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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1281825 |
審判番号 | 不服2012-7346 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-20 |
確定日 | 2013-11-15 |
事件の表示 | 特願2010- 48485「関数電卓及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日出願公開、特開2011-186567〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年3月5日の出願であって,平成23年2月9日付けで審査請求がなされ,平成23年10月31日付けで拒絶理由通知(同年11月8日発送)がなされ,同年12月15日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,平成24年1月16日付けで拒絶査定(同年1月24日謄本送達)がなされたものである。 これに対して,本件審判請求は,「原査定を取り消す,この出願の発明は,特許をすべきものであるとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として,平成24年4月20日付けで審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 そして,平成24年5月11日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ,平成25年1月24日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年2月19日発送)がなされ,同年4月11日付けで回答書の提出があったものである。 第2.平成24年4月20日付けの手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年4月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成24年4月20日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,本件補正前に, 「 【請求項1】 カラー表示可能な表示部を有する関数電卓であって, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力手段と, 前記数式入力手段により入力された数式を自然表示させる数式表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理手段と, 前記カーソル表示制御手段により自然表示される数式の構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理手段と,を備えることを特徴とする関数電卓。 【請求項2】 前記異なる階層を有する構成要素毎とは,べき乗式における整数と当該整数に掛かるべき数,又は,多重根号式における第1の根号式と当該第1の根号式の内側の第2の根号式であることを特徴とする請求項1に記載の関数電卓。 【請求項3】 カラー表示可能な表示部を有する関数電卓に使用されるコンピュータに, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力機能と, 前記数式入力機能により入力された数式を自然表示させる数式表示制御機能と, 前記数式表示機能により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御機能と, 前記数式表示制御機能により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理機能と, 前記カーソル表示制御機能により自然表示される数式の構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理機能と,を実現させることを特徴とするプログラム。 【請求項4】 前記異なる階層を有する構成要素毎とは,べき乗式における整数と当該整数に掛かるべき数,又は,多重根号式における第1の根号式と当該第1の根号式の外側の第2の根号式であることを特徴とする請求項3に記載のプログラム。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。) とあったものを, 「 【請求項1】 カラー表示可能な表示部を有する関数電卓であって, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力手段と, 前記数式入力手段により入力された数式を自然表示させる数式表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理手段と, 前記カーソル表示制御手段により自然表示される数式の異なる階層を有する構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する階層の構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理手段と,を備えることを特徴とする関数電卓。 【請求項2】 前記異なる階層を有する構成要素毎とは,べき乗式における整数と当該整数に掛かるべき数,又は,多重根号式における第1の根号式と当該第1の根号式の内側の第2の根号式であることを特徴とする請求項1に記載の関数電卓。 