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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B29C
管理番号 1281359
判定請求番号 判定2013-600016  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-12-27 
種別 判定 
判定請求日 2013-05-17 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3723538号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「樹脂管ジョイント成形装置及び樹脂管ジョイント成形方法」は、特許第3723538号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す「樹脂管ジョイント成形装置及び樹脂管ジョイント成形方法」は、特許第3723538号の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、独立項である請求項1及び請求項4について、その構成を構成要件毎に符号を付して分説すると、以下のとおりのものと認める(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」という。請求項2以下も同様。)。
【請求項1】
A 少なくとも二層に積層された環状体を成形する成形装置であって、
B 型開き自在になされた一対の金型と、この金型内に配置され下層材を周面に保持する芯型材と、上記下層材と上記金型との間に上層材を形成するパリソンを供給するパリソン供給装置とを備え、
C 少なくとも一方の上記金型には、上記芯型材に近接・離間する移動部材が設けられ、
D 型締め時において金型及び移動部材と芯型材とで、前記環状体に対応した空間部が形成されるように構成される一方、
E 上記芯型材の周面には螺旋状の溝部が形成されるとともに、上記金型及び移動部材の内面には上記螺旋状の溝部に挿入配置される螺旋状の凸部が形成されたことを特徴とする
F 環状体の成形装置。
【請求項2】
前記移動部材は、芯型材にスライドして近接・離間するスライド部材であることを特徴とする請求項1記載の環状体の成形装置。
【請求項3】
前記芯型材の溝部の間に形成された螺旋状の凸部天面には、溝部が当該凸部に沿って連続もしくは不連続な状態で螺旋状に形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の環状体の成形装置。
【請求項4】
G 中心部に設けられた芯型材の周面に環状の下層材を挿入保持し、続いて下層材の外周にパリソンを供給して芯型材及び下層材をパリソンで覆った後、金型の成形面の一部を除いて当該金型を型締めし、続いて金型に設けられた移動部材の移動により残りの成形面の一部を形成して、少なくとも二層に積層された環状体を成形する成形方法であって、
H 上記芯型材の周面に螺旋状の溝部を形成するとともに、上記金型及び移動部材の内面に上記螺旋状の溝部に挿入配置される螺旋状の凸部を形成して、成形品である環状体の外周面に螺旋状の溝部を形成するとともに、環状体の内周面に螺旋状の凸部を形成することを特徴とする
I 環状体の成形方法。
【請求項5】
下層材の外周にパリソンを供給して芯型材及び下層材をパリソンで覆った後に、当該パリソンの端部を保持してこのパリソンを軸芯方向に引き延ばし、続いて金型の成形面の一部を除いて当該金型を型締めすることを特徴とする請求項4記載の環状体の成形方法。
【請求項6】
前記芯型材を回転させることで、成形した環状体を該芯型材から離型することを特徴とする請求項4又は5記載の環状体の成形方法。
【請求項7】
前記下層材は、止水機能を有する材質からなることを特徴とする請求項4、5又は6記載の環状体の成形方法。

第3 イ号装置及びイ号方法
請求人が実施を検討している樹脂管ジョイント成形装置及び樹脂管ジョイント成形方法の構成は、判定請求書及び説明書によると、以下のとおりのものである。
(1)樹脂管ジョイント成形装置
「a 二層に積層された樹脂管ジョイント1を成形する成形装置11であって、
b 天蓋を有する一対の外金型12a、12bと、天蓋を持たない一対の外金型12c、12dと、これら二対の外金型12a?12d内に配置され止水材3を周面に保持する内金型15と、上記止水材3と上記二対の外金型12a?12dとの間に樹脂層1aを形成するパリソン2を供給する押し出しダイ17とを備え、
c 天蓋を有する一対の外金型12a、12bが内金型15を介して相対向し、かつ一対の外金型12c、12dそれぞれが外金型12a、12b双方から約90度離れて位置すると共に内金型15を介して相対向し、このような配置で互いから離間した4つの外金型12a?12dが、それぞれが持つ油圧シリンダ14a?14dによって内金型15に近接・離間する方向に移動することにより、型開き自在なものであり、
d 型締め時において4つの外金型12a?12dと内金型15とで、前記樹脂管ジョイント1に対応した空洞部が形成されるように構成される一方、
e 上記内金型15の周面にはスパイラル状の溝部が形成されるとともに、上記外金型12a?12dの内面には上記スパイラル状の溝部に挿入配置されるスパイラル状の凸部が形成されたことを特徴とする、
f 樹脂管ジョイント成形装置11。」(以下、「イ号装置」という。)

