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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62B
管理番号 1281249
審判番号 不服2012-19165  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-01 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2010-529266「特に高視認性衣類のための難燃性材料を用いる材料構造」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日国際公開、WO2009/052936、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-505881〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年10月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年10月19日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成22年4月16日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出され、同年6月16日付けで同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約の翻訳文が提出され、平成24年1月26日付けで拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月22日付けで拒絶査定がなされ、同年10月1日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において同年11月21日付けで書面による審尋がなされ、それに対して平成25年2月27日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年10月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年10月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 平成24年10月1日付けの手続補正の内容
平成24年10月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正であって、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年4月26日付け手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
特に、衣類用の材料編織布の製造のための材料構造(1)であって、
第1面(12)と第2面(14)とを有する難燃性材料を、少なくとも部分的に含む基本構造(10)を含み、
基本構造の少なくとも第1面(12)は、基本構造の表面(10)を見通せる開放領域(50)を有する模様(20)でプリントされており、
模様(20)は、少なくとも1種の蛍光色素(40)を含有する材料(30)を含み、
基本構造(10)の第1面(12)が明色を有し、
基本構造(10)の第1面(12)の可視表面が、模様(20)との組合せで、欧州規格EN471の要求基準を満たす材料構造色を生ずる
材料構造(1)。
【請求項2】
模様(20)が不透明に染色された部分的被覆としてデザインされた、請求項1に記載の材料構造。
【請求項3】
基本構造(10)の第1面(12)が蜜黄色の色素で染色され、模様(20)が、不透明な蛍光性橙色の部分的被覆として、好ましくは基本構造(10)の表面のおよそ60%の不透明度でデザインされた、請求項1に記載の材料構造。
【請求項4】
模様(20)が格子模様又は水玉模様としてデザインされた、請求項1に記載の材料構造。
【請求項5】
模様(20)が、基本構造(10)の表面のおよそ20から80%、好ましくは30から70%、特に40から60%の不透明度を有する、請求項1に記載の材料構造。
【請求項6】
基本構造(10)の難燃性材料が、アラミド、ビスコース、及びポリイミドを含む群から選択された糸又は繊維を特色とする、請求項1に記載の材料構造。
【請求項7】
基本構造(10)の難燃性材料が、アラミド糸から作製された織布、縦編布若しくは編布、又はアラミド繊維から作製された不織布を特色とする、請求項1に記載の材料構造。
【請求項8】
基本構造(10)の第1面(12)が、材料構造(1)の可視前面としてデザインされた、請求項1に記載の材料構造。
【請求項9】
基本構造(10)の第1面(12)の表面が、模様(20)との組合せで、信号色の黄色について欧州規格EN471の要求基準に適合する、材料構造(1)の色を生ずる、請求項1に記載の材料構造。
【請求項10】
材料構造(1)がY≧70の輝度率を有する、請求項9に記載の材料構造。
【請求項11】
基本構造(10)の第1面(12)がY≧50の輝度率を有する、請求項9に記載の材料構造。
【請求項12】
基本構造(10)の第1面(12)の表面が、模様(20)との組合せで、信号色の橙色について、欧州規格EN471の要求基準に適合する、材料構造(1)の色を生ずる、請求項1に記載の材料構造。
【請求項13】
材料構造(1)がY≧40の輝度率を有する、請求項12に記載の材料構造。
【請求項14】
基本構造(10)の第1面(12)がY≧35の輝度率を有する、請求項12に記載の材料構造。
【請求項15】
基本構造(10)の第1面(12)の表面が、模様(20)との組合せで、信号色の赤色について、欧州規格EN471の要求基準に適合する、材料構造(1)の色を生ずる、請求項1に記載の材料構造。
【請求項16】
材料構造(1)がY≧25の輝度率を有する、請求項15に記載の材料構造。
【請求項17】
基本構造(10)の第1面(12)がY≧25の輝度率を有する、請求項1に記載の材料構造。
【請求項18】
基本構造(10)の開放領域(50)が、各々、1から9mm^(2)のサイズの面積を囲む、請求項1に記載の材料構造。
【請求項19】
基本構造(10)の第1面(12)が、ポリマー材料(30)で模様(20)をプリントされる、請求項1に記載の材料構造。
【請求項20】
基本構造(10)の第1面(12)が、染色可能なペースト状材料で模様(20)をプリントされる、請求項1に記載の材料構造。
【請求項21】
ポリマー材料(30)がシリコーン又はポリウレタンである、請求項19に記載の材料構造。
【請求項22】
基本構造(10)の第1面(12)が、接着性被覆に適用された着色顔料の模様で形成された、請求項1に記載の材料構造。
【請求項23】
基本構造(10)の第2面(14)が、防水性で水蒸気透過性の機能層(60)に接合された、請求項1に記載の材料構造。
【請求項24】
基本構造(10)の第2面(14)が、気密で水蒸気透過性の機能層(60)に接合された、請求項1に記載の材料構造。
【請求項25】
基本構造の水蒸気透過率の50%を超える水蒸気透過率を有する、請求項1に記載の材料構造。
【請求項26】
蛍光色素(40)が、蛍光性黄色、蛍光性赤色、及び蛍光性橙色を含む群から選択された色素を含む、請求項1に記載の材料構造。
【請求項27】
蛍光色素が、模様(20)の30重量パーセント以下の量になる着色顔料(40)を含む、請求項1に記載の材料構造。
【請求項28】
模様(20)が、20から80μmの高さ(h)で基本構造(10)の上に形成された、請求項1に記載の材料構造。
【請求項29】
模様(20)がスクリーン印刷法により適用された、請求項1に記載の材料構造。
【請求項30】
材料構造が、ISO6141で制定された試験による火炎試験に合格する、請求項1に記載の材料構造。
【請求項31】
DIN EN533(1997)の要求基準による限度のある火炎伝播について難燃性である、請求項1に記載の材料構造。
【請求項32】
材料が、消防士用の防護服について、ISO11613(1999)の要求基準に適合する、請求項1に記載の材料構造。
【請求項33】
請求項1から32のいずれか一項に記載の、材料構造(1)を用いる衣料品(70)。
【請求項34】
基本構造(10)の第1面(12)が、衣料品(70)の上部材料部分(71)を形成する、請求項33に記載の衣料品。
【請求項35】
衣料品(70)が、基本構造(10)の第1面(12)を、衣料品の外側材料部分(71)又は内側材料部分(72)として使用するリバーシブルである、請求項33に記載の衣料品。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
材料構造(1)を有する衣料品(70)であって、
材料構造(1)は、第1面(12)と第2面(14)とを有する難燃性材料を、少なくとも部分的に含む基本構造(10)を含み、
基本構造の少なくとも第1面(12)は、基本構造の表面(10)を見通せる開放領域(50)を有する模様(20)でプリントされており、
模様(20)は、少なくとも1種の蛍光色素(40)を含有する材料(30)を含み、