【請求項3】 カラー表示可能な表示部を有する関数電卓に使用されるコンピュータに, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力機能と, 前記数式入力機能により入力された数式を自然表示させる数式表示制御機能と, 前記数式表示機能により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御機能と, 前記数式表示制御機能により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理機能と, 前記カーソル表示制御機能により自然表示される数式の異なる階層を有する構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する階層の構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理機能と,を実現させることを特徴とするプログラム。 【請求項4】 前記異なる階層を有する構成要素毎とは,べき乗式における整数と当該整数に掛かるべき数,又は,多重根号式における第1の根号式と当該第1の根号式の外側の第2の根号式であることを特徴とする請求項3に記載のプログラム。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。) に補正することを含むものである。 そして,本件補正は,補正前の請求項1,3に記載した発明を特定するために必要な事項である「構成要素」を「異なる階層を有する構成要素」及び「階層の構成要素」に限定するものであって,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされることにより適用される,同法律による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを,以下に検討する。 2.独立特許要件 本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許法第29条2項に規定する要件を満たしているかについて以下に検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は,上記「1.」において,補正後の請求項1として引用した,次のものである。 「カラー表示可能な表示部を有する関数電卓であって, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力手段と, 前記数式入力手段により入力された数式を自然表示させる数式表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理手段と, 前記カーソル表示制御手段により自然表示される数式の異なる階層を有する構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する階層の構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理手段と,を備えることを特徴とする関数電卓。」 (2)引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定 本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された下記引用文献には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,当審で参考までに付与したものである。) <引用文献> 特開2007-172382号公報(平成19年7月5日出願公開) A「【0001】 本発明は,分数表示装置および分数表示プログラムに関する。 【背景技術】 【0002】 従来から,入力される各種数式の演算を実行して演算結果を表示する電卓(電子卓上計算機)として,四則演算の他に三角関数や対数関数などの演算を行うことができる関数電卓と呼ばれるものがある。 【0003】 このような関数電卓においては,入力した数式を表示する形式として,少ない行数での表示形式(以下,「1行表示形式」とする)と,一般的な教科書や書籍などに表されている表示形式(以下,「自然表示形式」とする)とがある。例えば,aの2乗を表す場合に,1行表示形式では「a^2」と表示され,自然表示形式では「a^(2)」と表示される(例えば,特許文献1参照)。更に,自然表示形式での表示が可能な関数電卓においては,演算値が1よりも大きくなる分数を自然表示形式で表示する形式として,仮分数の形式と,帯分数の形式とがある。」 B「【0026】 以下,本発明に係る分数表示装置の適用された関数電卓について,図を参照しながら説明する。 [1.構成] [1.1外観構成] 図1に,この関数電卓1の正面図を示す。 この図に示すように,関数電卓1は,各種キー群2と,ディスプレイ3とを備えている。 【0027】 各種キー群2は,ユーザから数値や演算記号等の数式構成要素の入力操作を受けたり,各種処理の指示操作を受けたりするためのキー群であり,それぞれ固有の機能を割り当てられた複数のキーを備えている。本実施の形態においては,各種キー群2は,テンキー20,演算キー21,EXEキー22,DELキー23,方向キー24,括弧キー25,仮分数キー26,帯分数キー27,分数小数変換キー28および電源キー29等を備えて構成されている。 【0028】 このうち,テンキー20は数値の入力操作を受けるキーであり,演算キー21は四則演算や積分演算,対数演算,指数演算などを実行する場合の演算子の入力操作を受けるキーである。EXEキー22は,関数電卓1に対し処理の実行や決定の指示操作を受けるキーであり,例えば数式の入力後には演算処理の実行を指示するキーとして機能するようになっている。