(2)樹脂管ジョイント成形方法
「g 天蓋を有する一対の外金型12a、12bが内金型15を介して相対向し、かつ一対の外金型12c、12dそれぞれが外金型12a、12b双方から約90度離れて位置すると共に内金型15を介して相対向し、このような配置で互いから離間した4つの外金型12a?12dが、それぞれが持つ油圧シリンダ14a?14dによって内金型15に近接・離間する方向に移動することにより、型開き自在なものであり、中心部に設けられた内金型15の周面に環状の止水材3を挿入保持し、続いて止水材3の外周にパリソン2を供給して内金型15及び止水材3をパリソン2で覆った後、天蓋を有する一対の外金型12a、12bのみを内金型15に近接する方向に移動させて該外金型12a、12bの間に成形面の一部を挟んで圧縮し、続いて、一対の外金型12c、12dのみを内金型15に近接する方向に移動させて該外金型12c、12dの間に成形面の残りの部分を挟んで圧縮して、二層に積層された樹脂管ジョイント1を成形する成形方法であって、
h 上記内金型15の周面にスパイラル状の溝部を形成するとともに、上記外金型12a?12dの内面に上記スパイラル状の溝部に挿入配置されるスパイラル状の凸部を形成して、成形品である樹脂管ジョイント1の外周面にスパイラル状の溝部1cを形成するとともに、樹脂管ジョイント1の内周面にスパイラル状の凸部1dを形成することを特徴とする、
i 樹脂管ジョイント1の成形方法。」(以下、「イ号方法」という。)

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
(1)判定請求書での主張
「請求人が実施を検討している樹脂管ジョイント成形装置は、本件特許発明の少なくとも構成要件B及び構成要件Cを充足しないため、本件特許発明の請求項1の技術的範囲に属さない。本件特許発明の請求項2,3は、請求項1に従属しているため、請求人が実施を検討している樹脂管ジョイント成形装置は、本件特許発明の請求項2,3の技術的範囲にも属さない。」(判定請求書8頁11?15行)

「請求人が実施を検討している樹脂管ジョイント成形方法は、本件特許発明の少なくとも構成要件Gを充足しないため、本件特許発明の請求項4の技術的範囲に属さない。本件特許発明の請求項5?7は、請求項4に従属しているため、請求人が実施を検討している樹脂管ジョイント成形方法は、本件特許発明の請求項5?7の技術的範囲にも属さない。」(判定請求書9頁下から8行?下から4行)

(2)判定請求弁駁書での主張
請求人は、判定請求弁駁書において、甲第1号証(特願2002-300152号(本件特許の出願番号)の平成16年4月1日起案の拒絶理由通知書)、甲第2号証(特開平6-190901号公報)、甲第3号証(特開平8-118459号)、甲第4号証(特開平9-234782号公報)、甲第5号証(特開平9-262901号)、甲第6号証(特開平6-56140号公報)、甲第7号証(特開平6-248686号)、甲第8号証(特開2000-43133号公報)、甲第9号証(特開2001-169850号公報)を提出するとともに、下記のように主張している。
「明細書・図面の記載、出願審査過程、及び公知技術から、「移動部材の有無」が本発明の本質的部分であるとの被請求人の主張は失当であることは明らかである。従って、被請求人が主張する均等論の第1要件(非本質的部分性)は充足されていないので、被請求人の均等論の主張が成立しない。
よって、「金型に、芯型材に近接・離間する移動部材が設けられていない」イ号装置は、均等論上、本件特許発明1の技術的範囲に属するとはいえない。」(判定請求弁駁書12頁14?21行)

