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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1281683
審判番号 不服2012-21908  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-05 
確定日 2013-11-13 
事件の表示 特願2002-504349「充分に加硫された粉末状シリコーンゴム、その製造および用途」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月27日国際公開、WO2001/98395、平成16年 1月15日国内公表、特表2004-501253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯


本願は、平成13年6月15日(パリ条約による優先権主張 2000年6月15日 中華人民共和国(CN))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年5月18日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成24年6月28日付けで拒絶査定がなされ、同年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2.本願発明


本願の請求項1?20に係る発明は、平成23年9月12日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「シリコーンオイルラテックスを高エネルギー線照射で加硫することにより得られた加硫された粉末状シリコーンゴムであって、該加硫された粉末状シリコーンゴムは少なくとも60重量%のゲル含量を有し、また前記シリコーンラテックスはジメチルシリコーンオイルラテックス、ジエチルシリコーンオイルラテックス、メチルフェニルシリコーンオイルラテックス、およびメチルヒドロシリコーンオイルラテックスからなる群から選択される加硫された粉末状シリコーンゴム。」


第3.原査定の拒絶の理由の概要


原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献1:特開平9-249747号公報」

というものを含むものである。
以下、引用文献1を刊行物Aという。


第4.刊行物Aの記載事項


本願の優先日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

A1「
【請求項1】 シリコーンに電子線を照射して硬化せしめたシリコーンゴム。
【請求項2】 シリコーンに電子線を照射して粒状化せしめたシリコーンゴム粒子。

・・・

【請求項8】 シリコーンまたはシリコーン分散液に電子線を照射して粒状化せしめるシリコーンゴム粒子の製造方法。
【請求項9】 前記電子線の照射線量が50kGy以上である請求項8記載のシリコーンゴム粒子の製造方法。

・・・

【請求項12】 前記電子線を複数方向から照射する請求項8?請求項11のいずれかに記載のシリコーンゴム粒子の製造方法。」

A2「
【0009】本発明においてシリコーンとは、基本骨格にシロキサン結合(-SiO-)を有する化合物のことであり、このケイ素原子に結合する基としては水素原子または/および炭素数1?3のアルキル基やフェニル基、またはこれらのアルコキシ基等が挙げられる。これらの中で、ジメチルシロキサンが基本骨格として特に好ましい。また、本発明においてシリコーンゴムとは、一般的に上記シリコーンを加硫して硬化させたゴムを意味する。」

A3「
【0016】本発明において、シリコーンは電子線によって硬化されるが、用いられるシリコーンはビニル変性基を有するシリコーンには制限されない。シリコーンの種類としては、構造単位にメチル基やフェニル基を側鎖としてもつものが中心的に使用されるが、未変性をはじめ、アミノ変性、アミド変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、メルカプト変性、フェノール変性、メタクリル変性、ビニル変性、ポリエーテル変性、炭素数が2以上のアルキル変性およびフルオロアルキル変性等のシリコーンを使用することができる。これらの変性基は側鎖または末端に配することができ、従来から用いられている硬化性を有するシリコーンも用いることもできる。また、これらのシリコーンから2種以上を組み合わせたり、1分子中にこれら変性基を2種以上もっているシリコーンを使用することもできる。」

A4「
【0018】本発明においては、未硬化シリコーンの25℃における動粘性率は10×10^(-6)m^(2)/s?20000×10^(-6)m^(2)/sであることが好ましく、30×10^(-6)m^(2)/s?18000×10^(-6)m^(2)/sであることがより好ましく、50×10^(-6)m^(2)/s?15000×10^(-6)m^(2)/sであることがさらに好ましい。動粘性率が低いと引火点が低くなることがあり、また、動粘性率が高すぎると液体、特に水中に分散させることが困難になることがある。」

A5「
【0025】本発明の実施においては、処理の均一性を確保するため、被照射体を厚みの薄い状態にして電子線を照射することが好ましい。具体的には、所定の加速電圧におけるデプスドーズ曲線において被照射体の比重を考慮し、照射反対側の吸収線量が最大値の40%以上となるように厚みを設定することが好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。また、その観点からは、一方向からのみの照射でなく、二方向のように複数方向からの照射をおこなうと、処理の均一性を保ったまま処理厚みを増すことができるので好ましい。その場合、被処照射液の厚み方向中心部の吸収線量が最大値の40%以上となるように厚みを設定することが好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。」

A6「
【0026】本発明においては、未硬化のシリコーンに電子線を照射してシリコーンゴムを硬化させてから、粉砕して不定形の微粒子を得ることもできるが、球形微粒子を得るためには未硬化のシリコーンを液体中に分散させた分散液に電子線を照射することが好ましい。この場合、液体としては、シリコーンを分散することができる液体であれば何でもよいが、水を用いるのが安全性、低毒性、取り扱い性等の観点から好ましい。分散液では定法に従い、必要に応じて界面活性剤を選択して使用することが好ましい。分散液中のシリコーン濃度は高い方が電子線照射の生産効率が高いため、照射前後の分散液の安定性に問題がない限り、シリコーン濃度は5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましい。また、1回あたりの照射線量が多すぎると温度上昇によってシリコーンの分散が壊されることがあるため、1回あたりの照射線量は少ない方が好ましいが、少なすぎると電子線照射の生産効率が低下するため、1回あたりの照射線量は10?500kGyであることが好ましく、30?300kGyがより好ましく、50?100kGyがさらに好ましい。2回以上に分割して電子線を照射する場合には、照射の間において温度が高くなったシリコーン分散液を空気、水等で冷却することが好ましい。
【0027】また、本発明のシリコーンゴム粒子は、分散液中または乾燥後に電子線をはじめ、公知の方法で二次硬化することもできる。」

