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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1282462
審判番号 無効2012-800150  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-09-14 
確定日 2013-10-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4943225号発明「金型清浄剤組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4943225号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。
平成19年 5月15日 特許出願(特願2007-129754号)
平成24年 3月 9日 設定登録(特許第4943225号)
平成24年 9月14日 本件無効審判請求(請求項1乃至8に対して)
平成24年12月 3日 答弁書
平成25年 3月11日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成25年 3月11日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成25年 3月25日 上申書(請求人)
平成25年 3月25日 口頭審理
平成25年 3月27日 調書(作成日)
平成25年 4月18日 審決の予告
平成25年 6月17日 訂正請求
平成25年 7月25日 弁駁書

第2 平成25年6月17日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」という)について
1.本件訂正請求の内容(審決注:下線部分が訂正箇所である。)
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項(a)
訂正事項(a)は、本件特許の請求項1において、
「かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されていること」とあるのを、「かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されていること」と訂正するものである。
(2)訂正事項(b)
訂正事項(b)は、明細書の段落【0007】において、
「かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されている」とあるのを、「かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されている」と訂正するものである。
(3)訂正事項(c)
訂正事項(c)は、明細書の段落【0008】において、
「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において上記特定範囲の重量平均分子量(Mw)を備えた清浄剤組成物であると、」とあるのを、「清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において上記特定範囲の重量平均分子量(Mw)を備えた清浄剤組成物であると、」と訂正するものである。
(4)訂正事項(d)
訂正事項(d)は、明細書の段落【0009】において、
「その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において特定範囲となるものである。」とあるのを、「その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、上記組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において特定範囲となるものである。」と訂正するものである。
(5)訂正事項(e)
訂正事項(e)は、明細書の段落【0046】において、
「このようにして得られる金型清浄剤組成物は、その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、」とあるのを、「このようにして得られる金型清浄剤組成物は、その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、上記組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、」と訂正するものである。

2.本件訂正請求についての判断
(1)訂正事項(a)について
訂正事項(a)は、金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定がクロロホルム可溶分に対して行われることを特定するよう訂正したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
そして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定がクロロホルム可溶分に対して行われることは、本件明細書の段落【0047】の「上記GPCの測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、得られた金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸漬し、3日間放置する。その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で加熱乾固させる。得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置する。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液について、所定の条件および分析装置を用いてGPCの測定を行う。」という記載、及び、本件明細書の段落【0065】の「得られた各シート状金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)をつぎのようにして測定した。まず、上記得られたシート状金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸漬し、3日間放置した。その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で、50℃で加熱乾固させた後、得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置した。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液についてGPC分析装置(東ソー社製、HLC-8120GPC)を用いて下記の測定条件にて重量平均分子量(Mw)の測定を行った。」という記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項であることは明らかである。

したがって、上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項(b)?(e)
上記訂正事項(b)?(e)については、上記訂正事項(a)との整合を図るために行ったものであり、この訂正は特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(3)まとめ
したがって、上記訂正事項(a)?(e)は、特許法134条の2第1項及び同条第9項で準用する特許法126条第5、6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 本件発明
上記「第2」において、本件訂正請求による訂正は適法な訂正と認められるので、本件特許の請求項1乃至8に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1乃至8に係る発明をまとめて「本件発明」という。)。
1.本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項1】
成形材料を用い繰り返し成形を行う加熱成形用金型の清浄剤組成物であって、上記清浄剤組成物が、下記(A)の未加硫ゴムと清浄剤と加硫剤を必須成分とし、かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されていることを特徴とする金型清浄剤組成物。
(A)エチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、またはエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるEPDMと1,4-ポリブタジエンとの混合物。」
2.本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項2】
金型清浄剤組成物がシート状または短冊状に形成されている請求項1記載の金型清浄剤組成物。」
3.本件特許の請求項3に係る発明(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項3】
清浄剤が、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類およびアミノアルコール類からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の金型清浄剤組成物。」
4.本件特許の請求項4に係る発明(以下、「本件発明4」という。)
「【請求項4】
金型清浄剤組成物が、1?20重量%の水分を含有する請求項1?3のいずれか一項に記載の金型清浄剤組成物。」
5.本件特許の請求項5に係る発明(以下、「本件発明5」という。)
「【請求項5】
金型清浄剤組成物が、離型剤を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の金型清浄剤組成物。」
6.本件特許の請求項6に係る発明(以下、「本件発明6」という。)
「【請求項6】
金型清浄剤組成物がシート状であって、それ自体のシート面に、複数の直線状の切れ込みが、一方方向に所定間隔で平行に設けられている請求項1?5のいずれか一項に記載の金型清浄剤組成物。」
7.本件特許の請求項7に係る発明(以下、「本件発明7」という。)
「【請求項7】
切れ込みが、シートを折り畳み可能とするように設けられている請求項6記載の金型清浄剤組成物。」
8.本件特許の請求項8に係る発明(以下、「本件発明8」という。)
「【請求項8】
切れ込みが、その切れ込み部分からカッティングできるように設けられている請求項6記載の金型清浄剤組成物。」

第4 請求人の主張
1.要点
請求人は、本件特許第4943225号の特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠方法として、以下の甲第1、2号参考資料を提出した。
そして、本件特許無効審判請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書によれば、請求人の主張は、以下の(1)?(3)のとおりであり、弁駁書によれば、訂正後の請求項1に記載された発明についての主張は(4)のとおりである。
(1)本件の発明の詳細な説明の記載は、以下のアの事項について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
ア.本件発明1、2、4?8における「清浄剤」

(2)本件の特許請求の範囲の請求項1乃至8の記載は、以下のア?エの事項について特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
ア.本件発明1、2、4?8における「清浄剤」
イ.本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」
ウ.本件発明1?3、5?8において、「配合した水」を必須成分としてない点
エ.本件発明4?8において、水分の含有量が「1?20重量%」である点

(3)本件の特許請求の範囲の請求項1乃至8の記載は、以下のア?ウの事項について特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
ア.本件発明1?8における、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定
イ.本件発明4?8における水分の含有量
ウ.本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」

(4)訂正後の請求項1の発明(本件発明1)は、金型清浄剤組成物の試料を浸漬して可溶分を抽出するための溶剤をクロロホルムに特定するだけでは、測定用試料を調製する段階、及び、GPC測定装置を用いて測定を行う段階に必要な溶剤や条件を、請求項1において十分に特定できておらず、特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていない。

<証拠方法>
甲第1号参考資料:特開昭60-71651号公報
甲第2号参考資料:特開2005-248078号公報

<各証拠方法の記載>
甲第1号参考資料には、「ペレツト状エチレン-αオレフイン系共重合体ゴム」(発明の名称)について、次の記載がある。
「ペレツト状ゴムの粘着性の防止に無機粉末、例えば粉末炭酸カルシウム、タルク等をまぶす方法が知られているが、ペレツト表面に均一にまぶすことが容易ではなくかつ大量に添加すれば、ゴム配合物の物性の低下を起し、またフイラーの吸湿性等による用途が限られるという問題がある。」(2頁左上欄2?7行)

甲第2号参考資料には、「吸湿性樹脂組成物及びこれを用いた吸湿性成形品の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0013】
吸湿性粉末としては、特に制限されず、公知の粉末状吸湿剤、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト、硫酸銅などの金属硫酸塩、炭酸カルシウム、シリカゲル、ゼオライト、活性アルミナ等の乾燥剤などが挙げられる。これらの吸湿性粉末は、単独で又は複数の種類を組み合わせて用いられる。成形品を食品の包装に用いる場合には、安全性、調湿性等の観点から、少なくとも硫酸マグネシウムを含む吸湿剤が好ましく用いられ、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウムとシリカの混合物などが特に好ましい。硫酸マグネシウムは、式:MgSO_(4)・nH_(2)O(nは0?3の整数)で表される。硫酸マグネシウムとしては、無水の硫酸マグネシウム(n=0)又は低含水量の硫酸マグネシウム(n=1又は2)が好ましい。」

2.請求人は、本件特許を無効にすべき理由として、具体的には、概ね以下のように主張している。
(1)特許法第36条第4項第1号について
ア.本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について
(請求書における主張)
本件明細書には、本件発明1における清浄剤が何なのかを定義する記載がない。本件発明1において清浄剤は何ら限定されていないから、広範な物質の中から任意に選択して使用されるべきものである。本件明細書の記載全体に照らせば、「清浄剤」とは、金型を用いて熱硬化性樹脂組成物成形材料の成形作業を繰り返し行うことによって当該金型に付着した汚染物を除去するための剤であろうことは推測できる(【0001】、【0009】)が、清浄剤のより詳しい概念は、本件明細書の記載に照らしてみても不明である。そして、本件明細書には、清浄剤について4つの化合物群(グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダソリン類、アミノアルコール類)を具体例として示されているだけである。
広範な物質のなかから本件発明1のために清浄剤成分を選び出すためには、清浄剤成分として機能する可能性が高い物質に共通する化学構造、性状、物性などといった清浄剤成分として選択するための基準となる何がしかの情報が必要になるが、そのような情報は、本件明細書に一切記載されていない。
それゆえ、当業者が本件発明1を得るために、本件明細書に具体的に記載された上記4つの化合物群以外の物質を清浄剤成分として用いようとしたときに、本件明細書の記載及び本件発明の出願時における技術常識に基づいて広範な物質の中から適切なものを任意に選び出そうとしても、どのような物質を清浄剤成分として用いることができるのか理解することができず、極めて過度の試行錯誤を要することになる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。さらに、本件発明1に従属する本件発明2及び本件発明4乃至8も、同様の不備がある。

(答弁書に対する反論)
本件発明1は、シート状等の固形の金型清浄剤組成物を金型に挟み、金型を締めて加熱加圧することによって金型清浄剤組成物を加硫ゴム化してキャビティ内に充填し、その際にキャビティ内に形成されている離型剤の酸化劣化層等を加硫ゴム化した金型清浄剤組成物に一体化させることで、金型内の汚れを除去するものである(【0008】、【0054】)。
乙第1?3号証に記載された清浄剤組成物は液体であり、キャビティ内に液体のものを接触させて使用するものである。具体的には金型を液体の清浄組成物に浸漬したり、金型に塗布して拭き取ったりすることであるから、本件発明1の金型清浄組成物とは使用方法が異なっている。それゆえ、乙第1?3号証に記載された清浄剤成分を本件発明1において加硫ゴム中に混合して用いた場合に洗浄作用を示すかどうかを技術常識に照らして当然のように予測することは不可能である。
したがって、乙第1?3号証は、本件発明1のように加硫ゴム化させて金型のキャビティに充填させる使用方法に用いる金型清浄剤組成物における清浄剤とはどのようなものであるかが技術常識であったという証拠にはならない。
本件発明2及び本件発明4乃至8も、同様の不備がある。

(口頭審理陳述要領書に対する反論)
被請求人の口頭審理陳述要領書(4頁下から1行?5頁3行)には、次のとおり記載されている。
「例えば上記と同様の実験を行った際に、金型に対する充填性に悪影響を与えることなく、本件特許発明と同一の作用効果を奏する一般的な清浄剤を用いた場合につきましては、均等論により本件特許発明の技術的範囲に属するものと言えます。」
しかし、本件発明1にとって何が「一般的な清浄剤」といえるのかについて、本件明細書に判断基準となる情報が記載されていないから不明である。
当業者は、ある物質を本件発明1における清浄剤として用いようとしたときに、実際に実験を行わない限り、当該物質が、金型に対する充填性等に悪影響があるのか、ないのか、或いは、本件明細書の実施例で清浄剤として用いられた化合物と同一の作用効果を奏するのか、奏しないのか分からないから、清浄剤を選び出すために極めて過度の試行錯誤を要することになる。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア.本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について
(請求書における主張)
本件明細書の実施例(【0069】表1、【0070】表2)は、次の4つの化合物を用いた実験例を示している。
グリコールエーテル類の代表例として、エチレングリコールモノエチルエーテル(表1の脚注*5)、イミダゾール類の代表例として、2,4-ジアミノ-6〔2’-メチルイミダゾリニル(1)'〕エチル-s-トリアジン(表1の脚注*3)、イミダゾリン類の代表例として、2-メチル-4-エチルイミダゾリン(表1の脚注*4)、及び、アミノアルコール類の代表例として、2-アミノ-2-メチルプロパノール(表1の脚注*6)。
しかし、本件明細書の実施例(表1、表2)は、金型に対する充填性(キヤビティ充填率)について評価結果を示しているのみであり、金型の汚染に対する清浄効果について何一つ評価結果を示していないから、本件発明の課題を解決し得る程度の清浄効果というものが、客観的基準と照らしてみたときに、一体どの程度の清浄効果を意味するものなのかまでは、理解することができない。
本件明細書に記載された上記4つの化合物群は、実施例で代表例として用いられた4つの化合物と共通の化学構造を有している。
しかし、化学構造が共通する化合物群の中には分子量、置換基の有無、置換基の位置などの化学構造上の相違によって性質が異なる種々の物質が含まれているから、実施例で用いられた化合物と共通の化学構造を有する化合物群に属する全ての物質が、金型清浄作業時における温度条件に適した融点及び沸点を有しているということはできない。
また、金型清浄剤組成物は高温状態の金型内で溶融して清浄効果を発揮するものであるから、そこに用いる清浄剤は、少なくとも、高温下での溶融性と直接相関する融点、または、高温下での蒸発性と直接相関する沸点が、金型清浄作業時における温度条件に適したものであることが必要である。実施例で用いられた化合物と共通の化学構造を有する化合物群に属する全ての物質が、金型清浄作業時における温度条件に適した融点及び沸点を有しているということはできない。
本件発明の課題を解決し得る程度の清浄効果というものが、客観的基準に則してどの程度のものなのか本件明細書に示されていない以上、たとえ明細書に記載された4つの化合物群に属する物質についても、実施例で用いられた化合物以外のものは、本件発明の課題を解決し得る程度の清浄効果を発揮するのかどうか判断することができない。
よって、清浄剤として選ぶことができる物質の範囲を、実施例で用いられた上記4つの化合物以外の物質にまで拡張又は一般化することは許されない。
本件発明1に従属する本件発明2乃至8も、同様の不備がある。

(答弁書に対する反論)
キャビティ充填率を高くし、金型清浄作業時に生じるエアー巻き込みによる未充填部分の形成を防止する作用(【0008】)を無に帰するような化合物は、本件発明1において清浄剤として使用することができないはずである。
本件発明1においては、金型清浄組成物を金型に挟み加熱加圧するが、その際に沸点が低い化合物を清浄剤として多量に使用したなら、当該化合物が蒸気となって甚だしいエアの巻き込みを生じて、上記したような本件発明1の作用を無に帰してしまう。
これに対し、乙第1?3号証に記載された金型清浄剤組成物は、液体の状態のまま金型に接触させて使用するものであるから、仮に清浄剤成分が蒸気となったとしても、エア巻き込みによって未充填部分が形成されるおそれが本質的に存在しない。乙第1?3号証に記載された金型清浄剤組成物においては、本件発明1では清浄剤成分として使用することができない沸点が低い化合物を自由に用いることが可能である。
それゆえ、本件発明1において乙第1?3号証に記載された清浄剤を用いようとしたとき、技術常識に照らして、当該物質が本件発明の課題を解決できる範囲のものであることを認識することはできない。

(口頭審理陳述要領書に対する反論)
・被請求人の口頭審理陳述要領書(3頁5?6行)には、次のとおり記載されている。
「しかしながら、金型に対する充填性等に悪影響等があるような「清浄剤」は、本件特許発明の金型清浄剤組成物に用いることはできません。」
この陳述によれば、本件発明1において「清浄剤」がどのようなものであっても金型に対する充填性等に影響がないということはできず、金型に対する充填性等に悪影響を生じる「清浄剤」がある。
そうすると本件発明1において、広範な物質の中から本願明細書の実施例で用いられた化合物以外の物質を清浄剤として選び用いたときに、金型に対する充填性等に悪影響を生じる場合があるから、本件明細書の記載及び本件発明の出願時における技術常識に照らして、当該物質が本件発明の課題を解決できる範囲のものであることを認識することができない。

・また、金型に対する充填性等の悪影響等がない「清浄剤」を選び用いるためには、清浄剤として用いたい物質が金型に対する充填性等に悪影響があるのか、ないのかを判断しなければならない。しかし本件明細書には、そのような悪影響があるのか、ないのかを判断するための基準が記載されていない。
金型に対する充填性等の悪影響等があるのか、ないのかをキャビティ充填率で判断するのであるなら、判断基準となる数値が明示される必要がある。しかし、同じ金型清浄剤組成物を、キャビティ形状が単純な金型に用いる場合とキャビティ形状が複雑な金型に用いる場合とではキャビティ充填率が違ってくるから、キャビティ充填率だけでは客観的な判断基準になりえない。