基本構造(10)の第1面(12)が、明色を有し、かつ衣料品(70)の上部材料部分(71)を形成し、
基本構造(10)の第1面(12)の可視表面が、模様(20)との組合せで、欧州規格EN471の要求基準を満たす材料構造色を生ずる
衣料品(70)。
【請求項2】
模様(20)が不透明に染色された部分的被覆としてデザインされた、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項3】
基本構造(10)の第1面(12)が蜜黄色の色素で染色され、模様(20)が、不透明な蛍光性橙色の部分的被覆として、好ましくは基本構造(10)の表面のおよそ60%の不透明度でデザインされた、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項4】
模様(20)が格子模様又は水玉模様としてデザインされた、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項5】
模様(20)が、基本構造(10)の表面のおよそ20から80%、好ましくは30から70%、特に40から60%の不透明度を有する、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項6】
基本構造(10)の難燃性材料が、アラミド、ビスコース、及びポリイミドを含む群から選択された糸又は繊維を特色とする、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項7】
基本構造(10)の難燃性材料が、アラミド糸から作製された織布、縦編布若しくは編布、又はアラミド繊維から作製された不織布を特色とする、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項8】
基本構造(10)の第1面(12)が、材料構造(1)の可視前面としてデザインされた、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項9】
基本構造(10)の第1面(12)の表面が、模様(20)との組合せで、信号色の黄色について欧州規格EN471の要求基準に適合する、材料構造(1)の色を生ずる、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項10】
材料構造(1)がY≧70の輝度率を有する、請求項9に記載の衣料品(70)。
【請求項11】
基本構造(10)の第1面(12)がY≧50の輝度率を有する、請求項9に記載の衣料品(70)。
【請求項12】
基本構造(10)の第1面(12)の表面が、模様(20)との組合せで、信号色の橙色について、欧州規格EN471の要求基準に適合する、材料構造(1)の色を生ずる、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項13】
材料構造(1)がY≧40の輝度率を有する、請求項12に記載の衣料品(70)。
【請求項14】
基本構造(10)の第1面(12)がY≧35の輝度率を有する、請求項12に記載の衣料品(70)。
【請求項15】
基本構造(10)の第1面(12)の表面が、模様(20)との組合せで、信号色の赤色について、欧州規格EN471の要求基準に適合する、材料構造(1)の色を生ずる、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項16】
材料構造(1)がY≧25の輝度率を有する、請求項15に記載の衣料品(70)。
【請求項17】
基本構造(10)の第1面(12)がY≧25の輝度率を有する、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項18】
基本構造(10)の開放領域(50)が、各々、1から9mm^(2)のサイズの面積を囲む、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項19】
基本構造(10)の第1面(12)が、ポリマー材料(30)で模様(20)をプリントされる、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項20】
基本構造(10)の第1面(12)が、染色可能なペースト状材料で模様(20)をプリントされる、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項21】
ポリマー材料(30)がシリコーン又はポリウレタンである、請求項19に記載の衣料品(70)。
【請求項22】
基本構造(10)の第1面(12)が、接着性被覆に適用された着色顔料の模様で形成された、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項23】
基本構造(10)の第2面(14)が、防水性で水蒸気透過性の機能層(60)に接合された、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項24】
基本構造(10)の第2面(14)が、気密で水蒸気透過性の機能層(60)に接合された、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項25】
基本構造の水蒸気透過率の50%を超える水蒸気透過率を有する、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項26】
蛍光色素(40)が、蛍光性黄色、蛍光性赤色、及び蛍光性橙色を含む群から選択された色素を含む、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項27】
蛍光色素が、模様(20)の30重量パーセント以下の量になる着色顔料(40)を含む、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項28】
模様(20)が、20から80μmの高さ(h)で基本構造(10)の上に形成された、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項29】
模様(20)がスクリーン印刷法により適用された、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項30】
材料構造が、ISO6141で制定された試験による火炎試験に合格する、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項31】
DIN EN533(1997)の要求基準による限度のある火炎伝播について難燃性である、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項32】
材料が、消防士用の防護服について、ISO11613(1999)の要求基準に適合する、請求項1に記載の衣料品(70)。
【請求項33】
衣料品(70)が、基本構造(10)の第1面(12)を、衣料品の外側材料部分(71)又は内側材料部分(72)として使用するリバーシブルである、請求項1に記載の衣料品(70)。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、請求項1については、本件補正前の請求項33及び34に記載された発明特定事項を本件補正前の請求項1に加入することにより、本件補正前の請求項1に記載された「特に、衣類用の材料編織布の製造のための材料構造(1)」、「第1面(12)と第2面(14)とを有する難燃性材料を、少なくとも部分的に含む基本構造(10)を含み」、「基本構造(10)の第1面(12)が、明色を有し」及び「材料構造(1)」を、それぞれ、「材料構造(1)を有する衣料品(70)」、「材料構造(1)は、第1面(12)と第2面(14)とを有する難燃性材料を、少なくとも部分的に含む基本構造(10)を含み」、「基本構造(10)の第1面(12)が、明色を有し、かつ衣料品(70)の上部材料部分(71)を形成し」及び「衣料品(70)」と限定するものである。
また、本件補正は、請求項2ないし32については、請求項1を補正したことに伴い、本件補正前の請求項2ないし32に記載された「材料構造」を「衣料品(70)」と限定するものである。
さらに、本件補正は、請求項33については、本件補正前の請求項33及び34を削除したことに伴い、本件補正前の請求項35を請求項33に繰り上げ、その際に、請求項1を補正したことに伴い、本件補正前の請求項35に記載された「材料構造」を「衣料品(70)」と限定するものである。
したがって、本件補正は、請求項1ないし32については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、請求項33については、同法第17条の2第5項第1号に規定される請求項の削除及び同第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用した本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特表2006-516691号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある(以下、順に「記載1a」ないし「記載1d」という。)。