2.被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書において、乙第1号証(特許第3955913号公報)、乙第2号証(特開2007-203725号公報)、乙第3号証(特開2006-26899号)、乙第4号証(特開平1-159230号公報)、乙第5号証(特開平4-158801号公報)を提出するとともに、下記のように主張している。
「請求人は、本件発明1とイ号装置とを対比した結果、本件発明1の構成要件B、Cとイ号装置の構成要件b、cとについてそれぞれ相違すると主張している。なお、請求人は、その余の構成要件、つまり、本件発明1の構成要件A、D、E、Fとイ号装置の構成要件a、d、e、fのいずれについても相違点を指摘していないことから、これら各4つの構成要件同士は相互に一致していると認めていると云える。
そこで、本件発明1の構成要件Bとイ号装置の構成要件bとの相違についてみると、本件発明1の構成要件Bでは金型を一対備えることが特定されているのに対し、イ号装置の構成要件bでは金型を二対備えるとされており、両者間で金型(外金型)の対の数が相違する。
また、本件発明1の構成要件Cとイ号装置の構成要件cとの相違についてみると、本件発明1の構成要件Cでは、少なくとも一方の金型(イ号装置の外金型に相当。以下、説明の都合上「外金型」ともいう。)には、芯型材(イ号装置の内金型に相当。以下、説明の都合上「内金型」ともいう)に近接・離間する移動部材が設けられていることが特定されているのに対し、イ号装置の構成要件cでは、4つの外金型12a?12dは互いに離間しており、かつそれぞれが持つ油圧シリンダ14a?14dによって内金型15に近接・離間する方向に移動するとされ、外金型の構成が相違する。」(判定請求答弁書8頁13行?9頁5行)

「以上のことから、本件発明1における移動部材は、スライドさせることによって、外金型と内金型との間の空間部に、パリソンと不織布(止水材)とを挟み込むため構成要素である。
一方、イ号装置における4つの外金型のうち一対の外金型12c、12dも、スライドさせることによって、外金型と内金型との間の空間部に、パリソンと不織布(止水材)とを挟み込むための構成要素である。
したがって、イ号装置の「一対の外金型12c、12d」は、本件発明1の「移動部材」とは文言上相違するが、同じ作用を奏する構成要素である。
よって、本件発明1の構成要件Cとイ号装置の構成要件cの相違点は、「移動部材」と「一対の外金型12c、12d」の設置形態が相違するだけである。つまり、本件発明1においては、「移動部材」は、外金型に設けられているのに対し、イ号装置においては、「一対の外金型12c、12d」は独立している点で相違するだけである。」(判定請求答弁書10頁13行?末行)

「最高裁平成10年2月24日判決(平成6年(オ)第1083号事件)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、以下の5つの要件を満たす場合には、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、対象製品等は特許発明の技術的範囲に属するものとするのが相当であると判示している。
(ア)異なる部分が特許発明の本質的部分でなく(第1要件)
・・・・
(ア)第1要件について
本件の明細書には、発明が解決しようとする課題として、「・・・(略)・・・環状体を成形する新たな技術を確立することが要望されていた。」(特許公報第2頁段落【0004】)と記載されており、また、その効果として、「パリソンを用いた成形により少なくとも二層に積層された環状体を成形することができ、しかも成形コストの低減を図ることができるとともに、環状体の形状変更も容易に行なえる。・・・(略)・・・」と記載されている。
また、移動部材(スライド部材)については、「スライド部材13の数も成形品の形状などを考慮して、必要数設ければよいし、一方の金型1に限らず、他方の金型2や両方の金型1、2に設けてもよい。また、移動部材としてはスライド部材13によるスライド動作に限らず、例えば回動動作などにより芯型材3に近接・離間するように移動することで、成形面の一部を形成するように構成してもよい。」(特許公報第6頁段落【0045】)と記載されているように、移動部材(スライド部材)の設置形態は発明の本質的部分ではなく、移動部材の有無が本発明の本質的部分であるといえる。
以上により、本件発明1では、内金型との間に環状体に対応する空間を形成し得る移動部材を備えていればよく、必ずしも外金型に設置される必要はない。
また、上記したように移動部材は、機能上必ずしも外金型に設置される必要はないことから、金型が一対であるか、二対であるかは当業者が適宜設計変更し得る範囲の相違にすぎず、本件特許発明の本質的部分ではない。」(判定請求答弁書11頁4行?12頁下から8行)