・被請求人の口頭審理陳述要領書(3頁9?12行)には、次のとおり記載されている。
「本件明細書の段落【0001】に記載の用途の金型に対して清浄作用を示す清浄剤であって、本件特許発明に関し均等論が成立するものであれば、本件明細書に記載のもの以外でも、特に限定されることなく使用可能であります。」
しかし均等論とは、ある特許発明と係争対象物との対比において、特許発明の構成要件に対応する係争対象物の構成が文理解釈上は構成要件に該当しないため、特許発明の技術的範囲に係争対象物が属するとは言えない場合に、係争対象物の当該構成が均等といえるかどうかを判断するために適用される理論である。
そうすると被請求人は陳述要領書の3頁13行目以降において、乙第4号証に開示のジアザビシクロウンデセン(DBU)及びジアザビシクロノネン(DBN)は均等論が成立すると述べているから、これらDBU及びDBNが文理解釈上「清浄剤」に該当しないことを自認しているに等しい。
よって、「本件特許発明に関し均等論が成立するもの」とは、如何なるものを意味するのか不明である。

イ.本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
(請求書における主張)
本件明細書の実施例(表1、表2)には、「未加硫ゴム組成物の重量平均分子量」が記載されているだけであり、「金型清浄剤組成物の重量平均分子量」は記載されていない。本件明細書の表1、表2に記載された「未加硫ゴム組成物」とは何なのかは、本件明細書の記載に照らしても明らかではない。
本件明細書の表1、表2に記載された「未加硫ゴム組成物の重量平均分子量」が、「金型清浄剤組成物の重量平均分子量」と記載すべきところの単なる誤記であったと考えることもできない。
本件明細書の実施例1、及び、比較例1、2は、用いた未加硫ゴムそのものの重量平均分子量と、未加硫ゴム組成物全休の重量平均分子量が、同じ数値である。すなわち、実施例1は、未加硫ゴムとして用いたEPDMの重量平均分子量が22万(表1の脚注*1)であるにもかかわらず、当該EPDMを100重量部に対して、他の成分を69重量部(ホワイトカーボンを40部、モンタン酸ワックスを12部、イミダソールを10部、有機過酸化物を2部、水を5部)の割合で混合した未加硫ゴム組成物の重量平均分子量も、22万である。また、比較例1は、未加硫ゴムとして用いたEPDMの重量平均分子量が18万(表2の脚注*1)であるにもかかわらず、当該EPDMを100重量部に対して、他の成分を69重量部(ホワイトカーボンを40部、モンタン酸ワックスを12部、イミダソールを10部、有機過酸化物を2部、水を5部)の割合で混合した未加硫ゴム組成物の重量平均分子量も、18万である。また、比較例2は、未加硫ゴムとして用いたBRの重量平均分子量が49万(表2の脚注*2)であるにもかかわらず、当該BRを100重量部に対して、他の成分を69重量部(ホワイトカーボンを40部、モンタン酸ワックスを12部、イミダソールを10部、有機過酸化物を2部、水を5部)の割合で混合した未加硫ゴム組成物の重量平均分子量も、18万である。
これら実施例1及び比較例1、2は、未加硫ゴムに対して他の成分をかなり多量に混合しているから、仮に表1、表2に記載された「未加硫ゴム組成物」が「金型洗浄剤組成物」を意味するものであると解釈するなら、組成物全体の重量平均分子量は、未加硫ゴムそのものの重量平均分子量と同じ数値になるはずがない。
それゆえ、本件明細書の実施例には、本件発明1により特定される金型清浄剤組成物の重量平均分子量が記載されていない。よって当業者は、金型清浄剤組成物の重量平均分子量を本件発明1で特定された範囲に設定することによって本件発明の課題を解決できることを認識することができない。

(答弁書に対する反論)
答弁書(7頁22?24行)には次のとおりに記載されている。
「実施例および比較例では、ゴム以外の材料はモノマー材料のみであり、その配合量も多くないため、これらの影響により、未加硫ゴム組成物全体のMwが万単位で増えることはあり得ません。」

・答弁書の上記記載において、「万単位で増えることはあり得ません。」の「増えることがありません」について
未加硫ゴム組成物全体の重量平均分子量Mwは、未加硫ゴムの重量平均分子量よりも増えることを前提にした主張であると考えられる。
しかし、本件発明1の金型清浄剤組成物には、清浄剤、加硫剤、離型剤、補強材等が含まれ、これらは未加硫ゴムに比べて低分子量であるから、「金型清浄剤全体の重量平均分子量(Mw)」は、「未加硫ゴム組成物全体の重量平均分子量」よりも増えることはなく、むしろ小さくなると考えるのが自然なはずである。
本件発明1において、どのような技術的根拠に基いて重量平均分子量が増えるのか明らかでないから、本件発明の課題を解決するために本件発明において如何なる解決手段を採用したのか理解することができない。そのため本件発明1の構成によって、本件発明の課題を達成できることを理解することができない。

・答弁書の上記記載において、「ゴム以外の材料はモノマー材料のみであり、その配合量も多くないため」の「その配合量も多くないため」について
被請求人は、実施例1の金型清浄剤組成物は、モノマー材料等の低分子成分の含有量は少ないと主張している。被請求人の主張どおりだとすれば、実施例2?6におけるモノマー材料等の低分子成分の含有量は実施例1と同等であるから、実施例1?6のいずれについてもモノマー材料等の低分子成分の含有量は少ないということになる。
そうすると本件明細書には、未加硫ゴムの含有量が少なくてかつモノマー材料等の低分子成分の含有量が多い実施形態が記載されていない。しかし本件発明1は、モノマー材料の含有量を限定していないから、モノマー材料の含有量が多い実施形態を含むものである。即ち、金型清浄剤組成物の重量平均分子量Mwが200,000?460,000の範囲内にある場合において、未加硫ゴムの含有量が少なくて且つモノマー材料等の低分子成分の含有量が多い実施形態は、果たして優れた清浄効果を奏するのかどうか不明である。
したがって、本件発明1によって本件発明の課題を解決できることを明細書の記載及び出願時の技術常識に照らして認識することができないから、本件発明1が本件明細書の発明の説明に記載されたものということができない。

(口頭審理陳述要領書に対する反論)
・審判請求書において述べたとおり、本件明細書の表1、表2(【0069】、【0070】)には、未加硫ゴム組成物の重量平均分子量について記載されているだけであり、「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」については記載されていないから、実施例で作製した金型清浄剤組成物の「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」は不明である。
しかし、被請求人の口頭審理陳述要領書には、本件明細書に記載の実施例から、本件発明1において特定された「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」を導き出す技術的な根拠が、依然として示されていない。

・「未加硫ゴム組成物」という用語は、本件明細書の段落【0069】(表1)及び【0070】(表2)だけでなく、段落【0061】及び【0062】にも記載されている。
段落【0061】には、次のように記載されている。
「そして、このモンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物からなるシートを上記シート状金型清浄剤組成物を用いた清浄工程と同様、金型に装填して加熱することにより含有されたモンタン酸ワックスが金型表面に塗布される。」
この記載によれば、「シート状金型清浄剤組成物」は、本件発明1の金型清浄剤組成物の一形態であると解されるから、出願人は出願時において「金型清浄剤組成物」と「未加硫ゴム組成物」とは異なるものを意味することを明確に認識している。
同じく段落【0061】には、本願発明1であるシート状金型清浄剤組成物を用いて金型を清浄した後、金型表面に離型剤としてモンタン酸ワックスを塗布する方法について、次のように記載されている。
「モンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物を準備し、これをシート状に形成したものを用いるのが好ましい。例えば、先に述べた未加硫ゴムとともに、離型剤を配合して得られるシートがあげられる。」
また、段落【0062】には、次のように記載されている。
「なお、上記モンタン酸ワックスの含有量は、例えば、未加硫ゴム組成物中のゴム材料100部に対して15?35部の割合に設定することが好ましく、特に好ましくは20?30部である。」
そうすると「未加硫ゴム組成物」は、本件発明1の金型清浄剤組成物を調製するとき、及び、モンタン酸ワックス等の離型剤を含有するシート状の未加硫ゴム組成物を調製するときの、どちらにも用いられる共通のベースとなる未加硫ゴム組成物を意味するものと解される。
よって、表1及び表2に記載された「未加硫ゴム組成物」は、「金型清浄剤組成物」を意味するものではない。

ウ.本件発明1?3、5?8において、「配合した水」を必須成分としてない点について
(請求書における主張)
本件発明1により特定される金型清浄剤組成物は、水を必須成分としていない。しかし、本件明細書の実施例(【0069】表1、【0070】表2)に記載された全ての金型清浄剤組成物は、水が配合されている。本件明細書の段落【0044】の記載によれば、本件発明において水を含有することは、金型清浄剤組成物が清浄効果を奏するために重要である。
また、本件明細書の段落【0044】の記載によれば、金型清浄剤組成物に含有される水を、配合する水、吸湿による水、結晶水など起源によって区別している。しかし実施例においては、配合した水の量を示しているだけである。本件発明にとって、水は優れた清浄効果を奏するために重要な要素であるにもかかわらず、本件明細書には、「配合した水」を含有する金型清浄剤組成物を評価した実施例が記載されているだけであり、水を配合していない金型清浄剤組成物を評価した実施例が全く記載されていない。
よって、本件発明1を、水を配合していない金型清浄剤組成物にまで拡張又は一般化することは許されない。本件発明1に従属する本件発明2、本件発明3、及び本件発明5乃至8も、同様の不備がある。
本件発明1及びこれに従属する各発明において「配合した水」を必須成分としていない点本件発明1により特定される金型清浄剤組成物は、水を必須成分としていない。
しかし、本件明細書の実施例(【0069】表1、【0070】表2)に記載された全ての金型清浄剤組成物は、水が配合されている。本件明細書の段落【0044】の記載によれば、本件発明において水を含有することは、金型清浄剤組成物が清浄効果を奏するために重要である。また、本件明細書の段落【0044】の記載によれば、金型清浄剤組成物に含有される水を、配合する水、吸湿による水、結晶水など起源によって区別している。
しかし実施例においては、配合した水の量を示しているだけである。本件発明にとって、水は優れた清浄効果を奏するために重要な要素であるにもかかわらず、本件明細書には、「配合した水」を含有する金型清浄剤組成物を評価した実施例が記載されているだけであり、水を配合していない金型清浄剤組成物を評価した実施例が全く記載されていない。
よって、本件発明1を、水を配合していない金型清浄剤組成物にまで拡張又は一般化することは許されない。
本件発明1に従属する本件発明2、本件発明3、及び本件発明5乃至8も、同様の不備がある。

(答弁書に対する反論)
本件明細書(【0044】)には、「上記水の含有量は、金型清浄剤組成物中、1?20重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは1?10重量%である。上記範囲の含有量に設定することにより、より一層優れた清浄性が得られるようになる。」と記載されている。
本件明細書の実施例において配合された水の量は、2.96重量%(実施例1、2、5)又は3.05(実施例3、4、6)であり、上記段落【0044】に記載された数値範囲に入っているから、金型清浄剤組成物に水を配合しない場合に得られる清浄性レベルと比べて有意に優れる清浄性が得られる量であると解すべきである。従って、「実施例における水の量がごく僅かである」ということはできない。
本件明細書の実施例は、配合された水によって有意に向上した分の清浄性を差し引いた清浄性、すなわち配合された水を含まない場合の清浄性がどれほどのものであるかを知ることはできない。
従って、本件発明1において、金型清浄剤組成物に水を配合しない場合に、水を配合した場合と同様に、本件発明の課題を解決し得る程度の清浄効果を発揮するものであることを、当業者が本件明細書の記載及び本件発明の出願時における技術常識に照らして認識することはできないから、本件発明1が本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない。

エ.本件発明4?8において、水分の含有量が「1?20重量%」である点について
(請求書における主張)
本件明細書の段落【0044】の記載によれば、本件発明4において水分の含有量を「1?20重量%の範囲に設定することによって、より一層優れた清浄性が得られるようになる」との効果を奏するとされる。
しかし本件明細書の実施例(【0069】表1、【0070】表2)には、配合した水の量が、2.96重量%の実験例(実施例1、2、5)、及び3.05重量%の実験例(実施例3、4、6)しか記載されていない。
<実施例1の計算例>
(水5重量部/全体169重量部)×100≒2.958
これだけの実験結果では、水分の含有量の下限値である1重量%の前後、及び上限値である20重量%の前後において、清浄性が劇的に変化するといった臨界的意義が存在することを理解することができない。
それゆえ、本件発明4において、「水分の含有量を1?20重量%の範囲に設定したことによって、より一層優れた清浄性が得られるようになる」という特有の効果を奏することを、当業者が認識することはできない。本件発明4に従属する本件発明5乃至8も、同様の不備がある。

(答弁書に対する反論)
本件明細書の実施例には、配合した水の量が2.96重量%又は3.05重量%の実験例しか記載されていない。
本件発明4において配合した水の量の上限値は20重量%であり、実施例で示された水の量から大きくかけ離れている。これでは、本件発明4において水の量が20重量%付近となったときに、果たして優れた清浄性が得られるのか分からない。また、本件発明において水は、金型清浄剤組成物の清浄効果に無視できない影響を与えるから、配合した水の量が20重量%付近となったときに、その量が多すぎるために清浄性が悪くなる可能性があるが、実施例の結果を見ても、水の量が多いときでも悪影響が生じないと認識することができない。
それゆえ、本件発明4において、「水分の含有量を1?20重量%の範囲に設定したことによって、より一層優れた正常性が得られるようになる」という本件発明4に特有の効果を奏することを、当業者が本件明細書の記載及び本件発明の出願時における技術常識に照らして認識することはできない。
したがって、本件発明4が本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。

また仮に、本件発明4における水分というものが、特定された3方法だけに限定されると解釈するとした場合、本件明細書の実施例は、配合した水の量を示しているだけであり、特定された3方法による水分の合計量を示していないから、本件発明4において、「水分の含有量を1?20重量%の範囲に設定したことによって、より一層優れた清浄性が得られるようになる」という本件発明4に特有の効果を奏することを、当業者が本件明細書の記載及び本件発明の出願時における技術常識に照らして認識することができない。
したがって、本件発明4が本件発明明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできないため、特許法第36条第6項第1号の問題が新たに生じる。

(3)特許法第36条第6項第2号について
ア.本件発明1?8における、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定について
(請求書における主張)
本件発明1において、GPC測定方法の具体的な要件は、特段限定されていない。
しかし、一般にGPC測定は、用いる溶剤やカラムや測定温度等が異なると、重量平均分子量(Mw)の測定値が異なったものになることが広く知られている。それゆえ、本件発明1において、同じ金型清浄剤組成物を溶剤やカラムや測定温度等の測定条件が異なる2つ以上の方法でGPC測定したときに、測定方法の違いによって、金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が200,000?460,000の範囲に設定されていると判断される場合と、当該範囲に設定されていないと判断される場合の両方の判断に分かれてしまう可能性がある。
よって、本件発明1は、発明を特定するための技術事項が不明確であり、発明を実施することができない。本件発明1に従属する本件発明2乃至8も、同様の不備がある。

(答弁書に対する反論)
被請求人の答弁書(10頁5?8行)の「GPC測定方法の具体的な要件は、本件明細書の段落【0047】や実施例(段落【0064】?【0066】)に明記されています。つまり、本件発明では、この記載にしたがってGPCの測定が行われることは明らかであります。」という記載が、本件発明におけるGPC測定の方法を、本件明細書の段落【0065】?【0066】に記載された方法に限定することを意味するものだとすると、当該GPC測定方法は大まかに言って金型清浄剤組成物中のクロロホルム可溶分の重量平均分子量を測定し、その測定値をもって金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)と特定するものであると解される。
そうすると、金型清浄剤組成物の清浄剤としてクロロホルム可溶性のものを用いるのかクロロホルム不溶性のものを用いるのかによって、金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)は、清浄剤が寄与した数値となる場合と、清浄剤が寄与しない数値となる場合がある。
本件発明1の金型清浄剤組成物は、クロロホルム可溶性又はクロロホルム不溶性どちらの清浄剤を用いるも、金型清浄作業に使用するときには清浄剤を含有する状態で使用されるから、金型清浄剤組成物の使用状態における清浄性に対してきちんと相関する重量平均分子量を特定するためには、金型清浄剤組成物の重量平均分子量Mwは、常に清浄剤の寄与を含む数値として特定される必要がある。
本件発明1が、金型清浄剤組成物の使用状態における清浄性に対してきちんと相関していない重量平均分子量しか特定できない実施態様を含むということであるなら、発明を特定するための技術事項が不明確であり、発明を実施することができない。
したがって、本件発明1が明確であるということはできない。