1a.「【0015】
一態様において、本明細書に開示された技術は、表皮材布帛および(任意で)少なくとも1つの同延在内側層とを含む消防士等の保護衣服についての公知の設計と構造技術を利用するものである。・・・(略)・・・
【0016】
視認性向上材料は、布帛パネルの加工面に永続的かつ直接適用される。これは、例えば、薄表面コーティングまたは加工面に織り込まれた糸(例えば、ヤーンの形態)、視認性向上材料を組み込んだコーティングまたは糸によりなされる。・・・(略)・・・
【0017】
最も一般的には、最外表皮は従来の難燃性布帛である。かかる布帛は、難燃剤で処理した100%綿の織布、アラミドヤーン、モダクリル繊維、ガラス繊維、セラミック繊維または前述のもののブレンドとすることができる。これらの布帛の重量は約6?7.5oz/yd^(2)(約200?250g/m^(2))の範囲内であり、約400°F以上の温度まで熱安定である。」(段落【0015】ないし【0017】)

1b.「【0020】
その他の使用可能な視認性向上材料は再帰反射性材料である。かかる材料は、一般的に日光により与えられる青色や紫外線光に露光されると、鮮やかな蛍光色を出す。例えば、デイグロ(DayGlo)(商標)GT17として市販されている蛍光顔料は、短波放射線に照射すると、蛍光黄色となる。トリムやその他シート製品に用いる赤色、オレンジ、赤色/オレンジおよび緑色の蛍光色を与える同様の従来の顔料が入手可能であり、本明細書に開示した実施形態にも用いることができる。かかる蛍光材料は、衣服着用者の日中の視認性に寄与する。」(段落【0020】)