なお,本実施の形態においては,数式として1よりも大きい仮分数が入力されている場合には,当該数式は演算処理によって帯分数の形式に変換されるようになっている。 【0029】 DELキー23は,ディスプレイ3に表示されている数値や演算子,括弧などの数式構成要素の削除操作を受けるキーである。方向キー24は,カーソルCR(図6?図12参照)を移動させたり,機能を選択したりする場合等に押下されるキーであり,本実施の形態においては,上下左右の4方向について入力可能に構成されている。括弧キー25は,開き括弧および閉じ括弧の入力操作を受けるキーである。 【0030】 仮分数キー26は仮分数や真分数の入力開始を指示するためのキーであり,帯分数キー27は帯分数の入力開始を指示するためのキーである。即ち,これら仮分数キー26および帯分数キー27は,仮分数および真分数と,帯分数との何れか一方の分数の選択操作を受けるようになっている。分数小数変換キー28は,演算結果として表示された分数と小数とを相互に変換して表示させるためのキーである。電源キー29は,関数電卓1の電源を投入/切断するためのキーである。 【0031】 ディスプレイ3は,各種キー群2の押下に応じた文字や符号,数式,演算結果などの他,関数電卓1を使用するために必要な各種データが表示される部分である。このディスプレイ3には,後述の図6?図12等に示すように,仮分数キー26が押下された場合に,仮分数又は真分数を入力するための分子表示エリア90,分母表示エリア91および括線93が設定され,帯分数キー27が押下された場合に,帯分数を入力するための整数部表示エリア92,分子表示エリア90,分母表示エリア91および括線93が設定されるようになっている。なお,本実施の形態における分子表示エリア90,分母表示エリア91および整数部表示エリア92は,矩形状の枠で囲まれて表示される。また,本実施の形態におけるディスプレイ3は,ドットマトリクス液晶で構成されているものとして説明するが,例えば,TFT(ThinFilmTransistor)液晶であったり,PDP(PlasmaDisplayPanel)であったり他の表示装置でも良いことは勿論である。」 C「【0044】 [2.2第2動作例] 続いて,第2動作例として,帯分数が入力される場合の関数電卓1の動作について説明する。 【0045】 まず,図3,図7(a)に示すように,CPU8は,ユーザにより帯分数キー27が押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作であり(ステップS2;Yes),仮分数キー26の操作ではなく(ステップS20;No),帯分数キー27の操作である(ステップS21;Yes)として順に判定を行った後,ディスプレイ3に帯分数の整数部表示エリア92,分子表示エリア90,括線93および分母表示エリア91を設定して表示させ(ステップS26),上述のステップS1に処理を移行する。 【0046】 次に,図3,図4,図7(b)に示すように,CPU8は,ユーザによりテンキー20,本動作例では「1」のキーが押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作ではなく(ステップS2;No),方向キー24,仮分数キー26および帯分数キー27の操作ではなく(ステップS3?ステップS5;No),テンキー20の操作である(ステップS6;Yes)として順に判定を行う。次に,CPU8は,カーソルCRの位置に基づき,当該テンキー20の操作が分母および分子への入力操作ではなく(ステップS60?ステップS61;No),整数部分への入力操作であると判定し(ステップS62;Yes),整数部表示エリア92に「1」を下線付きで入力して表示させ(ステップS67),上述のステップS1に処理を移行する。 【0047】 次に,図3,図4,図7(c)に示すように,CPU8は,ユーザにより方向キー24,本動作例では「→」のキーが押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作ではなく(ステップS2;No),方向キー24の操作である(ステップS3;Yes)として順に判定を行った後,指定された方向(ここでは右方向)にカーソルCRの表示位置を移動させ(ステップS30),上述のステップS1に処理を移行する。 【0048】 次に,図3,図4,図7(d)に示すように,CPU8は,ユーザによりテンキー20,本動作例では「2」のキーが押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作ではなく(ステップS2;No),方向キー24,仮分数キー26および帯分数キー27の操作ではなく(ステップS3?ステップS5;No),テンキー20の操作である(ステップS6;Yes)として順に判定を行う。次に,CPU8は,カーソルCRの位置に基づき,当該テンキー20の操作が分母への入力操作ではなく(ステップS60;No),分子への入力操作であると判定し(ステップS61;Yes),分子表示エリア90に「2」を入力して表示させ(ステップS66),上述のステップS1に処理を移行する。 【0049】 次に,図3,図4,図7(e)に示すように,CPU8は,ユーザにより方向キー24,本動作例では「↓」のキーが押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作ではなく(ステップS2;No),方向キー24の操作である(ステップS3;Yes)として順に判定を行った後,指定された方向(ここでは下方向)にカーソルCRの表示位置を移動させ(ステップS30),上述のステップS1に処理を移行する。 【0050】 次に,図3,図4,図7(f)に示すように,CPU8は,ユーザによりテンキー20,本動作例では「3」のキーが押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作ではなく(ステップS2;No),方向キー24,仮分数キー26および帯分数キー27の操作ではなく(ステップS3?