イ.本件発明4?8における水分の含有量について
(請求書における主張)
本件明細書には、本件発明4における水分が何なのかを定義する記載がない。また本件明細書には、水分の含有量を測定する方法について一切説明がない。そこで、本件明細書の記載全体に照らして解釈する必要がある。本件明細書の段落【0044】の記載に照らせば、本件発明4における水分とは、金型清浄剤組成物に含まれる全ての水分を意味するものと解釈されるべきである。一方、本件明細書の段落【0064】の記載に照らせば、本件発明4における水分とは、他の配合成分とともに配合した水を意味するものであると解釈されるべきである。これでは、本件発明4における「水分」及び「水分の含有量」の意味を、本件明細書の記載全体に照らして一義的に解釈することができない。
本件明細書の段落【0043】には、「上記補強剤としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、ホワイトカーボン、カーボンブラック等の無機質補強剤(充填剤)があげられる。上記補強剤の配合量は、未加硫ゴム100部に対して10?50部に設定することが好ましい。」と記載されているが、このような無機質補強剤は、吸湿した水分や結晶水を含む可能性がある。例えばシリカは、20重量%程度の水分を含む場合がある。このような無機質補強材に代表される他の配合成分に含まれる水分を、本件発明4における水分に含めると解釈するか否かによって、水分の量として特定される数値が大きく異なってくることは明らかである。
本件明細書の実施例(表1、表2)に示された組成も、無機質補強材の一つであるホワイトカーボンを含んでいるから、もしも実施例の各組成物について、他の配合成分と共に配合した水だけでなく、他の配合成分の吸湿水や結晶水を含めた全ての水分の量を測定したならば、実施例の表に記載されている水の量、すなわち他の配合成分と共に配合した水のみの量とは、全く異なる数値となるはずである。
それゆえ、当業者が清浄剤組成物に含有される水分の量を本件発明4で特定された範囲に設定しようとしたときに、水分の含有量をどのような解釈に従って特定すればよいのか理解することができない。よって、本件発明4は、発明を特定するための技術事項が不明確であり、発明を実施することができない。本件発明4に従属する本件発明5乃至8も、同様の不備がある。仮に、本件発明4における水分を、金型清浄剤組成物に含まれる全ての水分を意味するものと限定的に解釈した場合には、本件明細書の実施例(表1、表2)は他の配合成分とともに配合した水の量を示しているだけであるから、金型清浄剤組成物に含まれる全ての水分の量を本件発明4で特定された範囲に設定することによって、「より一層優れた清浄性が得られる」という本件発明4に特有の効果を奏することを、当業者が実施例の記載から理解することはできない。

また、仮に、本件発明4における水分を、実施例の記載に基づいて、金型清浄剤組成物に他の配合成分とともに配合した水を意味するものであると限定的に解釈した場合には、金型清浄剤組成物が製造されてから時間が経過した後は、経時的に吸湿又は水分の蒸発を起こすことによって、金型清浄剤組成物に含有される水分の量が大きく変動し、「より一層優れた清浄性が得られる」という本件発明4に特有の効果を奏することができなくなる可能性がある。

また、本件明細書の段落【0044】には、「上記水を含有させる方法としては他の配合成分とともに水を配合する方法や、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、配合成分を事前に吸湿させる方法(以下、この3つの方法を「特定3方法」という。)等が挙げられる。」と記載されている。
本件発明4において、水を含有させる方法というものが、特定3方法だけに限定されると解釈した場合、これらの水分含有態様による水分の合計は、どのような方法で測定できるか、そして、金型清浄剤組成物に含まれる全ての水分の量とどのように異なるかについても、答弁書の記載から理解することができない。そのため、当業者が清浄剤組成物に含有される水分の量を本件発明4で特定された範囲に設定しようとしたときに、本件明細書の記載及び本件発明の出願時における技術常識に照らしたとしても、水分の含有量をどのような解釈及び方法に従って特定すればよいのかを理解することができない。
よって、本件発明4は、発明を特定するための技術事項が不明確であり、発明を実施することができない。

それゆえ、本件発明4は、外形的には本件発明4の構成要件を充足するにもかかわらず、本件発明4に特有の効果を奏しないものを、発明の技術的範囲に包含しており、発明を特定するための事項が不足していることが明らかである。
本件発明4に従属する本件発明5乃至8も、同様の不備がある。

(答弁書に対する反論)
本件発明4において、水を含有させる方法というものが、他の配合成分とともに水を配合する方法、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、及び、配合成分を事前に吸湿させる方法だけに限定されるのかどうか、答弁書の記載から理解できないため、本件発明4における「水分」は依然として不明確である。
また仮に、本件発明4における水分というものが、他の配合成分とともに水を配合する方法、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、及び、配合成分を事前に吸湿させる方法だけに限定されると解釈するとした場合、これらの水分含有態様による水分の合計は、どのような方法で測定できるのか、そして、金型清浄剤組成物に含まれる全ての水分の量とどのように異なるのかについても、答弁書の記載から理解することができない。
よって、本件発明4は、発明を特定するための技術事項が不明確であり、発明を実施することができない。

(口頭審理陳述要領書に対する反論)
被請求人の口頭審理陳述要領書(8頁2?7行)には、次のように記載されている。
「上記表2の結果より、実験例3のように水を配合しなかった場合、実験例4、5のように水の配合量を本件明細書の範囲内で変更した場合、さらに実験例6のように結晶水を実質的に含有しない充填剤に変えた場合のいずれの場合におきましても、実施例1と同様の効果が得られることが示されました。この結果からも、本件特許発明において水分(結晶水等を含む)が必須成分でないことが示されると思料いたします。」
しかし、実験例3は、「水を配合しなかった以外は、本件実施例1と同様にして調製した金型清浄剤組成物」(口頭審理陳述要領書の6頁10?12行)であり、ここで用いられたホワイトカーボンは、被請求人の口頭審理陳述要領書(7頁1?2行)に記載したとおり結晶水を含むことが知られている。また、実施例6は、「結晶水を含まない材料である炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製)をホワイトカーボンに代えて同量配合し且つ水を配合しないこと以外は、本件実施例1と同様にして調製した金型清浄剤組成物」(口頭陳述要領書の7頁4?6行)である。ここで用いられた炭酸カルシウムは吸湿性であることが知られている(例えば、甲第1号参考資料の2頁左上欄3行、甲第2号参考資料の段落【0013】)。
よって、表2の実験例3に記載のホワイトカーボン及び実験例6の炭酸カルシウムが水を含むのか否か、さらには実験例3及び実験例6の金型清浄剤組成物の水分量が全くないのか否かについて、依然として不明である。
このため、被請求人が、本件特許発明において水分(結晶水等を含む)が必須成分でないと主張するための根拠は、表2に記載した実験例では依然として示されていない。

また、被請求人の口頭審理陳述要領書(6頁22?25行)には、次のように記載されている。
「つまり、結晶水含有化合物のような無視できない水分量を有する化合物や、事前に吸湿させるといった意図的な手法により無視できない水分量を有する化合物におきましては、その水分量も本件特許発明の金型清浄剤組成物における水分量として認めることを明記したに過ぎません。」
しかし、被請求人の主張によれば、配合された水以外の水分量としては無視できない水分量である場合と無視できる水分量である場合があるが、無視できる範囲と無視できない範囲の境界が不明であるから、金型清浄剤組成物の水分量の定義が一義的に定まらない。さらに、金型清浄剤組成物が配合された水に加えて、配合以外の方法で無視できない量の水分を含んでいる場合に、それらを全て含む水分含量をどのような方法で測定すべきかについても依然として不明である。
したがって、金型清浄剤組成物の水分含量を、どのようにすれば本件発明4において特定された範囲(1?20重量%)に調節できるのかが不明である。

ウ.本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
(答弁書に対する反論)
・上記(2)イの(答弁書に対する反論)の項に記載された「未加硫ゴム組成物全体のMwが万単位で増えることがありません」の「Mwが万単位で増えることがありません」について
被請求人の主張どおりであるとすれば、本件発明1は、実施例1のようにモノマー材料等の未加硫ゴム以外の材料の配合量が多くないため、実質的には未加硫ゴムだけが金型清浄剤組成物組成物の重量平均分子量(Mw)に影響を与えるにすぎない実施形態を含んでいる。そのような実施形態は、金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)を規定したというよりも、ただ単に好ましい重量平均分子量を有するゴムを公知のEPDM又はEPDMとBRの中から選んだすぎないものである。
本件発明1において金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)は、本件発明の課題を解決するために重要な技術事項であるところ、これでは、金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)を特定の数値範囲に限定したことによって発明に特有な効果を奏しているとは言えないから、発明の範囲が不明確である。したがって、特許法第36条第6項第2号の問題が新たに生じる。

(口頭審理陳述要領書に対する反論)
被請求人の口頭審理陳述要領書(8頁16?21行)には、次のとおり記載されている。
「そして、本件においては、標準試料として一般的な既知の分子量のポリスチレンを採用し、実施例品等を測定しています。したがって、既知のポリスチレンを標準試料としてGPC測定をすれば、その標準試料との相対分子量を求める以上、用いる溶剤やカラムや測定温度等が異なったとしても、重量平均分子量(Mw)の測定値に顕著な違いは生じないものと思料いたします。」
しかし、たとえ標準試料を用いてGPC測定を行う場合であっても、測定を行う前段階においてどのような方法で測定用試料を調製するのかによって、重量平均分子量(Mw)の測定値は異なってくるはずである。例えば、本件明細書の段落【0065】には、シート状金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸潰し、3日間放置後のクロロホルム可溶分をさらに処理して測定用試料としたことが記載されているが、仮に浸漬溶媒としてクロロホルム以外の溶剤を用いた場合や、浸漬時間を短くしたり長くした場合には、可溶分の内容物が異なってくるはずであるから、重量平均分子量(Mw)の測定値も異なってくる。
したがって、本件発明1におけるGPCの測定条件については、GPC測定装置を用いて測定を行う段階における条件だけでなく、測定用試料を調製する段階等を含めて考慮すべきである。特に、金型清浄剤組成物の試料を浸潰して可溶分を抽出するための溶剤については、明確に特定すべきである。

(4)訂正後の請求項1(本件発明1)の発明に対する特許法第36条第6項第1号及び同第2号について
(弁駁書における主張)
本件特許明細書の記載によれば、本件発明で行うべきGPC測定には、クロロホルム可溶分をホットプレート上で加熱乾固させることにより得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製する工程、当該THF溶液を0.45μmメンブランフィルターにて濾過する工程、及び、GPCの溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いてGPC試験を行う工程が含まれる。
かかる本件特許明細書の記載に対し、訂正後の請求項1は、本件発明の金型清浄剤組成物から溶出させたクロロホルム可溶分の乾固物を溶解するための溶剤を特定していない。
しかし、クロロホルム可溶分の乾固物を溶解、濾過するための溶剤として、本件特許明細書に記載されたとおりにテトラヒドロフラン(THF)を用いるのか、あるいは他の溶剤を用いるのかによって、濾過後のTHF溶液つまりGPC試験液の成分組成が異なってくる可能性がある。つまりGPC試験液の成分組成が異なる場合には、当該試験液に対しGPC試験を行うことにより得られる重量平均分子量(Mw)も異なってくる可能性がある。
また、訂正後の請求項1は、本件発明の金型清浄剤組成物から溶出させたクロロホルム可溶分の乾固物を、テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製する際に、0.1重量%濃度のTHF溶液とすること、及び、当該THF溶液を0.45μmメンブランフィルターにて濾過することを特定していない。
しかし、THF溶液の固形分濃度が高くなりすぎると溶液中の成分が会合等を起こして見かけ上の分子量が大きくなる可能性がある。また、溶液中で会合等が発生するかしないかによって、メンブランフィルターのポアサイズが同じでも濾液の成分組成が異なってくる可能性がある。つまりGPC試験液中で会合等を起こした場合または成分組成が異なる場合には、当該試験液に対しGPC試験を行うことにより得られる重量平均分子量(Mw)も異なってくる可能性がある。
さらにまた、訂正後の請求項1は、GPC試験に用いる溶離液を特定していない。しかし、GPC試験に用いる溶離液として、本件明細書に記載されたとおりにテトラヒドロフラン(THF)を用いるのか、あるいは他の溶剤を用いるのかによって、溶離しない成分の有無や種類が異なってくる可能性がある。つまりGPC試験に用いる溶難液が異なる場合には、GPC試験を行うことにより得られる重量平均分子量(Mw)も異なってくる可能性がある。
従って、訂正後の請求項1の発明において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって組成物全体の重量平均分子量(Mw)を一意的に特定しようとする場合は、「金型清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において」と特定するだけでは十分ではなく、さらに、「クロロホルム可溶分の乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製する工程」、「当該THF溶液を0.45μmメンブランフィルターにて濾過する工程」、及び、「GPCの溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いてGPC試験を行う工程」に対応する発明特定事項が必要である。
請求人は、平成25年3月22日付で提出した口頭審理上申書(6頁17-20行)において、「従って、本件発明1におけるGPCの測定条件については、GPC測定装置を用いて測定を行う段階における条件だけでなく、測定用試料を調製する段階等を含めて考慮すべきである。特に、金型清浄剤組成物の試料を浸漬して可溶分を抽出するための溶剤については、明確に特定すべきである。」と述べたが、金型清浄剤組成物の試料を浸漬して可溶分を抽出するための溶剤をクロロホルムに特定するだけでは、測定用試料を調製する段階、及び、GPC測定装置を用いて測定を行う段階に必要な溶剤や条件を、請求項1において十分に特定できていない。
以上のような理由があるので、訂正後の請求項1の発明は、特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を十分に満たしていない。

第5 被請求人の主張
1.要点
特許第4943225号の、特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された発明についての特許を無効とするとの請求を棄却して、特許を維持する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

2.被請求人は、答弁書において、概ね下記(1)のように主張し、口頭審理陳述要領書において、概ね下記(2)のように主張している。
(1)被請求人の答弁書における主張
ア.特許法第36条第4項第1号について
(ア)本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について
本件発明の金型清浄剤組成物は「成形材料を用い繰り返し成形を行う加熱成形用金型の清浄剤組成物」(請求項1)であると定義付けされている。
さらに、本件明細書の段落【0001】には、本件発明の技術分野が「成形作業の繰り返しにより汚染された熱硬化性樹脂組成物成形材料用成形金型等の金型の清浄再生等に用いられ、…、半導体素子をトランスファー成形によって封止する際の封止作業に用いるトランスファー成形用金型の金型清浄再生等に用いられる金型清浄材料である金型清浄剤組成物に関するものである。」と明記されている。
したがって、本件発明の金型清浄剤組成物の構成成分の一つである「清浄剤」は、上記のような用途の金型に対して清浄作用を示すものであることは自明である。
また、乙第1?3号証には、多種多様な清浄剤が示され、これらの「金型清浄剤」は、いずれも、金型に残った樹脂や離型剤の付着物を洗浄除去するといった機能を発揮するものである。
したがって、本件発明の出願以前より、「金型清浄剤組成物」における「清浄剤」とはどのようなものであるかは技術常識である。
よって、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって、上記のような用途に適用しうる清浄剤は充分に理解可能である。

イ.特許法第36条第6項第1号について
(ア)本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について
本件発明の金型清浄剤組成物は、金型に対する充填性(キヤビティ充填率)の高さが特徴であり、金型キャビティの汚染物質を効果的に除去することのできるといった優れた効果を奏する(本件明細書の段落【0004】、【0008】?【0009】等参照)。
よって、本件発明の金型清浄剤組成物においては、キヤビテイ充填率が、金型清浄効果の指標となる。
また、清浄剤の融点及び沸点が、本件発明の発明特定事項でないことは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
したがって、実施例で用いられた清浄剤と共通の化学構造を有する化合物群に属する全ての物質に対し、金型清浄作業時における温度条件に適した融点及び沸点を有しているか否かを実施例で証明する必要はない。
また、清浄剤の特性自体は、成形材料を用い繰り返し成形を行う加熱成形用金型に対して清浄作用を示すものであることを必要とする以外は、本件発明の発明特定事項ではない。
よって、清浄剤の融点や沸点の特性等は本件発明の発明特定事項ではない。

(イ)本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
本件請求項1に記載のものは、実施例と同じく、未加硫ゴム(A)を必須成分とする組成物であるから、表1、表2に記載された「末加硫ゴム組成物」が「金型洗浄剤組成物」を意味するものであることは明らかである。
上記表1、表2に記載の、実施例1、比較例1、3、4、5においては、未加硫ゴムとしてEPDMを単独で用いており、比較例2においては、未加硫ゴムとしてBRを単独で用いている。そして、実施例1で使用のEPDMのMwは「220、000」と記載されていて、実施例1の未加硫ゴム組成物のMwは「22万」と記載されている。また、比較例1、3、4、5で使用のEPDMのMwは「180、000」と記載されていて、比較例1、3、4、5の未加硫ゴム組成物のMwは「18万」と記載されている。
また、比較例2で使用のBRのMwは「490、000」と記載されていて、比較例2の未加硫ゴム組成物のMwは「49万」と記載されている。
すなわち、上記表1、表2において、ゴムのみのMwが千以下の単位においてすべて0と示しているのに対し、未加硫ゴム組成物のMwは、千以下の単位が示されていない。
また、表1、表2からも明らかなように、上記実施例及び比較例では、ゴム以外の材料はモノマー材料のみであり、その配合量も多くないため、これらの影響により、未加硫ゴム組成物全体のMwが万単位で増えることはあり得ない。
よって、上記表1、表2は、組成物全体の重量平均分子量が、ゴムそのものの重量平均分子量と同じ数値になることを示すものではなく、また、表の記載は誤記ではない。