「以上のとおり、均等の判断にあたっての上記第1要件?第5要件は全て満たされるから、イ号装置の構成要件b、cは本件発明1の構成要件B、Cと均等なものということができる。」(判定請求答弁書15頁4行?16頁1行)

「本件発明2の構成要件Gとイ号方法の構成要件gの相違点は、本件発明2では、移動部材は、金型に設けられているのに対し、イ号方法では、一対の外金型12c、12dは独立していて、二対の外金型12a?12dがそれぞれ油圧シリンダ14a?14dによって近接・離間するものである点で相違する。
しかしながら、本件発明2とイ号方法との相違点、「移動部材」の設置形態が異なるだけであるので、前述した本件発明1とイ号装置との相違点と変わるものではない。
よって、前述したとおり、本件発明1とイ号装置は均等の範囲に含まれるものであるので、均等の範囲に含まれるイ号装置によって実施されるイ号方法もまた本件発明2と均等の範囲に含まれるものである。」(判定請求答弁書16頁20行?17頁3行)

第5 対比・判断
1.本件特許発明1とイ号装置の対比・判断
(1)本件特許発明1が特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、その構成が上記「第2 本件特許発明」のとおりであることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。
また、イ号装置について、その構成が上記「第3 イ号装置及びイ号方法」のとおりであることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。

(2)本件特許発明1とイ号装置を対比すると、イ号装置の「樹脂管ジョイント1」、「内金型15」、「スパイラル状の溝部」、「樹脂管ジョイント成形装置11」は、それぞれ、本件特許発明1の「環状体」、「芯型材」、「螺旋状の溝部」、「環状体の成形装置」に相当すると認められ、イ号装置の構成a、fは、本件特許発明1の構成要件A、Fを充足しているといえる。
そこで、構成要件B,C,D及びEの充足性について、以下に検討する。

・構成要件Bの充足性について
本件特許発明1の「金型」は一対であるのに対し、イ号装置の外金型は、天蓋を有する「一対の外金型12a、12b」と天蓋を持たない「一対の外金型12c、12d」の二対からなり、本件発明1とイ号装置は、芯型材(内金型)に対して型開きする金型(外金型)の対の数で相違する。
よって、イ号装置の構成bは、本件特許発明1の構成要件Bを充足しない。

・構成要件Cの充足性について
本件特許発明1の構成要件Cには、「C 少なくとも一方の上記金型には、上記芯型材に近接・離間する移動部材が設けられ、」とある。
「移動部材」について本件特許明細書の記載をみると、請求項1には「少なくとも一方の上記金型には、上記芯型材に近接・離間する移動部材が設けられ」ることが特定されており、また図4?7の記載から、「移動部材」が一対の金型の一方にスライド可能に取り付けられ、金型と一緒に開閉するものであることが理解される。
そうすると、本願特許発明1の「移動部材」とは、「金型」に一体的に取り付けられたものであると理解することが相当である。
これに対してイ号装置の「天蓋を有する一対の外金型」と、「天蓋を持たない一対の外金型」は、それぞれ別々に開閉するものである。
したがって、本願特許発明1の「移動部材」は、イ号装置の「天蓋を有する一対の外金型」、「天蓋を持たない一対の外金型」のいずれにも相当しない。
また、上記構成要件Cにあるように、本件特許発明1の少なくとも一方の「金型」には、芯型材に近接・離間する「移動部材」が設けられているのに対し、イ号装置の天蓋を有する「一対の外金型12a、12b」と天蓋を持たない「一対の外金型12c、12d」ともに、外金型自体には、内金型に近接・離間するように移動する部材が設けられているものでもない。
よって、イ号装置の構成cは、本件特許発明1の構成要件Cを充足しない。

