定
刊行物の記載は、上記「第2 2-2.刊行物の記載」に記載のとおりである。
引用発明は「第2 2-3.刊行物1に記載された発明の認定」に記載のとおりである。

4.本願発明と引用発明との対比
上記「第2 1.」で検討したように、本願発明は、補正発明の「前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定される」という特定事項を削除するものであるから、本願発明は補正発明を拡張した発明といえる。
すると、本願発明の特定事項を全て含み、上記の特定事項によりさらに限定的に特定された補正発明が上記「第2」に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.回答書の補正案について
(1)請求人は、回答書において、平成24年1月23日付け補正書によって補正された、請求項1をもとに次の請求項1を、請求項13をもとに次の請求項8を補正案として提示している。(下線は請求人が付与したもので補正箇所を示している。)
「【請求項1】
滅菌器内の滅菌剤カセットをトラッキングする方法であって、
RFIDタグを含むカセットと前記滅菌器の受信機との間にRF信号を送信して、前記滅菌器のカセット処理領域内における前記カセットの存在を読み取るステップと、
前記RF信号によって、前記カセットと前記受信機との間に識別情報を送信するステップと、
前記識別情報に基づいて前記滅菌器に適切なカセットが装着されているかを確認するステップと、
前記RFIDタグにストアされたデータの一部を変更するステップと、を含み、
前記カセットの前記RFIDタグにストアされた前記データが、前記カセットの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、その結果、滅菌剤の残量が特定され、
前記RFIDタグが温度検出装置を含み、前記RFIDタグにストアされたデータが、前記カセットの出荷に関する温度情報及びその保管温度情報を含み、
前記RFIDタグにストアされたデータが、1または複数のサイクルパラメータ、サイクル中に到達した滅菌剤の濃度、および、前記滅菌器内に前記カセットが滞留した時間で更新され、
前記識別情報が、特定のセルまたは一群のセルに適したサイクルの種類を含む、 ことを特徴とする方法。」
「【請求項8】
内部に液体滅菌剤を有する1または複数のセルを含むカセットであって、 電磁的に読み取り可能なRFIDタグを含み、
前記RFIDタグが、前記カセットの前記液体滅菌剤の量を示すデータを含む前記カセットについての識別データを含み、前記RFIDタグが更新可能なメモリを含み、
前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、その結果、滅菌剤の残量が特定され、
前記RFIDタグが温度検出装置を含み、前記識別データが、前記カセットの出荷に関する温度情報及びその保管温度情報を含み、
前記識別データが、更新可能であり、1または複数のサイクルパラメータ、サイクル中に到達した滅菌剤の濃度、および、前記滅菌器内に前記カセットが滞留した時間を含む、
ことを特徴とするカセット。」
(2)上記請求項1,8についての補正案は、平成24年1月23日付け補正における請求項1,13の記載を基礎として、これにさらに特定事項(上記下線部)を付加する形式のものであるから、上記「第1」でみたように平成24年1月23日付け補正が却下される以上、そもそも当該補正の基礎がないので補正案そのものが成立しないことから、上記補正案を採用することはできない。
(3)また、上記補正案の成立を認めたとしても、上記補正案を採用するためには新たな拒絶理由(例えばサポート要件について)を通知する必要があるが、当該拒絶理由は、平成23年4月18日付け補正または平成24年1月23日付け補正によって生ずるものであり、当該補正に基づいて通知することになるものであるから、最後の拒絶理由になると解されるところ、上記補正案を内容とする補正がなされると、
i)当該補正が、平成23年4月18日付け補正に基づく場合には、
補正案の請求項1、8は、平成24年1月23日付け補正の請求項1,13の「前記カセットの前記RFIDタグにストアされた前記データが、前記カセットの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定される」、「前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定される」をそれぞれ含むことから、上記「第2 1.」で記載したのと同じ問題が生じる。
ii)当該補正が、平成24年1月23日付け補正に基づく場合には、
補正案の請求項1については、上記特定事項である「前記RFIDタグが温度検出装置を含み、前記RFIDタグにストアされたデータが、前記カセットの出荷に関する温度情報及びその保管温度情報を含み、前記RFIDタグにストアされたデータが、1または複数のサイクルパラメータ、サイクル中に到達した滅菌剤の濃度、および、前記滅菌器内に前記カセットが滞留した時間で更新され、前記識別情報が、特定のセルまたは一群のセルに適したサイクルの種類を含む」ことは、平成24年1月23日付け補正における請求項6?10の各々の特定事項を全て繰り込むものになっているが、請求項6、7、9、10は各々が請求項1のみしか引用していないので、請求項6?10の各々の特定事項を全て繰り込むものは平成24年1月23日付け補正において記載が無かったことから、上記補正案の請求項1は上記「第2 1.」で記載したの同様に目的外補正となる。
また、補正案の請求項8については、同項は、平成24年1月23日付け補正の請求項13の「前記データが前記セルの滅菌剤の充填状態を含み、その滅菌剤の充填状態のデータが、前記カセットから滅菌剤が取り出されると更新され、滅菌剤の残量が特定される」を含むことから、上記「第2 1.」で記載したのと同じ問題が生じる上に、
同請求項8についての上記特定事項である「前記RFIDタグが温度検出装置を含み、前記識別データが、前記カセットの出荷に関する温度情報及びその保管温度情報を含み、前記識別データが、更新可能であり、1または複数のサイクルパラメータ、サイクル中に到達した滅菌剤の濃度、および、前記滅菌器内に前記カセットが滞留した時間を含む」ことは、平成24年1月23日付け補正における請求項21?24の各々の特定事項を全て繰り込むものになっているが、請求項21、22、24は各々が請求項13のみしか引用していないので、請求項21?24の各々の特定事項を全て繰り込むものは平成24年1月23日付け補正において記載が無かったことから、上記補正案の請求項8は上記「第2 1.」で記載したの同様に目的外補正となる。
iii)よって、最後の拒絶理由が通知されて補正がなされても、上記補正案は却下されるものということができる。
(4)さらに、上記補正案が成立しこれを採用することができたとしても、補正案の請求項1,8の上記特定事項の内容は、一般的に高温下又は長時間の経過で変質してしまう過酸化水素でなる「滅菌剤」の温度又は時間の履歴に関する情報を把握しておくというもので、本願発明と同様に「過酸化水素」を用いる引用発明も当該情報の把握は当然に要求されるものであり、当該情報の把握に要する事項を特定し、刊行物2に記載の技術手段である「RFID」に記憶するようにすることに格別の困難性は見いだせない。
よって、上記補正案の請求項1,8に係る発明であっても、本願発明と同様に、それらに特許性を見出すことはできない。
(5)以上から、回答書の補正案を採用することはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載の技術手段及び周知例1?3に代表される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-05 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-24 
出願番号 特願2005-59247(P2005-59247)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 豊永 茂弘
中澤 登
発明の名称 データリンクを用いた滅菌器カセット・ハンドリング・システム  
代理人 加藤 公延  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