(ウ)本件発明1?3、5?8において、「配合した水」を必須成分としてない点
表等の記載からも明らかなように、実施例における水の配合量は極僅かであり、本件明細書中にも、本件発明において水が必須成分と言えるような根拠がない。
また、実施例には、本件発明の好ましい実施態様を記載すればよいわけであるから、水を配合していない金型清浄剤組成物を評価した実施例を記載することは必須ではなく、さらに、水を配合していない金型清浄剤組成物を評価した実施例が全く記載されていないからといって、本件発明の金型清浄剤組成物が水を必須成分としなければならないと結論付ける法的根拠もない。

(エ)本件発明4?8において、水分の含有量が「1?20重量%」である点
本件発明4は本件発明1に従属し、また、本件発明1では水分の含有量を規定していないことから、本件発明4における水分の含有割合の臨界的意義を示す実施例を、本件明細書中に提示することは必須ではない。

ウ.特許法第36条第6項第2号について
(ア)本件発明1?8において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定について
GPC測定方法の具体的な要件は、本件明細書の段落【0047】や実施例(段落【0064】?【0066】)に明記されている。つまり、本件発明では、この記載にしたがってGPCの測定が行われることは明らかである。

(イ)本件発明4?8における水分の含有量
本件発明の金型清浄剤組成物において水分を含有させる方法は、本件明細書の段落【0044】に列記したとおりであり、ここに記載の水分が、本件発明4における水分である。
そして、本件明細書の段落【0046】の実施例でも、この解釈が適用されます。
よって、本件発明4における「水分」及び「水分の含有量」の意味は、本件明細書の記載全体に照らして一義的に解釈することができる。なお、本件発明1において、水分の含有割合や水分の含有態様が発明特定事項でないことは、その特許請求の範囲の記載から明らかである。
よって、実施例において、本件発明4に示すような水分の含有割合の臨界的意義や、本件明細書の段落【0044】に記載の水分含有態様を全て示すことは必須ではない。

(2)口頭審理陳述要領書における主張
ア.「清浄剤」について
本件特許発明の金型清浄剤組成物は、その充填性の改善によって金型の細かい部分まで入り込みやすくすることにより、金型清浄効果を高めたことが特徴であるから、「清浄剤」の種類によって清浄効果を高めることを目的としてなされた発明ではない。
よって、本件特許発明の金型清浄剤組成物において「清浄剤」は必須成分ではあるが、本件特許発明の本質的部分ではない。
しかしながら、金型に対する充填性等に悪影響があるような「清浄剤」は、本件特許発明の金型清浄剤組成物に用いることはできない。
本件特許発明の使用に好ましい「清浄剤」については、本件明細書に記載のものが具体例であるが、本件特許発明はこれに限定されることなく、本件明細書の段落【0001】に記載の用途の金型に対して清浄作用を示す清浄剤であって、本件特許発明に関し均等論が成立するものであれば、本件明細書に記載のもの以外でも、特に限定されることなく使用可能である。
例えば、特開平8-283454号公報〔乙第4号証〕に開示のジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等は、技術常識として、金型に対して清浄作用を示すことが示唆されるが、金型に対する充填性を阻害するかは不明であるので、本件実施例1で調製した金型清浄剤組成物に使用の清浄剤(2、4-ジアミノ-6〔2′-メチルイミダゾリニル(1)’〕エチル-s-トリアジン)に代えて、これらの清浄剤を用いたものに対し、本件実施例1と同様の実験を行った(実験例1、2)〔乙第5号証参照〕。
その実験結果は、以下の表1に示すとおりである。
【表1】(略)
上記表1の結果より、本件明細書に記載の清浄剤以外を使用した場合であっても、実施例と同様、金型に対する充填性が良好な結果が得られたので、少なくともこれらの清浄剤を使用したものについては、本件特許発明の技術的範囲に属すると言える。
なお、本件明細書に記載の清浄剤や、今回追加実験した清浄剤以外にも、例えば上記と同様の実験を行った際に、金型に対する充填性に悪影響を与えることなく、本件特許発明と同一の作用効果を奏する一般的な清浄剤を用いた場合については、均等論により本件特許発明の技術的範囲に属するものと言える。

イ.「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
本件明細書の表1、表2に記載の「未加硫ゴム組成物」は、「未加硫ゴム(つまりEPDMやBRそのもの)」を意味するのではなく、「金型清浄剤組成物」を意味するものである。したがって、上記表1、表2に記載の「未加硫ゴム組成物の重量平均分子量(Mw)」は、「未加硫ゴムの重量平均分子量(Mw)」ではなく、「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」と同じ意味である。
本件出願時に、上記表1、表2で「未加硫ゴム組成物」と記載した理由は、「未加硫ゴム組成物」のほうが広い概念であるため、そのなかで本件特許発明に要求されるレベルの金型清浄作用を有するもの、すなわち実施例に相当するものは「金型清浄剤組成物」と呼ぶことができるが、そのレベルに達しないもの、すなわち比較例に相当するものは「金型清浄剤組成物」と呼ぶよりも、単なる「未加硫ゴム組成物」と呼ぶのが適切と考え、上記表1、表2では総称である「未加硫ゴム組成物」を記載したに過ぎない。
なお、上記表1、表2に記載の「未加硫ゴム組成物の重量平均分子量(Mw)」は、実施例に記載の条件(本件明細書の段落【0065】?【0066】)でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される実測値である。

ウ.「水分」の含有量について
(ア)本件特許発明において水分が必須成分でないとする技術的根拠
例えば本件明細書の段落【0044】には「さらに、上記未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物には、水を含有させることも可能である。」と記載されているように、本件特許発明において水は必須成分ではなく、あくまで任意成分に過ぎない。
しかしながら、実施例では、水を配合したものしか示されていない。そこで、水を配合しなかった以外は、本件実施例1と同様にして調製した金型清浄剤組成物に対し、本件実施例1と同様の実験を行った(実験例3)。
また、実施例では、水の配合量が5重量部のものしか示されていないので、水の配合量を変更した以外は、本件実施例1と同様にして調製した金型清浄剤組成物に対しても、本件実施例1と同様の実験を行った(実験例4、5)〔乙第5号証参照〕。

(イ)金型清浄剤組成物の構成物質の水分含量について
本件明細書の段落【0044】には「さらに、上記未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物には、水を含有させることも可能である。上記水を含有させる方法としては、他の配合成分とともに水を配合する方法や、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、配合成分を事前に吸湿させる方法等があげられる。」とも記載されている。
つまり、結晶水合有化合物のような無視できない水分量を有する化合物や、事前に吸湿させるといった意図的な手法により無視できない水分量を有する化合物におきましては、その水分量も本件特許発明の金型清浄剤組成物における水分量として認めることを明記したに過ぎない。
例えば、本件実施例1で使用の構成物質のなかでは、ホワイトカーボンが結晶水を含んでいることが知られている。そこで、上記金型清浄剤組成物中の水の存在を問わないことを念入りに確認するため、実質的に結晶水を含まない材料である炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製)をホワイトカーボンに代えて同量配合し且つ水を配合しないこと以外は、本件実施例1と同様にして調製した金型清浄剤組成物に対し、本件実施例1と同様の実験を行った(実験例6)〔乙第5号証参照〕。

(ウ)実験結果
上記実験例3?6の結果は、以下の表2に示すとおりである。
【表2】(略)
上記表2の結果より、実験例3のように水を配合しなかった場合、実験例4、5のように水の配合量を本件明細書の範囲内で変更した場合、さらに実験例6のように結晶水を実質的に含有しない充填剤に変えた場合のいずれの場合においても、実施例1と同様の効果が得られることが示された。
この結果からも、本件特許発明において水分(結晶、水等を含む)が必須成分でないことが示される。

エ.GPCの測定について
GPC測定では、用いる溶剤やカラムや測定温度等が異なると、重量平均分子量(Mw)の測定値が異なったものになる。
しかしながら、GPC測定の重量平均分子量(Mw)の計算方法では、既知の分子量の標準試料を測定して校正曲線を作成し、その後、実試料を測定し、標準試料の校正曲線から分子量(相対分子量)を求めることになる。そして、本件においては、標準試料として一般的な既知の分子量のポリスチレンを採用し、実施例品等を測定している。
したがって、既知のポリスチレンを標準試料としてGPC測定をすれば、その標準試料との相対分子量を求める以上、用いる溶剤やカラムや測定温度等が異なったとしても、重量平均分子量(Mw)の測定値に顕著な違いは生じない。
さらに、本件特許発明におけるGPCの測定方法の具体的要件は、本件明細書の段落【0047】や実施例(段落【0064】?【0066】)に明記されている。
つまり、本件特許発明では、この要件に従ってGPCの測定が行われる。なお、本件の特許請求の範囲には、GPC測定時の溶剤やカラムや測定温度は明示されていないが、上記のように本件明細書の発明の詳細な説明を参酌すると測定条件は明らかである。

<証拠方法>
乙第1号証:特開平9-85752号公報
乙第2号証:特開平9-3494号公報
乙第3号証:特開2003-291152号公報
乙第4号証:特開平8-283454号公報
乙第5号証:実験成績証明書

<各証拠方法の記載>
(乙第1号証)
乙第1号証には、「金型用洗浄剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、注形や成形に使用する金型に付着する半硬化の樹脂や離型剤の付着物を洗浄除去する、溶解力、環境問題に対応した金型用洗浄剤に関する。」
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明ら者は、上記の目的を達成しようと鋭意研究を重ねた結果、γ-ブチロラクトンを含む溶剤が、極めて高い樹脂溶解力を示すことを見いだし、本発明を完成したものである。
【0009】即ち、本発明は、γ-ブチロラクトンを25重量%以上含み、γ-ブチロラクトン以外の成分もまた引火点が70℃以上の成分によって構成されていることを特徴とする金型用洗浄剤である。」
「【0023】エポキシ樹脂のφ50×2tの試験片注形用アルミニウム金型を6型を新調し、初期重量を精度0.1gまで測定した。次いで各ショット毎に清掃し、毎回離型剤を塗布して50回エポキシ樹脂の注形に使用した。この金型には半硬化の樹脂や離型剤が強固に付着している。この型の重量を精度0.1gまで測定後、実施例1?5及び比較例の金型洗浄剤に室温で2時間浸漬後、ブラシを使って表面付着物を除去し、さらに同じ洗浄剤で洗い流した。金型に付いた洗浄剤の液きりを行った後、真空タンクに入れて100℃で10mmHgに減圧して乾燥し室温まで放冷した。このような作業の後金型の外観を比較するとともに、初期と同様に金型の重量を測定した。除去できた付着物の重量を比較したのでそれらの結果を表1に示した。本発明は、付着物が少なく、外観も良好であり本発明の効果を確認することができた。一方比較例では残留物が多く、また、外観も問題があり好ましくなかった。」

(乙第2号証)
乙第2号証には、「金型洗浄剤組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、脂肪酸アルカリ金属塩を含む離型剤を用いた熱硬化性発泡ウレタン樹脂の成型に使用される金型の洗浄剤に関するものである。」
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、脂肪酸アルカリ金属塩を含む水溶性離型剤を用いた熱硬化性発泡ウレタン樹脂の金型成型において、離型剤成分や樹脂に由来する金型汚れの除去について鋭意検討した結果、特定のヒドロキシカルボン酸エステルとN-アルキルピロリドン、あるいはこれにさらに特定のグリコール、及び/又はグリコールのモノアルキルエーテルを配合した組成物が、該金型の洗浄に極めて適していることを見いだし、本発明に至ったものである。」
「【0017】本発明の金型洗浄剤組成物の適用方法は、特に限定するものではないが、例えば対象とする金型表面にスプレーやあるいはウエス等に含ませて塗り付け、乾燥する前に拭きとる方法、あるいは金型洗浄剤の液中に金型を浸潰させる方法などがある。洗浄温度も任意であるが、一般的には室温?100℃、好ましくは60?90℃、で行われる。」

(乙第3号証)
乙第3号証には、「金型洗浄剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、金型洗浄剤に関し、より詳しくはプラスチックやゴムの成形品を形成する金型表面に堆積した汚染物質を洗浄でき、金型表面を清浄にするために用いる金型洗浄剤に関する。」
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の問題点に鑑み、プラスチックやゴムの金型表面にこびりついた汚染物質を洗浄するために、各種の化合物を用いたところ、特定の有機ホウ素高分子を主成分とする金型洗浄剤が優れた結果を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0016】従来の金型洗浄剤では、金型表面にこびりつき堆積した汚染物質は金型表面から容易に分離できなく、機械的な力を加えなければならず、金型表面に傷がつき、ひいては成形品の表面に傷が転写され良好な成型品が得られなかったが、本発明の金型洗浄剤では、機械的な力を加えなくとも汚染物質を分離できるので、金型表面に傷がつくことはない。また、従来の金型洗浄剤では、金型表面に残存すると成型品の金型からの剥離が悪くなるので、金型表面に残存する金型洗浄剤を有機溶剤で溶解し拭き取らねばならず、有機溶剤の作業者に与える毒性が問題となっていたが、本発明の金型洗浄剤では、水で湿した木綿ワイパーで拭っても容易に除去できるので作業者に与える毒性問題はない。」

(乙第4号証)
乙第4号証には、「金型洗浄用組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、半導体成形用樹脂組成物の成形作業の繰り返しにより汚染された熱硬化性樹脂成形材料用成形用金型等の金型を洗浄するための金型洗浄用組成物に関するものである。」
「【0007】
【作用】すなわち、本発明者らは、ビフェニル系エポキシ樹脂を主成分とする成形材料を用いた成形の繰り返しにより形成された金型表面の汚染物質を効果的に除去するための洗浄物について一連の研究を重ねた。その結果、洗浄剤として、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(以下「DBU」という)およびその塩の少なくとも一方〔(A)成分〕、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5(以下「DBN」という)およびその塩の少なくとも一方〔(B)成分〕という特定の物質を含有した金型洗浄用組成物を用いて金型表面の洗浄を行うと、金型表面の汚染物がこの金型洗浄用組成物の成形品と一体化し、金型から汚染物が効果的に除去されることを見出しこの発明に到達した。特に、上記洗浄剤を含有するベースとなる高分子材料として、エチレン-プロピレンゴム、もしくはエチレン-プロピレンゴムとブタジエンゴムの混合物のようなゴム材料を用いると、加熱時に発生する悪臭が少なく作業環境面で有利となるという効果が得られ特に好ましいことを突き止めた。」
「【0025】この発明の金型洗浄用組成物は、つぎのようにして得られる。すなわち、ベースとなる高分子材料と、DBUおよびその塩の少なくとも一方(A成分)、DBNおよびその塩の少なくとも一方(B成分)それぞれ単独あるいは双方、さらにこれらに他の添加剤を配合し、これを混練機で混練することにより得られる。そして、このようにして得られた金型洗浄用組成物は、例えば、圧延ロール等を用い、金型洗浄用組成物をシート状に形成して用いられる。このシート状の成形材料として用いる場合のシートの厚みは、3?10mmに設定される。
【0026】そして、金型の洗浄は、上記シート状に形成された金型洗浄用組成物を、金型に装填して行われる。例えば、ベースとなる高分子材料がゴム材料の場合、上記シートは未加硫状態であって、金型に装填し加熱加硫させることによりシートに汚染物を付着一体化させる。ついで、加硫のなされたシートを金型から取り出すことにより金型の洗浄が行われる。
【0027】上記金型の洗浄は、つぎのようなメカニズムによりなされると考えられる。すなわち、加熱加硫の際に、ゴム組成物中の洗浄剤であるA成分,B成分が金型面に滲出して金型表面に付着している汚染物を膨潤させる。これにより、汚染物の金型表面からの剥離除去が容易となる。そして、加硫されたシートに金型表面から剥離された汚染物が接着,一体化してシートを金型から取り出すことにより金型表面の汚染物が除去され金型が洗浄される。」

(乙第5号証)
乙第5号証には、「実験成績証明書」について、次の記載がある。
「1.目的
本実験は、無効2012-800150の対象である特許第4943225号に関し、実施例1の配合を元にして得られる追加実験例1および2について追試し、本件特許の請求項1に係る発明において「清浄剤」がどのようなものであっても、金型に対する充填性等に影響がないことを確認するのを目的とする。
また、追加実験例3?6について追試し、水を配合しなかった場合、実質的に結晶水を含まない材料を使用した場合、水の配合量を本件明細書の範囲内で変更した場合であっても、金型に対する充填性等に影響がなく、水分が必須成分でないことを確認するのを目的とする。」

また、追試実験例1(実施例1の清浄剤をジアザビシクロウンデセンに置き換えたもの)、追試実験例2(実施例1の清浄剤をジアザビシクロノネンに置き換えたもの)、追試実験例3(実施例1の水配合5部をゼロとしたもの)、追試実験例4(実施例1の水配合5部を20部とし、金型清浄剤組成物全体における水含有率を約10質量%としたもの)、追試実験例5(実施例1の水配合5部を40部とし、金型清浄剤組成物全体における水含有率を約20質量%としたもの)、追試実験例6(追加実験例3のホワイトカーボンを炭酸カルシウムに置き換えたもの)について、表1には、全て、キャビティ充填率が100%であることが示されている。