・構成要件D及びEの充足性について
上記のように、イ号装置は、本件特許発明1の「金型」に設けられた「移動部材」に相当する部材を有さないことから、この「金型」に設けられた「移動部材」を含む本件特許発明1の構成要件D及びEを、イ号装置の構成d及びeは充足しているものとはいえない。

以上のように、イ号装置は、本件特許発明1の構成要件B、C、D及びEを充足しない。

(3)次に、上記構成要件B、C、D及びEに係る構成が均等であるか否かについて検討する。

(3-1)本件特許明細書によると、従来技術には、
「従来、例えば二層に積層された環状体を成形するための確立された技術はなく、例えば射出成形により上記環状体を成形しようとしても、以下のようなことから困難であった。
例えば管継ぎ手など中空状の成形品を射出成形する場合には、離型性を十分に考慮しなければならず成形が困難であるとともに、溶融樹脂を金型内のキャビティに高圧で射出して成形するため金型製作費などの成形コストが莫大になり、このため採算性などを考慮すると開発を断念せざるを得なかった。」(本件特許明細書段落【0002】?【0003】)との課題があり、この課題の解決のために、本件特許発明1?7の成形装置又は成形方法を採用することにより、
「内層が不織布A1で外層が合成樹脂A2である2層を積層した成形品Aを成形することができる。しかも、成形時にパリソンを予め延ばして型締めしているので、均一な厚みで表面等に皺がない良質な成形品Aを成形することができる。
そして、この成形品Aによって管体と管体との端部同士を、内層の不織布A1により高い止水機能をもたせた状態で接続することができる。
このようにパリソンを用いた成形により2層の円筒状の成形品Aを成形することで、金型などの製作コストを抑えることができ、成形コストの低減を図ることができるとともに、成形品Aの形状変更も容易に行なえる。また、金型からの離型性も良く全体の成形性も良いので成形品Aの歩留りの向上を図ることができる。」(本件特許明細書段落【0038】?【0040】)との効果を奏する旨、記載されている。

また、本件特許発明1の移動部材(スライド部材)について、以下の記載がある。
「金型1、2は、図示しない油圧シリンダなどの移動手段によりそれぞれ左右に移動自在に設けられており、芯型材3、並びにパリソン供給装置4のパリソン供給部41を基準にして型開き及び型締めが行われるようになされている。
前記金型1、2は、型締めした際にその中心部に全体として円柱状の開口が形成されるように図4に示すような各内周面11、21が加工されており、これら内周面11、21には凸部12、22が全体として連続した螺旋状になるように形成されている。
そして、上述したように開口を形成する上記金型1の一部は、図4に示すように移動部材としてのスライド部材13で構成されている。スライド部材13は、金型1の前後に一対設けられており、上記金型1、2とで開口を形成する成形位置と、金型1の前後側方に拡張する離間位置との間で伸縮シリンダやモータ等のアクチュエータによりスライド自在に構成されている。」(本件特許明細書段落【0022】?【0024】)、
「続いて、パリソンA2′の下端部をチャック装置により把持し、この状態でパリソン供給装置4を上昇させてパリソンA2′を軸芯方向に所定の長さ引き延ばす。この状態で金型1、2を型締めする。この際、金型1のスライド部材13は図6に示すように離間位置に配置されており、パリソンA2′はスライド部材13の除く金型1、2と芯型材3との間に不織布A1を介して挟まれた状態になる。
この後、スライド部材13を離間位置から図7に示すように芯型材3に近接する成形位置にスライドさせ、これによりスライド部材13を含む金型1、2と芯型材3とで形成されるキャビティ5にパリソンA2′と不織布A1とを挟み込む。次に、吸引・送風装置6では、前述した吸引を停止して今度はエアを通口32を通じてキャビティ5に送り込み、これによってパリソンA2′が冷却固化され、所定時間経過後に金型1、2を型開きする。」(本件特許明細書段落【0033】?【0034】)

上記の本件特許明細書の記載によると、本件特許発明1の移動部材とは、金型にスライド可能に取り付けられた「スライド部材」であり、このような金型内に下層材とパリソンを配置することにより、本件特許明細書記載の効果を奏することができると理解できる。