1c.「【0023】
図4には、布帛の大きな片から切断された外側布帛パネル20が示されている。・・・(略)・・・
【0024】
少なくとも50%の加工面22が、視認性向上材料に直接適用されている。・・・(略)・・・
【0025】
図5?8に、未処理の背景部分を含む視認性向上材料の例証のパターンを示す。図5において、パターン30は、背景部分34は未処理で、処理済み部分32に選択的に適用された視認性向上材料を含んでいる。・・・(略)・・・
【0026】
図9に、消防服の四肢部分120を示す。四肢部分120は上着の場合には腕部分、保護パンツの場合には足部分とすることができる。四肢部分120は、視認性の向上したパネル122および近接するパネル124を含む外側表皮布帛を有している。視認性向上材料がほとんど、または全く適用されていないパネル124は、四肢部分の大半を覆い、取り付けライン125a、125bに沿ってパネル122に取り付けられている。・・・(略)・・・
【0027】
視認性向上パネル122は、図示の通り、保護布帛の少なくとも半分に、あるいは、その加工面の少なくとも75%を覆うように、直接および永続的に適用された視認性向上材料126を有している。あるいは、視認性向上材料のパターンは、パネル122の加工面の少なくとも75%に適用される。図9の実施形態の加工面は、図4と同様に、四肢の長さに沿って延在すべく伸張されていて、ある観察方向から完全に視認される。・・・(略)・・・図9に示すように、材料126は、印刷と同じようなパターン化手法により適用することができ、印刷または処理済部分の間の未処理の布帛(背景部分)に網目が残る。印刷ストライプ間の未処理の布帛によって、パネルを通る水分の移動を促すことができる。」(段落【0023】ないし【0027】)