第6 当審の判断
1.まず、本件発明の「発明が解決しようとする課題」及び「課題を解決するための手段」について検討する。
(1)本件特許明細書には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、成形作業の繰り返しにより汚染された熱硬化性樹脂組成物成形材料用成形金型等の金型の清浄再生等に用いられ、特に、エポキシ樹脂成形材料を用いて、半導体素子をトランスファー成形によって封止する際の封止作業に用いるトランスファー成形用金型の金型清浄再生等に用いられる金型清浄材料である金型清浄剤組成物に関するものである。」

「【背景技術】
【0002】
従来からの金型清浄方法としては、金型を成形装置から外して金型清浄作業を行う方法、例えば、サンドブラスト法,ドライアイスブラスト法やウォータージェット法、あるいは強アルカリ清浄方法等があげられるが、上記のように金型を成形装置から外して金型清浄作業を行うため非常に長い作業時間を要しその労力も大きかった。このため、通常は、金型を成形装置に装着したまま清浄作業を行う方法がより多く行われており、その方法としては、例えば、メラミン樹脂を用いた清浄方法や、紫外線(UV)照射による清浄方法、あるいはシート状清浄剤組成物を用いた清浄方法等が実施されている。なかでも、その作業性が良好であるという点から、シート状清浄剤組成物を金型に挟み込み加熱硬化させた後、離型させることにより硬化させたシート状清浄剤組成物に汚れを転写させ金型から除去するという金型清浄方法が実施されてきた。
【0003】
上記シート状清浄剤組成物として、例えば、未加硫ゴムを用いた金型清浄剤組成物があげられる(特許文献1参照)。さらに、シート状基材に、清浄用成形可能なコンパウンドをコーティングした金型清浄材料があげられる(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9-262843号公報
【特許文献2】特表昭63-502497号公報」

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記シート状清浄剤組成物を用い、これに汚れを転写させ除去する金型清浄方法では、金型のキャビティの形状やサイズによっては成形時においてエアーをキャビティの中に巻き込んでしまい、そのエアーがキャビティのコーナー部分等に溜まると、結果としてその部分がシート状清浄剤組成物の未充填状態となり、汚れが充分に除去されないという問題が発生している。例えば、上記特許文献1に記載の金型清浄剤組成物では、金型に挟み込み加熱加硫した後、金型から除去する際にゴムシートがちぎれて金型に残らないように型締め時の上下の金型を締め切らず、ギャップ(隙間)を1?1.5mm程残す必要がある。しかし、金型キャビティのサイズが小さくて深さの深いキャビティにおいては、そのキャビティコーナー部にエアーをトラップしてしまい、未充填部分が形成されてしまう。その結果、その未充填部分の汚れが充分に除去されないという問題が生じる。また、上記特許文献2に記載の金型清浄材料においても、同様に、キャビティ全面を塞いでしまうため、巻き込んだエアーの逃げるところが無くなってしまい、未充填部分が形成され、結果、その部分の汚れが充分に除去されないという問題が生じる。
【0005】
したがって、このような不具合の発生する金型においては、上記シート状清浄剤組成物を使用することができず、その他の清浄方法を用いるしか手段がなかったが、他の清浄方法では前述のように、長時間を費やすこととなり、またその労力も大きな負担となっているのが実情である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、金型に対して優れた充填性を備え、その結果、金型の汚染に対して優れた清浄効果を奏する金型清浄剤組成物の提供をその目的とする。」

「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の金型清浄剤組成物は、成形材料を用い繰り返し成形を行う加熱成形用金型の清浄剤組成物であって、上記清浄剤組成物が、下記(A)の未加硫ゴムと清浄剤と加硫剤を必須成分とし、かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されているという構成をとる。
(A)エチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、またはエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるEPDMと1,4-ポリブタジエンとの混合物。
【0008】
本発明者は、金型清浄剤組成物を用いた金型清浄作業時に生じるエアー巻き込みによる未充填部分の形成を防止し金型キャビティの細部にまで良好に充填することができ、金型キャビティの汚染物質を効果的に除去することのできる清浄剤組成物を得るべく鋭意検討を重ねた。そして、金型キャビティに対する充填性に着目し、金型キャビティ内に清浄剤組成物を充填する際に極力エアーの巻き込みを抑制することのできる清浄剤組成物の流動性を中心に一連の研究を重ねた。すなわち、金型キャビティへの充填性を向上させるためには、清浄剤組成物が充填される際に極力エアーを巻き込まないような流動状況を形成すること、また、金型キャビティ内の内圧を高めるために成形時(型締め時)の金型クリアランスをより小さくすることが必要であり、特に、金型キャビティへの馴染み性を考慮した場合、清浄剤組成物の粘度は低い方がよいが、低過ぎても成形時の金型キャビティ内の内圧が下がってしまい、巻き込んだエアーを押しつぶすことができなくなり、結果として未充填部分が形成されやすく、また、清浄剤組成物の粘度が高過ぎると、金型キャビティへの馴染み性が低下してしまい、同様に未充填部分が形成されやすくなる。本発明者はこのような知見に基づき、適正な粘度を備えた清浄剤組成物を得るべくさらに研究を重ねた結果、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において上記特定範囲の重量平均分子量(Mw)を備えた清浄剤組成物であると、適正な粘度を有するようになり、良好な充填性が得られることを見出し本発明に到達した。」

(2)これらの記載によれば、本件発明は、成形作業の繰り返しにより汚染された熱硬化性樹脂組成物成形材料用成形金型等の金型の清浄再生等に用いられる金型清浄材料である金型清浄剤組成物に関するものであって、シート状清浄剤組成物を金型に挟み込み加熱硬化させた後、離型させることにより硬化させたシート状清浄剤組成物に汚れを転写させ金型から除去するという金型清浄方法では、金型のキャビティの形状やサイズによっては成形時においてエアーをキャビティの中に巻き込んでしまい、そのエアーがキャビティのコーナー部分等に溜まると、結果としてその部分がシート状清浄剤組成物の未充填状態となり、汚れが充分に除去されないという問題に対して、金型清浄剤組成物を用いた金型清浄作業時に生じるエアー巻き込みによる未充填部分の形成を防止し金型キャビティの細部にまで良好に充填することができるようにするために、清浄剤組成物が充填される際に極力エアーを巻き込まないような流動状況を形成すること、及び、金型キャビティ内の内圧を高めるために成形時(型締め時)の金型クリアランスをより小さくすることを目的とし、清浄剤組成物の粘度は、金型キャビティへの馴染み性に対しては低いほうが良いものの、低過ぎても成形時の金型キャビティ内の内圧が下がってしまい、巻き込んだエアーを押しつぶすことができなくなり、結果として未充填部分が形成されやすくなり、一方、清浄剤組成物の粘度が高過ぎると、金型キャビティへの馴染み性が低下して、未充填部分が形成されやすくなることに着目してなされた発明であって、本件発明では、清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)を、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、本件発明において特定された範囲とした清浄剤組成物を用いることで、当該清浄剤組成物が適正な粘度を有するようになり、金型に対する良好な充填性が得られ、金型の汚れが十分に除去されるようになった、とするものである。

2.上記「1.」を踏まえ、以下に、請求人が記載上問題があるとする発明特定事項ごとに、検討していくこととする。
(1)「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」という記載の「金型清浄剤組成物全体」について
ア.本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0045】
本発明の金型清浄剤組成物は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、ベースとなる未加硫ゴムと清浄剤成分、加硫剤および他の添加剤を配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、押出機やロール等を用いてシート状あるいは短冊状に形成することにより金型清浄剤組成物を作製することができる。このシート状にして用いる場合のシートの厚みは、通常、3?10mmに設定される。
【0046】
このようにして得られる金型清浄剤組成物は、その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、上記組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲となるよう調製する必要がある。特に好ましくはMwが220,000?430,000である。すなわち、Mwが200,000未満では、金型清浄剤組成物の粘度が下がり、成形時に金型の隙間から圧力が外に抜けてしまって金型キャビティ内の圧力の低下から細部にまで金型清浄剤組成物が行き渡らず未充填部分が形成されてしまう。また、Mwが460,000を超えると、金型清浄剤組成物の粘度が上がり、金型キャビティへの馴染み性が低下してしまい、結果、未充填部分が形成されてしまうからである。
【0047】
上記GPCの測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、得られた金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸漬し、3日間放置する。その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で加熱乾固させる。得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置する。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液について、所定の条件および分析装置を用いてGPCの測定を行う。なお、上記GPC測定において、用いる溶剤はTHF溶液に特に限定するものではなく、測定対象である清浄剤組成物の構成成分に応じて適宜選択される。」

「【0063】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0064】
〔実施例1?6、比較例1?5〕
後記の表1?表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、これを混練機にして混合混練した後、圧延ロールを用いて厚さ5mmのシートに成形して目的とするシート状の金型清浄剤組成物を作製した。
【0065】
得られた各シート状金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)をつぎのようにして測定した。まず、上記得られたシート状金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸漬し、3日間放置した。その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で、50℃で加熱乾固させた後、得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置した。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液についてGPC分析装置(東ソー社製、HLC-8120GPC)を用いて下記の測定条件にて重量平均分子量(Mw)の測定を行った。
【0066】
〔測定条件〕
カラム:東ソー社製、GMH_(XL)+GMH_(XL)+G3000H_(XL)カラムラムサイズ:各直径7.8mm×30cm、計90cm
カラム温度:40℃
溶離液:THF
流速:0.8ml/min
入口圧:2.3MPa
注入量:100μl
検出器:示差屈折計(RI)
標準試料:ポリスチレン(PS)
データ処理装置:東ソー社製、GPC-8020」

イ.上記記載によると、本件発明における「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」による「重量平均分子量(Mw)」の測定は、ベースとなる未加硫ゴムと清浄剤成分、加硫剤および他の添加剤を配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、押出機やロール等を用いてシート状あるいは短冊状に形成することにより作成された金型清浄剤組成物を、クロロホルム中に浸漬し、3日間放置し、その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で、50℃で加熱乾固させた後、得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置し、その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液についてGPC分析装置を用いて行われたものであると解することができる。
そうすると、本件特許明細書の段落【0070】の表1において「未加硫ゴム組成物の重量平均分子量(Mw)」の項は、未加硫ゴムの重量平均分子量(Mw)ではなく、得られた各シート状の「金型洗浄用組成物の重量平均分子量(Mw)」のことを意味することは明らかである。

ウ.また、請求人は、「未加硫ゴム組成物」は、本件発明1の金型清浄剤組成物を調製するとき、及び、モンタン酸ワックス等の離型剤を含有するシート状の未加硫ゴム組成物を調製するときの、どちらにも用いられる共通のベースとなる未加硫ゴム組成物を意味すると解され、本件明細書の表1及び表2に記載された「未加硫ゴム組成物」は、「金型清浄剤組成物」を意味するものではない旨主張している(上申書4頁3?28行)ので、「離型剤」が含まれた金型清浄剤組成物についても、検討する。
(ア)「離型剤」について、本件特許明細書には次の記載がある。
「【0061】
つぎに、本発明の金型清浄剤組成物により清浄された金型は、汚染物が除去され、初期状態の金型表面に戻っているため、通常、成形材料である熱硬化性樹脂組成物を用いた半導体パッケージの成形を行う際に、予め金型表面に離型剤を塗布する。例えば、離型剤としてモンタン酸ワックスを含有してなる成形材料の成形に際しては、同じモンタン酸ワックスを塗布することが好ましい。そして、金型表面へのモンタン酸ワックスの塗布方法としては、モンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物を準備し、これをシート状に形成したものを用いるのが好ましい。例えば、先に述べた未加硫ゴムとともに、離型剤を配合して得られるシートがあげられる。そして、このモンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物からなるシートを上記シート状金型清浄剤組成物を用いた清浄工程と同様、金型に装填して加熱することにより含有されたモンタン酸ワックスが金型表面に塗布される。これは、加熱加硫の際に未加硫ゴム組成物中のモンタン酸ワックスが溶融し、金型面に滲出して表面に均一な離型剤膜が形成されるものと考えられる。
【0062】
なお、上記モンタン酸ワックスの含有量は、例えば、未加硫ゴム組成物中のゴム材料100部に対して15?35部の割合に設定することが好ましく、特に好ましくは20?30部である。すなわち、モンタン酸ワックスの含有量が15部未満では充分な離型効果が発揮されず、逆に35部を超えると金型表面に過剰塗布されるとともに、清浄,再生後の金型を用いて成形品を形成した場合にその成形品の外観が劣化する傾向がみられるからである。」

(イ)上記記載によれば、モンタン酸ワックス等の離型剤が塗布されていた金型が、本件発明の金型洗浄用組成物によって清浄されることにより、モンタン酸ワックス等の離型剤が存在しない初期状態の金型表面に戻ることがあると理解される。
また、清浄前に塗布されていた離型剤と同じ離型剤を金型洗浄用組成物に含有させることで、加熱加硫の際に未加硫ゴム組成物中のモンタン酸ワックスが溶融し、金型面に滲出して表面に均一な離型剤膜を形成できることが理解される。
そうすると、上記段落【0061】?【0062】の記載において、「モンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物」とは、当該段落より前の段落で記載していた本件発明の「金型洗浄用組成物」に対して、モンタン酸ワックスを含有させた物であると理解するのが合理的であって、本件発明1の金型清浄剤組成物を調製するとき、及び、モンタン酸ワックス等の離型剤を含有するシート状の未加硫ゴム組成物を調製するときの、どちらにも用いられる共通のベースとなる未加硫ゴム組成物を意味するものとは解するべきではない。

エ.したがって、上記イ.及びウで述べたように、本件発明及び本件特許明細書の「清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」という記載の「金型清浄剤組成物全体」とは、清浄剤成分、加硫剤および他の添加剤が配合される「ベースとなる未加硫ゴム」ではなく、「ベースとなる未加硫ゴムと清浄剤成分、加硫剤および他の添加剤を配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、押出機やロール等を用いてシート状あるいは短冊状に形成することにより作成された金型清浄剤組成物全体」であるということができる。

(2)「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定」及び当該測定による「清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
ア.本件発明は、「清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物全体のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されていることを特徴とする」(請求項1)ものである。
一方、上記「2.(1)」で摘示したように、本件特許明細書に記載された「金型清浄剤組成物」は、「ベースとなる未加硫ゴムと清浄剤成分、加硫剤および他の添加剤を配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、押出機やロール等を用いてシート状あるいは短冊状に形成することにより金型清浄剤組成物を作製することができ」(【0045】)、「その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、上記組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲となるよう調製する必要がある」(【0046】)ものである。

イ.そこで、本件発明における「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定」がどのようなものであるか検討する。
(ア)一般的に、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」において、測定対象である試料を溶解させる溶剤として、「クロロホルム」以外の溶剤も、試料に応じて用いられることは、当業者にとって技術常識である。たとえば、特開昭60-73456号公報には、次の記載がある。
「高分子化合物や有機系オリゴマーの分子量分布を迅速に測定することは、優れた有機材料を開発する上でも、品質管理を行なう上でも重要なことである。これらの要求に対して比較的簡便な分子量分布測定法としてGPCが開発され広く利用されるようになつてきた。GPCとはジヤーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(J.Polym.Sci)A2巻 835頁(1964年):著者ジエイ・シー・ムーア(J.C.Moore)に記載されているような多孔性スチレン-ジビニルベンゼン系重合体球状微粒子(充てん剤)を、ステンレス製等の中空管に充てんしたもの(カラム)を要部とし、分析しようとする試料(溶質分子)を移動相溶媒に溶解させ、カラムの入口から出口に向かつて移動相と共に定量ポンプの動力を用いて展開させることにより充てん剤の細孔の大小に関係して、溶質分子の大きいものから順に分子のサイズ別に分離させ、適当な検出器を用いて移動相の溶出容量に対する分子の量という形(クロマトグラフ)で分析する方法をいう。
GPCの溶離液としてはテトラヒドロフラン(THF)やクロロホルム(CHCl3)が汎用であるが、これらに不溶な試料も多い。たとえば耐熱性樹脂といわれるポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリアミド酸などは上記溶離液に不溶であり、これらの試料のGPCクロマトグラフを常温下で測定するためには特開昭56-60346号公報に記載されているように、ジメチルホルムアミド(DMF)などの試料溶解性の大きな溶離液を使用する必要がある。」(1頁右下欄?2頁左上欄15行)

(イ)そうすると、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、本件発明のような金型清浄剤組成物を重量平均分子量(Mw)の測定をしようとすれば、金型清浄剤組成物を浸漬する溶剤として、クロロホルム以外の溶剤を用いると、溶剤に抽出される成分やその量が異なる場合があり、同一組成の金型清浄剤組成物であっても、測定された重量平均分子量(Mw)の値が同一のものとならないことがあり、測定する対象を浸漬する溶剤の変更は、重量平均分子量(Mw)の値を特定するためには無視できないものであるというべきである。

(ウ)一方、上記「2.(2)」で述べたように、本件発明の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定」は、金型清浄剤組成物を、クロロホルム中に浸漬し、3日間放置し、その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で、50℃で加熱乾固させた後、得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置し、その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液についてGPC分析装置を用いて行われたものを包含している。