ステップS5;No),テンキー20の操作である(ステップS6;Yes)として順に判定を行う。次に,CPU8は,カーソルCRの位置に基づき,当該テンキー20の操作が分母への入力操作であると判定し(ステップS60;Yes),分母表示エリア91に「3」を入力して表示させ(ステップS65),上述のステップS1に処理を移行する。 【0051】 次に,図3?図5,図7(g)に示すように,CPU8は,ユーザによりEXEキー22が押下されると(ステップS1;Yes),当該キー操作が新規な数式構成要素の入力操作ではなく(ステップS2;No),方向キー24,仮分数キー26,帯分数キー27,テンキー20,演算キー21,括弧キー25およびDELキー23の操作ではなく(ステップS3?ステップS9;No),EXEキー22の操作である(ステップS10;Yes)として順に判定を行う。そして,CPU8は,表示されている数式に構文上の誤りがないものと判定し(ステップS11;No),演算を実行してその結果をディスプレイ3に表示させた後(ステップS12),上述のステップS1に処理を移行する。」 D「【0101】 [3.変形例] 上述した実施の形態では,本発明に係る分数表示装置が関数電卓に適用されることとして説明したが,携帯電話やパソコン,電子時計,PDA(PersonalDigitalAssistants)などに適用されることとしても良い。 【0102】 また,CPU8は帯分数の整数部分に下線を付けることで当該整数部分を識別表示することとして説明したが,整数部分に波線など他形態の線や傍点を付けることで識別表示することとしても良いし,整数部分を太字体や斜字体とすることで識別表示することとしても良いし,整数部分や背景の色を変えることで識別表示することとしても良いし,整数部分を枠や括弧,引用符等で囲むことで識別表示することとしても良い。」 以下に,上記引用文献の記載事項について検討する。 ア.引用文献は,上記Bに「本発明に係る分数表示装置の適用された関数電卓について,図を参照しながら説明する」と記載されているように,「分数表示装置」が適用された「関数電卓」を説明する文献であるところ, 当該「関数電卓」の表示に関し,上記Aの「このような関数電卓においては,入力した数式を表示する形式として,・・・一般的な教科書や書籍などに表されている表示形式(以下,「自然表示形式」とする)とがある。・・・更に,自然表示形式での表示が可能な関数電卓においては,演算値が1よりも大きくなる分数を自然表示形式で表示する形式として,仮分数の形式と,帯分数の形式とがある。」との記載,及び図7の関数電卓の画面表示において,帯分数を自然表示形式で表示している態様から,引用文献には, 「帯分数を自然表示形式で表示可能な,関数電卓」が記載されているといえる。 イ.上記「関数電卓」に関し, 上記Bの「関数電卓1は,各種キー群2と,ディスプレイ3とを備えている」,「各種キー群2は,ユーザから数値や演算記号等の数式構成要素の入力操作を受けたり,各種処理の指示操作を受けたりするためのキー群であり」との記載から, 上記「関数電卓」は,「ユーザから数値や演算記号等の数式構成要素の入力操作を受けるキー群」を備えることがよみとれる。 ウ.上記「関数電卓」に関し, 上記Bの「関数電卓1は,各種キー群2と,ディスプレイ3とを備えている」,「ディスプレイ3は,各種キー群2の押下に応じた文字や符号,数式,演算結果などの他,関数電卓1を使用するために必要な各種データが表示される部分である。・・・帯分数キー27が押下された場合に,帯分数を入力するための整数部表示エリア92,分子表示エリア90,分母表示エリア91および括線93が設定されるようになっている」との記載から,上記「関数電卓」は,「各種キー群の押下に応じた文字や符号,数式,演算結果などの他,関数電卓を使用するために必要な各種データが表示される,ディスプレイ」を備えることがよみとれ, また,上記「ディスプレイ」の表示に関して,上記Cの「CPU8は,ユーザにより方向キー24,本動作例では「→」のキーが押下されると・・・指定された方向(ここでは右方向)にカーソルCRの表示位置を移動させ」,「CPU8は,ユーザにより方向キー24,本動作例では「↓」のキーが押下されると・・・指定された方向(ここでは下方向)にカーソルCRの表示位置を移動させ」との記載から, 上記「ディスプレイ」は,「ユーザによる方向キーの操作に応じて,指定された方向にカーソルCRの表示位置を移動させて表示するもの」であることがよみとれる。 エ.上記Dの「また,CPU8は帯分数の整数部分に下線を付けることで当該整数部分を識別表示することとして説明したが,・・・整数部分や背景の色を変えることで識別表示することとしても良い」との記載から, 「帯分数の整数部分の識別表示として,整数部分の色を変えることで識別表示する」ことを含むことがよみとれる。 以上,ア?エで指摘した事項から,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 帯分数を自然表示形式で表示可能な,関数電卓であって, ユーザから数値や演算記号等の数式構成要素の入力操作を受けるキー群と, 各種キー群の押下に応じた文字や符号,数式,演算結果などの他,関数電卓を使用するために必要な各種データが表示される,ディスプレイとを備え, 前記ディスプレイは,ユーザによる方向キーの操作に応じて,指定された方向にカーソルCRの表示位置を移動させて表示するものであり, 前記帯分数の整数部分の識別表示として,整数部分の色を変えることで識別表示することを含む,関数電卓。 (3)本願補正発明と引用発明との対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (3-1)引用発明の「関数電卓」が備える「ディスプレイ」は,「整数部分の色を変えることで識別表示」できるものであるから,カラー表示可能な表示部といえるものであり, してみると,引用発明である「ディスプレイ」を備える「関数電卓」は,本願補正発明である「カラー表示可能な表示部を有する関数電卓」に相当する。 (3-2)引用発明の「ユーザから数値や演算記号等の数式構成要素の入力操作を受けるキー群」は,本願補正発明の「ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力手段」に相当する。 (3-3)引用発明の「ディスプレイ」は,「各種キー群の押下に応じた文字や符号,数式,演算結果などの他,関数電卓を使用するために必要な各種データが表示される」ものであるが,当該「ディスプレイ」における「表示」のための所定の表示制御手段を有することは,表示装置における常とう手段であるから, 引用発明の「各種キー群の押下に応じた文字や符号,数式,演算結果などの他,関数電卓を使用するために必要な各種データが表示される,ディスプレイ」のための表示制御手段は,本願補正発明の「前記数式入力手段により入力された数式を自然表示させる数式表示制御手段」に相当する。 (3-4)引用発明の「ディスプレイ」はまた「帯分数を自然表示形式で表示可能」なものであるとともに,「ユーザによる方向キーの操作に応じて,指定された方向にカーソルCRの表示位置を移動させて表示するものであ」るが,当該「表示」のための所定の表示制御手段も,上記(3-3)で述べたのと同様に,常とう手段として有しているといえ,また,上記「カーソルCRの表示」が数式に対してなされているものであることは,図7等に示される態様からも明らかであることから, 引用発明の「帯分数を自然表示形式で表示可能」であり,「ユーザによる方向キーの操作に応じて,指定された方向にカーソルCRの表示位置を移動させて表示する」,「ディスプレイ」のための表示制御手段は,本願補正発明の「前記数式表示制御手段により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御手段」に相当する。 (3-5)本願補正発明における「数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素」に関し,出願当初の発明の詳細な説明の段落【0006】の「請求項2の発明は,請求項1に記載の電子計算機において,前記異なる階層を有する構成要素毎とは,・・・,又は,帯分数式における整数と分数,であることを特徴とする。」との記載があることを参酌すれば,帯分数式における整数と分数は,一般に「数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素」に含まれるものであると解される。 それに対し,引用発明において表示される「帯分数」は整数部分と分数部分を含み,これは上述のように,「数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素」といえるものであるから,以上を総合すると,引用発明の「帯分数」式における整数部分と分数部分は,本願請求項1の記載から把握できる本願補正発明の「数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素」に実質的に相当するといえ,格別な差異とは認められない。 また,引用発明は,上記「帯分数」のうち,「整数部分の色を変えることで識別表示することを含む」ものであり,これは「帯分数」の構成要素が色により識別可能に表示されることに他ならない。そして,本願補正発明における,異なる階層を有する構成要素について,「階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する」ことも,上位概念において,色により識別可能に表示することであるといえる。 してみると,引用発明の「ディスプレイ」のための表示制御手段により「自然表示形式」で表示される「帯分数」の整数部分と分数部分とを,「整数部分の色を変えることで識別表示する」ための手段と,本願補正発明の「前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理手段」とは,ともに,“前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する構成要素について,色により識別可能に表示する数式カラー処理手段”である点で共通するといえる。 以上から,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。 (一致点) カラー表示可能な表示部を有する関数電卓であって, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力手段と, 前記数式入力手段により入力された数式を自然表示させる数式表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する構成要素について,色により識別可能に表示する数式カラー処理手段と, を備えることを特徴とする関数電卓。 (相違点1) 数式カラー処理手段について, 本願補正発明は,「異なる階層を有する各構成要素」について,「階層ごとに定められた異なる色を付けて表示」しているのに対し, 引用発明は,「帯分数」の整数部分については色を変えて識別可能に表示されているものの,整数部分と分数部分の両方に対し,「階層ごとに定められた異なる色を付けて表示」する処理までは行っていない点。 (相違点2) 本願補正発明は,「カーソル表示制御手段により自然表示される数式の異なる階層を有する構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する階層の構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理手段」を備えているのに対し, 引用発明は,カーソルと「帯分数」の表示に関し,そのような構成は備えていない点。 (4)判断 上記相違点1及び2について検討する。 一般に,情報処理装置での異なる階層に属する文字データ表示として,異なる階層の文字ごとに指定した異なる色で表示させることは,本願出願時において周知の技術(例えば,下記周知文献1,周知文献2の記載を参照)であり,引用発明における,帯分数の式の整数部分と分数部分の表示に対し,上記周知技術を適用して,「異なる階層を有する各構成要素」について「階層ごとに定められた異なる色を付けて表示」するようすることに,格別困難性は認められない。 また,一般的なコンピュータにおけるカーソル表示として,カーソルが属する表示位置の文字と同じ色で表示することは,例えば,上記平成23年10月31日付けの拒絶理由通知でも例示した,「au Mobile Hi-Vision CAM Wooo」に実装されているデコレーションメールを作成するエディタについての事例や,下記周知文献3にも記載のように,周知の技術であるところ, 引用発明の如くカーソルと階層を有する文字データとを同時に表示するものが,通常有するであろうカーソルの視認性向上という課題の解決のために,上記周知の技術(情報処理装置でのカーソル表示に関し,カーソルが属する表示位置の文字と同じ色で表示すること)を適用する際に,カーソルが属する表示位置の文字の特に階層に着目して,カーソルを表示する色を決定するよう構成する程度のことは,当業者であれば適宜なし得ることである。 してみると,引用発明における,整数部分と分数部分を有する帯分数,及びカーソルの表示に対し,上記周知の技術を適用し,「異なる階層を有する各構成要素」について,「階層ごとに定められた異なる色を付けて表示」するとともに,「カーソル表示制御手段により自然表示される数式の異なる階層を有する構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する階層の構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理手段」を備えるごとく構成とすること,すなわち,相違点1及び相違点2に係る構成とすることは,当然の如く想到する構成に過ぎない。 よって,相違点1及び相違点2は格別なものではない。 <周知文献1> 特開平3-36626号公報(平成3年2月18日出願公開)の記載事項(当審注:下線は,当審で参考までに付与したものである。) ・「〔産業上の利用分野〕 本発明はコンピュータ等の情報処理装置において取り扱われるソース・プログラム等のテキスト・データ,特にこれらのデータが入子構造を有する場合において有効なテキスト・データの表示方法および装置に関する。」(3頁左下欄1行目?6行目) ・「第13図(a)は本実施例によって処理されたテキスト・データの表示データの一例を示したものであり,テキスト・データが“(((a+b)*c)-d)”で,入子構造の深さ0,1,2,3,・・・に対応する色情報が第13図(c)に示すように青,緑,赤の循環として設定してある場合,各文字,記号等が何色で表示されるかを示したものである。ここで,開き括弧記号「(」は深さの階層が深くなることを意味し,閉じ括弧記号「)」は深さの階層が浅くなることを意味する。したがって,まず最初に開き括弧記号OPIが読み出されると,入子構造識別手段20はこれを識別して深さカウンタ21の記憶内容を「1」増加し,入子が「1」だけ深くなったことを検出する。そして,この状態は次の文字,記号等に反映される。このため,括弧記号OPlは青で表示され,続く開き括弧記号OP2は緑で表示される。ここで,この続く文字,記号等が開き括弧記号OP2であるため,深さカウンタ21の記憶内容は更に「1」増加し,「2」となる。従って,開き括弧記号OP3は赤で表示され,更にこれが開き括弧記号OP3であることから,深さカウンタ21は更に「1」増加し,「3」となる。そのため,続く「a」,「+」,「b」は青で表示される。」(6頁左下欄9行目?右下欄12行目) <周知文献2> 特開昭63-289636号公報(昭和63年11月28日出願公開)の記載事項(当審注:下線は,当審で参考までに付与したものである。) ・「[発明が解決しようとする問題点] 上記従来技術は,プログラムの構文要素の属性の表示については配慮されておらず,プログラムの構造や構文の確認や理解,誤りの発見には不十分な点があった。 また従来技術を含め,プログラムの構造や属性の表示は,プログラムの入力や編集時に実行して,即時に確認・修正できる必要がある。 本発明の目的は,プログラムの入力編集装置において,プログラムの構造と構文要素の属性の認別(当審注:「識別」の誤記と解される)表示を行うことにある。」(2頁左下欄4行目?14行目) ・「第5の実施例は,入力したプログラム中に存在する多重のブロックからなる構文を,ブロックの深さレベルごとにブロック内の文字列を異なる表示属性で表示する手段である。 第1図20がブロック構文抽出・要素分類手段である。12の文字列バッファの文字列から,LISPのブロック構文PROG,LET,DO文を抽出する。抽出の手順は,関数名の抽出と同様で,関数名としてPROG,LET,DOのリストを抽出する。各ブロック構文の文字列バッファ上での先頭位置と終了位置のリストをマージ・ソートすることにより,各ブロックレベルの範囲が求められる。第8図は,ブロックレベルの表示例で,各ブロックレベルの範囲を深さレベルによって,赤,黄,青,独(当審注:「空」の誤記と解される),紫,白に色分けする。