1d.「【0030】
図12?13に、外側表皮の構造に上述した視認性向上パネルを組み込んだ消防士のコート130とパンツ140を示す。図12aはコート130の正面図、図12bは背面図である。視認性向上パネル132a-h、142a-bは、難燃性布帛の大きな片またはロールを視認性向上材料の好適なパターンで処理し、視認性向上パネルを画定する小さな片を大きな材料から切断することにより作成された。あるいは、視認性向上特徴は、パネルを切って成形した後に、個々のパネル片毎に適用することもできる。残りのパネル134a-lおよび144a-dは、同じタイプの難燃性布帛から切断したが、視認性向上材料で処理しなかった。パネルを図示する通り縫製して各端部に取り付けて、衣服の完成した外側表皮を形成した。・・・(略)・・・」(段落【0030】)

(2)引用文献の記載事項
引用文献の記載1aないし1d及び図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2e」という。)。

2a.記載1cの「図9に、消防服の四肢部分120を示す。四肢部分120は上着の場合には腕部分、保護パンツの場合には足部分とすることができる。四肢部分120は、視認性の向上したパネル122および近接するパネル124を含む外側表皮布帛を有している。」及び記載1dの「図12?13に、外側表皮の構造に上述した視認性向上パネルを組み込んだ消防士のコート130とパンツ140を示す。」という記載並びに図9ないし13によると、引用文献には、視認性の向上したパネルを有する消防服が記載されている。

2b.記載1aの「最も一般的には、最外表皮は従来の難燃性布帛である。」及び記載1dの「視認性向上パネル132a-h、142a-bは、難燃性布帛の大きな片またはロールを視認性向上材料の好適なパターンで処理し、視認性向上パネルを画定する小さな片を大きな材料から切断することにより作成された。あるいは、視認性向上特徴は、パネルを切って成形した後に、個々のパネル片毎に適用することもできる。残りのパネル134a-lおよび144a-dは、同じタイプの難燃性布帛から切断したが、視認性向上材料で処理しなかった。パネルを図示する通り縫製して各端部に取り付けて、衣服の完成した外側表皮を形成した。」という記載によると、引用文献における視認性の向上したパネルは、難燃性布帛を含むものであり、また、難燃性布帛が、第1面と第2面を有することは明らかであるから、引用文献には、視認性の向上したパネルは、第1面と第2面とを有する難燃性布帛を含むことが記載されている。

2c.記載1aの「最も一般的には、最外表皮は従来の難燃性布帛である。」並びに記載1cの「図5?8に、未処理の背景部分を含む視認性向上材料の例証のパターンを示す。図5において、パターン30は、背景部分34は未処理で、処理済み部分32に選択的に適用された視認性向上材料を含んでいる。」及び「図9に示すように、材料126は、印刷と同じようなパターン化手法により適用することができ、印刷または処理済部分の間の未処理の布帛(背景部分)に網目が残る。印刷ストライプ間の未処理の布帛によって、パネルを通る水分の移動を促すことができる。」という記載によると、引用文献には、難燃性布帛には、未処理の背景部分を有するパターンで印刷されている面があることが記載されている。そして、該面を第1面と表現すると、引用文献には、難燃性布帛の第1面は、未処理の背景部分を有するパターンで印刷されていることが記載されている。

2d.記載1bの「その他の使用可能な視認性向上材料は再帰反射性材料である。かかる材料は、一般的に日光により与えられる青色や紫外線光に露光されると、鮮やかな蛍光色を出す。例えば、デイグロ(DayGlo)(商標)GT17として市販されている蛍光顔料は、短波放射線に照射すると、蛍光黄色となる。トリムやその他シート製品に用いる赤色、オレンジ、赤色/オレンジおよび緑色の蛍光色を与える同様の従来の顔料が入手可能であり、本明細書に開示した実施形態にも用いることができる。かかる蛍光材料は、衣服着用者の日中の視認性に寄与する。」及び記載1cの「図5?8に、未処理の背景部分を含む視認性向上材料の例証のパターンを示す。図5において、パターン30は、背景部分34は未処理で、処理済み部分32に選択的に適用された視認性向上材料を含んでいる。」という記載によると、引用文献には、パターンは蛍光顔料を含むことが記載されている。