そして、本件特許明細書において、本件発明の金型清浄剤組成物のうち、例えば、「他の添加剤」である補強剤について、本件特許明細書には、「上記補強剤としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、ホワイトカーボン、カーボンブラック等の無機質補強剤(充填剤)があげられる。上記補強剤の配合量は、未加硫ゴム100部に対して10?50部に設定することが好ましい。」(【0043】)と記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0069】の表1の実施例1?6には、金型清浄剤組成物にホワイトカーボンを40部含有することが記載されている。
ここで、ホワイトカーボンは、一般に非晶質シリカと呼ばれるものであり、クロロホルムに可溶性ではないことが技術常識であるから、ホワイトカーボンのようなクロロホルムに対する可溶性がない成分の分子量は、どのような量が含まれていたとしても、本件特許明細書に記載されたような特定のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定による場合には、本件特許明細書に記載された「金型清浄剤組成物全体の測定された重量平均分子量(Mw)」の値に影響を与えないことは明らかである。

また、上記の補強剤であるホワイトカーボンに限らず、本件発明の金型清浄剤組成物を構成する成分である「ベースとなる未加硫ゴムと清浄剤成分、加硫剤、他の添加剤」のいずれの成分についても、クロロホルムに対する可溶性がない成分については、本件特許明細書に記載されたような特定のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定」による場合には、本件特許明細書に記載された「金型清浄剤組成物全体の測定された重量平均分子量(Mw)」の値に影響を与えるものではないことは明らかである。

(エ)してみると、本件発明における「金型清浄剤組成物全体の測定された重量平均分子量(Mw)」とは、本件特許明細書の記載によれば、金型浄剤組成物に含まれる全ての成分のうち、クロロホルムに対する可溶性がある成分について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された重量平均分子量(Mw)を表すものということができる。

ウ.上記イ.で述べたように、本件発明における「金型清浄剤組成物全体の測定された重量平均分子量(Mw)」とは、クロロホルムに対する可溶性がある成分について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された重量平均分子量(Mw)を表すものであるところ、このことは、本件請求項1に、「清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において」と記載されているように、本件発明において、明確に特定されているものである。

エ.また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定の際には、測定結果として得られる重量平均分子量(Mw)の値がより正確なものとなるように、溶液に調製するための溶媒及びその調製方法、当該溶液の濃度、溶離液の種類等の種々の分析条件を適切に選択することは、当業者にとって当然に考慮されることである。
そして、分析条件について、請求人が弁駁書において主張するように、クロロホルム可溶分の乾固物を溶解、濾過するための溶剤、及び、GPC試験に用いる遊離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いるかどうかによっては、得られる重量平均分子量(Mw)も異なってくる可能性があり、THF溶液の固形分濃度が高くなりすぎると溶液中の成分が会合等を起こして見かけ上の分子量が大きくなる可能性があって、溶液中で会合等が発生するかしないかによって、メンブランフィルターのポアサイズが同じでも濾液の成分組成が異なってくる可能性があるとしても、どのような分析条件であれば、測定結果として得られた重量平均分子量(Mw)が、どのように異なるようになるのかについて、請求人は具体的には示していないし、請求人の主張からは、請求項1について、本件特許明細書に記載された「クロロホルム可溶分の乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製する工程」、「当該THF溶液を0.45μmメンブランフィルターにて濾過する工程」、及び、「GPCの溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いてGPC試験を行う工程」を限定する必要があるとする根拠は見出せない。
よって、請求人の弁駁書における主張は失当と言わざるを得ない。

オ.また、上記「1.(2)」で述べたように、本件発明は、「清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)を、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、本件発明において特定された範囲とした清浄剤組成物を用いることで、当該清浄剤組成物が適正な粘度を有するようになり、金型に対する良好な充填性が得られ、金型の汚れが十分に除去されるようになった」というものであり、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定」について、清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対して行われることは、本件発明において、明確に特定されていることから、「清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されていることを特徴としている」(請求項1)という本件発明は、本件発明の課題を解決することができないということはできない。

カ.また、本件特許明細書には、金型清浄剤組成物全体の成分のうち、クロロホルム可溶分についての重量平均分子量(Mw)について記載されていることから、本件特許明細書には、本件発明1により特定される金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量が記載されていないとまではいえない。

キ.以上のことから、本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について、本件請求項の記載は、本件特許明細書に記載されていない事項を記載しているとはいえない。また、不明確な記載は見あたらない。

(3)本件発明1の「清浄剤」について
ア.清浄剤の成分に関して、本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0011】
さらに、上記清浄剤として、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類を用いると、優れた金型清浄効果が得られる。」
「【0022】
上記清浄剤成分としては、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0023】
上記グリコールエーテル類は、下記の一般式(1)で表されるものである。
【0024】
【化1


【0025】
上記一般式(1)で表されるグリコールエーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0026】
上記一般式(1)で表されるグリコールエーテル類の中でも、繰り返し数n=1?2、R_(1),R_(2)のいずれか一方が水素の場合には他方が炭素数1?4のアルキル基であるもの、または、繰り返し数n=1?2で、R_(1)およびR_(2)が双方ともアルキル基の場合には、炭素数1?4のアルキル基であるものが好適である。なお、繰り返し数nが3以上の値をとる場合には、ゴムとの相溶性が低下するという事態を招き、またアルキル基の炭素数が5以上の場合には、離型剤の酸化劣化層等に対する浸透性が悪くなるという傾向がみられるようになる。そして、上記グリコールエーテル類の沸点は130?250℃程度であるのが好ましい。すなわち、金型成形は、通常150?185℃で行われるのであり、上記グリコールエーテル類の沸点が130℃未満であれば、清浄時の蒸発が著しく、清浄作業環境の悪化現象を生じる恐れがあり、逆に250℃を超えると、蒸発が困難となって加硫ゴム生地中に残存し、清浄後の加硫ゴムの、金型からの取り出しの際の強度が弱くなって崩形等するため、金型表面から離型剤の酸化劣化層等を充分剥離することができにくくなり、清浄作業性を低下させる傾向がみられるからである。
【0027】
上記グリコールエーテル類は、そのまま、もしくは水、あるいはメタノール,エタノール、n-プロパノール等のようなアルコール類、トルエン,キシレン等のような有機溶媒と混合して使用に供することがあげられる。上記有機溶媒と混合する際には、有機溶媒量をグリコールエーテル類100重量部(以下「部」と略す)に対して50部以下とすることが好ましく、最も一般的には20部以下に設定することである。
【0028】
上記イミダゾール類としては、下記の一般式(2)で表されるイミダゾール類を用いることが好結果をもたらす。
【0029】
【化2】

【0030】
このようなイミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6〔2′-メチルイミダゾリル(1)′〕エチル-s-トリアジン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0031】
また、上記イミダゾリン類としては、下記の一般式(3)で表されるイミダゾリン類を用いることが好結果をもたらす。
【0032】
【化3】

【0033】
このようなイミダゾリン類としては、例えば、2-メチルイミダゾリン、2-メチル-4-エチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン、1-ベンジル-2-メチルイミダゾリン、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾリン、2,4-ジアミノ-6〔2′-メチルイミダゾリニル-(1)′〕エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6〔2′-メチル-4′-エチルイミダゾリニル-(1)′〕エチル-s-トリアジン、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾリン、1-シアノエチル-2-メチル-4-エチルイミダゾリン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
上記イミダゾール類、イミダゾリン類も、グリコールエーテル類と同様、そのままで使用してもよいし、メタノール、エタノール、n-プロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の有機溶媒と混合して使用してもよい。上記アルコール類、有機溶媒と混合する場合には、これらアルコール類および有機溶媒の量を、通常、イミダゾール類およびイミダゾリン類の少なくとも一方100部に対して50部以下に設定することが好ましく、より好ましくは20部以下である。
【0035】
上記アミノアルコール類としては、下記に示すようなアミノアルコール類を用いることが好結果をもたらす。
【0036】
上記アミノアルコール類の代表例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、3-アミノプロパノール、2-アミノプロパノール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0037】
上記アミノアルコール類も、先に述べた清浄剤成分と同様、そのままで使用してもよいし、メタノール、エタノール、n-プロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の有機溶媒と混合して使用してもよい。上記アルコール類、有機溶媒と混合する場合には、これらアルコール類および有機溶媒の量を、通常、アミノアルコール類100部に対して50部以下に設定することが好ましく、より好ましくは20部以下である。
【0038】
上記清浄剤成分(グリコールエーテル類,イミダゾール類,イミダゾリン類,アミノアルコール類等)の配合量は、通常、未加硫ゴム100部に対して10?60部の範囲に設定することが好ましい。特に好ましくは15?25部である。すなわち、清浄剤の配合量が10部未満では、金型に対して充分な清浄力が発揮され難く、逆に60部を超えると、得られる金型清浄剤組成物を用いて金型を清浄した場合、この組成物が金型に付着して金型からの剥離作業性が劣化する傾向がみられるからである。」

イ.上記記載によれば、本件発明1の「清浄剤」の成分について、「グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類を用いると、優れた金型清浄効果が得られる」(【0011】)と記載されている。
また、本件発明1の「清浄剤」の沸点について、「上記グリコールエーテル類の沸点は130?250℃程度であるのが好ましい。すなわち、金型成形は、通常150?185℃で行われるのであり、上記グリコールエーテル類の沸点が130℃未満であれば、清浄時の蒸発が著しく、清浄作業環境の悪化現象を生じる恐れがあり、逆に250℃を超えると、蒸発が困難となって加硫ゴム生地中に残存し、清浄後の加硫ゴムの、金型からの取り出しの際の強度が弱くなって崩形等するため、金型表面から離型剤の酸化劣化層等を充分剥離することができにくくなり、清浄作業性を低下させる傾向がみられるからである。」(【0026】)という記載はあるものの、「上記グリコールエーテル類は、そのまま、もしくは水、あるいはメタノール,エタノール、n-プロパノール等のようなアルコール類、トルエン,キシレン等のような有機溶媒と混合して使用に供することがあげられる。」(【0027】)という記載もあり、沸点がグリコールエーテル類よりも低い水やメタノール等を混合することが記載されている。
そして、本件発明1の「清浄剤」の配合量について、同様に、「上記清浄剤成分(グリコールエーテル類,イミダゾール類,イミダゾリン類,アミノアルコール類等)の配合量は、通常、未加硫ゴム100部に対して10?60部の範囲に設定することが好ましい。特に好ましくは15?25部である。すなわち、清浄剤の配合量が10部未満では、金型に対して充分な清浄力が発揮され難く、逆に60部を超えると、得られる金型清浄剤組成物を用いて金型を清浄した場合、この組成物が金型に付着して金型からの剥離作業性が劣化する傾向がみられるからである。」(【0038】)という記載はある。

しかしながら、「グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類」が金型に対する清浄剤としての作用効果があることが知られているとしても、これらの化合物についての本件特許明細書の記載からは、化合物の構造、沸点などといった、化合物として共通する概念が、把握できるものではない。

また、本件特許明細書には、清浄剤の成分によって清浄剤組成物の粘度や金型の充填性に対して影響を与えることについての記載は見あたらない。
そして、請求人の主張からは、清浄剤の成分によっては、清浄剤組成物の粘度や充填性に有意な影響を与えることがあることは直ちには明らかではないし、本件発明の清浄剤組成物に混合された清浄剤の成分によって、清浄剤組成物の粘度や充填性に有意な影響を与えることがあることが当業者にとって技術常識であるとまでいえない。

そして、上記「1.(2)」で述べたように、本件発明では、清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、本件発明において特定された範囲とした清浄剤組成物を用いることで、当該清浄剤組成物が適正な粘度を有するようになり、金型に対する良好な充填性が得られ、金型の汚れが十分に除去されるようになった、というものである。

ウ.そうすると、本件発明の「清浄剤」とは、金型に対する清浄効果がある剤であればどのようなものでもよいと解すべきであって、選択された清浄剤によって、得られた清浄剤組成物の粘度や金型の充填性に対して影響を与えるとまではいえないのであるから、清浄剤として選ぶことができる物質の範囲を、実施例で用いられた上記4つの化合物以外の物質にまで拡張又は一般化することは許されないとまではいえない。

エ.また、本件発明では、請求項1において「上記清浄剤組成物が、下記(A)の未加硫ゴムと清浄剤と加硫剤とを必須成分とし」と記載されており、「清浄剤」が清浄剤組成物に含まれることが明確に特定されており、また、当該「清浄剤」の例として、本件特許明細書の段落【0022】?【0037】には、「グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類」の清浄剤について例示され、本件特許明細書に段落【0069】の【表1】に示された実施例1?3では、イミダゾール類として、「2,4-ジアミノ-6〔2′-メチルイミダゾリニル-(1)′〕エチル-s-トリアジン」が、同実施例4では、イミダゾリン類として、「2-メチル-4-エチルイミダゾリン」が、同実施例5では、グリコールエーテル類として、「エチレングリコールモノメチルエーテル」が、同実施例6では、アミノアルコール類として、「2-アミノ-2-メチルプロパノール」を用いることが、それぞれ具体的に示されていることから、「清浄剤」の選択に当たり、当業者が過度の試行錯誤を要するものであるとまではいえない。
なお、「清浄剤」に関する均等論についての請求人及び被請求人の主張は、本件特許明細書の記載要件とは直接の関連がないので、採用できない。

(4)本件発明1の水及び本件発明4?8における水分の含有量について検討する。
ア.本件特許明細書には、水について、次の記載がある。
「【0044】
さらに、上記未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物には、水を含有させることも可能である。上記水の含有量は、金型清浄剤組成物中、1?20重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは1?10重量%である。上記範囲の含有量に設定することにより、より一層優れた清浄性が得られるようになる。上記水を含有させる方法としては、他の配合成分とともに水を配合する方法や、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、配合成分を事前に吸湿させる方法等があげられる。」

イ.上記の「上記未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物には、水を含有させることも可能である。」という記載からは、未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物に対して、当該清浄組成物が水を含有していない場合も、すでに水を含有している場合も含めて、得られた清浄剤組成物に、さらに、水を含有させる必要はないものの、場合によっては、意図的に、さらに水を含有させることが可能であると解することができる。

また、「上記水を含有させる方法としては、他の配合成分とともに水を配合する方法や、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、配合成分を事前に吸湿させる方法等があげられる。」という記載からは、水を含有させる前の「金型清浄剤組成物」に、意図的に水を含有させる場合には、他の配合成分とともに水を配合する方法や、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、配合成分を事前に吸湿させる方法等が採用され得るものと解される。

ウ.ここで、水の含有量の特定について、例えば、他の配合成分とともに水を配合する方法では、水の含有量は、配合した水の量であり、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法では、含水塩に対する結晶水の割合は既知であるから、含水塩の量を測定すれば水の含有量が求めることができ、配合成分を事前に吸湿させる方法では、配合成分の吸湿後の重量から吸湿前の重量との差が水の含有量となることから、金型洗浄用組成物に意図的に水を含有させる場合に、含有させる水の量を特定する方法は、当業者にとって自明な事項であるということができる。

エ.すなわち、本件発明1では、「水」は、課題を解決するために必須の成分なのではなく、「水」が含まれることによって、本件発明1の作用効果を妨げるようになるものでもない。本件発明2、3、5?8も同様である。
そして、本件発明では、含有される水の量が特定できるような方法によって特定の量の水を含有させることが可能であると解するのが妥当である。

オ.そして、「上記水の含有量は、金型清浄剤組成物中、1?20重量%の範囲に設定することが好ましく、・・・より一層優れた清浄性が得られるようになる。」という記載からは、未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物に対して水を含有させる場合は、意図的に含有させた水の量が、1?20重量%の範囲であると、より一層優れた清浄性が得られるとするものである。
金型清浄剤組成物に含有される水分の量を、上限と下限を有する数値範囲を用いて、「1?20重量%」と特定したからといって、従来例との比較において有意な効果を主張するのであればともかく、本件特許明細書の記載によれば、数値範囲によって、実験的に水分の量を最適化又は好適化した程度のものであるから、直ちに、その数値限定の内と外で量的に顕著な差異があることが要求される必要はないことは明らかである。

そして、本件特許明細書には、清浄剤組成物に水が含まれるか含まれないかの違いによって、清浄剤組成物の粘度や金型の充填性に対して影響を与えることについての記載は見あたらない。
また、本件発明の清浄剤組成物に混合された水が含まれるか含まれないかの違いや、水の量によって、清浄剤組成物の粘度や充填性に有意な影響を与えることがあることが当業者にとって技術常識であるとまではいえない。
さらに、本件発明の金型清浄剤組成物に含有された水分の量によって、金型の清浄ができなくなる、又は、清浄剤組成物の粘度や充填性に有意な影響を与えることがあるというわけではない。

そして、既に「1.(2)」で述べたように、本件発明では、清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)を、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、本件発明において特定された範囲とした清浄剤組成物を用いることで、当該清浄剤組成物が適正な粘度を有するようになり、金型に対する良好な充填性が得られ、金型の汚れが十分に除去されるようになった、というものである。