したがって、「型開き自在になされた一対の金型と、この金型内に配置され下層材を周面に保持する芯型材と、上記下層材と上記金型との間に上層材を形成するパリソンを供給するパリソン供給装置とを備え、少なくとも一方の上記金型には、上記芯型材に近接・離間する移動部材が設けられ」た成形装置の構成は、本件特許発明1の本質的部分といえる。

(3-2)また、本件特許の審査経過をみると、本件特許は、平成16年4月1日付けの拒絶理由通知に対して同年6月7日付けで手続補正書及び意見書が提出され、平成17年1月25日付けで刊行物等提出書が提出された後、同年8月31日付けで特許査定されたものである。
この平成17年1月25日付けで提出された刊行物等提出書には、本件特許出願に先行する先願特許出願として特願2001-309207号(特開2003-74770号公報)(以下、「先願特許」という。)が示されている。
この先願特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と本件特許発明1とは、「少なくとも一方の金型には、芯型材に近接・離間する移動部材が設けられ」た点で相違しており、審査過程における判断では、この相違点の存在を認めて、本件特許は特許査定されたものと推認される。
そうすると、「型開き自在になされた一対の金型と、この金型内に配置され下層材を周面に保持する芯型材と、上記下層材と上記金型との間に上層材を形成するパリソンを供給するパリソン供給装置とを備え、少なくとも一方の上記金型には、上記芯型材に近接・離間する移動部材が設けられ」た成形装置の構成は、本件特許発明1の本質的部分とするのが妥当である。

なお、先願特許の公開公報である特開2003-74770号公報には、下記のように記載されている。
「【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1はブロー成形法による成形実施例である。図1は成形前のブロー成形機の樹脂押し出しダイ3、外金型1、止水材5を固定した内金型2の関係を示す。外金型1は開放された状態で、止水材5を全周に渡り巻き付けた内金型2が用意。されている。
図2は外金型を閉じる直前の状態を示すものである。即ちブロー成形機のダイ3の隙間よりパリソン4を押し出す。パリソン4の押し出しと止水材5を付けた内金型2の関係はパリソン4が先に押し出されてから内金型2を下部より上昇させても、あるいは内金型2を上昇させた後パリソン4を押し出してもどちらでも良い。
図3は止水材6がセットされたコアー金型を挟んで外金型1を閉じた状態を示す。パリソン4は樹脂スパイラル管ジョイント6となるが、この時当然止水材5付き内金型2の直径よりパリソン4の直径の方が大きいため、パリソン4の一部は外金型1より外部に押し出されることになるが、この押し出された樹脂は再度使用することができる。」(段落【0017】?【0019】)

(3-3)よって、上記相違点を含む構成要件C、D及びEは、本件特許発明1の本質的部分に係る構成であるといえる。
したがって、最高裁判決平成6年(オ)第1083号に照らし、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、イ号装置が本件特許発明1に係る構成と均等なものであるということはできない。

(4)被請求人は、判定請求答弁書において「イ号装置の「一対の外金型12c、12d」は、本件発明1の「移動部材」とは文言上相違するが、同じ作用を奏する構成要素である。・・・・本件発明1の構成要件Cとイ号装置の構成要件cの相違点は、「移動部材」と「一対の外金型12c、12d」の設置形態が相違するだけである。つまり、本件発明1においては、「移動部材」は、外金型に設けられているのに対し、イ号装置においては、「一対の外金型12c、12d」は独立している点で相違するだけである。」(判定請求答弁書10頁下から9行?末行)、「「スライド部材13の数も成形品の形状などを考慮して、必要数設ければよいし、一方の金型1に限らず、他方の金型2や両方の金型1、2に設けてもよい。また、移動部材としてはスライド部材13によるスライド動作に限らず、例えば回動動作などにより芯型材3に近接・離間するように移動することで、成形面の一部を形成するように構成してもよい。」(特許公報第6頁段落【0045】)と記載されているように、移動部材(スライド部材)の設置形態は発明の本質的部分ではなく、移動部材の有無が本発明の本質的部分であるといえる。」(判定請求答弁書12頁5?15行)と主張している。