2e.記載1cの「図9の実施形態の加工面は、図4と同様に、四肢の長さに沿って延在すべく伸張されていて、ある観察方向から完全に視認される。」及び「図9に示すように、材料126は、印刷と同じようなパターン化手法により適用することができ、印刷または処理済部分の間の未処理の布帛(背景部分)に網目が残る。印刷ストライプ間の未処理の布帛によって、パネルを通る水分の移動を促すことができる。」という記載並びに図9によると、引用文献には、難燃性布帛の未処理の背景部分を有するパターンで印刷されている面が、消防服のある観察方向から完全に視認される部分を形成することが記載されている。そして、記載事項2cと同様に、未処理の背景部分を有するパターンで印刷されている面を第1面と表現すると、引用文献には、難燃性布帛の第1面が、消防服のある観察方向から完全に視認される部分を形成することが記載されている。

(3)引用文献に記載された発明
記載1aないし1d、記載事項2aないし2e及び図面の記載を整理すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「視認性の向上したパネルを有する消防服であって、
視認性の向上したパネルは、第1面と第2面とを有する難燃性布帛を含み、
難燃性布帛の第1面は、未処理の背景部分を有するパターンで印刷されており、
パターンは蛍光顔料を含み、
難燃性布帛の第1面が、消防服のある観察方向から完全に視認される部分を形成する
消防服。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「視認性の向上したパネル」は、その技術的意義、構成からみて、本願補正発明における「材料構造(1)」に相当し、以下、同様に、「消防服」は「衣料品(70)」に、「第1面と第2面とを有する難燃性布帛」は「第1面(12)と第2面(14)とを有する難燃性材料を、少なくとも部分的に含む基本構造(10)」に、「難燃性布帛」は「基本構造」に、「難燃性布帛の第1面」は「基本構造の少なくとも第1面(12)」及び「基本構造(10)の第1面(12)」に、「未処理の背景部分」は「基本構造の表面(10)を見通せる開放領域(50)」に、「パターン」は「模様(20)」に、「プリント」は「印刷」に、「蛍光顔料」は「少なくとも1種の蛍光色素(40)を含有する材料(30)」に、「ある観察方向から完全に視認される部分」は「上部材料部分(71)」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、
「材料構造を有する衣料品であって、
材料構造は、第1面と第2面とを有する難燃性材料を、少なくとも部分的に含む基本構造を含み、
基本構造の少なくとも第1面は、基本構造の表面を見通せる開放領域を有する模様でプリントされており、
模様は、少なくとも1種の蛍光色素を含有する材料を含み、
基本構造の第1面が、衣料品の上部材料部分を形成する
衣料品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明では、「基本構造の第1面」が、明色を有し、その可視表面が、模様(20)との組合せで、欧州規格EN471の要求基準を満たす材料構造色を生ずるものであるのに対し、引用発明では、「基本構造の第1面」に相当する「難燃性布帛の第1面」が、そのようなものか明らかでない点。