カ.そうすると、本件発明1に係る金型清浄剤組成物において、「水」は、必須の成分であるとすることはできず、本件発明4における「金型清浄剤組成物が、1?20重量%の水分を含有する」とは、発明全体としてみると、明確ではないとまではいうことができない。

3.まとめ
(1)特許法第36条第4項第1号について
ア.本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について
上記「2.(3)エ.」で述べたように、本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について、当業者がその実施にあたって過度の試行錯誤を要するものであるとまではいえないことから、本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について本件特許明細書は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア.本件発明1、2、4?8における「清浄剤」について
上記「2.(3)ウ.」で述べたように、清浄剤として選ぶことができる物質の範囲を、実施例で用いられた上記4つの化合物以外の物質にまで拡張又は一般化することは許されないとまではいえないことから、請求項1における「清浄剤」の記載について特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

イ.本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
上記「2.(2)オ.」で述べたように、請求項1?8に記載された事項では本件発明の課題を解決することができないとはいえないし、本件特許明細書には請求項1?8により特定される金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量が記載されていない、ともいうことができない。
したがって、請求項1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

ウ.本件発明1?3、5?8において、「配合した水」を必須成分としてない点について
上記「2.(4)エ.」で述べたように、本件発明1?3、5?8は、「配合した水」を必須成分としておらず、請求項1?3、5?8の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

エ.本件発明4?8において、水分の含有量が「1?20重量%」である点について
上記「2.(4)オ.」で述べたように、金型清浄剤組成物に含有される水分の量を、上限と下限を有する数値範囲を用いて、「1?20重量%」と特定したからといって、直ちに、その数値限定の内と外で量的に顕著な差異があることが要求される必要はないことから、本件発明4?8において、水分の含有量が「1?20重量%」である点について、「水分の含有量を1?20重量%の範囲に設定したことによってより一層優れた清浄性が得られるようになる」という特有の効果を奏することを当業者が認識することはできないという請求人の主張は、失当であり、請求項4?8の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
ア.本件発明1?8における、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定について
上記「2.(2)ウ.」で述べたように、請求項1?8の記載において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定が、どのようなものか明確に規定されていないとはいえないことから、請求項1?8の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

イ.本件発明4?8における水分の含有量について
上記「2.(4)カ.」で述べたように、本件発明4?8における水分の含有量は、発明全体としてみると、明確ではないとまではいうことができず、請求項4?8の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

ウ.本件発明1?8における「金型清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」について
上記「2.(2)キ.」で述べたように、請求項1?8の記載において、「清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)」を明確に特定することができないとはいえず、本件請求項の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は、採用できない。

(4)請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていないという弁駁書における請求人の主張について
上記「2.(2)エ.、キ.」で述べたように、請求項1の記載において、測定用試料を調製する段階、及び、GPC測定装置を用いて測定を行う段階に必要な溶剤や条件を、十分に特定できていないということはできず、しかも、不明確な記載は見あたらないことから、弁駁書における請求人の上記主張は、採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金型清浄剤組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形作業の繰り返しにより汚染された熱硬化性樹脂組成物成形材料用成形金型等の金型の清浄再生等に用いられ、特に、エポキシ樹脂成形材料を用いて、半導体素子をトランスファー成形によって封止する際の封止作業に用いるトランスファー成形用金型の金型清浄再生等に用いられる金型清浄材料である金型清浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からの金型清浄方法としては、金型を成形装置から外して金型清浄作業を行う方法、例えば、サンドブラスト法,ドライアイスブラスト法やウォータージェット法、あるいは強アルカリ清浄方法等があげられるが、上記のように金型を成形装置から外して金型清浄作業を行うため非常に長い作業時間を要しその労力も大きかった。このため、通常は、金型を成形装置に装着したまま清浄作業を行う方法がより多く行われており、その方法としては、例えば、メラミン樹脂を用いた清浄方法や、紫外線(UV)照射による清浄方法、あるいはシート状清浄剤組成物を用いた清浄方法等が実施されている。なかでも、その作業性が良好であるという点から、シート状清浄剤組成物を金型に挟み込み加熱硬化させた後、離型させることにより硬化させたシート状清浄剤組成物に汚れを転写させ金型から除去するという金型清浄方法が実施されてきた。
【0003】
上記シート状清浄剤組成物として、例えば、未加硫ゴムを用いた金型清浄剤組成物があげられる(特許文献1参照)。さらに、シート状基材に、清浄用成形可能なコンパウンドをコーティングした金型清浄材料があげられる(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9-262843号公報
【特許文献2】特表昭63-502497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記シート状清浄剤組成物を用い、これに汚れを転写させ除去する金型清浄方法では、金型のキャビティの形状やサイズによっては成形時においてエアーをキャビティの中に巻き込んでしまい、そのエアーがキャビティのコーナー部分等に溜まると、結果としてその部分がシート状清浄剤組成物の未充填状態となり、汚れが充分に除去されないという問題が発生している。例えば、上記特許文献1に記載の金型清浄剤組成物では、金型に挟み込み加熱加硫した後、金型から除去する際にゴムシートがちぎれて金型に残らないように型締め時の上下の金型を締め切らず、ギャップ(隙間)を1?1.5mm程残す必要がある。しかし、金型キャビティのサイズが小さくて深さの深いキャビティにおいては、そのキャビティコーナー部にエアーをトラップしてしまい、未充填部分が形成されてしまう。その結果、その未充填部分の汚れが充分に除去されないという問題が生じる。また、上記特許文献2に記載の金型清浄材料においても、同様に、キャビティ全面を塞いでしまうため、巻き込んだエアーの逃げるところが無くなってしまい、未充填部分が形成され、結果、その部分の汚れが充分に除去されないという問題が生じる。
【0005】
したがって、このような不具合の発生する金型においては、上記シート状清浄剤組成物を使用することができず、その他の清浄方法を用いるしか手段がなかったが、他の清浄方法では前述のように、長時間を費やすこととなり、またその労力も大きな負担となっているのが実情である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、金型に対して優れた充填性を備え、その結果、金型の汚染に対して優れた清浄効果を奏する金型清浄剤組成物の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の金型清浄剤組成物は、成形材料を用い繰り返し成形を行う加熱成形用金型の清浄剤組成物であって、上記清浄剤組成物が、下記(A)の未加硫ゴムと清浄剤と加硫剤を必須成分とし、かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されているという構成をとる。
(A)エチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、またはエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるEPDMと1,4-ポリブタジエンとの混合物。
【0008】
本発明者は、金型清浄剤組成物を用いた金型清浄作業時に生じるエアー巻き込みによる未充填部分の形成を防止し金型キャビティの細部にまで良好に充填することができ、金型キャビティの汚染物質を効果的に除去することのできる清浄剤組成物を得るべく鋭意検討を重ねた。そして、金型キャビティに対する充填性に着目し、金型キャビティ内に清浄剤組成物を充填する際に極力エアーの巻き込みを抑制することのできる清浄剤組成物の流動性を中心に一連の研究を重ねた。すなわち、金型キャビティへの充填性を向上させるためには、清浄剤組成物が充填される際に極力エアーを巻き込まないような流動状況を形成すること、また、金型キャビティ内の内圧を高めるために成形時(型締め時)の金型クリアランスをより小さくすることが必要であり、特に、金型キャビティへの馴染み性を考慮した場合、清浄剤組成物の粘度は低い方がよいが、低過ぎても成形時の金型キャビティ内の内圧が下がってしまい、巻き込んだエアーを押しつぶすことができなくなり、結果として未充填部分が形成されやすく、また、清浄剤組成物の粘度が高過ぎると、金型キャビティへの馴染み性が低下してしまい、同様に未充填部分が形成されやすくなる。本発明者はこのような知見に基づき、適正な粘度を備えた清浄剤組成物を得るべくさらに研究を重ねた結果、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において上記特定範囲の重量平均分子量(Mw)を備えた清浄剤組成物であると、適正な粘度を有するようになり、良好な充填性が得られることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の金型清浄剤組成物は、特定の未加硫ゴム,清浄剤および加硫剤を必須成分とし、その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、上記組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において特定範囲となるものである。このため、清浄剤組成物が適正な粘度を有するようになり、金型キャビティへの優れた充填性を奏するようになる。したがって、本発明の金型清浄剤組成物を用いて金型表面の清浄を行うと、金型キャビティに均一に充填され、金型表面の汚染物がこの金型清浄剤組成物に付着して一体化し金型から汚染物が効果的に除去されることになる。例えば、エポキシ樹脂組成物を用いて繰り返し成形した半導体素子封止用トランスファー成形用金型表面の汚染物がこの金型清浄剤組成物からなる成形品と一体化し、金型から汚染物が効果的に除去されて金型の清浄が効果的になされる。したがって、本発明の金型清浄剤組成物により清浄された金型を用いて形成される半導体装置は、外観的に優れたものが得られる。
【0010】
そして、金型清浄剤組成物が、シート状または短冊状であると、金型キャビティの清浄に際して容易に配置することが可能となる。
【0011】
さらに、上記清浄剤として、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類を用いると、優れた金型清浄効果が得られる。
【0012】
そして、金型清浄剤組成物が、1?20重量%の水分を含有すると、より一層優れた清浄性が得られるようになる。
【0013】
そして、上記金型清浄剤組成物が、特に、それ自体のシート面に、複数の直線状の切れ込みを一方方向に設けた、シート状に成形したものであると、その使用にあたって、シートを上記切れ込みに沿って折り畳むことにより容易に積重させることができる。このとき、平行な切れ込みによって区切られる個々のブロック片は、切れ込みの底の部分で互いにつながっていることから、折り畳んだときにずれたりせずに整然と積重され、各ブロック片が交差したりした状態で積み重なったりすることがない。このため、得られた積重品は、いびつな形状にならない。このように整然と積重されたシート状の清浄剤組成物で金型を清浄することにより、例えば、未加硫ゴムが金型表面に充分圧接されずに起こるクリーニング不良が生じなくなる。また、わざわざシートの寸法を測定して同じ大きさにカッティングしたり、そのカッティングしたシートを揃えながら積重したりする煩雑な作業が不要になり、清浄作業が簡略化する。
【0014】
また、上記金型清浄剤組成物がシート状であり、特に、それ自体のシート面に、複数の直線状の切れ込みを一方方向に設け、上記切れ込みが、その切れ込み部分からカッティングできるように設けられていると、より小さな金型寸法に合わせて、不揃いになることなく容易にシートをカッティングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明の金型清浄剤組成物は、その組成物全体が特定の重量平均分子量を有するものであって、ベースとなる未加硫ゴムと、清浄剤成分と、加硫剤を必須成分として用いて得られるものである。
【0017】
上記未加硫ゴムとなるゴム材料としては、エチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、またはエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるEPDMと1,4-ポリブタジエンとの混合物が用いられる。これら特定の未加硫ゴムは、金型内において加硫され加硫ゴムとなる。
【0018】
上記特定の未加硫ゴムは、金型を用いた成形に際して、汚染性が少ない、また加硫時の臭気が少ないという点から、本発明で用いられている。
【0019】
上記EPDMについて詳述すると、EPDMはエチレン,α-オレフィン(プロピレン)および特定のポリエンモノマー(エチリデンノルボルネン)からなるターポリマーである。
【0020】
上記EPDMにおける各モノマーの共重合割合は、好ましくはエチレンが30?80モル%、ポリエンモノマーが0.1?20モル%で、残りがα-オレフィンとなるようなターポリマーである。より好ましいのはエチレンが30?60モル%である。そして、上記EPDMとしては、重量平均分子量(Mw)が100,000?300,000の範囲、特に150,000?250,000の範囲のものを用いることが好ましい。
【0021】
また、上記EPDMとの混合物として用いられるブタジエンゴム(BR)としては、1,4-ポリブタジエンが使用される。そして、ムーニー粘度ML_(1+4)(100℃)が20?80のものが好ましく用いられ、より好ましくは35?60のものである。さらに、上記BRとしては、重量平均分子量(Mw)が200,000?600,000の範囲、特に400,000?600,000の範囲のものを用いることが好ましい。
【0022】
上記清浄剤成分としては、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0023】
上記グリコールエーテル類は、下記の一般式(1)で表されるものである。
【0024】
【化1】

【0025】
上記一般式(1)で表されるグリコールエーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0026】
上記一般式(1)で表されるグリコールエーテル類の中でも、繰り返し数n=1?2、R_(1),R_(2)のいずれか一方が水素の場合には他方が炭素数1?4のアルキル基であるもの、または、繰り返し数n=1?2で、R_(1)およびR_(2)が双方ともアルキル基の場合には、炭素数1?4のアルキル基であるものが好適である。なお、繰り返し数nが3以上の値をとる場合には、ゴムとの相溶性が低下するという事態を招き、またアルキル基の炭素数が5以上の場合には、離型剤の酸化劣化層等に対する浸透性が悪くなるという傾向がみられるようになる。そして、上記グリコールエーテル類の沸点は130?250℃程度であるのが好ましい。すなわち、金型成形は、通常150?185℃で行われるのであり、上記グリコールエーテル類の沸点が130℃未満であれば、清浄時の蒸発が著しく、清浄作業環境の悪化現象を生じる恐れがあり、逆に250℃を超えると、蒸発が困難となって加硫ゴム生地中に残存し、清浄後の加硫ゴムの、金型からの取り出しの際の強度が弱くなって崩形等するため、金型表面から離型剤の酸化劣化層等を充分剥離することができにくくなり、清浄作業性を低下させる傾向がみられるからである。
【0027】
上記グリコールエーテル類は、そのまま、もしくは水、あるいはメタノール,エタノール、n-プロパノール等のようなアルコール類、トルエン,キシレン等のような有機溶媒と混合して使用に供することがあげられる。上記有機溶媒と混合する際には、有機溶媒量をグリコールエーテル類100重量部(以下「部」と略す)に対して50部以下とすることが好ましく、最も一般的には20部以下に設定することである。
【0028】
上記イミダゾール類としては、下記の一般式(2)で表されるイミダゾール類を用いることが好結果をもたらす。
【0029】
【化2】

【0030】
このようなイミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6〔2′-メチルイミダゾリル(1)′〕エチル-s-トリアジン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0031】
また、上記イミダゾリン類としては、下記の一般式(3)で表されるイミダゾリン類を用いることが好結果をもたらす。
【0032】
【化3】