A7「
【0036】本発明におけるシリコーンゴム粒子の平均粒子径は、小さすぎると単糸間の隙間が小さくなり、逆に大きすぎると単糸間に入りにくくて強度向上効果が小さくなるため、0.05?50μmの微粒子が好まし く、0.07?10μmがより好ましく、0.1?1μmがさらに好ましい。
【0037】本発明におけるシリコーンゴム粒子は、後述するように、製糸工程で連続的に付与することが望ましいため水分散させて用いることが好ましい。一旦、乾燥状態にした粒子が微粒子の場合は、水中に十分分散させることは困難である。そのため、もともと水中にエマルジョン化したシリコーン分散液に電子線を照射して粒状化せしめたシリコーンゴム粒子の水分散品を用いるのが好ましい。」

A8「
【0064】実施例1
シリコーン分散液として、次の化学構造式(1)で示した基本骨格を含むジメチルシロキサン系の、動粘性率が2500×10^(-6)m^(2)/s、変性量が1重量%であるアミノ変性シリコーンを水中に分散させたシリコーン濃度20重量%の分散液を用いた。
【0065】
【化1】

この分散液をビニール袋に入れて窒素パージした後、ヒートシールした。分散液の厚みが1.5mmとなるようにして、加速電圧750kV、50kGyの線量で6回、合計300kGyの線量で電子線を照射したところ、平均粒子径0.45μm、最大直径と最小直径との比が1.05であるシリコーンゴム微粒子の分散液を得ることができた。」


第5.刊行物Aに記載された発明


刊行物Aにおいてシリコーンゴムとは、一般的に上記シリコーンを加硫して硬化させたゴムを意味するとの記載(摘示A2)があることからすると、シリコーンゴム粒子は加硫して硬化したゴム粒子であることが明らかである。また、未硬化シリコーンの25℃における動粘性率が10×10^(-6)m^(2)/s?20000×10^(-6)m^(2)/sであるとの記載(摘示A4)があることをふまえ、摘示A1の記載からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されているといえる。

25℃における動粘性率が10×10^(-6)m^(2)/s?20000×10^(-6)m^(2)/sであるシリコーンに電子線を照射して加硫して硬化せしめたシリコーンゴム粒子において、
シリコーンまたはシリコーン分散液に電子線の照射線量が50kGy以上で電子線を照射して粒状化せしめた
シリコーンゴム粒子。


第6.対比・判断


本願発明と刊行物A発明とを比較する。

刊行物A発明における「5℃における動粘性率が10×10^(-6)m^(2)/s?20000×10^(-6)m^(2)/sであるシリコーン」はオイルであることが明らかであるから、本願発明における「シリコーンオイル」に相当する。
そして、刊行物A発明における「シリコーン分散液」は、刊行物Aの「液体としては、シリコーンを分散できる液体・・・、水を用いるのが安全性、低毒性、取り扱い性等の観点から好ましい。」との記載(摘示A6)、さらに加えて、「シリコーンゴム粒子は、・・・水分散させて用いることが好ましい」との記載(摘示A7)から、水分散液の場合を包含するものであって、この場合、本願発明における「シリコーンオイルラテックス」に相当する。

刊行物A発明における「電子線」は、本願明細書の段落【0023】の「高エネルギー線の照射は、・・・および高エネルギー電子ビームからなる群から選択することが出来る」との記載から、本願発明の「エネルギー線」に相当する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
シリコーンオイルラテックスをエネルギー線照射で加硫することにより得られた加硫された粉末状シリコーンゴム。

〔相違点1〕
エネルギー線の照射量に関して、本願発明において、「高」エネルギー線と特定しているのに対し、刊行物A発明において単に「電子線」と特定している点。

〔相違点2〕
本願発明において、加硫された粉末状シリコーンゴムは少なくとも「60重量%のゲル含量を有」すると特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

〔相違点3〕
本願発明において、シリコーンラテックスは「ジメチルシリコーンオイルラテックス、ジエチルシリコーンオイルラテックス、メチルフェニルシリコーンオイルラテックス、およびメチルヒドロシリコーンオイルラテックスからなる群から選択される」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