そこで、仮にイ号装置の「一対の外金型12c、12d」が、本件特許発明1の「移動部材」に対応するものとして、以下、検討する。
本件特許明細書の「さらに、スライド部材13の数も成形品の形状などを考慮して、必要数設ければよいし、一方の金型1に限らず、他方の金型2や両方の金型1、2に設けてもよい。また、移動部材としてはスライド部材13によるスライド動作に限らず、例えば回動動作などにより芯型材3に近接・離間するように移動することで、成形面の一部を形成するように構成してもよい。」(本件特許明細書段落【0045】)との記載からは、移動部材(スライド部材)は、あくまで金型に取り付けられることを前提としていることが把握され、「図4に示すように・・・・スライド部材13は、・・・・成形位置と、金型1の前後側方に拡張する離間位置との間で・・・・スライド自在に構成されている。」(本件特許明細書段落【0025】)との記載によれば、移動部材が金型から離れて位置して金型に取り付けられていない態様も想定されるとは理解できず、被請求人の上記主張のように、本件特許明細書の記載から、「移動部材(スライド部材)の設置形態は発明の本質的部分ではなく、移動部材の有無が本発明の本質的部分である」ことが導き出せるとはいえない。

また、上記(3)で検討したように、本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明1は、移動部材が設けられた一対の金型と芯型材からなる金型の構成を備えることが前提であり、移動部材が内在する金型の構成、すなわち、移動部材(スライド部材)の設置形態が本件特許発明1の本質的部分であるといえるから、被請求人が主張するように、「移動部材(スライド部材)の設置形態は発明の本質的部分ではなく、移動部材の有無が本発明の本質的部分である」とすることはできない。

そして、イ号装置の「一対の外金型12c、12d」が、本件特許発明1の「移動部材」に対応するものだとしても、「一対の外金型12c、12d」は「一対の外金型12a、12b」に内在せず、独立に動作するものであるので、本件特許発明1とイ号装置は、移動部材(スライド部材)の設置形態で相違しており、当該相違点は、上記のとおり本件特許発明1の本質的部分に係る相違点であるといえる。
したがって、最高裁判決平成6年(オ)第1083号に照らし、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、イ号装置が本件特許発明1に係る構成と均等なものであるということはできない。

(5)以上のように、イ号装置は、本件特許発明1の技術的範囲に属するものとはいえない。

2.本件特許発明4とイ号方法の対比・判断
本件特許発明4とイ号方法を対比すると、イ号方法は「金型に設けられた移動部材」を有さないことから、本件特許発明4の構成要件G及びHを、イ号方法の構成g及びhが充足しているものとはいえない。
そして、上記「1.(3)」における検討と同様に、イ号方法の構成g及びhは、本件特許発明4の構成要件G及びHと均等なものということはできない。
したがって、イ号方法は、本件特許発明4の技術的範囲に属するものとはいえない。

3.本件特許発明2、3、5ないし7とイ号装置及びイ号方法の対比・判断
本件特許発明2、3に係る請求項2、3は本件特許発明1に係る請求項1の従属項であり、本件特許発明5ないし7に係る請求項5ないし7は本件特許発明4に係る請求項4の従属項であり、本件特許発明1又は本件特許発明4の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を限定したものに相当する本件特許発明2、3、5ないし7に対しても、イ号装置及びイ号方法は、それらの技術的範囲に属するとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、判定請求書及び説明書に記載された樹脂管ジョイント成形装置及び樹脂管ジョイント成形方法は、本件特許発明1ないし7の技術的範囲に属するとすることはできない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2013-11-06 
出願番号 特願2002-300152(P2002-300152)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大島 祥吾井上 雅博  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 鈴木 正紀
井上 茂夫
登録日 2005-09-22 
登録番号 特許第3723538号(P3723538)
発明の名称 環状体の成形装置及びその成形方法  
代理人 河野 直樹  
代理人 篠 まどか  
代理人 金子 早苗  
代理人 中村 誠  
代理人 特許業務法人あーく特許事務所  
代理人 蔵田 昌俊  

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