なお,ブロックレベルの表示対象範囲を文字カーソル位置によって変更可能なものは,前発明と同じである。 本実施例のブロック・レベルによる色分けにより,プログラム・ブロックの制御範囲ローカル変数の有効範囲が目視チェックできる利点がある。」(5頁左下欄14行目?右下欄13行目) (当審注:上記「ブロック」の「深さレベル」が階層に相当するもので,「ブロック」に含まれる「文字列」は階層に属するものであるといえ,階層ごとに「色」分けされて表示されている。) <周知文献3> 特開昭63-141095号公報(昭和63年6月13日出願公開)の記載事項(当審注:下線は,当審で参考までに付与したものである。) ・「〔産業上の利用分野〕 本発明はキャラクタカーソル表示方式,特に,ビットマップ表示におけるキャラクタカーソル表示方式に関する。 〔従来の技術〕 従来のこの種のキャラクタカーソル表示方式は,文字パターンメモリ,アトリビュートパターンメモリおよびグラフィックメモリの各記憶内容とキャラクタカーソルのパターンとを演算して合成し,この合成した結果物である,文字もしくはグラフとキャラクタカーソルとの混合パターンを表示するようにしている。」(1頁右下欄2行目?13行目) ・「本発明の方式は,色別に文字もしくはグラフを描画するための複数個のビデオメモリと,文字ごとに文字固有の情報を格納するアトリビュート情報格納域と,キャラクタカーソルを表示したい位置にある文字の座標が設定される座標格納域と,上記文字座標が設定されると対応する文字固有情報をアトリビュート情報格納域から読み込みこの読み込んだ文字固有情報によりビデオメモリを選択するビデオメモリ選択部と,上記文字座標と予め具備するキャラクタカーソルのパターンとを論理演算しこの論理演算の結果を上記選択されたビデオメモリのうちの上記設定された文字座標の位置に描画するビデオメモリ演算部とを有することを特徴とする。」(2頁左上欄2行目?15行目) (当審注:表示される「文字」の位置に重ねて表示する「キャラクタカーソル」は,「文字」の「座標」をもとに「色別に文字もしくはグラフを描画するための複数個のビデオメモリ」から「ビデオメモリを選択」して表示処理を行っていることから,「文字」と同じ色で表示が行われるよう処理されているものと解される。) (5)小括 上記で検討したごとく,相違点1及び相違点2は格別のものではなく,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 したがって,本願補正発明は,上記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3.本件補正についての結び 上記で検討した通り,本願補正発明は,第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされることにより適用される,同法律による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本件審判請求の成否について 1.本願発明の認定 平成24年4月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成23年12月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「カラー表示可能な表示部を有する関数電卓であって, ユーザから数式の入力操作を受ける数式入力手段と, 前記数式入力手段により入力された数式を自然表示させる数式表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示された数式に対して,カーソルをユーザの操作に応じて移動可能にして表示させるカーソル表示制御手段と, 前記数式表示制御手段により自然表示される数式の構成要素のうち,異なる階層を有する各構成要素について,階層ごとに定められた異なる色を付けて表示する数式カラー処理手段と, 前記カーソル表示制御手段により自然表示される数式の構成要素上に表示されるカーソルに,当該カーソルが属する構成要素と同じ色を付けて表示するカーソルカラー処理手段と,を備えることを特徴とする関数電卓。」 2.引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定 原査定の拒絶の理由に引用された,引用文献およびその記載事項は,前記「第2 平成24年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.独立特許要件」の「(2)引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は,前記「第2 平成24年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.独立特許要件」で検討した本願補正発明から「異なる階層を有する」及び「階層の」を削除したものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が,上記「第2 平成24年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.独立特許要件」の「(4)判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-27 |
結審通知日 | 2013-09-17 |
審決日 | 2013-09-30 |
出願番号 | 特願2010-48485(P2010-48485) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大塚 俊範 |
特許庁審判長 |
仲間 晃 |
特許庁審判官 |
金子 幸一 田中 秀人 |
発明の名称 | 関数電卓及びプログラム |