〔相違点1〕について
本願発明において規定されている「高」エネルギー線における「高」が具体的数値範囲を意味するものではないため、本願発明における「高」エネルギー線の技術的範囲について本願明細書の記載を参酌すると、【0023】段に、「照射量は5?30メガrads」である旨の記載があることから、本願発明における、「高」エネルギー線とは「照射量が5?30メガrads」を含む範囲であることが理解できる。ただ、上記照射量が、一回当たりの照射量を意味するのか、総照射量を意味するのかは不明であるものの、上記照射量が一回当たりの照射量を意味するのなら、刊行物Aには、電子線の照射量が「50kGy」(摘示A1)、すなわち5メガrads以上で照射する旨の記載があるし、上記照射量が総照射量を意味するのなら、刊行物Aには、総照射量として「300kGy」(摘示A8)、すなわち30メガradsで照射する旨の記載がある。そうすると、上記何れを意味する場合においても、刊行物A発明における電子線の照射量と本願発明における高エネルギー線の照射量とは重複一致することとなり、この点は実質的な相違点ではない。

〔相違点2〕について
本願明細書の【0031】段に、本願発明のゲル含量に関して以下の記載があり(なお、下線は当審で付した。)、「本発明の充分に加硫された粉末状シリコーンゴムのゲル含量は、以下の手順に従って決定される。即ち、蒸発皿上に照射されたラテックスを液滴状に置き、日陰の冷所に位置させ、膜を形成すること;膜の重量が一定になった後、約0.1gの膜を計量し、それを銅のスクリーンで包み、充分に乾燥した銅スクリーンおよび膜の重量がほぼ一定になるまで、通常約8時間、トルエンで抽出することである。次いで、充分に抽出された銅スクリーンおよびラテックス膜が充分に乾燥され、正確に秤量される。充分に抽出された膜と元の膜との重量比は、ゲル含量として定義される。」上記記載から、本願発明における「ゲル含量」とは、高エネルギー線照射によって加硫されなかったトルエン抽出分を除いたシリコーンゴム成分量と抽出前のシリコーンゴムとの重量比であることが理解できる。そうすると、刊行物A発明は、得られたシリコーンゴムは粒子であり、これは未硬化シリコーンオイルが充分加硫して硬化された固形分であること、電子線の照射回数は複数であり(摘示A6)、電子線の照射方向も複数方向からの照射を行い(摘示A5)、分散液中に電子線をはじめ、公知の方法で二次硬化する(摘示A6)旨の記載があり、〔相違点1〕について でも述べたとおり、電子線の照射量にも差がないし、刊行物Aの実施例でも、一回の照射量が50kGy=5メガradsであり、総照射量が300kGy=30メガradsであることからしても、刊行物A発明におけるシリコーンゴム粒子は、上記手法により、充分に加硫して硬化されたものであるといえることから、トルエンで抽出されるような未反応シリコーンオイルが40重量%を超えて含まれている蓋然性は低いものと認められることからすると、刊行物A発明におけるシリコーンゴム粒子は少なくとも60重量%のゲル含量を有しているといえ、この点は実質的な相違点ではない。

〔相違点3〕について
本願発明で規定する「ジメチルシリコーンオイル」は、官能基を含まない旨の規定がないことからすると、「変性されたジメチルシリコーンオイル」等を包含するものと解することができる。そうすると、本願発明が規定する「ジメチルシリコーンオイル」と刊行物Aの実施例で用いているジメチルシロキサン系のアミノ変性シリコーンとの間に実質的な差異を見いだせない。
また、仮に、本願発明のシリコーンオイルが、官能基のない「ジメチルシリコーンオイル、ジエチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、およびメチルヒドロシリコーンオイル」を意味するものと解したとしても、刊行物Aには、ジメチルシロキサンが基本骨格として好ましい旨の記載(摘示A2)があることからすると、「ジメチルシリコーンオイル」が記載されているといえるし、構造単位にメチル基やフェニル基を側鎖としてもつものが中心的に使用されるが、未変性をはじめ各種変性物も使用可能である旨の記載(摘示A3)があることからすると、刊行物Aには、未硬化シリコーンオイルとして、官能基のない「ジメチルシリコーンオイル」「メチルフェニルシリコーンオイル」が記載されているといえる。そうすると、この点は実質的な相違点ではない。

よって、本願発明と刊行物A発明との間に差異はない。


第7.請求人の主張について


請求人は、審判請求書において、刊行物Aは、シリコーンラテックスがジメチルシリコーンオイルラテックス、ジエチルシリコーンオイルラテックス、メチルフェニルシリコーンオイルラテックス、およびメチルヒドロシリコーンオイルラテックスからなる群から選択される旨の開示も示唆もないことから、新規性進歩性を有する旨の主張をしているが、上記第6.〔相違点3〕について で述べたとおり、この点に関する主張を採用することはできない。


第8.まとめ


以上のとおり、本願発明すなわち本願の請求項1に係る発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-14 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-01 
出願番号 特願2002-504349(P2002-504349)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加賀 直人
田口 昌浩
発明の名称 充分に加硫された粉末状シリコーンゴム、その製造および用途  
代理人 峰 隆司  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 竹内 将訓  
代理人 野河 信久  
代理人 中村 誠  
代理人 中村 誠  
代理人 砂川 克  
代理人 福原 淑弘  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 砂川 克  
代理人 佐藤 立志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 岡田 貴志  
代理人 河野 直樹  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 佐藤 立志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 白根 俊郎  
代理人 白根 俊郎  
代理人 井関 守三  

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