(5)相違点についての判断
そこで、上記相違点について、以下に検討する。
引用文献の記載1aに「最も一般的には、最外表皮は従来の難燃性布帛である。かかる布帛は、難燃剤で処理した100%綿の織布、アラミドヤーン、モダクリル繊維、ガラス繊維、セラミック繊維または前述のもののブレンドとすることができる。」と記載され、難燃剤で処理した100%綿の織布、アラミドヤーン、モダクリル繊維、ガラス繊維、セラミック繊維の色は黒色ではない(たとえば、アラミドヤーンの色は、黄色である。必要であれば、特開2002-266118号公報の下記の記載等を参照。)、即ち、黒色と比べて明色であるといえるから、引用発明における「難燃性布帛の第1面」は、明色を有しているといえる。
しかし、請求人が、平成25年2月27日付け回答書第4ページ第8及び9行において、引用文献1には、背景部分の着色については全く言及されておりません(当審注:引用文献1は、引用文献のことである。)と主張していることから、引用発明における「難燃性布帛の第1面」が、明色を有しているとまではいえないとして、検討する。
消防服の表面を明色にすることは周知である(必要であれば、特開平7-194720号公報及び登録実用新案第3021102号公報の下記の記載等を参照。以下、「周知技術」という。)。
また、公的な安全基準が定められている場合、それを満足するようにすることは、当業者であれば、当然のことである。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、「基本構造の第1面」に相当する「難燃性布帛の第1面」を明色とし、該明色と模様の組合せにより生じる材料構造色や、該明色と模様の組合せの面積等を、公的な安全基準の一つである欧州規格EN471の要求基準を満たすようにして、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明により、引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

・特開2002-266118号公報の記載(下線は、当審で付したものである。他の文献についても同様。)
「【0003】これら耐熱高機能繊維のほとんどは、繊維自体が既に比較的濃い色を有している。例えば、上市されている耐熱高機能繊維のうち、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であるケブラー(商品名 東レ・デュポン株式会社製)は黄色、全芳香族ポリエステル繊維であるベクトラン(商品名、株式会社クラレ製)は淡褐色、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であるザイロン(商品名、東洋紡株式会社製)は茶色である。・・・(略)・・・」(段落【0003】)

・特開平7-194720号公報の記載
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、必要強度を確保しながら一層の軽量化を可能にした芳香族ポリアミド繊維使いの消防服に関する。」(段落【0001】)
「【0009】布帛の表面を被覆するコート材としては、・・・(略)・・・
【0010】これらコート材は、難燃性、防水性、熱輻射性を有するものが使用されるが、・・・(略)・・・また、これらコート材は明色の識別性を有する顔料を混合又は表面塗布することが好ましい。・・・(略)・・・」(段落【0009】及び【0010】)
「得られた生地は、消防服の少なくとも表地として使用するが、さらに、中地、衿等に使用することができる。」(段落【0012】)

・登録実用新案第3021102号公報の記載
「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
従来の防水衣料のように、防水性が付与されただけのものであると、例えば火事等に際して炎に煽られた場合、衣料が焦げてたり火が付いたりして、着用者が火傷を負ったり、悲惨な結果を招いてしまうことを余儀なくされた。 特に、消防署関係の人々、自動車火災に対応する保安員にあってはこのような危険に直面しがちである
本考案は、リバーシブル被服形成用材料に対して不燃性または難燃性を付与することによって、上記のような問題の解消化を図ったものである。」(段落【0003】)
「【0011】
また、上記した外側生地材1と内側生地材2の生地模様及び色彩、並びに材質であるが、これは両者同一または異なったものの何れでも良いが、リバーシブル衣料として実施する場合は、例えば外側生地材1を白色とし、内側生地材2を黒色とするように、両者を違えたものとすれば良い。」(段落【0011】)

2-3 むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし35に係る発明は、平成24年4月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成22年6月16日付け翻訳文の明細書及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし35に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」の【請求項1】のとおりである。

2 引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用した本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特表2006-516691号公報(以下、上記「第2[理由]2 2-2(1)と同様に「引用文献」という。)には、上記「第2[理由]2 2-2(1)」のとおりの記載があり、該記載及び図面の記載から、上記「第2[理由]2 2-2(2)」のとおりの事項が記載されていると認める。
そして、引用文献には、上記「第2[理由]2 2-2(3)」のとおりの発明(以下、上記「第2[理由]2 2-2(3)と同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記「第2[理由]2 2-1」で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が上記「第2[理由]2 2-2(4)及び(5)」のとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-10 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-25 
出願番号 特願2010-529266(P2010-529266)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A62B)
P 1 8・ 121- Z (A62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 裕介  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
中川 隆司
発明の名称 特に高視認性衣類のための難燃性材料を用いる材料構造  
代理人 青木 篤  
代理人 三間 俊介  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  

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