【0033】
このようなイミダゾリン類としては、例えば、2-メチルイミダゾリン、2-メチル-4-エチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン、1-ベンジル-2-メチルイミダゾリン、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾリン、2,4-ジアミノ-6〔2′-メチルイミダゾリニル-(1)′〕エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6〔2′-メチル-4′-エチルイミダゾリニル-(1)′〕エチル-s-トリアジン、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾリン、1-シアノエチル-2-メチル-4-エチルイミダゾリン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
上記イミダゾール類、イミダゾリン類も、グリコールエーテル類と同様、そのままで使用してもよいし、メタノール、エタノール、n-プロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の有機溶媒と混合して使用してもよい。上記アルコール類、有機溶媒と混合する場合には、これらアルコール類および有機溶媒の量を、通常、イミダゾール類およびイミダゾリン類の少なくとも一方100部に対して50部以下に設定することが好ましく、より好ましくは20部以下である。
【0035】
上記アミノアルコール類としては、下記に示すようなアミノアルコール類を用いることが好結果をもたらす。
【0036】
上記アミノアルコール類の代表例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、3-アミノプロパノール、2-アミノプロパノール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0037】
上記アミノアルコール類も、先に述べた清浄剤成分と同様、そのままで使用してもよいし、メタノール、エタノール、n-プロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の有機溶媒と混合して使用してもよい。上記アルコール類、有機溶媒と混合する場合には、これらアルコール類および有機溶媒の量を、通常、アミノアルコール類100部に対して50部以下に設定することが好ましく、より好ましくは20部以下である。
【0038】
上記清浄剤成分(グリコールエーテル類,イミダゾール類,イミダゾリン類,アミノアルコール類等)の配合量は、通常、未加硫ゴム100部に対して10?60部の範囲に設定することが好ましい。特に好ましくは15?25部である。すなわち、清浄剤の配合量が10部未満では、金型に対して充分な清浄力が発揮され難く、逆に60部を超えると、得られる金型清浄剤組成物を用いて金型を清浄した場合、この組成物が金型に付着して金型からの剥離作業性が劣化する傾向がみられるからである。
【0039】
上記加硫剤としては、特に限定するものではなく従来公知のものが用いられる。例えば、硫黄や、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、上記加硫剤の配合量は、上記未加硫ゴム100部に対して1?3部の範囲に設定することが好ましい。
【0040】
さらに、本発明の金型清浄剤組成物には、上記未加硫ゴム,清浄剤成分および加硫剤以外に、必要に応じて、離型剤、補強剤等を適宜に配合することができる。
【0041】
上記離型剤としては、特に限定するものではなく従来公知のものがあげられ、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸等の長鎖脂肪酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムに代表される長鎖脂肪酸の金属塩、カルナバワックス、モンタン酸ワックス、モンタン酸の部分ケン化エステルに代表されるエステル系ワックス、ステアリルエチレンジアミドに代表される長鎖脂肪酸アミド、ポリエチレンワックスに代表されるパラフィン類等があげられる。
【0042】
上記離型剤の含有量は、金型清浄剤組成物中1?10重量%の範囲に設定することが好ましい。すなわち、離型剤の含有量が1重量%未満では充分な離型効果を発揮することが困難となり、逆に10重量%を超えると清浄力が低下するとともに再生後の金型を用いて成形品を製造した際にその成形品の外観が悪化する恐れがあるからである。
【0043】
上記補強剤としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、ホワイトカーボン、カーボンブラック等の無機質補強剤(充填剤)があげられる。上記補強剤の配合量は、未加硫ゴム100部に対して10?50部に設定することが好ましい。
【0044】
さらに、上記未加硫ゴム生地を母材とする清浄剤組成物には、水を含有させることも可能である。上記水の含有量は、金型清浄剤組成物中、1?20重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは1?10重量%である。上記範囲の含有量に設定することにより、より一層優れた清浄性が得られるようになる。上記水を含有させる方法としては、他の配合成分とともに水を配合する方法や、結晶水を含有する含水塩等の化合物を配合する方法、配合成分を事前に吸湿させる方法等があげられる。
【0045】
本発明の金型清浄剤組成物は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、ベースとなる未加硫ゴムと清浄剤成分、加硫剤および他の添加剤を配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、押出機やロール等を用いてシート状あるいは短冊状に形成することにより金型清浄剤組成物を作製することができる。このシート状にして用いる場合のシートの厚みは、通常、3?10mmに設定される。
【0046】
このようにして得られる金型清浄剤組成物は、その組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、上記組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲となるよう調製する必要がある。特に好ましくはMwが220,000?430,000である。すなわち、Mwが200,000未満では、金型清浄剤組成物の粘度が下がり、成形時に金型の隙間から圧力が外に抜けてしまって金型キャビティ内の圧力の低下から細部にまで金型清浄剤組成物が行き渡らず未充填部分が形成されてしまう。また、Mwが460,000を超えると、金型清浄剤組成物の粘度が上がり、金型キャビティへの馴染み性が低下してしまい、結果、未充填部分が形成されてしまうからである。
【0047】
上記GPCの測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、得られた金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸漬し、3日間放置する。その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で加熱乾固させる。得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置する。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液について、所定の条件および分析装置を用いてGPCの測定を行う。なお、上記GPC測定において、用いる溶剤はTHF溶液に特に限定するものではなく、測定対象である清浄剤組成物の構成成分に応じて適宜選択される。
【0048】
そして、本発明の金型清浄剤組成物としては、白色ないしこれに近い灰色のような淡色とすることが好ましい。このように設定することにより、金型清浄後に、金型から除去されて金型清浄剤組成物に付着する汚れが肉眼で容易に確認することが可能となり、金型清浄の状況を容易に確認することができるようになるという効果を奏する。
【0049】
そして、本発明の金型清浄剤組成物の使用に際しては、一般にシート状に成形して用いることが好ましい。このシート状での使用に際しては、それを用いての金型の清浄作業の容易さ等の観点から、例えば、図1に示すように、それ自体のシート面に、シート10を折り畳み可能とする複数の直線状の切れ込み11が、所定間隔で平行に設けられたシート10が好適に用いられる。好ましくは、シート面に縞模様が形成されたシート10があげられる。そして、上記切れ込み11を利用してシート10を折り畳むことにより、整然と積み重ねることができるようになっている。
【0050】
このような切り込み11が設けられたシート10は、つぎのようにして作製される。すなわち、先に述べたようにして得られた圧延シートを所定の形状,寸法に裁断してシート10を形成したのち、そのシート面に切れ込み11を形成させる。このような切れ込み11の形成は、例えば、図2に示すように、回転軸12に所定間隔で円板状の切れ刃13を取り付けたリボンスリーターを用い、上記切れ刃13をシート10の上面から所定深さだけ食い込ませて移動させ、シート10の幅方向に平行な切れ込み11を形成させる。この操作を繰り返し、シート10上面の全面にわたって、一定間隔の平行な切れ込み11が形成されるのである。そして、シート10は、上記各切れ込み11によって同一サイズのブロック片10aに区切られる。このように上記切れ込み11は、一定間隔で形成されているため、その切れ込み11が折り畳み時等のメジャーの機能も発揮し、清浄しようとする金型やキャビティの大きさに合わせてシート10をカッティングしたり折り畳んだりすることが容易となる。
【0051】
また、図3に示すように、切れ込み11の先端部と、切れ込み11の先端に対面するシート面との距離Dは、0.1?0.8mm程度に設定するのが好ましく、0.2?0.5mm程度であれば、さらに好ましい。すなわち、上記差が0.1mm未満では、各ブロック片10a同士が離間しやすくなり、0.8mmを超えると、折り畳みがスムーズに行いづらくなるからである。
【0052】
本発明のシート状に形成された金型清浄剤組成物を用いての金型のクリーニング方法は、半導体装置成形用金型に装填して行われる。例えば、上記シートは、当然、未加硫状態であって、これを成形用金型に装填し加熱加硫させることによりシートに汚染物を付着一体化させる。ついで、加硫のなされたシートを金型から取り出すことにより金型の清浄が行われる。
【0053】
上記シート状の金型清浄剤組成物を用いた金型のクリーニング方法を、順を追ってより詳しく説明する。
【0054】
まず、本発明のシート状の金型清浄剤組成物を準備する。ついで、図4に示すように、シート状金型清浄剤組成物10を、凹部3aが形成された上型1と、凹部3bが形成された下型2の間に配置し、その状態から、図5に示すように、上型1と下型2を締めてシート状金型清浄剤組成物10を挟み、圧縮成形する。そして、成形時の圧力によって上記シート10が、上型1に形成された凹部3aおよび下型2に形成された凹部3bからなるキャビティ3内に充填されるとともに、金型表面に圧接される。その状態で成形時の熱により、未加硫ゴムが加熱加硫されて加硫ゴム化し、その際にキャビティ3内に形成されている離型剤の酸化劣化層等を加硫ゴムに一体化させる。このとき、場合によってはキャビティ3回りのばりも一体化させる。ついで、図6に示すように、所定時間経過後に上型1と下型2を開き、加硫ゴム化されたシート状金型清浄剤組成物10を上下両金型1,2から剥離することにより、上記シート10と一体化された酸化劣化層等を上下両金型1,2表面から剥離させる。このようにして、金型のクリーニングが行われる。
【0055】
上記シート状金型清浄剤組成物としては、先に述べたように、図1に示すように、それ自体のシート面に、シート10を折り畳み可能とする複数の直線状の切れ込み11が、所定間隔で平行に設けられたものを用いてよい。
【0056】
このようなシート状洗浄剤組成物を用いる場合は、図7に示すように、シート10から必要量となるだけの本数のブロック片10aを、切れ込み11の部分からカッティングして切り取る。このカッティングは、シート10を手指で掴んで、切れ込み11に沿って繰り返し折り曲げて折り取るようにしてもよいし、ナイフ等で切断してもよい。ついで、図8に示すように(図では4本のブロック片10aを切り取っている)、シート10の上面(切れ込み11形成面)を外側にして上記切れ込み11に沿ってシート10を折り曲げ、さらにシート10の裏面同士が当接するまで曲げ続けて折り畳み、図8に示すように、各ブロック片10aを積重させる。この折り畳みの際には、各ブロック片10a同士が切れ込み11の底の部分11aで線状につながっているため、離間しない。このように、折り畳むという単純な動作だけで、各ブロック片10aが長さ方向および幅方向にきちんと揃った状態で、整然と積み重ねられ、各ブロック片10a同士が交差した状態で積み重なったりしないようになっている。したがって、シート10の寸法を測定して同じ大きさにカッティングしたり、ばらばらに離間した各ブロック片10aをいちいち揃える手間がかからない。
【0057】
また、図8では、4本のブロック片10aを切り取り、これを真ん中から折り畳んで2本のブロック片10aの上に2本のブロック片10aが積み重ねられた状態としているが、これに限らず、例えば、3本のブロック片10aの上に3本のブロック片10aを積み重ねて6本のブロック片10aを使用する等、清浄しようとする金型やキャビティの大きさに合わせて、適当な本数のブロック片10aを切り取って折り畳み、適宜の大きさに積重することができる。
【0058】
本発明の金型清浄剤組成物の使用対象となる金型の一例として、例えば、熱硬化性樹脂組成物を用いて繰り返し成形が行われる半導体装置成形用金型があげられる。
【0059】
本発明の金型清浄剤組成物の使用対象の一例である半導体装置成形用金型において、封止用樹脂材料として用いられる熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ樹脂を主剤とするエポキシ樹脂組成物があげられる。
【0060】
そして、熱硬化性樹脂組成物としては、上記主剤となるエポキシ樹脂とともに、通常、硬化剤が配合される。
【0061】
つぎに、本発明の金型清浄剤組成物により清浄された金型は、汚染物が除去され、初期状態の金型表面に戻っているため、通常、成形材料である熱硬化性樹脂組成物を用いた半導体パッケージの成形を行う際に、予め金型表面に離型剤を塗布する。例えば、離型剤としてモンタン酸ワックスを含有してなる成形材料の成形に際しては、同じモンタン酸ワックスを塗布することが好ましい。そして、金型表面へのモンタン酸ワックスの塗布方法としては、モンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物を準備し、これをシート状に形成したものを用いるのが好ましい。例えば、先に述べた未加硫ゴムとともに、離型剤を配合して得られるシートがあげられる。そして、このモンタン酸ワックスを含有した未加硫ゴム組成物からなるシートを上記シート状金型清浄剤組成物を用いた清浄工程と同様、金型に装填して加熱することにより含有されたモンタン酸ワックスが金型表面に塗布される。これは、加熱加硫の際に未加硫ゴム組成物中のモンタン酸ワックスが溶融し、金型面に滲出して表面に均一な離型剤膜が形成されるものと考えられる。
【0062】
なお、上記モンタン酸ワックスの含有量は、例えば、未加硫ゴム組成物中のゴム材料100部に対して15?35部の割合に設定することが好ましく、特に好ましくは20?30部である。すなわち、モンタン酸ワックスの含有量が15部未満では充分な離型効果が発揮されず、逆に35部を超えると金型表面に過剰塗布されるとともに、清浄,再生後の金型を用いて成形品を形成した場合にその成形品の外観が劣化する傾向がみられるからである。
【0063】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0064】
〔実施例1?6、比較例1?5〕
後記の表1?表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、これを混練機にして混合混練した後、圧延ロールを用いて厚さ5mmのシートに成形して目的とするシート状の金型清浄剤組成物を作製した。
【0065】
得られた各シート状金型清浄剤組成物の重量平均分子量(Mw)をつぎのようにして測定した。まず、上記得られたシート状金型清浄剤組成物をクロロホルム中に浸漬し、3日間放置した。その後、クロロホルム可溶分をホットプレート上で、50℃で加熱乾固させた後、得られた乾固物を0.1重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製し1日間放置した。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、濾液についてGPC分析装置(東ソー社製、HLC-8120GPC)を用いて下記の測定条件にて重量平均分子量(Mw)の測定を行った。
【0066】
〔測定条件〕
カラム:東ソー社製、GMH_(XL)+GMH_(XL)+G3000H_(XL)
カラムサイズ:各直径7.8mm×30cm、計90cm
カラム温度:40℃
溶離液:THF
流速:0.8ml/min
入口圧:2.3MPa
注入量:100μl
検出器:示差屈折計(RI)
標準試料:ポリスチレン(PS)
データ処理装置:東ソー社製、GPC-8020
【0067】
このようにして得られた実施例品、比較例品および従来例品の各シート状の金型清浄剤組成物を用いて、その充填性をつぎのようにして評価した。すなわち、充填性評価用金型〔金型サイズ:24mm×91mm、金型キャビティのサイズ:4mm×5mm×2.0mm(上下の合計深さ)〕を準備し、16個のキャビティのうち、最も充填性の悪いキャビティの充填率を評価した。その結果を後記の表1?表2に併せて示した。
【0068】
上記充填率は、金型キャビティの底面積と充填された成形品のキャビティ部の底面積を計算し、その比率により充填率を求めた。上記キャビティは、図4に示すように、一つの上型1および下型2からなる金型においてそれぞれ8個のキャビティ3が並列しており、並列したキャビティ3とキャビティ3の配列の間隔は10mmであり、1列8個のキャビティ3とキャビティ3の間隔は1mmである。また、シート状金型清浄剤組成物10の試料サイズは、幅10mm×長さ91mm×厚み5mmとし、上記評価用金型のキャビティ3とキャビティ3の配列の間に並行に配置して金型を閉め加熱成形した。なお、成形条件は、175℃×5分間で、金型の型締めギャップを0.5mmとした。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
上記結果から、重量平均分子量(Mw)が特定の範囲となるシート状清浄剤組成物である実施例品は、充填率が100%と非常に優れた充填性を示した。これに対して、重量平均分子量(Mw)が特定の範囲を外れたシート状清浄剤組成物である比較例品は、実施例品に比べて充填率が低く充填性に劣るためにその使用に関して問題がある。
【0072】
つぎに、切り込みが設けられたシート状の金型清浄剤組成物を用いた実施例について述べる。
【0073】
〔実施例7〕
まず、図1に示すように、上記実施例1?6で得られたシート状の金型清浄剤組成物〔厚さ(図示のT)5mm〕を、幅寸法(図示のA)230mm,長さ寸法(図示のB)300mmに裁断した。そして、このシート10表面の全面にわたって、切れ込み11同士の間隔(図示のC)15mmで、深さ4.5mmの切れ込み11をシート10の幅方向に平行に形成した。すなわち、切れ込み11先端部と、切れ込み11先端に対面するシート10面との距離(図3のD)は0.5mmである。このものでは、ブロック片10aは、20本形成される。上記切れ込み11が形成された各シート状金型清浄剤組成物10を用い、金型寸法の異なる数種類のトランスファー成形機に合うよう、カッティングするとともに、切れ込み11部分から折り畳み、積重して各金型に配置した後、金型を閉め加熱成形し充填率を測定した。その結果は前記のシート状金型清浄剤組成物と同様、充填率が高く充填性は極めて良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の金型清浄剤組成物は、熱硬化性樹脂成形材料用等の各種成形金型、例えば、エポキシ樹脂成形材料を用いて、半導体素子をトランスファー成形によって封止する際に用いるトランスファー成形用金型等の金型清浄再生に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態例であるシート状の金型清浄剤組成物を示す斜視図である。
【図2】上記シート状の金型清浄剤組成物の切れ込み形成状態を示す説明図である。
【図3】切れ込み部分を示す拡大側面図である。
【図4】シート状の金型清浄剤組成物の使用状態を示す斜視図である。
【図5】シート状の金型清浄剤組成物の使用状態を示す斜視図である。
【図6】シート状の金型清浄剤組成物の使用状態を示す斜視図である。
【図7】上記シート状半導体装置成形用金型清浄剤組成物の作用を示す説明図である。
【図8】上記シート状半導体装置成形用金型清浄剤組成物の作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0076】
10 シート
11 切れ込み
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を用い繰り返し成形を行う加熱成形用金型の清浄剤組成物であって、上記清浄剤組成物が、下記(A)の未加硫ゴムと清浄剤と加硫剤を必須成分とし、かつ清浄剤組成物全体の重量平均分子量(Mw)が、清浄剤組成物のクロロホルム可溶分に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定において、200,000?460,000の範囲に設定されていることを特徴とする金型清浄剤組成物。
(A)エチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、またはエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネンからなるEPDMと1,4-ポリブタジエンとの混合物。
【請求項2】
金型清浄剤組成物がシート状または短冊状に形成されている請求項1記載の金型清浄剤組成物。
【請求項3】
清浄剤が、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類およびアミノアルコール類からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の金型清浄剤組成物。
【請求項4】
金型清浄剤組成物が、1?20重量%の水分を含有する請求項1?3のいずれか一項に記載の金型清浄剤組成物。
【請求項5】
金型清浄剤組成物が、離型剤を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の金型清浄剤組成物。
【請求項6】
金型清浄剤組成物がシート状であって、それ自体のシート面に、複数の直線状の切れ込みが、一方方向に所定間隔で平行に設けられている請求項1?5のいずれか一項に記載の金型清浄剤組成物。
【請求項7】
切れ込みが、シートを折り畳み可能とするように設けられている請求項6記載の金型清浄剤組成物。
【請求項8】
切れ込みが、その切れ込み部分からカッティングできるように設けられている請求項6記載の金型清浄剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-08-30 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-17 
出願番号 特願2007-129754(P2007-129754)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深谷 陽子  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 川端 修
井上 茂夫
登録日 2012-03-09 
登録番号 特許第4943225号(P4943225)
発明の名称 金型清浄剤組成物  
代理人 西藤 優子  
代理人 岸本 達人  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 優子  
代理人 横田 絵美子  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 優子  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 征彦  
代理人 山本 晃司  
代理人 西藤 征彦  

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